説明

多重モード圧電フィルタ

【課題】 多段接続多重モード圧電フィルタにおいて、電極群間の音響的結合を確実に阻止することのできる構造を持ち、調整が容易で、しかも高性能の圧電フィルタを提供する。
【解決手段】 1つの保持器1内に、それぞれ入出力振動電極対およびアース電極が形成された2つの圧電基板2,3を収容し、その各圧電基板2,3の各電極のうち、少なくともアース電極23,33を除いた全ての電極を、それぞれ保持器1内に設けられた個別の接続端子に独立的に接続された構造とすることにより、圧電基板2,3間の音響的結合を阻止し、かつ、各圧電基板2,3を個別に最終調整した後に縦属接続可能とする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は圧電基板を用いた多重モード圧電フィルタに関し、更に詳しくは、多段接続型の多重モード圧電フィルタに関する。
【0002】
【従来の技術】圧電基板の厚みすべり振動等を利用した圧電フィルタにおいては、一般に、圧電基板の一面に所定のギャップを開けて入出力振動電極対(分割電極)を形成するとともに、その反対側の面にはこれらと対向するようにアース電極を形成した構造を採る。また、このような圧電フィルタを例えば通信機器等に組み込む場合には、その実装工程の簡易化等を目的として、例えばセラミックス製の表面実装型の保持器内に挿入するとともに、圧電基板はその振動を妨げない適宜位置において保持器に支持した構造が多用されている。
【0003】ところで、この種の圧電フィルタにおいては、通常、高い減衰特性を得るためには、複数の圧電フィルタを縦属接続する、いわゆる多段接続とする必要があるが、1つの表面実装型保持器内に1つの圧電フィルタを収容したものでは、このような多段接続を行う場合には実装面積が大となってしまい、機器の小型化を阻害する原因となる。
【0004】このような問題を解決すべく、従来、1つの圧電基板上に2組の入出力振動電極対およびアース電極を形成して保持器内に収容した、いわゆる多段接続多重モード圧電フィルタ素子が提案され、実用化されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上記のような多段接続多重モード圧電フィルタ素子は、通常、1つの圧電基板上に2組の電極群を形成するとともに、その一方の組の出力振動電極と他方の組の入力振動電極とを、別途接続することによって製品化されるがこの場合、一方の電極群を励振すると、各電極群間の音響的結合および電磁的結合に起因して、他方の電極群も共振してしまうため、個々のフィルタを独立的に調整することが実質的に不可能であり、製品の最終調整が極めて困難であるという問題がある。
【0006】そこで、従来、圧電基板上の2組の電極群間を仕切る位置に、スリットを穿設することで各電極間の音響的結合を緩和するとともに、そのスリット内に、保持器に固着した電磁遮蔽材料を貫通させることで、電磁的結合を阻止しようとする試み(特開昭59−23910号)や、同じく圧電基板上の2組の電極群間を仕切るように、基板の縁辺から切り込んだ遮蔽溝を形成し、その遮蔽溝の両側に帯状の金属層を設けたもの(特公昭57−56810号)、あるいは、圧電基板上の2組の電極群間を仕切る位置に、アース電極に接続される直線状の電極を形成し、更にその上に銀ペースト等の減衰材を塗布した構造のもの(特開昭61−17826号)が提案されている。
【0007】しかし、これらの提案における対策によっては、各電極群間の音響的および電磁的結合の阻止能は十分とは言えず、依然として最終調整が困難であるという問題がある。
【0008】本発明はこのような実情に鑑みてなされたもので、その主たる目的は、多段接続の多重モード圧電フィルタにおいて、従来の各提案に比して電極群間の音響的結合の阻止能が高い圧電フィルタを提供することにあり、また、本発明の他の目的は、それに加えて電極群間の電磁的結合の阻止能をも高くした圧電フィルタを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するため、第1発明では、1つの保持器1内に、それぞれ入出力振動電極対およびアース電極が形成された2つの圧電基板2および3が収容され、その各圧電基板2,3の各電極のうち、少なくともアース電極23,33を除いた全てが、それぞれ保持器1に独立的に設けられた個別の接続端子11,12,14,15に接続されていることを特徴としている。(図1参照)。
