説明

多重極質量分析計において補助電極を用いた軸方向の放出およびイントラップフラグメント化の方法

細長いロッドセットと一組の補助電極とを有する質量分析計を動作させる方法であって、ロッドセットは入口端部と出口端部と長手方向軸とを有する、方法が提供される。方法は、a)ロッドセットの入口端部の中にイオンを導くステップと、b)ロッドセットの出口端部に隣接する出口部材にバリア電界を生成し、かつロッドセットのロッド間にRF電界を生成することによって、ロッドセットにおいてイオンの少なくとも一部を捕獲するステップと、c)補助AC励起電圧を一組の補助電極に提供して、選択された質量対電荷の第1のグループのイオンにエネルギを与えるステップとを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(分野)
本発明は、概して質量分析法に関し、より詳細には補助電極を有する質量分析計を操作する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(序論)
一般的に、リニアイオントラップは、細長いロッドセットのロッドに印加された半径方向のRF電界と、ロッドセットの入口端および出口端に印加された半径方向の直流(DC)電界との組合せを用いてイオンを蓄える。特許文献1において説明されるように、リニアイオントラップ内で捕獲(trap)されたイオンは、ロッドセットから軸方向に質量依存しかつ出口レンズに印加されたDC電界を通過してスキャンされ得る。さらに特許文献2において説明されるように、リニア四重極低圧イオントラップにおいて捕獲されたイオンは、共鳴励起によってフラグメント化され得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,177,668号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0189171号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
(概要)
本発明の実施形態の局面に従って、細長いロッドセットと一組の補助電極とを有する質量分析計を動作させる方法であって、ロッドセットは入口端部と出口端部と長手方向軸とを有する、方法が提供される。方法は、a)ロッドセットの入口端部の中にイオンを導くステップと、b)ロッドセットの出口端部に隣接する出口部材にバリア電界を生成し、かつ該ロッドセットのロッド間にRF電界を生成することによって、ロッドセットにおいてイオンの少なくとも一部を捕獲するステップであって、RF電界およびバリア電界はロッドセットの出口端部に隣接する抽出領域において相互に作用し、フリンジ電界を生成する、ステップと、c)補助放出誘導AC励起電圧を一組の補助電極に提供して、抽出領域内の選択された質量対電荷比の第1のグループのイオンにエネルギを与え、バリア電界を通過してロッドセットから第1のグループのイオンを質量選択的に軸方向に放出するステップとを包含する。
【0005】
本発明の実施形態のさらなる局面に従って、細長いロッドセットと一組の補助電極とを有する質量分析計を動作させる方法であって、ロッドセットは入口端部と出口端部と長手方向軸とを有する、方法が提供される。方法は、a)ロッドセットの入口端部の中にイオンを導くステップと、b)ロッドセットの出口端部に隣接する出口部材にバリア電界を生成し、かつロッドセットのロッド間にRF電界を生成することによって、ロッドセットにおいてイオンの少なくとも一部を捕獲するステップであって、RF電界およびバリア電界はロッドセットの出口端部に隣接する抽出領域において相互に作用し、フリンジ電界を生成する、ステップと、c)補助フラグメント化AC励起電圧を一組の補助電極に提供して、親グループのイオンにエネルギを与えるステップと、d)ロッドセットのロッド間に背景気体を提供して、ステップc)においてエネルギを与えられた親グループのイオンをフラグメント化するステップとを包含する。
【0006】
出願人の教示のこれらおよび他の特徴は、本明細書において説明される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
当業者は、以下に説明される図面が例示的な目的のみのためであることを理解する。図面がいかなる方法でも出願人の教示の範囲を限定することは意図されない。
【図1a】図1aは、断面図において、質量分析計システムのイオントラップを例示し、該質量分析計システムは、本発明の実施形態の局面をインプリメントするために用いられ得る。
【図1b】図1bは、概略図において、図1aのQ3リニアイオントラップを組み込む質量分析計システムの例を示す。
【図2a】図2aは、グラフにおいて、1000Da/sで得られ、補助電極における励起を用いて図1aのリニアイオントラップから軸方向にスキャンされた609Da/sレセルピンイオンのイオントラップスペクトルを例示する。
【図2b】図2bは、グラフにおいて、609Daのピークの近くで拡大された同じイオントラップスペクトルを例示する。
