説明

大断面トンネル、及び、大断面トンネルの構築方法

【課題】土圧に対する耐力を高めることが可能な多角形状の大断面トンネルを、短工期で構築する。
【解決手段】外殻構成要素2(2A〜2H)を複数接合して外殻部3を構築し、この外殻部3の内側に存在する土砂を掘削により除去することで構築される大断面トンネル1であって、外殻部3は、その断面形状が六角形以上の多角形となるように構築されており、外殻構成要素2は、その断面形状が多角形における隅角部同士の間で辺を切断した屈曲形状であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小断面の外殻構築要素を複数接合することで構築される大断面トンネル、及び、この大断面トンネルを構築する構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小断面の外殻構築要素を複数形成し、隣り合う外殻構築要素同士を接合することで大断面トンネルを構築する技術が知られている。例えば特許文献1には、図19(a)に示すように、矩形状の外殻構築要素51aを複数接合して構築された矩形状の大断面トンネル51が示されている。この矩形状大断面トンネル51では、作用土圧に対する支点間距離が長くなってしまうため、各辺に生じる断面力が大きくなる。従って、必要な耐力を得るためには壁圧を厚くしなければならない。
【0003】
また、特許文献2には、図19(b)に示すように、断面形状を円形状に近似した多角形状にすることで、土圧に対する耐力を高めた大断面トンネル52が開示されている。この大断面トンネル52は、略台形状の外殻構築要素52aを円周に沿って形成するとともに隣り合う外殻構築要素52a同士を接合することで構築される。そして、図19(c)に示すように、上底部分及び下底部分を長くした外殻構築要素53aを用いると、八角形状の大断面トンネル53が構築される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−167186号公報
【特許文献2】特開平7−293186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の多角形状の大断面トンネル52,53は、各辺に生じる断面力を小さくすることはできるが、台形状の外殻構築要素同士52a,53aを接合したものであるので、隣り合う外殻構築要素同士52a,53a同士を側部の傾斜面で接合しなければならず、この接合部が断面力の大きくなる隅角部に位置するため、接合部の構造を重厚にする必要がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、施工が容易で土圧に対する耐力を高めることが可能な大断面トンネルを構築することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため本発明の大断面トンネルは、
外殻構成要素を複数接合して外殻部を構築し、前記外殻部の内側に存在する土砂を掘削により除去することで構築される大断面トンネルであって、
前記外殻部は、その断面形状が六角形以上の多角形となるように構築され、
前記外殻構成要素は、その断面形状が前記多角形における隅角部同士の間で辺を切断した屈曲形状であることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、矩形状の大断面トンネルに対し、作用土圧に対する支点間距離が短くなるため、各辺に生じる断面力を小さくできる。これにより、壁厚を厚くしなくても土圧に対する耐力を高めることができる。また、大断面トンネルの外殻部を構成する複数の外殻構成要素が多角形の隅角部を含んだ山形の屈曲形状に構成され、外殻構成要素同士の接合部が辺の途中に位置する。この接合部は、辺に対してほぼ垂直面として設けられるので、略台形状の外殻構築要素を用いた大断面トンネルに比べて、外殻構成要素同士を接合する際の施工が容易になる。また、厚さ方向のずれに対して対応が容易になるし、誤差の吸収も容易である。加えて、断面力の大きくなる外殻部の隅角部には接合部が設けられず一連に形成されるので、土圧に対して有利な構造となる。
