説明

多臓器不全症候群(MODS)の予防および/または処置のためのインターロイキン−22の使用

本発明は、有効成分としてインターロイキン−22(IL−22)を含む、多臓器不全症候群(MODS)または多臓器不全(MOF)の予防および/または処置のための剤の使用に関する。本発明は、敗血症から、敗血症ショック、肝不全、多臓器不全症候群に至る疾患の予防または治療に利用可能である。特に、本発明は、交通事故によって生じる損傷、熱傷、熱中症、高サイトカイン血症または深刻な感染症の処置のために、緊急医療にとって有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インターロイキン−22(IL−22)の医学的用途に関する。
【背景技術】
【0002】
以前は多臓器不全(MOF)として知られていた多臓器不全症候群(MODS)は、医学的介入なしには恒常性を維持することができないような、急病患者における変化した臓器機能である。全身性炎症反応症候群(SIRS)は、敗血症または深刻な敗血症の原因となり、最終的にはMODSの原因となることが確立している。MODSは、感染、損傷(事故または手術)、低灌流および/または代謝亢進が引き金となる、制御されていない炎症応答に通常は起因する。制御されていない炎症応答は、SIRSまたは敗血症をもたらす。
【0003】
SIRSは、全身を冒す炎症状態である。全身性炎症、臓器障害、および臓器不全に関連するいくつかの状態の一つである。SIRSは、多様なサイトカインの異常制御が存在するサイトカインストームのサブセットである。SIRSの原因は、感染性または非感染性に分類され得る。SIRSは、敗血症とも密接に関連している。SIRSが、感染が原因である場合には、敗血症とみなされる。SIRSの非感染性原因は、外傷(trauma)、熱傷、膵炎、虚血および出血を含む。敗血症は、全身の炎症状態によって特徴付けられる深刻な医学的状態である。敗血症は、敗血症性ショック、多臓器不全症候群および死の原因となり得る。SIRSおよび敗血症は、両方とも最終的にMODSへ進行し得る。
【0004】
MODSの明確な機序は、あまり理解されていない。今のところ、確立した臓器不全を戻すことができる剤は存在しない。したがって、治療は補助的な治療に制限される。交通事故によって生じる損傷、熱傷、心臓発作、および深刻な感染症の処置のため、MODS、MOFまたは敗血症の予防および処置は、緊急医療にとって重要である。したがって、効果的な薬物の開発は、患者にとって緊急を要する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、MODS、MOFまたは敗血症のための治療組成物および方法を提供することが本発明の目的である。
【0006】
それ故に、本発明は、一側面において、MODS、MOF、敗血症、または肝不全を予防および/または処置するための組成物の製造におけるインターロイキン−22(IL−22)の使用を提供する。
【0007】
別の側面において、本発明は、対象におけるMODS、MOF、敗血症、または肝不全の予防および処置のための方法を提供し、該方法は、薬学的有効量のIL−22を投与することを含む。さらなる側面において、本発明は、MODS、MOF、敗血症、または肝不全を予防および処置するための医薬の製造におけるIL−22の使用に関する。MODS、MOFまたは敗血症は、他の原因のうち、交通事故などの外傷、熱傷、心臓発作、および深刻な感染症によって生じ得る。
【0008】
多様な側面において、本発明のIL−22は、哺乳動物のIL−22および組み換え型の哺乳動物のIL−22を含むが、これらに限定されない。好ましい態様において、IL−22は、ヒトIL−22である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、マウスインターロイキン−22のcDNA配列を示す。
【0010】
【図2】図2は、ヒトインターロイキン−22のcDNA配列を示す。
【0011】
【図3】図3は、マウスインターロイキン−22のアミノ酸配列を示す。
【0012】
【図4】図4は、ヒトインターロイキン−22のアミノ酸配列を示す。
【0013】
【図5】図5は、IL−22が、マウスにおけるLPS誘導の敗血症ショックにおける動物の生存期間を増加させたことを示す。
【0014】
【図6】図6は、IL−22が、悪液質によって生じたラットにおけるLPS誘導の多臓器不全を保護することを示す。
【0015】
【図7】図7は、IL−22が、マウスにおけるLPS/GalN誘導の急性肝不全における死から動物を保護したことを示す。
【0016】
好ましい態様の詳細な説明
例1:ヒトおよびマウスIL−22遺伝子のクローニング
【0017】
ヒトIL−22遺伝子のクローニング:ヒト末梢血単球を、抗ヒトCDmAbで刺激し、24時間培養した。全RNAを、超遠心分離によって抽出し、cDNAをdTプライマーで合成した。ヒトIL−22遺伝子を、センスプライマー(5’-GCA GAA TCT TCA GAA CAG GTT C-3’)およびアンチセンスプライマー(5’-GGC ATC TAA TTG TTA TTT CTA G-3’)とともに、PCRにより増幅した。増幅されたDNAを、大腸菌発現ベクター中にクローニングさせる。
