説明

大気圧イオン源の性能強化

質量分析計に接続されたエレクトロスプレー・イオン化源は、器具分析用途において広く使用されている。エレクトロスプレイ(ES)イオン化において生じる処理は、試料種のイオン化に影響を及ぼすH又は他のカチオン等の帯電種の追加又は除去を一般に含む。新たな一組の電解質は、より多くの従来の電解質を使用して得られる分析ESMS信号と比較する場合に、ESMS分析において測定される陽極性及び陰極性分析種信号を増加することが発見されている。新たな電解質種が、試料液に直接加えられる時に又はエレクトロスプレー膜プローブにおいて第2の溶液流に加えられる時に、ESMS信号が増加する。新たな電解質は、イオン化効率を改善するために大気圧イオン源の組合せとして構成される試薬イオン源にさらに加えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年6月1日に出願された特許文献1の利益を主張し、その内容が参照により本明細書に組み込まれる。
本願は、質量分析計に連結される大気圧イオン(API)源の分野に関する。当該API源は、エレクトロスプレー、大気圧化学イオン化(APCI)、複合イオン源、大気圧電荷注入マトリックス支援レーザー脱離(Atomospheric Pressure Charge Injection Matrix Assited Laser Deposition)、DART及びDESIを含むが、これらに制限されない。本願発明は、質量分析計に連結されるこれらのAPI源から生成された被分析イオン信号を増強するための新たな電解質種の使用法を含む。
【背景技術】
【0002】
帯電液滴生成非支援型エレクトロスプレー又は空気噴霧支援型エレクトロスプレー(ES)は、試料液流路における導電性表面において、種の酸化(陽イオン極性ES)又は種の還元(陰イオン極性)を必要とする。金属エレクトロスプレー針の先端が、一定の電圧又は接地電位に電気的に接続されて使用される場合、上記酸化反応又は還元反応(酸化還元反応)は、エレクトロスプレー・イオン化の間に金属エレクトロスプレー針の内面上で生じる。誘電性エレクトロスプレー先端が、エレクトロスプレー・イオン化において使用される場合、酸化還元反応は、試料液流路に沿って試料液と接触する導電性金属表面上に生じる。この導電性表面は、ステンレス鋼継ぎ手によって、石英ガラス製のエレクトロスプレー先端に一般的に接続される。エレクトロスプレー試料液の流路は、電気化学セル又は電流セルの半分を形成する。エレクトロスプレーにおいて形成された残り半分の電気化学セルは、気相中で機能する。結果として、電気化学セルの液体間の挙動を説明又は予測するために使用可能な作用の法則は、エレクトロスプレー・イオン化において生じるプロセスの一部を説明するために適用できる。電解質は、電気化学セルの液体に浸漬された電極表面において生じる酸化還元反応を促進させるのに役立つ。電解質は、単極性の帯電液滴を形成するために必要とされる最初の酸化還元反応に関与するのみならず、液滴の迅速な蒸発により関連する試料イオンの生成に基本的に影響を及ぼし、それらイオンは、その後気相を介して真空中に移送される。更なる電荷移動反応が、気相中で試料種とともに生じる。電解質が被分析種の液相及び気相イオン化に影響する仕組みは、明確ではない。
【0003】
電解質種の種類及び濃度は、ESイオン化効率に影響を及ぼす。電解質の種類、濃度、及び試料液の組成物は、試料液の誘電率、導電性及びpHに影響する。エレクトロスプレー先端と対電極との間に印加される相対的な電圧と、エレクトロスプレー先端の曲率の有効半径と、流体表面に出現する形状とによって、エレクトロスプレー針の先端において効果的な電場強度が判定される。印加された電場の強度は、エレクトロスプレー・イオン化において気相絶縁破壊又はコロナ放電の開始値直下に一般的に設定される。エレクトロスプレー操作の間にエレクトロスプレー先端において印加される電場の効果的な上限によって、エレクトロスプレーの全イオン電流が、溶液の特性並びに試料液の流路に沿う導電性表面の配置によって判定される。試料液と接触する最も近接する導電性表面とエレクトロスプレー先端との間の試料液の実効導電性が、エレクトロスプレーの全イオン電流を判定する役割を果たす。ESMS分析信号は、エレクトロスプレーの全イオン電流によって非常に
変化することが、エレクトロスプレー膜プローブを使用する研究によって知られている。エレクトロスプレー膜プローブの説明は、特許文献2及び特許文献3において行われ、参照として本願明細書に組み込まれる。
【0004】
酢酸及び蟻酸等の特定の有機酸種が有機溶液及び水溶液に加えられるときに、ES信号が
強化される。逆に、塩酸及びトリフルオロ酢酸等の無機酸がエレクトロスプレー試料液に加えられるときに、ES信号は減少される。様々な電解質対イオン種によるエレクトロスプレー・イオン化効率の変化の基礎となるメカニズムが提案されているが、エレクトロスプレー・イオン化処理の基礎となるこれらのルート調節物質の説明は、未だに推測を含む。エレクトロスプレー・イオン化において試料液に加えられる従来の電解質は、エレクトロスプレーMSの被分析イオン信号を最大化するために、一般的に選択される。あるいはま
