説明

多軸ステッチ基材とそれを用いたプリフォーム

【課題】強化繊維基材の製造、カット、樹脂含浸、プリフォーム化等の中間工程において、繊維角度のズレが少ない、コンポジット(FRP)物性に優れた多軸ステッチ基材とそれを用いたプリプレグ等を提供すること。
【解決手段】強化繊維束が平行にシート状に配列された層が2層以上積層され、それらの層がステッチ糸により一体化された多軸ステッチ基材であり、いずれの層も積層角度が0度ではなく、それぞれの層は、50gfの荷重による伸びが10%以下であるステッチ糸を用いてチェーンステッチ(単環縫い)によって拘束されており、且つ、ステッチを形成する1本のステッチ糸が、多軸ステッチ基材1m当たり、特定の長さで使用されている多軸ステッチ基材であり、これとマトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチックは衝撃吸収体として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維束を平行にシート状に配列した多軸ステッチ基材、及び、その多軸ステッチ基材を用いたプリフォーム、並びに、得られた繊維強化プラスチックを用いた衝撃吸収体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維等の強化繊維材料は、各種のマトリックス樹脂と複合化され、得られる繊維強化複合材料(FRP)は、その高い比強度・比弾性率を利用して、航空機や自動車などの構造材料や、テニスラケット、ゴルフシャフト、釣り竿などの一般産業・スポーツ用途などに広く利用されている。
【0003】
FRPの代表的な製造方法として、強化繊維基材に予めマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを用い、このプリプレグを積層毎に強化繊維の配列方向がずれるように積層し、マトリックス樹脂を硬化させるオートクレーブ成形法がある。この他にも、FRPの成形コストを低減させるために、樹脂未含浸の強化繊維基材を積層し、その積層体にマトリックス樹脂を注入し、硬化させる樹脂注入成形法、あるいはマトリックス樹脂のフィルムを積層・含浸させるフィルムインフュージョン成形法(RFI法)等も行われるようになっている。いずれの方法においても、使用される繊維強化材料(強化繊維基材)としては、通常、織編物や多軸織物等が用いられている。
【0004】
近年、積層作業の簡略化を目的とし、高目付繊維シートが用いられるようになった。即ち、強化繊維束を平行にシート状に配列した層を2層以上積層し、それらの層をステッチ糸等により一体化した多軸ステッチ基材である(例えば、特許文献1〜3参照)。かかる多軸ステッチ基材は、従来の織物基材に比べ、強化繊維糸条同士を織り込む手間がないため基材生産性が高く、また、織物基材に見られる強化繊維束のクリンプが無いため、力学的特性や表面品位の向上が期待できる。更に、+45/−45度等任意の方向に積層する事も可能であり、カットと積層作業が大幅に短縮され安価なFRPが得られるという利点もある。特に、近年注目されている炭素繊維強化プラスチックによる衝撃吸収体には、カット時の歩留まりが良く積層時間も短い、+45/−45度方向のステッチ基材多く利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−317371号公報
【特許文献2】特開2006−291369号公報
【特許文献3】特開2007−162151号公報
【0006】
しかしながら、+45/−45度のように0度層を持たない多軸ステッチ基材は、0度方向の引張りに対して変形しやすく、基材の製造、カット、樹脂含浸、プリフォーム化等の中間工程において、繊維の角度ズレが発生しやすいという問題点も併せ持っていた。0度層を持たない多軸ステッチ基材の繊維角度ズレ対策としては、0度方向又は90度方向に炭素繊維やポリアラミド繊維などの補助糸を入れる等の方策が開示されているが(特許文献1)、単環縫いで0度方向の補助糸を固定することは困難であり、また、90度方向に補助糸を入れることによる効果は小さく、繊維ズレを抑制する効果については必ずしも十分ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、強化繊維基材の製造、カット、樹脂含浸、プリフォーム化等の中間工程において、繊維角度ズレが少ない、コンポジット(FRP)物性に優れた0度層を持たない多軸ステッチ基材とそれを用いたプリプレグ等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された、下記の本発明によって達成される。
