説明

大気腐食試験装置

【課題】付着塩分量の精度を高め試験結果のバラツキが小さい腐食試験装置を提供する。
【解決手段】恒温恒湿槽1,塩水吐出機構2,洗浄機構3および移動架台4から構成され、被腐食試験体5を試験する。恒温恒湿槽1は、槽内の温度と湿度を独立して制御でき、かつ、プログラム制御により複数の温度と湿度の条件を連続に変化させる機能を有する。塩水吐出機構2は、超音波振動により塩水を滴状にして吐出する。洗浄機構3は、被試験体に洗浄水をかけ流し、試験体に付着した塩分を除去する。移動架台4は、被腐食試験体5を固定し、自身を塩水吐出機構2に対して移動させることにより、塩水吐出機構2から吐出された塩水を被腐食試験体5に点状に付着させる。被腐食試験体5を恒温恒湿槽1に挿入して腐食試験をする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中で使用される金属材料の腐食形態を再現できる試験方法およびその装置に係り、特に腐食を促進させる化学物質を被試験体に均一に付着させる方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
大気腐食の促進試験法としては、JIS Z 2371で規定されている塩水噴霧試験方法やJIS K 5600−7−9で規定されているサイクル腐食試験方法が知られており、規格に準拠した試験装置が用いられている。従来の試験装置では、腐食を促進させる化学物質として所定の濃度に調整された塩水を用い、この塩水を噴霧塔からミスト状に噴霧して被試験体に付着させる方法がとられた。この塩水の噴霧量に関しては、試験結果に影響するため、試験槽内の塩水の採取位置によるバラツキが少ないことが要求される。塩水噴霧のバラツキを小さくする方法として、例えば、噴霧塔を二重構造とすることにより改善する方法が特許として公開されている。
【0003】
一方、霧状された噴霧された塩水が試験体に付着すると、噴霧された液滴が凝集して表面でぬれた状態になり、自然環境で飛来する海塩粒子のサイズが数10μm程度であるのと大きく異なる。その結果、実際の自然環境中に置かれている材料の腐食状態とはかけ離れているものであった。自然環境で飛来する塩粒子の付着状況を再現する方法としては、発生させた塩粒子を一定の緩衝空間を飛来させた後に被試験体に付着させることにより再現する方法が特許として公開されている。
【0004】
上記塩水を噴霧することにより被試験体に塩分を付着させる方法では、自然環境で飛来する塩粒子を再現できないのと同時に、塩付着の繰り返しや被試験体の設置位置による付着塩分量のバラツキを十分に解消できていない課題がある。また、塩粒子を一定空間飛来させて付着させる方法では、自然環境で飛来する塩粒子を再現できても、被試験体の設置位置によるバラツキを制御できない課題がある。また、これらの方法による場合、付着塩分量のバラツキが大きいため、塩付着前後の重量を測ることによって付着塩分量を把握する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2031365号公報
【特許文献2】特許第3668743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、自然環境で飛来する塩粒子を再現すると同時に、塩付着の繰り返しや試験槽内での被試験体の設置位置によるバラツキを小さくできる腐食試験装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、恒温恒湿槽と、塩水吐出機構と、被腐食試験体を載せる架台と、洗浄機構とから構成され、吐出機構と対象物を相対移動させて塩水を付着させる腐食試験装置において、塩水吐出機構は周波数fにて吐出口より塩水を吐出し、塩水の吐出量qと、吐出機構と対象物との相対移動速度vの関係が
【0008】
【数1】

であることを特徴としている。(式1)を満たすことによって、塩水どうしを凝集させずに対象物に付着させることができる。
(2)本発明による腐食試験装置は、吐出量qが0.018mL/s以上であることを特徴としている。吐出量qが0.018mL/s以上であることによって、安定して塩水を吐出すことができる。
(3)本発明による腐食試験装置は、周波数fが1kHz以上であることを特徴としている。周波数fが1kHz以上であることによって、安定して塩水を吐出すことができる。
