多結晶ダイヤモンド複合物成形体エレメント、それを組み込む工具、及びそれを作製する方法
本発明は、焼結炭化物基材に界面で完全に結合したPCD構造体;平均サイズ15ミクロン以下を有するコヒーレントに結合したダイヤモンド粒を含むPCD構造体;金属結合剤中に分散した金属の炭化物化合物を含む炭化物粒子を含む焼結炭化物基材を含み、基材中の複数の位置での金属結合剤の量と金属の量との比が、平均値の最大20パーセント、平均値から逸脱する、PCD複合物成形体エレメントに関する。本発明はさらに、焼結炭化物から形成された基材に完全に結合したPCD構造体を含むPDC成形体エレメントを作製する方法であって、基材の結合面で過剰炭素の供給源を基材に導入して、炭素と化合した基材を形成すること;ダイヤモンド粒の凝集物を炭素と化合した基材集合体と接触させること;及び、ダイヤモンドの溶媒/触媒物質の存在下で、ダイヤモンド粒を焼結させることを含み、凝集物中のダイヤモンド粒の平均サイズが30ミクロン以下である、上記方法に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結炭化物基材に結合したPCD構造体を含む、多結晶ダイヤモンド(PCD)複合物成形体、それを組み込む工具、及びそれを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶ダイヤモンド(PCD)は、内部成長したダイヤモンド粒の質量及びダイヤモンド粒間の間隙を含む超硬物質である。PCDは、ダイヤモンド粒の凝集物を少なくとも約5.5GPaの極めて高い圧力及び少なくとも約1,400℃の温度にさらすことにより、通常、製造される。本明細書において使用される場合、多結晶ダイヤモンド(又はPCD)という用語は、ダイヤモンド粒の少なくとも80体積パーセントを含む物質を意味し、そのかなりの部分は直接に内部結合、又はコヒーレントに結合していると称されるものと理解されている。全体に又は部分的に間隙を充填する物質は、充填材料と呼ばれる。PCDは、ダイヤモンド粒の内部成長を促進するコバルトなどの焼結助剤の存在下で通常形成される。焼結助剤は、ダイヤモンドをある程度まで溶解し、その再沈殿に触媒作用を及ぼす機能によって、一般にダイヤモンド用の溶媒/触媒材料と呼ばれる。ダイヤモンド用の溶媒/触媒材料は、ダイヤモンドが熱力学的に安定している温度及び圧力でダイヤモンドの成長、及び直接ダイヤモンド対ダイヤモンド結合の形成を促進することができる物質であると理解されている。一般に好ましい溶媒/触媒材料は、Fe、Ni、Co及びMn、並びにこれらのいずれかを含有する合金である。したがって、焼結したPCD生成物内の間隙は、全体に又は部分的に残存する溶媒/触媒材料で充填されている。通常、PCDは、PCDのコバルト溶媒/触媒の供給源を与える、コバルト焼結炭化タングステン基材にしばしば形成される。
【0003】
PCDは、岩石、金属、セラミック、複合材及び木材含有材料などの硬質又は摩耗性の材料を切削、機械加工、穿孔又は細分化する種々様々の工具に使用されている。例えば、PCDインサートは、油及びガス掘削事業において地中への穿孔に使用されるドリル用ビット内に広く使用されている。これらの用途の多くで、PCD材料が高エネルギーで岩石形成、ワークピース又は本体とかみ合う時、その温度は上昇する。残念なことに、硬さ及び強度などのPCDの機械的性質は、概して残存溶媒/触媒材料がその内部に分散している結果として、高温で低下する傾向がある。
【0004】
米国特許第4,694,914号明細書は、多結晶ダイヤモンドを含有する少なくとも1つの外側層と、多結晶ダイヤモンド層及び焼結炭化物体の間の少なくとも1つの転移層とを含むインサートを開示している。転移層はダイヤモンド結晶、コバルト及び予備焼結炭化タングステン粒子を含有する複合材料を含む。
【0005】
米国特許第4,694,918号明細書は、焼結金属炭化物インサート体と、多結晶ダイヤモンドの外側層と、複合材料の少なくとも1つの転移層とを含むインサートを開示している。複合材料は、予備焼結金属炭化物の多結晶ダイヤモンド及び粒子を含む。
【0006】
Delwicheら(Petroleum Division,v40,and Drilling Technology 1992,1992,p51−60,American Society of Mechanical Engineers)は、PCD層が、焼結炭化物の母材内に分散した粗いダイヤモンド粒を含有する裏打ち成分を含む基材に固定されている、油及びガス掘削のためのPCDインサートを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PCD構造体を、特にダイヤモンドの微細又は超微細粒から形成され、焼結炭化物基材に結合され、PCD構造体と焼結炭化物基材の間の界面近傍の欠陥を減少させたPCD構造体を含む複合物のPCD成形体を提供する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によると、焼結炭化物基材に界面で完全に結合したPCD構造体を含むPCD複合物成形体エレメント(PCD composite compact element)が提供され、PCD構造体は、約30ミクロン以下、好ましくは約20ミクロン以下、より好ましくは約15ミクロン以下、さらに好ましくは約10ミクロン以下、さらにより好ましくは約5ミクロン以下、より好ましくは約2ミクロン以下、より好ましくは約1ミクロン以下の平均サイズを有するコヒーレントに結合したダイヤモンド粒を含み;焼結炭化物基材は、金属の炭化物化合物を含む、金属結合剤中に分散した炭化物粒子を含む炭化物粒子を含み;ここで、金属結合剤の量と基材中の複数の位置での金属の量との比は、最大で平均値の約20パーセント、平均値から逸脱する。
【0009】
一実施形態において、金属結合剤の量と基材中の複数の位置での金属の量との比は、界面から基材へ少なくとも2mmの深部にかけて、最大で平均値の約20パーセント、平均値から逸脱する。
【0010】
本発明のこの態様の実施形態は、PCD構造体と基材の間の界面近傍で過剰な結晶粒の成長が減少することを示すことが見出され、またPCD構造体内の平均ダイヤモンド粒度が小さいほど、はるかに有利であると考えられる。
【0011】
本発明のこの態様の一実施形態において、金属結合剤の量と基材中の複数の位置での金属の量との比は、最大で平均値の約10パーセント、平均値から逸脱する。
【0012】
いくつかの実施形態において、ダイヤモンド粒の平均サイズは、少なくとも約0.05ミクロン又は少なくとも約0.1ミクロンであってよい。
【0013】
いくつかの実施形態において、炭化物粒子の金属は、Wなどの(又はTi、Ta若しくはCrでさえ)、耐火金属であってもよい。また、いくつかの実施形態において、金属結合剤は、Coなどのダイヤモンドの溶媒/触媒を含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、ダイヤモンド粒子は、基材の表面領域内に又は実質的に基板全体にわたって分散する。いくつかの実施形態において、表面領域内又は基材内のダイヤモンド粒子の含量は、表面領域中又は場合によって基材中で、材料の約6重量パーセント以下又は約5.5重量パーセント以下であってよい。いくつかの実施形態において、表面領域内又は基材内のダイヤモンド粒子の含量は、少なくとも約0.1重量パーセント又は少なくとも0.3重量パーセントであってよい。基材の表面領域は、界面から少なくとも約1mm、少なくとも約2mm又は少なくとも3mmの深部に延在してよい。いくつかの実施形態において、表面領域は界面から延在し、PCD構造体の体積の少なくとも2倍の体積又はPCD構造体の体積の少なくとも3倍の体積を有する。いくつかの実施形態において、界面から延在する表面領域の体積は、PCD構造体の体積より少なくとも10倍大きくてもよい。
【0015】
いくつかの実施形態において、基材中又は基材の表面領域に分散したダイヤモンド粒子は、0.1から100ミクロン、0.1から50ミクロン又は0.1から20ミクロンの範囲の平均サイズを有する。いくつかの実施形態において、ダイヤモンド粒子は、基材又は基材の表面領域全体にわたって実質的に一様に分散していてもよい。これによって、粒成長関連の欠陥の出現を、界面エリアに渡ってより一様に低下させるのを助けることができる。
【0016】
いくつかの実施形態において、基材内又は基材の表面領域内のダイヤモンドの含量は、少なくとも1体積パーセント、少なくとも2体積パーセント且つ20体積パーセント未満、1から15体積パーセントの範囲で、又は1から10体積パーセントの範囲であってもよい。この範囲のダイヤモンド含量は、界面近傍の特定の欠陥を実質的に減少させるのに十分であり得ることが見出された。
【0017】
いくつかの実施形態において、PCD構造体は第1及び第2の領域を含み、第1の領域のダイヤモンド粒の平均サイズは第2の領域のダイヤモンド粒のそれより大きく、第1の領域は基材の近傍であり第2の領域は基材から離れている。一実施形態において、第2の領域は作用面を画定する。いくつかの実施形態において、PCD構造体の第1の領域のダイヤモンド粒の平均サイズは、2ミクロンより大きくてよく、また、PCD構造体の第2の領域のダイヤモンド粒の平均サイズは、0.01ミクロンから1.5ミクロンの範囲又は0.01ミクロンから1ミクロンの範囲にあってよい。これらの実施形態は、非常に微細なPCD構造体の場合、PCD構造体と基材の間の界面近傍での粒成長欠陥の発生率を実質的に減少させることができる。非常に微細な(約2ミクロン未満の)PCD構造体は、増加した強靭性などの特定の望ましい機械的性質が得られるので、望ましいことがある。
【0018】
PCD構造体は、基材との界面から少なくとも1mmの軸方向の厚さを有していてもよい。
【0019】
金属結合剤の量とPCD構造体中の複数の位置での炭素の量との比は、界面からPCD構造体中へ、少なくとも0.5mm、より好ましくは少なくとも0.75mm、さらに好ましくは少なくとも1mmの深部にかけて、実質的に一定のほぼ平均値であってもよい。一実施形態において、金属結合剤の量とPCD構造体中の複数の位置での炭素の量との比は、平均値から最大平均値の20パーセント、より好ましくは最大約10パーセント、平均値から逸脱する。
【0020】
基材は、少なくとも1mm、少なくとも1.5mm又は少なくとも5mmの厚さを有することができる。
【0021】
PCD構造体中のダイヤモンド粒は多重モードの粒度分布を有することができる。いくつかの実施形態において、PCD構造体の結合ダイヤモンド粒は、粒の少なくとも50パーセントが5ミクロンを超える平均サイズを有し、粒の少なくとも20パーセントが10から15ミクロンの範囲の平均サイズを有するという粒度分布特性がある。多重モードのダイヤモンド粒度分布及びこれらの範囲内の平均粒度を有するPCD構造体の実施形態は、ろう付けなどによって基材に結合した後のそれらの機械的完全性及び基本性質をよりよく保持するのに十分な強度を有することが見出された。
【0022】
一実施形態において、複数のPCD又はダイヤモンドリッチフィンガーは、PCD構造体から基材に延在し、より好ましくは、概して細長い構造である複数のPCDフィンガーがPCD構造体から基材に延在する。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのPCDフィンガーは、少なくとも20ミクロン、少なくとも30ミクロン又は少なくとも40ミクロンの長さを有する。
【0023】
本発明によるPCD複合物成形体エレメントの実施形態は、本発明の態様による方法の実施形態を使用して作製することができる。
【0024】
過剰炭素とは、PCDを焼結するために凝集物に供給されるダイヤモンド粒の過剰のダイヤモンドであり、また、焼結炭化物の炭化物として含有される過剰の炭素(化学量論的に過剰な)である炭素であると理解される。したがって、炭素と化合した基材又は炭素と化合した基材集合体は、過剰炭素を含有する基材又は基材集合体である。
【0025】
グリーン体(green body)は当業界で公知の用語であり、焼結することを意図されているが、未だ焼結されていない物品を指す。それは一般に自立し、意図する完成品の一般形を有する。グリーン体は、容器中で複数の粒子を混ぜ合わせて、次いで、自立する物品を形成するためにそれらを圧縮することにより通常形成される。
【0026】
炭素は多くの方法のいずれかで基材に導入することができる。一実施形態において、基材プリフォームは、焼結炭化物を作製する初めの粉末にダイヤモンド粒子を導入して初めの粉末ブレンドを形成すること;型内で圧密によって初めの粉末ブレンドを形成してグリーン体を形成すること;約1,400℃を超える温度で約1GPa未満の加圧でグリーン体を焼結して焼結基体を製造することを含む方法によって調製される。圧力がダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力より低いので、少なくともダイヤモンド粒子の一部は、この炭化物焼結工程の間に全体として又は部分的に黒鉛に変換される。
【0027】
ダイヤモンドが熱力学的に安定な焼結圧力は、好ましくは少なくとも約5.5GPaであり、また、温度は、好ましくは少なくとも約1,400℃である。
【0028】
いくつかの実施形態において、炭素は黒鉛粉末の形態で基材に導入される。
【0029】
いくつかの実施形態において、炭素は炭素のガスの形態で基材へ導入され、基材に浸透又は浸潤させる。
【0030】
