説明

多面体オリゴマーシルセスキオキサン(POSS)結合リガンド及びその使用

本発明の対象は、POSS修飾リガンド、及びヒドロホルミル化における触媒作用を有する組成物中でのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
化学工業の研究対象の一つに、オレフィン及びオレフィン含有混合物のヒドロホルミル化がある。永続的な課題は、接触ヒドロホルミル化の際の、反応条件下での、ヒドロホルミル化すべきオレフィン及びオレフィン含有混合物に対する、その都度使用する触媒作用を有する組成物の活性及び選択性の保持である。特に、触媒作用を有する組成物が遷移金属を含有している場合には、触媒作用の阻害、遷移金属クラスターの形成、及び遷移金属自体の脱落を防ぐことや、これらを少なくとも顕著に制限することが研究目的の一つとなっている。本発明は、反応混合物に熱負荷をかけることなく、触媒作用を有する組成物から、その触媒活性を維持しながら所望の目的生成物を容易に分離する方法を示すことにより、前記課題に対する貢献をもたらすものである。
【0002】
本発明の対象の一つはPOSS修飾リガンドであり、その際、POSSとは多面体オリゴマーシルセスキオキサン誘導体と解釈される。使用する多面体オリゴマーシルセスキオキサン誘導体を、自体公知のリガンド前駆体と反応させる。それから生じるPOSS修飾リガンドは、未修飾のリガンドと比較して劇的に高い分子量を有する。本発明の一実施態様においては、トリオルガノホスフィン、例えばトリフェニルホスフィンをベースとして、例えばアルキルフェニル置換、特にエチルフェニル置換され、POSS置換されたトリフェニルホスフィン誘導体を製造する:
【化1】

【0003】
POSS置換トリフェニルホスフィンの製造
4−ブロモフェニルエチル−POSS(11g、10.92ミリモル)をTHF 100mL中に溶解させ、−78℃に冷却する。n−BuLi(ヘキサン中で2.5M、4.8mL、12ミリモル)を滴加し、該反応混合物をこの温度で1時間撹拌する。PCl3(0.5g、3.64ミリモル)をこれに滴加する。該反応混合物を室温に加熱し、一晩撹拌する。溶剤を真空中で除去する。反応生成物を残存する固形物からトルエン/ヘキサン(1:1、150mL)を用いて抽出し、脱気水で洗浄する。有機相をMgSO4上で乾燥させる。溶剤を真空中で除去する。生成物を白色の固形物として収率78%で得る(8g、2.84ミリモル)。
【0004】
【化2】

