説明

大気汚染自動測定装置の異物捕集用フィルタ

【課題】測定装置に悪影響を与える異物は確実に取り除くことができ、また、フィルタの製造時および廃棄時の環境負荷が小さい大気汚染自動測定装置の異物捕集用フィルタを提供する。
【解決手段】エレクトロスピニング法で作製されたナノファイバー不織布の両側に、繊維を熱接着して製造した不織布を積層してなり、平均流量孔径を2μm以下としている。繊維を熱接着して製造した不織布は、湿式法で作製されたポリオレフィンを主体とするサーマルボンド不織布とすることができ、また、前記サーマルボンド不織布上に、エレクトロスピニング法で製造したナノファイバー不織布層を積層し、その上に湿式法で製造したポリオレフィンを主体とするサーマルボンド不織布を重ねて、フラットロールまたはフラットプレス装置で熱接着して、製造したものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気汚染の常時監視を行うために設置されている大気汚染自動測定装置の異物捕集用フィルタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気汚染の常時監視は、大気汚染防止法により都道府県及び政令市に義務付けられ、全国で約2000の測定局で大気汚染自動測定装置を使用して測定が行われている。環境測定装置の一種である大気汚染自動測定装置では、気体試料としての大気を測定部内へ取り込み、気体試料に含まれる物質(窒素酸化物、硫黄酸化物、オキシダント、一酸化炭素、など)の濃度を測定している。一般的に測定前に気体試料がフィルタを通過するようにして、気体試料に含まれる粒子状異物(ダスト、粉塵、など)を捕集して計測機器を保護する構造になっている。
【0003】
上記フィルタは、時間が経過するにつれて付着する異物量が増加するため、気体試料の通気抵抗が大きくなり吸引するポンプの負荷が経時的に大きくなっている。また、フィルタに付着した異物が測定対象物質を吸着して測定精度を損ねたりする。そこで、フィルタを1〜3週間に1回程度の頻度で交換する必要がある。
【0004】
この使い捨てのフィルタとして、測定対象物質を吸着する恐れが小さいという理由から4−フッ化エチレン(PTFE、テフロン(登録商標))製のフィルタが一般的に用いられているが、このPTFE製フィルタは平均流量孔径が18μm、最大孔径が300μm程度あり、黄砂のような小さな粒子はフィルタを通過して測定装置内部に侵入し、測定装置内を汚染してしまうことがあった。
【0005】
また、PTFEは300℃以上に加熱すると有毒物質が発生するが、使用済みフィルタの大部分、年間で推定3トン以上が日本国内で焼却処分されている実態がある。PTFEは製造時の環境負荷も大きく、大気汚染を監視するために用いる測定装置の消耗品が大気汚染を引き起こしてしまうことは許されないことであり、環境を守るためにPTFE製フィルタは早急に代替品で置き換える必要がある。
【0006】
前記PTFE製フィルタの代わりに、特許文献1に記載のような、超極細繊維層からなる層が他の繊維構造体に挟まれている多層繊維構造体をフィルタとして利用することも考えられるが、大気汚染自動測定装置の異物捕集用フィルタとして十分に機能するように設計されたものは存在しなかった。さらに、特許文献1に記載の多層繊維構造体は、高耐熱の材料を使用したものであり、窒素原子や硫黄原子が含まれていることが多く、強い極性をもつ化合物となり、大気汚染自動測定装置での測定対象物質を吸着してしまう恐れがある。また、耐熱性が高いため、一般的な焼却処分ができない恐れや、焼却すると窒素酸化物や硫黄酸化物など大気汚染物質を発生してしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−263806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、測定装置に悪影響を与える異物は確実に取り除くことができ、また、フィルタの製造時および廃棄時の環境負荷が小さい大気汚染自動測定装置の異物捕集用フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、この発明は次のような技術的手段を講じている。
【0010】
この発明の大気汚染自動測定装置の異物捕集用フィルタは、エレクトロスピニング法で作製されたナノファイバー不織布の両側に、繊維を熱接着して製造した不織布を積層してなり、平均流量孔径を2μm以下としたものとしている。
【0011】