いくつかの実施形態において、炭素を含む物質が基材の表面に噴霧される。詳細には、コバルト、炭素及びタングステンを含有する粉末を、溶射によって基材表面に堆積させることができる。
【0031】
いくつかの実施形態において、基材は黒鉛などの過剰炭素の供給源で被覆される。
【0032】
いくつかの実施形態において、基材は、例えば、カーボンブラックの形態の高含量の炭素を有する初めの炭化物粉末から調製される。
【0033】
いくつかの実施形態において、高い炭素含量の基材は、焼結の即応性のために、グリーン体を調製する間、一部の炭素の除去を回避することにより調製される。通常、グリーン体は、焼結に先立って熱処理し、結合剤又はプレス加工助剤物質を除去し、炭素はこの工程の間に除去される。一実施形態において、この工程は完全には完了せず、結合剤起源の少なくとも一部の炭素をグリーン体内に残す。
【0034】
非結合の又は自由流動性のダイヤモンド粒の粒度分布は、レーザー回折法によって測定される。ここで、粒は流体媒体中で懸濁されており、光回折法パターンは懸濁液にレーザー光線を向けることにより得られる。回折パターンはコンピューターソフトウェアにより解釈される。また、粒度分布は円相当径で表現される。事実上、粒は球形であるとして扱われる。また、粒度分布は球体の相当直径の分布で表現される。Malvern Instruments Ltd(英国)からのMastersizer(商標)装置はこの目的に使用することができる。
【0035】
粒の質量の多重モードの粒度分布は、粒が2つ以上のピークから形成される粒度分布を有し、各々のピークは各々の「モード」に対応することを意味すると理解される。多重モードの多結晶体は、各供給源が実質的に異なる平均サイズを有する、複数の粒の2種以上の供給源を準備すること、及びこれらの供給源からの粒を一緒にブレンドすることにより、通常作製される。ブレンドした粒の粒度分布の測定は、通常、別個のモードに対応する別個のピークを示す。粒が一緒に焼結されて多結晶体を形成する場合、粒が互いに圧縮され破壊されるので、これらの粒度分布はさらに変化し、結果として得られる粒のサイズ全体が低下する。しかしながら、粒の多重モード性は、焼結した物品の画像解析から、通常、なお明白である。
【0036】
PCD内のダイヤモンド粒のサイズの計測値を得るために、「円相当径」として知られている方法が使用される。この方法において、PCD物質の研磨表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM)像が使用される。少なくとも数百のダイヤモンド粒を画像内で識別するのに、倍率とコントラストを満足させるべきである。ダイヤモンド粒は、画像中の金属相と区別することができ、個別の各ダイヤモンド粒のサイズが等しい円は従来の画像解析ソフトウェアによって求めることができる。次いで、これらの円の集めた分布は統計的に評価される。PCD物質内のダイヤモンドの平均粒度が本明細書において言及される場合は常に、これが平均円相当径を指すものと理解される。
【0037】
「結合剤プール」は、界面に隣接するPCD構造体内に、PCD構造体内の平均より実質的に高い含量の結合物質(通常コバルト)又は所望の含量を有する領域が存在することを指す。プール領域内のダイヤモンド含量は、公知のPCD成形体、特に、約1ミリメートルより厚い焼結炭化物基材及び約0.6ミリメートルより大きい厚さを有するPCD構造体を有するものでは、50%未満であることがある。プールは、比較的厚い基材及びPCD構造体を有するPCD成形体において特に問題である。対応する領域は界面近傍基材内に生じ、そこでは結合物質の含量は基材の平均より低い。これは時には、「結合剤剥落帯域」と呼ばれる。結合剤のプール及び枯渇は、それがいわゆる「プルーム」欠陥及び過剰なダイヤモンド粒成長を含む、いくつかの関連する欠陥と関係しているので、また界面近傍の領域内の成形体の耐摩耗性を低下させるので、望ましくないことがある。界面での耐摩耗性が減少すると、PCD構造体のアンダーカットを生じる恐れがあり、環境中で浸食促進物質の存在により加速されることがある。
【0038】
プルーム欠陥(plume defect)は、界面近傍のPCD構造体内に形成される金属炭化物の比較的大きい粒である。理論によって縛られたくないが、本発明の実施形態において、基材からPCDに浸潤する物質は、焼結工程の間に、タングステン含量を減少させる、又はタングステンを実質的になくすので、プルームを減少させることができると考えられる。
【0039】
本発明の方法の実施形態はまた、初めの凝集物のダイヤモンド粒が微細であるほどより問題となる、PCD内でダイヤモンドの過剰な粒成長を減少させることができる。この理由のために、PCD内の平均粒度が低い場合には、本方法は特に有利である。理論により縛られたくないが、溶融結合物質(例えばコバルト)のプルームがダイヤモンド層に侵入し、プルームが比較的低い炭素の含量を有する場合、微細なダイヤモンド粒は容易に溶けてより大きい粒の上に再沈殿し、結果としてPCD構造体と基材の間の界面近傍で過剰な粒ダイヤモンド粒成長をもたらす。結果として得られた粒は初めの粒度より大きいオーダーになり得る。しかし、焼結工程に先立って過剰炭素の供給源が基材へ導入される場合のように、結合物質が比較的より多くの炭素を含む場合、より微細な粒の溶解は抑えられ又は遅らせられて、代わりに、炭素はすべての粒の上に均一に沈殿する。この沈殿が多くの粒を覆って外に広がるので、過剰な粒成長はほとんどない、又は減少する。
【0040】
実質的に、一定とは、その比が少なくとも68パーセント又は90若しくは95パーセントの統計信頼区間を有する一定値であることを意味すると理解される。
【0041】
基材中の結合物質の量と基材内の炭化物物質の量との比、及び、結合物質の量とPCD構造体内のダイヤモンドの量との比は、重量比、体積比、又は、結合物質と炭化物物質若しくは結合物質とダイヤモンドの相対量をそれぞれ表す他の比として表現することができる。比はパーセント値として表現することができる。
【0042】
基材が、PCD構造体との界面に隣接する領域にダイヤモンド粒子を含む場合には、一種の「逆プルーミング(reverse pluming)」が起こるのが見出され、そこでは、PCD「フィンガー(finger)」がPCD構造体からその領域に延在する。これらのフィンガーは、結果として界面近傍の内部応力の減少をもたらし、構造体の剥離の発生率を低下させることができると仮定される。フィンガーのサイズは、基材のグリーン体へ導入するダイヤモンド粒子のサイズの選択により制御することができ、望まれるフィンガーが長いほど、一般に、ダイヤモンド粒子はより大きいことが必要である。フィンガーの数及び、ある程度まで、それらのサイズは、基材に導入するダイヤモンド粒子の数により制御される。
【0043】
本発明の第2の態様によると、焼結炭化物から形成された基材に完全に結合した多結晶ダイヤモンド(PCD)構造体を含む多結晶ダイヤモンド複合物(PDC)成形体エレメントを作製する方法であって、基材の結合面で又はその近傍で、過剰炭素の供給源を基材に導入して、炭素と化合した基材又は基材集合体を形成すること;結合面と隣接して又はその近傍で、ダイヤモンド粒の凝集物を炭素と化合した基材集合体と接触させて、非結合の集合体を形成すること;及び、ダイヤモンドの溶媒/触媒物質の存在下で、ダイヤモンドがPCDを形成するのに熱力学的に安定な温度及び圧力でダイヤモンド粒を焼結させることを含み、凝集物中のダイヤモンド粒の平均サイズが約30ミクロン以下である、上記方法が提供される。
【0044】
凝集物中のダイヤモンド粒の平均サイズは、約20ミクロン以下、好ましくは約15ミクロン以下、さらに好ましくは約10ミクロン以下、さらにより好ましくは約5ミクロン以下、さらに好ましくは約2ミクロン以下、及びさらに好ましくは約1ミクロン以下であってもよい。好ましくは、凝集物中のダイヤモンド粒の平均サイズは、少なくとも約0.05ミクロン、より好ましくは少なくとも約0.1ミクロンである。
【0045】
本発明の実施形態は、結合面近傍の過剰な粒成長を減少させることが見出され、平均ダイヤモンド粒度が低いほどはるかに有利であり得る。
【0046】
一実施形態において、本方法は炭素と化合した基材を形成することを含み、そこで過剰炭素の供給源は基材の体積に含有される、又は、導入される。いくつかの実施形態において、過剰炭素の供給源は、炭素と化合した基材の全体量にわたって実質的に分散している。他の実施形態において、過剰炭素の供給源は、結合面近傍又は隣接する表面領域に分散している。
【0047】
好ましくは、炭素と化合した基材の表面領域内の、又は炭素と化合した基材の実質的に全体にわたる過剰炭素の供給源の平均含量は、表面領域又は基材中の物質の、約10重量パーセント以下、好ましくは約6重量パーセント以下、さらにより好ましくは約5.5重量パーセント以下である。好ましくは、表面領域内の又は炭素と化合した基材の全体にわたる過剰炭素の供給源の含量は、領域内の物質の少なくとも約0.1重量パーセント、より好ましくは少なくとも約0.3重量パーセントである。いくつかの実施形態において、表面領域は、結合面から少なくとも1mm、少なくとも約2mm、又は少なくとも約3mmの深部に延在する。いくつかの実施形態において、表面領域は、PCD構造体の体積の少なくとも2倍又はPCD構造体の少なくとも3倍の体積を有する。いくつかの実施形態において、表面領域の体積は、PCD構造体の体積の少なくとも10倍大きくてもよい。
【0048】
重量パーセントは、炭素が導入される領域内の全基材物質に対して表現される。
【0049】
一実施形態において、凝集物中のダイヤモンド粒は多重モードの粒度分布を有する。
【0050】
好ましくは、過剰炭素の供給源は、金属炭化物以外の、カーボンブラック粉末又は黒鉛などの炭質材料である。一実施形態において、過剰炭素の供給源は、非ダイヤモンド材料に変換されたダイヤモンドに由来してもよい。そのような物質は、炭素から本質的に成り、基材又はPCDに実質的に不用物質を導入しないですむ。いくつかの実施形態において、過剰炭素の供給源は、有機分子の形態をしていてもよい。いくつかの実施形態において、過剰炭素の供給源はメタンなどの有機分子のガスなどのガスの形態で導入することができる。
【0051】
一実施形態において、本方法は、粒子又は顆粒の形態の過剰炭素の供給源を焼結炭化物用の原料と混ぜ合わせること、この組合せを実質的に自立するグリーン体に形成すること、ダイヤモンドが熱力学的に安定でない圧力でグリーン体を焼結し、炭素と化合した基材を形成することを含む。いくつかの実施形態において、焼結炭化物の原料は、炭化タングステン粒及びコバルト含有粒を含む。
【0052】
本方法は、ダイヤモンド粒を焼結炭化物の原料と混ぜ合わせること、この組合せを実質的に自立するグリーン体に形成すること;グリーン体を少なくとも500℃の温度、及びダイヤモンドが熱力学的に安定でない圧力にさらし炭素と化合した基材を形成することを含むことができる。ダイヤモンド粒子を、全体として又は部分的に非ダイヤモンド材料、特に黒鉛に変換することができる。一実施形態において、変換されたダイヤモンドの実質的に全部は、PCDを焼結するステップの間にダイヤモンドに再変換する。この実施形態は、結果としてPCDフィンガーの基材への延在をもたらし、その結果、基材へのPCDの結合が向上し、剥離の発生率を減少させることができることが見出された。
【0053】
本発明のこの態様の一実施形態において、基材はダイヤモンドを実質的に含まない。
【0054】
基材が変換された黒鉛から形成されたダイヤモンド粒子を含む実施形態において、例えば、過剰炭素の供給源が黒鉛である場合、ダイヤモンド粒子は、各ダイヤモンド粒子の少なくとも周辺の体積内の塑性変形はほとんどない又は実質的にないことがある。いくつかの実施形態において、ダイヤモンド粒子には塑性変形が実質的にない。
【0055】
いくつかの実施形態において、過剰炭素の供給源を基材の結合面上に堆積し、炭素と化合した基材又は炭素と化合した基材集合体を形成することができる。いくつかの実施形態において、過剰炭素の供給源を、熱又は他のスプレー法によって基材結合面上に堆積することができる。一実施形態において、タングステンなどの耐火金属を含むディスク又はフィルムを過剰炭素の堆積した供給源を覆って配置し、炭素と化合した基材集合体を形成することができる。
【0056】
本方法は、金属炭化物又は金属炭化物の前駆体(単数又は複数)を、ダイヤモンド粒の凝集物に導入することを含むことができる。より好ましくは、本方法は、ダイヤモンド粒の凝集物に、耐火金属炭化物粒子、例えば炭化タングステン、炭化タンタル、炭化ニオブ又は炭化バナジウムを導入することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、金属炭化物の耐火金属前駆体、例えば非炭化物化合物又は元素の形態のタングステン、タンタル、ニオブ又はバナジウムをダイヤモンド粒の凝集物に導入することを含む。過剰炭素の供給源を基材に又は基材中に導入することができる本方法の実施形態において、直接に又は前駆体(単数又は複数)の導入を介して、ダイヤモンド粒の凝集物中へ金属炭化物を導入すると、焼結したPCD構造体の摩耗又は耐食性を著しく増強することができる。
【0057】
いくつかの実施形態において、金属炭化物又は、金属炭化物の前駆体(単数又は複数)は、ダイヤモンド粒に粒子をブレンドすることにより粒子の形態でダイヤモンド粒の凝集物に導入することができる。
【0058】
いくつかの実施形態において、焼結炭化物は、コバルトなどのダイヤモンド用の溶媒/触媒物質を含む金属結合剤により一緒に焼結した金属炭化物の粒を含む。そのような金属結合剤は、焼結工程の間、ダイヤモンド粒子の凝集物に浸潤し、ダイヤモンド用の焼結助剤として機能することができる。
