説明

大型構造物用深孔部内径測定装置

【課題】大型構造物を内径測定装置の場所まで移動するのではなく、内径測定装置の方を大型構造物の場所まで容易に移動できるようにし、また、汎用性が失われないようにする。
【解決手段】当初、4本のアーム部材7は第1の姿勢となっているので、基体部4の深孔部2内部への進入は円滑に行われる。ハンドル部材8の把手部8aを所定角度だけ所定方向に回転させると、この回転力が基体部4に内蔵されている動力伝達機構を介して4本のアーム部材7に伝達される。そして、各アーム部材7が一様に広がって第2の姿勢に切り換わるので、各先端の球形ローラ7aが内壁に圧接した状態となる。この後、可動ロッド6X,6Yが突出して各接触子6Xa,6Yaが内壁に接触し、そのときのストローク量が内径測定データとなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、使用済み燃料貯蔵ラックや使用済み燃料輸送用キャスクのバスケット、原子炉の炉心支持板や上部格子板などの多数の深孔部を有する原子力関連大型構造物に対して用いられる大型構造物用深孔部内径測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
使用済み燃料貯蔵ラックや使用済み燃料輸送用キャスクのバスケット、原子炉の炉心支持板や上部格子板などの原子力関連大型構造物には多数の深孔部が形成されている。これらの大型構造物を製作した場合、多数の深孔部の内径が規定の寸法通りに形成されているかどうかを検査する必要がある。
【0003】
このような検査を効率的に行うためには内径測定作業を自動化することが望ましいが、構造物の形状が複雑であること等の理由により自動化は困難であり、多くの場合、この検査はノギスなどの測定治具を用いた手作業に頼っているのが現状である。
【0004】
ここで、使用済み燃料貯蔵ラックや使用済み燃料輸送用キャスクのバスケットに形成されている深孔部の深さは非常に深いものであるため、ノギスなどの測定治具では開口面付近の内径しか測定することができず、奥部の内径を測定することはできない。このように非常に深い深孔部の場合、奥部の内径の測定は、例えば超音波測定器などの特殊な測定機器を用いなければならないが、測定対象面に接触媒質を塗布した後に一定時間の経過を待って塗布面を均一化する必要があるなど、作業の効率化を阻害する要因がいくつか存在する。
【0005】
そこで、例えば特許文献1では、検査対象物である燃料貯蔵ラックを基準台に設置した後、X軸駆動部及びY軸駆動部により装置本体のX−Y平面上での移動を可能にし、Z軸駆動部により計測ヘッドを深孔部内に挿入できるようにした燃料貯蔵ラックの自動検査装置の構成が提案されるに至っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−107185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に係る自動検査装置は、燃料貯蔵ラックを設置するための基準台やX軸、Y軸、及びZ軸の各軸駆動部を有する構成であるため非常に大がかりな装置になっている。そのため、燃料貯蔵ラックの深孔部の内径測定を行うためには、検査対象物である燃料貯蔵ラックを特許文献1に係る自動検査装置の場所まで移動させなければならず、検査終了後にはこの燃料貯蔵ラックを元の場所まで移動させなければならない。
【0008】
したがって、深孔部の内径測定に費やす労力及び時間を低減できたとしても、燃料貯蔵ラックの移動に費やす労力及び時間が増大するため、作業全体については一定レベル以上の効率化を図るのは困難である。
【0009】
また、特許文献1に係る自動検査装置は大がかり且つ複雑な構成を有するものであるが故に、検査対象物の種類も限定されたものになり、汎用性が失われた装置となっている。