説明

大気中のトリチウム及び炭素14の同時捕集装置

【課題】同時に90%以上の効率で濃縮捕集でき、さらに捕集現場での煩雑な準備操作をほとんど必要とせずに一連の操作を自動化できる装置を提供する。
【解決手段】屋外または屋内の大気試料中の水素の放射性同位体であるトリチウム及び炭素の放射性同位体である炭素14を構造中に持つ気体状成分の捕集装置であって、連続して吸引する大気試料中の該気体状成分を加熱した酸化触媒に接触させて連続的にトリチウム水及び炭酸ガスに変換させた後、大気試料とトリチウム水及び炭酸ガスに対して溶解力の大きいまたは親和性が高く混和するあるいは選択的に反応する1種類の吸収液を連続的に接触させてトリチウム水及び炭酸ガスを同時に該吸収液中に連続的に濃縮捕集する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中に含まれる気体状のトリチウム及び炭素14のガス並びに化合物の同時捕集装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の大気中のトリチウム及び炭素14の捕集方法として、トリチウムはモレキュラシーブまたはシリカゲルによる吸湿法(非特許文献1参照)、あるいはコールドトラップによる冷却凝集捕集方法や液体捕集方法など(非特許文献2参照)があり、炭素14はアルカリ溶液を用いる捕集法またはモレキュラシーブ等の吸着剤を用いる捕集法(非特許文献3参照)などがある。
【0003】
また、大気中のトリチウム及び炭素14を一台で捕集できる装置も開発されており(特許文献1及び特許文献2参照)、図4に示すように、ダストフィルタ16から導入された大気中のトリチウム及び炭素14の気体状成分を、燃焼管17で燃焼させてトリチウム水及び炭酸ガスに変換し、トリチウム水を固体二酸化炭素とエタノールによるコールドトラップ19、炭酸ガスを2−アミノエタノール(モノエタノールアミン)中への通気による炭酸ガストラップ21により、それぞれ捕集することができる。燃焼管17には酸化触媒として酸化銅が充填されており、電気炉18により加熱される。また、コールドトラップ19はジュワーびん20に組みこまれている。炭酸ガストラップ21と大気試料を吸引するエアポンプ13bの間には活性炭充填トラップ22があり、コールドトラップ及び炭酸ガストラップを通過したトリチウム水及び炭酸ガス、炭酸ガストラップに使用されている2−アミノエタノールのミスト、並びにその他の成分が活性炭に捕集除去された後、エアポンプ13bを経て大気試料が装置外に排出される。
【0004】
一方、気体成分の捕集装置として、これまで試料気体と液滴状の吸収液を連続的に接触させて目的成分を吸収液中に濃縮捕集できるネブライザ・デニューダ連結による連続濃縮気体採取装置を開発し(特許文献3参照)、同じ吸収液に溶解しやすい気体成分については同時捕集が可能である。
【0005】
【非特許文献1】放射能測定法シリーズ9 トリチウム分析法 平成14年改定 文部科学省
【非特許文献2】作業環境測定基準 労働省告示第73号 平成4年9月
【非特許文献3】放射能測定法シリーズ25 放射性炭素分析法 平成5年 科学技術庁
【特許文献1】特開昭56−90299号公報
【特許文献2】特開平9−61316号公報
【特許文献3】特開2004−233061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、以上の技術によれば、大気中のトリチウム及び炭素14を構造中に持つ気体状成分の捕集は、核種及び核種の性状によりそれぞれ別に捕集を行い、捕集後にそれぞれ抽出や濃縮あるいは蒸留などの処理を行うなど、各捕集操作はいずれも煩雑な手順と複雑な試験器具の組み立てが必要である。
【0007】
また、これまでに開発された大気中のトリチウム及び炭素14の捕集装置は、捕集現場での準備操作としてコールドトラップのための固体二酸化炭素とエタノールの充填及びコールドトラップの組み立て、炭酸ガストラップのための2−アミノエタノールの充填及びトラップの組み立てが必要であり、捕集後は各トラップを分解し、各捕集液をそれぞれ洗浄しながら回収しなければならないため、現場での捕集操作が煩雑なだけでなく、固体二酸化炭素など試薬類の取り扱い上での危険性もある。
