説明

大気浄化用の光触媒塗布材とこの光触媒塗布材を用いた大気浄化舗装工法および大気浄化壁面作製工法

【課題】NO処理性能を飛躍的に高められる大気浄化用の光触媒塗布材を提供すること。
【解決手段】本発明では、セメント、充填材、光触媒(TiO:二酸化チタン)を主な構成成分とし、水と混合して塗布する従来の大気浄化用の光触媒塗布材に、疎水性合成ゼオライトの粉末を2〜20重量%添加して本発明の新たな大気浄化用の光触媒塗布材を得る。本発明の大気浄化用の光触媒塗布材の用途は、舗装以外にも種々考えられ、例えば、水と混合して構造物の壁面に塗布し、大気を浄化する壁面を作製するようにしてもよい。この場合、構造物とは、コンクリート壁や、学校や病院などの建物、土木構造物、道路遮音壁等のようなものを広く含むが、壁面の面積が大きい場合に、NO処理能力が大きくなるため特に好適となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセメント、光触媒混合物を主成分とする大気浄化用の光触媒塗布材と、この光触媒塗布材を用いた大気浄化舗装工法および大気浄化壁面作製工法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメント、珪砂(微細粒子)及び光触媒(TiO:二酸化チタン)を主な構成成分とした混合物に水を加えてスラリー状としてアスファルト舗装表面に塗布し厚さ0.5〜1.5mm程度にコーティングすることにより、大気中の窒素酸化物(NO)を処理する工法(フォトロード工法)は、1999年に技術開発を完了して現在事業化している(特許文献1)。
本工法は舗装表面で太陽光エネルギー(太陽光中のUV:波長390nm程度)を受けて光触媒によりNOを処理する工法である。図1にNO処理のメカニズムを示すように、車から排出されるNOは光触媒で酸化して硝酸となり、光触媒塗布材の主要成分であるカルシウムと化合して無害な硝酸カルシウムとなる。硝酸カルシウムは降雨時に無害で植物の肥料成分である硝酸イオン及びカルシウムイオンとして洗い流され、光触媒は再び光触媒反応がより活発になされる状態に復元される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3740597号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、日々NO処理性能について鋭意研究をしている。その結果、NO処理性能を飛躍的に高めることができる大気浄化用の光触媒塗布材を見い出すに至った。
すなわち、本発明の目的は、NO処理性能を飛躍的に高めることができる大気浄化用の光触媒塗布材を提供することにある。
また、本発明の目的は、その光触媒塗布材を水と混合して舗装(密粒アスファルト舗装、排水性舗装、半たわみ性舗装など)の表面に塗布するようにした大気浄化舗装工法および構造物の壁面に塗布するようにした大気浄化壁面作製工法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するため本発明は、セメント、珪砂、光触媒(二酸化チタン)を主成分とし、水と混合して使用される大気浄化用の光触媒塗布材であって、疎水性合成ゼオライトの粉末が2重量%〜20重量%添加されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記の大気浄化用の光触媒塗布材を、水と混合して舗装の表面に塗布するようにしたことを特徴とする大気浄化舗装工法である。
また、本発明は、前記の大気浄化用の光触媒塗布材を、水と混合して構造物の壁面に塗布するようにしたことを特徴とする大気浄化壁面作製工法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の大気浄化用の光触媒塗布材によれば、汚染物質であるNOの処理能力を格段と高めることができる。
本発明の大気浄化舗装工法によれば、道路上におけるNOの処理能力を格段と高めることができ、また、本発明の大気浄化壁面作製工法によれば、構造物の壁面上におけるNOの処理能力を格段と高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】NO処理のメカニズムを示す図である。
