説明

多軸基材の製造方法

【課題】多糸条のたて糸またはよこ糸の糸条幅を制御して、強化用の繊維糸条間に隙間を形成させることなくたて糸シートを挿入・積層して、交差積層できる安価な多軸基材の製造方法を提供する。
【解決手段】多数本の糸条がシート状に配列されて層を構成し、該層の少なくとも2層以上が糸条が交差するように積層体を構成し、一体化される多軸基材の製造方法において、下記の工程を経ることを特徴とする多軸基材の製造方法。(A)繊維糸条を、ボビン群から一定速度で横取り解舒するたて糸解舒工程、(B)解舒された複数のたて糸を、ボビン上の繊維糸条幅よりも大きい糸条幅に開繊しながら引き揃えるたて糸引出工程、(C)引出されたたて糸の糸条幅を実質的に同一に規制しながら糸シートの層を形成するたて糸シート形成工程、(D)形成されたたて糸シートの層を積層ローラを介して積層体に実質的に接触させながら交差積層するたて糸シート積層工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維補強複合材料の強化繊維布帛として好適に使用される多軸基材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維などの強化繊維を用いた複合材料は、その優れた力学特性や軽量化効果などから、航空機をはじめ、船舶およびスポーツ・レジャー用途など様々な用途に使用されている。これらの複合材料においては、より均質な構成にするために、強化繊維糸条からなるシート状物を、通常は、例えば、0°、±α°、90°のような方向にずらして交差積層して用いられる。しかしながら、シート状物として通常の二方向性織物を使用すると、繊維の配列方向が0°(経方向)と90°(緯方向)の二方向にのみしか配列していないことから、例えば、±45°などの方向については、織物を45°の方向に裁断して使用せざるを得なく、材料のロスが大きくなることや積層に時間がかかるという問題があった。
【0003】
上記課題に対して、シート状物の長手方向、幅方向および斜め方向にそれぞれ強化繊維糸条を並行に配列し、これらの積層体をステッチして一体化した多軸ステッチ基材が提案されている。かかる多軸ステッチ基材においては、一枚の材料で多方向の積層構成が得られることから、材料のカットロスの削減や積層作業の軽減が可能となった。
【0004】
かかる多軸ステッチ基材の製造においては、クリールから強化繊維糸条を複数本引き出して引き揃えてたて糸シート(0°方向、基材の長手方向)の層として挿入して積層し積層体を得る工程を経る。特に、一層当たりの強化繊維の目付が50〜150g/mと低目付の層を形成する場合、ボビンから解舒した繊維糸条を、如何に糸条幅が狭まらないように引き揃えてたて糸シート化し、挿入して積層するかが重要となる。すなわち、繊維糸条幅が狭まってしまうと、繊維糸条間の隙間(ギャップ)の大きい不均一な材料しか得られないという問題があった。強化繊維基材におけるギャップは、それを複合材料に成形した場合、含浸された樹脂リッチ部分を形成して、応力集中が生じた場合に破壊の起点になりやすくなる。また、硬化収縮によりこの部分が凹んでしまい、表面凹凸が大きくなるという問題を引き起こしていた。
【0005】
この課題を解決すべく、ヤーンはトウを横取解舒して予備延伸(開繊)し、0°方向のシートを挿入する方法(特許文献1参照)や、トウを縦取解舒して開繊し、シート化して一旦巻き取り、かかるシートをたて方向やその他のよこ方向に挿入し積層する方法(特許文献2および特許文献3参照)が提案されている。しかしながら、特許文献1、2および3で提案の方法では、単にトウを開繊する処理のみで、その後に各トウの幅を規制する処理は行なわれていない。このような方法では、個々に拡がり性にばらつきを有しているトウのそれぞれを、所望の糸条幅に均一に制御することができないという問題があり、また、各トウの位置が正確に決められないため、シートにおける目付および厚みのバラツキが大きくなるという問題を有していた。
【0006】
また、特許文献1においては、たて糸(0°方向)シートを、最外層以外の中間部分に配置する方法やその手段、鏡面対称の積層については何ら教えていない。特許文献2と3においては、たて糸(0°方向)シートを最外層以外に配置する記載はあるが、その具体的な方法やその手段について何ら教えていないだけでなく、トウをシート化して一旦巻き取って部分整経した後に挿入し積層するため、余分な工程が増えるという問題があった。すなわち、トウから直接、たて糸シートを挿入し積層する方法やその手段については、何ら教えていない。
【0007】
また別に、強化繊維糸条を8層で鏡面対称で積層する旨の提案がある(特許文献4参照)。しかしながら、この提案では、最外層のみにしか0°方向シートは挿入されておらず、それ以外の積層体の中間部分に0°方向シートを挿入することの提案がないだけでなく、挿入・積層方法やその手段についても何ら教えていない。積層体の中間部分にたて糸(0°方向)シートを配置することができないと、鏡面対称積層を前提とした場合、その積層構成に極めて大きな制約を受け、設計の自由度を著しく損なう問題があった。すなわち、複合材料の力学特性を最大限に発現させるためには、たて糸シートの層を複数積層することが重要となるが、その構成が採用できないという問題があった。
多糸条のたて糸の糸条幅を制御して、強化繊維同士の間に隙間(ギャップ)を形成させることなくたて糸シートの層を挿入(特に基材の最外層以外に挿入)・積層して、交差積層(特に、鏡面対称積層)できる安価な多軸基材の製造方法は見出されておらず、かかる課題を解決できる技術が渇望されていた。
【特許文献1】特表2004−521197号公報
【特許文献2】特表2001−516406号公報
【特許文献3】国際公開特許WO98/10128号パンフレット
【特許文献4】国際公開特許WO01/63033号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記課題を解決すること、すなわち、多糸条のたて糸シートの繊維糸条幅を制御して、繊維糸条同士の間に隙間(ギャップ)を形成させることなくたて糸シートの層を挿入、特に好適には基材の最外層以外の層に挿入して、交差積層、特に好適には鏡面対称積層できる、安価な多軸基材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、かかる課題を解決するために次のような手段を採用するものである。すなわち、本発明の多軸基材の製造方法は、多数本の繊維糸条が並行にシート状に配列されて層を構成し、該層の少なくとも2層以上が繊維糸条が交差するように積層されて積層体を構成し、該積層体が一体化されてなる多軸基材の製造方法において、該多軸基材を構成するたて糸シートの層を形成して該層を交差積層する際に、下記の(A)、(B)、(C)および(D)の工程を経ることを特徴とする多軸基材の製造方法である。
(A)繊維糸条を、ボビン群から実質的に一定速度で横取り解舒するたて糸解舒工程、
(B)解舒された複数のたて糸を、それぞれボビン上の繊維糸条幅よりも大きい糸条幅に開繊しながら引き揃えるたて糸引出工程、
(C)引出されたそれぞれのたて糸の糸条幅を実質的に同一に規制しながら引き揃えてたて糸シートの層を形成するたて糸シート形成工程、
(D)形成されたたて糸シートの層を積層ローラを介して積層体に実質的に接触させながら交差積層するたて糸シート積層工程。
【0010】
本発明の多軸基材の製造方法の好ましい態様によれば、多軸基材を構成するよこ糸シートの層を形成して該層を交差積層する際に、下記の(H)、(I)、(J)および(K)の工程を経ることができる。
(H)繊維糸条を、ボビン群から実質的に一定速度で横取り解舒するよこ糸解舒工程、
(I)解舒された複数のよこ糸を、それぞれボビン上の繊維糸条幅よりも大きい糸条幅に開繊しながら引き揃えるよこ糸引出工程、
(J)引出されたそれぞれのよこ糸の糸条幅を実質的に同一に規制しながら引き揃えてよこ糸シートの層を形成するよこ糸シート形成工程、
(K)形成されたよこ糸シートの層を交差積層するよこ糸シート積層工程。
【0011】
また、本発明の多軸基材の製造方法の好ましい態様によれば、前記の(D)のたて糸シート積層工程もしくは(K)のよこ糸シート積層工程と、同時またはそれ以降に、下記の(E)、(F)および(G)の工程を通過させることができる。
(E)交差積層される各層または交差積層された各層を、一体化される箇所まで、各層の全幅の半分以上の幅を有する搬送手段で搬送する搬送工程、
(F)交差積層された各層を一体化手段にて一体化する一体化工程、
(G)一体化された多軸基材を、直径75〜400mmのコアに巻き取る巻取工程。
【0012】
本発明の多軸基材の製造方法はまた、次の好ましい態様を含むものである。
【0013】
