説明

大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法及びそれを用いて施工された大気浄化機能を有する広告・告知メディア

【課題】屋外に設置される広告・告知メディアにおいて、大気浄化機能を有するものを簡略な工程で施工する方法を提供し、該広告・告知メディアを提供することで、窒素酸化物の除去をすること。
【解決手段】剥離シート、接着剤層、及び(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を表面に有する被印刷素材層、を積層して調製した被印刷媒体の該被印刷素材層の表面に、印刷を施し、施工現場で、剥離シートを剥離して、屋外構築物に該接着剤層を接着して印刷物層を形成させ、該印刷物層の表面に、反応性シラン化合物を含有する塗液を、スプレーガンを用いて吹付けて、1〜10μmの保護層を形成させ、該保護層の表面に、酸化チタン粒子を含有する塗液を、同様の方法で吹付けて、0.03〜1μmの光触媒層を形成させる大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法に関し、更に詳しくは、非塩化ビニル系の印刷物層、保護層及び光触媒層を用いることによって、大気浄化機能が大幅に改善された広告・告知メディアの施工方法及びそれを用いて施工された大気浄化機能を有する広告・告知メディアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光触媒粒子である酸化チタン粒子の層を印刷物に設けることによって、長期間の効用を持たせるようにできることが知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、耐候性を必要とする印刷物において、少なくとも、印刷層、並びに、光活性を遮断する無機物からなる活性遮断層及び光活性をもつ防汚層から構成される保護層を順次積層することによって、風雨に暴露されつつ「長期間」屋外に設置されたり、「極めて長期の間」展示又は掲示されたりする印刷物の表面が、大気中の塵埃、粉塵等が付着・蓄積して汚染したり、顔料の褪色・変色や、それに伴う印刷物の変色を防止し、美麗な印刷物を保つ、耐久性に優れた耐候性印刷物が報告されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2では、透明基材シートの一方の面側に親水性の防汚層を有し、他方の面側を印刷面とすることを特徴とする、「長期間」において親水性作用による自己浄化性を有する防汚性印刷シート、更には、一般家庭やオフィスのプリンターや複写機でも印刷可能な防汚性印刷シート、防汚性印刷物、及び防汚性印刷体が報告されている。
【0005】
一方、近年の世界規模の人口増加、新興国の産業の発達及び生活水準の向上等に伴い、火力発電所、工場、自動車、飛行機等から多くの窒素酸化物や硫黄酸化物が排出されている。排出された窒素酸化物や硫黄酸化物が雨や雪等に取り込まれて地上に降下する酸性雨は、ヨーロッパ、北米等の先進工業国のほかに、中国、東南アジア等世界的な規模で、湖沼の酸性化や森林の衰退を引き起こし、国境を越えた国際的な問題となっており、その速やかな対策が急務となっている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−117187号公報
【特許文献2】WO2006/137446号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】EIC事務局、“酸性雨のメカニズム”、[online]、平成18年3月29日、財団法人環境情報普及センター、[平成22年6月10日検索]、インターネット<URL:http://www.eic.or.jp/library/ecolife/knowledge/earth01a.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、屋外に設置される広告・告知メディアにおいて、大気浄化機能を有する広告・告知メディアを簡略な工程で施工する方法を提供することにあり、また、それを用いた広告・告知メディアを提供することで、現在国際的な問題となっている酸性雨等を引き起こす窒素酸化物(以下、「NOx」と略記する場合がある。)の除去に貢献することにある。
【0009】
また、本発明者は、光触媒層を有する広告・告知メディアを構成するそれぞれの層を形成する材料の種類によっては、NOxの除去効率が低下してしまうものがあることを新たに見出したので、光触媒層中の光触媒粒子のNOxの除去効率が低下してしまわない広告・告知メディアを提供することも本発明の課題である。
【0010】
更に、本発明者は、光触媒層を有する広告・告知メディアを構成するそれぞれの層を形成する材料の種類によっては、紫外線照射によって印刷層に変色等の異常が認められることがあることを新たに見出したので、印刷物の耐候性に優れた広告・告知メディアを提供することも本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、光触媒層は長期間に亘って存在するものに設けられるべきと考えられていたのにも拘らず、一般には屋外に比較的「短期間」設置されるような広告・告知メディアにおいても、光触媒層及び保護層を形成させることによって、NOxの除去等の大気浄化機能を付与でき、環境汚染防止に貢献できると共に、上記広告・告知メディアを設置することで、例えば、設置した企業等が環境問題に取り組んでいることをアピールすることができる効果があることを見出した。
【0012】
また、上記広告・告知メディアの屋外の施工現場で、印刷物層、保護層及び光触媒層を形成させることによって、簡略な工程で、NOxの除去等の大気浄化機能を有する広告・告知メディアが効率よく確実に施工できることを見出した。
【0013】
更には、また、被印刷素材層の表面に(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を用いると、NOxの除去と耐候性の点で光触媒層の効果が特に発揮できることを見出して本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、
剥離シート、接着剤層、及び、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を少なくともその表面に有する被印刷素材層を積層して調製した被印刷媒体の該被印刷素材層の表面に所望の印刷を施し、
大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工現場で、該被印刷媒体の剥離シートを剥離して、屋外構築物の少なくとも1つの側面に直接又は該側面に設置された基板に、該接着剤層を接着して印刷物層を形成させ、
