大断面トンネルの止水構造
【課題】止水性能の向上を図れる大断面トンネルの止水構造を提供することを課題とする。
【解決手段】推進工法によって並設された複数本のトンネルT1を利用して築造した大断面トンネル1の止水構造W1において、隣り合う二つのトンネルT1,T1のうちの一方のトンネルT1の外表面10’に推進方向に沿って設けられる直線状の弾性シール部材20と、他方のトンネルT1の外表面10’に設けられる弾性帯部材30とを備えており、弾性シール部材20の先端部が弾性帯部材30に当接していることを特徴とする。
【解決手段】推進工法によって並設された複数本のトンネルT1を利用して築造した大断面トンネル1の止水構造W1において、隣り合う二つのトンネルT1,T1のうちの一方のトンネルT1の外表面10’に推進方向に沿って設けられる直線状の弾性シール部材20と、他方のトンネルT1の外表面10’に設けられる弾性帯部材30とを備えており、弾性シール部材20の先端部が弾性帯部材30に当接していることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進工法によって並設された複数本のトンネルを利用して築造した大断面トンネルの止水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
複数本の小断面トンネルを構築した後に、各トンネルの不要な覆工を撤去して大きな空間を形成しつつ、各トンネルの残置された覆工を利用して本設の頂底版や側壁などを形成するという大断面トンネルの築造技術が知られている。なお、複数の小断面トンネルは、時間差をもって順次に構築され、後行のトンネルは、先行のトンネルの隣りに構築される。また、各トンネルは、例えば、推進工法によって構築される。
【0003】
ここで、推進工法とは、トンネルの覆工となる筒状の推進函体(トンネル函体)を坑口から順次地中に圧入してトンネルを構築する工法である。なお、推進函体の先端には、刃口や掘進機などが取り付けられている。推進工法の掘進機は、推進函体に反力をとって自ら掘進するもの(つまり、推進ジャッキを装備しているもの)でもよいし、推進函体を介して伝達された元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよい。
【0004】
ところで、推進工法で小断面トンネルを構築する場合、特に、トンネルの後方から元押しジャッキで推進函体を押し出す場合には、後行のトンネルが、先行のトンネルに対して平行に推進しないことがある。したがって、先行のトンネルを後行のトンネルに沿って平行に推進させるために、図9に示すように、隣り合う二つのトンネル100,100のうち、一方のトンネル100の推進函体101には、他方のトンネル100側に開口するガイド溝102がトンネル軸方向に沿って形成され、他方のトンネル100の推進函体101には、一方のトンネルのガイド溝102に遊嵌する突条103が形成された大断面トンネルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような構成の大断面トンネルでは、突条103とガイド溝102との間に止水材104を充填することで、隣り合うトンネル100,100間の隙間をシールするようになっていた。しかしながら、前記の大断面トンネルでは、ガイド溝102を洗浄してその内部に詰まった裏込材を除去した後に止水材104を充填するため、施工に多くの手間と時間を要してしまう問題があった。
【0006】
そこで、図10に示すように、一方のトンネル110の推進函体111の外表面に、水膨張性の弾性シール部材112を設け、他方のトンネル110の推進函体111の外表面に当接させる止水構造が開発されていた。この止水構造は、推進函体111,111間で弾性シール部材112を挟むことで、推進函体111,111間の隙間を止水する(例えば、特許文献2参照)。この止水構造によれば、比較的容易な施工で小断面トンネル間の止水効果を得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−90098号公報
【特許文献2】特開2009−114786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記の止水構造では、一方のトンネル110の推進函体111に設けられた弾性シール部材112の先端が当接するのは、他方のトンネル110の推進函体111を構成する鉄板の表面であるので、弾性シール部材112が他方の推進函体111に対して滑りやすく密着性が低いといった問題があった。また、他方の推進函体111の継目等において、外周面に段差がある場合には、弾性シール部材112の当接が困難である部分が発生し、止水性能の向上の余地が残されていた。
【0009】
このような観点から、本発明は、止水性能の向上を図れる大断面トンネルの止水構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために創案された本発明は、推進工法によって並設された複数本のトンネルを利用して築造した大断面トンネルの止水構造において、隣り合う二つの前記トンネルのうちの一方のトンネルの外表面に推進方向に沿って設けられる直線状の弾性シール部材と、他方のトンネルの外表面に設けられる弾性帯部材とを備え、前記弾性シール部材の先端部が前記弾性帯部材に当接していることを特徴とする大断面トンネルの止水構造である。
【0011】
このような構成によれば、弾性シール部材の先端部が弾性帯部材に当接するので、弾性シール部材と弾性帯部材間の密着性が高くなり、止水性能の向上を図ることができる。また、弾性帯部材が変形することで、函体の継目の段差を吸収することができるので、弾性シール部材と弾性帯部材とを全長にわたって密着させることができる。
【0012】
本発明においては、前記弾性シール部材が、前記一方のトンネル函体の外表面に固定されるベース部と、このベース部と一体的に形成されたリップ部とを備えてなり、前記弾性帯部材は、前記弾性シール部材よりも軟質の材料にて形成され、前記リップ部は、その先端部が前記弾性帯部材に当接して、前記弾性帯部材を変形させるように構成されているものが好ましい。
【0013】
このような構成によれば、弾性シール部材が弾性帯部材に減り込むように変形するので、弾性シール部材と弾性帯部材との接触面積が大きくなる上に、弾性シール部材が弾性帯部材の変形反力を受けることで密着性がより一層高くなる。さらに、弾性シール部材に押し込まれて凹んだ弾性帯部材の凹部表面が、弾性シール部材のリップ部の押さえ部となって、その反転(捲れ)を防止できる。
【0014】
また、本発明においては、前記弾性シール部材は、前記リップ部の先端が前記大断面トンネルの外側に向くように配置され、前記リップ部が、その復元力または前記大断面トンネルの外側の水圧によって前記弾性帯部材を前記大断面トンネルの内側に向けて押し退けるように変形させて、前記リップ部の、前記大断面トンネルの内側に前記リップ部を押さえる押さえ部が形成されるものが好ましい。