【0009】
本発明の請求項1に記載された発明は、強化繊維束が平行にシート状に配列された層が2層以上積層され、それらの層がステッチ糸により一体化された多軸ステッチ基材であり、いずれの層も積層角度が0度ではなく、それぞれの層は、50gfの荷重による伸びが10%以下であるステッチ糸を用いてチェーンステッチ(単環縫い)によって拘束されており、且つ、ステッチを形成する1本のステッチ糸が、多軸ステッチ基材1m当たり、下記の式を満足する長さで使用されていることを特徴とする多軸ステッチ基材である。
Ls=(k×M×P/ρ)+300
(上記式中、Lsは多軸ステッチ基材1m当たり使用するステッチ糸の長さ(cm)、kは0.013〜0.039の範囲の定数、Mは強化繊維束からなるシートの目付(g/m)、Pはステッチピッチ(回/cm)、ρは強化繊維の密度(g/cm)である。)
【0010】
本発明において積層角度とは、強化繊維束の繊維軸方向が、積層基材の長さ方向に対して平行の場合を積層角度が0度、直角の場合を+90度又は−90度として定義される。
【0011】
本発明の請求項2に記載された発明は、強化繊維が、炭素繊維又はアラミド繊維であることを特徴とする請求項1記載の多軸ステッチ基材である。
【0012】
本発明の請求項3に記載された発明は、基材の目付が、100〜1,000g/mであることを特徴とする請求項1又は2項記載の多軸ステッチ基材である。
【0013】
本発明の請求項4に記載された発明は、強化繊維束が平行にシート状に配列された層が2層以上積層され、それらの層がステッチ糸により一体化された多軸ステッチ基材であり、いずれの層も積層角度が0度ではなく、それぞれの層は、50gfの荷重による伸びが10%以下であるステッチ糸を用いてチェーンステッチ(単環縫い)によって拘束されており、且つ、ステッチを形成する1本のステッチ糸が、多軸ステッチ基材1m当たり、下記の式を満足する長さで使用されている多軸ステッチ基材を用いたプリフォームである。
Ls=(k×M×P/ρ)+300
(上記式中、Lsは多軸ステッチ基材1m当たり使用するステッチ糸の長さ(cm)、kは0.013〜0.039の範囲の定数、Mは強化繊維束からなるシートの目付(g/m)、Pはステッチピッチ(回/cm)、ρは強化繊維の密度(g/cm)である。)
【0014】
そして、本発明の請求項5に記載された発明は、強化繊維束が平行にシート状に配列された層が2層以上積層され、それらの層がステッチ糸により一体化された多軸ステッチ基材であり、いずれの層も積層角度が0度ではなく、それぞれの層は、50gfの荷重による伸びが10%以下であるステッチ糸を用いてチェーンステッチ(単環縫い)によって拘束されており、且つ、ステッチを形成する1本のステッチ糸が、多軸ステッチ基材1m当たり、下記の式を満足する長さで使用されている多軸ステッチ基材と、マトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチックを用いた衝撃吸収体である。
Ls=(k×M×P/ρ)+300
(上記式中、Lsは多軸ステッチ基材1m当たり使用するステッチ糸の長さ(cm)、kは0.013〜0.039の範囲の定数、Mは強化繊維束からなるシートの目付(g/m)、Pはステッチピッチ(回/cm)、ρは強化繊維の密度(g/cm)である。)
【発明の効果】
【0015】
