説明

大気採取装置及びその採取方法

【課題】低高度での大気観測には従来からカイツーン(観測用バルーン)が用いられているが、装置全体が大型で取扱いが難しく、観測地域や時間に制約があるが、これを簡易に実現する。
【解決手段】本発明の大気採取器1は軽量小型で自動採取するため、飛翔体7である小型回転翼機に搭載することで都市部低高度の大気採取を容易にし、今後重要性が増大する環境モニタリングに大きな威力を発揮する装置となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上空低高度の環境モニタリングに必要な二酸化炭素等濃度測定が可能な大気を適宜採取することができる大気採取装置及びその採取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化が大きな問題となっており、二酸化炭素に代表される温室効果を持つ気体の大気中の濃度が増加の一途をたどり、大気の温度を上昇させ、気候変化をもたらすと予想されている。大気の温度の上昇は、生活環境に大きな影響を与えるだけでなく、気候の変化や海面の上昇など地球全体に大きな影響をもたらすと考えられている。
【0003】
地上では数10mの観測塔により観測され、1地点の温室効果ガスの濃度測定の時間変化を詳しく知るうえで貴重なデータが得られるが、その値がその地域をどの程度代表するかという問題が残る。
【0004】
これを補うあるいは地域の特異性を避けるために広域で機動的に観測する手段として飛行機が使われる。
【0005】
地表から約10kmまでの対流圏においては、最も上空ではオーストラリアから日本に向かう、日本航空のボーイング747型旅客機(ジャンボ)に採取装置を搭載して調査している。一般の航空機による観測では、高度4000mまでを、風の鉛直成分、二酸化炭素濃度・水蒸気測定などの観測を行っている。
【0006】
地球を取り巻く大気境界層のうち、地表面に近い部分を下部大気境界層と呼ぶが、この層内では、たとえば、高度200mに位置する大気は周期的に上下運動をして、最高高度300m、最低高度100mの間を10分周期で往復することが、音響レーダーや高感度高出力レーダーによる観測によって知られている。それほどの変化を繰り返している下部大気境界層に対して、頻繁に採取観測ができれば、地上に対する影響分析に非常に役立つ。
【0007】
前記の低高度での大気観測にはカイツーン(観測用バルーン)が用いられているが、装置全体が大型で取り扱いが難しく、観測地域や時間などに制約がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、大気観測のカイツーン(観測用バルーン)に変わり、大気を簡易に採取することが可能で、観測場所を限定しない機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記の課題を解決するための手段として、小型飛翔体7に搭載する新規で軽量な大気採取器1であり、大気観測のための大気採取であって、上空で自動作動して大気をシリンダ2に採取して確保する大気採取器1と、前記大気採取器1を一定高度まで上昇させて、大気採取器1の大気採取口5の開閉信号を発して作動させて採取大気を確保し、その後地上に持ち帰る小型飛翔体7とを組み合わせて構成することを特徴とする大気採取装置である。
【0010】
前記大気採取器1は、採取大気を確保するためあらかじめ地上で真空に保たれたシリンダ2と、該シリンダ2は大気採取口5を備え、該大気採取口5を開閉するための駆動装置3と、大気採取口5と駆動装置3を連結するシャフト4で構成することを特徴とする。
【0011】
前記大気採取器1は、小型飛翔体7に搭載されたマイクロコンピュータ12もしくは地上のラジコン操縦装置(プロポ)10からの指令によって、前記大気採取器1を自動で作動させる大気採取装置である。
【0012】
前記小型飛翔体7のマイコンにあらかじめ組込まれたプログラム又は地上からの信号により、その制御機器である駆動装置3を作動させ、シャフト4を左右に遥動し、そのシャフト4の先端に設けられた大気採取口5を開閉し、シリンダ2内に大気を自動採取し確保する大気採取方法である。
【0013】
大気採取器1のシリンダ2は、たとえば60ccの注射器であって、その容量とほぼ等しい採取大気量が確保できる(図1)。またその全重量を30g程度に抑えることができる。よって、小型の飛行機への搭載が可能である。
【0014】