【0015】
このような構成によれば、押さえ部によってリップ部の反転が抑制されるので、さらなる止水性能の向上が図れる。
【0016】
さらに、本発明においては、前記弾性帯部材は、少なくも表面の一部に配置された水膨潤ゴムを備えて構成されているものも好ましい。
【0017】
このような構成によれば、水膨潤ゴムが水分を吸収すると膨張して弾性シール部材が押圧されるので、弾性シール部材と弾性帯部材間の密着性が高くなり、止水性能の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、大断面トンネルの止水性能の向上を図れるといった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】大断面トンネルを示した断面図である。
【図2】本発明に係る止水構造の第一実施形態を示した拡大断面図である。
【図3】先行トンネル函体と後行トンネル函体を示した斜視図である。
【図4】隣り合う各トンネル函体の推進前の状態を示した断面図である。
【図5】トンネル函体および弾性帯部材の接合状態を示した斜視図である。
【図6】(a)、(b)、(c)、(d)は、弾性帯部材の接合状態を示した断面図である。
【図7】本発明に係る止水構造の第二実施形態を示した拡大断面図である。
【図8】(a)、(b)は、本発明に係る止水構造の第三実施形態を示した拡大断面図である。
【図9】従来の止水構造を示した断面図である。
【図10】従来の他の止水構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための第一実施形態を、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る止水構造W1は、大断面トンネル1の内部(内空部)と外部(地山部)との間を止水する構造である。大断面トンネル1は、推進工法によって並設された複数本のトンネル(以下「小断面トンネル」と言う場合がある)T1のトンネル函体10を利用して築造される。大断面トンネル1は、その横断面の全てを実質的に含むように並設された複数本(本実施形態では六本)の小断面トンネルT1,T1,…を利用して築造したものであり、頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを備えている。各小断面トンネルT1は、トンネル軸方向に連接された複数のトンネル函体10によってそれぞれ構成されている。
【0022】
図2および図3に示すように、隣り合う二つのトンネルT1,T1のうち、一方のトンネルT1の外殻11には突条P1が設けられ、他方のトンネルT1の外殻11にはガイド溝D1が形成されている。ガイド溝D1は、トンネル軸方向(図2において紙面垂直方向)に沿って形成されており、一方のトンネルT1に向かって開口している。突条P1は、他方のトンネルT1のガイド溝D1に遊嵌する。なお、以下では、一方のトンネルT1の突条P1と他方のトンネルT1のガイド溝D1を合わせて、単に「継手J1」と称することがある。そして、この継手J1よりも大断面トンネル1の外側(地山側)に、本発明の特徴部分である止水構造W1が形成されている。なお、継手J1と止水構造W1の位置関係は、これに限定されるものではなく、止水構造よりも大断面トンネルの外側(地山側)に継手を形成するようにしてもよい。
【0023】
止水構造W1は、隣り合う二つのトンネルT1,T1のうち、一方のトンネルT1の外表面10’に設けられる直線状の弾性シール部材20と、他方のトンネルT1の外表面10’に設けられる弾性帯部材30とを備えている。弾性シール部材20は、一方のトンネルT1のトンネル函体10(本実施形態では後行トンネル函体10a)の外表面10’に、推進方向(図2において紙面垂直方向)に沿って設けられている。弾性帯部材30は、他方のトンネルT1のトンネル函体10(本実施形態では先行トンネル函体10b)の外表面10’に設けられている。弾性帯部材30は、推進方向(トンネル軸方向)に沿って延在しており、弾性シール部材20に対向する位置に配置されている。そして、後行トンネル函体10aの推進時に、弾性シール部材20の先端部が弾性帯部材30に当接する。なお、図2においては、弾性シール部材20と弾性帯部材30とを区別しやすいように、僅かな隙間をあけて図示しているが、実際は密着している。また、弾性帯部材30の変形断面積は、弾性シール部材20に押し退けられた断面積(弾性帯部材30に減り込んでいる断面積)と同等であるが、押さえ部を強調するために、大きめに図示している。
【0024】
図2および図4に示すように、弾性シール部材20は、後行トンネル函体10aの外表面10’のうち、先行トンネル函体10bに対向する部分に設けられている。弾性シール部材20は、凹溝12に固定されている。凹溝12は、後行トンネル函体10aの外表面10’を構成する外殻11に形成されている。弾性シール部材20は、例えば、耐摩耗性を備えた硬質ゴムやウレタン等の材料にて構成されている。弾性シール部材20は、推進方向に沿って延在しており、隙間なく連続して設けられている(図3参照)。弾性シール部材20は、トンネル函体10の軸方向長さと同等の長さに形成されている。なお、弾性シール部材20は、搬送時や縦坑内での取り回しが可能であれば、トンネル函体10の軸方向長さよりも長くしてもよい。弾性シール部材20は、施工現場にて、端部同士が熱溶着されて長尺に一体化されている。弾性シール部材20は、後行トンネル函体10aの外表面10’に沿って固定されるベース部21と、このベース部21と一体的に形成されたリップ部22とを備えてなる。
【0025】
ベース部21は、板状に形成され、その厚さ寸法が、凹溝12の深さ寸法と同等になっている。ベース部21の表面は、外表面10’の凹溝12のない部分(凹溝12の開口部先端位置)と面一になっている。ベース部21は、凹溝12内に収容されており、例えば、接着剤やボルト(図示せず)等の固定手段によって凹溝12に固定されている。なお、本実施形態でベース部21は、凹溝12に収容されて固定されているが、これに限定されるものではなく、凹溝が形成されない平面状の外表面に直接固定してもよい。
【0026】
リップ部22は、ベース部21の表面から斜めに立ち上がっている。リップ部22は、弾性的に傾倒変形可能な部位であって、後行トンネル函体10aと先行トンネル函体10bとで挟まれることで後行トンネル函体10a側に傾倒する。このとき、リップ部22は、元の形状に復元しようとする力によって、先行トンネル函体10b側に戻ろうとして、弾性帯部材30の表面を弾性的に押圧する。
【0027】
弾性シール部材20は、リップ部22の先端が大断面トンネル1の外側(地山側)に向くように配置される。つまり、ベース部21とリップ部22とにより形成される溝条23が、大断面トンネル1の外側の地山に向かって開くように配置されている。そして、弾性シール部材20の溝条23部分に、大断面トンネル1の外側の圧力(地下水圧)が作用すると、リップ部22は、先行トンネル函体10bの外表面10’の弾性帯部材30に押圧されて密着するようになる。