次いで、該施工現場で、該印刷物層の表面に、反応性シラン化合物を含有する塗液を、スプレーガンを用いて吹付けて、膜厚1μm〜10μmの保護層を形成させ、
更に、反応性シラン化合物が重合又は架橋してなる該保護層の表面に、光触媒粒子である酸化チタン粒子を含有する塗液を、スプレーガンを用いて吹付けて、膜厚0.03μm〜1μmの光触媒層を形成させることを特徴とする大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、上記の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法を使用して施工されたものであることを特徴とする大気浄化機能を有する広告・告知メディアを提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記課題を解決し、特に、広告・告知効果と窒素酸化物を除去する効果の両立に優れた大気浄化機能を有する広告・告知メディアを簡略な工程で施工する方法を提供することができる。
【0017】
つまり、本発明によれば、
(1)大気浄化機能を有する広告・告知メディアの屋外構築物への設置が簡略な工程で施工でき、所望の広告又は告知情報を知らしめたり、また、市街地や建造物の建造現場の美観を整備したり、あるいは市街地や港湾に置かれたコンテナの美観を向上させたりすることができる。
(2)予め調製された被印刷媒体に所望の文字や絵柄を印刷した後に、施工現場で該被印刷媒体の剥離シートを剥がして印刷物層、次いで、保護層及び光触媒層を形成させることで、既に施工現場でない場所で保護層及び光触媒層を積層し、施工現場まで運んだ場合に生じる光触媒層の剥離等の劣化を防ぐことができる。
具体的には、例えば、広告・告知メディアを巻くこと等で設置現場まで運ぶと、光触媒粒子を保護するものがない場合、光触媒粒子が擦れて落ちたりするが、本願発明によれば、「広告・告知メディアの設置現場で」、保護層と光触媒層を形成させるので、それらを防ぐことができる。
また、広告・告知メディアを設置現場まで持ち運ぶ際に、光触媒層の表面に傷や汚れが付着することを防ぐことができる。
【0018】
(3)光触媒機能をもたせることで、広告・告知メディアを設置した企業が環境問題に真摯に取り組んでいることをアピールすることができる。
特に、広告・告知メディアは、屋外構築物等に告知事項等を示す目的で設置されることが多いが、その際、建設中の該屋外構築物が環境に対して悪影響を及ぼしているのではないかという心理を、大気浄化機能を有する広告・告知メディアによって緩和又は相殺することができる。
【0019】
(4)印刷物層と光触媒層の間に特定の材料の保護層を設けることで、印刷に使用される染料や顔料の光触媒による影響を防ぎ、広告・告知メディアの文字又は絵柄が明瞭に視認できる。
(5)光触媒層の光触媒粒子には、大気中のNOxの分解除去や、それ以外にも、例えば、アルデヒド、メルカプタン、アンモニア、各種のアミン類等の悪臭物質や有害物質の分解脱臭、SOx、PCB、ダイオキシン、有機ハロゲン化合物、有機リン化合物等の有害物質の分解除去、各種の菌類や藻類等の殺菌・藻処理等の効果も認められ、屋外構築物周辺の空間の環境保護及び環境浄化に貢献することができる。
【0020】
(6)被印刷素材層の表面に(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を用いることで、光触媒層の大気中のNOxの分解除去効果を特に発揮することできる、又は、被印刷素材層の表面に(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を用いることで、他の材料を用いたときに比べ、光触媒層の大気中のNOxの分解除去効果の減衰を防止することできる。
(7)被印刷素材層の表面に(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を用いることで、紫外線照射によっても、印刷層に変色等の異常が認められないようにでき、印刷物の耐候性に優れた広告・告知メディアを提供できる。
【0021】
(8)光触媒層の光触媒粒子のNOxガスの分解効果は、樹木がもたらす軽減効果に比べても著しく優れたものであるので、樹木の少ない市街地や港湾地域の排ガス等による大気中の有害物質の低減に極めて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工後の各層の構成を示す概略断面図である。
【図2】本発明の施工前の被印刷媒体の各層の構成を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0024】
本発明の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法は、
剥離シート、接着剤層、及び、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を少なくともその表面に有する被印刷素材層を積層して調製した被印刷媒体の該被印刷素材層の表面に所望の印刷を施し、
大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工現場で、該被印刷媒体の剥離シートを剥離して、屋外構築物の少なくとも1つの側面に直接又は該側面に設置された基板に、該接着剤層を接着して印刷物層を形成させ、
次いで、該施工現場で、該印刷物層の表面に、反応性シラン化合物を含有する塗液を、スプレーガンを用いて吹付けて、膜厚1μm〜10μmの保護層を形成させ、
更に、反応性シラン化合物が重合又は架橋してなる該保護層の表面に、光触媒粒子である酸化チタン粒子を含有する塗液を、スプレーガンを用いて吹付けて、膜厚0.03μm〜1μmの光触媒層を形成させることを特徴とする。
【0025】
<被印刷媒体>
本発明において、被印刷媒体は、剥離シート、接着剤層、及び、「(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を少なくともその表面に有する被印刷素材層」を積層して調製されている。
【0026】
剥離シートは、被印刷媒体が設置される前に、接着剤層が他のものに接触して貼り付いたり、ゴミが付いたりして接着力が低下することを防ぐために設けられており、大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工現場で、所望の印刷を施した被印刷媒体を屋外構築物等に接着させるときに剥離して使用する。剥離シートとしては、特に限定はないが、表面にシリコーン樹脂がコーティングされている紙やポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂シートからなるものが目的に応じて適宜使用できる。