[1]前記(E)の搬送工程において、交差積層された各層のうち最外層に配置されているたて糸シートを、該たて糸シートを構成している複数のたて糸に分割してそれぞれの配列位置を決め、それらを引き揃えて再度たて糸シートを形成して、複数のローラで構成されるローラ群を通過させること。
【0014】
[2]前記(C)のたて糸シート形成工程と前記(D)のたて糸シート積層工程とが連続的に行われ、両工程間にたて糸シートを一旦巻き取る工程が含まれないこと。
【0015】
[3]前記(A)のたて糸解舒工程において、積層体を一体化する一体化手段が配置されているフロアと、複数のたて糸を引き出すクリールが配置されているフロアとが異なるフロアであること。
【0016】
[4]前記(A)のたて糸解舒工程において、複数のたて糸を引き出すクリール、および、積層体を搬送する搬送手段を平面からみた場合、それぞれの中心が実質的に同一線上に配置されていること。
【0017】
[5]前記(B)のたて糸引出工程において、複数のたて糸を、温度50〜250℃の範囲の雰囲気下で複数のローラで構成されるローラ群を通過させるか、および/または、温度50〜250℃の範囲の加熱されているローラを少なくとも含む複数のローラで構成されるローラ群を通過させて、開繊すること。
【0018】
[6]前記ローラ群が、その軸方向に揺動している揺動ローラと、揺動していない非揺動ローラとの組み合わせで構成されていること。
【0019】
[7]前記(C)のたて糸シート形成工程におけるたて糸の糸条幅を規制する手段、または、(E)の搬送工程におけるたて糸の配列位置を決める手段が、たて糸を所定の寸法に規制するガイドであること。
【0020】
[8](C)のたて糸シート形成工程におけるたて糸の糸条幅の規制を、接触角度90°以上で接触させるローラ全ての直前に配置すること。
【0021】
[9]前記ガイドが、所定の寸法の溝を設けた溝付ローラ、筬もしくはそれらの組み合わせであること。
【0022】
[10]前記(C)のたて糸シート形成工程におけるたて糸の糸条幅の規制を、少なくとも2本のローラを隣り合う緯糸を交互に互い違いに通過させることにより行うこと。
【0023】
[11]前記(D)のたて糸シート積層工程におけるたて糸シートを送り出す送出手段が、少なくとも、駆動ローラおよびニップローラから構成される送出ローラ、ならびに該送出ローラとクリールとの間に配置される自由回転ローラで構成され、かつ、該自由回転ローラの少なくとも1つにおけるたて糸の接触角度が90°未満であること。
【0024】
[12]前記層の積層数が5〜12層であり、かつ、各層が鏡面対象に交差積層されて積層体を構成していること。
【0025】
[13]前記積層体の最外層以外の層に、多軸基材の長手方向と平行な角度(0°)に繊維糸条が配列されていること。
【0026】
[14](F)の一体化工程における一体化手段が、ステッチ糸条で一体化されていること。
【0027】
[15]ステッチ糸条にて一体化するステッチ手段において、ステッチコームが多軸基材の全幅に渡って面状体のカバーを有すること。
【0028】
[16](F)の一体化工程における一体化手段が、積層体の層間および表面に配置された樹脂材料にて一体化されていること。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、繊維糸条から構成される多糸条のたて糸またはよこ糸を、撚りが入ることなく引き揃え、繊維糸条の糸条幅を規定しながらたて糸を並行に配してシート化し、直接挿入・積層することができることから、一層当たりの繊維糸条の目付が低目付であっても繊維糸条同士の間に隙間(ギャップ)が形成されず、高い積層構成の自由度を有した多軸基材を得ることができる。かかる多軸基材を用いると、表面品位、力学特性、その耐久性および品質安定性に優れた複合材料を安価に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の多軸基材の製造方法は、多数本の繊維糸条が並行にシート状に配列されて層を構成し、該層の少なくとも2層以上が繊維糸条が交差するように積層されて積層体を構成し、該積層体が一体化されてなる多軸基材の製造方法において、該多軸基材を構成するたて糸シートの層を形成して該層を挿入し交差積層する際に、下記の(A)、(B)、(C)および(D)の工程を経るものである。
(A)繊維糸条を、ボビン群から実質的に一定速度で横取り解舒するたて糸解舒工程、
(B)解舒された複数のたて糸を、それぞれボビン上の繊維糸条幅よりも大きい糸条幅に開繊しながら引き揃えるたて糸引出工程、
(C)引出されたそれぞれのたて糸の糸条幅を実質的に同一に規制しながら引き揃えてたて糸シートの層を形成するたて糸シート形成工程、
(D)形成されたたて糸シートの層を積層ローラを介して積層体に実質的に接触させながら交差積層するたて糸シート積層工程。
【0031】
本発明の多軸基材の製造方法では、多軸基材を構成するよこ糸シートの層を形成して該層を交差積層する際に、下記の(H)、(I)、(J)および(K)の工程を経ることができる。
(H)繊維糸条を、ボビン群から実質的に一定速度で横取り解舒するよこ糸解舒工程、
(I)解舒された複数のよこ糸を、それぞれボビン上の繊維糸条幅よりも大きい糸条幅に開繊しながら引き揃えるよこ糸引出工程、
(J)引出されたそれぞれのよこ糸の糸条幅を実質的に同一に規制しながら引き揃えてよこ糸シートの層を形成するよこ糸シート形成工程、
(K)形成されたよこ糸シートの層を交差積層するよこ糸シート積層工程。
【0032】
本発明の多軸基材の製造方法では、上記(D)のたて糸シート積層工程もしくは(K)のよこ糸シート積層工程と、同時またはそれ以降に、次の(E)、(F)および(G)の工程を通過させることができる。
(E)交差積層される各層または交差積層された各層を、ステッチ糸条で一体化される箇所まで、各層の全幅の半分以上の幅を有する搬送手段で搬送する搬送工程、
(F)交差積層された各層を一体化手段にて一体化する一体化工程、
(G)一体化された多軸基材を、直径75〜400mmのコアに巻き取る巻取工程。
【0033】
次に、本発明の多軸基材の製造方法を、図面に基づいて説明する。図1は、本発明の多軸基材を製造する製造工程と装置の一例を示す概略側断面図であり、図2は、本発明の多軸基材を製造する装置の一例を示す概略平面図である。
図1において、本発明に係る多軸基材saは、たて方向(基材の長手方向、0°方向)の強化用の繊維糸条(たて糸群0)が並行に配列したたて糸シートs1、s3またはs5を含む少なくとも2つ以上の層が、交差積層されて積層体を構成し、搬送手段bcにより搬送されて一体化手段stにて、一体化されたものである。
一体化された多軸基材saは、巻取手段wdにより巻物状物ptとして巻き取られてもよい。たて糸シートs3、s5は、たて糸シート挿入手段wa1などによって挿入し積層される。多軸基材には、たて糸シート以外にもよこ糸シートs2、s4などが積層され、よこ糸シートは、よこ糸シート挿入手段we1、we2などによって挿入し積層される。
【0034】
以下、本発明における、たて糸シートの形成と挿入・積層における(A)たて糸解舒工程、(B)たて糸引出工程、(C)たて糸シート形成工程、(D)たて糸シート積層工程、および、よこ糸シートの形成と挿入・積層における(H)よこ糸解舒工程、(I)よこ糸引出工程、(J)よこ糸シート形成工程、(K)よこ糸シート積層工程、ならびに、積層体の一体化工程と多軸基材の巻き取りにおける(E)搬送工程、(F)一体化工程、(G)巻取工程、の各工程について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0035】
(A)たて糸解舒工程
本工程では、たて糸クリールclに配置された繊維糸条を、巻回したボビンbb群から実質的に一定速度で横取り解舒する。実質的に一定速度とは、繊維糸条をボビンbb群からの解舒する際に、設定した解舒速度の±10%の範囲内の速度を指す。
【0036】
たて糸クリールclに配置された繊維糸条を実質的に一定速度で横取り解舒し、たて糸群0を送り出す送出手段としては、詳細は後述するが、例えば、一定速度で駆動する駆動ローラd0、d1、d2にて、ボビン群bbから繊維糸条を解舒するものが挙げられる。駆動ローラd2は、解舒される繊維糸条の速度を更に安定させるために、ニップローラn1と組み合わせて用いてもよいし、たて糸群0の緩みを抑制するために、ダンサーローラ(図示せず)などの張力調整手段を組み合わせて用いてもよい。
また、図示していないが、ボビンbb群を保持するボビンホルダーの軸自体を、駆動モータにて一定速度で回転させる手段によっても、繊維糸条を実質的に一定速度で横取り解舒することができるが、ボビン数が多くなると必要な駆動モータ数も多くなるため、この手段は特にボビン数が少ない場合に適する。