本発明の多軸ステッチ基材は、基材の製造、カット、樹脂含浸、プリフォーム化等の中間工程において、繊維角度ズレが少なく、取り扱いが容易であるために、効率良く複合材料、即ちFRP成形品を製造するために用いることができる。そして、得られたFRPは、表面に凹凸が無く、表面平滑な成形面を有している。また、均一性や機械的特性にも優れたものが得られる。本発明の多軸ステッチ基材は変形に対して柔軟性があるために、特に、マトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチックは衝撃吸収体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の多軸ステッチ基材の一例を示す(配列+45/−45度方向、ステッチピッチが3回/cm、ステッチの間隔が5mm、多軸ステッチ基材1mあたりのステッチ糸長さが320cmの多軸ステッチ基材)。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般に、一方向に引き揃えた強化繊維の束をシート状にして角度を変えて積層したものを、ナイロン糸、ポリエステル糸、ガラス繊維糸等のステッチ糸で、この積層体の厚さ方向に貫通して、積層体の表面と裏面の間を表面方向に沿って往復しステッチして得られた基材を多軸ステッチ基材という(多軸織物という場合もある)。本発明の多軸ステッチ基材は、強化繊維束が平行にシート状に配列された層が2層以上積層され、それらの層がステッチ糸により一体化された多軸ステッチ基材であって、しかもいずれの層も積層角度が0度ではないものである(積層された強化繊維束の繊維軸方向が、全て、基材の長さ方向に対して平行でないもの)。そして、それぞれの層が、50gfの荷重による伸びが10%以下であるステッチ糸を用いて、チェーンステッチ(単環縫い)によって拘束されていることを特徴とするものである。なお、チェーンステッチ(単環縫い)とは、衣類の裾の仕上げ等に多く見られる、縫い目が鎖状に繋がっている縫製仕様を意味する。
【0018】
本発明においては、前記のような多軸ステッチ基材を作成するに際し、ステッチを形成する1本のステッチ糸が、多軸ステッチ基材1m当たり、下記の式を満足する長さで使用されている必要がある。
Ls=(k×M×P/ρ)+300
(上記式中、Lsは多軸ステッチ基材1m当たり使用するステッチ糸の長さ(cm)、kは0.013〜0.039の範囲の定数、Mは強化繊維束からなるシートの目付(g/m)、Pはステッチピッチ(回/cm)、ρは強化繊維の密度(g/cm)である。)
【0019】
上記式中、k値が0.039を上回る場合、ステッチ糸による拘束が弱く、容易に角度ズレが発生してしまう。また、0.013を下回る場合、ステッチの目はずれが発生し、ステッチ自体が困難となる。また、ステッチは可能であっても、基材に残留応力が残り、繊維の角度ズレが発生してしまう等の欠点がある。また、伸びの大きい糸、即ち、50gfの荷重による伸びが10%を超えるものを使用した場合には、やはりステッチ糸による拘束が弱く、容易に角度ズレが発生してしまう。隣り合うステッチ糸の間隔は特に限定されるものではないが、1〜10mmが好ましく、3〜6mmが特に好ましい。ステッチ糸の種類・材質は、特に制限されるものではなく、例えば、ナイロン糸、ポリエステル糸、ガラス繊維糸、ポリベンゾオキサゾール繊維糸、アラミド繊維糸等が挙げられる。また、これらの材質を組み合わせた芯鞘構造の糸を用いることで、多機能性を持たせることもできる。例えば、中心がポリエステル、外層が低融点ナイロン等の芯鞘構造を持つ糸を用いると、繊維角度ズレを起こさず、かつプリフォーム作製の際に仮止めが可能な基材を得ることができる。
【0020】
多軸ステッチ基材の目付は、100〜1000g/mが好ましく、200〜800g/mがより好ましい。多軸ステッチ基材の1層(1枚)当たりの厚みは、0.1〜2mmが好ましい。 好ましい多軸ステッチ基材の例としては、〔45/−45〕、〔−45/45〕、〔45/−45/−45/45〕、〔45/90/−45〕、〔45/−45/90〕等を挙げることができる。本発明の多軸ステッチ基材は、いずれの層も積層角度が0度ではないので、変形に対して柔軟性があり、かかる多軸ステッチ基材とマトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチックは衝撃吸収体として優れている。
【0021】
本発明において用いられる強化繊維としては、無機繊維、有機繊維、金属繊維又はそれらの混合からなる繊維がある。具体的には、無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維を挙げることが出来る。有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維が挙げられる。好ましいのは、炭素繊維とアラミド繊維である。
