多面体金属微粒子及びその製造方法
【課題】立方体又はそれ以外の多面体形状を有する金属微粒子を工業的規模で製造できる方法を提供する。
【解決手段】多面体金属微粒子を製造する方法であって、(1)水溶性高分子及び金属塩を含む混合溶液を塗布、乾燥させて薄膜を形成する第1工程、(2)前記薄膜を熱処理することにより金属塩を還元して、多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルムを得る第2工程を含むことを特徴とする多面体金属微粒子の製造方法に係る。
【解決手段】多面体金属微粒子を製造する方法であって、(1)水溶性高分子及び金属塩を含む混合溶液を塗布、乾燥させて薄膜を形成する第1工程、(2)前記薄膜を熱処理することにより金属塩を還元して、多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルムを得る第2工程を含むことを特徴とする多面体金属微粒子の製造方法に係る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な多面体金属微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異方性をもつ金属微粒子(多面体金属微粒子)は、その異方性により球状微粒子にない特異的な光学特性等を有していることから興味がもたれ、異方性をもつ金属微粒子の合成法が精力的に研究されている。
【0003】
多面体金属微粒子を合成する方法として、例えば、メソポーラスシリカなどの多孔性無機物質をテンプレートにして、その孔内で金属イオンを還元する方法(非特許文献1〜3)が知られている。
【0004】
また、界面活性剤等のいわゆるソフトテンプレートの存在下で溶液中において金属イオンを還元する方法(非特許文献4〜8)も知られている。
【非特許文献1】Y. J. Han, J. M. Kim, G. D. Stucky, Chem. Mater. 2000, 12, 2068.
【非特許文献2】J. S. Yu, J. Y. Kim, S. Lee, J. K. N. Mbindyo, B. R. Martin, T. E. Mallouk, Chem. Commum. 2000, 2445.
【非特許文献3】C. D. Keating, M. J. Natan, Adv. Mater. 2003, 15, 451.
【非特許文献4】Jana, N. R.; Gearheart, L.; Murphy, C. J. J. Phys. Chem. B 2001, 105, 4065.
【非特許文献5】Busbee, B. D.; Obare, S. O.; Murphy, C. J. Adv. Mater.2003, 15, 414.
【非特許文献6】M. Y. Yen, C. W. Chiu, C. H. Hsia, F. R. Chen, J. J. Kai, C. Y. Lee, H. T. Chiu, Adv. Mater. 2003, 15, 235.
【非特許文献7】T. Teranishi, I. Kiyokawa, M. Miyake, Adv. Mater. 1998, 10, 596.
【非特許文献8】Y. Zhou, C. Y. Wang, Y. R. Zhu, Z. Y. Chen, Chem. Mater. 1999, 11, 2310.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多孔性無機物質を用いる従来の方法で得られる微粒子が分散した無機素材は加工性に乏しく、用途が限定される。また、界面活性剤等のソフトテンプレートをもちいる方法では、生成した金属微粒子の精製工程及び単離工程が必要となることから、工業的規模での生産に適しているとは言い難い。また、単離された金属微粒子は、凝集しやすく、樹脂等への均一な再分散が困難となる。さらに、従来方法で得られる多面体金属微粒子は、棒状、プレート状、立方体形状、十面体形状又は二十面体形状に限られている。
【0006】
従って、本発明の主な目的は、八面体又はそれ以外の多面体形状を有する金属微粒子を工業的規模で簡便に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の工程を採用することによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の多面体金属微粒子及びその製造方法に係る。
1. 多面体金属微粒子を製造する方法であって、
(1)水溶性高分子及び金属塩を含む混合溶液を塗布、乾燥させて薄膜を形成する第1工程、
(2)前記薄膜を熱処理することにより多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルムを得る第2工程
を含むことを特徴とする多面体金属微粒子の製造方法。
2. 1)第2工程中、薄膜を熱処理することにより金属塩を還元する、前記項1に記載の製造方法。
3. 水溶性高分子がポリビニルピロリドンである、前記項1又は2に記載の製造方法。
4. 水溶性高分子の分子量が1000〜500000である、前記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5. 金属塩がAuの水溶性金属塩である、前記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
6. 金属塩と水溶性高分子の繰り返しユニット(モノマーユニット)とのモル比が1:1〜10である、前記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
7. 複合フィルムから多面体金属微粒子を単離する第3工程をさらに有する、前記項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
8. 前記項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られる、多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルム。
9. 粒子サイズが5〜300nmであり、かつ、粒子形状が八面体であることを特徴とする多面体金属微粒子。
10. 前記粒子が、(111)面で区切られた八面体の単結晶である、前記項9に記載の多面体金属微粒子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、多面体金属微粒子が高分子(固相)中に分散している複合フィルムの形態で得ることができるので、従来法で必要とされていた精製工程、単離工程等の後処理を省略することができる。このため、本発明の製造方法は、工業的規模での製造に適している。