【図3a】図3aは、グラフにおいて、補助電極を介して印加されたAC電圧励起を用いて図1aのリニアイオントラップにおいてフラグメント化した後に1000Da/sで得られる609Da/sレセルピンイオンのイントラップMS/MSスペクトルを示す。
【図3b】図3bは、グラフにおいて、親イオンの近くで拡大された図3aのスペクトルを例示する。
【図4a】図4aは、グラフにおいて、図3aのスペクトルの縮小したバージョンおよびスペクトルの全イオンクロマトグラムを例示する。
【図4b】図4bは、グラフにおいて、図2aのスペクトルの縮小したバージョンおよびスペクトルの全イオンクロマトグラムを例示する。
【図5】図5は、断面図において、本発明の実施形態の種々の局面に従ってインプリメントされ得る方法を用いて補助電極を組み込むリニアイオントラップのさらなる変形を例示する。
【図6】図6は、グラフにおいて、AC電圧源からのAC励起(excitement)電圧を図5のリニアイオントラップの4個の補助電極のうちの2個に印加することによって得られる1000Da/sでの質量選択的な軸方向の放出スキャンの実行を示す。
【図7a】図7aは、グラフにおいて、4個の補助電極のうちの2個に印加されたAC電圧励起を用いて図5のリニアイオントラップにおいてフラグメント化した後に1000Da/sで得られる609Da/sのレセルピンイオンのイントラップMS/MSスペクトルを示す。
【図7b】図7bは、グラフにおいて、親イオンの近くで拡大された図7aのスペクトルを例示する。
【図8】図8は、断面図において、本発明の実施形態の種々の局面に従ってインプリメントされ得る方法を用いて補助電極を組み込むリニアイオントラップのなおもさらなる変形を例示する。
【図9】図9は、グラフにおいて、1000Da/sで得られ、補助電極およびロッドセットのAロッドの両方における励起を用いて図8のリニアイオントラップから軸方向にスキャンされた609Da/sのレセルピンイオンのイオントラップスペクトルを例示する。
【図10】図10は、グラフにおいて、補助電極およびロッドセットのAロッドの両方に印加されたAC電圧励起を用いて図8のリニアイオントラップにおいてフラグメント化した後に1000Da/sで得られる609Da/sのレセルピンイオンのイントラップフラグメント化スペクトルを例示する。
【図11a】図11aは、概略図において、本発明の種々の実施形態の種々の局面に従って方法をインプリメントするために用いられ得る補助電極を有するリニアイオントラップを組み込む質量分析計システムの代替の変形を例示する。
【図11b】図11bは、概略図において、本発明の種々の実施形態の種々の局面に従って方法をインプリメントするために用いられ得る補助電極を有するリニアイオントラップを組み込む質量分析計システムの代替の変形を例示する。
【図11c】図11cは、概略図において、本発明の種々の実施形態の種々の局面に従って方法をインプリメントするために用いられ得る補助電極を有するリニアイオントラップを組み込む質量分析計システムの代替の変形を例示する。
【図12a】図12aは、概略図において、本発明の種々の実施形態のなおもさらなる局面に従ってなおもさらなる方法をインプリメントするために用いられ得るセグメントにされた補助電極を組み込むリニアイオントラップを例示する。
【図12b】図12bは、グラフにおいて、図12aのセグメントにされた補助電極を用いてインプリメントされ得る、電圧プロフィールおよび結果として生じるイオン分離を例示する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(説明)
図1aを参照すると、補助電極102を組み込んだリニアイオントラップ100が断面図で例示され、リニアイオントラップ100は、本発明の実施形態の一局面に従う方法をインプリメントするために用いられ得る。示されるように、リニアイオントラップ100はまた、AロッドおよびBロッドを有するロッドセット106、ならびに、一般的にAロッドに接続され、双極補助AC電圧をAロッドに印加し、質量選択的な軸方向の放出またはイントラップフラグメント化のいずれかを提供するAC電源104を備えている。補助AC電圧を四重極ロッド自体に印加する代わりに、補助AC電圧をロッド間に置かれる補助電極に印加することによって、質量選択的な軸方向の放出またはイントラップフラグメント化の両方に対する類似の成果が得られ得る。すなわち、補助電極に印加された補助AC電圧は、(i)イオンを放射状に励起し、イオンを質量選択的に軸方向に放出することと、(ii)イオンを放射状に励起し、背景気体を用いるCAD/CIDによってイオンをフラグメント化することとのために用いられ得る。さらに、補助電極がセグメントにされるとき、より詳細に以下に説明されるように、これらのセグメントにされた補助電極は、単一のリニア多重極に沿ってイオンを空間的に選択し、励起するために用いられ得る。すなわち、特定の補助電極が存在する場合、イオンは、多重極の特定のセクションからのみフラグメント化かつ/または抽出され得る。この手段によって、単一の多重極ロッドセットを用いて、時間および空間におけるタンデムのMSおよびMS/MSがインプリメントされ得、この場合、一セクションにおいてイオンはフラグメント化され得、一方、別のセクションにおいてイオンは放出される。
【0009】