【0009】
また、本発明において、外殻部の断面形状を正多角形とすれば、円形に近い形状となるので、土圧に対してより有利な構造とすることができる。また、1つのシールドマシンを繰り返し使用することもできる。
【0010】
また、本発明において、外殻構成要素を、正多角形における隅角部同士の中央で辺を切断した屈曲形状とすれば、各外殻構成要素の断面形状を揃えることができる。
【0011】
また、本発明において、断面形状が矩形状とされた他の外殻構成要素を、断面形状が屈曲形状とされた外殻構成要素同士の間に設けて外殻部を構築すれば、より大きな大断面トンネルを容易に構築できる。
【0012】
また、本発明において、鋼製セグメントを組み立ててシールドトンネルを作製するようにすれば、取扱いの容易な軽量の鋼製セグメントを組み立ててシールドトンネルを作製できるので、作業性が向上する。また、このシールドトンネル内に鉄筋を配し、コンクリートを打設することにより、外殻構成要素を形成するようにすれば、外殻と内部で鋼殻とRCとの複合構造となるため高い強度と耐久性とが得られる。
【0013】
また、前記目的を達成するため本発明は、
外殻構成要素を複数接合した外殻部を構築し、前記外殻部の内側に存在する土砂を掘削により除去することで構築される大断面トンネルの構築方法であって、
前記外殻構成要素を形成するとともに隣り合う前記外殻構成要素同士を接合することで、断面形状が六角形以上の多角形となる外殻部を構築する外殻部構築工程と、
前記外殻部の内側に存在する土砂を掘削により除去する土砂除去工程と
を備え、
前記外殻構成要素は、
その断面形状が、前記多角形における隅角部同士の間で辺を切断した屈曲形状であることを特徴とする。
【0014】
本発明でも、矩形状の大断面トンネルに比べて、壁厚を厚くしなくても土圧に対する耐力を高めることができる。また、大断面トンネルの外殻部を構成する複数の外殻構成要素が、多角形の隅角部を含んだ山形の屈曲形状に構成される。このため、略台形状の外殻構築要素を用いた大断面トンネルに比べて、外殻構成要素同士を接合する際の施工が容易になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、施工が容易となり、土圧に対する耐力を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】大断面トンネルを説明する図である。
【図2】(a)は外殻構成要素の構造を説明する図、(b)は図1におけるX部分の拡大図である。
【図3】外殻構成要素の形成順序を模式的に説明する図である。
【図4】シールドマシンの正面図である。
【図5】(a)は立坑を形成した状態を説明する図、(b)は立坑における作業床部分の拡大図である。
【図6】支持フレームに支持された状態のシールドマシンをカッター側から見た図である。
【図7】柱を立てた状態の第1シールドトンネルを説明する図である。
【図8】掘進中のシールドマシンを説明する図である。
【図9】(a)〜(c)は、立坑内でシールドマシンを反転させる手順の説明図である。
【図10】(a)〜(c)は、立坑内でシールドマシンを反転させる手順の説明図である。
【図11】(a)〜(c)は、立坑内でシールドマシンの姿勢を変化させる場合の手順の説明図である。
【図12】柱を立てた状態の第2シールドトンネルを説明する図である。
【図13】(a)は第2シールドトンネルの形成を説明する図、(b)は第1シールドトンネルに対するコンクリートの打設を説明する図である。
【図14】(a)〜(f)は、第2シールドトンネルにコンクリートを打設する際の手順の説明図である。
【図15】(a)〜(d)は、柱を立てた状態の第3シールドトンネルから第6シールドトンネルを説明する図である。
【図16】(a),(b)は、柱を立てた状態の第7シールドトンネル及び第8シールドトンネルを説明する図である。
【図17】(a)は外殻部内の土砂を上から1/3程度掘削した状態を説明する図、(b)は外殻部内の土砂を除去した状態を説明する図である。
【図18】変形例の大断面トンネルを説明する図である。
