説明

大気浄化用塗料組成物及び大気浄化道路構造体

【課題】大気浄化性能の低下を防止して,長期にわたって浄化性能を発揮する。
【解決手段】塗膜形成材として(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーエマルジョン及びコロイダルシリカを含有する水性樹脂組成物に,該塗膜形成材100重量部当たり固形分基準で約2〜50重量部のシリコン系撥水剤を添加し,更に該混合物の固形分基準100重量部に対し,光触媒物質を1〜100重量部を添加し,無機充填物質を50〜300重量部,顔料を添加し,水あるいはアルコール類あるいはそれらの混合物で分散させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は大気浄化作用を持つ大気浄化用塗料組成物及びこれを用いた道路構造体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
環境浄化に光触媒を利用する技術に関する研究は数多くなされている。自動車排ガス中のNOxを除去するため,道路舗装構造用の光触媒材料が開発されており,その光触媒材料をバインダー等と混合した塗膜を舗装道路の表面に塗布するなどにより,大気浄化を行う方法が提案されている(特許文献1〜8参照)。
【0003】
ところで,光触媒は,光エネルギーにより生成する活性酸素によって汚染物質を酸化分解する光触媒作用を発揮するものであるが,そのような活性酸素は,自身を結着しているバインダーをも分解する作用があり,塗料においては表面が白化し,チョーキング現象と呼ばれる現象が生じる。塗膜に光が当たると塗料の有機成分が分解して塗膜が白化する作用である。
このため,光触媒材料の開発に当たっては,難分解性結着材をバインダーとして用いることが一般的であり,特許文献1等では,光触媒材料をコロイダルシリカ等の難分解性結着材を介して基体上に接着させている。
【特許文献1】特開平7−171408号公報
【特許文献2】特開2002−265852号公報
【特許文献3】特許第2776259号公報
【特許文献4】特許第2920140号公報
【特許文献5】特開2002−85977号公報
【特許文献6】特許第3740598号公報
【特許文献7】特開平9−227203号公報
【特許文献8】特開平11−6102号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし,路面などに施工される場合には特に自動車の走行による粉塵が多く,光触媒製品は粉塵などの付着により性能低下が起こることが問題となった。光触媒の表面に,分解できない酸化物の粉塵粒子が付着した場合には,光触媒材料に到達すべき光を遮り,かつ分解すべき大気汚染物質を遮断するため,光触媒材料による汚染物質の分解効果は低下してしまった。このため,長期間経過すると粉塵による表面汚れのため大気浄化性能が低下する問題があった。
【0005】
本発明は上記の問題点を解決するためになされたものであり,大気浄化性能の低下を防止して,長期にわたって浄化性能を発揮することができる大気浄化用塗料組成物及びこれを用いた道路構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は,難分解性結着材に加えて分解性の結着材を適量加えることにより,表面が一部分解剥離することにより表面の粉塵の固着を防ぎ,光触媒物質を表面に露出させて,光触媒性能を維持させる光触媒塗料である。
この場合,分解性の結着材が多過ぎると塗膜の劣化が進み剥離などの問題が生じる。また,難分解性の結着材が多過ぎると表面の付着物を防止する効果が期待できない。このためには,分解性と難分解性の結着材の適度な配合が必要である。路面用の塗布材などの用途にはこのタイプの光触媒材料が有効であることを見出し,本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち,本発明の大気浄化用塗料組成物は,塗膜形成材として(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーエマルジョン及びコロイダルシリカを含有する水性樹脂組成物に,該塗膜形成材100重量部当たり固形分基準で約2〜50重量部のシリコン系撥水剤を添加し,更に該混合物の固形分基準100重量部に対し,光触媒物質を1〜100重量部を添加し,無機充填物質を50〜300重量部を添加し,水あるいはアルコール類あるいはそれらの混合物で分散させたことを特徴とする。