【0027】
接着剤層は、大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工現場で、所望の印刷を施した被印刷媒体を屋外構築物等に接着させるときに使用する。接着剤層に用いる接着剤としては、被印刷素材層と剥離シートの組み合わせに応じて、アクリル樹脂系接着剤、ウレタン樹脂系接着剤、メラミン樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ樹脂系接着剤、変性シリコーン樹脂系接着剤等を適宜選択して用いることができる。また、接着剤のほか、目的に応じて粘着剤が適宜使用されることもある。
【0028】
被印刷素材層は、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を少なくともその表面に有するものであれば特に限定はなく、該(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体自体からなる層;樹脂フィルム、紙、織布、不織布、編布等の表面に(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を塗布した層;表面を(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体で被覆した糸又は繊維で作った織布、不織布、編布等の層;等が挙げられる。
【0029】
市販品としては、株式会社ニップコーポレーション社から販売されている(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体フィルム;日栄化工株式会社製NSG1200GMRT−54;住友スリーエム株式会社製IJ5381;リンテック株式会社製G−055AV50、M−056AV50、G−064AV50、G−073AV30、M−074AV30;住友化学株式会社製テクノロイシリーズ;ダイセル・エボニック株式会社製プレキシグラスフィルムシリーズ;三菱レイヨン株式会社製アクリプレンシリーズ;株式会社クラレ製パラグラスシリーズ;カナセ工業株式会社製カナセライトシリーズ;旭化成テクノプラス株式会社製デラグラスシリーズ;有限会社シィーアールディー製CRD−ソフトアクリルシリーズ;等の(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体フィルム等が挙げられる。なお、本発明は、市販品に限定されるものではない。
【0030】
本発明においては、被印刷素材層は、その表面に(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を有するが、「被印刷素材層の表面」とは、印刷される面をいい、印刷されていない部分、詳しくは印刷インクが付着されていない部分が保護層に接する面をいう。ここで「(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体」とは、アクリル酸エステル重合体、アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル重合体又はメタクリル酸エステル共重合体を意味する。括弧内はあってもなくてもよいことを示し、以下同様である。
【0031】
(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体は特に限定はないが、具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル等の(共)重合体が好ましいものとして挙げられる。これらは1種で重合又は2種以上を共重合できる。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステルと共重合されるモノマーとしては、特に限定はないが、(メタ)アクリル酸、スチレン、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブタジエン等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル共重合体の場合は、(メタ)アクリル酸エステルが50モル%以上共重合されているものが好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上が特に好ましい。
【0033】
その中でも、本発明の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法では、「上記被印刷素材層がその表面に有する(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体」が、メタクリル酸メチル共重合体であることが特に好ましい。
【0034】
被印刷素材層の表面(保護層に接する面)に(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を用いることで、光触媒層の大気中のNOxの分解除去効果を特に発揮することできる。また、屋外で紫外線が照射されても、印刷層に変色等の異常を防止でき、印刷物の耐候性に優れた広告・告知メディアを提供できる。
【0035】
被印刷素材層の表面が(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体であると、光触媒層中の光触媒粒子との化学的作用で、上記した良好な効果を奏するようになったか、保護層や更にその上の光触媒層の塗布性等の層形成物性が良好になり、最終的に上記した良好な効果を奏するようになったか等が考えられる。また、被印刷素材層の表面に、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体が存在すると、表面の機械的又は物理的物性が良好で、他の材質の場合よりも、保護層が均一に形成できたり、光触媒層の光触媒粒子が均一に層を形成することができたりするため、保護層の効果が十分発揮できたり、光触媒層が均一になることで、光の照射を受ける酸化チタン粒子の実質的な表面積が増加し、光触媒層のNOx除去率が著しく向上した等が考えられる。
【0036】
上記被印刷素材層の表面には、文字、図形、記号、絵柄等の所望の印刷を施すことができる。本発明では、上記所望の印刷を施した被印刷素材層の上に存在する印刷インクの層のことを印刷層としている。非画線部であって印刷インクが付着していない部分や、中間調部分であって網点の存在しない部分には印刷層が存在せず、そのため被印刷素材層と保護層は直接接している。そのため、被印刷素材層の(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体の化学的・物理的影響は直接保護層やそれを介して直接光触媒層に達する。