図1aのリニアイオントラップにおいて、AC電源104は、すべての4個の補助電極102に接続される。AC電源104は、ロッドセット106のAロッドまたはBロッド
のいずれにも接続されていなく、該Aロッドは四重極ロッドセットの正極であり、該Bロッドは四重極ロッドセットの負極である。ロッドセット106内の黒トレース108は、シミュレーションソフトウェアを用いてシミュレートされたイオン軌道を表す。実施されたシミュレーションにおいて、補助電極102に印加されたDC電圧は、ロッドセット106のロッドに印加されたDC電圧と同じものとして処理される。
【0010】
図1bを参照すると、米国特許第6,504,148号ならびにHagerおよびLeBlancによる「Rapid Communications of Mass Spectrometry、2003、17、1056−1064」において全般的に説明されるように、Q−q−Qリニアイオントラップ質量分析計システムの変形が概略図で説明される。しかしながら、図1bのリニアイオントラップ質量分析計システムは、図1aに示されるように、Q3リニアイオントラップが補助電極102を組み込むということにおいてわずかに修正されている。
【0011】
リニアイオントラップ質量分析計システム110の動作中、イオンは、開口プレート114およびスキマ116を通って真空チャンバ112の中に放出される。例えば、MALDIまたはESIなどの任意のイオン源が用いられ得る。質量分析計システム110は、4組の細長いロッドQ0、Q1、Q2およびQ3を備え、ロッドセットQ0の後に開口プレートIQ1、Q1とQ2との間にIQ2、およびQ2とQ3との間にIQ3がある。短いロッドQ1Aの追加の一式が開口プレートIQ1と細長いロッドセットQ1との間に備えつけられる。
【0012】
一部の場合において、ロッドセットの隣接する対の間のフリンジ電界は、イオンの流れを歪め得る。短いロッドQ1Aは、開口プレートIQ1と細長いロッドセットQ1との間に備えつけられ、イオンの流れを細長いロッドセットQ1の中に集束する。
【0013】
イオンは、Q0において衝突して冷却され、約8×10−3トルの圧力で維持され得る。図1aにおいて、Q1は四重極質量分析器として動作し、一方、Q3はリニアイオントラップとして動作する。もちろん、Q1およびQ3の構成は、容易に逆にされ得る。Q2は衝突セルであり、該衝突セルにおいて、イオンは、衝突気体と衝突し、より小さい質量の生成物にフラグメント化される。オプションで、短いロッドQ2AはQ2の上流に、Q3AはQ2の下流に備えつけられ得る。一部の場合において、Q2は、反応セルとして用いられ得、該反応セルにおいて、イオン−中性またはイオン−イオン反応が起り、他の種類または付加物を生成する。広範囲のイオンを捕獲するように動作可能であることに加えて、Q3は、補助電極102に加えられた補助励起電圧を用いて、質量選択的な軸方向の放出または質量選択的フラグメント化を伴うリニアイオントラップとして動作され得る。
【0014】
一般的に、イオンは、四重極ロッドに印加された放射状のRF電圧および端部口径レンズに加えられたDC電圧を用いてリニアイオントラップQ3において捕獲され得る。端部口径レンズとロッドセットとの間のDC電圧差は、バリア電界を提供するために用いられ得る。もちろん、DC電圧差を提供するためにオフセット電圧が印加されるという条件で、実際の電圧が端部レンズ自体に提供される必要はない。あるいは、ACまたはRF電界などの時間変化するバリアは、口径レンズの端部に備えつけられ得る。DC電圧がイオンを捕獲するためにリニアイオントラップQ3の各端部において用いられる場合、各端部に提供される電圧差は、同じであり得るかまたは異なり得る。
【0015】
図2aを参照すると、1000Da/sにおいて得られる609Da/sのレセルピンイオンのイオントラップスペクトルが示される。イオンは、開放分解能(open resolution)でフィルタリング四重極Q1において選択され、Q2衝突セルを介して低い衝突エネルギ(CE=10eV)でQ3トラップの中に送られる。上記のように、短いロッドQ2AおよびQ3AがQ2の各端部に備えつけられ、これらの結果を得た。Q3トラップ内において、イオンはDC/RF絶縁され、次いで、冷却され、補助電極に加えられた励起電圧を用いてトラップから出てスキャンされる。補助電極に加えられる励起電圧は30Vp−pであった。ステムの深度が増加させられると、すなわち、軸により近づくと、T電極によって生成される電界はより強くなる。その結果、軸方向の放出が起るように電極に印加されるのに必要とされる電圧は、より低くなる。図2bを参照すると、同じイオントラップスペクトルが609Daのピークの近くで拡大されて示される。
【0016】
図3aを参照すると、1000Da/sにおいて得られる609Da/sのレセルピンイオンのイントラップMS/MSスペクトルが示される。この場合、親イオン609.3Daは、開放分解能でフィルタリング四重極Q1において選択され、Q2衝突セルを介して低い衝突エネルギ(CE=10eV)でQ3トラップの中に送られる。Q3トラップ内において、この親イオンは、DC/RF絶縁され、次いで補助電極102に加えられたAC電圧励起を用いてフラグメント化される。用いられるq値は、0.2363であり、励起周波数は85KHzである。30m秒の励起期間後、フラグメントイオンは冷却され、次いで、補助電極のAC電圧励起を用いてトラップから出てスキャンされる。