【0010】
本発明の製造方法では、八面体形状のほか、立方体形状の金属微粒子を製造することもできる。これにより、多様な光学特性、化学特性等を有する材料を提供することが可能となる。このため、本発明の製造方法により得られる複合フィルムは、例えば吸収波長選択的な光学フィルター、カラーフィルター、色材等として有用である。また、多面体金属微粒子表面に配位する有機分子が交換することによる色調変化を利用して、バイオセンサー、検査薬等への応用も可能である。さらに、多面体金属微粒子を複合フィルムから単離すれば、結晶面によって有機分子の配位、吸着等のしやすさが異なることを利用して、結晶面選択的な触媒等に利用できるほか、特定波長の光吸収能を利用して、生体マーカー、偽造防止インキ等への応用にも期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.多面体金属微粒子の製造方法
本発明の製造方法は、多面体金属微粒子を製造する方法であって、
(1)水溶性高分子及び金属塩を含む混合溶液を塗布、乾燥させて薄膜を形成する第1工程、
(2)前記薄膜を熱処理することにより金属塩を還元して、多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルムを得る第2工程
を含むことを特徴とする。
【0012】
第1工程
第1工程では、水溶性高分子及び金属塩を含む混合溶液を塗布、乾燥させて薄膜を形成する。
【0013】
水溶性高分子としては限定的でなく、例えばポリビニルピロリドン、ポリビニルポリピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルアミン、ポリエチレンオキサイド、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン等の少なくとも1種を用いることができる。
【0014】
水溶性高分子の分子量(重量平均分子量Mw)は、一般的に1000〜500000の範囲内において、目的とする多面体形状、用いる水溶性高分子の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、八面体金属微粒子(特に八面体金微粒子)を得る場合は、通常は1000〜500000、特に20000〜50000とすることが好ましい。
【0015】
水溶性高分子の混合溶液中の濃度は特に限定されないが、通常は10〜100mM、特に40〜70mMとすることが望ましい。
【0016】
金属塩としては、目的とする金属微粒子(金属成分)の種類に応じて適宜選択することができる。金属成分としては、例えば金、銀、パラジウム、白金、鉄、コバルト、ニッケル、銅、インジウム、セリウム、ジルコニウム、亜鉛、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、チタン、モリブデン、マンガン、スズ等の1種又は2種以上が挙げられる。金属塩は、例えば塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩等の1種又は2種が挙げられる。これら金属塩の中でも、特に水溶性金属塩が好ましい。具体的には、塩化金酸、塩化金酸カリウム、硝酸銀、塩化パラジウム酸カリウム、塩化白金酸カリウム等が例示される。
【0017】
金属塩の混合溶液中の濃度は特に限定されないが、通常は2〜20mM、特に5〜15mMとすることが望ましい。
【0018】
また、金属塩と水溶性高分子の繰り返しユニット(モノマーユニット)との割合は、モル比で金属塩と水溶性高分子=1:1〜50、特に1:5〜25とすることが好ましい。
【0019】
混合溶液で使用される溶媒は、通常は水を使用することができるが、アルコール等の水溶性有機溶媒を使用することもできる。
【0020】
本発明では、本発明の効果を妨げない範囲内で必要に応じて混合溶液中に界面活性剤、樹脂バインダー(前記水溶性高分子を除く。)、無機塩(ナトリウム塩又はアンモニウム塩等)、分散安定剤、着色剤等を添加することもできる。
【0021】
薄膜の形成方法は制限されず、例えば適当な基材上に上記混合溶液を塗布又は印刷後、乾燥させることにより薄膜を形成すれば良い。基材としては、例えば金属、プラスチック、セラミックス、ガラス等の公知の材料を用いることができる。塗布又は印刷方法も限定されず、基材上に混合溶液を滴下する方法、刷毛、ローラー、スプレー、又はスピンコーター等による方法、スクリーン印刷、インクジェット印刷等による方法等が挙げられる。
【0022】
薄膜の乾燥条件は、混合溶液中の溶媒を蒸発できる限り特に制限されず、通常は自然乾燥により実施することができる。また、必要に応じて70℃未満(特に50℃以下)の温度で加熱することにより乾燥しても良い。
【0023】
第2工程
第2工程では、前記薄膜を熱処理することにより金属塩を還元して、多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルムを得る。
【0024】
熱処理温度は、100℃以上でかつ水溶性高分子の分解温度未満の範囲内で、水溶性高分子の種類、所望の多面体形状等に応じて設定することができる。例えば、水溶性高分子がポリビニルピロリドン等の場合は、100〜250℃、特に120〜180℃とすることが好ましい
熱処理時間は、熱処理温度等により異なり、通常は1分〜24時間の範囲内で適宜設定すれば良い。
【0025】
熱処理する際の昇温速度は限定的でないが、一般的には1〜10℃/分、特に1〜5℃/分とすることが好ましい。
【0026】
熱処理雰囲気は、大気中(酸化性雰囲気中)、還元性雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中のいずれでも良く、用いる金属塩の種類等に応じて適宜設定すれば良い。例えば、金の水溶性金属塩を用いる場合は、大気中、還元性雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中のいずれの雰囲気でも、熱処理することにより還元することができる。
【0027】
第3工程
本発明では、必要に応じて多面体金属微粒子を複合フィルムから単離しても良い。単離方法は限定的でなく、例えば複合フィルムを溶剤で溶解させて溶液とし、これを遠心分離等の公知の固液分離方法により多面体金属微粒子を回収すれば良い。また、必要に応じて水等により多面体金属微粒子を洗浄しても良い。
【0028】
2.複合フィルム
本発明は、本発明の製造方法により得られる、多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルムを包含する。