た、電解質種及び濃度が、上流での試料準備又は試料分離システム性能と下流でのエレクトロスプレー性能とを最適化するために、合理的な妥協案として選択され、供給される。トリフルオロ酢酸は、逆相勾配液体クロマトグラフィーの試料分離を改善するために試料液に加えられるが、そのトリフルオロ酢酸の存在は、蟻酸又は酢酸等の有機電解質を試料液に加えてエレクトロスプレーすることと比較してエレクトロスプレーMS信号を非常に
減少させる。極性被分析種に一般的であるように、最も高いエレクトロスプレーMS信号
は、電解質として加えられる酢酸及び蟻酸を有する水中で、メタノール等の極性有機溶媒を使用して得られる。一般的に、30:70から50:50の比率のメタノールと水とが、0.1%から1%を超える範囲の濃度の酢酸又は蟻酸とともに流される。アセトニトリル等の非極性溶液を水とともに流すと、極性化合物のESMS信号が減少し、無機酸を追加
すると、酢酸又は蟻酸とともに水中において極性有機溶液を使用して得られた信号と比較してESMS信号が減少する。酸、塩基又は塩のいくつかの種は、ESMS被分析種を最大化するためにエレクトロスプレー・イオン化において電解質種として、様々な濃度及び様々な溶液組成物において使用される。水溶液に溶解しないいくつかの極性分析試料について、より高いESMS信号は、試料を電解質を有する純アセトニトリルに流すことによって得ら
れる。低親和性又は非親和性を有する炭水化物等の化合物について、塩電解質を加えると、より高いESMS信号を生成し得る。
【0005】
本願発明は、エレクトロスプレー・イオン化に使用され且つ報告された従来の電解質種によって得られたESイオン化効率と比較して、被分析種のエレクトロスプレー・イオン化効率を改善するために、エレクトロスプレー・イオン化において新たな一組の電解質種を使用する工程を含む。新たな電解質種でエレクトロスプレーを行う工程が、酢酸又は蟻酸を使用して得られた最も高いESMS信号と比較して、2から10の要因によってESMS分析信号の振幅を増大させる。ESMS信号強化は、新たな電解質が、試料液に直接加えられる
、又はエレクトロスプレー膜プローブの第2の溶液に加えられることによって得られる。試料液に加えられた従来の酸又は塩電解質が陽極性モードにおいてエレクトロスプレーされる場合に、この電解質からのアニオンは、陽イオンスペクトルにおいて容易に出現しない。予想されるように、これらの電解質のアニオンは、陰イオン極性のESMSスペクトル
に出現する。本願発明を含む新たな電解質の特色は、電解質種からの特有のプロトン化又は脱プロトン化親イオンが、エレクトロスプレー・イオン化を使用して得られる正極性スペクトル及び陰極性スペクトルの両方に出現することである。正極性エレクトロスプレー質量スペクトルにおいて出現する陽極性電解質イオンは(M+H)種であり、(M−H)種は陰極性エレクトロスプレー質量スペクトルにおいて出現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許仮出願第60/932,644号明細書
【特許文献2】米国特許出願第11/132,953号明細書
【特許文献3】米国特許仮出願第60/840,095号明細書
【特許文献4】米国特許出願第11/132,953明細書
【特許文献5】PCT特許出願第PCT/SE2005/001844明細書
【特許文献6】米国特許出願第11/396,968号明細書
【発明の概要】
【0007】
本願発明の一実施形態は、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸、又はトリメチル酢酸を含むが、これらに制限されない少なくとも一つの新たな一組の電解質を試料液に直接加えるMS分析によって、被分析種のエレクトロスプレー・イオン化を実行する工程を含む
。電解質は、その流体搬送システムから試料液に含有され、又はT字型流路接続を通って
エレクトロスプレー先端近くの試料液に加えられる。
【0008】
本願発明の別の実施形態は、試料液のエレクトロスプレーの間にエレクトロスプレー膜プローブの第2の溶液流に、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸、又はトリメチル酢酸を含むが、これらに制限されない少なくとも一つの新たな一組の電解質を加える工程を含む。新たな電解質の濃度は、第2の溶液流路を通じてステップ関数または勾配を実行することによって変更又は走査できる。第2の溶液流は、MS分析でのエレクトロスプレー・
イオン化の間に、試料液流中への新たな電解質の濃度の移行を減少させることを可能にする半透膜によって、試料液流から分離される。
【0009】
本願発明の別の実施形態は、第2の電解質種を含む試料液のエレクトロスプレーの間にエレクトロスプレー膜プローブの第2の溶液中に、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸、又はトリメチル酢酸を含むが、これらに制限されない少なくとも一つの新たな一組の電解質を加える工程を含む。第2の溶液流への新たな電解質種の追加は、第2の電解質種が単独で使用されたときにESMS分析信号を減少させても、エレクトロスプレーMS信号を増加させる。第2の溶液流における新たな電解質の濃度は、分析ESMS信号を最大化するた
めに段差又は傾斜がつけられる。
【0010】
本願発明の別の実施形態は、MS分析でのエレクトロスプレー・イオン化の間に複数の