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、大型構造物を内径測定装置の場所まで移動するのではなく、内径測定装置の方を大型構造物の場所まで容易に移動させることができ、また、汎用性が失われることのない大型構造物用深孔部内径測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するための手段として、請求項1記載の発明は、大型構造物に形成された測定対象としての深孔部の深さ方向が鉛直方向となっている場合に、この深孔部に対して進入可能な外径を有する筒体状の基体部と、軸方向が鉛直方向となっており、下端部付近に取り付けられた前記基体部を支持する長寸状支持部材と、鉛直方向に対して直交するX−Y平面上で互いに直交する2方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向とした場合に、前記深孔部へ進入可能に前記基体部に取り付けられ、前記深孔部のX軸方向内径及びY軸方向内径のうちの少なくともいずれか一の方向の内径の測定動作を行う内径測定部と、前記基体部に取り付けられ、前記深孔部へ進入可能となるように窄まった第1の姿勢、及びこの第1の姿勢から各先端部が前記深孔部の内壁に接触するまで広がった第2の姿勢を取り得る複数のアーム部材と、前記内径測定部が測定位置まで前記深孔部へ進入した状態で、前記第1の姿勢と前記第2の姿勢との間の切換動作を動力伝達機構を介して前記複数のアーム部材に対して行い、しかも、この第2の姿勢に切り換えた場合は、前記深孔部内のX−Y平面上での前記基体部の位置を深孔部中心位置に保持するのに充分な圧接力により、前記複数のアーム部材の各先端部を前記深孔部の内壁に圧接させることが可能なハンドル部材と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記内径測定部は、エアシリンダにより構成され、ロッド先端の接触子が深孔部の内壁に接触するまでのストローク量を内径測定値として出力するものである、ことを特徴とする。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記内径測定部はレーザ測定器により構成されるものである、ことを特徴とする。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明において、前記内径測定部からの測定データを表示する表示手段、この測定データを記憶する記憶手段、及びこの測定データをワイヤレス送信する送信手段を有する計測ユニットと、前記送信手段がワイヤレス送信した測定データを受信する受信手段、及びこの受信手段が受信した測定データを保存するデータ保存手段と、を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項5記載の発明は、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明において、前記深孔部の開口面上に掛け渡されて前記基体部の深孔部下方への落下を防止するためのプレート部材が前記長寸状支持部材に取り付けられている、ことを特徴とする。
【0016】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記基体部が、連結部材を介して鉛直方向に複数台連結されている、ことを特徴とする。
【0017】
請求項7記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記深孔部が前記大型構造物に多数形成されている場合に、互いに隣接する複数個の深孔部に対して同時に進入可能となるように、前記基体部が複数台並列して配列されると共に、これら複数台の基体部をそれぞれ支持する前記長寸状支持部材の各上端部付近に一つの前記プレート部材が一括して取り付けられている、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、大型構造物を内径測定装置の場所まで移動するのではなく、内径測定装置の方を大型構造物の場所まで容易に移動させることができ、また、汎用性が失われないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1の実施形態の概略構成を示す斜視図。
【図2】図1における深孔部内径測定装置3の詳細な構成を示す斜視図。
【図3】図1の深孔部2内に進入した基体部4及びこれに取り付けられた各部材の様子を示した縦断面図であり、(a)はアーム部材7が窄まっている状態、(b)はアーム部材7が広がっている状態を示す。
【図4】図3(b)におけるIV-IV方向矢視図。
【図5】図1又は図2の長寸状支持部材5の上端部付近におけるプレート部材9の取付構造を示す斜視図。
【図6】本発明の第2の実施形態の概略構成図。
