説明

大口径ゴムホース

【課題】高温、長時間加硫による補強繊維の熱劣化による繊維織物及び/又は繊維コードとゴムとの接着力の低下が大幅に改善され、従って、より一層の大口径化に対応することができる大口径ゴムホースを提供する。
【解決手段】ポリケトン繊維よりなる繊維織物(及び/又は繊維コード)又はポリケトン繊維と他の繊維との複合繊維織物(及び/又は複合繊維コード)で補強された大口径ゴムホース。ポリケトン繊維は、その分子構造上、耐熱性に著しく優れ、且つゴム中の成分、酸素、水分、油類、薬品類に対しても安定であると共に、ゴムとの接着性にも優れている。このため、長時間加硫を行った大口径ゴムホースであっても、補強繊維とゴムとの接着力が十分に確保され、従って、補強繊維織物及び/又は繊維コードによる補強効果に優れ、耐久性、信頼性等も良好な大口径ゴムホースが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維織物及び/又は繊維コードにより補強された大口径ゴムホースに係り、特に、高温、長時間加硫による補強繊維の劣化が防止され、加硫後の補強繊維とゴムとの接着力の低下の問題が改善された大口径ゴムホースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴム本体内に補強繊維の織物を埋設することにより、弾性等のゴム本来の特性を維持した上で、補強繊維による機械的強度の向上を図った繊維補強ゴムが、幅広い分野で使用されている。このような繊維補強ゴムよりなる耐圧ゴムホースの場合、高強度、高弾性率が要求されることから、補強繊維織物としては強度、弾性に優れたポリエチレンテレフタレート(PET)繊維の織物が使用されている。
【0003】
このような繊維補強ゴムよりなる耐圧ゴムホースは、未加硫ゴム内に補強繊維の織物を埋設した状態で加硫し、ゴムを硬化させると共に、ゴムと繊維織物とを接着させることにより製造されている。
【0004】
しかしながら、補強繊維織物としてPET繊維よりなる織物を用いると、加硫によるPET繊維の熱劣化で繊維織物を構成するPET繊維とゴムとの接着力が低下する。特に、内径300〜1000mmといった大口径ゴムホースでは、ゴム層及び内部の補強材層を含めた肉厚が50〜100mmの非常に厚いものとなることから、内部まで完全に加硫させるために500〜1000分もの長時間加硫を行う必要があり、このような長時間加硫でPET繊維とゴムとの接着性は大幅に低下する。
【0005】
この問題を解決するものとして、本出願人は先に、PETとナイロンとの複合繊維織物を用いた大口径ゴムホースを提案したが(特開2004−108555号公報)、より一層の改善が望まれる。
【0006】
ところで、繊維補強ゴム製品のうち、常温付近で使用されるものにおいては、ゴム成分として、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等の汎用のジエン系ゴムが用いられる。
【0007】
一方、高温用途にあっては、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム(IIR)、アクリルゴム(ACM)、エチレンアクリルゴム(AEM)、水素添加ニトリルゴム(HNBR)等の耐熱性に優れた特殊ゴムが使用され、これらの特殊ゴムは、一般に硫黄ではなく、有機過酸化物、樹脂、アミン類を加硫剤として用いて加硫(架橋)成形される。また、要求される耐熱性によっては、上述の汎用ジエン系ゴムの有効加硫(チウラム系加硫促進剤などの含硫黄化合物による加硫であり、EV加硫とも称される。)、或いはN,N’−m−フェニレンジマレイミド等の有機加硫剤による加硫ゴムも用いられる。
【0008】
これらの高温用途のゴムは架橋形態が汎用の硫黄加硫による場合と異なるため、補強繊維との接着性の確保が難しい。しかも、これらの耐熱ゴム配合においては、ゴムの耐熱性を確保するために、加熱温度を高めて加硫時間を短縮することが望ましいが、補強繊維の耐熱性が十分でない場合には、このような高温短時間加硫を行うことはできない。この場合には、長時間加硫でゴム物性の低下のみならず生産性の低下を引き起こす。