【0028】
弾性帯部材30は、先行トンネル函体10bの外表面10’のうち、弾性シール部材20に対向する部分に設けられている。弾性帯部材30は、凹溝13に固定されている。凹溝13は、先行トンネル函体10bの外表面10’を構成する外殻11に形成されている。弾性帯部材30は、本実施形態では、例えば、耐摩耗性を備えたゴムやウレタン等の、弾性シール部材20よりも軟質(ゴム硬度が小さい)の材料にて構成されている。弾性帯部材30は、水膨潤ゴムにて形成してもよい(詳細は第三実施形態を参照)。弾性帯部材30は、推進方向に沿って連続して設けられている(図4参照)。
【0029】
図5に示すように、弾性帯部材30は、板状に形成され、推進方向に複数本連接されている。弾性帯部材30は、トンネル函体10の軸方向長さと同等の長さ、あるいは搬送可能な長さに形成されている。弾性帯部材30は、施工現場にて、端部同士が熱溶着されて長尺に一体化されている。弾性帯部材30は、熱溶着位置がトンネル函体10,10同士の接合位置と揃うように配置されている。なお、弾性帯部材30の熱溶着位置と、トンネル函体10,10同士の接合位置との関係は、これに限定されるものではなく、熱溶着位置が、トンネル函体の軸方向中間部に位置するようにしてもよい。また、弾性帯部材を長尺部材として、複数のトンネル函体に渡って固定するようにしてもよい。凹溝13は、先行トンネル函体10b同士を接合したときに、直線状に繋がるように形成されている。弾性帯部材30は、その厚さ寸法が、凹溝13の深さ寸法と同等になっており、弾性帯部材30の表面は、その周囲の外表面10’と面一になっている(図4参照)。このように、弾性帯部材30が凹溝13に収容されて、弾性帯部材30の表面と凹溝13が形成されない部分の外表面10’とが面一になっていると、先行トンネル函体10bの推進時の抵抗を抑えられる上に、弾性帯部材30の磨耗を抑制することができる。
【0030】
図6の(a)に示すように、弾性帯部材30は、凹溝13の内部に収容されており、例えば、接着剤14によって凹溝13の底面および側面に固定されている。なお、弾性帯部材30の固定は、前記構成に限定されるものではなく、たとえば、図6の(b)に示すように、ボルトB等の固定手段を用いて、弾性帯部材30aを先行トンネル函体10bに固定するようにしてもよい。この場合、凹溝13の幅方向両側に、ボルト頭部B1の収容部13aを形成し、この収容部13aにボルトBを螺合させ、ボルト頭部B1で押さえるワッシャ15の縁部で弾性帯部材30aを係止する。弾性帯部材30aは、高さ方向中央部が突出した凸形状となっている。このとき、弾性帯部材30aの幅方向中間部は、弾性シール部材20の当接部分となるので、ワッシャ15の縁部で係止されるのは、弾性帯部材30aの幅方向両端の一部のみである。このときも、凹溝13の内周に接着剤14を塗布して、弾性帯部材30aを固定すると、止水性能が向上するので好ましい。
【0031】
さらに、図6の(c)に示すように、凹溝13の断面よりも大きい断面(図中、二点鎖線にて示す)の弾性帯部材30aを圧縮状態で凹溝13に収容してもよい。この場合、弾性帯部材30aが元の大きさに戻ろうとする復元力によって、凹溝13の壁面が押圧される。なお、その他の構成は図6の(b)と同様であるので、同じ符号を付して説明を所略する。このような構成によれば、接着剤を用いなくても、弾性帯部材30aを凹溝13に固定することができるとともに、弾性帯部材30aと凹溝13間の止水性を確保できる。
【0032】
本実施形態においては、弾性帯部材30は、凹溝13に表面が面一に収容されて固定されているが、これに限定されるものではない。たとえば、弾性帯部材の先端部が、凹溝から後行トンネル函体側にはみ出して突出するように形成してもよいし、弾性帯部材を、凹溝が形成されない平面状の外表面に直接接着固定してもよい。このように、弾性帯部材が先行トンネル函体の外表面よりも突出するように構成した場合、弾性シール部材の突出寸法を小さくすることができる。また、弾性帯部材を突出させることで、弾性シール部材との密着性をより一層高めることもできる。
【0033】
凹溝が形成されず、平坦な外表面10’に弾性帯部材30aを固定する場合には、図6の(d)に示すような構造が挙げられる。まず、平坦な外表面10’に、凸形状の弾性帯部材30aを接着剤14を用いて固定する。そして、弾性帯部材30aの幅方向両端を段差付のワッシャ15aで係止する。ワッシャ15aは、ボルトBによって、トンネル函体10の外表面10’に固定される。
【0034】
以下、大断面トンネル1の築造工程を説明しながら、前記構成の止水構造W1の作用効果を説明する。
【0035】
大断面トンネル1を築造するには、まず、図1に示すように、その断面内の下部中央に一本目のトンネルT11を構築したうえで、この一本目のトンネルT11の横両隣りに二本目のトンネルT12および三本目のトンネルT13を順次構築する。続いて、一本目のトンネルT11の縦(上)隣りに四本目のトンネルT14を構築し、さらに、トンネルT12およびトンネルT14に隣接する位置に五本目のトンネルT15を構築し、トンネルT13およびトンネルT14に隣接する位置に六本目のトンネルT16を構築する。なお、トンネルT11〜T16の構築順序は、図示のものに限らず、適宜変更しても差し支えない。また、本実施形態においては、隣り合うトンネルT1,T1は、後行のトンネルT1を構築する際に、継手J1を介して互いに平行になるようにガイドされる。
【0036】
前記のように、後行トンネル函体10aが先行トンネル函体10bの側部または上部を推進する際には、図2に示すように、後行トンネル函体10a側の弾性シール部材20のリップ部22が、先行トンネル函体10b側の弾性帯部材30に当接する。このとき、弾性帯部材30は、弾性シール部材20と比較して軟質の材料にて構成されているので、弾性シール部材20のリップ部22の先端部が、弾性帯部材30の表面に押し込まれる。そして、弾性帯部材30には、リップ部22の先端部の形状に沿って凹部が形成される。このとき、リップ部22の先端部によって押し退けられた部分が、大断面トンネル1の内側(内空側)へと移動し、押さえ部31が形成される。押さえ部31は、リップ部22よりも大断面トンネル1の内側に形成される。ここで、弾性帯部材30の変形量は、弾性シール部材20のリップ部22の変形量よりも大きく、多くの容積の弾性帯部材30が、リップ部22によって押し退けられ、大きい押さえ部31が形成される。
【0037】
以上のような構成の止水構造W1によれば、弾性シール部材20の先端部が、金属ではない弾性帯部材30に当接するので、互いの摩擦抵抗が大きくなる。したがって、弾性シール部材20と弾性帯部材30との密着性が高くなり、リップ部22の滑りを抑制することができる。これによって、リップ部22の内側への反転(捲れ)を抑制でき、止水性能の向上を図ることができる。
