説明

多重波環境再生監視システム、多重波環境再生監視方法

【課題】既存の多重波環境再生システムの構成を変更すること無く、多重波環境の再生と監視を同時に実現可能とした。
【解決手段】下りリンク信号をNチャネルに分配して出力する疑似基地局装置と、下り監視用信号を生成して出力し、上り監視用信号を取得して下り監視用信号と比較する信号監視装置と、分配された下りリンク信号と下り監視用信号とを取得して、Mチャネルの合成信号を生成して出力するMIMO処理部と、Mチャネルの合成信号を取得して、チャネル毎に減衰させて出力する減衰部と、減衰したMチャネルの合成信号を取得して、チャネル毎に遅延させて出力する遅延部と、を有する信号制御装置と、遅延したMチャネルの合成信号を取得して電磁波としてチャネル毎に異なる空間座標から伝搬させるM個のプローブアンテナと、伝搬した電磁波を取得して上り監視用信号として出力する監視アンテナと、を有する電波暗室と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複数の伝搬パスのパラメータを変更して任意の多重波環境を模擬再生し、かつ再生した多重波環境を監視することのできる多重波環境再生監視システム、多重波環境再生監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯端末をはじめとする陸上移動通信システムにおいては、基地局から放射された電波は端末周辺に存在する建物や樹木などの構造物によって反射、散乱、回折し、携帯端末に対して空間的な角度広がりを伴って到来する。基地局から放射された電波の反射、散乱、回折によって電波相互間の到達時間に時間差が生じる。この時間差によって電波の波長が互いに干渉しあい、信号強度が大きく変化する。このような実空間の伝搬特性を考慮した携帯端末の性能評価を行う方法として、多重波環境生成装置を用いる評価方法が知られている(特許文献1)。多重波環境生成装置とは、上述した任意の時空間チャネルプロファイルを有する多重波環境を生成することができる装置であり、例えば特許文献2が知られている。特許文献2の多重波環境生成装置は、複数のプローブアンテナを備えた電波暗室と複数の入出力端子を備えたフェージングシミュレータで構成されている。電波暗室内に設置する複数のプローブアンテナとフェージングシミュレータの複数の出力端子とを増幅器を介して同軸ケーブルで接続し、擬似基地局装置から出力された信号に対してフェージングシミュレータで信号処理を施すことにより、単数または複数の遅延タップを有するフェージング信号を生成し、各プローブアンテナに対して独立のフェージング信号を入力する。その結果、電波暗室内の中央付近に配置する被測定物周辺に到来波方向や到来波角度広がり、遅延広がり等の伝搬パラメータについて任意の特性を有する多重波環境を生成することができ、このようにして生成した多重波環境を被測定物の性能評価環境として用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−227213号公報
【特許文献2】特開2010−025787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多重波環境生成装置は増幅器をはじめ多くの能動素子を含むと同時に、複雑な信号処理を施す信号制御装置を含み,また,精度の高い系校正も容易ではないため、所望のプロファイルとは異なる多重波環境が生成される可能性があり、性能評価の際には生成した多重波環境が所望の特性を有するか否かを適切に監視しておく必要がある。従来,多重波環境生成装置として特許文献1、2に記載の装置等があるが、これらは全て多重波環境を再生することを目的としたものであるため、監視を行うためにはシステムの構成を変更する必要があり、再生と監視を容易かつ同時に行うことはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の多重波環境再生監視システムは、疑似基地局装置と、信号監視装置と、信号制御装置と、電波暗室と、制御装置とを備える。信号制御装置は、MIMO処理部と、減衰部と、遅延部と、制御部とを備える。電波暗室は、M個(Mは2以上の任意の自然数)のプローブアンテナと、監視アンテナとを備える。
【0006】