【0010】この第1発明の構成によると、各圧電基板2と3は、完全に分離され、かつ、各入出力振動電極21,22,31,32は保持器1内で互いに独立的に該当の接続端子11,12,14,15に接続されているが故に、2つの圧電基板2と3にそれぞれ電極群を形成した状態で保持器1内に組み込み、その状態で個別に最終調整を行い、その後、これらを従属接続することで多段化する、という工程を採用することが可能となる。また、使用状態においても、2つの圧電基板2と3が完全に分離されているため、音響的な結合が生じることがない。
【0011】ここで、図2に例示するように、2つの圧電基板2,3のうち、一方の圧電基板2の出力振動電極22が接続された保持器1の接続端子12と、他方の圧電基板3の入力振動電極31が接続された保持器の接続端子14とを、導電性接着剤17(またはボンディングワイヤ)によって保持器1内で互いに接続すると、保持器1の外部における配線が、従来の1つの圧電基板上に2組の電極対を設けてその圧電基板上で一方の出力振動電極と他方の入力振動電極とを接続した多段接続多重モード圧電フィルタ素子と全く同等となり、実装時において特別の工程または配線を必要としない点で望ましい。
【0012】また、各圧電基板2,3のアース電極23,33についても、それぞれ保持器1に独立的に設けられた個別の接続端子13,16に接続すると、各圧電基板2と3との間の干渉がより完全に絶たれ、より好ましい。
【0013】更に、2つの圧電基板2,3を、それぞれの入出力振動電極対間の中心線Cが互いにずれた状態で保持器内に収容すると(図3参照)、2つの圧電フィルタ間の電磁的な結合の遮断効果がより向上することになって好ましい。
【0014】上記の目的を達成するため、第2発明では、図4に例示するように、1つの圧電基板20に、入出力振動電極対とアース電極を2組形成するとともに、その2組の入出力振動電極対の間で、圧電基板20をこれと音響インピーダンスの異なる材料(減衰材)4によって保持器1に対して接続していることを特徴としている。
【0015】この第2発明の構成によれば、1つの圧電基板20上に2組の電極群が形成されている点、および、これらの電極群間に減衰材4を設ける点においては、従来の提案に基づく多段接続多重モード圧電フィルタと同じであるが、2組の電極群の間に設けられた減衰材4が圧電基板20を収容した保持器1に対して接続されているため、圧電基板20の減衰材4の配置部位は、保持器1に対するアンカー効果によってより振動が伝播しにくくなり、その減衰材4による振動減衰効果がより向上し、両電極群間の音響的結合はより確実に阻止される。
【0016】また、図5に例示するように、第2発明における圧電基板20に、2組の入出力振動電極対の形成面と同一側の面に、これら2組の入出力振動電極対の間を仕切るように別途アース電極5を形成し、そのアース電極5と保持器1とを、圧電基板と音響インピーダンスが異なり、かつ、導電性を有する材料(導電性減衰材料)6によって相互に接続すると、2組の入出力振動電極対間が電磁的に遮蔽されることになり、上記した音響的結合ばかりでなく、電磁的結合についても高い阻止能を達成することができる。
【0017】ここで、2組の入出力振動電極対の間を仕切るアース電極5を、図6に例示するように、それぞれの入出力振動電極対間の中心に向けて突出するパターンとするとともに、その各突出パターンの幅を、各入出力振動電極対に近づくほど狭くすると、各電極群の形成部位において生じて他方の電極群に向かう振動が、その振動の発生起点から遠ざかるほど質量が大となるアース電極5の質量付加効果によって効率的に吸収され、更には導電性減衰材6および保持器1によって減衰し、しかも、それぞれの組の入力振動電極から出力振動電極に到る方向の振動の伝播を阻止することがなく、より好ましい。
【0018】上記した目的を達成するため、第3発明では、図7〜図10に例示するように、1つの圧電基板200に、入出力振動電極対とアース電極が2組形成されているとともに、その2組の電極群の間を仕切る位置に、圧電基板200を貫通する切り欠き201(図7参照)、長孔202(図8参照)、または複数の貫通孔203(図9参照)、もしくは、少なくとも各入出力振動電極対が形成された側の面上の溝204(図10参照)が形成され、かつ、その切り欠き201、長孔202、複数の貫通孔203もしくは溝204内に弾性材料7が埋め込まれていることを特徴としている。
【0019】この第3発明の構成によると、1つの圧電基板200に2組の電極群が形成され、これらの間が、切り欠き201等で仕切られているのみならず、その切り欠き201等の内部に弾性材料7が埋め込まれているため、両電極群間を伝播する振動の減衰効果がより向上し、従来の提案に基づく多段接続多重モード圧電フィルタに比して音響的結合の阻止能がより向上する。
【0020】この第3発明の構成において、切り欠き201等の内部に埋め込まれた弾性材料7を、更に保持器1に接続すれば(図11参照)、振動の減衰効果はより向上する。
