説明

大型空気入りラジアルタイヤ

【課題】外傷に対する耐カット性を向上させることで、タイヤ耐久性を向上させることのできる大型空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】一対のビード部11内にそれぞれ埋設したビードコア21相互間にわたり、一対のサイドウォール部12およびトレッド部13を補強する1プライ以上のゴム被覆ラジアル配列コードからなるカーカス22と、その外周でトレッド部を強化する少なくとも1層のベルト23a〜23dとを備える大型空気入りラジアルタイヤである。ベルトのうち少なくとも最外層23dが、実質的に同一ピッチで螺旋型付けされたスチール線状体の複数本を、略同位相で撚り合わせずに束ねたスチールコードがゴムに埋設されてなるゴム−スチールコード複合体からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大型空気入りラジアルタイヤ(以下、単に「タイヤ」とも称する)に関し、詳しくは、荒地等の悪路走行に好適な、耐カット性を向上させた大型空気入りラジアルタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
荒地を走行する機会を有する一般のダンプトラック用タイヤは、破砕岩石が散乱する路面の走行を余儀なくされる。このため、ベルトのカット故障が生じやすく、カットが直接的にタイヤを故障に至らしめるか、または、カット傷から水が浸入してスチールコードを腐食し、これがセパレーション故障を招くか、いずれかの故障が生じて、タイヤ寿命を低下させるという問題が生じている。
【0003】
このようなカット故障問題の対策として、ベルト最外層に、比較的破断伸び(切伸)の大きい複撚り構造、例えば、4×4構造等を適用したスチールコードを使用することが行われている。また、例えば、特許文献1には、ベルトコードの耐久性を高めてタイヤの走行寿命を延ばすことを目的として、ベルトの最外層コードとして、切伸が5〜8%であるn×mの複撚り構造を有し、フィラメント径が0.30〜0.44mmの範囲内であり、そのストランド内へのゴム浸透率が50〜85%の範囲内にあるコードを用いた悪路走行用空気入りラジアルタイヤが開示されている。
【特許文献1】特開平9−226318号公報(特許請求の範囲等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、複撚り構造のスチールコードは生産性が悪く、コスト的に高いという難点があった。また、複撚り構造のコードにおいては、ゴムがコード内部まで完全に浸透せず、カットを受けた際にセパレーションを生じやすいという問題もあった。
【0005】
そこで本発明の目的は、上記問題を解消して、外傷に対する耐カット性を向上させることで、タイヤ耐久性を向上させることのできる大型空気入りラジアルタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は鋭意検討した結果、最外層ベルトの補強コードに、特定の構造を有するコードを適用することにより、ベルトの耐カット性を向上させることが可能となることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の大型空気入りラジアルタイヤは、一対のビード部内にそれぞれ埋設したビードコア相互間にわたり、一対のサイドウォール部およびトレッド部を補強する1プライ以上のゴム被覆ラジアル配列コードからなるカーカスと、該カーカスの外周でトレッド部を強化する少なくとも1層のベルトとを備える大型空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルトのうち少なくとも最外層が、実質的に同一ピッチで螺旋型付けされたスチール線状体の複数本を、略同位相で撚り合わせずに束ねたスチールコードがゴムに埋設されてなるゴム−スチールコード複合体からなることを特徴とするものである。
【0008】
本発明においては、前記スチール線状体の任意の1本と、少なくとも1本の他のスチール線状体との、型付け螺旋の外接円同士が重なり合うことが好ましい。また、好適には、前記複数本のスチール線状体の構造および型付け量が、全て同一である。本発明において、前記スチール線状体は、略円形断面を有するスチールフィラメントまたは複数本のスチールフィラメントを撚り合わせたスチールストランドのいずれであってもよい。
【0009】
本発明においては、前記スチール線状体の型付け螺旋の外接円直径をD、該スチール線状体の外径をdとしたとき、下記式、
D>2.5d
を満足することが好ましい。また、前記スチール線状体の、型付けピッチをP、型付け螺旋の外接円直径をDとしたとき、下記式、
P<17.5D−8.0
を満足することも好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、最外層ベルトに対し上記所定の構造を有する補強コードを適用したことで、外傷に対する耐カット性を高めて、耐久性を向上させた大型空気入りラジアルタイヤを実現することが可能となった。また、本発明に用いるスチールコードは生産性が良好であるため、従来の複撚り構造のスチールコードに比し、安価であるというメリットも有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