【0022】
本発明において、多軸ステッチは、そのままあるいは複数積層して賦形型で賦形してプリフォームとすることができる。あるいは、全体又は部分的にマトリックス樹脂を含浸させてプリプレグとすることもできる。プリフォームの賦形法やプリプレグの製造法は特に限定されるものではない。
【0023】
本発明において用いられるマトリックス樹脂は特に制限されるものではなく、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、芳香族ポリカーボネート、ポリエーテルイミド、ポリアリーレンオキシド、熱可塑性ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、ポリアラミド、ポリベンズイミダゾール等が挙げられる。これらの樹脂は、2種以上併用して用いることもできる。
【0024】
熱硬化性のマトリックス樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルエステル樹脂、シアン酸エステル樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂とシアン酸エステル樹脂の予備重合樹脂、ビスマレイミド樹脂、アセチレン末端を有するポリイミド樹脂及びポリイソイミド樹脂、ナジック酸末端を有するポリイミド樹脂等を挙げることができる。これらは1種又は2種以上の混合物として用いることもできる。プリプレグに占める樹脂組成物の含有率は、10〜90重量%、好ましくは20〜60重量%、更に好ましくは25〜45重量%である。
【0025】
本発明の多軸ステッチ基材は変形に対して柔軟性があるために、多軸ステッチ基材とマトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチック(FRP)は、特に、衝撃吸収体として有用である。繊維強化プラスチックの製造方法は特に限定されるものではなく、例えば、多軸ステッチ基材のプリフォームからRTM成形法で作製してもよく、あるいはプリプレグを用いるオートクレーブ成形法で作製することもできる。FRP中のマトリックス樹脂の含有率は、通常、10〜90重量%、好ましくは30〜70重量%が適当である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明する。実施例においては、多軸ステッチ基材の製造時に、繊維角度測定用として色の異なるトレーサーヤーンを挿入した。繊維角度の測定方法は、以下の通りである。
【0027】
[繊維角度の測定方法]
透明シートに設定角度(±45度等)の直線を描いた冶具を作製し、それを作製された多軸ステッチ基材上に置き、トレーサーヤーンの幅方向の中心点を原点とし、治具を重ね合わせる。この時、冶具の0度方向と、基材の0度方向が平行となる様にする。トレーサーヤーンが冶具の線と重なっていれば、繊維角度のズレは無い。角度ズレがある場合、トレーサーヤーンと冶具の線が重ならない。その場合には、原点を中心に、左右で、トレーサーヤーンが冶具の線より最も離れた2点を取り、座標を読む。そして、この2点を通る直線の傾きを計算することにより、トレーサーヤーンと設定角度とのズレを測定する。
【0028】
[実施例1]
強化繊維として、東邦テナックス社製の“テナックス”(登録商標)HTA−12K(強化繊維密度 1.76g/cm)を用い、+45/−45度方向に1層が200g/mとなるように所定の本数を配し、これをポリエステル糸を用いてチェーンステッチにて縫合した。使用したポリエステル糸の引張り剛性は、50gf荷重時、5%であった。図1に示したように、ステッチピッチが3回/cm、間隔が5mmとなるように調整し、基材1mあたりのステッチ糸長さが320cmとなる様に設定し、多軸ステッチ基材を製作した(このとき、請求項1の式中の定数kは0.03であった)。かかる基材の繊維角度のズレを測定したところ、所定の+45度、−45度に対し、平均約0.4度のズレであった。
【0029】
[実施例2]