【図7】本発明の第3の実施形態の概略構成図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の第1の実施形態の概略構成を示す斜視図である。大型構造物である燃料輸送用キャスクのバスケット1が縦方向に載置されている。したがって、このバスケット1に格子状に形成されている測定対象としての多数の深孔部2は、その深さ方向が鉛直方向となっている。燃料輸送用キャスク及びその内部に収納されるバスケット1は輸送時には横方向の姿勢となるが、検査時には内径測定作業を容易にするため、このように縦方向に載置して深孔部2の深さ方向が鉛直方向となるようにする。
【0021】
バスケット1の上方にはチェーンブロック等のクレーン11のフック部に吊下された深孔部内径測定装置3が位置している。深孔部内径測定装置3は、深孔部2に対して進入可能な外径を有する直方体形状の基体部4と、軸方向が鉛直方向となっており、下端部付近に取り付けられた基体部4を支持する長寸状支持部材5と、基体部4に取り付けられて深孔部2の内径測定動作を行う内径測定部6と、基体部4の底部に取り付けられた複数本(本実施形態では4本)のアーム部材7と、このアーム部材7を窄(すぼ)めたり広げたりするためのハンドル部材8と、長寸状支持部材5及びハンドル部材8の各上端部を上方に挿通させ、長寸状支持部材5の上端部付近に固着されたプレート部材9と、を含んで構成されている。
【0022】
そして、長寸状支持部材5の上端部に設けられているリング部材5aにロープ部材10が巻回され、クレーン11のフック部により深孔部内径測定装置3全体が吊下されている。なお、バスケット1の上端面又は多数の深孔部2の開口面上の適当な場所に、検査員Mがクレーン操作ボックスCBを持って立っている。
【0023】
図2は、図1における深孔部内径測定装置3の詳細な構成を示す斜視図である。図1における内径測定部6として、本実施形態ではエアシリンダを用いているので、図2ではこの内径測定部6を、一対のエアシリンダ(図2では図示略)から突出するX軸方向の可動ロッド6X,6X、及びY軸方向の可動ロッド6Y,6Yとして示している。これら可動ロッド6X,6X及び可動ロッド6Y,6Yの各先端部には、例えば軟質性樹脂部材により形成された接触子6Xa,6Yaが取り付けられている。
【0024】
なお、図2においては、鉛直方向つまり長寸状支持部材5の軸方向をZ軸方向とし、このZ軸方向に対して直交するX−Y平面上で互いに直交する2方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向としている。
【0025】
基体部4にはエア供給ホース13X,13Yを介してエアボンベ12が接続されている。X軸方向の可動ロッド6X,6Xは、エア供給ホース13Xを介してエアボンベ12から送られてくるエアにより各エアシリンダから突出するようになっている。同様に、Y軸方向の可動ロッド6Y,6Yも、エア供給ホース13Yを介してエアボンベ12から送られてくるエアにより各エアシリンダから突出するようになっている。
【0026】
そして、基体部4にはケーブル14を介して測定部操作器15が接続されており、内径測定作業を実施する検査員は、この測定部操作器15の操作により、可動ロッド6X,6X及び可動ロッド6Y,6Yに対する各エアシリンダからの突出動作及び後退動作を行わせることができるようになっている。
【0027】
直方体形状を有する基体部4の各側面下部には切欠部4aが形成されており、これらの切欠部4aから4本のアーム部材7が外側に広がった状態になっている。これら4本のアーム部材7の各先端部にはローラ部材として球形ローラ7aが取り付けられている。
【0028】
基体部4の上端面から上方に伸びてプレート部材9を挿通しているハンドル部材8の上端部には把手部8aが形成されている。この把手部8aはX−Y平面上で所定角度の範囲で回動可能になっている。基体部4には、図示を省略してある動力伝達機構が内蔵されており、この動力伝達機構を介してハンドル部材8の下端側と4本のアーム部材7の各上端側とが機械的に連結されている。そして、把手部8aを所定角度の範囲で回動させることにより、4本のアーム部材7を窄めたり広げたりすることができるようになっている。
【0029】
また、各エアシリンダから突出する可動ロッド6X,6X及び可動ロッド6Y,6Yのストローク量は、基体部4内の内径測定回路により検出され、その検出信号がケーブル16を介して計測ユニット17に送られるようになっている。