【0029】
分散している多面体金属微粒子は、その形状の限定はなく、例えば八面体形状、立方体形状、十面体形状、三角形プレート形状等の種々の形状の金属微粒子が含まれていても良いが、選択的にひとつの形状の粒子が含まれていることが望ましい。
【0030】
本発明では、個々の多面体金属微粒子は、単結晶又は双晶で構成され、特定の結晶面で区切られていることが望ましい。
【0031】
分散している多面体金属微粒子の粒子サイズは、通常1〜500nmの範囲内であり、特に5〜300nm、さらに5〜100nmであることが望ましい。なお、本発明における粒子サイズは、透過型電子顕微鏡による直接観察により、100個以上の粒子の最長の対角線を測定して平均値を算出した。
【0032】
多面体金属微粒子の分散量は、複合フィルムの用途等に応じて適宜定めることができるが、一般的には複合フィルム中5〜50重量%、特に15〜30重量%含まれていることが好ましい。
【0033】
複合フィルムのマトリックスとなる高分子は、出発材料として用いた水溶性高分子から構成されている。水溶性高分子としては、前記で挙げたものを使用することができる。
【0034】
複合フィルムの厚みは制限されないが、一般的には0.1〜100μm程度の範囲内で目的とする用途、使用形態等に応じて適宜調節することができる。
【0035】
複合フィルムは、それを形成した基材とともに各種の用途に利用できるほか、複合フィルム単独でも各種の用途に用いることができる。さらに、本発明複合フィルムに他の層を積層してなる積層体としても利用することができる。
【0036】
3.多面体金属微粒子
本発明の多面体金属微粒子は、粒子サイズが5〜300nmであり、かつ、粒子形状が八面体の単結晶であることを特徴とする。
【0037】
多面体金属微粒子の金属成分は限定的ではなく、例えば金、銀、パラジウム、白金、鉄、コバルト、ニッケル、銅、インジウム、セリウム、ジルコニウム、亜鉛、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、チタン、モリブデン、マンガン、スズ等の少なくとも1種が挙げられる。特に金であることが好ましい。
【0038】
多面体金属微粒子の粒子サイズは、通常1〜500nmの範囲内であり、特に5〜300nm、さらに5〜100nmであることが望ましい。
【0039】
多面体形状は八面体である。この場合、個々の八面体粒子は、(111)面で区切られた単結晶から構成されていることが望ましい。(111)面で区切られた単結晶であることの確認は、例えば1)HR-TEM観察による結晶面間隔や結晶面の方向、2)電子線回折像から容易に確認することができる。
【0040】
本発明の多面体金属微粒子は、前記の複合フィルムから金属微粒子を公知の方法に従って単離することによって得ることができる。この場合、金属微粒子は、前記のように、種々の形状のもの(八面体形状、立方体形状、十面体形状、三角形プレート形状等)を含むことがあるが、その場合は遠心分離により八面体金属微粒子を単離することができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0042】
なお、各実施例における各物性の測定は、次のようにして実施した。
(1)微粒子の形状及び結晶構造の同定
透過型電子顕微鏡観察試料は、得られた試料をメタノールに分散させ、カーボン支持膜付Cuグリッド(200 Mesh)に滴下後、乾燥させて作成した。透過型電子顕微鏡(TEM)JEM-1200EX (JEOL、加速電圧100 kV)、及び高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM)H-9000 (HITACHI、加速電圧300 kV) を用い、微粒子の形状観察や電子線回折及び結晶面観察により結晶構造解析を行った。
(2)微粒子の分析
ポリマーフィルム中の微粒子の粉末X線回折は、強力X線回折装置「Rigaku RINT 2500」(リガク製)を用いた。プラズモン吸収の測定は紫外可視分光光度計「Shimadzu UV-3150C」 (島津製作所製)を用いて行った。
(3)ポリビニルピロリドンの分析
ポリビニルピロリドンの加熱前後におけるアミド基の確認は、FT−IR装置「GX I−RO」(パーキンエルマー社製)を用いて行った。
【0043】
実施例1−1
ポリビニルピロリドン(PVP-30k; Mw=40000)水溶液(100 mM, 0.2 ml)とHAuCl4・4H2O (20 mM, 0.1 ml)とを混合して混合水溶液(PVP/Au = 10)を調製した。この混合水溶液をスライドガラス上に滴下し、40 ℃で30分間にて乾燥させた。得られた試料を電気炉で室温から170℃まで2℃/min.で昇温した後、170℃で1時間保持することにより複合フィルム(試料)を得た。
【0044】
スライドガラスから複合フィルムをかきとり、メタノールに分散させて、カーボン支持膜付Cuグリッドに滴下後、乾燥させてTEM観察用試料を作成し、この試料をTEM観察した。その結果(イメージ図)を図1に示す。八面体ナノ粒子(40%)、立方体ナノ粒子(54%)、十面体ナノ粒子(1%)、三角形プレート(2.5%)、その他の形状のナノ粒子(2.5%)が観測された。TEM観察では、八面体ナノ粒子は正方形、ひし形及び六角形として、立方体ナノ粒子は六角形及び正方形として観測されるため、試料を-45°から45°まで傾斜させてひし形が観測された粒子を八面体として識別した(図2)。八面体ナノ粒子、立方体ナノ粒子、十面体ナノ粒子、三角形プレートのHR-TEM像及び電子線回折像をそれぞれ図3〜図6に示す。ナノ粒子のサイズは約30〜40 nmであった。ナノ粒子が分散したPVPフィルムの粉末X線回折より、金の回折ピークと一致することを確認した(図7)。また、前記フィルムの紫外可視吸収スペクトル(図8)より、HAuCl4の吸収が消滅し、プラズモン吸収の最大吸収波長が561 nmに観測されたことから、完全に金イオンが熱還元されたことを確認した。
【0045】
実施例1−2
実施例1−1と同じ処方で乾燥試料を調製した。得られた試料を電気炉で室温から125 ℃まで2 ℃/min.で昇温した後、125 ℃で24時間保持した。実施例1−1と同様にしてTEM観察を行った。TEM観察による結果(イメージ図)を図9に示す。八面体ナノ粒子(77%)、立方体ナノ粒子(15%)、十面体ナノ粒子(2%)、三角形プレート(4%)、その他の形状のナノ粒子(2%)が観測された。ナノ粒子のサイズは約10〜20 nmであった。
【0046】
PVP/Au比率、加熱温度、時間を変化させて合成したナノ粒子の生成比を表1(entry 1-6)に示す。
【0047】
実施例2−1.