【0005】
本発明のもう1つの対象は、POSS修飾リガンドと好適な遷移金属前駆体との反応により得ることができる、オレフィン及びオレフィン含有混合物のヒドロホルミル化において触媒作用を有する遷移金属含有組成物である。触媒作用を有する組成物における、POSS修飾リガンドを用いて製造されたこの新規の遷移金属錯体に関する特徴は、POSSで修飾されていない遷移金属錯体に対して、活性並びに選択性がそのまま維持される点である。同時に、本発明による触媒作用を有する組成物は、有機ナノ濾過により反応混合物から完全に分離することができ、かつヒドロホルミル化反応に返送することができる。本発明の一実施態様においては、上記のPOSS置換トリフェニルホスフィンを、ロジウムを含有する好適な遷移金属前駆体、例えば[Rh(acac)(CO)2]と反応させて、触媒作用を有する組成物とする。
【0006】
本発明のもう1つの対象は、オレフィン及びオレフィン含有混合物のヒドロホルミル化における触媒作用を有する組成物中のPOSS修飾リガンドの使用である。本発明の一実施態様においては、上記のPOSS置換トリフェニルホスフィンを、ロジウムを含有する好適な遷移金属前駆体、例えば[Rh(acac)(CO)2]と反応させて、触媒作用を有する組成物とし、該組成物をオレフィン、例えば1−オクテンのヒドロホルミル化において使用する:
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明において使用されるヒドロホルミル化のための連続運転式試験装置を示す概略図。
【実施例】
【0008】
実施例1:連続運転式膜型反応器中での1−オクテンのヒドロホルミル化
ヒドロホルミル化試験を、連続運転式試験装置内で実施した;添付図を参照のこと。該試験装置は、反応部と膜部とからなっていた。反応部は、循環ポンプcを備えた100mLオートクレーブbを含んでいた。該オートクレーブbは合成ガス用の保圧部Aを備えていた。該保圧部Aにより、反応の間の合成ガス圧を系全体で一定に保った。系の合成ガス吸収量を流量測定部Cにより定めた。反応開始前の出発材料−及び触媒溶液の計量供給のために、反応器には圧力ビュレットaが備えられており、該圧力ビュレットaに合成ガスを噴射することができ、そのようにして反応条件下での出発材料−及び触媒溶液の計量供給が可能であった。該オートクレーブbには、付加的に状態調節部Bが備えられていた。該状態調節部Bによって出発材料ポンプeを制御し、該出発材料ポンプeは、容器hから、オレフィン含有混合物を含む出発材料溶液、場合により溶剤をオートクレーブbへとポンプ輸送し、それによりオートクレーブ内の状態を一定に保った。該出発材料容器hは、空気との接触を回避するためにアルゴンで覆われていた。オートクレーブ内での必要な乱流を、特にこの用途のために設計された循環ポンプcにより生じさせた。該ポンプcは、オートクレーブbの頂部でのノズルを通じた反応溶液の循環を構築し、それにより相応する気/液交換を行った。合成ガス及び出発材料を同様に該ノズルを通じて供給した。
【0009】
該循環部内には、同様に交差流チャンバfが組み込まれていた。該交差流チャンバfにより、該装置の反応部と膜部とが隔てられている。該交差流チャンバfによって、膜循環部と反応器排出分とが混合され、かつ、反応器出口での遊離ガス分が膜部分に達することなく再度反応循環部へと返送されることが保証されていた。
【0010】
膜部は、長さ200mm、フィルター比表面積0.0217m2/m及びカットオフ450Dのセラミック膜jを含む圧力管と、該膜を通じて循環を生じさせる循環ポンプgとからなっていた。反応部への接続を、既に記載した交差流チャンバfにより実現した。
【0011】
膜jの透過流を透過側の保圧部Fにより実現した。該調節設備によって膜面に対して圧力差を生じさせ、それによってアルデヒドの生成物流iを生じさせることが可能であった。
【0012】
開始前に、該反応系を5回、2.0MPaの合成ガスCO/H2(1:1)で加圧及び放圧した。その後、出発材料溶液(トルエン中の1.9M 1−オクテン)を、HPLCポンプを用いて、上記の出発材料容器hから試験装置bへ、目標とする充填状態レベルの90%となるまで移送した。反応器循環部のスタートアップ後に反応部を80℃に加熱し、圧力を2.0MPa CO/H2(1:1)に調節した。該反応系を1時間平衡状態にし、その後、Rh(acac)(CO)2 15mg(58マイクロモル)と、トルエン14mL中の本発明によるPOSS置換PPh3 815mg(290マイクロモル)(L:Rh比 5:1に相当)とを含む触媒作用を有する組成物を、上記の圧力ビュレットa(t=0)を通じて反応圧下に添加した。該触媒溶液の調製は、アルゴン雰囲気下に行った。次いで、膜jについて、透過圧調節部Fを通じて差圧TMPを0.35MPaに調節し、それにより、製造された生成物iであるアルデヒドを系から排出した。オートクレーブに備えられた上記の状態調節部Bによって、生成物iの排出量を容器hからの出発材料溶液によって補填し、それによって反応系内の充填状態レベルを一定に保った。反応を14日間の期間にわたって実施し、この期間内で規則的な間隔で試料を採取し、分析した。1−オクテンの変換率及び位置選択性(l/b比)をGC分析により決定した。膜のRh保留分及びP保留分を、透過分のICP−OES分析により決定した。Rh損失分のみならずP損失分も極めてわずかであった。ロジウムとリンの全量に対して、該損失分は0.07%(Rh)ないし0.97%(P)であった。
【0013】
【表1】

