説明

多能性幹細胞

本発明は、成体細胞から多能性幹細胞を作製する方法を提供する。特に本発明は、フィーダー細胞層又はレトロウイルストランスフェクション効率を増大させる剤を使用せずに、体細胞から多能性幹細胞を作製する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成体細胞から多能性幹細胞を作製する方法を提供する。特に本発明は、フィーダー細胞層又はレトロウイルストランスフェクション効率を増大させる剤を使用せずに、体細胞から多能性幹細胞を作製する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
I型糖尿病の細胞置換療法の進歩及び移植可能なランゲルハンス島の不足により、生着に適したインスリン産生細胞すなわちβ細胞の供給源の開発に注目が集まっている。1つのアプローチは、例えば、胚性幹細胞、又は成体細胞から作製される多能性幹細胞などの多能性幹細胞から機能性β細胞を作製することである。
【0003】
成体細胞から作製される多能性幹細胞、又は「人工多能性幹細胞」、又は「IPS細胞」は、特定の遺伝子の「強制された」発現を誘導することにより例えば成体体細胞などの非多能性細胞から人工的に誘導された多能性幹細胞のタイプである。人工多能性幹細胞は、ある体細胞遺伝子及びタンパク質の発現、クロマチンメチル化パターン、倍加時間、胚様体形成、奇形腫形成、生存可能なキメラ形成、並びに作用強度及び分化能などの多くの点で胚性幹細胞などの天然多能性幹細胞と同一であると考えられる。
【0004】
1つの例では、Takahashiらは、「我々は、4つの因子、Oct3/4、Sox2、c−Myc、及びKlf4をES細胞培養条件下で導入することにより、マウス胚性又は成体線維芽細胞からの多能性幹細胞の誘導を実証する」と言明している(Cell 126:663〜676,2006)。
【0005】
別の例では、Liらは、「我々は、奇形腫を生じさせ、広くキメララットに寄与することができる、ラットiPSC(riPSC)を生じさせ、維持する、複合遺伝的リプログラミング及び化学的条件を明らかにする。同一の戦略は、また、mESCのそれと類似のコロニー形態及び自己再生条件/シグナル応答を呈する、非定型ヒトiPSC(hiPSC)を生じさせるのに充分である」と言明している。(Cell Stem Cell 4:16〜19,2009)。
【0006】
別の例では、Maheraliらは、「4つの転写因子Oct4、Sox2、c−Myc、及びKlf4の異所性発現が線維芽細胞ゲノムへの多能性状態の付与に充分であり、人工多能性幹(iPS)細胞を生じさせる。これらの4つの因子により誘導された核リプログラミングが、分化細胞と多能性細胞との間の遺伝外の差異を全体的にリセットするかどうかは未知のままである。ここで、我々は、新規な選択アプローチを用いて、線維芽細胞からiPS細胞を生じさせて、その遺伝子外の状態のキャラクタリゼーションを行った。女性のiPS細胞は、体細胞で沈黙させられたX染色体の再活性化を示し、分化時にランダムなX不活性化を受けた。2つのキーとなるヒストン修飾物の全ゲノムでの解析は、iPS細胞がES細胞に高度に類似しているということを示した。これらの観察と軌を一にして、iPS細胞は、生殖細胞系列への寄与と共に生存可能な高度なキメラを生じた。これらのデータは、転写因子誘導リプログラミングが体細胞型エピゲノムのES様状態への全面的な復帰を起こさせるということを示す」と言明している(Cell Stem Cell 1:55〜70,2007)。
【0007】
別の例では、Stadtfeldらは、「我々は、ドキシサイクリン誘導可能なレンチウイルス系を生じさせて、4つのリプログラミング因子、c−Myc、Klf4、Oct4、及びSox2を線維芽細胞中に一時的に発現させた」と言明している(Cell Stem Cell 2:230〜240)。
【0008】
別の例では、Nakagawaらは、「我々は、Mycレトロウイルスを必要としないiPS細胞の作製に対する改変されたプロトコルを記述する。このプロトコルによって、我々は著しく少数の非iPSバックグラウンドの細胞を入手し、作製されたiPS細胞は常に高品質のものであった。Myc−iPS細胞から作製されたマウスは、試験期間には腫瘍を発現しなかった。このプロトコルは、薬物を選択せずにiPS細胞を効率的に単離することも可能にした。更には、我々は、MYC無しで成体真皮線維芽細胞からヒトiPS細胞を生じさせた」と言明している(Nature Biotechnology 26:101〜106,2008)。
【0009】
別の例では、Takahashiらは、「我々は、同一の4つの因子:Oct3/4、Sox2、Klf4、及びc−Mycにより成体ヒト真皮線維芽細胞からのiPS細胞の作製を実証する」と言明している(Cell 131:861〜872,2007)。
【0010】
別の例では、Okitaらは、「我々は、多能性幹細胞が、Oct3/4(Pou5f1とも呼ばれる)、Sox2、c−Myc及びKlf4のレトロウイルス導入、及びそれに続く、Fbx15(Fbxo15とも呼ばれる)発現に対する選択によりマウス線維芽細胞から誘導可能であるということを以前に示した。これらの人工多能性幹(iPS)細胞(以降、Fbx15 iPS細胞と呼ぶ)は、形態、増殖及び奇形腫形成において胚性幹(ES)細胞に類似している;しかしながら、これらは、遺伝子発現及びDNAメチル化パターンに関して異なり、成体キメラを生じることができない。ここでは、我々は、Nanog発現に対する選択が、Fbx15 iPS細胞と比較して増加したES−細胞様遺伝子発現及びDNAメチル化パターンの生殖細胞系iPS細胞を生じるということを示す」と言明している(Nature 448:313〜317,2007)。
【0011】
別の例では、Wernigらは、「線維芽細胞が、Oct4、Sox2、及びKlf4によりc−Mycの不存在において多能性状態にリプログラミング可能である」と言明している(Cell Stem Cell 2:10〜12,2008)。
【0012】
別の例では、Parkらは、「我々は、健康な研究用被験者の皮膚生検から単離される真皮線維芽細胞を含む、胎児、新生児及び成体のヒト一次細胞からiPS細胞を作製した」と言明している(Nature 451:141〜146,2008)。
【0013】
別の例では、Yuらは、「我々は、4つの因子(OCT4、SOX2、NANOG、及びLIN28)が、ヒト体細胞の胚性幹(ES)細胞の本質的な特性を呈する多能性幹細胞へのリプログラミングに充分であるということ示す」と言明している(Science 318:1917〜1920,2007)。
【0014】
しかしながら、この見込みは、一部、体細胞から誘導された多能性幹細胞を多能性状態で日常的に誘導すること、継代すること、及び維持することが困難であることにより未だ充分に試されていない。体細胞から誘導された多能性幹細胞の安定的及び恒常的な長期間培養に対する1つの特徴的な制限は、多能性幹細胞を細胞のフィーダー層上で作製するという要求である。フィーダー細胞、通常、有糸分裂的に不活性な線維芽細胞は、体細胞から誘導された多能性幹細胞の接着、生長及び継代を支持する、不完全に定義された培養成分の源を提供する。しかしながら、フィーダー細胞に固有な変動により、フィーダー層培養は、培養条件の標準化に、また、体細胞から誘導された多能性幹細胞の直接分化にも障害をもたらす。結果として、体細胞から誘導された多能性幹細胞は、特性付け及び制御を充分に行った培養及び分化を行うために、通常、細胞外マトリックスタンパク質から構成される吸着層上でのフィーダーをベースとする培養から、フィーダーを含まない培養へと変更される。残念ながら、体細胞から誘導された多能性幹細胞を、フィーダー細胞上の培養からフィーダーを含まない系へと変更する方法は、細胞にストレスを加え、自発的な分化及び/又は核型の不安定性を生じる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
それゆえ、品質的に充分であり、増産して、現行の臨床的なニーズに対応することができる、人工多能性幹細胞を作製する顕著な必要性がなお存在する。本発明は、多能性幹細胞がフィーダー細胞層を使用せずに体細胞から形成される、人工多能性幹細胞を作製する代替的なアプローチを利用する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
1つの実施形態では、本発明は、フィーダー細胞層又はウイルストランスフェクションの効率を増加させる剤を使用せずに体細胞から多能性幹細胞を作製する方法を提供する。
【0017】
別の実施形態では、本発明は、フィーダー細胞層又はウイルストランスフェクションの効率を増加させる剤を必要としない方法を用いる羊水由来細胞に由来する多能性幹細胞の集団を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】ヒト胚性幹細胞株H1及びCRL2522細胞株から誘導された多能性幹細胞の細胞中の多能性に関連する遺伝子の発現を示す。
【図2】多能性幹細胞コロニーの形態を示す。パネルA及びBは、羊水由来細胞から誘導された多能性幹細胞コロニーの代表的な顕微鏡写真を示す。パネルC及びDは、5回の継代後羊水由来細胞(AFD1)から誘導された多能性幹細胞を示す。パネルEは、非形質導入の羊水由来細胞を示す。
【図3】羊水由来細胞から得られる多能性幹細胞における多能性に関連する遺伝子の発現を示す。
【図4】表示の継代回数においてフローサイトメトリーにより検出される、羊水由来細胞(AFD1)から誘導された多能性幹細胞中の多能性に関連する遺伝子の発現を示す。
【図5】継代5において免疫蛍光法により検出される、羊水由来細胞(AFD1)から誘導された多能性幹細胞中の多能性に関連する遺伝子の発現を示す。
【図6】CRL2522細胞株から誘導された様々な多能性幹細胞中の多能性に関連する遺伝子の発現を示す。
【図7】羊水由来細胞から誘導された多能性幹細胞の2つの集団における胚体内胚葉系に特徴的なマーカーの発現を示す。
【図8】CRL2522細胞株から誘導された多能性幹細胞の集団中の胚体内胚葉系に特徴的なマーカーの発現を示す。
【図9】羊水由来細胞から誘導された多能性幹細胞の集団における膵臓内分泌系に特徴的なマーカーの発現を示す。
【図10】羊水由来細胞、CRL2522細胞及びヒト胚性幹細胞株H1の細胞から誘導された多能性幹細胞を用いて形成される胚様体を示す。様々な胚様体の遺伝子発現プロフィールの比較も示される。
【図11】羊水由来細胞から誘導された多能性幹細胞の生長及びフィーダー細胞層及び吸着層を欠いた表面への結合を示す。
【図12】フィーダー細胞層及び吸着層を欠いた表面上で培養された、羊水由来細胞から誘導された多能性幹細胞中の多能性に関連する遺伝子の発現を示す。
【図13】フィーダー細胞層及び吸着層を欠いた表面上で培養された、羊水由来細胞から誘導された多能性幹細胞の集団における胚体内胚葉系に特徴的なマーカーの発現を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