【0021】また、その図11の構成において、弾性材料7を導電性材料とし、その導電性の弾性材料7を保持器に形成されたアース接続端子1eに接続すると(図12R>2参照)、両電極群間の電磁的結合もが同時に遮断され、より好ましい。
【0022】上記した第2発明および第3発明の各構成において、2組の入出力振動電極対を、圧電基板20または200に互いに直交した状態で形成すると(図13参照)、一方の電極群と他方の電極群間で飛び交う電気力線の影響が少なくなり、電磁的結合の阻止能は更に向上する。
【0023】更に、上記した目的を達成するため、第4発明においては、図14に例示するように、1つの圧電基板2000に、入出力振動電極対とアース電極が2組形成されているとともに、その圧電基板2000が矩形の水晶片であり、かつ、その縁辺はx,z′軸に沿わず、各入出力振動電極対はそれぞれxまたはz′軸方向に沿ったギャップを開けて形成され、その各入出力振動電極は、圧電基板2000の縁辺部に形成された接続用パッドPに対して互いに同じ長さの引き出し電極パターン21a〜32aによって接続されていることを特徴としている。
【0024】この第4発明の構成では、各組の入出力振動電極対は、必然的にその中心線Cが互いにずれた状態で、各電極の引き出し電極Aの長さを同一とすることが可能となり、両電極群間の音響的結合および電磁的結合が抑制されると同時に、各引き出し電極の寄生容量を等しくすることができ、調整が容易となる。
【0025】ここで、本発明は、この第4発明の構成に対して、前記した第2および第3発明の構成を付加することを妨げず、これら第2および第3発明のいずれかの構成を第4発明の構成に付加することで、2組の電極群間の音響的・電磁的結合をより確実に阻止できることができ、より望ましい。
【0026】
【発明の実施の形態】以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施の形態について説明する。図1は第1発明を適用した実施の形態の説明図で、(A)は保持器1の上面部分(蓋)を取り除いて示す平面図、(B)はそのb−b断面図、(C)は保持器1の下面部分(底部)を透視して示す裏面図である。
【0027】セラミックス製の保持器1は、その周囲に上方に突出する周壁1aが形成されているとともに、その底面には2つのピット1b,1cが形成されている。この保持器1の内部に、それぞれピット1b,1cの上に被さるように、2つの圧電基板2および3が収容されている。各圧電基板2,3には、それぞれ、一方の面(裏面側)に互いに所定のギャップを開けて入力振動電極21(31)と出力振動電極22(32)の対が形成されているとともに、他方の面には、これらに対向するようにアース電極23(33)が形成されている。なお、保持器1には、これらの各圧電基板2,3を収容した状態で、その周壁1aに対して蓋(図示せず)が被せられ、全体をパッケージするようになっている。
【0028】各圧電基板2,3は、それぞれ、その寸法が2×3mm程度であり、それぞれ3箇所のコーナー部分において導電性接着剤Bによって保持器1に機械的に固定されている。また、これらの導電性接着剤Bによって、各圧電基板2,3に形成された各電極が、それぞれ保持器1の内部底面に独立的に形成された各接続端子(パッド)11〜16に個別に電気的に接続されている。
【0029】すなわち、圧電基板2の裏面側の入力振動電極21と出力振動電極22は、それぞれ引き出し電極パターン21aと22aによって基板2の対角線上に位置する各コーナー部に導かれて、導電性接着剤Bによって保持器1の接続端子11と12に、また、その圧電基板2の表面側のアース電極23は同じく引き出し電極パターン23aによって基板2の他のコーナー部に導かれ、同じく導電性接着剤Bによって保持器1の接続端子13に接続されている。他方の圧電基板3についても、その裏面側の入力振動電極31と出力振動電極32は、それぞれ引き出し電極パターン31aと32aによって基板3の対角線上の各コーナー部に導かれて、導電性接着剤Bによって保持器1の接続端子14と15に、また、表面側のアース電極33は引き出し電極パターン33aによって基板3の他のコーナー部に導かれ、同様にして導電性接着剤Bによって保持器1の接続端子16に接続されている。そして、各接続端子11〜16は、それぞれ保持器1の裏面に形成された表面実装用の外部接続端子(図示せず)に接続されている。
