多能性細胞
本発明は、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上の培養物中で容易に増殖することができ、フィーダー細胞株を必要としない多能性細胞を目的とする。本発明はまた、ヒト胚幹細胞から多能性細胞株を誘導する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織培養ポリスチレン上の培養物中で容易に増殖(expand)することができ、フィーダー細胞株を必要としない多能性幹細胞を目的とする。本発明はまた、ヒト胚幹細胞から多能性幹細胞株を誘導する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
1型糖尿病の細胞置換療法における進歩、及び移植可能なランゲルハンス島の不足のため、生着に適したインスリン産生細胞すなわちβ細胞の供給源の開発に注目が集まっている。1つの手法として、例えば、胚性幹細胞のような多能性幹細胞から機能性のβ細胞を生成することがある。
【0003】
脊椎動物の胚発生において、多能性細胞は、原腸形成として公知のプロセスにて、3つの胚葉(外胚葉、中胚葉、及び内胚葉)を含む細胞群を生じる。例えば、甲状腺、胸腺、膵臓、腸、及び肝臓等の組織は、内胚葉から中間段階を経て発達する。このプロセスにおける中間段階は、胚体内胚葉の形成である。胚体内胚葉細胞は、HNF−3β、GATA4、Mixl1、CXCR4及びSOX−17などの多くのマーカーを発現する。
【0004】
膵臓の形成は、胚体内胚葉の膵臓内胚葉への分化により起こる。膵臓内胚葉の細胞は膵臓−十二指腸ホメオボックス遺伝子、PDX−1を発現する。PDX−1が存在しない場合、膵臓は、腹側芽及び背側芽の形成を越えて発達しない。したがって、PDX−1の発現は、膵臓器官形成において重要な工程をマークしている。成熟した膵臓は、他の細胞型の中でも、外分泌組織及び内分泌組織を含む。外分泌組織及び内分泌組織は、膵臓内胚葉の分化によって生じる。
【0005】
島細胞の特徴を保持する細胞がマウスの胚細胞から誘導されたことが報告されている。例えば、Lumelskyら(Science 292:1389,2001)は、マウスの胚幹細胞の、膵島と同様のインスリン分泌構造への分化を報告している。Soriaら(Diabetes 49:157,2000)は、ストレプトゾトシン糖尿病のマウスにおいて、マウスの胚幹細胞から誘導されたインスリン分泌細胞が糖血症を正規化することを報告している。
【0006】
一例において、Horiら(PNAS 99:16105,2002)は、ホスホイノシチド3−キナーゼ(LY294002)の阻害剤でマウス胚性幹細胞を処理することにより、β細胞に類似した細胞が生じたことを開示している。
【0007】
他の例では、Blyszczukら(PNAS100:998,2003)が、Pax4を構成的に発現するマウス胚幹細胞からのインスリン産生細胞の生成を報告している。
【0008】
Micallefらは、レチノイン酸が、胚幹細胞のPDX−1陽性膵臓内胚葉の形成に対する関与を制御することができることを報告している。レチノイン酸は、胚の原腸形成の最後に相当する期間中、胚幹細胞分化の4日目に培養物に添加したとき、PDX−1発現の誘導において最も効果的である(Diabetes 54:301,2005)。
【0009】
Miyazakiらは、PDX−1を過剰発現するマウス胚幹細胞株を報告している。Miyazakiらの結果は、外因性のPDX−1発現が、得られた分化細胞においてインスリン、ソマトスタチン、グルコキナーゼ、ニューロゲニン3、P48、Pax6、及びHNF6遺伝子の発現を明らかに増加させることを示している(Diabetes 53:1030,2004)。
【0010】
Skoudyらは、マウス胚幹細胞内で、アクチビンA(TGFβスーパーファミリーのメンバー)が、膵臓外分泌遺伝子(p48及びアミラーゼ)、並びに内分泌遺伝子(PDX−1、インスリン、及びグルカゴン)の発現を増大させることを報告している。最大の効果は、1nMアクチビン−Aを使用して観察された。Skoudyらはまた、インスリン及びPDX−1 mRNAの発現レベルはレチノイン酸により影響されなかったが、3nMのFGF−7による処理によりPDX−1の転写産物のレベルが増加したことも観察している(Biochem.J.379:749,2004)。
【0011】
Shirakiらは、胚幹細胞のPDX−1陽性細胞への分化を特異的に高める増殖因子の効果を研究した。Shirakiらは、TGFβ2によってPDX−1陽性細胞が高い比率で再現可能に得られたことを観察している(Genes Cells.2005 Jun;10(6):503〜16)。
【0012】
Gordonらは、血清の不在下、及びアクチビンとWntシグナル伝達阻害剤の存在下での、マウス胚幹細胞からの短尾奇形+/HNF−3β+内胚葉細胞の誘発を示した(米国特許出願公開第2006/0003446A1号)。
【0013】
Gordonら(PNAS,Vol103,page 16806,2006)は、「Wnt及びTGF−β/nodal/アクチビンシグナル伝達は、前側の原始線条の生成のために同時に必要である」と述べている。
【0014】
しかしながら、胚幹細胞発達のマウスモデルは、例えば、ヒト等のより高等な哺乳動物内の発達プログラムを正確に模倣していない恐れがある。
【0015】
Thomsonらは、ヒト胚盤胞から胚幹細胞を単離した(Science 282:114,1998)。同時に、Gearhart及び共同研究者は、胎児生殖腺組織から、ヒト胚生殖(hEG)細胞株を誘導した(Shamblott et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:13726,1998)。白血病阻害因子(LIF)と共に培養するだけで分化を阻止し得るマウス胚幹細胞とは異なり、ヒト胚幹細胞は、非常に特殊な条件下で維持する必要がある(米国特許第6,200,806号、国際公開第99/20741号、国際公開第01/51616号)。
【0016】
D’Amourらは、高濃度のアクチビン及び低血清の存在下でのヒト胚幹細胞誘導による胚体内胚葉に富んだ培養液の生成について記載している(D’Amour KA et al.2005)。これらの細胞を、マウスの腎臓皮膜下で移植することにより、いくつかの内胚葉性器官の特徴を有する、より成熟した細胞への分化が見られた。ヒト胚性幹細胞由来の胚体内胚葉細胞はFGF−10の添加後、更にPDX−1陽性細胞に分化させることができる(米国特許出願公開第2005/026655A1号)。
【0017】
D’Amourら(Nature Biotechnology−24,1392〜1401(2006))は、「私達は、ヒト胚幹(hES)細胞を、膵臓ホルモンインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵臓ポリペプチド及びグレリンを合成できる内分泌細胞に変換する分化プロセスを開発した。このプロセスは、胚体内胚葉、腸管内胚葉、膵臓内胚葉及び内分泌前駆体が、内分泌ホルモンを発現する細胞へと向かう段階に類似した段階を通して細胞を指向させることにより、インビボでの膵臓器官形成を模倣する。」と述べている。
【0018】
別の例において、Fiskらは、ヒト胚幹細胞から膵島細胞を産生するシステムを報告している(米国特許出願公開第2006/0040387A1号)。この場合、分化経路は3つの段階に分割された。ヒト胚幹細胞は、最初に、n−ブチレートとアクチビン−Aとの組み合わせを使用して、内胚葉に分化した。次に細胞をノギンなどのTGFβアンタゴニストとEGF又はベータセルリンとの組み合わせと培養してPDX−1陽性細胞を作製した。最終分化は、ニコチンアミドにより誘発された。
【0019】
1つの例において、Benvenistryらは、「我々は、PDX−1の過剰発現が膵臓に多く見られる遺伝子の発現を高めたという結論を下す。インスリン発現の誘導には、インビボでのみ存在する更なるシグナルを必要とする可能性がある。」と述べている(Benvenistry et al,Stem Cells 2006;24:1923〜1930)。
【0020】
ヒト胚幹細胞を培養する現在の方法は、細胞外マトリクスタンパク質若しくは線維芽細胞フィーダー層のいずれかの使用、又は例えばbFGF等の外因性成長因子の添加を必要としている。
【0021】
1つの例では、Cheonら(BioReprod DOI:10.1095/biolreprod.105.046870,October 19,2005)は、胚幹細胞の自己再生を誘発することができる様々な成長因子を添加した非馴化(unconditioned)血清代替(SR)培地中で胚幹細胞が維持される無フィーダー、無血清培養系を開示している。
【0022】
別の例において、Levensteinら(Stem Cells 24:568〜574,2006)は、線維芽細胞又は馴化培地の非存在下で、bFGFを添加した培地を使用して、胚幹細胞を長期間培養する方法を開示している。
【0023】
別の例において、米国特許出願公開第20050148070号は、血清及び繊維芽細胞フィーダー細胞方法を含まない合成培地中でのヒト胚幹細胞の培養方法を開示し、同方法は、アルブミン、アミノ酸、ビタミン、無機物、少なくとも1つのトランスフェリン又はトランスフェリン代替物、少なくとも1つのインスリン又はインスリン代替物を含有する培地中で細胞を培養し、この培地は、本質的に哺乳動物胎児血清を含有せず、線維芽細胞増殖因子シグナル伝達受容体を活性化できる少なくとも約100ng/mLの線維芽細胞増殖因子を含有し、ここで増殖因子は、線維芽細胞フィーダー層のみでなく他の源からも供給され、培地はフィーダー細胞又は馴化培地なしで、未分化状態の幹細胞の増殖を支持した。
【0024】
別の例において、米国特許出願公開第20050233446号は、未分化の霊長類始原幹細胞を含む幹細胞の培養に有用な合成培地を開示している。溶液において、培地は、培養されている幹細胞と比較して実質的に等張である。所定の培養おいて、特定の培地は、基本培地と、実質的に未分化の始原幹細胞の増殖の支持に必要な、ある量のbFGF、インスリン、及びアスコルビン酸の各々とを含有する。
【0025】
別の例として、米国特許第6800480号は、「1つの実施形態において、実質的に未分化状態の霊長類由来の始原幹細胞を増殖させるための細胞培地であって、霊長類由来の始原幹細胞の増殖を支持するうえで効果的な低浸透圧、低エンドトキシンの基礎培地を含む細胞培地を提供する。この基本培地は、霊長類由来の始原幹細胞の増殖を支持するうえで効果的な栄養素血清、並びに、フィーダー細胞、及びフィーダー細胞から誘導される細胞外基質成分からなる群から選択される基質と組み合わされる。培地は更に、非必須アミノ酸、抗酸化剤、並びにヌクレオシド及びピルビン酸塩からなる群から選択される第1の増殖因子を含む。」と述べている。
【0026】
別の例では、米国特許出願公開第20050244962号は、「1つの態様において本発明は、霊長類の胚性幹細胞を培養する方法を提供する。哺乳動物の胎児血清を基本的に含まない(好ましくはあらゆる動物の血清をも基本的に含まない)培養中で、単に繊維芽フィーダー細胞層以外の供給源から供給される線維芽細胞増殖因子の存在下で幹細胞を培養する。好ましい1つの形態では、充分な量の繊維芽増殖因子を添加することによって、幹細胞の培養を維持するために従来必要とされていた繊維芽フィーダー細胞層の必要性がなくなる。」と述べている。
【0027】
更なる例では、国際公開第2005065354号は、a.基礎培地と;b.実質的に未分化である哺乳類幹細胞の成長を支持するのに十分な量のbFGFと;c.実質的に未分化である哺乳類幹細胞の成長を支持するのに十分な量のインスリンと;d.実質的に未分化である哺乳類幹細胞の成長を支持するのに十分な量のアスコルビン酸と;を含む、本質的に無フィーダーかつ無血清である限定等張培地を開示している。
【0028】
別の例として、国際公開第2005086845号は、未分化の幹細胞を維持するための方法であって、幹細胞を未分化状態に維持するのに充分な量のトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)のタンパク質ファミリーのメンバー、繊維芽細胞増殖因子(FGF)のタンパク質ファミリーのメンバー、又はニコチンアミド(NIC)に、所望の結果を得るのに充分な時間だけ、幹細胞を曝露することを含む方法を開示している。
【0029】
更に、ヒト胚幹細胞からの膵臓内分泌細胞、膵臓ホルモン発現細胞、又は膵臓ホルモン分泌細胞の形成は、ヒト胚幹細胞の遺伝子操作を必要とする場合がある。例えばリポフェクタミン又は電気穿孔法等の従来の技術を用いるヒト胚幹細胞のトランスフェクションは非効率である。
【0030】
国際公開第2007027157号は、(a)胚幹細胞(ES)細胞を提供する工程と;(b)胚幹細胞から前駆細胞株を確立する工程であって、前駆細胞株がその自己再生能に基づいて選択される工程と、を含む方法を開示している。好ましくは、方法は自己再生できないことに基づいて体細胞を淘汰する。好ましくは前駆細胞株は、共培養物の非存在下で、好ましくはフィーダー細胞の非存在下で誘導又は確立され、これらは好ましくは胚幹細胞を淘汰する。所望により、方法は(d)前駆細胞株から分化細胞を誘導する工程を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
したがって、膵臓内分泌細胞、膵臓ホルモン発現細胞、又は膵臓ホルモン分泌細胞に分化する可能性を維持する一方で、現在の臨床上の必要性に対処するよう拡張できる、多能性幹細胞株を確立するための条件を開発する有意な必要性が今尚存在する。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、培養物中低血清下で容易に増殖することができ、フィーダー細胞株又は複合マトリクスタンパク質のコーティングの必要なく、単一細胞懸濁液中で継代することができ、非常に高効率でトランスフェクションすることができ、かつ低酸素条件下で培養される、ヒト胚幹細胞の特徴を有する細胞集団を提供する。この独特な特性の組み合わせにより、本発明に記載される細胞は先行技術と区別される。
【0033】
1つの実施形態では、本発明は、多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.細胞を得る工程と、
b.細胞を培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0034】
細胞は、ヒト胚幹細胞であってもよく、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞であってもよい。ヒト胚幹細胞は、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養してもよい。あるいは、ヒト胚幹細胞は低酸素条件下で培養してもよい。
【0035】
ヒト胚幹細胞は、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養し、Rhoキナーゼ阻害剤で処理してもよい。あるいは、ヒト胚幹細胞を低酸素条件下で培養し、Rhoキナーゼ阻害剤で処理してもよい。
【0036】
胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養してもよい。あるいは、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を低酸素条件下で培養してもよい。
【0037】
1つの実施形態では、本発明は、多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
b.ヒト胚幹細胞を、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程と、
c.細胞を除去し、次いで細胞を、培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0038】
細胞は、血清、アクチビン−A、及びWntリガンドを含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。あるいは、細胞は、血清、アクチビン−A、Wntリガンド、及びIGF−1を含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。
【0039】
細胞は、血清、Rhoキナーゼ阻害剤、アクチビン−A、及びWntリガンドを含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。あるいは、細胞は、血清、Rhoキナーゼ阻害剤、アクチビン−A、Wntリガンド、及びIGF−1を含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。
【0040】
1つの実施形態では、本発明は、多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
b.細胞を除去し、次いで細胞を、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0041】
細胞は、血清、アクチビン−A、及びWntリガンドを含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。あるいは、細胞は、血清、アクチビン−A、Wntリガンド、及びIGF−1を含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。
【0042】
細胞は、血清、Rhoキナーゼ阻害剤、アクチビン−A、及びWntリガンドを含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。あるいは、細胞は、血清、Rhoキナーゼ阻害剤、アクチビン−A、Wntリガンド、及びIGF−1を含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。
【0043】
本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて、培養物中で増殖することができる。
【0044】
1つの実施形態では、本発明は、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて、細胞を培養する工程を含む、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を増殖させる方法を提供する。1つの実施形態では、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、本発明の方法により形成される多能性細胞に由来する。
【0045】
細胞は、血清、アクチビン−A、Wntリガンド、及びGSK−3B阻害剤を含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】4日間低血清+アクチビン−A+WNT−3Aで処理した後、胚体内胚葉に分化している54継代のヒト胚幹細胞株H9由来の細胞における、CXCR4(CD184、Y軸)及びCD9(X軸)の発現を示す。
【図2】実施例5に概要を述べる胚体内胚葉分化プロトコルの4日目及び6日目における、54継代のヒト胚幹細胞株H9由来の細胞のリアルタイムPCR分析を示す。パネルa)は、AFP、Bry、CXCR4、GSC、及びSOX−7の発現を示す。パネルb)は、SOX−17、GATA−4、及びHNF−3βの発現を示す。
【図3】本発明の方法に係る胚幹細胞からEXPRES細胞を誘導するために用いられる単離プロトコルを示す。
【図4】2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのActivin−A(パネルa)又は2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのActivin−A+20ng/mLのWNT−3A(パネルb)中で培養された、11日目のP0の増殖したEXPRES細胞の形態を示す。パネルcは、3継代のEXPRES細胞の形態を示す。
【図5】3継代の間2〜5% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのActivin−A+20ng/mLのWNT−3A中で培養された、増殖したEXPRES細胞のリアルタイムPCR分析を示す。パネルa)は、AFP、Bry、CXCR4、GSC、及びSOX−7の発現を示す。パネルb)は、SOX−17、GATA−4、及びHNF−3βの発現を示す。
【図6】EXPRES細胞の遺伝子発現に対するWnt−3Aの添加の効果を示す。パネルa)は、SOX−17、GATA−4、及びHNF−3βのリアルタイムPCR発現を示す。パネルb)は、AFP、Bry、CXCR4、GSC、及びSOX−7のリアルタイムPCR発現を示す。
【図7】EXPRES細胞の遺伝子発現に対するIGF−1、Wnt−3A及びアクチビン−Aの効果を示す。パネルa)は、SOX−17、GATA−4、HNF−3β、Bry、CXCR4、及びGSCのリアルタイムPCR発現を示す。パネルb)は、SOX−7及びAFPのリアルタイムPCR発現を示す。パネルc)は、OCT−4のリアルタイムPCR発現を示す。
【図8】a)2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A、b)2% FBS+DMEMF12+100ng/mLのAA、c)2% FBS+DMEM−F12+50ng/mLのIGF−I中で培養された、54継代のヒト胚幹細胞株H9から誘導された増殖したEXPRES細胞の形態を示す。
【図9】低酸素条件下にて組織培養ポリスチレン上で培養されたEXPRES 01及び02細胞の増殖能を示す。EXPRES 01は、2% FBS+DM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mLのIGF−I中で培養し、EXPRES 02細胞は2% FBS+DM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A中で培養された。
【図10】DM−F12+2% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT3A+50ng/mLのIGF−I中のTCPS(組織培養ポリスチレン)上で未分化ES細胞の単一細胞懸濁液から誘導されたEXPRES細胞の形態を示す。
【図11】24継代細胞のEXPRES 01細胞において、FACSにより測定したタンパク質の発現を示す。パネルa)はE−カドヘリンの発現量を示し、パネルb)はCXCR4の発現量を示し、パネルc)はCD9の発現量を示し、パネルd)はCD117の発現量を示し、パネルe)はCD30の発現量を示し、パネルf)はLIF受容体の発現量を示し、パネルg)はTRA1−60の発現量を示し、パネルh)はTRA1−81の発現量を示し、パネルi)はSSEA−1の発現量を示し、パネルj)はSSEA−3の発現量を示し、パネルk)はSSEA−4の発現量を示し、パネルl)はCD56の発現量を示す。
【図12】21継代細胞のEXPRES 02において、FACSにより測定したタンパク質の発現を示す。パネルa)はE−カドヘリンの発現量を示し、パネルb)はCXCR4の発現量を示し、パネルc)はCD9の発現量を示し、パネルd)はCD117の発現量を示し、パネルe)はCD30の発現量を示し、パネルf)はLIF受容体の発現量を示し、パネルg)はTRA1−60の発現量を示し、パネルh)はTRA1−81の発現量を示し、パネルi)はSSEA−1の発現量を示し、パネルj)はSSEA−3の発現量を示し、パネルk)はSSEA−4の発現量を示し、パネルl)はCD56の発現量を示す。
【図13】2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mLのIGF−I中で培養された10継代のEXPRES 01の免疫蛍光画像を示す。パネルa)パネルbのDAPI画像、パネルb)Nanog、パネルc)DAPI(青)及びOct−4(緑)共染色、パネルd)パネルeのDAPI画像、パネルe)SOX−2、並びにパネルf)DAPI(青)及びHNF−3β(緑)共染色。
【図14】2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A中で培養された9継代のEXPRES 02の免疫蛍光画像を示す。パネルa)パネルbのDAPI画像、パネルb)HNf3B、パネルc)パネルdのDAPI画像、パネルd)OCT−4、パネルe)パネルfのDAPI画像、パネルf)SOX−2、パネルg)パネルhのDAPI画像、パネルh)NANOG。
【図15】EXPRES01細胞、EXPRES 02細胞、H9細胞から誘導されたEB、MEF−CM中のMATRIGEL上で培養されたSA002、及びMEFCM中のMATRIGEL上で培養された未分化H9細胞について、リアルタイムPCRにより測定した遺伝子発現を示す。発現量は全て未分化H9細胞で正規化する。パネルa)はSOX−1発現を示し、パネルb)はFOXD3、MYOD1、POU5F1、及びZFP42発現を示し、パネルc)はABCG2、コネキシン43、コネキシン45、及びサイトケラチン15発現を示し、パネルd)は、ネスチン、SOX−2、UTF1、及びビメンチンを示し、パネルe)はGATA−2、短尾奇形、TERT、及びチューブリンベータIII発現を示し、パネルf)はCFC1及びGATA−4発現を示し、パネルg)はAFP及びFOXA2発現を示し、パネルh)はIPF1A及びMSX1発現を示す。
【図16】a)成長培地中の組織培養ポリスチレン上で培養され、次いでDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mLのアクチビン−A及び20ng/mLのWNT3Aに替えて2日間、続いて更に2日間DMEM−F12+2% FBS+100ng/mLのアクチビン−A中で培養された5継代細胞EXPRES01細胞、b)成長培地中の組織培養ポリスチレン上で培養され、次いでDMEM−F12+0.5%FBS+100ng/mLのアクチビン−A及び20ng/mLのWNT3Aに替えて2日間、続いて更に2日間DMEM−F12+2% FBS+100ng/mLのアクチビン−A中で培養された4継代細胞EXPRES02細胞中の、CXCR4(Y軸)及びCD9(x軸)のFACSにより測定された発現を示す。
【図17】低血清+AA+WNT3aで処理されたa)EXPRES 01細胞及びb)EXPRES 02細胞における、リアルタイムPCRにより測定された遺伝子発現を示す。
【図18】2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mLのIGF−I中で培養し、次いでDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mLのアクチビン−A及び20ng/mLのWNT3Aに替えて2日間、続いて更に2日間DMEM−F12+2% FBS+100ng/mLのアクチビン−A中で培養された5継代EXPRES01細胞の免疫蛍光画像を示す。パネルa)パネルbのDAPI画像、パネルb)GATA−4、パネルc)パネルdのDAPI画像、パネルd)SOX−17、パネルe)パネルfのDAPI画像、パネルf)HNF−3β、パネルg)パネルhのDAPI画像、及びパネルh)OCT−4。
【図19】2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A中で培養し、次いでDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mLのアクチビン−A及び20ng/mLのWNT3Aに替えて2日間、続いて更に2日間DMEM−F12+2% FBS+100ng/mLのアクチビン−A中で培養された4継代EXPRES 02細胞の免疫蛍光画像を示す。パネルa)パネルbのDAPI画像、パネルb)GATA−4、パネルc)パネルdのDAPI画像、パネルd)SOX−17、パネルe)パネルfのDAPI画像、パネルf)HNF−3β、パネルg)パネルhのDAPI画像、及びパネルh)OCT−4。
【図20】成長培地中の組織培養ポリスチレン上で培養され、次いでDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mLのアクチビン−A+100nM GSK−3B阻害剤IX、及び20ng/mLのWNT3Aに替えて4日間培養された、a)19継代細胞のEXPRES 01細胞及びb)14継代細胞のEXPRES 02細胞について、CXCR4(Y軸)及びCD9(x軸)のFACSにより測定したタンパク質発現を示す。
【図21】2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mLのIGF−I中で培養された19継代のEXPRES 01細胞、及び2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A中で培養され、次いでDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mLのアクチビン−A+100nM GSK−3B阻害剤IX、及び20ng/mLのWNT3Aに替えて5日間培養された14継代のEXPRES 02細胞の免疫蛍光画像を示す。パネルa)パネルbのDAPI画像、パネルb)HNF−3β、パネルc)パネルdのDAPI画像、パネルd)GATA−4、パネルe)パネルfのDAPI画像、パネルf)SOX−17、パネルg)パネルhのDAPI画像、パネルh)HNF−3β、パネルi)パネルjのDAPI画像、パネルj)GATA−4、パネルk)パネルlのDAPI画像、パネルl)SOX−17。
【図22】5日間低血清+AA+WNT3a+GSK−3B IX阻害剤で処理されたa)EXPRES 01及びEXPRES 02細胞について、リアルタイムPCRデータにより測定された遺伝子発現を示す。パネルaは、AFP、短尾奇形、CDX2、Mox1、OCT3/4、SOX−7及びZIC1の発現を表し、パネルbは、CXCR4、GATA−4、グースコイド、HNf3B及びSOX−17の発現量を示す。
【図23】成長培地中の組織培養ポリスチレン上に5000〜40000細胞/cm2で播種し、次いで低酸素条件下でDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT3A+100nM GSK−3B阻害剤IXに替えて4日間培養したEXPRES 01細胞について、リアルタイムPCRにより測定された遺伝子発現を示す。パネルaは、AFP、短尾奇形、SOX−7、及びOTX2の発現量を表す。パネルbは、CXCR4、HNF−3β、GATA−4、SOX−17、Cerb、及びGSCの発現量を表す。
【図24】低テロメア対照細胞(レーン1)、24継代のEXPRES 01細胞(レーン2)、17継代のEXPRES02細胞(レーン3)、40継代のヒト胚幹細胞株H1由来の未分化細胞(レーン4)、及び高テロメア長対照細胞(レーン5)におけるテロメア長アッセイの結果を示す。
【図25】前腸内胚葉細胞(S3)、膵臓内胚葉細胞(S4)、及び膵臓内分泌細胞(S5)に分化した21継代のEXPRES 01細胞について、リアルタイムPCRデータにより測定された遺伝子発現を示す。
【図26】実施例18にしたがって培養した35継代のEXPRES 01の免疫蛍光画像を示す。パネルa)パネルbのDAPI画像、パネルb)抗−1トリプシン、パネルc)緑のHNF−3β、赤のアルブミン、パネルd)赤のアルブミン及びDAPI(青)、パネルe)パネルfのDAPI画像、パネルf)PDX−1、パネルg)パネルhのDAPI画像、パネルh)SOX−17、パネルi)パネルjのDAPI画像、パネルj)CDX−2。
【図27】以下を比較したマイクロアレイデータの散布図を示す:パネルa)EXPRES 01細胞(y軸)対ヒト胚幹細胞株H9由来の未分化細胞(x軸)、パネルb)EXPRES 02細胞(y軸)対ヒト胚幹細胞株H9由来の未分化細胞(x軸)、パネルc)EXPRES 01細胞(y軸)対EXPRES 02細胞(x軸)、パネルd)EXPRES01細胞(y軸)対胚体内胚葉に分化しているヒト胚幹細胞株H9由来の細胞(x軸)、パネルe)EXPRES 02細胞(y軸)対胚体内胚葉に分化しているヒト胚幹細胞株H9由来の細胞(x軸)、パネルf)ヒト胚幹細胞株H9由来の未分化細胞(y軸)対胚体内胚葉に分化しているヒト胚幹細胞株H9由来の細胞(x軸)。
【図28】EXPRES 01細胞により形成されたEB体の形態を示す。
【図29】NOD−SCIDマウスの腎臓被膜下に移植した5週間後のEXPRES 01細胞株の細胞、EXPRES 02細胞株の細胞、及び43継代のヒト胚幹細胞株H9由来の細胞についてリアルタイムPCRにより測定された遺伝子発現を示す。パネルa〜eは中胚葉マーカーを示す。パネルf&gは外胚葉マーカーを示す。パネルh&iは内胚葉マーカーを示す。パネルjは胚体外内胚葉マーカーを示す。パネルk〜mは多能性マーカーを示す。
【図30】BRDU導入により測定されたEXPRES 03細胞の増殖及び細胞周期状態を示す。EXPRES 03細胞は、パネルa)アクチビン−A(100ng/mL)及びwnt3a(20ng/mL)、パネルb)アクチビン−A(100ng/mL)及びwnt3a(20ng/mL)及びIGF(50nh/mL)を添加した、2%FBS/DMEM/F12中で培養した。示される他の細胞としては、パネルc)hES細胞(H9p43)、パネルd)羊水細胞(AFDX002)、及びパネルe)マイトマイシン処理MEF細胞が挙げられる。パネルf)は、試験した異なる細胞集団の細胞周期のS期、G1及びG2/M期における細胞頻度を示す。
【図31】単一細胞分散又は細胞塊としてプレーティングされたEXPRES 01細胞及びヒト胚幹細胞におけるEGFPのトランスフェクション効率及び発現を示す。細胞は、蛍光顕微鏡及びフローサイトメトリーにより24時間後に分析された。パネルA)は、EXPRES 01細胞から得られるデータを示す。パネルB)は、ヒト胚幹細胞の単一細胞分散から得られたデータを示し、パネルC)はヒト胚幹細胞の細胞塊から得られたデータを示す。
【図32】デヒドロゲナーゼ酵素活性を表す平均OD指数対a)大気中酸素(約21%)下で培養されたEXPRES 01細胞、b)3% O2下で培養されたEXPRES 01細胞、c)大気中酸素(約21%)下で培養されたEXPRES 02細胞、d)3% O2条件下で培養されたEXPRES 02細胞について、MTSアッセイにより測定された細胞数を示す。
【図33】DMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT3A+100nM GSK−3B阻害剤IX中の組織培養ポリスチレン上に10000細胞/cm2で播種されたEXPRES 01 P27細胞について、リアルタイムPCRにより測定された遺伝子発現を示す。パネルaは、AFP、短尾奇形、SOX−7、及びOTX2の発現量を表す。パネルbは、CXCR4、HNF−3β、GATA−4、SOX−17、Cer1、及びGSCの発現量を表す。
【図34】3継代中、DMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT3A+100nM GSK−3B阻害剤IX中の組織培養ポリスチレン上で培養されたEXPRES 01 P27細胞について、FACSにより測定されたCXCR4(Y軸)及びCD9(x軸)のタンパク質発現を示す。
【図35】GSK−3B及びベータカテニンの発現に対するsiRNAトランスフェクションの効果を示す。EXPRES細胞は、蛍光顕微鏡及び定量RT−PCR法により分析された。A)i)CY3標識siRNA及びii)フルオロセイン標識siRNAでトランスフェクトされた細胞の蛍光顕微鏡像。B)i)GSK−3B及びii)ベータカテニンsiRNAオリゴ配列でトランスフェクトされた細胞中の残存活性(%)として表される標的遺伝子のノックダウン。
【図36】本発明の方法により誘導された2種の細胞株の核型を示す。パネルa:EXPRES01細胞株。パネルb:EXPRES 02細胞株。
【図37】a)2% FBS+DM−F12+100ng/mLのアクチビン−A+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mL IGF又はb)2% FBS+DM−F12+100ng/mLのアクチビン−A+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mL IGF+10μMのRhoキナーゼ阻害剤Y−27632中で24時間培養した後、0継代のEXPRES 15細胞の形態を示す。
【図38】12継代中、2% FBS+DM−F12+100ng/mLのアクチビン−A+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mL IGF+10μMのRhoキナーゼ阻害剤Y−27632中で培養されたEXPRES 15細胞の核型を示す。
【図39】24時間(パネルa)、48時間(パネルb)、及び96時間(パネルc)、指定の濃度でIGF、アクチビン−A、Wnt3A、及びGSK阻害剤IXを添加した基本培地中で培養されたEXPRES11細胞のA490により測定した増殖を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
開示を分かりやすくするため、限定を目的とすることなく、本発明の詳細な説明を、本発明の特定の特徴、実施形態、又は応用を説明又は図示した以下の小項目に分ける。
【0048】
定義
幹細胞とは、1個の細胞レベルで自己再生し、かつ、自己再生性の前駆細胞、非自己再生性の前駆細胞、及び最終分化細胞のような後代細胞を生ずるように分化する能力によって定義される未分化細胞のことである。幹細胞はまた、インビトロで複数の胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)から様々な細胞系統の機能的細胞に分化する能力によって、また移植後に複数の胚葉の組織を生じ、胚盤胞への注入後、全部ではないとしても殆どの組織を提供する能力によっても、特徴付けられる。
【0049】
幹細胞は、それらの発達能力により:(1)全胚及び胚体外細胞型を生じる能力を意味する全能性、(2)全胚細胞型を生じる能力を意味する多能性、(3)細胞系統の小集合を生じるが、全て特定の組織、器官又は生理的システム内で生じる能力を有することを意味する多能性(例えば、造血幹細胞(HSC)は、HSC(自己複製)、血液細胞に限定された寡能性前駆細胞、並びに血液の通常の構成要素である全細胞型及び要素(例えば、血小板)を含む子孫を産生できる)、(4)多能性幹細胞と比較して限定された細胞系統の小集合を生じる能力を有することを意味する寡能性、並びに(5)1つの細胞系統を生じる能力を有することを意味する単能性(例えば、精子形成幹細胞)に分類される。
【0050】
分化は、非特殊化の(「中立の」)又は比較的特殊化されていない細胞が、例えば、神経細胞又は筋細胞等の特殊化した細胞の特徴を獲得するプロセスである。分化した、又は分化を誘発された細胞は、細胞系統内でより特殊化した(「傾倒した(committed)」)状況を呈している細胞である。分化プロセスに適用した際の用語「傾倒した」は、通常の環境下で特定の細胞型又は細胞型の小集合に分化し続ける分化経路の地点に進行しており、通常の環境下で異なる細胞型に分化し、又はより分化されていない細胞型に戻ることができない細胞を指す。脱分化は、細胞が細胞系統内で比較的特殊化されて(又は傾倒して)いない状況に戻るプロセスを指す。本明細書で使用される場合、細胞系統は、細胞の遺伝、即ちその細胞がどの細胞から来たか、またどの細胞を生じ得るかを規定する。細胞系統は、細胞を発達及び分化の遺伝的スキーム内に配置する。系統特異的なマーカーは、関心対象の細胞の表現型に特異的に関連した特徴を指し、中立細胞の関心対象系統への分化を評価する際に使用することができる。
【0051】
本明細書で使用される場合、「AFP」又は「α−フェトプロテインタンパク質」は、肝臓発達の開始時に産生される抗原を指す。AFPは、胚体外細胞内にも発現され得る。
【0052】
「アルブミン」は、成人の全血清タンパク質の約半分を占める可溶性の単量体タンパク質である。
【0053】
「β−細胞系統」は、転写因子PDX−1と、以下の転写因子:NGN−3、Nkx2.2、Nkx6.1、NeuroD、Isl−1、HNF−3β、MAFA、Pax4、及びPax6の少なくとも1つとに関する遺伝子発現が陽性の細胞を指す。β細胞系統に特徴的なマーカーを発現する細胞としては、β細胞が挙げられる。
【0054】
本明細書で使用される場合「短尾奇形」は、Tボックス遺伝子ファミリーのメンバーである。これは、原始線条及び中胚葉細胞に関するマーカーである。
【0055】
本明細書で使用される場合「胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞」とは、以下のマーカー:SOX−17、GATA−4、HNF−3β、GSC、Cer1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix様ホメオボックスタンパク質、FGF4 CD48、エオメソデルミン(eomesodermin)(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA−6、CXCR4、C−Kit、CD99又はOTX2の少なくとも1つを発現する細胞を指す。内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、原始線条前駆体細胞、原始線条細胞、中内胚葉細胞及び胚体内胚葉細胞を含む。
【0056】
「c−Ki」及び「CD117」は、両方とも、Genbank受入番号X06182に開示されている配列、又はその天然に存在する変異体配列(例えば、対立遺伝子変異体)を有する細胞表面受容体チロシンキナーゼを指す。
【0057】
本明細書で使用される場合、「CD99」は、受入番号NM_002414を有する遺伝子によりコードされるタンパク質を指す。
【0058】
本明細書で使用される場合、「膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞」は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する細胞を指す:PDX−1、HNF−1β、PTF−1α、HNF−6、又はHB9。膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵臓内胚葉細胞を含む。
【0059】
