説明

大屋根を用いた複数構造物の制震システム

【課題】固有周期が異なる複数の構造物に対して共通の屋根となる一体型の大屋根を設置する際に、当該大屋根を活用して、これら複数の構造物の応答を効果的に低減させることが可能になる大屋根を用いた複数構造物の制震システムを提供する。
【解決手段】固有周期が異なる複数の構造物A、Bの上部に、支持材13を介して一体の大屋根10を水平方向に相対変位可能に設置するとともに、構造物A、Bと大屋根10との間に、互いの上記相対変位により回転して付加質量を付与する回転慣性質量ダンパ17と上記相対変位により伸縮するバネ材18とを直列に接続し、かつ上記相対変位を減衰させる減衰要素19を上記回転慣性質量ダンパまたは上記バネ材と並列に配置してなる複合ダンパ16を設置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、独立した複数の構造物の上部に、共通の屋根となる一体構造の大屋根を設置した際に、当該大屋根を利用して地震時に上記複数の構造物に対して高い制震効果を発揮することを可能にする大屋根を用いた複数構造物の制震システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、公共施設等において、独立した複数の構造物の上部間にわたって、共通の大屋根を設置することにより、これら構造物間に広いアトリウム空間を創出した一体感のある施設計画が実施されている。また、ドーム等の大規模構造物においては、構造的に分離した複数の構造物をエキスパンションジョイント等によって連結するとともに、これら複数の構造物の上部に、大屋根を一体で設置する計画が実施されている。
【0003】
ところで、複数の構造物にわたって大屋根を設置する場合には、地震時における各々の構造物の応答が異なることから、一般に各構造物上に積層ゴム支承、すべり支承、ローラー支承、ゴム材等の支持材を設置して、上記大屋根を上記構造物に対して相対変位可能に支持する構造が採用されている。
【0004】
図11および図12は、従来のこのような大屋根の支持構造を示すもので、アトリウムとなる空間Sを間に挟んで構築された2棟の建物A、Bの各々の柱1上に接続架台2を設け、これら接続架台2上に積層ゴム支承等の支持材3を介して、両建物A、Bに共通となる一体型の大屋根4を水平方向に相対変位可能に支承するとともに、当該大屋根4と接続架台2との間に、水平方向の応答を減衰させるオイルダンパ等のダンパ5を設置したものである。
【0005】
上記大屋根4の支持構造によれば、支持材3によって、地震時に、応答が異なる2棟の建物A、Bから大屋根4に強制変位が作用することを防ぐことができるとともに、大屋根4の質量MRと支持材3の水平剛性KRから決定される大屋根4の固有周期TR=2π(MR/2KR1/2を、建物A、Bの固有周期TA、TBに対して長周期化することにより、地震時に生じる大屋根4のせん断力(応答加速度)を低減して、安全性を高めることができるといった効果が得られる。
【0006】
ところで、図11および図12に示した従来の大屋根4の支持構造に加えて、さらに大屋根4と建物A、Bとの間に、スプリング等のバネ材を設置して、大屋根4の固有周期を建物A、Bの固有周期と同調させることにより、大屋根4を付加質量型の制震装置(TMD)として利用し、建物A、Bの応答低減を図ることも、理論的には可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、一般に2棟の建物A、Bの固有周期TA、TBがほぼ等しい事は、ごく希であり、特に一方の建物Aにブレース6等の耐震部材が設置されている場合には、両者の固有周期TA、TBは、大きく異なるものとなる。
【0008】
このため、大屋根4を付加質量型の制震装置(TMD)として利用しようとしても、大屋根4の固有周期TRを、建物Aおよび建物Bのいずれか一方の固有周期TA、TBと同調させると、互いの固有周期が同調されていない他方の建物Bまたは建物Aに対しては、その応答を低減することができないという問題点がある。