【0030】以上の構成において、一方の圧電基板2の出力振動端子22が接続されている接続端子12と、他方の圧電基板3の入力端子31が接続されている接続端子14とが互いに接続された状態、つまり、多段接続多重モード圧電フィルタとして使用される。この接続端子11と14の接続は、保持器1外において行ってもよいし、保持器1内にこれらの接続端子11と14とを接続するボンディングワイヤを設けるか、あるいは、例えば図2に要部拡大裏面図を示すように、2つのピット1aと1bの間の隔壁1dの上面に沿って設けた導電性接着剤17によって接続端子11と14を接続する等によって、保持器1内で接続してもよい。ただし、その接続工程は、いずれの接続方法を採用するにしても、各圧電基板2,3について、それぞれ個別の最終調整を施した後に実行される。
【0031】以上の第1発明の実施の形態によれば、1つの保持器1内に互いに完全分離状態の2つの圧電基板2と3が収容され、かつ、これらの圧電基板2と3のそれぞれに形成された電極群の全てが、保持器1内に独立的に形成された接続端子11〜16に個別に接続されているから、それぞれが多重モード圧電フィルタを構成する、圧電基板2,3とこれに形成された電極群について、それぞれ個別に調整をした後に縦属接続することが可能となるとともに、使用状態においても各多重モード圧電フィルタは実質的に互いに音響的に結合されず、1つの保持器1内に収容されたコンパクトな表面実装型の多段接続多重モード圧電フィルタでありながら、調整が容易で、しかもスプリアスの少ない、保証減衰量の大きな高品質のものとなる。
【0032】また、図2のように各圧電基板2と3の出力〜入力間を保持器1内で導電性接着剤17等によって互いに接続すると、保持器1外での外部回路との接続は従来の通常の多段接続多重モード圧電フィルタと全く同様となり、特別な考慮をする必要がない。
【0033】更に、上記した実施の形態では、各圧電基板2,3のアース電極23,33についても、独立的に保持器1の接続端子13,16に接続したが、これらのアース電極23と33については、保持器1の共通の接続端子に接続してもよい。ただし、上記した例のようにアース電極23と33を独立的に個別の接続端子に導いた場合には、電磁的結合を阻止する点においてより有効であることが判明している。
【0034】更にまた、図3に第1発明の他の実施の形態の裏面図を示すように、各圧電基板2と3を、それぞれの入出力振動電極対間の中心線Cが互いにずれた状態で(当然、これに対応して各アース電極についてもその中心が互いにずれた状態で)保持器1内に収容すると、各電極群間で飛び交う電気力線の影響を少なくすることが可能となり、2つの多重モード圧電フィルタ間の電磁的結合をより有効に阻止することが可能となる。
【0035】次に第2発明の実施の形態について述べる。図4は第2発明を適用した実施の形態の説明図で、(A)は保持器1の上面部分(蓋)を取り除いて示す平面図、(B)はそのb−bで示される面で切断した要部拡大断面図、(C)は保持器1の下面部分(底部)を透視して示す裏面図である。
【0036】この例においては、先の例と同等の保持器1内に1つの圧電基板20が収容されており、その圧電基板20に、2組の入出力振動電極対21と22、31と32、および、これらとそれぞれに対向するアース電極23、33が形成されている。圧電基板20は、その4つのコーナー部および互いに対向する2辺の略中央部において、合計6箇所で導電性接着剤Bによって保持器1に接続されており、その各接続箇所において保持器1には、それぞれ接続端子(パッド)11〜16が形成されている。そして、2組の電極群のそれぞれが、引き出し電極パターンによって個別に各接続端子11〜16に接続されている。
【0037】この実施の形態の特徴は、2組の電極群の間に、例えば接着剤等の、圧電基板20とは音響インピーダンスの異なる材料からなる減衰材4が配置され、この減衰材4によって、圧電基板20と保持器1とが互いに機械的に接続されている点である。すなわち、減衰材4は、保持器1の2つのピット1b,1cの間の隔壁1dの上面と、圧電基板20の入出力電極対が形成されている裏面との間を繋いでいる。
【0038】この構成によると、圧電基板20内を一方の電極群から他方の電極群へと伝播する振動が、言わば保持器1によるアンカー効果によって振動が規制された減衰材4により、つまり保持器1との接続によって振動が規制された減衰材4により極めて有効に減衰し、両電極群間の音響的結合の阻止能を極めて高くすることができる。