疑似基地局装置は、移動体通信システムにおける下りリンク信号をNチャネル(Nは1以上の任意の自然数)に分配し、当該分配された下りリンク信号を出力する。信号監視装置は、下り監視用信号を生成して当該下り監視用信号を出力し、上り監視用信号を取得して、当該取得した上り監視用信号と下り監視用信号とを比較する。MIMO処理部は、分配された下りリンク信号と下り監視用信号とを取得して、当該取得した下りリンク信号と下り監視用信号にMIMO処理を施してMチャネルの合成信号を生成して、当該生成されたMチャネルの合成信号を出力する。減衰部は、生成されたMチャネルの合成信号を取得して、当該取得した合成信号をチャネル毎に予め定めた信号強度に減衰させて、当該減衰した合成信号を出力する。遅延部は、減衰したMチャネルの合成信号を取得して、当該取得した合成信号をチャネル毎に予め定めた時間分遅延させて、当該遅延した合成信号を出力する。制御部は、減衰部における減衰量と遅延部における遅延量とをチャネル毎に制御する。M個のプローブアンテナは、遅延したMチャネルの合成信号を取得して、当該取得した合成信号を電磁波として、チャネル毎に異なる空間座標から伝搬させる。監視アンテナは、伝搬した電磁波を取得して、当該取得した電磁波を上り監視用信号として出力する。制御装置は、疑似基地局装置と、信号監視装置の動作を制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多重波環境再生監視システムによれば、既存の多重波環境再生システムの構成を変更すること無く、多重波環境の再生と監視を同時に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例1に係る多重波環境再生監視システムの構成例を示すブロック図。
【図2】実施例1に係る多重波環境再生監視システムの動作例を示すフローチャート。
【図3】実施例1で用いられる下りリンク信号と下り監視用信号の周波数帯域について説明する図。
【図4】実施例1で用いられる下りリンク信号と下り監視用信号の帯域幅の比とスループットの関係についての実験結果を示す図。
【図5】実施例2に係る多重波環境再生監視システムの構成例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、同じ機能を有する構成部には同じ番号を付し、重複説明を省略する。
【実施例1】
【0010】
本発明の実施例1に係る多重波環境再生監視システム100について図1、図2を用いて詳細に説明する。図1は実施例1に係る多重波環境再生監視システム100の構成例を示すブロック図である。図2は実施例1に係る多重波環境再生監視システム100の動作例を示すフローチャートである。本実施例の多重波環境再生監視システム100は、疑似基地局装置110と、信号監視装置120と、信号制御装置130と、電波暗室140と、制御装置150とを備える。信号制御装置130は、MIMO処理部131と、M個(Mは2以上の任意の自然数)の減衰部132−1、132−2、…、132−Mと、M個の遅延部133−1、133−2、…、133−Mと、制御部134とを備える。電波暗室140はその室内に、M個のプローブアンテナ141−1、141−2、…、141−Mと、被測定物142と、設置台143と、監視アンテナ144と、監視アンテナ用回転台145とを備える。
【0011】
疑似基地局装置110は、移動体通信システムにおける下りリンク信号をNチャネルに分配し、当該分配された下りリンク信号を出力する(S110)。信号監視装置120は、下り監視用信号を生成して当該下り監視用信号を出力する(S121)。MIMO処理部131は、分配されたNチャネルの下りリンク信号と下り監視用信号(合計N+1チャネルの信号)とを取得して、当該取得した下りリンク信号と下り監視用信号にMIMO(多入力多出力)処理を施してプローブアンテナ数に対応するMチャネルの合成信号を生成して、当該生成されたMチャネルの合成信号を出力する(S131)。詳細には、Nチャネルの下りリンク信号と1チャネルの下り監視用信号(計N+1チャネルの信号)は、MIMO処理部131の入力端子1311−1、1311−2、…、1311−N+1に入力され、MIMO処理を施されてMチャネルの合成信号に分配され、M個の出力端子1312−1、1312−2、…、1312−Mからチャネル毎に出力される。減衰部132−1、132−2、…、132−Mは、生成されたMチャネルの合成信号を取得して、当該取得した合成信号をチャネル毎に予め定めた信号強度に減衰させて、当該減衰した合成信号を出力する(S132)。遅延部133−1、133−2、…、133−Mは、減衰したMチャネルの合成信号を取得して、当該取得した合成信号をチャネル毎に予め定めた時間分遅延させて、当該遅延した合成信号を出力する(S133)。制御部134は、減衰部132−1、132−2、…、132−Mにおける減衰量と遅延部133−1、133−2、…、133−Mにおける遅延量とをチャネル毎に制御する。M個のプローブアンテナ141−1、141−2、…、141−Mは、前記遅延したMチャネルの合成信号を取得して、当該取得した合成信号を電磁波として、チャネル毎に電波暗室140内の異なる空間座標から伝搬させる(S141)。