【0037】
印刷層を形成する印刷方法としては、特に限定はなく、手描き、凸版印刷、オフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、インクジェット印刷、静電印刷(電子写真印刷)等から目的に応じて適宜選択することができる。
【0038】
その中でも、本発明の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法では、上記被印刷素材層に施す印刷が、スクリーン印刷又はインクジェット印刷であることが特に好ましい。
【0039】
上記印刷において用いられるインク塗料の染料又は顔料としては、特に限定はなく、耐候性の優れたものが目的に応じて適宜選択使用される。インク塗料の染料又は顔料は、通常網点と呼ばれる小さなドット状になって印刷層を形成しているため、上記印刷層の被印刷媒体に占める面積は、相当程度小さく、上記印刷層が被印刷素材層と光触媒層の相互作用に影響を及ぼすことはないと考えられる。
【0040】
<印刷物層>
本発明において、印刷物層は、大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工現場で、上記被印刷媒体の剥離シートを剥離して、屋外構築物の少なくとも1つの側面に直接又は該側面に設置された基板に、上記接着剤層を接着して形成させる。
【0041】
屋外構築物の側面に直接、上記接着剤層を接着して印刷物層を形成させる場合、その側面は、本発明の「大気浄化機能を有する広告・告知メディア」が有効に本発明の効果を奏する少なくとも1つの壁面等の側面であり、日光等の光の照射を受ける面が好ましい。その側面は、平面でも、なだらかな曲面でもよい。また、被印刷媒体から剥離シートを剥離して強固に接着できる面であれば、多少の粗面であってもよい。壁面が粗面であるときは、滑らかな平面とするため、接着剤層の接着力を低下させない範囲で、緩衝・充填剤を予め塗布することも好ましい。
【0042】
また、屋外構築物の側面に、平面である基板を、ビス等の留め具で取り付けても、又は、印刷物層を取り付けるための枠体を設けて貼り付けてもよい。基板を屋外構築物に固定するために基板や枠体を設置する場合は、その形状や材質は特に限定されない。強度と耐久性、耐候性等を考慮して適宜選択できる。特に、アルミニウム板体が、軽量で設置しやすく、撓むこともなく、平面を保持する強度を有しているので好ましい。なお、枠体に基板を設置するには、接着剤、ビス止め等、任意の固定方法を使用すればよい。
【0043】
本発明の広告・告知メディアは、特に太陽光が届く範囲の位置で大気浄化機能を奏するので、かかる位置であれば、側面のみならず、天井、床面であっても、必要により適用することは可能であり、また、本発明における光触媒粒子である酸化チタン粒子の中でも可視光にも対応できるものを適宜選択すれば、適用できる範囲が上記の範囲に限定されず、より紫外線が弱い、広い範囲の光照射下でも適用できる。
【0044】
屋外構築物とは、屋外に建築、建設又は建造される、土木、建築等で構築された物;屋外に設置される看板、広告塔等;陸上又は海上を運航する車輌又は船舶;物品の運搬や保管をする構造物等をいう。
例えば、建築物等の構築物自体;構築物周辺に作られる外構物(例えば、柵、フェンス、パネル、外壁等の囲い);屋外看板;公共施設物等の付帯設備物;仮囲い;占用看板;工事用看板;換気塔;ピア;標識;キロポスト;橋脚;橋桁;駅、バス停等の交通機関の構築物自体やその周辺に作られる外構物;ウィンドウサイン;バス、車輛、鉄道車輛等の車体;船舶;飛行機;コンテナ(貨物の運送に用いる輸送箱、簡易倉庫として利用されるもの等);日よけ看板;自動販売機;駐車場看板;等が挙げられる。
【0045】
従って、大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工現場とは、上記屋外構築物等が存在する場所やその周辺の場所である。「広告メディア」としては、具体的には、企業広告等が挙げられる。また、「告知メディア」としては、具体的には、行政広報等が挙げられる。
【0046】
<保護層>
本発明において、保護層は、印刷物層が有機物を含有する場合、該有機物が光触媒層の光触媒機能によって劣化してしまうことがあるため、その劣化を抑えるために形成される。また、印刷層若しくは被印刷素材層と光触媒層との密着性や、光触媒層の塗膜特性を向上させるために形成される。
【0047】
保護層の塗液は、反応性シラン化合物を含有する。反応性シラン化合物は、分子内にケイ素を含有し、重合又は架橋して保護層を形成するものであれば特に限定はないが、アルコキシシラン化合物が好ましい。アルコキシシラン化合物としては、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等のオルガノトリアルコキシシラン;フルオロアルキルアルコキシシラン;ジオルガノポリシロキサン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン等のテトラアルコキシシラン;等が好ましく用いられる。アルコキシシラン化合物等の反応性シラン化合物が塗布後に重合又は架橋することで、良好な保護層が形成される。
【0048】
特に、形成方法としては、上記施工現場で、上記印刷物層の表面に、反応性シラン化合物を含有する塗液を、スプレーガンを用いて吹付けて形成させることを特徴とする。保護層は、上記スプレーガンを用いて吹付けて形成させることで均一に層を形成でき、光触媒と印刷物層中の有機物との相互作用を良好に遮断することができる。
【0049】
印刷物層のみを屋外で使用すると、紫外線、温度、水分等の影響によって、変色、汚れ付着、劣化、変形等が起こるが、保護層及び光触媒層を積層すると、光触媒層の光触媒機能によって耐候性が向上する。この場合において、保護層を積層せず、印刷物層に直接光触媒層を積層すると、上記影響は緩和されるが、印刷物層に光触媒機能による劣化がおきてしまうため、耐候性の低下がおきてしまう。保護層は、有機物からなる印刷物層の光触媒機能による劣化を抑えるために用いられる。
【0050】
保護層を形成するために用いられるスプレーガンとしては特に限定はなく、低圧方式から高圧方式のものまで用いられるが、下記する理由で低圧方式のものが好ましい。また、用いる気体は特に限定はないが、空気が簡便であるために好ましい。スプレーガンとしては、エアー霧化低圧方式のスプレーガンが特に好ましい。
【0051】