(4)本発明による腐食試験装置は、対象物に付着した塩水の直径が200μm以下であることを特徴としている。対象物に付着した塩水の直径が200μm以下であることによって、実環境と同様の腐食を再現することができる。
(5)本発明による腐食試験装置は、吐出口の直径を100μm以下としたことを特徴としている。吐出口の直径を100μm以下にすることによって、実環境と同様の腐食を再現することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、付着塩分量の精度を高めて塩分を付着させることができる。また、塩水を効率良く対象物に付着させることができるため、塩付着前後の重量を測るといった操作が不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】大気腐食促進試験装置の構成図。
【図2】塩水吐出機構の構成図。
【図3】被試験体に付着した塩水を示す模式図。
【図4】腐食試験後の被試験体の外観を示す模式図。
【図5】腐食試験後の被試験体の外観を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の詳細について実施例を用い説明する。
【実施例1】
【0012】
図1に、本実施例の大気腐食促進試験装置の構成図を示す。大気腐食促進試験装置は、主として、恒温恒湿槽1,塩水吐出機構2,洗浄機構3および移動架台4から構成され、被腐食試験体5を試験する。恒温恒湿槽1は、槽内の温度と湿度を独立して制御でき、かつ、プログラム制御により複数の温度と湿度の条件を連続に変化させる機能を有する。塩水吐出機構2は、超音波振動により塩水を滴状にして吐出すものである。洗浄機構3は、被試験体に洗浄水をかけ流し、試験体に付着した塩分を除去する。移動架台4は、被腐食試験体5を固定し、自身を塩水吐出機構2に対して移動させることにより、塩水吐出機構2から吐出された塩水を被腐食試験体5に点状に付着させる。なお、被腐食試験体に付着しない余分な塩水は、塩水回収器21に回収され、供給ポンプ22により塩水吐出機構に供給される。塩水を供給する経路には流量計23があり、塩水の供給量を調整する。
【0013】
図2は本実施例における塩水吐出機構を示した図である。塩水吐出機構2は、塩水吐出機構本体201,塩水供給口202,超音波発振器203,吐出口204から構成される。吐出口を複数個、並列に設けることにより、一度に複数の液滴を被腐食試験体に付着させることができる。本実施例では塩水供給口202を101個設けた。塩水供給口202に塩水を供給すると共に、超音波発振器203を振動させ、吐出口24より塩水を滴状に吐出した。本実施例では、吐出口24の直径60μm,吐出口24の間隔500μmを使用したので、一度に幅50mmの領域に塩水を付着させることができる。塩水が安定して吐出されたのは、塩水の供給量が1.8mL/s以上の時であったので、本実施例では、塩水の供給量を0.018mL/sとした。また、塩水が滴状になって吐出されていたのは超音波発振器203の振動周波数が4000Hz以上の時であった。そこで、超音波発振器203の振動周波数を4000Hzとした。移動架台4を塩水吐出機構2に対して移動させることにより、滴状に吐出される塩水を被腐食試験体5に点状に付着させた。(1)式より、点状に付着させるために移動速度を2.0m/sとした。
【0014】
図3に塩水が被試験体5に付着した様子を示す。付着させた塩水6は円状となり、直径は200μmであった。また、付着させ塩水6の間隔は500μmであり、個々の液滴どうしを凝集させずに付着させることができた。本実施例では塩水として3.5%のNaCl水溶液を使用しており、被試験体に18.6mL/m2の塩水を付着させたので、0.65g/m2の塩分を付着させたことになる。また、塩水の濃度を変えることにより付着塩分量を調整することも可能である。
【0015】
次に、この大気腐食促進試験装置における試験手順を示す。先ず、被腐食試験体5を洗浄および乾燥させた後に、移動架台4の全面に並べる。移動架台4に設置された被腐食試験体5が塩水吐出機構2の下を通過する際に、塩水吐出機構2から被腐食試験体5に向けて塩水が吐出されることにより、被腐食試験体5の表面に塩水が付着される。
【0016】
この試験材をプログラム制御された恒温恒湿槽1に挿入して腐食試験を開始する。塩水が付着した被腐食試験体5は、恒温恒湿槽1で所定の温湿度が組み合わせられた温湿度サイクルの環境で腐食試験される。今回、被腐食試験体5の挿入後の温湿度サイクルとして、先ず、60℃相対湿度35%RHの乾燥環境に3時間保持した後に40℃相対湿度95%RHの湿潤環境に3時間保持するサイクルを12回繰り返した。ここで、乾燥環境から湿潤環境および湿潤環境から乾燥環境への移行時間は、それぞれ1時間とし、一連のサイクルを8時間に設定した。