この状態で、疑似基地局装置110と、被測定物142との通信を確立することにより、下りリンクの伝送特性評価が可能となり、移動局の特性を示す重要な評価指標であるビット誤り率やブロック誤り率、スループット等の評価が可能となる。プローブアンテナ141−1、141−2、…、141−Mの形状は必ずしも図1に示したような十字形状であることを必要としないが、垂直偏波と水平偏波の双方を同時に放射することができる構造となっていることが望ましい。これにより、実際の環境に近い多重波環境を再生することが可能となる。被測定物142は、測定の対象となるアンテナを備える無線通信機器であり、具体的には携帯端末である。被測定物142は、設置台143上に固定される。なお制御装置150は、疑似基地局装置110、信号監視装置120、監視アンテナ用回転台145を制御する。図1にて一点鎖線で表示した線は制御装置150から疑似基地局装置110、信号監視装置120、監視アンテナ用回転台145などへ制御信号を伝達する制御線である。制御装置150は、例えばパーソナルコンピュータに多重波環境再生監視プログラムを実行させることにより実現することができる。制御装置150の手段の全部又は一部をハードウェアで実現してもよい。
【0012】
監視アンテナ144は、電波暗室内に伝搬した電磁波を取得して、当該取得した電磁波を上り監視用信号として出力する(S144)。ここで、前述のM個のプローブアンテナ141−1、141−2、…、141−Mは、電波暗室140内の任意の空間座標の1点を中心とした円周上に配置されているものとする。監視アンテナ144としては指向性アンテナが用いられるものとする。監視アンテナ144はM個のプローブアンテナ141−1、141−2、…、141−Mがなす円周の中心を通り、この円周を含む面と垂直をなす回転軸にて回転可能な監視アンテナ用回転台145上に設置されているものとする。監視アンテナ144は自身の指向性がピークになる方向が前述した円周上の任意の一点に向かうよう、その向きを調整されていることが望ましい。制御装置150は、予めプローブアンテナ141−1、141−2、…、141−Mが位置するアンテナ方位と、このアンテナ方位に対応するアンテナ識別情報と、監視アンテナ144の初期方位とを記憶しておくものとし、システム立ち上げ時に、監視アンテナ144の指向方向を初期方位まで回転させる。そして、この初期方位と、初期方位に最も近接するアンテナ方位とのなす角度分だけ、監視アンテナ144をアンテナ方位の方向に回転させる。監視アンテナ144の指向方向がプローブアンテナの方位と等しくなった場合には、制御装置150は、監視アンテナ用回転台145の回転を一定時間停止させる。監視アンテナ用回転台145の停止中に監視アンテナ144は、プローブアンテナから伝搬された電磁波を取得し、この電磁波を上り監視用信号として出力する。制御装置150は、監視アンテナ144が向けられているプローブアンテナのアンテナ識別情報を、信号監視装置120に出力する。信号監視装置120は、アンテナ識別情報と、上り監視用信号とを取得し、当該上り監視用信号と、アンテナ識別情報と対応するチャネルの下り監視用信号とを比較する(S122)。一定時間経過後、制御装置150は、監視アンテナ144を隣接するプローブアンテナのアンテナ方位まで回転させる。監視アンテナ144の指向方向が隣接するプローブアンテナの方位と等しくなった場合には、制御装置150は、監視アンテナ用回転台145の回転を一定時間停止させる。以後、上述した回転及び一時停止動作が予め定めた回転方向(反時計回り、もしくは時計回り)に繰り返される。制御線などが監視アンテナ用回転台145などに巻きつくことを防止するため、回転方向は周期的に逆方向に切り換えられることが望ましい。
【0013】
このように監視アンテナ用回転台145を回転させて、監視アンテナ144の指向方向を変化させることで、各プローブアンテナにおける空間プロファイルおよび遅延プロファイルを収集し、多重波環境の時空間モデルの再生状況を監視することができる。つまり、信号制御装置130の減衰部132−1、132−2、…、132−M、および遅延部133−1、133−2、…、133−Mによって設定した所望の時空間チャネルモデルが電波暗室140内で適切に再生されているか否かの監視を伝送特性の評価と同時に、かつ既存の多重波環境再生システムの構成を変更すること無く、実現することができる。
【0014】
次に図3を参照して、本実施例で用いられる各信号の周波数帯域について詳細に説明する。図3は下りリンク信号111と下り監視用信号121の周波数帯域について説明する図である。図3に示すように下り監視用信号121は周波数ピークを有する狭帯域信号である。下り監視用信号121の周波数ピークは、予め定めた帯域幅BWiの範囲内で時間変動することを特徴とする。この時間変動とは、具体的には低周波数から高周波数に向かって、単位時間当たり一定量ずつ、狭帯域信号の周波数ピーク位置を偏移させること(掃引、スイープ)を意味する。