【0038】
また、弾性帯部材30は弾性シール部材20よりも軟質の材料で形成されているので、弾性シール部材20が弾性帯部材30に減り込むように変形している。これによって、弾性シール部材20と弾性帯部材30との接触面積が大きくなるので、密着性がより一層高くなる。さらに、互いの変形によって、弾性シール部材20の復元力(リップ部22の湾曲による反力)と、弾性帯部材30の復元力(凹部が元に戻ろうとする応力)とが互いに押し合う方向に作用するので、密着性がさらに高くなる。
【0039】
また、弾性シール部材20に押し込まれて凹んだ弾性帯部材30の凹部表面(押さえ部31の表面)が、弾性シール部材20のリップ部22に当接してストッパの機能を果たす。したがって、リップ部22が内側(大断面トンネル1の内側)にそれ以上変形するのを防止でき、その反転(捲れ)を抑えられるので、止水性能が大幅に向上する。
【0040】
リップ部22の先端部は、後行トンネル函体10a側に押されて湾曲するが、このとき、リップ部22の反力(復元力)によって弾性帯部材30を押圧するので、弾性帯部材30との密着性がより一層高くなる。さらに、地山側の水圧がリップ部22にかかると、水圧はリップ部22を弾性帯部材30側に押し付ける方向にかかるので、密着性がより一層高くなる。
【0041】
また、弾性シール部材20および弾性帯部材30は、それぞれ熱溶着によって一体化されているので、シールが途切れることがない。さらに、弾性帯部材30を設けたことによって、先行トンネル函体10b同士の継目に段差が発生した場合であっても、弾性帯部材30の変形で段差を吸収できるので、弾性帯部材30の表面は平面形状を保持できる。したがって、弾性シール部材20との密着性を確保でき、止水性能の低下を防止できる。
【0042】
次に、図7を参照して、本発明を実施するための第二実施形態を説明する。第二実施形態に係る止水構造W2は、弾性シール部材20のリップ部22の先端に、先細り形状の爪部25が形成されている。爪部25は、リップ部22の先端から先方に突出するように形成されており、先端が尖った先細りの断面形状を呈している。このように、弾性シール部材20の先端に爪部25が形成されていることによって、弾性シール部材20が弾性帯部材30に当接したときには、弾性帯部材30の表面の凹部に、さらに凹んだ爪部収容溝32が形成されることとなる。なお、その他の構成は第一実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0043】
以上のような構成によれば、爪部25が、弾性帯部材30に対する係止部を構成することとなり、弾性シール部材20の反転防止効果が高くなる。また、弾性シール部材20と弾性帯部材30との接触面積が大きくなるので、互いの密着性をより一層高めることができる。さらには、爪部25の先端が鋭角な断面形状を呈しているので、弾性帯部材30の凹部の折返し部分も鋭角となる。したがって、水が回り込み難くなり、止水効果がさらに向上する。
【0044】
次に、図8を参照して、本発明を実施するための第三実施形態を説明する。第三実施形態に係る止水構造W3は、弾性帯部材35が、少なくも表面の一部に配置された水膨潤ゴムを備えて構成されていることを特徴とする。図8の(a)に示す弾性帯部材35は、表面全体に設けられた水膨潤ゴム36と、その奥に設けられた弾性ゴム37とを備えている。水膨潤ゴム36は、水分を吸収すると膨張する。弾性ゴム37は、例えば、ゴムやウレタン等の材質にて構成されている。なお、弾性シール部材20については、第一実施形態と同様の構成であるので、同じ符号を付して説明を省略する。このような構成の止水構造W3によれば、水膨潤ゴム36が水分を吸収すると、図中、破線にて示すように弾性シール部材20側に膨張して、弾性シール部材を押圧するので、弾性シール部材20と弾性帯部材35間の密着性が高くなり、止水性能の向上を図ることができる。また、リップ部22よりも大断面トンネルの内側で膨張した水膨潤ゴム36は、押さえ部31(図中、破線にて示す)を構成するので、リップ部22の内側への反転(捲れ)を抑制できる。
【0045】
なお、水膨潤ゴム36の設置位置は前記の構成に限定されるものではなく、図8の(b)に示すように、弾性帯部材35の表面のうち、リップ部22よりも大断面トンネルの内側の部分のみに、水膨潤ゴム36を設けるようにしてもよい。このような構成によっても、図8の(a)と同様に、水膨潤ゴム36が水分を吸収すると、図中、破線にて示すように弾性シール部材20側に膨張して、弾性シール部材を押圧するので、弾性シール部材20と弾性帯部材35間の密着性が高くなり、止水性能の向上を図ることができる。また、膨張した水膨潤ゴム36は、押さえ部31(図中、破線にて示す)を構成するので、リップ部22の内側への反転(捲れ)を抑制できる。なお、本実施形態では、水膨潤ゴム36は、弾性帯部材35の一部のみに設けられているが、弾性帯部材の全体を水膨潤ゴムで構成するようにしてもよい。
【0046】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、弾性シール部材20がベース部21とリップ部22とで構成されているが、この形状に限定されるものではなく、弾性帯部材30に減り込む突条を備えていれば、他の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
W1 止水構造
T1 (小断面)トンネル
1 大断面トンネル
10 トンネル函体
10’ 外表面
20 弾性シール部材
21 ベース部
22 リップ部
30 弾性帯部材
31 押さえ部
36 水膨潤ゴム
【技術分野】
【0001】
本発明は、推進工法によって並設された複数本のトンネルを利用して築造した大断面トンネルの止水構造に関する。
【背景技術】
【0002】
複数本の小断面トンネルを構築した後に、各トンネルの不要な覆工を撤去して大きな空間を形成しつつ、各トンネルの残置された覆工を利用して本設の頂底版や側壁などを形成するという大断面トンネルの築造技術が知られている。なお、複数の小断面トンネルは、時間差をもって順次に構築され、後行のトンネルは、先行のトンネルの隣りに構築される。また、各トンネルは、例えば、推進工法によって構築される。
【0003】
ここで、推進工法とは、トンネルの覆工となる筒状の推進函体(トンネル函体)を坑口から順次地中に圧入してトンネルを構築する工法である。なお、推進函体の先端には、刃口や掘進機などが取り付けられている。推進工法の掘進機は、推進函体に反力をとって自ら掘進するもの(つまり、推進ジャッキを装備しているもの)でもよいし、推進函体を介して伝達された元押しジャッキの推力により掘進するものであってもよい。
【0004】
