大気圧3次元イオントラッピングのための装置および方法
【課題】大気圧で規定された3次元空間内でイオンを選択的に伝搬し、イオンを捕捉するための装置を提供する。
【解決手段】アナライザ領域が第1および第2の空間を隔てた電極によって規定され、アナライザ領域がアナライザ領域を経てガスフローを距給するためのガス注入口およびガス放出口を有する高電界非対称波形イオン移動度分光法のイオン集束原理に基づいている。アナライザ領域に注入されるイオンは、ガス放出口に向かうガスフローによって搬送される。電極の少なくとも一方は、ガス放出口付近に位置する曲面の終端を備え、ガスフローは、イオンが終端の先端付近に位置する規定された3次元空間で捕捉されるように調整される。規定された3次元空間におけるイオンの捕捉によって、所望のイオンをさらに集中的に流すことができる。
【解決手段】アナライザ領域が第1および第2の空間を隔てた電極によって規定され、アナライザ領域がアナライザ領域を経てガスフローを距給するためのガス注入口およびガス放出口を有する高電界非対称波形イオン移動度分光法のイオン集束原理に基づいている。アナライザ領域に注入されるイオンは、ガス放出口に向かうガスフローによって搬送される。電極の少なくとも一方は、ガス放出口付近に位置する曲面の終端を備え、ガスフローは、イオンが終端の先端付近に位置する規定された3次元空間で捕捉されるように調整される。規定された3次元空間におけるイオンの捕捉によって、所望のイオンをさらに集中的に流すことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電界非対称波形イオン移動度分光法のイオン集束原理に基づき、大気圧で規定された3次元空間の中でイオンを捕捉するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現場移動可能な用途のために高感度および小型化のしやすさから、イオン移動度分光法は、麻薬、爆薬および化学戦用薬品を含むさまざまな化合物の検出のために重要な技術とされてきた(たとえば、G.Eiceman and Z.Karpas著『Ion Mobility Spectrometry』(CRC.Boca Raton,FL.1994)およびT.W.Carr編『Plasma Chromatrography』(Plenum,New York,1984)を参照されたい)。イオン移動度分光法において、気相イオン移動度は、一定電界のドリフト管を用いて決定される。イオンは、ドリフト管へゲート制御され、次にドリフト速度の差に基づいて分離される。イオンドリフト速度は、低電界(たとえば、200V/cm)で電解強度に比例し、実験によって決定される移動度Kは、印加された電界に無関係である。高電界(たとえば、5000V/cmまたは10000V/cm)でイオンドリフト速度は、印加された電界に直接比例しない可能性があり、Kは印加された電界に左右されるようになる(G.Eiceman and Z.Karpas著『Ion Mobility Spectrometry』(CRC.Boca Raton,FL.1994)およびE.A.Mason and E.W.McDaniel著『Transport Properties of Ions in Gases』(Wiley,New York,1988)を参照されたい)。高電界で、Kは非一定の高電界移動度を表す語Khによってよく表される。印加された電界におけるKhの依存度は、高感度非対称波形イオン移動度分光法(FAIMS)の結果に基づき、本開示を通して本発明者によって使用される語であり、横電界補償イオン移動度分光法または電界イオン分光法とも呼ばれる(I.Buryakov,E.Krylov,E.Nazarov and U.Rasulev,Int.J.Mass Spectrom.Ion Proc.128.143(1993);D.Riegner,C.Harden,B.Carnahan and S.Day,Proceedings of the 45th ASMS Conference on Mass Spectrometry and Allied Topics,Palm Springs,California,1−5 June 1997,p.473;B.Carnahan,S.Day,V.Kouznetsov,M.Matyjaszczyk and A.Tarassov,Proceedings of the 41st ISA Analysis Division Symposium,Framingham,MA,21−24 April 1996,p,85;B.Carnahan and A.Tarassovに付与された米国特許第5,420,424号を参照されたい)。イオンは、低電界におけるイオン移動度Kに対する高電界における移動度Khの差に基づいて、FAIMSにおいて分離される。すなわち、イオンは電界の関数としてKhの複合依存挙動のために分離される。この挙動はイオン移動度における変化であり、監視されている絶対的なイオン移動度ではないため、大気圧気相イオン研究にとって新たな手段を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5420424号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】アイスマンら(G.Eiceman and Z.Karpas)著、「イオン移動度分光測定法(Ion Mobility Spectrometry)」、(米国)、シーアールシー・ボカ・ラートン(CRC.Boca Raton)、1994年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明によって実現されるようなこの手段の1つは、イオントラッピングの分野において適用される。本発明者の知識では、大気圧(約760トール)で任意の種類の3次元イオントラップを製作する装置または方法は、まだ知られていない。他の3次元イオントラッピング方法は存在するが、このような既知のイオントラップは一般に、真空に近い状態である1トール未満で作動するように設計されている。圧力が10トールを超えて増大する場合に、このようなイオントラップの効率はきわめて急速に劣化し、760トールでこのような既知の方法を用いて捕捉を実現することを提案するための実験的または理論的根拠はない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様において、本発明は、規定された3次元空間内で、イオンを選択的に伝搬し、上記のイオンを捕捉するための装置であって、
a)イオンを生成するための少なくとも1つの電離源と、
b)使用中に非対称波形電圧および直流補償電圧を供給することができる電気制御装置への接続のために少なくとも第1および第2の空間を隔てられた電極の間の空間によって規定されるアナライザ領域を含み、非対称波形電圧および直流補償電圧の所与の組合せで、上記の電極の間の上記のアナライザ領域において、選択されたイオンのタイプを選択的に伝搬するためであり、上記のアナライザ領域が使用中に上記のアナライザ領域を通じてガスフローを供給するためのガス注入口およびガス放出口を備え、上記のアナライザ領域が上記の電離源によって生成されたイオンの流れを上記のアナライザ領域に注入するためのイオン注入口をさらに含む高電界非対称波形イオン移動度分光計と、
c)上記の電極の少なくとも1つに設けられた曲面の終端であって、上記の終端は、一部が上記のガス放出口に最も近い上記の電極の上記の1つの一部であり、上記の規定された3次元空間が上記の終端の付近に位置し、使用中に上記の非対称波形電圧、補償電圧およびガスフローが、上記の3次元空間内で上記の伝搬されたイオンを捕捉するために調整可能であるようになっているような曲面の終端と、を含む装置を提供する。
【0007】
上記の第1および第2の電極は、その間に非一定の電解を形成するために湾曲した電極本体を含んでもよく、それによって、使用中に上記のイオンが、上記のアナライザ領域にある上記の湾曲した電極本体の間に形成される集束領域に選択的に集束される。
【0008】
別の実施形態において、上記の第1および第2の電極は、その間に略環状の空間を規定する同軸に整列された略シリンダ形の外部電極本体および内部電極本体を含み、上記の環状の空間が上記のアナライザ領域を形成し、上記の終端が上記の内部シリンダ形電極本体の先端に設けられている。
【0009】
別の態様において、本発明は、3次元空間内でイオンを選択的に伝搬し、捕捉するための方法を提供する。上記の方法は、
a)イオンを生成するための少なくとも1つの電離源を設けるステップと、
b)少なくとも第1および第2の空間を隔てられた電極の間の空間によって規定されるアナライザ領域を設けるステップであって、上記のアナライザ領域がガス注入口、ガス放出口およびイオン注入口と通信を行い、上記の電離源によって生成された上記のイオンが、上記のイオン注入口で上記のアナライザ領域に注入されるようになっているステップと、
c)上記の電極の少なくとも1つに非対称波形電圧および直流補償電圧を供給
するステップと、
d)上記のアナライザ領域内のイオンの種類を選択的に伝搬するために、上記の非対称波形電圧および上記の補償電圧を調整するステップと、
e)上記の電極の少なくとも1つに設けられた曲面の終端を形成し、上記の規定された3次元空間が上記の終端の付近に位置するようにするステップと、
f)上記のガス注入口から上記のガス放出口まで流れている上記のアナライザ領域内のガスフローを形成し、上記の規定された3次元空間内部および付近で、上記の伝搬されたイオンを捕捉するために、上記のガスフローを調整し、上記のガス放出口が上記の終端付近に位置するようにするステップと、を含む。
【0010】
好都合なことに、上記のアナライザ領域は、実質的に大気圧および実質的に室温で作動可能である。
【0011】
本方法は、上記の捕捉されたイオンを抽出するために、イオン放出口を設け、上記のイオン放出口で抽出電圧を供給するステップであって、上記のイオン放出口が、上記の終端および上記の規定された3次元空間と実質的に整列するようになっているステップをさらに含む。
【0012】
さらに別の態様において、本発明は、規定された3次元空間内で、イオンを選択的に集束し、上記のイオンを捕捉するための装置であって、
a)イオンを生成するための少なくとも1つの電離源と、
b)使用中に非対称波形電圧、直流補償電圧および直流セグメントオフセット電圧を供給することができる電気制御装置への接続のために、第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組の間の空間によって規定されるアナライザ領域を含み、上記の第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組のそれぞれがセグメントを形成し、上記のセグメントが直に隣接する行に整列され、互いから電気的に絶縁され、上記のアナライザ領域が上記の電離源によって生成されたイオンの流れを上記のアナライザ領域に注入するためのイオン注入口を有する区分された高電界非対称波形イオン移動度分光計と、を含む装置を提供する。
【0013】
さらに別の態様において、本発明は、規定された3次元空間内で、イオンを選択的に集束し、上記のイオンを捕捉するための方法であって、
a)イオンを生成するための少なくとも1つの電離源を設けるステップと、
b)第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組の間の空間によって規定されるアナライザ領域を設け、第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組の間の空間によって規定されるアナライザ領域を設け、第1および第2の電極の間に非一定電界を形成し、第1および第2の空間を隔てた電極の上記の複数の対応する組のそれぞれがセグメントを形成し、上記のセグメントが互いに直に隣接する行に整列され、互いから電気的に絶縁され、上記のアナライザ領域が上記のイオン注入口と通信を行い、上記のイオン注入口で上記の電離源によって生成された上記のイオンを上記のアナライザ領域に注入するステップと、
c)上記のセグメントのそれぞれにおいて、上記の第1および第2の間隔を隔てた電極の1つに非対称波形電圧を供給するステップと、
d)上記のセグメントのそれぞれにおいて、上記の第1および第2の間隔を隔てた電極の1つに直流補償電圧を供給するステップであって、上記のセグメントのそれぞれに供給される上記の直流補償電圧が独立に調整可能であるようになっているステップと、
e)上記のセグメントのそれぞれにおいて、上記の第1および第2の間隔を隔てた電極のもう一方に直流セグメントオフセット電圧を供給するステップであって、上記のセグメントのそれぞれに供給される上記の直流セグメントオフセット電圧が独立に調整可能であるようになっているステップと、
f)上記の非対称電圧、直流補償電圧および直流セグメントオフセット電圧の所与の組合せで、上記のセグメントのそれぞれにおいて、第1および第2の電極の対応する各組の間で所望のイオンを集束するために、上記の直流補償電圧および上記の直流セグメントオフセット電圧を実質的に等しく調整し、それによって上記のセグメントのそれぞれにおいて、第1および第2の電極の対応する各組に沿って、一定の直流電位を供給するステップと、を含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、高電界非対称波形イオン移動度分光法のイオン集束原理に基づき、大気圧で規定された3次元空間の中でイオンを捕捉する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明のさらによく理解するために、実施例として、本発明の好ましい実施形態を示す添付図面を参照されたい。
【図1】電界の強度の関数として、イオン移動度における変化の3つの可能な例を示している。
【図2】電位V(t)の影響下で2つの電極板の間のイオンの軌跡を示している。
【図3A】改良型FAIMS装置の実施形態を概略的に示している。
【図3B】改良型FAIMS装置の実施形態を概略的に示している。
【図4】図3Aおよび図3Bの装置と共に利用されてもよい2つの正反対の波形モードを示している。
【図5A】質量分析計と図3Aおよび図3BのFAIMS装置の結合を概略的に示している。
【図5B】質量分析計と図3Aおよび図3BのFAIMS装置の結合を概略的に示している。
【図6A】アナライザ領域におけるイオン分布を測定するためのFAIMS装置を概略的に示している。
【図6B】アナライザ領域におけるイオン分布を測定するためのFAIMS装置を概略的に示している。
【図7】図6Aおよび図6Bに示されているFAIMS装置に適用される高電圧高周波非対称波形を示している。
【図8】図6Aおよび図6Bに示されているFAIMS装置の最も内部のイオン制御装置の電極において、変化するイオン到着時の分布を示している。
【図9A】FAIMS−R2−プロトタイプと呼ばれる3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの第1の実施形態を概略的に示している。
【図9B】FAIMS−R2−プロトタイプと呼ばれる3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの第1の実施形態を概略的に示している。
【図10A】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10B】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10C】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10D】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10E】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10F】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10G】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10H】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10I】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図11A】FAIMS−R3−プロトタイプと呼ばれる3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの第2の実施形態を概略的に示している。
【図11B】FAIMS−R3−プロトタイプと呼ばれる3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの第2の実施形態を概略的に示している。
【図11C】FAIMS−R3−プロトタイプと呼ばれる3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの第2の実施形態を概略的に示している。
【図11D】図11A〜図11CのFAIMS装置に印加される電圧用のタイミング図を示している。
【図12】簡素な電気噴霧電離箱を備え、抽出格子としてサンプラコーンを用いる図11A〜図11CのFAIMS装置の別の実施形態を示している。
【図13A】図12に開示されたFAIMS装置と類似の装置を含むシステムおよび飛行時間型(TOF)質量分析計の概略図である。
【図13B】図13AのFAIMS装置およびTOF質量分析計の制御のためのタイミング図を示している。
【図13C】図13Aに示されたシステムを用いて得られたTOF質量スペクトルを示している。
【図13D】27.0μsのTOF飛行時間に関して、イオンの補償電圧スペクトルを示している。
【図13E】図13Aに示されたシステムの総合応答時間を決定するために設計された実験の結果をグラフに示している。
【図13F】図13Aのシステムを用いて、3次元イオントラップの実験検証を示している。
【図13G】図13Aのシステムを用いて、3次元イオントラップの実験検証を示している。
【図13H】3つの補償電圧で1ms〜60msの可変イオントラッピング時間の場合のTOFピークの強度を示している。
【図13I】3つの補償電圧で1ms〜60msの可変イオントラッピング時間の場合のTOFピークの強度を示している。
【図13J】3つの補償電圧で1ms〜60msの可変イオントラッピング時間の場合のTOFピークの強度を示している。
【図14A】3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの別の実施形態を概略的に示している。
【図14B】3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの別の実施形態を概略的に示している。
【図14C】3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの別の実施形態を概略的に示している。
【図15】FAIMSアナライザ領域内の電圧の計算のために必要なFAIMS装置の関連寸法を示している。
【図16】電界Eの関数として(H2O)nH+に関するKh/Kの比における変化を示している。
【図17】(H2O)nH+の高電界移動度Khを計算するために使用された元データの一部を示している。
【図18A】図16の曲線によって示された高電界特性に関するイオンの軌跡を示している。
【図18B】図16の曲線によって示された高電界特性に関するイオンの軌跡を示している。
【図18C】図16の曲線によって示された高電界特性に関するイオンの軌跡を示している。
【図18D】図16の曲線によって示された高電界特性に関するイオンの軌跡を示している。
【図19A】図11A〜図11Dに記載されたFAIMS装置および方法を用いて計算された内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19B】図11A〜図11Dに記載されたFAIMS装置および方法を用いて計算された内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19C】図11A〜図11Dに記載されたFAIMS装置および方法を用いて計算された内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19D】図11A〜図11Dに記載されたFAIMS装置および方法を用いて計算された内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19E】図13に示されたFAIMS装置におけるさまざまなサンプラコーン電圧を用いて、内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19F】図13に示されたFAIMS装置におけるさまざまなサンプラコーン電圧を用いて、内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19G】図13に示されたFAIMS装置におけるさまざまなサンプラコーン電圧を用いて、内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19H】図13に示されたFAIMS装置におけるさまざまなサンプラコーン電圧を用いて、内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19I】図13に示されたFAIMS装置におけるさまざまなサンプラコーン電圧を用いて、内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図20】イオン捕捉または集束のための条件を確立するために設計されたFAIMS装置の特殊形状の例を示している。
【図21】図17に示されるような一連の補償電圧走査によって収集されるデータに基づいて、(H2O)nH+に関する補償電圧および分散電圧の最適な組合せをプロットしたグラフである。
【図22A】所与のFAIMS装置のためのFAIMSアナライザ領域に沿って分散電圧ラジカルによる電界を示している。
【図22B】FAIMSアナライザ領域における複数のラジカル位置で、互いに対してプロットされた分散電圧および補償電圧による電界を示すグラフである。
【図22C】分散電圧および補償電圧に関する実際の状態および最適状態の交わりを示しているグラフである。
【図23】FAIMSアナライザ領域に沿って、イオンを伝搬するための区分されたFAIMS装置を示している。
【図24】FAIMSアナライザ領域内でイオンを捕捉するための区分されたFAIMS装置の概略図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
手始めに重要なことについて記載するため、以下の説明は、帯電した原子的または分子的実体を意味するために、「イオン」なる語を使用する。「イオン」は、いずれのサイズの帯電した粒子、固体または液体のいずれであってもよい。説明では、常に「イオン」は正に帯電していると解釈する。しかし、本願明細書の説明はすべて、負のイオンにも等しく適用することができるが、印加される電圧の極性は逆になる。
【0017】
FAIMSの動作原理は、Buryakovら(I.Buryakov,E.Krylov,E.Nazarov and U.Rasulev,Int.J.Mass Spectrom.Ion Proc.128.143(1993)参照されたい)によって説明されているため、本願明細書では簡単に要約する。電界の影響下で所与のイオンの移動度は、Kh(E)=K(1+f(E))によって表すことができる。式中、Khは、高電界におけるイオンの移動度、Kは低電界におけるイオン移動度係数であり、”f(E)”は電界のイオン移動度の関数依存性(E.A.Mason and E.W.McDaniel著『Transport Properties of Ions in Gases』(Wiley,New York,1988)およびI.Buryakov,E.Krylov,E.Nazarov and U.Rasulev,Int.J.Mass Spectrom.Ion Proc.128.143(1993)を参照されたい)を示している。
【0018】
図1を参照すると、電界の強度の関数としてイオン移動度における変化が3例、示されている。タイプAイオンの移動度は、電界強度が増大するにつれて増大し、タイプCイオンの移動度は減少し、タイプBイオンの移動度は、さらに高電界で減少するまでは最初は増大する。FAIMSにおけるイオンの分離は、高電界において移動度におけるこのような変化に基づく。イオン1、たとえば、図2に示されているような2つの空間を隔てた平行な電極板2,4の間のガス流6によって搬送される図1に示されたタイプAイオンを考える。電極板2,4の間の空間は、イオンの分離が行われる可能性があるアナライザ領域5を規定する。電極板2,4の間のイオン1の正味運動は、ガス6の流れている流れによる水平なx軸成分および電極板2,4の間の電界による横断するy軸成分の和である。(「正味」運動なる語は、イオン1が経験する全体の並進を指し、この並進運動がその上に重ね合わせられるさらに急速な振動を有する場合も含む。)電極板の一方が大地電位(ここでは、下部電極板4)で維持され、他方(ここでは、下部電極板2)はそれに印加される非対称波形V(t)を有する。非対称波形V(t)は、時間t2の短時間続く高電圧成分V1および時間t1のさらに長い時間続く逆の極性の低電圧成分V2から構成される。波形は、波形の完全なサイクル中、電極板に印加される電圧および時間の積の和がゼロ(すなわち、V1t2+V2t1=0)となるように合成される。たとえば、+2000Vで10μs間の後に、−1000Vで20μs間である。図2は、V(t)として示された波形の一部に関するイオン軌跡8(点線で示す)を示している。波形のさらに短い高電圧部分中のピーク電圧は、「分散電圧」または本開示ではDVと呼ばれる。波形の高電圧部文中、電界は、イオン1を横速度成分v1=KhEhighで移動させる。式中、Ehighは印加される電界であり、Khは周囲の電界、圧力および温度条件の下の高電界移動度である。移動される距離は、d1=v1t2=KhEhight2である。式中、t2は、印加される高電圧の時間である。波形のさらに長い持続時間、逆の極性かつ低電圧部分中、イオンの速度成分は、v2=KElowである。式中、Kは、周囲の圧力および温度条件下の低電界イオン移動度である。移動される距離は、d2=v2t1=KElowt1である。非対称波形が(V1t2)+(V2t1)=0を保証するため、電界および時間の積Ehight2,Elowt1は、大きさにおいて等しい。したがって、KhおよびKが等しければ、d1およびd2は等しく、(波形の両方の部分が低電圧であれば期待されるように)イオン1は、波形の負のサイクルを通じてy軸に沿ってその元の位置へ戻ることになる。Ehighかつ移動度Kh>Kである場合には、イオン1は、y軸に関してその元の位置からの正味の変位を経験する。たとえば、図1に示されるタイプAの正イオンは、波形の正部分中(すなわちd1>d2)さらに移動し、(図2の点線8によって示されているように、)タイプAイオン1は、上部電極板2から離れるように移動する。同様に、、タイプCのイオンは、上部電極板2に向かって移動する。
【0019】
タイプAのイオンが上部電極板2から離れて移動する場合には、この横方向のドリフトを逆向きにするため、または「補償するため」に、一定の負の直流電圧がこの電極板2に印加されることができる。「補償電圧」または本開示ではCVと呼ばれるこの直流電圧によって、イオン1が、いずれかの電極板2,4に向かって移動しないようにする。2つの化合物から生成されたイオンが、印加された高電界に対して異なる反応を示す場合には、Kに対するKhの比は、各化合物に対して異なる可能性がある。したがって、イオンのドリフトがいずれかの電極板2,4に向かうことがないようにするために必要な補償電圧CVの大きさも、各化合物に対して異なっていてもよい。補償電圧CVが1つの化合物の伝搬に適応している条件下では、他の化合物は電極板2,4の一方に移動し、実質的に除去される。化合物が電極板2,4の壁に移動する速度は、その高電界移動度特性が、選択された条件下で通過することができる化合物の特性とは異なる程度に左右される。FAIMS計器または装置は、Kに対するKhの適切な比で、そのようなイオンのみを選択的に伝播することができるイオンフィルタである。
【0020】
FAIMSなる語は、本開示で使用されているように、装置が集束または捕捉挙動を備えている如何によらず、上記の機構を介して、イオを分離することができる任意の装置を指す。
【0021】
(FAIMSに対する改良)
FAIMSの概念は、上記のように平面電極板を用いて、Buryakovらによって初めて示された。後に、Carnahanらが、イオンを分離するために使用される平面電極板の代わりに同軸のシリンダを用いることによって設計されたセンサを改良した(B.Carnahan,S.Day,V.Kouznetsov,M.Matyjaszczyk and A.Tarassov,Proceedings of the 41st ISA Analysis Division Symposium,Framingham,MA,21−24 April 1996,p,85;Carnahanらに付与された米国特許第5,420,424号を参照されたい)。同軸シリンダ設計は、平面電極板構成より高い感度を含め、いくつかの利点がある(R.W.Purves,R.Guevremont,S.Day,C.W.Pipich and M.s.Matyjaszcayk,Rev.Sci.Instrum.,69,5095(1998)を参照されたい)。
【0022】
初めに述べたように、FAIMS概念に基づく計器は、Mine Safety Appliances Company(MSA)によって構成された。MSA計器は同軸シリンダ設計を利用し、いかにさらに詳しく記載される。(本開示のために、MSA計器は、FAIMS−Eと呼ばれ、Eは電位計または電流検出装置を指す。)
【0023】
シリンダFAIMS技術の以前の制約の1つ(D.Riegner,C.Harden,B.Carnahan and S.Day,Proceedings of the 45th ASMS Conference on Mass Spectrometry and Allied Topics,Palm Springs,California,1−5 June 1997,p.473;B.Carnahan,S.Day,V.Kouznetsov,M.Matyjaszczyk and A.Tarassov,Proceedings of the 41st ISA Analysis Division Symposium,Framingham,MA,21−24 April 1996,p,85を参照のこと)は、高電界におけるKhの予測不可能な変化のために、FAIMS−E CVスペクトルに現れるピークの同定が曖昧で確証を得ることができないことであった。
【0024】
したがって、FAIMS−E計器などのFAIMS概念に基づく計器の可能性を拡大するための1つの方法は、たとえば、FAIMS−E装置からのイオンを質量電荷(m/z)分析用の質量分析計に注入することによって、FAIMS−E CVスペクトルの組成をさらに正確に決定するための方法を提供することである。
【0025】
(電気噴霧電離)
ESIは、液相から気相に(正または負のいずれかに帯電することができる)イオンの移動を含む複数の関連技術の1つである。Kebarleは、(質量分析法で使用することを目的とした)電気噴霧電離で生じる4つの主なプロセス:(1)帯電した液滴の生成、(2)気化による帯電した液滴の収縮、(3)液滴の壊変(核分裂)および(4)気相イオンの形成について記載している(Kebarle,P.and Tang,L.『Analytical Chemistry』,65(1993)pp.972A−986A)。ESIにおいて、液体溶液(たとえば、50/50w/w 水/エタノール)は、たとえば+2000V(50nA)など帯電した液滴を生成するために高電圧に維持された金属細管(たとえば、外径200μmおよび内径100μm)を通過される。たとえば1μL/minで、液体サンプルをポンプによって送り込むことができる。高電圧によって、細管から出る液体を霧状にして、帯電した小さな液滴にし、Kebarleをはじめとする多くの人によって記載される機構によって電気的に帯電したイオンにする細管の出口側先端にきわめて強い比一定の電界を形成する。溶液相から気相イオンを形成するための関連する方法も、いくつか存在する。このような方法の例としては、噴霧化を補助するために高速ガスからの力学的エネルギーを利用するイオン噴射、電圧の代わりに熱を細管に加える熱噴射、内径が小さい細管を利用する微小噴射などが挙げられる。本開示では、ESIなる語は、溶液から気相イオンを生成する任意の技術を含めて使用される。
【0026】
(改良型FAIMS−E)
第1段階として、Mine Safety Appliances Companyによって設計および構成されたFAIMS−E装置が、ESIを用いてイオンを注入することができるように改良された。本発明者らは、ESIによって生成されたイオンが高度の溶媒和を備えていることおよび高レベルの溶媒の蒸気に曝される場合にはFAIMS−E装置が適正に機能しない恐れがあることが知られているため、FAIMS−E装置とESI源の結合は容易ではないと考えている。本発明者は、このような結合が可能であることを示すため、FAIMS装置とESI源とを合体する装置のさまざまな実際的な実施形態を開発した。
【0027】
一例として、図3Aの3次元図および図3Bの断面図に概略的に示された改良型FAIMS−E装置10が挙げられる。FAIMS−E装置10は、軸方向に整列し、約5mmの間隔を隔てて位置する2本の短い内部シリンダまたは管11,12および2本の内部シリンダ11,12を包囲する長い外部シリンダ13から構成される。内部シリンダ11,12(内径12mm、外径14mm)はそれぞれ、長さ約30mm、約90mmであり、外部シリンダ13は(内径18mm、外径20mm)は、長さ約125mmである。イオンの分離は、長い方の内部シリンダ12と外部シリンダ13との間のFAIMSアナライザ領域14の2mmの環状空間で行われる。FAIMS装置のFAIMSアナライザ領域14に注入するための電気噴霧電離(ESI)を用いてイオンを生成するために、ESIニードル15の金属細管は、短い方の内部シリンダ11の中心軸に沿って配置され、2本の内部シリンダ11,12の間隙またはイオン注入口まで約5mmの位置で終わる。図3(A)および図3(B)に示されたESIニードル15の位置決定は、非対称波形V(t)が一般に印加され、ESIニードル15が長い方の内部シリンダ12を通って延在しないMSA FAIMS−E装置で見られる電離源の位置決定とは異なる。FAIMS−Eの対向する先端からESIニードル15を挿入することによって、すなわち短い方の内部シリンダ11を通り、ESIニードル15の先端が長い方の内部シリンダ12に接近しすぎないように位置決定をすることによって、ESIニードル15の性能は、(米国特許第5,420,424号に開示されるように、)ESIニードル15が、長い方の内部シリンダ12内部に位置する場合にはそうであるような非対称波形V(t)によって妥協しなくてもよい。
【0028】
上述したように、混合物から1タイプのイオンを選択的に伝播することができる能力を利用したイオン「フィルタ」として、FAIMS−E装置10を考えることができる。たとえば、ESIニードル15によって、イオンの混合物がFAIMSアナライザ領域14の入口に連続的にもたらされ、電圧が内部シリンダ12にも外部シリンダ13のいずれにも印加されていない(すなわち電極が接地されている)条件下で、流れている気体によってイオンがアナライザ14の長さに沿って搬送される場合には、分離がなくとも、すべてのイオンに対する有限レベルの伝搬がある程度期待される。
【0029】
このような混合物において選択されたイオンの検出電流は、無電圧状態で装置10を介して伝搬される場合、そのイオンのための電流を超えるはずはないことが期待されると思われる。また、イオンの分離を生じるように設計された高電圧の印加(すなわち、ガスフローに対して垂直な横断方向の電界の印加)は、イオンの伝搬を増大させるのではなく、シリンダ12,13の壁との衝突によって、伝搬を減少させるはずであると期待されると思われる。すなわち、非対称波形は、FAIMSアナライザ領域14の「幅」を効率的に狭くする可能性があるため、イオンの伝搬を減少させるはずである。しかし、予測に反して、本発明者らによって行われ、本開示に記載された実験では、非対称波形V(t)の電圧の振幅が増大するにつれて、円筒形状のFAIMS−E10におけるイオン検出の感度が向上することがわかった。以下に説明するように、このような尋常でない観測結果は、大気圧イオン集束がFAIMSアナライザ領域14に生じていることを示唆している。
【0030】