【0017】
図3bを参照すると、図3aのスペクトルが親イオンの近くで拡大されて再び例示される。スペクトルから観察され得ることは、レセルピンイオン610.4Daの第2の同位体の強度および先行ピーク608.4の強度が、フラグメント化が行われない場合の図2bにおいて観察された強度と同じままである一方、同位体ピーク609.3Daの強度はフラグメント化がない場合において観察された強度の約10%に落ちることである(図2aおよび図2b)。このデータは、励起プロセスが609.3同位体イオンの励起のみを可能にする良好な質量分解能を提供することを示す。
【0018】
図4aおよび4bを参照すると、図3aのスペクトルの縮小したバージョンである図4aおよび図2aのスペクトルの縮小したバージョンである図4bがグラフで例示され、それらの対応する全イオン数(TIC)を示す。これらの図において示されるように、フラグメント化効率は、極めて高くなり得る。見かけの効率は、100%より高いように見え得る。なぜなら抽出効率は質量と共に変化するからである。
【0019】
生成物イオン形成およびイオン存在度の両方の点からのMS/MSスペクトルの外見は、槽の気体(bath gas)との衝突を介して内部エネルギに変換されるイオンの運動エネルギの量と、この変換が行われる速度と、フラグメント化される化学結合の種類との関数である。
【0020】
共鳴励起を介してイオンによって吸収される力は、共鳴励起電圧の振幅と、励起の持続時間と、ターゲット気体との衝突を介して失われる力とに直接に関係する。イオンが有し、捕獲されたままであり得る最大の運動エネルギは、有効電位の深度と、q値の2乗によって同様に増加するRF電位バリアとによって決定される。従って、フラグメント化が行われるq値が高ければ高いほど、イオンが衝突間に獲得し得る平均の運動エネルギが高くなり、かつ特定のフラグメント化チャネルを起動するのに必要とするフラグメント化時間が短くなる。
【0021】
レセルピンイオン、質量609Daの場合、典型的なCAD/衝突セル実験は40〜50eVの衝突エネルギで行なわれる。本発明者の実験においては、フラグメント化時間は30msであり、一方、励起電圧は4Vp−pである。典型的なCAD/衝突セル実験が80〜90eVp−pの衝突エネルギで行なわれるAgilent溶液からのより困難なイオン922Daのフラグメント化に関して、フラグメント化時間は50msであり、一方、励起電圧は8Vp−pである。両方の場合において、溶液気体圧力は3.3×10^−5トルである。q値は0.236である。すべての実験は、四重極の中央軸から8mmの距離にあるステムを有するT電極を用いて行なわれた。ステムの深度が増加させられると、すなわち軸により近づくと、T電極によって作られる電界はより強くなる。その結果、フラグメント化が起こるように電極に印加されるのに必要とされる電圧は、より低くなる。
【0022】
概して、フラグメント化時間および共鳴励起電圧の振幅は、特定の化合物ならびに起動/励起が行なわれる圧力およびqの値に従って変化する。高圧(mトル)および低圧(10^−5トル)の両方におけるイントラップフラグメント化に関する広範囲にわたる文献がある。例えば、M.J.Charles,S.A.McLuckey,G.L.Glish,J.Am.Soc.Mass Spectrom.,1031−1041(5)1994を参照されたい。
【0023】
図5を参照すると、本発明の実施形態のさらなる局面に従って、フラグメント化方法および軸方向の放出方法を提供することに適しているリニアイオントラップが断面図で例示される。明快さのために、100が加えられた以外は、図1aのリニアイオンガイド100を説明するために用いられた参照番号と同じ参照番号が用いられる。簡潔さのために、図1aの説明の一部は、図5に関して繰り返されない。
【0024】
図5のリニアイオントラップ200において、AC電源204は、4個の補助電極202のうちの2個にのみ接続される。再び、AC電源204は、ロッドセット206のロッドのいずれにも接続されない。これらの2個の補助電極202に印加されるDC電圧は、ロッド206に印加されるDC電圧に等しくあり得る。ロッドセット206内の黒のトレース208は再び、シミュレーションソフトウェアを用いてシミュレートされたイオン軌道を表す。図1aのイオン軌道108と異なり、図5のイオン軌道208は、イオン運動が四重極軸の両方に沿って励起されることを示す。図5のリニアイオントラップ200に関して下記に説明される実験結果において、図5のリニアイオントラップ200は、図1aのリニアイオントラップ100および図1bの質量分析計システムのQ3に取って代わる。
【0025】
図6を参照すると、1000Da/sにおける図5のリニアイオントラップ200を用いて得られる609Da/sのレセルピンイオンのイオントラップスペクトルが示される。
【0026】