図1に、本発明の大型空気入りラジアルタイヤの一例の概略断面図を示す。図示するように、本発明のタイヤは、一対のビード部11内にそれぞれ埋設したビードコア21相互間にわたり、一対のサイドウォール部12およびトレッド部13を補強する1プライ以上、図示する例では1プライのゴム被覆ラジアル配列コードからなるカーカス22と、その外周でトレッド部13を強化する少なくとも1層、図示する例では4層のベルト23a〜23dとを備える。
【0012】
本発明においては、かかるベルトのうち少なくとも最外層のベルト23dが、所定のゴム−スチールコード複合体からなる点に特徴を有する。図2に、本発明に係るゴム−スチールコード複合体の一例のコード構造を示す概略断面図を示す。かかるゴム−スチールコード複合体の断面形状は、長手方向において、図2中の(a)から(d)まで順に示すように変化する。即ち、例えば、スチール線状体1の本数が3本であるゴム−スチールコード複合体は、図3(a)に示すように実質的に同一ピッチで螺旋型付けしたスチール線状体1を、図3(b)に示すように略同位相で撚り合わせずに束ね、これをゴムに埋設することで、形成されるものである。
【0013】
ここで、一般に、スチールフィラメントまたはスチールフィラメントを撚り合わせたスチールストランドに過大な型付けを付与して撚り合わせたスチールコードに引っ張り荷重を加えると、図4に示すように、フィラメントまたはストランド間に隙間がある低歪み時においては撚り絞られることでばねのような低剛性を示すが、さらに歪みを与えることでこれらが接して隙間がなくなると、急激に剛性が高くなるという特性を示す。しかし、これをゴムに埋設して加硫すると、コード内部のゴムの体積変化がほとんどないために、隙間があっても撚り絞まることができなくなって初期から高い剛性を示すようになり、ゴムの存在しないときのような、途中から大きく剛性が変化するような物理特性を示さなくなる。
【0014】
そこで本発明においては、図示するように、螺旋状に型付けされたスチール線状体1を無撚りかつほぼ同位相で束ねたことで、ゴムをコード内部に閉じ込めずにコード外に逃げられるようにすることができ、これにより、ゴムに埋設された後においても非常に伸びが大きく、極めて伸縮性に富んだコードを得ることが可能となったものである。この場合、螺旋の型付け量をコントロールすることにより、伸び量をコントロールすることが可能であり、また、スチール線状体1の束本数を変えることにより、コード強力をコントロールすることが可能である。
【0015】
また、本発明においては、図示するように、スチール線状体の任意の1本と、少なくとも1本の他のスチール線状体との、型付け螺旋の外接円同士が重なり合うことが好ましい。即ち、スチールコードを構成する各スチール線状体を、互いの型付けの外接円同士が重なり合う状態に配置することで、高負荷時における高い剛性強度を得ることができる。
【0016】
さらに、本発明においては、スチールコードを構成する全てのスチール線状体の構造および型付け量を同一とすることも好ましく、これにより、応力が各スチール線状体に均一にかかることになり、強度効率を向上することができる。
【0017】
なお、本発明においてスチールコードを構成するスチール線状体は、必要な強度・剛性に応じて、略円形断面を有するスチールフィラメントであっても、複数本のスチールフィラメントを撚り合わせたスチールストランドであってもよく、また、これらを組み合わせたものであってもよい。
【0018】
また、本発明においては、スチール線状体1の、型付け螺旋の外接円直径をD、外径をdとしたとき(図1参照)、下記式、
D>2.5d
を満足することが好ましい。スチール線状体1の、型付けによる外接円の直径Dが、スチール線状体1の直径dの2.5倍よりも小さいと、十分な伸びが確保されず、悪路を走行中、タイヤが大きな突起や岩石等に乗り上げた際に発する大きな変形に耐えられず、コードが切断するおそれがある。
【0019】
さらに、本発明においては、スチール線状体1の、型付けピッチをP、型付け螺旋の外接円直径をDとしたとき、下記式、
P<17.5D−8.0
を満足することも好ましい。上記式を満足しないと、充分な伸びが確保されず、悪路を走行中、タイヤが大きな突起や岩石等に乗り上げた際に発する大きな変形に耐えられず、コードが切断するおそれがある。
【0020】
かかるゴム−スチールコード複合体を、安定して効率的に作製する方法としては、例えば、別個のリールに巻かれた複数本の前記スチール線状体を一つの口金に通して束ねてスチールコードとし、このスチールコードを、ゴムにより被覆した後、ゴム複合体に埋設する方法や、別個のリールに巻かれた複数本のスチール線状体を1つのスリットに通して束ねてスチールコードとし、このスチールコードに対し上下からゴムを圧着した後、このスチールコードをゴム複合体に埋設して製造する方法などが有用である。
【0021】
本発明に用いるゴム−スチールコード複合体としては、上記コード構造に係る条件について満足するものであれば、それ以外の、具体的なコード構造、スチール線状体の本数や線径、具体的構造、スチールおよびゴムの材質等については、特に制限されるものではない。
【0022】
また、本発明のタイヤにおいては、上記ゴム−スチールコード複合体をタイヤの最外層ベルトに適用したものであれば、それ以外のタイヤ構造、各構成部材の材質等については、特に制限されるものではなく、これにより、本発明の所期の効果を得ることが可能である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
