大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットおよび大豆イソフラボノイド・エクオール定量方法
【課題】容易かつ簡便に大豆イソフラボノイドおよびエクオールの定量または定性を同時に行なえる定量定性デバイス、定量定性キットおよび定量方法を提供する。
【解決手段】基板40上に、検体、大豆イソフラボノイド標識結合体d1、エクオール標識結合体d2を含んだ液体試料を導入する試料導入域10と、大豆イソフラボノイド様物質e1およびエクオール様物質e2を担持する第一反応域20Aと、大豆イソフラボノイド複合体f1、第一反応域20Aで大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1、エクオール複合体f2、第一反応域20Aでエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2のそれぞれと結合する捕捉物質gを担持する第二反応域20Bと、を備えた大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
【解決手段】基板40上に、検体、大豆イソフラボノイド標識結合体d1、エクオール標識結合体d2を含んだ液体試料を導入する試料導入域10と、大豆イソフラボノイド様物質e1およびエクオール様物質e2を担持する第一反応域20Aと、大豆イソフラボノイド複合体f1、第一反応域20Aで大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1、エクオール複合体f2、第一反応域20Aでエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2のそれぞれと結合する捕捉物質gを担持する第二反応域20Bと、を備えた大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆イソフラボノイドおよびエクオールを定量または定性するデバイス、キットおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクオールは、腸内細菌(エクオール産生菌)によって生成され、その生成には個人差の存在することが知られている。例えば日本人のエクオール産生者の割合は約50%であることも報告されている(特許文献1)。
【0003】
このような個人差が生じる理由として、腸内フローラによるイソフラボノイド代謝系の違いが指摘されている(特許文献2)。イソフラボノイド代謝産物の中でもエクオールは、大豆等に含まれるイソフラボノイドの一種のダイゼイン(Daidzein)やホルモノネチン(Formononetin)を、所定の腸内フローラ、即ちエクオール産生菌の働きによって代謝することにより生成されると言われている。
【0004】
エクオールは、ダイゼイン等よりもはるかに高いエストロゲン様活性を有することが知られている。このようにエストロゲン様活性を有することで、エクオールは乳ガン・前立腺ガン・更年期障害・骨粗鬆症等に対する予防効果を有することが示唆されている。つまり、エクオールの産生能を高めることが、大豆イソフラボノイドを有効利用する上で重要となる。
【0005】
特許文献2には、イソフラボノイドを含む試料中におけるエクオールの有無を容易に検査できるエクオールの検査方法、及びエクオール産生菌の有無を容易に検査できるエクオール産生菌の検査方法が記載してある。
腸内で代謝されたイソフラボノイドの一部(エクオールを含む)は、腸管で吸収され、血液を介して尿中に排泄される。例えば、健康な成人では、イソフラボノイドを摂食してから数時間から40時間後にかけて尿中に前記イソフラボノイドが検出され、そのうちエクオール検出のピークは30〜40時間程度が一般的である。従って、イソフラボノイドを摂取した人の血液又は尿を検査することにより、その人の腸内フローラの構成、即ちエクオール産生菌の有無または何らかの機能によるエクオール産生能力を把握することが可能となる。
【0006】
上記検査方法は、具体的には、尿や胃腸内容物に由来する試料を順相TLCにて分析する工程が実施される。分析工程では、展開後のイソフラボノイドを可視化させる可視化手段を用いて、TLCプレート上の各イソフラボノイドを同定している。
【0007】
通常、血液、尿中及び胃腸内容物の培養物に含まれるイソフラボノイドには、ゲニステインが存在しているケースが多い。ゲニステインは、逆相TLCの担体上ではエクオールと同等の展開移動度にスポットが検出されるため、エクオールの検出に際しては大きなノイズとなる。これに対し、特許文献2に記載の検査方法では順相TLCを用いることにより、ゲニステインを含む主要なイソフラボノイドとエクオールとをTLCプレート上で差別化できるため、ノイズのないエクオールの検査を実施することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3864317号公報
【特許文献2】特開2006−242602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、エクオール産生乳酸菌含有組成物が開示してあるのみで、エクオールおよび大豆イソフラボノイドの定量については記載がない。
一方、特許文献2に記載の検査方法は、尿等に由来する試料に含有されるエクオールを測定する方法で、大豆代謝能の診断に有効である。しかし、TLC法は測定作業に溶媒や専用容器や、エクオールのスポットを識別する経験、特に両端と中央では移動度に差が生じるため湾曲した移動を計算しながら識別する等の高度な技術を必要とする。さらに、当該検査方法はエクオールのみを定量しているわけではないため、他の物質由来のシグナルも見分けるために標準物質のマーカーが必要となり、手軽に作業ができるとは言い難かった。
【0010】
食品において「大豆含有」の記載がある場合、大豆タンパク質、大豆イソフラボノイド、大豆繊維の何れが含まれているか不明な場合がある。
上述したようにエクオールは、大豆等に含まれるイソフラボノイドの一種のダイゼインがエクオール産生菌によって代謝されることにより生成され、エクオールの生成には個人差が存在する。
仮に特許文献2に記載の検査方法を行なってエクオールを検出できなかったとき、以下の何れの原因に基づくものであるかを識別することは不可能である。
(1)検査前に大豆含有食品を摂取したが、被験者にエクオール産生能力が無いためにエクオールを検出できない。
(2)検査前に大豆含有食品を摂取したが、当該大豆含有食品が大豆イソフラボノイドを含まない食品であるためエクオールを検出できない。
(3)検査前に大豆を摂取していないためエクオールを検出できない。
【0011】
即ち、エクオールの検出時に、ダイゼインなどの大豆イソフラボノイドの検出も同時に行なえる検査方法は存在しなかった。
【0012】
従って、本発明の目的は、容易かつ簡便に大豆イソフラボノイドおよびエクオールの定量または定性を同時に行なえる定量定性デバイス、定量定性キットおよび定量方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、上記目的を達成するため、以下の[1]〜[8]に示す発明を提供する。
[1] 検体中の大豆イソフラボノイドおよびエクオールを定量または定性するため、基板上に、前記検体、大豆イソフラボノイドと免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質に標識を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体、および、エクオールと免疫特異的に結合するエクオール結合物質に標識を結合させたエクオール標識結合体を含んだ液体試料を導入する試料導入域と、前記大豆イソフラボノイド標識結合体と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質、および、前記エクオール標識結合体と免疫特異的に結合するエクオール様物質を担持する第一反応域と、前記大豆イソフラボノイドおよび前記大豆イソフラボノイド標識結合体が免疫特異的に結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体、前記第一反応域で前記大豆イソフラボノイド様物質と反応しなかった前記大豆イソフラボノイド標識結合体、前記エクオールおよび前記エクオール標識結合体が免疫特異的に結合して形成したエクオール複合体、前記第一反応域で前記エクオール様物質と反応しなかった前記エクオール標識結合体、のそれぞれと結合する捕捉物質を担持する第二反応域と、を備えた大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