【0059】
本発明の実施形態は、基材との界面に隣接するPCD内の金属結合物質のプール、及び結合面/界面に隣接する基材内の金属結合物質の対応する枯渇を減少させる又はなくすことが見出され、結合面近傍の炭化物又はダイヤモンド粒成長に関連した特定の欠陥を減少させ又はなくすことができる。
【0060】
本発明の第3の態様によると、本発明によるPCD複合物成形体エレメントを含む、地面を穿孔するためのドリルビットなどのドリルビット用PCDカッターインサートが提供される。
【0061】
本発明の第4の態様によると、本発明によるPCDカッターインサートを含む、地面を穿孔するためのドリルビットが提供される。
【0062】
油及びガス掘削事業において行われる地面への穿孔は、カッターインサートに高度の力を働かせるが、本発明によるPCDカッターインサートは使用中の故障率を減少させることができる。
【0063】
ここで、非限定的な実施形態を添付の図面を参照して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1(a)】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図1(b)】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の縦辺断面図である。
【図1(c)】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の縦辺断面図である。
【図2】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図3】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図4】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図5】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図6】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図7】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図8】PCD物質の一実施形態の内の、ダイヤモンド粒の微細な2モードの粒度分布の、粒の数に対する円相当径粒度のグラフである。
【図9】PCD物質の一実施形態の内の、ダイヤモンド粒の、粒の数に対する円相当径粒度のグラフである。
【図10】本発明の一実施形態の場合のみならず従来技術のPCD複合物成形体の場合の、PCD作用面からの深さの関数としての、PCD及び基材中の結合剤含量並びに炭素含量の概略のグラフである。
【図11】本発明(黒四角で示したデータ)の一実施形態、及び従来技術(白ダイヤモンドで示したデータ)による対照の場合の、PCD構造体との界面から基材への距離の関数としてコバルトとタングステンの含量の比を示すグラフである。
【図12】本発明(黒四角で示したデータ)の一実施形態、及び従来技術(白ダイヤモンドで示したデータ)による対照の場合の、基材との界面からPCD構造体への距離の関数としてコバルトと炭素の含量の比を示すグラフである。
【図13】PCD構造体と、ダイヤモンドで増強した、コバルト焼結WC基材との間の結合界面の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1を参照すると、多結晶ダイヤモンド複合物成形体(PCD)エレメント100の一実施形態は、界面125で焼結炭化物基材120に完全に結合したPCD構造体110を含む。いくつかの実施形態において、間の界面を(a)に示す。PCD構造体110は軸方向の厚さtPCDを有し、基材120は軸方向の厚さtsubを有する。ここで、軸方向の厚さは、「軸方向」と印された線により示された軸方向にPCD構造体間を界面125から測定する。(b)に示す実施形態において、界面125は実質的に平面である。また、(c)に示す実施形態において、界面125は非平面であり、PCD構造体110は少なくとも2つの厚さ、tPCD−1とtPCD−2を有する。
【0066】
図2を参照すると、多結晶ダイヤモンド複合物成形体(PCD)エレメント100の一実施形態は、界面125で焼結炭化物基材120に完全に結合したPCD構造体110を含み、PCD構造体は第1の領域112及び第2の領域111を含み、第1の領域112のダイヤモンド粒の平均サイズは、第2の領域111のダイヤモンド粒のそれより大きく、第1の領域112は基材120の近傍であり、第2の領域111は基材120から離れている。
【0067】
図3を参照すると、多結晶ダイヤモンド複合物成形体(PCD)エレメントの一実施形態は、界面125で焼結炭化物基材120に完全に結合したPCD構造体110を含み、基材120は、表面領域221内に分散した界面から深部に延在するダイヤモンド粒子を含む。基材120の残りの領域122は、ダイヤモンドを実質的に含まない。いくつかの実施形態において、深さは少なくとも1ミリメートル、少なくとも2ミリメートル又は少なくとも3ミリメートルである。いくつかの実施形態において、基材の表面領域121は、PCD構造体110の体積の少なくとも2倍、PCD構造体110の体積の少なくとも3倍、又はPCD構造体110の体積より少なくとも10倍大きい体積を有する。
【0068】
図4を参照すると、本発明の方法の一実施形態は、結合面225で又はその近傍で、基材220に過剰炭素の供給源を導入して、炭素と化合した基材集合体250を形成すること;結合面225と隣接して又はその近傍で、ダイヤモンド粒の凝集物210を炭素と化合した基材集合体250と接触させて、非結合の集合体200を形成することを含み、過剰炭素の供給源は、基材220の表面領域221に分散した黒鉛の形態であり、表面領域は結合面近傍125から深部に延在する。いくつかの実施形態において、その深さは少なくとも1ミリメートル、少なくとも2ミリメートル又は少なくとも3ミリメートルである。図5を参照すると、過剰炭素の供給源は、実質的に基材220の全体量にわたって分散した黒鉛の形態である。
【0069】
図6を参照すると、本発明の方法の一実施形態は、結合面225で又はその近傍で、基材220に過剰炭素の供給源を導入して、炭素と化合した基材集合体250を形成すること;結合面225と隣接して又はその近傍で、ダイヤモンド粒の凝集物210を炭素と化合した基材集合体250と接触させて、非結合の集合体200を形成することを含み、過剰炭素の供給源230は、基材の結合面125上に堆積する。図7を参照すると、本発明の方法の一実施形態は、過剰炭素230の堆積した供給源を覆う、タングステンを含むディスク又はフィルム240を配置することを含む。
【0070】
例えば、図8は、PCD物質の一実施形態の内で、ダイヤモンド粒の微細な2モードの粒度分布の、粒の数に対する円相当径粒度のグラフを示す。また、図9は、多重モードのPCD物質の一実施形態の内で、ダイヤモンド粒の、粒の数に対する円相当径粒度のグラフを示す。
【0071】
図8に示すダイヤモンド粒度分布を有するPCD物質は、本発明から特に利益を得ることができるPCD物質の一実施形態の実施例である。ここで、焼結したPCD内のダイヤモンド粒の平均サイズは、約1.5から約6ミクロンの範囲にあり、粒度分布は少なくとも2つの別個のピークに分割することができる。図8は、円相当径の分布を示すが、二次元画像データから得られた粒度分布を三次元の粒度分布に変換するSaltykov補正は施していない。
【0072】
図9を参照すると、従来技術のPCD複合物成形体210及び本発明の一実施形態によるPCD複合物成形体220内の、コバルトの相対的(例えば重量パーセント)含量200が、定性的な特徴に関して比較されている。本発明のいくつかの実施形態において、結合剤プールは実質的に減少する。いくつかの実施形態において、プルーム欠陥の発生率は実質的に減少する。また図9に示すように、従来技術のPCD複合物成形体410及び本発明の一実施形態によるPCD複合物成形体420内の、対応する炭素の相対的含量400が、定性的な特徴に関して比較されている。110で示したグラフの領域はPCD構造体に対応する。また、121で示した領域は炭化物基材に対応する。
【0073】
図10は、本発明の一実施形態(黒四角で示すデータ)及び従来技術(白ダイヤモンドで示すデータ)の対照の場合の、PCD構造体との界面から基材への軸方向の距離の関数として、コバルトとタングステンの比を示すグラフである。界面はゼロミリメートルに対応する。本発明の一実施形態において、この比(黒四角で示す)は、界面から基材のバルクにかけて実質的に一定で、データの標準偏差は平均値Mの約5パーセント未満である。上側及び下側標準偏差は、それぞれSUとSLで示す。上限及び下限パーセント、すなわちM(1+20%)及びM(1−20%)をそれぞれLUとLLで示す。従来技術によって作製された対照物質の場合には、コバルトとタングステンの平均比は、およそ1.5ミリメートルの深部内で実質的により低く、基材のバルク中の平均値より系統的に低く、また、界面から約1ミリメートルの深部内で下限M(1−20%)を下回る。これは「低減帯域」と呼ばれる。
【0074】
図11は、本発明(黒四角で示したデータ)の一実施形態、及び従来技術(白ダイヤモンドで示したデータ)による対照の場合の、基材との界面からPCD構造体への軸方向の距離の関数として、コバルトと炭素の比を示すグラフである。界面はゼロミリメートルに対応する。本発明の一実施形態において、この比(黒四角で示す)は、界面からPCD構造体のバルクにかけて、界面から最初の0.2ミリメートル以内さえ、実質的に一定であるが、対照物質での比は、界面に隣接するPCD構造体内の結合剤プールに対応するM(1+20%)を超えて劇的に増大する。
【0075】
図12を参照すると、本発明の一実施形態によるPCD複合物成形体の、PCD構造体40及び焼結炭化物基材50間の界面を跨ぐ領域のSEM顕微鏡写真が示されている。基材50は、ダイヤモンド46の粒子を含んでいる。近接する多結晶ダイヤモンドを含み約30から50ミクロンの範囲の長さを有する「フィンガー」45は、PCD構造体40から基材50にかけて延在する。
【0076】
前に述べたように、本発明の実施形態は比較的厚いPCD蓋及び焼結工程でより高温度を使用する必要のない基材を含むことができる。一般に、基材からPCD層全体に浸潤するように融けた溶媒/触媒物質を促すために、PCD層が厚いほど、焼結させる温度をより高くしなければならない。この浸潤が起こらないことの深刻な影響は、界面から離れたダイヤモンド粒が十分に焼結されない「ソフトスポット(soft spot)」欠陥が発生することである。残念なことに、より高温で焼結すると、結果として、界面近傍のダイヤモンドは過度に溶解し、過剰な大針状金属炭化物粒の形態のプルーム欠陥をもたらすことがある。他方では、より高温で焼結すると、過剰なダイヤモンド粒成長を促進する傾向があり、これまた望ましくない。PCD構造体が比較的薄い場合には、PCD構造体が薄いほどソフトスポットの回避のための最低焼結温度が低くなるので、これはより小さい問題である。しかし、多くの用途では、PCD構造体が数ミリメートル厚で、基材が数十ミリメートル厚であることを必要とする。特に、油及びガス事業において地面や岩石への穿孔に使用されるPCD成形体は、比較的厚いPCD蓋及び基材を含む。
【実施例】
【0077】
ここで、以下の非限定的な実施例を参照して本発明を記載する。
【0078】
(例1)
PCD成形体の基材の表面領域として使用する第1の基材エレメントを、ダイヤモンド粒子、炭化タングステン(WC)粉末及びコバルト粉末を一緒にブレンドし、ブレンド混合物を圧縮グリーン体に成形し、グリーン体を従来の炭化物焼結工程にかけることにより製造した。ダイヤモンド粒子は0.75から1.5ミクロンの範囲の平均サイズを有し、ブレンド混合物の3重量パーセントを構成した。WC粉末及びコバルト粉末は予備混合しておいた。この時、コバルトはWC−Coプレミックスの13重量パーセントを構成し、WC粒子は約1から4ミクロンの範囲の平均サイズを有していた。WC−Coミックスには約2重量パーセントの有機系プレス加工助剤を含有していた。ブレンド粉末混合物を、室温で一軸圧縮し、実質的に円筒状のグリーン体を形成し、摂氏1,400度の温度で2時間従来通りに焼結し、焼結物品を形成した。焼結工程の終了までに、ダイヤモンド粒子は黒鉛に完全に変換していた。基材は、最終機械加工の後に約17.4ミリメートルの直径及び約6ミリメートルの高さを有していた。
【0079】
ダイヤモンドを実質的に含まない基材の領域として使用する第2の基材エレメントは、第1の基材エレメントと同様の方法で同様の原料を使用して製造した。ただし、ダイヤモンドは導入せず、また、第2の基材エレメントの高さは約7ミリメートルであった。
【0080】
第1の基材エレメントを第2の基材エレメント上に配置し、第1と第2基材エレメントは実質的に整合しており、第1の基材エレメントの露出した木口面である上部面を有する基材集合体を形成した。
【0081】
ダイヤモンド粒の非結合の凝集物を含む層を、焼結物品の基材集合体木口面の上部面上に堆積し、非結合の集合体を形成した。ダイヤモンド粒は、約0.5ミクロンの平均サイズを有し、凝集物の5重量パーセントを構成するコバルトで被覆した。次いで、被覆粒は、水素で表面を終端させるために、水素に豊む雰囲気中で摂氏850度で熱処理にかけた。