【0008】
しかも、これまでに開発された大気中のトリチウム及び炭素14の捕集装置は、1測定ごとに上記の準備操作と捕集後の捕集液の回収及び洗浄操作が必要であり、連続の捕集操作には不適である。例えば1測定地点での一定時間ごとの連続捕集による大気中のトリチウム及び炭素14の経時変化測定を行う場合、捕集装置を2台以上使用し、上記の準備操作と捕集後の捕集液の回収及び洗浄操作を含めて交互に捕集操作を行わなければならず、多大な労力を必要とする。
【0009】
さらに、従来の技術では大気中のトリチウム及び炭素14の捕集効率が90%以下である場合、捕集時の気温及び湿度、並びに気圧から捕集結果を計算により補正しなければならない。
【0010】
一方、ネブライザ・デニューダ連結による連続濃縮気体採取装置を用いた場合でも、大気中のトリチウム及び炭素14を構造中に持つすべての気体状成分に対して溶解または混和あるいは反応により90%以上の捕集ができる吸収液はなく、大気試料と1種類の吸収液を直接接触させるだけですべての成分を1種類の吸収液で同時に捕集することはできない。
【0011】
そこで、この発明は、大気中のトリチウム及び炭素14を構造中に持つ気体状成分を加熱した酸化触媒に接触させてトリチウム水及び炭酸ガスに変換した後、1種類の吸収液に接触させて同時に90%以上の効率で濃縮捕集でき、さらに捕集現場での煩雑な準備操作をほとんど必要とせずに一連の操作を自動化できる装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するために、第一発明は、屋外または屋内の大気試料中の水素の放射性同位体であるトリチウム及び炭素の放射性同位体である炭素14を構造中に持つ気体状成分の捕集装置であって、連続して吸引する大気試料中の該気体状成分を加熱した酸化触媒に接触させて連続的にトリチウム水及び炭酸ガスに変換させた後、大気試料とトリチウム水及び炭酸ガスに対して溶解力の大きいまたは親和性が高く混和するあるいは選択的に反応する1種類の吸収液を連続的に接触させてトリチウム水及び炭酸ガスを同時に該吸収液中に連続的に濃縮捕集することを特徴とする大気試料中のトリチウム及び炭素14の同時捕集装置である。
【0013】
また、第二発明は、前記酸化触媒が加熱された白金または酸化銅触媒であって、白金または酸化銅触媒を充填したカラムと、白金または酸化銅触媒を充填したカラムを加熱するための加熱炉と、加熱炉の温度を調節する温度調節器からなる酸化反応部を形成し、酸化反応部でトリチウム水及び炭酸ガスに連続的に変換された前記気体状成分が、酸化反応部の後段に接続された気体捕集部を連続して前記吸収液とともに移動し、前記トリチウム水及び炭酸ガスを同時に1種類の前記吸収液中に連続的に濃縮捕集することを特徴とする大気試料中のトリチウム及び炭素14の同時捕集装置である。
【0014】
第三発明は、前記気体捕集部が前記大気試料の流れによって前記吸収液を微細な液滴状に噴霧するクロスフロー型ネブライザと、前記大気試料と微細な液滴状の前記吸収液が連続的に接触して流れるデニューダ管と、前記デニューダ管の出口に接続された前記大気試料と前記吸収液を慣性分離する気液分離筒からなり、前記デニューダ管内に前記大気試料と前記吸収液の接触効率を高めるために表面をフッ素樹脂でコーティングされたガラス繊維の糸が挿入されていることを特徴とする大気試料中のトリチウム及び炭素14の同時捕集装置である。
【0015】
第四発明は、少なくとも前記大気試料中の粒状物質を除去するためのフィルタを組み込んだ大気試料採取ホルダと、前記酸化触媒を充填したカラム及び前記加熱炉並びに温度調節器からなる前記酸化反応部と、前記クロスフロー型ネブライザ及び前記デニューダ管並びに前記気液分離筒からなる前記気体捕集部と、前記大気試料を吸引して取りこむためのエアポンプと、前記吸収液を前記気体捕集部に注入するための吸収液注入ポンプと、前記気体捕集部において前記気体状成分を濃縮捕集した前記吸収液を前記気体捕集部から回収するための吸収液回収ポンプと、前記気体捕集部の前記気液分離筒から排出される前記気体状成分を捕集除去された前記大気試料中に混入した蒸気またはミスト状の前記吸収液を吸着させて除去するために活性炭を充填した活性炭カラムと、取り込んだ前記大気試料の流量を測定して前記気体状成分の捕集における前記大気試料の総量を積算できる機能を有する流量センサからなり、一連の操作の一部または全部を自動化できることを特徴とする大気試料中のトリチウム及び炭素14の同時捕集装置である。