[2] 前記第一反応域が、前記大豆イソフラボノイド様物質を担持する第一検出部、および、前記エクオール様物質を担持する第二検出部を備えた上記[1]に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
[3] 前記大豆イソフラボノイドがダイゼインである上記[1]又は[2]に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
[4] 前記大豆イソフラボノイド様物質がダイゼイン−BSAコンジュゲートであり、前記エクオール様物質がエクオール−BSAコンジュゲートである上記[3]に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
[5] 上記[1]〜[4]の何れかに記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスと、大豆イソフラボノイド結合物質として抗ダイゼイン抗体と、エクオール結合物質として抗エクオール抗体と、を備えた大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット。
[6] 前記大豆イソフラボノイド結合物質に直接標識を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体、および、前記エクオール結合物質に直接標識を結合させたエクオール標識結合体を備えた上記[5]に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット。
[7] 前記直接標識が金コロイド標識である上記[6]に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット。
【0014】
上記[1]の構成では、第一反応域にて、大豆イソフラボノイド標識結合体および大豆イソフラボノイド様物質を反応させ、また、エクオール標識結合体およびエクオール様物質を反応させることができる。これら反応は、第一反応域の異なる領域で行なわせてもよく、同じ領域で行なわせてもよい。
【0015】
また、第二反応域では、当該第二反応域に担持された捕捉物質によって、大豆イソフラボノイド複合体・第一反応域で大豆イソフラボノイド様物質と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体・エクオール複合体・第一反応域でエクオール様物質と反応しなかったエクオール標識結合体、のそれぞれを捕捉することができる。捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体・大豆イソフラボノイド複合体・エクオール標識結合体・エクオール複合体は標識化されているため、第一反応域および第二反応域の位置で例えばバンドの態様或いは当該標識の呈色反応(色の変化)によって可視化することができる。よって、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスでは、大豆イソフラボノイドおよびエクオールの定量または定性が可能となる。
【0016】
第一反応域は、第一検出部にて大豆イソフラボノイド様物質を担持し、第二検出部にてエクオール様物質を担持するように構成できる。本構成では、液体試料の移相に伴い、第一検出部に担持された大豆イソフラボノイド様物質により大豆イソフラボノイド標識結合体を捕捉することができ、第二検出部に担持されたエクオール様物質によりエクオール標識結合体を捕捉することができる。そのため、大豆イソフラボノイド標識結合体およびエクオール標識結合体の検出する場所を分離できるようになり、大豆イソフラボノイドおよびエクオールの定量または定性の精度を向上させることができる。
【0017】
大豆イソフラボノイドはダイゼインとするのがよい。
大豆イソフラボノイド様物質がダイゼイン−BSAコンジュゲートであり、エクオール様物質がエクオール−BSAコンジュゲートであれば、大豆イソフラボノイド(ダイゼイン)を第一検出部に固相化するのが容易となり、かつエクオールを第二検出部に固相化するのが容易となり、未反応の大豆イソフラボノイド標識結合体およびエクオール標識結合体を特異的に捕捉することができる。さらに、大豆イソフラボノイド結合物質が抗ダイゼイン抗体であればダイゼインを特異的に捕捉することができ、エクオール結合物質が抗エクオール抗体であれば、エクオールを特異的に捕捉することができる。これらより、大豆イソフラボノイドおよびエクオール定量の精度が向上する。
【0018】
大豆イソフラボノイド結合物質および大豆イソフラボノイド標識結合体、エクオール結合物質およびエクオール標識結合体は、例えば、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスとは別異の試薬の態様で定量に供して、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットの一部とすることができる。
【0019】
大豆イソフラボノイド標識結合体およびエクオール標識結合体が金コロイドのような直接標識で標識されていれば、定量または定性結果を目視で直接観察できるため、大豆イソフラボノイド・エクオール定量または定性をオンサイトで簡便に行なうことができる。
【0020】
以上より、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスおよび大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットでは、簡便な構造で大豆イソフラボノイドおよびエクオールの両者を同時に、免疫学的に容易に定量または定性することができる。よって、例えば尿を検体として本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスおよび大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットを使用することで、被験者が大豆イソフラボノイドをエクオールに代謝する能力の有無を容易かつ簡便に診断することができる。
【0021】
検査前に意図的に大豆を摂取しない場合であっても、日常生活で大豆を含有した食品を食す機会は多い。仮に、検査前に意図せず大豆を摂取していた場合は、検査のために大豆を摂取することは過剰な大豆摂取となる。本発明であれば、検査前に大豆の摂取の有無が不明な場合であっても、とりあえず本発明の方法によって検査を行って大豆イソフラボノイドが検出されれば、大豆イソフラボノイドの摂取の有無を容易に判定できる。このような判定ができれば、過剰な(無駄な)大豆摂取をする必要がなくなる。仮に大豆イソフラボノイドが検出されなかった場合のみ、検査前に意図的に大豆を摂取すればよい。
もし十分量の大豆イソフラボノイドが検出されなかった場合には、十分量の大豆を摂取したうえで本方法による検査をすればよい。
また、本方法では、大豆イソフラボノイドおよびエクオールを定量または定性できるため、大豆イソフラボノイドおよびエクオールの比率を検出することができる。大豆イソフラボノイドおよびエクオールの比率が判明すれば、被験者のエクオール産生能力を的確に把握することができる。
【0022】
[8] 検体、大豆イソフラボノイドと免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質に標識を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体、および、エクオールと免疫特異的に結合するエクオール結合物質に標識を結合させたエクオール標識結合体を混合して液体試料を得る混合工程を行なった後、当該液体試料を展開させて、
前記大豆イソフラボノイド標識結合体と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質と反応させる大豆イソフラボノイド反応工程と、
前記エクオール標識結合体と免疫特異的に結合するエクオール様物質と反応させるエクオール反応工程と、