繊維を熱接着して製造した不織布は、湿式法で作製されたポリオレフィンを主体とするサーマルボンド不織布とすることができる。
【0012】
この異物捕集用フィルタは、湿式法で製造されたポリオレフィンを主体とするサーマルボンド不織布上に、エレクトロトスピニング法で製造したナノファイバー不織布層を積層し、その上に湿式法で製造したポリオレフィンを主体とするサーマルボンド不織布を重ねて、フラットロールまたはフラットプレス装置で熱接着して、製造したものとすることができる。
【0013】
また、平衡水分率が2%以下であり、透気度が10秒/100ml以下であり、ハンドルOメータにより測定した柔軟度が80〜600mNであるものとすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の異物捕集用フィルタは、上述のような構成を有しており、黄砂のような小さな粒子が通過して測定装置内部に侵入して測定装置内を汚染することを防止できるようになっている。また、フィルタの製造時および廃棄時の環境負荷が大きいPTFEや高耐熱の材料を使用せずに製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の大気汚染自動測定装置の異物捕集用フィルタは、エレクトロスピニング法で作製されたナノファイバー不織布の両側に、繊維を熱接着して製造した不織布を積層してなり、平均流量孔径を2μm以下としたものである。
【0016】
この異物捕集用フィルタは、測定対象物質の吸着が少ないポリオレフィンを主体とする繊維を、地合がきれいで細孔径の均一性の高い湿式法で製造しサーマルボンドしたシートの間に、細孔径の小さいエレクトロスピニング法で製造したナノファイバー不織布を挟み、熱接着した不織布を積層して製造することができる。
【0017】
このようにして製造される異物捕集用フィルタは、測定対象物質の吸着性や反応性がほとんどない材料でできているため測定の誤差要因にならない。強度も十分であるため、測定装置に悪影響を与える異物は確実に取り除くことができる。通気抵抗は大気汚染自動測定装置に使用されているポンプの能力に対して十分小さく、通気抵抗の変動も小さいため、測定装置の気体試料取り込み量に悪影響を与えない。さらに、フィルタに曲げ強度があるため、フィルタ交換時のハンドリング性がよい。
【0018】
また、塩素、フッ素等のハロゲンを含まず、基本的に炭素、酸素、水素から構成されるポリマーを使用しているため、フィルタの製造時および廃棄時の環境負荷が小さい。
【0019】
平均流量孔径は、ナノファイバー不織布の目付を調整することでコントロールすることができる。平均流量孔径は、2μm以下であればよく、現状の測定手段で確認しているところでは0.4μmが最小(後述の実施例5)であるが、これより小さくてもよいことが推量される。また、通気度と柔軟度は、ナノファイバー不織布およびサーマルボンド不織布の目付、サーマルボンド不織布の熱融着の度合いでコントロールすることができる。
【0020】
本発明の異物捕集用フィルタは、大気汚染物質を測定するための大気汚染自動測定装置に取り付けて使用する。大気汚染自動測定装置は、気体試料導入口→測定部→ポンプ→気体試料排出、という順に気体試料が流れるように構成されたものとし、異物捕集用フィルタは、気体試料導入口と測定部の間に設置して使用することができる。
【0021】
測定部での測定は、具体的には気体試料に含まれる物質の濃度測定であり、例えば、ケミルミネッセンス法(化学発光法)により大気中に含まれるNO(窒素酸化物)の濃度測定、紫外線蛍光方式により大気中に含まれるSO(二酸化硫黄)の濃度測定、紫外線吸光方式により大気中に含まれるオキシダントの濃度測定、非分散赤外線吸収法により大気中に含まれるCO(一酸化炭素)の濃度測定、ガスクロマトグラフ法により大気中に含まれるNMHC(非メタン炭化水素)という物質の濃度測定、などである。
【0022】
本発明の異物捕集用フィルタはこれらの大気汚染自動測定装置で測定する大気以外の気体試料に対しても使用することができる。
【0023】
本発明の異物捕集用フィルタは、平均流量孔径が2μm以下である。最大孔径が30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがさらに好ましい。平均流量孔径、最大孔径が大きすぎると測定装置に悪影響を与える異物を確実に取り除くことができない。さらに平均流量孔径、最大孔径は0.1μm以上であることが好ましい。平均流量孔径、最大孔径が小さすぎると通気抵抗が大きくなり好ましくない。
【0024】