【0030】
計測ユニット17は、内径測定回路からの検出信号を内径測定データとして表示する表示手段18と、この内径測定データを記憶する記憶手段19と、この内径測定データをワイヤレス送信する送信手段20とを有している。
【0031】
また、計測ユニット17や燃料輸送用キャスクのバスケット1などから離れた場所(例えば、工場内の管理室等)には、受信手段22、及びデータ保存手段23を有するコンピュータ装置21が設置されている。そして、受信手段22は送信手段20からワイヤレス送信されてきた内径測定データを受信し、データ保存手段23はこの受信した内径測定データを保存するようになっている。
【0032】
図3は、図1の深孔部2内に進入した基体部4及びこれに取り付けられた各部材の様子を示した縦断面図であり、(a)はアーム部材7が窄まっている状態、(b)はアーム部材7が広がっている状態を示している。
【0033】
図3(a)に示されている状態では、4本のアーム部材7は基体部4の底部からストレート状に下方に伸びて窄まった状態となっている。本明細書では、このようなアーム部材7の姿勢を「第1の姿勢」と呼ぶことにする。また、図3(a)に示されている状態では、可動ロッド6X,6X及び可動ロッド6Y,6Yは各エアシリンダに収納された状態となっており、各接触子6Xa,6Yaの基体部4側面からの突出量は僅かなものとなっている。したがって、図3(a)の状態では、基体部4は深孔部2内に円滑に進入可能となる。
【0034】
そして、検査員Mが、深孔部2の開口面より上方に位置しているハンドル部材8の把手部8aを掴み、これを所定角度だけ回転させると、この回転力が基体部4に内蔵されている動力伝達機構を介して4本のアーム部材7に伝達され、図3(b)に示されるように、各アーム部材7が広がって各先端の球形ローラ7aが充分な圧接力により深孔部2の内壁に圧接した状態となる。本明細書では、このようなアーム部材7の姿勢を「第2の姿勢」と呼ぶことにする。検査員は、この状態で測定部操作器15を操作することにより、図示するように、可動ロッド6X,6X及び可動ロッド6Y,6Yを突出させ、各接触子6Xa,6Yaを深孔部2の内壁に接触した状態とすることができる。
【0035】
ここで、検査員Mがハンドル部材8の把手部8aを掴み、これを所定角度だけ回転させることにより、アーム部材7を第1の姿勢から第2の姿勢に切り換えた場合、基体部4のX−Y平面上での位置は当初の位置如何にかかわらず常に深孔部2の中心に位置することになる。
【0036】
この理由を図4を参照しつつ説明する。つまり、図4は図3(b)におけるIV-IV方向矢視図であるが、当初はアーム部材7が第1の姿勢を取っており、基体部4が右上の偏った位置(2点鎖線で示す位置)に在ったとする。しかし、検査員Mがハンドル部材8の把手部8aを回転させることにより、アーム部材7を第2の姿勢に切り換えると、このときの4本のアーム部材7の広がり角度は同一となるように規制される。また、深孔部2の内壁に近い側に接触している球形ローラ7aは内壁面上を円滑に転動するので、基体部4は傾斜することなく垂直方向(鉛直方向)の姿勢を維持することができる。
【0037】
これらのことから、第2の姿勢への切換が終了した時点では、基体部4は深孔部2の中心位置に必然的に移動することになる。したがって、一対の可動ロッド6X,6X(及び可動ロッド6Y,6Y)のストローク量は互いにほぼ同一となり、高い測定精度を得ることが可能になる。
【0038】
図5は、図1又は図2では詳しい図示を省略していた長寸状支持部材5の上端部付近におけるプレート部材9の取付構造を示す斜視図である。
【0039】
プレート部材9のプレート面には孔部9a,9bが設けられており、これらの孔部9a,9bを長寸状支持部材5及びハンドル部材8の各上端部が挿通している。リング部材5aは取付ソケット5bを介して長寸状支持部材5の上端部に取り付けられており、把手部8aは取付ソケット8bを介してハンドル部材8の上端部に取り付けられている。
【0040】
また、長寸状支持部材5には一定間隔毎に複数のボルト挿通用孔部5cが設けられている。一方、プレート部材9の側面にも、孔部9aと交差する位置にボルト挿通用孔部9cが設けられている。そして、これら孔部9c,5cを支持ボルト24が挿通し、その端部にナット25が締結されるようになっている。これにより、プレート部材9は長寸状支持部材5の上端部付近に確実に取り付けられる。