【0039】図5は第2発明の他の実施の形態の説明図であり、図4(B)に対応してこれと同じ面で切断した拡大断面図である。この図5に示す例は、圧電基板20の2組の電極群21,22,23と31,32,33、および保持器1への取り付け・接続構造については図4の例と同様であるが、この図5の例の特徴は、圧電基板20の裏面側に、表面側のアース電極23,33とは別に、2組の入出力振動電極対の間を仕切るように別途アース電極5を形成し、そのアース電極5を介して、導電性減衰材6によって圧電基板20と保持器1とを機械的に接続すると同時に、その導電性減衰材6により、アース電極5を、保持器1に形成されたアース接続端子1eに電気的に接続している点である。導電性減衰材6としては、例えば導電性接着剤を用いることができる。
【0040】この図5の構成によると、図4の例と同様に、保持器1によって振動が規制された導電性減衰材6によって、2組の電極群間を伝播する振動が効果的に減衰すると同時に、これらの両電極群の間が、アース電位の導電体で遮蔽された状態となる結果、両電極群間に飛び交う電気力線が有効に遮蔽され、これらの電極群間の電磁的結合が阻止される。
【0041】図6は図5の例を更に発展させた形態の説明図で、保持器1の下面部分を透視して示す裏面図である。この図6の例は、圧電基板20の裏面側に設けたアース電極5が、導電性減衰材6によって保持器1のアース接続端子1e(図6において図示せず)に機械的および電気的に接続されている点において図5の例と同じであるが、そのアース電極5電極のパターンに特徴がある。すなわち、アース電極5は、各組の入出力振動電極対21と22、および31と32の各中心に向けて突出するパターンを有し、かつ、その突出パターンは各電極対に近づくほど、その幅が狭くなっている。
【0042】この図6の構成によると、各電極群から他方の電極群に向かう振動が、その振動の発生起点である入出力振動電極対から遠ざかるほど質量が大となるアース電極5の質量付加効果によって効率的に吸収され、更にそのアース電極5と保持器1とが導電性減衰材6によって互いに接続されているため、その吸収された振動は有効に減衰する。しかも、アース電極5の突出パターンの幅は各電極対に近づくほど狭くなっているから、それぞれの組の入力振動電極から出力振動電極に到る方向の振動の伝播を阻止することがない。
【0043】なお、図6では、各組の入出力振動電極対の中心線が互いにずれている例を示したが、図6に示したアース電極パターンの思想は、その各中心線が互いにずれていない場合にも全く同様に適用できることは勿論であり、この場合、アース電極5のパターンは左右対称に突出したパターンとなる。
【0044】次に、第3発明の実施の形態について説明する。図7はその説明図で、(A)は保持器1の上面部分(蓋)を取り除いて示す平面図、(B)はそのb−bで示される面で切断した拡大断面図、(C)は保持器1の下面部分(底部)を透視して示す裏面図である。
【0045】この図7の例においては、第2発明の各例と同様に1つの圧電基板200に2組の電極群、すなわち入出力振動電極対21,22とこれに対向するアース電極23、および、これとは別の入出力振動電極対31,32とこれに対向するアース電極33が形成されているとともに、その圧電基板200は6箇所において導電性接着剤Bにより保持器1に機械的に接続されていると同時に、その各導電性接着剤Bによって各電極が保持器1に設けられた各接続端子11〜16にそれぞれ電気的に接続されている。
【0046】この図7の例における特徴は、2組の電極群を仕切る位置に、圧電基板200の一辺からそれに対向する辺近傍にまで到り、かつ、基板200を表裏方向に貫通する切り欠き201が形成され、しかも、その切り欠き201の内部に、接着剤あるいは他の樹脂等の弾性材料7が充填されている点である。
【0047】このような構成によれば、2組の電極群間を伝播する振動は、切り欠き201並びにその内部の弾性材料7によって効率的に減衰し、両電極群間の音響的結合が確実に阻止される。
【0048】ここで、この第3発明においては、2組の電極群間を仕切る切り欠きに201に代えて、図8に圧電基板200の要部裏面図で示すように長孔202とし、あるいは図9に同じく基板200の要部裏面図で示すように複数の貫通孔203とし、もしくは、図10(A),(B)にそれぞれ圧電基板200の要部断面図で示すように、各入出力振動電極対が形成された側の面上の溝204、およびこれに加えてその反対側の面上の溝205とし、これらに弾性材料7を充填しても、図7の例と全く同様の効果を奏することができる。
【0049】この図7〜図10に示す構成では、圧電基板200は特に表面実装用の保持器1内に収容されている必要がなく、任意の状態で使用することができる。そして、この第3発明においては、表面実装用の保持器1内に収容して用いる場合、上記した切り欠き201や長孔202等の内部に充填した弾性材料7を、図11に要部断面図で示すように、圧電基板200の裏面側から突出させて保持器1にまで至らせ、実質的に圧電基板200と保持器1とを弾性材料7によって機械的に接続すれば、第2発明の構成と同様に、弾性材料7の振動が保持器1との接続によって規制される結果、2組の電極群間の音響的結合の阻止能は更に向上する。
