説明

多電極サブマージアーク溶接方法

【課題】本発明は従来どおりの溶け込み深さを確保しながら、溶接入熱を低減し、靭性や継手強度など溶接部特性の劣化を抑制する技術を提供する。
【解決手段】3電極以上の多電極溶接において第1電極と第2電極にワイヤ径3.2mm以下のワイヤを適用し、第1電極は800A以上の電流で、かつ溶接電流をワイヤ断面積で除した電流密度が第1電極で145A/mm2以上、第2電極で95A/mm2以上である多電極サブマージアーク溶接方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大径鋼管の製造方法に関し、高能率で高品質の溶接部を得る厚鋼板の溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
サブマージアーク溶接は溶接部の品質に優れていること、ビード外観が美麗であること、そしてなによりスラグにより溶融池がシールドされるため、大入熱で溶接を行うことが可能という特徴を有する。そのため溶接線が直線で長い大径鋼管のシーム溶接には2電極以上のサブマージアーク溶接が一般に適用され、高品質で高能率の溶接施工が行われている。
【0003】
大径鋼管シーム溶接の溶接能率を高めるためには、溶け込み深さと溶着速度の増大が必要である。サブマージアーク溶接はガスシールドアーク溶接に比べて大電流を適用できるため、深い溶け込みを得ることができ、溶接能率を高めるのに好適である。
【0004】
しかし、大電流大入熱溶接が可能であるという利点により、溶接能率と欠陥抑制を重視するため、溶接入熱が過剰になり、溶接部特に、熱影響部の靭性が劣化する問題がある。
従って、従来のサブマージアーク溶接の溶け込み深さおよび溶着速度をさらに高めることが可能になれば、過剰な入熱による溶接部の靭性劣化やHAZの軟化による継手強度低下などの問題を克服することが可能となる。
【0005】
溶接入熱を下げた場合、溶着量が減少するのは必然であるため、開先断面積を溶着量減少分に合わせて減らす必要が生じる。より一層の深溶け込み溶接を行わなければ、溶け込み不足を生じてしまう。したがって、投入入熱の大幅な低減と溶け込み深さの増大を両立させるという極めて困難な課題を克服する必要がある。
【0006】
たとえば特許文献1には電極径に応じて電流密度を高めることにより溶け込みを増大させるサブマージアーク溶接方法が提案されているが、提案された溶接方法では電流および電流密度が不十分で入熱の大幅な低減と溶け込みの増大の両立は困難である。
【特許文献1】特開平10−109171号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大径鋼管は高能率でかつ欠陥のない健全な溶接部を得るため、一般的に、大電流大入熱でシーム溶接が行われる。大電流大入熱溶接では、板厚方向だけでなく,板幅方向にも母材を溶解し、結果的に熱エネルギーが、不要な母材の溶解にも大量に消費される。その結果、溶接入熱が増大し溶接金属や溶接熱影響部の靭性の劣化を生じさせている。
【0008】
しかしながら、発明者等は、アークエネルギーをできるだけ板厚方向に投入することにより、必要な溶け込み深さだけを確保し、板幅方向の母材の溶解を抑制することで過剰な溶接入熱を省き、入熱低減効果により溶接HAZ部(熱影響部)の靭性向上が可能であることを見出した。即ち、ワイヤの径を細くして、アークを絞り、深い溶け込みを得て、さらに細径化によりワイヤ溶融速度を向上させて溶接入熱あたりの溶着量を増加させることにより低入熱溶接が可能となる。
【0009】
本発明は従来どおりの溶け込み深さを確保しながら、溶接入熱を低減し、靭性や継手強度など溶接部特性の劣化を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上述の問題点に鑑みてなされたものである。
【0011】
第一の発明は、3電極以上の多電極溶接において第1電極と第2電極にワイヤ径3.2mm以下のワイヤを適用し、第1電極は800A以上の電流で、かつ溶接電流をワイヤ断面積で除した電流密度が第1電極で145A/mm2以上、第2電極で95A/mm2以上である多電極サブマージアーク溶接方法である。
【0012】