【発明の効果】
【0016】
第一発明によれば、大気中のトリチウム及び炭素14の気体状成分を加熱した酸化触媒に接触させてトリチウム水及び炭酸ガスに変換し、トリチウム水及び炭酸ガスと溶解または混和あるいは選択的に反応する吸収液、例えばトリチウム水と混和し、かつ炭酸ガスと反応して溶解させる2−アミノエタノールと連続的に接触させて、トリチウム水及び炭酸ガスを同時に吸収液である2−アミノエタノール中に連続的に濃縮捕集することができる。
【0017】
また、第二発明によれば、大気中のトリチウム及び炭素14の気体状成分を酸化反応部の加熱された白金または酸化銅触媒によりトリチウム水及び炭酸ガスに変換した後、大気試料が連続して白金または酸化銅触媒の後段に接続された気体捕集部で吸収液と接触しながら移動し、トリチウム水及び炭酸ガスを同時に一種類の吸収液中に連続的に濃縮捕集することができる。
【0018】
第三発明によれば、気体捕集部がクロスフロー型ネブライザとデニューダ管と気液分離筒からなり、デニューダ管内に表面をフッ素樹脂でコーティングされたガラス繊維の糸が挿入されていることにより、大気試料と吸収液の接触効率が高まり、大気試料と吸収液の流量比を最適化して連続的に気体捕集部に導入するだけで、酸化触媒によりトリチウム水及び炭酸ガスに変換された気体状成分を同時にかつ高効率で一種類の吸収液中に連続的に濃縮捕集することができる。トリチウム及び炭素14の標準試薬を使用した回収試験を例にとると、トリチウム及び炭素14の標準試薬を加熱して気化させ、窒素ガスとともに酸化反応部に導入してトリチウム水及び二酸化炭素に変換した後気体捕集部に導入し、気体試料流量を2.0l/分、吸収液を2−アミノエタノールとして流量を0.4ml/分の条件で捕集を行った結果、トリチウムは90%以上、炭素14は95%以上の安定した回収率が得られている。
【0019】
第四発明によれば、酸化反応部の加熱された酸化触媒に接触させてトリチウム水及び炭酸ガスに変換された大気中のトリチウム及び炭素14の気体状成分を、クロスフロー型ネブライザとデニューダ管並びに気液分離筒からなる気体捕集部で吸収液に同時に濃縮捕集する一連の捕集操作の一部または全部を自動で行うことができる。
【0020】
さらに本発明によれば、大気中のトリチウム及び炭素14を長時間連続して捕集することができ、例えばトリチウム及び炭素14を捕集した吸収液を一定時間あるいは一定容量ごとに分画分取できるフラクションコレクターにより回収し、分画回収した吸収液ごとにトリチウム及び炭素14を測定することにより、大気中のトリチウム及び炭素14濃度の経持変化を安全にかつ少ない労力で容易に測定することができる。
【0021】
さらに、これまで大気中のトリチウム及び炭素14の捕集は核種及び核種の性状によりそれぞれ別に捕集するため、1捕集地点の1測定において最終的に得られる捕集試料は複数であり、それぞれの捕集試料について個別に放射能の測定を行わなければならなかったが、本発明によれば、1捕集地点の1測定に対する最終的な大気中のトリチウム及び炭素14の捕集試料はひとつだけであり、例えば得られた捕集試料に乳化シンチレータやトルエンシンチレータ等のシンチレータを添加し、液体シンチレーションカウンタで放射能を同時計測することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