【特許文献1】特開2004−108555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高温、長時間加硫による補強繊維の熱劣化による繊維織物及び/又は繊維コードとゴムとの接着力の低下が大幅に改善され、従って、より一層の大口径化に対応することができる大口径ゴムホースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の大口径ゴムホースは、繊維織物及び/又は繊維コードにより補強された大口径ゴムホースにおいて、該繊維織物及び/又は繊維コードが、ポリケトン繊維織物よりなることを特徴とする。
【0011】
請求項2の大口径ゴムホースは、繊維織物及び/又は繊維コードにより補強された大口径ゴムホースにおいて、該繊維織物及び/又は繊維コードが、ポリケトンを含む複合繊維織物及び/又は複合繊維コードであることを特徴とする。
【0012】
請求項3の大口径ゴムホースは、請求項2において、該複合繊維織物及び/又は複合繊維コードがポリケトン繊維と他の繊維との複合繊維織物及び/又は複合繊維コードであることを特徴とする。
【0013】
請求項4の大口径ゴムホースは、請求項3において、該他の繊維がナイロン繊維及び/又はポリエステル繊維であることを特徴とする。
【0014】
請求項5の大口径ゴムホースは、請求項3又は4において、ポリケトン繊維と他の繊維との合計の繊度に対するポリケトン繊維の繊度の割合が30%以上であることを特徴とする。
【0015】
請求項6の大口径ゴムホースは、請求項1ないし5のいずれか1項において、該繊維織物及び/又は繊維コードを構成するポリケトン繊維を含む繊維コードの上撚り係数が1500以上であることを特徴とする。
【0016】
請求項7の大口径ゴムホースは、請求項1ないし6のいずれか1項において、ポリケトンが下記一般式(I)で表されることを特徴とする。
【化2】

((I)式中、Rはエチレン性不飽和化合物由来の連結基であり、各繰り返し単位において、同一であっても異なっていても良い。)
【0017】
請求項8の大口径ゴムホースは、請求項1ないし7のいずれか1項において、マトリックスゴムが、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム、及び水素添加ニトリルゴムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上を主成分とすることを特徴とする。
【0018】
請求項9の大口径ゴムホースは、請求項1ないし8のいずれか1項において、加硫剤として有機過酸化物、樹脂及びアミンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上を用いて加硫されてなることを特徴とする。
【0019】
請求項10の大口径ゴムホースは、請求項1ないし9のいずれか1項において、140℃以上で加硫されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
ポリケトン繊維は、その分子構造上、耐熱性に著しく優れ、且つゴム中の成分、酸素、水分、油類、薬品類に対しても安定であると共に、ゴムとの接着性にも優れている。このため、繊維織物及び/又は繊維コードを構成する繊維としてポリケトン繊維又はポリケトンを含む複合繊維を用いた本発明の大口径ゴムホースによれば、長時間加硫による補強繊維の熱劣化及びこの熱劣化に起因する補強繊維とゴムとの接着性の低下が防止され、長時間加硫を行った大口径ゴムホースであっても、補強繊維とゴムとの接着力が十分に確保され、従って、補強繊維織物及び/又は繊維コードによる補強効果に優れ、耐久性、信頼性等も良好な大口径ゴムホースが提供される(請求項1,2)。
【0021】
本発明において、繊維織物及び/又は繊維コードが、ポリケトンを含む複合繊維織物及び/又は複合繊維コードである場合、この複合繊維織物及び/又は複合繊維コードとしてはポリケトン繊維と他の繊維との複合繊維織物及び/又は複合繊維コードが挙げられ(請求項3)、この他の繊維としてはナイロン繊維及び/又はポリエステル繊維が好ましい(請求項4)。また、この複合繊維織物及び/又は複合繊維コードにおいて、ポリケトン繊維と他の繊維との合計の繊度に対するポリケトン繊維の割合は30%以上であることが好ましい(請求項5)。
【0022】
また、本発明に係る繊維織物及び/又は繊維コードを構成するポリケトン繊維を含む繊維コードは、上撚り係数が1500以上であることが好ましい(請求項6)。
【0023】
本発明において、ポリケトンとしては、下記一般式(I)で表されるポリケトンが好ましい(請求項7)。