本明細書で使用される場合、「膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーを発現する細胞」は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する細胞を指す:NGN−3、NeuroD、Islet−1、PDX−1、NKX6.1、Pax−4、Ngn−3、又はPTF−1α。膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵臓内分泌細胞、膵臓ホルモン発現細胞、及び膵臓ホルモン分泌細胞、並びにβ−細胞系統の細胞を含む。
【0060】
本明細書で使用される場合、「Cer1」又は「Cerebrus」は、タンパク質のシステインノットスーパーファミリーのメンバーである。
【0061】
本明細書で使用される場合「CXCR4」は、「LESTER」又は「フーシン」としても知られているストロマ細胞由来因子1(SDF−1)受容体を指す。原腸形成マウス胚では、CXCR4は、胚体内胚葉及び中胚葉で発現するが、胚体外内胚葉では発現しない。
【0062】
本明細書で使用される場合、「胚体内胚葉」は、原腸形成中、胚盤葉上層から生じ、胃腸管及びその誘導体を形成する細胞の特徴を保持する細胞を指す。胚体内胚葉細胞は、以下のマーカーを発現する:HNF−3β、GATA−4、SOX−17、Cerberus、OTX2、グースコイド、C−Kit、CD99、及びMixl1。
【0063】
本明細書で使用される場合、「胚体外内胚葉」は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する細胞の集団を指す:SOX−7、AFP、及びSPARC。
【0064】
本明細書で使用される場合、「FGF−2」「FGF−4」「FGF−8」「FGF−10」及び「FGF−17」は、繊維芽細胞増殖因子ファミリーのメンバーである。
【0065】
「GATA−4」及び「GATA−6」は、GATA転写因子ファミリーのメンバーである。この転写因子のファミリーは、TGF−βシグナル伝達により誘発され、早期の内胚葉マーカーの維持に寄与する。
【0066】
本明細書で使用される場合、「GLUT−2」は、膵臓、肝臓、腸、脳、及び腎臓を含む、胎児及び成人の多数の組織内にて発現されるブドウ糖輸送体分子を指す。
【0067】
本明細書で使用される場合、「グースコイド」又は「GSC」は、原口背唇内に発現されたホメオドメイン転写因子を指す。
【0068】
本明細書で使用される場合、「HB9」は、ホメオボックス遺伝子9を指す。
「HNF−1α」「HNF−1β」「HNF−3β」及び「HNF−6」は、転写因子の肝臓核因子ファミリーに属し、高度に保護されたDNA結合ドメインと2つの短いカルボキシ−末端ドメインにより特徴付けられる。
【0069】
本明細書で使用される場合、「Islet−1」又は「Isl−1」は、転写因子のLIM/ホメオドメインファミリーのメンバーであり、発達中の膵臓内で発現する。
【0070】
本明細書で使用される場合、「MafA」は、膵臓内に発現された転写因子であり、インスリンの生合成及び分泌に関与する遺伝子の発現を制御する。
【0071】
本明細書で使用される場合、「マーカー」は、関心対象の細胞内で差異的に発現される核酸又はポリペプチド分子である。本文脈において、差異的な発現は、陽性マーカーのレベルの増大及び陰性マーカーのレベルの減少を意味する。検出可能なレベルのマーカー核酸又はポリペプチドは、他の細胞と比較して関心対象の細胞内で十分高いか、又は低く、そのため当技術分野で公知の多様な方法のいずれかを使用して、関心対象の細胞を他の細胞から識別及び区別することができる。
【0072】
本明細書で使用される場合、「中内胚葉細胞」は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する細胞を指す:CD48、エオメリデルミン(EOMES)、SOX−17、DKK4、HNF−3β、GSC、FGF17、GATA−6。
【0073】
本明細書で使用される場合、「Mixl1」は、原始線条、中胚葉、及び内胚葉内の細胞のマーカーであるホメオボックス遺伝子を指す。
【0074】
本明細書で使用される場合、「NeuroD」は、ニューロン新生に関わる塩基性ヘリックス−ループ−ヘリックス(bHLH)転写因子である。
【0075】
本明細書で使用される場合、「NGN−3」は、塩基性ループヘリックス−ループ転写因子のニューロゲニンファミリーのメンバーである。
【0076】
本明細書で使用される場合、「Nkx−2.2」及び「Nkx−6.1」は、Nkx転写因子ファミリーのメンバーである。
【0077】
本明細書で使用される場合、「Nodal」は、タンパク質のTGFβスーパーファミリーのメンバーである。
【0078】
「Oct−4」は、POU−ドメイン転写因子のメンバーであり、多能性幹細胞の指標(hallmark)であると広く見なされている。Oct−4と多能性幹細胞との関係は、その発現が未分化多能性幹細胞に固く制限されていることによって示される。体細胞系統に分化した後、Oct−4の発現は急速に消失する。
【0079】
本明細書で使用される場合、「膵臓内分泌細胞」又は「膵臓ホルモン発現細胞」は、以下のホルモンの少なくとも1つを発現することができる細胞を指す:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチド。
【0080】
本明細書で使用される場合、「膵臓ホルモン分泌細胞」は、以下のホルモンの少なくとも1つを分泌できる細胞を指す:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチド。
【0081】
本明細書で使用される場合、「Pax−4」及び「Pax−6」は、膵島発達に関与する、膵臓β細胞に特異的な転写因子である。
【0082】
本明細書で使用される場合、「PDX−1」は、膵臓発達に関与するホメオドメイン転写因子を指す。
【0083】
本明細書で使用される場合、「前原始線条細胞」は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する細胞を指す:Nodal、又はFGF8。
【0084】
本明細書で使用される場合、「原始線条細胞」は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する細胞を指す:短尾奇形、Mix−様ホメオボックスタンパク質、又はFGF4。
【0085】
本明細書で使用される場合、「PTF−1α」は、三量体の膵臓転写因子−1(PTF1)の配列特異的なDNA結合サブユニットである、48kDの塩基性ヘリックス−ループ−ヘリックスタンパク質を指す。
【0086】
本明細書で使用される場合、「SOX−1」「SOX−2」「SOX−7」及び「SOX−17」は、SOX転写因子ファミリーのメンバーであり、胚発生に関与している。
【0087】
本明細書で使用される場合、「SPARC」は、「酸性の、システインに富んだ分泌タンパク質」としても公知である。
【0088】
「SSEA−1」(段階特異的な胚抗原−1)は、ハツカネズミ奇形癌幹細胞(EC)、ハツカネズミ及びヒト胚生殖細胞(EG)、並びにハツカネズミ胚幹細胞(ES)の表面上に存在する糖脂質表面抗原である。
【0089】
「SSEA−3」(段階特異的な胚抗原−3)は、ヒト奇形癌幹細胞(EC)、ヒト胚生殖細胞(EG)、及びヒト胚幹細胞(ES)の表面上に存在する糖脂質表面抗原である。
【0090】
「SSEA−4」(段階特異的な胚抗原−4)は、ヒト奇形癌幹細胞(EC)、ヒト胚生殖細胞(EG)、及びヒト胚幹細胞(ES)の表面上に存在する糖脂質表面抗原である。
【0091】
「TRA1−60」は、ヒト奇形癌幹細胞(EC)、ヒト胚生殖細胞(EG)、及びヒト胚幹細胞(ES)の表面上に発現するケラチン硫酸塩関連の抗原である。
【0092】
「TRA1−81」は、ヒト奇形癌幹細胞(EC)、ヒト胚生殖細胞(EG)、及びヒト胚幹細胞(ES)の表面上に発現するケラチン硫酸塩関連の抗原である。
【0093】
「TRA2−49」は、ヒト奇形癌幹細胞(EC)及びヒト胚幹細胞(ES)の表面に発現されるアルカリホスファターゼアイソザイムである。
【0094】
本明細書で使用される場合、「UTF−1」は、多能性胚幹細胞及び胚体外細胞内に発現される転写共役因子を指す。
【0095】
本明細書で使用される場合、「Zic1」は、Zic転写因子ファミリーのメンバーである。Zic1は、神経及び神経堤に特異的な遺伝子の発現を調節し、背側神経管及び遊走前(premigratory)神経堤の細胞内に発現される。
【0096】
多能性マーカーを発現する細胞を誘導する方法
本発明は、培養物中低血清下で容易に増殖することができ、フィーダー細胞株又は複合マトリクスタンパク質のコーティングの必要なく、単一細胞懸濁液中で継代することができ、非常に高効率でトランスフェクションすることができ、かつ低酸素条件下で培養される、ヒト胚幹細胞の特徴を有する細胞集団を提供する。この独特な特性の組み合わせにより、本発明に記載される細胞は先行技術と区別される。
【0097】
1つの実施形態では、本発明は、多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.細胞を得る工程と、
b.細胞を培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0098】
細胞は、ヒト胚幹細胞であってもよく、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞であってもよい。ヒト胚幹細胞は、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養してもよい。あるいは、ヒト胚幹細胞は低酸素条件下で培養してもよい。
【0099】
胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養してもよい。あるいは、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を低酸素条件下で培養してもよい。
【0100】
1つの実施形態では、本発明は、多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
b.ヒト胚幹細胞を、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程と、
c.細胞を除去し、次いで細胞を、培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0101】
1つの実施形態では、本発明は、多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
b.細胞を除去し、次いで細胞を、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0102】
タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上での、低酸素条件下における細胞培養
1つの実施形態では、細胞は、約1〜約20日間細胞外マトリクスでコーティングされていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養される。代替実施形態では、細胞は、約5〜約20日間細胞外マトリクスでコーティングされていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養される。代替実施形態では、細胞は、約15日間細胞外マトリクスでコーティングされていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養される。
【0103】
1つの実施形態では、低酸素条件は約1% O2〜約20% O2である。代替実施形態では、低酸素条件は約2%O2〜約10% O2である。代替実施形態では、低酸素条件は約3% O2である。
【0104】
細胞は、血清、アクチビン−A、及びWntリガンドを含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。あるいは、培地はIGF−1を含有していてもよい。
【0105】
培地は、約2%〜約5%の範囲内の血清濃度を有してもよい。代替的な実施形態において、血清濃度は、約2%であってもよい。
【0106】
アクチビン−Aは、約1pg/mL〜約100μg/mLの濃度で使用されてもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約1μg/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約50ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約100ng/mLであってもよい。
【0107】
Wntリガンドは、Wnt−1、Wnt−3a、Wnt−5a及びWnt−7aからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、Wntリガンドは、Wnt−1である。代替的な実施形態において、Wntリガンドは、Wnt−3aである。
【0108】
Wntリガンドは、約1ng/mL〜約1000ng/mLの濃度で使用されてもよい。代替実施形態では、Wntリガンドは、約10ng/mL〜約100ng/mLの濃度で使用されてもよい。1つの実施形態では、Wntリガンドの濃度は約20ng/mLである。
【0109】
IGF−1は、約1ng/mL〜約100ng/mLの濃度で使用されてもよい。代替実施形態では、IGF−1は、約10ng/mL〜約100ng/mLの濃度で使用されてもよい。1つの実施形態では、IGF−1の濃度は約50ng/mLである。
【0110】
本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて、培養物中で増殖することができる。
【0111】
本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、ABCG2、cripto、FoxD3、コネキシン43、コネキシン45、Oct4、SOX−2、Nanog、hTERT、UTF−1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra1−60、及びTra1−81からなる群から選択される多能性マーカーの少なくとも1つを発現する。
【0112】
1つの実施形態では、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、前原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現することができる。
【0113】
1つの実施形態では、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現することができる。
【0114】
1つの実施形態では、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、中内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現することができる。
【0115】
1つの実施形態では、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現することができる。
【0116】
本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞の更なる分化
本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、当該技術分野における任意の方法により、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0117】
例えば、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、D’Amour et al,Nature Biotechnology 23,1534〜1541(2005)に開示されている方法にしたがって、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0118】
例えば、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、Shinozaki et al,Development 131,1651〜1662(2004)に開示されている方法にしたがって、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0119】
例えば、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、McLean et al,Stem Cells 25,29〜38(2007)に開示されている方法にしたがって、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0120】
例えば、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、D’Amour et al,Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている方法にしたがって、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0121】
例えば、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、血清の非存在下にてアクチビン−Aを含有している培地中で多能性幹細胞を培養し、次いで細胞をアクチビン−A及び血清とともに培養し、次いで細胞をアクチビン−A及び様々な濃度の血清とともに培養することによって、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。この方法の例は、D’Amour et al,Nature Biotechnology,23,1534〜1541,2005に開示されている。
【0122】
胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の更なる分化
胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、当該技術分野における任意の方法により、膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0123】
例えば、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、D’Amour et al,Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている方法にしたがって、膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0124】
例えば、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を、繊維芽細胞増殖因子及びKAAD−シクロパミンで処理した後、繊維芽細胞増殖因子及びKAAD−シクロパミンを含有する培地を除去し、続いて細胞をレチノイン酸、繊維芽細胞増殖因子及びKAAD−シクロパミンを含有する培地中で培養することにより、膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に更に分化される。この方法の例は、D’Amour et al,Nature Biotechnology,24,1392〜1401(2006)に開示されている。
【0125】
膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の更なる分化
膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、当該技術分野における任意の方法により、膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0126】
例えば、膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、D’Amour et al,Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている方法にしたがって、膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0127】
制限されるものではないが、以下のセクションは、本発明の方法に係る多能性マーカー及び胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を形成するための好適な出発物質である細胞を得るための方法の例を含む。
【0128】
ヒト胚幹細胞の単離、増殖、及び培養
ヒト胚幹細胞の特徴付け:ヒト胚幹細胞は、発生段階特異的胚性抗原(SSEA)3及び4の1つ以上、並びにTra−1−60及びTra−1−81と呼ばれる抗体を用いて検出可能なマーカーを発現し得る(Thomson et al.,Science 282:1145,1998)。インビトロでのヒト胚幹細胞の分化は、SSEA−4、Tra−1−60、及びTra−1−81の発現(存在する場合)を消失させ、SSEA−1の発現を増加させる。未分化のヒト胚幹細胞は、通常、アルカリホスファターゼ活性を有し、この活性は、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した後、製造業者(Vector Laboratories,Burlingame Calif.)によって述べられるようにVectorRedを基質として現像することによって検出することができる。未分化多能性幹細胞はまた、RT−PCRで検出されるように、一般にOct−4及びTERTも発現する。
【0129】
増殖したヒト胚幹細胞の他の望ましい表現型は、3つの全胚葉:内胚葉、中胚葉、及び外胚葉組織の細胞に分化する能力である。ヒト胚幹細胞の多能性は、例えば細胞をSCIDマウスに注入し、4%パラホルムアルデヒドを使用して、形成された奇形腫を固定した後、それらを3つの胚葉からの細胞型の痕跡に関して組織学的に検査することにより確認することができる。代替的に、多能性は、胚様体を形成し、この胚様体を3つの胚葉に関連したマーカーの存在に関して評価することにより決定することができる。
【0130】
増殖させたヒト胚幹細胞株は、標準的なGバンド法を用いて核型を決定し、対応する霊長類種の公表されている核型と比較することができる。「正常な核型」を有する細胞を得ることが望ましい。これは、細胞が、ヒトの染色体がすべて揃っており、かつ目立った変化のない正倍数体であることを意味する。
【0131】
ヒト胚幹細胞の源:使用できるヒト胚幹細胞の種類は、妊娠後に形成された組織由来のヒト胚幹細胞の確立された株を含み、この組織には、前胚組織(例えば胚盤胞)、胚組織、又は妊娠中の任意の時点、必ずしもそうではないが典型的には妊娠約10〜12週の前に採取された胎児組織が含まれる。非限定的な例は、例えばヒト胚幹細胞株H1、H7、及びH9(WiCell)等のヒト胚幹細胞又はヒト胚生殖細胞の確立株である。それらの細胞の最初の確立又は安定化中に本開示の組成物を使用することも想定され、その場合、源となる細胞は、源となる組織から直接採取した一次多能性細胞であろう。フィーダー細胞の不在下で既に培養された多能性幹細胞集団から採取した細胞も好適である。例えば、BG01v(BresaGen,Athens,GA)等の変異ヒト胚幹細胞株も好適である。
【0132】
1つの実施形態では、ヒト胚性幹細胞をThomsonらによって述べられるように調製する(米国特許第5,843,780号、Science 282:1145,1998;Curr.Top.Dev.Biol.38:133 ff.,1998;Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.92:7844,1995)。
【0133】
ヒト胚幹細胞の培養:1つの実施形態では、ヒト胚幹細胞は、本質的にフィーダー細胞を含まないにもかかわらず、実質的に分化を受けることなくヒト胚幹細胞の増殖を支持する培養系で培養される。分化をともなわない無フィーダー細胞培養中でのヒト胚幹細胞の増殖は、別の細胞種と予め培養することによって馴化した培地を用いることで支持される。また、分化をともなわない無フィーダー細胞培養中でのヒト胚幹細胞の増殖は、合成培地を用いることによっても支持される。
【0134】
代替実施形態では、ヒト胚幹細胞は、種々の方法でヒト胚幹細胞を支持するフィーダー細胞の最初に培養された層である。次いでヒト胚を、本質的にフィーダー細胞を含まないにもかかわらず、実質的に分化を受けることなくヒト胚幹細胞の増殖を支持する培養系に移す。
【0135】
本発明で用いるのに好適な馴化培地の例は、米国特許出願公開第20020072117号、米国特許第6642048号、国際公開第2005014799号、及びXuら(Stem Cells 22:972〜980,2004)に開示されている。
【0136】
本発明で用いるのに好適な合成培地の例は、米国特許出願公開第20070010011号中にも見出すことができる。
【0137】
好適な培地は、以下の成分、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Gibco No.11965−092;ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地(KO DMEM)、Gibco No.10829−018;ハムF12/50% DMEM基礎培地;200mM L−グルタミン、Gibco No.15039−027;非必須アミノ酸溶液、Gibco11140−050、β−メルカプトエタノール、Sigma No.7522;ヒト組み換え塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、Gibco No.13256−029などから調製することができる。
【0138】
1つの実施形態では、ヒト胚幹細胞は、本発明の方法にしたがって処理する前に処理される好適な培養基質上にプレーティングされる。1つの実施形態において、処理は、例えば基底膜から誘導されたもの、又は接着分子受容体−リガンド結合の一部を形成し得るもの等の細胞外マトリクス成分である。1つの実施形態では、好適な培養基質は、MATRIGEL(Becton Dickenson)である。MATRIGELは、Engelbreth−Holm−Swarm腫瘍細胞からの可溶性製剤であり、室温でゲル化して再構成基底膜を形成する。
【0139】
他の細胞外マトリクス成分及び成分混合物は代替物として好適である。これは、ラミニン、フィブロネクチン、プロテオグリカン、エンタクチン、ヘパラン硫塩、及び同様物を、単独で又は様々な組み合わせで含み得る。
【0140】
ヒト胚幹細胞は、好適な分布で、細胞の生存、増殖、及び所望の特徴の維持を促進する培地の存在下、基質上にプレーティングされる。この特徴の全部は、播種分布に細心の注意を払うことから利益を得、当業者は容易に決定することができる。
【0141】
次いでヒト胚幹細胞は処理された組織培養基質から除去され、非処理組織培養基質上にプレーティングされ、その後本発明の方法にしたがって処理されて、多能性マーカー及び胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を形成する。
【0142】
ヒト胚幹細胞の胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化
ヒト胚幹細胞は、当技術分野における任意の方法により、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、本発明の方法に係る処理に好適である。
【0143】
例えば、ヒト胚幹細胞は、D’Amour et al,Nature Biotechnology 23,1534〜1541(2005)に開示される方法にしたがって胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0144】
例えば、ヒト胚幹細胞は、Shinozaki et al,Development 131,1651〜1662(2004)に開示される方法にしたがって胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0145】
例えば、ヒト胚幹細胞は、McLean et al,Stem Cells 25,29〜38(2007)に開示されている方法にしたがって胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0146】
細胞外マトリクス上で培養されたヒト胚幹細胞の胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化
1つの実施形態では、本発明は、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現するヒト胚幹細胞を分化させる方法であって、
a.細胞外マトリクスでコーティングされた組織培養基質上に、ヒト胚幹細胞をプレーティングする工程と、
b.アクチビン−A及びWntリガンドとともにヒト胚幹細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0147】
胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、次いで本発明の方法により処理されて、多能性マーカー及び胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を形成する。
【0148】
ヒト胚幹細胞のアクチビン−A及びWntリガンドとの培養は、単一の培地中で実行されてもよい。あるいは、ヒト胚幹細胞のアクチビン−A及びWntリガンドとの培養は、2つ以上の培地中で実行されてもよい。1つの実施形態において、ヒト胚幹細胞のアクチビン−A及びWntリガンドとの培養は、2つの培地中で実行される。
【0149】
細胞外マトリクス:本発明の1つの態様において、ヒト胚幹細胞は、細胞外マトリクスでコーティングされた組織培養基質上で培養及び分化される。細胞外マトリクスは、マウス肉腫細胞から抽出された可溶化基底膜製剤(商品名MATRIGELでBD Biosciencesから販売されている)であってもよい。あるいは、細胞外マトリクスは、増殖因子減少MATRIGELであってもよい。あるいは、細胞外マトリクスは、フィブロネクチンであってもよい。代替実施形態において、ヒト胚幹細胞は、ヒト血清でコーティングされた組織培養基質上で培養及び分化されてもよい。
【0150】
細胞外マトリクスは、組織培養基質でコーティングされる前に希釈されてもよい。細胞外マトリクスの希釈と、組織培養基質のコーティングに関する好適な方法の例は、Kleinman,H.K.,et al.,Biochemistry 25:312(1986年)、及びHadley,M.A.,et al.,J.Cell.Biol.101:1511(1985年)に見出すことができる。
【0151】
1つの実施形態では、細胞外マトリクスは、MATRIGELである。1つの実施形態では、組織培養基質は、1:10希釈のMATRIGELによりコーティングされる。代替的な実施形態において、組織培養基質は、1:15希釈のMATRIGELによりコーティングされる。代替的な実施形態において、組織培養基質は、1:30希釈のMATRIGELによりコーティングされる。代替的な実施形態において、組織培養基質は、1:60希釈のMATRIGELによりコーティングされる。
【0152】
1つの実施形態では、細胞外マトリクスは、増殖因子減少MATRIGELである。1つの実施形態では、組織培養基質は、1:10希釈の増殖因子減少MATRIGELによりコーティングされる。代替的な実施形態において、組織培養基質は、1:15希釈の増殖因子減少MATRIGELによりコーティングされる。代替的な実施形態において、組織培養基質は、1:30希釈の増殖因子減少MATRIGELによりコーティングされる。代替的な実施形態において、組織培養基質は、1:60希釈の増殖因子減少MATRIGELによりコーティングされる。
【0153】
単一培地を用いた、細胞外マトリクス上における、ヒト胚幹細胞の胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化:1つの実施形態では、本発明は、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現するヒト胚幹細胞を分化させる方法であって、
a.細胞外マトリクスでコーティングされた組織培養基質上に、ヒト胚幹細胞をプレーティングする工程と、
b.アクチビン−A及びWntリガンドとともにヒト胚幹細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0154】
単一培地は、ヒト胚幹細胞を胚体内胚葉へ分化させるのに十分低い濃度の所定の因子、例えばインスリン及びIGF等を含有すべきである(国際公開第2006020919号に開示されているように)。このことは、血清濃度を低下させる、あるいはインスリン及びIGFが欠乏した合成培地を使用することにより達成され得る。合成培地の例は、Wilesら(Exp Cell Res.1999 Feb 25;247(1):241〜8)に開示されている。
【0155】
培地は、約0%〜約10%の範囲内の血清濃度を有してもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約0%〜約5%の範囲内であってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約0%〜約2%の範囲内であってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約2%であってもよい。
【0156】
アクチビン−A及びWntリガンドとの培養時間は、約1日間〜約7日間にわたっていてもよい。代替的な実施形態において、培養時間は、約1日間〜約3日間にわたっていてもよい。代替的な実施形態において、培養時間は約3日間であってもよい。
【0157】
アクチビン−Aは、好適な任意の濃度で使用されて、ヒト胚幹細胞を分化させることができる。濃度は、約1pg/mL〜約100μg/mLであってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約1μg/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約50ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約100ng/mLであってもよい。
【0158】
Wntリガンドの選択は最適化されて、分化プロセスの効率を改善することができる。Wntリガンドは、Wnt−1、Wnt−3a、Wnt−5a及びWnt−7aからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、Wntリガンドは、Wnt−1である。代替的な実施形態において、Wntリガンドは、Wnt−3aである。
【0159】
Wntリガンドは、濃度約1ng/mL〜約1000ng/mLであってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約10ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。
【0160】
単一の培地は、GSK−3B阻害剤も含み得る。GSK−3B阻害剤は、GSK−3B阻害剤IX及びGSK−3B阻害剤XIからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、GSK−3B阻害剤は、GSK−3B阻害剤IXである。
【0161】
ヒト胚幹細胞がGSK−3B阻害剤と共に培養される際、GSK−3B阻害剤の濃度は、約1nM〜約1000nMであってもよい。代替的な実施形態において、ヒト胚幹細胞は、濃度約10nM〜約100nMのGSK−3B阻害剤と共に培養される。
【0162】
単一の培地はまた、ヒト胚幹細胞からの胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の形成を向上させ得る少なくとも1つの他の追加の因子を含有してもよい。代替的に、少なくとも1つの他の追加の因子は、本発明の方法により形成された、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の増殖を高め得る。更に、少なくとも1つの他の追加の因子は、本発明の方法により形成された、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の、他の細胞型の形成の能力を向上させ、又は任意の他の追加の分化工程の効率を改善し得る。
【0163】
少なくとも1つの追加の因子は、例えば、ニコチンアミド、TGF−β1、2、及び3を含むTGF−βファミリーのメンバー、血清アルブミン、繊維芽細胞増殖因子ファミリーのメンバー、血小板由来増殖因子−AA、及び−BB、血小板に富んだ血漿、インスリン増殖因子(IGF−I、II)、増殖分化因子(GDF−5、−6、−8、−10、11)、グルカゴン様ペプチド−I及びII(GLP−I及びII)、GLP−1及びGLP−2疑似体、エキセンディン−4、レチノイン酸、副甲状腺ホルモン、インスリン、プロゲステロン、アプロチニン、ヒドロコルチゾン、エタノールアミン、βメルカプトエタノール、上皮増殖因子(EGF)、ガストリンI及びII、例えばトリエチレンペンタミン等の銅キレーター、フォルスコリン、酪酸Na、アクチビン、ベータセルリン、ITS、ノギン、神経突起増殖因子、nodal、バルプロ酸、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、肝細胞増殖因子(HGF)、スフィンゴシン1、VEGF、MG132(EMD,CA)、N2及びB27サプリメント(Gibco,CA)、例えばシクロパミン(EMD,CA)等のステロイドアルカロイド、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、Dickkopfタンパク質ファミリー、ウシ下垂体抽出物、膵島新生に関連したタンパク質(INGAP)、インディアンヘッジホッグ、ソニックヘッジホッグ、プロテアソーム阻害剤、ノッチ経路阻害剤、ソニックヘッジホッグ阻害剤、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0164】
少なくとも1つの他の追加の因子は、例えば、PANC−1(ATCC No:CRL−1469)、CAPAN−1(ATCC No:HTB−79)、BxPC−3(ATCC No:CRL−1687)、HPAF−II(ATCC No:CRL−1997)等の膵臓細胞株、例えば、HepG2(ATCC No:HTB−8065)等の肝臓細胞株、及び例えば、FHs74(ATCC No:CCL−241)等の腸細胞株から得られた条件培地により供給されてもよい。
【0165】
2つの培地を用いた、細胞外マトリクス上における、ヒト胚幹細胞の胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化:ヒト胚幹細胞の胚体内胚葉系統の細胞への分化は、2つの培地を用いて、アクチビン−A及びWntリガンドとともにヒト胚幹細胞を培養することにより達成し得る。したがって、ヒト胚幹細胞の分化は、以下のように達成され得る:
a.細胞外マトリクスでコーティングされた組織培養基質上に、ヒト胚幹細胞をプレーティングする工程と、
b.ヒト胚幹細胞を、アクチビン−A及びWntリガンドとともに第1の培地中で培養する工程と、
c.ヒト胚幹細胞を、第2の培地中でアクチビン−Aとともに培養する工程。
【0166】
第1の培地は、低濃度の血清を含有してもよく、第2の培地は、第1の培地よりも高い濃度の血清を含有してもよい。
【0167】
第2の培地は、Wntリガンドを含有してもよい。
【0168】
第1の培地:第1の培地は、ヒト胚幹細胞を胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞へ分化させるのに十分低い濃度の所定の因子、例えばインスリン及びIGF等を含有すべきである(国際公開第2006020919号に開示されているように)。このことは、血清濃度を低下させ、又は代替的に、インスリン及びIGFが欠乏した合成培地を使用することにより達成され得る。合成培地の例は、Wilesら(Exp Cell Res.1999 Feb 25、247(1):241〜8.)に開示されている。
【0169】
第1の培地中に、第2の培地と比較して低い濃度の血清が存在してもよい。第2の培地の血清濃度を増大させることは、細胞の生存を増大させ、又は代替的に細胞の増殖を向上させ得る。第1の培地の血清濃度は、約0%〜約10%の範囲内であってもよい。代替的に、第1の培地の血清濃度は、約0%〜約2%の範囲内であってもよい。代替的に、第1の培地の血清濃度は、約0%〜約1%の範囲内であってもよい。代替的に、第1の培地の血清濃度は、約0.5%であってもよい。
【0170】
ヒト胚幹細胞を、少なくとも2つの培地を用いてアクチビン−A及びWntリガンドと共に培養する際、第1の培地中での培養時間は、約1日間〜約3日間にわたってもよい。
【0171】
アクチビン−Aは、好適な任意の濃度で使用されて、ヒト胚幹細胞を分化させることができる。濃度は、約1pg/mL〜約100μg/mLであってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約1μg/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約50ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約100ng/mLであってもよい。
【0172】
Wntリガンドの選択は最適化されて、分化プロセスの効率を改善することができる。Wntリガンドは、Wnt−1、Wnt−3a、Wnt−5a及びWnt−7aからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、Wntリガンドは、Wnt−1である。代替的な実施形態において、Wntリガンドは、Wnt−3aである。
【0173】