前記大豆イソフラボノイドおよび前記大豆イソフラボノイド結合物質が結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体、前記大豆イソフラボノイド反応工程で前記大豆イソフラボノイド様物質と反応しなかった前記大豆イソフラボノイド標識結合体、前記エクオールおよび前記エクオール結合物質が結合して形成したエクオール複合体、前記エクオール反応工程で前記エクオール様物質と反応しなかった前記エクオール標識結合体、のそれぞれと免疫特異的に結合する捕捉物質と反応させる捕捉物質反応工程と、
前記大豆イソフラボノイド反応工程、前記エクオール反応工程、前記捕捉物質反応工程で得られた標識強度を検出することにより前記検体中の大豆イソフラボノイドおよびエクオールを定量する定量工程と、を行なう大豆イソフラボノイド・エクオール定量方法。
【0023】
上記[8]の構成では、大豆イソフラボノイド反応工程において、大豆イソフラボノイド標識結合体および大豆イソフラボノイド様物質を反応させ、また、エクオール反応工程において、エクオール標識結合体およびエクオール様物質を反応させることができる。これら反応は何れを先に行なってもよい。捕捉物質反応工程においては、大豆イソフラボノイド複合体、大豆イソフラボノイド反応工程で大豆イソフラボノイド様物質と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体、エクオール複合体、エクオール反応工程でエクオール様物質と反応しなかったエクオール標識結合体、のそれぞれと捕捉物質とを反応させることができる。
大豆イソフラボノイドおよびエクオールの定量は、それぞれ、エクオール反応工程で大豆イソフラボノイド様物質に捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体の標識強度、エクオール反応工程でエクオール様物質に捕捉されたエクオール標識結合体の標識強度、捕捉物質反応工程で捕捉物質に捕捉された大豆イソフラボノイド複合体、大豆イソフラボノイド標識結合体、エクオール複合体およびエクオール標識結合体の標識強度を検出することによって行なう(定量工程)。
即ち、定量工程では、それぞれの物質が捕捉された位置で例えばバンドの態様或いは当該標識の呈色反応(色の変化)によって可視化することができる。よって、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量方法では、大豆イソフラボノイドおよびエクオールの定量が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスおよび大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットを示す斜視図である。
【図2】第一検出部および第二検出部での反応を模式的に示す斜視図である。
【図3】第三検出部での反応を模式的に示す斜視図である。
【図4】ダイゼインおよびエクオールが存在する場合或いは存在しない場合の各検出部の発色を模式的に示した図である。
【図5】ダイゼイン定量定性デバイスを示す斜視図である。
【図6】ダイゼイン、カルボキシメチルダイゼインおよびダイゼイン−BSAコンジュゲートの構造を示す図である。
【図7】エクオール、カルボキシメチルエクオールおよびエクオール−BSAコンジュゲートの構造を示す図である。
【図8】実施例1で作成した検量線を示すグラフである。
【図9】エクオール定量定性デバイスを示す斜視図である。
【図10】実施例2で作成した検量線を示すグラフである。
【図11】別実施形態1の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスおよび大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットを示す斜視図である。
【図12】別実施形態1において、第一反応域での反応を模式的に示す斜視図である。
【図13】別実施形態2の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスを示す斜視図である。
【図14】別実施形態2の第一検出部および第二検出部での反応を模式的に示す斜視図である。
【図15】別実施形態2の第三検出部での反応を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスは、例えば単層の展開マトリクス(展開手段)に試薬を担持させた免疫クロマトグラフィーとして利用できるが、これに限られるものではない。当該大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスは、固定相である展開手段の表面あるいは内部を、被検出物質を含んだ移動相(液体など)が通過することで、検体中に含まれる被検出物質(大豆イソフラボノイド・エクオール)を定量または定性する。
【0026】
<大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスおよび大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット>
図1〜3に示したように、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXは、試料導入域10、第一反応域20Aおよび第二反応域20Bを備える。第一反応域20Aおよび第二反応域20Bは展開手段20に形成し、当該展開手段20の下流には液体を吸収する吸水部30を設けてある。本実施形態では、試料導入域10、展開手段20および液体を吸収する吸水部30は順次接触させて設けてある。
試料導入域10は、検体中の大豆イソフラボノイドa1およびエクオールa2を定量または定性するため、基板40上に、検体、大豆イソフラボノイドa1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質c1に標識b1を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体d1、および、エクオールa2と免疫特異的に結合するエクオール結合物質c2に標識b2を結合させたエクオール標識結合体d2を導入する部位である。
【0027】
本実施形態の展開手段20は、検体、大豆イソフラボノイド標識結合体d1およびエクオール標識結合体d2を含んだ液体試料が通過でき、大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質e1を担持する第一検出部21(第一反応域20A)、および、エクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合するエクオール様物質e2を担持する第二検出部22(第一反応域20A)を備える。さらに展開手段20は、これらの下流に、大豆イソフラボノイドa1および大豆イソフラボノイド標識結合体d1が免疫特異的に結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体f1、第一検出部21(第一反応域20A)で大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1、エクオールa2およびエクオール標識結合体d2が免疫特異的に結合して形成したエクオール複合体f2、第二検出部22(第一反応域20A)でエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2のそれぞれと結合する捕捉物質gを担持する第三検出部23(第二反応域20B)を備える。
【0028】
(基板)
基板40は、試料導入域10・展開手段20・吸水部30を載置できるものであれば、どのような態様であってもよいが、ある程度の強度を有し、かつ吸水部30の吸水性を阻害しない材質を選択する必要がある。当該材質としては、例えば硬質塩化ビニル(PVC)が好適である。携行性を向上させるため、例えば95mm×30mm×5mm程度の大きさで薄板状に形成し、上基盤および下基盤を係合して、その内部に試料導入域10、展開手段20および吸水部30を封入するように構成するとよい。
当該基板40は、エクオール定量または定性の結果が視認できるよう例えば透明の部材で構成することができるが、これに限らず、当該結果を視認できる開口部を形成してもよい。
【0029】
(試料導入域)
試料導入域10は、検体を滴下する部位である。本実施形態では、グラスウールやニトロセルロースメンブレン等を例示するが、これに限るものではなく、毛管現象により移動相が展開する態様であればよい。