ところで、推進工法で小断面トンネルを構築する場合、特に、トンネルの後方から元押しジャッキで推進函体を押し出す場合には、後行のトンネルが、先行のトンネルに対して平行に推進しないことがある。したがって、先行のトンネルを後行のトンネルに沿って平行に推進させるために、図9に示すように、隣り合う二つのトンネル100,100のうち、一方のトンネル100の推進函体101には、他方のトンネル100側に開口するガイド溝102がトンネル軸方向に沿って形成され、他方のトンネル100の推進函体101には、一方のトンネルのガイド溝102に遊嵌する突条103が形成された大断面トンネルが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような構成の大断面トンネルでは、突条103とガイド溝102との間に止水材104を充填することで、隣り合うトンネル100,100間の隙間をシールするようになっていた。しかしながら、前記の大断面トンネルでは、ガイド溝102を洗浄してその内部に詰まった裏込材を除去した後に止水材104を充填するため、施工に多くの手間と時間を要してしまう問題があった。
【0006】
そこで、図10に示すように、一方のトンネル110の推進函体111の外表面に、水膨張性の弾性シール部材112を設け、他方のトンネル110の推進函体111の外表面に当接させる止水構造が開発されていた。この止水構造は、推進函体111,111間で弾性シール部材112を挟むことで、推進函体111,111間の隙間を止水する(例えば、特許文献2参照)。この止水構造によれば、比較的容易な施工で小断面トンネル間の止水効果を得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−90098号公報
【特許文献2】特開2009−114786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記の止水構造では、一方のトンネル110の推進函体111に設けられた弾性シール部材112の先端が当接するのは、他方のトンネル110の推進函体111を構成する鉄板の表面であるので、弾性シール部材112が他方の推進函体111に対して滑りやすく密着性が低いといった問題があった。また、他方の推進函体111の継目等において、外周面に段差がある場合には、弾性シール部材112の当接が困難である部分が発生し、止水性能の向上の余地が残されていた。
【0009】
このような観点から、本発明は、止水性能の向上を図れる大断面トンネルの止水構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決するために創案された本発明は、推進工法によって並設された複数本のトンネルを利用して築造した大断面トンネルの止水構造において、隣り合う二つの前記トンネルのうちの一方のトンネルの外表面に推進方向に沿って設けられる直線状の弾性シール部材と、他方のトンネルの外表面に設けられる弾性帯部材とを備え、前記弾性シール部材の先端部が前記弾性帯部材に当接していることを特徴とする大断面トンネルの止水構造である。
【0011】
このような構成によれば、弾性シール部材の先端部が弾性帯部材に当接するので、弾性シール部材と弾性帯部材間の密着性が高くなり、止水性能の向上を図ることができる。また、弾性帯部材が変形することで、函体の継目の段差を吸収することができるので、弾性シール部材と弾性帯部材とを全長にわたって密着させることができる。
【0012】
本発明においては、前記弾性シール部材が、前記一方のトンネル函体の外表面に固定されるベース部と、このベース部と一体的に形成されたリップ部とを備えてなり、前記弾性帯部材は、前記弾性シール部材よりも軟質の材料にて形成され、前記リップ部は、その先端部が前記弾性帯部材に当接して、前記弾性帯部材を変形させるように構成されているものが好ましい。
【0013】
このような構成によれば、弾性シール部材が弾性帯部材に減り込むように変形するので、弾性シール部材と弾性帯部材との接触面積が大きくなる上に、弾性シール部材が弾性帯部材の変形反力を受けることで密着性がより一層高くなる。さらに、弾性シール部材に押し込まれて凹んだ弾性帯部材の凹部表面が、弾性シール部材のリップ部の押さえ部となって、その反転(捲れ)を防止できる。
【0014】
また、本発明においては、前記弾性シール部材は、前記リップ部の先端が前記大断面トンネルの外側に向くように配置され、前記リップ部が、その復元力または前記大断面トンネルの外側の水圧によって前記弾性帯部材を前記大断面トンネルの内側に向けて押し退けるように変形させて、前記リップ部の、前記大断面トンネルの内側に前記リップ部を押さえる押さえ部が形成されるものが好ましい。
【0015】
このような構成によれば、押さえ部によってリップ部の反転が抑制されるので、さらなる止水性能の向上が図れる。
【0016】
さらに、本発明においては、前記弾性帯部材は、少なくも表面の一部に配置された水膨潤ゴムを備えて構成されているものも好ましい。
【0017】
このような構成によれば、水膨潤ゴムが水分を吸収すると膨張して弾性シール部材が押圧されるので、弾性シール部材と弾性帯部材間の密着性が高くなり、止水性能の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、大断面トンネルの止水性能の向上を図れるといった優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】大断面トンネルを示した断面図である。
【図2】本発明に係る止水構造の第一実施形態を示した拡大断面図である。
【図3】先行トンネル函体と後行トンネル函体を示した斜視図である。
【図4】隣り合う各トンネル函体の推進前の状態を示した断面図である。
【図5】トンネル函体および弾性帯部材の接合状態を示した斜視図である。
【図6】(a)、(b)、(c)、(d)は、弾性帯部材の接合状態を示した断面図である。
【図7】本発明に係る止水構造の第二実施形態を示した拡大断面図である。
【図8】(a)、(b)は、本発明に係る止水構造の第三実施形態を示した拡大断面図である。
【図9】従来の止水構造を示した断面図である。
【図10】従来の他の止水構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための第一実施形態を、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1に示すように、本実施形態に係る止水構造W1は、大断面トンネル1の内部(内空部)と外部(地山部)との間を止水する構造である。大断面トンネル1は、推進工法によって並設された複数本のトンネル(以下「小断面トンネル」と言う場合がある)T1のトンネル函体10を利用して築造される。大断面トンネル1は、その横断面の全てを実質的に含むように並設された複数本(本実施形態では六本)の小断面トンネルT1,T1,…を利用して築造したものであり、頂版1A、底版1Bおよび側壁1C,1Cを備えている。各小断面トンネルT1は、トンネル軸方向に連接された複数のトンネル函体10によってそれぞれ構成されている。
【0022】