また、大屋根4に作用するせん断力(応答加速度)が増大して安全性が損なわれてしまうという問題点も生じる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、固有周期が異なる複数の構造物に対して、共通の屋根となる一体型の大屋根を設置する際に、当該大屋根を活用して、これら複数の構造物の応答を効果的に低減させることが可能になる大屋根を用いた複数構造物の制震システムを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に記載の本発明に係る大屋根を用いた複数構造物の制震システムは、固有周期が異なる複数の構造物の上部に、支持材を介して一体の大屋根を上記構造物に対して水平方向に相対変位可能に設置するとともに、少なくとも一棟の上記構造物と上記大屋根との間に、互いの上記相対変位により回転して付加質量を付与する回転慣性質量ダンパと上記相対変位により伸縮するバネ材とを直列に接続し、かつ上記相対変位を減衰させる減衰要素を上記回転慣性質量ダンパまたは上記バネ材と並列に配置してなる複合ダンパを設置したことを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、上記回転慣性質量ダンパによる上記付加質量と上記バネ材の剛性から決定される上記複合ダンパの固有周期を、当該複合ダンパが接続された上記構造物の固有周期に対して同調させたことを特徴とするものである。
【0012】
ここで、上記支持材としては、積層ゴム支承、すべり支承、ローラー支承、ゴム材等が適用可能である。また、バネ材としては、コイルスプリングや板バネ等を用いることができる。さらに、上記減衰要素としては、オイルダンパ、粘弾性ダンパ、粘性ダンパ等が好適である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1または2に記載の発明においては、大屋根と個別の構造物との間に設置した複合ダンパについて、その回転慣性質量ダンパの付加質量と上記バネ材の剛性から決定される固有周期を当該複合ダンパが接続された構造物の固有周期に対応して調整しておく。これにより、地震時に、各構造物に接続された上記複合ダンパが、当該構造物の揺れに各々共振してその振動エネルギーを集めるとともに、この振動エネルギーを当該複合ダンパの減衰要素によって効率よく吸収することができる。
【0014】
この結果、共通の屋根となる一体型の大屋根を活用して、固有周期が異なる複数の構造物に対し、個別に地震時の応答を効果的に低減させることができる。
【0015】
この際に、特に請求項2に記載の発明のように、上記回転慣性質量ダンパによる付加質量と上記バネ材の剛性から決定される複合ダンパの固有周期を、当該複合ダンパが接続された各構造物の固有周期に対して同調させれば、最も効果的に上記応答を低減させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る大屋根を用いた複数構造物の制震システムの第1の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】(a)は、図1の模式図、(b)はその変形例を示す要部の模式図である。
【図3】図1の複合ダンパを示す要部を断面視した正面図である
【図4】図3の複合ダンパの変形例を示す要部を断面視した正面図である。
【図5】図3の複合ダンパの他の変形例を示す要部を断面視した正面図である。
【図6】本発明の第2の実施形態を示す概略構成図である。
【図7】本発明の第3の実施形態を示す概略構成図である。
【図8】本発明の第4の実施形態を示す概略構成図である。
【図9】本発明の実施例に用いた本発明および比較例に係る解析モデルを示す図である。
【図10】本発明の実施例の解析結果を示すグラフである。
【図11】従来の大屋根の支持構造を示す概略構成図である。
【図12】図11の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
図1〜図5は、本発明に係る大屋根を用いた複数構造物の制震システムを、2棟の建物(構造物)A、Bに一体の大屋根10を設置した場合に適用した第1の実施形態およびその変形例を示すものである。
上記2棟の建物A、Bは、その間にアトリウムとなる空間Sを形成すべく所定間隔をおいて構築されたもので、それぞれの柱11上に、大屋根10から作用する水平力を伝達可能な剛性を有する接続架台12が一体的に設けられ、これら接続架台12上に、積層ゴム等の支持材13を介して両建物A、Bの共通の屋根になるとともに上記空間Sも覆う一体型の大屋根10が水平方向に相対変位可能に設置されている。
【0018】
また、大屋根10の骨組み部材14と、接続架台12との間に、地震時における水平方向の応答を減衰させるダンパ15が設置されている。ちなみに、ダンパ15としては、オイルダンパ、粘弾性ダンパ、粘性ダンパ等が用いられている。
【0019】
さらに、本実施形態においては、建物A、Bの双方を制震対象とするために、建物A、Bにおける所定箇所の柱11間に、各々複合ダンパ16が設置されている。この上記複合ダンパ16は、直列に接続されたボールネジを用いた回転慣性質量ダンパ17およびバネ材18と、図2(a)に示すように、このバネ材18と並列に配置された減衰要素19とから構成されたものである。