シリンダ2に設けられた大気採取口5は、シャフト4の先端部によって開閉される。大気採取口5が閉じた際の密閉度を上げるために、シャフト4の先端部には大気採取口ゴム栓5Aが取り付けられる。
【0015】
大気採取口5を作動させる駆動装置3としてサーボモータが用いられるが、サーボモータ3、シャフト4の変わりに、電磁弁で大気採取口5を閉じることも可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以上説明したように小型回転翼機7に搭載する新規で軽量な大気採取器1であって、低高度の空気を採取して持ち帰ることが容易にできるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
大気採取器1を搭載する小型飛翔体7は、時に非特許文献1に示された飛翔体で、同軸上に上下2段の相互に逆回転するロータを備え、各ロータは2枚のブレードから構成され、ヨー方向およびスラストの制御は、モータ13を通じ上下段ロータの回転数を変えて行うことができるようになっている。また、上段ロータはロッドを介してスタビライザと接続されており、機体を水平に保つようサイクリックピッチ入力がスタビライザから与えられるようになっており、これに対して下段ロータのブレードには、飛翔体用サーボモータ14から縦および横のサイクリックピッチ入力が与えられ、これによって機体はピッチおよびロールの運動も可能になっている。そして、大気採取器を搭載しての重量は僅かで、40cm程度のロータ直径でも浮遊可能であり、搭載機として極めて好適であり使用するものとする。
【非特許文献1】松江淳、広末渡、大倉彰浩,得竹浩、砂田茂“小型回転機の開発” (平成16年10月、日本航空宇宙学会第43回飛行機シンポジウム講演論文集CD -ROM)
【0018】
大気採取器1を搭載する小型回転翼機7には、全地球測位システム(Global Positioning System(GPS))、気圧高度計が搭載され、風によって機体が流された際に、プログラムされた位置に戻る機能を持っている。強風によって、プログラムされた位置とは異なる位置で大気を採取する場合でも、大気採取位置は掌握することができる。
【0019】
地上において、大気採取口5をシャフト4の先端部の大気採取口ゴム栓5Aで閉じ、シリンダ2を密閉する。次に、シリンダ2の移動部6を移動させシリンダ2内の大気の体積を増加させ、シリンダ2内部を真空に近い状態にする。駆動装置のサーボモータ3によってシリンダの口を開閉することのみで、空気の採取の開始、停止が可能であり、あらかじめシリンダ内を真空に近くしておくことで、シリンダ2の口が開かれていれば、外力を働かせることなくシリンダ2内に大気が吸い込まれる。
【0020】
上空において、小型回転翼機7に搭載されたマイクロコンピュータ12、またはラジコン操作装置(プロポ)10からの信号でサーボモータ3が稼動する。その動きが大気採取口5からシャフト4先端の大気採取口ゴム栓5Aを引き出してシリンダ2の口が開き、シリンダ2内に大気が取り込まれる。採取後、再び信号でサーボモータ3を稼動し、その運動がシャフト4先端の大気採取口ゴム栓5Aを大気採取口5に押し込む。これによって、シリンダ2中に採取した大気が外に出ることはない。
【0021】
図2は本発明の実施の一形態に係る小型回転翼機7の斜視図である。この小型回転翼機7は、大略的に飛行を実現するとともに、大気採取器1を機体に搭載することで構成される。
【0022】
図3は本発明の採取工程を表したフロー図であり、地上から飛行した大気採取装置が上空であらかじめ設定されたプログラムにより指定された高度へ到達した後、搭載した自らのプログラムによる信号によりサーボモータ3が作動し、大気採取口5が開き、採取後に新たな信号により採取口が閉鎖し、その後小型回転翼機7が移動し地上に戻ることができることをあらわす。
【0023】
図4は本発明の大気採取が小型回転翼機7の制御システムを有効活用して、一部の機能を付加することであらたな制御機器を搭載する必要がないことを示す。小型回転翼機7に搭載したマイクロコンピュータ12により全て操作されるが、地上のラジコン操作装置(プロポ)10による遠隔操作も可能である。
【0024】
小型回転翼機7には元来、飛行用の受信機が備わっており、サーボモータを地上の操作装置からの信号で動かす場合、飛行に必要な4チャンネルより1つだけチャンネル数の多い受信機を搭載し、その1チャンネルを大気採取装置のサーボモータ3用に割り当てれば良く、本採取器専用の受信機の必要がない。また、サーボモータ3を稼動する信号は、小型回転翼機7の操縦用に使用する操作装置10によって送信可能で、大気採取器1のための操作装置を別途必要としない。