【図19】従来技術を説明する図であり、(a)は矩形状の大断面トンネルを説明する図、(b)は断面形状を円形状に近似した多角形状の大断面トンネルを説明する図、(c)は台形状構成要素で構築された八角形状の大断面トンネルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の大断面トンネル1は、正八角形状の断面形状を有しており、天井部1Uと底部1Dとが水平方向に設けられ、左側部1Lと右側部1Rが鉛直方向に設けられる。そして、天井部1Uと左右両側部1L,1Rとの間に設けられる部分、すなわち左上部及び右上部は、水平方向に対して45度傾いた状態で設けられる。同様に、底部1Dと左右両側部1L,1Rとの間に設けられる部分、すなわち左下部及び右下部もまた、水平方向に対して45度傾いた状態で設けられる。
【0019】
この大断面トンネル1の最大幅W及び最大高さHは例えば28mである。この大断面トンネル1は、くの字形状に屈曲した小断面の外殻構成要素2を複数形成するとともに、隣り合う外殻構成要素2同士を接合することで外殻部3を構築し、その後、外殻部3内の土砂を掘削により除去することで完成する。
【0020】
この実施形態における各外殻構成要素2は、正八角形の各辺を、隅角部同士の中央の位置で切断した形状をしている。すなわち、各辺を、この辺の長さLの半分(L/2)の位置で、辺と直交する方向に切断した形状をしている。従って、図2(a)に示すように、各外殻構成要素2は、隅角部を含んだくの字形状となり、その内角VAは135度になる。また、本実施形態における外殻構成要素2の厚さDは、2m程度である。そして、この外殻構成要素2を8個接合することで、断面が正八角形状の外殻部3が構築される。
【0021】
また、この外殻構成要素2は、複数の鋼製セグメント4を中空枠状に組み立てることで作製されたシールドトンネル5内に鉄筋6を配し、コンクリート7を打設することで形成される。手順については後述するが、このような構成を採ることで、取扱いの容易な小型の鋼製セグメント4でシールドトンネル5を作製でき、作業性が向上する。さらに、シールドトンネル5内に鉄筋6を建て込んでコンクリート7を打設するので、外殻構成要素2の内部が鋼殻とRCの複合構造となって十分な強度を確保できる。加えて、図2(b)に例示するように、隣り合う外殻構成要素2同士の接合部分についても、鋼殻とRCの複合構造にしているため十分な強度を確保できる。なお、接合の手順については後述する。
【0022】
この大断面トンネル1では、複数の外殻構成要素2を接合して断面が正八角形状の外殻部3を構成しており、外殻構成要素2同士の接合部が多角形の辺の途中に位置している。この接合部は、辺に対して垂直面として設けられるので、略台形状の外殻構築要素52a,53aを用いた大断面トンネル52,53に比べて、外殻構成要素2同士を接合する際の施工が容易になる。加えて、断面力が大きくなる外殻部3の隅角部には接合部が設けられず一連に形成されるので、土圧に対して有利な構造となる。また、矩形状の大断面トンネル51に対し、作用土圧に対する支点間距離が短くなるため、各辺に生じる断面力を小さくできる。これにより、壁厚を厚くしなくても土圧に対する耐力を高めることができる。
【0023】
この大断面トンネル1を構築するに際しては、まず、断面形状が正八角形の外殻部3を構築する。この場合、例えば図3に示すように、各外殻構成要素2に対応する複数のシールドトンネル5を、断面方向において正八角形状に並ぶ状態に形成する。すなわち、一対の立坑の間をシールドマシンで掘進し、このシールドマシンによって小断面のシールドトンネル5を形成する。そして、角度及び位置を適宜変更してシールドマシンによる掘進を繰り返し行うことで、同じ断面形状とされた複数のシールドトンネル5を正八角形状に並べた状態に形成する。
【0024】
便宜上、以下の説明では、最初の掘進によって形成されるシールドトンネル5を第1シールドトンネル5Aといい、2回目の掘進によって形成されるシールドトンネル5を第2シールドトンネル5Bという。従って、この大断面トンネル1では、第1シールドトンネル5Aから第8シールドトンネル5Hまでの8個のシールドトンネル5A〜5Hが形成される。