【0041】
このプレート部材9は、深孔部2の開口面に掛け渡されて基体部4が深孔部2の下方へ落下するのを防止するためのものであるが、その他に、内径測定部6の高さ位置を一定化させるという役割も担っている。つまり、ある深孔部2の内径測定を終了した後、他の深孔部2に基体部4を進入させた場合、プレート部材9の取付位置が変更されない限りは内径測定部6の高さ(深さ)方向の位置は常に一定となっている。なお、プレート部材9の取付位置を変更する場合は、他の適当な位置の孔部5cを選択し、この位置で支持ボルト24及びナット25を用いて、プレート部材9を長寸状支持部材5に取り付ければよい。
【0042】
次に、上記のように構成される第1の実施形態の深孔部内径測定装置3を用いて行う内径測定作業につき説明する。
【0043】
いま、図1に示されているように、クレーン11のフック部に吊下された深孔部内径測定装置3がバスケット1の上方に位置しているものとする。検査員Mはクレーン操作ボックスCBを操作することによりクレーン11のフック部を下降させ、基体部4を或る深孔部2の内部に進入させる。このとき、4本のアーム部材7は第1の姿勢となっており、また、内径測定部6を構成する可動ロッド6X,6X及び可動ロッド6Y,6Yは、各エアシリンダに収納された状態となっているので、各接触子6Xa,6Yaは基体部4側面から殆ど突出していない状態となっている(図3(a)参照)。したがって、基体部4の深孔部2内部への進入は円滑に行われる。
【0044】
検査員Mは、プレート部材9の下面が深孔部2の開口面に到達し、それ以上下降しなくなったらクレーン操作ボックスCBの操作を停止する。この状態では、深孔部2の奥深くまで進入した基体部4のX−Y平面上での位置は必ずしも深孔部2の中心に位置しておらず、いずれかの方向に偏っているのが通常である(図4における2点鎖線位置参照)。
【0045】
次いで、検査員Mは、プレート部材9のプレート面から上方に突出しているハンドル部材8の把手部8aを掴み、これを所定角度(例えば90度)だけ所定方向(例えば時計回り方向)に回転させる。すると、この回転力が基体部4に内蔵されている動力伝達機構を介して4本のアーム部材7に伝達され、各アーム部材7が一様に広がって第2の姿勢に切り換わるので、各先端の球形ローラ7aが充分な圧接力により深孔部2の内壁に圧接した状態となる(図3(b)参照)。したがって、それまでX−Y平面上でいずれかの方向に偏って位置していた基体部4は、深孔部2の中心に位置するようになる(図4の実線位置参照)。
【0046】
そして、検査員Mは、この状態で深孔部2のX軸方向及びY軸方向の内径を測定すべく測定部操作器15を操作する。すると、エアボンベ12からのエアがエア供給ホース13X,13Yを介して各エアシリンダに供給され、可動ロッド6X,6X及び可動ロッド6Y,6Yが突出して各接触子6Xa,6Yaが深孔部2の内壁に接触した状態となる(図3(b)参照)。
【0047】
このとき、各エアシリンダから突出する可動ロッド6X,6X及び可動ロッド6Y,6Yのストローク量は、基体部4内の内径測定回路により検出され、その検出信号がケーブル16を介して計測ユニット17に送られる。
【0048】
計測ユニット17では、表示手段18がこの内径測定回路からの検出信号を内径測定データとして表示すると共に、記憶手段19がこの内径測定データを記憶し、更に送信手段20がこの内径測定データをワイヤレス送信する。
【0049】
そして、工場内の管理室等に設置されているコンピュータ装置21では、受信手段22が送信手段20からワイヤレス送信されてきた内径測定データを受信し、データ保存手段23がこの受信した内径測定データを保存する。
【0050】
ここで、図2における計測ユニット17は、図1におけるバスケット1の側方に載置されており、検査員Mとは別の検査員が計測ユニット17の表示手段18の表示内容をチェックしているものとする。別の検査員は、この表示内容に基づき深孔部2の内径測定が終了したことを確認したならば、その旨を口頭で検査員Mに連絡する。
【0051】