開示を明確にするため、及び限定ではなく、本発明の「発明を実施するための形態」を、本発明の特定の特徴、実施形態又は応用を説明若しくは図示した以下の小項目に分ける。
【0020】
定義
幹細胞は、単一の細胞レベルにおいて自己再生及び分化して、自己再生前駆細胞、非再生前駆細胞、及び最終分化細胞を含む、後代細胞を生成する、能力で定義される未分化細胞である。幹細胞は、複数の胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)から様々な細胞系の機能的細胞へとin vitroで分化する能力、並びに移植後に複数の胚葉の組織を生じ、及び胚盤胞への注入後、全部ではないとしても大部分の組織に実質的に寄与する能力によっても特徴付けられる。
【0021】
幹細胞は、発生上の潜在性によって、(1)すべての胚性細胞及び胚体外細胞のタイプを生ずる能力を有することを意味する、分化全能性、(2)すべての胚性細胞のタイプを生ずる能力を有することを意味する、多能性、(3)細胞系のサブセットであるが、すべて特定の組織、臓器、又は生理学的システム内のサブセットを生ずる能力を有することを意味する、分化多能性(例えば、造血幹細胞(HSC)は、HSC(自己再生性)、血球限定的寡能性前駆細胞、及び血液の通常の成分であるすべての細胞種及び要素(例えば、血小板)を含む子孫を生じ得る)、(4)分化多能性幹細胞よりも限定された細胞系のサブセットを生ずる能力を有することを意味する、分化寡能性、及び(5)単一の細胞系(例えば、精原幹細胞)を生ずる能力を有することを意味する、分化単能性に分類される。
【0022】
分化は、非特殊化(「未確定」)又は低特殊化細胞が、例えば、神経細胞又は筋細胞などの特殊化細胞の特徴を獲得するプロセスである。分化細胞又は分化を誘導された細胞は、細胞系内でより特殊化した(「確定した」)状況を呈している細胞である。分化プロセスに適用された際の用語「確定した」は、通常の環境下で特定の細胞型又は細胞型の小集合への分化を続け、かつ通常の環境下で異なる細胞型に分化したり、又は低分化細胞型に戻ることができない地点まで、分化経路において進行した細胞を指す。脱分化は、細胞が細胞系内で低特殊化(又は確定)した状況に戻るプロセスを指す。本明細書で使用するとき、細胞系は、細胞の遺伝、すなわちその細胞がどの細胞から来たか、またどの細胞を生じ得るかを規定する。細胞系は、細胞を発生及び分化の遺伝的スキーム内に配置する。系特異的なマーカーは、対象とする系の細胞の表現型に特異的に関連した特徴を指し、未確定の細胞の対象とする系への分化を評価する際に使用可能である。
【0023】
本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞」、又は「ステージ1細胞」、又は「ステージ1」は、以下のマーカー、すなわち、SOX17、GATA4、HNF−3 β、GSC、CER1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix様ホメオボックスタンパク質、FGF4 CD48、エオメソデルミン(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA6、CXCR4、C−Kit、CD99又はOTX2のうちの少なくとも1つを発現している細胞を指す。胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞には、原始線条前駆体細胞、原始線条細胞、中内胚葉細胞及び胚体内胚葉細胞が挙げられる。
【0024】
本明細書で使用するとき、「膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞」は、以下のマーカー、すなわち、PDX1、HNF1 β、PTF1 α、HNF6、NKX6.1、又はHB9のうちの少なくとも1つを発現している細胞を指す。膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞には、膵臓内胚葉細胞、原腸管細胞、後部前腸細胞が挙げられる。
【0025】
本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉」は、原腸形成中、胚盤葉上層から生じ、胃腸管及びその誘導体を形成する細胞の特徴を保持する細胞を指す。胚体内胚葉細胞は、HNF3 β、GATA4、SOX17、ケルベロス、OTX2、グースコイド、C−Kit、CD99、及びMIXL1のマーカーを発現する。
【0026】
本明細書で使用するとき、「マーカー」は、対象とする細胞で差異的に発現される核酸又はポリペプチド分子である。この文脈において、差次的な発現は、陽性マーカーの発現レベルの上昇、及び陰性マーカーのレベルの減少を意味する。マーカー核酸又はポリペプチドの検出可能なレベルは、他の細胞と比較して対象とする細胞内で充分高いか又は低く、そのため当該技術分野において既知の多様な方法のいずれかを使用して、対象とする細胞を他の細胞から識別及び区別することができる。
【0027】
本明細書で使用するとき、「膵臓内分泌細胞」又は「膵臓ホルモン発現細胞」とは、以下のホルモン:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドのうちの少なくとも1つを発現することが可能な細胞を指す。
【0028】
本発明の人工多能性幹細胞の作製
1つの実施形態では、本発明の多能性幹細胞は、SOX2、OCT4、LIN28及びNANOGからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子を導入することによりフィーダー細胞層を使用せずに体細胞から誘導される。少なくとも1つの遺伝子を、例えば、核酸トランスフェクション、ウイルス形質導入、又は少なくとも1つの遺伝子によりコードされたタンパク質の直接導入などの任意の好適な手段により体細胞の中に導入してもよい。
【0029】
少なくとも1つの遺伝子をウイルス形質導入により導入する場合には、レトロウイルスを用いて体細胞を形質導入してもよい。体細胞の中に少なくとも1つの遺伝子を導入することができるいかなるレトロウイルスも本発明での使用に好適である。1つの実施形態では、このレトロウイルスはレンチウイルスである。
【0030】
別の実施形態では、体細胞がウイルスを用いて形質導入されてもよい。体細胞の中に少なくとも1つの遺伝子を導入することができるいかなるウイルスも本発明での使用に好適である。例えば、本発明の方法で使用されるウイルスは、アデノウイルスであってもよい。あるいは、本発明の方法で使用されるウイルスは、バキュロウイルスであってもよい。
【0031】
ウイルス又はレトロウイルストランスフェクションの効率を増加させる剤は、体細胞の細胞膜上のウイルス粒子とシアル酸との間の電荷反発を中和することにより作用する。このような剤としては、例えばポリブレンが挙げられる。
【0032】
1つの実施形態では、多能性幹細胞は、フィーダー細胞層又はレトロウイルストランスフェクションの効率を増加させる剤を使用せずに体細胞から誘導され、
a.組織培養基質上に体細胞をプレーティングする工程、
b.プレーティングされた体細胞を、SOX2、OCT4、LIN28及びNANOGからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子をコードする核酸を含有する少なくとも1つのレトロウイルスにより形質導入する工程、
c.形質導入された細胞を3日間培養し、次いで形質導入された細胞を細胞外マトリックスタンパク質で被覆した組織培養プレート上に移し、移した細胞を、Rhoキナーゼ活性阻害する剤及びbFGFをサプリメントとした培地中で1週間培養する工程、並びに
d.培養した細胞を細胞外マトリックスタンパク質で被覆した組織培養プレート上に継代し、bFGFをサプリメントとした馴化培地中で継代した細胞を培養する工程が含まれる。
【0033】
少なくとも1つのレトロウイルスは、少なくとも1つの遺伝子の1つ、又は1つ以上をコードする核酸を含有してもよい。1つの実施形態では、体細胞は、少なくとも1つの遺伝子を単独でコードする核酸を含有するレトロウイルスを用いて形質導入される。
【0034】
1つの実施形態では、馴化培地は、マウス胚性線維芽細胞を用いて馴化される。
【0035】
1つの実施形態では、プレーティングされた体細胞は、SOX2、OCT4、LIN28及びNANOGからなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子をコードする核酸を含有するレンチウイルスにより形質導入される。別の実施形態では、プレーティングされた体細胞は、SOX2、OCT4、LIN28及びNANOGをコードする核酸を含有する、レンチウイルスにより形質導入される。別の実施形態では、プレーティングされた体細胞は、SOX2、OCT4、LIN28及びNANOGを単独でコードする核酸を含有する少なくとも1つのレンチウイルスにより形質導入される。
【0036】
1つの実施形態では、Rhoキナーゼ活性を阻害する剤は、Y−27632、ファスジル、(S)−(+)−4−グリシル−2−メチル−1−[(4−メチル−5−イソキノリニル)スルホニル]−ヘキサヒドロ−1H−1,4−ジアゼピンジヒドロクロリド(本明細書ではH1152−グリシルと呼ぶ)及びヒドロキシファスジルからなる群から選択される。
【0037】
細胞外マトリックスは、例えばフィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、コラーゲン、ゼラチン、トロンボスポンジンなどであってもよい。1つの実施形態では、細胞外マトリクスはMATRIGELである。
【0038】
1つの実施形態では、体細胞は、LifeScan,Incに譲渡された、米国特許出願第11/420,895号に開示されている、羊水由来細胞であってもよい。
【0039】
別の実施形態では、体細胞は、国際公開第2003/042405号に開示されている、羊水由来細胞であってもよい。
【0040】
別の実施形態では、体細胞は、米国特許出願公開第2005/0054093号に開示されている、羊水由来細胞であってもよい。
【0041】
別の実施形態では、体細胞は、Int’Ankeretal,Blood 102:1548〜1549,2003に開示されている、羊水由来細胞であってもよい。
【0042】
別の実施形態では、体細胞は、Tsaiら、Human Reproduction 19,1450〜1456,2004に開示されている、羊水由来細胞であってもよい。
【0043】
別の実施形態では、体細胞は、LifeScan,Incに譲渡された、米国特許出願第11/762,714号に開示されている、漿膜絨毛由来細胞であってもよい。
【0044】
別の実施形態では、体細胞は、Chang & Jones、Prenatal Diagnosis 8:367〜378,1988に開示されている、漿膜絨毛由来細胞であってもよい。
【0045】