強化繊維として、東邦テナックス社製の“テナックス”(登録商標)STS−24K(強化繊維密度 1.77g/cm)を用い、+45/−45/90度方向に1層が100g/mとなるように所定の本数を配し、これをポリエステル糸にて縫合(チェーンステッチ)した。使用したポリエステル糸の引張り剛性は、50gf荷重時、5%であった。ステッチピッチが4回/cm、間隔が5mmとなるように調整し、基材1mあたりのステッチ糸長さが310cmとなる様に設定し、多軸ステッチ基材を製作した。(このとき、請求項1の式中の定数kは0.015であった)。かかる基材の繊維角度を測定したところ、所定の+45度、−45度に対し、平均約0.3度のズレであった。
【0030】
[実施例3]
強化繊維として、東邦テナックス社製の“テナックス”(登録商標)STS−24K(強化繊維密度 1.77g/cm)を用い、+45/−45度方向に1層が200g/mとなるように所定の本数を配し、これをナイロン糸にて縫合した。使用したナイロン糸の引張り剛性は、50gf荷重時、8%であった。ステッチピッチ3回/cm、間隔が3mmとなるように調整し、基材1mあたりのステッチ糸長さが320cmとなる様に設定し、多軸ステッチ基材を製作した。(このとき、請求項1の式中の定数kは0.03であった)。かかる基材の繊維角度を測定したところ、所定の+45度、−45度に対し、平均約0.4度のズレであった。
【0031】
[比較例1]
強化繊維として、東邦テナックス社製の“テナックス”(登録商標)STS−24K(強化繊維密度
77g/cm)を用い、+45/−45度方向に1層が200g/mとなるように所定の本数を配し、これをポリエステル糸にて縫合した。使用したポリエステル糸の引張り剛性は、50gf荷重時、20%であった。ステッチピッチが3回/cm、間隔が3mmとなるように調整し、基材1mあたりのステッチ糸長さが320cmとなる様に設定し、多軸ステッチ基材を製作した。(このとき、請求項1の式中の定数kは0.03であった)。かかる基材の繊維角度を測定したところ、所定の+45度、−45度に対し、平均約1.2度のズレであった。
【0032】
[比較例2]
強化繊維として、東邦テナックス社製の“テナックス”(登録商標)STS−24K(強化繊維密度
77g/cm)を用い、+45/−45度方向に1層が200g/mとなるように所定の本数を配し、これをポリエステル糸にて縫合した。使用したポリエステル糸の引張り剛性は、50gf荷重時、5%であった。ステッチピッチが3回/cm、間隔が3mmとなるように調整し、基材1mあたりのステッチ糸長さが335cmとなる様に設定し、多軸ステッチ基材を製作した。(このとき、請求項1の式中の定数kは0.05であった)。かかる基材の繊維角度を測定したところ、所定の+45度、−45度に対し、平均約1.5度のズレであった。
【0033】
[実施例4]
本発明の多軸ステッチ基材を用いたプリプレグを、以下の様にして作製した。エポキシ樹脂組成物を、ナイフコーターを用いて、単位面積あたりの所定の重量となるように離型紙上でフィルム化し、樹脂フィルムを作製した。所定の強化繊維基材の上下両面に上記樹脂フィルムを重ね、所定温度に加熱したプレスで、面圧0.1MPaで1分間加圧し、プリプレグを得た。
【0034】
使用したエポキシ樹脂組成物としては、成分(A)として、EPN−1138(フェノールノボラック樹脂
[旭化成エポキシ社製]:25℃の粘度 1,000Pa・s)を62重量部と、成分(B)として、EP−1002(ビスフェノールA型エポキシ樹脂 [ジャパンエポキシレジン社製]:固体)38重量部、成分(C)として、ジシアンジアミドを5重量部、硬化促進剤(D)として3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチルユリアを3重量部用い、成分(A)と(B)の混合物を120℃で加熱溶解後、70℃まで室温で冷却し、成分(C)並びに(D)を加え混練したものを用いた。
【0035】
実施例1に記載の多軸ステッチ基材の上面及び下面に、前記で得られた重量110g/m2の樹脂フィルムを用い、樹脂脂含有率36重量%のプリプレグを作製した。得られたプリプレグの繊維角度を測定したところ、所定の+45度、−45度に対し、平均約0.5度のズレであった。
【0036】
[実施例5]
実施例2に記載の多軸ステッチ基材の上面及び下面に、前記のとおりにして得られた重量90g/m2の樹脂フィルムを用い、樹脂脂含有率38重量%のプリプレグを作製した。得られたプリプレグの繊維角度を測定したところ、所定の+45度、−45度に対し、平均約0.4度のズレであった。
