説明

大気圧イオン化質量分析装置

【課題】イオン化プローブへの液体試料の接続部で万一液漏れが発生した場合に、漏出した液体を適切に排出できる大気圧イオン化質量分析装置を提供する。
【解決手段】イオン化プローブ10を質量分析装置筐体12に装着するためのフランジ3の上面に隆起する周縁に囲まれた凹部9を備えると共に、この凹部9の底から外部に連通する排液孔8を設ける。これにより、漏出した液体はプローブ筒体1の表面を伝ってフランジ3の凹部9に流下しさらに凹部9の底に設けた排液孔8からドレンポット等へ安全に排出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧イオン化方式により液体試料をイオン化して分析する質量分析装置に関し、特にそのイオン化プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析装置は液体クロマトグラフと組み合わせた複合分析装置として用いられることがあり、このための質量分析装置には液体クロマトグラフから送られてくる液体試料をイオン化するインターフェイスが必要である。インターフェイスにおけるイオン化方式として、大気圧下で液体を霧化した後、コロナ放電を利用してイオン化する大気圧化学イオン化法(APCI)や高電界を利用してイオン化するエレクトロスプレーイオン化法(ESI)が広く用いられる。いずれの方式でもインターフェイスの主要部は液体試料を霧化してイオン化室内に向けて噴霧するイオン化プローブと呼ばれる筒状体で構成される。
【0003】
図3に、従来のイオン化プローブとこれを質量分析装置の筐体に装着するためのフランジの構造の一例を示す。なお、同図はESIの場合を例示したものであるが、APCIの場合も基本的に同様である。
【0004】
図3において、プローブ筒体1とその先端に設けられたノズル2等で構成されるイオン化プローブ10は、ノズル2から液体が下向きに大気圧イオン化室11内に噴霧されるように質量分析装置筐体12にフランジ3を介して鉛直に装着されている。図示しない液体クロマトグラフから送られてくる液体試料は液体試料接続口4からプローブ内のキャピラリ7に導入され、ネブライザガス接続口5から導入されるネブライザガスにより霧化され、高電圧の印加されたノズル2の先端から荷電液滴となって噴霧される。イオン化プローブ10の内部構造および動作原理については本件出願と同じ発明者の出願になる特許文献1に詳述されているので、ここでは説明を省略する。
【0005】
フランジ3は、プローブ筒体1に固定されている内側フランジ3aと、内側フランジ3aを抱き入れる凹部9を有する外側フランジ3b、および内側フランジ3aを凹部9に押さえ込む押さえ板3cとで構成され、外側フランジ3bを質量分析装置筐体12に固定することでイオン化プローブ10が装着される。凹部9の内径は内側フランジ3aの外径よりも大きいので、調節ネジ6を廻すことで内側フランジ3aは外側フランジ3bに対して水平方向(図では左右方向)に摺動することができ、これによりイオン化プローブ10の装着位置の微調整が可能である。
【0006】
【特許文献1】特開2007−227254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の従来構成において、液体試料接続口でネジの緩み等の原因により液漏れが発生した場合、漏出した液体はプローブ筒体の表面を伝って質量分析装置筐体に流下して装置を汚すばかりでなく、電気装置に侵入して故障を起こし、或いは感電の危険性を生じることがある。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、イオン化プローブへの液体試料の接続部で万一液漏れが発生した場合に漏出した液体を適切に排出できる大気圧イオン化質量分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために、イオン化プローブを質量分析装置筐体に装着するためのフランジの上面に隆起する周縁に囲まれた凹部を備えると共に、この凹部の底から外部に連通する排液孔を設ける。
これにより、漏出した液体はプローブ筒体の表面を伝ってフランジの上面凹部に流下しさらに凹部の底に設けた排液孔からドレンポット等へ安全に排出される。
【発明の効果】
【0010】
本発明は上記のように構成されているので、液体試料の接続部からの万一の液漏れに際し、漏出した液体を適切に排出することにより装置の故障や感電の危険性を回避することができ、また、既設のフランジを漏出した液の受け皿として利用するので、液漏れ処理機能を付加するためのコスト上昇を最小限に抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