Wntリガンドは、濃度約1ng/mL〜約1000ng/mLであってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約10ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。
【0174】
第1の培地は、GSK−3B阻害剤も含有し得る。GSK−3B阻害剤は、第1の培地に、第2の培地に、又は第1の培地と第2の培地の両方に添加されてもよい。
【0175】
GSK−3B阻害剤は、GSK−3B阻害剤IX及びGSK−3B阻害剤XIからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、GSK−3B阻害剤は、GSK−3B阻害剤IXである。
【0176】
ヒト胚幹細胞がGSK−3B阻害剤と共に培養される際、GSK−3B阻害剤の濃度は、約1nM〜約1000nMであってもよい。代替的な実施形態において、ヒト胚幹細胞は、濃度約10nM〜約100nMのGSK−3B阻害剤と共に培養される。
【0177】
第1の培地は、ヒト胚幹細胞からの、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の形成を向上させ得る少なくとも1つの他の追加の因子も含有し得る。代替的に、少なくとも1つの他の追加の因子は、本発明の方法により形成された、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の増殖を高め得る。更に、少なくとも1つの他の追加の因子は、本発明の方法により形成された、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の、他の細胞型の形成の能力を向上させ、又は任意の他の追加の分化工程の効率を改善し得る。
【0178】
少なくとも1つの追加の因子は、例えば、ニコチンアミド、TGF−β1、2、及び3を含むTGF−βファミリーのメンバー、血清アルブミン、繊維芽細胞増殖因子ファミリーのメンバー、血小板由来増殖因子−AA、及び−BB、血小板に富んだ血漿、インスリン増殖因子(IGF−I、II)、増殖分化因子(GDF−5、−6、−8、−10、11)、グルカゴン様ペプチド−I及びII(GLP−I及びII)、GLP−1及びGLP−2疑似体、エキセンディン−4、レチノイン酸、副甲状腺ホルモン、インスリン、プロゲステロン、アプロチニン、ヒドロコルチゾン、エタノールアミン、βメルカプトエタノール、上皮増殖因子(EGF)、ガストリンI及びII、例えばトリエチレンペンタミン等の銅キレーター、フォルスコリン、酪酸Na、アクチビン、ベータセルリン、ITS、ノギン、神経突起増殖因子、nodal、バルプロ酸、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、肝細胞増殖因子(HGF)、スフィンゴシン−1、VEGF、MG132(EMD,CA)、N2及びB27サプリメント(Gibco,CA)、例えばシクロパミン(EMD,CA)等のステロイドアルカロイド、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、Dickkopfタンパク質ファミリー、ウシ下垂体抽出物、膵島新生に関連したタンパク質(INGAP)、インディアンヘッジホッグ、ソニックヘッジホッグ、プロテアソーム阻害剤、ノッチ経路阻害剤、ソニックヘッジホッグ阻害剤、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0179】
少なくとも1つの他の追加の因子は、例えば、PANC−1(ATCC No:CRL−1469)、CAPAN−1(ATCC No:HTB−79)、BxPC−3(ATCC No:CRL−1687)、HPAF−II(ATCC No:CRL−1997)等の膵臓細胞株、例えば、HepG2(ATCC No:HTB−8065)等の肝臓細胞株、及び例えば、FHs74(ATCC No:CCL−241)等の腸細胞株から得られた条件培地により供給されてもよい。
【0180】
第2の培地:第2の培地は、例えば、インスリン及びIGF(国際公開第2006020919号に開示されているような)等の所定の因子を、培養された細胞の生存を促進するに十分な濃度で含有する必要がある。このことは、血清濃度を増大させることにより、又は代替的に、インスリン及びIGFの濃度が、第1の培地と比較して増大されている合成培地を使用することにより達成し得る。合成培地の例は、Wilesら(Exp Cell Res.1999 Feb 25;247(1):241〜8.)に開示されている。
【0181】
より高い血清濃度を有する第2の培地において、第2の培地の血清濃度は、約0.5%〜約10%の範囲内であってもよい。代替的に、第2の培地の血清濃度は、約0.5%〜約5%の範囲内であってもよい。代替的に、第2の培地の血清濃度は、約0.5%〜約2%の範囲内であってもよい。あるいは、第2の培地の血清濃度は、約2%のであってもよい。ヒト胚幹細胞を第2の培地とともに培養するとき、培養時間は約1日間〜約4日間にわたってもよい。
【0182】
第1の培地と同様、アクチビン−Aは、ヒト胚幹細胞を分化させる好適な任意の濃度で使用されてもよい。濃度は、約1pg/mL〜約100μg/mLであってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約1μg/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約50ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約100ng/mLであってもよい。
【0183】
Wntリガンドは、濃度約1ng/mL〜約1000ng/mLであってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約10ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。
【0184】
Wntリガンドは、Wnt−1、Wnt−3a、Wnt−5a及びWnt−7aからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、Wntリガンドは、Wnt−1である。代替的な実施形態において、Wntリガンドは、Wnt−3aである。
【0185】
第2の培地は、GSK−3B阻害剤も含有し得る。GSK−3B阻害剤は、第1の培地に、第2の培地に、又は第1の培地と第2の培地の両方に添加されてもよい。
【0186】
GSK−3B阻害剤は、GSK−3B阻害剤IX及びGSK−3B阻害剤XIからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、GSK−3B阻害剤は、GSK−3B阻害剤IXである。
【0187】
ヒト胚幹細胞がGSK−3B阻害剤と共に培養される際、GSK−3B阻害剤の濃度は、約1nM〜約1000nMであってもよい。代替的な実施形態において、ヒト胚幹細胞は、濃度約10nM〜約100nMのGSK−3B阻害剤と共に培養される。
【0188】
第1の培地と同様、第2の培地はまた、ヒト胚幹細胞からの胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の形成を向上させ得る少なくとも1つの他の追加の因子を含有してもよい。代替的に、少なくとも1つの他の追加の因子は、本発明の方法により形成された、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の増殖を高め得る。更に、少なくとも1つの他の追加の因子は、本発明の方法により形成された、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の、他の細胞型の形成の能力を向上させ、又は任意の他の追加の分化工程の効率を改善し得る。
【0189】
少なくとも1つの追加の因子は、例えば、ニコチンアミド、TGF−β1、2、及び3を含むTGF−βファミリーのメンバー、血清アルブミン、繊維芽細胞増殖因子ファミリーのメンバー、血小板由来増殖因子−AA、及び−BB、血小板に富んだ血漿、インスリン増殖因子(IGF−I、II)、増殖分化因子(GDF−5、−6、−8、−10、11)、グルカゴン様ペプチド−I及びII(GLP−I及びII)、GLP−1及びGLP−2疑似体、エキセンディン−4、レチノイン酸、副甲状腺ホルモン、インスリン、プロゲステロン、アプロチニン、ヒドロコルチゾン、エタノールアミン、βメルカプトエタノール、上皮増殖因子(EGF)、ガストリンI及びII、例えばトリエチレンペンタミン等の銅キレーター、フォルスコリン、酪酸Na、アクチビン、ベータセルリン、ITS、ノギン、神経突起増殖因子、nodal、バルプロ酸、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、肝細胞増殖因子(HGF)、スフィンゴシン−1、VEGF、MG132(EMD,CA)、N2及びB27サプリメント(Gibco,CA)、例えばシクロパミン(EMD,CA)等のステロイドアルカロイド、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、Dickkopfタンパク質ファミリー、ウシ下垂体抽出物、膵島新生に関連したタンパク質(INGAP)、インディアンヘッジホッグ、ソニックヘッジホッグ、プロテアソーム阻害剤、ノッチ経路阻害剤、ソニックヘッジホッグ阻害剤、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0190】
少なくとも1つの他の追加の因子は、例えば、PANC−1(ATCC No:CRL−1469)、CAPAN−1(ATCC No:HTB−79)、BxPC−3(ATCC No:CRL−1687)、HPAF−II(ATCC No:CRL−1997)等の膵臓細胞株、例えば、HepG2(ATCC No:HTB−8065)等の肝臓細胞株、及び例えば、FHs74(ATCC No:CCL−241)等の腸細胞株から得られた条件培地により供給されてもよい。
【0191】
本発明を以下の実施例により更に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0192】
(実施例1)
ヒト胚幹細胞の培養
幹細胞とは、1個の細胞レベルで自己再生し、かつ自己再生性の前駆細胞、非自己再生性の前駆細胞、及び最終分化細胞のような後代細胞を生ずるように分化する能力によって定義される未分化細胞のことである。幹細胞はまた、インビトロで複数の胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)から様々な細胞系統の機能的細胞に分化する能力によって、また移植後に複数の胚葉の組織を生じ、胚盤胞への注入後、全部ではないとしても殆どの組織を提供する能力によっても、特徴付けられる。
【0193】
ヒト胚幹細胞株H1、H7及びH9をWiCell Research Institute,Inc.(Madison,WI)から入手し、供給元の研究所から提供された取扱説明書にしたがって培養した。手短には、細胞を、20%ノックアウト血清代替、100nM MEM非必須アミノ酸、0.5mM β−メルカプトエタノール、4ng/mLヒト塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を有する2mM L−グルタミン(全てInvitrogen/GIBCOより)で補充したDMEM/F12(Invitrogen/GIBCO)からなるES細胞培地中にてマウス胚線維芽細胞(MEF)フィーダー細胞上で培養した。E13〜13.5マウス胚由来のMEF細胞をCharles Riverから購入した。MEF細胞を、10% FBS(Hyclone)、2mMグルタミン、及び100mM MEM非必須アミノ酸で補充したDMEM培地中で増殖させた。サブコンフルエントなMEF細胞培養物を10μg/mLマイトマイシンC(Sigma,St.Louis,MO)で3時間処理して、細胞分割を停止させた後、トリプシン処理して、2×104/cm2にて0.1%ウシゼラチンでコーティングされた皿上に播いた。継代2〜4からのMEF細胞をフィーダー層として使用した。MEF細胞フィーダー層上に播いたヒト胚幹細胞を、加湿した組織培養インキュベータ内にて5% CO2の雰囲気中で37℃で培養した。コンフルエントとなった際(プレーティングの約5〜7日後)、ヒト胚幹細胞を1mg/mLコラゲナーゼタイプIV(Invitrogen/GIBCO)により5〜10分間処理し、次に5mLピペットを使用して表面を穏やかに擦り落とした。細胞を900rpmで5分間遠心分離し、ペレットを再懸濁し、1:3〜1:4の細胞の比で新鮮培地に再びプレーティングした。
【0194】
並行して、成長因子減少MATRIGEL(BD Biosciences)の1:30希釈液でコーティングされたプレート上にH1、H7、及びH9ヒト胚幹細胞も播種し、8ng/mLbFGFを添加したMEF−馴化培地中で培養した。MATRIGEL上で培養した細胞を、コラゲナーゼIV(Invitrogen/GIBCO)、ディスパーゼ(BD Biosciences)、又はLIBERASE酵素を用いてルーチン的に継代した。ヒト胚幹細胞培養物の一部は低酸素条件下(約3% O2)でインキュベートした。
【0195】
(実施例2)
蛍光活性化細胞選別(FACS)分析
TrypLE(商標)Express溶液(Invitrogen,CA)とともに5分間インキュベートすることにより、培養プレートから接着ヒト胚幹細胞を除去した。解放された細胞をヒト胚幹細胞培地中に再懸濁し、遠心分離により回収した後、洗浄して、細胞を、PBS中の2% BSA、0.05%アジ化ナトリウムからなる染色緩衝液(Sigma,MO)中に再懸濁した。適切な場合、細胞は、0.1% γ−グロブリン(Sigma)溶液を使用して、Fc−受容体を15分間ブロックされた。アリコート(約1×105細胞)を、表IAに示すようにフィコエリトリン(phycoerythirin)(PE)若しくはアロフィコシアニン(APC)複合体化モノクローナル抗体(5μL抗体/1×106細胞)のいずれかと共に、又は非複合体化一次抗体と共にインキュベートした。対照は、適切なアイソタイプ一致抗体、非染色細胞、及び二次結合抗体のみで染色した細胞を含んでいた。抗体を用いた全インキュベーションは、4℃で30分間行い、その後細胞を染色緩衝液で洗浄した。非結合一次抗体で染色したサンプルを、二次結合PE又は−APCラベル抗体と共に、更に4℃で30分間インキュベートした。使用した二次抗体の一覧に関しては表IBを参照されたい。洗浄した細胞をペレット化し、染色緩衝液中に再懸濁し、少なくとも10,000事象を収集することにより、細胞表面分子をFACSアレイ(BDバイオサイエンス)機器を使用して同定した。
【0196】
(実施例3)
免疫細胞化学
接着細胞を、室温で20分間4%のパラホルムアルデヒドで固定した。固定した細胞を、PBS/0.1% BSA/10%正常ヒヨコ血清/0.5%トリトンX−100により室温で1時間ブロックした後、PBS/0.1% BSA/10%正常ヒヨコ血清中の一次抗体と共に4℃で一夜インキュベートした。一次抗体及びそれらの作用希釈物の一覧を、表IAに示す。PBS/0.1%BSA中で3回洗浄した後、PBS中で1:100希釈した蛍光二次抗体(表IB)を、細胞と共に室温で1時間インキュベートして結合させた。対照サンプルは、一次抗体が省略されるか、又は一次抗体が、その一次抗体と同一濃度の対応する負の対応対照免疫グロブリンで代替された反応物を含んでいた。染色サンプルを濯ぎ、ジアミジノ−2−フェニルインドール,二塩酸塩(DAPI)を含有するPROLONG(登録商標)(Invitrogen,CA)の1滴を各サンプルに加えて、核を対比染色し、また抗退色試薬として機能させた。Nikon Confocal Eclipse C−1倒立顕微鏡(Nikon,Japan)及び10−60X対物レンズを使用して画像を得た。
【0197】
(実施例4)
ES由来細胞のPCR分析
RNA抽出、精製、及びcDNA合成:RNAサンプルを、エタノール含有、高塩濃度
緩衝液の存在下、シリカゲル膜(RNeasyミニキット、Qiagen,CA)に結合させた後、混入物を洗浄して除去することにより精製した。RNAをTURBO DNA−フリーキット(Ambion,INC)を使用して更に精製し、次いで高品質RNAを
水中に溶出した。収率及び純度を分光光度計のA260及びA280指数により評価した。CDNAコピーを、ABI(ABI,CA)大容量cDNAアーカイブキットを用いて精製RNAから作製した。
【0198】
リアルタイムPCR増幅及び定量分析:特に明記しない限り、試薬は全てApplied Biosystemsから購入した。ABI PRISM(登録商標)7900配列検出システムを使用して、リアルタイムPCR反応を行った。TAQMAN(登録商標)UNIVERSAL PCR MASTER MIX(登録商標)(ABI,CA)を、20ngの逆転写RNAと共に、20μLの全反応容積にて使用した。各cDNAサンプルを2回使用(run)して、ピペッティング誤差に関して補正した。プライマー及びFAM標識TAQMAN(登録商標)プローブを、200nMの濃度で用いた。各標的遺伝子に関する発現レベルを、以前にApplied Biosystemsにより開発されたヒトグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)内在性対照を使用して正規化した。プライマー及びプローブのセットを表IIに列挙する。SOX−17プライマーをPRIMERSプログラム(ABI,CA)を用いて設計し、それは以下の配列を有していた:SOX−17:TGGCGCAGCAGATACCA、AGCGCCTTCCACGACTTG、及びCCAGCATCTTGCTCAACTCGGCG。最初50℃で2分間、次いで95℃で10分間のインキュベーション後、サンプルを2段階にて40回サイクルした;95℃で15秒間の変性工程と、その後の60℃で1分間のアニーリング/伸長工程。GENEAMP(登録商標)7000配列検出システムソフトウエアを使用して、データ解析を行った。各プライマー/プローブセットに関して、増幅の指数関数領域の中央において蛍光強度が特定の値に到達したサイクル数としてのCt値を決定した。比較Ct法を使用して、相対的な遺伝子発現レベルを計算した。手短には、各cDNAサンプルに関して、内在性対照Ct値を関心対象遺伝子のCtから減算して、DCt値(ΔCt)を得た。標的の正規化した量を2−ΔCtとして計算し、増幅を100%効率と仮定した。最終的なデータを、標準物質サンプルに関して表した。
【0199】
(実施例5)
MATRIGELでコーティングされた組織培養基質上で培養したヒト胚幹細胞の胚体内胚葉(DE)への分化
低酸素条件(約3%O2)下で培養し、MATRIGEL(1:30希釈)でコーティングされた皿上にプレーティングされた54継代のヒト胚幹細胞株H9由来の細胞を、0.5%FBS、20ng/mL WNT−3a(カタログ番号1324−WN−002、R&D Systems,MN)、及び100ng/mLアクチビン−A(R&D Systems,MN)を添加したDMEM/F12培地に2日間曝露し、続いて2%FBS及び100ng/mLアクチビン−A(AA)を添加したDMEM/F12培地で更に3〜4日間処理した。図1は、4日目のFACSによるCXCR4発現を示す。図2は、4日目及び6日目の、低血清+AA+WNT3Aで処理したヒト胚幹細胞株H9由来の細胞の培養物のリアルタイムPCRデータを示す。このプロトコルにより、胚体内胚葉マーカーが著しくアップレギュレートされる。この手順は、DE(胚体内胚葉)プロトコルとも称される。
【0200】
(実施例6)
胚体内胚葉段階に分化したヒト胚幹細胞由来細胞の単離及び増殖
種々の継代数(30〜54継代)のヒト胚幹細胞株H1及びH9由来細胞を、少なくとも3継代低酸素条件下(約3% O2)で培養した。細胞を8ng/mLのbFGFを添加したMEF−CM中で培養し、実施例1にしたがってMATRIGELでコーティングされたプレート上にプレーティングした。細胞を、実施例5に概説するDEプロトコルに曝露した。3〜6日目に、細胞をTrypLE(商標)Express溶液(Invitrogen,CA)に5分間曝露した。遊離した細胞をDMEM−F12+2% FBS培地に再懸濁させ、遠心分離により回収し、血球計を用いて計数した。遊離した細胞を1000〜10,000細胞/cm2で、組織培養ポリスチレン(TCPS)処理フラスコ上に播種し、標準的な組織培養インキュベータ内で、37℃低酸素条件下(約3% O2)にてDMEM−F12+2% FBS+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT−3A中で培養した。TCPSフラスコは、MATRIGELでも他の細胞外マトリクスタンパク質でもコーティングしなかった。培地は毎日交換した。幾つかの培地では、培地に10〜50ng/mLのIGF−I(インスリン成長因子−I、R&D Systems,MNより)又は1X ITS(インスリン、トランスフェリン、及びセレニウム、Invitrogen,Caより)を更に添加した。幾つかの培養条件では、基本培地(DM−F12+2% FBS)に0.1mMメルカプトエタノール(Invitrogen,CA)及び非必須アミノ酸(1X,NEAA、Invitrogen,CAより)を更に添加した。第1継代細胞をP1と称する。並行して、同様の培養物を正常酸素圧条件下(約21% O2)で確立した。この単離手順の概要を図3に示す。
【0201】
5〜15日間培養した後、老化していると思われる多数の巨細胞に取り囲まれている明確な細胞コロニーが出現した(図4a〜b)。培養密度約50〜60%で、室温で5分間TrypLE(商標)Express溶液に曝露することにより培養物を継代した。遊離した細胞をDMEM−F12+2% FBS培地に再懸濁させ、遠心分離により回収し、10,000細胞/cm2で、組織培養ポリスチレン(TCPS)処理フラスコ上に播種し、DMEM−F12+2% FBS+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT−3A+/−50ng/mLのIGF−I中で培養した。この培地を更に「成長培地」と称する。図4cは、10,000細胞/cm2で播種した3継代の細胞の形態を示す。最初の単離後3継代(パネルc)で、細胞は、大きな核対細胞質比を有する均一な上皮様形態を有するように見えた。
【0202】
幾つかの培養物では、成長培地に1X NEAA+0.1mMメルカプトエタノールを更に添加した。3〜4継代後、結合細胞は、大きな核対細胞質比を有する均一な形態を有するように見えた。正常酸素圧条件下で確立された並行培養物は、結合細胞によるロバストなコロニー形成を示さなかった。2〜3継代後、正常酸素圧条件下で確立された培養物は、成長速度が遅いため廃棄した。
【0203】
(実施例7)
複数継代後のDEマーカーの増殖及び維持におけるアクチビン−A、WNT3A、及びIGF−Iの役割
実施例6に記載されている方法にしたがって親ヒト胚幹細胞株H9から誘導された培養物を、4〜7日毎に継代した。図5は、3継代2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのアクチビン−A+20のWNT3A中で培養された増殖細胞についてのリアルタイムPCR結果を示す。このデータは、実施例5に概説したDEプロトコルの6日目に単離した株のデータである。各継代後、SOX−17及びHNF−3β等のDEマーカーは明らかに減少する。図6に示すように、アクチビン−Aを含有している成長培地にWNT3Aを添加することにより、DEマーカーの発現が著しく促進される。しかし、50ng/mLのIGF−I添加、並びにアクチビン−A及びWNT−3Aの除去(図7a〜c)は、OCT−4とともにDEマーカーの発現を急激に低下させ、SOX−7及びAFP等の臓側内胚葉マーカーの発現を増加させる。図8a〜cは、a)2% FBS+DMF12+100ng/mLのアクチビン−A+20ng/mLのWNT−3A、b)2% FBS+DM−F12+100ng/mLのアクチビン−A、c)2% FBS+DM−F12+50ng/mLのIGF−I中で培養された5継代のH9p54から誘導された増殖細胞の形態を示す。アクチビン−A又はアクチビン−A+WNT3Aの存在下で培養された細胞の形態は非常に類似しており、2%FBS+IGF−I中で培養された細胞の形態とは異なっていた。
【0204】
(実施例8)
胚体内胚葉段階に分化したヒト胚幹細胞由来細胞の増殖能
実施例6に記載の方法にしたがって親ヒト胚幹細胞株H9から確立された培養物を、成長培地が50ng/mLのIGF−I又はITSを含有していたとき、4〜5日毎に継代した。しかし、IGF又はITSを添加していない成長培地で培養すると成長速度が遅いため、5〜7日毎に継代した。成長培地+50ng/mLのIGF−Iを与えた細胞の集団倍加時間は約55時間であったのに対して、成長培地のみを与えた培養物の集団倍加時間は約75時間であった。実施例6にしたがって増殖した細胞集団をEXPRES細胞(EXpandable PRE-primitive Streak cells(増殖可能な前原始線条細胞))と称する。表IIIに、実施例6に概説された方法にしたがって確立された種々のEXPRES細胞を列挙する。2種の細胞株(EXPRES 01及び02)の増殖能を図9に示す。
【0205】
(実施例9)
単一ヒト胚幹細胞の懸濁液からのEXPRES細胞の誘導
ヒト胚幹細胞株H1P33及びH9P45由来細胞を、少なくとも3継代低酸素条件下(約3%O2)で培養した。細胞を8ng/mLのbFGFを添加したMEF−CM中で培養し、実施例1にしたがってMATRIGELでコーティングされたプレート上にプレーティングした。培養密度約60%で、培養物をTrypLE(商標)Express溶液(Invitrogen,CA)に5分間曝露した。遊離した細胞をDMEM−F12+2%FBS培地に再懸濁させ、遠心分離により回収し、血球計を用いて計数した。遊離した細胞を1000〜10,000細胞/cm2の密度で組織培養ポリスチレン(TCPS)処理フラスコ上に播種し、標準的な組織培養インキュベータ内で、37℃低酸素条件下(約3% O2)にて、DM−F12+2% FBS+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT−3A+50ng/mLのIGF−I+0.1mMメルカプトエタノール(Invitrogen,CA)及び非必須アミノ酸(1X,NEAA、Invitrogen,CAより)中で培養した。TCPSフラスコは、MATRIGELでも他の細胞外マトリクスタンパク質でもコーティングしなかった。培地は毎日交換した。第1継代細胞をP1と称する。並行して、同様の培養物を正常酸素圧条件下(約21%O2)で確立した。正常酸素圧条件下で確立された培養物はコロニーを形成せず、それほど細胞増殖しなかった。しかし、低酸素条件下で確立された培養物は、MATRIGEL又はMEFフィーダー上で培養された胚幹細胞コロニーに類似する多くのコロニーを形成した(図10)。これらの培養物は、ESからDEへの分化中に単離されたEXPRES細胞の特性に非常に類似している。
【0206】
(実施例10)
EXPRES細胞による細胞表面タンパク質の発現
細胞株EXPRES 01及びEXPRES 02を、多能性に関連するマーカーを含む種々の細胞表面マーカーの発現について評価した。EXPRES 01由来の細胞は、9〜24継代で評価した。EXPRES 02由来の細胞は、7〜20継代で評価した。両方の株は、典型的には未分化ヒト胚幹細胞に割り当てられる多能性マーカーを強く発現した。しかし、EXPRES 02株は、EXPRES01株に比べて、CXCR4、LIF受容体、及びNCAM等の分化マーカーの発現の割合が高かった。EXPRES 01P24の代表的なFACSプロットを図11に、EXPRES 02 P21株については図12に示す。表IVは、3種の異なる実験から、評価した細胞表面マーカーの範囲(括弧内)と共に平均発現量を列挙する。
【0207】
(実施例11)
EXPRES細胞−免疫蛍光(IF)染色による、多能性関連マーカーの発現
それぞれの成長培地中で維持されたEXPRES 01及び02細胞を、実施例3に概説された方法を用いて多能性関連マーカーで染色した。図13は、2% FBS+DM−F12+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT3A+50ng/mL IGF−I中で培養されたEXPRES 01 P10細胞のOCT−4、Nanog、SOX−2、及びHNF−3βのIF画像を示す。図14は、2% FBS+DM−F12+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT3A中で培養された9継代のEXPRES 02細胞のOCT−4、Nanog、SOX−2、及びHNF−3βのIF画像を示す。EXPRES 01細胞は、OCT−4、Nanog、及びSOX−2について強い陽性染色を示し、HNF−3βについて弱い陽性染色を示す。しかし、EXPRES 02細胞は、HNF−3βについてより強い発現を示し、OCT−4、Nanog、及びSOX−2についてより弱い発現を示す。
【0208】
(実施例12)
リアルタイムPCRによる胚体内胚葉及び未分化胚幹細胞マーカーの発現
それぞれの成長培地中で培養された11継代のEXPRES 01及び7継代のEXPRES 02株が発現している胚マーカー(POU5F1、SOX−2、UTF1、ZFP42、コネキシン43、コネキシン45、FOXD3)、胚体外マーカー(AFP、KRT15)、外胚葉マーカー(SOX−1、TUBB3、ネスチン)、内胚葉マーカー(FOXA2、IPF1、KRT15、GATA−4)、及び中胚葉マーカー(GATA−4、GATA−2、MYOD、MSX1、CFC1、ABCG2)のリアルタイムPCR分析を図15a〜hに示す。データは全て、MATRIGELでコーティングされたプレート上のMEF−CM中で培養された、ヒト胚幹細胞株H9由来の未分化細胞に対する倍数変化で正規化する。対照として、コラゲナーゼ消化の標準的な方法を用いてH9細胞からEB体を形成し、約10日間DMEM−F12+20% FBS中の非処理表面上に播種した。種々の胚葉の遺伝子発現は、未分化ES細胞に比べてEB体によりアップレギュレートされた。別のリファレンスRNAを、MEF−CM中のMATRIGEL上にて培養された未分化SA002株(Cellartis,Sweden)から回収した。予想通り種々の胚葉の遺伝子発現は、EB体により、EXPRES 01、EXPRES 02、SA002、及びH9株に比べてより強くアップレギュレートされた。EXPRES 01及び02株は両方、未分化SA002及びH9株に比べてFOXA2の発現を示した。EXPRES株はいずれも、胚体外、中胚葉、又は内胚葉マーカーの強い発現を示した。更に、EXPRES細胞による胚マーカーの発現は、SA002及びH9リファレンス細胞株に類似していた。
【0209】
(実施例13)
EXPRES細胞の増殖に有用な種々の成長培地
EXPRES細胞は、少なくとも2〜30継代、以下の培地組成において成功裏に培養された:
1.DM−F12+2% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT−3A
2.DM−F12+2% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT−3A+50ng/mL IGF−I
3.DM−F12+2% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT−3A+10ng/mL IGF−I
4.DM−F12+2% FBS+50ng/mL AA+20ng/mL WNT−3A+50ng/mL IGF−I
5.DM−F12+2% FBS+50ng/mL AA+10ng/mL WNT−3A+50ng/mL IGF−I
6.DM−F12+2% FBS+50ng/mL AA+20ng/mL WNT−3A+10ng/mL IGF−I
7.DM−F12+2% FBS+100ng/mL AA+10ng/mL WNT−3A+10ng/mL IGF−I
8.HEScGRO合成培地(Chemicon,CA)
【0210】
上に列挙した培地の基本成分は、RPMI、DMEM、CRML、Knockout(商標)DMEM、及びF12等の類似培地に置き換えてもよい。
【0211】
(実施例14)
組織培養基質上で培養されたEXPRES細胞の胚体内胚葉(DE)細胞への分化
それぞれの成長培地中のTCPS上で培養された5継代のEXPRES 01細胞及び4継代のEXPRES 02細胞を、0.5% FBS、20ng/mL WNT−3a、及び100ng/mLアクチビン−A(R&D Systems,MN)を添加したDMEM/F12培地に2日間曝露し、続いて更に3〜5日間、2%FBS及び100ng/mLアクチビン−A(AA)を添加したDMEM/F12培地で処理した。図16は、EXPRES 01細胞(図16a、約17% CXCR4陽性)及びEXPRES 02細胞(図16b、約40% CXCR4陽性)について、4日目のFACSによるCXCR4の発現を示す。図17は、2〜5日目に低血清+AA+WNT3Aで処理されたEXPRES 01細胞(図17a)及びEXPRES02細胞(図17b)培養物のリアルタイムPCRデータを示す。図18及び19は、4日間上記と同様の処理で処理された、それぞれEXPRES 01及び02細胞の免疫蛍光画像を示す。EXPRES 02細胞全体が、EXPRES 01細胞に比べてDEマーカーをより強く発現しているように見える。FACS、免疫染色、及びPCRデータにより証明されるように、血清濃度の低下及びIGFの除去はDEマーカーの発現を増加させた。しかし、CXCR4及びHNF−3β等のDEマーカーの全体の発現量は、DE段階に分化した未分化ヒトES培養物でルーチン的に観察される発現量よりも低かった。
【0212】
DEマーカーの発現を増加させるために、DE分化プロトコルを以下のように変更した:それぞれの培地中でTCPS上で培養された19継代のEXPRES 01細胞及び14継代のEXPRES 02細胞を、0.5% FBS、20ng/mL WNT−3a、100ng/mLアクチビン−A、及び100nM GSK−3B阻害剤IX(カタログ番号361550,Calbiochem,CA)を添加したDMEM/F12培地に4〜5日間曝露した。図20は、EXPRES 01(図20a、約57% CXCR4陽性)及びEXPRES 02(図20b、約86% CXCR4陽性)について、4日目のFACSによるCXCR4の発現を示す。図21は、DE段階に分化したEXPRES 01細胞(パネルa〜f)及びEXPRES 02細胞(パネルg〜l)について、5日目の対応する免疫蛍光画像を示す。図22は、EXPRES 01(図22a)及びEXPRES 02(図22b)のリアルタイムPCRデータを示す。
【0213】
(実施例15)
EXPRES 01細胞のDEへの分化に対する播種密度の効果
EXPRES 01 P31細胞を、標準的な組織培養インキュベータ内にて37℃、低酸素条件下(約3% O2)で、DM−F12+2% FBS+0.1mMメルカプトエタノール+1X,NEAA+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT3A中でTCPSプレート上に5000、10000、20000、又は40000細胞/cm2で播種した。播種の2日後、培地をDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT3A+100nM GSK−3B阻害剤IXに替えて、標準的な組織培養インキュベータ内にて37℃、低酸素条件下(約3% O2)で4日間培養した。図23は、分化4日目の胚体内胚葉マーカーのリアルタイムPCR分析を示す。胚体内胚葉のロバストな形成には、少なくとも10000〜20000細胞/cm2の播種密度が必要であると考えられる。
【0214】
(実施例16)
EXPRES細胞のテロメア長
ヒト胚幹細胞株H1由来の未分化細胞とともに、実施例5にしたがって単離された2種のEXPRES株のテロメア長を、Telo TAGGGテロメア長アッセイ(Roche,IN)を用いて、製造業者の取扱説明書にしたがって分析した。図24は、目盛マーカーとともに、P24のEXPRES 01細胞、P17のEXPRES 02細胞、P40のH1細胞、及びキットにより提供される高テロメア対照及び低テロメア対照のテロメア長を示す。両方の株は、未分化ES細胞より短いテロメア長を有するように見受けられる。
【0215】
(実施例17)
組織培養基質上で培養されたEXPRES細胞の膵臓内胚葉への更なる分化
21継代のEXPRES 01細胞を、0.5% FBS、DMEM:F12培地中の100ng/mLアクチビン−A、10ng/mLのWnt3a、及び100nM GSK3ベータ阻害剤IXで処理することにより、5日間分化させた。細胞をFACSにより分析したところ、80%の細胞がCXCR4陽性を示した。次いで、細胞を以下の各工程で3日間ずつ処理した:50ng/mL FGF−10、及び0.25μM KAAD−シクロパミン(Calbiochem,CA)を含有している2% FBS DMEM:F12;続いて50ng/mL FGF−10、0.25μM KAAD−シクロパミン及び1μMレチノイン酸(Sigma,MO)を含有している1% B27 DMEM、低グルコース;続いて、1μM DAPT(Calbiochem,CA)+50ng/mLエキセンディン4(Sigma,MO)を含有している1%B27DMEM、低グルコース;続いて最後にそれぞれ50ng/mLのIGF、HGF、及びエキセンディン4を含有している1% B27 DMEM CMRL。各工程の最後にサンプルを採取し、細胞のRNAを抽出した。示されたマーカーについてQ−RT PCRを実施した。図25に示すように、インスリン量は未処理細胞に対して100倍増加し、またPDX−1量は1000倍超増加した。
【0216】
(実施例18)
組織培養基質上で培養されたEXPRES細胞の前腸内胚葉への更なる分化
35継代のEXPRES01細胞を、0.5% FBS、DMEM:F12培地中の100ng/mLアクチビン−A、20ng/mLのWnt3a、及び100nM GSK3ベータ阻害剤IXで処理することにより、5日間分化させた。細胞をFACSにより分析したところ、約70%の細胞がCXCR4陽性を示した。次いで、細胞を以下の各工程で処理した:50ng/mL FGF−10、及び0.25μM KAAD−シクロパミン(Calbiochem,CA)を含有している2% FBS DMEM:F12で3日間;工程3、50ng/mL FGF−10、0.25μM KAAD−シクロパミン、及び1μMレチノイン酸(Sigma,MO)を含有している1% B27 DMEM、低グルコースで4日間;並びに工程4、1μM DAPT(Calbiochem,CA)+50ng/mLエキセンディン4(Sigma,MO)を含有している1% B27 DMEM、低グルコースで4日間。このプロトコルは、D’Amourら(Nature Biotech,24,1392,2006)により既に公開されているプロトコルに基づいている。段階4の最後に細胞を固定し、PDX−1、HNF−3β、SOX−17、アルブミン、抗トリプシン、及びCDX−2で染色した。図26に示すように、EXPRES細胞は、PDX−1(培養物の約20%が陽性染色)、HNF−3β(約90%陽性)、アルブミン(約5%陽性)、抗−1−トリプシン(約70%陽性)、SOX−17(約70%)、及びCDX−2(約5%陽性)の発現により測定したとき、前腸内胚葉に容易に分化することができた。
【0217】
(実施例19)
EXPRES細胞対未分化ヒト胚幹細胞のマイクロアレイ解析
RNeasyミニキット(Qiagen)を用いて44継代のヒト胚幹細胞株H9、EXPRES 01 P11、及びEXPRES 02 P7の培養物から全RNAを単離した:全グループは3つの生物学的複製物を含み、各生物学的複製物は2つの別個の遺伝子チップ上で反復された。サンプル調製、ハイブリダイゼーション及び画像分析は、Affymetrix Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayにしたがって行った。正規化及び対数変換の後、OmniViz(登録商標)ソフトウエア(MA)及びGENESIFTER(VizXLabs,WA)を使用してデータ解析を行った。分散分析と、0.05以下の調整P値(Benjamini及びHochberg補正)を用いたF検定とを使用して、サンプル間の遺伝子発現における有意な差異を評価した。少なくとも1つのグループ内のプレゼントコールを伴う遺伝子のみを分析に含めた。表Vは、各遺伝子の調整P値とともに、群(未分化ES、EXPRES 01、及びEXPRES 02細胞)間で少なくとも5倍の差を示す遺伝子の平均正規化対数変換シグナル強度を列挙する。原始線条又は胚体内胚葉を表す遺伝子を太字で強調する。アップレギュレート又はダウンレギュレートされた上位200個の遺伝子のみを表Vに示す。
【0218】
(実施例20)
DE段階に分化したEXPRES細胞対DE段階に分化したヒト胚幹細胞のマイクロアレイ解析
RNeasyミニキット(Qiagen)を用いて以下の培養物から全RNAを抽出した:A)MATRIGELでコーティングされたプレート(1:30希釈)上で培養され、2日間0.5% FBS及び100ng/mLアクチビン−A及び20ng/mLのwnt3Aを添加したDMEM/F12培地に曝露され、続いて更に3日間2% FBS及び100ng/mLアクチビン−A(AA)を添加したDMEM/F12培地で処理されたH9P33細胞;B)TCPS上で培養され、5日間0.5% FBS、100ng/mLアクチビン−A、20ng/mLのWNT3A、及び100nm GSK−3B IX阻害剤(カタログ番号361550、Calbiochem,CA)を添加したDMEM/F12培地に曝露されたEXPRES 01 P24細胞;C)TCPS上で培養され、5日間0.5% FBS、100ng/mLアクチビン−A、20ng/mLのWNT3A、及び100nm GSK−3B IX阻害剤(カタログ番号361550、Calbiochem,CA)を添加したDMEM/F12培地に曝露されたEXPRES02P17細胞;D)MATRIGELでコーティングされたプレート(1:30希釈)上で培養され、2日間0.5% FBS及び100ng/mLアクチビン−A及び20ng/mLのwnt3Aを添加したDMEM/F12培地に曝露され、続いて更に2日間2%FBS及び100ng/mLアクチビン−A(AA)を添加したDMEM/F12培地で処理されたH9P39細胞。2時間、6時間、24時間、30時間、48時間、72時間、及び96時間目に群DからRNAサンプルを回収した。それぞれの成長培地中で培養されたEXPRES 01及びEXPRES 02も対照としてインキュベートした。全群は3つの生物学的複製物を含み、各生物学的複製物は2つの別個の遺伝子チップ上で反復された。