【0015】
次に図4を参照して、下りリンク信号111の帯域幅BWsと下り監視用信号121の帯域幅BWiの比(BWs/BWi)を変化させて疑似基地局装置110から被測定物142までの経路におけるスループットを測定した実験の結果について詳細に説明する。図4は下りリンク信号111と監視用信号121の帯域幅の比BWs/BWiとスループットの関係についての実験結果を示す図である。図4の横軸は帯域幅の比BWs/BWiである。縦軸は規格化スループットである。規格化スループットとは、下り監視用信号が無い場合の疑似基地局装置110から被測定物142までの経路におけるスループットを1として規格化したものである。実験は、下りリンク信号111の帯域幅BWsを5MHz、もしくは20MHzの2種類に固定し、下り監視用信号121の帯域幅BWiを変化させることによって帯域幅の比BWs/BWiを変化させて行った。図4における丸記号で表現したプロット点は、下りリンク信号111の帯域幅BWsを5MHzに固定した場合の、各帯域幅比BWs/BWiにおける規格化スループットの測定値を表している。四角記号で表現したプロット点は、下りリンク信号111の帯域幅BWsを20MHzに固定した場合の、各帯域幅比BWs/BWiにおける規格化スループットの測定値を表している。図4より、帯域幅の比BWs/BWiに応じて、規格化スループットの値が変化している様子が分かる。より詳細には、BWsを5MHzに固定した場合、20MHzに固定した場合のいずれであっても、帯域幅比BWs/BWiの値が慨0.1以下になる場合は規格化スループットは1に近い値となり、帯域幅比BWs/BWiの値が慨0.1以上になる場合は、その帯域幅比の値の増加に伴って規格化スループットは減少する。従って、下り監視用信号121無しの場合のスループット(=1)と同等のスループットを得るためには、帯域幅比BWs/BWiの値を慨0.1以下とすることが必要であることが分かる。言い換えれば、Nチャネルの下りリンク信号111と下り監視用信号121にN+1×Mの多入力多出力(MIMO)信号処理を施す場合に、下りリンク信号111の帯域幅BWsに対して下り監視用信号の帯域幅BWiを慨10倍以上とすることで疑似基地局装置110からの信号と信号監視装置120からの信号が互いに干渉することなく、下り監視用信号121無しの場合と比較してスループットを低下させずに、多重波環境の再生と監視の双方を同時に行うことができる。
【実施例2】
【0016】
本発明の多重波環境再生監視システムは、信号制御装置130、電波暗室140、プローブアンテナ141−1、141−2、141−3、…、141−Mを用いる代わりに、反響チェンバを用いることによっても実現可能である。図5を参照して、実施例2に係る反響チェンバを用いた多重波環境再生監視システム200について詳細に説明する。図5は本実施例に係る多重波環境再生監視システム200の構成例を示すブロック図である。本実施例の多重波環境再生監視システム200は、疑似基地局装置110と、信号監視装置120と、反響チェンバ210と、制御装置150とを備える。反響チェンバ210は、k×N個(k、Nは1以上の任意の自然数)のアンテナ211−1、211−2、…、211―kNと、スイッチ212と、P個の攪拌器213−1、213−2、…、213−P(Pは1以上の任意の自然数)と、回転台214と、監視アンテナ144とを備える。反響チェンバ210は、電磁波を反射する反射壁により囲まれており、三次元的に一様なレイリーフェージング環境等の所望のフェージング環境を模擬するものである。反射壁は、箱の内壁に金属箔又は金属板を貼り付けることにより実現することができる。反響チェンバ210は、この例では全体として直方体の形状をしているが、他の形状をしていてもよい。図示していないが、反響チェンバ210には、被測定物142を出し入れするためのドアが設けられている。このドアの内面も電磁波を反射する反射壁により構成される。
【0017】