エアー霧化低圧方式のスプレーガンは、圧縮空気の噴射気流によって塗布をするものである。「エアー霧化低圧方式」とは、空気の圧力で塗液を霧化して塗布する方式で、スプレーガンの空気圧力は、100kPa以下のものをいい、好ましくは20kPa〜70kPa、特に好ましくは30kPa〜50kPaである。また、空気量は特に限定はないが、500〜10000L/分が好ましく、1500〜3200L/分が特に好ましい。
【0052】
上記エアー霧化低圧方式のスプレーガンを用いると、他の塗布方法と比べて、
(1)大きな面積をきれいに、塗りムラなく塗布できる。
(2)印刷物層に凹凸があった場合にも、均一に塗布することができる。
(3)空気キャップの内圧力が低く、塗液中の粒子の速度が遅くなり、印刷物層にあたっても塗液が跳ね返らずに塗膜になる量が増え塗着効率がよい。
(4)低希釈率(高固形分)の塗液を塗布することができ、塗液コストの低減や環境改善を行うことができる。
【0053】
保護層の膜厚は1μm〜10μmであり、1.3μm〜6μmがより好ましく、2μm〜4μmが特に好ましい。ここで「膜厚」とは、塗液中の溶媒を留去し(乾燥させ)、重合又は架橋させた後の膜厚をいう。保護層が薄すぎると、光触媒粒子の光触媒機能による印刷物層中の有機物の劣化を抑えることができない場合があり、保護層が厚すぎると、それ以上厚くしても有機物の劣化を抑える効果が増大せずコスト的に不利になったり、塗布性能が劣り良好な保護層が形成できなくなったりする場合がある。
【0054】
本発明の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法は、上記保護層を形成させた後、施工現場で24時間以上経過させ、反応性シラン化合物が重合又は架橋した後に光触媒層を形成させることが好ましい。
【0055】
反応性シラン化合物のうちの好ましいアルコキシシラン化合物は、アルコキシシリル基(例えば−Si(OR))を持ち、これが空気中の水分と加水分解を起こしシラノール(例えば、−Si(OH))に変わる。シラノールが更に、隣のシラノールと脱水反応を起こし、架橋反応が進み重合体(ポリマー)となる。形成されたケイ素−酸素架橋(シラン架橋)は化学的に安定であるため、光触媒機能遮断性、耐熱性、耐酸性、耐UV性等に優れた保護層を形成することができる。
【0056】
保護層には、反応性シラン化合物以外にバインダーポリマー等としての樹脂を含有させることが好ましい。かかる樹脂は保護層の塗布性や塗膜性を向上させるために用いられるが、該樹脂の末端に又はペンダントに、上記反応性シラン化合物と結合し得る官能基を有していることが層全体の架橋性の向上等の点で特に好ましい。かかる官能基としては特に限定はないが、水酸基;カルボキシル基;アミノ基;エポキシ基;アルコキシシリル基等の架橋性シリル基;等が挙げられる。保護層中の樹脂(の主鎖)は、特に限定はないが、ビニル系樹脂、エステル系樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。特に好ましくは、反応性シラン化合物との相溶性、光触媒粒子の光触媒機能の遮断性等の点で、シリコーン樹脂である。保護層中で反応性シラン化合物と共に用いられる樹脂としては、架橋性能を有する官能基を持った変性シリコーン樹脂が特に好ましい。
【0057】
保護層を形成するための塗液の溶媒は、特に限定はないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;等が挙げられる。
【0058】
重合又は架橋の時間としては、24時間以上が好ましい。また、下記に示す通り、保護層又は光触媒層の形成は、相対湿度75%以下のときに行うことが好ましく、晴れ又は曇りの日に行うことが好ましい。
【0059】
<光触媒層>
本発明において、光触媒層は、光触媒粒子が光触媒機能を発揮し屋外構築物周辺の空間の大気浄化をして環境保護及び環境浄化のために形成される。形成方法としては、反応性シラン化合物が重合又は架橋してなる上記保護層の表面に、光触媒粒子である酸化チタン粒子を含有する塗液を、スプレーガンを用いて吹付けて形成させることを特徴とする。
【0060】
光触媒層の塗液は、光触媒粒子である酸化チタン粒子を含有する。光触媒粒子である酸化チタン粒子は、光触媒機能を有していれば特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができる。該酸化チタンは、アナターゼ(Anatase)型酸化チタン、ルチル(Rutile)型酸化チタン、ブルカイト(Brookite)型酸化チタンの何れでもよいが、光触媒機能に優れている点等から、アナターゼ型酸化チタンが好ましい。
【0061】
光触媒層には、他の無機粒子を含有させることも塗膜性等の点から好ましい。他の粒子としては特に限定はないが、二酸化ケイ素等が挙げられる。
【0062】
光触媒層を形成するための塗液の溶媒は、特に限定はないが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;等が挙げられる。
【0063】
光触媒層を形成するために用いられるスプレーガンとしては特に限定はなく、低圧方式から高圧方式のものまで用いられるが、下記する理由で低圧方式のものが好ましい。また用いる気体は特に限定はないが、空気が簡便であるために好ましい。スプレーガンとしては、エアー霧化低圧方式のスプレーガンが特に好ましい。
【0064】
本発明では、スプレーガンを用いて低希釈率(高固形分)の光触媒粒子を塗布することができる。光触媒層の塗液は、光触媒粒子である酸化チタン粒子を含有していれば、その他の成分に特に限定はなく、例えばバインダー等は含有していなくてもよい。バインダーを含有していない場合、光触媒粒子の希釈率は低くなる(高固形分濃度になる)ため、エアー霧化低圧方式のスプレーガンを用いる効果が特に発揮される。
【0065】
また、エアー霧化低圧方式のスプレーガンを用いて得られた光触媒層においては、均一に塗布されるため、光触媒粒子の実質的な表面積が増加し、高い触媒能力が得られると考えられる。
【0066】
エアー霧化低圧方式のスプレーガンは、上記した保護層の場合と同様に、圧縮空気の噴射気流によって塗布をするものであり、上記エアー霧化低圧方式のスプレーガンを用いると、他の塗布方法と比べて、
(1)大きな面積もきれいに、塗りムラなく塗布できる。
(2)印刷物層及び保護層に凹凸があった場合にも、均一に塗布することができる。
(3)空気キャップの内圧力が低く、塗液中の粒子の速度が遅くなり、保護層にあたっても塗液が跳ね返らずに塗膜になる量が増え塗着効率がよい。
(4)低希釈率(高固形分)の光触媒粒子を塗布することができ、塗液コストの低減や環境改善を行うことができる。
【0067】