難分解性結着材としてコロイダルシリカ,分解性結着材として(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーエマルジョンを使用したものである。
【0008】
また,本発明の大気浄化用塗料組成物において,前記(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーエマルジョンとコロイダルシリカの混合比率を100重量部:5〜100重量部としたことを特徴とする。
また,本発明の大気浄化用塗料組成物において,さらに200〜1000μmの粒径の砂を加えてもよい。この砂を加えることで,塗膜表面の滑り抵抗,耐摩耗性を増加させることができ,表面の一部が分解することに対して,磨り減りにくくする作用がある。
さらに,本発明の大気浄化用塗料組成物において,粉砕したパルプを添加してもよい。パルプの添加により塗膜に微細な空隙ができることにより,塗膜の表面積が増加して大気浄化性能が向上する。また,パルプは有機物であるため,光触媒物質によって分解されることにより,分解性結着材の作用とともに塗膜表面を分解する作用を有する。
【0009】
また,大気浄化道路構造体としては,これら本発明の大気浄化用塗料組成物を道路面に塗布し,乾燥し,硬化させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明による大気浄化用塗料組成物及びこれを用いた大気浄化道路構造物は,難分解性結着材に加えて分解性結着材を添加しているので,塗膜表面の一部を分解しつつ光触媒機能を有効に維持させることができ,アスファルト道路およびコンクリート舗装道路を基盤とした持続性の高い大気浄化舗装として利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下,本発明に係る大気浄化用塗料組成物の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
本実施形態の大気浄化用塗料組成物は,塗膜形成材として(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーエマルジョン及びコロイダルシリカを含有する水性樹脂組成物に,該塗膜形成材100重量部当たり固形分基準で約2〜50重量部のシリコン系反応型撥水材を添加し,更に該混合物の固形分基準100重量部に対し,光触媒用の酸化チタンを5〜100重量部を添加し,無機充填物質を50〜300重量部,顔料を添加し,水あるいはアルコール類あるいはそれらの混合物で分散させたものである。
そして,この大気浄化用塗料組成物を道路面に塗布し,乾燥し,硬化させることにより,大気浄化道路構造体が構築される。
以下,この大気浄化用塗料組成物の構成成分について詳細に説明する。
【0012】
(コロイダルシリカ)
コロイダルシリカは,難分解性結着材であるから,これを多量に添加すると光触媒反応により表面が剥がれる効果がなくなり,性能が維持されない。また,コロイダルシリカの添加量が少ないと塗膜の劣化が早く,必要な耐久性がない。このため,(メタ)アクリル酸エステルポリマーエマルジョン100重量部に対してコロイダルシリカは5〜100重量部の範囲で添加する必要がある。更に好ましくは5〜50重量部の範囲が好ましい。
コロイダルシリカはモンサントケミカル社,デュポン社,ナショナルアルミネート社,日産化学株式会社,日本触媒化成株式会社などから市販されているものを使用できる。微細なシリカ粒子の水分散体である。
【0013】
((メタ)アクリル酸エステル系ポリマーエマルジョン)
(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーエマルジョンは,分解性結着材であり,例えば,アクリル酸エステル,またはメタクリル酸エステル,エチレンを含むモノマー混合物を水中乳化させ,次いで重合開始剤を加えて加熱重合させることにより,任意の固形分の目的とするポリマーエマルジョンが得られる。これを使用する。
【0014】
(撥水剤)
塗膜に通気性を付与することにより塗膜の耐久性を高めることが出来る。このためにシリコン系撥水剤を添加する。
これらのシリコン系撥水剤では,化学式1に示すポリアルキルシロキサンが撥水性に顕著な効果がある。
【0015】
【化1】