本工程におけるたて糸群0の繊維糸条の横取り解舒では、ボビンbb群にコンタクトローラct1を接触させつつ、繊維糸条であるたて糸群0を解舒することが好ましい。コンタクトローラct1により、解舒時に繊維糸条に撚りが確実に入らないようにすることができる。特に、扁平状の繊維糸条の場合には仮撚が混入し易いが、コンタクトローラct1を用いることにより、仮撚が繊維糸条に混入することを最小限に抑制することができ、たて糸シート内にギャップ(糸条間の隙間)が形成されることを防止することができる。
ここで、ボビンbb群にコンタクトローラct1を接触させつつ、繊維糸条を解舒すると、より安定して糸条幅の変動や仮撚の混入を防止することができる。本発明では繊維糸条を横取り解舒するため、繊維糸条が縦取り解舒される場合に生じるボビン1周分の糸長に1回の撚りが入ることもない。これにより、たて糸群0の糸条幅が安定して保持することができる。コンタクトローラct1は、コンタクトローラct1自体の自重または弾性機構でボビンbbに対して巻き径が変化しても追従できるような機構にしておくと、定常的に同じ線圧でボビンbbに押さえつけることができ、より一層高い効果を奏することができる。
本工程において、少なくとも積層体の最外層以外の層に、多軸基材のたて方向に繊維糸条が配列されている多軸基材を製造する場合、積層体を一体化する一体化手段stが配置されているフロアf1と、たて糸クリールclの少なくとも1つが配置されているフロアf2とが、異なるフロアであることが好ましい。具体的には、たて糸群0がたて糸シート挿入手段wa1まで導かれる糸道の長さを最小限に抑えるようなフロア構成、すなわち、一体化手段stが配置されているフロアf1よりも高いフロアf2(または低いフロア(図示せず))に、たて糸クリールclの少なくとも1つを配置することが好ましい。これらを同じフロアに配置すると、たて糸群0を長い糸道を経てたて糸シート挿入手段wa1まで導かなければならないため、たて糸条幅の変動や仮撚混入の可能性が大きくなる。すなわち、かかる糸道の長さを最小限に抑えることにより、たて糸条幅の制御や、仮撚混入を最小限に抑制することが可能となるのである。
【0037】
更に、本工程において、図2に示すとおり、複数のたて糸を引き出すたて糸クリールcl、および、積層体を搬送する搬送手段bcを平面からみた場合のそれぞれの中心が、実質的に同一線上に配置されていることが好ましい。このような配置にすると、たて糸群0の糸道の長さを最小限に抑えることにより、たて糸条幅の制御や仮撚混入を最小限に抑制することができ、本発明の効果を確実に発現することができる。クリールclと搬送手段bcとが同一線上を外れて配置されると、クリール両端部に配置されているボビンbbの間で糸道の長さが異なり、均一に繊維糸条長さが揃ったたて糸シートが得られず、力学特性に劣る多軸基材しか得られない場合がある。
【0038】
上記線上に。一体化手段st、および、巻取手段wdを平面からみた場合のそれぞれの中心が配置されているのが好ましい。このように配置することにより、上記効果がより一層高く発現させることができる。
【0039】
なお、(H)のよこ糸解舒工程においては、(A)のたて糸解舒工程におけるたて糸をよこ糸に置き換えればよい。但し、(A)のたて糸解舒工程では、多軸基材の全幅を構成するのに必要なボビンbb群がたて糸クリールclに配置しているが、(H)のよこ糸解舒工程では多軸基材の全幅を構成するボビン数は必要なく、生産性を損なわないレベル(例えば、5〜50cm幅)のよこ糸シート幅を構成するのに必要なボビン数を用意すればよい。
【0040】
(B)たて糸引出工程
本工程では、解舒された複数のたて糸群0を、それぞれボビン上の糸条幅よりも大きい糸条幅に開繊しながら引き揃える。たて糸群0のそれぞれを開繊することによって、多糸条を引き揃えてたて糸シート化する際に並行する糸条間の隙間が形成されずに、たて糸挿入後にギャップの発生のない層を形成させることができるのである。
【0041】
たて糸群0それぞれの糸条幅を開繊する開繊手段sp1、sp2としては、例えば、ローラr0、r1、r2群に、たて糸群0を通過させるものが挙げられる。かかるローラ群について、ローラr1はその軸方向に揺動する揺動ローラとし、その前後のローラr0、r2は揺動しない非揺動ローラとすると、より幅広く開繊することができることができるため、本発明における好ましい態様といえる。前記揺動ローラは、自由回転でき、かつ、接触面積を減じたローラ(ラダーローラ、彫刻ローラ、それに類するローラなど)が好ましく用いられる。かかる観点から、揺動ローラへのたて糸群0の接触角度は90°未満であることが好ましい。一方、前記非揺動ローラは、自由回転でき、かつ、接触面積を減じていない通常の円形ローラが好ましく用いられる。ここで、上記ローラ群の表面は、繊維糸条の毛羽発生を抑制する観点から、その表面は梨地加工などを施して繊維糸条との摩擦係数を小さくしたものであることが好ましい。
たて糸群0を開繊手段sp1に通過させるとき、隣り合うたて糸同士を交互に異なるローラr1、r1’にそれぞれ通過させ、シート化前の部分たて糸シート1を形成させると、隣り合うたて糸同士が開繊したときに、それぞれ干渉せずに最大限に開繊できる。繊維糸条の位置決めを行うために、リードl0を用いてもよい。
【0042】
また、前記ローラr0、r1、r2群が、温度50〜250℃の範囲の温度に加熱されているか、および/または、かかる温度範囲の雰囲気下で繊維糸条を前記ローラr0、r1、r2群に擦過させることが好ましい。かかる温度範囲にすることによって、繊維糸条に付着しているサイジング剤を軟化させることができ、ボビン上での糸条幅が狭い繊維糸条であっても容易に拡幅が可能となり、たて糸シート化する際にギャップの発生をなくすることができる。前記のたて糸解舒工程において、ボビンbbから解舒する際にたて糸である繊維糸条を50〜250℃の範囲に加熱することによっても、同様の開繊効果を得ることができる。50℃より低いと拡幅する効果が低く、250度を超えるとサイジング剤を劣化させる場合がある。
【0043】
(I)のよこ糸引出工程においては、(B)のたて糸引出工程におけるたて糸をよこ糸に置き換えればよい。
【0044】
(C)たて糸シート形成工程
本工程では、前記(B)のたて糸引出工程で、ボビン上の糸条幅よりも大きい糸条幅に開繊されたそれぞれの繊維糸条を、糸条幅を実質的に同一に規制しながら引き揃えてたて糸シートを形成する。本発明は、前記(B)のたて糸引出工程で、たて糸群0のそれぞれをボビン上の糸条幅より大きい糸条幅に一旦開繊した後に、本工程で糸条幅を規制(狭幅化)して、たて糸シート化するところに大きな特徴を有する。すなわち、前記(B)のたて糸引出工程と本工程(C)のたて糸シート形成工程とが組み合わされることにより、糸条幅を容易にかつ正確に安定して制御することができ、本発明の効果を奏することができるのである。糸条幅を実質的に同一に規制するとは、それぞれの繊維糸条を設定した糸条幅の±10%の範囲内に規制することを指す。
たて糸群0それぞれの糸条幅を狭幅化する規制手段としては、所定の寸法の規制ガイドに繊維糸条を通過させるものであると、正確に糸条幅が制御できる。かかる規制手段としては、例えば、リード(筬)l1、l2、13、14にたて糸群0を通過させるものが挙げられる。かかるリードl1、l2、13、14は、正確に糸条幅を規制するために複数箇所に設けることが好ましい。特に複数のリードを用いる場合は、クリール側(上流側)における規制幅を、巻取側(下流側)における規制幅の100〜150%に規制することが好ましい。規制幅は、より好ましくは103〜130%であり、更に好ましくは105〜110%である。上記態様のように、段階的に規制していくことにより、更に正確に糸条幅を規制することができる。
【0045】
リードl1、l2、13、14を配置する位置としては、少なくとも、後述の(D)たて糸積層工程におけるコンタクトローラの直前であると、より正確に規制することができる。より好ましくは、リードl1、l2、13、14をローラd1、d2など、接触角度90°以上で接触させるローラ全ての直前に配置する。特に、接触角度90°以上で接触させるローラは、たて糸とローラとの間で滑りが発生し難くいため、本来配列すべき位置でローラに接触してしまうと、ローラ上でたて糸の斜行を誘発し易く、複数のたて糸同士で糸長差が発生してしまう。かかる糸長差は、たて糸シートにおける局所的な弛みなどの原因となり得るため、品位の高い多軸基材が得られ難くなる。上記理由から、接触させるローラ全ての直前にリードl1、l2、13、14を配置することがとりわけ好ましい態様である。
【0046】
繊維糸条を通過させる規制手段としては、所定の寸法を有している規制ガイドであれば特に制約はない(例えば、リードなど。)。それぞれの繊維糸条の糸条幅は、規制ガイドの位置、間隔およびセパレーター部(筬羽)厚みなどを調整することにより制御することができる。このように糸条幅を規制したたて糸シートを後述の(D)たて糸積層工程に導いて、たて糸シートを挿入し積層することにより、所望の目付の多軸基材をギャップを形成することなく得ることができる。