【化3】

((I)式中、Rはエチレン性不飽和化合物由来の連結基であり、各繰り返し単位において、同一であっても異なっていても良い。)
【0024】
また、マトリックスとしては、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム(IIR)、アクリルゴム(ACM)、エチレンアクリルゴム(AEM)、水素添加ニトリルゴム(HNBR)等の耐熱ゴムを主成分とすることが好ましく(請求項8)、これらは、加硫剤として有機過酸化物、樹脂、アミンを用いて加硫されたものであり(請求項9)、140℃以上での高温加硫が行われることが好ましい(請求項10)。
【0025】
即ち、本発明によれば、ポリケトン繊維の優れた耐熱性とゴムとの接着性により、汎用ジエン系ゴムを有効加硫する場合や、有機加硫剤で加硫する場合はもとより、EPDM、EPM、IIR、ACM、AEM、HNBRなどの硫黄架橋以外の耐熱ゴムに対しても、優れた接着性が得られる。また、その特に優れた耐熱性で、高温で加硫しても劣化せず、且つゴムとの接着性も十分に確保することができることから、加硫温度を高くして加硫時間短縮による生産性の向上とゴムとの接着性及びゴム物性の確保の両立が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本発明の大口径ゴムホースの実施の形態を詳細に説明する。
【0027】
まず、本発明に係る繊維織物について説明する。
【0028】
本発明の大口径ゴムホースに用いられる繊維織物は、ポリケトン繊維織物、又はポリケトンを含む複合繊維織物、例えば、ポリケトン繊維と他の繊維との複合繊維織物である。
【0029】
本発明に係る繊維織物を構成するるポリケトン繊維は、好ましくは下記一般式(I)で表されるポリケトンを原料として製造される。
【化4】

((I)式中、Rはエチレン性不飽和化合物由来の連結基であり、各繰り返し単位において、同一であっても異なっていても良い。)
【0030】
上記ポリケトンは、分子中にCO単位(カルボニル基)とエチレン性不飽和化合物由来の単位とが配列された交互共重合体、即ち、高分子鎖中で各CO単位の隣に、例えばエチレン単位等のオレフィン単位が一つずつ位置する構造である。このポリケトンは、一酸化炭素と特定のエチレン性不飽和化合物の1種との共重合体であってもよく、一酸化炭素とエチレン性不飽和化合物の2種以上との共重合体であってもよい。
【0031】
上記(I)式中のRを形成するエチレン性不飽和化合物としては、エチレン,プロピレン,ブテン,ペンテン,ヘキセン,ヘプテン,オクテン,ノネン,デセン,ドデセン,スチレン等の不飽和炭化水素化合物、メチルアクリレート,メチルメタクリレート,ビニルアセテート,ウンデセン酸等の不飽和カルボン酸又はその誘導体、更にはウンデセノール,6−クロロヘキセン,N−ビニルピロリドン,及びスルニルホスホン酸のジエチルエステル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、特にポリマーの力学特性や耐熱性等の点から、エチレン性不飽和化合物としてエチレンを主体とするものを用いたポリケトンが好ましい。
【0032】
ポリケトンを構成するエチレン性不飽和化合物として、エチレンと他のエチレン性不飽和化合物とを併用する場合、エチレンは、全エチレン性不飽和化合物に対し、80モル%以上になるように用いるのが好ましい。この割合が80モル%未満では得られるポリマーの融点が200℃以下になり、得られるポリケトン繊維の耐熱性が不充分となる場合がある。ポリケトン繊維の力学特性や耐熱性の点から、エチレンの使用量は、特に全エチレン性不飽和化合物に対し90モル%以上が好ましい。
【0033】
前記のポリケトンは、公知の方法、例えばヨーロッパ特許公開第121965号,同第213671号,同第229408号及び米国特許第3914391号明細書に記載された方法に従って製造することができる。
【0034】
上記ポリケトンの重合度は、m−クレゾール中、60℃で測定した溶液粘度が1.0〜10.0dL/gの範囲にあるのが好ましい。溶液粘度が1.0dL/g未満では、得られるポリケトン繊維の力学強度が不充分となる場合があり、ポリケトン繊維の力学強度の観点から、溶液粘度が1.2dL/g以上であるのが更に好ましい。一方、溶液粘度が10.0dL/gを超えると、繊維化時の溶融粘度や溶液粘度が高くなりすぎて紡糸性が不良となる場合があり、紡糸性の観点から、溶液粘度が5.0dL/g以下であるのが更に好ましい。繊維の力学強度及び紡糸性などを考慮すると、この溶液粘度は1.3〜4.0dL/gの範囲が特に好ましい。