さらに図3Aおよび図3Bを参照すると、FAIMS−E装置10への4通りのガス接続が示されている。圧縮ガス(たとえば、空気または窒素)が、キャリア注入(Cin)ポートおよび/またはサンプル注入(Sin)ポートを経て、木炭/分子篩ガス精製シリンダ(図示せず)を介して、FAIMS−E10に供給される。ガスは、キャリア放出(Cout)ポートおよび/またはサンプル放出(Sout)ポートを経て、FAIMS−E10から出る。4つのガスフロー速度はすべて、調整されることができる。不揮発性検体は一般に、ESIニードル15を用いて、FAIMS−E10に注入される。また、揮発性検体はSinラインによってFAIMS−E10に注入されてもよく、一部はコロナ放電ニードルによって化合物経路として電離されてもよい。
【0031】
さらに図3Aおよび図3Bを参照すると、FAIMS−E装置10の外部シリンダ13および短い方の内部シリンダ11は一般に、調整可能な電位(VFAIMS)で維持される。VFAIMSは通常、FAIMS−Eにおける大地電位である。動作中、内部シリンダ12と外部シリンダ13との間の電界を確立するために、高周波高電圧非対称波形が長い方の内部シリンダ12に印加される。このような高周波(たとえば、210kHz)高電圧波形に加えて、直流オフセット電圧(すなわちFAIMSに加えられる補償電圧CV)が、長い方の内部シリンダ12に印加される。これによって、前述した方法でFAIMSアナライザ領域14において、イオンの分離を生じる。
【0032】
さらに図3Aおよび図3Bを参照すると、電離源によって精製されたイオンの一部は、外部シリンダ13と長い方の内部シリンダ12との間の環状空間(FAIMSアナライザ領域14とも呼ばれる)の長さに沿ったガスの流れによって搬送される。DVおよびCVの組合せが適切であり、イオンが管壁で失われていない場合には、外部シリンダ13の下流先端付近にある一連の開口部またはイオン放出口によって、約−100Vまでバイアスを印加される電流検出器17へイオンを抽出することができる。(本願明細書では、キャリヤガスもイオン放出口から出ることに注意されたい。)
【0033】
実際には、図2に示されたV(t)の簡素化した矩形波バージョンを使用することはできない。このような波が波形発生器に配置する電力需要のためである。実際の波形V(t)は、図4に示される。このような波形は、正弦波および周波数が2倍であるその高調波の電子的な加算によって生成される。図4に示されるように、FAIMS−E装置10は、(内部シリンダに印加された波形に関する)2つの波形モードの一方を用いて作動する。このような逆極性の波形モードは、期待されるような「逆極性の」CVスペクトルを生じない。これは、このような方法における極性の反転もFAIMSのイオン集束挙動の鏡像効果を形成するためである。このような極性の反転の結果は、イオンが集束することではなく、むしろシリンダ12,13の壁に衝突することである。集束する谷の鏡像は、山上のポテンシャル面である。(この特性およびFAIMSの動作のさまざまな「モード」については以下に詳しく記載する。)
【0034】
(FAIMS−MS)
初めに述べたように、FAIMS装置の機能を拡大するための1つの方法は、質量分析計とFAIMS装置を結合することである。FAIMS装置と共に質量分析計を使用することは、質量分析計がCVスペクトルの組成をさらに正確に決定するための質量電荷(m/z)分析を促進するため、好都合である。1つの可能なFAIMS−MSの実施形態が、本願明細書に記載される。
【0035】
図5Aおよび図5Bを参照すると、FAIMSおよび質量分析計の結合(FAIMS−MS20)が、概略的に示されている。図5Aならびに図5BのFAIMS−MS20および図3Aならびに図3BのFAIMS−E10は、計器の検出端でのみ著しく異なる。本発明によれば、電位計17は、図5Bに簡略化した形状で示されているように、FAIMSシリンダ12,13の先端には位置されるサンプラコーン18によってとって代わられている。サンプラコーン18におけるオリフィス19の直径は、約250μmである。Coutが2つの成分、すなわち元のCoutおよびオリフィス19を介して質量分析計へのフローに分割されている点を除き、FAIMS−MS20におけるガスフローは、FAIMS−E10におけるガスフローと類似している。長い方の内部シリンダ12に印加される電気波形は、FAIMS−E装置10で使用される波形と同一である。サンプラコーン18は他の成分から電気的に絶縁されてもよいため、分離電圧ORがそれに印加されてもよい。さらに、FAIMS−MSの感度を強化するために、電圧がFAIMS装置全体(VFAIMS)のシリンダに印加されてもよい。
【0036】
図5Bは、質量分析計のサンプラコーン18に対して角度45°を成すFAIMSシリンダ12,13を示している。図5Aは、サンプラコーン18に対して角度90°を成すFAIMSシリンダ12,13を示している。イオンがFAIMS−MS20のシリンダ12,13から質量分析計へ抽出される方向(すなわち、FAIMSの2本の管とサンプラコーン18との間の角度)は、このような角度に制限されない。さらに、イオンが2本の管から抽出される位置もまた、変更することができる。すなわち、FAIMSの分離領域に沿ったいずれの位置でも、イオンを抽出することができる。
【0037】
(イオン集束/FAIMS−R1−プロトタイプ)
ここで、上記に言及した集束効果を立証するために図6Aおよび図6Bを参照すると、特殊なFAIMS計器が本発明者らによって設計され、FAIMS装置の2本のシリンダ(外部シリンダおよび内部シリンダ)の間のイオン分布を測定するために構成された。この計器は、本開示ではFAIMS−R1−プロトタイプ30と呼ばれ、図6Aおよび図6Bに概略的に示されている。イオンは、長さ約35mmおよび内径約20mmの電気的に接地されたシリンダ31の内部で発生された。電離ニードル15の先端は一般に、この管の中心付近、FAIMSアナライザ領域34の端から少なくとも15mmの位置に配置された。この実施形態におけるFAIMSアナライザ領域34は、長さ70mm、内径6mmであり、外径2mmの内部遮蔽電極33を包囲する外部管32から構成される。内部遮蔽電極33は、電離ニードル15に面する端を閉じられた電気的に接地されたステンレス鋼である。この内部電極33は、その中心を通過する電気的に絶縁された導体35を包囲および遮蔽する。この最も内側の導体35(すなわち、イオンコレクタ電極)は、イオン用のコレクタであり、高速電流増幅器または電位計36(たとえば、Keithlyモデル428)およびディジタルストレージオシロスコープ37(たとえば、LeCroyモデル9450)に接続される。
【0038】
図6Aおよび図6Bに示されたシステムにおいて、内部電極33を包囲するイオンは、パルス化された電圧によって内部に集束される。このようなイオンは、内部遮蔽電極33に穿孔された一連の50μmの孔38を通って、FAIMSアナライザ領域34から最も内部の導体35まで移動する。内部遮蔽電極33において穿孔された孔は、電離ニードル15に面している端から約2cmに位置し、内部遮蔽電極33の一側面において距離10mmで約0.5mmの間隔を隔てられる。内部遮蔽電極33とこのような孔38の付近の外部シリンダ32との距離における可変性を最小限に抑えるために、内部遮蔽電極33において穿孔された孔38はこのように配置される。本発明者らの目的は、内部遮蔽電極33に向かい、孔38を経て、最も内部のイオンコレクタ電極35に対してイオンをパルス化することによって、内部遮蔽電極33と外部電極32との間の環状空間(すなわち、FAIMSアナライザ領域34)に位置するイオンのイオン存在度の放射方向の分布を測定することであった。最も内部の導体35に到達するイオンの時間依存性の分布は、内部電極33の周囲のイオンの物理的な放射方向の分布に関連する。2本のシリンダ32,33の間の距離における過度な変動は、最も内部の導体35へのイオン到達時間の不確実性を増大しているために、この装置で行われる測定の空間解像度を低下させる。
【0039】
ここで、図7を参照すると、図6Aおよび図6BのFAIMS−R1−プロトタイプに印加される高電圧高周波非対称波形V(t)が示されている。波形は、2つの部分、集束時間および抽出時間に分割される。波形は、任意の波形発生器(たとえば、Stanford Research SystemsモデルDS340、図示せず)によって合成され、パルス発振器(たとえば、Directed Energy Inc.,モデルGRX−3.0K−H、図示せず)によって増幅される。波形の周波数および波形の高電圧部分および低電圧部分の相対的な持続時間を容易に変更することができる。高電圧およびこのFAIMS−R1−プロトタイプに印加される矩形波の急峻な立上り時間のために、電力消費制限は厳しく、約1330パルス(83,000Hzで16ms)以上の波形は、高電圧パルス発振器の電子部品を過熱することなく、このシステムによって供給することはできない。
【0040】
FAIMS−R1−プロトタイプ30の場合には、高電圧高周波非対称波形は、図6Aおよび図6Bに示されるFAIMS−R1−プロトタイプ30の外部シリンダ32に印加されたことを留意されたい。本開示に記載されるFAIMSの他の形態はすべて、内部管または電極に印加される波形を備えているため、混乱は波形の「極性」およびCVの極性から生じる可能性がある。図6Aおよび図6Bに示されるFAIMS−R1−プロトタイプ30において、タイプAのイオン(図1に示される)は、図3A、図3B、図5Aおよび図5Bの装置のために示されるイオン以外は、対向する極性の波形およびCVの印加中に集束される。しかし、簡単化のため、装置は、従来の構成の装置と同一の方法で構成されている場合と同一であるように極性が表記される。言い換えれば、波形#1の印加中に伝搬されるイオンは、正のDVおよび負のCVと共に生じる。(しかし、図6Aおよび図6Bの装置で使用される実際の電圧は、負のDVおよび正のCVであることを留意されたい。)
【0041】
前述した従来の平行な電極板FAIMS装置(図2)に見られたように、(図1および図2に示される)高電界におけるイオン移動度の変化のため、高電圧非対称波形V(t)の印加は、イオンをFAIMS電極2,4の一方に向かって移動させる。移動に対向する方向に電界または補償電圧CVを印加することによって、この移動を阻止することができる。図6Aおよび図6BのFAIMS−R1−プロトタイプ30の場合には、このようなCVが高電圧非対称波形(すなわち外部電極32)と同一の電極に印加され、小さな直流バイアス(±50Vまで)のような波形が加えられた。DVおよび補償電圧CVの適切な組合せで、所与のイオンがFAIMS装置30を通過する。したがって、装置は、イオンフィルタのように作用する。混合物がFAIMS装置30の出口から均一に流れ、イオンの混合物がFAIMSアナライザ領域34の注入口に生じるが、1種類のイオンはFAIMSアナライザ34で分離されるような条件を決定することができる。
【0042】
図7に示される波形の第2の部分(すなわち、抽出時間)は、(図6Aおよび図6Bに示される)外部電極32と内部遮蔽電極33との間のFAIMSアナライザ領域34からイオンをパルス化するために使用された。集束時間の終りで、すなわち波形の16ms後に、非対称波形が約+30Vの一定直流バイアスによってとって代わられた。これは、外部電極32と内部遮蔽電極33との間の環状空間34からのイオンを、内部遮蔽電極33の方向に移動させた。−5Vの検出器バイアスが、最も内部にあるイオンコレクタ電極35に印加され、内部遮蔽電極33にある孔38の付近からイオンを、孔38を通じて最も内部にあるイオンコレクタ電極35に接触するように搬送する助けとなった。+30VのバイアスがFAIMSアナライザ領域34に沿って約150V/cmの電界を形成し、この領域34内部に位置する大部分のイオンが、約1msで2mmの間隔を横切って移動した。中心の内部遮蔽電極33にイオンが到達するために、イオン電流を予測することができる。たとえば、周囲の温度および圧力の条件で移動度2.3cm2/V−sの1種類のみのイオン、たとえば(H2O)nH+がFAIMSアナライザ領域34に配置された場合およびこのイオンが、空間において規則正しく分散されている場合には、約0.6ms続く上部が略矩形の信号が観測されるはずである。この所望のイオン到着分布との偏差は、イオンがFAIMS装置30の外部シリンダと内部シリンダとの間のFAIMSアナライザ領域34を横切る不均等な分布に分散されたことを示唆していると思われる。
【0043】
さらに図6A、図6Bおよび図7を参照すると、FAIMS−R1−プロトタイプ30が以下のように作動した。浄化された空気の2L/minのフロー、キャリヤガス入(Cin)は、電離ニードル15を収容するシリンダ31に供給された。約2000Vが、ニードル15に印加され、電圧が安定なイオン電流を生成するために調整された。高電圧非対称波形V(t)が、約16ms間が外部FAIMSシリンダ32に印加された。このあとに、2msの抽出パルス(図7)が続いた。最も内部のイオンコレクタ電極35に達するイオン電流は、検出され、ディジタルオシロスコープ37に表示された。測定は一般に、約5Hzの割合で収集された100個の平均スペクトルからなると思われる。ガスフロー速度、非対称波形の電圧V(t)、外部電極に印加される直流電圧CVおよび抽出電圧など、さまざまな実験変数が変更された。
【0044】
図8は、このような実験を行うことによって観測された最も内部のイオンコレクタ電極35へのイオン到達時間を示している。各トレースは2500V印加されたDVを利用して記録されたが、CV電圧は可変であった。見ればわかるように、DVおよびCVの印加中、イオンの放射方向の分布は、FAIMSアナライザ領域34の環状空間を横切って均一ではない。たとえば、−11V付近のCVで、イオンは内部電極33付近の狭帯域に集束されるため、抽出電圧が印加された後、きわめて早く生じる高強度のパルスとして検出される。低いCV、たとえば−5.6Vで、イオンは、FAIMSアナライザ領域34を構成している同軸シリンダ32,33の壁の間に、きわめて均等に分散される。電圧がシリンダ32,33に印加されない場合には、イオンの放射方向の分布はFAIMSアナライザ領域34を横切ってほぼ均等であるはずである(無電圧実験状態の場合のデータは本願明細書には示されていない)。図8に示された実験データから、集束しているイオンが実際にFAIMS計器で生じていることは明白である。この集束は、FAIMSアナライザ領域34内部の内部シリンダ33の周囲の均一な「シート」またはバンドで集束しているイオンを生じる。前述したように、本発明者らの知識によると、この集束効果は観測されていないかまたはまだ解明されていなかった。
【0045】
(3次元大気圧イオントラップ)
上述のFAIMS装置のシリンダ間のガスフローは、装置の一端から他方の端までイオンを搬送するように作用する。あらゆる場合において、電界の作用は、ガスフローの運搬移動に垂直である。このため、初期の装置は、横電界補償イオン移動度分光法と呼ばれていた。本発明は、ガスフローおよび電界が垂直ではなく、むしろ互いに対向して作用する物理的な位置でイオンが捕獲されることを保証することによって、FAIMS−E10およびFAIMS−R1−プロトタイプ30の2次元イオン集束作用を3次元トラップに改造しようという試みの結果である。これによって、3次元大気圧イオントラップを形成する。
【0046】
本開示では、「イオン集束」なる語は、2次元構成に限定されることを留意されたい。すなわち、イオンが「集束される」場合には、シート上の構造に制限され、薄い平坦なシートが任意の距離で任意の方向に延在することができる。たとえば、イオンが長い金属シリンダの外面の周囲に「集束される」場合には、これは、イオンが金属シリンダと同軸または金属シリンダを包囲する(イオンから構成される)円筒空間内に限定されることを意味する。イオンのこのようなシートは、シリンダおよびその周囲のすべてと同じくらい離れて連続的に延在する。他方、本開示では、「イオン捕捉」なる語は、イオンが3次元空間の任意の方向に自由に移動することができない状態に限定される。これは、イオンが2次元のいずれの場所、たとえば上記に述べた例で記載したシリンダの長さに沿ってまたは固定半径でシリンダの周囲に移動することも自由である「集束」より限定される。
【0047】
質量分析計の真空室で作動するための3次元イオントラップは公知であり、いくつかの幾何形状が存在する。しかし、このような真空イオントラップの機構および動作は、本願明細書に記載したイオントラップの大気圧(760トール)バージョンの機構および動作と著しく異なる。物理的な幾何形状、ハードウェア構成要素の配置および既知の3次元イオントラップで印加される電圧は、イオントラップの本大気圧バージョンと少しも関係がない。本発明の3次元大気圧イオントラップの数例の実施形態が、以下で検討される。
【0048】
(FAIMS−R2−プロトタイプ)
図9Aおよび図9Bを参照すると、FAIMS−R2−プロトタイプ40と呼ばれる装置が示されている。ここでは、非対称波形V(t)および補償電圧CVが、直径約2mmの内部固体電極42に印加される。外部の電気的に接地された電極43の内径が約6mmであることによって、電極同士の間に約2mmの環状空間を設けることができる。この環状空間は、上記の説明においてFAIMSアナライザまたはFAIMSアナライザ領域14,34,44と呼ばれており、簡単化のため、引き続きこの専門用語を使用する。イオンは、外部シリンダの壁を貫通する0.5mmの孔に隣接した位置にある独立気泡(図示せず)にコロナニードル15を用いたコロナ放電によって、生成される。図9Aに示されるように、イオンは、コロナ放電ニードル15によって発生された高電界(約+2000Vに維持される)によって、0.5mmの孔45を通って、FAIMSアナライザ領域44へと移動させられる(簡単化のため、孔45に向かって直接移動しているイオンのみが示されている)。この孔45の付近のFAIMSアナライザ領域44の内部で、電界およびガスフロー(図9Aおよび図9Bでは右から左へ流れているように示されている)は互いに垂直であり、イオンはFAIMS‐R1‐プロトタイプ30に関連して上記の節で述べた2次元集束効果を受ける。しかし、図9Aに示された装置の内部電極42は、外部電極43の端から約1〜4mmの位置で終わる。下流端で外部電極43の内面は、FAIMSアナライザ領域44の長さに沿って受けるのとほぼ同一の電界(すなわち、DVおよびCVの印加によって形成される)を維持するような方法で輪郭が形成される。外部電極43の端には、微細な高伝搬金属スクリーンで覆われる孔(約2mm)を含む出口格子46がある。装置40を通って流れているガスも、格子46を通って自由に流れ、外部電極43とコレクタ極板47の間の空間から放出する。いかなる印加電圧も存在しないとき(すなわち、DV=0およびCV=0)に、イオンは、図9Aに示されるように装置を通って非常に多く移動する。イオンはアナライザ領域44に入り、外部電極43の出口格子46を通るガス放出と共に流れ、わずかに残存するイオンは約−5Vでバイアスが印加されるイオンコレクタ極板47に引き寄せられる。コレクタ極板47は、高利得電流増幅器または電位計36(たとえば、Keithly428)およびオシロスコープ37に接続された。
【0049】
図7に示されたタイプの非対称波形の印加によって、集束作用が図9Bに示されたような内部電極42の略球形の終端42Tの周囲に延在する点を除き、従来のFAIMS−E10およびFAIMS‐R1‐プロトタイプ30に関して上述したイオン集束挙動を生じた。これは、イオンが内部電極42の終端42Tの周囲の領域から逃れることができないことを意味する。これは、2次元集束に関する説明において記載したように、内部電極42に印加された電圧がCVおよびDVの適切な組合せである場合に生じるだけである。CVおよびDVがFAIMSアナライザ領域44におけるイオンの集束に適しており、図9Aおよび図9Bに示された外部電極43の内面の物理的な幾何形状がこのバランスを妨げない場合には、イオンは、図9Bに示されるように終端42T付近に集まる。いくつかの相反する力が、内部電極42の終端42T付近のこの領域中のイオンに作用している。図9Bの内部電極42の終端42T付近に示されるイオン雲は、ガスフローの力のために、図9Aに示されるように左から右へ出口格子46に向かって移動することが好ましい。これはまた、イオンが電離源15に向かって左から右へ戻ることができないことを意味している。負の極性を有するCVの印加のために、内部電極42に近づきすぎたイオンは電極42から押し戻され、外部電極43付近のイオンは内部電極42に向かって戻される。流れているガスの力またはFAIMS機構の電界(電位井戸)のいずれかによって、イオンはあらゆる方向で捕獲される。
【0050】
上記の説明は、イオンが「捕獲」または「捕捉」されると言及しているが、実際には、イオンは『拡散』を受けている。拡散は常に、集束または捕捉に反して作用する。イオンは常に、拡散のプロセスを逆方向に進めるために、電気またはガスフローの力を必要とする。これは、イオンが(厚さほぼゼロ)空間における架空の円筒ゾーンまたは3次元イオントラップ内に集束されてもよいが、イオンは実は拡散のために空間のこの同一のゾーンの付近で分散されていることが実際には公知であることを意味している。これは、イオンが常に、すべてが同一の場所に正確に位置するのではなく、ある領域にわたって「分散」されていることを意味している。これは重要なことであり、本願明細書で記載されているイオン運動のすべてに補充される全体的な特性として認識されるべきである。このことは、たとえば、3次元イオントラップが実質的な空間の幅を実際に備え、物理的および化学的ないくつかの理由に関して洩れていることを意味している。
【0051】
FAIMSにおける化学的な効果についてさらに詳しく述べると、イオンが中性分子と衝突し、一時的に安定な錯体を形成する場合には、この新たな錯体が元のイオント異なる高電界移動度特性を備えているために、この錯体がFAIMS集束または捕捉領域の中から移動している可能性がある。これは、錯体が元の単独の親イオンとは異なる高電界での挙動(図1参照)を備えている可能性があることを意味している。たとえば、(極端に言えば)元のイオンが図1に示されるタイプAであり、新たな錯体がタイプCである可能性がある。これが事実である場合には、新たな錯体は一般的なDVおよびCV状態で捕捉されないであろう。このようなイオンと装置の壁との衝突によって、すぐにトラップからイオンの消失が生じる。元のイオン自体が捕捉され続ける可能性はあり、「化学的」効果を経たこのようなイオンの除去は完全に可能であるが、FAIMSアナライザがガスフロー中の著しい水蒸気または汚染物質の存在を見落とす理由である。FAIMSアナライザは、きわめて正常な状態において最適に動作する。P2モードの動作中、高純度のガスの必要条件がある程度緩和される。
【0052】
ここで、図10A〜図10Iを参照すると、FAIMS‐R2‐プロトタイプ40を用いた実験結果が示されている。電極の寸法は、図9Aおよび図9Bに関して上述した。DVは約2000Vであり、CVは−12Vであり、装置を通過するガスフローは0.9L/minであった。DVおよびCVが約16ms間、内部電極に印加された後、この電圧が内部電極42に印加された抽出電圧によってとって代わられた。内部電極42に印加された直流抽出電圧は、イオンを内部電極42から出口格子46に向かって押し続け、それによって、ガスフローが格子46を通って、このようなイオンを搬送する(尚、数%のイオンは、この格子46との衝突で消失した)。図10A〜図10Iのトレースは、+1V(図10A)〜+30V(図10I)の範囲の電圧で、抽出されたイオンの結果を表している。捕捉されたイオンの抽出は、図10A〜図10Iに記録された正のパルス48を生じる。図に示された負のパルス49は、DVおよびCVが除去され、抽出電圧によってとって代わられるときに生じる電子過渡雑音である。図10A〜図10Iに示されたデータから、抽出電圧の増大が短めのさらに強いイオン信号を発生することは明白である。これは、イオンが+1Vより+30Vでさらに強くトラップからパルス化されるために生じる。図10A〜図10Iに示された実験結果は、イオンの雲が内部電極42の終端42T付近に集まるという仮設を実証する。一部のイオンが内部電極42の終端42T付近で入手可能でない限り、図10Iに示されたイオンのパルスは、FAIMS−R2−プロトタイプ40から抽出されることはできない。
【0053】
(FAIMS−R3−プロトタイプ)
ここで、図11A〜図11Cを参照すると、FAIMS‐R3‐プロトタイプ50が示されている。この装置は質量分析法によって検出するために構成され、ガスおよびイオンが質量分析計の真空室に引き入れられるサンプラコーン18が、図11A〜図11Cの左側に示される。真空ハウジングおよびサンプラコーン18の右側は、実質的に大気圧に保たれている。このような構成要素の左側は、「質量分析計真空室」と明示され、一般に1トール未満の気圧である。大部分のシステムにおいて、第2のオリフィス(図示せず)は、一般に気圧が10−5トール未満の質量分析計の質量アナライザ領域に導く。
【0054】
図11Aに示されたFAIMS−R3−プロトタイプアナライザ50は、直径約2mmの内部固体円筒電極52および内径約6mmの外部電極53からなる。中心電極52は、電気接続を介して、非対称波形発生器電源55によって電力が供給される。DVおよびCVの両方が、この発生器によって供給される。波形およびタイミング図は、図11Dに示されている。図11Dに示されているように、非対称波形は内部電極52に連続的に印加される。
【0055】
図11Aに戻って参照すると、ガスは、右側からFAIMS−R3−プロトタイプ50に入り、FAIMSアナライザ領域54から構成される環状空間に沿って流れ、外部電極53の開口端を経て出る。外部電極53から電気的に絶縁される微細な細い導線の金属格子から構成されている出口格子56が、外部シリンダ53の開口端(左側)に隣接し、格子電気パルス発振器電源57への電気接続を有する。格子56の電圧は、この電源を用いて段階的に変更することができる。格子電圧およびタイミング図が、図11Dに示されている。格子は一般に、図11Dに示されるイオン蓄積時間中、−5V〜+5Vの間(たとえば0V)に維持される。次に、内部電極の球形の終端52Tに位置している3次元大気圧トラップからイオンを抽出するために、格子は、−5V〜+5Vの間(たとえば、図11Dの−15V)まで段階的に変化される(100ns移行)。図11Bは、蓄積時間中、イオンのおよその位置を概略的に示している。記憶装置に印加されているCVおよびDVの組合せで「正味の」運動がゼロであることから、ここで捕捉されるイオンは、正確な高電界イオン移動度(図1参照)を備えていることを心に留めておくべきである。(非対称波形の印加のためにイオンが常に前後左右に移動していることから、「正味の」なる語が使用される。すなわち、イオンが反復して同一の位置に戻る場合には、DVおよびCVの印加によって生じる「正味の」運動はゼロである。)たとえば、(H2O)nH+イオンが、約+2000VのDVおよび約−10VのCV(P1モードを象徴する)で、図11A〜図11Cに示された幾何形状に格納される。DVおよびCVのこの組合せと著しく異なる状態(たとえば、DV2000VおよびCV+10V)では、(H2O)nH+イオンは、図11Bに示されているような1つの物理的な位置に集まらない。代わりに、このようなイオンは、シリンダ52,53の壁と衝突する。DV2500VおよびCV−5VなどのDVおよびCV状態の第2の設定で、別のイオン(たとえば、(Leucine)H+)が、図11Bに示されているように、内部電極52の先端52Tで収集することができる可能性がある。
【0056】
図11Bに示された内部電極52の終端52Tの付近で、相反する力のためにイオンの運動が制限される。FAIMSアナライザ領域54に沿って流れているガスは、イオントラップガス注入口に向かって戻るように左から右へ(図11B)イオンが移動することを防止する力を加え、この力はまた、外部電極の左端に示される出口格子56に向かってトラップからイオンを押出す傾向もある。FAIMSの電気的な力特性は、内部電極52の側面から一定の距離にイオンを維持する:(1)内部電極52から離れすぎているイオンは、印加される直流オフセットの負の極性、すなわち負のCVのために、内部電極52に引付けられ、(2)内部電極52に近いイオンは、イオンがタイプP1であると仮定した場合、高電界におけるイオン移動度の増大(図1参照)のために、押し続けられる。イオンの運動の詳細については、以下に記載される。
【0057】
図11Cは、格子電極56に印加される電圧まで段階的に変化させることによって、3次元大気圧トラップからのイオンの除去を示している。格子56に印加される電圧が、図11Dのタイミング図に示されるように、たとえば0Vから−15Vに減少される場合には、イオントラップの井戸深さは減少または排除され、イオンがガスフローの影響下でまたはイオンを出口格子56に向かって移動させる可能性がある電界によって、自由に流出する。
【0058】
図11A〜図11Cに示されるFAIMS−R3−プロトライプ50は、電気噴霧電離(ESI)によって生成されるイオンの検出用に適している。FAIMSは、アナライザ領域に入るガス中の水分および汚染物質に対する感度が高い。汚染物質または多すぎる水蒸気は、信号の完全な消失および本願明細書に記載したように機能するためのFAIMSの故障を引き起こす。電気噴霧電離は溶媒混合物の高電圧支援による霧化を含むため、水および他の揮発性溶媒の量がはるかに多すぎると、FAIMSアナライザ領域54では許容することができない。これは、中性の溶媒分子がFAIMSアナライザ領域54に入らないようにするために、ESI−FAIMS組合せ装置は常に、ガスの単離、カーテンガスまたは向流ガスフローのタイプを必要とすることを意味する。これを実現するための1つの方法が、図11A〜図11Cに示される。FAIMSは、ガス注入口62およびガス放出口63用の設備を有する小さなチェンバ61によって、電気噴霧電離箱60から分離される。ガスの流れがこの中間チェンバ61に入り、ガスの一部が電気噴霧電離箱に向かって流れる場合には、中性の溶媒分子は電気噴霧電離箱のポートを経て放出され、イオントラップ装置に入らないようにする。図11A〜図11Cに示される電気噴霧ニードル15Eは、水平面または、示されている高めの垂直部分ではなく、FAIMSアナライザ領域54より低い部分にある可能性が高い。これは、きわめて大きな液滴が、重力によって、FAIMSアナライザ領域54に落ちやすい傾向を最小限に抑える。水平または低めの配置において、(任意に)過度の溶媒を除去するための排水管を備えていてもよい電気噴霧電離箱60の底部に大きな液滴が落ちる。また、イオントラップガス注入口が閉鎖されている場合には、パージガス注入口に入るガスは両方に使用されてもよく、脱溶媒を援助してもよく、このガスフローの一部が、図12の右から左へFAIMSアナライザ領域54に沿ってイオンを搬送するために使用されると思われる。
【0059】
図12(ガスフローが強調され、大部分のイオンが省略されている)に示される第2の方法で、ガスの向流を実現することができる。ガスの一部がFAIMSアナライザ領域54を出て電気噴霧電離箱60に入るように、FAIMSアナライザガスフローが調整される場合には、中性の汚染物質が入ることを防止することができる。これは、図11A〜図11Cに示される装置より高いイオン伝搬を生じる可能性がある。また、出口格子電極56(図11A〜図11C)は、図12には示されていないことに留意されたい。この実施形態において、イオントラップを無効にする「抽出」パルスが、質量分析計サンプラコーン18に印加される。
【0060】
(FAIMSイオン捕捉質量分析法の実験:計器の概要)
ここで、図13A〜図13Jを参照すると、FAIMS−R3−プロトタイプ50と共に飛行時間型(TOF)質量分析計を用いたシステムが記載されている。図13Aに示されるように、FAIMSの組立品、イオン生成およびガス制御は、図122示されるものと類似している。このシステムの作動および実験結果の詳細についてさらに説明するため、図はこの作業に使用された飛行時間型(TOF)質量分析計70の内部構成要素を示すために拡大されている。分散電圧、補償電圧、サンプラコーン電圧VORおよびTOF加速パルスのタイミング図が、図13Bに表示されている。
【0061】
図13Aは、サンプラコーンへの電気接続があることを示している。電気接続は、サンプラコーン電圧VOR、すなわちイオントラップからイオンをゲートで制御するために使用される電圧を制御するために使用する。たとえば、代表的な実験において、(たとえば、FAIMSオフセット電圧+20Vおよび補償電圧―3Vのとき、)VORはイオンの捕捉中+40Vに設定され、イオン抽出用に+1Vに設定されてもよい。これらの電圧は、たとえば捕捉のために40msの時間、イオン抽出のために10msの時間、印加される。イオン抽出の開始後、内部電極52の終端52T付近に位置したイオンの雲が、サンプラコーン18に向かって移動する。サンプラコーン18とFAIMS50との間の電界およびサンプラコーンオリフィス18Aを通って真空システムへ流れるガスの高流動性のために、一部のイオンが、サンプラコーン18とスキマーコーン71の間の低圧(2トール)領域に搬送される。スキマー71は一般に、大地電位に維持される。イオンが低圧領域(9×10−5トール)に入り、8重極イオンガイド73を経てTOF加速領域72の入口に搬送された後、サンプラコーン18とスキマー71との間に1Vの差があれば、スキマー71を経てイオンを取り出すために十分である。8重極73を介したパルスの搬送中、パルスの遅延および広がりを最小限に抑えるため、8重極ガイド73は、低圧で作動される。8重極73は一般に、イオンを閉じ込めるために、−4Vの直流オフセットおよび700Vの1.2MHz(ピークからピークまで)を印加した波形を用いて作動される。8重極イオンガイドの射出開口部レンズ(図示せず)は、−5.5Vに維持される。イオンは、8重極射出レンズを経て、TOF質量分析計70のイオン加速領域72を構成する一連の格子を通過する。
【0062】
さらに図13Aを参照すると、TOFの加速領域72は、2つの高電圧パルス発振器74A,74Bに接続され、以下のように動作する。装置は、3つの微細網状金属格子72A,72B,72Cを含む。飛行管に最も近い位置に配置される格子72Cは、一定の大地電位に維持される。他の2つの格子72A,72Bはそれぞれ、高電圧パルス発振器74A,74Bに接続される。格子72A,72Bは2つの可能な電圧状態に達し、外部のパルス発振器ディジタル論理回路75によって制御される。1つの電圧状態では、格子72A,72Bの両方が1つの電圧に維持され、我々の実験では−5.5Vが使用された。この状態において、8重極イオンガイド73の射出レンズから移動するイオンは、格子72A,72Bを通過する。格子72A,72Bはまた、約50μsの持続時間のパルスを印加することによって得られた第2の高電圧状態に維持される。パルスが印加される場合に、このような格子72A,72Bの間の領域に位置するイオンがあり、このようなイオンは、図13Aに示される飛行管76および検出器77の方向に加速される。このようなイオンは第2の格子72Bを通過し、第2の格子72Bと大地電位である第3の格子72Cとの間の高電界のために、さらに加速される。一旦、このようなイオンが加速領域72から通り抜け、飛行管76に沿って移動している場合には、加速領域72の2つの可変格子72A,72Bの電圧は、低電圧状態に戻り、新たなイオンが格子72A,72Bの間の空間に入り得る。格子72A,72Bは一般に、約50μs間、高電圧に維持される。
【0063】
原則として、すべてのイオンがパルス出力電圧格子72A,72Bと一定に接地された格子72Cとの間の電圧降下によって定義される(第1次近似と)同一のエネルギーを有するため、飛行管76に伝搬するイオンは質量によって分離する(この説明では、電荷(Z)=+1と仮定する)。イオンエネルギーはEi=mv2/2によって定義されるため、異なる質量mのイオンは異なるイオン速度vであり、その結果、エネルギーEiは一定である。イオンは、次々とイオンの塊となって、TOF検出器77に到着する。質量の最も小さいイオンが最も高速であり、検出器77に最初に到着し、質量の最も重いイオンが最後に到着する。
【0064】
しかし、実際には、加速領域72に残っているイオンのすべてが、同一の電圧ではない。イオンは、2つのパルス出力電圧格子間の開始位置によって指示されるエネルギーをある程度有する。エネルギーのこの差によって、加速領域72における開始位置に関係なく、所与のm/zを有するイオンのすべてが同時に検出器77に達することを意味する「空間的な」集束性能を装置に与えることができる。この文脈では、「集束」なる語のこのような使用は、光学系(たとえば、カメラ)における光の集束によく似ている。第2の格子72Bと接地された格子72Cの間から加速されたイオンは、広範囲のエネルギーを有し、望ましくない「背景」雑音の一因となる。これは、接地された格子72Cにきわめて近い(2mm)第2の格子72Bを配置することによって、最小限に抑える。
【0065】
TOF加速領域72は、一定の遅延時間でサンプラコーン18に印加されるパルス(VOR)を伴うパルスを出力する。FAIMS50から抽出され、真空インターフェイス18,71を経て、8重極73を介して、加速領域72へと通過されるイオンのパルスにとって、有限の遅延時間である。TOF質量スペクトルは、抽出パルスがサンプラコーン18に印加された後、一連の遅延時間で収集される。サンプラコーンが連続的に低電圧(すなわち+1V)状態に維持される場合には、検出されると思われる均一な信号に対応する一定レベルまでの信号強度の減衰を伴う強い過渡信号の出現によって、イオンのパルスの到着が特徴付けられる。
