説明

多重反射式ガスセル

【課題】
従来の表面反射鏡では、ガスセルの気密保持のため表面反射鏡とガスセル外囲器の間に挿入されるガスケットと、表面反射鏡反射面にコーティングされる薄膜との親和性により、使用中にガスケットと薄膜表面が融着し、保守点検などで表面反射鏡を取り外す際に前記薄膜が反射面から不均一に剥離する事故が発生し、表面反射鏡の再利用が困難であった。
【解決手段】
反射率向上または反射面保護のために、セルCNの開閉蓋2または開閉蓋3の内方に配設された平面鏡4または平面鏡5の基板4aまたは基板5aに、反射率向上または反射面保護のためにコーティングされる薄膜4bまたは薄膜5bのコーティング範囲を、適切なマスキングによってセルCNの気密保持のため挿入されるOリング8RまたはOリング8Lと基板4aまたは基板5aが接触する領域を除いた領域に限定し、各薄膜表面と各Oリングの融着を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収を利用したガス濃度測定に使用される多重反射式ガスセルに関する。
【背景技術】
【0002】
吸光分析によるガス濃度測定では、ランバートベールの法則により感度は測定光の光路長に比例するので、吸光分析装置(以下、装置と称す)の多くは高感度化のために、測定用のガスを満たしたガスセル(以下、セルと称す)内で測定光を多重反射させることにより光路長を実質上長くする構成が採用されている。
【0003】
多重反射用の表面反射鏡としては湾曲した反射鏡または平面境が用いられ、複数枚の表面反射鏡の間で光が幾度も折り返される。多くは表面反射鏡を取り外しての洗浄や別の新しい表面反射鏡との交換を行っても光学系の配置関係が変わらない構成となっている。以下、2枚の平面鏡を使用した多重反射式ガスセル(以下単に「セル」という)を説明する。
【0004】
セルは筒状の胴部分(以下、単にセルボディと称す)と、その両端の開閉蓋部(以下、開閉蓋と称す)が嵌められて構成され、それぞれの内方対向面に各1枚、計2枚の平面鏡が配設される。
【0005】
平面鏡の素材には腐食に強いステンレス板などが使用され、その表面はたとえば電解複合研磨などの方法で鏡面に仕上げられる。さらに反射面には反射率を高めるため金やアルミニウムコーティングが施され、さらにその上に耐腐食性を上げるために酸化セリウムなどの表面保護薄膜がコーティングされている(たとえば特許文献1参照)。平面鏡のセルへの締結時には、セルの気密を保つため弾性材料のガスケット(以下、Oリングと称す)が平面鏡の反射面とセルボディとの間に挿入介設されている。
【0006】
図4は吸光分析装置を構成するセルCの縦断面を示す図である。セルボディ101の両端にはそれぞれセル内を開閉する開閉蓋102と開閉蓋103が設けられ、各開閉蓋の内方には各開閉蓋に接して平面鏡104または平面鏡105が締結ネジ106または締結ネジ107で締結されている。
【0007】
平面鏡104の構造の詳細は後記の図5で説明する。セルボディ101と平面鏡104または平面鏡105との間にはそれぞれOリング108RまたはOリング108Lが挿入され、セルボディ101の内方は外方に対して気密に保たれる。セルCにはセルボディ101の下部のガス導入口109から測定ガスが導入され、ガス排出口110から排出される。
【0008】
セルボディ101の右側の開閉蓋102には、セルボディ101への光線111の導入または取り出しのために、開閉蓋102の上下2か所に開閉蓋102を貫通した光通路が設けられ、光通路の外方に2個の窓板112(材料はサファイアなど)が固定リング113、押さえリング114、固定ネジ115を用いて固定される。また気密を保つため小口径の4個のOリング116が開閉蓋102と平面鏡104、および開閉蓋102と窓板112の間に挿入される。
【0009】
光線111は図右方の光源(レーザ光源など、図示せず)から下部の窓板112を通して導入され、平面鏡104と平面鏡105の間を多重反射して再び上部の窓板112を通して右方の検出器(図示せず)へ取り出される。光路長の延長のためセルC内では多数回の反射が行われるが、図1では簡略化のため反射が5回の例を示している。
【0010】
平面鏡104は図5に示すとおり、基板104a、薄膜104bから構成される。基板104aは円形のステンレス平板の表面を鏡面研磨したもので厚さは2mm前後である。薄膜104bは反射膜Rと保護膜Sで構成される。各膜は真空蒸着やスパッタリングなどの方法で作成されるそれぞれサブミクロン程度の薄い膜である。