検査員Mは、この連絡を受けるとクレーン操作ボックスCBを操作して、突出状態にある可動ロッド6X,6X及び可動ロッド6Y,6Yを各エアシリンダ内に引き込める。そして、検査員Mは、再びハンドル部材8の把手部8aを掴み、これを90度だけ反時計回り方向に逆回転させる。これにより、それまで第2の姿勢(図3(b))となっていた4本のアーム部材7は第1の姿勢(図3(a))に戻る。
【0052】
次いで、検査員Mはクレーン操作ボックスCBを操作し、クレーン11を上昇させて基体部4を深孔部2から引き上げる。そして、検査員Mは、今度は隣の深孔部2を測定対象とし、前回と同様にして、この新たな深孔部2の内部に基体部4を進入させる。以下、検査員Mは前回と同様の操作・作業を繰り返し行う。
【0053】
上述した内径測定作業では、図5のプレート部材9の取付位置が長寸状支持部材5における最上部の孔部5cの位置となっており、深孔部2の最下部付近の内径を測定している。したがって、深孔部2の中間部及び最上部付近の内径を測定する必要がある場合は、ロープ部材10にリング部材5aが吊下されている状態で、ナット25の締結を解除して支持ボルト24をプレート部材9から引き抜き、プレート部材9の取付位置として下方の孔部5cを選択し、この位置で支持ボルト24及びナット25を用いて、再度プレート部材9を長寸状支持部材5に取り付けるようにする。
【0054】
以上説明したように、本発明の第1の実施形態に係る深孔部内径測定装置によれば、大型構造物を内径測定装置の場所まで移動させる必要はなく、内径測定装置の方を大型構造物の場所まで移動させればよいので、測定作業全体の効率化を大幅に向上させることができる。また、本実施形態に係る内径測定装置は、従来装置に比べれば小型で簡単な構成であるため、検査対象物の種類もそれほど限定されることはなく、充分な汎用性を有するものとなっている。
【0055】
本実施形態の構成は概ね上述した通りであるが、次のような形態をも広く包含するものである。
【0056】
(1)上述した例では、大型構造物が燃料輸送用キャスクのバスケット1であり、深孔部2の深さが相当に深いものであるため、落下防止という役割の他に、内径測定部6の高さ(深さ)位置を一定化させる役割も有するプレート部材9を用いた構成としているが、場合によってはプレート部材9の使用を省略することもできる。例えば、検査員Mのクレーン操作ボックスCBの操作だけで、内径測定部6の高さ位置を充分に精度良く制御することができる場合、あるいは、深孔部2の深さがそれほど深くなく、内径測定部6の高さ位置をそれほど一定化する必要のない場合等である。
【0057】
(2)本実施形態では、長寸状支持部材5、内径測定部6、アーム部材7、及びハンドル部材8等が取り付けられた基体部4の全体重量がかなり大きなものである場合を想定して、クレーン11を使用して内径測定作業を行う例につき説明した。しかし、全体重量が人手により持ち上げることが可能な程度の小さなものである場合は、必ずしもクレーン11を使用する必要はなく、1人又は複数人の検査員により基体部4の上昇・下降を行わせるようにしてもよい。
【0058】
但し、このようにクレーン11を使用せず、人手により基体部4の上昇・下降を行わせる場合には、落下防止のためにプレート部材9の取付が必須条件となる。この場合、図5におけるプレート部材9の取付位置を変更するには、例えば、リング部材5aに棒部材を挿通し、この棒部材の両端を1人又は2名の検査員が持って装置全体を持ち上げ、その間に別の検査員が支持ボルト24及びナット25を取り外し、新たな取付位置でプレート部材9を支持ボルト24及びナット25を用いて再度取り付ければよい。
【0059】
(3)本実施形態では、深孔部2の形状が矩形であるため、X軸方向及びY軸方向の双方を内径を測定することとし、X軸方向の可動ロッド6X,6X及びY軸方向の可動ロッド6Y,6Yを設けた構成としているが、条件如何によってはいずれか1つの方向だけを測定することとし、1方向のみの可動ロッドを設けた構成としてもよい。例えば、深孔部2の形状が円形であり、それほど高い測定精度を要求されない場合等が考えられる。
【0060】
(4)本実施形態では、エアシリンダ(可動ロッド6X,6X及び可動ロッド6Y,6Y)の駆動源としてエアボンベ12を用いているが、エアボンベの代わりに窒素ボンベを用いてもよい。
【0061】
(5)本実施形態では、図1の内径測定部6として可動ロッド6X,6X及び可動ロッド6Y,6Yを有するエアシリンダを用いた例につき説明したが、勿論エアシリンダ以外の種々の手段を採用することが可能である。例えば、レーザ測定器を内径測定部6として用いることも可能である。