【0050】更に、この第3発明において、図12に要部断面図を示すように、切り欠き201や長孔202等の内部に充填する弾性材料7を、導電性接着剤等の導電性を有する弾性材料とするとともに、その導電性の弾性材料7を、保持器1に形成されたアース接続端子1eに接続すれば、図5に示した第2発明の例と同様に、両電極群間の音響的結合を阻止すると同時に電磁的結合をも阻止するとができる。
【0051】ここで、以上説明した第2発明および第3発明の各実施の形態において、図13にその圧電基板20または200を抽出してその裏面図をを示すように、圧電基板20または200上に、各入出力振動電極対21,22と31,32を互いに直交させて形成すると、各入出力振動電極対間で飛び交う電気力線の影響が軽減され、各電極群間の電磁的結合の阻止能が更に向上する。
【0052】次に、第4発明の実施の形態について述べる。図14は第4発明の実施の形態の説明図で、圧電基板を形成する水晶片の、入出力振動電極対が形成された側の面を示す平面図である。
【0053】この例においては、矩形の水晶片2000を圧電基板として、その1つの水晶片2000に2組の電極群、すなわ入出力振動電極対21,22とこれに対向するアース電極23、および、入出力振動電極対31,32とこれに対向するアース電極33が形成されている。
【0054】水晶片2000の四辺は、それぞれその結晶のx軸とz′軸に対して平行ではなく、これら各軸に対して所定の角度、例えば45°の角度で傾斜している。一方、各組の入出力振動電極対はそれぞれ、一方の結晶軸、例えばx軸方向に沿ったギャップを介して配置され、従って電極対全体として水晶片2000の各片に対して45°の角度で傾斜した状態で形成されている。また、それに対応してアース電極23および33も水晶片2000の各辺に対して同じく45°の角度で傾斜して形成されている。そして、各電極は、それぞれ引き出し電極パターン21a〜33aによって、水晶片2000の縁辺部に形成された各接続用パッドPに引き出され、この各パッドPの部分で例えば導電性接着剤(図示せず)によって保持器の接続端子(パッド)11〜16に接続されるが、このうち、各組の入出力振動電極21,22,31,32の引き出し電極パターン21a,22a,31a,32aは、その長さが全て同じである。
【0055】以上の構成によれば、2組の入出力振動電極対の中心線が必然的に一致せずにずれた状態となり、これによって各電極群間の電磁的並びに音響的結合が抑制されると同時に、各入出力振動電極は互いに等しい長さを持つ引き出し電極パターンを経て保持器の接続端子等の外部回路に導かれるから、各組の入出力振動電極対に生じる寄生容量が互いに等しくなり、フィルタ特性を互いに揃えることが容易であり、ひいては最終調整が容易となるという利点がある。
【0056】なお、この図14に例示した第4発明の構成と、先に述べた第2および第3発明の各構成のうちの任意のものとを併用すると、各電極群間の音響的、電磁的結合の阻止能をより向上させることができ、しかも各電極群についての寄生容量を互いに等しくすることができる。
【0057】また、先に述べた第1発明の構成と、この第4発明の構成を合体させることもできる。すなわち、1つの保持器内にそれぞれ1組ずつの電極群が形成された2つの圧電基板を配置するとともに、この各圧電基板を、結晶軸方向に対して斜めの辺を持つものとし、かつ、各電極群については結晶軸方向に沿わせた構造として、図14の例と同様に各引き出し電極の長さを一致させる。この場合、第1発明の効果に加えて、各圧電基板の入出力電極対の中心線がすれることによる電磁的結合の抑制効果、および規制容量の均等化といった第4発明の効果をほぼそのまま奏することができる。
【0058】
【発明の効果】以上のように、第1発明によれば、1つの保持器内に、それぞれに入出力振動電極対およびアース電極が形成された2つの圧電基板を配置し、その各基板の電極のうち、少なくともアース電極を除く全ての電極を、保持器に形成された接続用端子に独立的に接続したので、各圧電基板は互いに音響的には完全に分離されているとともに、相互に縦属接続する前に個別に最終調整を行うことが可能となり、容易に所望の特性を持つ高性能の多段接続多重モード圧電フィルタを得ることができる。