疑似基地局装置110は、移動体通信システムにおける下りリンク信号をNチャネルに分配し、当該分配された下りリンク信号を出力する。信号監視装置120は、下り監視用信号を生成して当該下り監視用信号を出力し、上り監視用信号を取得して、当該取得した上り監視用信号と下り監視用信号とを比較する。スイッチ212は、分配されたNチャネルの下りリンク信号と、下り監視用信号とを取得して、Nチャネルの下りリンク信号をk×N個のアンテナ211−1、211−2、…、211−kNのうちの任意のN個のアンテナに、チャネル毎にアンテナを異ならせて出力し、下りリンク信号を出力したN個のアンテナのうちの任意の1個のアンテナに下り監視用信号を出力する。k×N個のアンテナ211−1、211−2、…、211−kNは、下りリンク信号および下り監視用信号を取得して、当該取得した下りリンク信号および下り監視用信号を電磁波として、チャネル毎に異なる空間座標から伝搬させる。本実施例では、反響チェンバ210が備えるk×N個のアンテナ211−1、211−2、…、211−kNは、反響チェンバ210の天井面、側壁の上方に設けられているものとする。P個の攪拌器213−1、213−2、…213−Pは、反響チェンバ210内の電磁波を攪拌する。本実施例では攪拌器213−1は、反響チェンバ210のある内側壁に沿って反射板を左右に往復させることにより反響チェンバ210内の電磁波を攪拌する。また、本実施例では攪拌器213−Pは反響チェンバ210のある内側壁に沿って反射板を上下に往復移動させることにより反響チェンバ210内の電磁波を攪拌する。監視アンテナ144は、反響チェンバ210内の電磁波を取得して、当該取得した電磁波を上り監視用信号として出力する。信号監視装置120は、上り監視用信号を取得して、当該取得した上り監視用信号と下り監視用信号とを比較することで、多重波環境の再生状況を監視する。回転台214は、被測定物と監視アンテナとを回転させる。制御装置150は、疑似基地局装置110と、信号監視装置120と、反響チェンバ210に備えつけられた攪拌器213−1、213−2、…、213−P、回転台214の動作の制御を行う。図5にて一点鎖線で表示した線は制御装置150から疑似基地局装置110、信号監視装置120、反響チェンバ210などへ制御信号を伝達する制御線である。制御装置150は、例えばパーソナルコンピュータに多重波環境再生監視プログラムを実行させることにより実現することができる。制御装置150の手段の全部又は一部をハードウェアで実現してもよい。このように反響チェンバ210を用いて多重波環境を模擬し、かつ反響チェンバ210内に監視アンテナ144を備えることにより、遅延プロファイルを収集し、多重波環境の時間モデルの再生状況を監視することができる。つまり、反響チェンバ210が再現した所望の時間チャネルモデルが適切に再生されているか否かの監視を伝送特性の評価と同時に、かつ既存の多重波環境再生システムの構成を変更すること無く、実現することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体通信システムにおける下りリンク信号をNチャネル(Nは1以上の任意の自然数)に分配し、当該分配された下りリンク信号を出力する疑似基地局装置と、
下り監視用信号を生成して当該下り監視用信号を出力し、上り監視用信号を取得して、当該取得した上り監視用信号と前記下り監視用信号とを比較する信号監視装置と、
前記分配された下りリンク信号と前記下り監視用信号とを取得して、当該取得した下りリンク信号と下り監視用信号にMIMO処理を施してMチャネル(Mは2以上の任意の自然数)の合成信号を生成して、当該生成されたMチャネルの合成信号を出力するMIMO処理部と、前記生成されたMチャネルの合成信号を取得して、当該取得した合成信号をチャネル毎に予め定めた信号強度に減衰させて、当該減衰した合成信号を出力する減衰部と、前記減衰したMチャネルの合成信号を取得して、当該取得した合成信号をチャネル毎に予め定めた時間分遅延させて、当該遅延した合成信号を出力する遅延部と、前記減衰部における減衰量と前記遅延部における遅延量とをチャネル毎に制御する制御部と、を有する信号制御装置と、
前記遅延したMチャネルの合成信号を取得して、当該取得した合成信号を電磁波として、チャネル毎に異なる空間座標から伝搬させるM個のプローブアンテナと、前記伝搬した電磁波を取得して、当該取得した電磁波を上り監視用信号として出力する監視アンテナと、を有する電波暗室と、
前記疑似基地局装置と、前記信号監視装置の動作を制御する制御装置と、を有すること
を特徴とする多重波環境再生監視システム。
【請求項2】
請求項1に記載の多重波環境再生監視システムであって、
前記M個のプローブアンテナは、
前記電波暗室内の任意の空間座標の1点を中心とした円周上に配置され、
前記監視アンテナは、
前記円周の中心を通り前記円周を含む面と垂直をなす回転軸にて回転可能な監視アンテナ用回転台上に設置され、
前記監視アンテナ用回転台は前記制御装置によってその動作を制御されること
を特徴とする多重波環境再生監視システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の多重波環境再生監視システムであって、
前記下り監視用信号は周波数ピークを有する狭帯域信号であるものとし、