別の実施形態では、体細胞は、Rong−Haoetal、Human Reproduction 11:1328〜1333,1996に開示されている、漿膜絨毛由来細胞であってもよい。
【0046】
別の実施形態では,体細胞は、WO2003/042405に開示されている、漿膜絨毛由来細胞であってもよい。
【0047】
別の実施形態では、体細胞は、LifeScan,Incに譲渡された、国際公開第2006/094286号に開示されている、膵臓由来細胞であってもよい。
【0048】
別の実施形態では、多能性幹細胞は、LifeScan,Incに譲渡された、米国特許出願第12/108,872号に開示されている細胞から形成されてもよい。
【0049】
体細胞からの多能性幹細胞の生成を支持するのに好適ないかなる培養培地も本発明の方法で使用されてもよい。しかしながら、他のタイプの細胞が培地で培養されることから利益をもたらし得、本発明の組成物が制限なしでこのような目的に使用されてもよいということは認識されている。
【0050】
本発明の1つの態様では、馴化培地は次の方法により作製され、この方法は本質的に、
a.馴化因子を供給する細胞を培養すること、
b.基本培地を細胞に添加すること、
c.培地を馴化するのに充分な時間にわたって基本培地を細胞に曝露すること、及び
d.馴化培地を取り出すことを含む。
【0051】
本発明の1つの態様では、馴化培地は次の方法により作製され、この方法は本質的に、
a.馴化因子を供給する細胞を培養すること、
b.細胞を不活性化すること、
c.馴化因子を供給する細胞を再プレーティングすること、
d.基本培地を細胞に添加すること、
e.培地を馴化するのに充分な時間にわたって基本培地を細胞に曝露すること、
f.馴化培地を取り出すこと、及び
g.馴化培地を取り出すことを含む。
【0052】
「基本培地」は、本明細書で使用されるとき、培養において非多能性細胞の生長を支持するのに効果的である塩及び栄養物の溶液を指す。
【0053】
「馴化培地」は、本明細書で使用されるとき、フィーダー細胞に由来する可溶性因子を更にサプリメントした基本培地を指す。
【0054】
「フィーダー細胞」は、本明細書で使用されるとき、多能性幹細胞をプレーティングした非多能性幹細胞を指す。非多能性幹細胞は、プレーティングした多能性幹細胞の生長を促す環境を提供する。
【0055】
馴化に使用される基本培地は、いくつかの異なる配合物のいずれでも有することができる。培地は、培地の馴化に使用される少なくとも細胞株の繁殖を支持することができなければならない。この培地がまた、馴化後の多能性幹細胞の細胞株の繁殖も支持するということが好都合である。しかしながら、代替策としては、培地は、他の因子によりサプリメント可能であるか、さもなければ培地を馴化した後に多能性幹細胞の繁殖に適合させるように処理可能である。
【0056】
フィーダーを含まない培養において多能性幹細胞を繁殖するのに好適な培地は、以下の成分、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Gibco # 11965−092;ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地(KO DMEM)、Gibco # 10829−018;ハムF12/50%のDMEM基礎培地;200mMのL−グルタミン、Gibco # 15039−027;非必須アミノ酸溶液、Gibco 11140−050;β−メルカプトエタノール、Sigma # 7522;ヒト組み換え塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、Gibco # 13256−029などから調製可能である。
【0057】
基本培地は、細胞による多能性幹細胞の繁殖成分の培地の中への放出が可能な環境中で培地の馴化に使用される細胞と一体化される。場合により、培地の馴化に使用される細胞を、例えば放射線、例えばミトマイシンcなどの化学的な不活性化剤による処理により、又は任意の他の有効な方法により不活性化(すなわち、実質的な複製の不能化)させることができる。多能性幹細胞培養の支持で使用する前に培地を馴化細胞から分離する場合には、細胞の不活性化は必要でない。
【0058】
培地の馴化に使用される細胞を、放出される因子の濃度(又は培地成分の消費)を適切にすることにより多能性幹細胞の繁茂の支持培地の無分化での作製を可能させる、充分な時間培地中で培養させる。典型的には、37℃で24時間培養することにより馴化される培地は、多能性幹細胞の培養を24時間支持する培地を生じる。しかしながら、培養期間は上方又は下方に調整可能であり、何が適切な期間を構成するかは経験的に(又は必須の因子の濃度を検定することにより)決定される。あるバッチの馴化培地を集めた後、この細胞を使用して、更なる培養期間にわたって、細胞が培地を適切な方法で馴化する能力を保持する限り、所望の回数のサイクルの間、更なるバッチの培地を馴化することができる。
【0059】
本発明の人工多能性幹細胞の増殖及び培養
多能性幹細胞は、ステージ特異的胚抗原(SSEA)3及び4、並びにTra−1−60及びTra−1−81と呼ばれる抗体によって検出可能なマーカーのうちの1つ以上を発現している(Thomsonら,Science 282:1145,1998)。多能性幹細胞をin vitroで分化させると、SSEA−4、Tra−1−60、及びTra−1−81(存在する場合)の発現が減少し、SSEA−1の発現が上昇する。未分化の多能性幹細胞は通常アルカリホスファターゼ活性を有し、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した後、製造業者(Vector Laboratories,Burlingame Calif.)の説明書に従ってVector Redを基質として発生させることによって検出可能である。未分化の多能性幹細胞は、OCT4及びTERTも通常発現し、RT−PCRにより検出される。
【0060】
増殖させた多能性幹細胞の別の望ましい表現型は、内胚葉、中胚葉、及び外胚葉組織の全3胚葉の細胞に分化する潜在性である。多能性幹細胞の多能性は、例えば、細胞を重症複合免疫不全症(SCID)マウスに注入し、形成される奇形腫を4%パラホルムアルデヒドで固定し、次いでこれを3つの胚細胞層由来の細胞種の根拠について組織学的に調べることによって確認することができる。あるいは、胚様体を形成させ、この胚様体を3つの胚葉に関連したマーカーの存在に関して評価することにより、多能性を決定してもよい。
【0061】
増殖した多能性幹細胞株を、標準的なGバンド法を使用して核型決定し、確立された対応する霊長類種の核型と比較してもよい。細胞が正倍数体であり、全ヒト染色体が存在し、かつ著しく変更されてはいないことを意味する、「正常な核型」を有する細胞を獲得することが望ましい。
【0062】
本発明の方法により形成される多能性幹細胞の培養
一実施形態では、本発明の方法により形成される多能性幹細胞は、多能性幹細胞を支持するフィーダー細胞の層上で様々な方法で培養される。あるいは、本発明の方法により形成される多能性幹細胞は、フィーダー細胞を本質的に含まないが、それにもかかわらず実質な分化を行わずに、多能性幹細胞の増殖を支持する培養系中で培養される。フィーダーを含まない培養において本発明の方法により無分化で形成される多能性幹細胞の生長は、別の細胞型と共に以前に培養することにより馴化培地中で支持される。あるいは、フィーダーを含まない培養において本発明の方法により無分化で形成される多能性幹細胞の生長は、化学的に定義された培地を用いて支持される。
【0063】
例えば、Reubinoffら(Nature Biotechnology 18:399〜404(2000))及びThompsonら(Science 6 November 1998:Vol.282.no.5391,pp.1145〜1147)は、マウス胚性線維芽細胞フィーダー細胞層を用いるヒト胚盤胞からの多能性幹細胞株の培養を開示している。
【0064】
Richardsら(Stem Cells 21:546〜556,2003)は、11種類の異なるヒト成人、胎児、及び新生児フィーダー細胞層についてヒト多能性幹細胞の培養を支持する能力の評価を行った。Richardsらは、「成人の皮膚線維芽フィーダー細胞上で培養したヒト胚性幹細胞系は、ヒト胚性幹細胞の形態を有し、多能性を維持する」と言明している。
【0065】
米国特許出願公開第20020072117号は、フィーダーを含まない培養において霊長類の多能性幹細胞の増殖を支持する培地を生成する細胞系を開示している。使用される細胞系は、胚性組織から得られるか又は胚性幹細胞から分化された間葉系かつ線維芽細胞様の細胞系である。米国特許出願公開第20020072117号は、また、この細胞系の1次フィーダー細胞層としての使用も開示している。
【0066】
別の例で、Wangら(Stem Cells 23:1221〜1227,2005)は、ヒト胚性幹細胞由来のフィーダー細胞層上でヒト多能性幹細胞を長期にわたって増殖させるための方法を開示している。
【0067】
別の例で、Stojkovicら(Stem Cells 2005 23:306〜314,2005)は、ヒト胚性幹細胞の自然分化により誘導されたフィーダー細胞システムを開示している。
【0068】
更なる別の例で、Miyamotoら(Stem Cells 22:433〜440,2004)は、ヒトの胎盤から得られたフィーダー細胞の供給源を開示している。
【0069】
Amitら(Biol.Reprod 68:2150〜2156、2003年)は、ヒト包皮に由来するフィーダー細胞層を開示している。
【0070】
別の例で、Inzunzaら(Stem Cells 23:544〜549,2005)は、ヒトの出生直後産児の包皮線維芽細胞からのフィーダー細胞層を開示している。
【0071】
米国特許第6642048号は、フィーダーを含まない培養における霊長類の多能性幹(pPS)細胞の増殖を支持する培地、及びこうした培地の製造に有用な細胞系を開示している。米国特許第6642048号は、「本発明は、胚性組織から得られるかあるいは胚性幹細胞から分化した間葉系かつ線維芽細胞様の細胞系を含む。こうした細胞系を誘導し、培地を調整し、この馴化培地を用いて幹細胞を増殖させるための方法を本開示で説明及び図示する」と言明している。
【0072】
別の例で、国際公開第2005014799号は、哺乳動物細胞の維持、増殖及び分化のための馴化培地を開示している。国際公開特許第2005014799号は、「本発明に従って製造される培地は、マウス細胞、特にMMH(Metマウス肝細胞)と称される分化及び不死化したトランスジェニック肝細胞の細胞分泌活性によって馴化される」と述べている。
【0073】
別の例で、Xuら(Stem Cells 22:972〜980,2004)は、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素を過剰発現するように遺伝子改変されたヒト胚性幹細胞由来細胞から得られる馴化培地を開示している。
【0074】
別の例で、米国特許出願公開第20070010011号は、多能性幹細胞を維持するための合成培地を開示している。