ポリビニルピロリドン(PVP-25; Mw=24500)又はポリビニルピロリドン(PVP-90k; Mw = 360000)を用いて、実施例1−1と同様の方法で合成し、TEM観察した。そのTEM像を図10、11にそれぞれ示す。
【0048】
実施例2−2.
ポリビニルピロリドン(PVP-25; Mw=24500)又はポリビニルピロリドン(PVP-90k; Mw = 360000)を用いて、実施例1−2と同様の方法で合成し、TEM観察した。そのTEM像を図12、13にそれぞれ示す。
【0049】
実施例3−1.
添加剤Na2SO4、 (NH4)2SO4又はNaClの水溶液(100 mM, 0.1 ml)を加えて、実施例1−1と同様の方法で反応させた。TEM像を図14〜16にそれぞれ示す。
【0050】
実施例3−2.
添加剤Na2SO4、 (NH4)2SO4又はNaClの水溶液(100 mM, 0.1 ml)を加えて、実施例1−2と同様の方法で反応させた。TEM像を図17〜19にそれぞれ示す。
【0051】
実施例4
実施例1−1のHAuCl4・4H2O をKAuCl4・4H2O に代えて、同様に反応させた。得られた試料を実施例1−1と同様にして観察した。TEM観察による結果(イメージ図)を図20に示す。粒子サイズ約100-150 nmの多面体微粒子が生成した。
【0052】
実施例5
ポリビニルピロリドン(PVP-30k; Mw=40000)水溶液(100 mM, 0.5 ml)とHAuCl4・4H2O (20 mM, 0.5 ml)とAgNO3 (20 mM, 0.05 ml)とを混合した混合水溶液(PVP/Au = 5)を調製した。この混合水溶液をスライドガラスに滴下、40 ℃で30分間乾燥させた。得られた試料を電気炉で室温から170℃まで2℃/min.で昇温した後、170℃で30分保持した。得られた試料を実施例1−1と同様にして観察した。TEM観察による結果(イメージ図)を図21に示す。
【0053】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1−1で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図2】実施例1−1で得られた試料を-45°から45°まで傾斜させながらTEM観察により八面体を識別する手法を示す図である。
【図3】実施例1−1で得られた八面体ナノ粒子のHR-TEM像及び電子線回折像である。
【図4】実施例1−1で得られた立方体ナノ粒子のHR-TEM像及び電子線回折像である。
【図5】実施例1−1で得られた十面体ナノ粒子のHR-TEM像及び電子線回折像である。
【図6】実施例1−1で得られた三角形プレート状粒子のHR-TEM像及び電子線回折像である。
【図7】実施例1−1において、ナノ粒子が分散したPVPフィルムの粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図8】実施例1−1で得られたフィルムの紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
【図9】実施例1−2で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図10】実施例2−1(PVP-25)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図11】実施例2−1(PVP-90k)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図12】実施例2−2(PVP-25)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図13】実施例2−2(PVP-90k)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図14】実施例3−1(Na2SO4)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図15】実施例3−1((NH4)2SO4)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図16】実施例3−1(NaCl)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図17】実施例3−2(Na2SO4)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図18】実施例3−2((NH4)2SO4)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図19】実施例3−2(NaCl)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図20】実施例4で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図21】実施例5で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な多面体金属微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異方性をもつ金属微粒子(多面体金属微粒子)は、その異方性により球状微粒子にない特異的な光学特性等を有していることから興味がもたれ、異方性をもつ金属微粒子の合成法が精力的に研究されている。
【0003】
多面体金属微粒子を合成する方法として、例えば、メソポーラスシリカなどの多孔性無機物質をテンプレートにして、その孔内で金属イオンを還元する方法(非特許文献1〜3)が知られている。
【0004】
また、界面活性剤等のいわゆるソフトテンプレートの存在下で溶液中において金属イオンを還元する方法(非特許文献4〜8)も知られている。
【非特許文献1】Y. J. Han, J. M. Kim, G. D. Stucky, Chem. Mater. 2000, 12, 2068.
【非特許文献2】J. S. Yu, J. Y. Kim, S. Lee, J. K. N. Mbindyo, B. R. Martin, T. E. Mallouk, Chem. Commum. 2000, 2445.