【0219】
サンプル調製、ハイブリダイゼーション及び画像分析は、Affymetrix Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayにしたがって行った。正規化及び対数変換の後、OmniViz(登録商標)ソフトウエア(MA)及びGENESIFTER(VizXLabs,WA)を使用してデータ解析を行った。分散分析と、0.05以下の調整P値(Benjamini及びHochberg補正)を用いたF検定とを使用して、サンプル間の遺伝子発現における有意な差異を評価した。少なくとも1つのグループ内のプレゼントコールを伴う遺伝子のみを分析に含めた。表VIに、種々の時点における、群A、群B、群C及び群Dの間で少なくとも5倍の差異を示す遺伝子の平均正規化対数変換シグナル強度を、各遺伝子の調整P値と共に列挙する。アップレギュレート又はダウンレギュレートされた上位200個の遺伝子のみを表VIに示す。原始線条又は胚体内胚葉を表す遺伝子を太字で強調する。表VIIは、各比較群の相関係数を列挙する。相関係数に対応する散布図を図27に示す。EXPRES 01細胞のグローバル発現プロファイルは、30時間以下のDE段階におけるサンプルの発現プロファイルに類似しているように見受けられ、一方EXPRES 02細胞は48時間超のDE段階におけるサンプルの発現プロファイルに類似しているように見受けられる。
【0220】
(実施例21)
胚様体の形成及び種々の系統への分化
27継代のEXPRES 01培養物を、TrypLE(商標)Express溶液を用いて単一細胞として取り出し、4分間200gで回転させ、DMEM−F12+20% FBSに再懸濁させた。細胞懸濁液を低接着ペトリ皿上に播種した。播種の3〜4日後、胚様体(EB)様構造が形成された(図28)。DMEM−F12+2% FBS+1マイクロモラーのレチノイン酸による培養物の処理は、NeuroD等の外胚葉マーカーの発現を誘導した。
【0221】
(実施例22)
NOD−SCIDマウスの腎臓被膜における奇形腫形成
42継代のヒト胚幹細胞株H9由来の未分化細胞、30継代のEXPRES 01、EXPRES 02 P22細胞を、TRYPLEを用いて培養物から遊離させ、基本培地で洗浄し、次いでDMEM−F12基本培地に懸濁させた。約1×106個の未分化H9P42、150万個のEXPRES 01及び02細胞を、6週齢のNOD−SCIDマウスの腎臓被膜に注入した。移植の5週間後、動物を屠殺し、腎臓を切除し、ホルマリンで固定するか、又は分解緩衝液に入れ、後のPCR分析のためにRNAを回収した。図29は、回収したサンプルの中胚葉、外胚葉、内胚葉、胚体外臓側内胚葉に特徴的なマーカー、及び多能性マーカーの発現を示す。H9株と同様に、両方のEXPRES株は、胚体外内胚葉とともに全ての胚葉で強い発現を示す。
【0222】
(実施例23)
EXPRES 03細胞の増殖及び細胞周期分析
ヒト胚幹細胞は、高比率のS期、及び短い又は不完全なギャップ期(G1及びG2)を特徴とする、他の体細胞とは識別可能な独自の細胞周期状態を有する。hES細胞における細胞周期制御機構は、自己再生及びこれらの細胞の多能性と機能的に関連している可能性があり、分化/傾倒対応物における制御機構とは異なっている可能性がある。これらの実験は、多能性hES細胞のマーカーの多くを発現することが示されているEXPRES細胞の細胞周期特性を決定するために設計した。
【0223】
方法:細胞を、細胞結合組織培養フラスコ(Corning)に5,000〜10,000細胞/cm2で播種し、2〜4日間培養した。EXPRES 03細胞を、DMEM/F12中に2% FBSを含有している成長培地、及びアクチビン−A(100ng/mL)、wnt3a(10〜20ng/mL)及びIGF(50ng/mL)を含有している培地のいずれか中で培養した。比較増殖分析のために、場合によってIGFを成長因子カクテルから除いた。製造業者(BD Biosciences,San Diego,CA)の推奨にしたがってAPC BRDU Flowキットを用いて細胞増殖を分析した。簡潔に述べると、培養期間の最後に1〜2時間細胞にBRDUをパルス導入し、Tryple E Expressを用いて遊離させ、計数した。細胞をBD Cytofix/Cytosperm緩衝液で固定し、30分間インキュベートし、続いて氷上で10分間BD Cytoperm緩衝液とともにインキュベートした。次いで、37℃で1時間DNAseで細胞を処理し、取り込まれたBRDUに曝露し、続いてAPC複合体化抗BRDU抗体で染色した。細胞周期分析では、細胞を7AADで染色し、FACSアレイ上で分析した。
【0224】
結果:hES細胞に非常に類似して、EXPRES 03細胞は高い増殖速度を保持しており、これは培養物中にBRDUを取り込む能力により決定されるようにS期にある細胞の割合が高いことにより示される。S期にある細胞の頻度は、hES細胞と同様に典型的には45%超(40%〜60%の範囲)であった(図30a〜c)。IGFの存在下で成長したEXPRES 03細胞の数は、3〜4日後IGFの非存在下で成長した細胞の数の2〜3倍であったが、細胞を1時間以上BRDUに曝露したときS期の細胞の頻度の差はほんの僅かであった(図30f)。この高頻度のS期細胞及び細胞周期構造は、ヒト羊水細胞(AFDX002)で示されるように、体細胞で観察されるものとは異なる(図30d)。更に、マイトマイシン処理細胞マウス胚線維芽細胞(MEF、図30e)はS期に移行せず、G2/M期に明らかに蓄積され(64%)、これはマイトマイシン処理細胞が有糸分裂においてDNA鎖を分離できないことに関連している可能性がある。
【0225】
(実施例24)
ES細胞対EXPRES細胞のトランスフェクション効率
hESの遺伝子操作の主な制限は、hESが従来のトランスフェクション法及びウイルス導入法に対して比較的耐性であることである。その高い増殖速度に加えて、EXPRES細胞はインビトロでのトランスフェクションが容易である。トランスフェクション効率を比較するために、EXPRES細胞及びhES細胞をEGFPとともに培養物にトランスフェクトし、蛍光顕微鏡及びフローサイトメトリー法により分析した。
【0226】
方法:EXPRES 01細胞を、ヒトフィブロネクチンでコーティングされた(10μg/mL)6ウェル培養プレート上、DMEM/F12中2% FBS、アクチビン−A(100ng/mL)、wnt3a(10〜20ng/mL)、及びIGF(50ng/mL)を含む成長培地中に、播種した。細胞塊の場合、hES細胞をコラゲナーゼを用いてルーチンな方法によりMATRIGELでコーティングされた6ウェル培養プレートに継代し、MEF馴化hES培地中で成長させた。単一細胞の場合、hES細胞を37℃で3分間TRYPLEに細胞を曝露させ、続いてMATRIGELでコーティングされた6ウェル培養プレート上にプレーティングすることにより継代した。細胞が所望の培養密度(70〜80%)を達成したとき、製造業者(Invitrogen,Carlsbad,CA)の推奨にしたがって細胞をリポフェクタミン2000でトランスフェクトした。簡潔に述べると、4μgのDNAを、250μLのOpti−MEM I還元血清培地で希釈した。5マイクロリットルのリポフェクタミン2000を、5分間、合計250mμLのOpti−MEM I培地と混合し、穏やかに希釈したDNAと混合した。室温で20分間DNA/リポフェクタミン複合体を形成させ、次いで穏やかに混合するためにプレートを穏やかに旋回運動させながらそれぞれのウェルに添加した。細胞を更に24時間複合体の存在下でインキュベートし、続いて培地を完全に交換した。トランスフェクションの48時間後、蛍光顕微鏡及びフローサイトメトリーにより細胞を分析した。
【0227】
結果:eGFPの取り込み及び発現を、単一細胞分散又は細胞塊としてプレーティングされたEXPRES 01細胞及びhES細胞をトランスフェクションし、48時間後に分析することにより比較した。EXPRES 01細胞は、最も高いレベルのeGFPタンパク質発現を示し、フローサイトメトリー分析によれば75%の細胞がeGFPを発現していた(図31)。対照的に、hESはトランスフェクション耐性が高く、細胞塊を用いたときFACSによりeGFPタンパク質を発現していた細胞は僅か3%であった。hESの単一細胞分散を調製することによりDNA取り込みレベル及びeGFP発現は約20%に向上したが、これはまだEXPRES 01細胞での発現の約3分の1である。
【0228】
(実施例25)
スクリーニングの多用途ツールとしてのEXPRES細胞
EXPRES細胞を2% FBS、100ng/mL組み換えヒトアクチビン−A(R&D Systems)、及び20ng/mL組み換えマウスWnt3a(R&D Systems)を含有しているDMEM:F12培地中で成長させた。EXPRES 01細胞の成長培地はまた、50ng/mL組み換えヒトIGF−1(R&D Systems)を含有していた。両方の細胞株を、低酸素(3%)及び5% CO2雰囲気下で37℃にてルーチン的に成長させた。EXPRES 01及びEXPRES 02細胞を、TrypLE酵素的消化(Invitrogen,CA)を用いて単一細胞懸濁液として培養物から遊離させ、次いで洗浄し、計数して、正確な細胞数及び生存率(>95%)を測定した。1,250〜80,000細胞の範囲のアリコートを、最終体積100μLの培地になるように、96ウェルプレート(Corning−Costar)のヒトフィブロネクチンでコーティングされたウェルに分配した。対照ウェルもまたフィブロネクチンでコーティングされ、細胞無しで体積の等しい培地を含有していた。37℃、標準的な低酸素、5% CO2下でインキュベートされた加湿チャンバ内で一晩プレートを平衡化させた。この時間中、初期播種密度に応じて培養密度の程度が変動する単層培養物として細胞は付着した。一晩培養した後、20μLのMTS試薬(CellTiter 96 Aqueous Assay;Promega)を各ウェルに添加した。MTSをホルマザンに還元し、生存細胞の数に正比例するデヒドロゲナーゼ酵素活性の尺度として用いることができる。1枚のプレートを低酸素培養に戻す一方、同一の対応するプレートを正常酸素(20%)下でインキュベートした。4時間後、分光光度プレートリーダー(Molecular Devices)の490nmで吸光度を読み取った。各プレート内の複製サンプルセットについて、平均OD、標準偏差、及び変動係数(CV)(%)を求めるのための統計的計算を行い、両方のプレート間の類似ウェルを比較した。
【0229】
標準偏差及び変動係数(CV)(%)値は、EXPRES細胞を、高プレーティング効率及び良好なウェル間再現性で、ウェル間に均一に分布させることができることを示す(表VIIIa〜f)。等しい数の細胞の平均OD490指数から分かるように、EXPRES 01株はEXPRES 02株より高い代謝活性を有する。各EXPRES 0株について、2つのプレート間のCV値(%)は、この短期間アッセイにおいて大気酸素レベルにもかかわらず、対応する条件で代謝活性の差がないことを示唆する。このアッセイの線形領域内のウェル毎の最適細胞数を、平均OD指数をグラフ化することにより決定したところ(図32):EXPRES 01では20,000細胞/ウェル及びEXPRES 02では40,000細胞/ウェルであった。ここでも、大気の酸素レベル差は、この短期間アッセイから得られる最適細胞数には影響を与えなかった。これらの結果は、EXPRES細胞は、細胞増殖及び/又は代謝速度に対する種々の剤の毒性作用を測定できるスクリーニングプロトコルに従うことを示唆する。
【0230】
(実施例26)
EXPRES細胞から誘導されたDE様細胞の増殖
以前の実施例は、EXPRES細胞を胚幹細胞から誘導することができ、種々の成長培地中のTCPS上で容易に増殖させ得ることを証明する。これらの培地処方のほとんとは、添加物としてIGFを含有するか、又は成長培地中で用いられる2% FBSにインスリン/IGFを含有する。これらの因子は、PI−3キナーゼ経路を通してDE関連遺伝子を阻害することが示されている(Stem cells,25:29〜38,2007)。代替培地を、DM−F12+0.5% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT3A+100nM GSK−3B阻害剤IX(更に「DE細胞用成長培地」と称される)に基づいて処方した。上記培地中で培養された27継代のEXPRES 01細胞は、DM−F12+2% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT3A+50ng/mL IGF−I中で培養された細胞と同じ速度で増殖することができた。更に、DE細胞用成長培地中で培養された細胞は、3継代を通じてリアルタイムPCRによりDEマーカーを強く発現していた(図33)。約72%の細胞がCXCR4を発現していた(図34)。
【0231】
(実施例27)
EXPRES細胞における標的遺伝子のsiRNAノックダウン
siRNAを用いるヒト胚幹細胞の標的遺伝子の効率的なノックダウンは、クラスタコロニーとして成長したヒト胚幹細胞において高レベルのトランスフェクションを達成する能力により厳しく制限される。EXPRES細胞は、従来の方法を用いてsiRNAで容易にトランスフェクトされ、したがってsiRNAオリゴ配列をスクリーニングし、標的とする遺伝子の果たす役割を評価するための有用な系を提供する。
【0232】
方法:EXPRES 03細胞を、ヒトフィブロネクチンでコーティングされた(10μg/mL)6ウェル組織培養プレート上、DMEM/F12中2%FBS、アクチビン−A(100ng/mL)、wnt3a(10〜20ng/mL)、及びIGF(50ng/mL)を含む成長培地中に、播種した。6ウェルプレートの場合、200,000細胞を播種し、24時間後siRNAオリゴ配列でトランスフェトした。
【0233】
標的遺伝子のノックダウンを評価するために、70〜80%の培養密度の細胞を、製造業者(Ambion(Applied Biosystems),Foster City,CA)の推奨にしたがってリポフェクタミン2000を用いてトランスフェクトした。簡潔に述べると、最終濃度が100nmolになるよう適切な量のsiRNAを250μL Opti−MEM I還元血清培地で希釈した。5マイクロリットルのリポフェクタミン2000を、250μL Opti−MEM I培地で希釈し、5分間インキュベートした。複合体を室温で15〜20分間インキュベートし、次いで穏やかに混合するためにプレートを穏やかに旋回運動させながら細胞に添加した。細胞を更に24時間siRNAの存在下でインキュベートし、続いて培地を完全に交換した。トランスフェクションの24〜48時間後蛍光顕微鏡で細胞を可視化し、定量RT−PCR法により標的遺伝子のノックダウンを分析するためにRNAを回収した。Ambionから購入した、以下の予め検証されているsiRNAオリゴ配列を試験した:ベータカテニン(Id.No.42816)及びGSK3b(Id.No.42839)。
【0234】
結果:蛍光顕微鏡により、蛍光標識されたsiRNAを用いたとき、EXPRES細胞により非常に高確率で(>80%)siRNAが取り込まれたことが明らかになった(図35)。細胞から回収したRNAを、標的遺伝子のノックダウンについてPCRにより分析し、対照siRNAオリゴをトランスフェクトした細胞と比較した。ベータカテニン及びGSK3b siRNAオリゴにより、EXPRES細胞において非常に高い確率で遺伝子がノックダウンされた(93%超の遺伝子がノックダウンされた)。他の遺伝子標的、例えばHes−1、Oct−4に対して、他の検証されていないオリゴ配列は、より低く変動する確率で標的遺伝子をノックダウンした。オリゴ配列の特異性は、他の遺伝子転写産物の分析により検証され、これは検出できるノックダウンを全く示さなかった。
【0235】
(実施例28)
EXPRES 01及びEXPRES 02株のサイトカイン抗体アレイ分析
それぞれ22継代及び23継代のEXPRES 01及びEXPRES 02細胞を、それぞれの培地で培養密度約70%まで成長させ、次いで細胞溶解物を哺乳類細胞溶解キット(Sigma−Aldrich,MO)を用いて回収した。RayBiotech,GA(http://www.raybiotech.com/)により提供されたサイトカインアレイパネルを使用して、サイトカインアレイ分析を完了した。表IXa〜cは、データの正規化及びバックグラウンド除去を行った後のサイトカイン、サイトカイン及び成長因子受容体発現を示す。各パネルに関して、正及び負の対照も含めた。パネルは、細胞種毎に2つの異なるサンプルで実行したものである。
【0236】
(実施例29)
核型分析
20継代のEXPRES 01細胞及び15継代のEXPRES 02細胞の核型をGバンド分析により決定した。細胞遺伝学的分析を、EXPRES 01由来の21個のGバンド染色した細胞、及びEXPRES 02由来の20個のGバンド染色した細胞について実施した。Gバンド染色したEXPRES 01細胞の半分は正常な46XX核型を示したが、残りは17番染色体トリソミー等の異常な核型を示した。EXPRES 02株もまた、1番染色体短腕のほぼ全てが重複している染色体再配列を示した。
【0237】
(実施例30)
Rhoキナーゼ(ROCK)阻害剤の存在下における単一ヒト胚幹細胞の懸濁液からのEXPRES細胞の誘導
35継代のヒト胚幹細胞株H9由来細胞を、少なくとも3継代低酸素条件下(約3%O2)で培養した。細胞を8ng/mLのbFGFを添加したMEF−CM中で培養し、実施例1にしたがってMATRIGELでコーティングされたプレート上にプレーティングした。培養密度約60%で、培養物をTrypLE(商標)Express溶液(Invitrogen,CA)に5分間曝露した。遊離した細胞をDM−F12+2% FBS培地に再懸濁させ、遠心分離により回収し、血球計を用いて計数した。遊離した細胞を1000〜10,000細胞/cm2の密度で組織培養ポリスチレン(TCPS)フラスコ上に播種し、標準的な組織培養インキュベータ内で、37℃低酸素条件下(約3% O2)にて、DM−F12+2% FBS+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT−3A+50ng/mLのIGF−I+0.1mMメルカプトエタノール(Invitrogen,CA)、非必須アミノ酸(1X,NEAA、Invitrogen,CAより)+/−10μm ROCK阻害剤(Y−27632,Calbiochem,CA)中で培養した。TCPSフラスコは、MATRIGELでも他の細胞外マトリクスタンパク質でもコーティングしなかった。培地は毎日交換した。第1継代細胞をP1と称する。図37に示すように、播種の24時間後、ROCK阻害剤の添加により、ROCK阻害剤の非存在下で誘導された培養物と比べて、著しく多い数の付着細胞が得られた。ROCK阻害剤、Y27632を用いて誘導されたEXPRES細胞を、EXPRES 15と命名した。
【0238】
(実施例31)
核型分析
5継代及び12継代のEXPRES 15細胞の核型を、Gバンド分析により決定した。EXPRES 15由来の21個のGバンド染色した細胞について細胞遺伝学的分析を実施したところ、全ての細胞が正常な46XX核型を示した(図38)。12番及び17番染色体のFISH分析はまた、全ての細胞が12番染色体上に位置するETV6 BAP(TEL)遺伝子の正常なシグナルパターンを示し、全ての細胞が17番染色体上に位置するHer2/neu遺伝子及び17セントロメアの正常なシグナルパターンを示したことを示した。
【0239】
(実施例32)
EXPRES細胞は、ある濃度範囲のIGF、WNT3A、アクチビン−A、及びGSK−3B阻害剤を含有している培地中で維持することができる
EXPRES 11細胞を、2% FBS、100ng/mLアクチビン−A、20ng/mL Wnt3a、及び50ng/mL IGFを含有しているDMEM/F12(Invitrogen)中で成長させた。80%の培養密度で、TrypLE Express(Invitrogen)を用いて、96ウェルプレートに、4000細胞/ウェルの密度で、2% FBSを含有しているDMEM/F12に細胞を継代した。5% CO2、37℃に保たれた加湿インキュベータ内で1時間、細胞を基材に付着させ、次いで50〜100ng/mLの範囲のアクチビン−A、10〜20ng/mLの範囲のWnt3a、10〜50ng/mLの範囲のIGF、及び50〜100nMのGSK−3B阻害剤(IX)を添加した。24、48、及び96時間目に、CellTiter(登録商標)96 AQueous One Solution Cell Proliferation Assay(Promega)を用いて細胞生存率を測定した。簡潔に述べると、MTS試薬を96ウェルプレートに添加し、細胞とともに1〜4時間インキュベートし、次いでプレートリーダーで490nmの吸光度を読み取った。吸光度指数は、生存細胞の数に正比例していた。図39a〜cは、播種後a)24時間、b)48時間、及びc)96時間の吸光度指数を示す。
【0240】
本明細書を通して引用された刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本発明の様々な態様を、実施例及び好ましい実施形態を参照して説明してきたが、本発明の範囲は、以上の明細書の記述ではなく、特許法の原則の下で解釈される以下の特許請求の範囲により定義されることが理解されるであろう。
【0241】
【表1】
【0242】
【表2】
【0243】
【表3−1】
【0244】
【表3−2】
【0245】
【表3−3】
【0246】
【表3−4】
【0247】
【表4】
【0248】
【表5】
【0249】
【表6−1】
【0250】
【表6−2】
【0251】
【表6−3】
【0252】
【表6−4】
【0253】
【表6−5】
【0254】
【表6−6】
【0255】
【表6−7】
【0256】
【表6−8】
【0257】
【表6−9】
【0258】
【表6−10】
【0259】
【表6−11】
【0260】
【表6−12】
【0261】
【表6−13】
【0262】
【表6−14】
【0263】
【表6−15】
【0264】
【表6−16】
【0265】
【表6−17】
【0266】
【表6−18】
【0267】
【表6−19】
【0268】
【表6−20】
【0269】
【表6−21】
【0270】
【表6−22】
【0271】
【表6−23】
【0272】
【表6−24】
【0273】
【表6−25】
【0274】
【表6−26】
【0275】
【表6−27】
【0276】
【表6−28】
【0277】
【表6−29】
【0278】
【表6−30】
【0279】
【表6−31】
【0280】
【表6−32】
【0281】
【表6−33】
【0282】
【表6−34】
【0283】
【表7−1】
【0284】
【表7−2】
【0285】
【表7−3】
【0286】
【表7−4】
【0287】
【表7−5】
【0288】
【表7−6】
【0289】
【表7−7】
【0290】
【表7−8】
【0291】
【表7−9】
【0292】
【表7−10】
【0293】
【表7−11】
【0294】
【表7−12】
【0295】
【表7−13】
【0296】
【表7−14】
【0297】
【表7−15】
【0298】
【表7−16】
【0299】
【表7−17】
【0300】
【表7−18】
【0301】
【表7−19】
【0302】
【表7−20】
【0303】
【表7−21】
【0304】
【表7−22】
【0305】
【表7−23】
【0306】
【表7−24】
【0307】
【表7−25】
【0308】
【表7−26】
【0309】
【表7−27】
【0310】
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【0311】
【表7−29】
【0312】
【表7−30】
【0313】
【表7−31】
【0314】
【表7−32】
【0315】
【表7−33】
【0316】
【表7−34】
【0317】
【表7−35】
【0318】
【表7−36】
【0319】
【表7−37】
【0320】
【表7−38】
【0321】
【表7−39】
【0322】
【表7−40】
【0323】
【表7−41】
【0324】
【表7−42】
【0325】
【表7−43】
【0326】
【表7−44】
【0327】
【表7−45】
【0328】
【表7−46】
【0329】
【表7−47】
【0330】
【表7−48】
【0331】
【表7−49】
【0332】
【表7−50】
【0333】
【表7−51】
【0334】
【表7−52】
【0335】
【表7−53】
【0336】
【表7−54】
【0337】
【表7−55】
【0338】
【表7−56】
【0339】
【表7−57】
【0340】
【表7−58】
【0341】
【表7−59】
【0342】
【表7−60】
【0343】
【表7−61】
【0344】
【表7−62】
【0345】
【表7−63】
【0346】
【表7−64】
【0347】
【表7−65】
【0348】
【表7−66】
【0349】
【表7−67】
【0350】
【表7−68】
【0351】
【表7−69】
【0352】
【表7−70】
【0353】
【表7−71】
【0354】
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【0355】
【表7−73】
【0356】
【表7−74】
【0357】
【表7−75】
【0358】
【表7−76】
【0359】
【表7−77】
【0360】
【表7−78】
【0361】
【表7−79】
【0362】
【表7−80】
【0363】
【表7−81】
【0364】
【表7−82】
【0365】
【表7−83】
【0366】
【表7−84】
【0367】
【表7−85】
【0368】
【表7−86】
【0369】
【表7−87】
【0370】
【表8】
【0371】
【表9−1】
【0372】
【表9−2】
【0373】
【表9−3】
【0374】
【表9−4】
【0375】
【表10−1】
【0376】
【表10−2】
【0377】
【表10−3】
【0378】
【表10−4】
【0379】
【表10−5】
【0380】
【表10−6】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織培養ポリスチレン上の培養物中で容易に増殖(expand)することができ、フィーダー細胞株を必要としない多能性幹細胞を目的とする。本発明はまた、ヒト胚幹細胞から多能性幹細胞株を誘導する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
1型糖尿病の細胞置換療法における進歩、及び移植可能なランゲルハンス島の不足のため、生着に適したインスリン産生細胞すなわちβ細胞の供給源の開発に注目が集まっている。1つの手法として、例えば、胚性幹細胞のような多能性幹細胞から機能性のβ細胞を生成することがある。
【0003】
脊椎動物の胚発生において、多能性細胞は、原腸形成として公知のプロセスにて、3つの胚葉(外胚葉、中胚葉、及び内胚葉)を含む細胞群を生じる。例えば、甲状腺、胸腺、膵臓、腸、及び肝臓等の組織は、内胚葉から中間段階を経て発達する。このプロセスにおける中間段階は、胚体内胚葉の形成である。胚体内胚葉細胞は、HNF−3β、GATA4、Mixl1、CXCR4及びSOX−17などの多くのマーカーを発現する。
【0004】
膵臓の形成は、胚体内胚葉の膵臓内胚葉への分化により起こる。膵臓内胚葉の細胞は膵臓−十二指腸ホメオボックス遺伝子、PDX−1を発現する。PDX−1が存在しない場合、膵臓は、腹側芽及び背側芽の形成を越えて発達しない。したがって、PDX−1の発現は、膵臓器官形成において重要な工程をマークしている。成熟した膵臓は、他の細胞型の中でも、外分泌組織及び内分泌組織を含む。外分泌組織及び内分泌組織は、膵臓内胚葉の分化によって生じる。
【0005】
島細胞の特徴を保持する細胞がマウスの胚細胞から誘導されたことが報告されている。例えば、Lumelskyら(Science 292:1389,2001)は、マウスの胚幹細胞の、膵島と同様のインスリン分泌構造への分化を報告している。Soriaら(Diabetes 49:157,2000)は、ストレプトゾトシン糖尿病のマウスにおいて、マウスの胚幹細胞から誘導されたインスリン分泌細胞が糖血症を正規化することを報告している。
【0006】
一例において、Horiら(PNAS 99:16105,2002)は、ホスホイノシチド3−キナーゼ(LY294002)の阻害剤でマウス胚性幹細胞を処理することにより、β細胞に類似した細胞が生じたことを開示している。
【0007】
他の例では、Blyszczukら(PNAS100:998,2003)が、Pax4を構成的に発現するマウス胚幹細胞からのインスリン産生細胞の生成を報告している。
【0008】
Micallefらは、レチノイン酸が、胚幹細胞のPDX−1陽性膵臓内胚葉の形成に対する関与を制御することができることを報告している。レチノイン酸は、胚の原腸形成の最後に相当する期間中、胚幹細胞分化の4日目に培養物に添加したとき、PDX−1発現の誘導において最も効果的である(Diabetes 54:301,2005)。
【0009】
Miyazakiらは、PDX−1を過剰発現するマウス胚幹細胞株を報告している。Miyazakiらの結果は、外因性のPDX−1発現が、得られた分化細胞においてインスリン、ソマトスタチン、グルコキナーゼ、ニューロゲニン3、P48、Pax6、及びHNF6遺伝子の発現を明らかに増加させることを示している(Diabetes 53:1030,2004)。
【0010】
Skoudyらは、マウス胚幹細胞内で、アクチビンA(TGFβスーパーファミリーのメンバー)が、膵臓外分泌遺伝子(p48及びアミラーゼ)、並びに内分泌遺伝子(PDX−1、インスリン、及びグルカゴン)の発現を増大させることを報告している。最大の効果は、1nMアクチビン−Aを使用して観察された。Skoudyらはまた、インスリン及びPDX−1 mRNAの発現レベルはレチノイン酸により影響されなかったが、3nMのFGF−7による処理によりPDX−1の転写産物のレベルが増加したことも観察している(Biochem.J.379:749,2004)。
【0011】
Shirakiらは、胚幹細胞のPDX−1陽性細胞への分化を特異的に高める増殖因子の効果を研究した。Shirakiらは、TGFβ2によってPDX−1陽性細胞が高い比率で再現可能に得られたことを観察している(Genes Cells.2005 Jun;10(6):503〜16)。
【0012】
Gordonらは、血清の不在下、及びアクチビンとWntシグナル伝達阻害剤の存在下での、マウス胚幹細胞からの短尾奇形+/HNF−3β+内胚葉細胞の誘発を示した(米国特許出願公開第2006/0003446A1号)。
【0013】
Gordonら(PNAS,Vol103,page 16806,2006)は、「Wnt及びTGF−β/nodal/アクチビンシグナル伝達は、前側の原始線条の生成のために同時に必要である」と述べている。
【0014】
しかしながら、胚幹細胞発達のマウスモデルは、例えば、ヒト等のより高等な哺乳動物内の発達プログラムを正確に模倣していない恐れがある。
【0015】
Thomsonらは、ヒト胚盤胞から胚幹細胞を単離した(Science 282:114,1998)。同時に、Gearhart及び共同研究者は、胎児生殖腺組織から、ヒト胚生殖(hEG)細胞株を誘導した(Shamblott et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:13726,1998)。白血病阻害因子(LIF)と共に培養するだけで分化を阻止し得るマウス胚幹細胞とは異なり、ヒト胚幹細胞は、非常に特殊な条件下で維持する必要がある(米国特許第6,200,806号、国際公開第99/20741号、国際公開第01/51616号)。
【0016】
D’Amourらは、高濃度のアクチビン及び低血清の存在下でのヒト胚幹細胞誘導による胚体内胚葉に富んだ培養液の生成について記載している(D’Amour KA et al.2005)。これらの細胞を、マウスの腎臓皮膜下で移植することにより、いくつかの内胚葉性器官の特徴を有する、より成熟した細胞への分化が見られた。ヒト胚性幹細胞由来の胚体内胚葉細胞はFGF−10の添加後、更にPDX−1陽性細胞に分化させることができる(米国特許出願公開第2005/026655A1号)。
【0017】
D’Amourら(Nature Biotechnology−24,1392〜1401(2006))は、「私達は、ヒト胚幹(hES)細胞を、膵臓ホルモンインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵臓ポリペプチド及びグレリンを合成できる内分泌細胞に変換する分化プロセスを開発した。このプロセスは、胚体内胚葉、腸管内胚葉、膵臓内胚葉及び内分泌前駆体が、内分泌ホルモンを発現する細胞へと向かう段階に類似した段階を通して細胞を指向させることにより、インビボでの膵臓器官形成を模倣する。」と述べている。
【0018】
別の例において、Fiskらは、ヒト胚幹細胞から膵島細胞を産生するシステムを報告している(米国特許出願公開第2006/0040387A1号)。この場合、分化経路は3つの段階に分割された。ヒト胚幹細胞は、最初に、n−ブチレートとアクチビン−Aとの組み合わせを使用して、内胚葉に分化した。次に細胞をノギンなどのTGFβアンタゴニストとEGF又はベータセルリンとの組み合わせと培養してPDX−1陽性細胞を作製した。最終分化は、ニコチンアミドにより誘発された。
【0019】
1つの例において、Benvenistryらは、「我々は、PDX−1の過剰発現が膵臓に多く見られる遺伝子の発現を高めたという結論を下す。インスリン発現の誘導には、インビボでのみ存在する更なるシグナルを必要とする可能性がある。」と述べている(Benvenistry et al,Stem Cells 2006;24:1923〜1930)。
【0020】
ヒト胚幹細胞を培養する現在の方法は、細胞外マトリクスタンパク質若しくは線維芽細胞フィーダー層のいずれかの使用、又は例えばbFGF等の外因性成長因子の添加を必要としている。
【0021】
1つの例では、Cheonら(BioReprod DOI:10.1095/biolreprod.105.046870,October 19,2005)は、胚幹細胞の自己再生を誘発することができる様々な成長因子を添加した非馴化(unconditioned)血清代替(SR)培地中で胚幹細胞が維持される無フィーダー、無血清培養系を開示している。
【0022】
別の例において、Levensteinら(Stem Cells 24:568〜574,2006)は、線維芽細胞又は馴化培地の非存在下で、bFGFを添加した培地を使用して、胚幹細胞を長期間培養する方法を開示している。
【0023】
別の例において、米国特許出願公開第20050148070号は、血清及び繊維芽細胞フィーダー細胞方法を含まない合成培地中でのヒト胚幹細胞の培養方法を開示し、同方法は、アルブミン、アミノ酸、ビタミン、無機物、少なくとも1つのトランスフェリン又はトランスフェリン代替物、少なくとも1つのインスリン又はインスリン代替物を含有する培地中で細胞を培養し、この培地は、本質的に哺乳動物胎児血清を含有せず、線維芽細胞増殖因子シグナル伝達受容体を活性化できる少なくとも約100ng/mLの線維芽細胞増殖因子を含有し、ここで増殖因子は、線維芽細胞フィーダー層のみでなく他の源からも供給され、培地はフィーダー細胞又は馴化培地なしで、未分化状態の幹細胞の増殖を支持した。
【0024】
別の例において、米国特許出願公開第20050233446号は、未分化の霊長類始原幹細胞を含む幹細胞の培養に有用な合成培地を開示している。溶液において、培地は、培養されている幹細胞と比較して実質的に等張である。所定の培養おいて、特定の培地は、基本培地と、実質的に未分化の始原幹細胞の増殖の支持に必要な、ある量のbFGF、インスリン、及びアスコルビン酸の各々とを含有する。
【0025】
別の例として、米国特許第6800480号は、「1つの実施形態において、実質的に未分化状態の霊長類由来の始原幹細胞を増殖させるための細胞培地であって、霊長類由来の始原幹細胞の増殖を支持するうえで効果的な低浸透圧、低エンドトキシンの基礎培地を含む細胞培地を提供する。この基本培地は、霊長類由来の始原幹細胞の増殖を支持するうえで効果的な栄養素血清、並びに、フィーダー細胞、及びフィーダー細胞から誘導される細胞外基質成分からなる群から選択される基質と組み合わされる。培地は更に、非必須アミノ酸、抗酸化剤、並びにヌクレオシド及びピルビン酸塩からなる群から選択される第1の増殖因子を含む。」と述べている。
【0026】
別の例では、米国特許出願公開第20050244962号は、「1つの態様において本発明は、霊長類の胚性幹細胞を培養する方法を提供する。哺乳動物の胎児血清を基本的に含まない(好ましくはあらゆる動物の血清をも基本的に含まない)培養中で、単に繊維芽フィーダー細胞層以外の供給源から供給される線維芽細胞増殖因子の存在下で幹細胞を培養する。好ましい1つの形態では、充分な量の繊維芽増殖因子を添加することによって、幹細胞の培養を維持するために従来必要とされていた繊維芽フィーダー細胞層の必要性がなくなる。」と述べている。
【0027】
更なる例では、国際公開第2005065354号は、a.基礎培地と;b.実質的に未分化である哺乳類幹細胞の成長を支持するのに十分な量のbFGFと;c.実質的に未分化である哺乳類幹細胞の成長を支持するのに十分な量のインスリンと;d.実質的に未分化である哺乳類幹細胞の成長を支持するのに十分な量のアスコルビン酸と;を含む、本質的に無フィーダーかつ無血清である限定等張培地を開示している。
【0028】
別の例として、国際公開第2005086845号は、未分化の幹細胞を維持するための方法であって、幹細胞を未分化状態に維持するのに充分な量のトランスフォーミング増殖因子β(TGFβ)のタンパク質ファミリーのメンバー、繊維芽細胞増殖因子(FGF)のタンパク質ファミリーのメンバー、又はニコチンアミド(NIC)に、所望の結果を得るのに充分な時間だけ、幹細胞を曝露することを含む方法を開示している。
【0029】
更に、ヒト胚幹細胞からの膵臓内分泌細胞、膵臓ホルモン発現細胞、又は膵臓ホルモン分泌細胞の形成は、ヒト胚幹細胞の遺伝子操作を必要とする場合がある。例えばリポフェクタミン又は電気穿孔法等の従来の技術を用いるヒト胚幹細胞のトランスフェクションは非効率である。
【0030】
国際公開第2007027157号は、(a)胚幹細胞(ES)細胞を提供する工程と;(b)胚幹細胞から前駆細胞株を確立する工程であって、前駆細胞株がその自己再生能に基づいて選択される工程と、を含む方法を開示している。好ましくは、方法は自己再生できないことに基づいて体細胞を淘汰する。好ましくは前駆細胞株は、共培養物の非存在下で、好ましくはフィーダー細胞の非存在下で誘導又は確立され、これらは好ましくは胚幹細胞を淘汰する。所望により、方法は(d)前駆細胞株から分化細胞を誘導する工程を含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
したがって、膵臓内分泌細胞、膵臓ホルモン発現細胞、又は膵臓ホルモン分泌細胞に分化する可能性を維持する一方で、現在の臨床上の必要性に対処するよう拡張できる、多能性幹細胞株を確立するための条件を開発する有意な必要性が今尚存在する。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、培養物中低血清下で容易に増殖することができ、フィーダー細胞株又は複合マトリクスタンパク質のコーティングの必要なく、単一細胞懸濁液中で継代することができ、非常に高効率でトランスフェクションすることができ、かつ低酸素条件下で培養される、ヒト胚幹細胞の特徴を有する細胞集団を提供する。この独特な特性の組み合わせにより、本発明に記載される細胞は先行技術と区別される。
【0033】
1つの実施形態では、本発明は、多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.細胞を得る工程と、
b.細胞を培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0034】
細胞は、ヒト胚幹細胞であってもよく、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞であってもよい。ヒト胚幹細胞は、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養してもよい。あるいは、ヒト胚幹細胞は低酸素条件下で培養してもよい。
【0035】
ヒト胚幹細胞は、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養し、Rhoキナーゼ阻害剤で処理してもよい。あるいは、ヒト胚幹細胞を低酸素条件下で培養し、Rhoキナーゼ阻害剤で処理してもよい。
【0036】
胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養してもよい。あるいは、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を低酸素条件下で培養してもよい。
【0037】
1つの実施形態では、本発明は、多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
b.ヒト胚幹細胞を、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程と、
c.細胞を除去し、次いで細胞を、培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0038】
細胞は、血清、アクチビン−A、及びWntリガンドを含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。あるいは、細胞は、血清、アクチビン−A、Wntリガンド、及びIGF−1を含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。
【0039】