試料導入域10は単一のメンブレンで構成してもよい。しかし、試料導入域10は大豆イソフラボノイドa1、エクオールa2、大豆イソフラボノイド標識結合体d1およびエクオール標識結合体d2を導入する部位であることから、大豆イソフラボノイドa1を含む検体を滴下するメンブレンと、エクオールa2を含む検体を滴下するメンブレンと、大豆イソフラボノイド標識結合体d1を滴下するメンブレンと、エクオール標識結合体d2を滴下するメンブレンと、を別異に構成してもよい。
【0030】
(展開手段)
免疫クロマトグラフィー法とは、抗原抗体反応および毛管現象を利用した検査法である。そのため、展開手段20は、毛管現象により移動相(液体)・大豆イソフラボノイドa1・大豆イソフラボノイド結合物質c1・大豆イソフラボノイド標識結合体d1・大豆イソフラボノイド複合体f1・エクオールa2・エクオール結合物質c2・エクオール標識結合体d2・エクオール複合体f2などの物質が流下する態様であればよい。例えば展開手段20は、ポアの直径が10〜200μm、厚さ100〜3000μmのニトロセルロースメンブレン・アセテート混ニトロセルロースメンブレン・ナイロンメンブレン・ポリエーテルスルホンメンブレン・ポリビニリデンジフルオライドメンブレンが好適に用いられ、特にニトロセルロースメンブレンが好ましい。当該ニトロセルロースメンブレンは、含水状態で透明または半透明となるため、標識強度を測定する妨げになり難い。
【0031】
当該展開手段20は、一方の端部を、試料導入域10の下流側と接触させるかオーバーラップさせるように配置し、他方の端部を、吸水部30の上流側と接触させるかオーバーラップさせるように配置する。このように配置することにより、試料導入域10に滴下した検体が、移動相と共に展開手段20を経て吸水部30の方向に展開することができる。
【0032】
展開手段20は、大豆イソフラボノイド様物質e1を担持する第一検出部21、および、エクオール様物質e2を担持する第二検出部22、大豆イソフラボノイド複合体f1・第一検出部21で大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1・エクオール複合体f2・第二検出部22でエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2のそれぞれと結合する捕捉物質gを担持する第三検出部23をこの順に備える。
第一検出部21および第二検出部22はどのように配置してもよく、形状としては、特にドット状、バンド状にすれば、製造上および識別に際して都合がよい。図1では、バンド状に配置した場合を例示する。
【0033】
第一検出部21では大豆イソフラボノイド様物質e1によって大豆イソフラボノイド標識結合体d1を捕捉することができ、第二検出部22ではエクオール様物質e2によってエクオール標識結合体d2を捕捉することができる。また、第三検出部23では、捕捉物質gによって、大豆イソフラボノイド複合体f1・第一検出部21で大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1・エクオール複合体f2・第一検出部21でエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2をそれぞれ捕捉することができる。捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体d1・大豆イソフラボノイド複合体f1・エクオール標識結合体d2・エクオール複合体f2は標識化されているため、第一検出部21〜第三検出部23の位置でバンドの態様で可視化することができ、大豆イソフラボノイドa1およびエクオールa2の定量または定性が可能となる。
【0034】
(吸水部)
吸水部30は、隣接する展開手段20に存在する移動相である液体を吸水する。当該吸水部30が展開手段20の液体を吸水することで、検体導入部10に滴下した検体を流下させることができる。
吸水部30は、例えば適当な大きさに切断した濾紙を、展開手段20の下流側に接触させるかオーバーラップさせるように配置する。当該吸水部30は、省略してもよい。
【0035】
(検体)
本明細書に記載の「検体」とは、定量または定性を行なうべき対象となる被検出物質を含む、或いは、含む可能性のある液体サンプルのことを指す。検体はどのような起源由来のものであってもよく、例えば細胞・培養物・組織・体液・尿・血清・血漿等のように、大豆イソフラボノイドa1およびエクオールaを含有する可能性のある生検試料が検体として例示される。
尚、大豆イソフラボノイドa1としては、ダイゼインやホルモノネチンが例示されるが、これに限られるものではない。
【0036】
(大豆イソフラボノイド結合物質、エクオール結合物質)
大豆イソフラボノイド結合物質c1は大豆イソフラボノイドa1を認識し得る物質であり、大豆イソフラボノイドa1と親和性を有し、かつ選択的に結合し得る分子認識能を有する物質を意味する。エクオール結合物質c2はエクオールa2を認識し得る物質であり、エクオールa2と親和性を有し、かつ選択的に結合し得る分子認識能を有する物質を意味する。
大豆イソフラボノイド結合物質c1およびエクオール結合物質c2は、例えば大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXとは別異の試薬の態様で定量に供する、或いは、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXの例えば試料導入域10に予め担持させる等の態様で定量または定性に供することが可能である。当該試薬の態様で定量または定性に供する場合は、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXおよび試薬により、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットを構成することができる。
【0037】
大豆イソフラボノイド結合物質c1は、例えば大豆イソフラボノイドa1と免疫特異的に結合する物質が例示され、当該エクオール結合物質c2は、例えばエクオールa2と免疫特異的に結合する物質が例示される。
通常、「免疫化学的手法」は、例えば固相法によるイムノアッセイの手法を適用することにより液体試料中の被検出物質(大豆イソフラボノイドa1,エクオールa2)の存在を検出あるいは定量的測定ができる。イムノアッセイとして公知の所謂「サンドイッチ法」では、例えば抗原のような標的となる被検出物質を、標識化抗体と固定化物質表面に固定化された抗体との間に挟むことにより特異的複合体を形成させ、被検出物質を捕捉することができる。
本発明の場合、検体に含まれる大豆イソフラボノイドa1は大豆イソフラボノイド結合物質c1と結合して免疫複合体を形成することにより捕捉され、検体に含まれるエクオールa2はエクオール結合物質c2と結合して免疫複合体を形成することにより捕捉される。
【0038】
本実施形態では、大豆イソフラボノイド結合物質c1として抗ダイゼイン抗体、エクオール結合物質c2として抗エクオール抗体である場合を例示する。抗ダイゼイン抗体は、ダイゼインに結合特異性を示し、エクオールなどの物質に交差反応性を極力有さないものが良い。抗エクオール抗体は、エクオールに高い結合特異性を示し、ダイゼイン、ゲニステイン、O-デスメチルアンゴレンシンあるいは食品に含まれるポリフェノールなどの物質に交差反応性を極力有さないものが良い。抗ダイゼイン抗体および抗エクオール抗体は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の何れかを使用することができる。これら抗体は、以下のようにして作製することができる。
【0039】
使用する抗原は公知の方法に従って適当な溶液等に調製し、哺乳動物、例えばウサギやマウス等の動物に免疫を行えばよい。安定的な免疫を行ったり抗体価を高めるために抗原を適当なキャリアタンパク質とのコンジュゲートにして用いたり、アジュバント等を加えて免疫を行うのが好ましい。
免疫に際しての抗原の投与経路は特に限定されず、例えば皮下・腹腔内・静脈内あるいは筋肉内等のいずれの経路を用いてもよい。前記動物への抗原の投与は、例えば数日〜数週間おきに数回接種する方法が用いられるが、免疫する動物種によっては適宜調節される。免疫後、適宜試験的に採血を行って固相酵素免疫検定法(ELISA法)やウエスタンブロッティング等の方法で抗体価の上昇を確認し、十分に抗体価の上昇した動物から採血を行う。これに抗体の調製に用いられる適当な処理を行えばポリクローナル抗体を得ることができる。また、該動物の脾臓細胞とミエローマ細胞とを用いて公知の方法に従って融合させたハイブリドーマを用いることによりモノクローナル抗体を製造することもできる。モノクローナル抗体は、例えば以下の方法により取得することができる。