【0011】
開閉蓋102および平面鏡104には締結ネジ106用の孔が4箇所、その内側に、光線111の導入および取り出しのために、前記光通路に対応した2箇所の孔が設けられる。基板105a、薄膜105bから構成される平面鏡105の構造は、光通路に対応した孔は必要がないため設けられていない点以外は平面鏡104と同一である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−17610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の表面反射鏡では、前記Oリングと前記薄膜の表面との親和性が非常に良いために、使用中に薄膜表面とOリングが融着し、保守点検などで表面反射鏡を取り外す際に表面コーティング層が表面反射鏡表面から不均一に剥離する事故が発生し、表面反射鏡の再利用が困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明が提供する吸光分析装置に用いられる多重反射式ガスセルは、反射率向上または反射面保護のため前記ガスセルの内方に配設される表面反射鏡の反射面に施されるコーティングが、前記ガスセルの気密保持のため前記表面反射鏡とガスセル外囲器の間に挿入されるガスケットと前記表面反射鏡の接触領域を除いて施されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
セルの分解組立に際して、セルの気密を保持するため表面反射鏡の反射面とセルボディの間に挿入されるガスケットが、反射率向上または反射面保護のため反射面に形成されたコーティングである薄膜面と融着し、反射面から不均一に剥離する事故が防止され、表面反射鏡部分の分解組立を繰り返しても表面反射鏡の再使用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の多重反射式ガスセルの縦断面を示す図である。
【図2】本発明の平面鏡の構造を示す斜視図である。
【図3】本発明の平面鏡の構造を示す斜視図である。
【図4】従来の多重反射式ガスセルの縦断面を示す図である。
【図5】従来の平面鏡の構造を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
吸光分析によるガス濃度測定では、感度は測定対象のガス中を通過する光の光路長に比例し、装置の多くは高感度化のため、測定ガスが導入されるガスセル(以下、単にセルと称す)内部で光を多重反射させることにより光路長を延長できる。通常、セルは筒状の胴部分(以下、セルボディと称す)と、その両端の蓋部分(以下、開閉蓋と称す)で構成される。
【0018】
多重反射用の表面反射鏡としては湾曲した反射鏡または平面境が用いられ、複数枚の表面反射鏡の間で光が幾度も折り返される。多くは表面反射鏡を取り外して洗浄あるいは別の新しい表面反射鏡と交換しても光学系の配置関係が変わらない構造となっている。以下、2枚の平面鏡を使用した実施例を図1〜図5にしたがって説明する。
【0019】
平面鏡の素材は腐食に強いステンレス板などが使用され、その表面はたとえば電解複合研磨などの方法で鏡面に仕上げられ、反射面側には反射率を高めるため金やアルミニウムコーティングが施され、さらにその上に耐腐食性を高めるため酸化セリウムなどの表面保護薄膜がコーティングされる。平面鏡のセルへの締結時には、セルの気密を保つため、弾性材料のガスケットなどの気密用部品(たとえばOリング)が平面鏡の反射面とセルボディとの間に挿設される。
【0020】
図1は本発明に係わる吸光分析装置としてのセルCNである。セルボディ1の両端には開閉蓋2または開閉蓋3が設けられ、各開閉蓋の内方には各開閉蓋に接して平面鏡4または平面鏡5が締結ネジ6または締結ネジ7で締結されている。締結ネジ6または締結ネジ7は各開閉蓋当たり各4本が使用される。図1にはその内の各2本が示されている。
【0021】
平面鏡4または平面鏡5の構造の詳細は後記の図2または図3で説明する。セルボディ1の両端面にはOリング8LまたはOリング8R用の溝加工がされており、セルボディ1と平面鏡4または平面鏡5との間にそれぞれ各Oリングが挿入され、セルボディ1の内方は外方に対して気密が保持される。セルCNにはセルボディ1の下部のガス導入口9から測定ガスが導入され、ガス排出口10から排出される。