図2および図3に示すように、隣り合う二つのトンネルT1,T1のうち、一方のトンネルT1の外殻11には突条P1が設けられ、他方のトンネルT1の外殻11にはガイド溝D1が形成されている。ガイド溝D1は、トンネル軸方向(図2において紙面垂直方向)に沿って形成されており、一方のトンネルT1に向かって開口している。突条P1は、他方のトンネルT1のガイド溝D1に遊嵌する。なお、以下では、一方のトンネルT1の突条P1と他方のトンネルT1のガイド溝D1を合わせて、単に「継手J1」と称することがある。そして、この継手J1よりも大断面トンネル1の外側(地山側)に、本発明の特徴部分である止水構造W1が形成されている。なお、継手J1と止水構造W1の位置関係は、これに限定されるものではなく、止水構造よりも大断面トンネルの外側(地山側)に継手を形成するようにしてもよい。
【0023】
止水構造W1は、隣り合う二つのトンネルT1,T1のうち、一方のトンネルT1の外表面10’に設けられる直線状の弾性シール部材20と、他方のトンネルT1の外表面10’に設けられる弾性帯部材30とを備えている。弾性シール部材20は、一方のトンネルT1のトンネル函体10(本実施形態では後行トンネル函体10a)の外表面10’に、推進方向(図2において紙面垂直方向)に沿って設けられている。弾性帯部材30は、他方のトンネルT1のトンネル函体10(本実施形態では先行トンネル函体10b)の外表面10’に設けられている。弾性帯部材30は、推進方向(トンネル軸方向)に沿って延在しており、弾性シール部材20に対向する位置に配置されている。そして、後行トンネル函体10aの推進時に、弾性シール部材20の先端部が弾性帯部材30に当接する。なお、図2においては、弾性シール部材20と弾性帯部材30とを区別しやすいように、僅かな隙間をあけて図示しているが、実際は密着している。また、弾性帯部材30の変形断面積は、弾性シール部材20に押し退けられた断面積(弾性帯部材30に減り込んでいる断面積)と同等であるが、押さえ部を強調するために、大きめに図示している。
【0024】
図2および図4に示すように、弾性シール部材20は、後行トンネル函体10aの外表面10’のうち、先行トンネル函体10bに対向する部分に設けられている。弾性シール部材20は、凹溝12に固定されている。凹溝12は、後行トンネル函体10aの外表面10’を構成する外殻11に形成されている。弾性シール部材20は、例えば、耐摩耗性を備えた硬質ゴムやウレタン等の材料にて構成されている。弾性シール部材20は、推進方向に沿って延在しており、隙間なく連続して設けられている(図3参照)。弾性シール部材20は、トンネル函体10の軸方向長さと同等の長さに形成されている。なお、弾性シール部材20は、搬送時や縦坑内での取り回しが可能であれば、トンネル函体10の軸方向長さよりも長くしてもよい。弾性シール部材20は、施工現場にて、端部同士が熱溶着されて長尺に一体化されている。弾性シール部材20は、後行トンネル函体10aの外表面10’に沿って固定されるベース部21と、このベース部21と一体的に形成されたリップ部22とを備えてなる。
【0025】
ベース部21は、板状に形成され、その厚さ寸法が、凹溝12の深さ寸法と同等になっている。ベース部21の表面は、外表面10’の凹溝12のない部分(凹溝12の開口部先端位置)と面一になっている。ベース部21は、凹溝12内に収容されており、例えば、接着剤やボルト(図示せず)等の固定手段によって凹溝12に固定されている。なお、本実施形態でベース部21は、凹溝12に収容されて固定されているが、これに限定されるものではなく、凹溝が形成されない平面状の外表面に直接固定してもよい。
【0026】
リップ部22は、ベース部21の表面から斜めに立ち上がっている。リップ部22は、弾性的に傾倒変形可能な部位であって、後行トンネル函体10aと先行トンネル函体10bとで挟まれることで後行トンネル函体10a側に傾倒する。このとき、リップ部22は、元の形状に復元しようとする力によって、先行トンネル函体10b側に戻ろうとして、弾性帯部材30の表面を弾性的に押圧する。
【0027】
弾性シール部材20は、リップ部22の先端が大断面トンネル1の外側(地山側)に向くように配置される。つまり、ベース部21とリップ部22とにより形成される溝条23が、大断面トンネル1の外側の地山に向かって開くように配置されている。そして、弾性シール部材20の溝条23部分に、大断面トンネル1の外側の圧力(地下水圧)が作用すると、リップ部22は、先行トンネル函体10bの外表面10’の弾性帯部材30に押圧されて密着するようになる。
【0028】
弾性帯部材30は、先行トンネル函体10bの外表面10’のうち、弾性シール部材20に対向する部分に設けられている。弾性帯部材30は、凹溝13に固定されている。凹溝13は、先行トンネル函体10bの外表面10’を構成する外殻11に形成されている。弾性帯部材30は、本実施形態では、例えば、耐摩耗性を備えたゴムやウレタン等の、弾性シール部材20よりも軟質(ゴム硬度が小さい)の材料にて構成されている。弾性帯部材30は、水膨潤ゴムにて形成してもよい(詳細は第三実施形態を参照)。弾性帯部材30は、推進方向に沿って連続して設けられている(図4参照)。
【0029】
図5に示すように、弾性帯部材30は、板状に形成され、推進方向に複数本連接されている。弾性帯部材30は、トンネル函体10の軸方向長さと同等の長さ、あるいは搬送可能な長さに形成されている。弾性帯部材30は、施工現場にて、端部同士が熱溶着されて長尺に一体化されている。弾性帯部材30は、熱溶着位置がトンネル函体10,10同士の接合位置と揃うように配置されている。なお、弾性帯部材30の熱溶着位置と、トンネル函体10,10同士の接合位置との関係は、これに限定されるものではなく、熱溶着位置が、トンネル函体の軸方向中間部に位置するようにしてもよい。また、弾性帯部材を長尺部材として、複数のトンネル函体に渡って固定するようにしてもよい。凹溝13は、先行トンネル函体10b同士を接合したときに、直線状に繋がるように形成されている。弾性帯部材30は、その厚さ寸法が、凹溝13の深さ寸法と同等になっており、弾性帯部材30の表面は、その周囲の外表面10’と面一になっている(図4参照)。このように、弾性帯部材30が凹溝13に収容されて、弾性帯部材30の表面と凹溝13が形成されない部分の外表面10’とが面一になっていると、先行トンネル函体10bの推進時の抵抗を抑えられる上に、弾性帯部材30の磨耗を抑制することができる。
【0030】
図6の(a)に示すように、弾性帯部材30は、凹溝13の内部に収容されており、例えば、接着剤14によって凹溝13の底面および側面に固定されている。なお、弾性帯部材30の固定は、前記構成に限定されるものではなく、たとえば、図6の(b)に示すように、ボルトB等の固定手段を用いて、弾性帯部材30aを先行トンネル函体10bに固定するようにしてもよい。この場合、凹溝13の幅方向両側に、ボルト頭部B1の収容部13aを形成し、この収容部13aにボルトBを螺合させ、ボルト頭部B1で押さえるワッシャ15の縁部で弾性帯部材30aを係止する。弾性帯部材30aは、高さ方向中央部が突出した凸形状となっている。このとき、弾性帯部材30aの幅方向中間部は、弾性シール部材20の当接部分となるので、ワッシャ15の縁部で係止されるのは、弾性帯部材30aの幅方向両端の一部のみである。このときも、凹溝13の内周に接着剤14を塗布して、弾性帯部材30aを固定すると、止水性能が向上するので好ましい。