膜区分のエレクトロスプレー膜プローブの下流の膜区分の第2溶液流において、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸又はトリメチル酢酸を含むが、これらに制限されない少なくとも一つの新たな一組の電解質を加える工程を含む。一つ以上の膜区分は、下流のエレクトロスプレー膜プローブから試料液流路における上流を構成することができる。上流の膜区分を使用して電子捕捉及び解放された試料種は、電子捕捉処理を独立して最適化する電解質種に加える一方、新たな電解質種が、被分析種のエレクトロスプレー・イオン化効率を最適化するために下流の膜区分の第2の溶液流を通って加えられる。
【0011】
本願発明のさらに別の実施形態において、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸又はトリメチル酢酸を含むが、これらに制限されない少なくとも一つの新たな電解質が、単一APCI注入口プローブにおける試料液に加えられる、又は大気圧コロナ放電イオン化において生成されたイオン信号を強化するためにAPCI二重注入口プローブにおいて第2の溶液からスプレーされる。
【0012】
本願発明の別の実施形態において、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸、トリメチル酢酸を含むが、これらに制限されない少なくとも一つの新たな電解質は、エレクトロスプレー・イオン化及び/又は大気圧化学イオン化を含むイオン源の組合せにおいて構成されるエレクトロスプレー・イオン生成源を有する試薬イオン源から溶液エレクトロスプレーされる溶液に加えられる。
【0013】
本願発明の更に別の実施形態において、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸又はトリメチル酢酸を含むが、これらに制限されない少なくとも一つの新たな電解質が、エレクトロスプレー・イオン化及び/又は大気圧化学イオン化を含むイオン源の組合せにおいて構成される試薬イオン源を形成するコロナ放電イオン化によって霧状化される溶液に加えられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】質量分析計と相互作用するエレクトロスプレー・イオン源の概略図。
【図2】エレクトロスプレー膜プローブの断面図。
【図3】試料液流路、第2の溶液流路及びエレクトロスプレー膜プローブにおける半透膜を考慮する拡大図。
【図4】エレクトロスプレー・イオン源プローブの取付プレート上に取り付けられた気体噴霧(スプレー)器と一体化された単一区分エレクトロスプレー膜プローブを示す図。
【図5】三つ区分のエレクトロスプレー膜プローブの概略図。
【図6】試料液エレクトロスプレー注入口プローブ及びエレクトロスプレー試薬イオン源を備える大気圧イオン源の組合せの図。
【図7】10μl/minの流量においてエレクトロスプレーされる一方、従来の電解質種及び新たな電解質種を使用するエレクトロスプレー膜プローブの第2の溶液流における電解質濃度勾配を表す、メタノール:水溶液の比が1:1における1μMヘキサチロシンのESMSイオン信号曲線を示す図。
【図8】10μl/minの流量においてエレクトロスプレーされる一方、エレクトロスプレー膜プローブの第2の溶液流において、及び異なる濃度において試料液に直接加えられた安息香酸とともに、従来の及び新たな電解質種濃度勾配を表す、メタノール:水溶液の比が1:1における1μMヘキサチロシンのESMS信号曲線を示す図。
【図9】試料液に直接加えられる異なる濃度の酢酸およびシクロヘキサンカルボン酸の10μl/minの流量においてエレクトロスプレーされる、メタノール:水溶液の比が1:1における1μMヘキサチロシンのESMSイオン信号を含む一組のESMS信号曲線を示す図。
【図10】10μl/minの流量においてエレクトロスプレーされる一方、純溶媒の試料液及び試料液に加えられた0.001%トリフルオロ酢酸を有するエレクトロスプレー膜プローブ第2の溶液流において酢酸及び安息香酸の電解質濃度勾配を表す、メタノール:水溶液の比が1:1における1μMヘキサチロシンの陽極性ESMSイオン信号を含む一組のESMS信号曲線を示す図。
【図11】10μl/minの流量においてエレクトロスプレーされる一方、純溶液の試料液を有するエレクトロスプレー膜プローブの第2の溶液流において酢酸及び安息香酸の電解質濃度勾配を表す、メタノール:水溶液の比が1:1おける1μMヘキサチロシンの陰極性ESMSイオン信号を含む一組のESMS信号曲線を示す図。
【図12】異なる濃度において試料液に別々に加えられた酢酸、安息香酸及びトリメチル酢酸の流量10μl/minにおいて溶解する、メタノール:水溶液の比が1:1における1μMレセルピンの陽極性ESMSイオン信号を含む一組のESMS信号曲線を示す図。
【図13】異なる濃度において試料液に別々に加えられた酢酸、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸及びトリメチル酢酸の流量10μl/minにおいて溶解される、メタノール:水溶液の比が1:1における1μMロイシン−エンケファリンの陽極性のESMSイオン信号を含む一組のESMS信号曲線を示す図。
【図14A】安息香酸の陽極性エレクトロスプレーの質量スペクトルの図。
