説明

多重反射型イオントラップ稼働方法

本発明は、イオンを多重反射により反復運動させ、或いは一群の電極の周囲等で閉軌道沿いに周回運動させるタイプの荷電粒子トラップを稼働させる方法に関する。本発明においては、その後段での検出及びフラグメント化に備え複数種のイオンを互いに好適に分離させるべく、イオントラップ内におけるイオンの反復運動周期を参照してタイミングを導出し、そのタイミングに従いそのイオンをイオントラップ外に偏向、出射させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一群の電極の作用下で多重反射的にイオンを反復運動させ又は周回的に閉軌道を辿らせるタイプの荷電粒子トラップに関する。より詳細には、本発明は、その種のトラップを稼働させ、引き続く検出乃至フラグメント化に備え複数種のイオンを好適に相互分離させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では質量分析(mass spectrometry)に備え荷電粒子を捕獲乃至貯留する技術が数多く知られている。なかでも三次元RF(無線周波数)トラップ、リニア多重極RFトラップ等のイオントラップや、昨今その普及が進みつつあるOrbitrap(登録商標;以下表記省略)等のトラップでは、外部から注入され又はその内部で発生したイオンが単振動(調和振動)的に反復運動する。その状態でそのトラップに対し励振場を印加すれば、イオンを選別して他のトラップに送り、質量分析、検出等に供することができる。これは、トラップ内に存する個々のイオンがその質量電荷比(m/z比)で決まる特徴的な反復運動周期を有しているためである。即ち、そのトラップ全体に時間変動性の場(時変場)を印加すると、そのトラップから特定m/z比のイオンが励振、射出されることとなる。
【0003】
他方、イオンを単振動させない多重反射(multi-reflection)型のトラップ、例えば二組の反射電極を差し向かいに配置した構成のEST(electrostatic trap:静電トラップ)では、イオンが少なくとも一種の場の作用を受けて空間を飛行し、また少なくとも2個の反射電極によって反射される。この種のトラップでは、励振場を印加したときに選別されるイオンのm/z比が一種類になるとは限らない。これは、イオンのトラップ内反復運動周波数が、単振動で励振する場合と違い一種類ではなく、複数の周波数成分を含むある値域に亘るからである。即ち、イオン反復周期はそのm/z比毎にユニークであるが、その反復運動が正弦波的でないため、そのイオンを様々な周波数の正弦波時変場によって励振することができる。そのため、印加する励振場が単一周波数の正弦波であってもトラップ内では様々なm/z比のイオン種の反復運動が励振されるので、イオン種をそのm/z比に従い高分解能分解する際そうした場を使用することはできない。
【0004】
ただ、そのm/z比が異なる様々なイオン種が同周波数で反復運動することがあるといっても、上述の通りトラップ内反復運動周期がm/z比毎にユニークであることに違いはない。言い換えれば、そのm/z比が(m/z)1のイオン種がトラップ内の任意点を時刻t1,t2,t3,t4,…に通り、そのm/z比が(m/z)2である別のイオン種が同じ点を時刻ta,tb,tc,td,…に通る場合、前者の反復運動周期(t2−t1)=(t3−t2)=(t4−t3)=…と後者の反復運動周期(tb−ta)=(tc−tb)=(td−tc)=…は等しくならない(即ちtb−ta≠t2−t1)。
【0005】
従って、そのトラップの特定の個所に特定のタイミングで励振場を印加すれば、所要m/z比のイオンを励振することができる。その際、注目イオン(ions of interest)だけを励振することも可能だが、現実にはその逆を行うのが普通である。即ち、不要イオンが励振されトラップ外に出て行くような、或いは不要イオンがトラップ内構造物と衝突して消滅するような励振場を、注目イオン以外の全てのイオンを相手に印加する。この励振場は、注目イオンが励振場の作用区画を通るタイミングで毎回停止させる。これによって、そのトラップ内のイオンのm/z比域が狭まっていき、そのトラップ内に残るイオンはある狭い一種類のm/z比域に近づいていく。励振場は、通常、偏向器の電極にパルス電圧を印加することによって発生させる。その電極は、そのイオントラップ内でイオンが辿る経路の近くに配置する。
【0006】
こうした原理に基づく反射型トラップの従来例としては、まず特許文献1に記載のものがある。この文献では、反射型トラップを構成する正バイアスされた反射電極間を陽イオンが行き来する。それら反射電極のうち一方は所要m/z比のイオンが飛来するタイミングのみで正バイアスされるので、所要m/z比でないイオンは、それ以外の期間で悉くその反射電極を通り抜け廃棄されることとなる。また、特許文献2にはこれと類似した反射型トラップが記載されている。このトラップでは、複数個の反射電極を差し向かいに配置し、そのうち一方へのバイアス印加をある特定の期間に停止させることによって、狙ったイオンをその電極越しに通過させ検出器に送る。また、このトラップではトランスミッション向上のため反射電極間に静電粒子ガイドが設けられている。こうしたガイドがあるため、その飛行経路上のイオンを選択的に射出することができる。
【0007】
他方、特許文献3等に記載の従来システムでは、そのトラップを比較的低いm/z比分解能で随時稼働させることができる。また、連続だが割合に広いm/z比域に亘りイオンを取り出し後段での処理乃至検出に供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第3226543号明細書
【特許文献2】米国特許第6013913号明細書
【特許文献3】米国特許第6888130号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0151076号明細書
【特許文献5】ソビエト連邦特許第1716922号明細書
【特許文献6】米国特許第6300625号明細書
【特許文献7】英国特許第2080021号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2005/0151076号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2005/0045817号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2005/0077461号明細書
【特許文献11】英国特許第2402260号明細書(A)
【特許文献12】米国特許第6469295号明細書(B)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここに、先に述べた方の手法、即ち励振を繰り返してm/z比分解能を高める手法では、イオンをアイソクロナス(isochronous)に反復運動させることと、そのイオンをトラップ内に十分長期間に亘り捉えておくこととが必要になる。しかし、通常はトラップ内イオン光学系が完全無欠でないためこれらの条件は完全には満たされず、実質的な稼働周期が限られることとなる。即ち、そのトラップの分解能限界に到達してしまうと、それ以上イオンの反復運動を継続させても何も得られなくなる。継続させても、単に、そのイオンがそのトラップ内のバックグラウンドガスとの散乱現象に余計に曝されるだけである。なお、上述の時間的制限は数〜数百msecのオーダである。
【0010】
また、従来技術には、いちどきに選別、射出させうるのが、ある単一のm/z比のイオン(高分解能型)か、或いは複数の似通ったm/z比を含むある連続なm/z比域内のイオン(低分解能型)か、のどちらかに限られる、というやっかいな短所がある。まず、高分解能型では、選別できるイオンの種数がそのトラップへの注入1回当たり一種だけであり、たった一種のイオンを分析するのに一稼働周期をまるまる費やさねばならない。タンデム質量分析(MS/MS分析)を1回行うだけなら、選別すべき親イオン(プリカーサイオン)が一種だけであるので、こうした事情が問題にならないかもしれない。しかしながら、広域に亘る質量スペクトルを高分解能で即ちMS/MS分析の繰返しで捉えるには、これではトラップへのイオン注入を何回も行わねばならず、長い時間がかかってしまう。ことに、分析にかけられる試料が少量だと、この手法ではほんの僅かなm/z比域しか分析できない。他方、低分解能型、即ち似通ったm/z比のイオンを低分解能選別する従来技術では、それとは別の問題が発生する。まず、その後段での処理乃至検出に使用できる典型的な広ダイナミックレンジ検出器(荷電粒子増倍検出システム例えばダイノードアレイ付電子増倍器たるチャネルトロンにより形成されたもの)の応答遅延は、1〜10μsecオーダと長い。通常、多重反射型トラップから出てくるイオンパケット(小群)のパルス幅は20〜100nsecのオーダであり、これは当該典型的な検出器の応答遅延に比べて数桁程短いので、そのアバンダンス(パケット規模)に大きなばらつきがありそのm/z比が似通っている複数種のイオンを、高分解能選別することができない。なお、遅延時間をもっと短くするには飛行時間効果(TOF)型質量分析計用の特殊な検出器を用いればよいが、反面でそのダイナミックレンジがかなり狭くなるのが普通である。ダイナミックレンジが狭いのは、そのピーク電流値が従前の低速な検出器と同等水準であるのに、その種の検出器では質量ピークがかなり小さい(従って検出電荷総量がかなり少ない)からである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