本発明の異物捕集用フィルタは、透気度を10秒/100ml以下、好ましくは5秒/100ml以下とすることができる。透気度が大きすぎると、フィルタの通気抵抗が大きくなりすぎて大気汚染自動測定装置のポンプの負荷が大きくなりすぎる。
【0025】
環境大気常時監視実施業務推進マニュアル編集委員会編「環境大気常時監視実務推進マニュアル第二版」第7章記載の並行試験実施手法に沿って、1台には本発明の異物捕集用フィルタ(後述の実施例)を、もう1台にはPF1フィルタをセットし、NO、NO、SO、オキシダントの一致性の評価を行った際に、「レベル5 一致性良好」の評価となった。これらの結果から本発明の異物捕集用フィルタの測定対象ガスに対する吸着・放出特性は少なくともテフロンフィルタと同等とすることができる。
【0026】
本発明の異物捕集用フィルタ(後述の実施例)は、テフロンフィルタと2枚重ねにして、本発明の異物捕集用フィルタを上流側になるように大気汚染自動測定装置にセットして、24時間装置を運転したとき、テフロンフィルタが汚れない。
【0027】
本発明の異物捕集用フィルタは、ハンドルOメーターにより測定した柔軟度を80〜600mN、好ましくは100〜500mNで、引張強度を10〜200mN、好ましくは50〜150mNとすることができる。柔軟度や強度が不適切であると、フィルタ交換時に破れたり、穴があいたり、シワが入ったり、折れ曲がったりしてハンドリングが悪くなることや、フィルタパッキンと密着せずエア漏れのような不都合が発生する。
【0028】
本発明の異物捕集用フィルタは23℃50%RHにおける平衡水分率を2%以下、好ましくは1.5%以下とすることができる。平衡水分率の高い異物捕集用フィルタを使用すると、湿度の高い測定環境においてはNO、NO、SOのような水と親和性の高い汚染物質を吸着して負の測定誤差を与えることが心配されるためである。
【0029】
本発明の異物捕集用フィルタは耐水性に優れる。常温の水に24時間浸漬しても変化がないことが好ましい。沸騰水に1時間浸漬しても変化がないことが好ましい。雨天の測定においては、異物捕集用フィルタは高湿度の環境で使用される。湿潤状態で使用される可能性もある。このような環境においてもフィルタを構成する繊維が膨潤したり、強度が低下したり、剥離したりしないことが必要である。
【0030】
異物捕集用フィルタは廃棄時に焼却処分しても有毒ガスや大気汚染物質を発生しないことが求められるため、炭素、酸素、水素のみを含む化合物であることが好ましい。フッ素、塩素、窒素、硫黄などを含有する化合物は、焼却時に有毒ガスや、窒素酸化物や硫黄酸化物など大気汚染物質を発生してしまう恐れがあるので好ましくない。
【0031】
次に、本発明の異物捕集用フィルタの一実施形態の具体的な構成について説明する。この異物捕集用フィルタは、ナノファイバー不織布(B層と呼ぶ)の両側に、ポリオレフィンを主体とする繊維を熱接着した不織布(A層とC層と呼ぶ)を積層したA層/B層/C層の3層構造とする。
【0032】
〔A層とC層〕
A層またはC層は、ポリオレフィンを主体とする繊維を湿式法やカード法でシート化し、熱接着することで製造できる。スパンボンド法、メルトブロー法、あるいはそれらを組み合わせた方法などで製造することもできる。
【0033】
湿式法でシート化し熱接着する方法で製造することが特に好ましい。湿式法で製造すると地合が均一な不織布が製造できる。結果としてナノファイバー不織布層を均一にサポートすることができ、異物の粒子がナノファイバー不織布層に衝突して穴をあけてしまうことを防ぐことができる。
【0034】
A層またはC層を構成する繊維を熱接着する方法としては、エアスルードライヤーを使用する方法、ヤンキードライヤーを使用する方法、加熱したフラットロール、あるいはエンボスロールでプレスしながら製造する方法があげられる。
【0035】
特にヤンキードライヤーで熱接着した不織布を、加熱したカレンダーロールで厚み調整をして製造する方法が好ましい。シート厚みを調整することで、通気抵抗を適正化したり、シートの曲げ強度を適正化してハンドリングをよくしたりすることができる。
【0036】
使用する繊維の太さは0.5〜10dtexが好ましい。0.7〜3dtexが特に好ましい。繊維が細すぎると、繊維の分散性が悪く均一なシートが作製できない。繊維が太すぎると細孔径が大きくなったり、強度が弱くなったりする。
【0037】
使用する繊維の長さは1〜30mm、特に3〜15mmが好ましい。繊維が短すぎるとシート強度が弱くなる。繊維が長すぎると湿式法でシート化する際に繊維が絡んで地合が悪くなる。