【0082】
非結合の集合体を、当業界で知られている、超高圧炉のカプセル内に装入した。カプセルを、約5.5GPaの圧力及び摂氏約1,400度の温度に約5分間さらした。焼結後、第1と第2基材エレメントを一緒に焼結し、PCD複合物成形体を通常の方法で処理して、約15.9ミリメートルの直径を有するインサート、及び約1.7から2.1ミリメートルの範囲の厚さを有するPCD構造体を形成した。
【0083】
インサートは走査電子顕微鏡法(SEM)を使用して分析した。特に注目すべきは、PCDと基材の間の界面に隣接するコバルト結合剤の識別可能な「プール(pooling)」が存在しないことで、これは公知のインサート、特に比較的厚いPCD及び基材を有するものの典型的な特徴であり、このインサートはそのような一例である。試料は、基材の焼結炭化物とPCDの間で急激な推移を示した。さらに、公知のインサートに起こるように、過剰なダイヤモンド又はWC粒は、実質的に界面近傍のPCD層内で観察されなかった。
【0084】
(例2)
ダイヤモンド粒子、炭化タングステン(WC)粉末及びコバルト粉末を一緒にブレンドし、ブレンド混合物を圧縮グリーン体に成形し、グリーン体を従来の炭化物焼結工程にかけることにより、PCD成形体の基材を製造した。ダイヤモンド粒子は、約22ミクロンの平均サイズを有し、ブレンド混合物の約5.8重量パーセントを構成した。WC粉末及びコバルト粉末は予備混合しておいた。この時、コバルトはWC−Coプレミックスの13重量パーセントを構成し、WC粒子は約1から4ミクロンの範囲の平均サイズを有していた。WC−Coミックスには約2重量パーセントの有機系プレス加工助剤を含有していた。ブレンド粉末混合物を、室温で一軸圧縮し、実質的に円筒状のグリーン体を形成し、1,400℃の温度で2時間従来通りに焼結し、焼結物品を形成した。焼結工程の終了までに、ダイヤモンド粒子は黒鉛に完全に変換していた。基材は、最終機械加工の後に、約17.4ミリメートルの直径及び約13ミリメートルの高さを有していた。
【0085】
ダイヤモンド粒の非結合の凝集物を含む層を、焼結物品の基材の上部面上に堆積し、非結合の集合体を形成した。凝集物の原料ダイヤモンド粉末は、3種の供給源からのダイヤモンド粒をブレンドすることにより調製し、各供給源は異なる平均粒子サイズ分布を有していた。
【0086】
非結合の集合体を、当業界で知られている、超高圧炉のカプセル内に装入した。カプセルは、約5.5GPaの圧力及び約1,400℃の温度に約5分間さらした。焼結後、第1と第2基材エレメントを一緒に焼結し、PCD複合物成形体エレメントを通常の方法で処理して、約15.9ミリメートルの直径を有するインサート、及び約1.7から2.1ミリメートルの範囲の厚さを有するPCD構造体を形成した。
【0087】
インサートは走査電子顕微鏡法(SEM)を使用して分析した。物質の分析は、PCD構造体と基材の間の界面を縦に通る研磨断面上の数点で行った。タングステン(W)及びコバルト(Co)の含量を、界面近傍から基材のバルクへの異なる数点で基材内で測定し、炭素(C)及びコバルト(Co)の含量は、界面近傍からPCD構造体のバルクへの異なる数点でPCD構造体内で測定した。これらの測定の結果は、界面から距離の関数としての比として、それぞれ図11及び12に示す。特に注目すべきは、PCDと基材の間の界面に隣接するコバルト結合剤の「プール」が実質的に存在しないことで、これは公知のインサート、特に比較的厚いPCD及び基材を有するものの典型的な特徴である。試料は、基材の焼結炭化物とPCDの間で急激な組成の推移を示した。さらに、公知のインサートに起こるように、過剰なダイヤモンド又はWC粒は、実質的に界面近傍のPCD層内で観察されなかった。
【0088】
(例3)
ダイヤモンド粒子が約2ミクロンの平均サイズを有し、ブレンド混合物の約2.7重量パーセントを構成した以外は、例2と同様にPCD成形体の基材を製造した。例2に記載したように、ダイヤモンド粒の非結合の凝集物を含む層を、焼結物品の基材の上部面上に堆積し、非結合の集合体を形成し、例2に記載したように焼結して、PCD複合物成形体エレメントを形成した。
【0089】
例2と同様に、PCDと基材の間の界面に隣接するコバルト結合剤の「プール」の存在は実質的に観察されず、また、過剰なダイヤモンド又はWC粒は、界面近傍PCD層内で実質的に観察されなかった。
【0090】
(例4)
基材の高さが13ミリメートルであること以外は同様の方法で、例1の第1の基材エレメントとして同一の原料を使用して、PCD成形体の基材を製造した。言いかえれば、全体の基材は、例1に記載した第1の基材エレメントと実質的に同一の組成、形状及び直径を有する。
【0091】
ダイヤモンド粒の非結合の凝集物の層を、基材の木口面上に堆積し、非結合の集合体を形成した。ダイヤモンド粒は超微細な2モードの分布を有し、平均サイズは約0.1から1マイクロメートルの範囲であり、凝集物の5重量パーセントを構成するコバルトで被覆した。次いで、被覆粒は、水素で表面を終端させるために、水素に豊む雰囲気中で850℃で熱処理にかけた。
【0092】
非結合の集合体を、当業界で知られている、超高圧炉のカプセル内に装入した。カプセルは、約5.5GPaの圧力及び約1,400℃の温度に約5分間さらした。焼結後、PCD複合物成形体を通常の方法で処理して、約15.9ミリメートルの直径を有するインサート、及び約1.7から2.1ミリメートルの範囲の厚さを有するPCD構造体を形成した。
【0093】
インサートは走査電子顕微鏡法(SEM)を使用して分析した。特に注目すべきは、PCDと基材の間の界面に隣接するコバルト結合剤の識別可能な「プール」が存在しないことである。試料は、基材の焼結炭化物とPCDの間で急激な推移を示した。さらに、公知のインサートに起こるような、過剰なダイヤモンド又はWC粒は、実質的に界面近傍のPCD層内で観察されなかった。
【0094】
(例5)
基材の高さが13ミリメートルであること以外は例1の第1の基材エレメントと同様の方法で、同一の原料を使用して、PCD成形体の基材を製造した。言いかえれば、全体の基材は、例1に記載した第1の基材エレメントと実質的に同一の組成、形状及び直径を有する。
【0095】
ダイヤモンド粒の非結合の凝集物から形成された第1のダイヤモンド層を、基材の木口面上に堆積し、また、ダイヤモンド粒の非結合の凝集物から形成された第2のダイヤモンド層は、第1の層の上に堆積し非結合の集合体を形成した。第1のダイヤモンド層は約0.5ミリメートルの平均厚さを有し、また、第2のダイヤモンド層は約2.5ミリメートルの平均厚を有し、第1のダイヤモンド層は、基材と第2のダイヤモンド層の間にはさまれていた。第1のダイヤモンド層のダイヤモンド粒は細粒の2モード分布を有し、第2のダイヤモンド層のダイヤモンド粒は超細粒分布を有していた。第2のダイヤモンド層のダイヤモンド粒を、凝集物の5重量パーセントを構成するコバルトで被覆し、水素で表面を終端させるために、水素に豊む雰囲気中で850℃で熱処理にかけた。
【0096】
非結合の集合体を、当業界で知られている、超高圧炉のカプセル内に装入した。カプセルは、約5.5GPaの圧力及び約1,400℃の温度に約5分間さらした。焼結後、PCD複合物成形体を通常の方法で処理して、約15.9ミリメートルの直径を有するインサート、及び約2.2ミリメートルの範囲の厚さを有するPCD構造体を形成した。
【0097】
インサートは走査電子顕微鏡法(SEM)を使用して分析した。特に注目すべきは、PCDと基材の間の界面に隣接するコバルト結合剤の識別可能なプールが存在しないことである。試料は、基材の焼結炭化物とPCDの間で急激な推移を示した。さらに、公知のインサートに起こるように、過剰なダイヤモンド又はWC粒は、実質的に界面近傍のPCD層内で観察されなかった。
【0098】
(例6)
カプセルを約6.8GPaの圧力及び約1,500℃の温度に約5分間さらした以外は、例2と同様である。
【0099】
強化した超硬材料、製造法及びそれらの各種用途の前述の説明は、多くの詳細を含んでいるが、これらは、本発明の範囲を限定するものではなく単にいくつかの例示の実施形態の例証の提供として解釈されるべきである。同様に、本発明の趣旨又は範囲から外れない、本発明の他の実施形態を考案することができる。本発明の範囲は、したがって、前述の説明によってではなく、添付された特許請求の範囲及びその法的等価物によってのみ示され限定される。請求項の意味及び範囲内にある、本発明に対するすべての追加、削除及び修正は、本明細書に開示された通り、包含されるべきものである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結炭化物基材に結合したPCD構造体を含む、多結晶ダイヤモンド(PCD)複合物成形体、それを組み込む工具、及びそれを作製する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多結晶ダイヤモンド(PCD)は、内部成長したダイヤモンド粒の質量及びダイヤモンド粒間の間隙を含む超硬物質である。PCDは、ダイヤモンド粒の凝集物を少なくとも約5.5GPaの極めて高い圧力及び少なくとも約1,400℃の温度にさらすことにより、通常、製造される。本明細書において使用される場合、多結晶ダイヤモンド(又はPCD)という用語は、ダイヤモンド粒の少なくとも80体積パーセントを含む物質を意味し、そのかなりの部分は直接に内部結合、又はコヒーレントに結合していると称されるものと理解されている。全体に又は部分的に間隙を充填する物質は、充填材料と呼ばれる。PCDは、ダイヤモンド粒の内部成長を促進するコバルトなどの焼結助剤の存在下で通常形成される。焼結助剤は、ダイヤモンドをある程度まで溶解し、その再沈殿に触媒作用を及ぼす機能によって、一般にダイヤモンド用の溶媒/触媒材料と呼ばれる。ダイヤモンド用の溶媒/触媒材料は、ダイヤモンドが熱力学的に安定している温度及び圧力でダイヤモンドの成長、及び直接ダイヤモンド対ダイヤモンド結合の形成を促進することができる物質であると理解されている。一般に好ましい溶媒/触媒材料は、Fe、Ni、Co及びMn、並びにこれらのいずれかを含有する合金である。したがって、焼結したPCD生成物内の間隙は、全体に又は部分的に残存する溶媒/触媒材料で充填されている。通常、PCDは、PCDのコバルト溶媒/触媒の供給源を与える、コバルト焼結炭化タングステン基材にしばしば形成される。
【0003】
PCDは、岩石、金属、セラミック、複合材及び木材含有材料などの硬質又は摩耗性の材料を切削、機械加工、穿孔又は細分化する種々様々の工具に使用されている。例えば、PCDインサートは、油及びガス掘削事業において地中への穿孔に使用されるドリル用ビット内に広く使用されている。これらの用途の多くで、PCD材料が高エネルギーで岩石形成、ワークピース又は本体とかみ合う時、その温度は上昇する。残念なことに、硬さ及び強度などのPCDの機械的性質は、概して残存溶媒/触媒材料がその内部に分散している結果として、高温で低下する傾向がある。
【0004】
米国特許第4,694,914号明細書は、多結晶ダイヤモンドを含有する少なくとも1つの外側層と、多結晶ダイヤモンド層及び焼結炭化物体の間の少なくとも1つの転移層とを含むインサートを開示している。転移層はダイヤモンド結晶、コバルト及び予備焼結炭化タングステン粒子を含有する複合材料を含む。
【0005】
米国特許第4,694,918号明細書は、焼結金属炭化物インサート体と、多結晶ダイヤモンドの外側層と、複合材料の少なくとも1つの転移層とを含むインサートを開示している。複合材料は、予備焼結金属炭化物の多結晶ダイヤモンド及び粒子を含む。
【0006】
Delwicheら(Petroleum Division,v40,and Drilling Technology 1992,1992,p51−60,American Society of Mechanical Engineers)は、PCD層が、焼結炭化物の母材内に分散した粗いダイヤモンド粒を含有する裏打ち成分を含む基材に固定されている、油及びガス掘削のためのPCDインサートを開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
PCD構造体を、特にダイヤモンドの微細又は超微細粒から形成され、焼結炭化物基材に結合され、PCD構造体と焼結炭化物基材の間の界面近傍の欠陥を減少させたPCD構造体を含む複合物のPCD成形体を提供する必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によると、焼結炭化物基材に界面で完全に結合したPCD構造体を含むPCD複合物成形体エレメント(PCD composite compact element)が提供され、PCD構造体は、約30ミクロン以下、好ましくは約20ミクロン以下、より好ましくは約15ミクロン以下、さらに好ましくは約10ミクロン以下、さらにより好ましくは約5ミクロン以下、より好ましくは約2ミクロン以下、より好ましくは約1ミクロン以下の平均サイズを有するコヒーレントに結合したダイヤモンド粒を含み;焼結炭化物基材は、金属の炭化物化合物を含む、金属結合剤中に分散した炭化物粒子を含む炭化物粒子を含み;ここで、金属結合剤の量と基材中の複数の位置での金属の量との比は、最大で平均値の約20パーセント、平均値から逸脱する。
【0009】
一実施形態において、金属結合剤の量と基材中の複数の位置での金属の量との比は、界面から基材へ少なくとも2mmの深部にかけて、最大で平均値の約20パーセント、平均値から逸脱する。
【0010】