【0018】
マウスIL−22遺伝子のクローニング:C57BL/6メスマウスに、LPS(5mg/kg、sc)を注射した。脾臓を20時間後に得た。全RNAを抽出し、cDNAをdTプライマーで合成した。マウスIL−22遺伝子を、センスプライマー(5’-CTC TCA CTT ATC AAC TGT TGA C-3’)およびアンチセンスプライマー(5’-GAT GAT GGA CGT TAG CTT CTC AC-3’)とともに、PCRにより増幅した。増幅されたcDNAを、大腸菌発現ベクターpET21(+)中にクローニングした。
【0019】
ヒトIL−22およびマウスIL−22を、図1および図2に示すように、DNAシークエンシングにより検証した。
【0020】
例2:ヒトIL−22およびマウスIL−22遺伝子発現
【0021】
組み換え型のタンパク質を発現するために、大腸菌株BL21(+)を使用した。大腸菌細胞は、高圧下でホモゲナイズした。IL−22の封入体(inclusion bodies)を遠心分離で得、緩衝液(Tris−HCl 50mM、NaCl 100mM、EDTA 1mM、DTT 1mMおよびデオキシコール酸ナトリウム0.5%)で徹底的に洗浄した。封入体を、8M 尿素、50mM Mes、10mM EDTAおよび0.1mM DTT、pH6.5において可溶化した。封入体を、100mM Tris−HCl、2mM EDTA、0.5M L−アルギニン、1mM 還元型グルタチオンおよび0.1mM 酸化型グルタチオン、pH8において、20時間、4回リフォールディングした。混合物を、その後遠心分離し、Superdex75(Amersham)カラムクロマトグラフィーを用いて精製した。タンパク質を、20mM Tris−HCl、50mM NaCl、pH7で溶出した。IL−22の純度を、図3および図4に示すように、SDS−PAGEによって決定した(>95%)。IL−22タンパク質のアリコートを、−80℃で保存した。
【0022】
例3:マウスにおけるエンドトキシン誘導の敗血症に対するIL−22の保護効果
【0023】
6〜8週齢のメスBalb/cマウスを、1.0mg/mL生理食塩水で調製したリポ多糖(LPS、salmonella abortus-equi(L-5886、Sigma)で処置した。マウスに、10mg/kgの投与量で、0.2mL LPS溶液をi.p.注射した。動物を異なる処置の集団に分け、生存を7日間監視した。>12.0mg/kgのLPSの単回投与によって、48〜72時間で100%の動物が死ぬ結果となった。10mg/kgの単回投与によるLPS投与によって、7日目まで20〜30%の動物が生存する結果となった。
【0024】
マウスの処置を、組み換え型のマウスIL−22の100μg/kgおよび500μg/kgでの連日皮下注射で開始した。コントロールマウスは、担体、0.5%BSAおよび生理食塩水で処置した。結果を図5に示す。コントロールマウス(担体、n=10)は、7日目まで20%が生存していた。100μg/kgおよび500μg/kgでのIL−22の処置によって、有意に動物が生存する結果となった。これら結果は、IL−22が、LPS誘導の敗血症ショックモデルにおいて、顕著にマウスを死から保護することを示す。
【0025】
例4:ラットにおけるエンドトキシン誘導の多臓器不全に対するIL−22の保護効果
【0026】
多臓器不全の動物モデルを、6週齢のオスウィスターラット(Wister rats)へのエンドトキシン(LPS大腸菌;10mg/kg/日、Difco)の連日注射によって確立した。動物を、異なる処置の集団(n=8)に分けた。組み換え型のマウスIL−22を、100、300、および1000μg/kg/日で7日間連日皮下に投与した。コントロール動物には、担体溶液のみ、0.5%BSA PBS、pH7.0を注射した。血清のタンパク質およびアルブミンのレベルを、7日目の処置の終わりに測定した。
【0027】
結果を図6に示す。総タンパク質、アルブミンの血清レベルがコントロール集団で減少し、これらラットが悪液質(cachexia)を患っていることを示す。組み換え型のマウスIL−22で処置した動物は、顕著に改善した血液化学パラメータを有した。これらデータは、IL−22はラットにおいて、エンドトキシン誘導の悪液質によって生じた多臓器不全を保護するのに効果的であることを示す。
【0028】
例5:マウスにおけるLPS/GalN誘導の急性肝不全に対するIL−22の保護効果
【0029】