【図2】試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者らは、NO処理性能を高めるについて鋭意研究の結果、疎水性合成ゼオライトに着目するに至った。
本発明では、セメント、充填材、光触媒(TiO:二酸化チタン)を主な構成成分とし、水と混合して舗装表面に塗布する従来の大気浄化用の光触媒塗布材に、疎水性合成ゼオライトの粉末を2〜20重量%添加して本発明の新たな大気浄化用の光触媒塗布材を得る。
セメントは光触媒を保持する保持材として、また、充填材を舗装表面や壁面などの被対象面に取着させる取着材として機能する。
また、充填材は、耐摩耗性向上などの物性改善及び容積を増すために用いられるもので、珪砂(微細粒子)のほかに、ガラス粒子やセラミックス粒子などを用いることができる。
【0009】
ゼオライト(沸石)は、アルミノケイ酸塩のなかで結晶構造中に比較的大きな空隙を持つものの総称である。一般的なゼオライト(沸石)は、親水性であり大気中の水を吸着するため乾燥剤或は脱水材として利用されており、工業的には分子ふるい、イオン交換材料、触媒、吸着材料として利用されている。
疎水性ゼオライトは、ゼオライト中の酸化珪素(SiO)の比率を高め、ハイシリカゼオライトにすることにより、水のような極性物質に対する親和性を失い、非極性物質をより強く吸着するようにしたものである。すなわち、極性化合物である水の吸着が無いため大気中の水分に影響されることが無く、汚染物質であるNOの処理能力を高めることができる。
中でも、ポアサイズが数〜6オングストローム(Å)に加工された疎水性合成ゼオライトの粉末は、NO分子を補足吸着するのに適しており、吸着性能が特に高い。
【0010】
大気浄化用の光触媒塗布材はセメント成分が水と混合することにより、多数の無機化合物が結晶化して固化するによって光触媒(塗布材中の含有量15%程度)粒子径20〜30nm程度の微細粉末をコーティング層に固定化し大気中のNO処理性能を発揮するものである。
この従来の大気浄化用の光触媒塗布材に、疎水性合成ゼオライトの粉末を2〜20重量%添加した新たな大気浄化用の光触媒塗布材を、水と混合して舗装表面に塗布することにより、NO除去量をゼオライト無添加の従来の光触媒塗布材及び天然ゼオライト添加の光触媒塗布材と比較して著しく高められることが確認できた。
これは、光触媒による酸化機能と疎水性合成ゼオライト粉末によるNO分子補足吸着機能との相乗効果によるものと考えられる。また、疎水性合成ゼオライトの吸着現象による飽和状態が見られず光触媒により疎水性合成ゼオライトに吸着したNOxの分解による再生が行われていることが確認できた。また、疎水性合成ゼオライトは天然(親水性)ゼオライトのように大気中の水分を吸着することが無いため、NOxを効果的に吸着して大気浄化効果を向上するものと思われる。
【0011】
光触媒塗布材に添加する疎水性合成ゼオライトの粉末の割合を2重量%以上としたのは、2重量%に満たない割合では、NO処理性能の増加が小さいためである。また、光触媒塗布材に添加する疎水性合成ゼオライトの粉末の割合を20重量%以下としたのは、20重量%を超えると、充填材の接着性に影響を及ぼし、また、被対象面が舗装表面である場合には、出来上がった舗装表面の強度、耐摩耗性に影響が出てくるためである。
このような物性およびNO処理性能の観点から光触媒塗布材に添加する疎水性合成ゼオライトの粉末の割合は、2〜20重量%が好ましく、5〜10重量%であるとより好ましい。
【0012】
また、添加する疎水性合成ゼオライトの粉末の粒子径は、3μm〜250μmが好ましく、3μm〜10μmであるとより好ましい。疎水性合成ゼオライトの粉末の粒子径は、その製造工程において調整可能であり、粒子径が250μmを超えると、光触媒との相乗効果が小さくなり、NO処理性能の増加が小さくなる。また、疎水性合成ゼオライトの粉末の粒子径が3μmに満たないと、塗布後のコーティング層の多孔質性が損なわれ表面が平坦となり表面積が小さくなるためNO処理性能が小さくなる。