【0025】
なお、図2(a)で説明したように、形成された各シールドトンネル5A〜5Hには、順次鉄筋6が建て込まれコンクリート7が打設される。これにより、図1に示すように、第1シールドトンネル5Aに対応する第1外殻構成要素2Aから第8シールドトンネル5Hに対応する第8外殻構成要素2Hが形成され、各外殻構成要素2A〜2Hによって外殻部3が構築される。
【0026】
外殻部3を構築したならば、この外殻部3の内側にある土砂を油圧ショベル等の掘削機械によって取り除く。これにより、大断面トンネル1の構築が完了する。
【0027】
以下、大断面トンネル1の構築について詳細に説明する。
【0028】
まず、この大断面トンネル1を構築するためのシールドマシンの一例について説明する。図4は、本実施形態のシールドマシン11の正面図であり、への字状の外殻構成要素2を掘削できるように構成されている。
【0029】
スキンプレート12は、シールドマシン11の外殻部分を構成する鉄板製の筒状部分であり、正面側から見てへの字状に屈曲している。このスキンプレート12は、前胴部12Aと後胴部12Bとに分割されており、前胴部12Aは後胴部12Bに対して上下方向に首振り可能な状態で取り付けられている。カッター13は、スキンプレート12の前面に並んだ状態で配設されている。本実施形態のカッター13は、1つの円形カッター13aと4つの矩形カッター13bとから構成されている。そして、中央に位置するくの字の隅角部には円形カッター13aを配置し、この円形カッター13aの両側には矩形カッター13bを2つずつ並べた状態で配置している。これらの矩形カッター13bは回転軸が揺動可能に構成されている。そして、回転軸を揺動させつつ矩形カッター13bを回転させることで、地盤Gを矩形断面となるように掘削する。
【0030】
掘削された土砂は、カッター背面に設置されたスクリューコンベアによって掘削方向の後方へと送り出される。送り出された土砂は、例えば、ノンタックホース等を通じて土砂搬出設備35(図7等を参照)に送られる。マシン後方では、エレクターを使用して鋼製セグメント4を組み立てる。シールドマシン11は、組み立てられた既設の鋼製セグメント4から反力を得て、シールドジャッキにより前方に推進する。
【0031】
次に、大断面トンネル1の構築手順について説明する。
【0032】
大断面トンネル1を構築するに際し、まず図5(a)に示すように、第1立坑21と第2立坑22とからなる一対の立坑21,22を地盤Gに形成する。なお、最初に発進する側の立坑(第1立坑21)が形成されていれば、他方の立坑(第2立坑22)は、第1立坑21から発進したシールドマシン11が到達するまでに形成されていればよい。本実施形態において、第1立坑21から第2立坑22までの掘進距離は200m程度である。
【0033】
各立坑21,22には複数段の作業床23を設ける。本実施形態では、図5(a),(b)に示すように、4段の作業床23を設けている。これらの作業床23は、シールドマシン11の発進や到達時において、シールドマシン11を支えたり、鋼製セグメント4の置き場になったりする。また、これらの作業床23には、可動式作業床24が設けられている。可動式作業床24は、ジャッキによって上下方向に移動したり、ターンテーブルのように水平方向に回転したりする部分であり、シールドマシン11の向きを変える場合に用いられる。本実施形態の可動式作業床24は、大断面トンネル1に対して左右1つずつ配置されている。そして、図5(b)に示すように、2段目と3段目の作業床23には、各可動式作業床24が通過可能な開口部が設けられている。
【0034】
各立坑21,22に作業床23を設けたならば、第1立坑21内にシールドマシン11を配置する。例えば、図3の第1シールドトンネル5Aを形成する位置にシールドマシン11をセットする。この場合、図6に示すように、シールドマシン11を支持フレーム25によって固定するとともに、支持フレーム25をジャッキ26a,26bによって支え、シールドマシン11を所望の位置に配置する。この支持フレーム25は、シールドマシン11を立坑21,22内で移動させたり回転させたりする際に、シールドマシン11を外側から支持する枠体である。支持フレーム25の内側下部には、シールドマシン11を支える複数のジャッキ25aが設けられている。そして、これらのジャッキ25aによってもシールドマシン11の位置を調整できる。