細胞は、血清、Rhoキナーゼ阻害剤、アクチビン−A、及びWntリガンドを含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。あるいは、細胞は、血清、Rhoキナーゼ阻害剤、アクチビン−A、Wntリガンド、及びIGF−1を含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。
【0040】
1つの実施形態では、本発明は、多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
b.細胞を除去し、次いで細胞を、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0041】
細胞は、血清、アクチビン−A、及びWntリガンドを含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。あるいは、細胞は、血清、アクチビン−A、Wntリガンド、及びIGF−1を含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。
【0042】
細胞は、血清、Rhoキナーゼ阻害剤、アクチビン−A、及びWntリガンドを含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。あるいは、細胞は、血清、Rhoキナーゼ阻害剤、アクチビン−A、Wntリガンド、及びIGF−1を含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。
【0043】
本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて、培養物中で増殖することができる。
【0044】
1つの実施形態では、本発明は、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて、細胞を培養する工程を含む、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を増殖させる方法を提供する。1つの実施形態では、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、本発明の方法により形成される多能性細胞に由来する。
【0045】
細胞は、血清、アクチビン−A、Wntリガンド、及びGSK−3B阻害剤を含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】4日間低血清+アクチビン−A+WNT−3Aで処理した後、胚体内胚葉に分化している54継代のヒト胚幹細胞株H9由来の細胞における、CXCR4(CD184、Y軸)及びCD9(X軸)の発現を示す。
【図2】実施例5に概要を述べる胚体内胚葉分化プロトコルの4日目及び6日目における、54継代のヒト胚幹細胞株H9由来の細胞のリアルタイムPCR分析を示す。パネルa)は、AFP、Bry、CXCR4、GSC、及びSOX−7の発現を示す。パネルb)は、SOX−17、GATA−4、及びHNF−3βの発現を示す。
【図3】本発明の方法に係る胚幹細胞からEXPRES細胞を誘導するために用いられる単離プロトコルを示す。
【図4】2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのActivin−A(パネルa)又は2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのActivin−A+20ng/mLのWNT−3A(パネルb)中で培養された、11日目のP0の増殖したEXPRES細胞の形態を示す。パネルcは、3継代のEXPRES細胞の形態を示す。
【図5】3継代の間2〜5% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのActivin−A+20ng/mLのWNT−3A中で培養された、増殖したEXPRES細胞のリアルタイムPCR分析を示す。パネルa)は、AFP、Bry、CXCR4、GSC、及びSOX−7の発現を示す。パネルb)は、SOX−17、GATA−4、及びHNF−3βの発現を示す。
【図6】EXPRES細胞の遺伝子発現に対するWnt−3Aの添加の効果を示す。パネルa)は、SOX−17、GATA−4、及びHNF−3βのリアルタイムPCR発現を示す。パネルb)は、AFP、Bry、CXCR4、GSC、及びSOX−7のリアルタイムPCR発現を示す。
【図7】EXPRES細胞の遺伝子発現に対するIGF−1、Wnt−3A及びアクチビン−Aの効果を示す。パネルa)は、SOX−17、GATA−4、HNF−3β、Bry、CXCR4、及びGSCのリアルタイムPCR発現を示す。パネルb)は、SOX−7及びAFPのリアルタイムPCR発現を示す。パネルc)は、OCT−4のリアルタイムPCR発現を示す。
【図8】a)2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A、b)2% FBS+DMEMF12+100ng/mLのAA、c)2% FBS+DMEM−F12+50ng/mLのIGF−I中で培養された、54継代のヒト胚幹細胞株H9から誘導された増殖したEXPRES細胞の形態を示す。
【図9】低酸素条件下にて組織培養ポリスチレン上で培養されたEXPRES 01及び02細胞の増殖能を示す。EXPRES 01は、2% FBS+DM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mLのIGF−I中で培養し、EXPRES 02細胞は2% FBS+DM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A中で培養された。
【図10】DM−F12+2% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT3A+50ng/mLのIGF−I中のTCPS(組織培養ポリスチレン)上で未分化ES細胞の単一細胞懸濁液から誘導されたEXPRES細胞の形態を示す。
【図11】24継代細胞のEXPRES 01細胞において、FACSにより測定したタンパク質の発現を示す。パネルa)はE−カドヘリンの発現量を示し、パネルb)はCXCR4の発現量を示し、パネルc)はCD9の発現量を示し、パネルd)はCD117の発現量を示し、パネルe)はCD30の発現量を示し、パネルf)はLIF受容体の発現量を示し、パネルg)はTRA1−60の発現量を示し、パネルh)はTRA1−81の発現量を示し、パネルi)はSSEA−1の発現量を示し、パネルj)はSSEA−3の発現量を示し、パネルk)はSSEA−4の発現量を示し、パネルl)はCD56の発現量を示す。
【図12】21継代細胞のEXPRES 02において、FACSにより測定したタンパク質の発現を示す。パネルa)はE−カドヘリンの発現量を示し、パネルb)はCXCR4の発現量を示し、パネルc)はCD9の発現量を示し、パネルd)はCD117の発現量を示し、パネルe)はCD30の発現量を示し、パネルf)はLIF受容体の発現量を示し、パネルg)はTRA1−60の発現量を示し、パネルh)はTRA1−81の発現量を示し、パネルi)はSSEA−1の発現量を示し、パネルj)はSSEA−3の発現量を示し、パネルk)はSSEA−4の発現量を示し、パネルl)はCD56の発現量を示す。
【図13】2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mLのIGF−I中で培養された10継代のEXPRES 01の免疫蛍光画像を示す。パネルa)パネルbのDAPI画像、パネルb)Nanog、パネルc)DAPI(青)及びOct−4(緑)共染色、パネルd)パネルeのDAPI画像、パネルe)SOX−2、並びにパネルf)DAPI(青)及びHNF−3β(緑)共染色。
【図14】2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A中で培養された9継代のEXPRES 02の免疫蛍光画像を示す。パネルa)パネルbのDAPI画像、パネルb)HNf3B、パネルc)パネルdのDAPI画像、パネルd)OCT−4、パネルe)パネルfのDAPI画像、パネルf)SOX−2、パネルg)パネルhのDAPI画像、パネルh)NANOG。
【図15】EXPRES01細胞、EXPRES 02細胞、H9細胞から誘導されたEB、MEF−CM中のMATRIGEL上で培養されたSA002、及びMEFCM中のMATRIGEL上で培養された未分化H9細胞について、リアルタイムPCRにより測定した遺伝子発現を示す。発現量は全て未分化H9細胞で正規化する。パネルa)はSOX−1発現を示し、パネルb)はFOXD3、MYOD1、POU5F1、及びZFP42発現を示し、パネルc)はABCG2、コネキシン43、コネキシン45、及びサイトケラチン15発現を示し、パネルd)は、ネスチン、SOX−2、UTF1、及びビメンチンを示し、パネルe)はGATA−2、短尾奇形、TERT、及びチューブリンベータIII発現を示し、パネルf)はCFC1及びGATA−4発現を示し、パネルg)はAFP及びFOXA2発現を示し、パネルh)はIPF1A及びMSX1発現を示す。
【図16】a)成長培地中の組織培養ポリスチレン上で培養され、次いでDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mLのアクチビン−A及び20ng/mLのWNT3Aに替えて2日間、続いて更に2日間DMEM−F12+2% FBS+100ng/mLのアクチビン−A中で培養された5継代細胞EXPRES01細胞、b)成長培地中の組織培養ポリスチレン上で培養され、次いでDMEM−F12+0.5%FBS+100ng/mLのアクチビン−A及び20ng/mLのWNT3Aに替えて2日間、続いて更に2日間DMEM−F12+2% FBS+100ng/mLのアクチビン−A中で培養された4継代細胞EXPRES02細胞中の、CXCR4(Y軸)及びCD9(x軸)のFACSにより測定された発現を示す。
【図17】低血清+AA+WNT3aで処理されたa)EXPRES 01細胞及びb)EXPRES 02細胞における、リアルタイムPCRにより測定された遺伝子発現を示す。
【図18】2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mLのIGF−I中で培養し、次いでDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mLのアクチビン−A及び20ng/mLのWNT3Aに替えて2日間、続いて更に2日間DMEM−F12+2% FBS+100ng/mLのアクチビン−A中で培養された5継代EXPRES01細胞の免疫蛍光画像を示す。パネルa)パネルbのDAPI画像、パネルb)GATA−4、パネルc)パネルdのDAPI画像、パネルd)SOX−17、パネルe)パネルfのDAPI画像、パネルf)HNF−3β、パネルg)パネルhのDAPI画像、及びパネルh)OCT−4。
【図19】2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A中で培養し、次いでDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mLのアクチビン−A及び20ng/mLのWNT3Aに替えて2日間、続いて更に2日間DMEM−F12+2% FBS+100ng/mLのアクチビン−A中で培養された4継代EXPRES 02細胞の免疫蛍光画像を示す。パネルa)パネルbのDAPI画像、パネルb)GATA−4、パネルc)パネルdのDAPI画像、パネルd)SOX−17、パネルe)パネルfのDAPI画像、パネルf)HNF−3β、パネルg)パネルhのDAPI画像、及びパネルh)OCT−4。
【図20】成長培地中の組織培養ポリスチレン上で培養され、次いでDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mLのアクチビン−A+100nM GSK−3B阻害剤IX、及び20ng/mLのWNT3Aに替えて4日間培養された、a)19継代細胞のEXPRES 01細胞及びb)14継代細胞のEXPRES 02細胞について、CXCR4(Y軸)及びCD9(x軸)のFACSにより測定したタンパク質発現を示す。
【図21】2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mLのIGF−I中で培養された19継代のEXPRES 01細胞、及び2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのAA+20ng/mLのWNT−3A中で培養され、次いでDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mLのアクチビン−A+100nM GSK−3B阻害剤IX、及び20ng/mLのWNT3Aに替えて5日間培養された14継代のEXPRES 02細胞の免疫蛍光画像を示す。パネルa)パネルbのDAPI画像、パネルb)HNF−3β、パネルc)パネルdのDAPI画像、パネルd)GATA−4、パネルe)パネルfのDAPI画像、パネルf)SOX−17、パネルg)パネルhのDAPI画像、パネルh)HNF−3β、パネルi)パネルjのDAPI画像、パネルj)GATA−4、パネルk)パネルlのDAPI画像、パネルl)SOX−17。
【図22】5日間低血清+AA+WNT3a+GSK−3B IX阻害剤で処理されたa)EXPRES 01及びEXPRES 02細胞について、リアルタイムPCRデータにより測定された遺伝子発現を示す。パネルaは、AFP、短尾奇形、CDX2、Mox1、OCT3/4、SOX−7及びZIC1の発現を表し、パネルbは、CXCR4、GATA−4、グースコイド、HNf3B及びSOX−17の発現量を示す。
【図23】成長培地中の組織培養ポリスチレン上に5000〜40000細胞/cm2で播種し、次いで低酸素条件下でDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT3A+100nM GSK−3B阻害剤IXに替えて4日間培養したEXPRES 01細胞について、リアルタイムPCRにより測定された遺伝子発現を示す。パネルaは、AFP、短尾奇形、SOX−7、及びOTX2の発現量を表す。パネルbは、CXCR4、HNF−3β、GATA−4、SOX−17、Cerb、及びGSCの発現量を表す。
【図24】低テロメア対照細胞(レーン1)、24継代のEXPRES 01細胞(レーン2)、17継代のEXPRES02細胞(レーン3)、40継代のヒト胚幹細胞株H1由来の未分化細胞(レーン4)、及び高テロメア長対照細胞(レーン5)におけるテロメア長アッセイの結果を示す。
【図25】前腸内胚葉細胞(S3)、膵臓内胚葉細胞(S4)、及び膵臓内分泌細胞(S5)に分化した21継代のEXPRES 01細胞について、リアルタイムPCRデータにより測定された遺伝子発現を示す。
【図26】実施例18にしたがって培養した35継代のEXPRES 01の免疫蛍光画像を示す。パネルa)パネルbのDAPI画像、パネルb)抗−1トリプシン、パネルc)緑のHNF−3β、赤のアルブミン、パネルd)赤のアルブミン及びDAPI(青)、パネルe)パネルfのDAPI画像、パネルf)PDX−1、パネルg)パネルhのDAPI画像、パネルh)SOX−17、パネルi)パネルjのDAPI画像、パネルj)CDX−2。
【図27】以下を比較したマイクロアレイデータの散布図を示す:パネルa)EXPRES 01細胞(y軸)対ヒト胚幹細胞株H9由来の未分化細胞(x軸)、パネルb)EXPRES 02細胞(y軸)対ヒト胚幹細胞株H9由来の未分化細胞(x軸)、パネルc)EXPRES 01細胞(y軸)対EXPRES 02細胞(x軸)、パネルd)EXPRES01細胞(y軸)対胚体内胚葉に分化しているヒト胚幹細胞株H9由来の細胞(x軸)、パネルe)EXPRES 02細胞(y軸)対胚体内胚葉に分化しているヒト胚幹細胞株H9由来の細胞(x軸)、パネルf)ヒト胚幹細胞株H9由来の未分化細胞(y軸)対胚体内胚葉に分化しているヒト胚幹細胞株H9由来の細胞(x軸)。
【図28】EXPRES 01細胞により形成されたEB体の形態を示す。
【図29】NOD−SCIDマウスの腎臓被膜下に移植した5週間後のEXPRES 01細胞株の細胞、EXPRES 02細胞株の細胞、及び43継代のヒト胚幹細胞株H9由来の細胞についてリアルタイムPCRにより測定された遺伝子発現を示す。パネルa〜eは中胚葉マーカーを示す。パネルf&gは外胚葉マーカーを示す。パネルh&iは内胚葉マーカーを示す。パネルjは胚体外内胚葉マーカーを示す。パネルk〜mは多能性マーカーを示す。
【図30】BRDU導入により測定されたEXPRES 03細胞の増殖及び細胞周期状態を示す。EXPRES 03細胞は、パネルa)アクチビン−A(100ng/mL)及びwnt3a(20ng/mL)、パネルb)アクチビン−A(100ng/mL)及びwnt3a(20ng/mL)及びIGF(50nh/mL)を添加した、2%FBS/DMEM/F12中で培養した。示される他の細胞としては、パネルc)hES細胞(H9p43)、パネルd)羊水細胞(AFDX002)、及びパネルe)マイトマイシン処理MEF細胞が挙げられる。パネルf)は、試験した異なる細胞集団の細胞周期のS期、G1及びG2/M期における細胞頻度を示す。
【図31】単一細胞分散又は細胞塊としてプレーティングされたEXPRES 01細胞及びヒト胚幹細胞におけるEGFPのトランスフェクション効率及び発現を示す。細胞は、蛍光顕微鏡及びフローサイトメトリーにより24時間後に分析された。パネルA)は、EXPRES 01細胞から得られるデータを示す。パネルB)は、ヒト胚幹細胞の単一細胞分散から得られたデータを示し、パネルC)はヒト胚幹細胞の細胞塊から得られたデータを示す。
【図32】デヒドロゲナーゼ酵素活性を表す平均OD指数対a)大気中酸素(約21%)下で培養されたEXPRES 01細胞、b)3% O2下で培養されたEXPRES 01細胞、c)大気中酸素(約21%)下で培養されたEXPRES 02細胞、d)3% O2条件下で培養されたEXPRES 02細胞について、MTSアッセイにより測定された細胞数を示す。
【図33】DMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT3A+100nM GSK−3B阻害剤IX中の組織培養ポリスチレン上に10000細胞/cm2で播種されたEXPRES 01 P27細胞について、リアルタイムPCRにより測定された遺伝子発現を示す。パネルaは、AFP、短尾奇形、SOX−7、及びOTX2の発現量を表す。パネルbは、CXCR4、HNF−3β、GATA−4、SOX−17、Cer1、及びGSCの発現量を表す。
【図34】3継代中、DMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT3A+100nM GSK−3B阻害剤IX中の組織培養ポリスチレン上で培養されたEXPRES 01 P27細胞について、FACSにより測定されたCXCR4(Y軸)及びCD9(x軸)のタンパク質発現を示す。
【図35】GSK−3B及びベータカテニンの発現に対するsiRNAトランスフェクションの効果を示す。EXPRES細胞は、蛍光顕微鏡及び定量RT−PCR法により分析された。A)i)CY3標識siRNA及びii)フルオロセイン標識siRNAでトランスフェクトされた細胞の蛍光顕微鏡像。B)i)GSK−3B及びii)ベータカテニンsiRNAオリゴ配列でトランスフェクトされた細胞中の残存活性(%)として表される標的遺伝子のノックダウン。
【図36】本発明の方法により誘導された2種の細胞株の核型を示す。パネルa:EXPRES01細胞株。パネルb:EXPRES 02細胞株。
【図37】a)2% FBS+DM−F12+100ng/mLのアクチビン−A+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mL IGF又はb)2% FBS+DM−F12+100ng/mLのアクチビン−A+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mL IGF+10μMのRhoキナーゼ阻害剤Y−27632中で24時間培養した後、0継代のEXPRES 15細胞の形態を示す。
【図38】12継代中、2% FBS+DM−F12+100ng/mLのアクチビン−A+20ng/mLのWNT−3A+50ng/mL IGF+10μMのRhoキナーゼ阻害剤Y−27632中で培養されたEXPRES 15細胞の核型を示す。
【図39】24時間(パネルa)、48時間(パネルb)、及び96時間(パネルc)、指定の濃度でIGF、アクチビン−A、Wnt3A、及びGSK阻害剤IXを添加した基本培地中で培養されたEXPRES11細胞のA490により測定した増殖を示す。
【発明を実施するための形態】
【0047】
開示を分かりやすくするため、限定を目的とすることなく、本発明の詳細な説明を、本発明の特定の特徴、実施形態、又は応用を説明又は図示した以下の小項目に分ける。
【0048】
定義
幹細胞とは、1個の細胞レベルで自己再生し、かつ、自己再生性の前駆細胞、非自己再生性の前駆細胞、及び最終分化細胞のような後代細胞を生ずるように分化する能力によって定義される未分化細胞のことである。幹細胞はまた、インビトロで複数の胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)から様々な細胞系統の機能的細胞に分化する能力によって、また移植後に複数の胚葉の組織を生じ、胚盤胞への注入後、全部ではないとしても殆どの組織を提供する能力によっても、特徴付けられる。
【0049】
幹細胞は、それらの発達能力により:(1)全胚及び胚体外細胞型を生じる能力を意味する全能性、(2)全胚細胞型を生じる能力を意味する多能性、(3)細胞系統の小集合を生じるが、全て特定の組織、器官又は生理的システム内で生じる能力を有することを意味する多能性(例えば、造血幹細胞(HSC)は、HSC(自己複製)、血液細胞に限定された寡能性前駆細胞、並びに血液の通常の構成要素である全細胞型及び要素(例えば、血小板)を含む子孫を産生できる)、(4)多能性幹細胞と比較して限定された細胞系統の小集合を生じる能力を有することを意味する寡能性、並びに(5)1つの細胞系統を生じる能力を有することを意味する単能性(例えば、精子形成幹細胞)に分類される。
【0050】
分化は、非特殊化の(「中立の」)又は比較的特殊化されていない細胞が、例えば、神経細胞又は筋細胞等の特殊化した細胞の特徴を獲得するプロセスである。分化した、又は分化を誘発された細胞は、細胞系統内でより特殊化した(「傾倒した(committed)」)状況を呈している細胞である。分化プロセスに適用した際の用語「傾倒した」は、通常の環境下で特定の細胞型又は細胞型の小集合に分化し続ける分化経路の地点に進行しており、通常の環境下で異なる細胞型に分化し、又はより分化されていない細胞型に戻ることができない細胞を指す。脱分化は、細胞が細胞系統内で比較的特殊化されて(又は傾倒して)いない状況に戻るプロセスを指す。本明細書で使用される場合、細胞系統は、細胞の遺伝、即ちその細胞がどの細胞から来たか、またどの細胞を生じ得るかを規定する。細胞系統は、細胞を発達及び分化の遺伝的スキーム内に配置する。系統特異的なマーカーは、関心対象の細胞の表現型に特異的に関連した特徴を指し、中立細胞の関心対象系統への分化を評価する際に使用することができる。
【0051】
本明細書で使用される場合、「AFP」又は「α−フェトプロテインタンパク質」は、肝臓発達の開始時に産生される抗原を指す。AFPは、胚体外細胞内にも発現され得る。
【0052】
「アルブミン」は、成人の全血清タンパク質の約半分を占める可溶性の単量体タンパク質である。
【0053】
「β−細胞系統」は、転写因子PDX−1と、以下の転写因子:NGN−3、Nkx2.2、Nkx6.1、NeuroD、Isl−1、HNF−3β、MAFA、Pax4、及びPax6の少なくとも1つとに関する遺伝子発現が陽性の細胞を指す。β細胞系統に特徴的なマーカーを発現する細胞としては、β細胞が挙げられる。
【0054】
本明細書で使用される場合「短尾奇形」は、Tボックス遺伝子ファミリーのメンバーである。これは、原始線条及び中胚葉細胞に関するマーカーである。
【0055】
本明細書で使用される場合「胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞」とは、以下のマーカー:SOX−17、GATA−4、HNF−3β、GSC、Cer1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix様ホメオボックスタンパク質、FGF4 CD48、エオメソデルミン(eomesodermin)(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA−6、CXCR4、C−Kit、CD99又はOTX2の少なくとも1つを発現する細胞を指す。内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、原始線条前駆体細胞、原始線条細胞、中内胚葉細胞及び胚体内胚葉細胞を含む。
【0056】
「c−Ki」及び「CD117」は、両方とも、Genbank受入番号X06182に開示されている配列、又はその天然に存在する変異体配列(例えば、対立遺伝子変異体)を有する細胞表面受容体チロシンキナーゼを指す。
【0057】
本明細書で使用される場合、「CD99」は、受入番号NM_002414を有する遺伝子によりコードされるタンパク質を指す。
【0058】
本明細書で使用される場合、「膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞」は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する細胞を指す:PDX−1、HNF−1β、PTF−1α、HNF−6、又はHB9。膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵臓内胚葉細胞を含む。
【0059】
本明細書で使用される場合、「膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーを発現する細胞」は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する細胞を指す:NGN−3、NeuroD、Islet−1、PDX−1、NKX6.1、Pax−4、Ngn−3、又はPTF−1α。膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵臓内分泌細胞、膵臓ホルモン発現細胞、及び膵臓ホルモン分泌細胞、並びにβ−細胞系統の細胞を含む。
【0060】
本明細書で使用される場合、「Cer1」又は「Cerebrus」は、タンパク質のシステインノットスーパーファミリーのメンバーである。
【0061】
本明細書で使用される場合「CXCR4」は、「LESTER」又は「フーシン」としても知られているストロマ細胞由来因子1(SDF−1)受容体を指す。原腸形成マウス胚では、CXCR4は、胚体内胚葉及び中胚葉で発現するが、胚体外内胚葉では発現しない。
【0062】
本明細書で使用される場合、「胚体内胚葉」は、原腸形成中、胚盤葉上層から生じ、胃腸管及びその誘導体を形成する細胞の特徴を保持する細胞を指す。胚体内胚葉細胞は、以下のマーカーを発現する:HNF−3β、GATA−4、SOX−17、Cerberus、OTX2、グースコイド、C−Kit、CD99、及びMixl1。
【0063】
本明細書で使用される場合、「胚体外内胚葉」は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する細胞の集団を指す:SOX−7、AFP、及びSPARC。
【0064】
本明細書で使用される場合、「FGF−2」「FGF−4」「FGF−8」「FGF−10」及び「FGF−17」は、繊維芽細胞増殖因子ファミリーのメンバーである。
【0065】
「GATA−4」及び「GATA−6」は、GATA転写因子ファミリーのメンバーである。この転写因子のファミリーは、TGF−βシグナル伝達により誘発され、早期の内胚葉マーカーの維持に寄与する。
【0066】
本明細書で使用される場合、「GLUT−2」は、膵臓、肝臓、腸、脳、及び腎臓を含む、胎児及び成人の多数の組織内にて発現されるブドウ糖輸送体分子を指す。
【0067】
本明細書で使用される場合、「グースコイド」又は「GSC」は、原口背唇内に発現されたホメオドメイン転写因子を指す。
【0068】
本明細書で使用される場合、「HB9」は、ホメオボックス遺伝子9を指す。
「HNF−1α」「HNF−1β」「HNF−3β」及び「HNF−6」は、転写因子の肝臓核因子ファミリーに属し、高度に保護されたDNA結合ドメインと2つの短いカルボキシ−末端ドメインにより特徴付けられる。
【0069】
本明細書で使用される場合、「Islet−1」又は「Isl−1」は、転写因子のLIM/ホメオドメインファミリーのメンバーであり、発達中の膵臓内で発現する。
【0070】
本明細書で使用される場合、「MafA」は、膵臓内に発現された転写因子であり、インスリンの生合成及び分泌に関与する遺伝子の発現を制御する。
【0071】
本明細書で使用される場合、「マーカー」は、関心対象の細胞内で差異的に発現される核酸又はポリペプチド分子である。本文脈において、差異的な発現は、陽性マーカーのレベルの増大及び陰性マーカーのレベルの減少を意味する。検出可能なレベルのマーカー核酸又はポリペプチドは、他の細胞と比較して関心対象の細胞内で十分高いか、又は低く、そのため当技術分野で公知の多様な方法のいずれかを使用して、関心対象の細胞を他の細胞から識別及び区別することができる。
【0072】
本明細書で使用される場合、「中内胚葉細胞」は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する細胞を指す:CD48、エオメリデルミン(EOMES)、SOX−17、DKK4、HNF−3β、GSC、FGF17、GATA−6。
【0073】
本明細書で使用される場合、「Mixl1」は、原始線条、中胚葉、及び内胚葉内の細胞のマーカーであるホメオボックス遺伝子を指す。
【0074】
本明細書で使用される場合、「NeuroD」は、ニューロン新生に関わる塩基性ヘリックス−ループ−ヘリックス(bHLH)転写因子である。
【0075】
本明細書で使用される場合、「NGN−3」は、塩基性ループヘリックス−ループ転写因子のニューロゲニンファミリーのメンバーである。
【0076】
本明細書で使用される場合、「Nkx−2.2」及び「Nkx−6.1」は、Nkx転写因子ファミリーのメンバーである。
【0077】
本明細書で使用される場合、「Nodal」は、タンパク質のTGFβスーパーファミリーのメンバーである。
【0078】
「Oct−4」は、POU−ドメイン転写因子のメンバーであり、多能性幹細胞の指標(hallmark)であると広く見なされている。Oct−4と多能性幹細胞との関係は、その発現が未分化多能性幹細胞に固く制限されていることによって示される。体細胞系統に分化した後、Oct−4の発現は急速に消失する。
【0079】
本明細書で使用される場合、「膵臓内分泌細胞」又は「膵臓ホルモン発現細胞」は、以下のホルモンの少なくとも1つを発現することができる細胞を指す:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチド。
【0080】
本明細書で使用される場合、「膵臓ホルモン分泌細胞」は、以下のホルモンの少なくとも1つを分泌できる細胞を指す:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチド。
【0081】
本明細書で使用される場合、「Pax−4」及び「Pax−6」は、膵島発達に関与する、膵臓β細胞に特異的な転写因子である。
【0082】
本明細書で使用される場合、「PDX−1」は、膵臓発達に関与するホメオドメイン転写因子を指す。
【0083】
本明細書で使用される場合、「前原始線条細胞」は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する細胞を指す:Nodal、又はFGF8。
【0084】
本明細書で使用される場合、「原始線条細胞」は、以下のマーカーの少なくとも1つを発現する細胞を指す:短尾奇形、Mix−様ホメオボックスタンパク質、又はFGF4。
【0085】
本明細書で使用される場合、「PTF−1α」は、三量体の膵臓転写因子−1(PTF1)の配列特異的なDNA結合サブユニットである、48kDの塩基性ヘリックス−ループ−ヘリックスタンパク質を指す。
【0086】
本明細書で使用される場合、「SOX−1」「SOX−2」「SOX−7」及び「SOX−17」は、SOX転写因子ファミリーのメンバーであり、胚発生に関与している。
【0087】
本明細書で使用される場合、「SPARC」は、「酸性の、システインに富んだ分泌タンパク質」としても公知である。
【0088】
「SSEA−1」(段階特異的な胚抗原−1)は、ハツカネズミ奇形癌幹細胞(EC)、ハツカネズミ及びヒト胚生殖細胞(EG)、並びにハツカネズミ胚幹細胞(ES)の表面上に存在する糖脂質表面抗原である。
【0089】
「SSEA−3」(段階特異的な胚抗原−3)は、ヒト奇形癌幹細胞(EC)、ヒト胚生殖細胞(EG)、及びヒト胚幹細胞(ES)の表面上に存在する糖脂質表面抗原である。
【0090】
「SSEA−4」(段階特異的な胚抗原−4)は、ヒト奇形癌幹細胞(EC)、ヒト胚生殖細胞(EG)、及びヒト胚幹細胞(ES)の表面上に存在する糖脂質表面抗原である。
【0091】
「TRA1−60」は、ヒト奇形癌幹細胞(EC)、ヒト胚生殖細胞(EG)、及びヒト胚幹細胞(ES)の表面上に発現するケラチン硫酸塩関連の抗原である。
【0092】
「TRA1−81」は、ヒト奇形癌幹細胞(EC)、ヒト胚生殖細胞(EG)、及びヒト胚幹細胞(ES)の表面上に発現するケラチン硫酸塩関連の抗原である。
【0093】
「TRA2−49」は、ヒト奇形癌幹細胞(EC)及びヒト胚幹細胞(ES)の表面に発現されるアルカリホスファターゼアイソザイムである。
【0094】
本明細書で使用される場合、「UTF−1」は、多能性胚幹細胞及び胚体外細胞内に発現される転写共役因子を指す。
【0095】
本明細書で使用される場合、「Zic1」は、Zic転写因子ファミリーのメンバーである。Zic1は、神経及び神経堤に特異的な遺伝子の発現を調節し、背側神経管及び遊走前(premigratory)神経堤の細胞内に発現される。
【0096】
多能性マーカーを発現する細胞を誘導する方法
本発明は、培養物中低血清下で容易に増殖することができ、フィーダー細胞株又は複合マトリクスタンパク質のコーティングの必要なく、単一細胞懸濁液中で継代することができ、非常に高効率でトランスフェクションすることができ、かつ低酸素条件下で培養される、ヒト胚幹細胞の特徴を有する細胞集団を提供する。この独特な特性の組み合わせにより、本発明に記載される細胞は先行技術と区別される。
【0097】
1つの実施形態では、本発明は、多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.細胞を得る工程と、
b.細胞を培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0098】
細胞は、ヒト胚幹細胞であってもよく、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞であってもよい。ヒト胚幹細胞は、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養してもよい。あるいは、ヒト胚幹細胞は低酸素条件下で培養してもよい。
【0099】
胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養してもよい。あるいは、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を低酸素条件下で培養してもよい。
【0100】
1つの実施形態では、本発明は、多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
b.ヒト胚幹細胞を、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程と、
c.細胞を除去し、次いで細胞を、培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0101】
1つの実施形態では、本発明は、多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
b.細胞を除去し、次いで細胞を、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0102】
タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上での、低酸素条件下における細胞培養
1つの実施形態では、細胞は、約1〜約20日間細胞外マトリクスでコーティングされていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養される。代替実施形態では、細胞は、約5〜約20日間細胞外マトリクスでコーティングされていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養される。代替実施形態では、細胞は、約15日間細胞外マトリクスでコーティングされていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養される。
【0103】
1つの実施形態では、低酸素条件は約1% O2〜約20% O2である。代替実施形態では、低酸素条件は約2%O2〜約10% O2である。代替実施形態では、低酸素条件は約3% O2である。
【0104】
細胞は、血清、アクチビン−A、及びWntリガンドを含有している培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて培養してもよい。あるいは、培地はIGF−1を含有していてもよい。
【0105】
培地は、約2%〜約5%の範囲内の血清濃度を有してもよい。代替的な実施形態において、血清濃度は、約2%であってもよい。
【0106】
アクチビン−Aは、約1pg/mL〜約100μg/mLの濃度で使用されてもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約1μg/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約50ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約100ng/mLであってもよい。
【0107】
Wntリガンドは、Wnt−1、Wnt−3a、Wnt−5a及びWnt−7aからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、Wntリガンドは、Wnt−1である。代替的な実施形態において、Wntリガンドは、Wnt−3aである。
【0108】
Wntリガンドは、約1ng/mL〜約1000ng/mLの濃度で使用されてもよい。代替実施形態では、Wntリガンドは、約10ng/mL〜約100ng/mLの濃度で使用されてもよい。1つの実施形態では、Wntリガンドの濃度は約20ng/mLである。
【0109】
IGF−1は、約1ng/mL〜約100ng/mLの濃度で使用されてもよい。代替実施形態では、IGF−1は、約10ng/mL〜約100ng/mLの濃度で使用されてもよい。1つの実施形態では、IGF−1の濃度は約50ng/mLである。
【0110】
本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて、培養物中で増殖することができる。
【0111】
本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、ABCG2、cripto、FoxD3、コネキシン43、コネキシン45、Oct4、SOX−2、Nanog、hTERT、UTF−1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra1−60、及びTra1−81からなる群から選択される多能性マーカーの少なくとも1つを発現する。
【0112】
1つの実施形態では、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、前原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現することができる。
【0113】
1つの実施形態では、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現することができる。
【0114】
1つの実施形態では、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、中内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現することができる。
【0115】
1つの実施形態では、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現することができる。
【0116】
本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞の更なる分化
本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、当該技術分野における任意の方法により、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0117】
例えば、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、D’Amour et al,Nature Biotechnology 23,1534〜1541(2005)に開示されている方法にしたがって、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0118】
例えば、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、Shinozaki et al,Development 131,1651〜1662(2004)に開示されている方法にしたがって、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0119】