リポ多糖(LPS、100ng/mL、Sigma、Cat: L2630)およびD−ガラクトサミン(D−GalN、130mg/mL、Sigma、Cat:G1639)を、発熱物質を含まない生理食塩水で調製した。6〜8週のメスBALB/cマウスに、0.1mLのLPSおよび0.1mLのD−GalNを含む0.2mL溶液を腹腔内(i.p.)注射した。20倍を超えるアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)の増加および40倍を超えるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の増加を含む、8時間での血清中の肝臓酵素の急な上昇(コントロール集団と比較して>20倍の増加)によっても明らかなように、マウスへのLPS/GalNの注射は、急性肝不全を誘導した。LPS/GalN抗原投与後24時間で、20%以下のマウスに生存能力があった。
【0030】
マウスの処置を、組み換え型のマウスIL−22の100μg/kgおよび300μg/kgでの皮下注射で開始した。コントロールマウスを、担体、0.5%BSAおよび生理食塩水で処置した。結果を図7に示す。コントロールマウス(担体、n=10)は、16時間目に12.5%が生存していた。100μg/kgおよび300μg/kgのIL−22の処置によって、それぞれ37.5%および62.5%(n=10)が生存する結果となった。これら結果は、IL−22が、主として急性肝不全に起因するLPS/GalN誘導の死からマウスを保護することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬学的有効量のIL−22を投与することを含む、対象における多臓器不全症候群の予防または処置の方法。
【請求項2】
IL−22が、多臓器不全症候群を患う対象において、血清総タンパク質を増加させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
IL−22が、多臓器不全症候群を患う対象において、血清アルブミンを増加させる、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
IL−22が哺乳動物のIL−22である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
IL−22が、組み換え型の哺乳動物のIL−22である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
IL−22の薬学的有効量が、1日につき対象キログラムあたり100〜1000マイクログラムの範囲である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
IL−22の薬学的有効量を投与することを含む、対象における全身性炎症反応症候群の予防または処置の方法。
【請求項8】
IL−22が対象における生存率を増加させる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
IL−22が哺乳動物のIL−22である、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
IL−22が、組み換え型の哺乳動物のIL−22である、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
IL−22の薬学的有効量が、対象キログラムあたり100〜500マイクログラムの範囲である、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
IL−22の薬学的有効量を投与することを含む、対象における肝不全の予防または処置の方法。
【請求項13】
IL−22が、対象における血清のASTおよびALTのレベルを低下させる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
IL−22が哺乳動物のIL−22である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
IL−22が、組み換え型の哺乳動物のIL−22である、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
IL−22の薬学的有効量が、対象キログラムあたり100〜300マイクログラムの範囲である、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−515165(P2012−515165A)
【公表日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−545498(P2011−545498)
【出願日】平成22年1月11日(2010.1.11)
【国際出願番号】PCT/US2010/020673
【国際公開番号】WO2010/081112
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(511168110)ジェネロン(シャンハイ)コーポレーション (1)
【氏名又は名称原語表記】GENERON (SHANGHAI) CORPORATION
【住所又は居所原語表記】Suite 302/303, Building 9, 1011 Ha Lei Road Z. J. Hi−Tech Park, Shanghai, 201203, China
【Fターム(参考)】