【0031】
さらに、図6の(c)に示すように、凹溝13の断面よりも大きい断面(図中、二点鎖線にて示す)の弾性帯部材30aを圧縮状態で凹溝13に収容してもよい。この場合、弾性帯部材30aが元の大きさに戻ろうとする復元力によって、凹溝13の壁面が押圧される。なお、その他の構成は図6の(b)と同様であるので、同じ符号を付して説明を所略する。このような構成によれば、接着剤を用いなくても、弾性帯部材30aを凹溝13に固定することができるとともに、弾性帯部材30aと凹溝13間の止水性を確保できる。
【0032】
本実施形態においては、弾性帯部材30は、凹溝13に表面が面一に収容されて固定されているが、これに限定されるものではない。たとえば、弾性帯部材の先端部が、凹溝から後行トンネル函体側にはみ出して突出するように形成してもよいし、弾性帯部材を、凹溝が形成されない平面状の外表面に直接接着固定してもよい。このように、弾性帯部材が先行トンネル函体の外表面よりも突出するように構成した場合、弾性シール部材の突出寸法を小さくすることができる。また、弾性帯部材を突出させることで、弾性シール部材との密着性をより一層高めることもできる。
【0033】
凹溝が形成されず、平坦な外表面10’に弾性帯部材30aを固定する場合には、図6の(d)に示すような構造が挙げられる。まず、平坦な外表面10’に、凸形状の弾性帯部材30aを接着剤14を用いて固定する。そして、弾性帯部材30aの幅方向両端を段差付のワッシャ15aで係止する。ワッシャ15aは、ボルトBによって、トンネル函体10の外表面10’に固定される。
【0034】
以下、大断面トンネル1の築造工程を説明しながら、前記構成の止水構造W1の作用効果を説明する。
【0035】
大断面トンネル1を築造するには、まず、図1に示すように、その断面内の下部中央に一本目のトンネルT11を構築したうえで、この一本目のトンネルT11の横両隣りに二本目のトンネルT12および三本目のトンネルT13を順次構築する。続いて、一本目のトンネルT11の縦(上)隣りに四本目のトンネルT14を構築し、さらに、トンネルT12およびトンネルT14に隣接する位置に五本目のトンネルT15を構築し、トンネルT13およびトンネルT14に隣接する位置に六本目のトンネルT16を構築する。なお、トンネルT11〜T16の構築順序は、図示のものに限らず、適宜変更しても差し支えない。また、本実施形態においては、隣り合うトンネルT1,T1は、後行のトンネルT1を構築する際に、継手J1を介して互いに平行になるようにガイドされる。
【0036】
前記のように、後行トンネル函体10aが先行トンネル函体10bの側部または上部を推進する際には、図2に示すように、後行トンネル函体10a側の弾性シール部材20のリップ部22が、先行トンネル函体10b側の弾性帯部材30に当接する。このとき、弾性帯部材30は、弾性シール部材20と比較して軟質の材料にて構成されているので、弾性シール部材20のリップ部22の先端部が、弾性帯部材30の表面に押し込まれる。そして、弾性帯部材30には、リップ部22の先端部の形状に沿って凹部が形成される。このとき、リップ部22の先端部によって押し退けられた部分が、大断面トンネル1の内側(内空側)へと移動し、押さえ部31が形成される。押さえ部31は、リップ部22よりも大断面トンネル1の内側に形成される。ここで、弾性帯部材30の変形量は、弾性シール部材20のリップ部22の変形量よりも大きく、多くの容積の弾性帯部材30が、リップ部22によって押し退けられ、大きい押さえ部31が形成される。
【0037】
以上のような構成の止水構造W1によれば、弾性シール部材20の先端部が、金属ではない弾性帯部材30に当接するので、互いの摩擦抵抗が大きくなる。したがって、弾性シール部材20と弾性帯部材30との密着性が高くなり、リップ部22の滑りを抑制することができる。これによって、リップ部22の内側への反転(捲れ)を抑制でき、止水性能の向上を図ることができる。
【0038】
また、弾性帯部材30は弾性シール部材20よりも軟質の材料で形成されているので、弾性シール部材20が弾性帯部材30に減り込むように変形している。これによって、弾性シール部材20と弾性帯部材30との接触面積が大きくなるので、密着性がより一層高くなる。さらに、互いの変形によって、弾性シール部材20の復元力(リップ部22の湾曲による反力)と、弾性帯部材30の復元力(凹部が元に戻ろうとする応力)とが互いに押し合う方向に作用するので、密着性がさらに高くなる。
【0039】
また、弾性シール部材20に押し込まれて凹んだ弾性帯部材30の凹部表面(押さえ部31の表面)が、弾性シール部材20のリップ部22に当接してストッパの機能を果たす。したがって、リップ部22が内側(大断面トンネル1の内側)にそれ以上変形するのを防止でき、その反転(捲れ)を抑えられるので、止水性能が大幅に向上する。
【0040】
リップ部22の先端部は、後行トンネル函体10a側に押されて湾曲するが、このとき、リップ部22の反力(復元力)によって弾性帯部材30を押圧するので、弾性帯部材30との密着性がより一層高くなる。さらに、地山側の水圧がリップ部22にかかると、水圧はリップ部22を弾性帯部材30側に押し付ける方向にかかるので、密着性がより一層高くなる。
【0041】
また、弾性シール部材20および弾性帯部材30は、それぞれ熱溶着によって一体化されているので、シールが途切れることがない。さらに、弾性帯部材30を設けたことによって、先行トンネル函体10b同士の継目に段差が発生した場合であっても、弾性帯部材30の変形で段差を吸収できるので、弾性帯部材30の表面は平面形状を保持できる。したがって、弾性シール部材20との密着性を確保でき、止水性能の低下を防止できる。
【0042】
次に、図7を参照して、本発明を実施するための第二実施形態を説明する。第二実施形態に係る止水構造W2は、弾性シール部材20のリップ部22の先端に、先細り形状の爪部25が形成されている。爪部25は、リップ部22の先端から先方に突出するように形成されており、先端が尖った先細りの断面形状を呈している。このように、弾性シール部材20の先端に爪部25が形成されていることによって、弾性シール部材20が弾性帯部材30に当接したときには、弾性帯部材30の表面の凹部に、さらに凹んだ爪部収容溝32が形成されることとなる。なお、その他の構成は第一実施形態と同様であるので、同じ符号を付して説明を省略する。
【0043】
