説明

多軸織物

【課題】特に複雑な形状の成形に適する補強用基布として有用な多軸の織物を提供するものである。
【解決手段】繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維の糸条を用いて製織された多軸織物であって、該織物が三軸以上の多軸の織物であることを特徴とする多軸織物。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にゴム又は樹脂との複合材料における補強用基布として有用な多軸の織物に関するものであり、例えば、樹脂との複合材料としては、FRP、FRTPといわれる繊維強化複合体が代表的であり、具体的にはガラス繊維や炭素繊維、アラミド繊維等の補強用繊維に、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂(FRP)や、ナイロン等の熱可塑性樹脂(FRTP)をマトリックスとした繊維強化複合体が挙げられ、該複合材料において複雑な形状の成形に適する補強用基布を提供できる多軸の織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、補強用基布として、アラミド繊維等を用いた三軸又は四軸の織物は、深絞り成形性を有することが記載されているが、さらに複雑な形状の成形に適するものが要求されている。
【0003】
【特許文献1】特開平06−031823号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる要求に応えた補強用基布として有用な多軸の織物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は下記の通りである。
1.繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維(以下、ポリケトン繊維という。)の糸条を用いて製織された多軸織物であって、該織物が三軸以上の多軸の織物であることを特徴とする多軸織物。
【化1】

2.多軸織物が、ゴム又は樹脂との複合材料における補強用基布であることを特徴とする上記1.記載の多軸織物。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、特に複雑な形状の成形に適する補強用基布として有用な多軸の織物を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について以下に具体的に説明する。
本発明のポリケトン繊維を構成するポリケトンは、繰り返し単位の95モル%以上、好ましくは98モル%以上、特に99.6モル%以上が、上記式(1)で示されるものであり、5モル%未満の範囲で、上記式(1)以外の繰り返し単位、例えば、下記式(2)に示すもの等を含有していても良い。
【化2】

但し式中、Rは、エチレン以外の炭素数1〜30の有機基であり、例えば、プロピレン、ブチレン、1−フェニルエチレン等の基であり、Rの水素原子の一部または全部が、ハロゲン基、エステル基、アミド基、水酸基、エーテル基で置換されていてもよい。もちろん、Rは二種以上であってもよく、例えば、プロピレン基と1−フェニルエチレン基が混在していてもよい。
【0008】
本発明におけるポリケトンの固有粘度[η]は、好ましくは1dl/g以上、より好ましくは2dl/g以上、特に好ましくは4dl/g以上であり、20dl/g以下、好ましくは15dl/g以下、特に好ましくは10dl/g以下である。
尚、固有粘度[η]は次の定義式に基づいて求められる値である。
【数1】