光触媒層の膜厚は0.03μm〜1μmであり、0.05μm〜0.3μmがより好ましく、0.1μm〜0.3μmが特に好ましい。ここで「膜厚」とは、塗液中の溶媒を留去した後の膜厚をいう。光触媒層の膜厚が厚すぎると、表面が虹色に見える干渉縞が生じたり、乾燥前に塗液が下方に流れて塗膜が不均一になったり、コスト的に不利になったりする場合がある。一方、膜厚が薄すぎると、十分な光触媒機能を有さない場合がある。膜厚が可視光の波長、すなわち、0.4μm〜0.7μmのときは、干渉により表面が虹色に見え、印刷物の表現に悪影響を及ぼす場合がある。
【0068】
また、本発明の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法は、スプレーガンを用いての上記保護層の形成及び上記光触媒層の形成を、施工現場の相対湿度が75%以下の時に行うことが好ましい。
【0069】
相対湿度が75%より高い場合には、白化現象(ブラッシング)が出る場合がある。白化現象(ブラッシング)とは、塗膜表面に、かすみがかかったように白くボケてツヤがなくなる現象をいい、塗布直後、塗布溶媒の急激な蒸発により、空気中の水分が塗面上に凝結し起こる現象をいう。相対湿度は60%以下がより好ましく、50%以下が特に好ましい。
【0070】
また、本発明は、上記大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法を使用して施工されたものであることを特徴とする大気浄化機能を有する広告・告知メディアである。上記大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法を使用すれば、簡略な工程で大気浄化機能を有する広告・告知メディアを施工することができ、上記広告・告知メディアは、広告・告知効果と窒素酸化物等を除去する効果の両立に非常に優れている。
【実施例】
【0071】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0072】
実施例1
被印刷媒体として、(株)ニップコーポレーション社から入手できる「NSG1200GMRT−54」を用い、インクジェット印刷装置によって、画線部の面積が異なる種々の画像を印刷して印刷層を設けた。
【0073】
被印刷媒体として用いたものは、被印刷素材層40.5質量%、接着剤層12.6質量%、剥離シート46.9質量%が順番に積層されたものであり、その被印刷素材層は、ポリエチレンテレフタレート(PET)と芳香族系ポリマーをバインダーとするフィルム(29.7質量%)に、アクリル酸エステル共重合体をコート(10.8質量%)したものであった。すなわち、保護層が塗布される被印刷素材層の最表面はアクリル酸エステル共重合体であった。
【0074】
上記印刷された被印刷媒体は、大きさが、1370mm×1000mm×0.170mm(厚さ)であったが、印刷層を内側にして、直径200mmに巻き建設現場に移送した。次いで、建設現場である本告知メディアの設置現場において、上記被印刷媒体から剥離シートを剥離して、建設現場の周囲に設けられていた基板に貼り付けた。
【0075】
その後、保護層として、石原産業(株)社製の2液型の「ST−K152」(固形分濃度10質量%)を、エアー霧化低圧方式のスプレーガンを使用した精和産業株式会社製「クリーンボーイ300E」を用いて、2回に分けて塗布した。2回の合計塗布量は60g/m、得られた保護層の全体の乾燥膜厚は3μmであった。用いたエアー霧化低圧方式のスプレーガンの空気圧力は39kPa、空気量は2000L/分であった。塗布時の施工現場である屋外の相対湿度は50%であった。
【0076】
上記石原産業(株)社製の2液型の「ST−K152」は、変性シリコーン樹脂を溶媒に溶解した主剤「ST−K152a」と、反応性シラン化合物であるアルコキシシラン化合物を溶媒に溶解した助剤「ST−K152c」の混合物である。主剤と助剤を塗布の直前に混合して塗布液とした。
【0077】
上記のように塗布後、気温が約20℃の屋外に1日間(24時間)設置し、塗布液中の溶媒の乾燥と、シラン化合物の重合や変性シリコーン樹脂への架橋を進行させ保護層を設けた後、設置現場において、その保護層の上に以下のように光触媒層を設けた。
【0078】
光触媒層として、光触媒として二酸化チタンを含有する石原産業(株)社製の「ST−K252」(固形分濃度0.4質量%)を、保護層の塗布の際に用いたものと同様のエアー霧化低圧方式のスプレーガンを使用した装置を用いて、2回に分けて塗布した。2回の合計塗布量は50g/m、得られた保護層の全体の乾燥膜厚は0.2μmであった。用いたエアー霧化低圧方式のスプレーガンの空気圧力は39kPa、空気量は2000L/分であった。塗布時の相対湿度は50%であった。光触媒層を塗布後、気温が約20℃の屋外に1時間放置し、塗布液中の溶媒を留去させて、大気浄化機能を有する広告・告知メディアを完成させた。
【0079】
保護層及び光触媒層は、ともに無色透明だったので、得られた告知メディアは、印刷された説明文、写真等が、保護層及び光触媒層が設けられる前と全く同じように視認できた。また、設置現場で保護層及び光触媒層を設けたので、すなわち、設置現場に移送した段階では、「印刷後の被印刷媒体」には、保護層及び光触媒層が設けられていないので、移送中に保護層及び光触媒層に擦り傷や摩耗が生じ得なかった。特に、光触媒層は機械的な衝撃で破損し易いが、移送中にそのようなことが起こる可能性はなかった。
【0080】
上記告知メディアを、50mm×100mmに切り出し、正面から下記照度の紫外線を5時間照射しながら、気体が流通する密封容器中で、1ppmの濃度に設定した混合ガスを毎分3L、5時間供給し、NOxの分解量を測定、計算した。
【0081】
まず、密封容器中に上記告知メディアを入れ、精密湿度発生装置を用いて容器中の湿度を65%に調節し、照度計で照度を10W/mに調節しながら、紫外線照射装置で紫外線を照射した。その後、紫外線を5時間照射し続けながら、ガスブレンダーを用いて1ppmの濃度に設定した混合ガスを毎分3Lで5時間供給し、密封容器から排出されたNOx量を窒素酸化物測定装置及びイオンクロマトグラフを用いて常法により測定し、そこからNOx吸着量、NO除去量、NO生成量、NOx脱着量を計算した。
【0082】
試験装置の形式と仕様は以下の通りであった。
(1)精密湿度発生装置:SRG−112−3(第一科学製) (湿度0〜100%調整可、最大送風3.0L/分)
(2)窒素酸化物測定装置:APNA−370(堀場製作所製) (窒素酸化物濃度検出下限0.1ppb)
(3)ガスブレンダー:BG−2C(コフロック製) (ライン1≦3.0L/分、ライン2≦50mL/分)
(4)紫外線照射装置:ブラックライト EL10BCR(東芝製) 2本
(5)照度計:光パワーメーターC9536−01、H9958−01(浜松ホトニクス製)
(6)イオンクロマトグラフ:IC−2001(東ソー製) (NOxイオン濃度検出限界1ppb)
【0083】