【0066】
(イオン捕捉の研究用のTOF質量スペクトルおよびCVスペクトル)
コロナ放電電離によって生成される質量の小さいイオン、特に陽子を加えた水イオンはきわめて高いイオン密度(存在度)であるため、本研究では、きわめて急速にトラップを満たすか、または短すぎる寿命であるかのいずれかであると予想された。したがって、P2モードで質量がより大きいイオンを探すことが決定された。このようなイオンの存在度はキャリヤガス中の汚染物質の痕跡から作成されるだけであるため、その存在度は低いと予測された。追加的なサンプル化合物またはガスは、システムに追加されなかった。ここで研究されたイオンは、「清浄な」窒素空気におけるコロナ放電電離によって形成された。イオン源およびFAIMS装置は、できる限り清浄な状態で作動された。
【0067】
図13Cは、本研究のために獲得された一般的な質量スペクトルを示している。これは既知の較正用化合物を必要とするため、正確な質量は決定されなかったが、陽子を加えた水イオンを含む質量の小さめのいくつかのイオンに対する飛行時間を用いて、おおよその質量が決定された。不純物イオン81,82がいくつか。スペクトルに現れたが、最も高い存在度(飛行時間27.0μs)のイオン83のみが本研究では検討された。このイオン83は、約380(±10m/z)のm/zを有する。
【0068】
図13Dは、−3500Vの印加された分散電圧で飛行時間27.0μs(m/z約380)のイオン83を検出するために、補償電圧走査を示している。DVの極性はP2モードと呼ばれ、一般にP2モードでFAIMSを通過するイオンは通常、m/z300を上回る質量である。P2モードで通常存在するイオンは、電界が増大するにつれて、減少するするイオン移動度を有する(図1のタイプCのイオン)。P2モードの1つの制限は、イオンが一般に、低いCVで発見されるため、イオン捕捉の強度が弱いことである。他方、質量のより大きいイオンの1つの利点は、イオン移動度が一般に低めであるため、高電圧非対称波形の印加中に移動される距離が軽減され、拡散によって壁に対するイオン消失の割合が、最小限に抑えられると予測されることである。
【0069】
図13Dにおける各実験地点におけるイオン強度は、5000回の反復TOF加速パルスから記録されたスペクトルを平均することによって得られた。電源によって設定された電圧を読み出すために使用されるディジタル電圧計を用いて、補償電圧は手動で調整された。(1)VORの「下方」端(移行)の後に、4.5msの検出を用いたパルス出力サンプラコーン18、(2)+1Vに設定されたVORを用いてFAIMSからTOFまでの連続イオン伝搬および(3)+15VのVORを用いてFAIMSからTOFまでの連続イオン伝搬を含む3つの動作方法における補償電圧曲線の収集に対応して、3つのトレースが図13Dに生じる。検出イオンの最大の伝搬に対応する補償電圧は、このような3つのデータ収集方法の場合に匹敵した。図13Dから、飛行時間20.0μsのイオンは、DV=−3500Vおよび約−2.5V〜−4Vの補償電圧で、FAIMS装置50によって伝搬された。
【0070】
(TOFのイオン光学中のイオン搬送遅延)
ここで、図13Eを参照すると、全システムの応答時間を決定するために設計された実験の結果が示されている。VORは、2つの値、FAIMSを経て真空システムへのイオン伝搬に適した電圧(+15V)および捕捉またはイオン伝搬のいずれにも不適切であった第2の電圧(−10V)の間で段階的に変化された。図13Eは、いずれも可能なタイプのVOR移行、すなわち高電圧から低電圧までおよび低電圧から高電圧までの間の一連の時間遅延で収集される質量スペクトルの強度を示している。以下の説明のために、これらの移行はそれぞれ、VORにおける変化の「下方」および「上方」端が考慮される。遅延の起点および遅延の長さは、2つの場合では異なる。理由については次に考察する。
【0071】
図13Eの40msで生じる高電圧から低電圧への移行、すなわち「下方」の場合には、サンプラコーン18に印加される低電圧は、(正に帯電した)いずれのイオンもサンプラコーン18(すなわち、−10VにおけるVOR)とスキマーコーン71(0V)との間を通過しないようにするため、「下方」移行は、8重極イオンガイド73に通過するイオン束におけるきわめて急激な減少を生じる。したがって、1つの極値に、TOFによって得られたスペクトルの強度がゼロまで急激に減少する可能性があると予測されると思われる。実験では、低イオン密度領域に戻るイオンのために、イオン密度の急激な減少は「不明瞭」である。(a)すべてのイオンが同一の運動エネルギーを備えているわけではなく、ごくわずかのエネルギーを有するイオンが遅れるためおよび(b)8重極ハウジング73の内部のイオンと残留ガスとの衝突が、イオンの一部の運動エネルギーに影響を及ぼすために、このような広がりが予測される。8重極73はイオンガイドであるため、残留ガスとの衝突を経験したイオンが8重極73の内部に含まれたままであることから、この長手方向の広がりが強調される。運動エネルギーが弱められたために、このようなイオンは、長い遅延時間で、8重極73を通って、TOFの加速領域72に達する。図13Eは、VORが+15Vから−10Vまで変化した後、約2ms間にイオンがTOF加速格子に到達し続けることを示している。この「下方」移行は、図13Eの40msで生じることに留意されたい。
【0072】
低電圧から高電圧へのサンプラコーンの「上方」電圧移行は、若干異なる効果を有する。この移行は、図13Eの時間0msで生じる。図13Eに示されているように、TOFスペクトルの強度に関して、平坦域に達するまでに必要とされる時間は、約10msである。遅延をある程度予測される。VORが高められる場合、FAIMS50の内部シリンダ52の終端52Tの前に位置するイオンの比較的低い密度は、FAIMSシリンダ52,53の間の環状領域54に沿って伝搬した新たに到達するイオンによって増大されるに違いない。次に、このようなイオンは、サンプラコーン18を経てスキマー71領域、さらに8重極73まで通過し始めるに違いない。上述したVORパルスの「下方」端の説明から、8重極73を経て伝搬される(ことを監視されるイオンの)イオン密度似置ける変化のために最低2ms必要である。そのため、TOFスペクトルにおいてイオン存在度が増大する前に必要とされる追加的な時間遅延(すなわち、2msと10msとの差)は、サンプラコーン18の前においてイオンの出現が遅れ、次にサンプラコーン18を経てスキマー71領域まで伝搬することに起因している。
【0073】
(FAIMSにおけるイオン捕捉の実験的な検証)
ここで、図13Fおよび図13Gを参照すると、FAIMS50の内部電極52の球形終端52Tの付近に位置する3次元イオントラップの実験的な検証が、示されている。FAIMS50へのキャリヤガスフローが図13Gの収集の場合には減少した点を除き、図13Fおよび図13Gに関するデータ収集用の実験条件は同一であった。この作図のためのデータは、約1週間あけて独立した実験において収集した。
【0074】
図13Fおよび図13Gの作図は、サンプラコーン18の「下方」移行後、さまざまな時間に収集された飛行時間27.0μs(約m/z380)のイオンの測定強度を示す。これらのパルスのタイミングは、図13Fの一番下に示されている。時間ゼロは、サンプラコーン18が高電圧状態(VOR=+40V)から低電圧状態(VOR=+1V)までパルス出力された時間を示し、それによって、イオンをFAIMSトラップから抽出する。イオンは、TOF加速領域72までシステムを通って移動するために、約5ms必要とする。イオンのパルスは、通過中に広がり、本システムによって検出されたときには、(半分の高さで)約3msの幅であった。
【0075】
図13Fおよび図13Gはまた、VORの2つの異なる設定で非パルス出力モードの収集に対応する2つの水平線を含む。低い方の強度データは、パルス出力モードで作動している場合にサンプラコーン18の「低電圧」状態に対応するVOR=+1Vで収集された。高い方の強度の水平トレースは、サンプラコーン18用の実験による最適な設定(VOR=+15V)で収集された。この設定におけるサンプラコーン18の直流レベルによって、非パルス出力モード用の最大の可能なTOFスペクトル強度を生じた。図13Fおよび図13Gに関して、データは異なる場合に異なるFAIMSガスフロー状態で収集されたが、VOR=+15Vの場合の信号の強度は似ていることを留意されたい。イオン軌跡のモデル化は、内部電極52の終端52Tの周囲を通過するイオンが、電極52の端を通り過ぎる際に、中心チャネルに向かって集束されることができることを示した。このように、イオンは、最大感度を備えた真空に誘導するサンプラコーンオリフィス18Aの中に伝搬される傾向がある。このイオン集束が生じることを示すこの軌跡の計算例が、図19Cおよび図19D(下)に示されている。
【0076】
(イオン蓄積時間)
内部FAIMS電極の端付近の蓄積ゾーンからイオンを抽出することによって生じるイオンの検出パルスの強度に対する蓄積イオン蓄積時間の影響を決定するために、実験が行われた。蓄積時間の長さの関数によって作図された飛行時間27.0μsのイオンに関するTOFピークの強度が、図13H、図13Iおよび図13Jに示されている。サンプラコーン18に印加される波形は、イオンがTOFに入ることができる低電圧(VOR=+1V)で一定時間(10ms)から構成された。サンプラコーン格子電圧VORが下げられた後、約4.5msTOF加速格子72A,72Bを作動させることによって、信号強度が測定された。VORは、図13H〜図13Jのx軸に示されている時間では、高い値(VOR=+40V)に維持された。図13H〜図13Jの3つのトレースは、補償電圧CVのさまざまな設定で収集されたデータに対応する。非最適補償電圧、CV=−4V(図13J)に関するイオン強度は、イオントラップが比較的非能率的であり、トラップに保持されることができるイオンの最大数に比較的急速に(すなわち、約10ms)達することを示唆している。他方、CV=−3V(図13H)およびCV=−3.5V(図13I)では、強度は30ms以上増大する。このことは、すなわちドリフト時間27.0μsのFAIMSイオントラップ内部におけるイオンの寿命が少なくとも5msであることを示唆している。高い捕捉時間では、トラップが満たされることおよびイオンの流入が拡散による消失およびガスフローによって平衡に保たれていることが仮定される。この実験は、簡単な運動によって生じる問題であると考えられることができる。イオンの流入は、Xイオン/秒である。イオンの消失、すなわちYイオン/秒は、トラップにおけるイオンの数に比例する。トラップにおけるイオン数、総イオン数Zは、安定状態に達し、X=Y=kZとなるまで増大し続ける。式中、kは、トラップからのイオン消失の割合を表す関数に対して一定の割合である。短い遅延時間では、Zは小さく、kZも小さい。したがって、Z=Xtと仮定することができる。式中のtは時間である。時間ゼロにおけるZがゼロである場合には、微分方程式dZ/dt=X−kZの解は、Z(t)=X(1−e−kt)/kである。Xおよびkを決定するために、データ設定をこの関数に合せることができる。図13H、図13Iおよび図13Jは、実験データおよびデータに合せるために使用された上記の式に基づいて計算された曲線を示している。CV曲線−3V、−3.5Vおよび−4Vに対して、kの値はそれぞれ、0.06、0.12および0.34であった。対応するXの値はそれぞれ、0.4、0.72および0.8であった。kの高い値は、イオン消失の割合が高い場合の条件を表す。Xの高い値は、トラップへのイオンの流入が高い割合であることに対応する。
【0077】
(FAIMS−R4−プロトタイプ)
ここで、図14A〜図14Cに示される別の実施形態を参照すると、FAIMS−R4−プロトタイプ80と呼ばれ、電気噴霧(または別の電離)が内部電極82の半径の内部に生じるFAIMS3次元大気圧イオントラップが示されている。これは、FAIMSのMine Safety Appliances Companyバージョンで好まれる構成である。この装置の改良バージョンが、図3Aおよび図3Bに概略的に示されている。一般に、イオンは、外(外部)から外部電極83まで、または内(内部)から内部電極82までのいずれかによって、FAIMSアナライザ領域84に注入されてもよい。後者は、寸法が小さく、内部電極82の半径が、外部イオン源を用いた装置で使用されることができるものよりはるかに大きい必要があるため、あまり好都合ではない。さらに、電離源(たとえば、コロナ放電ニードル)は、非対称波形で印加される高電圧の影響を受けやすい可能性がある。イオン源を直に包囲している電極は、図3Aおよび図3Bに示されるFAIMSに電気的に接地される。
【0078】
図14A〜図14Cに示される装置において、内部電極82は外径約14mmであり、外部電極83の内径は約18mmであり、これらの2つの同軸シリンダ82,83の間には約2mmの環状空間(FAIMSアナライザ領域84)が存在する。内部シリンダの端82T(図14A〜図14Cの左端)は閉じられ、電極の端82T付近のすべての位置に、FAIMSイオン捕捉に適切な電界を維持クするのに適切であるように形成される。
【0079】
外部シリンダ電極83の内部は、図14A〜図14Cの直径において均一であるように示されているが、たとえば、図14A〜図14Cに示されている直径の広い内部電極82の場合は、外部電極83の内面が図9Aおよび図9Bに示されるものときわめてよく似た輪郭に構成される場合には、RAIMS分析状態がさらによく維持される可能性がある。これは、内部電極82の球形(または円錐形)の閉じた端82T付近で、内部電極82と外部電極83の間を実質的に一定距離に維持する。電極の端82T付近の内部電極82と外部電極83との間隔は、実質的に均一であってもよいが、電極の端82T付近の位置で平衡状態を維持することができる限り、この間隔はまた、均一でなくてもよいことを理解されたい。
【0080】
ガスフローは、図14A〜図14Cに示されるFAIMSアナライザ領域84の端(図ではFAIMSの右側面)に入り、内部電極82の閉じた端または終端82Tに向かって流れる。内部電極82の終端82Tを越えて、ガスフローが高透過性の微細ワイヤ格子を含む出口格子85を通過し、質量分析計サンプラコーン18と出口格子85との間の空間を経て出る。サンプラコーン18のオリフィスへのガスフローの一部が、質量分析計の真空によって引付けられた。抽出時間中、出口格子85を通過したイオンの一部も、ガスフローおよび電界によって、質量分析計へ引付けられる。
【0081】
図14A〜図14Cに示されるFAIMSアナライザ領域84に入るガスの一部は、アナライザ領域84から電離領域86へ、内部(すなわち、向流ガスフロー)を流れることができなければならず、それによって、中性分子、大きな液滴および他の望ましくない非帯電成分がFAIMSアナライザ領域84を通過しないようにする。このような成分は、FAIMSアナライザ領域84中のガスを汚染し、本願明細書の他の部分で述べたイオンの集束および捕捉を低下させる恐れがある。したがって、FAIMSアナライザ領域から電離領域へのガスフローが、電気噴霧実験中に逆流した場合には、装置が作動しない恐れがある。電離がきわめて清浄な汚染されていないガスにおいて生じる場合には、ガスフローの向きにおけるこのような制限は緩和されてもよい(たとえば、放射性63Ni箔を用いた清浄ガスの電離、コロナ放電電離、紫外光放射による電離など)。P2モードにおいて作動中、高純度ガスの要件はある程度緩和される。
【0082】
図14A〜図14Cに示される装置は、前述した装置と類似の方法で作動する。イオンは、放射方向に内部を流れているガスに対する電界によって伝搬される電離領域86から放射方向に進む。FAIMSアナライザ領域84へ進むと、電界がアナライザ領域84の内部にイオンを閉じ込める(集束または捕捉)か、適切でないDVおよびCVの印加のために、イオンが装置の壁と衝突するかのいずれかである。サンプル中のイオンの1つに対して、DVおよびCVが適切であると仮定すると、そのイオンはFAIMSアナライザ領域84に集束され、(FAIMSアナライザ領域84において、ガスおよび電界は互いに垂直に作用するため、)ガスと共に内部電極82の閉じたドーム状の終端82Tに向かって流れる。トラッピングフィールド(電位井戸)が依然として適切である場合には、イオンは、図14Bに示されているように内部電極82の終端82T付近に集まる。これは、イオンがガスの流れに反してイオン源に戻ることができないために生じ、イオンは、内部電極の終端82T付近の電界の閉じ込め作用によって、格子85の中からガスと共に流れることができない。以下の条件:(1)DVおよびCVが印加されていなければならず、電圧が依然として捕捉されるイオンに対して適切であること、(2)捕捉されるイオンに対して適切であるように、外部電極および格子の電圧が、たとえば0V付近に固定されたままであることおよび(3)ガスフローが維持されていることが維持される限り、このトラップは存在する。少しでも条件が変化した場合には、イオンはトラップから出てしまう恐れがある。図14Cに示されているように、トラッピングフィールドから格子85を経た後、質量分析計のサンプラコーン18までイオンを移動させることが望ましい場合には、この結果を実現するために、上記の条件の1つを任意に変更してもよい。これは、さまざまな方法で生じ得る:
(1)格子85の電圧が、内部電極82および外部電極83に対して(捕捉中のその値から)降下されることができる。これは、(終端82T付近の)FAIMS捕捉領域から離れるように(正に帯電したイオンを)引付ける効果があり、それによってトラップの保持を解除する。イオンはトラップから出て、格子85に向かって移動する。一部のイオンは格子ワイヤに衝突し、一部は(ガスフローによって援助されて)格子ワイヤを通過する。装置における電圧のすべてが互いに対して考慮されなければならないため、外部電極83および内部電極82に印加される電圧における変化によって、同一の効果を実現することができる。たとえば、外部電極83および内部電極82の両方に印加される電圧の増大は、格子85に印加される電圧の減少と全く同一の効果を生じる。
(2)FAIMS捕捉領域の付近におけるイオンの運動を変化させるさまざまな方法で、DVまたはCVを変更することができる。CVが負の大きな値になる場合には、イオン(正のイオン)は内部電極82と衝突しやすく、CVが正の大きな値になる場合には、イオンは内部電極82から離れた位置となり、ある電圧でFAIMSトラップはこのイオンに対してもはや存在せず、上記の(1)で述べたように、イオンはガスフローと共に平均直流電界の影響下で、格子85へ移動する。DVが排除される場合には、トラップはもはや機能しない。CVがたとえば、正のさらに大きな値に変更され、DVが排除される場合には、(正に帯電した)イオンは、内部電極82から排除され、格子85へ移動すると思われる。
(3)ガスフローを変更することができる。ガスフローが内部電極の閉じた端82T付近で電界の捕捉作用を抑えるほど十分に強い場合には、上述のように、イオンはトラップから格子85に向かって推進される。ガスフローが弱められるまたは停止される場合には、イオンは拡散および化学変化によって移動する。拡散はイオンをイオン源に向かって戻すことができ、それによって内部電極82の終端82T付近のFAIMS捕捉領域のイオンを激減させる。ガスフローの直前であっても、化学的な効果のために、イオンはすぐにトラップを過疎化することができる。イオンが中性分子と衝突し、一時的に安定な錯体を形成する場合には、この新たな錯体が元のイオントは異なる高電界移動度特性を備えているため、この錯体はFAIMS捕捉領域からドリフトすることもできる。
【0083】
(FAIMS−Rx−プロトタイプの他のバージョン)
大気圧FAIMSイオントラップの主な目的は、空間内のある位置にイオンを収集したり、閉じ込めたり、イオンの濃度を増大させることである。上記のパラグラフで記載した装置を用いて、これを実現することができる。このような装置の簡単な変形を数例、予見することができる。
(1)内部電極の端の幾何形状は球形であると仮定されているが、表面は円錐またはこのような形状の一部変形であってもよい。上述したイオンのFAIMS集束およびイオンのFAIMS捕捉を形成するために必要である不均一電界を確立するように、形状は選択される。
(2)外部電極の内部の幾何形状を変更してもよい。示された例の大部分は、機械的な製作の簡単さのために、簡素な円筒幾何形状である。不均一表面は製作しにくいが、場合によっては、特に内部電極の外径が約4mmを超えている場合には好都合である。
(3)内部電極および外部電極は、中心の長手方向の軸に平行である壁を備えているように示されていたが、これは不可欠なことではない。内部電極の外径は、その長さに沿って線形または非線形に変化してもよい。外部電極の内径は、その長さに沿って変化してもよい。このことは、たとえば、図3A、図3B、図14A、図14Bおよび図14Cに示されているように、電離源が内部電極の放射方向の距離の中に位置する幾何形状において好都合である。
(4)本願明細書に図示されている装置に示されているガスフローは、2つの独立した識別可能な用途に作用する。第一に、電界が領域の長さに垂直に作用しているため、イオンを装置の長さに沿って伝搬するのを助けることができないことから、ガスフローは、FAIMSアナライザ領域の長さに沿ってイオンを搬送するために作用する。第二に、ガスフローは常に、FAIMSアナライザ領域およびFAIMS捕捉領域を清浄、すなわち相対的に気相の水および化学汚染物質がない条件に保つように配置される。可能である場合には、中性物質および液滴がFAIMSアナライザ領域に入らないようにするために、イオンは、FAIMSアナライザ領域に入る前に、上流への向流を流れているガスまで運ばなければならない。上述した大気圧3次元イオントラップの実施形態では、ガスフローの1つの機能または別の機能をとって代わることが可能であってもよい。たとえば、電気手段によって、FAIMSの長さに沿ったイオンの運搬を実現することができる。たとえば、電気勾配がその長さに沿ってイオンを運搬するように作用するFAIMSアナライザの長さに沿って確立される場合には、これは上記のガスフローの機能の1つにとって代わる。電気勾配は、2つの方法で形成されることができる。第一に、各セグメントに印加されるわずかに異なる一定の直流電圧を用いて、装置の一方の端から他方の端まで別の電圧向米を形成するような方法で、内部電極および/または外部電極を分割することができる。装置が、イオン集束または捕捉状態を維持するために必要であるDVおよびCVおよび幾何形状状態を同時に維持することができる場合には、これは完全に実現可能である。第二に、装置の長さに沿って電圧勾配を確立させることができるような方法で、1つ以上の電極を製作してもよい。これは、半導体層で被覆された絶縁電極を用いて、実現されている。異なる電圧がこのような電極のそれぞれの端に印加される場合には、電極は抵抗装置のように作用し、電圧勾配はその長さに沿って存在する。電圧勾配は、半導体層の塗布に応じて、線形であっても非線形であってもよい。以下に記載されるイオン運動のモデル化のための方法によって、プロトタイプを構築することなく、このようなアプローチを評価することができる。モデル化は、このような装置が実現可能であることを示した。
(5)上記の説明において、非対称波形が印加される電極は、大部分の場合、いわゆる「内部電極」であった。「外部電極」は内部電極を包囲し、一般に、VFAIMSに維持される。ある例(図6Aおよび図6B)において初めの方で説明したように、非対称波形は、「外部電極」に印加された。DVおよび/またはCVを内部電極に印加する理論的な根拠はない。本開示に記載される構成のすべてにおいて、非対称波形および/またはオフセットCVを、内部電極または外部電極のいすれにも印加することができる。図14A〜図14Cに示されている場合も含めて、場合によっては、波形を外部電極に印加することに大きな利点がある。
(6)DVおよびCVは、同一の電極に印加される必要はない。たとえば、−11VのCVを実現するために、−11Vが内部電極に印加されるか、または+11Vが外部電極に印加されるかのいずれかである。厳密には、同一の論理をDVに適用する。イオンを捕捉するための状態が、(内部電極に印加された)DV2500Vを必要とする場合には、DV−2500Vが外部電極に印加されるときと厳密に同一の挙動が期待され得る。図6Aおよび図6Bに示されるハードウェアについて記載しているテキストに説明されたように、電圧の極性においてこのような変化が必要であることが理解された。したがって、図6Aおよび図6Bに関するテキストは簡単にし、波形DVおよびCVが内部電極に印加されたかのごとく極性を表示した。他の節に記載される装置の中で比較を簡単にするために、このようなことを行った。
(7)質量分析計サンプラコーンの幾何形状については、説明されていない。たとえば、図11A〜図11Cに示されるサンプラコーン18は、(簡単化のため)FAIMS装置に面する側面に平坦であるように描かれている。錐体の先端にオリフィス自体がある隆起した(とがった)前面を有するサンプラコーンの使用によって得られる利点が、いくつかある。イオンは一般に、とがった面に向かって引付けられ、格子とオリフィスとの間の空間を横切るイオンの伝搬を改良することができる。
(8)印加される非対称波形は、電圧、位相のずれおよび極性における小さな過渡変化を利用して作動されていもよい。たとえば、中心の幾何形状においてDV2500VおよびCV−11Vを用いて、イオンが集束または捕捉される場合には、DVの短い(ms)変化がイオン分離能力に影響を及ぼす。DVの電圧はmsの時間で変更することができ、極性はmsの時間で反転されることができ、高電圧と低電圧の相対時間は短い時間で変更されることができる。これが限界に近い方法で集束または捕捉されるイオンがFAIMSから拒絶される状態を形成する。たとえば、ほぼ同一の高電界イオン移動度特性を有する2つのイオンが、FAIMSアナライザ領域またはFAIMS捕捉領域に共存する。一方のイオンを選択的に除去するためにステップが設けられない限り、両方のイオンが検出器(電位計または質量分析計)に到達する。DVまたはCVに対する小さな電圧の変化、電圧および波形の位相における過渡変化は、一方のイオンを排除することを助ける可能性がある。
(9)出口格子電極はさまざまな形態を取ることができ、場合によっては不必要な場合もある。出口格子電極は、(1)内部電極の周囲に電界を完成させて、イオントラップが形成されること、(2)同時にこの領域を実質的に妨げられることなくガスフローが通過することができる点を除き、(1)に記載された電極を形成することおよび(3)内部電極に印加される電圧に変更を加えることなく、トラップを形成および無効にするための機構を実現することを含めて、3つの機能を担っている。明らかに、装置の他の部分によって、これらの機能を実現することができる。たとえば、図9において、イオントラップは、内部電極に印加される電圧によって制御される。イオントラップを排除するために使用される抽出電圧は、外部電極または内部電極に印加されてもよい。さらに、質量分析計のサンプラコーンが実質的にFAIMSの外部シリンダの端付近に配置される場合には、格子を完全に排除することができる。これは、図13に示された例である。
【0084】
(FAIMS−E、FAIMS−MS、2次元イオントラップおよび3次元イオ
ントラップにおけるイオン運動のモデル化)
FAIMSにおけるイオン運動は、実験および理論を合せて考慮することによってモデル化された。第一に、図15に示されるFAIMSで使用される2本のシリンダを考える。電圧が内部シリンダに印加されるとき、2本のシリンダの間の任意の点における電圧は、以下の公式:Vr=C(In(r/b)/In(a/b))を用いて計算されることができる。式中、(rは2本のシリンダ間の空間になると仮定すると、)Vrは放射方向の距離rにおける電位であり、Vは内部電極に印加される電位であり、内部シリンダの外径は「a」(cm)であり、外部シリンダの内径は「b」(cm)である。外部電極は電気的に接地され、すなわち0Vが印加される。(FAIMSアナライザ領域と呼ばれる)環状空間は、a〜bの放射方向の距離になる。これが、図15に示されている。管の間の電圧は線形ではなく、(電圧の導関数、すなわちdV/drである)電界もまた非線形である。(位置rにおける)管の間の電界は、E=−V(1/r In(a/b))であると示されることができる。式中、外部電極が0Vである場合に、Eは電界(V/cm)であり、Vは内部電極に印加される電圧である。変数a,b(cm)は、上記で定義され、図15に示される。
【0085】
大気圧の電界におけるイオンの運動は、v=KEによって表される。式中、vはイオンのドリフト速度(cm/sec)であり、Eは電界(V/cm)である。条件の所与の設定に関して比例の「定数」は、「イオン移動度定数」Kと呼ばれる。しかし、条件におけるさまざまな変化は、Kの値を変化させることができることを留意されたい。電界におけるイオンの速度を変化させる明白な条件は、(1)温度および(2)ガス圧を含む。上述したように、Kも電界と共に変化する。
【0086】
ここには示されていないが、図3Aおよび図3Bに示される改良型FAIMS−E10計器を用いて、高電界におけるイオン移動度(上記の説明ではKhと呼ばれる)を推定することができる。図16は、高電界におけるあるタイプのイオン(H2O)nH+のイオン移動度における変化を示している。図16における「ターム」なる語は、非対称波形の低電界部分中のイオン移動度に関する補正係数の周期的な改良を指す。実際には、DV3000Vの波形(たとえば図4)中、波形の低電圧部分は約−3000/2Vすなわち−1500Vである。このような低電圧であっても、イオン移動度が図1の左軸で示されるその「低電界」の値であると仮定されることができないほど、電界は十分に高い。これは、きわめて高い電界におけるイオン移動度比Kh/Kの最適推定値となるような周期的なほほ腕反復されることができる補正を必要とする。図17は、図16に示される曲線を作成するために使用された高電界移動度を計算するために使用された元のデータの一部を示している。詳細についてはここでは述べない。また、実際の非対称は計が図4(波形1)に示されているのに対し、計算結果は矩形の非対称波形(たとえば、図2のV(t))に基づいていることを留意されたい。
【0087】
(H2O)nH+のイオン移動度における高電界の変化が、図16に示される曲線によって表されていると仮定すると、図15に示された円筒幾何形状の中のこのイオンの軌跡を計算することができる。第1次近似の結果として、Rfinal=sqrt(2tK(V/In(a/b))+Rinitial2)で示すことができる。式中、Rfinalは長さtの時間後のイオンの放射方向の位置であり、Rinitialは時間t前の放射方向の位置である。sqrt()は平方根の関数である。また、イオンが図15に示された放射方向の距離a,bの間で時間のすべてを費やしている場合には、この式を適用するだけである。さらに、電界がRinitialとRfinalとの間で大きく変化しない場合には、式は最終的な放射方向の距離の有効値を与えるだけである。内部電極に印加される電圧はVであり、イオン移動度はKである。この計算のために、Kは軌跡の距離(イオンが移動する距離)に関して一定であると仮定されるが、Kは図16に示される高電界挙動から計算されることを思い出されたい。たとえば、イオンが、(非対称波形の印加中、)内部電極に印加される電圧が約10,000V/cmの高電界を生じるある選択された時間に距離rに位置する場合には、イオン移動度は約K*1.01であると計算される。1.01は図16から選択された値である。Kの値は室温における(H2O)nH+に対して約2.3cm2/V−sである。この移動度Kは、FAIMS計器を用いてたやすく決定されることはできないが、従来のイオン移動度分析法(IMS)の文献で見つけられることができる。
【0088】
図18A〜図18Dは、図16の曲線によって示された高電界特性を備えたイオンの軌跡を示している。図18Aは、図2に示されたタイプの印加される非対称波形によって生じたごくわずかの振動の動きを示している。
【0089】
表示のために、図15に示される円筒幾何形状は、外部半径0.1cmの内部シリンダおよび内部半径0.3cmの外部シリンダを備えていてもよい。このことは、軌跡を生じさせる計算のすべてがa=0.1cmおよびb=0.3cmで行われたに違いないことおよび軌跡がこのような極値を超えて広がって葉ならないことを意味している。図18Aに示されるイオン軌跡は、初めに放射方向の距離0.11cmにあったイオンを用いて計算された。これは、図18Aの最も左側の点として示されている。イオンは、印加された波形の結果として振動し、このことは,イオンの放射方向の距離における増減として示されている。(図を明確にするため、)FAIMSアナライザ領域にイオンを搬送するガスフローが、図18Aの時間(x軸)の関数として軌跡を示すことによって、シミュレーションされる。軌跡のシミュレーションの場合に印加された電圧は、CV=0V、DV=2500V、周波数=83000Hzであり、低電圧対高電圧の相対比(図2におけるt1およびt2)は、5:1であった。図18Aは、波形の低電界および高電界部分中の厳密に同一の距離を移動するわけではなく、イオンが「正味の」ドリフトを経験することを示している。「正味の」ドリフトは、(図18Aの場合には)放射方向の外側へのイオンの一般的な運動を指す。シミュレーションは数回反復され、結果は図18B〜図18Dに示された。波形およびイオン運動の振動数が図18Bでははるかに高い点を除き、図18Bは、図18Aと全く同一の方法でシミュレーションが行われた。これは、結局のところイオンがFAIMSアナライザ領域を横切って延在し、放射方向の距離0.3cmの位置で、図18Bの図の上端に位置する外壁と衝突することを意味している。したがって、図18Aおよび図18Bの(H2O)nH+イオンの運動のシミュレーションを行うために使用されたDVおよびCVの状態は、上述した物理的な幾何形状を有するFAIMSにおける集束または捕捉には適していないと思われる。イオン蓄積に適切であると思われる状態は、図18Cに示されている。状態は、CV=−11V、DV=2500V、周波数=83000Hzであり、低電圧対高電圧の相対比(図2におけるt1およびt2)は、5:1である。イオンの外部へのドリフトが内部電極への負の直流電位の印加によって妨害されると予測されるため、これは、図18Bから予測され得る。図18Cは、イオンが外側への放射方向の距離0.1cmの開始位置から正味のドリフトを経験するが、すぐにドリフトが停止し(イオンは、非対称波形の印加のために振動することを留意されたい)、イオンは内側へも外側へも進まないことを示している。図18Dは、イオン運動のためのものと放射方向の開始位置が約0.26cmであるように選択された点を除き、図18Cと同一の状態の場合に計算されたイオン軌跡を示している。イオンは内部電極へのドリフトを経験し、図18Cに示されたイオンと全く同一の放射方向の距離で安定する。これは、イオンがその開始位置に関係なく、イオン集束領域に来ることを意味している。したがって、FAIMSの集束特性はイオン軌跡の計算によって実証される。
【0090】
イオンの最適集束の放射方向の位置は、イオンの高電界移動度特性、DVならびにCVおよびFAIMSアナライザ領域の幾何形状に左右される。上記に示された例では、このイオンの高電界イオン移動度の挙動がすでに確立されているために、(H2O)nH+イオンが選択された。さまざまなFAIMSハードウェア幾何形状に関して、(H2O)nH+イオンの場合のDVおよびCVの最適な組合せを計算することができる。上記のパラグラフで述べた原理に基づいて、イオンの軌跡を計算することができる。
【0091】
図19A〜図19Dは、図11A〜図11Cに示された幾何形状、すなわちDAIMS−R3−プロトタイプ(3次元大気圧イオン捕捉装置の1つ)と呼ばれる装置に関するイオン軌跡を示している。幾何形状は単純な円筒ではないため、イオン軌跡の計算は一層複雑である。計算は、2つの独立な計算から構成される。第一に、装置の機械的な幾何形状が、次に構成要素の周囲の電界の強度を計算するコンピュータプログラムに入力される。これは、「緩和」と呼ばれる方法(ヤコビ反復リチャードソン法)によって行われ、物理空間のすべての点における場の一連の反復近似を含む。所与の点における場は、その周囲の各方向における点の「平均」として計算される。これは、空間におけるすべての点に関して反復される。一旦、空間全体のすべての点に関してこの計算が終了した後、今度は前の計算からの推定値を用いて、プロセスが再び第1の点から開始される。これは1次元で以下に示される。(「緩和」計算が始まる前に、)以下は仮想の1次元世界のいくつかの隣接点における電圧を仮定する。アレイの最も左の点は100Vの電極であり、最も右側の点は100Vの電極である。100Vである電極以外のすべての点が0Vであると仮定することから始まる。アレイは、次の行に示されている:
【0092】
(表1)
100 0 0 0 0 0 0 0
すべての点が隣接点の平均となるようにした場合の結果を考える:
100 50 0 0 0 0 0 0
これを反復する:
100 50 25 0 0 0 0 0
100 62.5 25 12.5 0 0 0 0