【0013】
本発明の大気浄化用の光触媒塗布材の用途は、舗装以外にも種々考えられ、例えば、水と混合して構造物の壁面に塗布し、大気を浄化する壁面を作製するようにしてもよい。この場合、構造物とは、コンクリート壁や、学校や病院などの建物、土木構造物、道路遮音壁等のようなものを広く含むが、壁面の面積が大きいほどNO処理能力が大きくなるため特に好適となる。
【実施例】
【0014】
(試験方法)
従来例、比較例1、2、実施例1〜7について、NO処理性能をJIS R 1701−1「光触媒材料の空気浄化性能試験方法 第一部:窒素酸化物の除去性能試験」に準拠した試験法により測定を行った。
本試験法は大気浄化用の光触媒塗布材の試験体を上部が光(UV)を透過するガラスにより構成された試料セルにいれ、UVランプにより紫外線を照射し、一定濃度の一酸化窒素(N0)を含むガスを流し、出口部のNO濃度を測定して光触媒塗布材による除去量を測定するものである。なお、ゼオライトによるNOの吸着現象による影響を除くために光(UV)を遮断した状態でNOガスを流し、吸着によるNO濃度の低下が収まった段階(吸着飽和状態)で光(UV)を照射して測定を行った。
【0015】
従来例:従来のセメント、光触媒系の大気浄化用の光触媒塗布材である。なお、本光触媒塗布材中の光触媒(二酸化チタン)含有量は15%である。
比較例1:セメント、光触媒系の大気浄化用の光触媒塗布材に(親水性)天然ゼオライト粉末(粒子径:3〜100μm)を5重量%添加した大気浄化用の光触媒塗布材である。
比較例2:セメント、光触媒系の大気浄化用の光触媒塗布材に疎水性合成ゼオライト粉末(粒子径:3〜100μm)を1重量%添加した大気浄化用の光触媒塗布材である。
実施例1:セメント、光触媒系の大気浄化用の光触媒塗布材に疎水性合成ゼオライト粉末(粒子径:3〜100μm)を2重量%添加した光大気浄化用の触媒塗布材である。
実施例2:セメント、光触媒系の大気浄化用の光触媒塗布材に疎水性合成ゼオライト粉末(粒子径:3〜100μm)を5重量%添加した大気浄化用の光触媒塗布材である。
実施例3:セメント、光触媒系の大気浄化用の光触媒塗布材に疎水性合成ゼオライト粉末(粒子径:3〜100μm)を10重量%添加した大気浄化用の光触媒塗布材である。
実施例4:セメント、光触媒系の大気浄化用の光触媒塗布材に疎水性合成ゼオライト粉末(粒子径:3〜100μm)を20重量%添加した大気浄化用の光触媒塗布材である。
実施例5:セメント、光触媒系の大気浄化用の光触媒塗布材に疎水性合成ゼオライト粉末(粒子径:3〜10μm)を10重量%添加した大気浄化用の光触媒塗布材である。
実施例6:セメント、光触媒系の大気浄化用の光触媒塗布材に疎水性合成ゼオライト粉末(粒子径:100〜250μm)を10重量%添加した大気浄化用の光触媒塗布材である。
実施例7:セメント、光触媒系の大気浄化用の光触媒塗布材に疎水性合成ゼオライト粉末(粒子径:250〜500μm)を10重量%添加した大気浄化用の光触媒塗布材である。
なお、比較例2と実施例1〜4では、疎水性合成ゼオライトとして、ユニオン昭和(株)製の商品名「モレキュラーシーブHiSiv−3000」を用いた。
【0016】
(試験結果)
NO処理性能試験結果を図2に示す。
[試験条件]
試験対寸法:50mm×100mm(ガラス基板に塗布材約1mm塗布)
供給ガスNO濃度:1.0volppm(湿度:50%)
供給ガス流量:3.0L/min
UV照射強度:10W/m2
測定時間:5h
【0017】
(比較例1)
天然ゼオライト粉末を添加した比較例1では、ゼオライト粉末を用いていない従来例に比べて、NO処理性能が僅かに上昇するに留まる。
(比較例2)
光触媒系の塗布材に疎水性合成ゼオライト粉末(粒子径:3〜100μm)を1%添加した比較例2では、添加する疎水性合成ゼオライト粉末の量が少ないため、従来例に比べてNO処理性能が上昇しているものの、顕著に上昇するとはいえない。
【0018】
(実施例1)
光触媒系の塗布材に疎水性合成ゼオライト粉末(粒子径:3〜100μm)を2%添加した実施例1では、従来例に比べてNO処理性能が約25%向上し顕著な上昇となった。