図7aを参照すると、1000Da/sで動作する図5のリニアイオントラップ200を用いて得られる609Da/sのレセルピンのイントラップフラグメント化スペクトルが示される。補助電極に印加される励起電圧は20Vp−pである。ステムの深度が増加させられると、すなわち、軸により近づくと、T電極によって生成される電界はより強くなる。その結果、軸方向の放出が起るように電極に印加されるのに必要とされる電圧は、より低くなる。図7bを参照すると、図7aのスペクトルが親イオンの近くで拡大されて例示される。
【0027】
図8を参照すると、リニアイオントラップ300が断面図で例示され、リニアイオントラップ300は、本発明のさらなる実施形態のさらなる局面に従うさらなる方法をインプリメントするために用いられ得る。明快さのために、200が加えられた同じ参照番号が、図1aのリニアイオントラップ100の要素に類似しているリニアイオントラップ300の要素を示すために用いられる。簡潔さのために、図1aのリニアイオントラップ100の説明の少なくとも一部は、図8のリニアイオントラップ300に関して繰り返されない。
【0028】
図1aのリニアイオントラップ100と同様に、図8のリニアイオントラップ300は、4個の補助電極302全てに接続されたAC電源304aを備えている。しかしながらさらに、図8のリニアイオントラップ300はまた、リニアイオントラップ300のロッドセット306のAロッドに接続された二次AC電源304bを備え、双極補助AC電圧をAロッドに提供する。AC電源304aおよび304bは位相同期される。それらは一緒に、位相同期のAC励起電圧を補助電極およびAロッドの両方に提供して、質量選択的な軸方向の放出またはイントラップフラグメント化を提供し得る。
【0029】
図9を参照すると、1000Da/sスキャン速度で得られた609Da/sのレセルピンのイオンのトラップスペクトルが示される。イオンは、開放分解能でフィルタリング四重極Q1において選択され、Q2衝突セルを介して低い衝突エネルギ(CE=10eV)でQ3トラップに送られる。Q3トラップ内において、イオンはDC/RF絶縁され、次いで、冷却され、補助電極およびAロッドに加えられた励起電圧を用いてトラップから出てスキャンされる。
【0030】
図10を参照すると、609Da/sレセルピンイオンのイントラップフラグメント化スペクトルが描かれる。補助電極に印加された励起電圧は20Vp−pであり、一方、主ロッドに印加された電圧は1Vp−pである。
【0031】
図11a、11bおよび11cを参照すると、上記のように質量選択的な軸方向の放出またはフラグメント化のいずれかのために用いられ得る補助電極を有するリニアイオントラップを組み込むリニアイオントラップ質量分析計の代替の変形が概略図で例示される。明快さのために、同じ参照番号が、リニアイオントラップ質量分析計システム400のこれらの種々の変形の全てのために用いられる。
【0032】
図11aの質量分析計システム410を特に参照すると、この構成は、リニアイオントラップおよび四重極質量分析計の位置が変更されたことを除いて、図1bの質量分析計システム100に非常に類似している。すなわち、図11aにおいて、Q1は補助電極402を組み込んだリニアイオントラップであり、一方、Q3は四重極質量分析計である。従って、図11aの質量分析計システム410を用いて、イオンは、次のフラグメント化のために衝突セルQ2に送られる前にかつさらなる質量選択のためにQ1からQ3に送られる前に、上記の方法と類似した方法で補助電極402を用いて、Q1から質量選択的に軸方向に放出されるかまたはQ1においてフラグメント化され得る。簡潔さのために、図1bの質量分析計システム110の説明の多くは、図11a、図11bおよび図11cの質量分析計システム410に関して繰り返されない。明快さのために、300が加えられた同じ参照番号が、図11a、図11bおよび図11cの任意の図の質量分析計システム410の要素を示すために用いられ、該要素は、図1bの質量分析計システム110の要素に類似している。
【0033】
図11bを参照すると、イオントラップ質量分析計システム410のさらなる変形が例示される。図11bのリニアイオントラップ質量分析計は、図11bにおいて四重極質量分析計Q3が飛行時間(ToF)質量分析計に代えられたことを除いて、図11aの質量分析計と同じである。しかしながら、図11aのレイアウト同様に、リニアイオントラップQ1は、補助電極402を備え、質量選択的な軸方向の放出またはQ1内のイオンのフラグメント化のために励起電圧が補助電極に印加され得る。これらのイオンは後に、フラグメント化のために衝突セルQ2に送られ、さらなる質量選択のためにQ2から飛行時間質量分析計に送られる。
【0034】
もちろん図11cの質量分析計システムのレイアウトによって示されるように、Q1から質量選択的に軸方向に放出されるイオンは、さらなる処理を受けることなく検出され得る。すなわち、図11cの質量分析計システム410において示されるように、検出器430は、Q1から直接に下流にある。従って、上記のように、補助AC電圧は、図11cの質量分析計システム400のQ1において補助電極402に印加され、イオンをフラグメント化し、質量選択的に軸方向にイオンをQ1から出口レンズ418を介して検出器430に放出する。