【0014】
【表2】

【0015】
実施例2:連続運転式膜型反応器中での1−ブテンのヒドロホルミル化
ヒドロホルミル化試験を、連続運転式試験装置内で実施した;添付図を参照のこと。該試験装置は、反応部と膜部とからなっていた。反応部は、循環ポンプcを備えた100mLオートクレーブbを含んでいた。該オートクレーブbは合成ガス用の保圧部Aを備えていた。該保圧部Aにより、反応の間の合成ガス圧を系全体で一定に保った。系の合成ガス吸収量を流量測定部Cにより定めた。反応開始前の出発材料−及び触媒溶液の計量供給のために、反応器には圧力ビュレットaが備えられており、該圧力ビュレットaに合成ガスを噴射することができ、そのようにして反応条件下での出発材料−及び触媒溶液の計量供給が可能であった。該オートクレーブbには、付加的に状態調節部Bが備えられていた。該状態調節部Bによって出発材料ポンプeを制御し、該出発材料ポンプeは、容器hから、オレフィン含有混合物を含む出発材料溶液、場合により溶剤をオートクレーブbへとポンプ輸送し、それによりオートクレーブ内の状態を一定に保った。該出発材料容器hは、空気との接触を回避するためにアルゴンで覆われていた。オートクレーブ内での必要な乱流を、特にこの用途のために設計された循環ポンプcにより生じさせた。該ポンプcは、オートクレーブbの頂部でのノズルを通じた反応溶液の循環を構築し、それにより相応する気/液交換を行った。合成ガス及び出発材料を同様に該ノズルを通じて供給した。
【0016】
該循環部内には、同様に交差流チャンバfが組み込まれていた。該交差流チャンバfにより、該装置の反応部と膜部とが隔てられている。該交差流チャンバfによって、膜循環部と反応器排出分とが混合され、かつ、反応器出口での遊離ガス分が膜部分に達することなく再度反応循環部へと返送されることが保証されていた。
【0017】
膜部は、長さ200mm、フィルター比表面積0.0217m2/m及びカットオフ450Dのセラミック膜jを含む圧力管と、該膜を通じて循環を生じさせる循環ポンプgとからなっていた。反応部への接続を、既に記載した交差流チャンバfにより実現した。
【0018】
膜jの透過流を、透過側の保圧部Fにより実現した。該調節設備によって膜面に対して圧力差を生じさせ、それによってアルデヒドの生成物流iを生じさせることが可能であった。
【0019】
開始前に、該反応系を5回、2.0MPaの合成ガスCO/H2(1:1)で加圧及び放圧した。その後、出発材料溶液(トルエン中の1.9M 1−ブテン)を、HPLCポンプを用いて、上記の出発材料容器hから試験装置へ、目標とする充填状態レベルの90%となるまで移送した。反応器循環部のスタートアップ後に反応部を80℃に加熱し、圧力を20バール CO/H2(1:1)に調節した。該反応系を1時間平衡状態にし、その後、Rh(acac)(CO)2 15mg(58マイクロモル)と、トルエン14mL中の本発明によるPOSS置換PPh3 815mg(290マイクロモル)(L:Rh比 5:1に相当)とを含む触媒作用を有する組成物を、上記の圧力ビュレットa(t=0)を通じて反応圧下に添加した。該触媒溶液の調製は、アルゴン雰囲気下に行った。次いで、膜jについて、透過圧調節部Fを通じて差圧を0.30MPaに調節し、それにより、製造された生成物iであるアルデヒドを系から排出した。オートクレーブに備えられた上記の状態調節部Bによって、生成物iの排出量を容器hからの出発材料溶液によって補填し、それによって反応系内の充填状態レベルを一定に保った。反応を14日間の期間にわたって実施し、この期間内で規則的な間隔で試料を採取し、分析した。1−オクテンの変換率及び位置選択性(l/b比)をGC分析により決定した。膜のRh保留分及びP保留分を、透過分のICP−OES分析により決定した。Rh損失分のみならずP損失分も極めてわずかであった。ロジウムとリンの全量に対して、該損失分は0.08%(Rh)ないし0.95%(P)であった。
【0020】
【表3】