これらの課題に対処するため、本発明のある実施形態では次のような方法を提案する。この方法は、多重反射型又は閉軌道型のイオントラップアセンブリを稼働させる方法であって、(a)イオントラップに注入され又はその内部で発生したイオン種の大群に属し、そのトラップの内部経路上で実質的にアイソクロナスに且つそのイオンのm/z比に対応する特徴的な運動周期で反復又は周回運動している種々のイオンのなかで、当該運動周期が違うn種(但しn≧2)を注目イオンとして特定するステップと、(b)そのトラップの内部又は近傍に設けられているイオンゲートを、そのトラップの内部経路上で運動中の注目イオンを第1イオン経路に通す第1ゲート状態と、同内部経路上で運動中の他種イオンを第1イオン経路とは別の第2イオン経路方向に通す第2ゲート状態との間で、切り替えるステップと、を有する。本方法では、第1ゲート状態へのゲート状態切替を、そのうち第1の種のイオンの運動周期に従い定めたタイミングTa(但しa≧1)、同じく第2の種のイオンの運動周期に従い定めた別のタイミングTb(但しb≧1)等々、n種ある注目イオンそれぞれの運動周期に従い定めた一群のタイミングTx(但しx=1,2,…)に従い実行することにより、それらの注目イオンを他種イオンから分離させる。
【0012】
ここでいうイオントラップとは、イオンの運動経路を所定の反復又は周回運動経路に制限することが可能な種々の装置のことである。このトラップは、その内部にある所定の反復又は周回運動経路上を繰返し巡るよう、その稼働時にイオンの運動を制約する。なかでも使いやすいのはESTであるが、本件技術分野で習熟を積まれた方々(いわゆる当業者)には自明な通り他種トラップにも使用可能なものがある。
【0013】
また、イオンゲートとは、例えば、随意に作動及び停止可能な静電偏向型又は電磁偏向型のイオン偏向器のことである。このゲートは例えばトラップの内部又は近傍に配置し、そのトラップの内部経路上を辿っているイオンをそのゲートを介し第1イオン経路や第2イオン経路に送るようにする。第1及び第2イオン経路のうち一方は例えばその内部経路をそのまま延長した経路とする。その場合、そのトラップの内部経路上のイオンを、あるゲート状態ではその経路からずれた方向へと偏向させ、他方のゲート状態では偏向させずにそのままその経路を辿らせることができる。
【0014】
このイオントラップアセンブリを稼働させると、トラップ内イオンのうちその運動周期が異なる複数の種が特定され、その運動周期を示す情報に基づく相応のタイミングでゲートが作動する。その結果、それらの種のイオン即ち注目イオンが他種イオンから分離される。例えば、静電偏向型のイオン偏向器を、その作動で他種イオンを偏向させるゲートとして使用する。注目イオンについては、ゲート近傍に存するタイミングを予め知ることができるので、該当するタイミングにてゲートによる偏向動作を停止させればよい。また、偏向させた他種イオンは、そのトラップ例えばESTの壁面に射突させてもよいし、そのトラップから出射させてもよい。出射させたイオンをそのトラップ外のイオン貯留装置に蓄えるようにすれば、そのイオンを後のサイクルで再度トラップに注入し更なる分析に供することもできる。或いは、そのイオンを他の装置で更に処理すること、例えばフラグメント化することもできる。
【0015】
ゲートの幾何学的な位置は例えばトラップのほぼ中心にする。トラップのほぼ中心にあると、原理的にいって、イオンがトラップ内の“半行程”を旅する期間と残りの“半行程”を旅する期間とが同じ期間Tx/2になるのが普通である。イオンがその一往復当たり2回ゲートを通るので、ゲート状態の切替は一往復当たり2回必要になる。また、ゲートの位置をトラップの中心からずらすこともできる。その場合も一往復当たり2回ゲート状態を切り替えることとなるが、切替から次の切替までの時間とその切替から更にその次の切替までの時間は、種が同じでも異なる時間になる。この他、イオンの一往復又は一周当たりゲート通過回数が1回のみになるようトラップを構成することもできる。
【0016】
各イオン種の反復運動周期は前もって知ることができるので、相応のアルゴリズムを使用すればイオン種同士の間隔を最適化することができる。例えば質量スペクトルを捕捉したい場合、選別すべきイオンを種単位でリストアップする。そのリスト上の種の運動周期やその運動エネルギは予め知ることができるので、それを利用し、リスト上の種を何個かの組に分ける。組分けの際には、そのm/z比ひいてはゲート通過タイミングが大きく異なるイオン種同士が、互いに同じ組に入るようにする。トラップ内に注入され又はその内部で発生したイオンの運動周期を求め、またその運動周期に基づき注目イオンの最善な組分けを知るには、例えば、標本イオン種群を用いキャリブレーションを行えばよい。
【0017】
こうした手法を採ると、トラップへのイオン注入を1回行うだけで、何組かのイオン種を選別することができる。即ち、相応のアルゴリズムによって注目イオンを何種かずつ複数の組に分け、組単位で選別するようにしているので、ある組を選別した後残った他の組のイオンを廃棄する必要はない。例えば、上述の通りトラップ外に貯留しておき、そのトラップに再注入して後のサイクルで分析すればよい。
【0018】
また、そのm/z比が異なるイオン種は運動周期も異なるものである。その運動周期が違うイオンのパケットは、同じ時間のうちにトラップ内を異なる回数運動する。そのため、複数種のイオンが同じゲートにほぼ同着することがある。例えば、m/z比=m/z1の種は運動周期がT1、m/z比=m/z2の種は運動周期がT2であるとし、それらのイオンパケットが同じ場所から互いに同時に出発したとすると、それらがその場所で再会するのはn×T1=k×T2が成り立つタイミングとなる(但しn及びkはこの関係を満たす最小の整数値)。
【0019】
これを利用するとイオンの射出及び分析をより柔軟に行うことができる。例えば、ある一種だけを射出させて分析したい場合は、そのアルゴリズムとして、その一種を特定してその種のイオンがゲートに飛来するタイミング(但し他種イオンは飛来しないタイミング)を求めるアルゴリズムを使用する。逆に、複数種を一括分析したい場合は、そのアルゴリズムとして、それらの種のイオンがイオンゲート近傍に共存するタイミングを求めるアルゴリズムを使用する。また、一種だけを射出させたい場合でも、そのアルゴリズムを繰り返して実行した方がよい。それによって、無用なm/z比域に係る種を迅速に廃棄することができる。ひいては、バックグラウンドガスの増大を抑え干渉を少なくすることができる。
【0020】
本発明の他の実施形態は、多重反射型又は閉軌道型のイオントラップアセンブリであって、イオントラップと、イオンゲートを含む電極装置と、トラップコントローラと、を備える。イオンゲートは、イオントラップの内部経路上を辿っているイオンを第1イオン経路に送る第1ゲート状態と、当該イオンを第2イオン経路に送る第2ゲート状態との間で切替可能とする。トラップコントローラは、イオントラップに注入され又はその内部で発生する種々の荷電粒子のうち、そのトラップの内部経路上で実質的にアイソクロナスに且つそのイオンの質量電荷比に対応する特徴的な運動周期で反復又は周回運動している種々のイオンのなかから、当該運動周期が違うn種(但しn≧2)を注目イオンとして特定する。トラップコントローラは、更に、イオンゲートの第1ゲート状態への切替を、そのうち第1の種のイオンの運動周期に従い定めたタイミングTa(但しa≧1)、同じく第2の種のイオンの運動周期に従い定めた別のタイミングTb(但しb≧1)等々、n種ある注目イオンそれぞれの運動周期に従い定めた一群のタイミングTx(但しx=1,2,…)に従い実行することによって、それら注目イオンを他種イオンから分離させる。
【0021】
ここでいうイオントラップとは、イオンの運動経路を所定の反復又は周回運動経路に制限することが可能な種々の装置のことである。このトラップは、その内部にある所定の反復又は周回運動経路上を繰返し巡るよう、その稼働時にイオンの運動を制約する。なかでも使いやすいのはESTであるが、いわゆる当業者には自明な通り他種トラップにも使用可能なものがある。
【0022】
また、イオンゲートは例えばイオントラップの内部又は近傍に配置し、そのトラップの内部経路上を辿っているイオンをそのゲートを介し第1イオン経路や第2イオン経路に送るようにする。第1及び第2イオン経路のうち一方は例えばその内部経路をそのまま延長した経路とする。その場合、そのトラップの内部経路上のイオンを、あるゲート状態ではその経路からずれた方向へと偏向させ、他方のゲート状態では偏向させずにそのままその経路を辿らせることができる。
【0023】
本発明の更に他の実施形態は、こうしたイオントラップアセンブリと、それを構成するイオントラップの外部に設けられ後のサイクルでの分析用にイオンを貯留する1個若しくは複数個のイオン貯留装置、そのトラップの内部又は外部に配置されたイオン検出手段、荷電粒子を発生させるイオン源、並びにイオン源・トラップ間に配置されたイオン貯留兼注入装置のうちいずれか又はその任意の組合せと、を備える質量分析計である。更に、本発明はMS/MS分析やMSn 分析の際の親イオン選別にも使用できる。その際、引き続くフラグメント化及び質量分析は、トラップ外のフラグメント化セルや質量分析計で、或いはプリトラップや多重反射型又は閉軌道型のそのイオントラップでも、実行することができる。
【0024】
複数種の注目イオンを相互干渉無しでフラグメント化するには、それらをフラグメント化セルへとシーケンシャルに注入する際の種同士の時間間隔を、それらのイオン又はそのフラグメントイオンがフラグメント化セル内で占める分布幅に比し、長い時間にすればよい。このようにすると、複数種の注目イオンを単一バッチで同じフラグメント化セルに注入し、そのセル内で相前後してフラグメント化することができる。また、注目イオンの種毎に専用のフラグメント化/トラッピングセルを設けておき、注目イオンをその種毎に別々のセルに送るようにしてもよい。その場合、種同士の時間間隔は短くてもよく、また全種を並列処理することもできる。
【0025】