【0035】
図12aを参照すると、セグメントにされた補助電極502a、502bおよび502cを組み込んだリニアイオントラップ500が概略図で例示され、該補助電極は、本発明の実施形態のさらなる局面に従うさらなる方法をインプリメントするために用いられ得る。示されるように、リニアイオントラップ500はまた、ロッドセット506を備えている。さらに、リニアイオントラップ500は、補助電極セグメント502a、502bおよび502cの各々のための別々の補助AC電源(図示されていない)を備えている。
【0036】
種々の補助電極セグメントに種々の電圧を印加することによって、これらのセグメントにされた補助電極502a、502bおよび502cは、単一のリニア多重極に沿ってイオンを空間的に選択しかつイオンを励起させるために用いられ得る。このことは、例えば、次の方法によって達成され得る。
【0037】
リニアイオントラップ500は、イオンで満たされ得る。この時点で、中間の補助電極502bは、四重極ロッドオフセットと同じ電圧で維持され得る。一旦リニアイオントラップ500がイオンで満たされると、補助電極セグメント502bの電圧は、300ボルトに上げられ得る。図12bに示されるように、このことはポテンシャル井戸IおよびIIを作り、各々は、補助電極セグメント502bによって提供される電圧バリアによって分離される2つの異なる集団(population)のイオンを含む。
【0038】
ポテンシャル井戸IおよびIIにおけるこれらのイオン集団の各々は、2つ以上の異なる質量対電荷比−例えば、(m/z)および(m/z)のイオンを含み得る。これらのイオンは、四重極電界において種々の永続周波数(secular frequency)を有する。従って、これらの2つの異なるグループのイオンの各々の周波数に適合する周波数によって補助電極に励起電圧を印加し得る。例えば、第1の領域−ポテンシャル井戸I−において、質量対電荷比(m/z)のイオンをフラグメント化し得、一方、第2の領域−ポテンシャル井戸II−において、質量対電荷比(m/z)のイオンをフラグメント化し得る。このフラグメント化のステップ後、第2の領域−ポテンシャル井戸IIからの選択されたイオンの質量選択的な軸方向の放出のために補助電極セグメント502cに励起電圧を印加し得る。後に、補助電極セグメント502bおよび502c上のDC電圧は下げられ得、一方、補助電極セグメント502a上のDC電圧は上げられ得る。その結果、これまでポテンシャル井戸Iにあったイオン集団は、リニアイオントラップ500の出口トラップレンズ518の方に曲げられた新しいポテンシャル井戸の中に移動し得る。後に、このイオンの集団は、適切な励起電圧を補助電極セグメント502cに提供することによって、リニアイオントラップ500から質量選択的に軸方向に放出され得る。この手段によって、時間および空間におけるタンデムMSおよびMS/MSは、単一の多重ロッドセットにおいてインプリメントされ得る。
【0039】
本発明の他の変形および修正が可能である。例えば、上記のシステム以外の質量分析計システムが用いられ得る。さらに、セグメントにされた電極を用いてインプリメントされる本発明の局面に関して、さらに多くのセグメントにされた電極を含むリニアイオントラップの実施形態はまた、提供され得、単一の多重極においてインプリメントされ得るMS/MSステップの数を増加させる。そのような修正または変形は、本明細書に添付された特許請求の範囲によって定義されるように本発明の領域および範囲内であると信じられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長いロッドセットと一組の補助電極とを有する質量分析計を動作させる方法であって、該ロッドセットは入口端部と出口端部と長手方向軸とを有し、該方法は、
a)該ロッドセットの該入口端部の中にイオンを導くステップと、
b)該ロッドセットの該出口端部に隣接する出口部材にバリア電界を生成し、かつ該ロッドセットのロッド間にRF電界を生成することによって、該ロッドセットにおいてイオンの少なくとも一部を捕獲するステップであって、該RF電界および該バリア電界は該ロッドセットの該出口端部に隣接する抽出領域において相互に作用し、フリンジ電界を生成する、ステップと、
c)補助放出誘導AC励起電圧を該一組の補助電極に提供して、該抽出領域内の選択された質量対電荷比の第1のグループのイオンにエネルギを与え、該バリア電界を通過して該ロッドセットから該第1のグループのイオンを質量選択的に軸方向に放出するステップと
を包含する、方法。
【請求項2】
ステップc)は、前記補助放出誘導AC励起電圧を前記一組の補助電極に提供し、前記選択された質量対電荷比の前記第1のグループのイオンを質量選択的に軸方向に励起するステップを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
d)前記軸方向に放出された第1のグループのイオンの少なくとも一部を検出するステップをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ステップc)は、前記第1のグループのイオンを下流のイオントラップに軸方向に放出するステップを包含し、