100 62.5 37.5 12.5 6.25 0 0 0
【0093】
この計算は、データ点の変化が生じなくなるまで、または少なくともデータアレイの変化が特定の誤差の制限内となるまで反復されなければならない。計算の2次元および3次元バージョンも類似である。
【0094】
ラプラスおよびポアソンの式を計算によって解決するための「緩和」法および「逐次加速緩和」法については、流体力学の大部分のテキストブックに記載されている(M.B.Abbot and D.R.Basco,Computational Fluid Dynamics,An Introduction for Engineers(Longmans,London,1989),第8章参照)。円筒幾何形状に関する計算は、放射方向の点が空間内の点の新たな値を計算するために使用される「平均」において、等しい重みを利用することができないという事実の小さな補正を含んでいなければならない。軸方向における(この円筒幾何形状の長さに沿って)点は互いに等価であるが、小さめまたは大きめの放射方向の次元における点は等価ではない。したがって、円筒幾何形状における点の平均のために使用される周囲の4点は重み付けが行われなければならない。2つの軸方向の点は同一であり、放射方向において内部の点および外部の点は互いから、かつ軸方向の点から独立に重み付けが行われる。しかし、「緩和」法を用いた電位の計算の全般的な方法は、あらゆる幾何形状に関して同一である。
【0095】
任意の幾何形状におけるイオン軌跡を決定するために必要な第2の計算は、電界が上述したように確立されていることが与えられている場合には、運動自体の計算である。軌跡は、イオン運動を時間における小さなステップに分類することによって計算される。時間における各ステップで、イオンの位置、電界、印加される非対称波形の位相などが決定される。(上記の(H2O)nH+に関して実証されたように、)時間に対する空間内の点における電界の強度から、高電界におけるイオン移動度が計算される。上述したように、イオン速度はv=KE(またはv=KhE)であると推定され、移動距離は距離=(速度)(時間ステップの持続時間)である。1つの時間ステップに関して移動した距離(cm)は、持続時間(sec)を乗じた速度(cm/sec)から決定される。新たなイオンの位置は、古いイオンの位置および時間ステップで移動した距離から計算される。今度は前の反復で計算されたばかりの新たなイオンの位置から始まり、この計算が繰返される。(波形の周波数および波形における高電圧および低電圧の相対時間が適切であるように、)一定に調整される非対称波形のために生じる電界の強度に関して、反復が繰返される。(単純な前後運動は運動をあまり明確に実証していないため、)イオンの運動を明確にする必要がある場合には、計算はまた、ガスフローの外部の力によるイオンの位置の調整を含んでもよい。
【0096】
図19Aは、図11A〜図11Cに示される幾何形状に関して、上述した方法において計算されたイオン軌跡を示している。内部電極の外径は約2mmであり、外部電極の内径は約6mmである。これは、図18A〜図18Dに示された軌跡の計算に使用されたシリンダと同一の大きさである。状態は、CV=−11V、DV=2500V、周波数=83000Hzであり、低電圧対高電圧の相対比(図2におけるt1およびt2)は5:1、外部電極=0V、格子電圧=0Vであった。3つの電極は図19Aに示されており、図11A〜図11Cに示されたハードウェアに厳密に対応する。内部電極52は固体であり、図19Aの中心付近で、末端が球形52Tになる。上端および下端は外部電極53であり、図の左端は図11A〜図11Cに示される格子電極56である。イオン軌跡は、内部電極付近で始まり、人為的な(ガスフロー)水平運動が、図11A〜図11Cにおいて右から左へイオンを搬送するために加えられた。印加された非対称波形のためにイオンは振動し、2種類の正味の運動が図19Aで観測される。イオンは初めに内部電極52から離れるように移動し、次に電極からの距離が一定となる。これは、厳密には、放射方向の正味の運動がすぐにゼロとなる図18Cに示された状態である。イオンはまた、加えられた「ガスフロー」、すなわち人為的に強いられた長手方向の速度のためにドリフトする。イオンが内部電極52から一定の距離で電極に沿って進み、その湾曲部52Tをたどることを留意されたい。イオンは、加えられた人為的な軸方向の「ガスフロー」速度を用いても電極の終端52T付近の位置を離れない。イオンは、電極の終端52T付近で捕捉されるようになる。図19Bは、イオン軌跡が(図18Dのような)大きめの放射方向の距離から始まった場合の運動を示している。前に説明したように、イオンは電極の先端52T付近の3次元イオントラップを逃れることはできない。
【0097】
図19Cおよび図19Dは、図19Aおよび図19Bと同一の物理的な幾何配置を示しており、イオン軌跡は放射方向および軸方向において、類似の位置から始まる。状態は、CV=−11V、DV=2500V、周波数=83000Hzであり、低電圧対高電圧の相対比(図2におけるt1およびt2)は5:1、外部電極=0V、格子電圧=7Vであった。図19A〜図19Dの唯一の差は、後者の2つ(図19Cおよび図19D)が外部電極53に対して負の電圧である出口格子56を用いて計算したことである。このような状態の下で、イオントラップは解除され、イオンは格子56に向かって移動する。初めは、軌跡は、イオンがまず、使用されるDVならびにCVおよび幾何形状に関して、最適平衡点に向かって移動するような図19Aおよび図19Bに示されたものと同一の形態を取る。しかし、内部電極52の球形の終端52T付近では状態は維持されず、出口格子56の電圧がイオン運動を変更し、内部電極52から出口格子56に向かって(正に帯電した)イオンを引付ける。イオンが内部電極52の付近を離れ、出口格子56に接近するとき、格子56の電圧の吸引力も人為的に加えられる「ガスフロー」の軸方向の運動も、イオン軌跡の一因となる。また、イオンが内部電極52から離れるように移動するときに、非対称波形のために生じるイオンの「振動」の大きさが著しく減少することも留意されたい。
【0098】
3次元トラッピングは、図19Cおよび図19Dでは実現されていないが、示されているイオンの挙動はきわめて有用であると思われる。妥協した状態、すなわちトラッピングにきわめて近い状態であるがトラッピングがない状態で作動する場合には、イオンは、電極の球形の端52Tの曲面をたどり、中心軸に向かって移動する傾向がある。イオンが完全に捕捉されない場合には、イオンは電極の端52Tから本質的に逃れるが、内部電極52の中心軸に沿って放射方向の距離が小さい位置に閉じ込められる。イオンの流れは真空室に導くサンプラコーンオリフィス18Aに向けられる場合には、信号の感度は、この「部分集束」が生じる状態で大いに向上される。電極の球形の終端52Tの挙動を向上させているこの信号が、利用されるFAIMSの唯一の部分であるFAIMSの市場バージョンを予測することは可能である。たとえ「3次元トラッピング」がそれ自体を使用しない場合であっても、上述したFAIMSの3次元イオントラップの実施形態のすべては、この信号を強化するために使用されてもよい。
【0099】
(FAIMSの内部電極の球形の終端におけるイオン集束を用いた信号の強化)
図19E〜図19Iは、内径約6mmの円筒外部電極93および外径約2mmの内部電極92からなるFAIMSを用いて、イオン軌跡の計算の結果を示している。環状のFAIMSアナライザ領域94は、装置の側面に沿って幅約2mmである。内部電極92は、サンプラコーン18の平坦な前面の電極から約2mmである球形92Tで終わる。サンプラコーン18の中心で、真空システムに導く小さなオリフィス18Aがある。図19Eにおいて、サンプラコーン18は0V、すなわちVOR=0Vに維持される。イオン軌跡のシミュレーションで使用される状態が、図19Eに表されている。VORがそれぞれ、−2.5V、−5V、−7.5Vおよび−15Vに変化している点を除き、図19F〜図19Iは、図19Eと厳密に同一の方法で調整される。このように低く印加されたVORは、3次元捕捉領域からイオンを抽出する効果がある。この抽出が通常の「捕捉」状態(すなわち、不明確なイオン捕捉)にきわめて近い電圧で生じる場合には、イオンは内部電極92の中心軸付近に集束される傾向があるため、出口オリフィス18Aに極めて近い領域に集束される。検出される信号強度は、中心軸にできる限り近い位置にイオンを閉じ込めるVORで、最大になる。
【0100】
図に示されていないが、サンプラコーン18の変更によって、イオンビームの「小型化」へのさらなる改良を実現することができる可能性がある。これは、印加された電圧を備えた余分のレンズを追加すること、またはサンプラコーン18の前面の形状を変更することを含んでもよい。サンプラコーン18に隣接するシリンダの端に、外部FAIMSシリンダ93の内面を「形成する」ことによって、さらなる改良が行われてもよい。図9Aおよび図9Bに示される捕捉実験の前のバージョンは、内部電極の球形の端において外部シリンダと内部電極との間の(ほぼ)一定の距離を維持するために、湾曲した内面を有する外部シリンダを備えた装置が使用された。
【0101】
いくつかの実験変数が、上述した集束に影響を及ぼし、図19GにおけるVOR=−5V付近で最適となることが示されている。実験変数には、ガスフロー速度、内部電極92の球形の端とサンプラコーン18との間隔および印加されるDVならびにCVが挙げられる。検出されるイオン強度の最適化は、このような変数に大いに左右されることが予測される。ガスフローは、少なくとも2つの因子、すなわちFAIMSアナライザ領域94の長さから捕捉領域にイオンが流れ込む速度および内部電極の端における乱流を制御する。図19E〜図19Iに示されるシミュレーションは、ガスの乱流およびイオンの拡散を考慮していない。集束作用の効果を得るためには、「捕捉領域」へのイオンの伝搬速度を最大にするト同時に、乱流によるイオンの消失を最小限に抑えるガスフローが必要である。図19E〜図19Iに示される軌跡の計算はまた、x軸に平行でない方向へのガスフローも考慮していない。実験システムが、たとえば、図13Aに概略的に示されるシステムにおいて生じるようなFAIMS捕捉領域から放射方向の外側に流れるガスを含む場合には、最大イオン強度の位置は実験によって決定されなければならないと思われる。モデル化は、このイオン集束が、最適な実験状態の一定の設定における感度を向上することができることを示唆するために作用する。
【0102】
いくつかの可能なハードウェア設計によって、図19E〜図19Iに示される効果を実現することができる。これらの実施形態は、一定の基本的な構成要素を必要とする:
(1)電極は、円筒形または球形をはじめとする曲面を備えていなければならないが、このような種類の1つに単純に収まらない面を含んでもよい。捕捉または集束のための状態を確立するために作用するような独特の形状の例には、図20に示されるヘアピンターンにある程度似ている湾曲部を有する円筒ロッドがある。適切なガスフローを用いて、集束領域を形成することができる。
(2)イオンは、ガスフローまたは電界勾配によって、捕捉領域に搬送されなければならない。これらは印加される電圧、特にDVおよびCVに全く関係なく機能するため、FAIMSの前述の実施形態はすべて、ガスフローを利用する。
【0103】
(イオン集束およびイオン捕捉を理解するための質的に簡素な方法)
イオンがFAIMS領域を通って伝搬されるDVおよびCVの最適な状態が、存在する。図17に戻って参照すると、2100V〜3000Vの範囲にある一連のDV値におけるCVの設定の反復曲線が示されている。一部のイオン(この場合には、(H2O)nH+)では、ピーク最大値の位置は、補償電圧CVがFAIMSアナライザの壁に向かう正味のイオンドリフトを平衡に保つのに十分なほど強い状態を表す。したがって、(H2O)nH+イオンが、CVおよびDVの複数の理想的な組合せでFAIMSアナライザ領域を通って伝搬されることができることを考える。イオンが理想とは異なるCVおよびDVの組合せを経験する場合には、イオンは面に衝突する。(H2O)nH+に関するCVおよびDVの理想的な組合せを示している作図が、図21に示されている。イオンが「正味の」運動を経験しないため、DVおよびCVの理想的な組合せは、「平衡である」と呼ばれてもよい。図21に示される作図は、印加された電圧DVおよびCVではなくむしろ、電界(DVに基づく)の観点からこの「平衡」状態を示している。さらに、図における各データ点は、図17のトレースに示されるように十分に収集され、実験によって得られたDVおよびCVの組合せである。各点は、DVの設定に関して伝搬の最大効率(図17における各トレースに示されたピーク最大値)を備えたCVである。FAIMS−E10の環状のFAIMSアナライザ領域14は、幅約2mmであるため、DV2000Vの電圧は、約2000/0.2=10,000V/cmの電界を生じる。同様に−10Vの印加されたCVは、約−10/0.2=−50V/cmの電界を生じる。図21のx軸およびy軸は、電界(V/cm)(符号なしの絶対値)として表示される。
【0104】
図21はまた、このデータに対する3次回帰に最も適合する場合のトレースを示している。この回帰は、実験によって決定された点の間に入る条件下のCVおよびDVの最も適切な組合せを決定することを助ける。データへの適合は、高いDV電界(最大に印加される電圧で、DVの印加から生じる電界)における最後の点に関して現れていることのみを示している。非対称波形の一部が低い逆の極性の時間を備えているため、「DV電界」が断続的であることを留意されたい。この最大値は、この説明のために、「基準点」として使用される。
【0105】
以下の問題を検討する。イオンがFAIMSアナライザ領域の中心(放射方向)に位置していると仮定し、イオンが所与のハードウェアの幾何形状に関して、最適のDVおよびCVにおける平衡状態にあると仮定する。このことは、CVおよびDVのために生じる電界が直接的に図21に描かれた線となることを意味している。本願明細書におけるFAIMS図のすべてに示された円筒幾何形状は、FAIMSアナライザ領域において放射方向に沿って一定でない電界を有する。(電界は、特定の装置の幾何形状に応じて、長手方向において一定であっても一定でなくてもよい。)電界が一定でない場合には、図21の曲線によって示される最適状態は、FAIMSアナライザ領域のいずれの場所でも維持されるのであろうか?
【0106】
図22Aは、図3Aおよび図3Bに示される改良型FAIMS−E10のFAIMSアナライザ領域14を放射方向に横断するDV(2500V)による実際の電界を示している。図22Bは、FAIMS−E10のFAIMSアナライザ領域14を放射方向に横断して得られたDV(2500V)およびCV(約―13V)のために生じる両方の実際の電界を示しているが、図22Aとは異なり、電界は、図21で使用された方法で互いに対して作図されている。物理的な放射方向の位置の一部に対応する点が、図に表されている。図22A〜図22Bの右側は、電界が最も高く、放射方向の距離0.7cmにおける内部電極12の表面に対応する。同様に、図22Bの左側が外部電極13の内部端に対応する。
【0107】
図21および図22Bを比較する。FAIMS実験中、DVおよびCVが内部電極に印加される。DV電界は一定ではなく、むしろ小さな範囲の値(図22B、x軸)の中に収まる。同様に、この小さな範囲の値は、図21によって表される電界の範囲のごく一部にすぎない。図22Bの曲線は、図22Cを表すために、図21に示されたグラフに重ねることができる。図22Cは、FAIMSアナライザ領域内部の電界の理想的な物理状態は、DVおよびCVの平衡を備えた点にすべて対応するというわけではないことを示している。「実際の」状態の短い曲線が異なる放射方向の距離の設定における状態を反映していること(すなわち、短い曲線の最も左の点が外部電極付近の0.9cmの位置の電界の状態であり、最も右の点が内部電極表面付近の物理的な位置である)を思い出されたい。当然のことながら、DVおよびCVのこのような「選択された」組合せにおいて、FAIMSアナライザ領域の中心に対応する少なくとも1つの点に、イオンが内部電極へも外部電極へも移動しない(正味のドリフト)いわゆる平衡が存在する。また、FAIMSアナライザ領域における「実際の状態」に関して示された線全体が、任意の点で最適平衡曲線と交差しないDVおよびCVの組合せが多く存在することも留意されたい。たとえば、DVが図22Bに示されるDVの50%まで低下された場合には、図22Cにおける「実際の状態」に関する短いトレースは、「DV電界」のさらに低いx軸の値になるために、x軸に沿って左に移動する。CV電圧が変更されない場合には、図22Cにおける短いトレースは「最適」平衡トレースと交差せず、イオンはFAIMSを通って伝播されることができない。
【0108】
図22Cにおける2本のトレースの比較はまた、さらなる問題を1つ生じる。「最適」トレースおよび「実際の」トレースが交差する放射方向の距離にあるイオンが、放射方向において「正味の」運動を経験しない場合、すなわち平衡点にある場合には、大きめの放射方向の距離および小さめの放射方向の距離にあるイオンの挙動はどのようなものであろうか?イオンは正味のドリフトを経験しなければならない。図22Cに示された状態では、交差点より放射方向の距離が大きいイオン、すなわち交差点の左にあるイオンは、交差点に向かって、すなわち放射方向の距離が小さくなる方にドリフトする。放射方向の距離が小さいイオンはまた、交差点に向かって、すなわち放射方向の距離が大きくなる方にドリフトする。「平衡」点または集束点(図22Cにおけるトレースの交差点)以外の放射方向のすべての位置からのイオンが、この集束点に向かって移動する場合には、装置は、上述したFAIMSイオン集束特性を有する。運動が発散する場合、すなわち「平衡」点から離れる場合には、イオンはFAIMSを通過することできない。モード1(P1、正のイオン)において、DVが正、CVが負の極性である(CVおよびDVは内部電極に印加される)場合には、イオンは集束点に向かってドリフトする。このような極性の値の両方が反転する場合には、イオンの運動(タイプA、図1)は、収束せずに発散する。これが、2つのタイプのイオンがFAIMSにおいて自動的に分離される理由である。これが、モード1およびモード2のスペクトルが常に異なり、独立したスペクトルとして常に考慮されなければならない理由である。P1で生じるイオン(第1次近似)は、P2タイプのスペクトルには現れない。逆もいえる。同様のことがN1およびN2タイプのスペクトルにも適用される。
【0109】
ここで、図23を参照すると、電界を用いたFAIMSにおけるイオンの伝搬を予測することが可能である。可能な実施形態は、JavaheryおよびThomson(J.Am.Soc.Mass Spectrom.1997,8,697−702)が、通常印加される高周波高電圧交流電圧を用いて作動している4重極ロッドの設定の長さに沿ってイオンを引付けるための長手方向の電界を形成するために区分された高周波限定の4重極を用いたほぼ同様の方法で区分されるFAIMS装置を必要とする。区分される4重極ロッドまたはFAIMSのいずれかの場合のセグメントも、他の一定でない電界に重ねられる電解を形成するわずかに異なる直流電位に維持される。これを実現するために可能な方法が、図23に示される。
【0110】
同様の概念に基づいて、区分されたFAIMSにおける電界のみを用いた3次元トラッピングのための装置を開発することができ、以下に記載される。
【0111】
(区分されたFAIMSにおける電界のみを用いた3次元トラッピング)
3次元トラップのこの区分されたFAIMSバージョンは、捕捉構成要素の1つとしてガスフローを使用しないため、新奇である。前述したように、内部電極の球形の端におけるイオンの捕捉において、イオンは、内部電極の端に向かってイオンを収集するガスの運動、および非対称波形によって生じるFAIMS収束作用の組合せによって保持される。そのような装置では、ガスフローの停止時には、イオンは、FAIMS内部シリンダの長さに沿って戻り始める可能性がある。この移動のための推進力は、イオンが収集されるゾーンにおいていわゆる空間電荷を生成する拡散およびイオン同士の斥力である。
【0112】
区分されたFAIMSイオントラップの本説明において、非対称波形、および区分されたFAIMS装置の長さに沿ったいずれかの方向へのイオン運動を防止する隣接セグメントに印加される緩やかに増大する直流電圧の組合せのために、イオンは完全に保持される。ガスフローの停止は、イオントラップに捕獲されたイオンにわずかに影響を及ぼすだけであり、たとえガスフローがゼロであっても、イオンが逃げることはない。3次元トラッピングのこの新たなバージョンについて、さらに詳しく考える。
【0113】
図24は、FAIMS装置110の区分された円筒形の外部電極113および内部電極112を示している。FAIMSの高電圧非対称波形は、内部電極112に印加される。DVならびにCVの適切な組合せおよび円筒幾何形状を与えると、イオンはこのようなシリンダ112,113の間に収束される。正常作動において、セグメント112Aまたは113Aはすべて、同一の電圧である。すなわち、内部電極112が1つの導体であり、外部電極113も1つの導体である。シリンダの間に集束されることになるあるイオンに関する通常の状態は、DV=2500VおよびCV=‐12Vであると仮定する。これは、図24に示された状態である。電極が区分されていない場合には、外部電極は、たとえば0Vである。同様に、内部電極は1つの状態、たとえば−12Vのオフセット補償電圧を備えた非対称波形DV=2500Vだけである。このような状態の下で、イオンがガスフローによってシリンダ間の環状空間に搬送される場合には、イオンは流れているガスによって、FAIMSアナライザの一方の端から装置の他方の端まで搬送されて長手方向に進み、同時にある放射方向の距離で内部電極112と外部電極113との間に集束される。
【0114】
さらに図24を参照すると、内部電極112および外部電極113が112A〜112E、113A〜113Eに区分されると、この状況は実質的に変化する可能性がある。外部電極113A〜113Eに印加される新たな直流電圧がすべて0Vであり、内部電極112A〜112Eに印加される新たな直流電圧がすべて0Vである場合には、上記のパラグラフで述べた状態に戻り、3次元トラップは存在せず、シリンダ間で2次元集束のみが生じる。次に、内部電極および外部電極の中央の電極112C,113Cが最も低い電圧を印加されるように、一連の新たな小さい直流電圧がFAIMS装置110の各セグメント112A〜112E、113A〜113Eに印加されると想定する。しかし、外部電極113に印加される各電圧は、内部電極112に印加される同一の電圧(およそ)によって調和されなければならないことを留意されたい。このことは、+5V余分に外部電極の第1のセグメント113Aに印加される場合には、+5Vが内部電極の同様のセグメント112Aにも印加されなければならないことを意味している。このようなセグメントがすでに印加された−12Vの補償電圧を備えている場合には、そのセグメントにおいて−7Vの正味の直流電圧を得るために新たな+5VがそのCVに印加される。(図において)中央のセグメント112C,113Cが最も低い直流電圧が印加されるようにするために、このアプローチが他のセグメント112B〜112E、113B〜113Eに電圧を印加するために使用される。このことは、この装置における任意の場所で捕獲された正のイオンが、最も低い電圧領域、すなわち中央セグメント112C,113Cの内部電極と外部電極の間に来ることを意味している。正常なFAIMS状態は各セグメント112A〜112E、113A〜113Eの中で適用されるため、すなわち内部電極がDV=2500Vの非対称波形を備え、そのセグメントの中で、内部電極112に印加される直流と外部電極113に印加される直流との差が引き続き12V(この例では必要な補償電圧)である場合には、イオンは内部電極112と外部電極113との間の環状空間において通常の方法で集束される。このFAIMSの長さに沿ったガスの流れ(1L/minの低いガスフロー)は、このトラップの中央セグメント112C,113C内部の空間に位置するイオンを除去することができない。イオンを除去するため、(図において約+5Vの)直流電位井戸を増大しなければならない。高いガスフローかつ空間電荷が高い高イオン密度で、この除去を実現することが可能であると思われる。しかし、事実上、完全に電気を帯びている捕捉領域は存在し、イオンは電界によってのみ適切な位置に保持される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、高電界非対称波形イオン移動度分光法のイオン集束原理に基づき、大気圧で規定された3次元空間の中でイオンを捕捉するための装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現場移動可能な用途のために高感度および小型化のしやすさから、イオン移動度分光法は、麻薬、爆薬および化学戦用薬品を含むさまざまな化合物の検出のために重要な技術とされてきた(たとえば、G.Eiceman and Z.Karpas著『Ion Mobility Spectrometry』(CRC.Boca Raton,FL.1994)およびT.W.Carr編『Plasma Chromatrography』(Plenum,New York,1984)を参照されたい)。イオン移動度分光法において、気相イオン移動度は、一定電界のドリフト管を用いて決定される。イオンは、ドリフト管へゲート制御され、次にドリフト速度の差に基づいて分離される。イオンドリフト速度は、低電界(たとえば、200V/cm)で電解強度に比例し、実験によって決定される移動度Kは、印加された電界に無関係である。高電界(たとえば、5000V/cmまたは10000V/cm)でイオンドリフト速度は、印加された電界に直接比例しない可能性があり、Kは印加された電界に左右されるようになる(G.Eiceman and Z.Karpas著『Ion Mobility Spectrometry』(CRC.Boca Raton,FL.1994)およびE.A.Mason and E.W.McDaniel著『Transport Properties of Ions in Gases』(Wiley,New York,1988)を参照されたい)。高電界で、Kは非一定の高電界移動度を表す語Khによってよく表される。印加された電界におけるKhの依存度は、高感度非対称波形イオン移動度分光法(FAIMS)の結果に基づき、本開示を通して本発明者によって使用される語であり、横電界補償イオン移動度分光法または電界イオン分光法とも呼ばれる(I.Buryakov,E.Krylov,E.Nazarov and U.Rasulev,Int.J.Mass Spectrom.Ion Proc.128.143(1993);D.Riegner,C.Harden,B.Carnahan and S.Day,Proceedings of the 45th ASMS Conference on Mass Spectrometry and Allied Topics,Palm Springs,California,1−5 June 1997,p.473;B.Carnahan,S.Day,V.Kouznetsov,M.Matyjaszczyk and A.Tarassov,Proceedings of the 41st ISA Analysis Division Symposium,Framingham,MA,21−24 April 1996,p,85;B.Carnahan and A.Tarassovに付与された米国特許第5,420,424号を参照されたい)。イオンは、低電界におけるイオン移動度Kに対する高電界における移動度Khの差に基づいて、FAIMSにおいて分離される。すなわち、イオンは電界の関数としてKhの複合依存挙動のために分離される。この挙動はイオン移動度における変化であり、監視されている絶対的なイオン移動度ではないため、大気圧気相イオン研究にとって新たな手段を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5420424号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】アイスマンら(G.Eiceman and Z.Karpas)著、「イオン移動度分光測定法(Ion Mobility Spectrometry)」、(米国)、シーアールシー・ボカ・ラートン(CRC.Boca Raton)、1994年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明によって実現されるようなこの手段の1つは、イオントラッピングの分野において適用される。本発明者の知識では、大気圧(約760トール)で任意の種類の3次元イオントラップを製作する装置または方法は、まだ知られていない。他の3次元イオントラッピング方法は存在するが、このような既知のイオントラップは一般に、真空に近い状態である1トール未満で作動するように設計されている。圧力が10トールを超えて増大する場合に、このようなイオントラップの効率はきわめて急速に劣化し、760トールでこのような既知の方法を用いて捕捉を実現することを提案するための実験的または理論的根拠はない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様において、本発明は、規定された3次元空間内で、イオンを選択的に伝搬し、上記のイオンを捕捉するための装置であって、
a)イオンを生成するための少なくとも1つの電離源と、
b)使用中に非対称波形電圧および直流補償電圧を供給することができる電気制御装置への接続のために少なくとも第1および第2の空間を隔てられた電極の間の空間によって規定されるアナライザ領域を含み、非対称波形電圧および直流補償電圧の所与の組合せで、上記の電極の間の上記のアナライザ領域において、選択されたイオンのタイプを選択的に伝搬するためであり、上記のアナライザ領域が使用中に上記のアナライザ領域を通じてガスフローを供給するためのガス注入口およびガス放出口を備え、上記のアナライザ領域が上記の電離源によって生成されたイオンの流れを上記のアナライザ領域に注入するためのイオン注入口をさらに含む高電界非対称波形イオン移動度分光計と、
c)上記の電極の少なくとも1つに設けられた曲面の終端であって、上記の終端は、一部が上記のガス放出口に最も近い上記の電極の上記の1つの一部であり、上記の規定された3次元空間が上記の終端の付近に位置し、使用中に上記の非対称波形電圧、補償電圧およびガスフローが、上記の3次元空間内で上記の伝搬されたイオンを捕捉するために調整可能であるようになっているような曲面の終端と、を含む装置を提供する。
【0007】
上記の第1および第2の電極は、その間に非一定の電解を形成するために湾曲した電極本体を含んでもよく、それによって、使用中に上記のイオンが、上記のアナライザ領域にある上記の湾曲した電極本体の間に形成される集束領域に選択的に集束される。
【0008】
別の実施形態において、上記の第1および第2の電極は、その間に略環状の空間を規定する同軸に整列された略シリンダ形の外部電極本体および内部電極本体を含み、上記の環状の空間が上記のアナライザ領域を形成し、上記の終端が上記の内部シリンダ形電極本体の先端に設けられている。
【0009】
別の態様において、本発明は、3次元空間内でイオンを選択的に伝搬し、捕捉するための方法を提供する。上記の方法は、
a)イオンを生成するための少なくとも1つの電離源を設けるステップと、
b)少なくとも第1および第2の空間を隔てられた電極の間の空間によって規定されるアナライザ領域を設けるステップであって、上記のアナライザ領域がガス注入口、ガス放出口およびイオン注入口と通信を行い、上記の電離源によって生成された上記のイオンが、上記のイオン注入口で上記のアナライザ領域に注入されるようになっているステップと、
c)上記の電極の少なくとも1つに非対称波形電圧および直流補償電圧を供給
するステップと、
d)上記のアナライザ領域内のイオンの種類を選択的に伝搬するために、上記の非対称波形電圧および上記の補償電圧を調整するステップと、
e)上記の電極の少なくとも1つに設けられた曲面の終端を形成し、上記の規定された3次元空間が上記の終端の付近に位置するようにするステップと、
f)上記のガス注入口から上記のガス放出口まで流れている上記のアナライザ領域内のガスフローを形成し、上記の規定された3次元空間内部および付近で、上記の伝搬されたイオンを捕捉するために、上記のガスフローを調整し、上記のガス放出口が上記の終端付近に位置するようにするステップと、を含む。
【0010】
好都合なことに、上記のアナライザ領域は、実質的に大気圧および実質的に室温で作動可能である。
【0011】
本方法は、上記の捕捉されたイオンを抽出するために、イオン放出口を設け、上記のイオン放出口で抽出電圧を供給するステップであって、上記のイオン放出口が、上記の終端および上記の規定された3次元空間と実質的に整列するようになっているステップをさらに含む。
【0012】
さらに別の態様において、本発明は、規定された3次元空間内で、イオンを選択的に集束し、上記のイオンを捕捉するための装置であって、
a)イオンを生成するための少なくとも1つの電離源と、
b)使用中に非対称波形電圧、直流補償電圧および直流セグメントオフセット電圧を供給することができる電気制御装置への接続のために、第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組の間の空間によって規定されるアナライザ領域を含み、上記の第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組のそれぞれがセグメントを形成し、上記のセグメントが直に隣接する行に整列され、互いから電気的に絶縁され、上記のアナライザ領域が上記の電離源によって生成されたイオンの流れを上記のアナライザ領域に注入するためのイオン注入口を有する区分された高電界非対称波形イオン移動度分光計と、を含む装置を提供する。
【0013】
さらに別の態様において、本発明は、規定された3次元空間内で、イオンを選択的に集束し、上記のイオンを捕捉するための方法であって、
a)イオンを生成するための少なくとも1つの電離源を設けるステップと、
b)第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組の間の空間によって規定されるアナライザ領域を設け、第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組の間の空間によって規定されるアナライザ領域を設け、第1および第2の電極の間に非一定電界を形成し、第1および第2の空間を隔てた電極の上記の複数の対応する組のそれぞれがセグメントを形成し、上記のセグメントが互いに直に隣接する行に整列され、互いから電気的に絶縁され、上記のアナライザ領域が上記のイオン注入口と通信を行い、上記のイオン注入口で上記の電離源によって生成された上記のイオンを上記のアナライザ領域に注入するステップと、
c)上記のセグメントのそれぞれにおいて、上記の第1および第2の間隔を隔てた電極の1つに非対称波形電圧を供給するステップと、
d)上記のセグメントのそれぞれにおいて、上記の第1および第2の間隔を隔てた電極の1つに直流補償電圧を供給するステップであって、上記のセグメントのそれぞれに供給される上記の直流補償電圧が独立に調整可能であるようになっているステップと、
e)上記のセグメントのそれぞれにおいて、上記の第1および第2の間隔を隔てた電極のもう一方に直流セグメントオフセット電圧を供給するステップであって、上記のセグメントのそれぞれに供給される上記の直流セグメントオフセット電圧が独立に調整可能であるようになっているステップと、
f)上記の非対称電圧、直流補償電圧および直流セグメントオフセット電圧の所与の組合せで、上記のセグメントのそれぞれにおいて、第1および第2の電極の対応する各組の間で所望のイオンを集束するために、上記の直流補償電圧および上記の直流セグメントオフセット電圧を実質的に等しく調整し、それによって上記のセグメントのそれぞれにおいて、第1および第2の電極の対応する各組に沿って、一定の直流電位を供給するステップと、を含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、高電界非対称波形イオン移動度分光法のイオン集束原理に基づき、大気圧で規定された3次元空間の中でイオンを捕捉する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明のさらによく理解するために、実施例として、本発明の好ましい実施形態を示す添付図面を参照されたい。
【図1】電界の強度の関数として、イオン移動度における変化の3つの可能な例を示している。
【図2】電位V(t)の影響下で2つの電極板の間のイオンの軌跡を示している。
【図3A】改良型FAIMS装置の実施形態を概略的に示している。
【図3B】改良型FAIMS装置の実施形態を概略的に示している。
【図4】図3Aおよび図3Bの装置と共に利用されてもよい2つの正反対の波形モードを示している。
【図5A】質量分析計と図3Aおよび図3BのFAIMS装置の結合を概略的に示している。
【図5B】質量分析計と図3Aおよび図3BのFAIMS装置の結合を概略的に示している。