【0022】
セルボディ1の右側の開閉蓋2には、セルボディ1への光線11の導入または取り出しのために2か所に開閉蓋2を貫通した光通路が設けられ、光通路の外方に窓板12(材料はサファイアなど)が固定リング13、押さえリング14、固定ネジ15を用いて固定される。また気密を保つために小口径の4個のOリング16が開閉蓋2と平面鏡4、および開閉蓋2と窓板12の間に挿設される。
【0023】
光線11は図右方の光源(レーザ光源など、図示せず)から下部の窓板12および前記光通路を通して導入され、平面鏡4と平面鏡5の間を多重反射して再び上部の光通路および窓板12を通して右方の検出器(図示せず)へ取り出される。光路長の延長のためセルCN内では多数回の反射が行われるが、図1では簡略化のため反射を5回とした例を示している。
【0024】
平面鏡4は図2に示すとおり、基板4a、薄膜4bから構成される。基板4aは円形のステンレス平板の表面を鏡面研磨したもので厚さは2mm前後である。
【0025】
薄膜4bは反射膜RNと保護膜SNで構成される。各膜は真空蒸着やスパッタリングなどの方法で作成されるそれぞれサブミクロン程度の薄い膜で、マスキングなどの適切な方法によって、Oリング8Rが平面鏡4に接触する面、すなわち図2のOリング領域PZの内側にのみコーティングされる。
【0026】
開閉蓋2および平面鏡4には締結ネジ6用の孔が4箇所、その内側に、光線11を導出入するために、前記光通路に対応した位置に計2箇所の孔が設けられている。なおコーティングの厚みは前記のとおりサブミクロン程度で、コーティングの無い面との段差は気密保持にも反射面の光学的位置にも影響はない。
【0027】
図3は平面鏡5の構造で、光線11を通過させる必要がないので光の導入および取り出すための孔は設けられていないが、その他の構造は図2に示した平面鏡4の構造に同一である。基板5aは円形のステンレス平板の表面を鏡面研磨したものである。薄膜5bは反射膜RNと保護膜SNで構成され、マスキングなどの適切な方法によって、Oリング8Lが平面鏡5に接触する面、すなわち図3のOリング領域PZの内側にのみコーティングされている。
【0028】
本発明は上記の構成に限定されるものではなく、種々の変形例を挙げることができる。たとえば、図1では薄膜4bまたは薄膜5bのコーティング領域はセルボディ1の内周よりわずかに内側に示されているが、Oリング8RまたはOリング8Lが平面鏡4または平面鏡5と接触する領域以外の領域であれば、コーティング領域はセルボディ1の内周を越えた範囲におよぶ場合でも支障はなく、平面鏡4または平面鏡5の最外周に至っても良い。
【0029】
また平面鏡4または平面鏡5を構成する基板4aまたは基板5a、薄膜4bまたは薄膜5bには種々の材料、形状および寸法が採用可能で、本発明は表面反射鏡を構成する基板、薄膜の材料、形状および寸法等については、上記ならびに図示例に限定されるものではない。たとえば平面鏡4または平面鏡5に替えて、湾曲形状の表面反射鏡に本発明を適用することも可能であり本発明はこれらをすべて包含する。
【符号の説明】
【0030】
1 セルボディ
2 開閉蓋
3 開閉蓋
4 平面鏡
4a 基板
4b 薄膜
5 平面鏡
5a 基板
5b 薄膜
8L Oリング
8R Oリング
11 光線
16 Oリング
101 セルボディ
102 開閉蓋
103 開閉蓋
104 平面鏡
104a 基板
104b 薄膜
105 平面鏡
105a 基板
105b 薄膜
106 締結ネジ
107 締結ネジ
108L Oリング
108R Oリング
111 光線
114 押さえリング
C セル
CN セル
PZ Oリング領域
R 反射膜
RN 反射膜
S 保護膜
SN 保護膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸光分析装置に用いられる多重反射式ガスセルであって、反射率向上または反射面保護のため前記ガスセルの内方に配設される表面反射鏡の反射面に施されるコーティングが、前記ガスセルの気密保持のため前記表面反射鏡とガスセル外囲器の間に挿入されるガスケットと前記表面反射鏡の接触領域を除いて施されていることを特徴とする多重反射式ガスセル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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