【0038】
使用する繊維を構成する樹脂はポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、PVA、ポリ乳酸、EVOH、などがあげられる。PPが芯に、PEが鞘になった芯鞘構造の熱融着繊維が特に好ましい。
【0039】
PP/PE芯鞘繊維を使用して作製したシートは、A層またはC層を構成する繊維同士を熱接着させるときや、B層と接着させるときの、接着可能温度幅が広く、寸法安定性がよく、平面性を保ちやすい。PPおよびPEは汎用樹脂であり製造時の環境負荷が小さい。廃棄時も焼却すれば二酸化炭素と水になり、環境負荷の大きい有害物質が発生しない。
【0040】
A層またはC層の坪量は20〜100g/m2が好ましい。坪量が小さすぎると強度が弱くなったり、細孔径が大きくなったり、シートの曲げ強度が弱くなったりする。坪量が大きすぎると通気抵抗が大きくなりすぎる。A層とC層は必ずしも坪量が等しい必要はない。
【0041】
A層またはC層の厚みは40〜250μmが好ましい。プレス条件が強すぎて、シートが薄くなり密度が高くなると、通気抵抗が大きくなる。プレス条件が弱過ぎて、シートが厚すぎると、強度が弱くなったり、細孔径が大きくなったり、シートの曲げ強度が弱くなったりする。A層とC層は必ずしも厚みが等しい必要はない。
【0042】
〔B層〕
B層はエレクトロスピニング法で製造することが好ましい。特に、高分子溶液に連続的に発生した泡に、紡糸が連続的に行われる状態を維持しうる電圧を印加することにより成膜する方法が好ましい。
【0043】
B層を構成する樹脂はポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ乳酸、EVOH、などがあげられる。特にPVAが好ましい。PVAの耐水性、耐薬品性を向上させるために、PVAを架橋させた樹脂を用いることが最も好ましい。PVAを架橋させるには、熱処理による架橋、熱硬化性樹脂の添加による架橋、酸触媒による架橋、金属触媒による架橋などを行うことができる。
【0044】
PVAは汎用樹脂であり製造時の環境負荷が小さい。廃棄時も焼却すれば二酸化炭素と水になり、環境負荷の大きい有害物質が発生しない。
【0045】
B層を構成する繊維の太さは50〜1000nmが好ましく、100〜500nmがさらに好ましい。繊維の太さをコントロールすることにより、孔径の分布をシャープにすることが可能となる。結果として異物を捕集するために十分小さい細孔径と、測定装置の吸引ポンプに過度な負荷を与えない通気抵抗を両立することができる。繊維が太すぎると細孔径のコントロールが難しく好ましくない。繊維が細すぎると生産性が悪く好ましくない。
【0046】
B層の坪量は0.1〜10g/m2が好ましい。さらに好ましくは0.2〜2g/m2である。坪量が小さすぎると細孔径が大きくなりすぎてしまい、異物除去性能が低下する。坪量が大きすぎると通気抵抗が大きくなりすぎる。
【0047】
B層は金属ドラム上に成膜し、A層とC層の間に挟み熱接着することができる。加熱したカレンダーロールを使用して熱接着させる。
【0048】
A層のシート上に直接B層を成膜する方法がより好ましい。A層上に成膜したB層の上にC層を重ねて、加熱したカレンダーロールを使用して熱接着させる。
【0049】
A層のシート上に直接B層を成膜する方法で積層する場合は、A層は湿式法で成膜することが好ましい。湿式法で成膜したA層は表面が平滑で、地合が均一であるため、B層も均一に成膜できる。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の各特性値は下記の方法で測定した。
【0051】
<坪量> JIS P8113(紙及び板紙−坪量測定方法)に準拠して測定した。
【0052】
<厚み> JIS P8113(紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法)に準拠して測定した。
【0053】
<引張強度> JIS P8113(紙及び板紙−引張特性の試験方法−第2部:低速伸張法)に準拠して測定した。試験片の幅は15mm、試験長さは30mm、伸長速度は30mm/minで測定した。
【0054】
<通気度> カトーテック社製KES-F8通気性試験機にて測定した。
【0055】
<透気抵抗度> JIS P8117(紙及び板紙−透気度及び透気抵抗度試験方法(中間領域)−ガーレー法)に準拠して測定した。締付板で挟む面積が0.645cm2のものを使用し、測定した時間を10倍して通気度とした。
【0056】