本発明のこの態様の実施形態は、PCD構造体と基材の間の界面近傍で過剰な結晶粒の成長が減少することを示すことが見出され、またPCD構造体内の平均ダイヤモンド粒度が小さいほど、はるかに有利であると考えられる。
【0011】
本発明のこの態様の一実施形態において、金属結合剤の量と基材中の複数の位置での金属の量との比は、最大で平均値の約10パーセント、平均値から逸脱する。
【0012】
いくつかの実施形態において、ダイヤモンド粒の平均サイズは、少なくとも約0.05ミクロン又は少なくとも約0.1ミクロンであってよい。
【0013】
いくつかの実施形態において、炭化物粒子の金属は、Wなどの(又はTi、Ta若しくはCrでさえ)、耐火金属であってもよい。また、いくつかの実施形態において、金属結合剤は、Coなどのダイヤモンドの溶媒/触媒を含む。
【0014】
いくつかの実施形態において、ダイヤモンド粒子は、基材の表面領域内に又は実質的に基板全体にわたって分散する。いくつかの実施形態において、表面領域内又は基材内のダイヤモンド粒子の含量は、表面領域中又は場合によって基材中で、材料の約6重量パーセント以下又は約5.5重量パーセント以下であってよい。いくつかの実施形態において、表面領域内又は基材内のダイヤモンド粒子の含量は、少なくとも約0.1重量パーセント又は少なくとも0.3重量パーセントであってよい。基材の表面領域は、界面から少なくとも約1mm、少なくとも約2mm又は少なくとも3mmの深部に延在してよい。いくつかの実施形態において、表面領域は界面から延在し、PCD構造体の体積の少なくとも2倍の体積又はPCD構造体の体積の少なくとも3倍の体積を有する。いくつかの実施形態において、界面から延在する表面領域の体積は、PCD構造体の体積より少なくとも10倍大きくてもよい。
【0015】
いくつかの実施形態において、基材中又は基材の表面領域に分散したダイヤモンド粒子は、0.1から100ミクロン、0.1から50ミクロン又は0.1から20ミクロンの範囲の平均サイズを有する。いくつかの実施形態において、ダイヤモンド粒子は、基材又は基材の表面領域全体にわたって実質的に一様に分散していてもよい。これによって、粒成長関連の欠陥の出現を、界面エリアに渡ってより一様に低下させるのを助けることができる。
【0016】
いくつかの実施形態において、基材内又は基材の表面領域内のダイヤモンドの含量は、少なくとも1体積パーセント、少なくとも2体積パーセント且つ20体積パーセント未満、1から15体積パーセントの範囲で、又は1から10体積パーセントの範囲であってもよい。この範囲のダイヤモンド含量は、界面近傍の特定の欠陥を実質的に減少させるのに十分であり得ることが見出された。
【0017】
いくつかの実施形態において、PCD構造体は第1及び第2の領域を含み、第1の領域のダイヤモンド粒の平均サイズは第2の領域のダイヤモンド粒のそれより大きく、第1の領域は基材の近傍であり第2の領域は基材から離れている。一実施形態において、第2の領域は作用面を画定する。いくつかの実施形態において、PCD構造体の第1の領域のダイヤモンド粒の平均サイズは、2ミクロンより大きくてよく、また、PCD構造体の第2の領域のダイヤモンド粒の平均サイズは、0.01ミクロンから1.5ミクロンの範囲又は0.01ミクロンから1ミクロンの範囲にあってよい。これらの実施形態は、非常に微細なPCD構造体の場合、PCD構造体と基材の間の界面近傍での粒成長欠陥の発生率を実質的に減少させることができる。非常に微細な(約2ミクロン未満の)PCD構造体は、増加した強靭性などの特定の望ましい機械的性質が得られるので、望ましいことがある。
【0018】
PCD構造体は、基材との界面から少なくとも1mmの軸方向の厚さを有していてもよい。
【0019】
金属結合剤の量とPCD構造体中の複数の位置での炭素の量との比は、界面からPCD構造体中へ、少なくとも0.5mm、より好ましくは少なくとも0.75mm、さらに好ましくは少なくとも1mmの深部にかけて、実質的に一定のほぼ平均値であってもよい。一実施形態において、金属結合剤の量とPCD構造体中の複数の位置での炭素の量との比は、平均値から最大平均値の20パーセント、より好ましくは最大約10パーセント、平均値から逸脱する。
【0020】
基材は、少なくとも1mm、少なくとも1.5mm又は少なくとも5mmの厚さを有することができる。
【0021】
PCD構造体中のダイヤモンド粒は多重モードの粒度分布を有することができる。いくつかの実施形態において、PCD構造体の結合ダイヤモンド粒は、粒の少なくとも50パーセントが5ミクロンを超える平均サイズを有し、粒の少なくとも20パーセントが10から15ミクロンの範囲の平均サイズを有するという粒度分布特性がある。多重モードのダイヤモンド粒度分布及びこれらの範囲内の平均粒度を有するPCD構造体の実施形態は、ろう付けなどによって基材に結合した後のそれらの機械的完全性及び基本性質をよりよく保持するのに十分な強度を有することが見出された。
【0022】
一実施形態において、複数のPCD又はダイヤモンドリッチフィンガーは、PCD構造体から基材に延在し、より好ましくは、概して細長い構造である複数のPCDフィンガーがPCD構造体から基材に延在する。いくつかの実施形態において、少なくとも1つのPCDフィンガーは、少なくとも20ミクロン、少なくとも30ミクロン又は少なくとも40ミクロンの長さを有する。
【0023】
本発明によるPCD複合物成形体エレメントの実施形態は、本発明の態様による方法の実施形態を使用して作製することができる。
【0024】
過剰炭素とは、PCDを焼結するために凝集物に供給されるダイヤモンド粒の過剰のダイヤモンドであり、また、焼結炭化物の炭化物として含有される過剰の炭素(化学量論的に過剰な)である炭素であると理解される。したがって、炭素と化合した基材又は炭素と化合した基材集合体は、過剰炭素を含有する基材又は基材集合体である。
【0025】
グリーン体(green body)は当業界で公知の用語であり、焼結することを意図されているが、未だ焼結されていない物品を指す。それは一般に自立し、意図する完成品の一般形を有する。グリーン体は、容器中で複数の粒子を混ぜ合わせて、次いで、自立する物品を形成するためにそれらを圧縮することにより通常形成される。
【0026】
炭素は多くの方法のいずれかで基材に導入することができる。一実施形態において、基材プリフォームは、焼結炭化物を作製する初めの粉末にダイヤモンド粒子を導入して初めの粉末ブレンドを形成すること;型内で圧密によって初めの粉末ブレンドを形成してグリーン体を形成すること;約1,400℃を超える温度で約1GPa未満の加圧でグリーン体を焼結して焼結基体を製造することを含む方法によって調製される。圧力がダイヤモンドが熱力学的に安定な圧力より低いので、少なくともダイヤモンド粒子の一部は、この炭化物焼結工程の間に全体として又は部分的に黒鉛に変換される。
【0027】
ダイヤモンドが熱力学的に安定な焼結圧力は、好ましくは少なくとも約5.5GPaであり、また、温度は、好ましくは少なくとも約1,400℃である。
【0028】
いくつかの実施形態において、炭素は黒鉛粉末の形態で基材に導入される。
【0029】
いくつかの実施形態において、炭素は炭素のガスの形態で基材へ導入され、基材に浸透又は浸潤させる。
【0030】
いくつかの実施形態において、炭素を含む物質が基材の表面に噴霧される。詳細には、コバルト、炭素及びタングステンを含有する粉末を、溶射によって基材表面に堆積させることができる。
【0031】
いくつかの実施形態において、基材は黒鉛などの過剰炭素の供給源で被覆される。
【0032】
いくつかの実施形態において、基材は、例えば、カーボンブラックの形態の高含量の炭素を有する初めの炭化物粉末から調製される。
【0033】
いくつかの実施形態において、高い炭素含量の基材は、焼結の即応性のために、グリーン体を調製する間、一部の炭素の除去を回避することにより調製される。通常、グリーン体は、焼結に先立って熱処理し、結合剤又はプレス加工助剤物質を除去し、炭素はこの工程の間に除去される。一実施形態において、この工程は完全には完了せず、結合剤起源の少なくとも一部の炭素をグリーン体内に残す。
【0034】
非結合の又は自由流動性のダイヤモンド粒の粒度分布は、レーザー回折法によって測定される。ここで、粒は流体媒体中で懸濁されており、光回折法パターンは懸濁液にレーザー光線を向けることにより得られる。回折パターンはコンピューターソフトウェアにより解釈される。また、粒度分布は円相当径で表現される。事実上、粒は球形であるとして扱われる。また、粒度分布は球体の相当直径の分布で表現される。Malvern Instruments Ltd(英国)からのMastersizer(商標)装置はこの目的に使用することができる。
【0035】
粒の質量の多重モードの粒度分布は、粒が2つ以上のピークから形成される粒度分布を有し、各々のピークは各々の「モード」に対応することを意味すると理解される。多重モードの多結晶体は、各供給源が実質的に異なる平均サイズを有する、複数の粒の2種以上の供給源を準備すること、及びこれらの供給源からの粒を一緒にブレンドすることにより、通常作製される。ブレンドした粒の粒度分布の測定は、通常、別個のモードに対応する別個のピークを示す。粒が一緒に焼結されて多結晶体を形成する場合、粒が互いに圧縮され破壊されるので、これらの粒度分布はさらに変化し、結果として得られる粒のサイズ全体が低下する。しかしながら、粒の多重モード性は、焼結した物品の画像解析から、通常、なお明白である。
【0036】
PCD内のダイヤモンド粒のサイズの計測値を得るために、「円相当径」として知られている方法が使用される。この方法において、PCD物質の研磨表面の走査型電子顕微鏡写真(SEM)像が使用される。少なくとも数百のダイヤモンド粒を画像内で識別するのに、倍率とコントラストを満足させるべきである。ダイヤモンド粒は、画像中の金属相と区別することができ、個別の各ダイヤモンド粒のサイズが等しい円は従来の画像解析ソフトウェアによって求めることができる。次いで、これらの円の集めた分布は統計的に評価される。PCD物質内のダイヤモンドの平均粒度が本明細書において言及される場合は常に、これが平均円相当径を指すものと理解される。
【0037】
「結合剤プール」は、界面に隣接するPCD構造体内に、PCD構造体内の平均より実質的に高い含量の結合物質(通常コバルト)又は所望の含量を有する領域が存在することを指す。プール領域内のダイヤモンド含量は、公知のPCD成形体、特に、約1ミリメートルより厚い焼結炭化物基材及び約0.6ミリメートルより大きい厚さを有するPCD構造体を有するものでは、50%未満であることがある。プールは、比較的厚い基材及びPCD構造体を有するPCD成形体において特に問題である。対応する領域は界面近傍基材内に生じ、そこでは結合物質の含量は基材の平均より低い。これは時には、「結合剤剥落帯域」と呼ばれる。結合剤のプール及び枯渇は、それがいわゆる「プルーム」欠陥及び過剰なダイヤモンド粒成長を含む、いくつかの関連する欠陥と関係しているので、また界面近傍の領域内の成形体の耐摩耗性を低下させるので、望ましくないことがある。界面での耐摩耗性が減少すると、PCD構造体のアンダーカットを生じる恐れがあり、環境中で浸食促進物質の存在により加速されることがある。
【0038】
プルーム欠陥(plume defect)は、界面近傍のPCD構造体内に形成される金属炭化物の比較的大きい粒である。理論によって縛られたくないが、本発明の実施形態において、基材からPCDに浸潤する物質は、焼結工程の間に、タングステン含量を減少させる、又はタングステンを実質的になくすので、プルームを減少させることができると考えられる。
【0039】
本発明の方法の実施形態はまた、初めの凝集物のダイヤモンド粒が微細であるほどより問題となる、PCD内でダイヤモンドの過剰な粒成長を減少させることができる。この理由のために、PCD内の平均粒度が低い場合には、本方法は特に有利である。理論により縛られたくないが、溶融結合物質(例えばコバルト)のプルームがダイヤモンド層に侵入し、プルームが比較的低い炭素の含量を有する場合、微細なダイヤモンド粒は容易に溶けてより大きい粒の上に再沈殿し、結果としてPCD構造体と基材の間の界面近傍で過剰な粒ダイヤモンド粒成長をもたらす。結果として得られた粒は初めの粒度より大きいオーダーになり得る。しかし、焼結工程に先立って過剰炭素の供給源が基材へ導入される場合のように、結合物質が比較的より多くの炭素を含む場合、より微細な粒の溶解は抑えられ又は遅らせられて、代わりに、炭素はすべての粒の上に均一に沈殿する。この沈殿が多くの粒を覆って外に広がるので、過剰な粒成長はほとんどない、又は減少する。
【0040】
実質的に、一定とは、その比が少なくとも68パーセント又は90若しくは95パーセントの統計信頼区間を有する一定値であることを意味すると理解される。
【0041】
基材中の結合物質の量と基材内の炭化物物質の量との比、及び、結合物質の量とPCD構造体内のダイヤモンドの量との比は、重量比、体積比、又は、結合物質と炭化物物質若しくは結合物質とダイヤモンドの相対量をそれぞれ表す他の比として表現することができる。比はパーセント値として表現することができる。
【0042】
基材が、PCD構造体との界面に隣接する領域にダイヤモンド粒子を含む場合には、一種の「逆プルーミング(reverse pluming)」が起こるのが見出され、そこでは、PCD「フィンガー(finger)」がPCD構造体からその領域に延在する。これらのフィンガーは、結果として界面近傍の内部応力の減少をもたらし、構造体の剥離の発生率を低下させることができると仮定される。フィンガーのサイズは、基材のグリーン体へ導入するダイヤモンド粒子のサイズの選択により制御することができ、望まれるフィンガーが長いほど、一般に、ダイヤモンド粒子はより大きいことが必要である。フィンガーの数及び、ある程度まで、それらのサイズは、基材に導入するダイヤモンド粒子の数により制御される。