以上のような構成によれば、爪部25が、弾性帯部材30に対する係止部を構成することとなり、弾性シール部材20の反転防止効果が高くなる。また、弾性シール部材20と弾性帯部材30との接触面積が大きくなるので、互いの密着性をより一層高めることができる。さらには、爪部25の先端が鋭角な断面形状を呈しているので、弾性帯部材30の凹部の折返し部分も鋭角となる。したがって、水が回り込み難くなり、止水効果がさらに向上する。
【0044】
次に、図8を参照して、本発明を実施するための第三実施形態を説明する。第三実施形態に係る止水構造W3は、弾性帯部材35が、少なくも表面の一部に配置された水膨潤ゴムを備えて構成されていることを特徴とする。図8の(a)に示す弾性帯部材35は、表面全体に設けられた水膨潤ゴム36と、その奥に設けられた弾性ゴム37とを備えている。水膨潤ゴム36は、水分を吸収すると膨張する。弾性ゴム37は、例えば、ゴムやウレタン等の材質にて構成されている。なお、弾性シール部材20については、第一実施形態と同様の構成であるので、同じ符号を付して説明を省略する。このような構成の止水構造W3によれば、水膨潤ゴム36が水分を吸収すると、図中、破線にて示すように弾性シール部材20側に膨張して、弾性シール部材を押圧するので、弾性シール部材20と弾性帯部材35間の密着性が高くなり、止水性能の向上を図ることができる。また、リップ部22よりも大断面トンネルの内側で膨張した水膨潤ゴム36は、押さえ部31(図中、破線にて示す)を構成するので、リップ部22の内側への反転(捲れ)を抑制できる。
【0045】
なお、水膨潤ゴム36の設置位置は前記の構成に限定されるものではなく、図8の(b)に示すように、弾性帯部材35の表面のうち、リップ部22よりも大断面トンネルの内側の部分のみに、水膨潤ゴム36を設けるようにしてもよい。このような構成によっても、図8の(a)と同様に、水膨潤ゴム36が水分を吸収すると、図中、破線にて示すように弾性シール部材20側に膨張して、弾性シール部材を押圧するので、弾性シール部材20と弾性帯部材35間の密着性が高くなり、止水性能の向上を図ることができる。また、膨張した水膨潤ゴム36は、押さえ部31(図中、破線にて示す)を構成するので、リップ部22の内側への反転(捲れ)を抑制できる。なお、本実施形態では、水膨潤ゴム36は、弾性帯部材35の一部のみに設けられているが、弾性帯部材の全体を水膨潤ゴムで構成するようにしてもよい。
【0046】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は前記実施の形態に限定する趣旨ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、弾性シール部材20がベース部21とリップ部22とで構成されているが、この形状に限定されるものではなく、弾性帯部材30に減り込む突条を備えていれば、他の形状であってもよい。
【符号の説明】
【0047】
W1 止水構造
T1 (小断面)トンネル
1 大断面トンネル
10 トンネル函体
10’ 外表面
20 弾性シール部材
21 ベース部
22 リップ部
30 弾性帯部材
31 押さえ部
36 水膨潤ゴム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
推進工法によって並設された複数本のトンネルを利用して築造した大断面トンネルの止水構造において、
隣り合う二つの前記トンネルのうちの一方のトンネルの外表面に推進方向に沿って設けられる直線状の弾性シール部材と、他方のトンネルの外表面に設けられる弾性帯部材とを備え、
前記弾性シール部材の先端部が前記弾性帯部材に当接している
ことを特徴とする大断面トンネルの止水構造。
【請求項2】
前記弾性シール部材は、前記一方のトンネル函体の外表面に固定されるベース部と、このベース部と一体的に形成されたリップ部とを備えてなり、
前記弾性帯部材は、前記弾性シール部材よりも軟質の材料にて形成され、
前記リップ部は、その先端部が前記弾性帯部材に当接して、前記弾性帯部材を変形させるように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の大断面トンネルの止水構造。
【請求項3】
前記弾性シール部材は、前記リップ部の先端が前記大断面トンネルの外側に向くように配置され、
前記リップ部が、その復元力または前記大断面トンネルの外側の水圧によって前記弾性帯部材を前記大断面トンネルの内側に向けて押し退けるように変形させて、前記リップ部の、前記大断面トンネルの内側に前記リップ部を押さえる押さえ部が形成される
ことを特徴とする請求項2に記載の大断面トンネルの止水構造。
【請求項4】
前記弾性帯部材は、少なくも表面の一部に配置された水膨潤ゴムを備えて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の大断面トンネルの止水構造。
【請求項1】
推進工法によって並設された複数本のトンネルを利用して築造した大断面トンネルの止水構造において、
隣り合う二つの前記トンネルのうちの一方のトンネルの外表面に推進方向に沿って設けられる直線状の弾性シール部材と、他方のトンネルの外表面に設けられる弾性帯部材とを備え、
前記弾性シール部材の先端部が前記弾性帯部材に当接している
ことを特徴とする大断面トンネルの止水構造。
【請求項2】
前記弾性シール部材は、前記一方のトンネル函体の外表面に固定されるベース部と、このベース部と一体的に形成されたリップ部とを備えてなり、
前記弾性帯部材は、前記弾性シール部材よりも軟質の材料にて形成され、
前記リップ部は、その先端部が前記弾性帯部材に当接して、前記弾性帯部材を変形させるように構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の大断面トンネルの止水構造。
【請求項3】
前記弾性シール部材は、前記リップ部の先端が前記大断面トンネルの外側に向くように配置され、
前記リップ部が、その復元力または前記大断面トンネルの外側の水圧によって前記弾性帯部材を前記大断面トンネルの内側に向けて押し退けるように変形させて、前記リップ部の、前記大断面トンネルの内側に前記リップ部を押さえる押さえ部が形成される
ことを特徴とする請求項2に記載の大断面トンネルの止水構造。
【請求項4】
前記弾性帯部材は、少なくも表面の一部に配置された水膨潤ゴムを備えて構成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の大断面トンネルの止水構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2011−202421(P2011−202421A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−71185(P2010−71185)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
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