【図6A】アナライザ領域におけるイオン分布を測定するためのFAIMS装置を概略的に示している。
【図6B】アナライザ領域におけるイオン分布を測定するためのFAIMS装置を概略的に示している。
【図7】図6Aおよび図6Bに示されているFAIMS装置に適用される高電圧高周波非対称波形を示している。
【図8】図6Aおよび図6Bに示されているFAIMS装置の最も内部のイオン制御装置の電極において、変化するイオン到着時の分布を示している。
【図9A】FAIMS−R2−プロトタイプと呼ばれる3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの第1の実施形態を概略的に示している。
【図9B】FAIMS−R2−プロトタイプと呼ばれる3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの第1の実施形態を概略的に示している。
【図10A】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10B】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10C】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10D】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10E】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10F】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10G】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10H】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図10I】+1V〜+30Vの範囲の電圧に関して図9Aおよび図9BのFAIMS装置を用いて捕捉されるイオンの抽出のための実験結果を示している。
【図11A】FAIMS−R3−プロトタイプと呼ばれる3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの第2の実施形態を概略的に示している。
【図11B】FAIMS−R3−プロトタイプと呼ばれる3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの第2の実施形態を概略的に示している。
【図11C】FAIMS−R3−プロトタイプと呼ばれる3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの第2の実施形態を概略的に示している。
【図11D】図11A〜図11CのFAIMS装置に印加される電圧用のタイミング図を示している。
【図12】簡素な電気噴霧電離箱を備え、抽出格子としてサンプラコーンを用いる図11A〜図11CのFAIMS装置の別の実施形態を示している。
【図13A】図12に開示されたFAIMS装置と類似の装置を含むシステムおよび飛行時間型(TOF)質量分析計の概略図である。
【図13B】図13AのFAIMS装置およびTOF質量分析計の制御のためのタイミング図を示している。
【図13C】図13Aに示されたシステムを用いて得られたTOF質量スペクトルを示している。
【図13D】27.0μsのTOF飛行時間に関して、イオンの補償電圧スペクトルを示している。
【図13E】図13Aに示されたシステムの総合応答時間を決定するために設計された実験の結果をグラフに示している。
【図13F】図13Aのシステムを用いて、3次元イオントラップの実験検証を示している。
【図13G】図13Aのシステムを用いて、3次元イオントラップの実験検証を示している。
【図13H】3つの補償電圧で1ms〜60msの可変イオントラッピング時間の場合のTOFピークの強度を示している。
【図13I】3つの補償電圧で1ms〜60msの可変イオントラッピング時間の場合のTOFピークの強度を示している。
【図13J】3つの補償電圧で1ms〜60msの可変イオントラッピング時間の場合のTOFピークの強度を示している。
【図14A】3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの別の実施形態を概略的に示している。
【図14B】3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの別の実施形態を概略的に示している。
【図14C】3次元大気圧高電界非対称波形イオントラップの別の実施形態を概略的に示している。
【図15】FAIMSアナライザ領域内の電圧の計算のために必要なFAIMS装置の関連寸法を示している。
【図16】電界Eの関数として(H2O)nH+に関するKh/Kの比における変化を示している。
【図17】(H2O)nH+の高電界移動度Khを計算するために使用された元データの一部を示している。
【図18A】図16の曲線によって示された高電界特性に関するイオンの軌跡を示している。
【図18B】図16の曲線によって示された高電界特性に関するイオンの軌跡を示している。
【図18C】図16の曲線によって示された高電界特性に関するイオンの軌跡を示している。
【図18D】図16の曲線によって示された高電界特性に関するイオンの軌跡を示している。
【図19A】図11A〜図11Dに記載されたFAIMS装置および方法を用いて計算された内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19B】図11A〜図11Dに記載されたFAIMS装置および方法を用いて計算された内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19C】図11A〜図11Dに記載されたFAIMS装置および方法を用いて計算された内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19D】図11A〜図11Dに記載されたFAIMS装置および方法を用いて計算された内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19E】図13に示されたFAIMS装置におけるさまざまなサンプラコーン電圧を用いて、内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19F】図13に示されたFAIMS装置におけるさまざまなサンプラコーン電圧を用いて、内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19G】図13に示されたFAIMS装置におけるさまざまなサンプラコーン電圧を用いて、内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19H】図13に示されたFAIMS装置におけるさまざまなサンプラコーン電圧を用いて、内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図19I】図13に示されたFAIMS装置におけるさまざまなサンプラコーン電圧を用いて、内部電極の終端付近のイオン軌跡の計算結果を示している。
【図20】イオン捕捉または集束のための条件を確立するために設計されたFAIMS装置の特殊形状の例を示している。
【図21】図17に示されるような一連の補償電圧走査によって収集されるデータに基づいて、(H2O)nH+に関する補償電圧および分散電圧の最適な組合せをプロットしたグラフである。
【図22A】所与のFAIMS装置のためのFAIMSアナライザ領域に沿って分散電圧ラジカルによる電界を示している。
【図22B】FAIMSアナライザ領域における複数のラジカル位置で、互いに対してプロットされた分散電圧および補償電圧による電界を示すグラフである。
【図22C】分散電圧および補償電圧に関する実際の状態および最適状態の交わりを示しているグラフである。
【図23】FAIMSアナライザ領域に沿って、イオンを伝搬するための区分されたFAIMS装置を示している。
【図24】FAIMSアナライザ領域内でイオンを捕捉するための区分されたFAIMS装置の概略図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
手始めに重要なことについて記載するため、以下の説明は、帯電した原子的または分子的実体を意味するために、「イオン」なる語を使用する。「イオン」は、いずれのサイズの帯電した粒子、固体または液体のいずれであってもよい。説明では、常に「イオン」は正に帯電していると解釈する。しかし、本願明細書の説明はすべて、負のイオンにも等しく適用することができるが、印加される電圧の極性は逆になる。
【0017】
FAIMSの動作原理は、Buryakovら(I.Buryakov,E.Krylov,E.Nazarov and U.Rasulev,Int.J.Mass Spectrom.Ion Proc.128.143(1993)参照されたい)によって説明されているため、本願明細書では簡単に要約する。電界の影響下で所与のイオンの移動度は、Kh(E)=K(1+f(E))によって表すことができる。式中、Khは、高電界におけるイオンの移動度、Kは低電界におけるイオン移動度係数であり、”f(E)”は電界のイオン移動度の関数依存性(E.A.Mason and E.W.McDaniel著『Transport Properties of Ions in Gases』(Wiley,New York,1988)およびI.Buryakov,E.Krylov,E.Nazarov and U.Rasulev,Int.J.Mass Spectrom.Ion Proc.128.143(1993)を参照されたい)を示している。
【0018】
図1を参照すると、電界の強度の関数としてイオン移動度における変化が3例、示されている。タイプAイオンの移動度は、電界強度が増大するにつれて増大し、タイプCイオンの移動度は減少し、タイプBイオンの移動度は、さらに高電界で減少するまでは最初は増大する。FAIMSにおけるイオンの分離は、高電界において移動度におけるこのような変化に基づく。イオン1、たとえば、図2に示されているような2つの空間を隔てた平行な電極板2,4の間のガス流6によって搬送される図1に示されたタイプAイオンを考える。電極板2,4の間の空間は、イオンの分離が行われる可能性があるアナライザ領域5を規定する。電極板2,4の間のイオン1の正味運動は、ガス6の流れている流れによる水平なx軸成分および電極板2,4の間の電界による横断するy軸成分の和である。(「正味」運動なる語は、イオン1が経験する全体の並進を指し、この並進運動がその上に重ね合わせられるさらに急速な振動を有する場合も含む。)電極板の一方が大地電位(ここでは、下部電極板4)で維持され、他方(ここでは、下部電極板2)はそれに印加される非対称波形V(t)を有する。非対称波形V(t)は、時間t2の短時間続く高電圧成分V1および時間t1のさらに長い時間続く逆の極性の低電圧成分V2から構成される。波形は、波形の完全なサイクル中、電極板に印加される電圧および時間の積の和がゼロ(すなわち、V1t2+V2t1=0)となるように合成される。たとえば、+2000Vで10μs間の後に、−1000Vで20μs間である。図2は、V(t)として示された波形の一部に関するイオン軌跡8(点線で示す)を示している。波形のさらに短い高電圧部分中のピーク電圧は、「分散電圧」または本開示ではDVと呼ばれる。波形の高電圧部文中、電界は、イオン1を横速度成分v1=KhEhighで移動させる。式中、Ehighは印加される電界であり、Khは周囲の電界、圧力および温度条件の下の高電界移動度である。移動される距離は、d1=v1t2=KhEhight2である。式中、t2は、印加される高電圧の時間である。波形のさらに長い持続時間、逆の極性かつ低電圧部分中、イオンの速度成分は、v2=KElowである。式中、Kは、周囲の圧力および温度条件下の低電界イオン移動度である。移動される距離は、d2=v2t1=KElowt1である。非対称波形が(V1t2)+(V2t1)=0を保証するため、電界および時間の積Ehight2,Elowt1は、大きさにおいて等しい。したがって、KhおよびKが等しければ、d1およびd2は等しく、(波形の両方の部分が低電圧であれば期待されるように)イオン1は、波形の負のサイクルを通じてy軸に沿ってその元の位置へ戻ることになる。Ehighかつ移動度Kh>Kである場合には、イオン1は、y軸に関してその元の位置からの正味の変位を経験する。たとえば、図1に示されるタイプAの正イオンは、波形の正部分中(すなわちd1>d2)さらに移動し、(図2の点線8によって示されているように、)タイプAイオン1は、上部電極板2から離れるように移動する。同様に、、タイプCのイオンは、上部電極板2に向かって移動する。
【0019】
タイプAのイオンが上部電極板2から離れて移動する場合には、この横方向のドリフトを逆向きにするため、または「補償するため」に、一定の負の直流電圧がこの電極板2に印加されることができる。「補償電圧」または本開示ではCVと呼ばれるこの直流電圧によって、イオン1が、いずれかの電極板2,4に向かって移動しないようにする。2つの化合物から生成されたイオンが、印加された高電界に対して異なる反応を示す場合には、Kに対するKhの比は、各化合物に対して異なる可能性がある。したがって、イオンのドリフトがいずれかの電極板2,4に向かうことがないようにするために必要な補償電圧CVの大きさも、各化合物に対して異なっていてもよい。補償電圧CVが1つの化合物の伝搬に適応している条件下では、他の化合物は電極板2,4の一方に移動し、実質的に除去される。化合物が電極板2,4の壁に移動する速度は、その高電界移動度特性が、選択された条件下で通過することができる化合物の特性とは異なる程度に左右される。FAIMS計器または装置は、Kに対するKhの適切な比で、そのようなイオンのみを選択的に伝播することができるイオンフィルタである。
【0020】
FAIMSなる語は、本開示で使用されているように、装置が集束または捕捉挙動を備えている如何によらず、上記の機構を介して、イオを分離することができる任意の装置を指す。
【0021】
(FAIMSに対する改良)
FAIMSの概念は、上記のように平面電極板を用いて、Buryakovらによって初めて示された。後に、Carnahanらが、イオンを分離するために使用される平面電極板の代わりに同軸のシリンダを用いることによって設計されたセンサを改良した(B.Carnahan,S.Day,V.Kouznetsov,M.Matyjaszczyk and A.Tarassov,Proceedings of the 41st ISA Analysis Division Symposium,Framingham,MA,21−24 April 1996,p,85;Carnahanらに付与された米国特許第5,420,424号を参照されたい)。同軸シリンダ設計は、平面電極板構成より高い感度を含め、いくつかの利点がある(R.W.Purves,R.Guevremont,S.Day,C.W.Pipich and M.s.Matyjaszcayk,Rev.Sci.Instrum.,69,5095(1998)を参照されたい)。
【0022】
初めに述べたように、FAIMS概念に基づく計器は、Mine Safety Appliances Company(MSA)によって構成された。MSA計器は同軸シリンダ設計を利用し、いかにさらに詳しく記載される。(本開示のために、MSA計器は、FAIMS−Eと呼ばれ、Eは電位計または電流検出装置を指す。)
【0023】
シリンダFAIMS技術の以前の制約の1つ(D.Riegner,C.Harden,B.Carnahan and S.Day,Proceedings of the 45th ASMS Conference on Mass Spectrometry and Allied Topics,Palm Springs,California,1−5 June 1997,p.473;B.Carnahan,S.Day,V.Kouznetsov,M.Matyjaszczyk and A.Tarassov,Proceedings of the 41st ISA Analysis Division Symposium,Framingham,MA,21−24 April 1996,p,85を参照のこと)は、高電界におけるKhの予測不可能な変化のために、FAIMS−E CVスペクトルに現れるピークの同定が曖昧で確証を得ることができないことであった。
【0024】
したがって、FAIMS−E計器などのFAIMS概念に基づく計器の可能性を拡大するための1つの方法は、たとえば、FAIMS−E装置からのイオンを質量電荷(m/z)分析用の質量分析計に注入することによって、FAIMS−E CVスペクトルの組成をさらに正確に決定するための方法を提供することである。
【0025】
(電気噴霧電離)
ESIは、液相から気相に(正または負のいずれかに帯電することができる)イオンの移動を含む複数の関連技術の1つである。Kebarleは、(質量分析法で使用することを目的とした)電気噴霧電離で生じる4つの主なプロセス:(1)帯電した液滴の生成、(2)気化による帯電した液滴の収縮、(3)液滴の壊変(核分裂)および(4)気相イオンの形成について記載している(Kebarle,P.and Tang,L.『Analytical Chemistry』,65(1993)pp.972A−986A)。ESIにおいて、液体溶液(たとえば、50/50w/w 水/エタノール)は、たとえば+2000V(50nA)など帯電した液滴を生成するために高電圧に維持された金属細管(たとえば、外径200μmおよび内径100μm)を通過される。たとえば1μL/minで、液体サンプルをポンプによって送り込むことができる。高電圧によって、細管から出る液体を霧状にして、帯電した小さな液滴にし、Kebarleをはじめとする多くの人によって記載される機構によって電気的に帯電したイオンにする細管の出口側先端にきわめて強い比一定の電界を形成する。溶液相から気相イオンを形成するための関連する方法も、いくつか存在する。このような方法の例としては、噴霧化を補助するために高速ガスからの力学的エネルギーを利用するイオン噴射、電圧の代わりに熱を細管に加える熱噴射、内径が小さい細管を利用する微小噴射などが挙げられる。本開示では、ESIなる語は、溶液から気相イオンを生成する任意の技術を含めて使用される。
【0026】
(改良型FAIMS−E)
第1段階として、Mine Safety Appliances Companyによって設計および構成されたFAIMS−E装置が、ESIを用いてイオンを注入することができるように改良された。本発明者らは、ESIによって生成されたイオンが高度の溶媒和を備えていることおよび高レベルの溶媒の蒸気に曝される場合にはFAIMS−E装置が適正に機能しない恐れがあることが知られているため、FAIMS−E装置とESI源の結合は容易ではないと考えている。本発明者は、このような結合が可能であることを示すため、FAIMS装置とESI源とを合体する装置のさまざまな実際的な実施形態を開発した。
【0027】
一例として、図3Aの3次元図および図3Bの断面図に概略的に示された改良型FAIMS−E装置10が挙げられる。FAIMS−E装置10は、軸方向に整列し、約5mmの間隔を隔てて位置する2本の短い内部シリンダまたは管11,12および2本の内部シリンダ11,12を包囲する長い外部シリンダ13から構成される。内部シリンダ11,12(内径12mm、外径14mm)はそれぞれ、長さ約30mm、約90mmであり、外部シリンダ13は(内径18mm、外径20mm)は、長さ約125mmである。イオンの分離は、長い方の内部シリンダ12と外部シリンダ13との間のFAIMSアナライザ領域14の2mmの環状空間で行われる。FAIMS装置のFAIMSアナライザ領域14に注入するための電気噴霧電離(ESI)を用いてイオンを生成するために、ESIニードル15の金属細管は、短い方の内部シリンダ11の中心軸に沿って配置され、2本の内部シリンダ11,12の間隙またはイオン注入口まで約5mmの位置で終わる。図3(A)および図3(B)に示されたESIニードル15の位置決定は、非対称波形V(t)が一般に印加され、ESIニードル15が長い方の内部シリンダ12を通って延在しないMSA FAIMS−E装置で見られる電離源の位置決定とは異なる。FAIMS−Eの対向する先端からESIニードル15を挿入することによって、すなわち短い方の内部シリンダ11を通り、ESIニードル15の先端が長い方の内部シリンダ12に接近しすぎないように位置決定をすることによって、ESIニードル15の性能は、(米国特許第5,420,424号に開示されるように、)ESIニードル15が、長い方の内部シリンダ12内部に位置する場合にはそうであるような非対称波形V(t)によって妥協しなくてもよい。
【0028】
上述したように、混合物から1タイプのイオンを選択的に伝播することができる能力を利用したイオン「フィルタ」として、FAIMS−E装置10を考えることができる。たとえば、ESIニードル15によって、イオンの混合物がFAIMSアナライザ領域14の入口に連続的にもたらされ、電圧が内部シリンダ12にも外部シリンダ13のいずれにも印加されていない(すなわち電極が接地されている)条件下で、流れている気体によってイオンがアナライザ14の長さに沿って搬送される場合には、分離がなくとも、すべてのイオンに対する有限レベルの伝搬がある程度期待される。
【0029】
このような混合物において選択されたイオンの検出電流は、無電圧状態で装置10を介して伝搬される場合、そのイオンのための電流を超えるはずはないことが期待されると思われる。また、イオンの分離を生じるように設計された高電圧の印加(すなわち、ガスフローに対して垂直な横断方向の電界の印加)は、イオンの伝搬を増大させるのではなく、シリンダ12,13の壁との衝突によって、伝搬を減少させるはずであると期待されると思われる。すなわち、非対称波形は、FAIMSアナライザ領域14の「幅」を効率的に狭くする可能性があるため、イオンの伝搬を減少させるはずである。しかし、予測に反して、本発明者らによって行われ、本開示に記載された実験では、非対称波形V(t)の電圧の振幅が増大するにつれて、円筒形状のFAIMS−E10におけるイオン検出の感度が向上することがわかった。以下に説明するように、このような尋常でない観測結果は、大気圧イオン集束がFAIMSアナライザ領域14に生じていることを示唆している。
【0030】
さらに図3Aおよび図3Bを参照すると、FAIMS−E装置10への4通りのガス接続が示されている。圧縮ガス(たとえば、空気または窒素)が、キャリア注入(Cin)ポートおよび/またはサンプル注入(Sin)ポートを経て、木炭/分子篩ガス精製シリンダ(図示せず)を介して、FAIMS−E10に供給される。ガスは、キャリア放出(Cout)ポートおよび/またはサンプル放出(Sout)ポートを経て、FAIMS−E10から出る。4つのガスフロー速度はすべて、調整されることができる。不揮発性検体は一般に、ESIニードル15を用いて、FAIMS−E10に注入される。また、揮発性検体はSinラインによってFAIMS−E10に注入されてもよく、一部はコロナ放電ニードルによって化合物経路として電離されてもよい。
【0031】
さらに図3Aおよび図3Bを参照すると、FAIMS−E装置10の外部シリンダ13および短い方の内部シリンダ11は一般に、調整可能な電位(VFAIMS)で維持される。VFAIMSは通常、FAIMS−Eにおける大地電位である。動作中、内部シリンダ12と外部シリンダ13との間の電界を確立するために、高周波高電圧非対称波形が長い方の内部シリンダ12に印加される。このような高周波(たとえば、210kHz)高電圧波形に加えて、直流オフセット電圧(すなわちFAIMSに加えられる補償電圧CV)が、長い方の内部シリンダ12に印加される。これによって、前述した方法でFAIMSアナライザ領域14において、イオンの分離を生じる。
【0032】
さらに図3Aおよび図3Bを参照すると、電離源によって精製されたイオンの一部は、外部シリンダ13と長い方の内部シリンダ12との間の環状空間(FAIMSアナライザ領域14とも呼ばれる)の長さに沿ったガスの流れによって搬送される。DVおよびCVの組合せが適切であり、イオンが管壁で失われていない場合には、外部シリンダ13の下流先端付近にある一連の開口部またはイオン放出口によって、約−100Vまでバイアスを印加される電流検出器17へイオンを抽出することができる。(本願明細書では、キャリヤガスもイオン放出口から出ることに注意されたい。)
【0033】
実際には、図2に示されたV(t)の簡素化した矩形波バージョンを使用することはできない。このような波が波形発生器に配置する電力需要のためである。実際の波形V(t)は、図4に示される。このような波形は、正弦波および周波数が2倍であるその高調波の電子的な加算によって生成される。図4に示されるように、FAIMS−E装置10は、(内部シリンダに印加された波形に関する)2つの波形モードの一方を用いて作動する。このような逆極性の波形モードは、期待されるような「逆極性の」CVスペクトルを生じない。これは、このような方法における極性の反転もFAIMSのイオン集束挙動の鏡像効果を形成するためである。このような極性の反転の結果は、イオンが集束することではなく、むしろシリンダ12,13の壁に衝突することである。集束する谷の鏡像は、山上のポテンシャル面である。(この特性およびFAIMSの動作のさまざまな「モード」については以下に詳しく記載する。)
【0034】
(FAIMS−MS)
初めに述べたように、FAIMS装置の機能を拡大するための1つの方法は、質量分析計とFAIMS装置を結合することである。FAIMS装置と共に質量分析計を使用することは、質量分析計がCVスペクトルの組成をさらに正確に決定するための質量電荷(m/z)分析を促進するため、好都合である。1つの可能なFAIMS−MSの実施形態が、本願明細書に記載される。
【0035】
図5Aおよび図5Bを参照すると、FAIMSおよび質量分析計の結合(FAIMS−MS20)が、概略的に示されている。図5Aならびに図5BのFAIMS−MS20および図3Aならびに図3BのFAIMS−E10は、計器の検出端でのみ著しく異なる。本発明によれば、電位計17は、図5Bに簡略化した形状で示されているように、FAIMSシリンダ12,13の先端には位置されるサンプラコーン18によってとって代わられている。サンプラコーン18におけるオリフィス19の直径は、約250μmである。Coutが2つの成分、すなわち元のCoutおよびオリフィス19を介して質量分析計へのフローに分割されている点を除き、FAIMS−MS20におけるガスフローは、FAIMS−E10におけるガスフローと類似している。長い方の内部シリンダ12に印加される電気波形は、FAIMS−E装置10で使用される波形と同一である。サンプラコーン18は他の成分から電気的に絶縁されてもよいため、分離電圧ORがそれに印加されてもよい。さらに、FAIMS−MSの感度を強化するために、電圧がFAIMS装置全体(VFAIMS)のシリンダに印加されてもよい。
【0036】
図5Bは、質量分析計のサンプラコーン18に対して角度45°を成すFAIMSシリンダ12,13を示している。図5Aは、サンプラコーン18に対して角度90°を成すFAIMSシリンダ12,13を示している。イオンがFAIMS−MS20のシリンダ12,13から質量分析計へ抽出される方向(すなわち、FAIMSの2本の管とサンプラコーン18との間の角度)は、このような角度に制限されない。さらに、イオンが2本の管から抽出される位置もまた、変更することができる。すなわち、FAIMSの分離領域に沿ったいずれの位置でも、イオンを抽出することができる。
【0037】
(イオン集束/FAIMS−R1−プロトタイプ)
ここで、上記に言及した集束効果を立証するために図6Aおよび図6Bを参照すると、特殊なFAIMS計器が本発明者らによって設計され、FAIMS装置の2本のシリンダ(外部シリンダおよび内部シリンダ)の間のイオン分布を測定するために構成された。この計器は、本開示ではFAIMS−R1−プロトタイプ30と呼ばれ、図6Aおよび図6Bに概略的に示されている。イオンは、長さ約35mmおよび内径約20mmの電気的に接地されたシリンダ31の内部で発生された。電離ニードル15の先端は一般に、この管の中心付近、FAIMSアナライザ領域34の端から少なくとも15mmの位置に配置された。この実施形態におけるFAIMSアナライザ領域34は、長さ70mm、内径6mmであり、外径2mmの内部遮蔽電極33を包囲する外部管32から構成される。内部遮蔽電極33は、電離ニードル15に面する端を閉じられた電気的に接地されたステンレス鋼である。この内部電極33は、その中心を通過する電気的に絶縁された導体35を包囲および遮蔽する。この最も内側の導体35(すなわち、イオンコレクタ電極)は、イオン用のコレクタであり、高速電流増幅器または電位計36(たとえば、Keithlyモデル428)およびディジタルストレージオシロスコープ37(たとえば、LeCroyモデル9450)に接続される。
【0038】
図6Aおよび図6Bに示されたシステムにおいて、内部電極33を包囲するイオンは、パルス化された電圧によって内部に集束される。このようなイオンは、内部遮蔽電極33に穿孔された一連の50μmの孔38を通って、FAIMSアナライザ領域34から最も内部の導体35まで移動する。内部遮蔽電極33において穿孔された孔は、電離ニードル15に面している端から約2cmに位置し、内部遮蔽電極33の一側面において距離10mmで約0.5mmの間隔を隔てられる。内部遮蔽電極33とこのような孔38の付近の外部シリンダ32との距離における可変性を最小限に抑えるために、内部遮蔽電極33において穿孔された孔38はこのように配置される。本発明者らの目的は、内部遮蔽電極33に向かい、孔38を経て、最も内部のイオンコレクタ電極35に対してイオンをパルス化することによって、内部遮蔽電極33と外部電極32との間の環状空間(すなわち、FAIMSアナライザ領域34)に位置するイオンのイオン存在度の放射方向の分布を測定することであった。最も内部の導体35に到達するイオンの時間依存性の分布は、内部電極33の周囲のイオンの物理的な放射方向の分布に関連する。2本のシリンダ32,33の間の距離における過度な変動は、最も内部の導体35へのイオン到達時間の不確実性を増大しているために、この装置で行われる測定の空間解像度を低下させる。
【0039】
ここで、図7を参照すると、図6Aおよび図6BのFAIMS−R1−プロトタイプに印加される高電圧高周波非対称波形V(t)が示されている。波形は、2つの部分、集束時間および抽出時間に分割される。波形は、任意の波形発生器(たとえば、Stanford Research SystemsモデルDS340、図示せず)によって合成され、パルス発振器(たとえば、Directed Energy Inc.,モデルGRX−3.0K−H、図示せず)によって増幅される。波形の周波数および波形の高電圧部分および低電圧部分の相対的な持続時間を容易に変更することができる。高電圧およびこのFAIMS−R1−プロトタイプに印加される矩形波の急峻な立上り時間のために、電力消費制限は厳しく、約1330パルス(83,000Hzで16ms)以上の波形は、高電圧パルス発振器の電子部品を過熱することなく、このシステムによって供給することはできない。
【0040】
FAIMS−R1−プロトタイプ30の場合には、高電圧高周波非対称波形は、図6Aおよび図6Bに示されるFAIMS−R1−プロトタイプ30の外部シリンダ32に印加されたことを留意されたい。本開示に記載されるFAIMSの他の形態はすべて、内部管または電極に印加される波形を備えているため、混乱は波形の「極性」およびCVの極性から生じる可能性がある。図6Aおよび図6Bに示されるFAIMS−R1−プロトタイプ30において、タイプAのイオン(図1に示される)は、図3A、図3B、図5Aおよび図5Bの装置のために示されるイオン以外は、対向する極性の波形およびCVの印加中に集束される。しかし、簡単化のため、装置は、従来の構成の装置と同一の方法で構成されている場合と同一であるように極性が表記される。言い換えれば、波形#1の印加中に伝搬されるイオンは、正のDVおよび負のCVと共に生じる。(しかし、図6Aおよび図6Bの装置で使用される実際の電圧は、負のDVおよび正のCVであることを留意されたい。)
【0041】
前述した従来の平行な電極板FAIMS装置(図2)に見られたように、(図1および図2に示される)高電界におけるイオン移動度の変化のため、高電圧非対称波形V(t)の印加は、イオンをFAIMS電極2,4の一方に向かって移動させる。移動に対向する方向に電界または補償電圧CVを印加することによって、この移動を阻止することができる。図6Aおよび図6BのFAIMS−R1−プロトタイプ30の場合には、このようなCVが高電圧非対称波形(すなわち外部電極32)と同一の電極に印加され、小さな直流バイアス(±50Vまで)のような波形が加えられた。DVおよび補償電圧CVの適切な組合せで、所与のイオンがFAIMS装置30を通過する。したがって、装置は、イオンフィルタのように作用する。混合物がFAIMS装置30の出口から均一に流れ、イオンの混合物がFAIMSアナライザ領域34の注入口に生じるが、1種類のイオンはFAIMSアナライザ34で分離されるような条件を決定することができる。
【0042】
図7に示される波形の第2の部分(すなわち、抽出時間)は、(図6Aおよび図6Bに示される)外部電極32と内部遮蔽電極33との間のFAIMSアナライザ領域34からイオンをパルス化するために使用された。集束時間の終りで、すなわち波形の16ms後に、非対称波形が約+30Vの一定直流バイアスによってとって代わられた。これは、外部電極32と内部遮蔽電極33との間の環状空間34からのイオンを、内部遮蔽電極33の方向に移動させた。−5Vの検出器バイアスが、最も内部にあるイオンコレクタ電極35に印加され、内部遮蔽電極33にある孔38の付近からイオンを、孔38を通じて最も内部にあるイオンコレクタ電極35に接触するように搬送する助けとなった。+30VのバイアスがFAIMSアナライザ領域34に沿って約150V/cmの電界を形成し、この領域34内部に位置する大部分のイオンが、約1msで2mmの間隔を横切って移動した。中心の内部遮蔽電極33にイオンが到達するために、イオン電流を予測することができる。たとえば、周囲の温度および圧力の条件で移動度2.3cm2/V−sの1種類のみのイオン、たとえば(H2O)nH+がFAIMSアナライザ領域34に配置された場合およびこのイオンが、空間において規則正しく分散されている場合には、約0.6ms続く上部が略矩形の信号が観測されるはずである。この所望のイオン到着分布との偏差は、イオンがFAIMS装置30の外部シリンダと内部シリンダとの間のFAIMSアナライザ領域34を横切る不均等な分布に分散されたことを示唆していると思われる。
【0043】
さらに図6A、図6Bおよび図7を参照すると、FAIMS−R1−プロトタイプ30が以下のように作動した。浄化された空気の2L/minのフロー、キャリヤガス入(Cin)は、電離ニードル15を収容するシリンダ31に供給された。約2000Vが、ニードル15に印加され、電圧が安定なイオン電流を生成するために調整された。高電圧非対称波形V(t)が、約16ms間が外部FAIMSシリンダ32に印加された。このあとに、2msの抽出パルス(図7)が続いた。最も内部のイオンコレクタ電極35に達するイオン電流は、検出され、ディジタルオシロスコープ37に表示された。測定は一般に、約5Hzの割合で収集された100個の平均スペクトルからなると思われる。ガスフロー速度、非対称波形の電圧V(t)、外部電極に印加される直流電圧CVおよび抽出電圧など、さまざまな実験変数が変更された。
【0044】
図8は、このような実験を行うことによって観測された最も内部のイオンコレクタ電極35へのイオン到達時間を示している。各トレースは2500V印加されたDVを利用して記録されたが、CV電圧は可変であった。見ればわかるように、DVおよびCVの印加中、イオンの放射方向の分布は、FAIMSアナライザ領域34の環状空間を横切って均一ではない。たとえば、−11V付近のCVで、イオンは内部電極33付近の狭帯域に集束されるため、抽出電圧が印加された後、きわめて早く生じる高強度のパルスとして検出される。低いCV、たとえば−5.6Vで、イオンは、FAIMSアナライザ領域34を構成している同軸シリンダ32,33の壁の間に、きわめて均等に分散される。電圧がシリンダ32,33に印加されない場合には、イオンの放射方向の分布はFAIMSアナライザ領域34を横切ってほぼ均等であるはずである(無電圧実験状態の場合のデータは本願明細書には示されていない)。図8に示された実験データから、集束しているイオンが実際にFAIMS計器で生じていることは明白である。この集束は、FAIMSアナライザ領域34内部の内部シリンダ33の周囲の均一な「シート」またはバンドで集束しているイオンを生じる。前述したように、本発明者らの知識によると、この集束効果は観測されていないかまたはまだ解明されていなかった。
【0045】
(3次元大気圧イオントラップ)