下記表1に示す条件に従い、スチールフィラメント(ブラスめっき):Cu63重量%,Zn37重量%)を用いて、各実施例および比較例のゴム−スチールコード複合体を作製した。コーティングゴムとしては、天然ゴム(NR)100重量部と、カーボンブラック(HAF)55重量部と、酸化亜鉛(ZnO)7重量部と、硫黄5重量部と、Co塩(ナフテン酸コバルト)0.1重量部とからなるゴム組成物を使用した。なお、各実施例のコードは、実質的に同一ピッチで螺旋型付けされた複数本のスチールフィラメントが、略同位相で撚り合わせずに束ねられてなる無撚りコードである。
【0024】
得られた各ゴム−スチールコード複合体を、図1に示すタイヤ構造を有するタイヤサイズ(11R22.5)のトラック・バス用空気入りラジアルタイヤの4層のベルトのうち最外層23dに適用して、各供試タイヤを作製した。得られた各供試タイヤにつき、内圧830kPa,100%荷重にて悪路率20%の路面を10万km走行させた後、下記に従い、最外層ベルト23dの耐セパレーション性および耐カット性を評価した。
【0025】
<耐セパレーション性>
耐セパレーション性については、最外層ベルトのコードにカットを受けている部分からのセパレーション距離を測定した。結果は、従来例1の値を100として、指数にて表示した。数値が小さい程、結果が良好である。
【0026】
<耐カット性>
耐カット性については、トレッドを剥離して、4ベルト全周のカット数を数えた。結果は、従来例1の値を100として、指数にて表示した。数字が小さい程カット数が少ないコードであり、良好であることを示す。
【0027】
【表1】

【0028】
上記表1の結果から分かるように、同一ピッチで螺旋型付けしたスチール線状体を略同位相で撚り合わせずに束ねたスチールコードをゴム被覆してなるゴム−スチールコード複合体を用いた実施例1のタイヤは、従来例および比較例のタイヤに比して外傷に対する耐カット性に優れるとともに、複撚り構造を適用した比較例に比して優れた生産性を有することが確かめられた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一例の大型空気入りラジアルタイヤを示す概略断面図である。
【図2】本発明に係るゴム−スチールコード複合体の一例のコード構造を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係るゴム−スチールコード複合体の他の例のコード構造を示す説明図である。
【図4】本発明に係るゴム−スチールコード複合体における伸びと引っ張り荷重との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0030】
1 スチール線状体
11 ビード部
12 サイドウォール部
13 トレッド部
21 ビードコア
22 カーカス
23a〜23d ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部内にそれぞれ埋設したビードコア相互間にわたり、一対のサイドウォール部およびトレッド部を補強する1プライ以上のゴム被覆ラジアル配列コードからなるカーカスと、該カーカスの外周でトレッド部を強化する少なくとも1層のベルトとを備える大型空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記ベルトのうち少なくとも最外層が、実質的に同一ピッチで螺旋型付けされたスチール線状体の複数本を、略同位相で撚り合わせずに束ねたスチールコードがゴムに埋設されてなるゴム−スチールコード複合体からなることを特徴とする大型空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記スチール線状体の任意の1本と、少なくとも1本の他のスチール線状体との、型付け螺旋の外接円同士が重なり合う請求項1記載の大型空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記複数本のスチール線状体の構造および型付け量が、全て同一である請求項1または2記載の大型空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記スチール線状体が、略円形断面を有するスチールフィラメントである請求項1〜3のうちいずれか一項記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
前記スチール線状体が、複数本のスチールフィラメントを撚り合わせたスチールストランドである請求項1〜3のうちいずれか一項記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。
【請求項6】
前記スチール線状体の型付け螺旋の外接円直径をD、該スチール線状体の外径をdとしたとき、下記式、
D>2.5d
を満足する請求項1〜5のうちいずれか一項記載の大型空気入りラジアルタイヤ。
【請求項7】
前記スチール線状体の、型付けピッチをP、型付け螺旋の外接円直径をDとしたとき、下記式、
P<17.5D−8.0
を満足する請求項1〜6のうちいずれか一項記載の大型空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−296991(P2007−296991A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−127401(P2006−127401)
【出願日】平成18年5月1日(2006.5.1)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】