【0020】
図3は、このような複合ダンパ16の構成を示すものであり、接続架台12に回転慣性質量ダンパ17のねじ軸20の一端部20aが、軸線方向の移動を阻止された状態で回転自在に設けられるとともに、ねじ軸20の他端部20bが、可動体21のナット部21a内に挿入されている。そして、このナット部21aの内壁に設けられたボール22が、ねじ軸20の雄ねじ20cに回転自在に係合されている。また、ねじ軸20の外周には、円板状の重り23が固定されている。これにより、接続架台12に対して可動体21が接離方向に相対変位すると、ねじ軸20および重り23が回転して、当該重り23の回転慣性力に相当する付加質量ΔMが発生するようになっている。
【0021】
そして、この可動体21と大屋根10の骨組み部材14との間に、板バネからなる上記バネ材18が介装されている。また、このバネ材18と並列に、可動体21と大屋根10の骨組み部材14との間にオイルダンパからなる上記減衰要素19が設置されている。
【0022】
また、図4は、図3に示したものの変形例であって、バネ材18としてコイルバネを用いた複合ダンパ16を示すものである。この複合ダンパ16においては、上記バネ材18内にオイルダンパからなる減衰要素19が挿入されることにより、当該減衰要素19がバネ材18に対して並列に配置されている。そして、バネ材18の先端部18aおよび減衰要素19のシリンダ側端部19aが、図示されない大屋根10の骨組み部材14に連結されている。
【0023】
さらに、図5は、その他の変形例として、可動体21内に空洞部を形成し、図4に示した回転慣性質量ダンパ17の重り23に代えてねじ軸20の端部20bに内筒20dを一体に形成し、この内筒20dを上記空洞部内に移動可能かつ回転自在に挿入するとともに、上記空洞部内の可動体21内壁と内筒20dとの間の空間に粘性体24を充填することにより減衰要素19としたものである。なお、図中符号18bは、コイルバネからなるバネ材18の座屈防止ガイドである。
【0024】
このように、図2(a)および図3、図4に示した複合ダンパ16においては、いずれも減衰要素19をバネ材18と並列に配置したが、これに限るものではなく、図2(b)および図5に示すように、回転慣性質量ダンパ17およびバネ材18を直列に接続するとともに、減衰要素19を回転慣性質量ダンパ17と並列に配置することもできる。
【0025】
そして、制震対象となる建物Aに設置した複合ダンパ16は、回転慣性質量ダンパ17の重り23(または内筒20d)による付加質量ΔM1とバネ材18の剛性Km1から決定される固有周期Tm1=2π(ΔM1/Km11/2が、建物Aの固有周期TAに同調するように設定されている。
【0026】
他方、制震対象となる建物Bに設置した複合ダンパ16は、回転慣性質量ダンパ17の重り23(または内筒20d)による付加質量ΔM2とバネ材18の剛性Km2から決定される固有周期Tm2=2π(ΔM2/Km21/2が、建物Bの固有周期TBに同調するように設定されている。
【0027】
なお、この際に、本実施形態においては、回転慣性質量ダンパ17としてボールネジを用いた構造のものを用いているために、付加質量ΔMは、重り23(または内筒20d)の質量をmp、重り(または内筒20d)の半径をR、ボールネジの雄ねじ20cのリードをLとすると、ΔM=2・mp・(π・R/L)によって算出することができる。このため、上記重り23(または内筒20d)の質量m、半径R、リードLを適宜調整してΔMを決定することにより、容易に各々の複合ダンパ16の固有周期Tm1、Tm2を、対応する各建物A、Bの固有周期TA、TBに同調させることが可能である。
【0028】
以上の構成からなる大屋根を用いた複数構造物の制震システムによれば、大屋根10の質量MRと積層ゴム等からなる支持材13の水平剛性KRから決定される大屋根10の固有周期TR=2π(MR/2KR1/2を、建物A、Bの固有周期TA、TBに対して長周期化することにより、地震時に生じる大屋根10のせん断力(応答加速度)を低減して、安全性を高めることができる。
【0029】
加えて、大屋根10と建物A、Bとの間に各々複合ダンパ16を設置し、かつ建物Aに設置した複合ダンパ16については、回転慣性質量ダンパ17の重り23(または内筒20d)による付加質量ΔM1とバネ材18の剛性Km1から決定される固有周期Tm1=2π(ΔM1/Km11/2が、建物Aの固有周期TAに同調するように設定するとともに、建物Bに設置した複合ダンパ16については、回転慣性質量ダンパ17の重り23(または内筒20d)による付加質量ΔM2とバネ材18の剛性Km2から決定される固有周期Tm2=2π(ΔM2/Km21/2が、建物Bの固有周期TBに同調するように設定している。