【非特許文献3】C. D. Keating, M. J. Natan, Adv. Mater. 2003, 15, 451.
【非特許文献4】Jana, N. R.; Gearheart, L.; Murphy, C. J. J. Phys. Chem. B 2001, 105, 4065.
【非特許文献5】Busbee, B. D.; Obare, S. O.; Murphy, C. J. Adv. Mater.2003, 15, 414.
【非特許文献6】M. Y. Yen, C. W. Chiu, C. H. Hsia, F. R. Chen, J. J. Kai, C. Y. Lee, H. T. Chiu, Adv. Mater. 2003, 15, 235.
【非特許文献7】T. Teranishi, I. Kiyokawa, M. Miyake, Adv. Mater. 1998, 10, 596.
【非特許文献8】Y. Zhou, C. Y. Wang, Y. R. Zhu, Z. Y. Chen, Chem. Mater. 1999, 11, 2310.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多孔性無機物質を用いる従来の方法で得られる微粒子が分散した無機素材は加工性に乏しく、用途が限定される。また、界面活性剤等のソフトテンプレートをもちいる方法では、生成した金属微粒子の精製工程及び単離工程が必要となることから、工業的規模での生産に適しているとは言い難い。また、単離された金属微粒子は、凝集しやすく、樹脂等への均一な再分散が困難となる。さらに、従来方法で得られる多面体金属微粒子は、棒状、プレート状、立方体形状、十面体形状又は二十面体形状に限られている。
【0006】
従って、本発明の主な目的は、八面体又はそれ以外の多面体形状を有する金属微粒子を工業的規模で簡便に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来技術の問題点に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、特定の工程を採用することによって上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の多面体金属微粒子及びその製造方法に係る。
1. 多面体金属微粒子を製造する方法であって、
(1)水溶性高分子及び金属塩を含む混合溶液を塗布、乾燥させて薄膜を形成する第1工程、
(2)前記薄膜を熱処理することにより多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルムを得る第2工程
を含むことを特徴とする多面体金属微粒子の製造方法。
2. 1)第2工程中、薄膜を熱処理することにより金属塩を還元する、前記項1に記載の製造方法。
3. 水溶性高分子がポリビニルピロリドンである、前記項1又は2に記載の製造方法。
4. 水溶性高分子の分子量が1000〜500000である、前記項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
5. 金属塩がAuの水溶性金属塩である、前記項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
6. 金属塩と水溶性高分子の繰り返しユニット(モノマーユニット)とのモル比が1:1〜10である、前記項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
7. 複合フィルムから多面体金属微粒子を単離する第3工程をさらに有する、前記項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
8. 前記項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られる、多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルム。
9. 粒子サイズが5〜300nmであり、かつ、粒子形状が八面体であることを特徴とする多面体金属微粒子。
10. 前記粒子が、(111)面で区切られた八面体の単結晶である、前記項9に記載の多面体金属微粒子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、多面体金属微粒子が高分子(固相)中に分散している複合フィルムの形態で得ることができるので、従来法で必要とされていた精製工程、単離工程等の後処理を省略することができる。このため、本発明の製造方法は、工業的規模での製造に適している。
【0010】
本発明の製造方法では、八面体形状のほか、立方体形状の金属微粒子を製造することもできる。これにより、多様な光学特性、化学特性等を有する材料を提供することが可能となる。このため、本発明の製造方法により得られる複合フィルムは、例えば吸収波長選択的な光学フィルター、カラーフィルター、色材等として有用である。また、多面体金属微粒子表面に配位する有機分子が交換することによる色調変化を利用して、バイオセンサー、検査薬等への応用も可能である。さらに、多面体金属微粒子を複合フィルムから単離すれば、結晶面によって有機分子の配位、吸着等のしやすさが異なることを利用して、結晶面選択的な触媒等に利用できるほか、特定波長の光吸収能を利用して、生体マーカー、偽造防止インキ等への応用にも期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
1.多面体金属微粒子の製造方法
本発明の製造方法は、多面体金属微粒子を製造する方法であって、
(1)水溶性高分子及び金属塩を含む混合溶液を塗布、乾燥させて薄膜を形成する第1工程、
(2)前記薄膜を熱処理することにより金属塩を還元して、多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルムを得る第2工程
を含むことを特徴とする。