この発明の一実施形態を、図1に示す。トリチウム及び炭素14の気体状成分を含む大気試料は、装置の最後段に設置されたエアポンプ13aにより吸引され、大気試料採取ホルダ1から取りこまれる。大気試料採取ホルダ1は、合成高分子または金属製のオープンフェイスタイプのフィルタホルダであり、図示されていないが、大気試料中の埃塵等の粒状物質や異物等を除去するためのフィルタが組み込まれている。粒状物質を除去するためのフィルタは、対象とするトリチウム及び炭素14の気体状成分を吸着、または反応しない材質のもので、ガラス繊維、セラミック繊維、または合成高分子などのシート状フィルタを一種類、あるいは材質または孔径の異なるフィルタを2種類以上組み合わせて使用する。例えば、ガラス繊維ろ紙とフッ素樹脂製メッシュシートを組み合わせて大気試料採取ホルダに組みこむ。
【0023】
大気試料採取ホルダから取りこまれた大気試料は、積算機能付流量計2を経て、酸化触媒である白金触媒充填カラム3及び加熱炉4並びに加熱炉用温度調節器5からなる酸化反応部6に導入され、トリチウム及び炭素14の気体状成分がトリチウム水及び炭酸ガスに変換される。このとき白金触媒充填カラムは小型管状炉などの加熱炉4により加熱されており、加熱炉は加熱炉用温度調節器5により600〜800℃に保たれる。なお、図示していないが、酸化触媒として白金触媒の変わりに酸化銅触媒を用いてもよい。
【0024】
酸化反応部6によりトリチウム水及び炭酸ガスに変換された大気試料中のトリチウム及び炭素14の気体状成分は、気体捕集部10のクロスフロー型ネブライザ7に導入され、同時に吸収液注入ポンプ12によって供給される吸収液とともにデニューダ管7を移動する。この間に大気試料と吸収液は接触を繰り返し、トリチウム水及び炭酸ガスは吸収液中に同時に捕集され、気液分離筒9で慣性分離により気液分離される。
【0025】
トリチウム水及び炭酸ガスが吸収液に捕集されて除去された大気試料は、気液分離筒の上部から活性炭カラム11に入り、大気試料中に混入した吸収液の蒸気及びミストや、大気試料中に含まれていた2−エタノールアミンなどのアルカリ性の吸収液に捕集されない気体状成分などを活性炭に吸着させて除去する。活性炭カラムは材質がガラスまたは合成高分子の筒状で、粒状活性炭を充填したものであり、活性炭カラムを通過した大気試料は、流量調節弁10を経て、大気試料を吸引して本装置に取りこむためのエアポンプ13aによって吸引され、装置外に排出される。
【0026】
一方、トリチウム水及び炭酸ガスを捕集した吸収液は、気液分離筒9で慣性分離された後、気液分離筒の下部から捕集液として吸収液回収用ポンプ15によって排出され、図示されていないがバイアルびんなど任意の捕集液回収容器に回収される。
【0027】
図2は、大気試料中のトリチウム及び炭素14を構造中に持つ気体状成分をトリチウム水及び炭酸ガスに変換させる酸化反応部の一実施例である。本発明で使用する酸化反応部は、前述のように白金触媒充填カラム及び加熱炉4並びに加熱炉用温度調節器5からなり、白金触媒充填カラムは加熱炉により600〜800℃に加熱されることから、カラム本体3aの材質は600〜800℃で安定に使用でき、さらに対象成分が吸着、あるいは反応等をしない石英またはセラミックとする。カラム本体の形状は管状であり、中央部の触媒充填部に比較して両端が細く、例えば触媒充填部は外径16mmφ、両端は外径6mmφでそれぞれ肉厚が1.5〜2mm程度の石英管を溶接加工したものを使用する。このとき白金触媒充填部の長さは100±5mmとし、このカラム本体に粒状の白金触媒3bを充填し、さらに白金触媒の両端に触媒を封入するための石英ウール3cを充填する。図示していないが、酸化触媒として白金触媒の変わりに酸化銅触媒を用いてもよい。
【0028】
図3は、酸化反応部でトリチウム水及び炭酸ガスに変換された大気試料中のトリチウム及び炭素14を吸収液に捕集する気体捕集部の一実施例である。気体試料噴射口7aと吸収液吐出口7bが直角に近接しており、気体試料の流れによって吸収液が微細な液滴状とされ、ネブライザ出口7cからデニューダ管8の内壁及びデニューダ管内部に充填されたガラス繊維糸充填剤8b表面に噴霧される。大気試料と微細な液滴状の吸収液が接触しながらデニューダ管内を移動する間に、トリチウム水及び炭酸ガスは吸収液中に捕集され、次いで気液分離筒9で慣性分離により気液分離される。クロスフロー型ネブライザ及びデニューダ管並びに気液分離筒の材質は、トリチウム水及び炭酸ガスの捕集に適した吸収液が2−アミノエタノールなどのアルカリ性溶媒であることから、耐アルカリ性でかつ対象成分の吸着や反応等がないポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはパーフロロアルキルビニールエーテル樹脂(PFA)等のフッ素系樹脂とした。