【図14B】安息香酸の陰極性エレクトロスプレーの質量スペクトルの図。
【図15A】トリメチル酢酸の陽極性エレクトロスプレーの質量スペクトルの図。
【図15B】トリメチル酢酸の陰極性エレクトロスプレーの質量スペクトルの図。
【図16A】シクロヘキサンカルボン酸の陽極性エレクトロスプレーの質量スペクトルの図。
【図16B】シクロヘキサンカルボン酸の陰極性エレクトロスプレーの質量スペクトルの図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
任意の印加電場のエレクトロスプレーの全イオン電流は、試料液流路におけるエレクト
ロスプレー先端と第1の導電性表面との間の試料液の導電性の関数である。陽極性イオン
・エレクトロスプレーにおける主要な電荷担体は、エレクトロスプレー膜プローブにおける従来のエレクトロスプレー又は第2の溶液において試料液と接触する電極表面において生じる酸化還元反応から生成される一般的なHイオンである。試料又は第2の溶液に加えられた電解質は、エレクトロスプレー・イオン化の間に溶液にHイオンを加える又は除去する直接的又は非直接的な役割を果たす。Hイオンを生成する非直接的な役割は、電解質がHイオンを生成するために電極表面において水の電気分解を補助する場合が考えられる。直接的な電解質の役割は、電極表面において酸の電離及び電子の損失により直接的にHイオンを供給することである。陽イオン極性における電解質アニオン又は中性分子の種類及び濃度、さらに陰イオン極性は、多くの分析種のエレクトロスプレー・イオン化効率に非常に影響を及ぼす。電解質がエレクトロスプレー・イオン化においてイオン生成に影響を及ぼすように働く仕組み又は構成は、未だ良く知られていない。さらにエレクトロスプレー帯電液滴形成の間に生じる酸化還元反応において機能する電解質の役割は、未だ良く特徴付けられていない。結果として、エレクトロスプレー・イオン化において使用される電解質種の種類及び濃度は、特定のエレクトロスプレーMS分析用途の実験に
基づく証拠による決定とともに、試行錯誤を通して多くが判定される。この目的を達成するために、多数の電解質種は、電解質種が従来の又は過去に提供され改善されたエレクトロスプレー性能を使用する電解質とは異なる場合を判定するために、エレクトロスプレー膜プローブを使用してスクリーニングされる。一組の上記新たな電解質は、陽極性及び陰極性モードの両方において改善された被分析ESMS信号を明らかにすることにより、見出
された。一組の新たな電解質は、安息香酸、トリメチル酢酸及びシクロヘキサンカルボン酸を含むが、これらに制限されない。
【0016】
上述したように、エレクトロスプレー・イオン化において従来又は過去に使用される電解質とは異なり、新たな電解質でエレクトロスプレーされる時には、特徴的な電解質イオンピークは、陽極性及び陰極性イオン極性モードの両方において生成される。(M+H)イオンは、陽極性エレクトロスプレー・イオン化において、安息香酸、トリメチル酢酸、及びシクロヘキサンカルボン酸により生成される。反対に、(M−H)イオンは、予想されるように、図14、15、及び16に示されるように陰極性において、安息香酸、トリメチル酢酸及びシクロヘキサンカルボン酸をエレクトロスプレーするときに生成される。新たな電解質がエレクトロスプレー信号を強化する仕組み又は構成は、液相、気相又は両方に生じる。安息香酸は低い気相プロトン親和力を有し、プロトン化された安息香酸イオンは、気相の中性分析種にHを容易に提供し、又は気相においてより高いプロトン親和力の汚染種と競合する、移送プロトンによって分析イオンを生成したエレクトロスプレーの中和反応を減少する。
【0017】
エレクトロスプレー・イオン源1の断面概略図が、図1に示される。
エレクトロスプレー試料液の注入口プローブ2は、気体噴霧ガス7が、エレクトロスプレー先端4の周りに円錐形6に流出する、試料液流路又は管3、エレクトロスプレー先端4及び環5を備える。様々な電圧が、エレクトロスプレー・プルーム10において単一極性の帯電液滴を生成するように、エンドプレート及びノーズピース電極11、キャピラリー入口電極12及び円筒形レンズ13に印加される。一般的に、陽極性エレクトロスプレー・イオン化において、エレクトロスプレー先端4は接地電位において操作され、円筒形レンズ13、ノーズピース及びエンドプレート電極11及びキャピラリー入口電極12のそれぞれには−3KV、−5KV、及びー6KVが印加される。ガスヒータ15は、逆電流乾燥気体流17を加熱する。非支援型エレクトロスプレー又は気体噴霧支援型エレクトロスプレーによって生成された帯電液滴プルーム10を含む帯電液滴は、それら帯電液滴がエレクトロスプレー源チャンバ18を通過するのに伴い蒸発する。ノーズピース電極11におけるオリフィスを流出する加熱逆電流乾燥ガス14は、エレクトロスプレー・プルーム10を含む帯電液滴を乾燥させる役割を果たす。帯電液滴を迅速に蒸発させることにより生成
された一部のイオンは、電場によって、誘電性キャピラリー21のオリフィス20の中に入れられ又はこれを通過して真空内に入るように方向付けられる。キャピラリー・オリフィス20を出ていくイオンは、拡張中性ガス流及びキャピラリー出口レンズ23とスキマー電極24とに印加される相対的な電圧によってスキマー・オリフィス27を通るように方向付けられる。スキマー・オリフィス27を出ていくイオンは、イオンガイド25を通過し、当業者に公知の帯電分析及び帯電検出のために帯電分析器28に集積される。