本発明の更なる実施形態は、多重反射型又は閉軌道型のイオントラップアセンブリを稼働させる方法であって、(a)あるm/z比域に分布する複数種の荷電粒子をESTに注入するステップと、(b)注入された荷電粒子のうち、そのESTの内部経路上で実質的にアイソクロナスに運動しEST内所定点をある特徴的な運動周期で繰返し通過する種々のイオンのなかから、当該運動周期が違うn種(但しn≧2)を分析対象イオンとして特定するステップと、(c)ゲーティング位置に設けられているイオンゲートを、EST内所定点を通過する分析対象イオンを第1イオン経路に通す第1ゲート状態と、それ以外のイオンを第1イオン経路とは別の第2イオン経路に通す第2ゲート状態との間で、切り替えるステップと、(d)分析対象イオンを検出するステップと、を有する。イオンゲートの第1ゲート状態への切替は、分析対象イオンが他種イオンから分離されるよう、分析対象イオンの種それぞれに特徴的な反復運動周波数に係る都合複数のタイミングで実行する。
【0026】
注記すべきことに、本発明は、荷電粒子が非調和的に多重振動するタイプの様々なイオントラップに対し等しく適用可能である。本発明を適用できるトラップの例としては、イオンミラー2個付のリニアEST(前掲の特許文献1及び2参照)、セクタ即ち扇形部分を複数個有するセクタEST(特許文献4等を参照)、スパイラルEST(特許文献5等を参照)等がある。各回反射後のイオン飛行経路が互いに同一になる閉鎖型(特許文献6の図8参照)でも、概ね同じだが全く同じにはならないかもしれない開放型(特許文献7参照)でもよい。他のイオン励振方法もあるものの、イオンが調和振動するタイプのトラップにも適用可能である。本発明の他の構成要素及び効果については、実施形態についての詳細な説明及び別紙特許請求の範囲を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】図1aは、本発明の一実施形態に係る質量分析計、それを構成する多重反射型又は閉軌道型の静電イオントラップ、並びにそのトラップに組み込まれたイオン偏向器を示す図である。
【図2】図1bは、本発明の他の実施形態に係る質量分析計、並びにそれを構成する多重反射型又は閉軌道型の静電イオントラップを示す図である。
【図2a】ある種のイオンを取り出す際に図1に示したイオン偏向器に印加されるパルスを示すタイムチャートである。
【図2b】それとは別種のイオンを取り出す際に図1に示したイオン偏向器に印加されるパルスを示すタイムチャートである。
【図2c】更に別種のイオンを取り出す際に図1に示したイオン偏向器に印加されるパルスを示すタイムチャートである。
【図2d】それらの種のイオンを取り出す際に図1に示したイオン偏向器に印加されるパルスを示すタイムチャートである。
【図3a】図2a〜図2dに示したパルス列のタイミングを決めるアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図3b】図3aの続きを示すフローチャートである。
【図3c】図3bの続きを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1aに本発明の一実施形態に係る質量分析計10を示す。この分析計10にはエレクトロスプレイ型イオン源、MALDI型イオン源等のイオン源20が連結されている。そのイオン源20に発する荷電粒子流、即ち分析対象荷電粒子の連続流又はパルス流は、第1イオン光学系30を介しプリトラップ40に取り込まれる。プリトラップ40内ではイオンの動きが制約されるため、イオン源20からイオンが送り込まれるたびに、このプリトラップ40内にはイオンがたまっていく。そのイオンは第2イオン光学系50を介しRF駆動型の注入トラップ60に送り込まれる。注入トラップ60としてはリニア四重極トラップ、リニア八重極トラップ等も用いうるが、本実施形態ではRFスイッチングが可能な湾曲付リニアトラップを用いている。注入トラップ60はその第1入射口55を介しプリトラップ40からイオンを受け入れ、その内部に蓄えた上で、その湾曲部にあるイオン出射口65からその注入トラップ60に対し直交する方向へと、そのイオンを射出する。そのイオン出射口65から出てきたイオンは、トラップ光学系70を通り、図中のEST80につながる図示しないEST注入口に達する。注入口に達したイオンは、一気呵成にそのEST80に入っていく。EST80に入ったイオンは、そのEST80内の第1反射電極90・第2反射電極100間を反復運動し始める。その反復運動の経路は、図示の通りEST80の軸105沿いに延び、電極90・100間に亘っている。
【0029】
そのEST80の内部には変調器/偏向器110が配置されている。その位置は、この模式図の如く、EST80内イオン反復運動経路(EST80の軸105)上である。図示例では第1反射電極90からも第2反射電極100からも等距離にあるが、ご理解頂ける通りこれは一例であり、変調器/偏向器110はEST80外を含め様々な場所に配置することができる。例えば、軸105から外れた場所や、反射電極90,100から等距離でない場所である。但し、その配置は、EST80内の経路105上で反復運動中のイオンをその変調器/偏向器110の動作で操ること(例えば偏向させること)ができる配置でなければならない。
【0030】
変調器/偏向器110は幾つかの役目を負っている。なかでも重要なのはイオンゲートとしての役目である。イオンゲートとしての変調器/偏向器110は、EST80内反復運動経路105上からイオンを偏向乃至分岐させる。その作動タイミングについては図2a〜図2dを参照してより詳細に後述する。他の役目、即ちEST80に入ってくるイオンのエネルギを設定乃至制御する役目は次の通りである。
【0031】
まず、EST80内反復運動は様々な手法で引き起こすことができる。第1の手法は、EST80へのイオンの入り口となる注入口の位置と、EST80内電場が十分強い位置との関係により、そのイオンの反復運動を開始させる手法である。例えば、その注入口をEST80内電場が十分に強い場所に形成しておけば、EST80への注入だけでイオンが反復運動し始める。また、EST80への注入に先立ち十分な運動エネルギを与えておくことでも、反復運動を開始させることができる。EST80内加速のため改めて加速電場を印加する必要はない。
【0032】
別の手法としては、EST80への注入直後のイオンに場を印加し、それによってそのイオンに運動エネルギを付与する手法がある。例えば図中の変調器/偏向器110を作動させれば運動エネルギを付与できる。
【0033】
いずれの手法でも、EST80内イオンの平均運動エネルギは前もって知ることができる。
【0034】
注入トラップ60からEST80へとイオンを注入したら、それら様々な様々なイオン種のなかで、一組の分析対象イオン種を特定する。例えば、ある広いm/z比域に属する複数のイオン種を、互いに分離させうるもの同士が同じ組に入るよう組分けすることにより、相互分離可能な複数種を分析対象として特定する。或いは、m/z比の上下限を指定することであるm/z比域を特定し、その域内の全てのイオン種を分析対象として特定する。ご理解頂けるように、個々の注目イオンをそのm/z比に基づき特定する必要があるという点では、これらの手法は等価的なものである。しかしながら、後者では特定される種同士の質量数或いは価数が近いため、特定したイオンのEST80内での扱われ方が、前者と若干違っている。
【0035】
いずれにせよ、複数注目イオン種の特定が済んだら、そのEST80に接続されているトラップコントローラ120例えばそのプロセッサが、それらの注目イオンに関し反復運動速度及び運動エネルギが既知であることを利用して手順を決め、その手順に従いイオンの選別及び分析を実行する。以下、まず概要説明を通じ装置動作をご理解頂いた上で、当該手順を決めるアルゴリズムの好適例を図3a〜図3cを参照して説明する。
【0036】
まず、ほんの数種(例えば二乃至三種)のイオンを分析できればよい場合は、それらのイオンをEST80内に一括注入し、原則として複数組に分けずに分析すればよい。これに対し、より多種のイオンを分析したい場合、トラップコントローラ120は注目イオン種間運動周期差を考慮しそれらの種を適切に組分けする。例えば十五種のイオンを分析したいのであれば、コントローラ120は、大きな反復運動周期差を有する例えば三種が同じ組に入るよう、即ち注入トラップ60から注入された後同じ組内の種同士が迅速に分離していくよう、例えばそのうちの五種を選んで同じ組に入れる。後述する通り、残りの十二種の注目イオンはEST80外に貯留させ、後のサイクルで再注入することができる。それらの種も、やはり、コントローラ120が後述のアルゴリズムに従い決めた手順に従い処理される。
【0037】
説明を単純化するため、ここでは、最初に注入トラップ60からEST80へと注入されるイオンのうち三種だけが最終的な注目イオン種であるとする。更に、それら三種のイオン間に十分大きな反復運動周期差があり迅速に相互分離可能であるとする。とはいえ、ご理解頂けるように、イオン種の組合せ方がより複雑で組同士が重なり合うような状況にも本発明を適用可能である。
【0038】
この例の場合、トラップコントローラ120は、三種の注目イオンを他種イオンから分離させるに当たり、まず注目イオンの個々の種が変調器/偏向器110近傍に飛来するタイミングを求める。コントローラ120は、求めたタイミングに従い変調器/偏向器110を制御する。変調器/偏向器110、即ち注入口の直後にありときとしてEST80内加速も担う装置は、本例の場合、注目イオンでないイオンを偏向させて反復運動経路105から逸らすよう、また注目イオンがその近傍に存するときにはそうした偏向動作を行わない状態に切り替わるよう、コントローラ120によって制御される。従って、注目イオンは反射電極90及び100による反射を経ながら経路105沿いに飛行し続け、それ以外のイオンは悉く偏向されてその経路105上から排除される。この動作がEST80内で十分な回数に亘り繰り返されると、注目外イオンがその経路105から排除されてしまうため、注目イオンだけが反復運動しつつ残存することとなる。
【0039】