上述のFAIMS装置のシリンダ間のガスフローは、装置の一端から他方の端までイオンを搬送するように作用する。あらゆる場合において、電界の作用は、ガスフローの運搬移動に垂直である。このため、初期の装置は、横電界補償イオン移動度分光法と呼ばれていた。本発明は、ガスフローおよび電界が垂直ではなく、むしろ互いに対向して作用する物理的な位置でイオンが捕獲されることを保証することによって、FAIMS−E10およびFAIMS−R1−プロトタイプ30の2次元イオン集束作用を3次元トラップに改造しようという試みの結果である。これによって、3次元大気圧イオントラップを形成する。
【0046】
本開示では、「イオン集束」なる語は、2次元構成に限定されることを留意されたい。すなわち、イオンが「集束される」場合には、シート上の構造に制限され、薄い平坦なシートが任意の距離で任意の方向に延在することができる。たとえば、イオンが長い金属シリンダの外面の周囲に「集束される」場合には、これは、イオンが金属シリンダと同軸または金属シリンダを包囲する(イオンから構成される)円筒空間内に限定されることを意味する。イオンのこのようなシートは、シリンダおよびその周囲のすべてと同じくらい離れて連続的に延在する。他方、本開示では、「イオン捕捉」なる語は、イオンが3次元空間の任意の方向に自由に移動することができない状態に限定される。これは、イオンが2次元のいずれの場所、たとえば上記に述べた例で記載したシリンダの長さに沿ってまたは固定半径でシリンダの周囲に移動することも自由である「集束」より限定される。
【0047】
質量分析計の真空室で作動するための3次元イオントラップは公知であり、いくつかの幾何形状が存在する。しかし、このような真空イオントラップの機構および動作は、本願明細書に記載したイオントラップの大気圧(760トール)バージョンの機構および動作と著しく異なる。物理的な幾何形状、ハードウェア構成要素の配置および既知の3次元イオントラップで印加される電圧は、イオントラップの本大気圧バージョンと少しも関係がない。本発明の3次元大気圧イオントラップの数例の実施形態が、以下で検討される。
【0048】
(FAIMS−R2−プロトタイプ)
図9Aおよび図9Bを参照すると、FAIMS−R2−プロトタイプ40と呼ばれる装置が示されている。ここでは、非対称波形V(t)および補償電圧CVが、直径約2mmの内部固体電極42に印加される。外部の電気的に接地された電極43の内径が約6mmであることによって、電極同士の間に約2mmの環状空間を設けることができる。この環状空間は、上記の説明においてFAIMSアナライザまたはFAIMSアナライザ領域14,34,44と呼ばれており、簡単化のため、引き続きこの専門用語を使用する。イオンは、外部シリンダの壁を貫通する0.5mmの孔に隣接した位置にある独立気泡(図示せず)にコロナニードル15を用いたコロナ放電によって、生成される。図9Aに示されるように、イオンは、コロナ放電ニードル15によって発生された高電界(約+2000Vに維持される)によって、0.5mmの孔45を通って、FAIMSアナライザ領域44へと移動させられる(簡単化のため、孔45に向かって直接移動しているイオンのみが示されている)。この孔45の付近のFAIMSアナライザ領域44の内部で、電界およびガスフロー(図9Aおよび図9Bでは右から左へ流れているように示されている)は互いに垂直であり、イオンはFAIMS‐R1‐プロトタイプ30に関連して上記の節で述べた2次元集束効果を受ける。しかし、図9Aに示された装置の内部電極42は、外部電極43の端から約1〜4mmの位置で終わる。下流端で外部電極43の内面は、FAIMSアナライザ領域44の長さに沿って受けるのとほぼ同一の電界(すなわち、DVおよびCVの印加によって形成される)を維持するような方法で輪郭が形成される。外部電極43の端には、微細な高伝搬金属スクリーンで覆われる孔(約2mm)を含む出口格子46がある。装置40を通って流れているガスも、格子46を通って自由に流れ、外部電極43とコレクタ極板47の間の空間から放出する。いかなる印加電圧も存在しないとき(すなわち、DV=0およびCV=0)に、イオンは、図9Aに示されるように装置を通って非常に多く移動する。イオンはアナライザ領域44に入り、外部電極43の出口格子46を通るガス放出と共に流れ、わずかに残存するイオンは約−5Vでバイアスが印加されるイオンコレクタ極板47に引き寄せられる。コレクタ極板47は、高利得電流増幅器または電位計36(たとえば、Keithly428)およびオシロスコープ37に接続された。
【0049】
図7に示されたタイプの非対称波形の印加によって、集束作用が図9Bに示されたような内部電極42の略球形の終端42Tの周囲に延在する点を除き、従来のFAIMS−E10およびFAIMS‐R1‐プロトタイプ30に関して上述したイオン集束挙動を生じた。これは、イオンが内部電極42の終端42Tの周囲の領域から逃れることができないことを意味する。これは、2次元集束に関する説明において記載したように、内部電極42に印加された電圧がCVおよびDVの適切な組合せである場合に生じるだけである。CVおよびDVがFAIMSアナライザ領域44におけるイオンの集束に適しており、図9Aおよび図9Bに示された外部電極43の内面の物理的な幾何形状がこのバランスを妨げない場合には、イオンは、図9Bに示されるように終端42T付近に集まる。いくつかの相反する力が、内部電極42の終端42T付近のこの領域中のイオンに作用している。図9Bの内部電極42の終端42T付近に示されるイオン雲は、ガスフローの力のために、図9Aに示されるように左から右へ出口格子46に向かって移動することが好ましい。これはまた、イオンが電離源15に向かって左から右へ戻ることができないことを意味している。負の極性を有するCVの印加のために、内部電極42に近づきすぎたイオンは電極42から押し戻され、外部電極43付近のイオンは内部電極42に向かって戻される。流れているガスの力またはFAIMS機構の電界(電位井戸)のいずれかによって、イオンはあらゆる方向で捕獲される。
【0050】
上記の説明は、イオンが「捕獲」または「捕捉」されると言及しているが、実際には、イオンは『拡散』を受けている。拡散は常に、集束または捕捉に反して作用する。イオンは常に、拡散のプロセスを逆方向に進めるために、電気またはガスフローの力を必要とする。これは、イオンが(厚さほぼゼロ)空間における架空の円筒ゾーンまたは3次元イオントラップ内に集束されてもよいが、イオンは実は拡散のために空間のこの同一のゾーンの付近で分散されていることが実際には公知であることを意味している。これは、イオンが常に、すべてが同一の場所に正確に位置するのではなく、ある領域にわたって「分散」されていることを意味している。これは重要なことであり、本願明細書で記載されているイオン運動のすべてに補充される全体的な特性として認識されるべきである。このことは、たとえば、3次元イオントラップが実質的な空間の幅を実際に備え、物理的および化学的ないくつかの理由に関して洩れていることを意味している。
【0051】
FAIMSにおける化学的な効果についてさらに詳しく述べると、イオンが中性分子と衝突し、一時的に安定な錯体を形成する場合には、この新たな錯体が元のイオント異なる高電界移動度特性を備えているために、この錯体がFAIMS集束または捕捉領域の中から移動している可能性がある。これは、錯体が元の単独の親イオンとは異なる高電界での挙動(図1参照)を備えている可能性があることを意味している。たとえば、(極端に言えば)元のイオンが図1に示されるタイプAであり、新たな錯体がタイプCである可能性がある。これが事実である場合には、新たな錯体は一般的なDVおよびCV状態で捕捉されないであろう。このようなイオンと装置の壁との衝突によって、すぐにトラップからイオンの消失が生じる。元のイオン自体が捕捉され続ける可能性はあり、「化学的」効果を経たこのようなイオンの除去は完全に可能であるが、FAIMSアナライザがガスフロー中の著しい水蒸気または汚染物質の存在を見落とす理由である。FAIMSアナライザは、きわめて正常な状態において最適に動作する。P2モードの動作中、高純度のガスの必要条件がある程度緩和される。
【0052】
ここで、図10A〜図10Iを参照すると、FAIMS‐R2‐プロトタイプ40を用いた実験結果が示されている。電極の寸法は、図9Aおよび図9Bに関して上述した。DVは約2000Vであり、CVは−12Vであり、装置を通過するガスフローは0.9L/minであった。DVおよびCVが約16ms間、内部電極に印加された後、この電圧が内部電極42に印加された抽出電圧によってとって代わられた。内部電極42に印加された直流抽出電圧は、イオンを内部電極42から出口格子46に向かって押し続け、それによって、ガスフローが格子46を通って、このようなイオンを搬送する(尚、数%のイオンは、この格子46との衝突で消失した)。図10A〜図10Iのトレースは、+1V(図10A)〜+30V(図10I)の範囲の電圧で、抽出されたイオンの結果を表している。捕捉されたイオンの抽出は、図10A〜図10Iに記録された正のパルス48を生じる。図に示された負のパルス49は、DVおよびCVが除去され、抽出電圧によってとって代わられるときに生じる電子過渡雑音である。図10A〜図10Iに示されたデータから、抽出電圧の増大が短めのさらに強いイオン信号を発生することは明白である。これは、イオンが+1Vより+30Vでさらに強くトラップからパルス化されるために生じる。図10A〜図10Iに示された実験結果は、イオンの雲が内部電極42の終端42T付近に集まるという仮設を実証する。一部のイオンが内部電極42の終端42T付近で入手可能でない限り、図10Iに示されたイオンのパルスは、FAIMS−R2−プロトタイプ40から抽出されることはできない。
【0053】
(FAIMS−R3−プロトタイプ)
ここで、図11A〜図11Cを参照すると、FAIMS‐R3‐プロトタイプ50が示されている。この装置は質量分析法によって検出するために構成され、ガスおよびイオンが質量分析計の真空室に引き入れられるサンプラコーン18が、図11A〜図11Cの左側に示される。真空ハウジングおよびサンプラコーン18の右側は、実質的に大気圧に保たれている。このような構成要素の左側は、「質量分析計真空室」と明示され、一般に1トール未満の気圧である。大部分のシステムにおいて、第2のオリフィス(図示せず)は、一般に気圧が10−5トール未満の質量分析計の質量アナライザ領域に導く。
【0054】
図11Aに示されたFAIMS−R3−プロトタイプアナライザ50は、直径約2mmの内部固体円筒電極52および内径約6mmの外部電極53からなる。中心電極52は、電気接続を介して、非対称波形発生器電源55によって電力が供給される。DVおよびCVの両方が、この発生器によって供給される。波形およびタイミング図は、図11Dに示されている。図11Dに示されているように、非対称波形は内部電極52に連続的に印加される。
【0055】
図11Aに戻って参照すると、ガスは、右側からFAIMS−R3−プロトタイプ50に入り、FAIMSアナライザ領域54から構成される環状空間に沿って流れ、外部電極53の開口端を経て出る。外部電極53から電気的に絶縁される微細な細い導線の金属格子から構成されている出口格子56が、外部シリンダ53の開口端(左側)に隣接し、格子電気パルス発振器電源57への電気接続を有する。格子56の電圧は、この電源を用いて段階的に変更することができる。格子電圧およびタイミング図が、図11Dに示されている。格子は一般に、図11Dに示されるイオン蓄積時間中、−5V〜+5Vの間(たとえば0V)に維持される。次に、内部電極の球形の終端52Tに位置している3次元大気圧トラップからイオンを抽出するために、格子は、−5V〜+5Vの間(たとえば、図11Dの−15V)まで段階的に変化される(100ns移行)。図11Bは、蓄積時間中、イオンのおよその位置を概略的に示している。記憶装置に印加されているCVおよびDVの組合せで「正味の」運動がゼロであることから、ここで捕捉されるイオンは、正確な高電界イオン移動度(図1参照)を備えていることを心に留めておくべきである。(非対称波形の印加のためにイオンが常に前後左右に移動していることから、「正味の」なる語が使用される。すなわち、イオンが反復して同一の位置に戻る場合には、DVおよびCVの印加によって生じる「正味の」運動はゼロである。)たとえば、(H2O)nH+イオンが、約+2000VのDVおよび約−10VのCV(P1モードを象徴する)で、図11A〜図11Cに示された幾何形状に格納される。DVおよびCVのこの組合せと著しく異なる状態(たとえば、DV2000VおよびCV+10V)では、(H2O)nH+イオンは、図11Bに示されているような1つの物理的な位置に集まらない。代わりに、このようなイオンは、シリンダ52,53の壁と衝突する。DV2500VおよびCV−5VなどのDVおよびCV状態の第2の設定で、別のイオン(たとえば、(Leucine)H+)が、図11Bに示されているように、内部電極52の先端52Tで収集することができる可能性がある。
【0056】
図11Bに示された内部電極52の終端52Tの付近で、相反する力のためにイオンの運動が制限される。FAIMSアナライザ領域54に沿って流れているガスは、イオントラップガス注入口に向かって戻るように左から右へ(図11B)イオンが移動することを防止する力を加え、この力はまた、外部電極の左端に示される出口格子56に向かってトラップからイオンを押出す傾向もある。FAIMSの電気的な力特性は、内部電極52の側面から一定の距離にイオンを維持する:(1)内部電極52から離れすぎているイオンは、印加される直流オフセットの負の極性、すなわち負のCVのために、内部電極52に引付けられ、(2)内部電極52に近いイオンは、イオンがタイプP1であると仮定した場合、高電界におけるイオン移動度の増大(図1参照)のために、押し続けられる。イオンの運動の詳細については、以下に記載される。
【0057】
図11Cは、格子電極56に印加される電圧まで段階的に変化させることによって、3次元大気圧トラップからのイオンの除去を示している。格子56に印加される電圧が、図11Dのタイミング図に示されるように、たとえば0Vから−15Vに減少される場合には、イオントラップの井戸深さは減少または排除され、イオンがガスフローの影響下でまたはイオンを出口格子56に向かって移動させる可能性がある電界によって、自由に流出する。
【0058】
図11A〜図11Cに示されるFAIMS−R3−プロトライプ50は、電気噴霧電離(ESI)によって生成されるイオンの検出用に適している。FAIMSは、アナライザ領域に入るガス中の水分および汚染物質に対する感度が高い。汚染物質または多すぎる水蒸気は、信号の完全な消失および本願明細書に記載したように機能するためのFAIMSの故障を引き起こす。電気噴霧電離は溶媒混合物の高電圧支援による霧化を含むため、水および他の揮発性溶媒の量がはるかに多すぎると、FAIMSアナライザ領域54では許容することができない。これは、中性の溶媒分子がFAIMSアナライザ領域54に入らないようにするために、ESI−FAIMS組合せ装置は常に、ガスの単離、カーテンガスまたは向流ガスフローのタイプを必要とすることを意味する。これを実現するための1つの方法が、図11A〜図11Cに示される。FAIMSは、ガス注入口62およびガス放出口63用の設備を有する小さなチェンバ61によって、電気噴霧電離箱60から分離される。ガスの流れがこの中間チェンバ61に入り、ガスの一部が電気噴霧電離箱に向かって流れる場合には、中性の溶媒分子は電気噴霧電離箱のポートを経て放出され、イオントラップ装置に入らないようにする。図11A〜図11Cに示される電気噴霧ニードル15Eは、水平面または、示されている高めの垂直部分ではなく、FAIMSアナライザ領域54より低い部分にある可能性が高い。これは、きわめて大きな液滴が、重力によって、FAIMSアナライザ領域54に落ちやすい傾向を最小限に抑える。水平または低めの配置において、(任意に)過度の溶媒を除去するための排水管を備えていてもよい電気噴霧電離箱60の底部に大きな液滴が落ちる。また、イオントラップガス注入口が閉鎖されている場合には、パージガス注入口に入るガスは両方に使用されてもよく、脱溶媒を援助してもよく、このガスフローの一部が、図12の右から左へFAIMSアナライザ領域54に沿ってイオンを搬送するために使用されると思われる。
【0059】
図12(ガスフローが強調され、大部分のイオンが省略されている)に示される第2の方法で、ガスの向流を実現することができる。ガスの一部がFAIMSアナライザ領域54を出て電気噴霧電離箱60に入るように、FAIMSアナライザガスフローが調整される場合には、中性の汚染物質が入ることを防止することができる。これは、図11A〜図11Cに示される装置より高いイオン伝搬を生じる可能性がある。また、出口格子電極56(図11A〜図11C)は、図12には示されていないことに留意されたい。この実施形態において、イオントラップを無効にする「抽出」パルスが、質量分析計サンプラコーン18に印加される。
【0060】
(FAIMSイオン捕捉質量分析法の実験:計器の概要)
ここで、図13A〜図13Jを参照すると、FAIMS−R3−プロトタイプ50と共に飛行時間型(TOF)質量分析計を用いたシステムが記載されている。図13Aに示されるように、FAIMSの組立品、イオン生成およびガス制御は、図122示されるものと類似している。このシステムの作動および実験結果の詳細についてさらに説明するため、図はこの作業に使用された飛行時間型(TOF)質量分析計70の内部構成要素を示すために拡大されている。分散電圧、補償電圧、サンプラコーン電圧VORおよびTOF加速パルスのタイミング図が、図13Bに表示されている。
【0061】
図13Aは、サンプラコーンへの電気接続があることを示している。電気接続は、サンプラコーン電圧VOR、すなわちイオントラップからイオンをゲートで制御するために使用される電圧を制御するために使用する。たとえば、代表的な実験において、(たとえば、FAIMSオフセット電圧+20Vおよび補償電圧―3Vのとき、)VORはイオンの捕捉中+40Vに設定され、イオン抽出用に+1Vに設定されてもよい。これらの電圧は、たとえば捕捉のために40msの時間、イオン抽出のために10msの時間、印加される。イオン抽出の開始後、内部電極52の終端52T付近に位置したイオンの雲が、サンプラコーン18に向かって移動する。サンプラコーン18とFAIMS50との間の電界およびサンプラコーンオリフィス18Aを通って真空システムへ流れるガスの高流動性のために、一部のイオンが、サンプラコーン18とスキマーコーン71の間の低圧(2トール)領域に搬送される。スキマー71は一般に、大地電位に維持される。イオンが低圧領域(9×10−5トール)に入り、8重極イオンガイド73を経てTOF加速領域72の入口に搬送された後、サンプラコーン18とスキマー71との間に1Vの差があれば、スキマー71を経てイオンを取り出すために十分である。8重極73を介したパルスの搬送中、パルスの遅延および広がりを最小限に抑えるため、8重極ガイド73は、低圧で作動される。8重極73は一般に、イオンを閉じ込めるために、−4Vの直流オフセットおよび700Vの1.2MHz(ピークからピークまで)を印加した波形を用いて作動される。8重極イオンガイドの射出開口部レンズ(図示せず)は、−5.5Vに維持される。イオンは、8重極射出レンズを経て、TOF質量分析計70のイオン加速領域72を構成する一連の格子を通過する。
【0062】
さらに図13Aを参照すると、TOFの加速領域72は、2つの高電圧パルス発振器74A,74Bに接続され、以下のように動作する。装置は、3つの微細網状金属格子72A,72B,72Cを含む。飛行管に最も近い位置に配置される格子72Cは、一定の大地電位に維持される。他の2つの格子72A,72Bはそれぞれ、高電圧パルス発振器74A,74Bに接続される。格子72A,72Bは2つの可能な電圧状態に達し、外部のパルス発振器ディジタル論理回路75によって制御される。1つの電圧状態では、格子72A,72Bの両方が1つの電圧に維持され、我々の実験では−5.5Vが使用された。この状態において、8重極イオンガイド73の射出レンズから移動するイオンは、格子72A,72Bを通過する。格子72A,72Bはまた、約50μsの持続時間のパルスを印加することによって得られた第2の高電圧状態に維持される。パルスが印加される場合に、このような格子72A,72Bの間の領域に位置するイオンがあり、このようなイオンは、図13Aに示される飛行管76および検出器77の方向に加速される。このようなイオンは第2の格子72Bを通過し、第2の格子72Bと大地電位である第3の格子72Cとの間の高電界のために、さらに加速される。一旦、このようなイオンが加速領域72から通り抜け、飛行管76に沿って移動している場合には、加速領域72の2つの可変格子72A,72Bの電圧は、低電圧状態に戻り、新たなイオンが格子72A,72Bの間の空間に入り得る。格子72A,72Bは一般に、約50μs間、高電圧に維持される。
【0063】
原則として、すべてのイオンがパルス出力電圧格子72A,72Bと一定に接地された格子72Cとの間の電圧降下によって定義される(第1次近似と)同一のエネルギーを有するため、飛行管76に伝搬するイオンは質量によって分離する(この説明では、電荷(Z)=+1と仮定する)。イオンエネルギーはEi=mv2/2によって定義されるため、異なる質量mのイオンは異なるイオン速度vであり、その結果、エネルギーEiは一定である。イオンは、次々とイオンの塊となって、TOF検出器77に到着する。質量の最も小さいイオンが最も高速であり、検出器77に最初に到着し、質量の最も重いイオンが最後に到着する。
【0064】
しかし、実際には、加速領域72に残っているイオンのすべてが、同一の電圧ではない。イオンは、2つのパルス出力電圧格子間の開始位置によって指示されるエネルギーをある程度有する。エネルギーのこの差によって、加速領域72における開始位置に関係なく、所与のm/zを有するイオンのすべてが同時に検出器77に達することを意味する「空間的な」集束性能を装置に与えることができる。この文脈では、「集束」なる語のこのような使用は、光学系(たとえば、カメラ)における光の集束によく似ている。第2の格子72Bと接地された格子72Cの間から加速されたイオンは、広範囲のエネルギーを有し、望ましくない「背景」雑音の一因となる。これは、接地された格子72Cにきわめて近い(2mm)第2の格子72Bを配置することによって、最小限に抑える。
【0065】
TOF加速領域72は、一定の遅延時間でサンプラコーン18に印加されるパルス(VOR)を伴うパルスを出力する。FAIMS50から抽出され、真空インターフェイス18,71を経て、8重極73を介して、加速領域72へと通過されるイオンのパルスにとって、有限の遅延時間である。TOF質量スペクトルは、抽出パルスがサンプラコーン18に印加された後、一連の遅延時間で収集される。サンプラコーンが連続的に低電圧(すなわち+1V)状態に維持される場合には、検出されると思われる均一な信号に対応する一定レベルまでの信号強度の減衰を伴う強い過渡信号の出現によって、イオンのパルスの到着が特徴付けられる。
【0066】
(イオン捕捉の研究用のTOF質量スペクトルおよびCVスペクトル)
コロナ放電電離によって生成される質量の小さいイオン、特に陽子を加えた水イオンはきわめて高いイオン密度(存在度)であるため、本研究では、きわめて急速にトラップを満たすか、または短すぎる寿命であるかのいずれかであると予想された。したがって、P2モードで質量がより大きいイオンを探すことが決定された。このようなイオンの存在度はキャリヤガス中の汚染物質の痕跡から作成されるだけであるため、その存在度は低いと予測された。追加的なサンプル化合物またはガスは、システムに追加されなかった。ここで研究されたイオンは、「清浄な」窒素空気におけるコロナ放電電離によって形成された。イオン源およびFAIMS装置は、できる限り清浄な状態で作動された。
【0067】
図13Cは、本研究のために獲得された一般的な質量スペクトルを示している。これは既知の較正用化合物を必要とするため、正確な質量は決定されなかったが、陽子を加えた水イオンを含む質量の小さめのいくつかのイオンに対する飛行時間を用いて、おおよその質量が決定された。不純物イオン81,82がいくつか。スペクトルに現れたが、最も高い存在度(飛行時間27.0μs)のイオン83のみが本研究では検討された。このイオン83は、約380(±10m/z)のm/zを有する。
【0068】
図13Dは、−3500Vの印加された分散電圧で飛行時間27.0μs(m/z約380)のイオン83を検出するために、補償電圧走査を示している。DVの極性はP2モードと呼ばれ、一般にP2モードでFAIMSを通過するイオンは通常、m/z300を上回る質量である。P2モードで通常存在するイオンは、電界が増大するにつれて、減少するするイオン移動度を有する(図1のタイプCのイオン)。P2モードの1つの制限は、イオンが一般に、低いCVで発見されるため、イオン捕捉の強度が弱いことである。他方、質量のより大きいイオンの1つの利点は、イオン移動度が一般に低めであるため、高電圧非対称波形の印加中に移動される距離が軽減され、拡散によって壁に対するイオン消失の割合が、最小限に抑えられると予測されることである。
【0069】
図13Dにおける各実験地点におけるイオン強度は、5000回の反復TOF加速パルスから記録されたスペクトルを平均することによって得られた。電源によって設定された電圧を読み出すために使用されるディジタル電圧計を用いて、補償電圧は手動で調整された。(1)VORの「下方」端(移行)の後に、4.5msの検出を用いたパルス出力サンプラコーン18、(2)+1Vに設定されたVORを用いてFAIMSからTOFまでの連続イオン伝搬および(3)+15VのVORを用いてFAIMSからTOFまでの連続イオン伝搬を含む3つの動作方法における補償電圧曲線の収集に対応して、3つのトレースが図13Dに生じる。検出イオンの最大の伝搬に対応する補償電圧は、このような3つのデータ収集方法の場合に匹敵した。図13Dから、飛行時間20.0μsのイオンは、DV=−3500Vおよび約−2.5V〜−4Vの補償電圧で、FAIMS装置50によって伝搬された。
【0070】
(TOFのイオン光学中のイオン搬送遅延)
ここで、図13Eを参照すると、全システムの応答時間を決定するために設計された実験の結果が示されている。VORは、2つの値、FAIMSを経て真空システムへのイオン伝搬に適した電圧(+15V)および捕捉またはイオン伝搬のいずれにも不適切であった第2の電圧(−10V)の間で段階的に変化された。図13Eは、いずれも可能なタイプのVOR移行、すなわち高電圧から低電圧までおよび低電圧から高電圧までの間の一連の時間遅延で収集される質量スペクトルの強度を示している。以下の説明のために、これらの移行はそれぞれ、VORにおける変化の「下方」および「上方」端が考慮される。遅延の起点および遅延の長さは、2つの場合では異なる。理由については次に考察する。
【0071】
図13Eの40msで生じる高電圧から低電圧への移行、すなわち「下方」の場合には、サンプラコーン18に印加される低電圧は、(正に帯電した)いずれのイオンもサンプラコーン18(すなわち、−10VにおけるVOR)とスキマーコーン71(0V)との間を通過しないようにするため、「下方」移行は、8重極イオンガイド73に通過するイオン束におけるきわめて急激な減少を生じる。したがって、1つの極値に、TOFによって得られたスペクトルの強度がゼロまで急激に減少する可能性があると予測されると思われる。実験では、低イオン密度領域に戻るイオンのために、イオン密度の急激な減少は「不明瞭」である。(a)すべてのイオンが同一の運動エネルギーを備えているわけではなく、ごくわずかのエネルギーを有するイオンが遅れるためおよび(b)8重極ハウジング73の内部のイオンと残留ガスとの衝突が、イオンの一部の運動エネルギーに影響を及ぼすために、このような広がりが予測される。8重極73はイオンガイドであるため、残留ガスとの衝突を経験したイオンが8重極73の内部に含まれたままであることから、この長手方向の広がりが強調される。運動エネルギーが弱められたために、このようなイオンは、長い遅延時間で、8重極73を通って、TOFの加速領域72に達する。図13Eは、VORが+15Vから−10Vまで変化した後、約2ms間にイオンがTOF加速格子に到達し続けることを示している。この「下方」移行は、図13Eの40msで生じることに留意されたい。
【0072】
低電圧から高電圧へのサンプラコーンの「上方」電圧移行は、若干異なる効果を有する。この移行は、図13Eの時間0msで生じる。図13Eに示されているように、TOFスペクトルの強度に関して、平坦域に達するまでに必要とされる時間は、約10msである。遅延をある程度予測される。VORが高められる場合、FAIMS50の内部シリンダ52の終端52Tの前に位置するイオンの比較的低い密度は、FAIMSシリンダ52,53の間の環状領域54に沿って伝搬した新たに到達するイオンによって増大されるに違いない。次に、このようなイオンは、サンプラコーン18を経てスキマー71領域、さらに8重極73まで通過し始めるに違いない。上述したVORパルスの「下方」端の説明から、8重極73を経て伝搬される(ことを監視されるイオンの)イオン密度似置ける変化のために最低2ms必要である。そのため、TOFスペクトルにおいてイオン存在度が増大する前に必要とされる追加的な時間遅延(すなわち、2msと10msとの差)は、サンプラコーン18の前においてイオンの出現が遅れ、次にサンプラコーン18を経てスキマー71領域まで伝搬することに起因している。
【0073】
(FAIMSにおけるイオン捕捉の実験的な検証)
ここで、図13Fおよび図13Gを参照すると、FAIMS50の内部電極52の球形終端52Tの付近に位置する3次元イオントラップの実験的な検証が、示されている。FAIMS50へのキャリヤガスフローが図13Gの収集の場合には減少した点を除き、図13Fおよび図13Gに関するデータ収集用の実験条件は同一であった。この作図のためのデータは、約1週間あけて独立した実験において収集した。
【0074】
図13Fおよび図13Gの作図は、サンプラコーン18の「下方」移行後、さまざまな時間に収集された飛行時間27.0μs(約m/z380)のイオンの測定強度を示す。これらのパルスのタイミングは、図13Fの一番下に示されている。時間ゼロは、サンプラコーン18が高電圧状態(VOR=+40V)から低電圧状態(VOR=+1V)までパルス出力された時間を示し、それによって、イオンをFAIMSトラップから抽出する。イオンは、TOF加速領域72までシステムを通って移動するために、約5ms必要とする。イオンのパルスは、通過中に広がり、本システムによって検出されたときには、(半分の高さで)約3msの幅であった。
【0075】
図13Fおよび図13Gはまた、VORの2つの異なる設定で非パルス出力モードの収集に対応する2つの水平線を含む。低い方の強度データは、パルス出力モードで作動している場合にサンプラコーン18の「低電圧」状態に対応するVOR=+1Vで収集された。高い方の強度の水平トレースは、サンプラコーン18用の実験による最適な設定(VOR=+15V)で収集された。この設定におけるサンプラコーン18の直流レベルによって、非パルス出力モード用の最大の可能なTOFスペクトル強度を生じた。図13Fおよび図13Gに関して、データは異なる場合に異なるFAIMSガスフロー状態で収集されたが、VOR=+15Vの場合の信号の強度は似ていることを留意されたい。イオン軌跡のモデル化は、内部電極52の終端52Tの周囲を通過するイオンが、電極52の端を通り過ぎる際に、中心チャネルに向かって集束されることができることを示した。このように、イオンは、最大感度を備えた真空に誘導するサンプラコーンオリフィス18Aの中に伝搬される傾向がある。このイオン集束が生じることを示すこの軌跡の計算例が、図19Cおよび図19D(下)に示されている。
【0076】
(イオン蓄積時間)
内部FAIMS電極の端付近の蓄積ゾーンからイオンを抽出することによって生じるイオンの検出パルスの強度に対する蓄積イオン蓄積時間の影響を決定するために、実験が行われた。蓄積時間の長さの関数によって作図された飛行時間27.0μsのイオンに関するTOFピークの強度が、図13H、図13Iおよび図13Jに示されている。サンプラコーン18に印加される波形は、イオンがTOFに入ることができる低電圧(VOR=+1V)で一定時間(10ms)から構成された。サンプラコーン格子電圧VORが下げられた後、約4.5msTOF加速格子72A,72Bを作動させることによって、信号強度が測定された。VORは、図13H〜図13Jのx軸に示されている時間では、高い値(VOR=+40V)に維持された。図13H〜図13Jの3つのトレースは、補償電圧CVのさまざまな設定で収集されたデータに対応する。非最適補償電圧、CV=−4V(図13J)に関するイオン強度は、イオントラップが比較的非能率的であり、トラップに保持されることができるイオンの最大数に比較的急速に(すなわち、約10ms)達することを示唆している。他方、CV=−3V(図13H)およびCV=−3.5V(図13I)では、強度は30ms以上増大する。このことは、すなわちドリフト時間27.0μsのFAIMSイオントラップ内部におけるイオンの寿命が少なくとも5msであることを示唆している。高い捕捉時間では、トラップが満たされることおよびイオンの流入が拡散による消失およびガスフローによって平衡に保たれていることが仮定される。この実験は、簡単な運動によって生じる問題であると考えられることができる。イオンの流入は、Xイオン/秒である。イオンの消失、すなわちYイオン/秒は、トラップにおけるイオンの数に比例する。トラップにおけるイオン数、総イオン数Zは、安定状態に達し、X=Y=kZとなるまで増大し続ける。式中、kは、トラップからのイオン消失の割合を表す関数に対して一定の割合である。短い遅延時間では、Zは小さく、kZも小さい。したがって、Z=Xtと仮定することができる。式中のtは時間である。時間ゼロにおけるZがゼロである場合には、微分方程式dZ/dt=X−kZの解は、Z(t)=X(1−e−kt)/kである。Xおよびkを決定するために、データ設定をこの関数に合せることができる。図13H、図13Iおよび図13Jは、実験データおよびデータに合せるために使用された上記の式に基づいて計算された曲線を示している。CV曲線−3V、−3.5Vおよび−4Vに対して、kの値はそれぞれ、0.06、0.12および0.34であった。対応するXの値はそれぞれ、0.4、0.72および0.8であった。kの高い値は、イオン消失の割合が高い場合の条件を表す。Xの高い値は、トラップへのイオンの流入が高い割合であることに対応する。
【0077】
(FAIMS−R4−プロトタイプ)
ここで、図14A〜図14Cに示される別の実施形態を参照すると、FAIMS−R4−プロトタイプ80と呼ばれ、電気噴霧(または別の電離)が内部電極82の半径の内部に生じるFAIMS3次元大気圧イオントラップが示されている。これは、FAIMSのMine Safety Appliances Companyバージョンで好まれる構成である。この装置の改良バージョンが、図3Aおよび図3Bに概略的に示されている。一般に、イオンは、外(外部)から外部電極83まで、または内(内部)から内部電極82までのいずれかによって、FAIMSアナライザ領域84に注入されてもよい。後者は、寸法が小さく、内部電極82の半径が、外部イオン源を用いた装置で使用されることができるものよりはるかに大きい必要があるため、あまり好都合ではない。さらに、電離源(たとえば、コロナ放電ニードル)は、非対称波形で印加される高電圧の影響を受けやすい可能性がある。イオン源を直に包囲している電極は、図3Aおよび図3Bに示されるFAIMSに電気的に接地される。
【0078】
図14A〜図14Cに示される装置において、内部電極82は外径約14mmであり、外部電極83の内径は約18mmであり、これらの2つの同軸シリンダ82,83の間には約2mmの環状空間(FAIMSアナライザ領域84)が存在する。内部シリンダの端82T(図14A〜図14Cの左端)は閉じられ、電極の端82T付近のすべての位置に、FAIMSイオン捕捉に適切な電界を維持クするのに適切であるように形成される。
【0079】
外部シリンダ電極83の内部は、図14A〜図14Cの直径において均一であるように示されているが、たとえば、図14A〜図14Cに示されている直径の広い内部電極82の場合は、外部電極83の内面が図9Aおよび図9Bに示されるものときわめてよく似た輪郭に構成される場合には、RAIMS分析状態がさらによく維持される可能性がある。これは、内部電極82の球形(または円錐形)の閉じた端82T付近で、内部電極82と外部電極83の間を実質的に一定距離に維持する。電極の端82T付近の内部電極82と外部電極83との間隔は、実質的に均一であってもよいが、電極の端82T付近の位置で平衡状態を維持することができる限り、この間隔はまた、均一でなくてもよいことを理解されたい。
【0080】
ガスフローは、図14A〜図14Cに示されるFAIMSアナライザ領域84の端(図ではFAIMSの右側面)に入り、内部電極82の閉じた端または終端82Tに向かって流れる。内部電極82の終端82Tを越えて、ガスフローが高透過性の微細ワイヤ格子を含む出口格子85を通過し、質量分析計サンプラコーン18と出口格子85との間の空間を経て出る。サンプラコーン18のオリフィスへのガスフローの一部が、質量分析計の真空によって引付けられた。抽出時間中、出口格子85を通過したイオンの一部も、ガスフローおよび電界によって、質量分析計へ引付けられる。