【0035】
上記ポリケトンの繊維化方法は、特に限定されないが、一般的には溶融紡糸法又は溶液紡糸法が採用される。溶融紡糸法を採用する場合には、例えば特開平1−124617号公報に記載の方法に従って、ポリマーを通常、融点より20℃以上高い温度、好ましくは融点より40℃程度高い温度で溶融紡糸し、次いで、通常、融点より10℃以下低い温度、好ましくは融点より40℃程度低い温度において、好ましくは3倍以上の延伸比で、更に好ましくは7倍以上の延伸比で延伸処理することにより、容易に所望の繊維を得ることができる。
【0036】
一方、溶液紡糸法を採用する場合、例えば特開平2−112413号公報に記載の方法に従って、ポリマーを例えばヘキサフルオロイソプロパノール,m−クレゾール等に0.25〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%の濃度で溶解させ、紡糸ノズルより押し出して繊維化し、次いでトルエン,エタノール,イソプロパノール,n−ヘキサン,イソオクタン,アセトン,メチルエチルケトン等の非溶剤浴、好ましくはアセトン浴中で溶剤を除去、洗浄して紡糸原糸を得、更に(融点−100℃)〜(融点+10℃)、好ましくは(融点−50℃)〜(融点)の範囲の温度で延伸処理することにより、所望のフィラメントを得ることができる。また、このポリケトンには、熱,酸素等に対して十分な耐久性を付与する目的で酸化防止剤を加えることが好ましく、また必要に応じて艶消し剤,顔料,帯電防止剤等も配合することができる。
【0037】
このようなポリケトン繊維よりなる繊維織物は、ポリケトン繊維のコードにより製造することができる。このポリケトン繊維コードは、ポリケトン繊維の複数本を下撚りし、更に上撚りしたものが好ましく、その上撚り係数は、1500以上、特に1800〜2300の範囲であることが好ましい。上撚り係数が1500未満であると、得られる大口径ゴムホースの耐屈曲疲労性が劣るものとなる。上撚り数が過度に大きいと強度が低下し、伸度、クリープが大きくなるため、2300以下であることが好ましい。
【0038】
なお、上撚り係数とは、当該コードを構成する繊維の合計の繊度D(デシテックス:dtex)と上撚り数G(回/10cm)とから次のようにして算出される。
【0039】
【数1】

【0040】
このポリケトン繊維コードの下撚り数は上撚り数と同程度で良いが必ずしも同じである必要はない。
【0041】
また、ポリケトン繊維コードを構成するポリケトン繊維の合計の繊度はコードもしくは織物の必要強力により決められるが2200〜30060デシテックスであることが好ましい。
【0042】
ポリケトン繊維と他の繊維とを含む複合繊維織物は、ポリケトン繊維と他の繊維とで構成された複合繊維コード(以下「ポリケトン/他繊維複合繊維コード」と称す。)よりなることが好ましい。
【0043】
このポリケトン/他繊維複合繊維コードとしては、コードを構成するポリケトン繊維と他の繊維の合計の繊度に対するポリケトン繊維の合計繊度の割合が30%、特に30〜80%であるものが好ましい。この範囲よりもポリケトン繊維の繊度が少な過ぎるとポリケトン繊維による、高強度特性や耐熱性等が損なわれる。逆に、多過ぎると他の繊維を複合したことに効果を十分に得ることができない。
【0044】
このようなポリケトン/他繊維複合繊維コードの上撚り係数は、前述のポリケトン繊維コードと同様の理由から、1500以上、特に1800〜2300の範囲であることが好ましい。上撚り係数が1500未満であると、得られる大口径ゴムホースの耐屈曲疲労性が劣るものとなる。上撚り係数が過度に大きいと強度が低下し、伸度、クリープが大きくなるため、2300以下であることが好ましい。
【0045】
このポリケトン/他繊維複合繊維コードの下撚り数は必ずしも上撚り数と同じでなくても良く、下撚り数は上撚り数の0.5〜1.0倍の範囲であることが好ましい。
【0046】
また、ポリケトン/他繊維複合繊維コードを構成するポリケトン繊維と他の繊維との合計の繊度はコードもしくは織物の必要強力により決められるが2000〜30000デシテックスであることが好ましい。
【0047】