【0017】
乾燥と湿潤の組み合わせ環境に被腐食試験体5を12サイクル計96時間暴露した後、移動架台4に設置された被腐食試験体5を水洗し、塩分を除去した。恒温恒湿槽1内には、洗浄機構3を設置しており、まず、洗浄機構3から洗浄水としての純水を被腐食試験体5にかけ流し被腐食試験体5に付着していた塩分を洗い流した。洗浄水の温度は30℃、温風の温度は50℃に設定した。この一連の塩水付着,温湿度サイクルと洗浄乾燥工程を繰り返すことにより腐食試験を継続した。温湿度サイクルでの乾燥・湿潤を4週間、または8週間繰り返し、その中で、週に二回、塩分付着と洗浄を行った。
【0018】
これにより、実環境の腐食を再現することができた。
【実施例2】
【0019】
実施例2として、実施例1とは吐出機構の形状および塩付着の条件が異なる場合の実施例について説明する。塩水吐出機構は、吐出口の直径が50μm、吐出口の間隔が400μmの形状のものを使用し、塩水吐出口1個あたりの吐出量を0.011mL/s、超音波発信器の振動周波数を5000Hz、被試験体の移動速度を2.0m/sにして塩水を付着させた。塩水として塩分濃度3.5%の人工海水を使用しており、付着塩分量は0.51g/m2であった。なお、大気腐食促進試験装置および大気腐食試験方法は実施例1と同様とした。
【0020】
付着した塩水は円状になり、直径は150μmであった。また、付着した塩水の間隔は400μmであり、個々の液滴どうしを凝集させずに付着させることができた。
【0021】
図4は腐食試験をした場合の腐食の様子を示す。被腐食試験体5の表面に腐食された部分7が均一に形成されており、実環境や実施例1の腐食形態と同様であった。
【実施例3】
【0022】
実施例3として、吐出口の寸法が不適正な場合の実施例について説明する。吐出口の直径が90μm、吐出口の間隔が1250μmの形状の塩水吐出機構を使用し、塩水吐出口1個あたりの吐出量を0.023mL/s、超音波発信器の振動周波数を1000Hz、被試験体の移動速度を1.25m/sにして塩を付着させた。塩水として塩分濃度3.5%の人工海水を使用しており、付着塩分量は0.51g/m2で、実施例2の場合と同等であった。なお、大気腐食促進試験装置および大気腐食試験方法は実施例1と同様とした。付着した塩水は円状になり、直径は390μmであった。また、付着した塩水の間隔は1250μmであり、個々の液滴どうしを凝集させずに付着させることができた。図5は腐食試験をした場合の腐食の様子を示す。塩水が付着した位置に腐食が集中してしまい、腐食された部分7と腐食されていない部分8が不均一であり、付着塩分量は0.51g/m2が同等であっても実施例2の腐食と異なっていた。
【符号の説明】
【0023】
1 恒温恒湿槽
2 塩水吐出機構
3 洗浄機構
4 移動架台
5 被腐食試験体
6 付着させ塩水
7 腐食された部分
8 腐食されていない部分
21 塩水回収器
22 供給ポンプ
23 流量計
201 塩水吐出機構本体
202 塩水供給口
203 超音波発振器
204 吐出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
恒温恒湿槽と、塩水吐出機構と、被腐食試験体を載せる架台と、洗浄機構とから構成され、吐出機構と対象物を相対移動させて塩水を付着させる腐食試験装置において、
塩水吐出機構は周波数fにて吐出口より塩水を吐出し、塩水の吐出量qと、吐出機構と対象物との相対移動速度vの関係が、
【数1】

であることを特徴とする腐食試験装置。
【請求項2】
請求項1において、前記吐出量qが0.018mL/s以上であることを特徴とする腐食試験装置。
【請求項3】
請求項1において、前記周波数fが1kHz以上であることを特徴とする腐食試験装置。
【請求項4】
請求項1において、前記対象物に付着した塩水の直径が200μm以下であることを特徴とする腐食試験装置。
【請求項5】
請求項1において、前記吐出口の直径を100μm以下としたことを特徴とする腐食試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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