【0075】
代替的な培養システムは、胚性幹細胞の増殖を促進することが可能な増殖因子をサプリメントとした無血清培地を使用している。例えば、Cheonら(BioReprod DOI:10.1095/biolreprod.105.046870,October 19,2005)は、胚性幹細胞の自己再生の誘発が可能な異なる増殖因子をサプリメントとした非馴化血清補充(SR)培地中に胚性幹細胞が維持されている、フィーダー細胞を含まずかつ血清を含まない培養システムを開示している。
【0076】
別の例で、Levensteinら(Stem Cells 24:568〜574,2006)は、bFGFをサプリメントとした培地を使用して、線維芽細胞又は馴化培地の非存在において、胚性幹細胞を長期間培養する方法を開示している。
【0077】
別の例で、米国特許出願公開第20050148070号は、無血清でかつ線維芽細胞フィーダー細胞を含まない合成培地でのヒト胚性幹細胞の培養方法であって、アルブミン、アミノ酸、ビタミン、無機物、少なくとも1つのトランスフェリン又はトランスフェリン代替物、少なくとも1つのインスリン又はインスリン代替物を含有し、哺乳動物胎児血清を本質的に含まず、線維芽細胞増殖因子シグナル伝達受容体を活性化できる少なくとも約100ng/mLの線維芽細胞増殖因子を含有する培地中で、幹細胞を培養することを含み、増殖因子が線維芽細胞フィーダー層だけでなく他の供給源からも供給され、培地がフィーダー細胞又は馴化培地を用いなくとも、未分化状態の幹細胞の増殖を支持する、方法を開示している。
【0078】
別の例で、米国特許出願公開第20050233446号は、未分化の霊長類始原幹細胞などの幹細胞の培養に有用な合成培地を開示している。溶液では、培地は培養されている幹細胞と比較して実質的に等張である。所定の培養において、特定の培地は、基本培地及び実質的に未分化の始原幹細胞の増殖の支持に必要な量のbFGF、インスリン、及びアスコルビン酸を含有する。
【0079】
別の例で、米国特許第6800480号は、「一実施形態では、霊長類由来の始原幹細胞の増殖を支持する上で効果的な低浸透圧、低エンドトキシンの基本培地を含み、実質的に未分化状態の霊長類由来の始原幹細胞を増殖させるための細胞培地が提供される。この基本培地は、霊長類由来の始原幹細胞の増殖を支持する上で効果的な栄養素血清、並びにフィーダー細胞及びフィーダー細胞から誘導された細胞外支持体成分からなる群から選択される支持体と組み合わされる。この培地は、更に、非必須アミノ酸、抗酸化剤、並びにヌクレオシド及びピルビン酸塩からなる群から選択される第1の増殖因子を含む。」と言明している。
【0080】
別の例では、米国特許出願公開第20050244962号は、「一態様では、本発明は、霊長類の胚性幹細胞を培養する方法を提供する。1つの方法は、哺乳動物の胎児血清を本質的に含まない(好ましくはあらゆる動物の血清をも本質的に含まない)培地中、及び線維芽フィーダー細胞層以外の供給源から供給される線維芽細胞増殖因子の存在下で、幹細胞を培養する。好ましい形態では、充分な量の線維芽増殖因子を添加することによって、幹細胞の培養を維持するために従来必要とされていた線維芽フィーダー細胞層が不必要となる。」と言明している。
【0081】
更なる例で、国際特許出願公開第2005065354号は、a.基本培地、b.実質的に未分化の哺乳動物幹細胞の増殖を支持する上で充分な量のbFGF、c.実質的に未分化の哺乳動物幹細胞の増殖を支持する上で充分な量のインスリン、及びd.実質的に未分化の哺乳動物幹細胞の増殖を支持する上で充分な量のアスコルビン酸を含み、本質的にフィーダーを含まずかつ無血清の定義された等張培地を開示している。
【0082】
別の例で、国際公開第2005086845号は、細胞を未分化な状態に維持するのに充分な量の、トランスフォーミング増殖因子β(TGF−β)ファミリータンパク質の構成員、線維芽細胞増殖因子(FGF)ファミリータンパク質の構成員、又はニコチンアミド(NIC)に、所望の結果を得るのに充分な時間幹細胞を曝露することを含む、未分化の幹細胞を維持するための方法を開示している。
【0083】
本発明の方法により形成される多能性幹細胞は、好適な培養基質上にプレーティングされてもよい。一実施形態では、好適な培養基材は、例えば基底膜から作製されたもの、又は接着分子受容体−リガンド結合の一部を形成し得るものなどの細胞外マトリックス成分である。一実施形態では、好適な培養基材は、MATRIGEL(登録商標)(Becton Dickenson)である。MATRIGEL(登録商標)は、Engelbreth−Holm Swarm腫瘍細胞由来の可溶性製剤であって、室温でゲル化して再構成基底膜を形成する。
【0084】
他の細胞外マトリックス成分及び成分混合物は代替物として好適である。これには、増殖させる細胞型に応じて、ラミニン、フィブロネクチン、プロテオグリカン、エンタクチン、ヘパラン硫塩、及び同様物を単独で又は様々な組み合わせで挙げてもよい。
【0085】
本発明の方法により形成される多能性幹細胞は、好適な分布で、並びに所望の特性の細胞の生き残り、繁殖、及び保持を促進する培地の存在において基質上へプレーティングされ得る。これらすべての特徴は、播種分布に細心の注意を払うことから利益が得られ、かつ当業者により容易に決定可能である。
【0086】
好適な培地は、以下の成分、例えば、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、Gibco # 11965−092;ノックアウトダルベッコ変法イーグル培地(KO DMEM)、Gibco # 10829−018;ハムF12/50%のDMEM基本培地、200mMのL−グルタミン、Gibco # 15039−027;非不必須アミノ酸溶液、Gibco 11140−050;β−メルカプトエタノール、Sigma # 7522;ヒト組み換え塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、Gibco # 13256−029などから作製可能である。
【0087】
本発明の方法を用いて作製される多能性幹細胞遺伝子の分化
本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞は、当該術分野の任意の好適な方法によって様々な他の細胞型に分化され得る。例えば、本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞を、神経細胞、心臓細胞、肝細胞などに分化させてもよい。
【0088】
例えば、本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞を、国際公開第2007030870号に開示されている方法に従って神経前駆細胞及び心筋細胞に分化させてもよい。
【0089】
別の例では、本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞を、米国特許第6,458,589号に開示されている方法に従って肝細胞に分化させてもよい。
【0090】
本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞の胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化
本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞を、当該技術分野の任意の方法により胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させてもよい。
【0091】
例えば、本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞を、D’Amourら、Nature Biotechnology 23,1534〜1541(2005)に開示されている方法に従って胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させてもよい。
【0092】
例えば、本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞を、Shinozakiら、Development 131,1651〜1662(2004)に開示されている方法に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させてもよい。
【0093】
例えば、本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞を、McLeanら、Stem Cells 25,29〜38(2007)に開示されている方法に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させてもよい。
【0094】
例えば、本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞を、D’Amourら、Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている方法に従って胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させてもよい。
【0095】
別の例で、本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞を、LifeScan,Inc.に譲渡された、米国特許出願公開第11/736,908号に開示されている方法に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと分化させてもよい。
【0096】
別の例で、本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞を、LifeScan,Inc.に譲渡された、米国特許出願公開第11/779,311号に開示されている方法に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと分化させてもよい。
【0097】
別の例で、本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞を、LifeScan,Inc.に譲渡された、米国特許出願公開第12/493,741号に開示されている方法に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと分化させてもよい。
【0098】
別の例で、本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞を、LifeScan,Inc.に譲渡された、米国特許出願第12/494,789号に開示されている方法に従って、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと分化させてもよい。