ただし,R:H,CH n=整数
【0016】
このポリアルキルシロキサンは無機質のシロキサン結合(Si−O−Si)を骨格としている。nは少なくとも10%以上200程度が水性乳化に向いていた。RはH,CH基であるが,メチル基が多いほど,耐水性,撥水性が大きくなる。ポリマーの末端のOH基封鎖をビニル基(−Si−CH=CH)封鎖に置き換えてもよい。その他,(−SiH)を次の化学式2で表わされるエポキシ変性シリコンとしてもよい。
【0017】
【化2】

ただし,n+m=2〜20
【0018】
このシリコン系撥水剤として,以下の化学式3〜5に示す三種類の化合物が好ましく,これらを(A),(B),(C)とする。
【0019】
【化3】

ただし,n=15〜25
【0020】
【化4】

ただし,n+m=15〜25
【0021】
【化5】

メトキシ基(−OCH)は,親水性が強い。n+mは,10以上200程度で,上記(C)の場合,n=5,m=20である。
【0022】
そして,(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーエマルジョン及びコロイダルシリカを含有する水性樹脂組成物に,該塗膜形成材100重量部当たり固形分基準で2〜50重量部の範囲で該シリコン系撥水剤を添加する。この範囲以下の添加量の場合,塗膜の耐久性が劣ることになり,また,この範囲以上の添加量でも耐久性が低下する。
【0023】
(光触媒)
光触媒材料は酸化物半導体であり,酸化チタン,酸化錫,酸化ジルコニウム,酸化亜鉛,酸化タングステン,酸化鉄等が使用できる。この中で,酸化チタンが性能や価格の点から最も好ましい。酸化チタンはアナターゼ型,ルチル型,ブルッカイト型がある。アナターゼ型の微細粉末が最も安価で好ましいが,これに限定されるものではない。光触媒材料として可視光型酸化チタンも使用することができる。可視光型酸化チタンには窒素,炭素,イオウをドープしたものや酸素欠陥を持たせるあるいは金属類や金属酸化物を付与することにより可視光による光触媒反応を起こす材料がある。
【0024】
(顔料)
塗料には着色するため顔料を添加することが出来る。顔料は無機系と有機系を使用することができるが,光触媒による退色を少なくするため無機系の顔料が好ましい。また,遮熱顔料も使用することができる。遮熱顔料を使用した場合には塗装面の温度上昇を抑えることが出来る。遮熱顔料としては赤外線の反射率を上げた材料などがある。
【0025】
(無機充填物質と砂)
炭酸カルシウム,珪石粉,粘土類,雲母類など通常塗料に添加されるフィラーを添加することが出来る。また滑り抵抗と耐磨耗性を増加させるためには,砂などの粒径の大きい材料を添加することが有効な手段である。砂の粒度は200〜1000μmの粒径が好ましい。材質は石英を主成分とする珪砂などが好ましいが,特に磨り減りしやすい軟質の材料でない限り,必要な粒度であれば利用できる。市販の砂などを使用する場合には,粒度の表示として,4〜7号程度の珪砂が滑り抵抗を増加させ,耐磨耗性を向上させるために有効である。
【0026】
(パルプ)
パルプは木材パルプ(針葉樹パルプ,広葉樹パルプ),非木材パルプ(わら,麻,ケナフ等)を使用することができる。特に高純度のパルプである必要はないが,繊維長が長いと塗料の流動性が低下するため,振動ミルなどで粉砕した粉状のパルプが好ましい。塗料の流動性を低下させない範囲で添加する。少量の粉砕パルプを添加することにより塗膜に微細な空隙ができ,この空隙が大気に接触する塗膜の面積を増加させることになり,NOxなどの除去性能を改善できる。また,パルプは有機物であるから,光触媒による有機物の分解機能を利用して,塗膜を剥落させる作用を促進させるものと考えられ,NOxなどの除去性能の維持性能を向上させることができる。
【0027】
(水と分散方法)
塗料を製造するため分散媒として主に水を使用するが,アルコール類や分散剤を必要に応じて添加することが出来る。分散の方法は特に限定はされないが,ローラー,サンドミル,ボールミル,デゾルバーのような撹拌装置などの通常の方法によることが出来る。
【0028】
(施工方法)
舗装の基層はアスファルト舗装あるいはコンクリート舗装から選択することが出来る。プライマーを予め塗布することにより,塗膜の接着性を向上させることが出来る。スプレーあるいはローラーなどにより塗布することが出来る。十分に乾燥させることにより塗膜を形成させる。2回で塗布すると均一に厚い塗膜を得ることが出来る。5年以上の耐久性をもたせるためには300μm以上の塗膜を塗布する必要がある。しかし,600μm以上では乾燥が遅く,道路施工後に長時間交通開放ができないため適切でない。
【0029】
このようにして,難分解性結着材としてのコロイダルシリカ,分解性結着材としての(メタ)アクリル酸エステルポリマーエマルジョン,シリコン系反応型撥水材,光触媒,無機充填物質,顔料等を一定の範囲で混合した塗料を舗装面に塗布した場合,光触媒反応により光触媒が表面に露出し,光触媒活性が高まる。光の照射を受けることにより,表面が剥がれる現象があり,塗膜に付着した粉塵は塗膜の剥離により脱落する。このため,塗装面が新鮮な状態に保たれる。塗膜の厚みは減少して行くが,道路舗装は通常でも5〜10年でやり直す必要があり,その程度の耐久性があれば舗装材料としての必要な耐久性は保持される。
【実施例】
【0030】
次に,実施例と比較例により本発明を説明する。
表1に示す各種原料配合のものに適量の水を加えて,常温で2〜3時間撹拌して塗料とした。使用した材料の詳細は以下の通りである。
アクリルエマルジョン:固形分50%
コロイダルシリカ:固形分30%
炭酸カルシウム:微粉
光触媒用酸化チタン:アナターゼ型二酸化チタン(比表面積280m/g)
パルプ:セルロースパウダー 100〜200メッシュ
【0031】
得られた塗料をアスファルト混合物あるいはコンクリートの板に塗布し,常温で乾燥させた。得られた試験体について塗膜性能の測定とNOx除去性能の測定を行った。
塗膜性能の測定として,外観観察,暴露試験を行った。また,光触媒による大気浄化性能を調べるため,NOx除去性能を初期と1年間暴露した後で測定した。
NOx除去性能の測定は,光触媒コンクリート工業会法に準拠した。200×100mmの大きさの試験体を光触媒測定用反応容器に入れ,0.6mW/cmの紫外線を照射して,1ppmのNOガスを含む湿度50%の空気を流した。反応容器の入口と出口の空気中のNOx濃度を12時間測定して除去量を測定した。
【0032】
【表1】