【0035】
シールドマシン11を発進させたならば、掘削された箇所に鋼製セグメント4を組み立て、第1シールドトンネル5Aを形成する。すなわち、エレクター16で鋼製セグメント4を把持して所定の位置に設置し、隣り合う鋼製セグメント4同士をボルト等でつなぎ合わせて、第1シールドトンネル5Aを形成する。
【0036】
そして、全周に亘って鋼製セグメント4を設置したならば、図7に示すように、トンネル内部に複数の柱8を立て、土圧に対する耐力を持たせている。
【0037】
本実施形態では、図7における右端部の区域を安全通路31として用い、右から2番目の区域を材料搬入用の区域32とし、左端部の区域を土砂搬出用の区域33とする。そして、材料搬入用の区域32にはセグメント搬送装置34を設置し、土砂搬出用の区域33には土砂搬出設備35を設置している。以後は、シールドマシン11による掘削と鋼製セグメント4の組み立てが行われる。これにより、図8に示すように、第1シールドトンネル5Aが第2立抗22へ向けて次第に形成される。なお、図示は省略したが、第1シールドトンネル5Aの外側には、この第1シールドトンネル5Aを囲むように裏込材が充填される。
【0038】
第2立坑22にシールドマシン11が到達したならば、第2立坑22の内部でシールドマシン11を反転させる。以下、反転させる手順について説明する。
【0039】
図9(a)に示すように、第2立坑22にシールドマシン11が到達したならば、シールドマシン11を支持フレーム25で支持する。この状態で、ボールスライダー44を設置した場所まで水平方向へ移動させる。これにより、図9(b)に示すような状態になる。
【0040】
ボールスライダー44上にあるシールドマシン11を、支持フレーム25で支持した状態で水平方向に180度回転させる。これにより、図9(c)に示すような状態になる。すなわち、第2立坑22から第1立坑21へ向けて進行可能な向きにする。その後、シールドマシン11を発進させて、第2シールドトンネル5Bを形成する。
【0041】
図10(a)に示すように、第3シールドトンネル5Cを形成したシールドマシン11が第2立坑22に到達したならば、シールドマシン11を支持フレーム25で支持する。
【0042】
シールドマシン11を支持フレーム25で支持した状態で可動式作業床24をボールスライダー44の上端部までジャッキアップする。次に、シールドマシン11を支持フレーム25で支持した状態でボールスライダー44を設置した場所まで水平移動させた後、このシールドマシン11を水平方向に180度回転させる。これにより、図10(b)に示すような状態になる。
【0043】
180度の回転後、シールドマシン11を支持フレーム25で支持した状態で水平方向へ移動し、図中左側に位置するもう一方の可動式作業床24の上に配置する。そして、この状態で可動式作業床24をジャッキダウンして、第4シールドトンネル5Dに対応する掘削箇所に移動する。これにより、図10(c)に示すような状態になる。すなわち、シールドマシン11は、第2立坑22から第1立坑21へ向けて進行可能な向きになる。
【0044】
次に、図11(a)〜(c)を参照し、立坑内でシールドマシン11の姿勢を変化させる場合の手順について説明する。この場合、例えばシールドマシン11を支持フレーム25で支持した状態で、支持フレーム25の下部に回転軸受27aを設置する。これにより、図11(a)に示すような状態となる。次に可動式作業床24及びジャッキ26をジャッキダウンして、回転軸受27aに回転軸27を嵌め合わせる。これにより、図11(b)に示すような状態となる。その状態から可動式作業床24をさらにジャッキダウンさせることにより、回転軸27を中心にして支持フレーム25を鉛直面内で図中反時計回りに回転させる。これにより、図11(c)に示すような状態となる。このような方法でシールドマシン11の姿勢を変化させることが可能となる。