【0062】
(6)本実施形態では、アーム部材7の本数が4本である場合につき説明したが、深孔部2の形状やその他の条件に応じて、アーム部材7の本数を3本又は5本、あるいはそれ以外の本数とすることも可能である。
【0063】
(7)本実施形態では、アーム部材7の先端部に取り付けられるローラ部材として球形ローラ7aを用いているが、球形ではなく、キャスタのような通常の車輪型ローラを用いることとしてもよい。
【0064】
(8)本実施形態では、基体部4の外形を深孔部2の形状に合わせて直方体形状としたが、これに限定されるわけではなく、円筒体形状など他の形状を採用することとしてもよい。
【0065】
(9)本実施形態に係る深孔部内径測定装置は、主として原子力関連の大型構造物に設けられている深孔部を測定対象として想定しているが、原子力関連以外の種々の大型構造物の深孔部を測定対象とし得るものである。
【0066】
次に、本発明の第2及び第3の実施形態につき説明する。これらの実施形態は、第1の実施形態の基体部4を複数台組み合わせることによって、内径測定作業の一層の効率化を図ろうとするものである。
【0067】
図6は、本発明の第2の実施形態の概略構成図である。この実施形態では、鉛直方向に複数台(3台)の基体部4A,4B,4Cが連結されている。基体部4Aは、第1の実施形態における基体部4とほぼ同様のものであるが、基体部4Bは連結支持部材26を介して基体部4Aに支持され、基体部4Cも連結支持部材26を介して基体部4Bに支持されている。また、基体部4Aと基体部4Bとの間、及び基体部4Bと基体部4Cとの間には、それぞれ連結ハンドル部材27が設けられている。
【0068】
連結ハンドル部材27はハンドル部材8と同期して回転し、ハンドル部材8の回転力を基体部4B(4C)に伝達するものである。したがって、検査員はハンドル部材8の把手部8aを回転させることにより、基体部4A,4B,4Cの各アーム部材7に対して同時に、第1の姿勢と第2の姿勢との間の切換を行うことができる。
【0069】
既述した第1の実施形態では、深孔部2の最下部付近の内径測定を終えた後、中間部及び最上部付近の内径測定を行うためには、プレート部材9の取付位置を変更した後、基体部4を段階的に引き上げる必要があった。これに対し、この図6の第2の実施形態の構成によれば、深孔部2の最下部、中間部、最上部の内径測定をほぼ同時に行うことができるので、内径測定作業を一層効率的に行うことができ、作業時間の短縮を図ることが期待できる。
【0070】
図7は、本発明の第3の実施形態の概略構成図である。この実施形態は、互いに隣接する複数個(3個)の深孔部2に対して同時に進入可能となるように、基体部4が複数台(3台)並列して配列されると共に、これら複数台の基体部4をそれぞれ支持する長寸状支持部材5の各上端部付近に一つのプレート部材9が一括して取り付けられている、構成を有している。
【0071】
このような構成によれば、3台のうちの中央の基体部4に係るリング部材5aにロープ部材10を巻回してクレーン11のフック部で吊下すれば、これら3台の基体部4を3個所の深孔部2に対して同時に進入・引き上げを行うことができ、作業時間の短縮を図ることが期待できる。
【0072】
但し、図7の構成は、3台の基体部4が深孔部2の上方でクレーン11に吊下されている状態では、左右又は前後方向へ揺動しやすく不安定な状態となっている。したがって、深孔部2に対する進入・引き上げの作業については、検査員Mの他に2人の別の検査員がバスケット1の上端面の適当な場所に立つようにし、検査員Mがクレーン操作ボックスCBを操作している間は、他の2人の検査員がプレート部材9の両端部を持って揺動を防止することが作業の安全性の面からは好ましい。
【0073】
また、3台の基体部4を深孔部2内に進入させた後に行う内径測定作業については、3人の検査員が1台ずつ担当するようにし、ハンドル部材8及び測定部操作器15(図2参照)の操作を3人が同時に行うようにすれば、作業時間を一層短縮することが期待できる。
【符号の説明】
【0074】
1:燃料輸送用キャスクのバスケット
2:深孔部
3:深孔部内径測定装置
4:基体部
4a:切欠部
5:長寸状支持部材
5a:リング部材
5b:取付ソケット
5c:孔部
6:内径測定部