【0099】
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞の形成は、以下の特定のプロトコルの前後に、マーカーの存在に関して試験することにより決定され得る。多能性幹細胞は、一般にこのようなマーカーを発現しない。したがって、多能性細胞の分化は、細胞がそれらの発現を開始した際に検出される。
【0100】
本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞の膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化
本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞は、当該技術分野の任意の方法により胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化され得る。
【0101】
例えば、多能性幹細胞を、D’Amourら、Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている方法に従って、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させてもよい。
【0102】
例えば、本発明の方法に従って得られる、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、線維芽細胞増殖因子及びヘッジホッグシグナル伝達経路阻害剤KAAD−シクロパミンで処理し、次いで線維芽細胞増殖因子及びKAAD−シクロパミンを含有する培地を除去した後に、レチノイン酸、線維芽細胞増殖因子及びKAAD−シクロパミンを含有する培地中で培養することにより、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化させる。この方法の例は、Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている。
【0103】
例えば、本発明の方法に従って得られる、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、LifeScan,Inc.に譲渡された、米国特許出願第11/736,908号に開示された方法に従ってレチノイン酸、1つの線維芽細胞増殖因子により所定の時間処理することにより、膵臓の胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞に更に分化させる。
【0104】
例えば、本発明の方法に従って得られる、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、レチノイン酸(Sigma−Aldrich,MO)及びエキセンディン4で処理し、次いでDAPT(Sigma−Aldrich,MO)及びエキセンディン4を含有している培地を除去し、続いてエキセンディン1、IGF−1及びHGFを含む培地で細胞を培養することにより、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。この方法の例は、Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている。
【0105】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、エキセンディン4を含有している培地で培養し、次にエキセンディン4を含有している培地を除去し、続いて細胞をエキセンディン1、IGF−1及びHGFを含有している培地で培養することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている。
【0106】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、DAPT(Sigma−Aldrich,MO)及びエキセンディン4を含有している培地で培養することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化させる。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている。
【0107】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、エキセンディン4を含有している培地で培養することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化させる。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている。
【0108】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、LifeScan,Inc.に譲渡された、米国特許出願第11/736,908号に開示された方法に従って、ノッチシグナル伝達経路を阻害する因子で処理することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。
【0109】
例えば、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、米国特許出願第11/779,311号(LifeScan,Inc.に譲渡)に開示された方法に従って、ノッチシグナル伝達経路を阻害する因子で処理することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。
【0110】
例えば、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、米国特許出願第60/953,178号(LifeScan,Inc.に譲渡)に開示された方法に従って、ノッチシグナル伝達経路を阻害する因子で処理することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。
【0111】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、米国特許出願第60/990,529号(LifeScan,Inc.に譲渡)に開示された方法に従って、ノッチシグナル伝達経路を阻害する因子で処理することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。
【0112】
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーは、SOX17、GATA4、HNF3 β、GSC、CER1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix様ホメオボックスタンパク質、FGF4 CD48、エオメソダーミン(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA6、CXCR4、C−Kit、CD99、及びOTX2からなる群から選択される。本発明での使用に好適なのは、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーのうちの少なくとも1つを発現する細胞である。本発明の一態様で、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、原始線条前駆体細胞である。別の態様で、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、中内胚葉細胞である。別の態様で、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、胚体内胚葉細胞である。
【0113】
膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーは、PDX1、HNF1 β、PTF1 α、HNF6、HB9及びPROX1からなる群から選択される。本発明での使用に好適なのは、膵臓内胚葉系の特徴を示す少なくとも1つのマーカーを発現している細胞である。本発明の一態様において、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、膵臓内胚葉細胞である。
【0114】
本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞の膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化
本発明の方法を使用して形成される多能性幹細胞は、膵臓系内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞に当該技術の任意の方法によって分化され得る。
【0115】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、エキセンディン4を含有している培地で培養し、次にエキセンディン4を含有している培地を除去し、続いて細胞をエキセンディン1、IGF−1及びHGFを含有している培地で培養することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている。
【0116】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、DAPT(Sigma−Aldrich,MO)及びエキセンディン4を含有している培地で培養することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている。
【0117】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、エキセンディン4を含有している培地で培養することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。この方法の例は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている。
【0118】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、LifeScan,Inc.に譲渡された、米国特許出願第11/736,908号に開示された方法に従って、ノッチシグナル伝達経路を阻害する因子で処理することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと更に分化させる。
【0119】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、LifeScan,Inc.に譲渡された、米国特許出願第11/779,311号に開示された方法に従って、ノッチシグナル伝達経路を阻害する因子で処理することにより、膵臓分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化させる。