【0029】
図示していないが、本発明による大気中のトリチウム及び炭素14の捕集操作は、大気試料採取ホルダ1の設置、流量センサ2の条件設定及び酸化反応部6の温度調節、エアポンプ13aの電源投入、並びに吸収液注入ポンプ14及び吸収液回収ポンプ15の流量設定と、捕集液の回収用容器の設置であり、大気試料採取ホルダ1の設置及び捕集液の回収用容器の設置を除いて、あらかじめ条件を設定しておけば電源を投入するだけで捕集操作の一部または全部の自動運転が可能となる。さらに流量センサ2及び加熱炉用温度調節器5と、図示されていないが吸収液注入ポンプ14及び吸収液回収ポンプ15の流路にセンサを設け、それぞれに異常時の警報機能、例えば大気試料採取ホルダの目詰まりによる大気試料流量の低下や加熱炉の設定温度範囲以上の加熱が発生した場合に警告音を発するとともに電源を遮断するなどの機能を付加することで、自動運転の場合の安全性を確保できる。
【実施例1】
【0030】
本発明による大気中のトリチウム及び炭素14の捕集は同時捕集であり、1測定につき得られる捕集試料は1つで、捕集後に抽出や濃縮、蒸留等の操作も不要であることから、得られた捕集試料に例えば乳化シンチレータやトルエンシンチレータ等のシンチレータを一定量添加し、液体シンチレーションカウンタでトリチウム及び炭素14の放射能を同時計測することが可能である。
【0031】
また、この発明によれば、大気中のトリチウム及び炭素14を構造中に持つ気体状成分を核種及び化学形態によらず1捕集操作で90%以上の捕集効率で同時捕集でき、捕集現場での煩雑な準備操作も不要で自動捕集できる。さらに使用する試薬類は吸収液の2−アミノエタノールだけであり、捕集後の抽出や濃縮、蒸留等の捕集試料の処理も不要で、最終的なトリチウム及び炭素14の計測も同時に行えることから、従来の技術に比較して捕集及び計測に係る人件費や使用試薬等のコストを1/2以下に抑えることができる。
【実施例2】
【0032】
本発明による大気中のトリチウム及び炭素14の捕集装置の大気試料採取ホルダをエアフィルタを内蔵した配管接続用のジョイント型とし、例えば原子力施設に敷設されているガス系配管から分岐させたガス採取用配管と接続し、ガス系配管から直接気体試料をトリチウム及び炭素14の捕集装置に導入し、気体試料中のトリチウム及び炭素14を捕集した後、エアポンプの大気試料排出口から排出される気体試料をもとのガス系配管に接続して気体試料をもとのガス系配管に戻す構造とすることにより、インライン型の気体試料中のトリチウム及び炭素14の捕集装置とすることができる。
【0033】
この方式によれば、トリチウム及び炭素14並びにその他の放射性核種を含む気体試料を外部に取り出すことなく捕集操作を行うことができ、さらに捕集操作を自動化することで無人でトリチウム及び炭素14の捕集が行えることから、捕集操作時の作業者への放射線被ばくや環境への放射能汚染を防止することができ、安全性の高いトリチウム及び炭素14の捕集装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施例である大気中のトリチウム及び炭素14の同時捕集装置の構成図である。
【図2】本発明の大気中のトリチウム及び炭素14の同時捕集装置に組み込まれる酸化反応部の一実施例である。
【図3】本発明の大気中のトリチウム及び炭素14の同時捕集装置に組み込まれる気体捕集部の一実施例である。
【図4】従来技術の一実施例である大気中のトリチウム及び炭素14の捕集装置の構成図である。
【符号の説明】
【0035】
1 大気試料採取ホルダ
2 積算機能付流量センサ
3 白金触媒充填カラム
3a カラム本体
3b 白金触媒
3c 石英ウール
4 加熱炉
5 加熱炉用温度調節器
6 酸化反応部