イオン化プローブを質量分析装置筐体に装着するためのフランジの上面に隆起する周縁に囲まれた凹部を備えると共に、この凹部の底から外部に連通する排液孔を設けるが、質量分析計の筐体にはさらに排液の排出路を設ける。
【実施例1】
【0012】
図1(A)に本発明の一実施例を示す。同図において図3と同一物は同符号を付すことで再度の説明を省く。本実施例が図3に示す従来例と相違する点は、外側フランジ3bの凹部9の底に排液孔8を穿設し、さらに、質量分析装置筐体12の排液孔8に連通する位置に導孔8aを穿設したことである。また、押さえ板3cには、図1(B)に示すように、ドーナツ状円板の中心穴から放射状に延びる切り欠き3dを数カ所に設けてある。
【0013】
このように構成することにより、本実施例では、液体試料接続口4から漏出した液体はプローブ筒体1を伝って内側フランジ3aの上面に流下した後、押さえ板3cの切り欠き3dを通って外側フランジ3bの凹部9の底に落ち、さらに排液孔8と導孔8aを通過して外部へ排出されるから、適宜にドレンポット(図示しない)等に導いて処理すればよい。
【実施例2】
【0014】
図2は、他の実施例として本発明の最も簡単な構成例を示す。同図においても図1または図3と同一物は同符号を付してあるので再度の説明を省く。本実施例は、フランジ3が単一構造であってイオン化プローブ10の装着位置を微調整する機能を持たない場合の例である。
【0015】
図2において、フランジ3はその上面に凹部9が設けられ、その底から側面に向けて排液孔8が穿設され、その先に軟質材料から成る排液チューブ8bが接続され、図示しないドレンポット等に連通している。
このような構成により、液体試料接続口4から漏出した液体はプローブ筒体1を伝ってフランジ3の凹部9に流入し、その底の排液孔8から排液チューブ8bを通って図示しないドレンポット等に安全に導かれる。
【0016】
上記二つの実施例からわかるように、本発明は上部の液体試料接続口4から漏出する液体の受け皿として既設のフランジを利用するものであるから、最小限の追加コストで漏れ液処理機能を付加することができる。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明は大気圧イオン化質量分析装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の他の実施例を示す図である。
【図3】従来の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0019】
1 プローブ筒体
2 ノズル
3 フランジ
3a 内側フランジ
3b 外側フランジ
3c 押さえ板
3d 切り欠き
4 液体試料接続口
5 ネブライザガス接続口
6 調節ネジ
7 キャピラリ
8 排液孔
8a 導孔
8b 排液チューブ
9 凹部
10 イオン化プローブ
11 大気圧イオン化室
12 質量分析装置筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料を大気圧イオン化室内に噴霧してイオン化するイオン化プローブがその筒体軸心に対して直角方向に張り出すフランジを介して略鉛直に装着されて成り、前記フランジは前記イオン化プローブの筒体に固定された内側フランジとこれを抱き入れる凹部を上面に有する外側フランジとで構成される大気圧イオン化質量分析装置において、前記凹部の底から外部に連通する排液孔を設けたことを特徴とする大気圧イオン化質量分析装置。
【請求項2】
液体試料を大気圧イオン化室内に噴霧してイオン化するイオン化プローブがその筒体軸心に対して直角方向に張り出すフランジを介して略鉛直に装着されて成る大気圧イオン化質量分析装置において、隆起する周縁に囲まれた凹部を前記フランジの上面に有すると共に、該凹部の底から外部に連通する排液孔を設けたことを特徴とする大気圧イオン化質量分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−222444(P2009−222444A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−64982(P2008−64982)
【出願日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】