【0040】
まず、抗原の免疫により抗体価の高まった動物から抗体産生細胞を取得する。抗体産生細胞は、形質細胞及びその前駆細胞であるリンパ球であり、好ましくは脾臓・リンパ節・末梢血等から取得する。これらの細胞と融合させるミエローマとしては、一般的にはBALB/c等のマウスから得られた株化細胞が好ましく用いられる。細胞の融合は、抗体産生細胞とミエローマ細胞を適当な割合で混合し、適当な細胞融合培地、例えばRPMI1640やイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、あるいはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等にポリエチレングリコール(PEG)を溶解したもの等を用いることにより行うことができる。また電気融合法によっても行うことができる。
ハイブリドーマは、ミエローマ細胞株が8−アザグアニン耐性株であることを利用して正常培地(HAT培地)中で適当時間培養することにより選択することができる。この選択方法は用いるミエローマ細胞株によって適宜変更することができる。選択されたハイブリドーマが産生する抗体の抗体価を解析し、抗体価の高い抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等により分離し、分離した融合細胞を適当な培地で培養して得られる培養上清から硫安分画、アフィニティクロマトグラフィー等の適当な方法により精製してモノクローナル抗体を得ることができる。
【0041】
(大豆イソフラボノイド標識結合体、エクオール標識結合体)
大豆イソフラボノイド標識結合体d1は、大豆イソフラボノイドa1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質c1に標識b1を結合させたものである。また、エクオール標識結合体d2は、エクオールa2と免疫特異的に結合するエクオール結合物質c2に標識b2を結合させたものである。
大豆イソフラボノイド標識結合体d1およびエクオール標識結合体d2は、例えば、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXとは別異の試薬の態様で定量または定性に供する、或いは、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXの例えば試料導入域10に予め担持させる等の態様で定量または定性に供することが可能である。当該試薬の態様で定量または定性に供する場合は、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXおよび試薬により、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットを構成することができる。
【0042】
標識b1,b2は、水・緩衝液等の検体溶解液に不溶性である粒子状物質であって、視覚によって検出可能な標識化物のことであり、直接標識または間接標識の何れを使用してもよい。標識b1,b2は、同じ態様(種類,色)の標識としてもよく、異なる態様の標識でもよい。
【0043】
直接標識とは直接観察できる標識であり、色調観察や発光や蛍光の強度等を測定することにより標識の存在を検出することができる標識をいう。直接標識に用いることができる標識物としては、金属ゾル・非金属ゾル・着色ラテックス粒子・着色リボゾーム・各種染料・各種顔料等の色素類・ルミノール誘導体・アクリジニウムエステル等の化学発光物質類・フルオレセイン・ローダミン等の蛍光物質類が挙げられる。
直接標識は、更なる工程を要さず判定結果を目視で観察することができる有色又は着色粒子による標識が好ましい。有色又は着色粒子としては金・銀・白金・プラチナ・銅のような金属コロイド、酸化鉄のような金属酸化物コロイド、硫黄・セレン等の非金属コロイド、顔料粒子・ラテックス粒子を染色したもの、リポソーム等が挙げられる。直接標識として特に金コロイドや着色ラテックスが、標識強度の視認性に優れ、かつ簡便に使用できるため、好ましい。有色又は着色粒子が毛管現象により展開手段20の多孔性物質中を移動するためには標識の粒子径が展開手段20のポアサイズより小さい必要がある。そのため、直接標識の平均粒径は1μm以下が好ましく、0.005〜1μm程度とすることが好ましい。
【0044】
間接標識としては、ペルオキシダーゼ・β−ガラクトシダーゼ・アルカリフォスファターゼ・グルコースオキシダーゼ等の酵素等が挙げられ、標識を視覚化するための工程を施すことによって標識の存在を検出することができる。
【0045】
例えば標識した抗体を使用した場合における免疫反応の結果、生成する特異的複合体中の被検出物質の量に応じて標識物質が存在することになる。未反応物を除去した後、標識物質の量を測定することで「被検出物質」を定量することができる。標識物質の定量は、標識物質の種類と共に種々の方法をとりうる。例えば、蛍光測定装置により蛍光物質の蛍光強度を測定する。測定された標識強度を、既知量の「被検出物質」を測定した場合の標識強度と比較することにより、液体試料中の被検出物質量を決定できる。
【0046】
(大豆イソフラボノイド様物質,エクオール様物質)
大豆イソフラボノイド様物質e1は大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合する物質であり、エクオール様物質e2はエクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合する物質である。
【0047】
上述したように、大豆イソフラボノイド様物質e1は大豆イソフラボノイドa1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質c1に標識を結合させたものであるため、大豆イソフラボノイド様物質e1は、大豆イソフラボノイド結合物質c1を認識し得る物質であり、大豆イソフラボノイド結合物質c1と親和性を有し、かつ選択的に結合し得る分子認識能を有する物質を意味する。
大豆イソフラボノイド結合物質c1が抗ダイゼイン抗体である場合、当該大豆イソフラボノイド様物質e1は、ダイゼインa1或いはダイゼインa1に構造が類似する物質とすることができる。即ち、大豆イソフラボノイド様物質e1がダイゼインa1に構造が類似する物質である場合は、当該物質は模擬抗原となる。
【0048】
また、エクオール標識結合体d2はエクオールa2と免疫特異的に結合するエクオール結合物質c2に標識を結合させたものであるため、エクオール様物質e2は、エクオール結合物質c2を認識し得る物質であり、エクオール結合物質c2と親和性を有し、かつ選択的に結合し得る分子認識能を有する物質を意味する。
エクオール結合物質c2が抗エクオール抗体である場合、当該エクオール様物質e2は、エクオールa2或いはエクオールa2に構造が類似する物質とすることができる。即ち、エクオール様物質e2がエクオールa2に構造が類似する物質である場合は、当該物質は模擬抗原となる。
【0049】
本実施形態では、大豆イソフラボノイド様物質e1がダイゼイン−BSAコンジュゲート(図6)であり、エクオール様物質e2がエクオール−BSAコンジュゲート(図7)である場合を例示する。これらコンジュゲートは、ダイゼイン或いはエクオールをカルボキシメチル化しBSAを結合させたものである。ダイゼイン或いはエクオールは、BSAの59個のリシンにおける1〜複数箇所とアミド結合している。
【0050】
大豆イソフラボノイド様物質e1をダイゼイン−BSAコンジュゲートの態様とすることにより、ダイゼインを容易に展開手段20上に固相化することができると共に、固相化したダイゼインが大豆イソフラボノイド標識結合体d1と結合して、当該大豆イソフラボノイド標識結合体d1を展開手段20上で捕捉することができる(図2)。この大豆イソフラボノイド標識結合体d1には標識b1が結合しているため、この標識b1を可視化することで、捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体d1を定量または定性することができる。
【0051】