なお、本例では変調器/偏向器110を概ね常時作動させ、注目イオンがその近傍に存するときだけその作動を停止させているが、もしそのEST80に注入されるイオンの種が前もって悉く判っている場合には、EST80の作動タイミングをこれとは逆にすることもできる。即ち、変調器/偏向器110を概ね常時停止させておき、他種イオンがその近傍に存するときだけ変調器/偏向器110を作動させてその種を悉く経路105から排除するようにしてもよい。更に、変調器/偏向器110を単純に作動/停止させる構成にとどまらず、変調器/偏向器110を常時作動させその電圧を随時切り替える構成にすることもできる。その構成では、変調器/偏向器110への注入後に辿り続けた経路と異なる第1イオン経路へと注目イオンを偏向、方向転換させて(当然ながら)保存する一方、他種イオンは注目イオンから分離するよう第2イオン経路へと方向転換させる。
【0040】
いずれにせよ、イオンパケット同士の時間間隔は数十nsec〜数十μsec程度まで拡げることができる。他方、同じm/z比のイオンで形成されているパケットの時間長(時間軸に沿った差し渡し)はほんの数十nsec程度である。従って、注目イオン種を分離させる上で制約になるのは、電子回路の応答遅延ではなく、寧ろ親イオン選別装置たる変調器/偏向器110の物理的なサイズの方である。例えばその質量が1000Daで運動エネルギが10keVのイオンがパルス幅=20nsecのパケットを形成している場合、その空間長(経路に沿った差し渡し)は0.89mmとなる。従って、理論的には変調器/偏向器110のサイズもそれと同程度でよい。実際にはイオンビームがかなり大きなサイズであるので、そのサイズではイオンビームに抵触する。
【0041】
マルチパスシステムのトランスミッションを良好にするには、イオン飛行経路上にグリッドやワイヤを配するタイプの装置を、経路105上で変調器/偏向器110として使用するは望ましくない。即ち、TOF型タンデム質量分析計等の非マルチパスシステムにおいてと違い、その種の親イオン選別装置はあまり使用することができない。また、マルチパス型親イオン選別装置のトランスミッションを仮に99%超に高めたとしても、それを変調器/偏向器110として使用した場合、繰返し通過により質量分析中に不許レベルの損失が生じる可能性がある。その点、邪魔なワイヤがない開放型の装置、即ち場無し領域に配した偏向プレートやオンオフスイッチング可能な静電分析器で親イオン選別を行う装置であれば、変調器/偏向器110として使用することが可能である。しかし、その種の装置は数十mm〜数十cm以上というやや大型の装置となる。そのため、この種の装置で隣接イオンパケット間を高分解能で分離させるには、イオン通過回数を多くしなければならない。
【0042】
それよりは、イオンビーム射突が生じないタイプの変調器/偏向器110をEST80内での親イオンの低分解能選別に限って使用し、最終的なイオン選別は別プロセスで行うようにした方がよい。通過回数が異なるイオンパケット同士が隣り合わせになっていないので、その最終的なイオン選別プロセスは単純なプロセスとなる。EST80内での低分解能選別に大きめの変調器/偏向器110を用いることで、イオンの多数回通過によるトランスミッション低下を抑えることができ、またEST80から第1イオン経路上に射出されたイオンに対し例えばブラッドベリ・ニールセン型ワイヤイオンゲートを用いて最終的なイオン選別を行うことで、より高い分解能でイオンを選別可能でEST80内通過回数も少ないシステムを実現することができる。この手法が適するのは、MS/MS分析によって少数例えば1個又は2個のm/z比窓を選別してフラグメント化に供する場合である。その場合、親イオン選別所要時間が短縮され、真空条件が緩和され、且つデューティサイクルも改善される。
【0043】
翻って、図1aに示した質量分析計10では、当初は注目イオンでなかった種のイオンを捕獲し、後のサイクルにて再分析することができる。特に、一連の質量スペクトルを形成する複数種の注目イオンが、前述の通り何種かずつトラップコントローラ120上で複数組に分けられている場合、最初のサイクルで注目イオンでなかったため分離、排除された組の種を貯留しておき、それらを後のサイクルで分析することで、例えば質量スペクトル全域を捉えることができる。これを実行する際には、図示の通り、現サイクルで注目イオンとされていない種のうち後のサイクルで分析したい種、即ち貯留しておくべき種を、偏向させて経路130沿いにオプションの電子セクタ装置140へと出射させる。そのイオンは電子セクタ装置140内で減速し、更なるイオン光学系により案内され、その第2入射口150を介し注入トラップ60に再注入される。次いで、そのイオンはその注入トラップ60内に一旦貯留され、イオン出射口65を介し直交方向に射出され、EST80内に戻って後の分析サイクルに供される。所望なら、EST80内に戻す前のイオンに、注入トラップ60内でフラグメント化等の付加処理を施すこともできる。
【0044】
注目イオンの分離が済んだら(即ちEST80内に残存する種が概ね注目イオンだけになったら)、トラップコントローラ120は、注目イオンがその近傍に存するタイミングで変調器/偏向器110を作動させることによって、それらの種の注目イオンを反復運動経路105から逸らしてイオンレシーバ125に送る。レシーバ125としてはイオン検出器、例えばチャネルトロン等の電子増倍器を使用する。この種の検出器はダイナミックレンジが広い。但し、その応答遅延が少なくとも100nsec、大きければ1msecにもなる。また、レシーバ125としてフラグメント化セル、質量分析計或いはその双方を外付けすることもできる。例えばOrbitrapやTOF型FT−ICR(フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴)型質量分析計等の装置である。図1aに示した構成であれば、それと同様のフラグメント化をプリトラップ40で実行させ、それによって生じたフラグメントイオンを(上記同様に)EST80へと注入させることも、また当該フラグメント化を注入トラップ60で実行させ、フラグメントイオンをやはりEST80に注入させることもできる。また、図1bに示した別の実施形態(大半の構成が図1aと同じであるので同一部材については同様の参照符号を使用している)では、イオンが通る経路105と寄り添うようにフラグメント化セル160が配置されているので、イオンを変調器/偏向器110で偏向させてそのセル160に送り込むことができる。
【0045】
また、応答が遅いというこの種のイオンレシーバ125の難点は、これらの実施形態では容易に克服することができる。即ち、レシーバ125への飛来タイミングがそのレシーバ125の応答時間以上ずれるように、個々のイオンをトラップコントローラ120による制御で種毎に且つ順繰りに偏向させればよい。三種の注目イオンをEST80内で前掲の手法により特定する前掲の例でいえば、これは、それら三種のうちある一種の注目イオン(m/z比=m/z1)を偏向させレシーバ125に送ってから(時刻t1)別種の注目イオン(m/z比=m/z2)をレシーバ125に送るまで(時刻t2)の時間t2−t1を、レシーバ125の応答遅延以上にする、ということである。また、容易にご理解頂けるように、検出したい種の注目イオンを検出できるようになるまで、そのEST80の許容範囲内なら何回でも、その種のイオンを経路105沿いに反復運動させることができる。
【0046】
こうしてより低速な検出器をイオンレシーバ125として使用可能になるということは、強度検出値ダイナミックレンジを顕著に拡げうるということである。また、高速検出器(例えばTOF型検出器)でよく用いられるデータシステムではなく、四重極型乃至イオントラップ機器用でかなり廉価な最新式のデータシステムを、使用することが可能になる。強度検出値のダイナミックレンジが拡がるということは、検出器起因偏差及び飽和現象を抑圧することができ、従ってより定量的な分析を行えるということである。従来から、イオンの定量分析は三連四重極型質量分析計を用いて行われており、またその内部キャリブラントとしては同種分子が使用されることが多かった。本発明では、注目イオンの個々の種に係る内部キャリブラントを試料と対にして貯留しておき、その上で上述した分析サイクルを1回実行するだけで、試料及び内部キャリブラントを共に検出することができる。特に重要なことに、試料とそのキャリブラントとを注入トラップ60及びEST80に同時注入することができ、従ってイオン源断続変動の影響を抑えることができる。
【0047】
更に、三連四重極の諸諸稼働モードをこの手法で提供することができる。
【0048】
(a)親イオン(プリカーサイオン)走査: これは、所要m/z比域に亘る擬連続スペクトルを複数個の小領域に分割して捕捉するモードである。このモードでは、そのm/z比域内にN個(N>1)のm/z比窓を設定し、各サイクルにてそれらの窓のイオンを分離させイオンレシーバ125に送り込む。Nの値は例えば20〜40とする。その次のサイクルでは、個々のm/z比窓の位置(m/z比の値)をプラス方向に例えば0.1%ずらした上で、その新たな窓に係る強度値を計測する。こうしたサイクルを所要m/z比域全体がカバーされるまで繰返し実行し、個々のサイクルで得られたデータを相互結合させると、その所要m/z比域についての擬連続スペクトルが判明する。
【0049】
(b)生成イオン(プロダクトイオン)走査: これは、フラグメント化対象として選定された個々のm/z比について、フラグメント化サイクル毎に複数個(例えばN=20〜40個)のm/z比窓を選定し、そのm/z比窓内のイオンをイオンレシーバ125に送るモードである。m/z比窓の位置は上記同様にサイクル毎にシフトさせていく。
【0050】
(c)ニュートラルロス走査: これは、フラグメント化対象として選定された個々のm/z比について、その注目イオンのニュートラルロスに相応する1個のみのm/z比窓を検出用に選定するモードである。
【0051】
モード(a)及び(b)の場合、デューティサイクルは従来のスキャン機構に比べN倍改善されることとなる。例えば繰返し速度が約1000Hzなら、等価的に毎秒1000×N個のm/z比窓を走査することができる。これは、例えばm/z比窓のサイズが0.1DaでN=20なら、2000Da/secという高分解能スペクトルが得られる、ということである。
【0052】