前記周波数ピークは、予め定めた帯域幅BWiの範囲内で時間変動すること
を特徴とする多重波環境再生監視システム。
【請求項4】
請求項3に記載の多重波環境再生監視システムであって、
前記帯域幅BWiを、前記疑似基地局装置が出力する下りリンク信号の帯域幅BWsの10倍以上とすること
を特徴とする多重波環境再生監視システム。
【請求項5】
移動体通信システムにおける下りリンク信号をNチャネルに分配し、当該分配された下りリンク信号を出力する疑似基地局装置と、
下り監視用信号を生成して当該下り監視用信号を出力し、上り監視用信号を取得して、当該取得した上り監視用信号と前記下り監視用信号とを比較する信号監視装置と、
前記分配されたNチャネルの下りリンク信号と、前記下り監視用信号とを取得して、前記Nチャネルの下りリンク信号をk×N個のアンテナ(k、Nは1以上の任意の自然数、)のうちの任意のN個のアンテナに、チャネル毎にアンテナを異ならせて出力し、前記下りリンク信号を出力したN個のアンテナのうちの任意の1個のアンテナに下り監視用信号を出力するスイッチと、前記出力された下りリンク信号および下り監視用信号を取得して、当該取得した下りリンク信号および下り監視用信号を電磁波として、チャネル毎に異なる空間座標から伝搬させるk×N個のアンテナと、前記電磁波を攪拌するP個の攪拌器と、前記電磁波を取得して、当該取得した電磁波を上り監視用信号として出力する監視アンテナと、被測定物と前記監視アンテナとを回転させる回転台と、を備える反響チェンバと、
前記疑似基地局装置と、前記信号監視装置と、前記反響チェンバの動作を制御する制御装置と、を有すること
を特徴とする多重波環境再生監視システム。
【請求項6】
移動体通信システムにおける下りリンク信号をNチャネル(Nは1以上の任意の自然数)に分配し、当該分配された下りリンク信号を出力する疑似基地局ステップと、
下り監視用信号を生成して当該下り監視用信号を出力し、上り監視用信号を取得して、当該取得した上り監視用信号と前記下り監視用信号とを比較する信号監視ステップと、
前記分配された下りリンク信号と前記下り監視用信号とを取得して、当該取得した下りリンク信号と下り監視用信号にMIMO処理を施してMチャネル(Mは2以上の任意の自然数)の合成信号を生成して、当該生成されたMチャネルの合成信号を出力するMIMO処理サブステップと、前記生成されたMチャネルの合成信号を取得して、当該取得した合成信号をチャネル毎に予め定めた信号強度に減衰させて、当該減衰した合成信号を出力する減衰サブステップと、前記減衰したMチャネルの合成信号を取得して、当該取得した合成信号をチャネル毎に予め定めた時間分遅延させて、当該遅延した合成信号を出力する遅延サブステップと、を有する信号制御ステップと、
前記遅延したMチャネルの合成信号を取得して、当該取得した合成信号を電磁波として、チャネル毎に異なる空間座標から伝搬させるプローブアンテナサブステップと、前記伝搬した電磁波を取得して、当該取得した電磁波を上り監視用信号として出力する監視アンテナサブステップと、を有する電波暗室ステップと、を有すること
を特徴とする多重波環境再生監視方法。
【請求項7】
請求項6に記載の多重波環境再生監視方法であって、
前記プローブアンテナサブステップは、
前記電波暗室内の任意の空間座標の1点を中心とした円周上に配置されたM個のプローブアンテナにより実行され、
前記監視アンテナサブステップは、
前記円周の中心を通り前記円周を含む面と垂直をなす回転軸にて回転可能な監視アンテナ用回転台上に設置された監視アンテナにより実行されること
を特徴とする多重波環境再生監視方法。
【請求項8】
請求項6または7に記載の多重波環境再生監視方法であって、
前記下り監視用信号は周波数ピークを有する狭帯域信号であるものとし、
前記信号監視ステップが
前記周波数ピークを、予め定めた帯域幅BWiの範囲内で時間変動させること
を特徴とする多重波環境再生監視方法。
【請求項9】
請求項8に記載の多重波環境再生監視方法であって、
前記信号監視ステップが、
前記帯域幅BWiを、前記疑似基地局装置が出力する下りリンク信号の帯域幅BWsの10倍以上とすること
を特徴とする多重波環境再生監視方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−90113(P2012−90113A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−235711(P2010−235711)
【出願日】平成22年10月20日(2010.10.20)
【出願人】(392026693)株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ (5,876)
【Fターム(参考)】