<最大孔径、平均流量孔径> Porous Materials Inc.社製多孔質材料自動細孔測定システム Perm-Porometerを用い、CAPILLARY FLOW ANALYSISにより最大孔径、平均流量孔径を測定した。測定溶媒はフロリナート不活性液体FC-40、測定サンプル径は31.7mmで測定した。
【0057】
<柔軟度> JAPAN TAPPI No.34(紙−柔らかさ試験方法)に準拠して測定した。ただし、スリット間隔を10mmとして、異物捕集用フィルタとして用いられる直径55mmの大きさのサンプルについて測定した。
【0058】
<平衡水分率> 23℃50%RHの雰囲気で調湿した試料フィルタを赤外線加熱乾燥式水分率計において105℃60分の加熱条件で乾燥し平衡水分率を測定した。
【0059】
<連続吸引試験> 大気汚染自動測定装置において、試料フィルタとPF2フィルタを2枚重ねにして、試料フィルタが上流側になるようにセットして、1L/minの吸引速度で24時間連続吸引試験を行った。試料フィルタに破裂や破れがないこと、下流側のPF2フィルタに汚れがないこと、目詰まりによる圧損の大幅な上昇がないこと、を調べた。
【0060】
<並行試験による一致性の評価> 環境大気常時監視実施業務推進マニュアル編集委員会編「環境大気常時監視実務推進マニュアル第二版」第7章記載の並行試験実施手法に沿って、1台には試験フィルタを、もう1台にはPF1フィルタをセットし、NO、NO、SOの一致性の評価を行った。また同様に、1台には試験フィルタを、もう1台にはPF2フィルタをセットし、オキシダントの一致性の評価を行った。一致性の目安は表1の通りである。
【0061】
【表1】

【0062】
〔実施例1〕
ポリプロピレン/ポリエチレン熱融着性芯鞘型複合繊維(2.2dtex10mm)を原料に使用して、短網式抄紙機を用いて湿式法によりシート化し、ヤンキードライヤー及びプレスロールで乾燥、熱接着させることで、坪量60g/m2のポリオレフィン系湿式不織布A及び坪量30g/m2のポリオレフィン系湿式不織布Cを得た。
【0063】
けん化度87.0〜89.0のポリビニルアルコールを熱水に溶解させ、20重量%のポリビニルアルコール水溶液を作製した。この水溶液を紡糸液として、静電紡糸法によりポリビニルアルコールナノファイバーを、ポリオレフィン系湿式不織布Aの片面に紡糸し、120℃乾燥炉で乾燥させ、ポリオレフィン系湿式不織布Aとナノファイバー不織布Bからなる2層構造の複合不織布を得た。このときナノファイバー不織布Bの坪量が0.2g/m2になるように製造した。また、熱乾燥させることで、ポリビニルアルコールを熱架橋させ、沸騰水での煮沸に耐えられる耐水性を付与した。
【0064】
この2層構造の複合不織布のナノファイバー不織布Bの面に、ポリオレフィン系湿式不織布Cを重ねて、線圧0.3MPa/cm、125℃のプレスロールによりラミネーションを行い、3層構造になった実施例1の異物捕集用フィルタを得た。
【0065】
〔実施例2〕
実施例1においてナノファイバー不織布Bの坪量を0.5g/m2にした以外は実施例1と同様にして、実施例2の異物捕集用フィルタを得た。
【0066】
〔実施例3〕
実施例1においてナノファイバー不織布Bの坪量を0.7g/m2にした以外は実施例1と同様にして、実施例3の異物捕集用フィルタを得た。
【0067】
〔実施例4〕
実施例1においてナノファイバー不織布Bの坪量を1.2g/m2にした以外は実施例1と同様にして、実施例4の異物捕集用フィルタを得た。
【0068】
〔実施例5〕
実施例1においてポリオレフィン系湿式不織布Aの坪量を30g/m2に、ナノファイバー不織布Bの坪量を0.7g/m2にした以外は実施例1と同様にして、実施例5の異物捕集用フィルタを得た。
【0069】
〔比較例1〕
東洋濾紙株式会社製テフロンフィルタPF1を比較例1とした。
【0070】
〔比較例2〕
東洋濾紙株式会社製テフロンフィルタPF2を比較例2とした。
【0071】
〔比較例3〕
アドバンテック東洋社製定量濾紙No.5Bを比較例3とした。
〔比較例4〕
実施例1においてナノファイバー不織布Bの坪量を0.05g/m2にした以外は実施例1と同様にして、比較例4の異物捕集用フィルタを得た。
【0072】
このようにして得られた上記実施例、比較例の異物捕集用フィルタについて、各種特性について測定を行った結果を表2、表3に示した。表4に実際に大気汚染自動測定装置を使用して評価した結果を示した。比較例3、4は吸引試験で異物除去能力が劣ることが判明し、測定機器に悪影響を与える恐れがあるので並行試験評価は実施しなかった。比較例1についてNO、NO2、SO2の並行試験評価を行い、比較例2についてオキシダントの並行試験評価を行った。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】