リード(筬)以外の規制ガイドとしては、糸条幅を規制するために、所定の寸法の溝(鍔)などを有している溝付(鍔付)ガイドローラ、コーム(櫛)、孔(円形、矩形)、水平方向のガイド(筒状、板状)、垂直方向のガイド(筒状、板状)、および、それらを組み合わせたもの、などを使用することができるが、溝付(鍔付)ガイドローラは糸条幅をより精度よくコントロールすることができるため、本発明において好ましい態様といえる。
【0047】
図3は、本発明で用いられる規制ガイドローラの一例を示す概略側断面図である。図3に示すように規制手段が、異なる2つの溝付ローラr3、r4に隣り合うたて糸繊維糸条を交互に互い違いに通過させ、かつ、ローラが溝を有していると、繊維糸条の糸条幅がローラに設けた溝幅により規制され、繊維糸条の毛羽発生を最小限に抑制できるだけでなく、より安定して糸条幅を規制することができる。2つに分けられたシート化前の部分たて糸シート2、3は、一体化ローラr5、r6により一つのたて糸シートs6に合わされ、次の(D)のたて糸積層工程に導かれる。ここで、溝付ローラr3、r4における溝幅は、一体化ローラr5における溝幅よりも広くしておくことが好ましい。その溝幅は、好ましくは100〜180%であり、更に好ましくは110〜150%である。このような溝幅の比率にして併用すると、繊維糸条を効率的に開繊することができる。このような態様において、一体化ローラr6の直後にリードなどを配置して糸条幅規制を行うことが好ましい。かかるリードによって、正確な糸条幅に一層安定して規制することができる。
【0048】
図4は、本発明で用いられる別の規制ガイドローラの一例を示す概略側断面図である。図4に示すように、規制手段が、少なくとも2本のローラr7、r8を隣り合うたて糸を交互に互い違いに通過させるものであると、ローラに溝を加工する必要がなく、安価に糸条幅を規制することができる。2つに分けられたシート化前の部分たて糸シート4、5は、一体化ローラr9、r10により一つのたて糸シートs7に合わされ、次の(D)のたて糸積層工程に導かれる。このような態様においては、ローラr7の直前、および、ローラr8の直後に、リードなどを配置して繊維糸条の位置決めおよび糸条幅規制を行うことが好ましい。かかるリードによって、正確な糸条幅に一層安定して規制することができる。
【0049】
本工程では、50〜260cm幅のたて糸シートを形成するのが好ましい。たて糸シートの幅は、より好ましくは100〜160cmの範囲内である。たて糸シートの幅が50cmより狭いと、多層基材幅自体も狭くなってしまうため使用できる用途が限定される。一方、たて糸シートの幅が260cm幅よりも広いと装置が大型になりすぎて設備が高価となり過ぎる。
【0050】
たて糸シートにおける繊維糸条の糸条幅は、繊維糸条の繊度と層の1層当たりの繊維糸条目付との兼ね合いで決まる。詳細は後述するが、層の1層当たりの繊維糸条目付は50〜150g/mの範囲が好ましい。例えば、繊維糸条の繊度が800texであると、層の1層当たりの繊維糸条目付が50g/mである場合はたて糸の糸条幅は16mmとなり、また繊維糸条目付が150g/mである場合はたて糸の糸条幅は5.3mmとなる。かかる観点から、繊維糸条の糸条幅は5〜16mmの範囲が好ましいといえ(繊維糸条の繊度が800texの場合)、本発明の目的から、糸条幅のばらつきは変動係数(標準偏差を平均値で除したCV値)が10%以下であることが好ましい。
(J)のよこ糸シート形成工程においては、(C)のたて糸シート形成工程におけるたて糸をよこ糸に、たて糸シートをよこ糸シートに置き換えればよい。但し、(C)のたて糸シート形成工程では多軸基材の全幅に渡る層を構成するたて糸シートを形成するが、(J)のよこ糸シート形成工程では生産性を損なわないレベル(例えば、5〜50cm幅)のよこ糸シートを形成すればよい。よこ糸シートを並行に順次配列していけば多軸基材の全幅に渡る層を構成することができる。
(D)たて糸シート積層工程
本工程では、形成されたたて糸シートの層を、積層ローラct2を介して積層体に実質的に接触させながら交差積層する。但し、たて糸シートが積層体の1層目である場合には、接触させるべき積層体が存在しないため、積層ローラを介して積層体に接触させながら積層することはできない。ここで「実質的に接触させながら」とは、たて糸シート全体が確実に積層体に接触している態様の他に、たて糸シートが自重や僅かな張力ムラにより撓むことによりたて糸シートの一部でも積層体に接触している態様を含む。より具体的には、積層ローラct2が積層体から10mm以下の範囲を指す。たて糸シートを積層ローラct2を介して接触させながら交差積層することによって、繊維糸条間の隙間が形成されずに、ギャップ発生のない層をそのままの状態で安定して挿入し積層することができる。また、積層したたて糸シートが積層体から浮き上がったり、配向角度がずれることを抑制する効果をも発現する。
【0051】
たて糸を送り出すための送出手段としては、少なくとも駆動ローラd2およびニップローラn1(駆動してもよいし、駆動ローラに従属して消極回転してもよい)、および/または、ニップローラと組み合わされない駆動ローラd1、d2から構成される送出ローラによって、たて糸シートを送り出す手段が挙げられる。前記駆動ローラd1、d2の表面がプラスチックで被覆されており、かつ、たて糸との接触角度が90°以上であると、駆動ローラとたて糸との間に滑りが発生せず、確実にかつ安定してたて糸シートを送り出すことができる。
【0052】
送出ローラを用いる場合は、送出ローラよりもクリール側(上流側)に配置している自由回転ローラが存在する場合、かかる自由回転ローラの少なくとも1つにおけるたて糸の接触角度を90°未満とすることが好ましい。このような態様であると、ギャップ発生のない層をそのままの状態で安定して挿入し積層することができるだけでなく、個々のたて糸の糸長を容易に均一にする遊びを有した区間を部分的に存在させることができ、均一なたて糸シートを送り出すことができる。糸条の接触角度とは、糸条がロールに接触する接点とロールから離れる接点との間で、糸条がロールに接触している円弧に対するロールの中心角を指す。
前記(C)のたて糸シート形成工程と本工程とは連続的に行われ、その間にたて糸シートを一旦巻き取る工程が含まれないことが好ましい。すなわち、個々のたて糸ボビンからたて糸を引き出し引き揃えてシート化して、そのまま本工程にてたて糸シートを挿入し積層することが好ましい。たて糸シートをビームに一旦巻き取る整経工程を経ると、余分な工程が増えて製造コストの上昇を招く場合があるだけでなく、整経工程において個々のたて糸の糸長を均一にできずにたて糸シートが不均一なものとなり易く、得られる多軸基材にシート面の不均一さなどの表面凹凸を発生させたり、力学特性を低下させる場合がある。
(K)のよこ糸シート積層工程においては、(D)のたて糸シート積層工程におけるたて糸シートをよこ糸シートに置き換えればよい。但し、上述(D)のたて糸シート積層工程では、積層ローラct2を介して積層体に接触させながら交差積層するが、(K)のよこ糸シート積層工程では積層ローラを介して積層体に接触させながら交差積層してもよいし、積層ローラを介さず交差積層してもよい。積層ローラを介さない積層方法としては、積層体の上方によこ糸シートを一旦配置して、そのまま下方に並行移動させて交差積層する方法が挙げられる。よこ糸シートは、たて糸シートよりも幅が狭くても本発明の課題を解決できるため、いずれの方法によっても繊維糸条間の隙間が形成されずに、ギャップ発生のない層を安定して交差積層することができるのである。よこ糸シート幅をたて糸シート幅と同一またはそれ以上にする場合は、たて糸シートと同様に積層ローラを介した交差積層が好ましい。
(K)のよこ糸シート積層工程においては、挿入されたよこ糸シートは、(D)のたて糸シート積層工程とは異なり、(E)の搬送工程で搬送される直前、もしくは、搬送されはじめると同時に切断してもよい。よこ糸シートを挿入する度に切断することにより、よこ糸シートを折り返して挿入する必要がなくなるため、低目付のシートであっても繊維糸条同士のギャップが形成され難いという本発明の効果をより高く奏することができる。
(E)搬送工程
本工程では、少なくとも前記の工程で得られたたて糸シートを含む交差積層される各層または交差積層された各層を、一体化される箇所まで各層の全幅の半分以上の幅を有する搬送手段で搬送する。搬送手段としては、ベルトコンベアが好ましく用いられる。より好ましい搬送手段の幅は、基材全幅の90〜110%である。基材全幅の半分以上の幅を有する搬送手段を用いると、積層したたて糸シートおよびよこ糸シートが自重で撓む現象を抑制することができる。かかる撓み(繊維糸条の弛み)抑制により、配向角度が正確かつ均一なシートが積層された多軸基材を得ることができる。