本発明の諸実施形態には、更に、複数種の注目イオンを種毎に抽出及び検出する必要がない、という長所がある。即ち、注目イオンの反復運動周期は一般にその種毎に異なるが、EST80への注入後の反復運動回数の違いによって、二種のイオンが変調器/偏向器110にて再会することがある。トラップコントローラ120はそのタイミングを算出することができる。従って、複数種の注目イオンを検出に際し一斉に射出することができる。とりわけ、同一試料(例えば蛋白質)をその荷電状態の違いにより分析する際には、この機能の利用で信号対雑音比を向上させることができる。この点については、図3a〜3cを参照しより詳細に後述する。
【0053】
次に、図2dとして模式的な合成タイムチャートを示す。このタイムチャートは、三種の注目イオン(m/z比=m/z1,m/z2,m/z3)を特定し後のサイクルでの分析用に選別する際、トラップコントローラ120によって変調器/偏向器110に印加される励振波形を示している。また、図2a〜図2cとして示すタイムチャートは、分析対象となるイオンを一種ずつ選別する際、変調器/偏向器110に印加される励振パルスを示している。図2aで選別されるのはそのm/z比がm/z1のイオンだけ、図2bで選別されるのはそのm/z比がm/z2のイオンだけ、図2cで選別されるのはそのm/z比がm/z3のイオンだけである。これからより詳細に説明する通り、図2dは図2a〜図2cを重ね合わせた合成タイムチャートになっている。
【0054】
まず、EST80には種々のイオンが注入される。そのなかから三種m/z1,m/z2,m/z3の注目イオンを特定し不要な他種イオンから分離させる場合、トラップコントローラ120は、それらの種m/z1,m/z2,m/z3が変調器/偏向器110を過ぎるタイミングを算出する。イオン種間には反復運動周期差があるのでこうした計算を行うことができる。例えば、反復運動周期t1の第1注目イオン種m/z1は図2aに示す通り時刻T’+t1、T’+2t1、T’+3t1等々に、反復運動周期t2の第2注目イオン種m/z2は図2bに示す通り時刻T’’+t2、T’’+2t2、T’’+3t2等々に、そして反復運動周期t3の第3注目イオン種m/z3は図2cに示す通り時刻T’’’+t3、T’’’+2t3、T’’’+3t3等々に、それぞれ変調器/偏向器110を通過する。これらの種m/z1,m/z2,m/z3の反復運動周期t1,t2,t3は互いに同一でないので、自明な通り、図2dに示すイオン選別期間P中に変調器/偏向器110を通過する回数は種毎に異なる。図示例でいうなら、第1の種m/z1が期間P中に5回変調器/偏向器110を通過するのに対し、第2の種m/z2は図2bに示す通り7回、また第3の種m/z3は図2cに示す通り10回、それぞれ変調器/偏向器110を通過する。
【0055】
前述の通り、変調器/偏向器110は、注目イオンがその近傍に存するタイミングに限りその作動を停止させ、それ以外の期間には常時作動させるのが望ましい(但し必須ではない)。図2dでは、時間軸の縮尺及び起点を揃えてある図2a〜図2cとの対比で一目瞭然な通り、第3の種m/z3がその近傍に飛来する直前に変調器/偏向器110の作動を停止させている。それより僅かに長い反復運動周期t2を有する第2の種m/z2は、例えば図2a〜図2d中で冒頭に記されている反復運動周期では先の種m/z3からほとんど離れず変調器/偏向器110に飛来するので、その時点でも変調器/偏向器110の作動は停止したままとする。そして、更に長い反復運動周期t1を有する第1の種m/z1は、当該冒頭の反復運動周期では先の種m/z2のすぐ後を追い変調器/偏向器110に飛来するので、この時点でも変調器/偏向器110の作動を停止したままにする。従って、種m/z1もそこを通過し図1a中の経路105に沿った反復運動を続ける。
【0056】
また、第1の種m/z1が通過したら変調器/偏向器110の作動をできるだけ早く再開させる。そのようにすると、それら三種m/z1,m/z2,m/z3の注目イオン以外のイオンが悉くその反復運動経路105から逸らされ、上述の通りEST80から除去乃至廃棄されることとなる。
【0057】
その次の周期では、トラップコントローラ120における計算結果に基づき、第3の種m/z3が変調器/偏向器110に再来するタイミング(図2c参照)にてその変調器/偏向器110の作動を再停止させる。但し、この周期ではその種m/z3と第2の種m/z2及び第1の種m/z1との間に大きな間隔が空くので、種m/z2の飛来を待たずに変調器/偏向器110を再作動させる。種m/z2はその後暫くして飛来する。
【0058】
それら注目イオンの種m/z1,m/z2,m/z3はその後も反復運動を継続する。種毎に反復運動周期が大きく違うものの、いずれは、ある回数の反復運動を経たある注目イオン種が、それとは別の回数の反復運動を経た別の注目イオン種に追いつく、といったことが生じる。例えば図2d中に特記した時刻Xでは、第2の種m/z2と第3の種m/z3が変調器/偏向器110にほぼ同着している。この再会までの間に、種m/z3は種m/z2に比べ一行程余計にEST80内を巡っている。
【0059】
トラップコントローラ120は、三種m/z1,m/z2,m/z3の注目イオンが不要な他種イオンから分離されるのに十分な時間が経過した時点、より具体的にはそれらの種m/z1,m/z2,m/z3を除く全イオンがEST80から除去された時点で、変調器/偏向器110への印加電圧を変化させることによって、それらの種m/z1,m/z2,m/z3のうち一種又は複数種をその反復運動経路105から逸らしてイオンレシーバ125に送る。具体的には、変調器/偏向器110への印加電圧を例えば図2d中の時刻Yにて変化させ、不要イオン種除去の際に常用する極性とは逆極性にする。すると、第3の種m/z3だけが偏向され、その経路105上から逸れてイオンレシーバ125に送られることとなる。
【0060】
また、これまでの説明からもご推察頂けるように、そうした逆極性電圧によって変調器/偏向器110を作動させるタイミングを適宜設定することにより、複数種のイオンを同時に射出することもできる。例えば、図2d中の時刻Xにて変調器/偏向器110の作動を停止させるのではなく、時刻Yに示したものと同じく逆極性の電圧(但しその持続期間がより長いもの)をその時刻Xに変調器/偏向器110に印加するようにすれば、第2の種m/z2及び第3の種m/z3のイオンをほぼ同時期に反復運動経路105から射出してイオンレシーバ125に送ることができる。反復運動周期はいずれの注目イオン種についても既知であるので、トラップコントローラ120では、個々の種の注目イオンが変調器/偏向器110に飛来するタイミングや、複数種の注目イオンが任意の組合せで或いは全種の注目イオンがほぼ同時に変調器/偏向器110に飛来するタイミングを、先立って求めておくことができる。
【0061】
上述した手法から帰結される更なる長所は、注目イオン他種イオン間の間隔が拡がった後であれば、いつでもその注目イオンを偏向させイオンレシーバ125に送れることである。即ち、上述の手法である種の注目イオンを偏向させてレシーバ125に送った場合、その後別種の注目イオンをそのレシーバ125に送るまでの期間を、そのレシーバ125にて好適にイオンを検出することができるようそのレシーバ125の応答遅延に応じて定めることができる。言い換えれば、例えば第3の種m/z3の射出から第2の種m/z2の射出までの時間をレシーバ125の応答遅延(例えば電子増倍器なら10μsecオーダ)より長くすることができる。注目イオンが変調器/偏向器110を通過するであろうタイミングは種毎に判っているので、トラップコントローラ120ではイオンを射出する段取りを好適に決めることができる。即ち、個々の種の注目イオンが別途検出のためレシーバ125へと射出されてから、別種の注目イオンが同様に射出されるまでの時間を、そのレシーバ125の応答遅延より長くすることができる。
【0062】
次に、図3a〜図3cとして示すフローチャートを参照し、イオンを複数種ずつ検出できるようにするアルゴリズムの好適例について説明する。
【0063】
このアルゴリズムでは、まずイオン種リストを定義する(ステップ300)。このリストはEST80内で分離させるべきイオン種を列挙したものであり、ユーザ入力により定義することもデータ依存ソフトウェアで生成することも可能である。分離対象としてこのリストに載せることができるイオン種の範囲は、通常は、そのEST80に単一注入動作で注入可能なm/z比域や、そのEST80内でイオン化によって発生するイオンのm/z比域によって決まることとなろう。但し、分離させうるイオン種の範囲即ちイオン種の“メニュー”をそのEST80の能力に従い決める手法に代えて、ユーザによる分析対象イオン種の選定を受けてEST80に注入すべき又はその内部で発生させるべきイオンのm/z比域を画定し、その質量分析計10の各部を制御するよう、トラップコントローラ120を動作させてもよい。
【0064】
ユーザによる注目イオン種リスト定義が済んだら、トラップコントローラ120は個々の注目イオン種の飛行時間を算出する(ステップ310)。数式上、飛行時間は反射回数K、各注目イオン種のm/z比及び付加変数Wを引数とする関数TOF(K,m/z,W)として表現される。付加変数Wとしては例えばET80へのイオン注入個数等を使用する。コントローラ120は、更にその飛行時間TOFのばらつきΔTOFを算出する。これも数式上はΔTOF(K,m/z,W)として表現される。それらTOF及びΔTOFの値は、上述した通り校正値や理論値から導出できる。その次は、必要とされる分解能Rに基づき最少反射回数Kminを算出する(ステップ320)。これもまた、数式上はKmin(R,m/z,W)と表記される。
【0065】
次いで、イオンがEST80内に滞留する期間T全体を複数個のタイムビンに分割する(ステップ330)。個々のビンの長さdTは、変調器/偏向器110の状態切替所要時間に関連する量であるので、例えば偏向電圧がそのピーク値の10%から90%まで立ち上がるのに要する時間に基づき決定するとよい。更に、図示の通り、個々のビンに係るフラグの値を0に初期化する。フラグ値の意味については後述する。