【0025】
地上の操作者がラジコン操作装置10のスタートスイッチを入れると、小型回転翼機7に搭載したラジコン受信機11が受信し、ラジコン受信機に組み込まれたマイクロコンピュータ12のプログラムによりシステムが稼動し、上下2段のロータが駆動用モータ13により回転を始め、小型回転翼機7が上空に舞い上がる。GPS、気圧高度計の正確な働きにより、あらかじめ設定された位置と高度に向かい、定位置で浮遊する。小型回転翼機7に搭載されたマイクロコンピュータ12は定位置に到達すると引き続き大気採取口5の開放信号を発して大気採取器1の採取口5のサーボモータ3を起動させ、採取口5を開放する。2,3秒後には再び閉鎖信号を発し、採取口5のサーボモータ3を起動し、その口を閉鎖する。その後、小型回転翼機7は移動を開始し地上に帰還する。
【0026】
本発明の大気採取器1と小型回転翼機7との組み合わせにより大気サンプルを簡易に採取する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の小型自動大気採集器1を小型回転翼機7に搭載することによる大気採取器1は、カイツーン等の大型機器によっては実施困難な、都市部低高度の大気分析を容易にする。よって、本発明は、今後重要性が増大する環境モニタリングに大きな威力を発揮する装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】大気採取器1本体を示す図である。
【図2】大気採取器1を小型回転翼機7に搭載した図である。 小型回転翼機7が飛行する時は、外側をダクトで覆う場合もあるが図示上 仮想線で示す。
【図3】大気採取装置の動作フローを示す図である。
【図4】大気採取装置の制御構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0029】
1 大気採取器
2 シリンダ
3 サーボモータ(駆動装置)
4 シャフト
5 大気採取口
5A 大気採取口ゴム栓
6 移動部
7 小型回転翼機本体(小型飛翔体)
8 ダクト
10 ラジコン操作装置(プロポ)
11 ラジコン受信機(飛翔体部に搭載される(以下同じ))
12 マイクロコンピュータ
13 飛翔体用モータ
14 飛翔体用サーボモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気観測のための大気採取装置であって、上空で自動作動して大気をシリンダ(2)に採取して確保する大気採取器(1)と、
前記大気採取器(1)を一定高度まで上昇させて、採取器の大気採取口(5)の開閉信号を発して作動させて採取大気を確保し、その後地上に持ち帰る小型飛翔体(7)と、
を組み合わせて構成することを特徴とする大気採取装置。
【請求項2】
前記大気採取器(1)は、採取大気を確保するためあらかじめ地上で真空に保たれたシリンダと、該シリンダは大気採取口(5)を備え、該大気採取口(5)を開閉するための駆動装置(3)と、大気採取口(5)と駆動装置(3)を連結するシャフト(4)で構成することを特徴とする請求項1に記載の大気採取装置。
【請求項3】
前記大気採取器(1)は、小型飛翔体(7)に搭載された制御装置もしくは地上の制御装置からの指令によって、前記大気採取器(1)を自動で作動させることを特徴とする請求項1に記載の大気採取装置。
【請求項4】
前記小型飛翔体(7)のマイクロコンピュータ(12)にあらかじめ組込まれたプログラム又は地上からの信号により、その制御機器である駆動装置(3)を作動させ、シャフト(4)を左右に遥動し、そのシャフト(4)の先端に設けられた大気採取口(5)を開閉し、シリンダ(2)内に大気を自動採取し確保することを特徴とする大気採取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−292432(P2006−292432A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110137(P2005−110137)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年3月16日 ものづくりクラスター協議会主催、大阪府立大学共催の「先端技術セミナー 大阪府立大学『次世代ロボット技術セミナー』」において文書をもって発表
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】