複合繊維織物を構成する他の繊維としては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維等が挙げられる。ナイロン繊維を併用することにより、耐疲労性の改良という効果が奏され、また、PET繊維等のポリエステル繊維を併用することによりナイロンとの併用に比べ伸びを小さくしつつ更に吸湿性を増大させずに耐疲労性を改良できるという効果が奏される。これらの他の繊維は、1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。他の繊維としては、特にナイロン繊維を用いることが好ましい。
【0048】
本発明において、ナイロン繊維を構成するナイロンとしては、6,6−ナイロン、6−ナイロン、4,6−ナイロン、MXD6ナイロン等を用いることができる。好ましくは6,6−ナイロンである。
【0049】
PETとしては、1トン(t)当たりの末端カルボキシル基の数が少ないものが耐熱性の面で好ましい傾向にあるが、20当量以上でもよい。
【0050】
本発明で用いる複合繊維織物は、前述のポリケトン/他繊維複合繊維コードのみで構成されるものであっても良く、ポリケトン/他繊維複合繊維コードとポリケトン繊維コードを含むものであっても良い。
【0051】
この繊維織物の織方には特に制限はなく、平織、ストレートワープ織、綾織、すだれ織等のいずれでも良い。また、繊維織物を構成するコードの打ち込み本数等にも特に制限はなく、得られる大口径ゴムホースの要求特性に応じて適宜決定される。
【0052】
なお、本発明に係る、上述のポリケトン繊維コードやポリケトン/他繊維複合繊維コードは、織物とせずに、コードのままで、適当な接着処理を施して、大口径ゴムホースの補強材として用いることができる。
【0053】
また、上述のような本発明に係る繊維織物と、このような繊維コードとを併用して、大口径ゴムホースの補強材として用いても良い。
【0054】
通常の場合、繊維織物は大口径ゴムホースの長さ方向に対し所定の角度で縦糸としてのポリケトン繊維コード又はポリケトン/他繊維複合繊維コードを並列配置して横糸で束ねたすだれ織とされ、この場合の横糸としては、一般に綿、レーヨン、PET、PET/綿混紡糸が用いられる。また、縦糸としてのポリケトン繊維コード又はポリケトン/他繊維複合繊維コードの打ち込み本数は、その繊度や得られる大口径ゴムホースの要求特性等に応じて適宜決定されるが、通常30〜70本/5cm程度である。
【0055】
一方、本発明の大口径ゴムホースのゴム本体を構成するゴム組成物としては特に制限はなく、主成分となるゴム成分に、加硫剤、促進剤(加硫促進剤)、補強剤としてのカーボン、酸化亜鉛(亜鉛華)等、可塑剤としてのアロマティック系オイル、更に必要に応じて、老化防止剤、離型剤、分散剤、硬化剤、粘着性調整剤等の加工助剤や増量材、着色材といった通常の添加剤が配合された通常のゴム組成物を用いることができる。
【0056】
ゴム成分としては、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、NBR(ニトリルゴム)、クロロプレンゴム(CR)、ハイパロン(CSM)、ウレタンゴム(U)、アクリルゴム(ACM、ANM)、エチレンプロピレンゴム(EPM、EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ブタジエンゴム(BR)等の1種又は2種以上のブレンドゴムを用いることができる。
【0057】
高温加硫を行って加硫時間を短縮するためには、ゴム成分としては、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレンプロピレンゴム(EPM)、ブチルゴム(IIR)、アクリルゴム(ACM)、エチレンアクリルゴム(AEM)、水素添加ニトリルゴム(HNBR)等の耐熱ゴムの1種又は2種以上を主成分とするものが好ましく用いられる。
【0058】
ただし、これらの耐熱ゴムの1種又は2種以上と、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ニトリルゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等の汎用のジエン系ゴムの1種又は2種以上とのブレンドゴムであっても良く、また、加硫方法によっては、上記汎用ジエン系ゴムを主成分とするものであっても良い。
【0059】