【0045】
以上の反転作業時や姿勢変化の作業時において、支持フレーム25はシールドマシン11を支持しているが、さらにシールドマシン11の発進、到達架台としても用いられている。このため、支持フレーム25を用いると、比較的簡単な構成で作業性を高めることができる。
【0046】
前述した図9(c)に示す状態で、第2立坑22から第1立坑21へ向けてシールドマシン11を発進させ、鋼製セグメント4を組み立てると、図12に示す第2シールドトンネル5Bが形成される。本実施形態では、図12における左端部の区域を安全通路31として用い、左から2番目の区域を材料搬入用の区域32とし、右端部から2番目の区域を土砂搬出用の区域33とする。そして、材料搬入用の区域32にはセグメント搬送装置34を設置し、土砂搬出用の区域33には土砂搬出設備35を設置している。
【0047】
また、図13(a),(b)に示すように、この第2シールドトンネル5Bを形成している際に、第1シールドトンネル5Aに鉄筋6を建て込んでコンクリート7を打設する。鉄筋6の建て込みとコンクリート7の充填は、所定距離毎に繰り返し行う。例えば、50m毎に8回繰り返して行う。
【0048】
このように、新たなシールドトンネルの形成と既設のシールドトンネルへのコンクリート打設とを同じ向きで行う場合、一方の立坑(上記の例では第2立坑22)を専ら鋼製セグメント4の置き場や掘削土砂の搬出に使用でき、他方の立坑(同じく第1立坑21)を専ら鉄筋6やコンクリート配管36の置き場に使用できるため、各立坑21,22内のスペースを有効活用できる。また、1本目のトンネルを材料運搬用トンネルとして用いる場合、一方の立坑を専ら材料取り込み立坑として施工することができる。地上に制約がある場合などに有効である。
【0049】
第2シールドトンネル5Bが第1立坑21まで形成されると、シールドマシン11が反転されて第3シールドトンネル5Cの形成が開始される。第3シールドトンネル5Cの形成と並行して、第2シールドトンネル5Bには鉄筋6が建て込まれコンクリート7が打設される。
【0050】
このとき、第2シールドトンネル5Bと第1シールドトンネル5Aとが鉄筋6で接続された状態でコンクリート7の打設が行われる。以下、この点について説明する。
【0051】
まず、図14(a)に示すように、第2シールドトンネル5Bと第1シールドトンネル5Aとの接合部分の周囲に地盤改良剤41を注入して地盤Gを固める。地盤改良剤41の注入は、第2シールドトンネル5B側の注入孔にロッドを差し込んで行う。地盤改良剤41の注入効果を確認したならば、第2シールドトンネル5Bを構成する鋼殻のうち、第1シールドトンネル5A側の側端部を切除する。そして、第1シールドトンネル5Aとの間に存在する裏込材を、図14(b)にハッチングで示す範囲Yにわたってはつり、第1シールドトンネル5A側のスキンプレートを露出させる。裏込材のはつりが終わったら、図14(c)に示すように、第2シールドトンネル5Bと第1シールドトンネル5Aの間の天井や床面に止水鉄板42を溶接する。止水鉄板42の溶接後、止水鉄板42における背面側の空隙にグラウト材を充填する。
【0052】
グラウト材を注入したならば、図14(d)に示すように、第1シールドトンネル5Aにおける、第2シールドトンネル5B側の側端部を切除してコンクリート面(打継面)を露出させる。そして、露出させたコンクリート面を目荒らしする。例えば、チッピングによって細かな凹凸を形成する。次に、図14(e)に示すように、第1シールドトンネル5A内に建て込まれた鉄筋6に仕込まれた継ぎ手金物43により、第1シールドトンネル5A内に建て込まれた鉄筋6と第2シールドトンネル5B内に建て込んだ鉄筋6とを接続する。その後、図14(f)に示すように、鉄筋6が接続された状態で第2シールドトンネル5B内にコンクリート7を打設する。
【0053】