試験条件は以下の通りであった。
(1)混合ガスの種類:一酸化窒素(NO) 66.3ppm/窒素バランス
(2)ガス供給濃度:ガスブレンダーで1ppmに希釈して供給
(3)水蒸気濃度:50%
(4)流速:3.0L/分(湿度50%純空気、1ppm NO添加)
(5)紫外線の照度:試験片表面にて10W/m
【0084】
その結果、NOx吸着量=0.572μmol、NO除去量=6.814μmol、NO生成量=0.460μmol、NOx脱着量=0.219μmolであった。
【0085】
そして、下記式によりNOx除去量を計算した。
NOx除去量=NOx吸着量+NO除去量−NO生成量−NOx脱着量
【0086】
その結果、NOxの除去量は、10.14μmolであり、1000mに換算すると、2.028mol、つまり75.03g[NOx1molの質量は、(NOの1molの質量30g+NOの1molの質量44g)/2=37gを用いて計算した。]となり、屋外での1日当たりの紫外線照射時間を8時間としたとき、1000mでの分解量を計算すると、75g×8(1日の照射時間)/5(試験時間)=120gとなる。
【0087】
環境再生保全機構編「大気浄化植樹マニュアル」にある、ポプラが1日当たりに減らすNOxの量0.57gを用いて計算すると、120/0.57=210.5本分に相当する(一本のポプラの枝張を5m×5m=25mとすると5260mに相当する)ことになり、その効果は大きいことが分かった。また、用いた画線部の面積が異なる種々の画像で同様の結果が得られた。
【0088】
実施例2
被印刷素材層の材質を変化させて検討するため、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に、表1で表わされるポリマーを乾燥膜厚100μmとなるように塗布して試験シートを得た。被印刷素材層の材質であるポリマーの分子量は、それぞれ最も汎用のものを用いた。
【0089】
この試験シートには接着剤層と剥離シートはないが、被印刷素材層を変化させた被印刷媒体のモデルとして用いた。また、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム自体、綿100%よりなる布(材質セルロース)、及び、ケント紙(材質セルロース)も、試験シートとして、被印刷素材層の材質として加えて評価した。
【0090】
実施例1において、「NSG1200GMRT−54」に代えて、上記で得られた表1に示す試験シートNo.1〜7を用いた以外は、実施例1と同様に、モデル「広告・告知メディア」を調製した。
【0091】
得られたモデル「広告・告知メディア」を実施例1と同様に評価し、以下の基準で判定した。供給したNOのモル数に対する除去されたNOxの割合(除去率)を、「NOx除去率」とする。結果を表1に示す。
【0092】
<NOx除去率の判定基準>
○:NOx除去率が10%以上
△:NOx除去率が1%以上10%未満
×:NOx除去率が1%未満
【0093】
【表1】

PMMA:ポリメチルメタクリレート
MMA :メチルメタクリレート
BA :ブチルアクリレート
PVC :ポリ塩化ビニル
PP :ポリプロピレン
PET :ポリエチレンテレフタレート
【0094】
表1より、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を被印刷素材層の材質として用いた時だけ、NOx除去率が10%以上となり(試験シート1、2)、その他の材質では10%未満であった(試験シート3〜7)。これより、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体が、被印刷素材層の材質として優れていることが分かった。
【0095】
実施例3
「NSG1200GMRT−54」に代えて、表2に示す市販のフィルムを被印刷媒体として用いて、実施例1と同様に、「広告・告知メディア」を調製した。
【0096】
【表2】

【0097】
得られた「広告・告知メディア」を実施例1と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0098】
【表3】

【0099】
表3に示した結果から、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を被印刷素材層の材質として用いたもの(被印刷媒体記号A及びB)では、NOx除去率が10%以上となり、その他の材質では10%未満であった。これより、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体が、被印刷媒体の最外層である被印刷素材層の材質として優れていることが分かった。
【0100】
実施例4
印刷物層又は印刷層の耐候性を評価するため、被印刷媒体記号A、B、C、D、Fに対して、保護層と光触媒層なし、保護層と光触媒層ありについて、以下の評価を行った。印刷は実施例1と同様のものを行った。また、塗布方法、塗布条件、それぞれの層の厚さ等も実施例1と同様に行った。結果を表4に示す。
【0101】
<耐候性の評価方法>
JIS K 5600−7−7:2008 塗料一般試験方法−第7部:塗膜の長期耐久性−第7節:促進耐候性及び促進耐光性(キセノンランプ法)に準じて行った。評価は印刷画像について目視による外観検査を行った。
【0102】
試験条件は以下の通りであった。
方法:方法1 促進耐候性(デイライトフィルタ)
装置:スーパ−キセノンウェザーメーター SX75 スガ試験機(株)製
放射光源:キセノンアークランプ 7.5kW 水冷式
照度計:本体用受光器(EC) 放射照度計RAX34C スガ試験機(株)製
スタンダード温度:65±2℃
試験片ぬれサイクル:B[不連続運転 ぬれ時間18分 乾燥時間102分]
試験時間:100時間
放射照度:100W/m(調節波長範囲300〜400nm)
積算放射照度:36mJ/m
【0103】
【表4】

【0104】
表4に示した結果から、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体の上に保護層と光触媒層を設けたものでは何れも耐候性が良好であった(被印刷媒体記号A、B)。一方、ポリ塩化ビニルの上に保護層と光触媒層を設けたものでは、被印刷媒体記号Cの被印刷媒体では耐候性が良好であったが、被印刷媒体記号Dの被印刷媒体では印刷画像に変色が見られ、耐候性が不良であった。また、保護層と光触媒層の両方を設けなかったものでは、被印刷素材層の表面の材質によらず、実験した全てが印刷画像に変色が見られ、耐候性が不良であった。
【0105】
比較例1
被印刷媒体の被印刷素材層の表面に所望の印刷を施し、その場で該被印刷媒体の剥離シートを剥離して、基板に該接着剤層を接着して印刷物層を形成させ、その場で該印刷物層の表面に、実施例1と同様にして、塗液をエアー霧化低圧方式のスプレーガンを用いて吹付けて保護層と光触媒層を形成させた。