【0030】
これにより、地震時に、各建物A、Bに接続された各々の複合ダンパ16が、当該建物A、Bの揺れに共振してその振動エネルギーを集めるとともに、この振動エネルギーを当該複合ダンパ16の減衰要素19によって効率よく吸収することができる。この結果、共通の屋根となる一体型の大屋根10を活用して、固有周期が異なる2棟の建物A、Bに対し、個別に地震時の応答を効果的に低減させることができる。
【0031】
(第2〜第4の実施形態)
なお、第1の実施形態においては、2棟の建物A、Bに共通の大屋根10を設置するとともに、これら建物A、Bを、共に制震対象とした場合について説明したが、本発明は、これに限るものではなく、以下に第2〜第4の実施形態(図6〜8)として例示するように、様々の複数構造物の制震システムとして応用可能である。なお、これらの図においては、図1〜図5に示したものと同一構成部分については、同一符号を付してその説明を簡略化する。
【0032】
図6に示す第2の実施形態は、固有周期が異なる3棟の建物(構造物)A、B、Cに対して、共通の屋根となる一体型の大屋根10を設置するとともに、ブレース6によって耐震補強が施工されている建物Aを除いて、他の建物B、Cを制震対象とするべく、当該大屋根10と建物B、Cとの間に、各々上記複合ダンパ16を設置したものである。
【0033】
そして、同様に、建物Bに設置した複合ダンパ16は、その固有周期が、建物Bの固有周期に同調するように設定されるとともに、建物Cに設置した複合ダンパ16は、その固有周期が、建物Cの固有周期に同調するように設定されている。
【0034】
また、図7に示す第3の実施形態は、固有周期が異なる3棟の建物(構造物)A、B、Cに対して、共通の屋根となる一体型の大屋根10を設置するとともに、ブレース6によって耐震補強が施工されている建物A、Cを除いて、中央の建物Bのみを大屋根10による制震対象とするべく、当該大屋根10と建物Bとの間に、その固有周期が建物Bの固有周期に同調する上記複合ダンパ16を設置したものである。
【0035】
さらに、図8に示す第4の実施形態は、大屋根10を有する1つの建物を、コアA1とその周辺部A2、A3との間で縁を切ることにより固有周期が異なる複数の構造物A1、A2、A3に対して共通の屋根となる一体型の大屋根10を設置した構造とし、コアA1を除いた周辺部A2、A3を制震対象とするべく、当該大屋根10と周辺部A2、A3との間に、各々上記複合ダンパ16を設置したものである。
【0036】
そして、本実施形態においても、周辺部A2に設置した複合ダンパ16は、その固有周期が、当該周辺部A2の固有周期に同調するように設定されるとともに、周辺部A3に設置した複合ダンパ16は、その固有周期が、周辺部A3の固有周期に同調するように設定されている。
【0037】
したがって、第2〜第4の実施形態に示した制震システムにおいても、第1の実施形態に示したものと同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0038】
本発明に係る大屋根を用いた複数構造物の制震システムの効果を検証するために、独立した2棟の建物A、Bに大屋根を設置した図9(a)〜(d)に示すような4つの解析モデルについて、それぞれ地震時の応答を比較した。
ここで、図9(a)は、建物A、Bの上部に積層ゴム支承を介して一体の大屋根を設置した従来の支持構造である。また、図9(b)は、大屋根を建物Aに同調するTMDとした場合であり、図9(c)は、大屋根を建物Bに同調するTMDとした場合である。
【0039】
そして、図9(d)は、本発明に係る制震システムであって、建物A、Bと大屋根との間に各々複合ダンパを設置するとともに、建物Aに設置した複合ダンパの固有周期TmAを、建物Aの固有周期TAに設定するとともに、建物Bに設置した複合ダンパの固有周期TmBを、建物Aの固有周期TBに設定した場合である。
【0040】
解析条件の詳細は、以下の通りである。
先ず、固有周期の異なる2棟の建物A(固有周期1.0秒、構造減衰1%)と建物B(固有周期0.3秒、構造減衰1%)は、それぞれ1質点でモデル化した。そして、図9(a)に示す場合は、大屋根のせん断力および応答加速度が過大にならないように、積層ゴム支承を介して設置することを想定し、固有周期を4.0秒、減衰定数を15%とした。また、図9(b)、(c)に示す場合において、TMDとする大屋根は、TMDの最適理論により算出したばね定数(KRAまたはKRB)と減衰係数(CRAまたはCRB)とにより同調する方の建物Aまたは建物Bに取り付け、他方の建物Bまたは建物Aにおいては、図9(a)の場合と同じ積層ゴム支承を想定した値とした。