【0037】
[実施例6]
実施例3に記載の多軸ステッチ基材の上面及び下面に、前記のとおりにして得られた重量135g/m2の樹脂フィルムを用い、樹脂脂含有率40重量%のプリプレグを作製した。得られたプリプレグの繊維角度を測定したところ、所定の+45度、−45度に対し、平均約0.5度のズレであった。
【0038】
[比較例3]
比較例1に記載の多軸ステッチ基材の上面及び下面に、前記のとおりにして得られた重量110g/m2の樹脂フィルムを用い、樹脂脂含有率36重量%のプリプレグを作製した。得られたプリプレグの繊維角度を測定したところ、所定の+45度、−45度に対し、平均約2.3度のズレであった。
【0039】
[比較例4]
比較例2に記載の多軸ステッチ基材の上面及び下面に、前記のとおりにして得られた重量110g/m2の樹脂フィルムを用い、樹脂脂含有率36重量%のプリプレグを作製した。得られたプリプレグの繊維角度を測定したところ、所定の+45度、−45度に対し、平均約2.0度のズレであった。
【0040】
[実施例7]
実施例4に記載のプリプレグを用い、4ply(45/−45/45/−45/−45/45/−45/45)を積層した後、オートクレーブにてコンポジット平板を作製した。平板表面の繊維角度を測定したところ、所定の+45度に対し、平均約0.5度のズレであった。長手方向が繊維と平行になる様に試験片を切り出し、引張り試験を行った。
【0041】
[実施例8]
実施例5に記載のプリプレグを用い、6ply(45/−45/90/45/−45/90/45/−45/90/90/−45/45/90/−45/45/90/−45/45)を積層した後、オートクレーブにてコンポジット平板を作製した。平板表面の繊維角度を測定したところ、所定の+45度に対し、平均約0.4度のズレであった。
【0042】
[実施例9]
実施例6に記載のプリプレグを用い、4ply(45/−45/45/−45/−45/45/−45/45)を積層した後、オートクレーブにてコンポジット平板を作製した。平板表面の繊維角度を測定したところ、所定の+45度に対し、平均約0.5度のズレであった。長手方向が繊維と平行になる様に試験片を切り出し、引張り試験を行った。引張り強度は実施例7と差異が見られなかった。
【0043】
[比較例5]
比較例3に記載のプリプレグを用い、実施例7と同様にコンポジット平板を作製した。平板表面の繊維角度を測定したところ、所定の+45度に対し、平均約2.3度のズレであった。長手方向が繊維と平行になる様に試験片を切り出し、引張り試験を行った。実施例7と比較し、引張り強度が約25%低下した。
【0044】
[比較例6]
比較例4に記載のプリプレグを用い、実施例4と同様にコンポジット平板を作製した。平板表面の繊維角度を測定したところ、所定の+45度に対し、平均約2.0度のズレであった。長手方向が繊維と平行になる様に試験片を切り出し、引張り試験を行った。実施例7と比較し、引張り強度が約20%低下した。
【0045】
[実施例10]
実施例と比較例のプリプレグを用いて、衝撃吸収部材を以下の方法で作製した。成形方法として、シートワインディング法を用い、直径50mm、長さ800mm、厚さ2.6mmの円筒状の部材を製作した。作製した部材を、120℃にて2時間加熱することにより、衝撃吸収部材としてのコンポジットを得た。なお、積層方向は、実施例4〜6で得られたプリプレグを用い、プリプレグの0度方向が長さ方向となるように積層した。
【0046】
実施例4に記載のプリプレグを用い、衝撃吸収部材を製作した。この繊維角度を測定したところ、所定の+45度に対し、平均約0.6度のズレであった。
【0047】
[実施例11]
実施例5に記載のプリプレグを用い、前記と同様にして衝撃吸収部材を製作した。この繊維角度を測定したところ、所定の+45度に対し、平均約0.5度のズレであった。
【0048】
[実施例12]
実施例6に記載のプリプレグを用い、前記と同様にして衝撃吸収部材を製作した。この繊維角度を測定したところ、所定の+45度に対し、平均約0.5度のズレであった。
【0049】
[比較例7]
比較例3に記載のプリプレグを用い、前記と同様にして衝撃吸収部材を製作した。この繊維角度を測定したところ、所定の+45度に対し、平均約2.5度のズレであった。