【0043】
本発明の第2の態様によると、焼結炭化物から形成された基材に完全に結合した多結晶ダイヤモンド(PCD)構造体を含む多結晶ダイヤモンド複合物(PDC)成形体エレメントを作製する方法であって、基材の結合面で又はその近傍で、過剰炭素の供給源を基材に導入して、炭素と化合した基材又は基材集合体を形成すること;結合面と隣接して又はその近傍で、ダイヤモンド粒の凝集物を炭素と化合した基材集合体と接触させて、非結合の集合体を形成すること;及び、ダイヤモンドの溶媒/触媒物質の存在下で、ダイヤモンドがPCDを形成するのに熱力学的に安定な温度及び圧力でダイヤモンド粒を焼結させることを含み、凝集物中のダイヤモンド粒の平均サイズが約30ミクロン以下である、上記方法が提供される。
【0044】
凝集物中のダイヤモンド粒の平均サイズは、約20ミクロン以下、好ましくは約15ミクロン以下、さらに好ましくは約10ミクロン以下、さらにより好ましくは約5ミクロン以下、さらに好ましくは約2ミクロン以下、及びさらに好ましくは約1ミクロン以下であってもよい。好ましくは、凝集物中のダイヤモンド粒の平均サイズは、少なくとも約0.05ミクロン、より好ましくは少なくとも約0.1ミクロンである。
【0045】
本発明の実施形態は、結合面近傍の過剰な粒成長を減少させることが見出され、平均ダイヤモンド粒度が低いほどはるかに有利であり得る。
【0046】
一実施形態において、本方法は炭素と化合した基材を形成することを含み、そこで過剰炭素の供給源は基材の体積に含有される、又は、導入される。いくつかの実施形態において、過剰炭素の供給源は、炭素と化合した基材の全体量にわたって実質的に分散している。他の実施形態において、過剰炭素の供給源は、結合面近傍又は隣接する表面領域に分散している。
【0047】
好ましくは、炭素と化合した基材の表面領域内の、又は炭素と化合した基材の実質的に全体にわたる過剰炭素の供給源の平均含量は、表面領域又は基材中の物質の、約10重量パーセント以下、好ましくは約6重量パーセント以下、さらにより好ましくは約5.5重量パーセント以下である。好ましくは、表面領域内の又は炭素と化合した基材の全体にわたる過剰炭素の供給源の含量は、領域内の物質の少なくとも約0.1重量パーセント、より好ましくは少なくとも約0.3重量パーセントである。いくつかの実施形態において、表面領域は、結合面から少なくとも1mm、少なくとも約2mm、又は少なくとも約3mmの深部に延在する。いくつかの実施形態において、表面領域は、PCD構造体の体積の少なくとも2倍又はPCD構造体の少なくとも3倍の体積を有する。いくつかの実施形態において、表面領域の体積は、PCD構造体の体積の少なくとも10倍大きくてもよい。
【0048】
重量パーセントは、炭素が導入される領域内の全基材物質に対して表現される。
【0049】
一実施形態において、凝集物中のダイヤモンド粒は多重モードの粒度分布を有する。
【0050】
好ましくは、過剰炭素の供給源は、金属炭化物以外の、カーボンブラック粉末又は黒鉛などの炭質材料である。一実施形態において、過剰炭素の供給源は、非ダイヤモンド材料に変換されたダイヤモンドに由来してもよい。そのような物質は、炭素から本質的に成り、基材又はPCDに実質的に不用物質を導入しないですむ。いくつかの実施形態において、過剰炭素の供給源は、有機分子の形態をしていてもよい。いくつかの実施形態において、過剰炭素の供給源はメタンなどの有機分子のガスなどのガスの形態で導入することができる。
【0051】
一実施形態において、本方法は、粒子又は顆粒の形態の過剰炭素の供給源を焼結炭化物用の原料と混ぜ合わせること、この組合せを実質的に自立するグリーン体に形成すること、ダイヤモンドが熱力学的に安定でない圧力でグリーン体を焼結し、炭素と化合した基材を形成することを含む。いくつかの実施形態において、焼結炭化物の原料は、炭化タングステン粒及びコバルト含有粒を含む。
【0052】
本方法は、ダイヤモンド粒を焼結炭化物の原料と混ぜ合わせること、この組合せを実質的に自立するグリーン体に形成すること;グリーン体を少なくとも500℃の温度、及びダイヤモンドが熱力学的に安定でない圧力にさらし炭素と化合した基材を形成することを含むことができる。ダイヤモンド粒子を、全体として又は部分的に非ダイヤモンド材料、特に黒鉛に変換することができる。一実施形態において、変換されたダイヤモンドの実質的に全部は、PCDを焼結するステップの間にダイヤモンドに再変換する。この実施形態は、結果としてPCDフィンガーの基材への延在をもたらし、その結果、基材へのPCDの結合が向上し、剥離の発生率を減少させることができることが見出された。
【0053】
本発明のこの態様の一実施形態において、基材はダイヤモンドを実質的に含まない。
【0054】
基材が変換された黒鉛から形成されたダイヤモンド粒子を含む実施形態において、例えば、過剰炭素の供給源が黒鉛である場合、ダイヤモンド粒子は、各ダイヤモンド粒子の少なくとも周辺の体積内の塑性変形はほとんどない又は実質的にないことがある。いくつかの実施形態において、ダイヤモンド粒子には塑性変形が実質的にない。
【0055】
いくつかの実施形態において、過剰炭素の供給源を基材の結合面上に堆積し、炭素と化合した基材又は炭素と化合した基材集合体を形成することができる。いくつかの実施形態において、過剰炭素の供給源を、熱又は他のスプレー法によって基材結合面上に堆積することができる。一実施形態において、タングステンなどの耐火金属を含むディスク又はフィルムを過剰炭素の堆積した供給源を覆って配置し、炭素と化合した基材集合体を形成することができる。
【0056】
本方法は、金属炭化物又は金属炭化物の前駆体(単数又は複数)を、ダイヤモンド粒の凝集物に導入することを含むことができる。より好ましくは、本方法は、ダイヤモンド粒の凝集物に、耐火金属炭化物粒子、例えば炭化タングステン、炭化タンタル、炭化ニオブ又は炭化バナジウムを導入することを含む。いくつかの実施形態において、本方法は、金属炭化物の耐火金属前駆体、例えば非炭化物化合物又は元素の形態のタングステン、タンタル、ニオブ又はバナジウムをダイヤモンド粒の凝集物に導入することを含む。過剰炭素の供給源を基材に又は基材中に導入することができる本方法の実施形態において、直接に又は前駆体(単数又は複数)の導入を介して、ダイヤモンド粒の凝集物中へ金属炭化物を導入すると、焼結したPCD構造体の摩耗又は耐食性を著しく増強することができる。
【0057】
いくつかの実施形態において、金属炭化物又は、金属炭化物の前駆体(単数又は複数)は、ダイヤモンド粒に粒子をブレンドすることにより粒子の形態でダイヤモンド粒の凝集物に導入することができる。
【0058】
いくつかの実施形態において、焼結炭化物は、コバルトなどのダイヤモンド用の溶媒/触媒物質を含む金属結合剤により一緒に焼結した金属炭化物の粒を含む。そのような金属結合剤は、焼結工程の間、ダイヤモンド粒子の凝集物に浸潤し、ダイヤモンド用の焼結助剤として機能することができる。
【0059】
本発明の実施形態は、基材との界面に隣接するPCD内の金属結合物質のプール、及び結合面/界面に隣接する基材内の金属結合物質の対応する枯渇を減少させる又はなくすことが見出され、結合面近傍の炭化物又はダイヤモンド粒成長に関連した特定の欠陥を減少させ又はなくすことができる。
【0060】
本発明の第3の態様によると、本発明によるPCD複合物成形体エレメントを含む、地面を穿孔するためのドリルビットなどのドリルビット用PCDカッターインサートが提供される。
【0061】
本発明の第4の態様によると、本発明によるPCDカッターインサートを含む、地面を穿孔するためのドリルビットが提供される。
【0062】
油及びガス掘削事業において行われる地面への穿孔は、カッターインサートに高度の力を働かせるが、本発明によるPCDカッターインサートは使用中の故障率を減少させることができる。
【0063】
ここで、非限定的な実施形態を添付の図面を参照して記載する。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1(a)】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図1(b)】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の縦辺断面図である。
【図1(c)】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の縦辺断面図である。
【図2】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図3】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図4】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図5】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図6】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図7】PCD複合物成形体エレメントの一実施形態の透視図の略図である。
【図8】PCD物質の一実施形態の内の、ダイヤモンド粒の微細な2モードの粒度分布の、粒の数に対する円相当径粒度のグラフである。
【図9】PCD物質の一実施形態の内の、ダイヤモンド粒の、粒の数に対する円相当径粒度のグラフである。
【図10】本発明の一実施形態の場合のみならず従来技術のPCD複合物成形体の場合の、PCD作用面からの深さの関数としての、PCD及び基材中の結合剤含量並びに炭素含量の概略のグラフである。
【図11】本発明(黒四角で示したデータ)の一実施形態、及び従来技術(白ダイヤモンドで示したデータ)による対照の場合の、PCD構造体との界面から基材への距離の関数としてコバルトとタングステンの含量の比を示すグラフである。
【図12】本発明(黒四角で示したデータ)の一実施形態、及び従来技術(白ダイヤモンドで示したデータ)による対照の場合の、基材との界面からPCD構造体への距離の関数としてコバルトと炭素の含量の比を示すグラフである。
【図13】PCD構造体と、ダイヤモンドで増強した、コバルト焼結WC基材との間の結合界面の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0065】
図1を参照すると、多結晶ダイヤモンド複合物成形体(PCD)エレメント100の一実施形態は、界面125で焼結炭化物基材120に完全に結合したPCD構造体110を含む。いくつかの実施形態において、間の界面を(a)に示す。PCD構造体110は軸方向の厚さtPCDを有し、基材120は軸方向の厚さtsubを有する。ここで、軸方向の厚さは、「軸方向」と印された線により示された軸方向にPCD構造体間を界面125から測定する。(b)に示す実施形態において、界面125は実質的に平面である。また、(c)に示す実施形態において、界面125は非平面であり、PCD構造体110は少なくとも2つの厚さ、tPCD−1とtPCD−2を有する。
【0066】
図2を参照すると、多結晶ダイヤモンド複合物成形体(PCD)エレメント100の一実施形態は、界面125で焼結炭化物基材120に完全に結合したPCD構造体110を含み、PCD構造体は第1の領域112及び第2の領域111を含み、第1の領域112のダイヤモンド粒の平均サイズは、第2の領域111のダイヤモンド粒のそれより大きく、第1の領域112は基材120の近傍であり、第2の領域111は基材120から離れている。
【0067】
図3を参照すると、多結晶ダイヤモンド複合物成形体(PCD)エレメントの一実施形態は、界面125で焼結炭化物基材120に完全に結合したPCD構造体110を含み、基材120は、表面領域221内に分散した界面から深部に延在するダイヤモンド粒子を含む。基材120の残りの領域122は、ダイヤモンドを実質的に含まない。いくつかの実施形態において、深さは少なくとも1ミリメートル、少なくとも2ミリメートル又は少なくとも3ミリメートルである。いくつかの実施形態において、基材の表面領域121は、PCD構造体110の体積の少なくとも2倍、PCD構造体110の体積の少なくとも3倍、又はPCD構造体110の体積より少なくとも10倍大きい体積を有する。
【0068】
図4を参照すると、本発明の方法の一実施形態は、結合面225で又はその近傍で、基材220に過剰炭素の供給源を導入して、炭素と化合した基材集合体250を形成すること;結合面225と隣接して又はその近傍で、ダイヤモンド粒の凝集物210を炭素と化合した基材集合体250と接触させて、非結合の集合体200を形成することを含み、過剰炭素の供給源は、基材220の表面領域221に分散した黒鉛の形態であり、表面領域は結合面近傍125から深部に延在する。いくつかの実施形態において、その深さは少なくとも1ミリメートル、少なくとも2ミリメートル又は少なくとも3ミリメートルである。図5を参照すると、過剰炭素の供給源は、実質的に基材220の全体量にわたって分散した黒鉛の形態である。
【0069】