また、エクオール様物質e2をエクオール−BSAコンジュゲートの態様とすることにより、エクオールを容易に展開手段20上に固相化することができると共に、固相化したエクオールがエクオール標識結合体d2と結合して、当該エクオール標識結合体d2を展開手段20上で捕捉することができる(図2)。このエクオール標識結合体d2には標識b2が結合しているため、この標識b2を可視化することで、捕捉されたエクオール標識結合体d2を定量または定性することができる。
【0052】
エクオール様物質e2はこれに限られるものではなく、エクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合する構造であれば、エクオールa2と結合させる側鎖の構造は置換可能である。当該側鎖はBSAの他、例えばKLH(hemocyanin)、OVA(ovalbumin)、カゼイン、ポリエチレングリコール、ゼラチンなどが適用できる。また展開手段20に直接化学結合させても良い。
尚、大豆イソフラボノイド様物質e1についても上述の態様に限られるものではなく、大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合する構造であれば、大豆イソフラボノイド(ダイゼイン)a1と結合させる側鎖の構造は置換可能である。
【0053】
(捕捉物質)
捕捉物質gは、大豆イソフラボノイド複合体f1・第一検出部21で大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1・エクオール複合体f2・第二検出部22でエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2のそれぞれと結合する物質である。
捕捉物質gは、大豆イソフラボノイド標識結合体d1を認識する物質であり、大豆イソフラボノイド結合物質c1が大豆イソフラボノイドa1と結合の有無を問わず大豆イソフラボノイド複合体f1および大豆イソフラボノイド標識結合体d1を認識し得る物質であり、大豆イソフラボノイド複合体f1および大豆イソフラボノイド標識結合体d1と親和性を有し、かつ選択的に結合し得る分子認識能を有する物質を意味する。さらに捕捉物質gは、エクオール標識結合体d2を認識する物質であり、エクオール結合物質c2がエクオールa2と結合の有無を問わずエクオール複合体f2およびエクオール標識結合体d2を認識し得る物質であり、エクオール複合体f2およびエクオール標識結合体d2と親和性を有し、かつ選択的に結合し得る分子認識能を有する物質を意味する。
【0054】
大豆イソフラボノイド複合体f1は大豆イソフラボノイドa1・大豆イソフラボノイド結合物質c1・標識b1で構成され、エクオール複合体f2は、エクオールa2・エクオール結合物質c2・標識b2で構成される。よって、捕捉物質gは、大豆イソフラボノイド複合体f1の状態で、例えば大豆イソフラボノイドa1或いは大豆イソフラボノイド結合物質c1に対して結合する物質であり、エクオール複合体f2の状態で、例えばエクオールa2或いはエクオール結合物質c2に対して結合する物質を例示することができる。
【0055】
本実施形態の捕捉物質gは、また、大豆イソフラボノイド複合体f1および第二検出部22で大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合するように、エクオール複合体f2および第一検出部21でエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合するように作製した抗マウス抗体を例示する。
【0056】
<大豆イソフラボノイド・エクオール定量方法>
大豆イソフラボノイド(ダイゼイン)およびエクオールを定量する際には、試料導入域10にダイゼインおよびエクオールを含んだ検体を添加し、当該検体を展開手段20に毛細管現象により展開させ、例えば競合型の抗原抗体反応(競合法)を利用して反応部位を発色させることにより、抗原の同定、存在の有無、または抗原量を測定する。
抗原抗体反応の形態は競合法、サンドイッチ型の抗原抗体反応(サンドイッチ法)の何れを利用してもよい。例えば、被検出物質の分子量が大きい場合にサンドイッチ法を利用し、被検出物質の分子量が小さい場合に競合法を利用することが一般的である。
【0057】
具体的には、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量方法は、まず、検体、ダイゼインと免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質c1に標識b1を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体d1、および、エクオールa2と免疫特異的に結合するエクオール結合物質c2に標識b2を結合させたエクオール標識結合体d2を混合して液体試料を得る混合工程(i)を行なう。その後、当該液体試料を展開させて、大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質e1と反応させる第一反応工程(大豆イソフラボノイド反応工程)(ii)と、エクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合するエクオール様物質e2と反応させる第二反応工程(エクオール反応工程)(iii)と、を行なう。
さらに、ダイゼインa1および大豆イソフラボノイド標識結合体d1が結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体f1、第一反応工程で大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1、エクオールa2およびエクオール標識結合体d2が結合して形成したエクオール複合体f2、第二反応工程でエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2のそれぞれと免疫特異的に結合する捕捉物質gと反応させる第三反応工程(捕捉物質反応工程)(iv)を行なう。
そして、第一反応工程〜第三反応工程で得られた標識強度を検出することにより検体中のダイゼインa1およびエクオールa2を定量する定量工程(v)を行なう。
【0058】
エクオール産生者の場合、通常、成人の尿中には0.085〜1μmol/L以上のエクオールが含有される。そのため、混合工程(i)において、抗エクオール抗体は例えば0.01〜5μg程度で検体と混合すれば、過剰な抗エクオール抗体を消費せずに検体中に含まれるエクオールを迅速に定量することができるため、各定量にかかるコストを抑えることができる。
抗エクオール抗体および抗ダイゼイン抗体の必要量の範囲は、展開手段20の材質、移動相の流速等を考慮して、適宜設定する。例えば、移動相の流速が早くなる材質で展開手段20を構成した場合、或いは、移動相の流速が遅くなる材質で展開手段20を構成した場合に応じて、検出試薬が十分に発色し得る最適な範囲を設定する。
【0059】
検体を試料導入域10にスポットした後、移動相が下流に流下するに従い、尿検体に含まれるダイゼインa1およびエクオールa2が第一検出部21、第二検出部22および第三検出部23を通過する。このとき、以下の一連の反応が起こる(図1〜3)。
【0060】
検体、大豆イソフラボノイド標識結合体d1およびエクオール標識結合体d2を混合して液体試料を得る混合工程(i)を行なうと、検体中のダイゼインa1と大豆イソフラボノイド標識結合体d1とが免疫特異的に結合した大豆イソフラボノイド複合体f1が形成され、また、検体中のエクオールa2とエクオール標識結合体d2とが免疫特異的に結合したエクオール複合体f2が形成される(図1)。
この状態で液体試料が流下して展開手段20の第一検出部21に到達する。ダイゼインa1と結合しない過剰の大豆イソフラボノイド標識結合体d1、および、エクオールa2と結合しない過剰のエクオール標識結合体d2は、フリーの状態で流下する。
【0061】
第一検出部21では、フリーの状態で流下した大豆イソフラボノイド標識結合体d1と大豆イソフラボノイド様物質e1とが免疫学的に結合する。このとき、大豆イソフラボノイド標識結合体d1は第一検出部21に捕捉される(第一反応工程(ii)、図2)。大豆イソフラボノイド複合体f1は、第一検出部21に捕捉されずに流下して第三検出部23に到達する。