7 クロスフロー型ネブライザ
7a 気体試料噴射口
7b 吸収液吐出口
7c ネブライザ出口
8 デニューダ管
8a ガラス繊維糸充填剤
9 気液分離筒
10 気体捕集部
11 活性炭カラム
12 流量調節弁
13a エアポンプ
13b エアポンプ
14 吸収液注入ポンプ
15 吸収液回収ポンプ
16 ダストフィルタ
17 燃焼管
18 電気炉
19 コールドトラップ
20 ジュワーびん
21 炭酸ガストラップ
22 活性炭充填トラップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外または屋内の大気試料中の水素の放射性同位体であるトリチウム及び炭素の放射性同位体である炭素14を構造中に持つ気体状成分の捕集装置であって、連続して吸引する大気試料中の該気体状成分を加熱した酸化触媒に接触させて連続的にトリチウム水及び炭酸ガスに変換させた後、大気試料とトリチウム水及び炭酸ガスに対して溶解力の大きいまたは親和性が高く混和するあるいは選択的に反応する1種類の吸収液を連続的に接触させてトリチウム水及び炭酸ガスを同時に該吸収液中に連続的に濃縮捕集することを特徴とする大気試料中のトリチウム及び炭素14の同時捕集装置。
【請求項2】
前記酸化触媒が加熱された白金または酸化銅触媒であって、白金または酸化銅触媒を充填したカラムと、白金または酸化銅触媒を充填したカラムを加熱するための加熱炉と、加熱炉の温度を調節する温度調節器からなる酸化反応部を形成し、酸化反応部でトリチウム水及び炭酸ガスに連続的に変換された前記気体状成分が、酸化反応部の後段に接続された気体捕集部を連続して前記吸収液とともに移動し、前記トリチウム水及び炭酸ガスを同時に1種類の前記吸収液中に連続的に濃縮捕集することを特徴とする請求項1に記載の大気試料中のトリチウム及び炭素14の同時捕集装置。
【請求項3】
前記気体捕集部が前記大気試料の流れによって前記吸収液を微細な液滴状に噴霧するクロスフロー型ネブライザと、前記大気試料と微細な液滴状の前記吸収液が連続的に接触して流れるデニューダ管と、前記デニューダ管の出口に接続された前記大気試料と前記吸収液を慣性分離する気液分離筒からなり、前記デニューダ管内に前記大気試料と前記吸収液の接触効率を高めるために表面をフッ素樹脂でコーティングされたガラス繊維の糸が挿入されていることを特徴とする請求項1または2に記載の大気試料中のトリチウム及び炭素14の同時捕集装置。
【請求項4】
少なくとも前記大気試料中の粒状物質を除去するためのフィルタを組み込んだ大気試料採取ホルダと、前記酸化触媒を充填したカラム及び前記加熱炉並びに前記温度調節器からなる前記酸化反応部と、前記クロスフロー型ネブライザ及び前記デニューダ管並びに前記気液分離筒からなる前記気体捕集部と、前記大気試料を吸引して取りこむためのエアポンプと、前記吸収液を前記気体捕集部に注入するための吸収液注入ポンプと、前記気体捕集部において前記気体状成分を濃縮捕集した前記吸収液を前記気体捕集部から回収するための吸収液回収ポンプと、前記気体捕集部の前記気液分離筒から排出される前記気体状成分を捕集除去された前記大気試料中に混入した蒸気またはミスト状の前記吸収液を吸着させて除去するために活性炭を充填した活性炭カラムと、取り込んだ前記大気試料の流量を測定して前記気体状成分の捕集における前記大気試料の総量を積算できる機能を有する流量センサからなり、一連の操作の一部または全部を自動化できることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の大気試料中のトリチウム及び炭素14の同時捕集装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−127585(P2007−127585A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322041(P2005−322041)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000140627)株式会社化研 (27)
【Fターム(参考)】