図6を参照すると、本発明の方法の一実施形態は、結合面225で又はその近傍で、基材220に過剰炭素の供給源を導入して、炭素と化合した基材集合体250を形成すること;結合面225と隣接して又はその近傍で、ダイヤモンド粒の凝集物210を炭素と化合した基材集合体250と接触させて、非結合の集合体200を形成することを含み、過剰炭素の供給源230は、基材の結合面125上に堆積する。図7を参照すると、本発明の方法の一実施形態は、過剰炭素230の堆積した供給源を覆う、タングステンを含むディスク又はフィルム240を配置することを含む。
【0070】
例えば、図8は、PCD物質の一実施形態の内で、ダイヤモンド粒の微細な2モードの粒度分布の、粒の数に対する円相当径粒度のグラフを示す。また、図9は、多重モードのPCD物質の一実施形態の内で、ダイヤモンド粒の、粒の数に対する円相当径粒度のグラフを示す。
【0071】
図8に示すダイヤモンド粒度分布を有するPCD物質は、本発明から特に利益を得ることができるPCD物質の一実施形態の実施例である。ここで、焼結したPCD内のダイヤモンド粒の平均サイズは、約1.5から約6ミクロンの範囲にあり、粒度分布は少なくとも2つの別個のピークに分割することができる。図8は、円相当径の分布を示すが、二次元画像データから得られた粒度分布を三次元の粒度分布に変換するSaltykov補正は施していない。
【0072】
図9を参照すると、従来技術のPCD複合物成形体210及び本発明の一実施形態によるPCD複合物成形体220内の、コバルトの相対的(例えば重量パーセント)含量200が、定性的な特徴に関して比較されている。本発明のいくつかの実施形態において、結合剤プールは実質的に減少する。いくつかの実施形態において、プルーム欠陥の発生率は実質的に減少する。また図9に示すように、従来技術のPCD複合物成形体410及び本発明の一実施形態によるPCD複合物成形体420内の、対応する炭素の相対的含量400が、定性的な特徴に関して比較されている。110で示したグラフの領域はPCD構造体に対応する。また、121で示した領域は炭化物基材に対応する。
【0073】
図10は、本発明の一実施形態(黒四角で示すデータ)及び従来技術(白ダイヤモンドで示すデータ)の対照の場合の、PCD構造体との界面から基材への軸方向の距離の関数として、コバルトとタングステンの比を示すグラフである。界面はゼロミリメートルに対応する。本発明の一実施形態において、この比(黒四角で示す)は、界面から基材のバルクにかけて実質的に一定で、データの標準偏差は平均値Mの約5パーセント未満である。上側及び下側標準偏差は、それぞれSUとSLで示す。上限及び下限パーセント、すなわちM(1+20%)及びM(1−20%)をそれぞれLUとLLで示す。従来技術によって作製された対照物質の場合には、コバルトとタングステンの平均比は、およそ1.5ミリメートルの深部内で実質的により低く、基材のバルク中の平均値より系統的に低く、また、界面から約1ミリメートルの深部内で下限M(1−20%)を下回る。これは「低減帯域」と呼ばれる。
【0074】
図11は、本発明(黒四角で示したデータ)の一実施形態、及び従来技術(白ダイヤモンドで示したデータ)による対照の場合の、基材との界面からPCD構造体への軸方向の距離の関数として、コバルトと炭素の比を示すグラフである。界面はゼロミリメートルに対応する。本発明の一実施形態において、この比(黒四角で示す)は、界面からPCD構造体のバルクにかけて、界面から最初の0.2ミリメートル以内さえ、実質的に一定であるが、対照物質での比は、界面に隣接するPCD構造体内の結合剤プールに対応するM(1+20%)を超えて劇的に増大する。
【0075】
図12を参照すると、本発明の一実施形態によるPCD複合物成形体の、PCD構造体40及び焼結炭化物基材50間の界面を跨ぐ領域のSEM顕微鏡写真が示されている。基材50は、ダイヤモンド46の粒子を含んでいる。近接する多結晶ダイヤモンドを含み約30から50ミクロンの範囲の長さを有する「フィンガー」45は、PCD構造体40から基材50にかけて延在する。
【0076】
前に述べたように、本発明の実施形態は比較的厚いPCD蓋及び焼結工程でより高温度を使用する必要のない基材を含むことができる。一般に、基材からPCD層全体に浸潤するように融けた溶媒/触媒物質を促すために、PCD層が厚いほど、焼結させる温度をより高くしなければならない。この浸潤が起こらないことの深刻な影響は、界面から離れたダイヤモンド粒が十分に焼結されない「ソフトスポット(soft spot)」欠陥が発生することである。残念なことに、より高温で焼結すると、結果として、界面近傍のダイヤモンドは過度に溶解し、過剰な大針状金属炭化物粒の形態のプルーム欠陥をもたらすことがある。他方では、より高温で焼結すると、過剰なダイヤモンド粒成長を促進する傾向があり、これまた望ましくない。PCD構造体が比較的薄い場合には、PCD構造体が薄いほどソフトスポットの回避のための最低焼結温度が低くなるので、これはより小さい問題である。しかし、多くの用途では、PCD構造体が数ミリメートル厚で、基材が数十ミリメートル厚であることを必要とする。特に、油及びガス事業において地面や岩石への穿孔に使用されるPCD成形体は、比較的厚いPCD蓋及び基材を含む。
【実施例】
【0077】
ここで、以下の非限定的な実施例を参照して本発明を記載する。
【0078】
(例1)
PCD成形体の基材の表面領域として使用する第1の基材エレメントを、ダイヤモンド粒子、炭化タングステン(WC)粉末及びコバルト粉末を一緒にブレンドし、ブレンド混合物を圧縮グリーン体に成形し、グリーン体を従来の炭化物焼結工程にかけることにより製造した。ダイヤモンド粒子は0.75から1.5ミクロンの範囲の平均サイズを有し、ブレンド混合物の3重量パーセントを構成した。WC粉末及びコバルト粉末は予備混合しておいた。この時、コバルトはWC−Coプレミックスの13重量パーセントを構成し、WC粒子は約1から4ミクロンの範囲の平均サイズを有していた。WC−Coミックスには約2重量パーセントの有機系プレス加工助剤を含有していた。ブレンド粉末混合物を、室温で一軸圧縮し、実質的に円筒状のグリーン体を形成し、摂氏1,400度の温度で2時間従来通りに焼結し、焼結物品を形成した。焼結工程の終了までに、ダイヤモンド粒子は黒鉛に完全に変換していた。基材は、最終機械加工の後に約17.4ミリメートルの直径及び約6ミリメートルの高さを有していた。
【0079】
ダイヤモンドを実質的に含まない基材の領域として使用する第2の基材エレメントは、第1の基材エレメントと同様の方法で同様の原料を使用して製造した。ただし、ダイヤモンドは導入せず、また、第2の基材エレメントの高さは約7ミリメートルであった。
【0080】
第1の基材エレメントを第2の基材エレメント上に配置し、第1と第2基材エレメントは実質的に整合しており、第1の基材エレメントの露出した木口面である上部面を有する基材集合体を形成した。
【0081】
ダイヤモンド粒の非結合の凝集物を含む層を、焼結物品の基材集合体木口面の上部面上に堆積し、非結合の集合体を形成した。ダイヤモンド粒は、約0.5ミクロンの平均サイズを有し、凝集物の5重量パーセントを構成するコバルトで被覆した。次いで、被覆粒は、水素で表面を終端させるために、水素に豊む雰囲気中で摂氏850度で熱処理にかけた。
【0082】
非結合の集合体を、当業界で知られている、超高圧炉のカプセル内に装入した。カプセルを、約5.5GPaの圧力及び摂氏約1,400度の温度に約5分間さらした。焼結後、第1と第2基材エレメントを一緒に焼結し、PCD複合物成形体を通常の方法で処理して、約15.9ミリメートルの直径を有するインサート、及び約1.7から2.1ミリメートルの範囲の厚さを有するPCD構造体を形成した。
【0083】
インサートは走査電子顕微鏡法(SEM)を使用して分析した。特に注目すべきは、PCDと基材の間の界面に隣接するコバルト結合剤の識別可能な「プール(pooling)」が存在しないことで、これは公知のインサート、特に比較的厚いPCD及び基材を有するものの典型的な特徴であり、このインサートはそのような一例である。試料は、基材の焼結炭化物とPCDの間で急激な推移を示した。さらに、公知のインサートに起こるように、過剰なダイヤモンド又はWC粒は、実質的に界面近傍のPCD層内で観察されなかった。
【0084】
(例2)
ダイヤモンド粒子、炭化タングステン(WC)粉末及びコバルト粉末を一緒にブレンドし、ブレンド混合物を圧縮グリーン体に成形し、グリーン体を従来の炭化物焼結工程にかけることにより、PCD成形体の基材を製造した。ダイヤモンド粒子は、約22ミクロンの平均サイズを有し、ブレンド混合物の約5.8重量パーセントを構成した。WC粉末及びコバルト粉末は予備混合しておいた。この時、コバルトはWC−Coプレミックスの13重量パーセントを構成し、WC粒子は約1から4ミクロンの範囲の平均サイズを有していた。WC−Coミックスには約2重量パーセントの有機系プレス加工助剤を含有していた。ブレンド粉末混合物を、室温で一軸圧縮し、実質的に円筒状のグリーン体を形成し、1,400℃の温度で2時間従来通りに焼結し、焼結物品を形成した。焼結工程の終了までに、ダイヤモンド粒子は黒鉛に完全に変換していた。基材は、最終機械加工の後に、約17.4ミリメートルの直径及び約13ミリメートルの高さを有していた。
【0085】
ダイヤモンド粒の非結合の凝集物を含む層を、焼結物品の基材の上部面上に堆積し、非結合の集合体を形成した。凝集物の原料ダイヤモンド粉末は、3種の供給源からのダイヤモンド粒をブレンドすることにより調製し、各供給源は異なる平均粒子サイズ分布を有していた。
【0086】
非結合の集合体を、当業界で知られている、超高圧炉のカプセル内に装入した。カプセルは、約5.5GPaの圧力及び約1,400℃の温度に約5分間さらした。焼結後、第1と第2基材エレメントを一緒に焼結し、PCD複合物成形体エレメントを通常の方法で処理して、約15.9ミリメートルの直径を有するインサート、及び約1.7から2.1ミリメートルの範囲の厚さを有するPCD構造体を形成した。
【0087】
インサートは走査電子顕微鏡法(SEM)を使用して分析した。物質の分析は、PCD構造体と基材の間の界面を縦に通る研磨断面上の数点で行った。タングステン(W)及びコバルト(Co)の含量を、界面近傍から基材のバルクへの異なる数点で基材内で測定し、炭素(C)及びコバルト(Co)の含量は、界面近傍からPCD構造体のバルクへの異なる数点でPCD構造体内で測定した。これらの測定の結果は、界面から距離の関数としての比として、それぞれ図11及び12に示す。特に注目すべきは、PCDと基材の間の界面に隣接するコバルト結合剤の「プール」が実質的に存在しないことで、これは公知のインサート、特に比較的厚いPCD及び基材を有するものの典型的な特徴である。試料は、基材の焼結炭化物とPCDの間で急激な組成の推移を示した。さらに、公知のインサートに起こるように、過剰なダイヤモンド又はWC粒は、実質的に界面近傍のPCD層内で観察されなかった。
【0088】
(例3)
ダイヤモンド粒子が約2ミクロンの平均サイズを有し、ブレンド混合物の約2.7重量パーセントを構成した以外は、例2と同様にPCD成形体の基材を製造した。例2に記載したように、ダイヤモンド粒の非結合の凝集物を含む層を、焼結物品の基材の上部面上に堆積し、非結合の集合体を形成し、例2に記載したように焼結して、PCD複合物成形体エレメントを形成した。
【0089】
例2と同様に、PCDと基材の間の界面に隣接するコバルト結合剤の「プール」の存在は実質的に観察されず、また、過剰なダイヤモンド又はWC粒は、界面近傍PCD層内で実質的に観察されなかった。
【0090】
(例4)
基材の高さが13ミリメートルであること以外は同様の方法で、例1の第1の基材エレメントとして同一の原料を使用して、PCD成形体の基材を製造した。言いかえれば、全体の基材は、例1に記載した第1の基材エレメントと実質的に同一の組成、形状及び直径を有する。
【0091】
ダイヤモンド粒の非結合の凝集物の層を、基材の木口面上に堆積し、非結合の集合体を形成した。ダイヤモンド粒は超微細な2モードの分布を有し、平均サイズは約0.1から1マイクロメートルの範囲であり、凝集物の5重量パーセントを構成するコバルトで被覆した。次いで、被覆粒は、水素で表面を終端させるために、水素に豊む雰囲気中で850℃で熱処理にかけた。
【0092】
非結合の集合体を、当業界で知られている、超高圧炉のカプセル内に装入した。カプセルは、約5.5GPaの圧力及び約1,400℃の温度に約5分間さらした。焼結後、PCD複合物成形体を通常の方法で処理して、約15.9ミリメートルの直径を有するインサート、及び約1.7から2.1ミリメートルの範囲の厚さを有するPCD構造体を形成した。
【0093】
インサートは走査電子顕微鏡法(SEM)を使用して分析した。特に注目すべきは、PCDと基材の間の界面に隣接するコバルト結合剤の識別可能な「プール」が存在しないことである。試料は、基材の焼結炭化物とPCDの間で急激な推移を示した。さらに、公知のインサートに起こるような、過剰なダイヤモンド又はWC粒は、実質的に界面近傍のPCD層内で観察されなかった。
【0094】
(例5)
基材の高さが13ミリメートルであること以外は例1の第1の基材エレメントと同様の方法で、同一の原料を使用して、PCD成形体の基材を製造した。言いかえれば、全体の基材は、例1に記載した第1の基材エレメントと実質的に同一の組成、形状及び直径を有する。
【0095】