【0012】
第1工程
第1工程では、水溶性高分子及び金属塩を含む混合溶液を塗布、乾燥させて薄膜を形成する。
【0013】
水溶性高分子としては限定的でなく、例えばポリビニルピロリドン、ポリビニルポリピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルアミン、ポリエチレンオキサイド、セルロース誘導体、ポリエチレングリコール、ポリエチレンイミン等の少なくとも1種を用いることができる。
【0014】
水溶性高分子の分子量(重量平均分子量Mw)は、一般的に1000〜500000の範囲内において、目的とする多面体形状、用いる水溶性高分子の種類等に応じて適宜設定することができる。例えば、八面体金属微粒子(特に八面体金微粒子)を得る場合は、通常は1000〜500000、特に20000〜50000とすることが好ましい。
【0015】
水溶性高分子の混合溶液中の濃度は特に限定されないが、通常は10〜100mM、特に40〜70mMとすることが望ましい。
【0016】
金属塩としては、目的とする金属微粒子(金属成分)の種類に応じて適宜選択することができる。金属成分としては、例えば金、銀、パラジウム、白金、鉄、コバルト、ニッケル、銅、インジウム、セリウム、ジルコニウム、亜鉛、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、チタン、モリブデン、マンガン、スズ等の1種又は2種以上が挙げられる。金属塩は、例えば塩化物、臭化物、ヨウ化物、フッ化物、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩等の1種又は2種が挙げられる。これら金属塩の中でも、特に水溶性金属塩が好ましい。具体的には、塩化金酸、塩化金酸カリウム、硝酸銀、塩化パラジウム酸カリウム、塩化白金酸カリウム等が例示される。
【0017】
金属塩の混合溶液中の濃度は特に限定されないが、通常は2〜20mM、特に5〜15mMとすることが望ましい。
【0018】
また、金属塩と水溶性高分子の繰り返しユニット(モノマーユニット)との割合は、モル比で金属塩と水溶性高分子=1:1〜50、特に1:5〜25とすることが好ましい。
【0019】
混合溶液で使用される溶媒は、通常は水を使用することができるが、アルコール等の水溶性有機溶媒を使用することもできる。
【0020】
本発明では、本発明の効果を妨げない範囲内で必要に応じて混合溶液中に界面活性剤、樹脂バインダー(前記水溶性高分子を除く。)、無機塩(ナトリウム塩又はアンモニウム塩等)、分散安定剤、着色剤等を添加することもできる。
【0021】
薄膜の形成方法は制限されず、例えば適当な基材上に上記混合溶液を塗布又は印刷後、乾燥させることにより薄膜を形成すれば良い。基材としては、例えば金属、プラスチック、セラミックス、ガラス等の公知の材料を用いることができる。塗布又は印刷方法も限定されず、基材上に混合溶液を滴下する方法、刷毛、ローラー、スプレー、又はスピンコーター等による方法、スクリーン印刷、インクジェット印刷等による方法等が挙げられる。
【0022】
薄膜の乾燥条件は、混合溶液中の溶媒を蒸発できる限り特に制限されず、通常は自然乾燥により実施することができる。また、必要に応じて70℃未満(特に50℃以下)の温度で加熱することにより乾燥しても良い。
【0023】
第2工程
第2工程では、前記薄膜を熱処理することにより金属塩を還元して、多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルムを得る。
【0024】
熱処理温度は、100℃以上でかつ水溶性高分子の分解温度未満の範囲内で、水溶性高分子の種類、所望の多面体形状等に応じて設定することができる。例えば、水溶性高分子がポリビニルピロリドン等の場合は、100〜250℃、特に120〜180℃とすることが好ましい
熱処理時間は、熱処理温度等により異なり、通常は1分〜24時間の範囲内で適宜設定すれば良い。
【0025】
熱処理する際の昇温速度は限定的でないが、一般的には1〜10℃/分、特に1〜5℃/分とすることが好ましい。
【0026】
熱処理雰囲気は、大気中(酸化性雰囲気中)、還元性雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中のいずれでも良く、用いる金属塩の種類等に応じて適宜設定すれば良い。例えば、金の水溶性金属塩を用いる場合は、大気中、還元性雰囲気中又は不活性ガス雰囲気中のいずれの雰囲気でも、熱処理することにより還元することができる。
【0027】
第3工程
本発明では、必要に応じて多面体金属微粒子を複合フィルムから単離しても良い。単離方法は限定的でなく、例えば複合フィルムを溶剤で溶解させて溶液とし、これを遠心分離等の公知の固液分離方法により多面体金属微粒子を回収すれば良い。また、必要に応じて水等により多面体金属微粒子を洗浄しても良い。
【0028】
2.複合フィルム
本発明は、本発明の製造方法により得られる、多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルムを包含する。
【0029】
分散している多面体金属微粒子は、その形状の限定はなく、例えば八面体形状、立方体形状、十面体形状、三角形プレート形状等の種々の形状の金属微粒子が含まれていても良いが、選択的にひとつの形状の粒子が含まれていることが望ましい。
【0030】
本発明では、個々の多面体金属微粒子は、単結晶又は双晶で構成され、特定の結晶面で区切られていることが望ましい。
【0031】
分散している多面体金属微粒子の粒子サイズは、通常1〜500nmの範囲内であり、特に5〜300nm、さらに5〜100nmであることが望ましい。なお、本発明における粒子サイズは、透過型電子顕微鏡による直接観察により、100個以上の粒子の最長の対角線を測定して平均値を算出した。
【0032】
多面体金属微粒子の分散量は、複合フィルムの用途等に応じて適宜定めることができるが、一般的には複合フィルム中5〜50重量%、特に15〜30重量%含まれていることが好ましい。