【0018】
質量分析計において測定された分析イオン信号は、主に、特定の分析種についてのエレクトロスプレー・イオン化の効率のためである。エレクトロスプレー・イオン化効率は、大気圧イオン源において中性分子をイオンに変換する処理と、大気圧において生成されたイオンが真空内に移送される処理による効率とを含む。新たな電解質種は、エレクトロスプレー・イオン化効率に影響を及ぼす両方の仕組みに関与する。本願発明の一実施形態において、安息香酸、トリメチル酢酸及びシクロヘキサンカルボン酸を含む少なくとも一つの新たな電解質は、試料液がエレクトロスプレー先端4からエレクトロスプレー・イオン源チャンバ18内にエレクトロスプレーされる場合に、試料液流路3を通ってエレクトロスプレー先端4に搬送された試料液8に加えられる。
【0019】
図2は、本願発明の変形実施形態に使用されるエレクトロスプレー膜プローブ30の断面図を示す。エレクトロスプレー膜プローブ30は、特許文献4にさらに詳細に記載され、参照として本願明細書に組み込まれるが、試料液流31がエレクトロスプレー先端4において流出する試料液流路31Aを含む。図1と共通の要素には同じ符号が付されている
。電極33と接触する第2溶液が、第2溶液流路32Aを通過する。電圧が、電源装置3
5から電極33に印加される。試料液31及び第2溶液32が、半透膜34によって分離されている。半透膜34は、カチオン又はアニオン交換膜を含み得る。一般的なカチオン交換膜は、エレクトロスプレー膜プローブ組立体30において様々な厚み及び/又は導電性特性を有するように構成されるナフィオン(Nafion:登録商標)である。第2の溶液32の流れは、流路36を通ってアイソクラチック又は勾配流体搬送システム37から第2の溶液流路32A内に搬送され、通路38を通って流出する。試料液31の流れは
、流路41を通ってアイソクラチック又は勾配流体搬送システム40から試料液流路31Aに搬送される。誘電性プローブ本体区分42及び43は、試料液31及び第2溶液32
と化学的に反応しない化学的不活性物質を含む。流路31Aを通過する試料液31は、エ
レクトロスプレー・プルーム10を形成する空気噴霧支援とともに又は空気噴霧支援無しに、エレクトロスプレー先端4からエレクトロスプレーされる。空気噴霧支援を有するエレクトロスプレーは、エレクトロスプレーの先端4周り6において集中的に流出する、環5を通る流出噴霧ガス7によって実現される。単一極性帯電液滴のエレクトロスプレー生成を生じさせるために、相対的な電圧が、電源装置35,49及び50をそれぞれ使用して、第2の溶液電極33、ノーズピース及びエンドプレート電極11及びキャピラリー注入口電極12に印加される。加熱逆電流乾燥ガス14は、それら乾燥ガスが、印加電場によって駆動されるキャピラリー・オリフィス20に向かって移動するのに伴い、スプレー・プルーム10において帯電液滴を乾燥させる役割を果たす。エレクトロスプレー・プルーム10において液滴を迅速に蒸発することにより生成された一部のイオンは、キャピラリー・オリフィス20を通過し、帯電分析され且つ帯電検出されるように帯電分析器28内に集積される。
【0020】
図3は、本願発明の変形実施形態を用いる陽極性エレクトロスプレー・イオン化のエレクトロスプレー膜プローブ30操作モードの図である。安息香酸、トリメチル酢酸及びシクロヘキサンカルボン酸を含む少なくとも一つの新たな電解質種は、より高い濃度で、流体搬送システム37のシリンジ54に含まれる溶液に加えられる。シリンジ55は、シリンジ54内に投入されているような同じ溶媒組成物で充填されるが、新たな電解質種を加えられること無く充填される。第2の溶液32の特定の新たなイソクラチック電解質濃度
又は新たな電解質濃度勾配は、流体搬送システム37におけるシリンジ54及び55のポンプスピードの適切な比率を設定することによって、第2の溶液流路32Aに搬送される
。陽イオン極性エレクトロスプレー・イオン化の間に、Hは、第2の溶液電極33の表面において生成され、電場によって駆動されることにより、ほとんどHとして、半透膜34を通過し試料液31内に流入する。第2の溶液流路32Aを流通する新たな電解質種の一部は、半透膜34をさらに通過して試料液31に入り、試料液31において新たな電解質の正味の濃度を形成する。エレクトロスプレー操作の間に溶液31における新たな電解質濃度は、第2の溶液における新たな電解質濃度をはるかに下回る。エレクトロスプレーの全イオン電流及び結果としてエレクトロスプレー先端4における局所的な試料液pH、試料液31における新たな電解質濃度及び試料イオン・エレクトロスプレーMS信号反応は、第2の溶液流路32Aを流通する第2の溶液32において、新たな電解質濃度を調節することによって制御される。第2の溶液32の溶媒組成物は、新たな電解質種の溶解度及び性能を最適化するために、試料液の溶媒組成物とは異なるように構成される。
【0021】
図4は、エレクトロスプレー・イオン源プローブ・プレート61上に取り付られた空気噴霧エレクトロスプレー注入口プローブ組立体59に接続された単一膜区分組立体58を含むエレクトロスプレー膜プローブ57の一つの実施形態を示す。図1,2及び3に図示される共通する要素には同じ符号を付してある。
【0022】