通常は、所定の長さにカットされたチョップドファイバーを用いるために、上記のようなベルトコンベアが使用されるが、本発明は、チョップドファイバーを用いない多軸基材を製造する場合においても、前記のベルトコンベアを用いて積層体を搬送することにより、本発明の課題を解決することを見出したところに特徴を有するものである。
図5は、本発明で用いられる搬送工程の一例を示す概略側断面図である。
【0053】
本工程において、交差積層された各層のうち最外層に配置されているたて糸シートを、そのたて糸シートを構成している複数のたて糸に分割してそれぞれの配列位置を決め、それらを引き揃えて再度たて糸シートを形成して、複数のローラで構成されるローラ群(再開繊手段sp3)を通過させることが好ましい。かかる工程を経ることにより、前記(C)のたて糸シート形成工程から、後述(F)の一体化工程へと搬送する間に形成されてしまうギャップを解消することができ、より確実にギャップの発生のないたて糸シートの層を形成させることができる。
複数のたて糸それぞれの配列位置を決める手段としては、ガイドを用いることが好ましい。かかるガイドとしては、前記(C)のたて糸シート形成工程における規制手段と同様のものを用いることができるが、スペース上の問題から穴あきガイドl5を用いることが好ましい。
また、再開繊手段sp3としては、(B)のたて糸引出工程におけるローラ群と同様の構成のものを用いることが好ましい。特に本工程では、搬送手段にローラ群を配置・組み込む必要があるため、可能な限り簡易に構成することが好ましい。かかる観点からは、ローラ群は、例えば、加熱せずにかつ揺動しないローラr11、r12、r13を2〜7本用いて(好ましくは3〜5本の固定ローラ)、少なくとも1本の接触角度を30〜180°の範囲で接触させることが好ましい。かかる範囲内で接触させると、効率的にたて糸のそれぞれを開繊することができ、再度形成したたて糸シートにおいて、確実にギャップを解消することができる。
(F)一体化工程
本工程では、交差積層された各層を一体化手段で一体化する。一体化手段としては、編組織を形成したステッチ糸条が積層体を一体に保持するものが好ましい。かかるステッチ糸条を用いると、安定かつ確実に積層体を一体に保持することができ、繊維糸条の配列角度などがずれる懸念がなく、取扱性にも優れる。かかるステッチ糸条は、安定して積層体を保持するために繊維糸条の配向角度に適した編組織を適宜選択することができる。例えば、ガイドバー1枚の場合は、鎖編、1/1トリコット編およびそれらの組み合わせなどが挙げられ、また、ガイドバー2枚の場合は、鎖編と挿入糸との組み合わせなど編組織を適用することができる。中でも、鎖編と挿入糸との組み合わせであると、ステッチ糸条による繊維糸条の締め付けを相対的に緩くでき、複合材料を成形する場合に用いられる樹脂の含浸性を高く発現することができる。更には、繊維糸条の屈曲を小さくすることもでき、特に圧縮強度や引張強度などの優れた力学特性を発現することができる。このような効果は、多軸基材が3層以上の積層体の場合、または、0°層を有するものである場合に、特に高く発現される。
ステッチ糸条にて積層体を一体に保持する場合、ステッチコームscが、多軸基材の全幅に渡って面状体のカバーfcを有するものであることが好ましい。ステッチコームscとは、ステッチ糸条を編組織するステッチニードルが積層体を貫通する際に、積層体が浮き上がるのを抑制させる積層体の法線方向の位置を規制するものを指す。通常は、ステッチニードル同士の間のそれぞれに均等間隔で配置された線状のピンまたは板状のコームの集合体である。また、面状体のカバーfcは、線状のピンまたは板状のコームと最外層に配置されている層とが接触を開始するポイントを、多軸基材の全幅に渡ってカバーするものを指す。かかる面状体のカバーfcを有していると、積層体の最外層に配置されているたて糸シートの層またはよこ糸シートの層との配列位置を乱すことを抑制することができる。換言すると、かかる面状体のカバーfcを有していないと、線状のピンまたは板状のコームが、最外層に配置されている層の繊維糸条に引っ掛かってしまい、その配列を乱してたて糸シートまたはよこ糸シートにギャップを発生させてしまう場合がある。
【0054】
積層する層数にも依存するが、ステッチ糸条の供給量は、3,000〜12,000mm/ラック(480コース)であることが好ましい。より好ましくは4,000〜10,000mmである。供給量が3000mm未満であると、糸切れが頻発し、生産性を低下させる場合があるだけでなく、樹脂の含浸性や力学特性を低下させる場合がある。一方、供給量が12000mmを超えると、ステッチ糸条が緩み過ぎて繊維糸条がずれたりして一体化した層が崩れる場合がある。
【0055】
本工程では、前記の工程で得られた積層体を一回のステッチにて一体化することが好ましい。例えば、[0°/90°]の構成でステッチにて一体化された基材と、[90°/0°]の構成でステッチされた基材とを順に積層して、再びステッチして一体化した基材ではなく、[0°/90°/90°/0°]の構成で一回のステッチにて一体化することが好ましい。本来、ステッチすることにより、繊維糸条はステッチ針により損傷を受け易い。そのため、ステッチの回数を可能な限り減らすことは、得られる複合材料の力学特性の低下を最小限に抑制することができる。すなわち、一回のステッチで多層の積層体を一体化してこそ、本発明の効果を最大限に発揮することができるのである。
本発明で用いられるステッチ糸条は、繊維糸条の繊度の15%以下の繊度であるものが好ましく、より好ましくは5%以下であり、更に好ましくは1%以下の繊度のものである。ステッチ糸条の繊度は小さければ小さいほど、その存在に起因する影響を小さくできる。すなわち、繊維糸条の屈曲や蛇行を抑制し、本質的に有する力学特性を発現することができるのである。このような観点から、ステッチ糸条の繊度は0.5〜10texの範囲であることが好ましい。ステッチ糸条の繊度は、より好ましくは0.5〜5texの範囲であり、更に好ましくは1〜3texの範囲である。ステッチ糸条の繊度が0.5texよりも小さいと、ステッチする際の糸切れが頻発する場合があり、一方、10texを超えると、繊維糸条の屈曲や蛇行を誘発する場合がある。
使用するステッチ糸条には特に制限はないが、ステッチ糸条が、特に、炭素繊維やガラス繊維などの無機繊維であると、比強度・比弾性率に優れ、収縮による問題が小さい。別の観点からは、ステッチ糸条が、特に、ポリアミド、ポリエステル、パラフェニレンベンゾビスオキサゾール、アラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリアリレート、などの有機繊維であると、無機繊維に比べて大幅に糸切れを抑制することができる。中でも、繊度を小さくできる点、複合材料での力学特性発現の面からポリアミドを用いることが特に好ましい態様である。
なお、一体化手段としては、積層体の層間および表面に樹脂材料(例えば、不織布、粒子、カットファイバー、配列した糸条、およびそれらの組み合わせ等)を配置し、樹脂材料にて積層体を一体に保持することもできる。樹脂材料は、その一部または全部を溶解させて一体化してもよいし、もともと粘着性を有するものを単に配置して一体化してもよい。かかる一体化手段によると、ステッチしないため繊維糸条をニードルで損傷する可能性がなく、より高い力学特性を有する複合材料を得ることができる。
樹脂材料としては、広い面積を効率よく均一に一体化するためには不織布を用いることが好ましい。また、賦型性(ドレープ性)を高めるためには粒子を用いることが好ましく、目的によって使い分けることができる。中でも不織布は、多軸基材の生産性を最大限に高めることができるため、最も好ましい態様といえる。不織布としては、一体化できる最小限の量が配置されていればよく、2〜10g/mの目付であることが好ましい。また、用いられるポリマーの融点が170℃以下であると比較的低い温度で溶解させて一体化することができる。
(G)巻取工程
一体化された多軸基材saは、ニップローラn2を経て、巻取手段wdにより、多軸基材の巻物状物ptとして巻き取られる。すなわち、本工程では、一体化しされた多軸基材saが、直径が好適には75〜400mmのコアに巻き取られる。本発明で使用される多軸基材を巻き取る例えば、紙管や鉄管などのコアの好ましい直径は、150〜320mmである。多層に積層された多軸基材においては、直径が75mm未満のコアであると、その内層と外層との間で周長差が発生し、内層で多軸基材が弛むことに起因して、繊維糸条の屈曲やシワなどを誘発する場合がある。一方、直径が400mmを超えるコアであると、周長差の面では有利であるが、巻物自体が嵩張るため運搬コストが高くなるなど、不都合を生じる場合がある。
【0056】