【0081】
図14A〜図14Cに示されるFAIMSアナライザ領域84に入るガスの一部は、アナライザ領域84から電離領域86へ、内部(すなわち、向流ガスフロー)を流れることができなければならず、それによって、中性分子、大きな液滴および他の望ましくない非帯電成分がFAIMSアナライザ領域84を通過しないようにする。このような成分は、FAIMSアナライザ領域84中のガスを汚染し、本願明細書の他の部分で述べたイオンの集束および捕捉を低下させる恐れがある。したがって、FAIMSアナライザ領域から電離領域へのガスフローが、電気噴霧実験中に逆流した場合には、装置が作動しない恐れがある。電離がきわめて清浄な汚染されていないガスにおいて生じる場合には、ガスフローの向きにおけるこのような制限は緩和されてもよい(たとえば、放射性63Ni箔を用いた清浄ガスの電離、コロナ放電電離、紫外光放射による電離など)。P2モードにおいて作動中、高純度ガスの要件はある程度緩和される。
【0082】
図14A〜図14Cに示される装置は、前述した装置と類似の方法で作動する。イオンは、放射方向に内部を流れているガスに対する電界によって伝搬される電離領域86から放射方向に進む。FAIMSアナライザ領域84へ進むと、電界がアナライザ領域84の内部にイオンを閉じ込める(集束または捕捉)か、適切でないDVおよびCVの印加のために、イオンが装置の壁と衝突するかのいずれかである。サンプル中のイオンの1つに対して、DVおよびCVが適切であると仮定すると、そのイオンはFAIMSアナライザ領域84に集束され、(FAIMSアナライザ領域84において、ガスおよび電界は互いに垂直に作用するため、)ガスと共に内部電極82の閉じたドーム状の終端82Tに向かって流れる。トラッピングフィールド(電位井戸)が依然として適切である場合には、イオンは、図14Bに示されているように内部電極82の終端82T付近に集まる。これは、イオンがガスの流れに反してイオン源に戻ることができないために生じ、イオンは、内部電極の終端82T付近の電界の閉じ込め作用によって、格子85の中からガスと共に流れることができない。以下の条件:(1)DVおよびCVが印加されていなければならず、電圧が依然として捕捉されるイオンに対して適切であること、(2)捕捉されるイオンに対して適切であるように、外部電極および格子の電圧が、たとえば0V付近に固定されたままであることおよび(3)ガスフローが維持されていることが維持される限り、このトラップは存在する。少しでも条件が変化した場合には、イオンはトラップから出てしまう恐れがある。図14Cに示されているように、トラッピングフィールドから格子85を経た後、質量分析計のサンプラコーン18までイオンを移動させることが望ましい場合には、この結果を実現するために、上記の条件の1つを任意に変更してもよい。これは、さまざまな方法で生じ得る:
(1)格子85の電圧が、内部電極82および外部電極83に対して(捕捉中のその値から)降下されることができる。これは、(終端82T付近の)FAIMS捕捉領域から離れるように(正に帯電したイオンを)引付ける効果があり、それによってトラップの保持を解除する。イオンはトラップから出て、格子85に向かって移動する。一部のイオンは格子ワイヤに衝突し、一部は(ガスフローによって援助されて)格子ワイヤを通過する。装置における電圧のすべてが互いに対して考慮されなければならないため、外部電極83および内部電極82に印加される電圧における変化によって、同一の効果を実現することができる。たとえば、外部電極83および内部電極82の両方に印加される電圧の増大は、格子85に印加される電圧の減少と全く同一の効果を生じる。
(2)FAIMS捕捉領域の付近におけるイオンの運動を変化させるさまざまな方法で、DVまたはCVを変更することができる。CVが負の大きな値になる場合には、イオン(正のイオン)は内部電極82と衝突しやすく、CVが正の大きな値になる場合には、イオンは内部電極82から離れた位置となり、ある電圧でFAIMSトラップはこのイオンに対してもはや存在せず、上記の(1)で述べたように、イオンはガスフローと共に平均直流電界の影響下で、格子85へ移動する。DVが排除される場合には、トラップはもはや機能しない。CVがたとえば、正のさらに大きな値に変更され、DVが排除される場合には、(正に帯電した)イオンは、内部電極82から排除され、格子85へ移動すると思われる。
(3)ガスフローを変更することができる。ガスフローが内部電極の閉じた端82T付近で電界の捕捉作用を抑えるほど十分に強い場合には、上述のように、イオンはトラップから格子85に向かって推進される。ガスフローが弱められるまたは停止される場合には、イオンは拡散および化学変化によって移動する。拡散はイオンをイオン源に向かって戻すことができ、それによって内部電極82の終端82T付近のFAIMS捕捉領域のイオンを激減させる。ガスフローの直前であっても、化学的な効果のために、イオンはすぐにトラップを過疎化することができる。イオンが中性分子と衝突し、一時的に安定な錯体を形成する場合には、この新たな錯体が元のイオントは異なる高電界移動度特性を備えているため、この錯体はFAIMS捕捉領域からドリフトすることもできる。
【0083】
(FAIMS−Rx−プロトタイプの他のバージョン)
大気圧FAIMSイオントラップの主な目的は、空間内のある位置にイオンを収集したり、閉じ込めたり、イオンの濃度を増大させることである。上記のパラグラフで記載した装置を用いて、これを実現することができる。このような装置の簡単な変形を数例、予見することができる。
(1)内部電極の端の幾何形状は球形であると仮定されているが、表面は円錐またはこのような形状の一部変形であってもよい。上述したイオンのFAIMS集束およびイオンのFAIMS捕捉を形成するために必要である不均一電界を確立するように、形状は選択される。
(2)外部電極の内部の幾何形状を変更してもよい。示された例の大部分は、機械的な製作の簡単さのために、簡素な円筒幾何形状である。不均一表面は製作しにくいが、場合によっては、特に内部電極の外径が約4mmを超えている場合には好都合である。
(3)内部電極および外部電極は、中心の長手方向の軸に平行である壁を備えているように示されていたが、これは不可欠なことではない。内部電極の外径は、その長さに沿って線形または非線形に変化してもよい。外部電極の内径は、その長さに沿って変化してもよい。このことは、たとえば、図3A、図3B、図14A、図14Bおよび図14Cに示されているように、電離源が内部電極の放射方向の距離の中に位置する幾何形状において好都合である。
(4)本願明細書に図示されている装置に示されているガスフローは、2つの独立した識別可能な用途に作用する。第一に、電界が領域の長さに垂直に作用しているため、イオンを装置の長さに沿って伝搬するのを助けることができないことから、ガスフローは、FAIMSアナライザ領域の長さに沿ってイオンを搬送するために作用する。第二に、ガスフローは常に、FAIMSアナライザ領域およびFAIMS捕捉領域を清浄、すなわち相対的に気相の水および化学汚染物質がない条件に保つように配置される。可能である場合には、中性物質および液滴がFAIMSアナライザ領域に入らないようにするために、イオンは、FAIMSアナライザ領域に入る前に、上流への向流を流れているガスまで運ばなければならない。上述した大気圧3次元イオントラップの実施形態では、ガスフローの1つの機能または別の機能をとって代わることが可能であってもよい。たとえば、電気手段によって、FAIMSの長さに沿ったイオンの運搬を実現することができる。たとえば、電気勾配がその長さに沿ってイオンを運搬するように作用するFAIMSアナライザの長さに沿って確立される場合には、これは上記のガスフローの機能の1つにとって代わる。電気勾配は、2つの方法で形成されることができる。第一に、各セグメントに印加されるわずかに異なる一定の直流電圧を用いて、装置の一方の端から他方の端まで別の電圧向米を形成するような方法で、内部電極および/または外部電極を分割することができる。装置が、イオン集束または捕捉状態を維持するために必要であるDVおよびCVおよび幾何形状状態を同時に維持することができる場合には、これは完全に実現可能である。第二に、装置の長さに沿って電圧勾配を確立させることができるような方法で、1つ以上の電極を製作してもよい。これは、半導体層で被覆された絶縁電極を用いて、実現されている。異なる電圧がこのような電極のそれぞれの端に印加される場合には、電極は抵抗装置のように作用し、電圧勾配はその長さに沿って存在する。電圧勾配は、半導体層の塗布に応じて、線形であっても非線形であってもよい。以下に記載されるイオン運動のモデル化のための方法によって、プロトタイプを構築することなく、このようなアプローチを評価することができる。モデル化は、このような装置が実現可能であることを示した。
(5)上記の説明において、非対称波形が印加される電極は、大部分の場合、いわゆる「内部電極」であった。「外部電極」は内部電極を包囲し、一般に、VFAIMSに維持される。ある例(図6Aおよび図6B)において初めの方で説明したように、非対称波形は、「外部電極」に印加された。DVおよび/またはCVを内部電極に印加する理論的な根拠はない。本開示に記載される構成のすべてにおいて、非対称波形および/またはオフセットCVを、内部電極または外部電極のいすれにも印加することができる。図14A〜図14Cに示されている場合も含めて、場合によっては、波形を外部電極に印加することに大きな利点がある。
(6)DVおよびCVは、同一の電極に印加される必要はない。たとえば、−11VのCVを実現するために、−11Vが内部電極に印加されるか、または+11Vが外部電極に印加されるかのいずれかである。厳密には、同一の論理をDVに適用する。イオンを捕捉するための状態が、(内部電極に印加された)DV2500Vを必要とする場合には、DV−2500Vが外部電極に印加されるときと厳密に同一の挙動が期待され得る。図6Aおよび図6Bに示されるハードウェアについて記載しているテキストに説明されたように、電圧の極性においてこのような変化が必要であることが理解された。したがって、図6Aおよび図6Bに関するテキストは簡単にし、波形DVおよびCVが内部電極に印加されたかのごとく極性を表示した。他の節に記載される装置の中で比較を簡単にするために、このようなことを行った。
(7)質量分析計サンプラコーンの幾何形状については、説明されていない。たとえば、図11A〜図11Cに示されるサンプラコーン18は、(簡単化のため)FAIMS装置に面する側面に平坦であるように描かれている。錐体の先端にオリフィス自体がある隆起した(とがった)前面を有するサンプラコーンの使用によって得られる利点が、いくつかある。イオンは一般に、とがった面に向かって引付けられ、格子とオリフィスとの間の空間を横切るイオンの伝搬を改良することができる。
(8)印加される非対称波形は、電圧、位相のずれおよび極性における小さな過渡変化を利用して作動されていもよい。たとえば、中心の幾何形状においてDV2500VおよびCV−11Vを用いて、イオンが集束または捕捉される場合には、DVの短い(ms)変化がイオン分離能力に影響を及ぼす。DVの電圧はmsの時間で変更することができ、極性はmsの時間で反転されることができ、高電圧と低電圧の相対時間は短い時間で変更されることができる。これが限界に近い方法で集束または捕捉されるイオンがFAIMSから拒絶される状態を形成する。たとえば、ほぼ同一の高電界イオン移動度特性を有する2つのイオンが、FAIMSアナライザ領域またはFAIMS捕捉領域に共存する。一方のイオンを選択的に除去するためにステップが設けられない限り、両方のイオンが検出器(電位計または質量分析計)に到達する。DVまたはCVに対する小さな電圧の変化、電圧および波形の位相における過渡変化は、一方のイオンを排除することを助ける可能性がある。
(9)出口格子電極はさまざまな形態を取ることができ、場合によっては不必要な場合もある。出口格子電極は、(1)内部電極の周囲に電界を完成させて、イオントラップが形成されること、(2)同時にこの領域を実質的に妨げられることなくガスフローが通過することができる点を除き、(1)に記載された電極を形成することおよび(3)内部電極に印加される電圧に変更を加えることなく、トラップを形成および無効にするための機構を実現することを含めて、3つの機能を担っている。明らかに、装置の他の部分によって、これらの機能を実現することができる。たとえば、図9において、イオントラップは、内部電極に印加される電圧によって制御される。イオントラップを排除するために使用される抽出電圧は、外部電極または内部電極に印加されてもよい。さらに、質量分析計のサンプラコーンが実質的にFAIMSの外部シリンダの端付近に配置される場合には、格子を完全に排除することができる。これは、図13に示された例である。
【0084】
(FAIMS−E、FAIMS−MS、2次元イオントラップおよび3次元イオ
ントラップにおけるイオン運動のモデル化)
FAIMSにおけるイオン運動は、実験および理論を合せて考慮することによってモデル化された。第一に、図15に示されるFAIMSで使用される2本のシリンダを考える。電圧が内部シリンダに印加されるとき、2本のシリンダの間の任意の点における電圧は、以下の公式:Vr=C(In(r/b)/In(a/b))を用いて計算されることができる。式中、(rは2本のシリンダ間の空間になると仮定すると、)Vrは放射方向の距離rにおける電位であり、Vは内部電極に印加される電位であり、内部シリンダの外径は「a」(cm)であり、外部シリンダの内径は「b」(cm)である。外部電極は電気的に接地され、すなわち0Vが印加される。(FAIMSアナライザ領域と呼ばれる)環状空間は、a〜bの放射方向の距離になる。これが、図15に示されている。管の間の電圧は線形ではなく、(電圧の導関数、すなわちdV/drである)電界もまた非線形である。(位置rにおける)管の間の電界は、E=−V(1/r In(a/b))であると示されることができる。式中、外部電極が0Vである場合に、Eは電界(V/cm)であり、Vは内部電極に印加される電圧である。変数a,b(cm)は、上記で定義され、図15に示される。
【0085】
大気圧の電界におけるイオンの運動は、v=KEによって表される。式中、vはイオンのドリフト速度(cm/sec)であり、Eは電界(V/cm)である。条件の所与の設定に関して比例の「定数」は、「イオン移動度定数」Kと呼ばれる。しかし、条件におけるさまざまな変化は、Kの値を変化させることができることを留意されたい。電界におけるイオンの速度を変化させる明白な条件は、(1)温度および(2)ガス圧を含む。上述したように、Kも電界と共に変化する。
【0086】
ここには示されていないが、図3Aおよび図3Bに示される改良型FAIMS−E10計器を用いて、高電界におけるイオン移動度(上記の説明ではKhと呼ばれる)を推定することができる。図16は、高電界におけるあるタイプのイオン(H2O)nH+のイオン移動度における変化を示している。図16における「ターム」なる語は、非対称波形の低電界部分中のイオン移動度に関する補正係数の周期的な改良を指す。実際には、DV3000Vの波形(たとえば図4)中、波形の低電圧部分は約−3000/2Vすなわち−1500Vである。このような低電圧であっても、イオン移動度が図1の左軸で示されるその「低電界」の値であると仮定されることができないほど、電界は十分に高い。これは、きわめて高い電界におけるイオン移動度比Kh/Kの最適推定値となるような周期的なほほ腕反復されることができる補正を必要とする。図17は、図16に示される曲線を作成するために使用された高電界移動度を計算するために使用された元のデータの一部を示している。詳細についてはここでは述べない。また、実際の非対称は計が図4(波形1)に示されているのに対し、計算結果は矩形の非対称波形(たとえば、図2のV(t))に基づいていることを留意されたい。
【0087】
(H2O)nH+のイオン移動度における高電界の変化が、図16に示される曲線によって表されていると仮定すると、図15に示された円筒幾何形状の中のこのイオンの軌跡を計算することができる。第1次近似の結果として、Rfinal=sqrt(2tK(V/In(a/b))+Rinitial2)で示すことができる。式中、Rfinalは長さtの時間後のイオンの放射方向の位置であり、Rinitialは時間t前の放射方向の位置である。sqrt()は平方根の関数である。また、イオンが図15に示された放射方向の距離a,bの間で時間のすべてを費やしている場合には、この式を適用するだけである。さらに、電界がRinitialとRfinalとの間で大きく変化しない場合には、式は最終的な放射方向の距離の有効値を与えるだけである。内部電極に印加される電圧はVであり、イオン移動度はKである。この計算のために、Kは軌跡の距離(イオンが移動する距離)に関して一定であると仮定されるが、Kは図16に示される高電界挙動から計算されることを思い出されたい。たとえば、イオンが、(非対称波形の印加中、)内部電極に印加される電圧が約10,000V/cmの高電界を生じるある選択された時間に距離rに位置する場合には、イオン移動度は約K*1.01であると計算される。1.01は図16から選択された値である。Kの値は室温における(H2O)nH+に対して約2.3cm2/V−sである。この移動度Kは、FAIMS計器を用いてたやすく決定されることはできないが、従来のイオン移動度分析法(IMS)の文献で見つけられることができる。
【0088】
図18A〜図18Dは、図16の曲線によって示された高電界特性を備えたイオンの軌跡を示している。図18Aは、図2に示されたタイプの印加される非対称波形によって生じたごくわずかの振動の動きを示している。
【0089】
表示のために、図15に示される円筒幾何形状は、外部半径0.1cmの内部シリンダおよび内部半径0.3cmの外部シリンダを備えていてもよい。このことは、軌跡を生じさせる計算のすべてがa=0.1cmおよびb=0.3cmで行われたに違いないことおよび軌跡がこのような極値を超えて広がって葉ならないことを意味している。図18Aに示されるイオン軌跡は、初めに放射方向の距離0.11cmにあったイオンを用いて計算された。これは、図18Aの最も左側の点として示されている。イオンは、印加された波形の結果として振動し、このことは,イオンの放射方向の距離における増減として示されている。(図を明確にするため、)FAIMSアナライザ領域にイオンを搬送するガスフローが、図18Aの時間(x軸)の関数として軌跡を示すことによって、シミュレーションされる。軌跡のシミュレーションの場合に印加された電圧は、CV=0V、DV=2500V、周波数=83000Hzであり、低電圧対高電圧の相対比(図2におけるt1およびt2)は、5:1であった。図18Aは、波形の低電界および高電界部分中の厳密に同一の距離を移動するわけではなく、イオンが「正味の」ドリフトを経験することを示している。「正味の」ドリフトは、(図18Aの場合には)放射方向の外側へのイオンの一般的な運動を指す。シミュレーションは数回反復され、結果は図18B〜図18Dに示された。波形およびイオン運動の振動数が図18Bでははるかに高い点を除き、図18Bは、図18Aと全く同一の方法でシミュレーションが行われた。これは、結局のところイオンがFAIMSアナライザ領域を横切って延在し、放射方向の距離0.3cmの位置で、図18Bの図の上端に位置する外壁と衝突することを意味している。したがって、図18Aおよび図18Bの(H2O)nH+イオンの運動のシミュレーションを行うために使用されたDVおよびCVの状態は、上述した物理的な幾何形状を有するFAIMSにおける集束または捕捉には適していないと思われる。イオン蓄積に適切であると思われる状態は、図18Cに示されている。状態は、CV=−11V、DV=2500V、周波数=83000Hzであり、低電圧対高電圧の相対比(図2におけるt1およびt2)は、5:1である。イオンの外部へのドリフトが内部電極への負の直流電位の印加によって妨害されると予測されるため、これは、図18Bから予測され得る。図18Cは、イオンが外側への放射方向の距離0.1cmの開始位置から正味のドリフトを経験するが、すぐにドリフトが停止し(イオンは、非対称波形の印加のために振動することを留意されたい)、イオンは内側へも外側へも進まないことを示している。図18Dは、イオン運動のためのものと放射方向の開始位置が約0.26cmであるように選択された点を除き、図18Cと同一の状態の場合に計算されたイオン軌跡を示している。イオンは内部電極へのドリフトを経験し、図18Cに示されたイオンと全く同一の放射方向の距離で安定する。これは、イオンがその開始位置に関係なく、イオン集束領域に来ることを意味している。したがって、FAIMSの集束特性はイオン軌跡の計算によって実証される。
【0090】
イオンの最適集束の放射方向の位置は、イオンの高電界移動度特性、DVならびにCVおよびFAIMSアナライザ領域の幾何形状に左右される。上記に示された例では、このイオンの高電界イオン移動度の挙動がすでに確立されているために、(H2O)nH+イオンが選択された。さまざまなFAIMSハードウェア幾何形状に関して、(H2O)nH+イオンの場合のDVおよびCVの最適な組合せを計算することができる。上記のパラグラフで述べた原理に基づいて、イオンの軌跡を計算することができる。
【0091】
図19A〜図19Dは、図11A〜図11Cに示された幾何形状、すなわちDAIMS−R3−プロトタイプ(3次元大気圧イオン捕捉装置の1つ)と呼ばれる装置に関するイオン軌跡を示している。幾何形状は単純な円筒ではないため、イオン軌跡の計算は一層複雑である。計算は、2つの独立な計算から構成される。第一に、装置の機械的な幾何形状が、次に構成要素の周囲の電界の強度を計算するコンピュータプログラムに入力される。これは、「緩和」と呼ばれる方法(ヤコビ反復リチャードソン法)によって行われ、物理空間のすべての点における場の一連の反復近似を含む。所与の点における場は、その周囲の各方向における点の「平均」として計算される。これは、空間におけるすべての点に関して反復される。一旦、空間全体のすべての点に関してこの計算が終了した後、今度は前の計算からの推定値を用いて、プロセスが再び第1の点から開始される。これは1次元で以下に示される。(「緩和」計算が始まる前に、)以下は仮想の1次元世界のいくつかの隣接点における電圧を仮定する。アレイの最も左の点は100Vの電極であり、最も右側の点は100Vの電極である。100Vである電極以外のすべての点が0Vであると仮定することから始まる。アレイは、次の行に示されている:
【0092】
(表1)
100 0 0 0 0 0 0 0
すべての点が隣接点の平均となるようにした場合の結果を考える:
100 50 0 0 0 0 0 0
これを反復する:
100 50 25 0 0 0 0 0
100 62.5 25 12.5 0 0 0 0
100 62.5 37.5 12.5 6.25 0 0 0
【0093】
この計算は、データ点の変化が生じなくなるまで、または少なくともデータアレイの変化が特定の誤差の制限内となるまで反復されなければならない。計算の2次元および3次元バージョンも類似である。
【0094】
ラプラスおよびポアソンの式を計算によって解決するための「緩和」法および「逐次加速緩和」法については、流体力学の大部分のテキストブックに記載されている(M.B.Abbot and D.R.Basco,Computational Fluid Dynamics,An Introduction for Engineers(Longmans,London,1989),第8章参照)。円筒幾何形状に関する計算は、放射方向の点が空間内の点の新たな値を計算するために使用される「平均」において、等しい重みを利用することができないという事実の小さな補正を含んでいなければならない。軸方向における(この円筒幾何形状の長さに沿って)点は互いに等価であるが、小さめまたは大きめの放射方向の次元における点は等価ではない。したがって、円筒幾何形状における点の平均のために使用される周囲の4点は重み付けが行われなければならない。2つの軸方向の点は同一であり、放射方向において内部の点および外部の点は互いから、かつ軸方向の点から独立に重み付けが行われる。しかし、「緩和」法を用いた電位の計算の全般的な方法は、あらゆる幾何形状に関して同一である。
【0095】
任意の幾何形状におけるイオン軌跡を決定するために必要な第2の計算は、電界が上述したように確立されていることが与えられている場合には、運動自体の計算である。軌跡は、イオン運動を時間における小さなステップに分類することによって計算される。時間における各ステップで、イオンの位置、電界、印加される非対称波形の位相などが決定される。(上記の(H2O)nH+に関して実証されたように、)時間に対する空間内の点における電界の強度から、高電界におけるイオン移動度が計算される。上述したように、イオン速度はv=KE(またはv=KhE)であると推定され、移動距離は距離=(速度)(時間ステップの持続時間)である。1つの時間ステップに関して移動した距離(cm)は、持続時間(sec)を乗じた速度(cm/sec)から決定される。新たなイオンの位置は、古いイオンの位置および時間ステップで移動した距離から計算される。今度は前の反復で計算されたばかりの新たなイオンの位置から始まり、この計算が繰返される。(波形の周波数および波形における高電圧および低電圧の相対時間が適切であるように、)一定に調整される非対称波形のために生じる電界の強度に関して、反復が繰返される。(単純な前後運動は運動をあまり明確に実証していないため、)イオンの運動を明確にする必要がある場合には、計算はまた、ガスフローの外部の力によるイオンの位置の調整を含んでもよい。
【0096】
図19Aは、図11A〜図11Cに示される幾何形状に関して、上述した方法において計算されたイオン軌跡を示している。内部電極の外径は約2mmであり、外部電極の内径は約6mmである。これは、図18A〜図18Dに示された軌跡の計算に使用されたシリンダと同一の大きさである。状態は、CV=−11V、DV=2500V、周波数=83000Hzであり、低電圧対高電圧の相対比(図2におけるt1およびt2)は5:1、外部電極=0V、格子電圧=0Vであった。3つの電極は図19Aに示されており、図11A〜図11Cに示されたハードウェアに厳密に対応する。内部電極52は固体であり、図19Aの中心付近で、末端が球形52Tになる。上端および下端は外部電極53であり、図の左端は図11A〜図11Cに示される格子電極56である。イオン軌跡は、内部電極付近で始まり、人為的な(ガスフロー)水平運動が、図11A〜図11Cにおいて右から左へイオンを搬送するために加えられた。印加された非対称波形のためにイオンは振動し、2種類の正味の運動が図19Aで観測される。イオンは初めに内部電極52から離れるように移動し、次に電極からの距離が一定となる。これは、厳密には、放射方向の正味の運動がすぐにゼロとなる図18Cに示された状態である。イオンはまた、加えられた「ガスフロー」、すなわち人為的に強いられた長手方向の速度のためにドリフトする。イオンが内部電極52から一定の距離で電極に沿って進み、その湾曲部52Tをたどることを留意されたい。イオンは、加えられた人為的な軸方向の「ガスフロー」速度を用いても電極の終端52T付近の位置を離れない。イオンは、電極の終端52T付近で捕捉されるようになる。図19Bは、イオン軌跡が(図18Dのような)大きめの放射方向の距離から始まった場合の運動を示している。前に説明したように、イオンは電極の先端52T付近の3次元イオントラップを逃れることはできない。
【0097】
図19Cおよび図19Dは、図19Aおよび図19Bと同一の物理的な幾何配置を示しており、イオン軌跡は放射方向および軸方向において、類似の位置から始まる。状態は、CV=−11V、DV=2500V、周波数=83000Hzであり、低電圧対高電圧の相対比(図2におけるt1およびt2)は5:1、外部電極=0V、格子電圧=7Vであった。図19A〜図19Dの唯一の差は、後者の2つ(図19Cおよび図19D)が外部電極53に対して負の電圧である出口格子56を用いて計算したことである。このような状態の下で、イオントラップは解除され、イオンは格子56に向かって移動する。初めは、軌跡は、イオンがまず、使用されるDVならびにCVおよび幾何形状に関して、最適平衡点に向かって移動するような図19Aおよび図19Bに示されたものと同一の形態を取る。しかし、内部電極52の球形の終端52T付近では状態は維持されず、出口格子56の電圧がイオン運動を変更し、内部電極52から出口格子56に向かって(正に帯電した)イオンを引付ける。イオンが内部電極52の付近を離れ、出口格子56に接近するとき、格子56の電圧の吸引力も人為的に加えられる「ガスフロー」の軸方向の運動も、イオン軌跡の一因となる。また、イオンが内部電極52から離れるように移動するときに、非対称波形のために生じるイオンの「振動」の大きさが著しく減少することも留意されたい。
【0098】
3次元トラッピングは、図19Cおよび図19Dでは実現されていないが、示されているイオンの挙動はきわめて有用であると思われる。妥協した状態、すなわちトラッピングにきわめて近い状態であるがトラッピングがない状態で作動する場合には、イオンは、電極の球形の端52Tの曲面をたどり、中心軸に向かって移動する傾向がある。イオンが完全に捕捉されない場合には、イオンは電極の端52Tから本質的に逃れるが、内部電極52の中心軸に沿って放射方向の距離が小さい位置に閉じ込められる。イオンの流れは真空室に導くサンプラコーンオリフィス18Aに向けられる場合には、信号の感度は、この「部分集束」が生じる状態で大いに向上される。電極の球形の終端52Tの挙動を向上させているこの信号が、利用されるFAIMSの唯一の部分であるFAIMSの市場バージョンを予測することは可能である。たとえ「3次元トラッピング」がそれ自体を使用しない場合であっても、上述したFAIMSの3次元イオントラップの実施形態のすべては、この信号を強化するために使用されてもよい。
【0099】
(FAIMSの内部電極の球形の終端におけるイオン集束を用いた信号の強化)
図19E〜図19Iは、内径約6mmの円筒外部電極93および外径約2mmの内部電極92からなるFAIMSを用いて、イオン軌跡の計算の結果を示している。環状のFAIMSアナライザ領域94は、装置の側面に沿って幅約2mmである。内部電極92は、サンプラコーン18の平坦な前面の電極から約2mmである球形92Tで終わる。サンプラコーン18の中心で、真空システムに導く小さなオリフィス18Aがある。図19Eにおいて、サンプラコーン18は0V、すなわちVOR=0Vに維持される。イオン軌跡のシミュレーションで使用される状態が、図19Eに表されている。VORがそれぞれ、−2.5V、−5V、−7.5Vおよび−15Vに変化している点を除き、図19F〜図19Iは、図19Eと厳密に同一の方法で調整される。このように低く印加されたVORは、3次元捕捉領域からイオンを抽出する効果がある。この抽出が通常の「捕捉」状態(すなわち、不明確なイオン捕捉)にきわめて近い電圧で生じる場合には、イオンは内部電極92の中心軸付近に集束される傾向があるため、出口オリフィス18Aに極めて近い領域に集束される。検出される信号強度は、中心軸にできる限り近い位置にイオンを閉じ込めるVORで、最大になる。
【0100】
図に示されていないが、サンプラコーン18の変更によって、イオンビームの「小型化」へのさらなる改良を実現することができる可能性がある。これは、印加された電圧を備えた余分のレンズを追加すること、またはサンプラコーン18の前面の形状を変更することを含んでもよい。サンプラコーン18に隣接するシリンダの端に、外部FAIMSシリンダ93の内面を「形成する」ことによって、さらなる改良が行われてもよい。図9Aおよび図9Bに示される捕捉実験の前のバージョンは、内部電極の球形の端において外部シリンダと内部電極との間の(ほぼ)一定の距離を維持するために、湾曲した内面を有する外部シリンダを備えた装置が使用された。
【0101】
いくつかの実験変数が、上述した集束に影響を及ぼし、図19GにおけるVOR=−5V付近で最適となることが示されている。実験変数には、ガスフロー速度、内部電極92の球形の端とサンプラコーン18との間隔および印加されるDVならびにCVが挙げられる。検出されるイオン強度の最適化は、このような変数に大いに左右されることが予測される。ガスフローは、少なくとも2つの因子、すなわちFAIMSアナライザ領域94の長さから捕捉領域にイオンが流れ込む速度および内部電極の端における乱流を制御する。図19E〜図19Iに示されるシミュレーションは、ガスの乱流およびイオンの拡散を考慮していない。集束作用の効果を得るためには、「捕捉領域」へのイオンの伝搬速度を最大にするト同時に、乱流によるイオンの消失を最小限に抑えるガスフローが必要である。図19E〜図19Iに示される軌跡の計算はまた、x軸に平行でない方向へのガスフローも考慮していない。実験システムが、たとえば、図13Aに概略的に示されるシステムにおいて生じるようなFAIMS捕捉領域から放射方向の外側に流れるガスを含む場合には、最大イオン強度の位置は実験によって決定されなければならないと思われる。モデル化は、このイオン集束が、最適な実験状態の一定の設定における感度を向上することができることを示唆するために作用する。
【0102】
いくつかの可能なハードウェア設計によって、図19E〜図19Iに示される効果を実現することができる。これらの実施形態は、一定の基本的な構成要素を必要とする:
(1)電極は、円筒形または球形をはじめとする曲面を備えていなければならないが、このような種類の1つに単純に収まらない面を含んでもよい。捕捉または集束のための状態を確立するために作用するような独特の形状の例には、図20に示されるヘアピンターンにある程度似ている湾曲部を有する円筒ロッドがある。適切なガスフローを用いて、集束領域を形成することができる。
(2)イオンは、ガスフローまたは電界勾配によって、捕捉領域に搬送されなければならない。これらは印加される電圧、特にDVおよびCVに全く関係なく機能するため、FAIMSの前述の実施形態はすべて、ガスフローを利用する。
【0103】
(イオン集束およびイオン捕捉を理解するための質的に簡素な方法)
イオンがFAIMS領域を通って伝搬されるDVおよびCVの最適な状態が、存在する。図17に戻って参照すると、2100V〜3000Vの範囲にある一連のDV値におけるCVの設定の反復曲線が示されている。一部のイオン(この場合には、(H2O)nH+)では、ピーク最大値の位置は、補償電圧CVがFAIMSアナライザの壁に向かう正味のイオンドリフトを平衡に保つのに十分なほど強い状態を表す。したがって、(H2O)nH+イオンが、CVおよびDVの複数の理想的な組合せでFAIMSアナライザ領域を通って伝搬されることができることを考える。イオンが理想とは異なるCVおよびDVの組合せを経験する場合には、イオンは面に衝突する。(H2O)nH+に関するCVおよびDVの理想的な組合せを示している作図が、図21に示されている。イオンが「正味の」運動を経験しないため、DVおよびCVの理想的な組合せは、「平衡である」と呼ばれてもよい。図21に示される作図は、印加された電圧DVおよびCVではなくむしろ、電界(DVに基づく)の観点からこの「平衡」状態を示している。さらに、図における各データ点は、図17のトレースに示されるように十分に収集され、実験によって得られたDVおよびCVの組合せである。各点は、DVの設定に関して伝搬の最大効率(図17における各トレースに示されたピーク最大値)を備えたCVである。FAIMS−E10の環状のFAIMSアナライザ領域14は、幅約2mmであるため、DV2000Vの電圧は、約2000/0.2=10,000V/cmの電界を生じる。同様に−10Vの印加されたCVは、約−10/0.2=−50V/cmの電界を生じる。図21のx軸およびy軸は、電界(V/cm)(符号なしの絶対値)として表示される。
【0104】
図21はまた、このデータに対する3次回帰に最も適合する場合のトレースを示している。この回帰は、実験によって決定された点の間に入る条件下のCVおよびDVの最も適切な組合せを決定することを助ける。データへの適合は、高いDV電界(最大に印加される電圧で、DVの印加から生じる電界)における最後の点に関して現れていることのみを示している。非対称波形の一部が低い逆の極性の時間を備えているため、「DV電界」が断続的であることを留意されたい。この最大値は、この説明のために、「基準点」として使用される。
【0105】
以下の問題を検討する。イオンがFAIMSアナライザ領域の中心(放射方向)に位置していると仮定し、イオンが所与のハードウェアの幾何形状に関して、最適のDVおよびCVにおける平衡状態にあると仮定する。このことは、CVおよびDVのために生じる電界が直接的に図21に描かれた線となることを意味している。本願明細書におけるFAIMS図のすべてに示された円筒幾何形状は、FAIMSアナライザ領域において放射方向に沿って一定でない電界を有する。(電界は、特定の装置の幾何形状に応じて、長手方向において一定であっても一定でなくてもよい。)電界が一定でない場合には、図21の曲線によって示される最適状態は、FAIMSアナライザ領域のいずれの場所でも維持されるのであろうか?