【0041】
これに対して、図9(d)に示す本発明に係る制震システムにおいては、建物Aと大屋根との間に設ける複合ダンパの付加質量(ΔMA)を、建物Aの質量MAの8%、建物Bと大屋根との間に設ける複合ダンパの付加質量(ΔMB)を、建物Bの質量MBの2%とし、各建物A、Bの固有周期TA、TBに同調するように、ばね材のばね定数KmA、KmBを設定した。また、大屋根の質量は、全ての場合で一定とし、建物合計質量の2%とした。
【0042】
なお、入力の地動は、周波数特性をもたないホワイトノイズ(振動数成分0.05Hz〜15Hz、最大値229.3Gal)とした。
その他の定量的な解析条件は、以下の通りである。
【0043】
(1)建物A
質量 MA=1500t
剛性 KA=60.4tf/cm
減衰 CA=0.192tf・s/cm
(2)建物B
質量 MB=1500t
剛性 KB=543.8tf/cm
減衰 CB=0.577tf・s/cm
(3)大屋根
質量 MR=60t
剛性 KR=0.0755tf/cm
減衰 CR=0.014tf・s/cm
【0044】
(4)TMD A (図9(b))
剛性 KRA=2.24tf/cm
減衰 CRA=0.089tf・s/cm
(5)TMD B (図9(c))
剛性 KRB=20.11tf/cm
減衰 CRB=0.267tf・s/cm
【0045】
(6)複合ダンパA(図9(d))
質量 ΔMA=120t
剛性 KmA=4.83tf/cm
減衰 CmA=1.154tf・s/cm
(7)」複合ダンパB(図9(d))
質量 ΔMB=30t
剛性 KmB=10.88tf/cm
減衰 CmB=0.866tf・s/cm
【0046】
図10は、この解析結果を示すものである。これらの結果から、大屋根を建物Aまたは建物Bのいずれか一方の建物に対してTMDとして利用した図9(b)、(c)に示す場合には、いずれも同調した建物AまたはBに対しては相応の制震効果が得られるものの、同調していない、すなわち制震対象となっていない建物BまたはAについては、図9(a)に示した従来の場合と同等の応答になっている。
【0047】
加えて、特に剛性が高い建物Bに同調させた図9(c)に示す場合には、大屋根の応答加速度が過大になってしまうことが判る。
【0048】
これに対して、図9(d)に示す本発明に係る制震システムにおいては、建物Aおよび建物B共に、図9(a)の従来の支持構造と比較して加速度応答が小さくなっており、大屋根の応答も過大になっていない。このように、本発明の制震システムによれば、固有周期が異なる複数の構造物に対して、共通の屋根となる一体型の大屋根を設置する際に、当該大屋根を活用して、これら複数の構造物の応答を効果的に低減させ得ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0049】
固有周期が異なる複数の構造物に対して、共通の屋根となる一体型の大屋根を設置する際に、当該大屋根を活用して、これら複数の構造物の応答を効果的に低減させるために利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 大屋根
11 柱
13 支持材
16 複合ダンパ
17 回転慣性質量ダンパ
18 バネ材
19 減衰要素
A、B、C 建物(構造物)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有周期が異なる複数の構造物の上部に、支持材を介して一体の大屋根を上記構造物に対して水平方向に相対変位可能に設置するとともに、少なくとも一棟の上記構造物と上記大屋根との間に、互いの上記相対変位により回転して付加質量を付与する回転慣性質量ダンパと上記相対変位により伸縮するバネ材とを直列に接続し、かつ上記相対変位を減衰させる減衰要素を上記回転慣性質量ダンパまたは上記バネ材と並列に配置してなる複合ダンパを設置したことを特徴とする大屋根を用いた複数構造物の制震システム。
【請求項2】
上記回転慣性質量ダンパによる上記付加質量と上記バネ材の剛性から決定される上記複合ダンパの固有周期を、当該複合ダンパが接続された上記構造物の固有周期に対して同調させたことを特徴とする請求項1に記載の大屋根を用いた複数構造物の制震システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2011−256591(P2011−256591A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131677(P2010−131677)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】