式中のt及びTは、それぞれヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子(株)社製)及び該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間である。Cは、上記希釈溶液の濃度であり、ヘキサフルオロイソプロパノール100ml中のポリケトンの質量(g)である。
ポリケトンには、必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル抑制剤、他のポリマー、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属石鹸等の添加剤を含有させてもよい。
【0009】
次に、ポリケトン繊維の好ましい特性としては、引張強度は5cN/dtex以上、より好ましくは10cN/dtex以上、特に好ましくは15cN/dtex以上であり、30cN/dtex以下であり、引張伸度は3%以上、より好ましくは3.5%以上、特に好ましくは4%以上であり、15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下、特に好ましくは6%以下であり、引張弾性率は100cN/dtex以上、より好ましくは200cN/dtex以上、特に好ましくは300cN/dtex以上であり、1000cN/dtex以下である。
ポリケトン繊維の形態は、短繊維並びに長繊維であり、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、扁平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブーメラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
【0010】
ポリケトン繊維の糸条形態としては、紡績糸、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸が挙げられ、本発明の目的達成上、マルチフィラメント糸が好ましい。
好ましい単糸繊度は、紡績糸やマルチフィラメント糸の場合は0.01〜10dtex、より好ましくは0.1〜10dtex、特に好ましくは0.5〜5dtexの範囲であり、モノフィラメント糸の場合は、10〜100000dtexの範囲である。又、好ましい総繊度は10〜100000dtex、より好ましくは30〜50000dtexの範囲である。
本発明は、かかるポリケトン繊維の糸条を用いて三軸以上の多軸織物、好ましくは三軸又は四軸織物、特に好ましくは四軸織物を製織することに特徴を有するものである。
本発明における多軸織物とは、互いに交叉する3本以上の糸が交叉部で動かないように
制約された状態を基本構造とする織物をいい、互いに等角度で交叉するものが特に好ましい。
【0011】
以下、好ましい三軸又は四軸の多軸織物について、詳述する。
三軸織物の好ましい織密度は、4×4×4〜70×70×70(本/2.54cm)、目付は、100〜400(g/m2 )、厚さは、0.05〜0.8(mm)であり、三軸の織方向を規制する三軸の交叉角度は、45〜90°の範囲で設定可能であるが、各糸が略60°の交叉角度が特に好ましい。
特に好ましい四軸織物は、経糸、緯糸及びこれら経緯糸に対して斜めに交叉する上斜糸と下斜糸の四面四軸糸からなり、上面糸が下面糸に絡んで他の二面の中間糸を挟み一体に織成したものであり、上面糸が上斜糸であり、中間糸が下斜糸と経糸であり、下面糸が緯糸であるものと、上面糸が経糸であり、中間糸が上斜糸と下斜糸であり、下面糸が緯糸であるものに大別される。好ましい織密度は、4×4×4×4〜70×70×70×70(本/2.54cm)、目付は、100〜400(g/m2 )、厚さは、0.05〜0.8(mm)である。経糸と緯糸並びに上斜糸と下斜糸の各々の交叉角度は、45〜90°の範囲で設定可能であるが、経糸と緯糸並びに上斜糸と下斜糸の各々の交叉角度は、略90°の交叉角度が特に好ましく、極端に強度の弱い方向を無くし、あらゆる方向からの外力に対応できるものであり、特に好ましい。
【0012】
本発明は、かかるポリケトン繊維の糸条を用いて多軸織物を製織するものであるが、全ての糸条をポリケトン繊維の糸条で構成することが好ましいが、必要に応じて、ポリケトン繊維以外の他の繊維を70質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは30質量%以下の範囲内で混用してもよく、混用方法としては、合撚、混繊、コアヤーン、カバリング、サイロフィル等の公知の手段により糸条段階で混用してもよく、又、経糸、緯糸又は斜糸の一種以上に用いたり、例えば、経糸及び/又は緯糸において、1〜数本交互に混用して交織しても良く、更には、糸条段階の混用と交織を組み合わせても良い。
【0013】
混用する他の繊維としては、例えば、ポリエステル繊維やポリアミド繊維、アラミド繊維(パラ系、メタ系)、ポリビニルアルコール繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、金属繊維等の公知の繊維が挙げられ、混用に際しては、成形品の要求特性に応じて混用する繊維の単糸繊度や総繊度を適宜選定してもよい。
多軸織物は、二次元織物でも、三次元織物でもよく、特に三次元織物は、立体的構造を有するためせん断抵抗、引き裂き抵抗、破裂抵抗を大きくすることが可能であり、好ましいものである。
本発明の多軸織物を、例えば補強用基布として用いるに際しては、多軸織物単独に加えて、多軸織物同志(例えば、三軸同志、四軸同志、三軸と四軸の組み合わせ)や、多軸織物と二軸織物(例えば、三軸や四軸織物と平織物等の二軸の組み合わせ)を積層して用いても良い。
【0014】
本発明の多軸織物の特徴は、特に、ゴムや樹脂との複合材料の補強用基布に用いると、複雑な形状の成形に適する補強用基布となることである。