【0120】
例えば、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、米国特許出願第60/953,178号(LifeScan,Inc.に譲渡)に開示された方法に従って、ノッチシグナル伝達経路を阻害する因子で処理することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化させる。
【0121】
例えば、本発明の方法に従って得られる膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞を、米国特許出願第60/990,529号(LifeScan,Inc.に譲渡)に開示された方法に従って、ノッチシグナル伝達経路を阻害する因子で処理することにより、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞へと更に分化させる。
【0122】
膵臓内分泌系に特徴的なマーカーは、NGN3、NEUROD、ISL1、PDX1、NKX6.1、PAX4、NGN3、及びPTF−1 αからなる群から選択される。一実施形態では、膵臓内分泌細胞は、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドのホルモンの少なくとも1つを発現する能力がある。本発明で使用するのに好適なのは、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを少なくとも1つ発現する細胞である。本発明の一態様において、膵臓内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵臓内分泌細胞である。膵臓内分泌細胞は、膵臓ホルモン発現細胞であってよい。また、膵臓内分泌細胞は膵臓ホルモン分泌細胞であってよい。
【0123】
本発明の一態様では、膵臓内分泌細胞は、β細胞系に特徴的なマーカーを発現する細胞である。β細胞系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、PDX1並びに、NGN3、NKX2.2、NKX6.1、NEUROD、ISL1、HNF3 β、MAFA、PAX4、及びPAX6の転写因子の少なくとも1つを発現する。本発明の一態様では、β細胞系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、β細胞である。
【0124】
治療
一態様では、本発明は、I型糖尿病に罹患しているかあるいはI型糖尿病を発症するリスクを有する患者を治療する方法を提供する。一実施形態では、本方法は、多能性幹細胞を培養すること、多能性幹細胞をβ細胞系にin vitroで分化させること、及びβ細胞系の細胞を患者に移植することを包含する。
【0125】
適切であるならば、移植した細胞の生存及び機能を亢進する医薬品又は生理活性物質で患者を更に処置してもよい。それらの薬剤には、例えば、特に、インスリン、TGF−β1、2、及び3を含むTGF−βファミリーのメンバー、骨形成タンパク質(BMP−2、−3、−4、−5、−6、−7、−11、−12、及び−13)、線維芽細胞増殖因子−1及び−2、血小板由来増殖因子−AA及び−BB、多血小板血漿、インスリン増殖因子(IGF−I、II)、増殖分化因子(GDF−5、−6、−7、−8、−10、−15)、血管内皮由来増殖因子(VEGF)、プレイオトロフィン、エンドセリンを挙げてもよい。他の医薬化合物には、例えば、ニコチンアミド、グルカゴン様ペプチド−I(GLP−1)及びII、GLP−1及び2模倣体(mimetibody)、エキセンディン−4、レチノイン酸、副甲状腺ホルモン、例えば米国特許出願公開第2004/0209901号及び同第2004/0132729号に開示される化合物のようなMAPK阻害剤などが挙げられる。
【0126】
体細胞から作製される多能性幹細胞を、患者に移植する前にインスリン生成細胞に分化させてもよい。特定の実施形態では、体細胞から作製される多能性幹細胞を、患者に移植する前にβ−細胞に分化させてもよい。あるいは多能性幹細胞を、未分化又は一部が分化した状態でレシピエントに移植してもよい。更なる分化をレシピエント中で行ってもよい。
【0127】
胚体内胚葉細胞、又は代替的には膵臓内胚葉細胞、又は代替的にはβ細胞を、分散した細胞として移植してもよく、又は肝門静脈内に注入され得るクラスターに形成してもよい。あるいは、細胞を、生体適合性の分解性ポリマー支持体、多孔性の非分解性デバイス中で提供してもよく、又は宿主免疫応答から保護されるよう封入してもよい。細胞を、レシピエント内の適切な部位内に移植してもよい。移植部位には、例えば肝臓、天然の膵臓、腎被膜下空間、網、腹膜、漿膜下空間、腸、胃、又は皮下ポケットが挙げられる。
【0128】
移植された細胞の更なる分化、生存又は活性を向上するために、増殖因子、抗酸化剤又は抗炎症剤などの追加の因子を、細胞の投与前、投与と同時、又は投与後に投与してもよい。ある実施形態では、増殖因子は、投与された細胞をin vivoで分化させるように使用される。これらの因子は、内在性細胞により分泌され、投与された細胞にin situで曝露されてもよい。移植された細胞を誘導して、当該技術分野で既知の内因性の及び外因性の増殖因子の任意の組み合わせにより分化させることができる。
【0129】
移植に使用する細胞の量は、患者の状態及び治療に対する応答を含む、多数の様々な要因に依存し、当業者により決定され得る。
【0130】
一態様では、本発明は、糖尿病に罹患しているかあるいは糖尿病を発症するリスクを有する患者を治療する方法を提供する。本方法は、多能性幹細胞を培養し、培養した細胞をβ細胞系にin vitroで分化させ、この細胞を3次元支持体に埋め込むことを含む。細胞は、患者に移植する前に、この支持体上にin vitroで維持してもよい。あるいは、細胞を含む支持体を、in vitroで更に培養することなく直接患者に移植してもよい。所望によっては、支持体を、埋め込まれた細胞の生存及び機能を促進する少なくとも1つの医薬品と共に組み込んでもよい。
【0131】
本発明の目的のために使用するのに好適な支持体材料には、組織修復に有用な組織鋳型、導管、バリア及びリザーバが挙げられる。より詳細には、発泡体、スポンジ、ゲル、ヒドロゲル、織物、及び不織構造の形態を有する合成及び天然材料であって、in vitro及びin vivoで使用されて、生物組織を再構築又は再生し、また走化性薬剤を送達して組織増殖を誘発する材料が、本発明の方法の実施における使用に好適である。例えば、米国特許第5,770,417号、同第6,022,743号、同第5,567,612号、同第5,759,830号、同第6,626,950号、同第6,534,084号、同第6,306,424号、同第6,365,149号、同第6,599,323号、同第6,656,488号、米国特許出願公開第2004/0062753 A1号、米国特許第4,557,264号及び同第6,333,029号に開示されている材料を参照のこと。
【0132】
医薬品が組み込まれた支持体を形成するために、薬剤を、支持体を形成するのに先立ち、ポリマー溶液と混合することもできる。あるいは加工された支持体上に、医薬品を好ましくは医薬担体の存在下で被覆してもよい。医薬品は、液体、超微粒子状固体、又は任意の他の適切な物理的形態として存在し得る。あるいは医薬品の放出速度を変更するために、支持体に賦形剤を加えてもよい。別の実施形態では、抗炎症性化合物である少なくとも1種の医薬化合物(例えば米国特許第6,509,369号に開示される化合物)を支持体に組み込む。
【0133】
支持体には、抗アポトーシス化合物である少なくとも1種の医薬化合物、例えば米国特許第6,793,945号に開示されている化合物を組み込んでもよい。
【0134】
支持体には、線維症阻害剤である少なくとも1種の医薬化合物、例えば米国特許第6,331,298号に開示されている化合物も組み込まれ得る。
【0135】
支持体には、血管新生を促進させることができる少なくとも1種の医薬化合物、例えば米国特許出願公開第2004/0220393号及び同第2004/0209901号に開示されている化合物も組み込まれ得る。
【0136】
支持体には、免疫抑制化合物である少なくとも1種の医薬化合物、例えば、米国特許出願公開第2004/0171623号に開示されている化合物も組み込まれ得る。
【0137】
例えば支持体には、特に、TGF−β1、2、及び3を含むTGF−βファミリーのメンバー、骨形成タンパク質(BMP−2、−3、−4、−5、−6、−7、−11、−12、及び−13)、線維芽細胞増殖因子−1及び−2、血小板由来増殖因子−AA及び−BB、多血小板血漿、インスリン増殖因子(IGF−I、II)、増殖分化因子(GDF−5、−6、−8、−10、−15)、血管内皮増殖因子(VEGF)、プレイオトロフィン、エンドセリンなどの増殖因子である、少なくとも1種の医薬化合物も組み込まれ得る。他の医薬化合物には、例えばニコチンアミド、低酸素誘導因子1−α、グルカゴン様ペプチド−I(GLP−I)、GLP−1及びGLP−2疑似体、並びにII、エキセンディン4、ノダル、ノギン、NGF、レチノイン酸、副甲状腺ホルモン、テネイシン−C、トロポエラスチン、トロンビン由来ペプチド、カテリシジン、デフェンシン、ラミニン、フィブロネクチン及びビトロネクチンなどの接着性細胞外マトリックスタンパク質の細胞−及びヘパリン−結合ドメインを含む生物ペプチド、例えば米国特許出願公開第2004/0209901号及び同第2004/0132729号に開示されている化合物などのMAPK阻害剤を挙げることができる。
【0138】
骨格内への本発明の細胞の組み込みは、細胞を骨格上に単に沈着させることにより達成できる。細胞は、単純拡散により骨格に入り込ませることができる(J.Pediatr.Surg.23(1 Pt 2):3〜9(1988))。細胞播種の効率を向上させるために、いくつかの他の手法が開発されている。例えば、軟骨細胞をポリグリコール酸骨格上に播種する際に、スピナーフラスコが使用された(Biotechnol.Prog.14(2):193〜202(1998))。細胞播種のための他の手法は遠心法の使用であり、これは播種する細胞に与えるストレスを最小にし、かつ播種効率を高める。例えば、Yangらは、遠心分離細胞固定法(CCI)と呼ばれる細胞播種方法を開発した(J.Biomed.Mater.Res.55(3):379〜86(2001))。
【0139】
本発明を以下の実施例によって更に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0140】
(実施例1)
STEMGENT(商標)ヒトトランスフェクション因子キットを用いるフィーダー細胞による体細胞からの多能性幹細胞の作製