また、第二検出部22では、フリーの状態で流下したエクオール標識結合体d2とエクオール様物質e2とが免疫学的に結合する。このとき、当該エクオール標識結合体d2は第二検出部22に捕捉される(第二反応工程(iii)、図2)。エクオール複合体f1は、第二検出部22に捕捉されずに流下して第三検出部23に到達する。
【0062】
第三検出部23では、大豆イソフラボノイド複合体f1および捕捉物質g、エクオール複合体f2および捕捉物質gが免疫学的に結合する。このとき、当該エクオール複合体fは第二検出部22に捕捉される(第三反応工程(iv)、図3)。また第一検出部21で補足できなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1、および、第二検出部22で補足できなかったエクオール標識結合体d2も同時に第三検出部23にて捕捉される。
【0063】
ダイゼインa1およびエクオールa2の定量は、それぞれ、第一反応工程(ii)で第一検出部21に捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体d1の標識強度(A)、第二反応工程(iii)で第二検出部22に捕捉されたエクオール標識結合体d2の標識強度(B)、第三反応工程(iv)で第三検出部23に捕捉された大豆イソフラボノイド複合体f1,エクオール複合体f2の標識強度(C)を検出することによって行なう(定量工程(v))。
【0064】
標識強度は、発色させて測定する場合、第一検出部21〜第三検出部23の色変化を分光色差計等の装置を用いて読み取る他、目視によってある程度の強度を判定してもよい。
装置を用いて定量分析する場合には、検体を滴下した後、標識b1,b2の吸収波長における反射率の変化速度を測定する。算出された標識強度の比、および、既に作製してある検量線に基づいてダイゼインa1およびエクオールa2を定量する。
標識強度は、例えば、蛍光色素による標識や酵素標識による化学発光量を測定する、或いは、磁性体標識による磁性強度を測定することによって定量してもよい。
【0065】
一方、目視によって強度を判定する際には、標識によって第一検出部21〜第三検出部23の位置で可視化されたバンドの有無あるいは濃淡を判別することでダイゼインa1およびエクオールa2の定性を行なう。
【0066】
例えば図4に示したように、検体中に十分量のダイゼインおよびエクオールが存在する場合は、第一検出部21および第二検出部22ではバンドは検出されず、第三検出部23のみにてバンドが検出される。また、検体中に十分量のダイゼインが存在してエクオールが存在しない場合は、第一検出部21ではバンドは検出されず、第二検出部22および第三検出部23にてバンドが検出される。さらに、検体中にダイゼインおよびエクオールが存在しない場合は、第一検出部21〜第三検出部23にてバンドが検出される。
ダイゼインおよびエクオール検出のための上記バンドの検出は、バックグラウンドノイズや非特異反応の有無を考慮して行なうとよい。
【0067】
尚、エクオールは体内でつくられるエストロゲンと似た働きをすることから、高いエストロゲン様活性を有していることが知られている。当該エストロゲンは女性ホルモンとして体内で産生される。大豆イソフラボノイド(ダイゼイン)などのイソフラボンは、エストロゲンの分泌が多いときにはその働きを抑制し、少ないときには亢進させる作用を有する。当該イソフラボンは、体内にあるエストロゲン受容体と結合することで、エストロゲン様作用を示す。
即ち、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスによってダイゼインおよびエクオールを定量することで、体外から取り込まれた女性ホルモン様物質の量を確認できる。同時に、体内で産生されるエストロゲンの作用状態を推定することができる。
このように、本発明では、体内で産生されるホルモンであるエストロゲン、および、体外から取り込まれた女性ホルモン様物質の定量および定性を同時に行なえることが期待される。
【実施例】
【0068】
既知濃度のダイゼイン標準溶液およびエクオール標準溶液を用いて検量線を作成した(実施例1,2)。その後、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXを使用して、ダイゼインおよびエクオールの定量・定性を行なった(実施例3)。
【0069】
大豆イソフラボノイド結合物質c1として抗ダイゼイン抗体を使用し、当該抗ダイゼイン抗体を金コロイドによって修飾することで大豆イソフラボノイド標識結合体d1を作製した。エクオール結合物質c2として抗エクオール抗体を使用し、当該抗エクオール抗体を金コロイドによって修飾することでエクオール標識結合体d2を作製した。
大豆イソフラボノイド様物質e1としてダイゼイン−BSAコンジュゲートを作製し、エクオール様物質e2としてエクオール−BSAコンジュゲートを作製し、捕捉物質gとして抗マウス抗体を使用した。
【0070】
抗ダイゼイン抗体および抗エクオール抗体は、それぞれマウスをダイゼイン-KLHコンジュゲート或いはエクオール-KLHコンジュゲートによって免疫感作することにより作製する。例えば当該エクオール-KLHコンジュゲートは、次のようにして作製した。
【0071】
まず、エクオール66mg(トロントリサーチケミカル社製、図7(a))、K2CO390mg、ベンジルブロモアセテート(benzylbromoacetate)を室温下で一昼夜置いた後、パラジウムカーボンと接触還元によりエステルの加水分解を行ない、これにより、カルボキシメチルエクオール(図7(b))が生成する。このカルボキシメチルエクオール20mg、EDC15mg、sulfo−NHS 21mgをDMF中で24時間反応させたのち、スカシ貝ヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin、KLH)46mgの3mL PBS溶液と25℃で4時間反応させ、アミド結合によって結合したエクオール−KLHコンジュゲート(図7(c))を作製した。
上記と同様の手順でKLHの代わりにウシ血清アルブミン(BSA)を使うことでエクオール様物質e2としてエクオール−BSAコンジュゲートを作製した。
【0072】
エクオール-KLHコンジュゲート0.5mg/mL PBSを等量のアジュバンドとよく混和した後、0.15mLをマウスに腹腔内投与した。2週間ごとに2回追加免疫を行い、最終免疫を行った3日後に、当該マウスから脾臓を摘出し、ミエローマ細胞(P3U1)と融合させることでハイブリドーマを作出した。
これら細胞の融合は、脾臓細胞とミエローマ細胞を1:5で混合し、常法に従いPEGを用いて融合した。これをHAT培地で10〜14日間培養後ハイブリドーマを選択した。ハイブリドーマの細胞コロニーが形成されたウェルの培養上清で上述したELISA法によって上清の抗体価を測定し、抗体価の高い抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法により分離した。分離した融合細胞を10%DMEM培地で培養後、IgGカラムを用いて精製を行い、モノクローナル抗体(抗エクオール抗体)を得た。
【0073】
抗エクオール抗体に対して金コロイド(粒径40nm、BBI社製)を以下のようにして標識した。
10mLの金コロイド溶液(塩化金酸濃度として0.01%)を取り、100mM炭酸カリウムでpHを5.5に調整した。精製した抗エクオール抗体を2mMホウ酸ナトリウム溶液(pH9.2)で透析し、100μg/mLの濃度になるように調製した。pHを5.5に調整した金コロイド溶液に、最終濃度が10μg/mLとなる量の抗エクオール抗体を加え、金コロイドと抗エクオール抗体が十分結合されるように穏やかに撹拌した。5分後、10%BSAを1mL加え、穏やかに10分間撹拌した。全量を遠心(14000rpm、30分、4℃)した後、上清を廃棄し、沈殿している抗体結合金コロイド(エクオール標識結合体d2)に、1%BSA、150mM塩化ナトリウムを含む10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)1mLを加えて溶解させた。
【0074】
ダイゼイン-KLHコンジュゲートも前記エクオール-KLHコンジュゲートと同様にして作製した(図6(a)ダイゼイン、(b)カルボキシメチルダイゼイン、(c)ダイゼイン-KLHコンジュゲート)。KLHの代わりにウシ血清アルブミン(BSA)を使うことで大豆イソフラボノイド様物質e1としてダイゼイン−BSAコンジュゲートを作製した。