ダイヤモンド粒の非結合の凝集物から形成された第1のダイヤモンド層を、基材の木口面上に堆積し、また、ダイヤモンド粒の非結合の凝集物から形成された第2のダイヤモンド層は、第1の層の上に堆積し非結合の集合体を形成した。第1のダイヤモンド層は約0.5ミリメートルの平均厚さを有し、また、第2のダイヤモンド層は約2.5ミリメートルの平均厚を有し、第1のダイヤモンド層は、基材と第2のダイヤモンド層の間にはさまれていた。第1のダイヤモンド層のダイヤモンド粒は細粒の2モード分布を有し、第2のダイヤモンド層のダイヤモンド粒は超細粒分布を有していた。第2のダイヤモンド層のダイヤモンド粒を、凝集物の5重量パーセントを構成するコバルトで被覆し、水素で表面を終端させるために、水素に豊む雰囲気中で850℃で熱処理にかけた。
【0096】
非結合の集合体を、当業界で知られている、超高圧炉のカプセル内に装入した。カプセルは、約5.5GPaの圧力及び約1,400℃の温度に約5分間さらした。焼結後、PCD複合物成形体を通常の方法で処理して、約15.9ミリメートルの直径を有するインサート、及び約2.2ミリメートルの範囲の厚さを有するPCD構造体を形成した。
【0097】
インサートは走査電子顕微鏡法(SEM)を使用して分析した。特に注目すべきは、PCDと基材の間の界面に隣接するコバルト結合剤の識別可能なプールが存在しないことである。試料は、基材の焼結炭化物とPCDの間で急激な推移を示した。さらに、公知のインサートに起こるように、過剰なダイヤモンド又はWC粒は、実質的に界面近傍のPCD層内で観察されなかった。
【0098】
(例6)
カプセルを約6.8GPaの圧力及び約1,500℃の温度に約5分間さらした以外は、例2と同様である。
【0099】
強化した超硬材料、製造法及びそれらの各種用途の前述の説明は、多くの詳細を含んでいるが、これらは、本発明の範囲を限定するものではなく単にいくつかの例示の実施形態の例証の提供として解釈されるべきである。同様に、本発明の趣旨又は範囲から外れない、本発明の他の実施形態を考案することができる。本発明の範囲は、したがって、前述の説明によってではなく、添付された特許請求の範囲及びその法的等価物によってのみ示され限定される。請求項の意味及び範囲内にある、本発明に対するすべての追加、削除及び修正は、本明細書に開示された通り、包含されるべきものである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結炭化物基材に界面で完全に結合した多結晶ダイヤモンド(PCD)構造体と、平均サイズ約15ミクロン以下を有するコヒーレントに結合したダイヤモンド粒を含むPCD構造体と、金属結合剤中に分散した金属の炭化物化合物を含む炭化物粒子を含む焼結炭化物基材とを含み、基材中の複数の位置での金属結合剤の量と金属の量との比が、平均値の最大約20パーセントで平均値から逸脱する、PCD複合物成形体エレメント。
【請求項2】
炭化物粒子の金属が、W、Ti、Ta及びCrからなる群から選択される耐火金属である、請求項1に記載のPCD複合物成形体エレメント。
【請求項3】
基材が界面から少なくとも1mmの深部に延在する表面領域を有し、その領域がその内に分散したダイヤモンド粒子を含む、請求項1及び2のいずれか一項に記載のPCD複合物成形体エレメント。
【請求項4】
PCD構造体が、第1及び第2の領域を含み、第1の領域のダイヤモンド粒の平均サイズが第2の領域のダイヤモンド粒の平均サイズより大きく、第1の領域は基材の近傍であり、第2の領域は基材から離れている、請求項1から3までのいずれか一項に記載のPCD複合物成形体エレメント。
【請求項5】
PCD構造体中の複数の位置での金属結合剤の量と炭素の量との比が、界面からPCD構造体への少なくとも0.5mmの深部にかけて、平均値の最大20パーセント、平均値から逸脱する、請求項1から4までのいずれか一項に記載のPCD複合物成形体エレメント。
【請求項6】
焼結炭化物から形成された基材に完全に結合した多結晶ダイヤモンド(PCD)構造体を含む多結晶ダイヤモンド複合物(PDC)成形体エレメントを作製する方法であって、基材の結合面で又はその近傍で、過剰炭素の供給源を基材に導入して、炭素と化合した基材又は炭素と化合した基材集合体を形成すること;結合面と隣接して又はその近傍で、ダイヤモンド粒の凝集物を炭素と化合した基材又は炭素と化合した基材集合体と接触させて、非結合の集合体を形成すること;及び、ダイヤモンドの溶媒/触媒物質の存在下で、ダイヤモンドがPCDを形成するのに熱力学的に安定な温度及び圧力でダイヤモンド粒を焼結させることを含み、凝集物中のダイヤモンド粒の平均サイズが約30ミクロン以下である方法。
【請求項7】
基材の結合面で又はその近傍で、過剰炭素の少なくとも0.1重量パーセントの供給源を基材に導入することを含み、重量パーセントが、炭素が導入される領域内の全基材物質に対して表現される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
多重モードの粒度分布を有するダイヤモンド粒から凝集物を形成することを含む、請求項6及び7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
過剰炭素の供給源がカーボンブラック粉末又は黒鉛の形態である、請求項6から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
基材の結合面で又はその近傍で、ダイヤモンドを基材に導入すること、及び少なくとも一部のダイヤモンドを黒鉛に変換することを含み、過剰炭素の供給源として役立つ、請求項6から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
粒子又は顆粒の形態の過剰炭素の供給源を焼結炭化物用の原料と混ぜ合わせること、その混合物を実質的に独立してグリーン体に形成すること、及びダイヤモンドが熱力学的に安定でない圧力でそのグリーン体を焼結させることを含む、請求項6から10までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ダイヤモンド粒を焼結炭化物用の原料と混ぜ合わせること、この混合物を実質的に独立してグリーン体に形成すること、そのグリーン体を少なくとも500℃の温度、及びダイヤモンドが熱力学的に安定でない圧力にさらすことを含む、請求項6から11までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
炭化タングステン、炭化タンタル、炭化ニオブ及び炭化バナジウムからなる群から選択される耐火金属炭化物粒子をダイヤモンド粒の凝集物中に導入すること、及び/又は金属炭化物の耐火金属前駆体をダイヤモンド粒の凝集物中に導入することを含み、耐火金属は非炭化物化合物又は元素の形態のタングステン、タンタル、ニオブ及びバナジウムからなる群から選択される、請求項6から12までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から5までのいずれか一項に記載のPCD複合物成形体エレメントを含むドリルビット用のPCDカッターインサート。
【請求項15】
請求項14に記載のPCDカッターインサートを含む地面への穿孔のためのドリルビット。
【請求項1】
焼結炭化物基材に界面で完全に結合した多結晶ダイヤモンド(PCD)構造体と、平均サイズ約15ミクロン以下を有するコヒーレントに結合したダイヤモンド粒を含むPCD構造体と、金属結合剤中に分散した金属の炭化物化合物を含む炭化物粒子を含む焼結炭化物基材とを含み、基材中の複数の位置での金属結合剤の量と金属の量との比が、平均値の最大約20パーセントで平均値から逸脱する、PCD複合物成形体エレメント。
【請求項2】
炭化物粒子の金属が、W、Ti、Ta及びCrからなる群から選択される耐火金属である、請求項1に記載のPCD複合物成形体エレメント。
【請求項3】
基材が界面から少なくとも1mmの深部に延在する表面領域を有し、その領域がその内に分散したダイヤモンド粒子を含む、請求項1及び2のいずれか一項に記載のPCD複合物成形体エレメント。
【請求項4】
PCD構造体が、第1及び第2の領域を含み、第1の領域のダイヤモンド粒の平均サイズが第2の領域のダイヤモンド粒の平均サイズより大きく、第1の領域は基材の近傍であり、第2の領域は基材から離れている、請求項1から3までのいずれか一項に記載のPCD複合物成形体エレメント。
【請求項5】
PCD構造体中の複数の位置での金属結合剤の量と炭素の量との比が、界面からPCD構造体への少なくとも0.5mmの深部にかけて、平均値の最大20パーセント、平均値から逸脱する、請求項1から4までのいずれか一項に記載のPCD複合物成形体エレメント。
【請求項6】
焼結炭化物から形成された基材に完全に結合した多結晶ダイヤモンド(PCD)構造体を含む多結晶ダイヤモンド複合物(PDC)成形体エレメントを作製する方法であって、基材の結合面で又はその近傍で、過剰炭素の供給源を基材に導入して、炭素と化合した基材又は炭素と化合した基材集合体を形成すること;結合面と隣接して又はその近傍で、ダイヤモンド粒の凝集物を炭素と化合した基材又は炭素と化合した基材集合体と接触させて、非結合の集合体を形成すること;及び、ダイヤモンドの溶媒/触媒物質の存在下で、ダイヤモンドがPCDを形成するのに熱力学的に安定な温度及び圧力でダイヤモンド粒を焼結させることを含み、凝集物中のダイヤモンド粒の平均サイズが約30ミクロン以下である方法。
【請求項7】
基材の結合面で又はその近傍で、過剰炭素の少なくとも0.1重量パーセントの供給源を基材に導入することを含み、重量パーセントが、炭素が導入される領域内の全基材物質に対して表現される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
多重モードの粒度分布を有するダイヤモンド粒から凝集物を形成することを含む、請求項6及び7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
過剰炭素の供給源がカーボンブラック粉末又は黒鉛の形態である、請求項6から8までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
基材の結合面で又はその近傍で、ダイヤモンドを基材に導入すること、及び少なくとも一部のダイヤモンドを黒鉛に変換することを含み、過剰炭素の供給源として役立つ、請求項6から9までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
粒子又は顆粒の形態の過剰炭素の供給源を焼結炭化物用の原料と混ぜ合わせること、その混合物を実質的に独立してグリーン体に形成すること、及びダイヤモンドが熱力学的に安定でない圧力でそのグリーン体を焼結させることを含む、請求項6から10までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ダイヤモンド粒を焼結炭化物用の原料と混ぜ合わせること、この混合物を実質的に独立してグリーン体に形成すること、そのグリーン体を少なくとも500℃の温度、及びダイヤモンドが熱力学的に安定でない圧力にさらすことを含む、請求項6から11までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
炭化タングステン、炭化タンタル、炭化ニオブ及び炭化バナジウムからなる群から選択される耐火金属炭化物粒子をダイヤモンド粒の凝集物中に導入すること、及び/又は金属炭化物の耐火金属前駆体をダイヤモンド粒の凝集物中に導入することを含み、耐火金属は非炭化物化合物又は元素の形態のタングステン、タンタル、ニオブ及びバナジウムからなる群から選択される、請求項6から12までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項1から5までのいずれか一項に記載のPCD複合物成形体エレメントを含むドリルビット用のPCDカッターインサート。
【請求項15】
請求項14に記載のPCDカッターインサートを含む地面への穿孔のためのドリルビット。
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図13】
【図1】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図13】
【図1】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2012−506493(P2012−506493A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532757(P2011−532757)
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【国際出願番号】PCT/IB2009/054645
【国際公開番号】WO2010/046860
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(507142155)エレメント シックス (プロダクション)(プロプライエタリィ) リミテッド (44)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月21日(2009.10.21)
【国際出願番号】PCT/IB2009/054645
【国際公開番号】WO2010/046860
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(507142155)エレメント シックス (プロダクション)(プロプライエタリィ) リミテッド (44)
【Fターム(参考)】
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