前記方法は、e)該下流のイオントラップにおいて該第1のグループのイオンを処理するステップをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップc)は、前記第1のグループのイオンを下流の衝突セルに軸方向に放出するステップをさらに包含し、
前記方法は、該衝突セルにおける該第1のグループのイオンをフラグメント化して、次いで質量分析のために該第1のグループのイオンを下流の質量分析計に軸方向に放出するステップをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
ステップb)の後で、かつステップc)の前に、i)補助フラグメント化AC励起電圧を前記一組の補助電極に提供して、親グループのイオンを質量選択的に軸方向に励起するステップと、ii)前記ロッドセットのロッド間に背景気体を提供して、該親グループのイオンをフラグメント化するステップをさらに包含する、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のグループのイオンは、前記親グループのイオンのフラグメントから選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記一組の補助電極は、少なくとも4個の電極を備え、前記補助AC電圧は、該4個の電極のうちの2個にのみ印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記一組の補助電極は、少なくとも4個の電極を備え、前記補助AC電圧は、4個の電極全てに印加される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記4個の電極全てに印加された前記補助AC電圧は、前記ロッドセットにおいて少なくとも一対のロッドに印加された二次補助AC電圧に位相同期される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップc)において、前記補助AC電圧はスキャンされる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記一組の補助電極は、前記質量分析計に沿って長手方向に間隔を置かれた複数のセグメントを備え、該複数のセグメントは、補助電極の入口セグメントの組の補助電極と、中間セグメントの組の補助電極と、出口セグメントの組の補助電極とを備え、
該入口セグメントの組の補助電極は、該中間セグメントの組の補助電極と前記入口端部との間にあり、
該出口セグメントの組の補助電極は、該中間セグメントの組の補助電極と前記出口端部との間にあり、
ステップb)は、該入口セグメントの組の補助電極間の入口グループのイオンおよび該出口セグメントの組の補助電極間の出口グループのイオンを捕獲するステップと、該中間セグメントの組の補助電極にバリア電圧を提供して、該入口グループのイオンと該出口グループのイオンとの間にバリア電界を提供するステップを包含し、
ステップc)は、i)前記補助放出誘導AC励起電圧を該出口セグメントの組の補助電極に提供し、前記選択された質量対電荷比ではないイオンを保持しながら、前記抽出領域内の該選択された質量対電荷比のイオンにエネルギを与え、該バリア電界を通過して前記ロッドセットから前記第1のグループのイオンを質量選択的に軸方向に放出するステップを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
ステップc)は、前記入口セグメントの組の補助電極に二次AC励起電圧を提供するステップをさらに包含する、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップa)は、前記第1のグループのイオンに加えて、第2のグループのイオンを導くステップを包含し、該第2のグループのイオンは、前記第1のイオンの選択された質量対電荷比とは異なる第2の選択された質量対電荷比を有し、
前記入口グループのイオンおよび前記出口グループのイオンの各々は、該選択された質量対電荷比のイオンおよび該第2の選択された質量対電荷比のイオンを備え、
前記二次AC励起電圧は、該入口グループのイオンの該第2の選択された質量対電荷比のイオンをフラグメント化するために選択された補助フラグメント化励起電圧である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップa)において、前記第1のグループのイオンおよび前記第2のグループのイオンは一緒に導かれる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記二次AC励起電圧は、前記入口グループのイオンの前記選択された質量対電荷比のイオンをフラグメント化するために選択された補助フラグメント化励起電圧である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
細長いロッドセットと一組の補助電極とを有する質量分析計を動作させる方法であって、該ロッドセットは入口端部と出口端部と長手方向軸とを有し、該方法は、