【0066】
トラップコントローラ120は、ステップ340として示されている第1ループを繰返し実行する。即ち、K=1〜iの範囲内の個々のK値について、またm/z比=m/z1〜m/zjの範囲内の個々のm/z比(選定されたイオン種それぞれのm/z比)について実行する。その実行のたびに、このループ340では、TOF(K,m/z,W)±ΔTOF(K,m/z,W)値がn個のタイムビンのうちどれに属するかを判別する。そのビンに係るフラグ値がまだ0であるならそれを1に加増し、既に1に加増されているなら0に加増し、そして既に2になっているのならそのままにしておく。なお、ループ340の実行時に既にフラグ値=1になっているビンは、そのループ340を前に実行したときTOF(K,m/z,W)±ΔTOF(K,m/z,W)値がそのビンに属していると判定されたため、既に1になっているものである。また、フラグ値=2であるということは、対応するビン内で二種のイオンが相互干渉するであろうこと、即ちそれら二種のイオンがあるタイミングで変調器/偏向器110に同着する見込みであることを意味している。
【0067】
第1ループ340が終了したら、各ビンに係るフラグ値のデータを後処理してピークの分解不足を補正する(図3b;ステップ350)。例えば、フラグ値=0(即ち1又は2)のタイムビン同士が、フラグ値=0のビンを挟まないで或いは1個だけ挟んで連なっている場合には、それらのビンからなる時間領域についてはピーク分解が不十分なだけであるので、その領域に属する全てのビンに関しフラグ値を2に補正する。
【0068】
次いで、ユーザが選定した個々のイオン種(m/z比=m/z1〜m/zj)について、またK=最小値Kmin〜Kiの範囲内の全てのK値について、第2ループを繰返し実行する。その実行のたびに、このループでは、イオンのEST80内滞留期間TについてTOF(K,m/z,W)値の重心を算出し(ステップ360)、フラグ値=1のタイムビンに相応のm/z比一種を対応づける(ステップ370)。
【0069】
そして、トラップコントローラ120は最終処理ループを開始する(ステップ380)。このループ380で行いたいのは、大まかにいえば、リスト上の全分離対象イオン種のなかから何種かを適切に選定すること、特にイオンレシーバ125(或いはその後段のイオン処理)の分解能に相応しくその反復運動周期(或いはその他のパラメタ)が十分に異なった何種かを選定することである。例えば、ユーザが計測を望んでいる全ての種間に適切な時間差を付与できるほどEST80内滞留期間Tが長くなく、それらの間に十分な時間間隔を付与できないことがある。そうした場合、このループ380では、そのEST80に同時に注入する予定の種のなかで、その種間間隔を十分に拡げることひいてはその種を計測することが可能な種の組合せを求める。無論、前述の通り、ユーザが分析を望むイオン種である限り、最終的には分離、貯留してその貯留場所からEST80に再注入し後のサイクルで分析することができよう。つまるところ、このループ380では、同じ組のイオン種間に十分大きな反復運動周期差が生じるよう、例えば二十種の注目イオンを五種ずつ四組に分ける。注記すべきことに、形成される組の個数、各組に入るイオンの種数等はいずれも設計的事項であり、例えばその質量分析計10の分解能、イオン処理に費やせる合計の時間、その試料のアバンダンス等のパラメタに基づき定めることができる。
【0070】
より詳細には、図3b中の処理ループ380では、まず各タイムビンを調べてタイムビン列を作成する。即ち、それぞれいずれかのm/z比(イオン種)に対応づけられており且つそのフラグ値が1のタイムビンのなかから、同じくフラグ値が1である他のビンとの時間間隔が検出器の時間分解能dTdet(通常はdTdet≫タイムビン1個の長さdT)以上のものを少なくとも1個選り出し、それらのビンによりタイムビン列を作成する。通常は、ユーザが選定したイオン種全てに対し十分な時間間隔を付与することはできないが、できるだけそれに近い状態になるようこの手法でタイムビン列を作成する。タイムビン列の作成、即ち射出に使用される一群のビンの特定に成功したら、そのタイムビン列に属さないフラグ値=1のビンのフラグ値を悉く2に変化させる。これは、そのタイムビン列に属するビンでは射出されないイオン種を、後に検出器上に射出できるよう存置させるためである。また、検出可能なイオン種数を多くするには、注目イオン種リスト上のイオン種を様々に組み合わせ、タイムビン列を複数通り作成してみる必要があるかもしれない。仮に、どのように組み合わせても、ユーザ入力に係るリスト上のイオン種を一種も検出できないようなら、後のサイクルでの精査に供すべくそれらのイオン種を存置させる。
【0071】
そして、処理ループ380の実行により適切な組合せでイオン種が組分けされたら、それらのイオン種をカバーするこのタイムビン列に基づき、変調器/偏向器110を作動させるタイミング(図2d参照)を示すトリガシーケンスを作成する。このトリガシーケンスでは、例えば図示しないビームアブソーバ(ダンパ)方向への偏向動作をトリガすべきことを“0”で表す。また、イオンレシーバ125方向への偏向動作をトリガすべきことを“1”で表す。そして、イオンを偏向させずそのまま飛行させるべきことを“2”で表す。
【0072】
また、イオンレシーバ125方向への偏向動作を第2の変調器/偏向器110(図1aでは省略)で行う構成であれば、上述の信号値を“0”だけのシーケンスと“1”だけのそれとに分割することもできる。
【0073】
以上、本発明のある特定の実施形態について説明したが、ご理解頂ける通り、いわゆる当業者であれば様々な変形乃至改良を案出することができよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重反射型又は閉軌道型のイオントラップアセンブリを稼働させる方法であって、
(a)イオントラップに注入され又はその内部で発生したイオン種の大群に属し、そのイオントラップの内部経路上で実質的にアイソクロナスに且つそのイオンの質量電荷比に対応する特徴的な運動周期で反復又は周回運動している種々のイオンのなかで、当該運動周期が違うn種(但しn≧2)を注目イオンとして特定するステップと、
(b)上記イオントラップの内部又は近傍に設けられているイオンゲートを、上記内部経路上で運動中の注目イオンを第1イオン経路に通す第1ゲート状態と、同内部経路上で運動中の他種イオンを第1イオン経路とは別の第2イオン経路方向に通す第2ゲート状態との間で、切り替えるステップと、
を有し、上記イオンゲートの第1ゲート状態への切替を、そのうち第1の種のイオンの運動周期に従い定めたタイミングTa(但しa≧1)、同じく第2の種のイオンの運動周期に従い定めた別のタイミングTb(但しb≧1)等々、n種ある注目イオンそれぞれの運動周期に従い定めた一群のタイミングTx(但しx=1,2,…)に従い実行することにより、それらの注目イオンを他種イオンから分離させる方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
上記イオンゲートが、随意に作動及び停止可能なイオン偏向器であり、
上記ステップ(b)が、タイミングTxに従いそのイオン偏向器を停止させることで第1ゲート状態を発生させるステップと、それ以外の時期にそのイオン偏向器を作動させることで第2ゲート状態を発生させるステップと、を含み、
第1ゲート状態のイオン偏向器を通った注目イオンが辿る第1イオン経路が、そのイオン偏向器へのイオン飛来方向とほぼ同方向に延び、第2ゲート状態のイオン偏向器を通った他種イオンが辿る第2イオン経路が、第1イオン経路とは異なる方向に延びる方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法であって、
上記イオンゲートが、随意に作動及び停止可能なイオン偏向器であり、
上記ステップ(b)が、タイミングTxに従い上記イオン偏向器を作動させることで第1ゲート状態を発生させるステップと、それ以外の時期にそのイオン偏向器を停止させることで、第2ゲート状態を発生させるステップと、を含み、
第1ゲート状態のイオン偏向器を通った注目イオンが辿る第1イオン経路が、そのイオン偏向器へのイオン飛来方向とは異なる方向に延び、第2ゲート状態のイオン偏向器を通った他種イオンが辿る第2イオン経路が、第1イオン経路とほぼ同方向に延びる方法。
【請求項4】
請求項2又は3記載の方法であって、更に、第2イオン経路上のイオンをイオントラップ外に出すステップを有する方法。
【請求項5】
請求項2、3又は4記載の方法であって、第2イオン経路上のイオンを廃棄する方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法であって、そのイオンを持続的に廃棄する方法。
【請求項7】
請求項2、3又は4記載の方法であって、更に、第2イオン経路上のイオンを全て又は何個か捕獲するイオン捕獲ステップを有する方法。
【請求項8】
請求項7記載の方法であって、上記イオントラップが多重反射型又は閉軌道型であり、そのイオントラップの外にイオン貯留装置があり、上記イオン捕獲ステップが、捕獲したイオンを当該イオン貯留装置に貯留するステップを含む方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法であって、更に、後続の分析サイクルに属するステップとして、
(c)注目イオンでなかったためそのイオントラップ外のイオン貯留装置に貯留されたイオンを全て又は何個か、当該イオン貯留装置から上記多重反射型又は閉軌道型のイオントラップに再注入するステップと、
(d)その再注入されたイオンに関しステップ(b)を再実行するステップと、
を有する方法。
【請求項10】
請求項9記載の方法であって、上記ステップ(a)が、
(e)イオントラップ内に存するイオン種の大群からp種(但しp>n)の分析対象イオンを選定するステップと、
(f)注目イオンのうちn種以下の種をp種ある分析対象イオンのなかから選定するステップと、
(g)選定した種の注目イオンを他の分析対象イオンから分離するステップと、