【0106】
図22Aは、図3Aおよび図3Bに示される改良型FAIMS−E10のFAIMSアナライザ領域14を放射方向に横断するDV(2500V)による実際の電界を示している。図22Bは、FAIMS−E10のFAIMSアナライザ領域14を放射方向に横断して得られたDV(2500V)およびCV(約―13V)のために生じる両方の実際の電界を示しているが、図22Aとは異なり、電界は、図21で使用された方法で互いに対して作図されている。物理的な放射方向の位置の一部に対応する点が、図に表されている。図22A〜図22Bの右側は、電界が最も高く、放射方向の距離0.7cmにおける内部電極12の表面に対応する。同様に、図22Bの左側が外部電極13の内部端に対応する。
【0107】
図21および図22Bを比較する。FAIMS実験中、DVおよびCVが内部電極に印加される。DV電界は一定ではなく、むしろ小さな範囲の値(図22B、x軸)の中に収まる。同様に、この小さな範囲の値は、図21によって表される電界の範囲のごく一部にすぎない。図22Bの曲線は、図22Cを表すために、図21に示されたグラフに重ねることができる。図22Cは、FAIMSアナライザ領域内部の電界の理想的な物理状態は、DVおよびCVの平衡を備えた点にすべて対応するというわけではないことを示している。「実際の」状態の短い曲線が異なる放射方向の距離の設定における状態を反映していること(すなわち、短い曲線の最も左の点が外部電極付近の0.9cmの位置の電界の状態であり、最も右の点が内部電極表面付近の物理的な位置である)を思い出されたい。当然のことながら、DVおよびCVのこのような「選択された」組合せにおいて、FAIMSアナライザ領域の中心に対応する少なくとも1つの点に、イオンが内部電極へも外部電極へも移動しない(正味のドリフト)いわゆる平衡が存在する。また、FAIMSアナライザ領域における「実際の状態」に関して示された線全体が、任意の点で最適平衡曲線と交差しないDVおよびCVの組合せが多く存在することも留意されたい。たとえば、DVが図22Bに示されるDVの50%まで低下された場合には、図22Cにおける「実際の状態」に関する短いトレースは、「DV電界」のさらに低いx軸の値になるために、x軸に沿って左に移動する。CV電圧が変更されない場合には、図22Cにおける短いトレースは「最適」平衡トレースと交差せず、イオンはFAIMSを通って伝播されることができない。
【0108】
図22Cにおける2本のトレースの比較はまた、さらなる問題を1つ生じる。「最適」トレースおよび「実際の」トレースが交差する放射方向の距離にあるイオンが、放射方向において「正味の」運動を経験しない場合、すなわち平衡点にある場合には、大きめの放射方向の距離および小さめの放射方向の距離にあるイオンの挙動はどのようなものであろうか?イオンは正味のドリフトを経験しなければならない。図22Cに示された状態では、交差点より放射方向の距離が大きいイオン、すなわち交差点の左にあるイオンは、交差点に向かって、すなわち放射方向の距離が小さくなる方にドリフトする。放射方向の距離が小さいイオンはまた、交差点に向かって、すなわち放射方向の距離が大きくなる方にドリフトする。「平衡」点または集束点(図22Cにおけるトレースの交差点)以外の放射方向のすべての位置からのイオンが、この集束点に向かって移動する場合には、装置は、上述したFAIMSイオン集束特性を有する。運動が発散する場合、すなわち「平衡」点から離れる場合には、イオンはFAIMSを通過することできない。モード1(P1、正のイオン)において、DVが正、CVが負の極性である(CVおよびDVは内部電極に印加される)場合には、イオンは集束点に向かってドリフトする。このような極性の値の両方が反転する場合には、イオンの運動(タイプA、図1)は、収束せずに発散する。これが、2つのタイプのイオンがFAIMSにおいて自動的に分離される理由である。これが、モード1およびモード2のスペクトルが常に異なり、独立したスペクトルとして常に考慮されなければならない理由である。P1で生じるイオン(第1次近似)は、P2タイプのスペクトルには現れない。逆もいえる。同様のことがN1およびN2タイプのスペクトルにも適用される。
【0109】
ここで、図23を参照すると、電界を用いたFAIMSにおけるイオンの伝搬を予測することが可能である。可能な実施形態は、JavaheryおよびThomson(J.Am.Soc.Mass Spectrom.1997,8,697−702)が、通常印加される高周波高電圧交流電圧を用いて作動している4重極ロッドの設定の長さに沿ってイオンを引付けるための長手方向の電界を形成するために区分された高周波限定の4重極を用いたほぼ同様の方法で区分されるFAIMS装置を必要とする。区分される4重極ロッドまたはFAIMSのいずれかの場合のセグメントも、他の一定でない電界に重ねられる電解を形成するわずかに異なる直流電位に維持される。これを実現するために可能な方法が、図23に示される。
【0110】
同様の概念に基づいて、区分されたFAIMSにおける電界のみを用いた3次元トラッピングのための装置を開発することができ、以下に記載される。
【0111】
(区分されたFAIMSにおける電界のみを用いた3次元トラッピング)
3次元トラップのこの区分されたFAIMSバージョンは、捕捉構成要素の1つとしてガスフローを使用しないため、新奇である。前述したように、内部電極の球形の端におけるイオンの捕捉において、イオンは、内部電極の端に向かってイオンを収集するガスの運動、および非対称波形によって生じるFAIMS収束作用の組合せによって保持される。そのような装置では、ガスフローの停止時には、イオンは、FAIMS内部シリンダの長さに沿って戻り始める可能性がある。この移動のための推進力は、イオンが収集されるゾーンにおいていわゆる空間電荷を生成する拡散およびイオン同士の斥力である。
【0112】
区分されたFAIMSイオントラップの本説明において、非対称波形、および区分されたFAIMS装置の長さに沿ったいずれかの方向へのイオン運動を防止する隣接セグメントに印加される緩やかに増大する直流電圧の組合せのために、イオンは完全に保持される。ガスフローの停止は、イオントラップに捕獲されたイオンにわずかに影響を及ぼすだけであり、たとえガスフローがゼロであっても、イオンが逃げることはない。3次元トラッピングのこの新たなバージョンについて、さらに詳しく考える。
【0113】
図24は、FAIMS装置110の区分された円筒形の外部電極113および内部電極112を示している。FAIMSの高電圧非対称波形は、内部電極112に印加される。DVならびにCVの適切な組合せおよび円筒幾何形状を与えると、イオンはこのようなシリンダ112,113の間に収束される。正常作動において、セグメント112Aまたは113Aはすべて、同一の電圧である。すなわち、内部電極112が1つの導体であり、外部電極113も1つの導体である。シリンダの間に集束されることになるあるイオンに関する通常の状態は、DV=2500VおよびCV=‐12Vであると仮定する。これは、図24に示された状態である。電極が区分されていない場合には、外部電極は、たとえば0Vである。同様に、内部電極は1つの状態、たとえば−12Vのオフセット補償電圧を備えた非対称波形DV=2500Vだけである。このような状態の下で、イオンがガスフローによってシリンダ間の環状空間に搬送される場合には、イオンは流れているガスによって、FAIMSアナライザの一方の端から装置の他方の端まで搬送されて長手方向に進み、同時にある放射方向の距離で内部電極112と外部電極113との間に集束される。
【0114】
さらに図24を参照すると、内部電極112および外部電極113が112A〜112E、113A〜113Eに区分されると、この状況は実質的に変化する可能性がある。外部電極113A〜113Eに印加される新たな直流電圧がすべて0Vであり、内部電極112A〜112Eに印加される新たな直流電圧がすべて0Vである場合には、上記のパラグラフで述べた状態に戻り、3次元トラップは存在せず、シリンダ間で2次元集束のみが生じる。次に、内部電極および外部電極の中央の電極112C,113Cが最も低い電圧を印加されるように、一連の新たな小さい直流電圧がFAIMS装置110の各セグメント112A〜112E、113A〜113Eに印加されると想定する。しかし、外部電極113に印加される各電圧は、内部電極112に印加される同一の電圧(およそ)によって調和されなければならないことを留意されたい。このことは、+5V余分に外部電極の第1のセグメント113Aに印加される場合には、+5Vが内部電極の同様のセグメント112Aにも印加されなければならないことを意味している。このようなセグメントがすでに印加された−12Vの補償電圧を備えている場合には、そのセグメントにおいて−7Vの正味の直流電圧を得るために新たな+5VがそのCVに印加される。(図において)中央のセグメント112C,113Cが最も低い直流電圧が印加されるようにするために、このアプローチが他のセグメント112B〜112E、113B〜113Eに電圧を印加するために使用される。このことは、この装置における任意の場所で捕獲された正のイオンが、最も低い電圧領域、すなわち中央セグメント112C,113Cの内部電極と外部電極の間に来ることを意味している。正常なFAIMS状態は各セグメント112A〜112E、113A〜113Eの中で適用されるため、すなわち内部電極がDV=2500Vの非対称波形を備え、そのセグメントの中で、内部電極112に印加される直流と外部電極113に印加される直流との差が引き続き12V(この例では必要な補償電圧)である場合には、イオンは内部電極112と外部電極113との間の環状空間において通常の方法で集束される。このFAIMSの長さに沿ったガスの流れ(1L/minの低いガスフロー)は、このトラップの中央セグメント112C,113C内部の空間に位置するイオンを除去することができない。イオンを除去するため、(図において約+5Vの)直流電位井戸を増大しなければならない。高いガスフローかつ空間電荷が高い高イオン密度で、この除去を実現することが可能であると思われる。しかし、事実上、完全に電気を帯びている捕捉領域は存在し、イオンは電界によってのみ適切な位置に保持される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
規定された3次元空間内でイオンを選択的に集束し、前記イオンを捕捉するための装置であって、
a)イオンを生成するための少なくとも1つの電離源と、
b)使用中に非対称波形電圧、直流補償電圧および直流セグメントオフセット電圧を供給することができる電気制御装置への接続のために、第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組の間の空間によって規定されるアナライザ領域を含み、前記第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組のそれぞれがセグメントを形成し、前記セグメントが直に隣接する行に整列され、互いから電気的に絶縁され、前記アナライザ領域が前記電離源によって生成されたイオンの流れを上記のアナライザ領域に注入するためのイオン注入口を有する区分された高電界非対称波形イオン移動度分光計と、を含む装置。
【請求項2】
各セグメントの前記第1および第2の電極がその間に非一定の電界を設ける湾曲した電極本体を含み、前記イオンが前記アナライザ領域の前記湾曲した電極本体の間に形成される集束領域において選択的に集束される請求項1に記載の装置。
【請求項3】
各セグメントの前記第1および第2の電極がその間に形成される略環状空間と同軸に整列される外部および内部の略円筒電極本体を含み、前記環状空間が前記アナライザ領域を規定する各セグメントのそれぞれにおいて集合的に形成する請求項2に記載の装置。
【請求項4】
規定された3次元空間内で、イオンを選択的に集束し、前記イオンを捕捉するための方法であって、
a)イオンを生成するための少なくとも1つの電離源を設けるステップと、
b)第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組の間の空間によって規定されるアナライザ領域を設け、第1および第2の電極の間に非一定電界を形成し、第1および第2の空間を隔てた電極の前記複数の対応する組のそれぞれがセグメントを形成し、前記セグメントが互いに直に隣接する行に整列され、互いから電気的に絶縁され、前記アナライザ領域が前記イオン注入口と通信を行い、前記イオン注入口で前記電離源によって生成された前記イオンを前記アナライザ領域に注入するステップと、
c)前記セグメントのそれぞれにおいて、前記第1および第2の間隔を隔てた電極の1つに非対称波形電圧を供給するステップと、
d)前記セグメントのそれぞれにおいて、前記第1および第2の間隔を隔てた電極の1つに直流補償電圧を供給するステップであって、前記セグメントのそれぞれに供給される前記直流補償電圧が独立に調整可能であるようになっているステップと、
e)前記セグメントのそれぞれにおいて、前記第1および第2の間隔を隔てた電極のもう一方に直流セグメントオフセット電圧を供給するステップであって、前記セグメントのそれぞれに供給される前記直流セグメントオフセット電圧が独立に調整可能であるようになっているステップと、
f)前記非対称電圧、前記直流補償電圧および前記直流セグメントオフセット電圧の所与の組合せで、前記セグメントのそれぞれにおいて、第1および第2の電極の対応する各組の間で所望のイオンを集束するために、前記直流補償電圧および前記直流セグメントオフセット電圧を実質的に等しく調整し、それによって前記セグメントのそれぞれにおいて、第1および第2の電極の対応する各組に沿って、一定の直流電位を供給するステップと、を含む方法。
【請求項5】
イオンをセグメントの間に移動させるために、隣接セグメントの間に直流電位を形成するステップをさらに含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
低めの直流電位を有するセグメントが高めの直流電位を有する少なくとも2つのセグメントの間に設けられ、それによって、イオンが低めの直流電位を有する前記セグメントの第1および第2の電極の間にある集束領域で捕捉される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
隣接セグメントの間の直流電位が第1の方向において減少する勾配を形成し、前記集束されるイオンを前記第1の方向に移動させるようになっている請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の方向に実質的に対向する第2の方向へのガスフローを形成し、前記ガスフローを調整し、中間のセグメント前記集束されるイオンを捕捉するようになっているステップをさらに含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
質量分析計に注入するための電気噴霧電離によって生成されたイオンを脱溶媒し、選択的に集束するための方法であって、
a)液相中のサンプルからの2種のイオン種を含むイオンを生成するための少なくとも1つの電気噴霧電離源を設けるステップと、
b)少なくとも第1および第2の空間を隔てた電極の間の空間によって規定されるアナライザ領域を設け、前記アナライザ領域がガス注入口、ガス放出口、イオン注入口およびイオン放出口のそれぞれの少なくとも1つと通信を行うようになっているステップと、
c)前記電極の少なくとも1つに終端を設け、前記終端は、一部が前記イオン放出口に最も近い前記電極の前記1つの一部であり、前記終端は前記イオン放出口に比較的移動可能であり、前記終端は前記イオン放出口に向かって略放射方向の内部に前記イオンを指向するために形状であるようになっているステップと、
d)ガスフローを前記ガス注入口に形成し、前記アナライザ領域を通って、前記ガス放出口から放出されるようにし、少なくとも一部のガスフローが前記イオン源で生成されるイオンに対する向流であり、前記イオン注入口に入るイオンの前記フローの脱溶媒を行うようになっているステップと、
e)前記電極に接続可能であり、前記電極の少なくとも1つに非対称波形電圧および直流補償電圧を印加することができる電気制御装置を設けるステップと、
f)前記印加される非対称波形電圧の1サイクルの時間において、前記2種のイオン種の間の正味の変位における差を発生するために、前記非対称波形電圧を設定するステップと、
g)前記2種のイオン種の1つを選択的に集束するために前記補償電圧を設定し、前記選択的に集束されるイオンが前記アナライザ領域内に選択的に伝搬されるようになっているステップと、
h)質量分析計のサンプラオリフィスに注入するために、前記イオン放出口で前記アナライザ領域から前記選択的に伝搬されるイオンを抽出するステップと、を含む方法。
【請求項10】
ステップg)の前に追加的なステップ、すなわち
f1)前記2種のイオン種の1つの変位の一部を補償するために、前記直流補償電圧を変化させ、前記変位が前記印加された非対称波形電圧から生じ、測定が前記イオン放出口で伝搬されるイオンに対して行われ、前記伝搬されるイオンのための補償電圧走査を形成するようになっているステップと、
f2)前記伝搬されるイオンに対応する前記補償電圧走査におけるピークを識別するステップと、
f3)前記ピークの1つに対応する適切な直流補償電圧を決定し、前記2種のイオン種の所望の1つを分離および凝縮するようになっているステップと、を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップh)の前に追加的なステップ、すなわち
g1)おおよその捕捉状態を形成するために、前記非対称波形電圧、前記補償電圧、前記ガスフローおよび前記イオン放出口に対する前記終端の位置の少なくとも1つをさらに調整し、それによって、前記集束されたイオンが前記終端の曲面をたどりやすくし、前記イオン放出口に向かって略放射方向の内部に指向されるステップを含む請求項10に記載の方法。
【請求項1】
規定された3次元空間内でイオンを選択的に集束し、前記イオンを捕捉するための装置であって、
a)イオンを生成するための少なくとも1つの電離源と、
b)使用中に非対称波形電圧、直流補償電圧および直流セグメントオフセット電圧を供給することができる電気制御装置への接続のために、第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組の間の空間によって規定されるアナライザ領域を含み、前記第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組のそれぞれがセグメントを形成し、前記セグメントが直に隣接する行に整列され、互いから電気的に絶縁され、前記アナライザ領域が前記電離源によって生成されたイオンの流れを上記のアナライザ領域に注入するためのイオン注入口を有する区分された高電界非対称波形イオン移動度分光計と、を含む装置。
【請求項2】
各セグメントの前記第1および第2の電極がその間に非一定の電界を設ける湾曲した電極本体を含み、前記イオンが前記アナライザ領域の前記湾曲した電極本体の間に形成される集束領域において選択的に集束される請求項1に記載の装置。
【請求項3】
各セグメントの前記第1および第2の電極がその間に形成される略環状空間と同軸に整列される外部および内部の略円筒電極本体を含み、前記環状空間が前記アナライザ領域を規定する各セグメントのそれぞれにおいて集合的に形成する請求項2に記載の装置。
【請求項4】
規定された3次元空間内で、イオンを選択的に集束し、前記イオンを捕捉するための方法であって、
a)イオンを生成するための少なくとも1つの電離源を設けるステップと、
b)第1および第2の空間を隔てた電極の複数の対応する組の間の空間によって規定されるアナライザ領域を設け、第1および第2の電極の間に非一定電界を形成し、第1および第2の空間を隔てた電極の前記複数の対応する組のそれぞれがセグメントを形成し、前記セグメントが互いに直に隣接する行に整列され、互いから電気的に絶縁され、前記アナライザ領域が前記イオン注入口と通信を行い、前記イオン注入口で前記電離源によって生成された前記イオンを前記アナライザ領域に注入するステップと、
c)前記セグメントのそれぞれにおいて、前記第1および第2の間隔を隔てた電極の1つに非対称波形電圧を供給するステップと、
d)前記セグメントのそれぞれにおいて、前記第1および第2の間隔を隔てた電極の1つに直流補償電圧を供給するステップであって、前記セグメントのそれぞれに供給される前記直流補償電圧が独立に調整可能であるようになっているステップと、
e)前記セグメントのそれぞれにおいて、前記第1および第2の間隔を隔てた電極のもう一方に直流セグメントオフセット電圧を供給するステップであって、前記セグメントのそれぞれに供給される前記直流セグメントオフセット電圧が独立に調整可能であるようになっているステップと、
f)前記非対称電圧、前記直流補償電圧および前記直流セグメントオフセット電圧の所与の組合せで、前記セグメントのそれぞれにおいて、第1および第2の電極の対応する各組の間で所望のイオンを集束するために、前記直流補償電圧および前記直流セグメントオフセット電圧を実質的に等しく調整し、それによって前記セグメントのそれぞれにおいて、第1および第2の電極の対応する各組に沿って、一定の直流電位を供給するステップと、を含む方法。
【請求項5】
イオンをセグメントの間に移動させるために、隣接セグメントの間に直流電位を形成するステップをさらに含む請求項4に記載の方法。
【請求項6】
低めの直流電位を有するセグメントが高めの直流電位を有する少なくとも2つのセグメントの間に設けられ、それによって、イオンが低めの直流電位を有する前記セグメントの第1および第2の電極の間にある集束領域で捕捉される請求項5に記載の方法。
【請求項7】
隣接セグメントの間の直流電位が第1の方向において減少する勾配を形成し、前記集束されるイオンを前記第1の方向に移動させるようになっている請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の方向に実質的に対向する第2の方向へのガスフローを形成し、前記ガスフローを調整し、中間のセグメント前記集束されるイオンを捕捉するようになっているステップをさらに含む請求項7に記載の方法。
【請求項9】
質量分析計に注入するための電気噴霧電離によって生成されたイオンを脱溶媒し、選択的に集束するための方法であって、
a)液相中のサンプルからの2種のイオン種を含むイオンを生成するための少なくとも1つの電気噴霧電離源を設けるステップと、
b)少なくとも第1および第2の空間を隔てた電極の間の空間によって規定されるアナライザ領域を設け、前記アナライザ領域がガス注入口、ガス放出口、イオン注入口およびイオン放出口のそれぞれの少なくとも1つと通信を行うようになっているステップと、
c)前記電極の少なくとも1つに終端を設け、前記終端は、一部が前記イオン放出口に最も近い前記電極の前記1つの一部であり、前記終端は前記イオン放出口に比較的移動可能であり、前記終端は前記イオン放出口に向かって略放射方向の内部に前記イオンを指向するために形状であるようになっているステップと、
d)ガスフローを前記ガス注入口に形成し、前記アナライザ領域を通って、前記ガス放出口から放出されるようにし、少なくとも一部のガスフローが前記イオン源で生成されるイオンに対する向流であり、前記イオン注入口に入るイオンの前記フローの脱溶媒を行うようになっているステップと、
e)前記電極に接続可能であり、前記電極の少なくとも1つに非対称波形電圧および直流補償電圧を印加することができる電気制御装置を設けるステップと、
f)前記印加される非対称波形電圧の1サイクルの時間において、前記2種のイオン種の間の正味の変位における差を発生するために、前記非対称波形電圧を設定するステップと、
g)前記2種のイオン種の1つを選択的に集束するために前記補償電圧を設定し、前記選択的に集束されるイオンが前記アナライザ領域内に選択的に伝搬されるようになっているステップと、
h)質量分析計のサンプラオリフィスに注入するために、前記イオン放出口で前記アナライザ領域から前記選択的に伝搬されるイオンを抽出するステップと、を含む方法。
【請求項10】
ステップg)の前に追加的なステップ、すなわち
f1)前記2種のイオン種の1つの変位の一部を補償するために、前記直流補償電圧を変化させ、前記変位が前記印加された非対称波形電圧から生じ、測定が前記イオン放出口で伝搬されるイオンに対して行われ、前記伝搬されるイオンのための補償電圧走査を形成するようになっているステップと、
f2)前記伝搬されるイオンに対応する前記補償電圧走査におけるピークを識別するステップと、
f3)前記ピークの1つに対応する適切な直流補償電圧を決定し、前記2種のイオン種の所望の1つを分離および凝縮するようになっているステップと、を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ステップh)の前に追加的なステップ、すなわち
g1)おおよその捕捉状態を形成するために、前記非対称波形電圧、前記補償電圧、前記ガスフローおよび前記イオン放出口に対する前記終端の位置の少なくとも1つをさらに調整し、それによって、前記集束されたイオンが前記終端の曲面をたどりやすくし、前記イオン放出口に向かって略放射方向の内部に指向されるステップを含む請求項10に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図10G】
【図10H】
【図10I】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図13E】
【図13F】
【図13G】
【図13H】
【図13I】
【図13J】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図18D】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図19D】
【図19E】
【図19F】
【図19G】
【図19H】
【図19I】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図10C】
【図10D】
【図10E】
【図10F】
【図10G】
【図10H】
【図10I】
【図11A】
【図11B】
【図11C】
【図11D】
【図12】
【図13A】
【図13B】
【図13C】
【図13D】
【図13E】
【図13F】
【図13G】
【図13H】
【図13I】
【図13J】
【図14A】
【図14B】
【図14C】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18A】
【図18B】
【図18C】
【図18D】
【図19A】
【図19B】
【図19C】
【図19D】
【図19E】
【図19F】
【図19G】
【図19H】
【図19I】
【図20】
【図21】
【図22A】
【図22B】
【図22C】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2010−108941(P2010−108941A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−289543(P2009−289543)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【分割の表示】特願2000−564041(P2000−564041)の分割
【原出願日】平成11年8月5日(1999.8.5)
【出願人】(501050988)ナショナル リサーチ カウンシル カナダ (1)
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL RESEARCH COUNCIL CANADA
【住所又は居所原語表記】1500 Montreal Road Ottawa Ontario K1A 0R6 Canada
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【分割の表示】特願2000−564041(P2000−564041)の分割
【原出願日】平成11年8月5日(1999.8.5)
【出願人】(501050988)ナショナル リサーチ カウンシル カナダ (1)
【氏名又は名称原語表記】NATIONAL RESEARCH COUNCIL CANADA
【住所又は居所原語表記】1500 Montreal Road Ottawa Ontario K1A 0R6 Canada
【Fターム(参考)】
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