a)該ロッドセットの該入口端部の中にイオンを導くステップと、
b)該ロッドセットの該出口端部に隣接する出口部材にバリア電界を生成し、かつ該ロッドセットのロッド間にRF電界を生成することによって、該ロッドセットにおいてイオンの少なくとも一部を捕獲するステップであって、該RF電界および該バリア電界は該ロッドセットの該出口端部に隣接する抽出領域において相互に作用し、フリンジ電界を生成する、ステップと、
c)補助フラグメント化AC励起電圧を該一組の補助電極に提供して、親グループのイオンにエネルギを与えるステップと、
d)該ロッドセットのロッド間に背景気体を提供して、ステップc)においてエネルギが与えられた該親グループのイオンをフラグメント化するステップと
を包含する、方法。
【請求項18】
ステップd)は、補助フラグメント化AC励起電圧を前記一組の補助電極に提供して、前記親グループのイオンを質量選択的に軸方向に励起するステップを包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ステップb)において、前記RF電界および前記バリア電界は前記ロッドセットの前記出口端部に隣接する抽出領域において相互に作用し、フリンジ電界を生成し、
前記方法は、ステップd)の後に、補助放出誘導AC励起電圧を前記一組の補助電極に提供して、該抽出領域内の選択された質量対電荷比の第1のグループのイオンにエネルギを与え、該バリア電界を通過して該ロッドセットから該第1のグループのイオンを質量選択的に軸方向に放出するステップをさらに包含する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記一組の補助電極は、少なくとも4個の電極を備え、前記補助AC電圧は、4個の電極全てに印加される、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記一組の補助電極は、少なくとも4個の電極を備え、前記補助AC電圧は、該4個の電極のうちの2個にのみ印加される、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記軸方向に放出された第1のグループのイオンの少なくとも一部を検出するステップをさらに包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記第1のグループのイオンを下流のイオントラップに軸方向に放出するステップと、
該下流のイオントラップにおいて該第1のグループのイオンを処理するステップと
をさらに包含する、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
前記第1のグループのイオンを下流の衝突セルに軸方向に放出するステップと、
該衝突セルにおける該第1のグループのイオンをフラグメント化して、次いで質量分析のために該第1のグループのイオンを下流の質量分析計に軸方向に放出するステップと
をさらに包含する、請求項17に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【図6】
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【図7a】
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【図7b】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11a】
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【図11b】
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【図11c】
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【図12a】
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【図12b】
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【公表番号】特表2010−505218(P2010−505218A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−529475(P2009−529475)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際出願番号】PCT/CA2007/001360
【国際公開番号】WO2008/037058
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(508153855)エムディーエス アナリティカル テクノロジーズ, ア ビジネス ユニット オブ エムディーエス インコーポレイテッド, ドゥーイング ビジネス スルー イッツ サイエックス ディビジョン (17)
【出願人】(500069057)アプライド バイオシステムズ インコーポレイテッド (120)
【Fターム(参考)】