Stemgent(商標)ヒトトランスフェクション因子キットに説明されている方法を用いて、Stemgent(商標)ヒトTFレンチウイルスセット(Cat.No.00−0005)を用いて、多能性幹細胞を成体包皮線維芽細胞細胞から作製した。ATCCからのCRL2522細胞(Stemgentプロトコル中で「BJ」細胞と呼ばれるヒト包皮線維芽細胞)を、40〜50%の密集度を生じる、100,000細胞/穴の密度で生長培地中の6穴プレートにプレーティングした。生長培地は、450mLのEMEM、50mLのES用FBS、5mLの10mM非必須アミノ酸、5mLのペニシリン(10,000U/mL)−ストレプトマイシン(10,000μg/mL)、5mLの200mMのL−グルタミン、及び0.9mLの55mMのβ−メルカプトエタノール(本明細書ではBJ細胞生長培地と呼ぶ)からなるものであった。細胞をプレーティングした翌日に、培地を2.5mLの全容積(条件#1及び2、表1)の新しいBJ細胞生長培地プラスポリブレン及びレンチウイルスに変えた。レンチウイルスウイルス力価をp24カプシド抗原ELISA検定を用いてメーカーにより測定した。ウイルス力価は次の通りであった:SOX2−レンチウイルス力価68.80ng/mL;OCT4−レンチウイルス力価6.64ng/mL;LIN28−レンチウイルス力価68.80ng/mL;及びNANOG−レンチウイルス力価82.80ng/mL。
【0141】
細胞培養皿を穏やかにゆすることにより、培地が均一に分布していることを確認した後、細胞を37℃及び5% CO2で一夜インキュベートした。形質導入の24時間後、細胞をトリプシン処理し、200×gで5分間遠心分離し、BJ細胞生長培地中に再懸濁し、6穴の3穴中で前日に播種したCF−1MEFフィーダー細胞上に1〜3プレーティング比で再プレーティングした。ウイルス形質導入したCRL2522細胞を、フィーダー細胞上で37℃及び5% CO2で一夜インキュベートした。再播種後24時間で、BJ細胞生長培地を、ヒトES/iPS細胞培養培地(DMEM−F12培地−200mL、ノックアウト血清リプレイサー−50mL、200mMのL−グルタミン+2−メルカプトエタノール溶液−1.25mL、非必須アミノ酸100X溶液−2.5mL、及びB−FGF溶液を含む、最終濃度4ng/mL)で置き換えた。最初の7日間ES/iPS細胞培養培地を毎日交換した。7日後培地を、MEFで馴化培地(MEFCM)に置き変えた。ES/iPS細胞培養培地をマウス胚性線維芽細胞に曝露することにより、MEFCMを作製した。
【0142】
培養の38日後に細胞を、10ng/mLのbFGF及び5μMのRhoキナーゼインヒビターY27632をサプリメントするMEFCM中でディスパーゼによりMATRIGEL(商標)に酵素的に継代した。その後、細胞に10ng/mL bFGFをサプリメントする新しいMEFCMを毎日流加した。ウイルス形質導入の42日後に最初の小さい多能性コロニーを観察した。コロニーが典型的なヒトES形態を示すまで、細胞の継代を継続した。12のクローン株を作製した。細胞株を継代6においてバンク化及び低温保存し、3つのクローンを培養で15回継代させた。このクローンは多能性形態及び多能性幹細胞の特性を維持する。更には、胚様体検定を用いて、この細胞を、全3胚葉に分化させることができ、定義されたプロトコルを用いてその分化を特定の方向付けして、胚体内胚葉を形成することができる。典型的な多能性幹細胞コロニーの顕微鏡写真を図1に示す。
【0143】
(実施例2)
フィーダー細胞を使用せずSTEMGENT(商標)ヒトトランスフェクション因子キットを使用する体細胞からの多能性幹細胞の作製
米国特許出願第11/420,895号に開示されている方法に従って単離された100,000の羊水由来細胞を、6穴皿の10cm2穴中でAMNIOMAX(商標)培地にプレーティングした。翌日表1中の条件#7に従って細胞にレンチウイルスウイルスを形質導入した。培地を、2.5mLの全容積の新しいAMNIOMAX(商標)培地+レンチウイルスに変えた。レンチウイルスウイルス力価を、p24カプシド抗原ELISA検定を用いてメーカーにより測定した。ウイルス力価は次の通りであった:SOX2−レンチウイルス力価68.80ng/mL;OCT4−レンチウイルス力価6.64ng/mL;LIN28−レンチウイルス力価68.80ng/mL;及びNANOG−レンチウイルス力価82.80ng/mL。
【0144】
この実施例で使用したウイルス形質導入は、形質導入増進剤のポリブレンを使用しなかった(翌日表1中の条件#7に従って細胞にレンチウイルスウイルスを形質導入した)。3日目に細胞を分割し、MATRIGEL(商標)の1:30希釈液で被覆した表面にプレーティングし、MEFCMには継代ゼロ(p0)に対して8ng/mLのbFGF(MEFCM8)及び5μMのROCKインヒビターY27632をサプリメントした。細胞をプレーティングし、新しいMEFCM8を毎日流加した。
【0145】
培養の1週後、細胞を、新しいMATRIGEL(商標)1:30希釈液で被覆したプレートにディスパーゼ継代した(第1継代=p1)。10日後ほぼ20のヒト胚性幹細胞様コロニーを観察した(図2のA及びB)。最密の「胚性幹細胞様」コロニーを手で選択し、継代するために組み合わせた。この培養物を細胞株AFD1と表示した(図2のC及びD)。単一のコロニーを継代するために手で選択し、AFD2と表示した。
【0146】
細胞株AFD1及び2を、継代5においてバンク化及び低温保存し、培養で11〜12回継代したが、多能性幹細胞の多能性形態及び特性を維持していた。
【0147】
(実施例3)
フィーダー細胞の使用無しでSTEMGENT(商標)ヒトトランスフェクション因子キットを使用した体細胞からの多能性幹細胞の作製
ポリブレンを使用せずにフィーダー細胞上でMEF細胞のフィーダー層を使用して、多能性細胞を作製することができなかった(条件#3〜6、表1を参照のこと)。CRL22429細胞(包皮線維芽細胞、ATCC(Manassas VA USA))又はAF細胞を、別々の6穴皿の10cm2の穴の中で100,000細胞の濃度で一夜プレーティングした。翌日細胞を、推薦量のウイルスを含有する新しい培地によりポリブレン無しで24時間処理した。3日目細胞をTrypLE処理し、接着を促進するために、5μMのROCKインヒビターY27632を含むhESC/iPS細胞培地中MEF細胞上に継代した。多能性幹細胞コロニー形成を改善すると報告されている3つの化合物:100nMのCHIR99021、1μMのBIX01294、及び2μMのR(T)Bay K 8644により平行の細胞集団も処理した。培地を14日間各日交換した。フィーダー及びAF細胞を含む穴は、培養14日後相当な死亡を呈した。
【0148】
細胞を救助する試みとして、これらを、サプリメント化合物無しでhESC/iPS細胞培地中の新しいフィーダー層上にコラゲナーゼ継代した。追加の時間培養後コロニーは観察されなかった。CRL2429及びフィーダー細胞を含む穴は、培養6週後生存可能の状態を保った。培養6週後細胞をコラゲナーゼを含む1:30マトリゲル上に継代したが、コロニーは観察されなかった。化合物の添加にもかかわらず、CRL2429細胞とフィーダーとの共培養物と比較して、AF細胞とフィーダーとの共培養物中で顕著な細胞死が観察された。
【0149】
(実施例4)
本発明の方法に従って誘導された多能性幹細胞のキャラクタリゼーション
多能性幹細胞を実施例1及び2の方法に従って誘導した。多能性幹細胞を、qRT−PCR、免疫蛍光法、フローサイトメトリー、及び位相差顕微鏡によりキャラクタリゼーションして、多能性幹細胞に共通の遺伝子発現及び形態を確認した。
【0150】
qRT−PCR(図3)を用いて、継代4(p4)における細胞株AFD1での多能性に特徴的な遺伝子(OCT4、NANOG、SOX2、TERT、及びCRIPTO)の発現がヒト胚性幹細胞株H1に匹敵するレベル(発現レベル1.0に設定)であるということが観察された。継代1(p1)におけるウイルス形質導入13日後であったが、細胞の多能性コロニーが出現する以前にはAF細胞(AFD)の親集団は、SOX2、TERT、及びCRIPTOの顕著な発現を有さず、p4においてはAFD1よりもずっと低いNANOGの発現を有するということも認められた。これらの結果は、p4におけるSOX2及びNANOGの発現が内因性の発現によるものであり、ウイルス構築物によるものでなく、ウイルス形質導入後の体細胞の多能性状態への完全転換がウイルス構築物のサイレンシングを必要とするという公表された観察と一致するということが示される。興味深いことには、p1におけるOCT4のAFDの発現は、hESC株H1に匹敵するレベルであり、かつp4において高い状態を保ち、多能性状態の導入には初期的及び持続的なOCT4発現が必要とされるということが示唆される。
【0151】
同様に、CRL2522細胞から誘導された多能性幹細胞は、多能性細胞に特徴的な遺伝子も発現した:OCT4、NANOG、FGF4及びCDH1を、ヒト胚性幹細胞株H1に匹敵するレベル(発現レベル1.0に設定)で発現し、親CRL2522細胞株で観察される発現レベルよりも著しく高いレベルで発現した。
【0152】
位相差顕微鏡(図2)による細胞のキャラクタリゼーションも行い、AFD1多能性幹細胞コロニーがヒト胚性幹細胞コロニー外観と一致する滑らかな縁、及びAF細胞の親集団と著しく異なる形態を持つ密な中心を有するということを実証した。継代4、5、及び6においてフローサイトメトリーにより検定した場合、AFD1細胞は、SSEA3、SSEA4、CD9、TRA−160、及びTRA−181を含む多能性幹細胞(図4)に特徴的なマーカーの高表面発現を有し、タンパク質は親AF細胞上に発現されないということが観察された。SSEA4の発現を免疫蛍光法により観察し、発現パターンがOCT4(図5)に観察されるものに類似しているということも観察された。これらの結果は、ヒト胚性幹細胞株H1に見出される発現パターンと一致し、CRL2522細胞(図1)から誘導された多能性幹細胞についても反復された。更には、細胞の核密度は、非形質導入親CRL2522線維芽細胞細胞よりも著しく高く、SSEA4発現(図1)に対して陰性であった。
【0153】
継代6においてフローサイトメトリーにより検定した場合、CRL2522細胞から誘導された多能性幹細胞は、SSEA3、SSEA4、CD9、TRA−160、及びTRA−181を含む多能性幹細胞(図6)に特徴的なマーカーの高表面発現を有し、タンパク質は親CRL2522細胞上に発現されないということが観察された。SSEA4の発現を免疫蛍光法により観察し、発現パターンがOCT4(図1)に観察されるものに類似しているということも観察された。これらの結果はhESC株H1に見出される発現パターンと一致し、ヒト包皮線維芽細胞CRL2522「BJ」細胞(図1)から多能性幹細胞が誘導されたということが示される。
【0154】
(実施例5)
本発明の方法に従って誘導される多能性幹細胞の分化
本発明の方法に従ってヒト包皮線維芽細胞又は羊水細胞から作製される多能性幹細胞を、いくつかの異なる方法を用いて分化させて、その多能性を確認した。多能性幹細胞を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞及び膵性細胞内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させた。加えて、本発明の方法により作製される多能性幹細胞は、非接着性サスペンジョン培養の中に置かれると胚様体を形成することが示された。