本発明の多軸基材の製造方法においては、特に5層を超える層を積層した場合は、それを巻き取ること自体が問題になる場合がある。そのような場合には、巻き取らずに、所定長さ毎に切断し、連続的にシート状の多軸基材を製造するとよい。
多軸基材を巻き取るための巻取手段としては、例えば、多軸基材の巻物の表面に接して駆動ローラを配置し、巻物とローラとの摩擦で回転させる表面駆動や、コア自体を回転させる直接駆動が挙げられる。表面駆動の場合は、特に巻き始め部分(巻物の巻芯部分)に弛みが発生し易いため、コアの直接駆動にて巻物を巻き取ることが好ましい。
【0057】
本発明の多軸基材の製造方法で得られた多軸基材は、積層数が5〜12層であることが好ましい。鏡面対称積層を前提とした場合、積層数が5未満であると、その積層構成に極めて大きな制約を受け、基材設計および複合材料設計の自由度を著しく損なう場合がある。一方、積層数が12層を超えると、多軸基材が厚くなりすぎ、多軸基材を巻いて運搬することが困難となる場合や、賦型性に劣る場合など、取扱性に劣り易い。すなわち、上記層数の範囲であってこそ、本発明の効果を最大限に発揮することができるのである。
【0058】
本発明の多軸基材の製造方法によると、少なくとも積層体の最外層以外の層に、多軸基材の長手方向と平行な角度(0°)に繊維糸条を配列させることができ、かつ、積層体が鏡面対称に交差積層されている多軸基材を容易に製造することができる。たて糸シートを最外層にしか積層できない、すなわち積層体の中間部分に0°方向シートを配置できないと、鏡面対称積層を前提とした場合、その積層構成に極めて大きな制約を受け、設計の自由度を著しく損なう場合がある。すなわち、複合材料の力学特性を最大限に発現させるためには、たて糸シートを複数積層することが重要となるが、その構成が採用できない場合がある。すなわち、本発明の多軸基材の製造方法で製造される多軸基材は、少なくとも積層体の最外層以外の層に0°方向に繊維糸条が配列されていることが好ましく、かつ、鏡面対称積層されてこそ、本発明の効果を最大限に発揮することができるのである。
【0059】
本発明の多軸基材の製造方法によると、前記の積層体を一体化するステッチ糸条が、一回のステッチにて一体化された多軸基材を容易に製造することができる。本来、ステッチすることにより繊維糸条はステッチ針により損傷を受け易い。そのため、ステッチの回数を可能な限り減らすことは、得られる複合材料の力学特性の低下を最小限に抑制することに貢献する。すなわち、一回のステッチにて一体化してこそ、本発明の効果を最大限に発揮することができるのである。
【0060】
本発明で製造される多軸基材の品質安定性の指標としては、積層された各層において2mmを超える繊維糸条同士の隙間(ギャップ)の頻度が挙げられる。かかるギャップの頻度(各層ごとの値を全層で平均した値)は、0.5個/m以下であることが好ましい。ギャップの頻度が0.5個/mを超えると、複合材料にした場合に表面にピット(樹脂の未充填部分)が発生して、表面品位が劣る場合や、樹脂リッチ層が形成されて力学特性(特に、環境耐久性や湿熱環境下での圧縮強度)の品質安定性に劣る場合があるので、用途によっては望ましくない。すなわち、本発明で製造される多軸基材は、ギャップの頻度が0.5個/m以下であってこそ、本発明の効果を最大限に発揮できるのである。
【0061】
本発明における2mmを超える繊維糸条同士のギャップの頻度(1m当たり存在個数)とは、次のように測定した層ごとの各値を、さらに全層で平均したものを指す。すなわち、測定サンプルの最表層に存在する2mm幅を超えるギャップの個数をカウントする。具体的には、繊維糸条Aと繊維糸条Bとの隙間について、2mmを超える箇所が1箇所でもあればその隙間を1つとカウントする。かかるギャップの幅は、サンプルの平面方向についてノギスを用いて測定したものを用いる。測定する範囲は、サンプル端部の5cmを除いた任意の1m幅×1m長さ(1m)内とする。但し、サンプル幅が1.1m幅より狭い場合は、(サンプル端部の5cmを除いた幅)×(測定範囲が1mになるように決められる長さ)の範囲とする。このような測定を3回繰り返して平均値をとり、その層のギャップの頻度とする。次いで、ステッチ糸条を解き、測定サンプルの内層を露出させて前述の方法と同様にして、各層についてカウントする。かかる測定で求められた各層のギャップの頻度を平均して、繊維基材におけるギャップの頻度とする。
【0062】
本発明で用いられる繊維糸条としては、複合材料用の繊維糸条として使用できるものを用いることが好ましく、例えば、炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、および、アラミド、パラフェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリアリレートおよびポリイミド等の有機繊維等が挙げられ、これらの1種または2種類以上を併用したものを使用することができる。中でも、炭素繊維は、比強度・比弾性率に優れており、好ましく用いられる。
繊維糸条は、取り扱い性やステッチング時の耐ニードル擦過性を向上させるために、0.2〜2.5重量%の集束剤が付着されていることが好ましい。上記範囲内の集束剤が付着されている繊維糸条は、毛羽発生が効率的に抑えられる。
【0063】
繊維糸条は、無撚でも有撚でも使用することができるが、引張や圧縮等の力学特性の面からは、実質的に無撚(1ターン/m未満)のものが好ましい。また、繊維糸条の繊度は、好ましくは500〜7,000texであり、より好ましくは1,000〜2,000texである。繊度が小さすぎると、繊維糸条がねじれる問題が殆どなく、本発明の効果が発揮されない場合がある。また、繊維糸条が高価であり、このような細繊度の繊維糸条を多数本使用することになるので、多軸基材そのものも高価になってしまう。一方、繊度が大きすぎると、例えば、150g/m/層以下の低目付の多軸基材を得る際に僅かな力で糸条幅が変動しやすく、安定した糸条幅の維持が困難な場合がある。
繊維糸条は、糸条幅が5〜30mmであり、糸条幅/糸条厚比が30〜100の炭素繊維糸条であることが特に好ましい。かかる扁平状の炭素繊維糸条を用いることにより、低目付の多軸基材を容易に得ることができる。糸条幅が5mm未満もしくは糸条幅/糸厚比が30未満の場合は、繊維糸条がねじれる問題が殆どなく、本発明の効果が発揮されない場合がある。また、繊維糸条が十分開繊されず、低目付化が困難な場合がある。一方、糸条幅が30mmを超えるまたは糸条幅/糸厚比が100を超えると、糸条幅が変動し易く、安定した糸条幅の維持が困難となる場合がある。
【0064】
本発明の多軸基材の製造方法で得られた多軸基材は、層の1層当たりの繊維糸条目付が50〜150g/mの範囲であることが好ましい。目付は、より好ましくは80〜120g/mの範囲である。かかる目付の範囲を、前記繊度の繊維糸条を用いた多軸基材を得る場合に適用することにより、本発明の効果が最大限に発現されるのである。すなわち、各層の繊維糸条の目付が150g/mを超えると、本発明の意義が希薄となる場合がある。一方、目付が50g/m未満の場合は、複合材料において所望の強度を得ようとすると、あまりにも多数の層を積層する必要がでてくるため、生産性に劣る場合がある。
【0065】
多軸基材は、マトリックス樹脂を含浸させてプリプレグやセミプレグにした後に加熱・固化させる成形方法で、複合材料にすることができる。本発明でより好ましい成形方法としては、生産性の高いRTM、RFI、RIM、真空圧成形等の注入成形方法が挙げられる。中でも、成形コストの面から、RTM[例えば、雄型および雌型により形成したキャビティ中に樹脂を加圧して注入する成形法。好ましくは、キャビティを減圧して樹脂注入する。]と、真空圧成形[例えば、雄型または雌型のいずれか一方とフィルム等のバッグ材(例えば、ナイロンフィルムやシリコンラバー等)により形成したキャビティを減圧し、大気圧との差圧にて樹脂注入する成形法。好ましくは、キャビティ内のプリフォームに樹脂拡散媒体(メディア)を配置して樹脂含浸を促進し、成形後に複合材料からメディアを分離する。]が好ましく用いられる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明の多軸基材の製造方法を、実施例により詳細に説明する。実施例で使用した材料は、次のとおりである。
【0067】
・繊維糸条:
引張強度4,900MPa、引張弾性率235GPa、フィラメント数12,000本、トータル繊度800tex、ボビン上の糸条幅6mm、糸条厚み0.16mm、糸条幅/糸条厚み比38(扁平形態)、エポキシ樹脂を主成分とするサイジング剤を0.5重量%付着してなる扁平状の無撚炭素繊維糸条。
【0068】
・ステッチ糸条:
フィラメント数36本、トータル繊度5.6texであるポリエステル繊維糸条。
【0069】