【0075】
【表4】

【0076】
本発明による異物捕集用フィルタ(実施例1〜5)は、比較例1〜4に比し、異物捕集用フィルタに要求される各種特性において優れていることが分かった。具体的には、実施例は、測定に悪影響を与える異物がフィルタを通過してしまうリスクが小さいのに対し、比較例1〜4は測定装置内部に微細な砂や粉塵が入って測定に悪影響を与える汚染が発生したり、測定装置内部の洗浄が必要になったりする恐れがある。これは、表2から分かるように、実施例の平均流量孔径が、比較例1、2に比べて小さことによるものと考えられる。
【0077】
実施例は測定装置のポンプ容量に対して十分通気抵抗が小さく、透気度が大きいので、測定装置のポンプに過剰な負荷をかけたり、流量が変動する要因になったりすることがない。実施例は柔軟度の値が大きく、フィルタにコシがあるので、フィルタ交換時のハンドリング性が良い。引張強度が十分大きいので破れたり、穴が開いたりする心配がない。また、測定装置のポンプによる吸引圧力で変形したり破裂したりする心配がない。
【0078】
実施例は平衡水分率が低い素材でできており、水分と親和性のある汚染物質を吸着する心配がない。比較例3は平衡水分率が高いため、水分と親和性のある汚染物質を吸着して負の測定誤差を与える可能性がある。
【0079】
実施例は廃棄時に焼却しても有毒ガスが発生しない。生産時においても環境負荷の大きな工程なしに製造が可能である。比較例1、2は廃棄時に焼却すると有毒ガスが発生する。生産時にも毒性の高い原材料、溶剤を使用し環境負荷が大きい。
【0080】
表4より実施例2、3は現行品として使用されている比較例1、2と同等の性能があることが明らかとなった。実施例2、3はフィルタの取り付けや取り外し時に折れ曲ったり、シワができたり、破れたりすることがなくハンドリング性が良かった。連続吸引試験において、実施例2、3は十分な強度があるので、試験後において試験フィルタの破裂、破れ、変形等の異常はなかった。また、異物を十分に除去したので、下流側にセットしたPF2フィルタが汚れることはなかった。目詰まりによる圧損の大幅な上昇もなかった。比較例3、4は下流側にセットしたPF2フィルタにわずかに汚れが見られたことから異物除去の性能が劣ることがわかる。比較例4はナノファイバー層が薄すぎたため、異物を十分に捕捉することができなかったと考えられる。
【0081】
並行試験による一致性の評価において、実施例2、3はNO、NO、SO、オキシダントすべてのガスにおいて最高評価の5(一致性良好)となった。試験フィルタはいずれも測定結果に影響を与えておらず、ダストフィルタとして使用して問題ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスピニング法で作製されたナノファイバー不織布の両側に、繊維を熱接着して製造した不織布を積層してなり、平均流量孔径を2μm以下としたことを特徴とする、大気汚染自動測定装置の異物捕集用フィルタ。
【請求項2】
繊維を熱接着して製造した不織布が、湿式法で作製されたポリオレフィンを主体とするサーマルボンド不織布であることを特徴とする請求項1記載の異物捕集用フィルタ
【請求項3】
湿式法で製造されたポリオレフィンを主体とするサーマルボンド不織布上に、エレクトロスピニング法で製造したナノファイバー不織布層を積層し、その上に湿式法で製造したポリオレフィンを主体とするサーマルボンド不織布を重ねて、フラットロールまたはフラットプレス装置で熱接着して、製造したことを特徴とする請求項2記載の異物捕集用フィルタ
【請求項4】
平衡水分率が2%以下であり、透気度が10秒/100ml以下であり、ハンドルOメータにより測定した柔軟度が80〜600mNである、請求項1、2または3に記載の異物捕集用フィルタ

【公開番号】特開2012−122922(P2012−122922A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275398(P2010−275398)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(591039425)高知県 (51)
【出願人】(502281161)株式会社環境機器 (8)
【Fターム(参考)】