以上の手順でコンクリート7を打設することにより、第1シールドトンネル5Aに対応する第1外殻構成要素2Aと、第2シールドトンネル5Bに対応する第2外殻構成要素2Bの接合が完了する。ここで、第1外殻構成要素2Aと第2外殻構成要素2Bとの接合部は、外殻部3の辺に対してほぼ垂直な面で構成されている。このため、鋼殻の切除や鉄筋6の接続が、略台形状の外殻構築要素52a,53aを用いた大断面トンネル52,53に比べて容易に行える。また、厚さ方向のずれに対して対応が容易になるし、誤差の吸収も容易であるので、シールド掘進の精度に余裕を持たせることができる。さらに、第1外殻構成要素2Aと第2外殻構成要素2Bとの接合部分において、外殻と内部で鋼殻とRCとの複合構造となり、この複合構造が辺の方向へ連続して形成される。その結果、これらの外殻構成要素2A,2Bの接合部分において十分な耐力が得られる。
【0054】
以後は、同様の手順で第3外殻構成要素2Cから第8外殻構成要素2Hまで形成するが、対応するシールドトンネル5C〜5Hを形成する際に、そのシールドトンネル5C〜5Hにおける一部の区域を、安全通路31、材料搬入用の区域32、土砂搬出用の区域33として用いている。例えば、第3シールドトンネル5C及び第4シールドトンネル5Dでは、図15(a),(b)に示すように、最下端の区域を材料搬入用の区域32とし、下から2番目の区域を土砂搬出用の区域33とし、上から2番目の区域を安全通路31としている。また、第5シールドトンネル5E及び第6シールドトンネル5Fでは、図15(c),(d)に示すように、下から2番目の区域を材料搬入用の区域32とし、真中の区域を土砂搬出用の区域33とし、上から2番目の区域を安全通路31としている。さらに、第7シールドトンネル5G及び第8シールドトンネル5Hでは、図16(a),(b)に示すように、下側に位置する3つの区域を、安全通路31、材料搬入用の区域32、及び土砂搬出用の区域33としている。
【0055】
これらのシールドトンネル5C〜5H(図15,図16参照)、第1シールドトンネル5A(図7参照)、及び第2シールドトンネル5B(図12参照)の何れも、材料搬入用の区域32は、内面に水平な空間を確保できる区域に定められている。これは、鋼製セグメント4等の重量物をセグメント搬送装置34で運搬することに起因する。すなわち、セグメント搬送装置34を進行方向の左右側に傾けて設置してしまうと、セグメント搬送装置34の走行が不安定になってしまう。これを防止するために、本実施形態では、材料搬入用の区域32を、内面に水平な空間を確保できる区域に定めている。
【0056】
上述の手順で第1外殻構成要素2Aから第8外殻構成要素2Hまで形成し、外殻部3を構築したならば、図17(a)に示すように、外殻部3内の土砂を上側から順に油圧ショベル等の掘削機械によって取り除く。そして、外殻部3内の土砂を全部除去すると、図17(b)に示すように、大断面トンネル1の構築が完了する。
【0057】
以上説明したように、本実施形態の構築方法では、断面形状が同じ複数の外殻構成要素2A〜2Hを形成して大断面トンネル1の外殻部3を構築しているので、1つのシールドマシン11で大断面トンネル1を構築することができ、経済的である。また、1つのシールドマシン11を繰り返し使用した際に、シールドマシン11の立坑21,22内での反転作業が容易になる。また、掘進が完了したシールドトンネル5から、順次、鉄筋6の建て込みとコンクリート7の打設が行われるので、地盤Gの緩みに起因する不具合を抑制できる。また、隣り合う外殻構成要素2は、鉄筋6同士を継ぎ手金物43で接続し、コンクリート接続面はチッピングによる凹凸によって一体化を図れるため、接続部の構造は通常のRC断面と同じ耐力を有する。
【0058】
ところで、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0059】
例えば、図18に示す大断面トンネル1´は、断面形状が矩形状となる外殻構成要素2´を、外殻構成要素2A〜2H同士の間に設けている。このように構成すると、より大きな断面形状の大断面トンネル1´を容易に構築することができる。
【0060】
また、前述の実施形態では、外殻部3が正八角形をしており、各外殻構成要素2A〜2Hが正八角形における隅角部同士の中央で辺を切断した屈曲形状をしていたが、この構成に限定されない。