例えば、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、McLean et al,Stem Cells 25,29〜38(2007)に開示されている方法にしたがって、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0120】
例えば、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、D’Amour et al,Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている方法にしたがって、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0121】
例えば、本発明の方法により誘導される多能性マーカーを発現する細胞は、血清の非存在下にてアクチビン−Aを含有している培地中で多能性幹細胞を培養し、次いで細胞をアクチビン−A及び血清とともに培養し、次いで細胞をアクチビン−A及び様々な濃度の血清とともに培養することによって、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。この方法の例は、D’Amour et al,Nature Biotechnology,23,1534〜1541,2005に開示されている。
【0122】
胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の更なる分化
胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、当該技術分野における任意の方法により、膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0123】
例えば、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、D’Amour et al,Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている方法にしたがって、膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0124】
例えば、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を、繊維芽細胞増殖因子及びKAAD−シクロパミンで処理した後、繊維芽細胞増殖因子及びKAAD−シクロパミンを含有する培地を除去し、続いて細胞をレチノイン酸、繊維芽細胞増殖因子及びKAAD−シクロパミンを含有する培地中で培養することにより、膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に更に分化される。この方法の例は、D’Amour et al,Nature Biotechnology,24,1392〜1401(2006)に開示されている。
【0125】
膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の更なる分化
膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、当該技術分野における任意の方法により、膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0126】
例えば、膵臓内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、D’Amour et al,Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示されている方法にしたがって、膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0127】
制限されるものではないが、以下のセクションは、本発明の方法に係る多能性マーカー及び胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を形成するための好適な出発物質である細胞を得るための方法の例を含む。
【0128】
ヒト胚幹細胞の単離、増殖、及び培養
ヒト胚幹細胞の特徴付け:ヒト胚幹細胞は、発生段階特異的胚性抗原(SSEA)3及び4の1つ以上、並びにTra−1−60及びTra−1−81と呼ばれる抗体を用いて検出可能なマーカーを発現し得る(Thomson et al.,Science 282:1145,1998)。インビトロでのヒト胚幹細胞の分化は、SSEA−4、Tra−1−60、及びTra−1−81の発現(存在する場合)を消失させ、SSEA−1の発現を増加させる。未分化のヒト胚幹細胞は、通常、アルカリホスファターゼ活性を有し、この活性は、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した後、製造業者(Vector Laboratories,Burlingame Calif.)によって述べられるようにVectorRedを基質として現像することによって検出することができる。未分化多能性幹細胞はまた、RT−PCRで検出されるように、一般にOct−4及びTERTも発現する。
【0129】
増殖したヒト胚幹細胞の他の望ましい表現型は、3つの全胚葉:内胚葉、中胚葉、及び外胚葉組織の細胞に分化する能力である。ヒト胚幹細胞の多能性は、例えば細胞をSCIDマウスに注入し、4%パラホルムアルデヒドを使用して、形成された奇形腫を固定した後、それらを3つの胚葉からの細胞型の痕跡に関して組織学的に検査することにより確認することができる。代替的に、多能性は、胚様体を形成し、この胚様体を3つの胚葉に関連したマーカーの存在に関して評価することにより決定することができる。
【0130】
増殖させたヒト胚幹細胞株は、標準的なGバンド法を用いて核型を決定し、対応する霊長類種の公表されている核型と比較することができる。「正常な核型」を有する細胞を得ることが望ましい。これは、細胞が、ヒトの染色体がすべて揃っており、かつ目立った変化のない正倍数体であることを意味する。
【0131】
ヒト胚幹細胞の源:使用できるヒト胚幹細胞の種類は、妊娠後に形成された組織由来のヒト胚幹細胞の確立された株を含み、この組織には、前胚組織(例えば胚盤胞)、胚組織、又は妊娠中の任意の時点、必ずしもそうではないが典型的には妊娠約10〜12週の前に採取された胎児組織が含まれる。非限定的な例は、例えばヒト胚幹細胞株H1、H7、及びH9(WiCell)等のヒト胚幹細胞又はヒト胚生殖細胞の確立株である。それらの細胞の最初の確立又は安定化中に本開示の組成物を使用することも想定され、その場合、源となる細胞は、源となる組織から直接採取した一次多能性細胞であろう。フィーダー細胞の不在下で既に培養された多能性幹細胞集団から採取した細胞も好適である。例えば、BG01v(BresaGen,Athens,GA)等の変異ヒト胚幹細胞株も好適である。
【0132】
1つの実施形態では、ヒト胚性幹細胞をThomsonらによって述べられるように調製する(米国特許第5,843,780号、Science 282:1145,1998;Curr.Top.Dev.Biol.38:133 ff.,1998;Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.92:7844,1995)。
【0133】
ヒト胚幹細胞の培養:1つの実施形態では、ヒト胚幹細胞は、本質的にフィーダー細胞を含まないにもかかわらず、実質的に分化を受けることなくヒト胚幹細胞の増殖を支持する培養系で培養される。分化をともなわない無フィーダー細胞培養中でのヒト胚幹細胞の増殖は、別の細胞種と予め培養することによって馴化した培地を用いることで支持される。また、分化をともなわない無フィーダー細胞培養中でのヒト胚幹細胞の増殖は、合成培地を用いることによっても支持される。
【0134】
代替実施形態では、ヒト胚幹細胞は、種々の方法でヒト胚幹細胞を支持するフィーダー細胞の最初に培養された層である。次いでヒト胚を、本質的にフィーダー細胞を含まないにもかかわらず、実質的に分化を受けることなくヒト胚幹細胞の増殖を支持する培養系に移す。
【0135】
本発明で用いるのに好適な馴化培地の例は、米国特許出願公開第20020072117号、米国特許第6642048号、国際公開第2005014799号、及びXuら(Stem Cells 22:972〜980,2004)に開示されている。
【0136】
本発明で用いるのに好適な合成培地の例は、米国特許出願公開第20070010011号中にも見出すことができる。
【0137】
好適な培地は、以下の成分、例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Gibco No.11965−092;ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地(KO DMEM)、Gibco No.10829−018;ハムF12/50% DMEM基礎培地;200mM L−グルタミン、Gibco No.15039−027;非必須アミノ酸溶液、Gibco11140−050、β−メルカプトエタノール、Sigma No.7522;ヒト組み換え塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、Gibco No.13256−029などから調製することができる。
【0138】
1つの実施形態では、ヒト胚幹細胞は、本発明の方法にしたがって処理する前に処理される好適な培養基質上にプレーティングされる。1つの実施形態において、処理は、例えば基底膜から誘導されたもの、又は接着分子受容体−リガンド結合の一部を形成し得るもの等の細胞外マトリクス成分である。1つの実施形態では、好適な培養基質は、MATRIGEL(Becton Dickenson)である。MATRIGELは、Engelbreth−Holm−Swarm腫瘍細胞からの可溶性製剤であり、室温でゲル化して再構成基底膜を形成する。
【0139】
他の細胞外マトリクス成分及び成分混合物は代替物として好適である。これは、ラミニン、フィブロネクチン、プロテオグリカン、エンタクチン、ヘパラン硫塩、及び同様物を、単独で又は様々な組み合わせで含み得る。
【0140】
ヒト胚幹細胞は、好適な分布で、細胞の生存、増殖、及び所望の特徴の維持を促進する培地の存在下、基質上にプレーティングされる。この特徴の全部は、播種分布に細心の注意を払うことから利益を得、当業者は容易に決定することができる。
【0141】
次いでヒト胚幹細胞は処理された組織培養基質から除去され、非処理組織培養基質上にプレーティングされ、その後本発明の方法にしたがって処理されて、多能性マーカー及び胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を形成する。
【0142】
ヒト胚幹細胞の胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化
ヒト胚幹細胞は、当技術分野における任意の方法により、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、本発明の方法に係る処理に好適である。
【0143】
例えば、ヒト胚幹細胞は、D’Amour et al,Nature Biotechnology 23,1534〜1541(2005)に開示される方法にしたがって胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0144】
例えば、ヒト胚幹細胞は、Shinozaki et al,Development 131,1651〜1662(2004)に開示される方法にしたがって胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0145】
例えば、ヒト胚幹細胞は、McLean et al,Stem Cells 25,29〜38(2007)に開示されている方法にしたがって胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化することができる。
【0146】
細胞外マトリクス上で培養されたヒト胚幹細胞の胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化
1つの実施形態では、本発明は、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現するヒト胚幹細胞を分化させる方法であって、
a.細胞外マトリクスでコーティングされた組織培養基質上に、ヒト胚幹細胞をプレーティングする工程と、
b.アクチビン−A及びWntリガンドとともにヒト胚幹細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0147】
胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、次いで本発明の方法により処理されて、多能性マーカー及び胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を形成する。
【0148】
ヒト胚幹細胞のアクチビン−A及びWntリガンドとの培養は、単一の培地中で実行されてもよい。あるいは、ヒト胚幹細胞のアクチビン−A及びWntリガンドとの培養は、2つ以上の培地中で実行されてもよい。1つの実施形態において、ヒト胚幹細胞のアクチビン−A及びWntリガンドとの培養は、2つの培地中で実行される。
【0149】
細胞外マトリクス:本発明の1つの態様において、ヒト胚幹細胞は、細胞外マトリクスでコーティングされた組織培養基質上で培養及び分化される。細胞外マトリクスは、マウス肉腫細胞から抽出された可溶化基底膜製剤(商品名MATRIGELでBD Biosciencesから販売されている)であってもよい。あるいは、細胞外マトリクスは、増殖因子減少MATRIGELであってもよい。あるいは、細胞外マトリクスは、フィブロネクチンであってもよい。代替実施形態において、ヒト胚幹細胞は、ヒト血清でコーティングされた組織培養基質上で培養及び分化されてもよい。
【0150】
細胞外マトリクスは、組織培養基質でコーティングされる前に希釈されてもよい。細胞外マトリクスの希釈と、組織培養基質のコーティングに関する好適な方法の例は、Kleinman,H.K.,et al.,Biochemistry 25:312(1986年)、及びHadley,M.A.,et al.,J.Cell.Biol.101:1511(1985年)に見出すことができる。
【0151】
1つの実施形態では、細胞外マトリクスは、MATRIGELである。1つの実施形態では、組織培養基質は、1:10希釈のMATRIGELによりコーティングされる。代替的な実施形態において、組織培養基質は、1:15希釈のMATRIGELによりコーティングされる。代替的な実施形態において、組織培養基質は、1:30希釈のMATRIGELによりコーティングされる。代替的な実施形態において、組織培養基質は、1:60希釈のMATRIGELによりコーティングされる。
【0152】
1つの実施形態では、細胞外マトリクスは、増殖因子減少MATRIGELである。1つの実施形態では、組織培養基質は、1:10希釈の増殖因子減少MATRIGELによりコーティングされる。代替的な実施形態において、組織培養基質は、1:15希釈の増殖因子減少MATRIGELによりコーティングされる。代替的な実施形態において、組織培養基質は、1:30希釈の増殖因子減少MATRIGELによりコーティングされる。代替的な実施形態において、組織培養基質は、1:60希釈の増殖因子減少MATRIGELによりコーティングされる。
【0153】
単一培地を用いた、細胞外マトリクス上における、ヒト胚幹細胞の胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化:1つの実施形態では、本発明は、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現するヒト胚幹細胞を分化させる方法であって、
a.細胞外マトリクスでコーティングされた組織培養基質上に、ヒト胚幹細胞をプレーティングする工程と、
b.アクチビン−A及びWntリガンドとともにヒト胚幹細胞を培養する工程と、を含む方法を提供する。
【0154】
単一培地は、ヒト胚幹細胞を胚体内胚葉へ分化させるのに十分低い濃度の所定の因子、例えばインスリン及びIGF等を含有すべきである(国際公開第2006020919号に開示されているように)。このことは、血清濃度を低下させる、あるいはインスリン及びIGFが欠乏した合成培地を使用することにより達成され得る。合成培地の例は、Wilesら(Exp Cell Res.1999 Feb 25;247(1):241〜8)に開示されている。
【0155】
培地は、約0%〜約10%の範囲内の血清濃度を有してもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約0%〜約5%の範囲内であってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約0%〜約2%の範囲内であってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約2%であってもよい。
【0156】
アクチビン−A及びWntリガンドとの培養時間は、約1日間〜約7日間にわたっていてもよい。代替的な実施形態において、培養時間は、約1日間〜約3日間にわたっていてもよい。代替的な実施形態において、培養時間は約3日間であってもよい。
【0157】
アクチビン−Aは、好適な任意の濃度で使用されて、ヒト胚幹細胞を分化させることができる。濃度は、約1pg/mL〜約100μg/mLであってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約1μg/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約50ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約100ng/mLであってもよい。
【0158】
Wntリガンドの選択は最適化されて、分化プロセスの効率を改善することができる。Wntリガンドは、Wnt−1、Wnt−3a、Wnt−5a及びWnt−7aからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、Wntリガンドは、Wnt−1である。代替的な実施形態において、Wntリガンドは、Wnt−3aである。
【0159】
Wntリガンドは、濃度約1ng/mL〜約1000ng/mLであってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約10ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。
【0160】
単一の培地は、GSK−3B阻害剤も含み得る。GSK−3B阻害剤は、GSK−3B阻害剤IX及びGSK−3B阻害剤XIからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、GSK−3B阻害剤は、GSK−3B阻害剤IXである。
【0161】
ヒト胚幹細胞がGSK−3B阻害剤と共に培養される際、GSK−3B阻害剤の濃度は、約1nM〜約1000nMであってもよい。代替的な実施形態において、ヒト胚幹細胞は、濃度約10nM〜約100nMのGSK−3B阻害剤と共に培養される。
【0162】
単一の培地はまた、ヒト胚幹細胞からの胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の形成を向上させ得る少なくとも1つの他の追加の因子を含有してもよい。代替的に、少なくとも1つの他の追加の因子は、本発明の方法により形成された、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の増殖を高め得る。更に、少なくとも1つの他の追加の因子は、本発明の方法により形成された、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の、他の細胞型の形成の能力を向上させ、又は任意の他の追加の分化工程の効率を改善し得る。
【0163】
少なくとも1つの追加の因子は、例えば、ニコチンアミド、TGF−β1、2、及び3を含むTGF−βファミリーのメンバー、血清アルブミン、繊維芽細胞増殖因子ファミリーのメンバー、血小板由来増殖因子−AA、及び−BB、血小板に富んだ血漿、インスリン増殖因子(IGF−I、II)、増殖分化因子(GDF−5、−6、−8、−10、11)、グルカゴン様ペプチド−I及びII(GLP−I及びII)、GLP−1及びGLP−2疑似体、エキセンディン−4、レチノイン酸、副甲状腺ホルモン、インスリン、プロゲステロン、アプロチニン、ヒドロコルチゾン、エタノールアミン、βメルカプトエタノール、上皮増殖因子(EGF)、ガストリンI及びII、例えばトリエチレンペンタミン等の銅キレーター、フォルスコリン、酪酸Na、アクチビン、ベータセルリン、ITS、ノギン、神経突起増殖因子、nodal、バルプロ酸、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、肝細胞増殖因子(HGF)、スフィンゴシン1、VEGF、MG132(EMD,CA)、N2及びB27サプリメント(Gibco,CA)、例えばシクロパミン(EMD,CA)等のステロイドアルカロイド、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、Dickkopfタンパク質ファミリー、ウシ下垂体抽出物、膵島新生に関連したタンパク質(INGAP)、インディアンヘッジホッグ、ソニックヘッジホッグ、プロテアソーム阻害剤、ノッチ経路阻害剤、ソニックヘッジホッグ阻害剤、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0164】
少なくとも1つの他の追加の因子は、例えば、PANC−1(ATCC No:CRL−1469)、CAPAN−1(ATCC No:HTB−79)、BxPC−3(ATCC No:CRL−1687)、HPAF−II(ATCC No:CRL−1997)等の膵臓細胞株、例えば、HepG2(ATCC No:HTB−8065)等の肝臓細胞株、及び例えば、FHs74(ATCC No:CCL−241)等の腸細胞株から得られた条件培地により供給されてもよい。
【0165】
2つの培地を用いた、細胞外マトリクス上における、ヒト胚幹細胞の胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞への分化:ヒト胚幹細胞の胚体内胚葉系統の細胞への分化は、2つの培地を用いて、アクチビン−A及びWntリガンドとともにヒト胚幹細胞を培養することにより達成し得る。したがって、ヒト胚幹細胞の分化は、以下のように達成され得る:
a.細胞外マトリクスでコーティングされた組織培養基質上に、ヒト胚幹細胞をプレーティングする工程と、
b.ヒト胚幹細胞を、アクチビン−A及びWntリガンドとともに第1の培地中で培養する工程と、
c.ヒト胚幹細胞を、第2の培地中でアクチビン−Aとともに培養する工程。
【0166】
第1の培地は、低濃度の血清を含有してもよく、第2の培地は、第1の培地よりも高い濃度の血清を含有してもよい。
【0167】
第2の培地は、Wntリガンドを含有してもよい。
【0168】
第1の培地:第1の培地は、ヒト胚幹細胞を胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞へ分化させるのに十分低い濃度の所定の因子、例えばインスリン及びIGF等を含有すべきである(国際公開第2006020919号に開示されているように)。このことは、血清濃度を低下させ、又は代替的に、インスリン及びIGFが欠乏した合成培地を使用することにより達成され得る。合成培地の例は、Wilesら(Exp Cell Res.1999 Feb 25、247(1):241〜8.)に開示されている。
【0169】
第1の培地中に、第2の培地と比較して低い濃度の血清が存在してもよい。第2の培地の血清濃度を増大させることは、細胞の生存を増大させ、又は代替的に細胞の増殖を向上させ得る。第1の培地の血清濃度は、約0%〜約10%の範囲内であってもよい。代替的に、第1の培地の血清濃度は、約0%〜約2%の範囲内であってもよい。代替的に、第1の培地の血清濃度は、約0%〜約1%の範囲内であってもよい。代替的に、第1の培地の血清濃度は、約0.5%であってもよい。
【0170】
ヒト胚幹細胞を、少なくとも2つの培地を用いてアクチビン−A及びWntリガンドと共に培養する際、第1の培地中での培養時間は、約1日間〜約3日間にわたってもよい。
【0171】
アクチビン−Aは、好適な任意の濃度で使用されて、ヒト胚幹細胞を分化させることができる。濃度は、約1pg/mL〜約100μg/mLであってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約1μg/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約50ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約100ng/mLであってもよい。
【0172】
Wntリガンドの選択は最適化されて、分化プロセスの効率を改善することができる。Wntリガンドは、Wnt−1、Wnt−3a、Wnt−5a及びWnt−7aからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、Wntリガンドは、Wnt−1である。代替的な実施形態において、Wntリガンドは、Wnt−3aである。
【0173】
Wntリガンドは、濃度約1ng/mL〜約1000ng/mLであってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約10ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。
【0174】
第1の培地は、GSK−3B阻害剤も含有し得る。GSK−3B阻害剤は、第1の培地に、第2の培地に、又は第1の培地と第2の培地の両方に添加されてもよい。
【0175】
GSK−3B阻害剤は、GSK−3B阻害剤IX及びGSK−3B阻害剤XIからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、GSK−3B阻害剤は、GSK−3B阻害剤IXである。
【0176】
ヒト胚幹細胞がGSK−3B阻害剤と共に培養される際、GSK−3B阻害剤の濃度は、約1nM〜約1000nMであってもよい。代替的な実施形態において、ヒト胚幹細胞は、濃度約10nM〜約100nMのGSK−3B阻害剤と共に培養される。
【0177】
第1の培地は、ヒト胚幹細胞からの、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の形成を向上させ得る少なくとも1つの他の追加の因子も含有し得る。代替的に、少なくとも1つの他の追加の因子は、本発明の方法により形成された、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の増殖を高め得る。更に、少なくとも1つの他の追加の因子は、本発明の方法により形成された、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の、他の細胞型の形成の能力を向上させ、又は任意の他の追加の分化工程の効率を改善し得る。
【0178】
少なくとも1つの追加の因子は、例えば、ニコチンアミド、TGF−β1、2、及び3を含むTGF−βファミリーのメンバー、血清アルブミン、繊維芽細胞増殖因子ファミリーのメンバー、血小板由来増殖因子−AA、及び−BB、血小板に富んだ血漿、インスリン増殖因子(IGF−I、II)、増殖分化因子(GDF−5、−6、−8、−10、11)、グルカゴン様ペプチド−I及びII(GLP−I及びII)、GLP−1及びGLP−2疑似体、エキセンディン−4、レチノイン酸、副甲状腺ホルモン、インスリン、プロゲステロン、アプロチニン、ヒドロコルチゾン、エタノールアミン、βメルカプトエタノール、上皮増殖因子(EGF)、ガストリンI及びII、例えばトリエチレンペンタミン等の銅キレーター、フォルスコリン、酪酸Na、アクチビン、ベータセルリン、ITS、ノギン、神経突起増殖因子、nodal、バルプロ酸、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、肝細胞増殖因子(HGF)、スフィンゴシン−1、VEGF、MG132(EMD,CA)、N2及びB27サプリメント(Gibco,CA)、例えばシクロパミン(EMD,CA)等のステロイドアルカロイド、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、Dickkopfタンパク質ファミリー、ウシ下垂体抽出物、膵島新生に関連したタンパク質(INGAP)、インディアンヘッジホッグ、ソニックヘッジホッグ、プロテアソーム阻害剤、ノッチ経路阻害剤、ソニックヘッジホッグ阻害剤、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0179】
少なくとも1つの他の追加の因子は、例えば、PANC−1(ATCC No:CRL−1469)、CAPAN−1(ATCC No:HTB−79)、BxPC−3(ATCC No:CRL−1687)、HPAF−II(ATCC No:CRL−1997)等の膵臓細胞株、例えば、HepG2(ATCC No:HTB−8065)等の肝臓細胞株、及び例えば、FHs74(ATCC No:CCL−241)等の腸細胞株から得られた条件培地により供給されてもよい。
【0180】
第2の培地:第2の培地は、例えば、インスリン及びIGF(国際公開第2006020919号に開示されているような)等の所定の因子を、培養された細胞の生存を促進するに十分な濃度で含有する必要がある。このことは、血清濃度を増大させることにより、又は代替的に、インスリン及びIGFの濃度が、第1の培地と比較して増大されている合成培地を使用することにより達成し得る。合成培地の例は、Wilesら(Exp Cell Res.1999 Feb 25;247(1):241〜8.)に開示されている。
【0181】
より高い血清濃度を有する第2の培地において、第2の培地の血清濃度は、約0.5%〜約10%の範囲内であってもよい。代替的に、第2の培地の血清濃度は、約0.5%〜約5%の範囲内であってもよい。代替的に、第2の培地の血清濃度は、約0.5%〜約2%の範囲内であってもよい。あるいは、第2の培地の血清濃度は、約2%のであってもよい。ヒト胚幹細胞を第2の培地とともに培養するとき、培養時間は約1日間〜約4日間にわたってもよい。
【0182】
第1の培地と同様、アクチビン−Aは、ヒト胚幹細胞を分化させる好適な任意の濃度で使用されてもよい。濃度は、約1pg/mL〜約100μg/mLであってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約1μg/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約1pg/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約50ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。別の代替的な実施形態において、濃度は、約100ng/mLであってもよい。
【0183】
Wntリガンドは、濃度約1ng/mL〜約1000ng/mLであってもよい。代替的な実施形態において、濃度は、約10ng/mL〜約100ng/mLであってもよい。
【0184】
Wntリガンドは、Wnt−1、Wnt−3a、Wnt−5a及びWnt−7aからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、Wntリガンドは、Wnt−1である。代替的な実施形態において、Wntリガンドは、Wnt−3aである。
【0185】
第2の培地は、GSK−3B阻害剤も含有し得る。GSK−3B阻害剤は、第1の培地に、第2の培地に、又は第1の培地と第2の培地の両方に添加されてもよい。
【0186】
GSK−3B阻害剤は、GSK−3B阻害剤IX及びGSK−3B阻害剤XIからなる群より選択されてもよい。1つの実施形態では、GSK−3B阻害剤は、GSK−3B阻害剤IXである。
【0187】
ヒト胚幹細胞がGSK−3B阻害剤と共に培養される際、GSK−3B阻害剤の濃度は、約1nM〜約1000nMであってもよい。代替的な実施形態において、ヒト胚幹細胞は、濃度約10nM〜約100nMのGSK−3B阻害剤と共に培養される。
【0188】
第1の培地と同様、第2の培地はまた、ヒト胚幹細胞からの胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の形成を向上させ得る少なくとも1つの他の追加の因子を含有してもよい。代替的に、少なくとも1つの他の追加の因子は、本発明の方法により形成された、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の増殖を高め得る。更に、少なくとも1つの他の追加の因子は、本発明の方法により形成された、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の、他の細胞型の形成の能力を向上させ、又は任意の他の追加の分化工程の効率を改善し得る。
【0189】
少なくとも1つの追加の因子は、例えば、ニコチンアミド、TGF−β1、2、及び3を含むTGF−βファミリーのメンバー、血清アルブミン、繊維芽細胞増殖因子ファミリーのメンバー、血小板由来増殖因子−AA、及び−BB、血小板に富んだ血漿、インスリン増殖因子(IGF−I、II)、増殖分化因子(GDF−5、−6、−8、−10、11)、グルカゴン様ペプチド−I及びII(GLP−I及びII)、GLP−1及びGLP−2疑似体、エキセンディン−4、レチノイン酸、副甲状腺ホルモン、インスリン、プロゲステロン、アプロチニン、ヒドロコルチゾン、エタノールアミン、βメルカプトエタノール、上皮増殖因子(EGF)、ガストリンI及びII、例えばトリエチレンペンタミン等の銅キレーター、フォルスコリン、酪酸Na、アクチビン、ベータセルリン、ITS、ノギン、神経突起増殖因子、nodal、バルプロ酸、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、肝細胞増殖因子(HGF)、スフィンゴシン−1、VEGF、MG132(EMD,CA)、N2及びB27サプリメント(Gibco,CA)、例えばシクロパミン(EMD,CA)等のステロイドアルカロイド、ケラチノサイト増殖因子(KGF)、Dickkopfタンパク質ファミリー、ウシ下垂体抽出物、膵島新生に関連したタンパク質(INGAP)、インディアンヘッジホッグ、ソニックヘッジホッグ、プロテアソーム阻害剤、ノッチ経路阻害剤、ソニックヘッジホッグ阻害剤、又はそれらの組み合わせであってもよい。
【0190】
少なくとも1つの他の追加の因子は、例えば、PANC−1(ATCC No:CRL−1469)、CAPAN−1(ATCC No:HTB−79)、BxPC−3(ATCC No:CRL−1687)、HPAF−II(ATCC No:CRL−1997)等の膵臓細胞株、例えば、HepG2(ATCC No:HTB−8065)等の肝臓細胞株、及び例えば、FHs74(ATCC No:CCL−241)等の腸細胞株から得られた条件培地により供給されてもよい。
【0191】
本発明を以下の実施例により更に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0192】
(実施例1)
ヒト胚幹細胞の培養
幹細胞とは、1個の細胞レベルで自己再生し、かつ自己再生性の前駆細胞、非自己再生性の前駆細胞、及び最終分化細胞のような後代細胞を生ずるように分化する能力によって定義される未分化細胞のことである。幹細胞はまた、インビトロで複数の胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)から様々な細胞系統の機能的細胞に分化する能力によって、また移植後に複数の胚葉の組織を生じ、胚盤胞への注入後、全部ではないとしても殆どの組織を提供する能力によっても、特徴付けられる。
【0193】
ヒト胚幹細胞株H1、H7及びH9をWiCell Research Institute,Inc.(Madison,WI)から入手し、供給元の研究所から提供された取扱説明書にしたがって培養した。手短には、細胞を、20%ノックアウト血清代替、100nM MEM非必須アミノ酸、0.5mM β−メルカプトエタノール、4ng/mLヒト塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF)を有する2mM L−グルタミン(全てInvitrogen/GIBCOより)で補充したDMEM/F12(Invitrogen/GIBCO)からなるES細胞培地中にてマウス胚線維芽細胞(MEF)フィーダー細胞上で培養した。E13〜13.5マウス胚由来のMEF細胞をCharles Riverから購入した。MEF細胞を、10% FBS(Hyclone)、2mMグルタミン、及び100mM MEM非必須アミノ酸で補充したDMEM培地中で増殖させた。サブコンフルエントなMEF細胞培養物を10μg/mLマイトマイシンC(Sigma,St.Louis,MO)で3時間処理して、細胞分割を停止させた後、トリプシン処理して、2×104/cm2にて0.1%ウシゼラチンでコーティングされた皿上に播いた。継代2〜4からのMEF細胞をフィーダー層として使用した。MEF細胞フィーダー層上に播いたヒト胚幹細胞を、加湿した組織培養インキュベータ内にて5% CO2の雰囲気中で37℃で培養した。コンフルエントとなった際(プレーティングの約5〜7日後)、ヒト胚幹細胞を1mg/mLコラゲナーゼタイプIV(Invitrogen/GIBCO)により5〜10分間処理し、次に5mLピペットを使用して表面を穏やかに擦り落とした。細胞を900rpmで5分間遠心分離し、ペレットを再懸濁し、1:3〜1:4の細胞の比で新鮮培地に再びプレーティングした。
【0194】
並行して、成長因子減少MATRIGEL(BD Biosciences)の1:30希釈液でコーティングされたプレート上にH1、H7、及びH9ヒト胚幹細胞も播種し、8ng/mLbFGFを添加したMEF−馴化培地中で培養した。MATRIGEL上で培養した細胞を、コラゲナーゼIV(Invitrogen/GIBCO)、ディスパーゼ(BD Biosciences)、又はLIBERASE酵素を用いてルーチン的に継代した。ヒト胚幹細胞培養物の一部は低酸素条件下(約3% O2)でインキュベートした。
【0195】
(実施例2)
蛍光活性化細胞選別(FACS)分析
TrypLE(商標)Express溶液(Invitrogen,CA)とともに5分間インキュベートすることにより、培養プレートから接着ヒト胚幹細胞を除去した。解放された細胞をヒト胚幹細胞培地中に再懸濁し、遠心分離により回収した後、洗浄して、細胞を、PBS中の2% BSA、0.05%アジ化ナトリウムからなる染色緩衝液(Sigma,MO)中に再懸濁した。適切な場合、細胞は、0.1% γ−グロブリン(Sigma)溶液を使用して、Fc−受容体を15分間ブロックされた。アリコート(約1×105細胞)を、表IAに示すようにフィコエリトリン(phycoerythirin)(PE)若しくはアロフィコシアニン(APC)複合体化モノクローナル抗体(5μL抗体/1×106細胞)のいずれかと共に、又は非複合体化一次抗体と共にインキュベートした。対照は、適切なアイソタイプ一致抗体、非染色細胞、及び二次結合抗体のみで染色した細胞を含んでいた。抗体を用いた全インキュベーションは、4℃で30分間行い、その後細胞を染色緩衝液で洗浄した。非結合一次抗体で染色したサンプルを、二次結合PE又は−APCラベル抗体と共に、更に4℃で30分間インキュベートした。使用した二次抗体の一覧に関しては表IBを参照されたい。洗浄した細胞をペレット化し、染色緩衝液中に再懸濁し、少なくとも10,000事象を収集することにより、細胞表面分子をFACSアレイ(BDバイオサイエンス)機器を使用して同定した。
【0196】
(実施例3)
免疫細胞化学
接着細胞を、室温で20分間4%のパラホルムアルデヒドで固定した。固定した細胞を、PBS/0.1% BSA/10%正常ヒヨコ血清/0.5%トリトンX−100により室温で1時間ブロックした後、PBS/0.1% BSA/10%正常ヒヨコ血清中の一次抗体と共に4℃で一夜インキュベートした。一次抗体及びそれらの作用希釈物の一覧を、表IAに示す。PBS/0.1%BSA中で3回洗浄した後、PBS中で1:100希釈した蛍光二次抗体(表IB)を、細胞と共に室温で1時間インキュベートして結合させた。対照サンプルは、一次抗体が省略されるか、又は一次抗体が、その一次抗体と同一濃度の対応する負の対応対照免疫グロブリンで代替された反応物を含んでいた。染色サンプルを濯ぎ、ジアミジノ−2−フェニルインドール,二塩酸塩(DAPI)を含有するPROLONG(登録商標)(Invitrogen,CA)の1滴を各サンプルに加えて、核を対比染色し、また抗退色試薬として機能させた。Nikon Confocal Eclipse C−1倒立顕微鏡(Nikon,Japan)及び10−60X対物レンズを使用して画像を得た。
【0197】
(実施例4)
ES由来細胞のPCR分析
RNA抽出、精製、及びcDNA合成:RNAサンプルを、エタノール含有、高塩濃度
緩衝液の存在下、シリカゲル膜(RNeasyミニキット、Qiagen,CA)に結合させた後、混入物を洗浄して除去することにより精製した。RNAをTURBO DNA−フリーキット(Ambion,INC)を使用して更に精製し、次いで高品質RNAを
水中に溶出した。収率及び純度を分光光度計のA260及びA280指数により評価した。CDNAコピーを、ABI(ABI,CA)大容量cDNAアーカイブキットを用いて精製RNAから作製した。
【0198】