第二の発明は、第1電極に直流定電圧電源を、第2電極に交流電源を用いる第一の発明に記載の多電極サブマージアーク溶接方法である。
【0013】
第三の発明は、溶接ワイヤの中心で測定する各電極間の距離が鋼板表面で30mmより小さく、第1電極の角度が溶接進行方向に対して-15°〜+15°、後行の電極が直前の電極に対して0°〜30°とする第一の発明または第二の発明に記載の多電極サブマージアーク溶接方法である。
【0014】
第四の発明は、鋼板の表裏両側に開先加工を施すにあたり、開先断面積Sが下記式1を満足することを特徴とする第一の発明から第四の発明のいずれかに記載の多電極サブマージアーク溶接方法である。
【0015】
S≦3.15 t − 14 ・・・・・(1)
(S:開先断面積(mm2) t:板厚(mm))
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、適正な溶け込み深さを維持しながら溶接入熱を大幅に低減することが可能であり、溶接金属、ならびに溶接熱影響部で優れた低温靭性を得ることが可能となる。尚、ここで適正な溶け込み深さとは、鋼板表面から溶接金属下端までの距離をいう。また、高強度鋼管で問題になる溶接熱影響部の軟化を抑制することにより、安定な継手強度を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の要件限定理由について説明する。
多電極溶接において溶け込み深さへの寄与が大きいのは第1電極と第2電極である。特に大きいのは第1電極であり、第1電極の電流密度を145A/mm2以上、電流を800A以上とすることにより、深い溶け込みが得られるようになる。電流密度を高めることによりアークが集中し、アークエネルギが板厚方向に投入されるためである。このような電流密度はワイヤ径3.2mmでは1200A以上、2.4mmでは700A以上で得られるが、深い溶け込みを得るためには、十分な電流が必要であり、少なくとも800A以上が必要である。ワイヤ径4.0mmでは1900A以上の電流が必要になり、溶接入熱を低減する目的にそぐわない。従って、望ましくは電流密度を220A/mm2(1000A/2.4mm)以上とするのが良い。
【0018】
第1電極では上述の条件を達成するために3.2mm以下の細径ワイヤを高速で送給する必要があり、直流定電圧特性の電源を用いることで、垂下特性電源に比べて安定な溶接が可能となる。直流定電圧特性の電源は、ワイヤを一定速度で送給するので、高速ワイヤ送給条件においてもアーク長が安定化し、溶け込み深さを安定化させる効果がある。
【0019】
第2電極も溶け込み深さに対して寄与があり,電流密度を95A/mm2以上にすることで、第1電極で得られた深い溶け込みをさらに深くする効果がある。
【0020】
第1電極、第2電極に細径ワイヤを用いて高電流密度で溶接を行うことにより、ワイヤの通電発熱量が大きくなることから溶着速度が増大する。そのため、さらに溶接入熱を低減することが可能となる。
【0021】
第2電極には交流電源を用いる。溶接電流−電圧の安定性は直流定電圧特性の電源に劣るが、第1電極との干渉による磁気吹きにより、アークが不安定になるのを避けることができる。溶接電源の電流―電圧特性は垂下特性にならざるを得ないが、ワイヤ高速送給条件下でも安定な溶接を行うために、ワイヤ送給モーターには1.0X10-4kg・m以下の低イナーシャのサーボモーターを用いるのが望ましい。ただし、アーク電圧を検知し、ワイヤ送給速度にフィードバックして溶接電圧を制御する方式であるため、あまり高速ワイヤ送給速度条件では溶接が安定せず、ワイヤ送給速度を15m/分以下の条件で用いるのが望ましい。一般にサブマージアーク溶接機に用いられているワイヤ送給モーターは慣性が6.0X10-4kg・m程度と大きく、ワイヤ高速送給時の応答が遅れる傾向が生じ、短絡によるアーク切れが生じやすく、5m/min以上のワイヤ送給速度(3.2mmで1200A以上、2.4mmでは800A以上)の条件は適用が困難である。
【0022】