複合材料に用いるゴムや樹脂としては、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、ニトリルブタジエンゴム(NBR;水添NBRを含む)、オレフィン類と非共役ジエンとの共重合体(EPDM)、ニトリルゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロルスルホン化ポリエチレン、イソブチレンイソプレン共重合ゴム(IIR;塩素化−IIR、臭素化−IIRを含む)等のゴムが挙げられる。又、アクリル、ウレタン、シリコン、フッ素、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、オレフィン、ポリ塩化ビニル、アクリル、サーマルプラスチックエラストマー、エポキシ、不飽和ポリエステル、フェノール系等の樹脂が挙げられる。
又、本発明における複合材料は、強化繊維束に成形用樹脂を予め含浸させてなるいわゆるトウプリプレグ、例えば、ポリケトン繊維束にエポキシ樹脂を予め含浸させてなるトウプリプレグ、を用いて本発明の多軸織物を構成し、加熱下に金型中で加圧成形することにより得られた複合材料であり、例えば高密度の多軸織物や三次元の多軸織物を補強用基布に用いた場合の如く樹脂の含浸性が懸念される複合材料の作製に有用である。
【0015】
尚、複合材料の補強用基布に用いるに際しては、必要に応じて、多軸織物をカレンダー加工により熱ロール圧縮処理したり、メラミン、アクリル、シリコーン、フッ素樹脂等の樹脂ディッピングにより硬く仕上げたりしてもよい。
尚、例えば屋外で強い紫外線を受けることによってポリケトン繊維の引張強度等の低下が懸念される場合には、繊維又は織物の形態で紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系の一種又は二種以上の組み合わせがある。)及び/又は紫外線遮蔽剤(例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム等の微粒子があり、平均粒径は0.01〜0.6μmが好ましい。)を含有させてもよい。含有させる方法としては、例えば、繊維又は織物に紫外線吸収剤及び/又は紫外線遮蔽剤を含有した樹脂やフィルムを付与又は被覆する方法があり、紫外線吸収剤及び/又は紫外線遮蔽剤の含有量は、樹脂やフィルムの質量に対して0.001〜10質量%の範囲が好ましい。
【実施例】
【0016】
以下に本発明を実施例等に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等により何ら限定されるものではない。
本発明における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
(1)引張強度、引張伸度、引張弾性率
JIS−L−1013に準じて測定する。
サンプル長:20cm、引張速度:20cm/分で測定し、20回測定した時の平均値を求める。
(2)積層板の成形性
得られた積層板を予熱して半球状の型に入れ、熱プレスして直径10cmの半球状の成形品を作製し、成形品の外観を観察し下記基準にて評価した。
◎;シワが無く、表面の凹凸も無い極めて良好なもの。
○;軽微なシワはあるが、表面の凹凸も殆ど無い良好なもの。
△;シワがあり、表面の凹凸が見られるもの。
×;シワが大きく入り、表面の凹凸も大きなもの。
【0017】
[実施例1]
1670dtex/1250fのポリケトン繊維マルチフィラメント糸(旭化成せんい(株)社製;商標サイバロン;引張強度18cN/dtex、引張伸度5%、引張弾性率350cN/dtex)を経糸、緯糸並びに両斜め糸に用いて、四軸織物を製織した(経糸密度及び緯糸密度共に10本/2.54cm、両斜め方向密度14.4本/2.54cm)。
次いで、得られた織物を4枚積層し、織物の両面および織物の間にナイロン6フィルム(厚さ60μm)を重ねて熱プレスして積層板(厚さは2mm)を得た。
得られた積層板の成形性は、◎〜○とすぐれたものであった。
【0018】
[実施例2]
実施例1で用いたポリケトン繊維マルチフィラメント糸に、レジンバス法により1液性変性エポキシ樹脂を目標樹脂含有量が40質量%となるように含浸させて、トウプリプレグを作製した。
得られたトウプリプレグを用いて、実施例1と同様にして四軸織物を製織した。
次いで、得られた織物を4枚積層し、実施例1と同様にして熱プレスして積層板(厚さは2mm)を得た。
得られた積層板の成形性は、◎〜○とすぐれたものであった。
[比較例1]
実施例1において、ポリケトン繊維に代えて1670dtex/964fのパラ系アラミド繊維マルチフィラメント糸(引張強度20cN/dtex、引張伸度4.5%、引張弾性率500cN/dtex)を用いた以外は、実施例1と同様に織物の積層板を得た。
得られた積層板の成形性は△と、実施例1と対比して劣ったものであった。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、特に複雑な形状の成形に適する補強用基布として有用な多軸の織物を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維の糸条を用いて製織された多軸織物であって、該織物が三軸以上の多軸の織物であることを特徴とする多軸織物。
【化1】

【請求項2】
多軸織物が、ゴム又は樹脂との複合材料における補強用基布であることを特徴とする請求項1に記載の多軸織物。

【公開番号】特開2009−19281(P2009−19281A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−165005(P2007−165005)
【出願日】平成19年6月22日(2007.6.22)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】