【0033】
複合フィルムのマトリックスとなる高分子は、出発材料として用いた水溶性高分子から構成されている。水溶性高分子としては、前記で挙げたものを使用することができる。
【0034】
複合フィルムの厚みは制限されないが、一般的には0.1〜100μm程度の範囲内で目的とする用途、使用形態等に応じて適宜調節することができる。
【0035】
複合フィルムは、それを形成した基材とともに各種の用途に利用できるほか、複合フィルム単独でも各種の用途に用いることができる。さらに、本発明複合フィルムに他の層を積層してなる積層体としても利用することができる。
【0036】
3.多面体金属微粒子
本発明の多面体金属微粒子は、粒子サイズが5〜300nmであり、かつ、粒子形状が八面体の単結晶であることを特徴とする。
【0037】
多面体金属微粒子の金属成分は限定的ではなく、例えば金、銀、パラジウム、白金、鉄、コバルト、ニッケル、銅、インジウム、セリウム、ジルコニウム、亜鉛、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、チタン、モリブデン、マンガン、スズ等の少なくとも1種が挙げられる。特に金であることが好ましい。
【0038】
多面体金属微粒子の粒子サイズは、通常1〜500nmの範囲内であり、特に5〜300nm、さらに5〜100nmであることが望ましい。
【0039】
多面体形状は八面体である。この場合、個々の八面体粒子は、(111)面で区切られた単結晶から構成されていることが望ましい。(111)面で区切られた単結晶であることの確認は、例えば1)HR-TEM観察による結晶面間隔や結晶面の方向、2)電子線回折像から容易に確認することができる。
【0040】
本発明の多面体金属微粒子は、前記の複合フィルムから金属微粒子を公知の方法に従って単離することによって得ることができる。この場合、金属微粒子は、前記のように、種々の形状のもの(八面体形状、立方体形状、十面体形状、三角形プレート形状等)を含むことがあるが、その場合は遠心分離により八面体金属微粒子を単離することができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。
【0042】
なお、各実施例における各物性の測定は、次のようにして実施した。
(1)微粒子の形状及び結晶構造の同定
透過型電子顕微鏡観察試料は、得られた試料をメタノールに分散させ、カーボン支持膜付Cuグリッド(200 Mesh)に滴下後、乾燥させて作成した。透過型電子顕微鏡(TEM)JEM-1200EX (JEOL、加速電圧100 kV)、及び高分解能透過型電子顕微鏡(HR−TEM)H-9000 (HITACHI、加速電圧300 kV) を用い、微粒子の形状観察や電子線回折及び結晶面観察により結晶構造解析を行った。
(2)微粒子の分析
ポリマーフィルム中の微粒子の粉末X線回折は、強力X線回折装置「Rigaku RINT 2500」(リガク製)を用いた。プラズモン吸収の測定は紫外可視分光光度計「Shimadzu UV-3150C」 (島津製作所製)を用いて行った。
(3)ポリビニルピロリドンの分析
ポリビニルピロリドンの加熱前後におけるアミド基の確認は、FT−IR装置「GX I−RO」(パーキンエルマー社製)を用いて行った。
【0043】
実施例1−1
ポリビニルピロリドン(PVP-30k; Mw=40000)水溶液(100 mM, 0.2 ml)とHAuCl4・4H2O (20 mM, 0.1 ml)とを混合して混合水溶液(PVP/Au = 10)を調製した。この混合水溶液をスライドガラス上に滴下し、40 ℃で30分間にて乾燥させた。得られた試料を電気炉で室温から170℃まで2℃/min.で昇温した後、170℃で1時間保持することにより複合フィルム(試料)を得た。
【0044】
スライドガラスから複合フィルムをかきとり、メタノールに分散させて、カーボン支持膜付Cuグリッドに滴下後、乾燥させてTEM観察用試料を作成し、この試料をTEM観察した。その結果(イメージ図)を図1に示す。八面体ナノ粒子(40%)、立方体ナノ粒子(54%)、十面体ナノ粒子(1%)、三角形プレート(2.5%)、その他の形状のナノ粒子(2.5%)が観測された。TEM観察では、八面体ナノ粒子は正方形、ひし形及び六角形として、立方体ナノ粒子は六角形及び正方形として観測されるため、試料を-45°から45°まで傾斜させてひし形が観測された粒子を八面体として識別した(図2)。八面体ナノ粒子、立方体ナノ粒子、十面体ナノ粒子、三角形プレートのHR-TEM像及び電子線回折像をそれぞれ図3〜図6に示す。ナノ粒子のサイズは約30〜40 nmであった。ナノ粒子が分散したPVPフィルムの粉末X線回折より、金の回折ピークと一致することを確認した(図7)。また、前記フィルムの紫外可視吸収スペクトル(図8)より、HAuCl4の吸収が消滅し、プラズモン吸収の最大吸収波長が561 nmに観測されたことから、完全に金イオンが熱還元されたことを確認した。
【0045】
実施例1−2
実施例1−1と同じ処方で乾燥試料を調製した。得られた試料を電気炉で室温から125 ℃まで2 ℃/min.で昇温した後、125 ℃で24時間保持した。実施例1−1と同様にしてTEM観察を行った。TEM観察による結果(イメージ図)を図9に示す。八面体ナノ粒子(77%)、立方体ナノ粒子(15%)、十面体ナノ粒子(2%)、三角形プレート(4%)、その他の形状のナノ粒子(2%)が観測された。ナノ粒子のサイズは約10〜20 nmであった。
【0046】
PVP/Au比率、加熱温度、時間を変化させて合成したナノ粒子の生成比を表1(entry 1-6)に示す。
【0047】
実施例2−1.
ポリビニルピロリドン(PVP-25; Mw=24500)又はポリビニルピロリドン(PVP-90k; Mw = 360000)を用いて、実施例1−1と同様の方法で合成し、TEM観察した。そのTEM像を図10、11にそれぞれ示す。
【0048】
実施例2−2.