(h)分離させた注目イオンを現分析サイクルで処理する一方残りの分析対象イオンは上記イオントラップに再注入して爾後1回又は複数回の分析サイクルに備えるステップと、
を含む方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法であって、上記ステップ(f)が、現分析サイクルで処理すべき注目イオンを種間分離最適化条件に従い選定するステップを含む方法。
【請求項12】
請求項11記載の方法であって、その種間分離最適化条件が、p種の分析対象イオンの種間に存する運動周期差に依拠又は関連する条件である方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法であって、その種間分離最適化条件が、それらの種間に存することとなる反復又は周回運動周期の差が極力拡がるよう注目イオンを選定する条件である方法。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか一項記載の方法であって、複数種ある注目イオンそれぞれの運動周期に応じて決めた都合複数通りのタイミングにて上記イオンゲートを第1ゲート状態に切り替えることによって、それら注目イオンを種毎に第1イオン経路に通す方法。
【請求項15】
請求項1乃至14のいずれか一項記載の方法であって、更に、注目イオンを検出するステップを有する方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法であって、更に、その注目イオンの全て又は何個かが他種イオンから分離されたときに、注目イオンをイオンレシーバ例えばイオン検出手段に送るイオン送出ステップを有する方法。
【請求項17】
請求項16記載の方法であって、上記イオン送出ステップが、n種ある注目イオンのうち検出すべき少なくとも一種がイオンゲート近傍に飛来するタイミングで、イオンをイオン検出手段方向に通す第3ゲート状態へと上記イオンゲートを切り替えるステップを、含む方法。
【請求項18】
請求項17記載の方法であって、n種ある注目イオンのうち複数種が、上記イオントラップ内をその種の特徴的な運動周期に応じ異なる回数運動した後、上記イオンゲートにほぼ同着する場合に備えるべく、更に、
(j)n種ある注目イオンのうちm種(但しn>m≧2)が上記イオンゲートにほぼ同着するタイミングを、それら注目イオンの運動周期に基づき導出するステップと、
(k)その結果に基づき、注目イオンのうちそれらm種がイオンゲート近傍に共存するタイミングにて上記イオンゲートを第3ゲート状態に切り替えることにより、それらm種の注目イオンをほぼ一斉に上記イオン検出手段に送るステップと、
を有する方法。
【請求項19】
請求項18記載の方法であって、更に、
ある期間に、同着するm種の注目イオンを上記ステップ(j)及び(k)に供するステップと、
それに続く別の期間に、n種ある注目イオンのうち別の複数種を上記ステップ(j)及び(k)に供するステップと、
を有する方法。
【請求項20】
請求項18記載の方法であって、更に、
ある期間に、同着するm種の注目イオンを上記ステップ(j)及び(k)に供するステップと、
それに続く別の期間に関し、n種ある注目イオンのうち同着するm種ではない一種だけがイオンゲート近傍に飛来するタイミングを、それらの種に特徴的な運動周期に基づき特定するステップと、
当該別の期間に、n種ある注目イオンのうち上掲の一種だけがイオンゲート近傍に存するタイミングで、その一種を通すべく上記イオンゲートを第3ゲート状態に切り替えることにより、その一種だけを上記イオン検出手段に送るステップと、
を有する方法。
【請求項21】
請求項18記載の方法であって、更に、
(l)n種ある注目イオンのうち特定の一種だけがイオンゲート近傍に飛来するタイミングを注目イオンの運動周期に基づき特定するステップと、
(m)当該特定の一種がイオンゲート近傍に存するときに、その注目イオンだけが上記イオン検出手段方向に通るよう、上記イオンゲートを第3ゲート状態に切り替えるステップと、
を有する方法。
【請求項22】
請求項21記載の方法であって、更に、
ある期間に、注目イオンのうち上記特定の一種を上記ステップ(l)及び(m)に供するステップと、
それに続く別の期間に、n種ある注目イオンのうち別の一種を上記ステップ(l)及び(m)に供するステップと、
を有する方法。
【請求項23】
請求項21記載の方法であって、
ある期間に、注目イオンのうち上記特定の一種を上記ステップ(l)及び(m)に供するステップと、
それに続く別の期間に、n種ある注目イオンのうちm種がイオンゲート近傍にほぼ同着するタイミングを、それらn種の注目イオンの運動周期から導出するステップと、
その結果に基づき、同着するm種の注目イオンがイオンゲート近傍に共存するタイミングで上記イオンゲートを第3ゲート状態に切り替えることにより、それらm種の注目イオンを互いに同時に上記イオン検出手段に送るステップと、
を有する方法。
【請求項24】
請求項1乃至23のいずれか一項記載の方法であって、更に、少なくとも一種類の別分析を実行するステップを有し、注目イオンのうち一種若しくは複数種又は注目外イオンのうち一種若しくは複数種がその別分析に供される方法。
【請求項25】
請求項24記載の方法であって、更に、注目イオンのうち一種若しくは複数種又は他種イオンのうち一種若しくは複数種をフラグメント化するフラグメント化ステップを、有する方法。
【請求項26】
請求項25記載の方法であって、更に、注目イオンのうち一種若しくは複数種又は他種イオンのうち一種若しくは複数種をフラグメント化するフラグメント化ステップを有すると共に、別の分析サイクルで実行されるステップとして、
(c)生成されたフラグメントイオンを全て又は何個か上記イオントラップに再注入するステップと、
(d)それらのイオンを上記ステップ(b)に供するステップと、
を有する方法。
【請求項27】
請求項25記載の方法であって、上記フラグメント化ステップを実行した後、そのステップで生成されたフラグメントイオンをイオントラップ外のイオン貯留装置に貯留させる方法。
【請求項28】
請求項24乃至27のいずれか一項記載の方法であって、上記別分析ステップが、その対象となる種の注目イオンを別の質量分析部に送る別分析用イオン送出ステップを、含む方法。
【請求項29】
請求項28記載の方法であって、上記別分析用イオン送出ステップが、その注目イオンをフラグメント化装置に送るステップと、その注目イオンを全て又は何個かフラグメント化するステップと、得られたフラグメントイオンを少なくとも一段の質量分析に供する質量分析ステップと、を含む方法。
【請求項30】
請求項29記載の方法であって、上記質量分析ステップが、Orbitrap(登録商標)型の装置、飛行時間効果(TOF)型質量分析部、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT−ICR)型質量分析部又はその任意の組合せによりイオンを分析するステップを含む方法。
【請求項31】
請求項29又は30記載の方法であって、
ある複数種の注目イオンを上記フラグメント化装置に送りその注目イオンを全て又は何個かフラグメント化して上記質量分析ステップに供する第1分析サイクルと、
別の複数種の注目イオンを上記フラグメント化装置に送りその注目イオンを全て又は何個かフラグメント化して上記質量分析ステップに供する第2分析サイクルと、
を有し、第1分析サイクルの実行と第2分析サイクルの実行との間に上記フラグメント化装置での注目イオン滞留時間より長い時間間隔をおくことにより、上記質量分析部にて複数種の親イオンを順繰りに分析させる方法。
【請求項32】
請求項20の記載に従い実行される請求項21乃至31のいずれか一項記載の方法であって、
上記ある期間と上記それに続く別の期間との間の時間間隔Δtが上記イオン検出手段の応答遅延より長く、
更に、上記イオン検出手段に飛来するイオンが何個かのイオンパケットに分かれており、各イオンパケットの長さがそのイオン検出手段の応答遅延に比べ短くまたそれらイオンパケット同士の間隔が当該イオン検出手段の応答遅延に比べ長い方法。
【請求項33】
請求項32記載の方法であって、内部キャリブラントによってもたらされる少なくとも一種の注目イオン及び少なくとも一種の他種イオンの定量的質量スペクトル分析に、上記イオン検出手段の応答遅延を利用する方法。
【請求項34】
多重反射型又は閉軌道型イオントラップのアセンブリを稼働させることにより、複数種の注目イオンを含む所要質量電荷比域に亘る連続乃至擬連続質量スペクトルを捕捉する方法であって、
(a)イオントラップに注入され又はその内部で発生したイオン種の大群に属し、そのイオントラップの内部経路上で実質的にアイソクロナスに且つそのイオンの質量電荷比に対応する特徴的な運動周期で反復又は周回運動している種々のイオンのなかで、当該運動周期が違うn種(但しn≧2)を注目イオンとして特定するステップと、
(b)上記イオントラップの内部又は近傍に設けられているイオンゲートを、上記内部経路上で運動中の注目イオンを第1イオン経路に通し更なる処理に供する第1ゲート状態と、当該内部経路上を運動中の他種イオンを第1イオン経路とは別の第2イオン経路に通し貯留又は廃棄する第2ゲート状態との間で、切り替えるステップと、
を有し、上記イオンゲートの第1ゲート状態への切替を、そのうち第1の種のイオンの運動周期に従い定めたタイミングTa(但しa≧1)、同じく第2の種のイオンの運動周期に従い定めた別のタイミングTb(但しb≧1)等々、n種ある注目イオンそれぞれの運動周期に従い定めた一群のタイミングTx(但しx=1,2,…)に従い行うと共に、
その対象となる大群を、上記イオントラップに注入され又はその内部で発生した別の大群に変えまた上記タイミングTa、Tb等々を個別的に変えて上記ステップ(a)及び(b)を繰り返すことにより、最初の大群中で特定されたn種の注目イオンと異なるp種(但しp≧2)の注目イオンを特定し、
必要ならば、イオントラップ内の大群に含まれる全ての注目イオンが特定されるまで、更なる大群について上記ステップ(a)及び(b)を繰り返す方法。