前述の耐熱ゴムを主成分とする場合にあっては、加硫剤として、有機過酸化物、樹脂、アミン類を用いて加硫することが好ましい。この有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等が挙げられる。また、樹脂としては、アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂、臭素化アルキルフェノール・ホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。また、アミン類としては、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、ジアミノジフェニルメタン、ヘキサメチレンジアミンカーバメイト等のジアミン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。
【0060】
これらの硫黄以外の加硫剤は1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0061】
加硫剤の使用量は、多過ぎると脆性的傾向が強くなりゴムがもろくなり、少な過ぎると架橋効果が減り塑性的物性となり適切なゴム物性が得られないことから、ゴム成分100重量部に対して0.5〜4.0重量部とすることが好ましい。
【0062】
また、ゴム成分として、前述の汎用ジエン系ゴムを用いる場合には、チウラム系加硫促進剤などの含硫黄化合物により有効加硫するか、N,N’−m−フェニレンジマレイミド、ジクミルパーオキサイド、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシ−イソプロピル)ベンゼン等の有機加硫剤を用いた加硫を行うことが好ましい。
【0063】
本発明の大口径ゴムホースは、このようなゴム組成物よりなる未加硫ゴム間に前述の本発明に係る繊維織物及び/又は繊維コードを介在させ、常法に従って成形加硫することに容易に製造することができる。そして、この加硫に当たっては、加硫時の補強繊維織物及び/又は繊維コードの熱劣化が防止されるため、加硫条件に特に制約を受けることはなく、汎用ジエン系ゴムを用いた場合では、120〜150℃、300〜1000分、耐熱ゴムを用いた場合は、140〜180℃、特に150〜180℃、60〜500分といった幅広い条件範囲から加硫条件を設定することができ、特に500〜1000分といった長時間加硫であっても、補強繊維織物及び/又は繊維コードの熱劣化及びそれによる接着性の低下が問題となることはなく、良好な大口径ゴムホースを製造することができる。
【0064】
本発明の大口径ゴムホースの寸法には特に制限はないが、通常、内径300〜1000mm,肉厚50〜300mm程度のものである。また、その層構成や製造時の加硫条件等についても特に制限はなく、本発明に係る繊維織物及び/又は繊維コード以外の補強層を有していても良い。
【0065】
なお、前述の本発明に係る繊維織物及び/又は繊維コードを未加硫ゴム間に介在させて加硫成形を行う際には、必要に応じて、繊維織物及び/又は繊維コードに接着剤を含浸させても良い。この接着剤としては、通常のRFL液(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス)等を用いることができ、その含浸量は繊維織物及び/又は繊維コードに対して3.0〜8.0%程度であることが好ましい。
【実施例】
【0066】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0067】
なお、以下においては、ポリケトン繊維としては、前記一般式(I)において、Rがエチレンで、m−クレゾール中、60℃で測定した溶液粘度が4.0dL/gを示す重合度のポリケトンを繊維化してなるものを用いた。また、PETとしては、1t当たりの末端カルボキシル基当量が18当量/tのPETを用いた。また、ナイロンとしては6,6−ナイロンを用いた。
【0068】
実施例1〜18、比較例1,2
表1に示すコードを縦糸とし、打込数50本/5cmのすだれ織(横糸としてはポリノジック300dt/1(1本撚り,300dt)を用い、打込数4本/5cmとした。)の補強繊維織物を用いて、以下の方法で特性の評価を行い、結果を表2に示した。
【0069】
<ディップ反の特性>