【0021】
【表4】

【0022】
ヒドロホルミル化における触媒作用を有する組成物中のPOSS修飾リガンドの使用に関する本発明のさらなる実施態様において、オレフィン含有混合物として、とりわけラフィネート、例えばラフィネートI、ラフィネートIIを使用することができるが、しかしながら3〜20個の炭素原子を有するオレフィンを含有している混合物を使用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1
【化1】

[式中、
(R1a,b,cn-1(SiO1.5n2a,b,cは多面体オリゴマーシルセスキオキサン誘導体を表し、n=8であり、かつ、
1a、R1b、R1cは、それぞれ同じであってかつC4アルキル鎖であり、
2a、R2b、R2cは、それぞれ同じであってかつC2アルキル鎖であり、
1、G2及びG3は、同じであってかつそれぞれリンと結合した一価のフェニル基である]
による、多面体オリゴマーシルセスキオキサン誘導体と共有結合した有機リン含有化合物。
【請求項2】
請求項1記載の少なくとも1の有機リン含有化合物と、元素周期律表の第8族、第9族又は第10族から選択された少なくとも1の金属とを含有する、触媒作用を有する組成物。
【請求項3】
金属が元素周期律表の第9族から選択されている、請求項2記載の触媒作用を有する組成物。
【請求項4】
金属がロジウムである、請求項3記載の触媒作用を有する組成物。
【請求項5】
請求項2から4までのいずれか1項記載の触媒作用を有する混合物を含む、オレフィン含有混合物のヒドロホルミル化法。
【請求項6】
オレフィン含有混合物が、3〜20個の炭素原子を有するオレフィンを含有している、請求項5記載のオレフィン含有混合物のヒドロホルミル化法。
【請求項7】
オレフィン含有混合物が、プロペン、ラフィネートI、ラフィネートII、ラフィネートIIIからなる群から選択されている、請求項6記載のオレフィン含有混合物のヒドロホルミル化法。
【請求項8】
オレフィン含有混合物が1−ブテンを含有している、請求項6記載のオレフィン含有混合物のヒドロホルミル化法。
【請求項9】
オレフィン含有混合物が1−オクテンを含有している、請求項6記載のオレフィン含有混合物のヒドロホルミル化法。
【請求項10】
触媒作用を有する組成物を、熱的な分離法を行わずに有機ナノ濾過を用いて生成物含有流から分離する、請求項5から9までのいずれか1項記載のオレフィン含有混合物のヒドロホルミル化法。
【請求項11】
以下:
a)請求項6から9までのいずれか1項記載のオレフィン含有混合物、
b)一酸化炭素と水素とを含有するガス混合物、及び
c)アルデヒド
を含む多相反応混合物において、請求項2から4までのいずれか1項記載の触媒作用を有する組成物が存在していることを特徴とする、多相反応混合物。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2013−521246(P2013−521246A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555386(P2012−555386)
【出願日】平成23年3月1日(2011.3.1)
【国際出願番号】PCT/EP2011/052957
【国際公開番号】WO2011/107441
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(398054432)エボニック オクセノ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (63)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Oxeno GmbH
【住所又は居所原語表記】Paul−Baumann−Strasse 1, D−45764 Marl, Germany
【Fターム(参考)】