図5は、電気捕捉二重膜区分67及び単一エレクトロスプレー膜区分68を含む3つの膜区分エレクトロスプレー膜プローブ組立体64の図である。各膜区分は、図2及び3に記載される単一区分エレクトロスプレー膜プローブと同様な方法で操作される。電気捕捉二重膜区分67は、電極71及び半透膜区分76を有する第2の溶液流路70と、電極73及び半透性膜区分77を有する第2の溶液流路72とを含む。単一膜区分68は、第2の溶液流路74、及び半透膜78を有する電極75を含む。電解質の種類、濃度及び溶液組成物は、以前に記載されるように、第2の溶液80,81及び82において制御される。図1〜4に記載される共通の要素には図5において同じ符号が付してある。電位曲線84は、陽極性エレクトロスプレー・イオン化及び陽極性イオン電気捕捉の試料液流路に沿ってセットされる相対的な電位の一例の図である。二重膜電気捕捉区分67は、係属中の特許文献5に記載され、参照として本明細書に組み込まれ、試料液において陽極又は陰極性試料イオンを捕捉し及び解放するために操作される。本願発明の変形実施形態において、安息香酸、トリメチル酢酸又はシクロヘキサンカルボン酸種を含む少なくとも一つの新たな電解質は、上述のようにエレクトロスプレー試料イオン信号を最大化するように制御される濃度を有する第2の溶液82に加えられる。第2の溶液82の組成物及び流量は変更可能であり、電気捕捉及びライン上のエレクトロスプレー性能を独立して最適化するよう、第2の溶液80及び81の組成物及び流量とは独立して制御される。
【0023】
図6は、空気噴霧支援を有するエレクトロスプレー注入口プローブ組立体90及び91を含む大気圧イオン源88の組合せの図である。エレクトロスプレー注入口プローブ90は、エレクトロスプレー先端4、及びエレクトロスプレー・プルーム10を含む帯電液滴を乾燥するのに役立つガス流93を加熱するガスヒータ92補助装置を含む。環電極94及び95に印加される電圧は、エレクトロスプレー注入口プローブ90及び91のそれぞれから、正味の中性液滴又は単一極性帯電液滴の生成制御を可能とする一方、スプレー混合領域96において不要電場を最小化する。エレクトロスプレー注入口91は、スプレー・プルーム10における帯電液滴を蒸発させることにより生成された揮発中性分子試料の一部の大気化学的イオン化に影響を及ぼす電場97によって、スプレー・プルーム10から取り出される場合の、試薬イオンの源を提供する。イオン源88の組合せは、係属中の特許文献6に記載され、参照として本明細書に組み込まれ、エレクトロスプレーのみのモード、APCIのみのモード、又はエレクトロスプレー及びAPCIモードの組合せとして操作される。本願発明の変形実施形態において、安息香酸、トリメチル酢酸、又はシクロヘキサ
ンカルボン酸を含む少なくとも一つの新たな電解質は、混合領域96において気相大気圧化学イオン化を促進させるために試薬イオンを生成する、エレクトロスプレー注入口プローブ90の試料液流及び/又はエレクトロスプレー注入口プローブ91の試薬溶液に加えられる。試料液に流れ込む新たな電解質種は、上述のように試料ESMSイオン信号を増加
できる。さらに、エレクトロスプレー・プローブ91からエレクトロスプレーされる試薬溶液における新たな電解質は、大気圧化学イオン化又はESの組合せ及びAPCI操作において電荷移動のための試薬イオンとして供給される、陽イオン極性エレクトロスプレーにおいてイオンをプロトン化する低プロトン親和力を形成する。新たな電解質種は、さらにAPCI性能源を改善するために、コロナ放電試薬イオン源又はAPCI源における試料液に加えられ得る。
【0024】
図7は、図1,2及び3に図示されるようにエレクトロスプレー膜プローブ構成30を使用してエレクトロスプレーされる、メタノール:水の比が1:1である試料液における1μMヘキサチロシン試料の一組のESMSイオン信号曲線を示す。すべての試料液は、1
0μl/minの流量で流される。異なる電解質種の濃度勾配が第2の溶液流路に形成されるときにエレクトロスプレー質量スペクトルが取得される。第2の溶液の溶媒組成物は、メタノール第2の溶液に流れ込んだナフトキシ酢酸を除いて流れる全ての電解質についてのメタノール:水の構成である。第2の溶液流において追加された電解質の濃度が増加すると、エレクトロスプレーの全イオン電流が増加する。図7に示される各曲線は、エレクトロスプレーの全イオン電流上にプロットされたヘキサチロシンのピーク振幅を有する効率的なベースイオンクロマトグラフである。ヘキサチロシン対エレクトロスプレーの全イオン電流の信号応答曲線100,101,102,103及び104は、酢酸(10%まで)、2−ナフタキシ酢酸(0.37Mまで)、トリメリット酸(0.244Mまで)、1,2,4,5ベンゼンカルボン酸(0.233Mまで)及びテレフタル酸(飽和)のそれぞれの第2の溶液濃度勾配を形成するときに取得される。従来の電解質である酢酸は、図6に示されるように、この一組の電解質のために、最も高いヘキサチロシンESMS信