補強繊維織物を接着剤液(RFL液(レゾルシン・ホルマリン・ラテックス))に浸漬して接着剤液を6%付着させたものについて、下記(1)〜(4)の方法で評価した。
【0070】
(1) 強力及び伸度
JIS L1017に準拠して、コード1本でつかみ間隔25cm,引張速度30cm/minで測定した。
【0071】
(2) 乾熱収縮率
JIS L1017(B法)に準拠して、温度180℃に0.5時間加熱後、乾燥機から取り出し30分間冷却後の値を測定した。
【0072】
(3) 強度(g/d)
(1)項で測定した強力値をNからg単位に換算し、コードのトータルデニール数(0.9デニール=1.0dt(デシテックス))で割った値である。
【0073】
(4) クリープ(%)
JIS L1017に準拠して、荷重0.88cN/dt(例えば、1670/2構造の場合、1670×2×0.88×10−2=29.4N)をかけ、常温で30分放置後の値を測定した。
【0074】
<加硫後の特性>
屈曲後強度保持率と、強力保持率については、2枚のNR/SBR系未加硫ゴム(厚さ3.5mm)の間に、厚さ0.5mmのゴムで両面被覆した接着剤液付与済み補強繊維織物を3枚積層し、1.5MPa,140℃で加熱加圧することにより加硫接着一体化したものについて下記(1),(2)の方法で測定した。
【0075】
(1) 屈曲後強度保持率(%)
加硫時間30分の試料をプーリーにかけて、下記条件で屈曲テストを行い、屈曲テスト後、屈曲時の最内層の補強繊維織物を取り出し、前記ディップ反の強力測定方法と同様にして強力を測定し、その保持率(屈曲後強度÷屈曲前強度×100)を算出した。
プーリー直径:100mm
荷重 :破断時強力の5%
屈曲回数 :20万回
【0076】
(2) 強力保持率
加硫1440分の試料から補強繊維織物を取り出し、前述のディップ反の強力測定方法と同様にして強力を測定し、ディップ反の強力に対する加硫後の強力の割合を算出した。
接着性については、次のようにして測定した。
【0077】
(3) 接着性(剥離試験)
厚さ2mmの未加硫ゴムシートの間に厚さ0.5mmのゴムで両面被覆した接着剤液付与済み補強繊維織物を2枚縦糸が平行になるように重ね合せた幅25mm±0.5mm、長さ100mm短冊状の積層シートを、140℃で30分又は1440分加熱加圧することにより加硫接着一体化したものを試料とし、JIS K6256−1999に準拠して、この試料から、50mm/分の速度で2枚の補強繊維織物間の剥離試験を実施した。このときに、剥離面の補強繊維織物に付着しているゴムの面積割合(%)を求めた。この値が大きいことは、ゴムとの接着性に優れることを示す。また、剥離に要した力から接着力(N/25mm幅)を求め、加硫時間30分の試料に対する加硫時間1440分の試料の接着力の割合を接着力保持率(%)として算出した。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【0080】
表1,2より本発明によれば、長時間加硫による補強繊維織物の熱劣化及びこの熱劣化に起因する補強繊維織物とゴムとの接着性の低下が防止され、長時間加硫を行った大口径ゴムホースであっても、補強繊維織物とゴムとの接着力が十分に確保され、従って、補強繊維織物による補強効果に優れ、耐久性、信頼性等も良好な大口径ゴムホースが提供されることが分かる。
【0081】
なお、ポリケトン繊維織物を用いていても上撚り係数が小さい実施例3,14では、屈曲後強度保持率が若干劣り、ポリケトン繊維の割合が少ない実施例10では、ディップ反の強度が若干劣るが、接着性、その他の特性においては良好な結果が得られている。
【0082】
これに対して、ナイロン繊維織物を用いた比較例1では、ディップ反の切断時伸度、クリープ等の特性に劣り、PET繊維織物を用いた比較例2では、接着性、ディップ反の強度、接着力保持率、強力保持率に劣る。
【0083】
実施例19〜22
実施例2,7において、未加硫ゴム材料として、下記組成のEPDMゴム材料又はAEMゴム材料を用い、加硫温度を160℃、加熱時間を150分としたこと以外は同様にして接着性(剥離試験において、剥離面の補強繊維織物に付着しているゴムの面積割合(%))を調べ、結果を表3に示した。
【0084】
(EPDMゴム材料)
EPDM:100重量部
FEFカーボン:50重量部
有機過酸化物(ジクミルパーオキサイド):5重量部
亜鉛華:5重量部
ステアリン酸:1重量部
パラフィン系オイル:10重量部