【請求項35】
請求項34記載の方法であって、反復又は周回運動の上限回数を指定しておき、同じ大群に属し似通った質量電荷比を有する他種イオンからその上限回数の範囲内で分離させうる種のイオンを、注目イオンとして各大群内で特定する方法。
【請求項36】
請求項34又は35記載の方法であって、各大群内の注目イオンを第1イオン経路経由でフラグメント化装置に送る方法。
【請求項37】
請求項34、35又は36記載の方法であって、各大群内の注目イオンを第1イオン経路経由でイオン検出手段に送る方法。
【請求項38】
請求項34乃至37のいずれか一項記載の方法であって、各大群をイオン源からイオントラップ内に注入する方法。
【請求項39】
請求項34乃至37のいずれか一項記載の方法であって、注目イオンとして特定されなかったため第2イオン経路に送られたイオンを貯留し、それらのイオンを後に次の大群としてイオントラップ内に再注入する方法。
【請求項40】
多重反射型又は閉軌道型のイオントラップアセンブリであって、
イオントラップと、イオンゲートを含む電極装置と、システムコントローラと、を備え、
上記イオンゲートが、上記イオントラップの内部経路上を辿っているイオンを第1イオン経路に送る第1ゲート状態と、当該イオンを第2イオン経路に送る第2ゲート状態との間で切替可能であり、
上記システムコントローラが、上記イオントラップに注入され又はその内部で発生する種々の荷電粒子のうち、上記内部経路上で実質的にアイソクロナスに且つそのイオンの質量電荷比に対応する特徴的な運動周期で反復又は周回運動している種々のイオンのなかから、当該運動周期が違うn種(但しn≧2)を注目イオンとして特定し、更に、上記イオンゲートの第1ゲート状態への切替を、そのうち第1の種のイオンの運動周期に従い定めたタイミングTa(但しa≧1)、同じく第2の種のイオンの運動周期に従い定めた別のタイミングTb(但しb≧1)等々、n種ある注目イオンそれぞれの運動周期に従い定めた一群のタイミングTx(但しx=1,2,…)に従い実行することによって、それら注目イオンを他種イオンから分離させるイオントラップアセンブリ。
【請求項41】
請求項40記載のイオントラップアセンブリであって、上記システムコントローラが、ある期間に、その近傍に存するイオンがn種ある注目イオンのうちいずれかであるはずのタイミングでは第1ゲート状態になり、分析対象とならない種のイオンであるはずのタイミングでは第2ゲート状態になるよう、上記イオンゲートを制御するイオントラップアセンブリ。
【請求項42】
請求項41記載のイオントラップアセンブリであって、上記システムコントローラが、上記とは別の期間に、n種ある注目イオンのうち一種がその近傍に飛来するはずのタイミングでイオン検出状態になるよう上記イオンゲートを制御するイオントラップアセンブリ。
【請求項43】
請求項41記載のイオントラップアセンブリであって、上記システムコントローラが、その種に特徴的な運動周期に差があるためイオントラップ内を異なる回数運動する複数種のイオンに関し、上記とは別の期間に、それらのイオンがそのイオンゲートに同着するはずのタイミングでイオン検出状態になるよう上記イオンゲートを制御するイオントラップアセンブリ。
【請求項44】
請求項41、42又は43記載のイオントラップアセンブリであって、上記システムコントローラが、n種ある注目イオンが第1イオン経路経由で上記電極装置の一部に達し上記イオントラップにおけるその反復又は周回運動を継続するよう、またその他の種のイオンが当該イオントラップから第2イオン経路経由で他のイオン光学系に達しそのイオン光学系の作用で当該イオントラップにおける反復又は周回運動をやめるよう、上記イオンゲートを制御するイオントラップアセンブリ。
【請求項45】
請求項44記載のイオントラップアセンブリであって、上記イオンゲートが、注目イオンでないため第2イオン経路に送られたイオンを上記イオントラップから外に出し又は当該イオントラップの一部への射突により消滅させるイオントラップアセンブリ。
【請求項46】
請求項42乃至45のいずれか一項記載のイオントラップアセンブリであって、
上記イオンゲートが、励振用の電極及び電源を備え、
上記システムコントローラが、上記電源を随時制御して上記イオンゲートを第2ゲート状態にすることにより、分析対象として特定されていない種のイオンを第2イオン経路上に追いやるイオントラップアセンブリ。
【請求項47】
請求項46記載のイオントラップアセンブリであって、上記システムコントローラが、n種ある注目イオンのうちいずれかがイオンゲート近傍に存するときに、その注目イオンが実質的に励振を受けずにそのイオンゲートを通り抜けることとなるよう、上記電源を制御して上記電極の作用を停止させるイオントラップアセンブリ。
【請求項48】
請求項45乃至47のいずれか一項記載のイオントラップと、その外部に設けられたイオン貯留装置と、を備え、
上記イオンゲートが、n種ある注目イオンのいずれでもない種のイオンを上記イオントラップから取り出して上記イオン貯留装置に送る質量分析計。
【請求項49】
請求項48記載の質量分析計であって、
更にイオン検出手段を備え、
上記システムコントローラが、イオントラップ内で他の種のイオンから分離されたn種の注目イオンのうちm種(但しn≧m≧1)がイオンゲート近傍に飛来するであろうタイミングを求め、そのタイミングにて上記イオンゲートをイオン検出状態に切り替え、そしてそのイオン検出状態になっているとき当該イオンゲートの近傍に存するm種の注目イオンを上記イオン検出手段に送り検出させる質量分析計。
【請求項50】
請求項45乃至47のいずれか一項記載のイオントラップと、イオン検出手段と、を備え、
上記システムコントローラが、イオントラップ内で注目外イオンから分離されたn種の注目イオンのうちm種(但しn≧m≧1)がイオンゲート近傍に飛来するであろうタイミングを求め、そのタイミングで上記イオンゲートをイオン検出状態に切り替え、そしてそのイオン検出状態になっているとき当該イオンゲートの近傍に存するm種の注目イオンを上記イオン検出手段に送り検出させる質量分析計。
【請求項51】
請求項50記載の質量分析計であって、上記システムコントローラが、n種ある注目イオンのうち上掲のm種を上記イオン検出手段に送る第1検出サイクルと、残りn−m種ある注目イオンのうちq種(但しn−m≧q≧1)をそのイオン検出手段に送りそこで検出させる第2検出サイクルとを、当該イオン検出手段の応答遅延を上回る時間間隔Δtをおいて実行させる質量分析計。
【請求項52】
請求項48乃至51のいずれか一項記載の質量分析計であって、上記システムコントローラが、上記イオントラップに注入され又はその内部で発生した複数種の荷電粒子種のうちp種(但しp≧2)を分析対象にする旨のユーザ入力を受け付け、更に、第1イオン分離サイクルにて処理すべきn種の注目イオンをイオン種間分離最適化アルゴリズムに従い特定する質量分析計。
【請求項53】
請求項52記載の質量分析計であって、そのイオン種間分離最適化アルゴリズムが、p種ある分析対象イオン間に存する反復又は周回運動の周期差に基づき、第1イオン分離サイクルにて処理すべきn種のイオンを特定するアルゴリズムである質量分析計。
【請求項54】
請求項49乃至53のいずれか一項記載の質量分析計であって、上記イオン検出手段がイオントラップ外にある質量分析計。
【請求項55】
請求項49乃至53のいずれか一項記載の質量分析計であって、上記イオン検出手段が上記イオントラップを構成する電極装置の内部又は近傍に配置された質量分析計。
【請求項56】
請求項48乃至55のいずれか一項記載の質量分析計であって、更に、荷電粒子を発生させるイオン源を備える質量分析計。
【請求項57】
請求項56記載の質量分析計であって、更に、上記イオン源と上記イオントラップの間にイオン貯留兼注入装置を備え、そのイオン貯留兼注入装置が、当該イオン源からの荷電粒子を受け入れて蓄え、次いでその複数個の荷電粒子を当該イオントラップに注入する質量分析計。
【請求項58】
請求項48乃至57のいずれか一項記載の質量分析計であって、更に、注目イオンを分析する質量分析部を備える質量分析計。
【請求項59】
請求項58記載の質量分析計であって、上記質量分析部が、上記イオントラップから注目イオンを受け入れフラグメント化するフラグメント化装置を備え、そのフラグメント化装置で得られたイオン例えばフラグメントイオンをその後段にある別の質量分析部に送る質量分析計。
【請求項60】
請求項59記載の質量分析計であって、上記フラグメント化装置が複数本のチャネルを有し、そのうち少なくとも1本が、注目イオンを高々一種しか受け入れないチャネルである質量分析計。
【請求項61】
請求項59又は60記載の質量分析計であって、上記フラグメント化装置が、イオン貯留機能、イオン貯留装置又はその双方を備える質量分析計。
【請求項62】
請求項59、60又は61記載の質量分析計であって、更に、上記フラグメント化装置の下流に別の質量分析部を備え、その質量分析部が、Orbitrap(登録商標)型質量分析計、飛行時間効果(TOF)型質量分析計、FT−ICR型質量分析計又はその任意の組合せである質量分析計。

【図1】
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【図2】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【公表番号】特表2010−509743(P2010−509743A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536789(P2009−536789)
【出願日】平成19年11月14日(2007.11.14)
【国際出願番号】PCT/GB2007/004352
【国際公開番号】WO2008/059246
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(508306565)サーモ フィッシャー サイエンティフィック (ブレーメン) ゲーエムベーハー (20)
【Fターム(参考)】