【0059】また、第2発明によれば、1つの圧電基板上に2組の入出力振動電極対およびアース電極を形成するとともに、圧電基板の2組の入出力振動電極対の間を仕切るように減衰材を設け、この減衰材によって圧電基板と保持器とを接続したので、2組の電極群間を伝播する振動は、保持器に接続されて振動が規制された減衰材によって効率的に減衰し、両電極群間の音響的結合が確実に阻止される。また、その減衰材を導電性のものとするとともに、この導電性減衰材によって、圧電基板の入出力振動電極対の形成側の面に別途形成されたアース電極と保持器のアース接続端子とを電気的にも接続すると、両電極群間の電磁的結合をも併せて阻止することができる。
【0060】更に、第3発明によれば、1つの圧電基板上に2組の入出力振動電極対およびアース電極を形成するとともに、圧電基板の各電極群間を仕切る位置に切り欠き、長孔、多数の貫通孔、あるいは溝を形成し、しかもその切り欠きや長孔等の内部に弾性材料を充填したから、各電極群間を伝播する振動が有効に遮蔽される。また、その弾性材料を更に保持器にまで到達させ、その弾性材料によって保持器と圧電基板とを機械的に接続すれば、その振動遮蔽効果は更に向上するとともに、その弾性材料を導電性のものとして保持器のアース接続用端子に電気的に接続すれば、両電極群間の電磁的結合をも同時に阻止することが可能となる。
【0061】更にまた、第4発明によれば、矩形の水晶片によって形成され、かつ、その結晶のx軸およびz′軸がその矩形の各辺に沿わない1つの圧電基板に、入出力振動電極対およびアース電極からなる電極群を2組形成するとともに、その各入出力振動電極対を、x軸またはz′軸に沿ったギャップを介在するような姿勢として、その各入出力振動電極を、全て同じ長さの引き出し電極パターンによって圧電基板の縁辺部に形成された接続用パッドに導いたから、各入出力振動電極の寄生容量を互いに等しくすることができると同時に、必然的に各入出力振動電極対の中心線が互いにずれたものとなり、これら両者間の音響的結合および電磁的結合を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1発明の実施の形態の説明図で、(A)は保持器1の上面部分(蓋)を取り除いて示す平面図、(B)はそのb−b断面図、(C)は保持器1の下面部分(底部)を透視して示す裏面図
【図2】第1発明の実施の形態において、一方の出力振動電極22と他方の入力振動電極31とを保持器1内で接続する場合の構成例の説明図で、保持器1の下面部分を透視して示す要部拡大裏面図
【図3】第1発明の他の実施の形態の説明図で、保持器1の下面部分を透視して示す裏面図
【図4】第2発明の実施の形態の説明図で、(A)は保持器1の上面部分を取り除いて示す平面図、(B)はそのb−bで示される面で切断した要部拡大断面図、(C)は保持器1の下面部分を透視して示す裏面図
【図5】第2発明の他の実施の形態の説明図であり、図4R>4(B)に対応してこれと同じ面で切断した拡大断面図
【図6】第2発明の更に他の実施の形態の説明図で、保持器1の下面部分を透視して示す裏面図
【図7】第3発明の実施の形態の説明図で、(A)は保持器1の上面部分を取り除いて示す平面図、(B)はそのb−bで示される面で切断した要部拡大断面図、(C)は保持器1の下面部分を透視して示す裏面図
【図8】第3発明の他の実施の形態の説明図
【図9】第3発明の更に他の実施の形態の説明図
【図10】第3発明の更にまた他の実施の形態の説明図
【図11】第3発明のまた更に他の実施の形態を示す要部断面図
【図12】第3発明の更にまた他の実施の形態を示す要部断面図
【図13】第2および第3発明における入出力振動電極対の他のパターンの例を示す圧電基板20まはた200の裏面図
【図14】第4発明の実施の形態の説明図で、水晶片2000の入出力振動電極対の形成側の面の平面図
【符号の説明】
1 保持器
1b,1c ピット
1d ピット間の隔壁
1e アース接続用端子
11〜16 接続端子(パッド)
17 導電性接着剤
2,3,20,200 圧電基板
21,31 入力振動電極
22,32 出力振動電極
23,33 アース電極
21a,22a,23a,31a,32a,33a 引き出し電極パターン
4 減衰材
5 アース電極
6 導電性減衰材
7 弾性材料
201 切り欠き
202 長孔
203 貫通孔
204,205 溝
2000 水晶片
B 導電性接着剤
P 接続用パッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】 圧電基板の一面に互いに所定のギャップを開けて入出力振動電極対が形成され、その反対側の面にはこれらと対向するようアース電極が形成された多重モード圧電フィルタにおいて、1つの保持器内に、それぞれ上記入出力振動電極対およびアース電極が形成された2つの圧電基板が収容され、その各圧電基板の各電極のうち、少なくともアース電極を除いた全てが、それぞれ保持器に独立的に設けられた個別の接続端子に接続されていることを特徴とする多重モード圧電フィルタ。