老化防止剤(TMDQ:2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロモノリン)
:2重量部
【0085】
(AEMゴム材料)
AEM:100重量部
FEFカーボン:60重量部
ジアミン系加硫剤(ヘキサメチレンジアミンカルバメート):1.25重量部
加硫促進剤(DOTG(ジ−o−トリルグアニジン)):4重量部
ステアリン酸:2重量部
アミン系加工助剤(オクタドデシルアミン):0.5重量部
リン系加工助剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテルフォスフェイト):2重量部
アミン系老化防止剤(4,4−(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン)
:2重量部
【0086】
【表3】

【0087】
表3より、本発明によれば、耐熱ゴムを用いて高温長時間加硫を行っても、補強繊維織物とゴムとの接着力が十分に確保されることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の大口径ゴムホースは、特に、大口径で使用条件が過酷であるため、高い耐久性が要求されるマリンホース、即ち、海上、湖上等において油タンカー等の船体と陸上との間で原油などの流体を荷積み又は荷卸しするための大口径ゴムホースとして好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維織物及び/又は繊維コードにより補強された大口径ゴムホースにおいて、該繊維織物及び/又は繊維コードが、ポリケトン繊維よりなることを特徴とする大口径ゴムホース。
【請求項2】
繊維織物及び/又は繊維コードにより補強された大口径ゴムホースにおいて、該繊維織物及び/又は繊維コードが、ポリケトンを含む複合繊維織物及び/又は複合繊維コードであることを特徴とする大口径ゴムホース。
【請求項3】
請求項2において、該複合繊維織物及び/又は複合繊維コードがポリケトン繊維と他の繊維との複合繊維織物及び/又は複合繊維コードであることを特徴とする大口径ゴムホース。
【請求項4】
請求項3において、該他の繊維がナイロン繊維及び/又はポリエステル繊維であることを特徴とする大口径ゴムホース。
【請求項5】
請求項3又は4において、ポリケトン繊維と他の繊維との合計の繊度に対するポリケトン繊維の繊度の割合が30%以上であることを特徴とする大口径ゴムホース。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、該繊維織物及び/又は繊維コードを構成するポリケトン繊維を含む繊維コードの上撚り係数が1500以上であることを特徴とする大口径ゴムホース。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、ポリケトンが下記一般式(I)で表されることを特徴とする大口径ゴムホース。
【化1】

((I)式中、Rはエチレン性不飽和化合物由来の連結基であり、各繰り返し単位において、同一であっても異なっていても良い。)
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項において、マトリックスゴムが、エチレンプロピレンジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム、及び水素添加ニトリルゴムよりなる群から選ばれる1種又は2種以上を主成分とすることを特徴とする大口径ゴムホース。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項において、加硫剤として有機過酸化物、樹脂及びアミンよりなる群から選ばれる1種又は2種以上を用いて加硫されてなることを特徴とする大口径ゴムホース。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれか1項において、140℃以上で加硫されてなることを特徴とする大口径ゴムホース。

【公開番号】特開2007−40514(P2007−40514A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319696(P2005−319696)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】