【0061】
まず、外殻部3に関し、6角形や12角形であってもよいし、20角形であってもよい。要するに6角形以上の多角形であればよい。これにより、矩形状の大断面トンネル51に比べて、壁厚を厚くしなくても土圧に対する耐力を高めることができる。また、外殻部3は、正多角形でなくてもよいが、円形に近い方が、より部材に発生する断面力を低減させることができる。また、各外殻構成要素2同士を隅角部同士の中間で切断した形状としているので、略台形状の外殻構築要素52a,53aを用いた大断面トンネル52,53に比べて、外殻構成要素同士52a,53aを接合する際の施工が容易になる。
【0062】
外殻構成要素2に関し、前述の実施形態では隅角部同士の中央で辺を切断したが、それ以外の位置で辺を切断してもよい。なお、前述の実施形態のように、外殻部3を6角形以上の正多角形状とし、各外殻構成要素2を隅角部同士の中央で辺を切断した形状にすれば、1つのシールドマシン11の往復によって大断面トンネル1を構築できる。
【符号の説明】
【0063】
1 大断面トンネル(1U 天井部,1D 底部,1L 左側部,1R 右側部)
2 外殻構成要素(2A 第1外殻構成要素〜2H 第8外殻構成要素)
3 外殻部
4 鋼製セグメント
5 シールドトンネル(5A 第1シールドトンネル〜5H 第8シールドトンネル)
6 鉄筋
7 コンクリート
8 柱
11 シールドマシン
12 スキンプレート(12A 前胴部,12B 後胴部)
13 カッター(13a 円形カッター,13b 矩形カッター)
21 第1立坑
22 第2立坑
23 作業床
24 可動式作業床
25 支持フレーム
26 ジャッキ
27 回転軸(27a 回転軸受)
31 安全通路
32 材料搬入用の区域
33 土砂搬出用の区域
34 セグメント搬送装置
35 土砂搬出設備
36 コンクリート配管
41 地盤改良剤
42 止水鉄板
43 継ぎ手金物
44 ボールスライダー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外殻構成要素を複数接合して外殻部を構築し、前記外殻部の内側に存在する土砂を掘削により除去することで構築される大断面トンネルであって、
前記外殻部は、その断面形状が六角形以上の多角形となるように構築され、
前記外殻構成要素は、その断面形状が前記多角形における隅角部同士の間で辺を切断した屈曲形状であることを特徴とする大断面トンネル。
【請求項2】
前記外殻部の断面形状は正多角形であることを特徴とする請求項1に記載の大断面トンネル。
【請求項3】
前記外殻構成要素は、前記正多角形における隅角部同士の中央で辺を切断した屈曲形状をなしていることを特徴とする請求項2に記載の大断面トンネル。
【請求項4】
前記外殻部は、断面形状が矩形状とされた他の外殻構成要素を、前記外殻構成要素同士の間に設けることで構築されることを特徴とする請求項1に記載の大断面トンネル。
【請求項5】
前記外殻構成要素は、鋼製セグメントによって作製されたシールドトンネル内に鉄筋を配し、コンクリートを打設することで形成されることを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の大断面トンネル。
【請求項6】
外殻構成要素を複数接合した外殻部を構築し、前記外殻部の内側に存在する土砂を掘削により除去することで構築される大断面トンネルの構築方法であって、
前記外殻構成要素を形成するとともに隣り合う前記外殻構成要素同士を接合することで、断面形状が六角形以上の多角形となる外殻部を構築する外殻部構築工程と、
前記外殻部の内側に存在する土砂を掘削により除去する土砂除去工程と
を備え、
前記外殻構成要素は、
その断面形状が、前記多角形における隅角部同士の間で辺を切断した屈曲形状であることを特徴とする大断面トンネルの構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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