電極間の距離はワイヤ中心間、鋼板表面で測定して30mm以下である必要がある。また、電極の角度は溶接進行方向に対して被溶接鋼板に垂直な線を0°として、第1電極を-15〜+15°、後行の電極は直前の電極の角度に対して0〜+30°とする(−側は後退角側、+側は前進角側)。第1電極、第2電極は極めてエネルギ密度の高い溶接であるため、アーク圧力が高く、第1電極、第2電極後方の溶融金属が激しく後方に流れ、溶融池を振動させるが、電極間距離を30mm以下とすることにより振動を緩和させ、さらに後方に配置される電極は直前の電極に対し0〜+30°に前進角側に傾斜させることにより第1電極からの溶融金属の流れを緩和し,溶融池の動きを安定化させ、欠陥のない高品質なビードとすることができる。
【0023】
開先形状であるが、開先断面積を小さく保つことで本溶接方法の効果を得ることができる。すなわち溶着量の増大は溶接入熱の増大を招くので、開先断面積S(mm2)を3.15t(t:板厚(mm))−14以下とすることで、本発明の効果を得ることができる。
【0024】
本発明は内外面一層溶接として行われるものであるが、必ずしも両側を本発明方法で溶接する必要はなく、片側からのみ深溶け込み溶接を行う方法としても、本発明の効果を得ることができる。
【実施例1】
【0025】
表1に使用した鋼管の化学成分および引張特性を示す。
表1に示した鋼材を用いて、図1に示す開先深さ(a)、開先角度(θ1)、開先断面積(s)を表2に示すように、種々変化させて開先加工を施した。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【0028】
そして、これらの開先を使って板厚ごとに溶接条件を設定して、表3に示す溶接条件で内面側の溶接を実施した。内外面ともフラックスにはSiO2-CaO-CaF2を主成分とする溶融型フラックスを用いた。ワイヤにはmass%で、開先0.07%C、0.5%Si、1.5%Mn、0.5%Moを含む溶接ワイヤを適用した。内面側の溶接はすべて本発明例であり良好な溶接がなされた。
【0029】
外面側は表4に示す溶接条件にて溶接を実施した。記号D1、D3、D4、D7、D8、D10は本発明による実施例であり良好な溶接結果が得られた.
一方、記号D2では第3電極の電極角度が大きく、欠陥が生じるとともにビード形状も乱れを生じた。D5では第2電極−第3電極間距離が大きくなり、スラグ巻き込みの欠陥を生じるとともに、第2電極の電流密度が不足し、溶け込み不足を生じた。記号D6では1電極目の電流が不足し,溶け込み不足が生じた。記号D9では1電極目の電流密度が不足し,溶け込み不足が生じた。
【0030】
【表3】

【0031】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0032】
溶接熱影響部の軟化が問題となる高強度鋼管でも本発明の多電極サブマージアーク溶接方法を用いることにより安定した継手強度を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】開先形状を示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
a 開先深さ
θ1 開先角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3電極以上の多電極溶接において第1電極と第2電極にワイヤ径3.2mm以下のワイヤを適用し、第1電極は800A以上の電流で、かつ溶接電流をワイヤ断面積で除した電流密度が第1電極で145A/mm2以上、第2電極で95A/mm2以上である多電極サブマージアーク溶接方法。
【請求項2】
第1電極に直流定電圧電源を、第2電極に交流電源を用いる請求項1に記載の多電極サブマージアーク溶接方法。
【請求項3】
溶接ワイヤの中心で測定する各電極間の距離が鋼板表面で30mmより小さく、第1電極の角度が溶接進行方向に対して-15°〜+15°、後行の電極が直前の電極に対して0°〜30°とする請求項1または2に記載の多電極サブマージアーク溶接方法。
【請求項4】
鋼板の表裏両側に開先加工を施すにあたり、開先断面積Sが下記式1を満足することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の多電極サブマージアーク溶接方法。
S≦3.15 t − 14 ・・・・・(1)
(S:開先断面積(mm2) t:板厚(mm))


【図1】
image rotate