(実施例2、3、4)
光触媒系の塗布材に疎水性合成ゼオライト粉末を5重量%、10重量%、20重量%添加した実施例2、3、4では、実施例1に比べてNO処理性能が更に上昇し、実施例3、4では、従来例の処理能力の約1.5倍となっている。
一方、光触媒系の塗布材に疎水性合成ゼオライト粉末を20重量%添加した実施例4は、光触媒系の塗布材に疎水性合成ゼオライト粉末を10重量%添加した実施例3よりもNO処理性能が僅かに低下している。これは、光触媒による酸化機能と疎水性合成ゼオライト粉末によるNO分子補足吸着機能との相乗効果が減衰しているものと考えられる。
したがって、実施例1、2、3、4から、物性およびNO処理性能の観点から光触媒塗布材に添加する疎水性合成ゼオライトの粉末の割合は、2〜20重量%が好ましく、5〜10重量%がより好ましい。
(実施例5)
粒子径が3μm〜10μmの疎水性合成ゼオライトの粉末を用いた実施例5では、疎水性合成ゼオライト粉末(粒子径が3μm〜100μm)を同じ10%添加した実施例3に比べてNO処理性能が更に上昇している。
(実施例6)
粒子径が100μm〜250μmの疎水性合成ゼオライトの粉末を用いた実施例6では、従来例に比べてNO処理性能が顕著に上昇しているものの、疎水性合成ゼオライト粉末を同じ10%添加した実施例3(粒子径が3μm〜100μm)、実施例5(粒子径が3μm〜10μm)に比べてNO処理性能が僅かに低下している。
(実施例7)
粒子径が250μm〜500μmの疎水性合成ゼオライトの粉末を用いた実施例7では、従来例に比べてNO処理性能が顕著に上昇しているものの、実施例6(粒子径が100μm〜250μm)に比べてNO処理性能が僅かに低下している。
したがって、実施例5、6、7から、添加する疎水性合成ゼオライトの粉末の粒子径は、3μm〜250μmが好ましく、3μm〜10μmであるとより好ましい。
【0019】
図2から、実施例1、2、6、7では従来例のNO除去量(JIS R 1701−1による測定結果)の約1.3〜1.4倍となり、実施例3、4、5では従来例のNO除去量の1.5倍以上となり、本発明の大気浄化用の光触媒塗布材によれば、NO処理性能を、従来の光触媒塗布材に比べて著しく高められることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、珪砂、光触媒(二酸化チタン)を主成分とし、水と混合して使用される大気浄化用の光触媒塗布材であって、
疎水性合成ゼオライトの粉末が2重量%〜20重量%添加されている、
ことを特徴とする大気浄化用の光触媒塗布材。
【請求項2】
前記疎水性合成ゼオライトが5重量%〜10重量%添加されている、
ことを特徴とする請求項1記載の大気浄化用の光触媒塗布材。
【請求項3】
疎水性合成ゼオライトの粉末の粒子径は、3μm〜250μmである、
ことを特徴とする請求項1または2記載の大気浄化用の光触媒塗布材。
【請求項4】
疎水性合成ゼオライトの粉末の粒子径は、3μm〜10μmである、
ことを特徴とする請求項3記載の大気浄化用の光触媒塗布材。
【請求項5】
請求項1乃至4に何れか1項記載の大気浄化用の光触媒塗布材を、水と混合して舗装の表面に塗布するようにした、
ことを特徴とする大気浄化舗装工法。
【請求項6】
請求項1乃至4に何れか1項記載の大気浄化用の光触媒塗布材を、水と混合して構造物の壁面に塗布するようにした、
ことを特徴とする大気浄化壁面作製工法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−5914(P2012−5914A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−141369(P2010−141369)
【出願日】平成22年6月22日(2010.6.22)
【出願人】(302060926)株式会社フジタ (285)
【出願人】(592049531)フジタ道路株式会社 (4)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】