(実施例1)
配向角度[+45°/0°/−45°/90°/−45°/0°/+45°]で7層が鏡面対称に積層され、かつ、各層の目付が120g/m/層である多軸基材A(幅125cm)を作製した。以下、詳細を記載する。
(A)たて糸解舒工程 :たて糸クリールに188本配置された炭素繊維糸条を、0.5m/minの速度で横取り解舒した。横取り解舒においては、別途設けた駆動ローラd2で引出した。
(B)たて糸引出工程 :炭素繊維糸条のそれぞれを、ボビン上の糸条幅よりも大きい糸条幅(9mm)に開繊しながら引き揃えた。開繊手段として、その軸方向に揺動するローラr1(自由回転し、その表面には軸方向と平行に複数のスリットが彫刻されているもの)、揺動しない非揺動のローラr0、r2(梨地加工された円形の自由回転ローラ)に、隣り合う炭素繊維糸条同士を交互に異なるローラr1、r1’にそれぞれ通過させる手段を用いた。ローラr1、r1’、r0、r2群などは150℃の範囲の雰囲気下に配置した。
(C)たて糸シート形成工程 :開繊された炭素繊維糸条を、糸条幅を同一に規制しながら125cm幅のたて糸シートを形成した。規制手段として、2つのリードl1、l2に炭素繊維糸条を通過させる手段を用いた。その際、クリール側のリードl1の筬羽間の幅は、巻取側リードl2の105%とし、巻取側リードl2はコンタクトローラct2の直前とした。たて糸の設定糸条幅はそれぞれ6.7mm幅であり、実際の糸条幅の平均値は6.7mm(変動係数CV値10%以下)であった。
(D)たて糸シート積層工程 :形成したたて糸シートを一旦巻き取ることなく、ダイレクトに積層ローラct2(積層体とのクリアランス距離=1mm)を介して積層体に接触させながらたて糸シートを挿入した。たて糸シートの送出手段として、表面がプラスチックで被覆された駆動ローラd1、d2(たて糸との接触角度が130°)および駆動ローラd2に従属して消極回転するニップローラn1から構成される送出ローラ手段を用いた。また、送出ローラよりもクリール側に配置している自由回転ローラr0、r2のたて糸の接触角度はいずれも最大で80°とした。
(H)よこ糸解舒工程 :よこ糸クリールに18本配置された炭素繊維糸条を、別途設けた駆動ローラで引出しながら、実質的に一定速度で横取り解舒した。各ボビンには、自重でボビン径の変化に追従できる機構を有するコンタクトローラを接触させつつ解舒した。(K)のよこ糸シート積層工程では間欠的によこ糸テープが積層されるため、ボビン群からは実質的に一定速度で横取り解舒されるように、よこ糸クリールとよこ糸シート挿入手段との間にダンサーローラを配置した。
(I)よこ糸引出工程 :炭素繊維糸条のそれぞれを、ボビン上の糸条幅よりも大きい糸条幅(9mm)に開繊しながら引き揃えた。開繊手段として、隣り合う炭素繊維糸条同士を交互に異なるローラにそれぞれ通過させる手段を用いた。各ローラは200℃の範囲の雰囲気下に配置した。
(J)よこ糸シート形成工程 :開繊された炭素繊維糸条を、糸条幅を同一に規制しながら10cm幅のよこ糸シートを形成した。規制手段として、1つのリードに炭素繊維糸条を通過させる手段を用いた。その際、リードはよこ糸シート挿入手段の直前とした。よこ糸の設定糸条幅は6.7mm幅であり、実際の糸条幅も6.7mm(変動係数CV値10%以下)であった。
(K)よこ糸シート積層工程 :形成したよこ糸シートをよこ糸シート挿入手段により挿入した。よこ糸シート挿入手段として、2つのクランプ、すなわち、よこ糸シートの一方を把持して積層体の上方に配置するクランプ、および、積層体の上方に配置されたよこ糸シートのもう一方を把持するクランプを用い、両クランプがそのまま下方に移動して挿入する手段を用いた。挿入されたよこ糸シートは、(E)の搬送工程で搬送されはじめると同時に切断した。
(E)搬送工程 :積層体を、基材全幅の90%の幅を有するベルトコンベアで0.5m/minの速度で搬送した。積層体には自重で撓む現象は見られなかった。
(F)一体化工程 :交差積層された7層の積層体を、5ゲージ(2.0コース/cm)、ループ距離3.8mm(2.6ウェール/cm)になるように1回のステッチにて一体化した。編組織は、ガイドバー2枚を用いて、鎖編と2×1ラップ挿入糸との組み合わせ、鎖編のステッチ糸条の供給量は3,700mm/ラック(480コース)とした。
(G)巻取工程 :一体化した多軸基材を、表面駆動の巻取手段にて直径が300mmの紙管に3m巻き取った。
【0070】
得られた多軸基材は、たて糸シートの層を基材の最外層以外に安定して挿入し積層することができた。また、各層においてギャップは殆ど見受けられず、2mmを超える繊維糸条同士の隙間の頻度は、0.3個/mであった。
【0071】
(実施例2)
配向角度[0°/+45°/−45°/90°/−45°/+45°/0°]で7層が鏡面対称に積層され、
(C)のたて糸シート形成工程で、規制手段として、4つのリードl1、l2、l3、l4に炭素繊維糸条を通過させる手段を用い、クリール側のリードl1の筬羽間の幅は、巻取側リードl3の104%、l4の106%、l2の106%とし、最も巻取側リードl2はコンタクトローラct2の直前としたこと、
(D)のたて糸シート積層工程で、たて糸シートの送出手段として、表面が硬質クロムメッキ処理した駆動ローラd1、d2(たて糸との接触角度が130°)を用い、ニップローラn1を用いなかったこと、
(E)の搬送工程で、最外層に配置されているたて糸シートを構成している複数のたて糸に分割してそれぞれの配列位置を穴あきガイドl5で決めて、それらを引き揃えて再度たて糸シートを形成して、再開繊手段sp3(3本の固定ローラr11、r12、r13、r12の接触角度75°)を通過させたこと、
(F)の一体化工程で、最外層に配置されている層とが接触を開始するポイントにステッチコームにステンレス製の面状体のカバーfcを取り付けたこと、および
(G)の巻取工程で、直径が80mmの紙管を用いたこと、
以外は、実施例1と同様にして多軸基材を得た。得られた多軸基材のステッチ糸を解いて分解して観察した結果、たて糸の各々の糸長および糸条幅のばらつきは殆ど観察されなかった。また、各層においてギャップは殆ど見受けられず、2mmを超える繊維糸条同士の隙間の頻度は0.1個/mであり、実施例1で得られた多軸基材よりも優れた多軸基材であった。
【0072】
(比較例1)
(A)のたて糸解舒工程で、予め188本を整経したビームを用いた点、
(C)のたて糸シート形成工程で、糸条幅を同一に規制しなかった点(たて糸の設定糸条幅はなく、実際の糸条幅は平均7mmだが、4〜9mmの範囲で大きくばらついており、変動係数CV値は25%を超えていた)、
(D)のたて糸シート積層工程で、積層体から20mm離れた位置に配置されたローラを介してたて糸シートを挿入した点、たて糸シートの送出手段として、表面が金属の駆動ローラを用い、かつ、ニップローラを使用しなかった点、送出ローラよりもクリール側に配置している自由回転ローラのたて糸の接触角度はいずれも最大で150°とした点、
(H)のよこ糸解舒工程で、よこ糸をコンタクトローラおよびダンサーローラを用いずに、間欠的に横取り解舒した点、
(I)のよこ糸引出工程で、ローラを25℃の雰囲気下に配置した点、
(J)のよこ糸シート形成工程で、糸条幅を同一に規制しなかった点、
(K)のよこ糸シート積層工程で、挿入されたよこ糸シートを切断せずに、多軸基材の端部で折り返しながら挿入した点、
(E)の搬送工程で、ベルトコンベアを用いず端部のみを把持して搬送した点、
(G)の巻取工程で、直径が80mmの紙管を用いた点、
以外は実施例1と同様にして多軸基材を得た。得られた多軸基材のステッチ糸を解いて分解して観察した結果、たて糸の各々の糸長および糸条幅がばらついており一部に局所的な屈曲が観察された。また、よこ糸も搬送工程で積層体の自重で撓む現象が発生したことによる配列角度のズレがみられた。更に、各層において2mmを超えるギャップが散見され、隙間の頻度は4個/mであった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の多軸基材の製造方法によれば、一層当たりの繊維糸条の目付が低目付であってもギャップが形成されず、高い積層構成の自由度を有した多軸基材を得ることができる。かかる多軸基材を用いると、表面品位、力学特性、その耐久性および品質安定性に優れた複合材料を安価に得ることができるため、航空機、自動車および船舶などの構造部材、外装部材および内装部材などをはじめ、コンクリートなどの構造体の補修・補強、ゴルフシャフトや釣竿などのスポーツ用品などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の多軸基材を製造する製造工程と装置の一例を示す概略側断面図である。
【図2】本発明の多軸基材を製造する装置の一例を示す概略平面図である。