【0033】
上記の試験結果から,比較例1のように,難分解性結着材であるコロイダルシリカを全く含有しない場合には,初期の段階からNOx除去性能が発揮されず,また,比較例2のようにコロイダルシリカの方が分解性結着材よりも多過ぎた場合には,塗膜表面にクラックが認められたとともに,初期の光触媒機能が1年後には維持できなかった。
これらに対して,本発明で得られた実施例1〜9の大気浄化道路構造物は,塗膜の外観も良好であるとともに,初期の光触媒機能が長期に維持されており,道路として十分な耐久性とNOx除去性能の持続性を持つことがわかる。
【0034】
なお,本発明は上記実施形態に限定されるものではなく,本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜形成材として(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーエマルジョン及びコロイダルシリカを含有する水性樹脂組成物に,該塗膜形成材100重量部当たり固形分基準で約2〜50重量部のシリコン系撥水剤を添加し,更に該混合物の固形分基準100重量部に対し,光触媒物質を1〜100重量部を添加し,無機充填物質を50〜300重量部を添加し,水あるいはアルコール類あるいはそれらの混合物で分散させたことを特徴とする大気浄化用塗料組成物。
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸エステル系ポリマーエマルジョンとコロイダルシリカの混合比率を100重量部:5〜100重量部としたことを特徴とする請求項1記載の大気浄化用塗料組成物。
【請求項3】
200〜1000μmの粒径の砂を加えたことを特徴とする請求項1又は2記載の大気浄化用塗料組成物。
【請求項4】
粉砕したパルプを添加したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の大気浄化用塗料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の大気浄化用塗料組成物を道路面に塗布し,乾燥し,硬化させたことを特徴とする大気浄化道路構造体。

【公開番号】特開2009−242458(P2009−242458A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87653(P2008−87653)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(596052935)大日技研工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】