号振幅を提供する。ヘキサチロシン信号応答曲線108は、新たな電解質のシクロヘキサカルボン酸(0.195Mまで)の第2の溶液に濃度勾配を形成するときに取得される。新たな電解質がエレクトロスプレー膜プローブ30の第2の溶液に流れ込んで得られる最大のヘキサチロシン信号は、電解質として酢酸で得られる最大振幅の2倍である。試料液と接触する半透膜の制限された断面積は、新たな電解質のシクロヘキサカルボン酸が第2の溶液に流れ込んだ状態で、エレクトロスプレーの全イオン電流範囲を制限する。以降の図面に示されるように、より高い分析信号は、新たな電解質種を試料液に直接加えることによって得られる。曲線108の形状及び振幅における相違は、新たな電解質のシクロヘキサカルボン酸が使用される場合に、エレクトロスプレー・イオン化処理の性能において明確な相違を例示する。
【0025】
図8は、図1,2及び3に図示されるようにエレクトロスプレー膜プローブ構成30を使用してエレクトロスプレーされた、メタノール:水の比が1:1である試料液における1μMヘキサチロシン試料の別の一組のESMSイオン信号曲線を示す。エレクトロスプレ
ー膜プローブ30の第2の溶液流において電解質濃度勾配を形成するとき、110から112及び115のヘキサチロシン・エレクトロスプレーMS信号応答曲線が取得される。
ヘキサチロシン・エレクトロスプレーMS信号応答曲線118は、試料液に直接加えられ
た異なる濃度の新たな電解質安息香酸を有する異なる試料液をエレクトロスプレーすることによって得られる。ヘキサチロシンのデータ終了ポイント113を有するESMS信号応
答曲線114は、試料液に直接加えられた異なる濃度のクエン酸を含む異なる試料液をエレクトロスプレーすることによって得られる。曲線114又は118を生成するために使用されるエレクトロスプレー膜プローブはない。ヘキサチロシン対エレクトロスプレーの全イオン電流の信号応答曲線110,111,112及び115は、従来の電解質、酢酸(第2の溶液において10%まで)、蟻酸(5%まで)及び硝酸(1%まで)及び新たな
電解質安息香酸(第2の溶液において0.41Mまで)のそれぞれの第2の溶液濃度勾配を形成するときに得られる。ヘキサチロシンESMS信号応答と、膜プローブ30の第2の
溶液に加えられた又はエレクトロスプレー・イオン化の間に試料液に直接加えられた新たな電解質安息香酸とを比較すると、同様なイオン信号は、生成された同じエレクトロスプレー・イオン電流について得られる。エレクトロスプレー膜プローブの第2の溶液に加えられた電解質を有するエレクトロスプレー性能は、一般的に同様のエレクトロスプレーの全イオン電流のエレクトロスプレー・イオン化の間に試料液に直接加えられた同じ電解質を有するエレクトロスプレー性能と非常に相互関連がある。曲線115及び118によって示されるように、増加されたヘキサチロシンESMS信号は、新たな電解質安息香酸がエ
レクトロスプレー膜プローブ30の第2の溶液に加えられる又はエレクトロスプレー・イオン化の間に試料液に直接に加えられる場合に、得られる。信号応答曲線118によって示される最大ヘキサチロシンESMS信号は、任意の従来の電解質酢酸、蟻酸又は硝酸又は
非従来の電解質クエン酸とともに得られるものの5倍を超える。
【0026】
メタノール:水の比が1:1である溶液における1μMヘキサチロシン試料のエレクトロスプレーMS信号応答曲線120及び121が、図9に示される。曲線121は、従来
の電解質酢酸の異なる濃度を含む異なる試料液をエレクトロスプレーすることによって生成される。曲線120は、新たな電解質シクロヘキサカルボン酸の異なる濃度を含む異なる試料液をエレクトロスプレーすることによって生成される。新たな電解質シクロヘキサカルボン酸で得られる最大ヘキサチロシンESMS信号は、従来の電解質酢酸で得られる最
大ヘキサチロシン信号の2倍を超える。
【0027】
メタノール:水の比が1:1である溶液における1μMヘキサチロシン試料の、エレクトロスプレー膜プローブ30を使用する3つのESMS信号応答曲線が、図10に示される
。曲線122はエレクトロスプレー膜プローブの第2の溶液流において酢酸の濃度勾配を形成することによって生成される。ヘキサチロシン信号における2つの増加要因に関して、信号応答曲線123によって示されるように、エレクトロスプレー膜プローブの第2の溶液において安息香酸の濃度勾配を形成することによって得られる。無機電解質の試料液への追加は、一般に所定のエレクトロスプレーの全イオン電流の分析信号応答を減少させる。ヘキサチロシン信号応答曲線124は、エレクトロスプレー膜プローブの第2の溶液において安息香酸の濃度勾配を形成するときに、試料液に加えられた0.001%トリフルオロ酢酸(TFA)で得られる。略100nAのエレクトロスプレーの全イオン電流は、曲線124上のデータポイント125において測定される。データポイント125、ヘキサチロシンのエレクトロスプレー信号は、ES膜プローブの第2の溶液に加えられた酢酸を有するESMS信号応答と比較して試料溶液に加えられた0.001%TFAより低い。非常に低い濃度の安息香酸は、データポイント125が必要とされた場合に、第2の溶液に加えられる。第2の溶液において安息香酸の濃度を増加させると、ヘキサチロシン信号が増大して、ESMS信号が試料液におけるTFAの影響を減少させることを克服する。試料液に0.001%TFAを加えても、新たな電解質安息香酸のES膜プローブの第2の溶液への
追加が、酢酸を第2の溶液に加えることで得られた最大ヘキサチロシンESMS信号の2倍
を超える最大値にまでヘキサチロシン信号を増大させる。
【0028】
図11は、エレクトロスプレー膜プローブを使用する、メタノール:水の比が1:1である溶液における1μMヘキサチロシン試料の陰イオン極性ESMS信号応答曲線を示す。