リアルタイムPCR増幅及び定量分析:特に明記しない限り、試薬は全てApplied Biosystemsから購入した。ABI PRISM(登録商標)7900配列検出システムを使用して、リアルタイムPCR反応を行った。TAQMAN(登録商標)UNIVERSAL PCR MASTER MIX(登録商標)(ABI,CA)を、20ngの逆転写RNAと共に、20μLの全反応容積にて使用した。各cDNAサンプルを2回使用(run)して、ピペッティング誤差に関して補正した。プライマー及びFAM標識TAQMAN(登録商標)プローブを、200nMの濃度で用いた。各標的遺伝子に関する発現レベルを、以前にApplied Biosystemsにより開発されたヒトグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)内在性対照を使用して正規化した。プライマー及びプローブのセットを表IIに列挙する。SOX−17プライマーをPRIMERSプログラム(ABI,CA)を用いて設計し、それは以下の配列を有していた:SOX−17:TGGCGCAGCAGATACCA、AGCGCCTTCCACGACTTG、及びCCAGCATCTTGCTCAACTCGGCG。最初50℃で2分間、次いで95℃で10分間のインキュベーション後、サンプルを2段階にて40回サイクルした;95℃で15秒間の変性工程と、その後の60℃で1分間のアニーリング/伸長工程。GENEAMP(登録商標)7000配列検出システムソフトウエアを使用して、データ解析を行った。各プライマー/プローブセットに関して、増幅の指数関数領域の中央において蛍光強度が特定の値に到達したサイクル数としてのCt値を決定した。比較Ct法を使用して、相対的な遺伝子発現レベルを計算した。手短には、各cDNAサンプルに関して、内在性対照Ct値を関心対象遺伝子のCtから減算して、DCt値(ΔCt)を得た。標的の正規化した量を2−ΔCtとして計算し、増幅を100%効率と仮定した。最終的なデータを、標準物質サンプルに関して表した。
【0199】
(実施例5)
MATRIGELでコーティングされた組織培養基質上で培養したヒト胚幹細胞の胚体内胚葉(DE)への分化
低酸素条件(約3%O2)下で培養し、MATRIGEL(1:30希釈)でコーティングされた皿上にプレーティングされた54継代のヒト胚幹細胞株H9由来の細胞を、0.5%FBS、20ng/mL WNT−3a(カタログ番号1324−WN−002、R&D Systems,MN)、及び100ng/mLアクチビン−A(R&D Systems,MN)を添加したDMEM/F12培地に2日間曝露し、続いて2%FBS及び100ng/mLアクチビン−A(AA)を添加したDMEM/F12培地で更に3〜4日間処理した。図1は、4日目のFACSによるCXCR4発現を示す。図2は、4日目及び6日目の、低血清+AA+WNT3Aで処理したヒト胚幹細胞株H9由来の細胞の培養物のリアルタイムPCRデータを示す。このプロトコルにより、胚体内胚葉マーカーが著しくアップレギュレートされる。この手順は、DE(胚体内胚葉)プロトコルとも称される。
【0200】
(実施例6)
胚体内胚葉段階に分化したヒト胚幹細胞由来細胞の単離及び増殖
種々の継代数(30〜54継代)のヒト胚幹細胞株H1及びH9由来細胞を、少なくとも3継代低酸素条件下(約3% O2)で培養した。細胞を8ng/mLのbFGFを添加したMEF−CM中で培養し、実施例1にしたがってMATRIGELでコーティングされたプレート上にプレーティングした。細胞を、実施例5に概説するDEプロトコルに曝露した。3〜6日目に、細胞をTrypLE(商標)Express溶液(Invitrogen,CA)に5分間曝露した。遊離した細胞をDMEM−F12+2% FBS培地に再懸濁させ、遠心分離により回収し、血球計を用いて計数した。遊離した細胞を1000〜10,000細胞/cm2で、組織培養ポリスチレン(TCPS)処理フラスコ上に播種し、標準的な組織培養インキュベータ内で、37℃低酸素条件下(約3% O2)にてDMEM−F12+2% FBS+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT−3A中で培養した。TCPSフラスコは、MATRIGELでも他の細胞外マトリクスタンパク質でもコーティングしなかった。培地は毎日交換した。幾つかの培地では、培地に10〜50ng/mLのIGF−I(インスリン成長因子−I、R&D Systems,MNより)又は1X ITS(インスリン、トランスフェリン、及びセレニウム、Invitrogen,Caより)を更に添加した。幾つかの培養条件では、基本培地(DM−F12+2% FBS)に0.1mMメルカプトエタノール(Invitrogen,CA)及び非必須アミノ酸(1X,NEAA、Invitrogen,CAより)を更に添加した。第1継代細胞をP1と称する。並行して、同様の培養物を正常酸素圧条件下(約21% O2)で確立した。この単離手順の概要を図3に示す。
【0201】
5〜15日間培養した後、老化していると思われる多数の巨細胞に取り囲まれている明確な細胞コロニーが出現した(図4a〜b)。培養密度約50〜60%で、室温で5分間TrypLE(商標)Express溶液に曝露することにより培養物を継代した。遊離した細胞をDMEM−F12+2% FBS培地に再懸濁させ、遠心分離により回収し、10,000細胞/cm2で、組織培養ポリスチレン(TCPS)処理フラスコ上に播種し、DMEM−F12+2% FBS+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT−3A+/−50ng/mLのIGF−I中で培養した。この培地を更に「成長培地」と称する。図4cは、10,000細胞/cm2で播種した3継代の細胞の形態を示す。最初の単離後3継代(パネルc)で、細胞は、大きな核対細胞質比を有する均一な上皮様形態を有するように見えた。
【0202】
幾つかの培養物では、成長培地に1X NEAA+0.1mMメルカプトエタノールを更に添加した。3〜4継代後、結合細胞は、大きな核対細胞質比を有する均一な形態を有するように見えた。正常酸素圧条件下で確立された並行培養物は、結合細胞によるロバストなコロニー形成を示さなかった。2〜3継代後、正常酸素圧条件下で確立された培養物は、成長速度が遅いため廃棄した。
【0203】
(実施例7)
複数継代後のDEマーカーの増殖及び維持におけるアクチビン−A、WNT3A、及びIGF−Iの役割
実施例6に記載されている方法にしたがって親ヒト胚幹細胞株H9から誘導された培養物を、4〜7日毎に継代した。図5は、3継代2% FBS+DMEM−F12+100ng/mLのアクチビン−A+20のWNT3A中で培養された増殖細胞についてのリアルタイムPCR結果を示す。このデータは、実施例5に概説したDEプロトコルの6日目に単離した株のデータである。各継代後、SOX−17及びHNF−3β等のDEマーカーは明らかに減少する。図6に示すように、アクチビン−Aを含有している成長培地にWNT3Aを添加することにより、DEマーカーの発現が著しく促進される。しかし、50ng/mLのIGF−I添加、並びにアクチビン−A及びWNT−3Aの除去(図7a〜c)は、OCT−4とともにDEマーカーの発現を急激に低下させ、SOX−7及びAFP等の臓側内胚葉マーカーの発現を増加させる。図8a〜cは、a)2% FBS+DMF12+100ng/mLのアクチビン−A+20ng/mLのWNT−3A、b)2% FBS+DM−F12+100ng/mLのアクチビン−A、c)2% FBS+DM−F12+50ng/mLのIGF−I中で培養された5継代のH9p54から誘導された増殖細胞の形態を示す。アクチビン−A又はアクチビン−A+WNT3Aの存在下で培養された細胞の形態は非常に類似しており、2%FBS+IGF−I中で培養された細胞の形態とは異なっていた。
【0204】
(実施例8)
胚体内胚葉段階に分化したヒト胚幹細胞由来細胞の増殖能
実施例6に記載の方法にしたがって親ヒト胚幹細胞株H9から確立された培養物を、成長培地が50ng/mLのIGF−I又はITSを含有していたとき、4〜5日毎に継代した。しかし、IGF又はITSを添加していない成長培地で培養すると成長速度が遅いため、5〜7日毎に継代した。成長培地+50ng/mLのIGF−Iを与えた細胞の集団倍加時間は約55時間であったのに対して、成長培地のみを与えた培養物の集団倍加時間は約75時間であった。実施例6にしたがって増殖した細胞集団をEXPRES細胞(EXpandable PRE-primitive Streak cells(増殖可能な前原始線条細胞))と称する。表IIIに、実施例6に概説された方法にしたがって確立された種々のEXPRES細胞を列挙する。2種の細胞株(EXPRES 01及び02)の増殖能を図9に示す。
【0205】
(実施例9)
単一ヒト胚幹細胞の懸濁液からのEXPRES細胞の誘導
ヒト胚幹細胞株H1P33及びH9P45由来細胞を、少なくとも3継代低酸素条件下(約3%O2)で培養した。細胞を8ng/mLのbFGFを添加したMEF−CM中で培養し、実施例1にしたがってMATRIGELでコーティングされたプレート上にプレーティングした。培養密度約60%で、培養物をTrypLE(商標)Express溶液(Invitrogen,CA)に5分間曝露した。遊離した細胞をDMEM−F12+2%FBS培地に再懸濁させ、遠心分離により回収し、血球計を用いて計数した。遊離した細胞を1000〜10,000細胞/cm2の密度で組織培養ポリスチレン(TCPS)処理フラスコ上に播種し、標準的な組織培養インキュベータ内で、37℃低酸素条件下(約3% O2)にて、DM−F12+2% FBS+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT−3A+50ng/mLのIGF−I+0.1mMメルカプトエタノール(Invitrogen,CA)及び非必須アミノ酸(1X,NEAA、Invitrogen,CAより)中で培養した。TCPSフラスコは、MATRIGELでも他の細胞外マトリクスタンパク質でもコーティングしなかった。培地は毎日交換した。第1継代細胞をP1と称する。並行して、同様の培養物を正常酸素圧条件下(約21%O2)で確立した。正常酸素圧条件下で確立された培養物はコロニーを形成せず、それほど細胞増殖しなかった。しかし、低酸素条件下で確立された培養物は、MATRIGEL又はMEFフィーダー上で培養された胚幹細胞コロニーに類似する多くのコロニーを形成した(図10)。これらの培養物は、ESからDEへの分化中に単離されたEXPRES細胞の特性に非常に類似している。
【0206】
(実施例10)
EXPRES細胞による細胞表面タンパク質の発現
細胞株EXPRES 01及びEXPRES 02を、多能性に関連するマーカーを含む種々の細胞表面マーカーの発現について評価した。EXPRES 01由来の細胞は、9〜24継代で評価した。EXPRES 02由来の細胞は、7〜20継代で評価した。両方の株は、典型的には未分化ヒト胚幹細胞に割り当てられる多能性マーカーを強く発現した。しかし、EXPRES 02株は、EXPRES01株に比べて、CXCR4、LIF受容体、及びNCAM等の分化マーカーの発現の割合が高かった。EXPRES 01P24の代表的なFACSプロットを図11に、EXPRES 02 P21株については図12に示す。表IVは、3種の異なる実験から、評価した細胞表面マーカーの範囲(括弧内)と共に平均発現量を列挙する。
【0207】
(実施例11)
EXPRES細胞−免疫蛍光(IF)染色による、多能性関連マーカーの発現
それぞれの成長培地中で維持されたEXPRES 01及び02細胞を、実施例3に概説された方法を用いて多能性関連マーカーで染色した。図13は、2% FBS+DM−F12+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT3A+50ng/mL IGF−I中で培養されたEXPRES 01 P10細胞のOCT−4、Nanog、SOX−2、及びHNF−3βのIF画像を示す。図14は、2% FBS+DM−F12+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT3A中で培養された9継代のEXPRES 02細胞のOCT−4、Nanog、SOX−2、及びHNF−3βのIF画像を示す。EXPRES 01細胞は、OCT−4、Nanog、及びSOX−2について強い陽性染色を示し、HNF−3βについて弱い陽性染色を示す。しかし、EXPRES 02細胞は、HNF−3βについてより強い発現を示し、OCT−4、Nanog、及びSOX−2についてより弱い発現を示す。
【0208】
(実施例12)
リアルタイムPCRによる胚体内胚葉及び未分化胚幹細胞マーカーの発現
それぞれの成長培地中で培養された11継代のEXPRES 01及び7継代のEXPRES 02株が発現している胚マーカー(POU5F1、SOX−2、UTF1、ZFP42、コネキシン43、コネキシン45、FOXD3)、胚体外マーカー(AFP、KRT15)、外胚葉マーカー(SOX−1、TUBB3、ネスチン)、内胚葉マーカー(FOXA2、IPF1、KRT15、GATA−4)、及び中胚葉マーカー(GATA−4、GATA−2、MYOD、MSX1、CFC1、ABCG2)のリアルタイムPCR分析を図15a〜hに示す。データは全て、MATRIGELでコーティングされたプレート上のMEF−CM中で培養された、ヒト胚幹細胞株H9由来の未分化細胞に対する倍数変化で正規化する。対照として、コラゲナーゼ消化の標準的な方法を用いてH9細胞からEB体を形成し、約10日間DMEM−F12+20% FBS中の非処理表面上に播種した。種々の胚葉の遺伝子発現は、未分化ES細胞に比べてEB体によりアップレギュレートされた。別のリファレンスRNAを、MEF−CM中のMATRIGEL上にて培養された未分化SA002株(Cellartis,Sweden)から回収した。予想通り種々の胚葉の遺伝子発現は、EB体により、EXPRES 01、EXPRES 02、SA002、及びH9株に比べてより強くアップレギュレートされた。EXPRES 01及び02株は両方、未分化SA002及びH9株に比べてFOXA2の発現を示した。EXPRES株はいずれも、胚体外、中胚葉、又は内胚葉マーカーの強い発現を示した。更に、EXPRES細胞による胚マーカーの発現は、SA002及びH9リファレンス細胞株に類似していた。
【0209】
(実施例13)
EXPRES細胞の増殖に有用な種々の成長培地
EXPRES細胞は、少なくとも2〜30継代、以下の培地組成において成功裏に培養された:
1.DM−F12+2% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT−3A
2.DM−F12+2% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT−3A+50ng/mL IGF−I
3.DM−F12+2% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT−3A+10ng/mL IGF−I
4.DM−F12+2% FBS+50ng/mL AA+20ng/mL WNT−3A+50ng/mL IGF−I
5.DM−F12+2% FBS+50ng/mL AA+10ng/mL WNT−3A+50ng/mL IGF−I
6.DM−F12+2% FBS+50ng/mL AA+20ng/mL WNT−3A+10ng/mL IGF−I
7.DM−F12+2% FBS+100ng/mL AA+10ng/mL WNT−3A+10ng/mL IGF−I
8.HEScGRO合成培地(Chemicon,CA)
【0210】
上に列挙した培地の基本成分は、RPMI、DMEM、CRML、Knockout(商標)DMEM、及びF12等の類似培地に置き換えてもよい。
【0211】
(実施例14)
組織培養基質上で培養されたEXPRES細胞の胚体内胚葉(DE)細胞への分化
それぞれの成長培地中のTCPS上で培養された5継代のEXPRES 01細胞及び4継代のEXPRES 02細胞を、0.5% FBS、20ng/mL WNT−3a、及び100ng/mLアクチビン−A(R&D Systems,MN)を添加したDMEM/F12培地に2日間曝露し、続いて更に3〜5日間、2%FBS及び100ng/mLアクチビン−A(AA)を添加したDMEM/F12培地で処理した。図16は、EXPRES 01細胞(図16a、約17% CXCR4陽性)及びEXPRES 02細胞(図16b、約40% CXCR4陽性)について、4日目のFACSによるCXCR4の発現を示す。図17は、2〜5日目に低血清+AA+WNT3Aで処理されたEXPRES 01細胞(図17a)及びEXPRES02細胞(図17b)培養物のリアルタイムPCRデータを示す。図18及び19は、4日間上記と同様の処理で処理された、それぞれEXPRES 01及び02細胞の免疫蛍光画像を示す。EXPRES 02細胞全体が、EXPRES 01細胞に比べてDEマーカーをより強く発現しているように見える。FACS、免疫染色、及びPCRデータにより証明されるように、血清濃度の低下及びIGFの除去はDEマーカーの発現を増加させた。しかし、CXCR4及びHNF−3β等のDEマーカーの全体の発現量は、DE段階に分化した未分化ヒトES培養物でルーチン的に観察される発現量よりも低かった。
【0212】
DEマーカーの発現を増加させるために、DE分化プロトコルを以下のように変更した:それぞれの培地中でTCPS上で培養された19継代のEXPRES 01細胞及び14継代のEXPRES 02細胞を、0.5% FBS、20ng/mL WNT−3a、100ng/mLアクチビン−A、及び100nM GSK−3B阻害剤IX(カタログ番号361550,Calbiochem,CA)を添加したDMEM/F12培地に4〜5日間曝露した。図20は、EXPRES 01(図20a、約57% CXCR4陽性)及びEXPRES 02(図20b、約86% CXCR4陽性)について、4日目のFACSによるCXCR4の発現を示す。図21は、DE段階に分化したEXPRES 01細胞(パネルa〜f)及びEXPRES 02細胞(パネルg〜l)について、5日目の対応する免疫蛍光画像を示す。図22は、EXPRES 01(図22a)及びEXPRES 02(図22b)のリアルタイムPCRデータを示す。
【0213】
(実施例15)
EXPRES 01細胞のDEへの分化に対する播種密度の効果
EXPRES 01 P31細胞を、標準的な組織培養インキュベータ内にて37℃、低酸素条件下(約3% O2)で、DM−F12+2% FBS+0.1mMメルカプトエタノール+1X,NEAA+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT3A中でTCPSプレート上に5000、10000、20000、又は40000細胞/cm2で播種した。播種の2日後、培地をDMEM−F12+0.5% FBS+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT3A+100nM GSK−3B阻害剤IXに替えて、標準的な組織培養インキュベータ内にて37℃、低酸素条件下(約3% O2)で4日間培養した。図23は、分化4日目の胚体内胚葉マーカーのリアルタイムPCR分析を示す。胚体内胚葉のロバストな形成には、少なくとも10000〜20000細胞/cm2の播種密度が必要であると考えられる。
【0214】
(実施例16)
EXPRES細胞のテロメア長
ヒト胚幹細胞株H1由来の未分化細胞とともに、実施例5にしたがって単離された2種のEXPRES株のテロメア長を、Telo TAGGGテロメア長アッセイ(Roche,IN)を用いて、製造業者の取扱説明書にしたがって分析した。図24は、目盛マーカーとともに、P24のEXPRES 01細胞、P17のEXPRES 02細胞、P40のH1細胞、及びキットにより提供される高テロメア対照及び低テロメア対照のテロメア長を示す。両方の株は、未分化ES細胞より短いテロメア長を有するように見受けられる。
【0215】
(実施例17)
組織培養基質上で培養されたEXPRES細胞の膵臓内胚葉への更なる分化
21継代のEXPRES 01細胞を、0.5% FBS、DMEM:F12培地中の100ng/mLアクチビン−A、10ng/mLのWnt3a、及び100nM GSK3ベータ阻害剤IXで処理することにより、5日間分化させた。細胞をFACSにより分析したところ、80%の細胞がCXCR4陽性を示した。次いで、細胞を以下の各工程で3日間ずつ処理した:50ng/mL FGF−10、及び0.25μM KAAD−シクロパミン(Calbiochem,CA)を含有している2% FBS DMEM:F12;続いて50ng/mL FGF−10、0.25μM KAAD−シクロパミン及び1μMレチノイン酸(Sigma,MO)を含有している1% B27 DMEM、低グルコース;続いて、1μM DAPT(Calbiochem,CA)+50ng/mLエキセンディン4(Sigma,MO)を含有している1%B27DMEM、低グルコース;続いて最後にそれぞれ50ng/mLのIGF、HGF、及びエキセンディン4を含有している1% B27 DMEM CMRL。各工程の最後にサンプルを採取し、細胞のRNAを抽出した。示されたマーカーについてQ−RT PCRを実施した。図25に示すように、インスリン量は未処理細胞に対して100倍増加し、またPDX−1量は1000倍超増加した。
【0216】
(実施例18)
組織培養基質上で培養されたEXPRES細胞の前腸内胚葉への更なる分化
35継代のEXPRES01細胞を、0.5% FBS、DMEM:F12培地中の100ng/mLアクチビン−A、20ng/mLのWnt3a、及び100nM GSK3ベータ阻害剤IXで処理することにより、5日間分化させた。細胞をFACSにより分析したところ、約70%の細胞がCXCR4陽性を示した。次いで、細胞を以下の各工程で処理した:50ng/mL FGF−10、及び0.25μM KAAD−シクロパミン(Calbiochem,CA)を含有している2% FBS DMEM:F12で3日間;工程3、50ng/mL FGF−10、0.25μM KAAD−シクロパミン、及び1μMレチノイン酸(Sigma,MO)を含有している1% B27 DMEM、低グルコースで4日間;並びに工程4、1μM DAPT(Calbiochem,CA)+50ng/mLエキセンディン4(Sigma,MO)を含有している1% B27 DMEM、低グルコースで4日間。このプロトコルは、D’Amourら(Nature Biotech,24,1392,2006)により既に公開されているプロトコルに基づいている。段階4の最後に細胞を固定し、PDX−1、HNF−3β、SOX−17、アルブミン、抗トリプシン、及びCDX−2で染色した。図26に示すように、EXPRES細胞は、PDX−1(培養物の約20%が陽性染色)、HNF−3β(約90%陽性)、アルブミン(約5%陽性)、抗−1−トリプシン(約70%陽性)、SOX−17(約70%)、及びCDX−2(約5%陽性)の発現により測定したとき、前腸内胚葉に容易に分化することができた。
【0217】
(実施例19)
EXPRES細胞対未分化ヒト胚幹細胞のマイクロアレイ解析
RNeasyミニキット(Qiagen)を用いて44継代のヒト胚幹細胞株H9、EXPRES 01 P11、及びEXPRES 02 P7の培養物から全RNAを単離した:全グループは3つの生物学的複製物を含み、各生物学的複製物は2つの別個の遺伝子チップ上で反復された。サンプル調製、ハイブリダイゼーション及び画像分析は、Affymetrix Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayにしたがって行った。正規化及び対数変換の後、OmniViz(登録商標)ソフトウエア(MA)及びGENESIFTER(VizXLabs,WA)を使用してデータ解析を行った。分散分析と、0.05以下の調整P値(Benjamini及びHochberg補正)を用いたF検定とを使用して、サンプル間の遺伝子発現における有意な差異を評価した。少なくとも1つのグループ内のプレゼントコールを伴う遺伝子のみを分析に含めた。表Vは、各遺伝子の調整P値とともに、群(未分化ES、EXPRES 01、及びEXPRES 02細胞)間で少なくとも5倍の差を示す遺伝子の平均正規化対数変換シグナル強度を列挙する。原始線条又は胚体内胚葉を表す遺伝子を太字で強調する。アップレギュレート又はダウンレギュレートされた上位200個の遺伝子のみを表Vに示す。
【0218】
(実施例20)
DE段階に分化したEXPRES細胞対DE段階に分化したヒト胚幹細胞のマイクロアレイ解析
RNeasyミニキット(Qiagen)を用いて以下の培養物から全RNAを抽出した:A)MATRIGELでコーティングされたプレート(1:30希釈)上で培養され、2日間0.5% FBS及び100ng/mLアクチビン−A及び20ng/mLのwnt3Aを添加したDMEM/F12培地に曝露され、続いて更に3日間2% FBS及び100ng/mLアクチビン−A(AA)を添加したDMEM/F12培地で処理されたH9P33細胞;B)TCPS上で培養され、5日間0.5% FBS、100ng/mLアクチビン−A、20ng/mLのWNT3A、及び100nm GSK−3B IX阻害剤(カタログ番号361550、Calbiochem,CA)を添加したDMEM/F12培地に曝露されたEXPRES 01 P24細胞;C)TCPS上で培養され、5日間0.5% FBS、100ng/mLアクチビン−A、20ng/mLのWNT3A、及び100nm GSK−3B IX阻害剤(カタログ番号361550、Calbiochem,CA)を添加したDMEM/F12培地に曝露されたEXPRES02P17細胞;D)MATRIGELでコーティングされたプレート(1:30希釈)上で培養され、2日間0.5% FBS及び100ng/mLアクチビン−A及び20ng/mLのwnt3Aを添加したDMEM/F12培地に曝露され、続いて更に2日間2%FBS及び100ng/mLアクチビン−A(AA)を添加したDMEM/F12培地で処理されたH9P39細胞。2時間、6時間、24時間、30時間、48時間、72時間、及び96時間目に群DからRNAサンプルを回収した。それぞれの成長培地中で培養されたEXPRES 01及びEXPRES 02も対照としてインキュベートした。全群は3つの生物学的複製物を含み、各生物学的複製物は2つの別個の遺伝子チップ上で反復された。
【0219】
サンプル調製、ハイブリダイゼーション及び画像分析は、Affymetrix Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayにしたがって行った。正規化及び対数変換の後、OmniViz(登録商標)ソフトウエア(MA)及びGENESIFTER(VizXLabs,WA)を使用してデータ解析を行った。分散分析と、0.05以下の調整P値(Benjamini及びHochberg補正)を用いたF検定とを使用して、サンプル間の遺伝子発現における有意な差異を評価した。少なくとも1つのグループ内のプレゼントコールを伴う遺伝子のみを分析に含めた。表VIに、種々の時点における、群A、群B、群C及び群Dの間で少なくとも5倍の差異を示す遺伝子の平均正規化対数変換シグナル強度を、各遺伝子の調整P値と共に列挙する。アップレギュレート又はダウンレギュレートされた上位200個の遺伝子のみを表VIに示す。原始線条又は胚体内胚葉を表す遺伝子を太字で強調する。表VIIは、各比較群の相関係数を列挙する。相関係数に対応する散布図を図27に示す。EXPRES 01細胞のグローバル発現プロファイルは、30時間以下のDE段階におけるサンプルの発現プロファイルに類似しているように見受けられ、一方EXPRES 02細胞は48時間超のDE段階におけるサンプルの発現プロファイルに類似しているように見受けられる。
【0220】
(実施例21)
胚様体の形成及び種々の系統への分化
27継代のEXPRES 01培養物を、TrypLE(商標)Express溶液を用いて単一細胞として取り出し、4分間200gで回転させ、DMEM−F12+20% FBSに再懸濁させた。細胞懸濁液を低接着ペトリ皿上に播種した。播種の3〜4日後、胚様体(EB)様構造が形成された(図28)。DMEM−F12+2% FBS+1マイクロモラーのレチノイン酸による培養物の処理は、NeuroD等の外胚葉マーカーの発現を誘導した。
【0221】
(実施例22)
NOD−SCIDマウスの腎臓被膜における奇形腫形成
42継代のヒト胚幹細胞株H9由来の未分化細胞、30継代のEXPRES 01、EXPRES 02 P22細胞を、TRYPLEを用いて培養物から遊離させ、基本培地で洗浄し、次いでDMEM−F12基本培地に懸濁させた。約1×106個の未分化H9P42、150万個のEXPRES 01及び02細胞を、6週齢のNOD−SCIDマウスの腎臓被膜に注入した。移植の5週間後、動物を屠殺し、腎臓を切除し、ホルマリンで固定するか、又は分解緩衝液に入れ、後のPCR分析のためにRNAを回収した。図29は、回収したサンプルの中胚葉、外胚葉、内胚葉、胚体外臓側内胚葉に特徴的なマーカー、及び多能性マーカーの発現を示す。H9株と同様に、両方のEXPRES株は、胚体外内胚葉とともに全ての胚葉で強い発現を示す。
【0222】
(実施例23)
EXPRES 03細胞の増殖及び細胞周期分析
ヒト胚幹細胞は、高比率のS期、及び短い又は不完全なギャップ期(G1及びG2)を特徴とする、他の体細胞とは識別可能な独自の細胞周期状態を有する。hES細胞における細胞周期制御機構は、自己再生及びこれらの細胞の多能性と機能的に関連している可能性があり、分化/傾倒対応物における制御機構とは異なっている可能性がある。これらの実験は、多能性hES細胞のマーカーの多くを発現することが示されているEXPRES細胞の細胞周期特性を決定するために設計した。
【0223】
方法:細胞を、細胞結合組織培養フラスコ(Corning)に5,000〜10,000細胞/cm2で播種し、2〜4日間培養した。EXPRES 03細胞を、DMEM/F12中に2% FBSを含有している成長培地、及びアクチビン−A(100ng/mL)、wnt3a(10〜20ng/mL)及びIGF(50ng/mL)を含有している培地のいずれか中で培養した。比較増殖分析のために、場合によってIGFを成長因子カクテルから除いた。製造業者(BD Biosciences,San Diego,CA)の推奨にしたがってAPC BRDU Flowキットを用いて細胞増殖を分析した。簡潔に述べると、培養期間の最後に1〜2時間細胞にBRDUをパルス導入し、Tryple E Expressを用いて遊離させ、計数した。細胞をBD Cytofix/Cytosperm緩衝液で固定し、30分間インキュベートし、続いて氷上で10分間BD Cytoperm緩衝液とともにインキュベートした。次いで、37℃で1時間DNAseで細胞を処理し、取り込まれたBRDUに曝露し、続いてAPC複合体化抗BRDU抗体で染色した。細胞周期分析では、細胞を7AADで染色し、FACSアレイ上で分析した。
【0224】
結果:hES細胞に非常に類似して、EXPRES 03細胞は高い増殖速度を保持しており、これは培養物中にBRDUを取り込む能力により決定されるようにS期にある細胞の割合が高いことにより示される。S期にある細胞の頻度は、hES細胞と同様に典型的には45%超(40%〜60%の範囲)であった(図30a〜c)。IGFの存在下で成長したEXPRES 03細胞の数は、3〜4日後IGFの非存在下で成長した細胞の数の2〜3倍であったが、細胞を1時間以上BRDUに曝露したときS期の細胞の頻度の差はほんの僅かであった(図30f)。この高頻度のS期細胞及び細胞周期構造は、ヒト羊水細胞(AFDX002)で示されるように、体細胞で観察されるものとは異なる(図30d)。更に、マイトマイシン処理細胞マウス胚線維芽細胞(MEF、図30e)はS期に移行せず、G2/M期に明らかに蓄積され(64%)、これはマイトマイシン処理細胞が有糸分裂においてDNA鎖を分離できないことに関連している可能性がある。
【0225】
(実施例24)
ES細胞対EXPRES細胞のトランスフェクション効率
hESの遺伝子操作の主な制限は、hESが従来のトランスフェクション法及びウイルス導入法に対して比較的耐性であることである。その高い増殖速度に加えて、EXPRES細胞はインビトロでのトランスフェクションが容易である。トランスフェクション効率を比較するために、EXPRES細胞及びhES細胞をEGFPとともに培養物にトランスフェクトし、蛍光顕微鏡及びフローサイトメトリー法により分析した。
【0226】
方法:EXPRES 01細胞を、ヒトフィブロネクチンでコーティングされた(10μg/mL)6ウェル培養プレート上、DMEM/F12中2% FBS、アクチビン−A(100ng/mL)、wnt3a(10〜20ng/mL)、及びIGF(50ng/mL)を含む成長培地中に、播種した。細胞塊の場合、hES細胞をコラゲナーゼを用いてルーチンな方法によりMATRIGELでコーティングされた6ウェル培養プレートに継代し、MEF馴化hES培地中で成長させた。単一細胞の場合、hES細胞を37℃で3分間TRYPLEに細胞を曝露させ、続いてMATRIGELでコーティングされた6ウェル培養プレート上にプレーティングすることにより継代した。細胞が所望の培養密度(70〜80%)を達成したとき、製造業者(Invitrogen,Carlsbad,CA)の推奨にしたがって細胞をリポフェクタミン2000でトランスフェクトした。簡潔に述べると、4μgのDNAを、250μLのOpti−MEM I還元血清培地で希釈した。5マイクロリットルのリポフェクタミン2000を、5分間、合計250mμLのOpti−MEM I培地と混合し、穏やかに希釈したDNAと混合した。室温で20分間DNA/リポフェクタミン複合体を形成させ、次いで穏やかに混合するためにプレートを穏やかに旋回運動させながらそれぞれのウェルに添加した。細胞を更に24時間複合体の存在下でインキュベートし、続いて培地を完全に交換した。トランスフェクションの48時間後、蛍光顕微鏡及びフローサイトメトリーにより細胞を分析した。
【0227】
結果:eGFPの取り込み及び発現を、単一細胞分散又は細胞塊としてプレーティングされたEXPRES 01細胞及びhES細胞をトランスフェクションし、48時間後に分析することにより比較した。EXPRES 01細胞は、最も高いレベルのeGFPタンパク質発現を示し、フローサイトメトリー分析によれば75%の細胞がeGFPを発現していた(図31)。対照的に、hESはトランスフェクション耐性が高く、細胞塊を用いたときFACSによりeGFPタンパク質を発現していた細胞は僅か3%であった。hESの単一細胞分散を調製することによりDNA取り込みレベル及びeGFP発現は約20%に向上したが、これはまだEXPRES 01細胞での発現の約3分の1である。
【0228】
(実施例25)
スクリーニングの多用途ツールとしてのEXPRES細胞
EXPRES細胞を2% FBS、100ng/mL組み換えヒトアクチビン−A(R&D Systems)、及び20ng/mL組み換えマウスWnt3a(R&D Systems)を含有しているDMEM:F12培地中で成長させた。EXPRES 01細胞の成長培地はまた、50ng/mL組み換えヒトIGF−1(R&D Systems)を含有していた。両方の細胞株を、低酸素(3%)及び5% CO2雰囲気下で37℃にてルーチン的に成長させた。EXPRES 01及びEXPRES 02細胞を、TrypLE酵素的消化(Invitrogen,CA)を用いて単一細胞懸濁液として培養物から遊離させ、次いで洗浄し、計数して、正確な細胞数及び生存率(>95%)を測定した。1,250〜80,000細胞の範囲のアリコートを、最終体積100μLの培地になるように、96ウェルプレート(Corning−Costar)のヒトフィブロネクチンでコーティングされたウェルに分配した。対照ウェルもまたフィブロネクチンでコーティングされ、細胞無しで体積の等しい培地を含有していた。37℃、標準的な低酸素、5% CO2下でインキュベートされた加湿チャンバ内で一晩プレートを平衡化させた。この時間中、初期播種密度に応じて培養密度の程度が変動する単層培養物として細胞は付着した。一晩培養した後、20μLのMTS試薬(CellTiter 96 Aqueous Assay;Promega)を各ウェルに添加した。MTSをホルマザンに還元し、生存細胞の数に正比例するデヒドロゲナーゼ酵素活性の尺度として用いることができる。1枚のプレートを低酸素培養に戻す一方、同一の対応するプレートを正常酸素(20%)下でインキュベートした。4時間後、分光光度プレートリーダー(Molecular Devices)の490nmで吸光度を読み取った。各プレート内の複製サンプルセットについて、平均OD、標準偏差、及び変動係数(CV)(%)を求めるのための統計的計算を行い、両方のプレート間の類似ウェルを比較した。
【0229】
標準偏差及び変動係数(CV)(%)値は、EXPRES細胞を、高プレーティング効率及び良好なウェル間再現性で、ウェル間に均一に分布させることができることを示す(表VIIIa〜f)。等しい数の細胞の平均OD490指数から分かるように、EXPRES 01株はEXPRES 02株より高い代謝活性を有する。各EXPRES 0株について、2つのプレート間のCV値(%)は、この短期間アッセイにおいて大気酸素レベルにもかかわらず、対応する条件で代謝活性の差がないことを示唆する。このアッセイの線形領域内のウェル毎の最適細胞数を、平均OD指数をグラフ化することにより決定したところ(図32):EXPRES 01では20,000細胞/ウェル及びEXPRES 02では40,000細胞/ウェルであった。ここでも、大気の酸素レベル差は、この短期間アッセイから得られる最適細胞数には影響を与えなかった。これらの結果は、EXPRES細胞は、細胞増殖及び/又は代謝速度に対する種々の剤の毒性作用を測定できるスクリーニングプロトコルに従うことを示唆する。
【0230】
(実施例26)
EXPRES細胞から誘導されたDE様細胞の増殖
以前の実施例は、EXPRES細胞を胚幹細胞から誘導することができ、種々の成長培地中のTCPS上で容易に増殖させ得ることを証明する。これらの培地処方のほとんとは、添加物としてIGFを含有するか、又は成長培地中で用いられる2% FBSにインスリン/IGFを含有する。これらの因子は、PI−3キナーゼ経路を通してDE関連遺伝子を阻害することが示されている(Stem cells,25:29〜38,2007)。代替培地を、DM−F12+0.5% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT3A+100nM GSK−3B阻害剤IX(更に「DE細胞用成長培地」と称される)に基づいて処方した。上記培地中で培養された27継代のEXPRES 01細胞は、DM−F12+2% FBS+100ng/mL AA+20ng/mL WNT3A+50ng/mL IGF−I中で培養された細胞と同じ速度で増殖することができた。更に、DE細胞用成長培地中で培養された細胞は、3継代を通じてリアルタイムPCRによりDEマーカーを強く発現していた(図33)。約72%の細胞がCXCR4を発現していた(図34)。
【0231】
(実施例27)
EXPRES細胞における標的遺伝子のsiRNAノックダウン
siRNAを用いるヒト胚幹細胞の標的遺伝子の効率的なノックダウンは、クラスタコロニーとして成長したヒト胚幹細胞において高レベルのトランスフェクションを達成する能力により厳しく制限される。EXPRES細胞は、従来の方法を用いてsiRNAで容易にトランスフェクトされ、したがってsiRNAオリゴ配列をスクリーニングし、標的とする遺伝子の果たす役割を評価するための有用な系を提供する。
【0232】
方法:EXPRES 03細胞を、ヒトフィブロネクチンでコーティングされた(10μg/mL)6ウェル組織培養プレート上、DMEM/F12中2%FBS、アクチビン−A(100ng/mL)、wnt3a(10〜20ng/mL)、及びIGF(50ng/mL)を含む成長培地中に、播種した。6ウェルプレートの場合、200,000細胞を播種し、24時間後siRNAオリゴ配列でトランスフェトした。
【0233】
標的遺伝子のノックダウンを評価するために、70〜80%の培養密度の細胞を、製造業者(Ambion(Applied Biosystems),Foster City,CA)の推奨にしたがってリポフェクタミン2000を用いてトランスフェクトした。簡潔に述べると、最終濃度が100nmolになるよう適切な量のsiRNAを250μL Opti−MEM I還元血清培地で希釈した。5マイクロリットルのリポフェクタミン2000を、250μL Opti−MEM I培地で希釈し、5分間インキュベートした。複合体を室温で15〜20分間インキュベートし、次いで穏やかに混合するためにプレートを穏やかに旋回運動させながら細胞に添加した。細胞を更に24時間siRNAの存在下でインキュベートし、続いて培地を完全に交換した。トランスフェクションの24〜48時間後蛍光顕微鏡で細胞を可視化し、定量RT−PCR法により標的遺伝子のノックダウンを分析するためにRNAを回収した。Ambionから購入した、以下の予め検証されているsiRNAオリゴ配列を試験した:ベータカテニン(Id.No.42816)及びGSK3b(Id.No.42839)。
【0234】
結果:蛍光顕微鏡により、蛍光標識されたsiRNAを用いたとき、EXPRES細胞により非常に高確率で(>80%)siRNAが取り込まれたことが明らかになった(図35)。細胞から回収したRNAを、標的遺伝子のノックダウンについてPCRにより分析し、対照siRNAオリゴをトランスフェクトした細胞と比較した。ベータカテニン及びGSK3b siRNAオリゴにより、EXPRES細胞において非常に高い確率で遺伝子がノックダウンされた(93%超の遺伝子がノックダウンされた)。他の遺伝子標的、例えばHes−1、Oct−4に対して、他の検証されていないオリゴ配列は、より低く変動する確率で標的遺伝子をノックダウンした。オリゴ配列の特異性は、他の遺伝子転写産物の分析により検証され、これは検出できるノックダウンを全く示さなかった。
【0235】
(実施例28)
EXPRES 01及びEXPRES 02株のサイトカイン抗体アレイ分析
それぞれ22継代及び23継代のEXPRES 01及びEXPRES 02細胞を、それぞれの培地で培養密度約70%まで成長させ、次いで細胞溶解物を哺乳類細胞溶解キット(Sigma−Aldrich,MO)を用いて回収した。RayBiotech,GA(http://www.raybiotech.com/)により提供されたサイトカインアレイパネルを使用して、サイトカインアレイ分析を完了した。表IXa〜cは、データの正規化及びバックグラウンド除去を行った後のサイトカイン、サイトカイン及び成長因子受容体発現を示す。各パネルに関して、正及び負の対照も含めた。パネルは、細胞種毎に2つの異なるサンプルで実行したものである。
【0236】
(実施例29)
核型分析