【請求項2】 上記2つの圧電基板のうち、一方の圧電基板の出力振動電極が接続された保持器の接続端子と、他方の圧電基板の入力振動電極が接続された保持器の接続端子とが、それぞれ保持器内で導電性接着剤またはワイヤボンディングによって互いに接続されていることを特徴とする、請求項1に記載の多重モード圧電フィルタ。
【請求項3】 上記各圧電基板のアース電極についても、それぞれ保持器に独立的に設けられた個別の接続端子に接続されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の多重モード圧電フィルタ。
【請求項4】 上記2つの圧電基板は、それぞれの入出力振動電極対間の中心線が、互いにずれた状態で保持器内に収容されていることを特徴とする、請求項1,2または3に記載の多重モード圧電フィルタ。
【請求項5】 圧電基板の一面に互いに所定のギャップを開けて入出力振動電極対が形成され、その反対側の面にはこれらと対向するようアース電極が形成された多重モード圧電フィルタにおいて、1つの圧電基板に、上記入出力振動電極対とアース電極が2組形成されているとともに、その2組の入出力振動電極の間で、圧電基板がこれと音響インピーダンスの異なる材料によって保持器に対して接続されていることを特徴とする多重モード圧電フィルタ。
【請求項6】 上記圧電基板には、2組の入出力振動電極対の形成面と同一側の面に、これら2組の入出力振動電極対の間を仕切るように別途アース電極が形成され、そのアース電極と保持器とが、圧電基板と音響インピーダンスが異なる導電性材料によって相互に接続されていることを特徴とする、請求項5に記載の多重モード圧電フィルタ。
【請求項7】 上記2組の入出力振動電極対の間を仕切るアース電極は、それぞれの入出力振動電極対間の中心に向けて突出するパターンを有し、その各突出パターンの幅は、各入出力振動電極対に近づくほど狭くなっていることを特徴とする、請求項6に記載の多重モード圧電フィルタ。
【請求項8】 上記2組の入出力振動電極対が、上記圧電基板上に互いに直交した状態で形成されていることを特徴とする、請求項5,6または7に記載の多重モード圧電フィルタ。
【請求項9】 圧電基板の一面に互いに所定のギャップを開けて入出力振動電極対が形成され、その反対側の面にはこれらと対向するようアース電極が形成された多重モード圧電フィルタにおいて、1つの圧電基板に、上記入出力振動電極対とアース電極が2組形成されているとともに、その2組の電極群の間を仕切る位置に、圧電基板を貫通する切り欠き、長孔または複数の貫通孔、もしくは、少なくとも各入出力振動電極対が形成された側の面上の溝が形成され、かつ、その切り欠き、長孔、複数の貫通孔もしくは溝内に弾性材料が埋め込まれていることを特徴とする多重モード圧電フィルタ。
【請求項10】 上記圧電基板が保持器内に収容されているとともに、上記弾性材料が保持器に接続されていることを特徴とする、請求項9に記載の多重モード圧電フィルタ。
【請求項11】 上記弾性材料が導電性材料であり、その導電性材料が保持器に形成されたアース接続端子に接続されていることを特徴とする、請求項10に記載の多重モード圧電フィルタ。
【請求項12】 上記2組の入出力振動電極対が、上記圧電基板上に互いに直交した状態で形成されていることを特徴とする、請求項9,10または11に記載の多重モード圧電フィルタ。
【請求項13】 圧電基板の一面に互いに所定のギャップを開けて入出力振動電極対が形成され、その反対側の面にはこれらと対向するようアース電極が形成された多重モード圧電フィルタにおいて、1つの圧電基板に、上記入出力振動電極対とアース電極が2組形成されているとともに、その圧電基板が矩形の水晶片であり、かつ、その縁辺はx,z′軸に沿わず、上記各入出力振動電極対はそれぞれxまたはz′軸方向に沿ったギャップを介して形成され、その各入出力振動電極は、圧電基板の縁辺部に形成された接続用パッドに対して互いに同じ長さの引き出し電極パターンによって接続されていることを特徴とする多重モード圧電フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図7】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開平9−46170
【公開日】平成9年(1997)2月14日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−192142
【出願日】平成7年(1995)7月27日
【出願人】(000149734)株式会社大真空 (312)