第2の溶液において酢酸の濃度勾配を形成しつつ、曲線127が得られる。エレクトロスプレー膜プローブ30の第2の溶液において安息香酸の濃度勾配を形成するときに、信号応答曲線128が得られる。新たな電解質安息香酸で得られる最大陰イオン極性ヘキサチロシンESMS信号は、従来の電解質酢酸で得られる最大ESMS信号の2倍を超える。
【0029】
メタノール:水の比が1:1の溶液における1μMレセルピン試料は、図12に示され
るESMS信号応答曲線を生成するようにエレクトロスプレーされる。新たな電解質安息香
酸及びトリメチル酢酸及び従来の電解質酢酸は、ESMS信号応答を比較するために異なる
試料液に異なる濃度で加えられる。レセルピンESMS信号応答曲線127,128及び1
29によって示されるように、新たな電解質種安息香酸及びトリメチル酢酸が試料液に加えられた場合、従来の電解質酢酸を試料液に加えてエレクトロスプレーを行った場合に得られるESMS信号と比較して、2倍の信号増大が達成される。
【0030】
試料液に加えられた4つの電解質を使用する、メタノール:水の比が1:1の溶液における1μMロイシン−エンケファリン試料のESMS信号応答の比較が、図13に示される
。新たな電解質、安息香酸、トリメチル酢酸及びシクロヘキサンカルボン酸及び従来の電解質酢酸は、ESMS信号応答曲線130,131,132及び133をそれぞれ生成する
ために異なるロイシン−エンケファリン試料液に異なる濃度で加えられる。新たな電解質を入れた場合、電解質酢酸で得られる最大信号応答と比較して、最大ロイシン−エンケファリン信号応答が2倍に増大した。個別に、ロイシン−エンケファリンESMS最大信号応
答における増加する要因は、試料液に安息香酸を加えることによって得られる。
【0031】
新たな電解質の特徴は、安息香酸、トリメチル酢酸、及びシクロヘキサンカルボン酸についてのそれぞれの図14A、15A及び16Aに示されるように、陽極性エレクトロスプ
レーで得られたESMSスペクトルにおいて、(M+H)電解質親イオンピークのイオン
が存在することである。上記親陽イオンは、エレクトロスプレー・イオン化において従来の電解質を入れる場合には一般に観察されない。予想されるように、(M-H)電解質
種のピークの存在は、図14B、15B及び16Bに示されるように陰イオン極性モードに
おいて得られるESMSスペクトルにおいて観察される。陽イオン極性エレクトロスプレー
において気相電解質親イオンの存在は、ESMS分析信号を増加させるのに役立ち得る。
【0032】
新たな安息香酸、トリメチル酢酸及びシクロヘキサンカルボン酸の電解質の使用は、陽極又は陰極イオン極性エレクトロスプレー・イオン化における試料についてESMS信号振
幅を増加させる。エレクトロスプレーMS分析信号の増大は、試料液に新たな電解質を直
接加えることによって又はエレクトロスプレー・イオン化の間にエレクトロスプレー膜プローブの第2の溶液に新たな電解質を流し込むことによって達成される。特定の実施形態に関する本願発明が記載されるが、さらなる改良及び変更が明かであり、又はそれら改良及び変更を示唆する、その記載は制限を意味しないことが理解されよう。本願は、全ての上記改良及び変形を包含することを意図する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスプレー・イオン化の間に、の安息香酸、トリメチル酢酸、又はシクロヘキサンカルボン酸のうちの一つの電解質を試料液に加える工程を有する、エレクトロスプレーMS分析イオン信号振幅を増大させるための方法。
【請求項2】
エレクトロスプレー・イオン化の間に、安息香酸、トリメチル酢酸、又はシクロヘキサンカルボン酸のうちの一つの電解質を、エレクトロスプレー膜プローブの第2の溶液に加える工程を有する、エレクトロスプレーMS分析イオン信号振幅を増大させるための方法

【請求項3】
安息香酸、トリメチル酢酸、又はシクロヘキサンカルボン酸のうちの少なくとも一つの電解質種を、試薬イオン源溶液に加える工程を有する、エレクトロスプレー及びAPCI源の組合せによって生成されたMS分析イオン信号を増大させるための方法。
【請求項4】
安息香酸、トリメチル酢酸、又はシクロヘキサンカルボン酸のうちの少なくとも一つの電解質種を試料液に加える工程を有する、APCI源によって生成されたMS分析イオン信号
を増大させるための方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−529435(P2010−529435A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510550(P2010−510550)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2008/065513
【国際公開番号】WO2008/151121
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(509329888)パーキンエルマー ヘルス サイエンス インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】PERKINELMER HEALTH SCIENCES INC.
【Fターム(参考)】