【0155】
多能性幹細胞を、2%の脂肪酸不含仔牛血清アルブミン(FAFBSA)を含有するRPMI 1640培地、20ng/mLのWnt3a、8ng/mLのbFGF、及び100ng/mLのActivin Aを含むDE培地により処理することにより、本発明の多能性幹細胞を、胚体内胚葉系(DE)に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させた。分化の2日目及び3日目にWnt3aをDE培地から取り除いた。培養の3日後試料をTrypLE(商標)処理によりリフトし、フローサイトメトリーにより胚体内胚葉の形成に相関するマーカーCD184(タンパク質CXCR4)の発現について検定した。羊水由来多能性幹細胞1及び2(AFD1及びAFD2)は、胚体内胚葉に分化するように方向付けされた場合、H1ヒト胚性幹細胞と比較して類似のレベルのCXCR4及びCD99を発現した。これらの結果は、qRT−PCRにより確認され、ヒトES株H1に対するDE(CXCR4、SOX17、GSC、CER1、及びFOXA2)に特徴的な遺伝子の著しく類似の誘導が示された(図7)。
【0156】
類似の結果を、ヒト包皮線維芽細胞、CRL2522由来多能性幹細胞について観察した。CRL2522由来多能性幹細胞の8つのクローンを胚体内胚葉に分化させ、それぞれCXCR4に対して60%陽性であるH1 hES細胞コントロールに対して23.4%〜58.3%陽性の範囲の発現レベルで高レベルのDEマーカーのCXCR4が発現された(表2)。DEに分化したCRL2522由来多能性幹細胞の試料も免疫蛍光法により検出される高レベルのSOX17、胚体内胚葉に特徴的でかつ必要とされる転写因子を発現することが観察された(図8)。これらの結果は、AF及びCRL2522由来の多能性幹細胞が、フローサイトメトリー、qRT−PCR、及び免疫蛍光法により測定して、ヒト胚性幹細胞株、H1によるDE形成と一致する速度で胚体内胚葉を形成するということを示す。
【0157】
正常の発達においては、胚体内胚葉は、肺、腸、肝臓、膵臓、胸腺、及び甲状腺を含む、多重系列に寄与する。H1ヒト胚性幹細胞における膵臓となる運命を促進するように示されるプロトコルを用いて、DEから膵臓内胚葉系の特徴的なマーカーを発現する細胞に分化を方向付けした。DE形成の第1段階以降の追加の分化段階には、段階2−2%のFAF BSA、0.25μMのSant−1、及び50ng/mLのFGF−7を含有するRPMI 1640培地、2日間;段階3−0.5XのITS、0.1%のBSA、0.25μMのSant−1、50ng/mLのFGF−7、100ng/mLのNoggin、20ng/mLのActivin A、及び2μMのRAを含有するDMEM高グルコース培地、4日間;段階3.5−0.5XのITS、0.1%のBSA、10ng/mLのFGF−7、及び100ng/mLのNogginを含有するDMEM高グルコース培地、3日間;段階4−0.5XのITS、0.1%のBSA、10ng/mLのFGF−7、100ng/mLのNoggin、及び1μMのALK5インヒビターを含有するDMEM高グルコース培地、3日間;及び段階5−0.5XのITS、0.1%のBSA、100ng/mLのNoggin、及び1μMのALK5インヒビターを含有するDMEM高グルコース培地、7日間が包含された。
【0158】
この方法を用いて、羊水細胞及びCRL2522細胞の両方から作製されるPSCにおいて、qRT−PCRにより測定して膵臓ホルモン、インスリン、グルカゴン、及びソマスタチンの発現の顕著な増加、並びにNKX6.1、PDX1、及びNEURODを含む膵臓ランゲルハンス島β細胞に共通の転写因子の増加が観察された(表3)。免疫蛍光法により測定して、段階5から分化された羊水由来多能性幹細胞におけるNKX6.1発現及びPDX1発現も観察された(図9)。これらの結果は、AF又はCRL2522細胞のいずれかから誘導された多能性幹細胞が内胚葉層の形成能があり、膵臓に分化可能であるということを示す。
【0159】
方向付けされた分化によるAF及びCRL2522由来多能性幹細胞の多能性の決定に加えて、細胞が胚様体形成検定を用いて全3胚葉を形成することができるかを試験した。AF又はCRL2522細胞から誘導された多能性幹細胞を、マトリゲル被覆培養表面上で成長させ、細胞を0.1%のディスパーゼ溶液によりインキュベートし、10%のFBSをサプリメントしたDMEM培地で細胞を洗浄し、細胞をラバースクレーパーによりリフトし、次いで非接着性のサスペンジョン培養のために10%のFBSをサプリメントしたDMEM培地中の細胞を低結合性培養皿に移すことにより表面からリフトした。高血清含有培地中サスペンジョン培養で生長させた多能性幹細胞は、胚様体;全3胚葉系から構成される球状の多セル構造物を自発的に形成する。この系の形成を、qRT−PCR検定により、この系(中胚葉、内胚葉、及び外胚葉)のそれぞれに共通な遺伝子発現について確認する。AF又はCRL2522細胞のいずれかから誘導された多能性幹細胞は胚様体を形成し、全3胚葉が存在するということを示す遺伝子発現パターンを有していた(図10)。
【0160】
ニューロン/外胚葉系のマーカー(CDH2及びOTX)が上昇し、一方、中内胚葉(T)及び胚体内胚葉に対する初期のマーカー(SOX17、AFP、FOXA2、及びCXCR4)も、中胚葉及び胚体内胚葉に共通なマーカー(GSC、CER1、GATA4及びMIXL1)及び運動ニューロン及びβランゲルハンス島細胞中に見出されるマーカー(MNX)も上昇した(図10)。これらの結果は、AF又はCRL2522細胞から作製される多能性幹細胞が事実多能性であり、3つの胚葉のそれぞれからの組織の形成能があるということを示す。
【0161】
(実施例6)
細胞をフィーダー細胞又は細胞外マトリックスタンパク質の不存在において培養した場合の本発明の多能性幹細胞の培養に及ぼすRhoキナーゼ阻害の影響
多能性幹細胞株AFD1を、生長因子を低下させたMATRIGEL(商標)の1:30希釈液により試験前に処理したNunclon Delta(商標)プレート上のMEF馴化した培地中で維持した。1mg/mLのディスパーゼ解離処理により継代するために細胞を表面から解離させた。次いで、AFD1細胞を表面改質プレート4(6穴形式)の非処理穴上に播種した。平行して、AFD1細胞を、生長因子を低下させたMATRIGEL(商標)の1:30希釈液により処理したNunclon Delta(商標)プレート上にプレーティングして、陽性コントロールを得た。すべての処理について、細胞はMEF調整培地中に維持した。
【0162】
表面改変されたプレート4上に播種されたAFD1細胞は結合はするものの、結合効率はコントロールプレート上よりもずっと低かった(図11)。Rhoキナーゼインヒビターを培地に添加することにより、結合効率は大きく増大した。培養における最初の24時間Y−27632を10μM濃度で添加するか、又はH1152−グリシルを3μM濃度で添加するかのいずれかによって、細胞のプレーティング効率がコントロールプレートで観察されるのと類似の速度まで著しく増大した(図11)。その後、細胞を、日々の培地変更と共に一定の10μMのY−27632濃度又はH1152−グリシルの低下させた1μM濃度に維持した。
【0163】
細胞を、表面改変されたプレート4上Y−27632又はH1152−グリシルの存在において2回継代し、多能性と関連する遺伝子の発現についてqRT−PCRにより試験した(図12)。多能性と関連しかつ要求される遺伝子(OCT4、NANOG、SOX2、TERT、及びCRIPTO/TDGF)の発現を、コントロールプレート上で生長させた細胞に対して改変された表面4上で生長させたAFD1細胞中で維持した。胚体外外胚葉又は栄養芽細胞の運命への自発的な分化と関連するいくつかの遺伝子(AFP、HAND2、及びGATA2)の相対的な発現が著しく低下するということも観察された。これは、胚体外外胚葉又は栄養芽細胞関連遺伝子の発現を抑制することにより、分化を阻害するNANOGの発現の増加によるものであり得る。加えて、胚体外外胚葉又は栄養芽細胞関連遺伝子の発現のこの減少は、コントロールプレートに対して改変された表面4上での高多能性かつ低分化の細胞の分化接着及び増殖により起こる可能性がある。
【0164】
胚体内胚葉を分化させる能力を試験することにより、改変された表面4上で生長させた細胞の多能性も確認した。RhoキナーゼインヒビターをサプリメントしたMEFで馴化した培養培地中改変された表面4上でいくつかの継代を生長させた後にDEに分化させた細胞が、DEへのH1 hES分化について観察される発現レベル及びパターンに匹敵する、DE分化に関連する遺伝子のロバスト発現を示すということが観察された(図13)。加えて、フローサイトメトリーにより検定した場合、Rhoキナーゼインヒビターと共に2つの継代に対して生長させ、改変された表面4上で分化させたAFD1細胞は、胚体内胚葉形成と相関するCXCR4、表面タンパク質の発現に対して63%陽性であり、発現のこのレベルはDEに分化させたH1 hES細胞中で観察される発現レベルと一致するものであった(60% CXCR4陽性、表2)。
【0165】
【表1】

【0166】
【表2】

【0167】
【表3】

【0168】
本明細書の全体を通じて引用した刊行物は、その全容を本明細書に援用するものである。以上、本発明の様々な態様を実施例及び好ましい実施形態を参照して説明したが、本発明の範囲は、上記の説明文によってではなく、特許法の原則の下で適宜解釈される以下の「特許請求の範囲」によって定義されるものである点は認識されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィーダー細胞層又はレトロウイルストランスフェクション効率を増大させる剤を使用せずに、体細胞から多能性幹細胞を作製する方法。
【請求項2】
フィーダー細胞層又はレトロウイルストランスフェクション効率を増大させる剤の使用を必要としない方法を用いて、羊水由来細胞から誘導された多能性幹細胞の集団。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2013−509184(P2013−509184A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537026(P2012−537026)
【出願日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/054408
【国際公開番号】WO2011/059725
【国際公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【出願人】(509087759)ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】