20継代のEXPRES 01細胞及び15継代のEXPRES 02細胞の核型をGバンド分析により決定した。細胞遺伝学的分析を、EXPRES 01由来の21個のGバンド染色した細胞、及びEXPRES 02由来の20個のGバンド染色した細胞について実施した。Gバンド染色したEXPRES 01細胞の半分は正常な46XX核型を示したが、残りは17番染色体トリソミー等の異常な核型を示した。EXPRES 02株もまた、1番染色体短腕のほぼ全てが重複している染色体再配列を示した。
【0237】
(実施例30)
Rhoキナーゼ(ROCK)阻害剤の存在下における単一ヒト胚幹細胞の懸濁液からのEXPRES細胞の誘導
35継代のヒト胚幹細胞株H9由来細胞を、少なくとも3継代低酸素条件下(約3%O2)で培養した。細胞を8ng/mLのbFGFを添加したMEF−CM中で培養し、実施例1にしたがってMATRIGELでコーティングされたプレート上にプレーティングした。培養密度約60%で、培養物をTrypLE(商標)Express溶液(Invitrogen,CA)に5分間曝露した。遊離した細胞をDM−F12+2% FBS培地に再懸濁させ、遠心分離により回収し、血球計を用いて計数した。遊離した細胞を1000〜10,000細胞/cm2の密度で組織培養ポリスチレン(TCPS)フラスコ上に播種し、標準的な組織培養インキュベータ内で、37℃低酸素条件下(約3% O2)にて、DM−F12+2% FBS+100ng/mLアクチビン−A+20ng/mL WNT−3A+50ng/mLのIGF−I+0.1mMメルカプトエタノール(Invitrogen,CA)、非必須アミノ酸(1X,NEAA、Invitrogen,CAより)+/−10μm ROCK阻害剤(Y−27632,Calbiochem,CA)中で培養した。TCPSフラスコは、MATRIGELでも他の細胞外マトリクスタンパク質でもコーティングしなかった。培地は毎日交換した。第1継代細胞をP1と称する。図37に示すように、播種の24時間後、ROCK阻害剤の添加により、ROCK阻害剤の非存在下で誘導された培養物と比べて、著しく多い数の付着細胞が得られた。ROCK阻害剤、Y27632を用いて誘導されたEXPRES細胞を、EXPRES 15と命名した。
【0238】
(実施例31)
核型分析
5継代及び12継代のEXPRES 15細胞の核型を、Gバンド分析により決定した。EXPRES 15由来の21個のGバンド染色した細胞について細胞遺伝学的分析を実施したところ、全ての細胞が正常な46XX核型を示した(図38)。12番及び17番染色体のFISH分析はまた、全ての細胞が12番染色体上に位置するETV6 BAP(TEL)遺伝子の正常なシグナルパターンを示し、全ての細胞が17番染色体上に位置するHer2/neu遺伝子及び17セントロメアの正常なシグナルパターンを示したことを示した。
【0239】
(実施例32)
EXPRES細胞は、ある濃度範囲のIGF、WNT3A、アクチビン−A、及びGSK−3B阻害剤を含有している培地中で維持することができる
EXPRES 11細胞を、2% FBS、100ng/mLアクチビン−A、20ng/mL Wnt3a、及び50ng/mL IGFを含有しているDMEM/F12(Invitrogen)中で成長させた。80%の培養密度で、TrypLE Express(Invitrogen)を用いて、96ウェルプレートに、4000細胞/ウェルの密度で、2% FBSを含有しているDMEM/F12に細胞を継代した。5% CO2、37℃に保たれた加湿インキュベータ内で1時間、細胞を基材に付着させ、次いで50〜100ng/mLの範囲のアクチビン−A、10〜20ng/mLの範囲のWnt3a、10〜50ng/mLの範囲のIGF、及び50〜100nMのGSK−3B阻害剤(IX)を添加した。24、48、及び96時間目に、CellTiter(登録商標)96 AQueous One Solution Cell Proliferation Assay(Promega)を用いて細胞生存率を測定した。簡潔に述べると、MTS試薬を96ウェルプレートに添加し、細胞とともに1〜4時間インキュベートし、次いでプレートリーダーで490nmの吸光度を読み取った。吸光度指数は、生存細胞の数に正比例していた。図39a〜cは、播種後a)24時間、b)48時間、及びc)96時間の吸光度指数を示す。
【0240】
本明細書を通して引用された刊行物は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。本発明の様々な態様を、実施例及び好ましい実施形態を参照して説明してきたが、本発明の範囲は、以上の明細書の記述ではなく、特許法の原則の下で解釈される以下の特許請求の範囲により定義されることが理解されるであろう。
【0241】
【表1】
【0242】
【表2】
【0243】
【表3−1】
【0244】
【表3−2】
【0245】
【表3−3】
【0246】
【表3−4】
【0247】
【表4】
【0248】
【表5】
【0249】
【表6−1】
【0250】
【表6−2】
【0251】
【表6−3】
【0252】
【表6−4】
【0253】
【表6−5】
【0254】
【表6−6】
【0255】
【表6−7】
【0256】
【表6−8】
【0257】
【表6−9】
【0258】
【表6−10】
【0259】
【表6−11】
【0260】
【表6−12】
【0261】
【表6−13】
【0262】
【表6−14】
【0263】
【表6−15】
【0264】
【表6−16】
【0265】
【表6−17】
【0266】
【表6−18】
【0267】
【表6−19】
【0268】
【表6−20】
【0269】
【表6−21】
【0270】
【表6−22】
【0271】
【表6−23】
【0272】
【表6−24】
【0273】
【表6−25】
【0274】
【表6−26】
【0275】
【表6−27】
【0276】
【表6−28】
【0277】
【表6−29】
【0278】
【表6−30】
【0279】
【表6−31】
【0280】
【表6−32】
【0281】
【表6−33】
【0282】
【表6−34】
【0283】
【表7−1】
【0284】
【表7−2】
【0285】
【表7−3】
【0286】
【表7−4】
【0287】
【表7−5】
【0288】
【表7−6】
【0289】
【表7−7】
【0290】
【表7−8】
【0291】
【表7−9】
【0292】
【表7−10】
【0293】
【表7−11】
【0294】
【表7−12】
【0295】
【表7−13】
【0296】
【表7−14】
【0297】
【表7−15】
【0298】
【表7−16】
【0299】
【表7−17】
【0300】
【表7−18】
【0301】
【表7−19】
【0302】
【表7−20】
【0303】
【表7−21】
【0304】
【表7−22】
【0305】
【表7−23】
【0306】
【表7−24】
【0307】
【表7−25】
【0308】
【表7−26】
【0309】
【表7−27】
【0310】
【表7−28】
【0311】
【表7−29】
【0312】
【表7−30】
【0313】
【表7−31】
【0314】
【表7−32】
【0315】
【表7−33】
【0316】
【表7−34】
【0317】
【表7−35】
【0318】
【表7−36】
【0319】
【表7−37】
【0320】
【表7−38】
【0321】
【表7−39】
【0322】
【表7−40】
【0323】
【表7−41】
【0324】
【表7−42】
【0325】
【表7−43】
【0326】
【表7−44】
【0327】
【表7−45】
【0328】
【表7−46】
【0329】
【表7−47】
【0330】
【表7−48】
【0331】
【表7−49】
【0332】
【表7−50】
【0333】
【表7−51】
【0334】
【表7−52】
【0335】
【表7−53】
【0336】
【表7−54】
【0337】
【表7−55】
【0338】
【表7−56】
【0339】
【表7−57】
【0340】
【表7−58】
【0341】
【表7−59】
【0342】
【表7−60】
【0343】
【表7−61】
【0344】
【表7−62】
【0345】
【表7−63】
【0346】
【表7−64】
【0347】
【表7−65】
【0348】
【表7−66】
【0349】
【表7−67】
【0350】
【表7−68】
【0351】
【表7−69】
【0352】
【表7−70】
【0353】
【表7−71】
【0354】
【表7−72】
【0355】
【表7−73】
【0356】
【表7−74】
【0357】
【表7−75】
【0358】
【表7−76】
【0359】
【表7−77】
【0360】
【表7−78】
【0361】
【表7−79】
【0362】
【表7−80】
【0363】
【表7−81】
【0364】
【表7−82】
【0365】
【表7−83】
【0366】
【表7−84】
【0367】
【表7−85】
【0368】
【表7−86】
【0369】
【表7−87】
【0370】
【表8】
【0371】
【表9−1】
【0372】
【表9−2】
【0373】
【表9−3】
【0374】
【表9−4】
【0375】
【表10−1】
【0376】
【表10−2】
【0377】
【表10−3】
【0378】
【表10−4】
【0379】
【表10−5】
【0380】
【表10−6】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.細胞を得る工程と、
b.前記細胞を培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて前記細胞を培養する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記細胞がヒト胚幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト胚幹細胞がRhoキナーゼ阻害剤で処理される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト胚幹細胞が、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて前記細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒト胚幹細胞が、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて前記細胞を培養する前に、低酸素条件下で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する前記細胞が、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて前記細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する前記細胞が、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて前記細胞を培養する前に、低酸素条件下で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記低酸素条件が、約1%〜約20%のO2濃度である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記低酸素条件が、約2%〜約10%のO2濃度である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記低酸素条件が、約3%のO2濃度である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が、約2%〜約5%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が、約2%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が、約50ng/mL〜約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞が、約10ng/mL〜約20ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞が、約200ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記WntリガンドがWnt−3aである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞が、約25ng/mL〜約50ng/mLの濃度のIGF−1を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞が、約50ng/mLの濃度のIGF−1を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、ABCG2、cripto、FoxD3、コネキシン43、コネキシン45、Oct4、SOX−2、Nanog、hTERT、UTF−1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra1−60、及びTra1−81からなる群から選択される多能性マーカーの少なくとも1つを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、前原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、中内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
b.前記ヒト胚幹細胞を、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程と、
c.前記細胞を除去し、次いで前記細胞を、培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて前記細胞を培養する工程と、を含む方法。
【請求項27】
前記ヒト胚幹細胞がRhoキナーゼ阻害剤で処理される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の分化前に、細胞外マトリクス上で培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の分化前に、フィーダー細胞層上で培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、細胞外マトリクス上で分化する、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、フィーダー細胞層上で分化する、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、正常酸素圧条件下で培養され分化する、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、低酸素条件下で培養され分化する、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
前記低酸素条件が、約1%〜約20%のO2濃度である、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
前記低酸素条件が、約2%〜約10%のO2濃度である、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
前記低酸素条件が、約3%のO2濃度である、請求項26に記載の方法。
【請求項37】
前記細胞が、約2%〜約5%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞が、約2%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項39】
前記細胞が、約50ng/mL〜約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項40】
前記細胞が、約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項41】
前記細胞が、約10ng/mL〜約20ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞が、約200ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項43】
前記WntリガンドがWnt−3aである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記細胞が、約25ng/mL〜約50ng/mLの濃度のIGF−1を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項45】
前記細胞が、約50ng/mLの濃度のIGF−1を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項46】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、ABCG2、cripto、FoxD3、コネキシン43、コネキシン45、Oct4、SOX−2、Nanog、hTERT、UTF−1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra1−60、及びTra1−81からなる群から選択される多能性マーカーの少なくとも1つを発現する、請求項26に記載の方法。
【請求項47】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、前原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項26に記載の方法。
【請求項48】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項26に記載の方法。
【請求項49】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、中内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項26に記載の方法。
【請求項50】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項26に記載の方法。
【請求項51】
多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
b.前記細胞を除去し、次いで前記細胞を、培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて前記細胞を培養する工程と、を含む方法。
【請求項52】
前記ヒト胚幹細胞がRhoキナーゼ阻害剤で処理される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、細胞外マトリクス上で培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、フィーダー細胞層上で培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、正常酸素圧条件下で培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項56】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、低酸素条件下で培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項57】
前記低酸素条件が、約1%〜約20%のO2濃度である、請求項51に記載の方法。
【請求項58】
前記低酸素条件が、約2%〜約10%のO2濃度である、請求項51に記載の方法。
【請求項59】
前記低酸素条件が、約3%のO2濃度である、請求項51に記載の方法。
【請求項60】
前記細胞が、約2%〜約5%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項61】
前記細胞が、約2%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項62】
前記細胞が、約50ng/mL〜約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項63】
前記細胞が、約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項64】
前記細胞が、約10ng/mL〜約20ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項65】
前記細胞が、約200ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項66】
前記WntリガンドがWnt−3aである、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記細胞が、約25ng/mL〜約50ng/mLの濃度のIGF−1を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項68】
前記細胞が、約50ng/mLの濃度のIGF−1を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項69】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、ABCG2、cripto、FoxD3、コネキシン43、コネキシン45、Oct4、SOX−2、Nanog、hTERT、UTF−1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra1−60、及びTra1−81からなる群から選択される多能性マーカーの少なくとも1つを発現する、請求項51に記載の方法。
【請求項70】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、前原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項51に記載の方法。
【請求項71】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項51に記載の方法。
【請求項72】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、中内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項51に記載の方法。
【請求項73】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項51に記載の方法。
【請求項74】
タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて、細胞を培養する工程を含む、前記胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を増殖させる方法。
【請求項75】
前記胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する前記細胞が、本発明の方法により形成される多能性細胞に由来する、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記細胞が、約0.2%〜約5%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【請求項77】
前記細胞が、約0.5%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【請求項78】
前記細胞が、約50ng/mL〜約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【請求項79】
前記細胞が、約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【請求項80】
前記細胞が、約10ng/mL〜約20ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【請求項81】
前記細胞が、約200ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【請求項82】
前記WntリガンドがWnt−3aである、請求項80に記載の方法。
【請求項83】
前記細胞が、GSK−3B阻害剤を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【請求項1】
多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.細胞を得る工程と、
b.前記細胞を培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて前記細胞を培養する工程と、を含む方法。
【請求項2】
前記細胞がヒト胚幹細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ヒト胚幹細胞がRhoキナーゼ阻害剤で処理される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記細胞が、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ヒト胚幹細胞が、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて前記細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒト胚幹細胞が、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて前記細胞を培養する前に、低酸素条件下で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する前記細胞が、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて前記細胞を培養する前に、正常酸素圧条件下で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する前記細胞が、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて前記細胞を培養する前に、低酸素条件下で培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記低酸素条件が、約1%〜約20%のO2濃度である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記低酸素条件が、約2%〜約10%のO2濃度である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記低酸素条件が、約3%のO2濃度である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記細胞が、約2%〜約5%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記細胞が、約2%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が、約50ng/mL〜約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞が、約10ng/mL〜約20ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記細胞が、約200ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記WntリガンドがWnt−3aである、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記細胞が、約25ng/mL〜約50ng/mLの濃度のIGF−1を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記細胞が、約50ng/mLの濃度のIGF−1を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、ABCG2、cripto、FoxD3、コネキシン43、コネキシン45、Oct4、SOX−2、Nanog、hTERT、UTF−1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra1−60、及びTra1−81からなる群から選択される多能性マーカーの少なくとも1つを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、前原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項24】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、中内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項1に記載の方法。
【請求項26】
多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
b.前記ヒト胚幹細胞を、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する細胞に分化させる工程と、
c.前記細胞を除去し、次いで前記細胞を、培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて前記細胞を培養する工程と、を含む方法。
【請求項27】
前記ヒト胚幹細胞がRhoキナーゼ阻害剤で処理される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の分化前に、細胞外マトリクス上で培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の分化前に、フィーダー細胞層上で培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、細胞外マトリクス上で分化する、請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、フィーダー細胞層上で分化する、請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、正常酸素圧条件下で培養され分化する、請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、低酸素条件下で培養され分化する、請求項26に記載の方法。
【請求項34】
前記低酸素条件が、約1%〜約20%のO2濃度である、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
前記低酸素条件が、約2%〜約10%のO2濃度である、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
前記低酸素条件が、約3%のO2濃度である、請求項26に記載の方法。
【請求項37】
前記細胞が、約2%〜約5%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項38】
前記細胞が、約2%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項39】
前記細胞が、約50ng/mL〜約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項40】
前記細胞が、約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項41】
前記細胞が、約10ng/mL〜約20ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項42】
前記細胞が、約200ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項43】
前記WntリガンドがWnt−3aである、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記細胞が、約25ng/mL〜約50ng/mLの濃度のIGF−1を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項45】
前記細胞が、約50ng/mLの濃度のIGF−1を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項26に記載の方法。
【請求項46】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、ABCG2、cripto、FoxD3、コネキシン43、コネキシン45、Oct4、SOX−2、Nanog、hTERT、UTF−1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra1−60、及びTra1−81からなる群から選択される多能性マーカーの少なくとも1つを発現する、請求項26に記載の方法。
【請求項47】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、前原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項26に記載の方法。
【請求項48】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項26に記載の方法。
【請求項49】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、中内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項26に記載の方法。
【請求項50】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項26に記載の方法。
【請求項51】
多能性マーカーを発現する細胞を含む細胞集団を誘導する方法であって、
a.ヒト胚幹細胞を培養する工程と、
b.前記細胞を除去し、次いで前記細胞を、培養する前にタンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて前記細胞を培養する工程と、を含む方法。
【請求項52】
前記ヒト胚幹細胞がRhoキナーゼ阻害剤で処理される、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、細胞外マトリクス上で培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項54】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、フィーダー細胞層上で培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項55】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、正常酸素圧条件下で培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項56】
前記ヒト胚幹細胞が、前記細胞の除去前に、低酸素条件下で培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項57】
前記低酸素条件が、約1%〜約20%のO2濃度である、請求項51に記載の方法。
【請求項58】
前記低酸素条件が、約2%〜約10%のO2濃度である、請求項51に記載の方法。
【請求項59】
前記低酸素条件が、約3%のO2濃度である、請求項51に記載の方法。
【請求項60】
前記細胞が、約2%〜約5%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項61】
前記細胞が、約2%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項62】
前記細胞が、約50ng/mL〜約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項63】
前記細胞が、約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項64】
前記細胞が、約10ng/mL〜約20ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項65】
前記細胞が、約200ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項66】
前記WntリガンドがWnt−3aである、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
前記細胞が、約25ng/mL〜約50ng/mLの濃度のIGF−1を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項68】
前記細胞が、約50ng/mLの濃度のIGF−1を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項51に記載の方法。
【請求項69】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、ABCG2、cripto、FoxD3、コネキシン43、コネキシン45、Oct4、SOX−2、Nanog、hTERT、UTF−1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra1−60、及びTra1−81からなる群から選択される多能性マーカーの少なくとも1つを発現する、請求項51に記載の方法。
【請求項70】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、前原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項51に記載の方法。
【請求項71】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、原始線条細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項51に記載の方法。
【請求項72】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、中内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項51に記載の方法。
【請求項73】
前記多能性マーカーを発現する細胞が、胚体内胚葉細胞に特徴的なマーカーを発現する、請求項51に記載の方法。
【請求項74】
タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で、低酸素条件下にて、細胞を培養する工程を含む、前記胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞を増殖させる方法。
【請求項75】
前記胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する前記細胞が、本発明の方法により形成される多能性細胞に由来する、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
前記細胞が、約0.2%〜約5%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【請求項77】
前記細胞が、約0.5%の濃度の血清を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【請求項78】
前記細胞が、約50ng/mL〜約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【請求項79】
前記細胞が、約100ng/mLの濃度のアクチビン−Aを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【請求項80】
前記細胞が、約10ng/mL〜約20ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【請求項81】
前記細胞が、約200ng/mLの濃度のWntリガンドを含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【請求項82】
前記WntリガンドがWnt−3aである、請求項80に記載の方法。
【請求項83】
前記細胞が、GSK−3B阻害剤を含有する培地中で、タンパク質又は細胞外マトリクスで前処理されていない組織培養基質上で低酸素条件下にて培養される、請求項74に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図2】
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【図4】
【図5】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【公表番号】特表2011−518562(P2011−518562A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−506407(P2011−506407)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/041348
【国際公開番号】WO2009/132063
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(509087759)セントコア・オーソ・バイオテツク・インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/041348
【国際公開番号】WO2009/132063
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(509087759)セントコア・オーソ・バイオテツク・インコーポレーテツド (77)
【Fターム(参考)】
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