6X:可動ロッド
6Y:可動ロッド
6Xa:接触子
6Ya:接触子
7:アーム部材
7a:球形ローラ
8:ハンドル部材
8a:把手部
8b:取付ソケット
9:プレート部材
9a:孔部
9b:孔部
9c:孔部
10:ロープ部材
11:クレーン
12:エアボンベ
13X:エア供給ホース
13Y:エア供給ホース
14:ケーブル
15:測定部操作器
16:ケーブル
17:計測ユニット
18:表示手段
19:記憶手段
20:送信手段
21:コンピュータ装置
22:受信手段
23:データ保存手段
24:支持ボルト
25:ナット
26:連結支持部材
27:連結ハンドル部材
M:検査員
CB:クレーン操作ボックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型構造物に形成された測定対象としての深孔部の深さ方向が鉛直方向となっている場合に、この深孔部に対して進入可能な外径を有する筒体状の基体部と、
軸方向が鉛直方向となっており、下端部付近に取り付けられた前記基体部を支持する長寸状支持部材と、
鉛直方向に対して直交するX−Y平面上で互いに直交する2方向をそれぞれX軸方向及びY軸方向とした場合に、前記深孔部へ進入可能に前記基体部に取り付けられ、前記深孔部のX軸方向内径及びY軸方向内径のうちの少なくともいずれか一の方向の内径の測定動作を行う内径測定部と、
前記基体部に取り付けられ、前記深孔部へ進入可能となるように窄まった第1の姿勢、及びこの第1の姿勢から各先端部が前記深孔部の内壁に接触するまで広がった第2の姿勢を取り得る複数のアーム部材と、
前記内径測定部が測定位置まで前記深孔部へ進入した状態で、前記第1の姿勢と前記第2の姿勢との間の切換動作を動力伝達機構を介して前記複数のアーム部材に対して行い、しかも、この第2の姿勢に切り換えた場合は、前記深孔部内のX−Y平面上での前記基体部の位置を深孔部中心位置に保持するのに充分な圧接力により、前記複数のアーム部材の各先端部を前記深孔部の内壁に圧接させることが可能なハンドル部材と、
を備えたことを特徴とする大型構造物用深孔部内径測定装置。
【請求項2】
前記内径測定部は、エアシリンダにより構成され、ロッド先端の接触子が深孔部の内壁に接触するまでのストローク量を内径測定値として出力するものである、
ことを特徴とする請求項1記載の大型構造物用深孔部内径測定装置。
【請求項3】
前記内径測定部はレーザ測定器により構成されるものである、
ことを特徴とする請求項1記載の大型構造物用深孔部内径測定装置。
【請求項4】
前記内径測定部からの測定データを表示する表示手段、この測定データを記憶する記憶手段、及びこの測定データをワイヤレス送信する送信手段を有する計測ユニットと、
前記送信手段がワイヤレス送信した測定データを受信する受信手段、及びこの受信手段が受信した測定データを保存するデータ保存手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の大型構造物用深孔部内径測定装置。
【請求項5】
前記深孔部の開口面上に掛け渡されて前記基体部の深孔部下方への落下を防止するためのプレート部材が前記長寸状支持部材に取り付けられている、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の大型構造物用深孔部内径測定装置。
【請求項6】
前記基体部が、連結部材を介して鉛直方向に複数台連結されている、
ことを特徴とする請求項5記載の大型構造物用深孔部内径測定装置。
【請求項7】
前記深孔部が前記大型構造物に多数形成されている場合に、互いに隣接する複数個の深孔部に対して同時に進入可能となるように、前記基体部が複数台並列して配列されると共に、これら複数台の基体部をそれぞれ支持する前記長寸状支持部材の各上端部付近に一つの前記プレート部材が一括して取り付けられている、
ことを特徴とする請求項5記載の大型構造物用深孔部内径測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−256076(P2010−256076A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104009(P2009−104009)
【出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】