ポリビニルピロリドン(PVP-25; Mw=24500)又はポリビニルピロリドン(PVP-90k; Mw = 360000)を用いて、実施例1−2と同様の方法で合成し、TEM観察した。そのTEM像を図12、13にそれぞれ示す。
【0049】
実施例3−1.
添加剤Na2SO4、 (NH4)2SO4又はNaClの水溶液(100 mM, 0.1 ml)を加えて、実施例1−1と同様の方法で反応させた。TEM像を図14〜16にそれぞれ示す。
【0050】
実施例3−2.
添加剤Na2SO4、 (NH4)2SO4又はNaClの水溶液(100 mM, 0.1 ml)を加えて、実施例1−2と同様の方法で反応させた。TEM像を図17〜19にそれぞれ示す。
【0051】
実施例4
実施例1−1のHAuCl4・4H2O をKAuCl4・4H2O に代えて、同様に反応させた。得られた試料を実施例1−1と同様にして観察した。TEM観察による結果(イメージ図)を図20に示す。粒子サイズ約100-150 nmの多面体微粒子が生成した。
【0052】
実施例5
ポリビニルピロリドン(PVP-30k; Mw=40000)水溶液(100 mM, 0.5 ml)とHAuCl4・4H2O (20 mM, 0.5 ml)とAgNO3 (20 mM, 0.05 ml)とを混合した混合水溶液(PVP/Au = 5)を調製した。この混合水溶液をスライドガラスに滴下、40 ℃で30分間乾燥させた。得られた試料を電気炉で室温から170℃まで2℃/min.で昇温した後、170℃で30分保持した。得られた試料を実施例1−1と同様にして観察した。TEM観察による結果(イメージ図)を図21に示す。
【0053】
【表1】
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】実施例1−1で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図2】実施例1−1で得られた試料を-45°から45°まで傾斜させながらTEM観察により八面体を識別する手法を示す図である。
【図3】実施例1−1で得られた八面体ナノ粒子のHR-TEM像及び電子線回折像である。
【図4】実施例1−1で得られた立方体ナノ粒子のHR-TEM像及び電子線回折像である。
【図5】実施例1−1で得られた十面体ナノ粒子のHR-TEM像及び電子線回折像である。
【図6】実施例1−1で得られた三角形プレート状粒子のHR-TEM像及び電子線回折像である。
【図7】実施例1−1において、ナノ粒子が分散したPVPフィルムの粉末X線回折分析の結果を示す図である。
【図8】実施例1−1で得られたフィルムの紫外可視吸収スペクトルを示す図である。
【図9】実施例1−2で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図10】実施例2−1(PVP-25)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図11】実施例2−1(PVP-90k)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図12】実施例2−2(PVP-25)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図13】実施例2−2(PVP-90k)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図14】実施例3−1(Na2SO4)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図15】実施例3−1((NH4)2SO4)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図16】実施例3−1(NaCl)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図17】実施例3−2(Na2SO4)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図18】実施例3−2((NH4)2SO4)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図19】実施例3−2(NaCl)で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図20】実施例4で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【図21】実施例5で得られた試料のTEM観察の結果を示す図(イメージ図)である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多面体金属微粒子を製造する方法であって、
(1)水溶性高分子及び金属塩を含む混合溶液を塗布、乾燥させて薄膜を形成する第1工程、
(2)前記薄膜を熱処理することにより多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルムを得る第2工程
を含むことを特徴とする多面体金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
第2工程中、薄膜を熱処理することにより金属塩を還元する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
水溶性高分子がポリビニルピロリドンである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
水溶性高分子の分子量が1000〜500000である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
金属塩がAuの水溶性金属塩である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
金属塩と水溶性高分子の繰り返しユニット(モノマーユニット)とのモル比が1:1〜10である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
複合フィルムから多面体金属微粒子を単離する第3工程をさらに有する、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られる、多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルム。
【請求項9】
粒子サイズが5〜300nmであり、かつ、粒子形状が八面体であることを特徴とする多面体金属微粒子。
【請求項10】
前記粒子が、(111)面で区切られた八面体の単結晶である、請求項9に記載の多面体金属微粒子。
【請求項1】
多面体金属微粒子を製造する方法であって、
(1)水溶性高分子及び金属塩を含む混合溶液を塗布、乾燥させて薄膜を形成する第1工程、
(2)前記薄膜を熱処理することにより多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルムを得る第2工程
を含むことを特徴とする多面体金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
第2工程中、薄膜を熱処理することにより金属塩を還元する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
水溶性高分子がポリビニルピロリドンである、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
水溶性高分子の分子量が1000〜500000である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
金属塩がAuの水溶性金属塩である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
金属塩と水溶性高分子の繰り返しユニット(モノマーユニット)とのモル比が1:1〜10である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
複合フィルムから多面体金属微粒子を単離する第3工程をさらに有する、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られる、多面体金属微粒子が前記高分子中に分散してなる複合フィルム。
【請求項9】
粒子サイズが5〜300nmであり、かつ、粒子形状が八面体であることを特徴とする多面体金属微粒子。
【請求項10】
前記粒子が、(111)面で区切られた八面体の単結晶である、請求項9に記載の多面体金属微粒子。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2008−69388(P2008−69388A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−247395(P2006−247395)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【Fターム(参考)】
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