【図3】本発明で用いられる規制ガイドローラの一例を示す概略側断面図である。
【図4】本発明で用いられる別の規制ガイドローラの一例を示す概略側断面図である。
【図5】本発明で用いられる搬送工程の一例を示す概略側断面図である。
【符号の説明】
【0075】
0:たて糸群
1、2、3、4、5:シート化前の部分たて糸シート
l0、l1、l2、13、14:リード
15:穴あきガイド
bb:ボビン
bc:搬送手段
cl:たて糸クリール
ct1:コンタクトローラ
ct2:積層ローラ
d0、d1、d2:駆動ローラ
f1、f2:フロア
n1、n2:ニップローラ
pt:多軸基材の巻物状物
r0、r1、r1’、r2、r7、r8:ローラ
r3、r4:溝付ローラ
r5、r6、r9、r10:一体化ローラ
r11、r12、r13:固定ローラ
s1、s3、s5、s6、s7:たて糸シート
s2、s4:よこ糸シート
sa:多軸基材
sp1、sp2:開繊手段
sp3:再開繊手段
st:一体化手段
sc:ステッチコーム
fc:面状体のカバー
wa1:たて糸シート挿入手段
wd:巻取手段
we1、we2:よこ糸シート挿入手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数本の繊維糸条が並行にシート状に配列されて層を構成し、該層の少なくとも2層以上が繊維糸条が交差するように積層されて積層体を構成し、該積層体が一体化されてなる多軸基材の製造方法において、該多軸基材を構成するたて糸シートの層を形成して該層を交差積層する際に、下記の(A)、(B)、(C)および(D)の工程を経ることを特徴とする多軸基材の製造方法。
(A)繊維糸条を、ボビン群から実質的に一定速度で横取り解舒するたて糸解舒工程、
(B)解舒された複数のたて糸を、それぞれボビン上の繊維糸条幅よりも大きい糸条幅に開繊しながら引き揃えるたて糸引出工程、
(C)引出されたそれぞれのたて糸の糸条幅を実質的に同一に規制しながら引き揃えてたて糸シートの層を形成するたて糸シート形成工程、
(D)形成されたたて糸シートの層を積層ローラを介して積層体に実質的に接触させながら交差積層するたて糸シート積層工程。
【請求項2】
多軸基材を構成するよこ糸シートの層を形成して該層を交差積層する際に、下記の(H)、(I)、(J)および(K)の工程を経ることを特徴とする請求項1記載の多軸基材の製造方法。
(H)繊維糸条を、ボビン群から実質的に一定速度で横取り解舒するよこ糸解舒工程、
(I)解舒された複数のよこ糸を、それぞれボビン上の繊維糸条幅よりも大きい糸条幅に開繊しながら引き揃えるよこ糸引出工程、
(J)引出されたそれぞれのよこ糸の糸条幅を実質的に同一に規制しながら引き揃えてよこ糸シートの層を形成するよこ糸シート形成工程、
(K)形成されたよこ糸シートの層を交差積層するよこ糸シート積層工程。
【請求項3】
(D)のたて糸シート積層工程もしくは(K)のよこ糸シート積層工程と、同時またはそれ以降に、下記の(E)、(F)および(G)の工程を通過させることを特徴とする請求項1または2記載の多軸基材の製造方法。
(E)交差積層される各層または交差積層された各層を、一体化される箇所まで、各層の全幅の半分以上の幅を有する搬送手段で搬送する搬送工程、
(F)交差積層された各層を一体化手段にて一体化する一体化工程、
(G)一体化された多軸基材を、直径75〜400mmのコアに巻き取る巻取工程。
【請求項4】
(E)の搬送工程において、交差積層された各層のうち最外層に配置されているたて糸シートを、該たて糸シートを構成している複数のたて糸に分割してそれぞれの配列位置を決め、それらを引き揃えて再度たて糸シートを形成して、複数のローラで構成されるローラ群を通過させることを特徴とする請求項3記載の多軸基材の製造方法。
【請求項5】
(C)のたて糸シート形成工程と(D)のたて糸シート積層工程とが連続的に行われ、両工程間にたて糸シートを一旦巻き取る工程が含まれないことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
【請求項6】
(A)のたて糸解舒工程において、積層体を一体化する一体化手段が配置されているフロアと、複数のたて糸を引き出すクリールが配置されているフロアとが異なるフロアであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
【請求項7】
(A)のたて糸解舒工程において、複数のたて糸を引き出すクリール、および、積層体を搬送する搬送手段を平面からみた場合、それぞれの中心が実質的に同一線上に配置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
【請求項8】
(B)のたて糸引出工程において、複数のたて糸を、温度50〜250℃の範囲の雰囲気下で複数のローラで構成されるローラ群を通過させるか、および/または、温度50〜250℃の範囲の加熱されているローラを少なくとも含む複数のローラで構成されるローラ群を通過させて、開繊することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
【請求項9】
ローラ群が、その軸方向に揺動している揺動ローラと、揺動していない非揺動ローラとの組み合わせで構成されていることを特徴とする請求項4または8記載の多軸基材の製造方法。
【請求項10】
(C)のたて糸シート形成工程におけるたて糸の糸条幅を規制する手段、または、(E)の搬送工程におけるたて糸の配列位置を決める手段が、たて糸を所定の寸法に規制するガイドであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
【請求項11】
(C)のたて糸シート形成工程におけるたて糸の糸条幅の規制を、接触角度90°以上で接触させるローラ全ての直前に配置することを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
【請求項12】
ガイドが、所定の寸法の溝を設けた溝付ローラ、筬もしくはそれらの組み合わせであることを特徴とする請求項10または11記載の多軸基材の製造方法。
【請求項13】
(C)のたて糸シート形成工程におけるたて糸の糸条幅の規制を、少なくとも2本のローラを隣り合う緯糸を交互に互い違いに通過させることにより行うことを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
【請求項14】
(D)のたて糸シート積層工程におけるたて糸シートを送り出す送出手段が、少なくとも、駆動ローラおよびニップローラから構成される送出ローラ、ならびに該送出ローラとクリールとの間に配置される自由回転ローラで構成され、かつ、該自由回転ローラの少なくとも1つにおけるたて糸の接触角度が90°未満であることを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
【請求項15】
層の積層数が5〜12層であり、かつ、各層が鏡面対象に交差積層されて積層体を構成していることを特徴とする請求項1〜14のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
【請求項16】
最外層以外の層に、多軸基材の長手方向と平行な角度(0°)に繊維糸条が配列されていることを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
【請求項17】
(F)の一体化工程における一体化手段が、ステッチ糸条にて一体化するものであることを特徴とする請求項1〜16のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。
【請求項18】
ステッチ糸条にて一体化するステッチ手段において、ステッチコームが多軸基材の全幅に渡って面状体のカバーを有することを特徴とする請求項17記載の多軸基材の製造方法。
【請求項19】
(F)の一体化工程における一体化手段が、積層体の層間および表面に配置された樹脂材料にて一体化するものであることを特徴とする請求項1〜17のいずれかに記載の多軸基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−39867(P2007−39867A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−175194(P2006−175194)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係わる特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「地球温暖化防止新技術プログラム(自動車軽量化炭素繊維強化複合材料の研究開発)」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】