【0106】
これを屋外構築物の周辺にある施工現場に移送した際、光触媒層に擦り傷や摩耗が生じてしまい、印刷画像が不良となり、広告・告知メディアとして使用できなかった。
【0107】
比較例2
保護層を設けない以外は実施例1と同様に層を構成したが、印刷画像に変色が見られ、促進耐光性(キセノンランプ法)が不良であった。
また、保護層中に反応性シラン化合物を含有させず、重合も架橋もしないシリコーン樹脂(ポリオルガノシロキサン)のみで保護層を形成したが、印刷画像に変色が見られ、促進耐光性(キセノンランプ法)が不良であった。
【0108】
比較例3
保護層を0.8μmで設けた以外は実施例1と同様にしたが、印刷画像に変色が見られ、促進耐光性(キセノンランプ法)が不良であった。
【0109】
参考例1
相対湿度が80%の環境で、保護層及び光触媒層を設けた以外は実施例1と同様にしたところ、十分良好に使用可能ではあったが、何れの層も白化現象(ブラッシング)が若干出て、塗膜表面が白くボケてツヤがなくなり、印刷画像の外観がやや不良となった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法は、大気浄化機能を有する広告・告知メディアを簡略な工程で施工することに優れ、また、本発明の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法を使用して施工された大気浄化機能を有する広告・告知メディアは、広告・告知効果と窒素酸化物を除去する効果の両方に優れているため、屋外に建築、建設又は建造される、土木、建築等で構築された物;屋外に設置される看板、広告塔等;物品の運搬や保管をする構造物;等、例えば、建築物等の構築物自体;構築物周辺に作られる外構物(例えば、柵、フェンス、パネル、外壁等の囲い);屋外看板;公共施設物等の付帯設備物や仮囲い;占用看板;工事用看板;換気塔;ピア;標識;キロポスト;橋脚;橋桁;駅、バス停等の交通機関の構築物自体やその周辺に作られる外構物;ウィンドウサイン;バス、車輛、鉄道車輛等の車体;船舶;飛行機;コンテナ(貨物の運送に用いる輸送箱、簡易倉庫として利用されるもの等);日よけ看板;自動販売機;駐車場看板;等に設置される広告・告知メディアとして広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0111】
10 印刷物層
11 印刷層
12 被印刷素材層
13 接着剤層
14 剥離シート
15 被印刷媒体
20 保護層
30 光触媒層
40 屋外構築物の側面又は該側面に設置された基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離シート、接着剤層、及び、(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体を少なくともその表面に有する被印刷素材層を積層して調製した被印刷媒体の該被印刷素材層の表面に所望の印刷を施し、
大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工現場で、該被印刷媒体の剥離シートを剥離して、屋外構築物の少なくとも1つの側面に直接又は該側面に設置された基板に、該接着剤層を接着して印刷物層を形成させ、
次いで、該施工現場で、該印刷物層の表面に、反応性シラン化合物を含有する塗液を、スプレーガンを用いて吹付けて、膜厚1μm〜10μmの保護層を形成させ、
更に、反応性シラン化合物が重合又は架橋してなる該保護層の表面に、光触媒粒子である酸化チタン粒子を含有する塗液を、スプレーガンを用いて吹付けて、膜厚0.03μm〜1μmの光触媒層を形成させることを特徴とする大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法。
【請求項2】
上記被印刷素材層がその表面に有する(メタ)アクリル酸エステル(共)重合体が、メタクリル酸メチル共重合体である請求項1に記載の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法。
【請求項3】
上記スプレーガンがエアー霧化低圧方式のスプレーガンである請求項1又は請求項2に記載の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法。
【請求項4】
スプレーガンを用いての上記保護層の形成及び上記光触媒層の形成を、施工現場の相対湿度が75%以下の時に行う請求項1ないし請求項3の何れかの請求項に記載の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法。
【請求項5】
上記保護層を形成させた後、施工現場で24時間以上経過させ、反応性シラン化合物が重合又は架橋した後に光触媒層を形成させる請求項1ないし請求項4の何れかの請求項に記載の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法。
【請求項6】
上記屋外構築物が、建築物、建築物周辺に作られる外構物、コンテナ、屋外看板、又は、車輌の車体である請求項1ないし請求項5の何れかの請求項に記載の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法。
【請求項7】
上記被印刷素材層に施す印刷が、スクリーン印刷又はインクジェット印刷である請求項1ないし請求項6の何れかの請求項に記載の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れかの請求項に記載の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法を使用することを特徴とする大気浄化機能を有する広告・告知メディアの製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7の何れかの請求項に記載の大気浄化機能を有する広告・告知メディアの施工方法を使用して施工されたものであることを特徴とする大気浄化機能を有する広告・告知メディア。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−63435(P2012−63435A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205835(P2010−205835)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(509331205)ビイ アンド ビイ株式会社 (3)
【Fターム(参考)】