【0050】
[比較例8]
比較例4に記載のプリプレグを用い、前記と同様にして衝撃吸収部材を製作した。この繊維角度を測定したところ、所定の+45度に対し、平均約2.1度のズレであった。
【0051】
実施例10〜12及び比較例7、8より得られた衝撃吸収部材を用いて、万能試験機により衝撃吸収試験を行った。クロスヘッドでの荷重―変位を測定したところ、何れの試験体も吸収エネルギーに大きな差異は見られなかったが、結果のバラつきに差が見られ、比較例7、8と比較し、実施例10〜12のバラつきが少なかく、n=5の試験に対し、CV値が約半減した(CV値=標準偏差/平均値×100)。また、実施例10〜12の方が、荷重―変位線図の荷重の変動幅が小さくなった。これは、実施例10〜12の方が、材料中の繊維角度が均一になったことによる、応力集中の緩和が大きいためであると考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維束が平行にシート状に配列された層が2層以上積層され、それらの層がステッチ糸により一体化された多軸ステッチ基材であり、いずれの層も積層角度が0度ではなく、それぞれの層は、50gfの荷重による伸びが10%以下であるステッチ糸を用いてチェーンステッチ(単環縫い)によって拘束されており、且つ、ステッチを形成する1本のステッチ糸が、多軸ステッチ基材1m当たり、下記の式を満足する長さで使用されていることを特徴とする多軸ステッチ基材。
Ls=(k×M×P/ρ)+300
(上記式中、Lsは多軸ステッチ基材1m当たり使用するステッチ糸の長さ(cm)、kは0.013〜0.039の範囲の定数、Mは強化繊維束からなるシートの目付(g/m)、Pはステッチピッチ(回/cm)、ρは強化繊維の密度(g/cm)である。)
【請求項2】
強化繊維が、炭素繊維又はアラミド繊維であることを特徴とする請求項1記載の多軸ステッチ基材。
【請求項3】
基材の目付が、100〜1,000g/mであることを特徴とする請求項1又は2記載の多軸ステッチ基材。
【請求項4】
強化繊維束が平行にシート状に配列された層が2層以上積層され、それらの層がステッチ糸により一体化された多軸ステッチ基材であり、いずれの層も積層角度が0度ではなく、それぞれの層は、50gfの荷重による伸びが10%以下であるステッチ糸を用いてチェーンステッチ(単環縫い)によって拘束されており、且つ、ステッチを形成する1本のステッチ糸が、多軸ステッチ基材1m当たり、下記の式を満足する長さで使用されている多軸ステッチ基材を用いたプリフォーム。
Ls=(k×M×P/ρ)+300
(上記式中、Lsは多軸ステッチ基材1m当たり使用するステッチ糸の長さ(cm)、kは0.013〜0.039の範囲の定数、Mは強化繊維束からなるシートの目付(g/m)、Pはステッチピッチ(回/cm)、ρは強化繊維の密度(g/cm)である。)
【請求項5】
強化繊維束が平行にシート状に配列された層が2層以上積層され、それらの層がステッチ糸により一体化された多軸ステッチ基材であり、いずれの層も積層角度が0度ではなく、それぞれの層は、50gfの荷重による伸びが10%以下であるステッチ糸を用いてチェーンステッチ(単環縫い)によって拘束されており、且つ、ステッチを形成する1本のステッチ糸が、多軸ステッチ基材1m当たり、下記の式を満足する長さで使用されている多軸ステッチ基材と、マトリックス樹脂とからなる繊維強化プラスチックを用いた衝撃吸収体。
Ls=(k×M×P/ρ)+300
(上記式中、Lsは多軸ステッチ基材1m当たり使用するステッチ糸の長さ(cm)、kは0.013〜0.039の範囲の定数、Mは強化繊維束からなるシートの目付(g/m)、Pはステッチピッチ(回/cm)、ρは強化繊維の密度(g/cm)である。)


【図1】
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【公開番号】特開2010−196176(P2010−196176A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38704(P2009−38704)
【出願日】平成21年2月21日(2009.2.21)
【出願人】(000003090)東邦テナックス株式会社 (246)
【Fターム(参考)】