また、抗ダイゼイン抗体は、ダイゼイン-KLHコンジュゲートを使用することで前記抗エクオール抗体と同様にして作製し、さらに抗体結合金コロイド(大豆イソフラボノイド標識結合体d1)も作製した。
【0075】
抗マウス抗体は、ウサギ由来抗マウスIgG抗体(キャペル社製)を使用した。
【0076】
実施例1において既知濃度のダイゼイン標準溶液を用いて検量線を作成し、実施例2において既知濃度のエクオール標準溶液を用いて検量線を作成した。
【0077】
〔実施例1〕
ダイゼインを定量または定性するため、以下の構成のダイゼイン定量定性デバイスXaを使用した(図5)。即ち、基板40上に、試料導入域10a、展開手段20aおよび吸水部30を順次接触させて設けてある。
【0078】
マウスに投与したダイゼイン-BSAコンジュゲート1mg/mLを1cmにつき1μLとなるように展開手段20aであるニトロセルロースメンブレン(日本ミリポア株式会社製)に塗布して乾燥(45℃、40分間)させ、第一の検出部24aとした。また、抗マウス抗体1mg/mLを1cmにつき1μLとなるようにニトロセルロースメンブレン20aにおいて第一の検出部24aの下流となる位置に塗布して乾燥させ、第二の検出部25aとした。
【0079】
即ち、展開手段20aは、検体および大豆イソフラボノイド標識結合体d1を含んだ液体試料が通過でき、大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質e1を担持する第一の検出部24a、および、ダイゼインa1および大豆イソフラボノイド標識結合体d1が免疫特異的に結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体f1或いは第一の検出部24aで大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1と結合する捕捉物質gを担持する第二の検出部25aをこの順に備える(図5(a))。
【0080】
金コロイド修飾済み抗ダイゼイン抗体(大豆イソフラボノイド標識結合体d1)溶液(10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5))を試料導入域10aに26μL塗布し、風乾した。また、ダイゼインa1(和光純薬社製)をPBST緩衝液(PBS−0.05%,Tween20)に溶解したダイゼイン標準溶液を、試料導入域10aに100μL滴下し、展開手段20aに展開させた。当該ダイゼイン標準溶液は、ダイゼインa1の濃度を種々変更したサンプル1〜7を準備した。
【0081】
試料導入域10aより、検体および大豆イソフラボノイド標識結合体d1を導入した後、移動相が下流に流下するに従い、検体に含まれるダイゼインa1が第一の検出部24a、第二の検出部25aを通過する。このとき、以下の一連の反応が起こる。
【0082】
検体および大豆イソフラボノイド標識結合体d1を混合して液体試料を得る混合工程を行なうと、検体中のダイゼインa1と大豆イソフラボノイド標識結合体d1とが免疫特異的に結合した大豆イソフラボノイド複合体f1が形成される。この状態で液体試料が流下して第一の検出部24aに到達する。ダイゼインa1と結合しない過剰の大豆イソフラボノイド標識結合体d1は、フリーの状態で流下する。
【0083】
第一の検出部24aでは、フリーの状態で流下した大豆イソフラボノイド標識結合体d1と大豆イソフラボノイド様物質e1とが免疫学的に結合する。このとき、当該大豆イソフラボノイド標識結合体d1は第一の検出部24aに捕捉される(図5(b))。大豆イソフラボノイド複合体f1は、第一の検出部24aに捕捉されずに流下して第二の検出部25aに到達する。
【0084】
第二の検出部25aでは、大豆イソフラボノイド複合体f1と捕捉物質gとが免疫学的に結合する。このとき、当該大豆イソフラボノイド複合体f1は第二の検出部25aに捕捉される。また第一の検出部24aで補足できなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1も同時に第二の検出部25aにて捕捉される(図5(c))。
【0085】
ダイゼイン標準溶液を展開手段20aに展開させ、第一の検出部24aおよび第二の検出部25aにおける発色量をイムノメジャーPCB−SK100(アイシン精機株式会社製)にて測定した。
第一の検出部24aに捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体d1の標識強度(A1)、および、第二の検出部25aに捕捉され大豆イソフラボノイド複合体f1の標識強度(B1)を測定した。結果を表1に示した。検量線は、標識強度(B1:第二の検出部25aの標識強度)に基づいて作成した(図8)。
【0086】
【表1】
【0087】
〔実施例2〕
エクオールを定量または定性するため、以下の構成のエクオール定量定性デバイスXbを使用した(図9)。即ち、基板40上に、試料導入域10b、展開手段20bおよび吸水部30を順次接触させて設けてある。
【0088】
マウスに投与したエクオール-BSAコンジュゲート1mg/mLを1cmにつき1μLとなるように展開手段20bであるニトロセルロースメンブレン(日本ミリポア株式会社製)に塗布して乾燥(45℃、1時間)させ、第一の検出部24bとした。また、抗マウス抗体1mg/mLを1cmにつき1μLとなるようにニトロセルロースメンブレン20bにおいて第一の検出部24bの下流となる位置に塗布して乾燥させ、第二の検出部25bとした。
【0089】
即ち、展開手段20bは、検体およびエクオール標識結合体d2を含んだ液体試料が通過でき、エクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合するエクオール様物質e2を担持する第一の検出部24b、および、エクオールa2およびエクオール標識結合体d2が免疫特異的に結合して形成したエクオール複合体f2或いは第一の検出部24bでエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2と結合する捕捉物質gを担持する第二の検出部25bをこの順に備える(図9(a))。
【0090】
金コロイド修飾済み抗エクオール抗体(エクオール標識結合体d2)溶液(10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5))を試料導入域10aに26μL塗布し、風乾した。また、エクオールa2(シグマ社製)をPBST緩衝液(PBS−0.05%,Tween20)に溶解したエクオール標準溶液を、試料導入域10aに100μL滴下し、展開手段20bに展開させた。当該エクオール標準溶液は、エクオールa2の濃度を種々変更したサンプル8〜15を準備した。
【0091】
試料導入域10bより、検体およびエクオール標識結合体d2を導入した後、移動相が下流に流下するに従い、検体に含まれるエクオールa2が第一の検出部24b、第二の検出部25bを通過する。このとき、以下の一連の反応が起こる。
【0092】
検体およびエクオール標識結合体d2を混合して液体試料を得る混合工程を行なうと、検体中のエクオールa2とエクオール標識結合体d2とが免疫特異的に結合したエクオール複合体f2が形成される。この状態で液体試料が流下して第一の検出部24bに到達する。エクオールa2と結合しない過剰のエクオール標識結合体d2は、フリーの状態で流下する。
【0093】
第一の検出部24bでは、フリーの状態で流下したエクオール標識結合体d2とエクオール様物質e2とが免疫学的に結合する。このとき、当該エクオール標識結合体d2は第一の検出部24bに捕捉される(図9(b))。エクオール複合体f2は、第一の検出部24bに捕捉されずに流下して第二の検出部25bに到達する。
【0094】
第二の検出部25bでは、エクオール複合体f2と捕捉物質gとが免疫学的に結合する。このとき、当該エクオール複合体f2は第二の検出部25bに捕捉される。また第一の検出部24bで補足できなかったエクオール標識結合体d2も同時に第二の検出部25bにて捕捉される(図9(c))。
【0095】
エクオール標準溶液を展開手段20bに展開させ、第一の検出部24bおよび第二の検出部25bにおける発色量をイムノメジャーPCB−SK100にて測定した。
第一の検出部24bに捕捉されたエクオール標識結合体d2の標識強度(A2)、および、第二の検出部25bに捕捉されエクオール複合体f2の標識強度(B2)を測定した。結果を表2に示した。標識強度(B2:第二の検出部25bの標識強度)に基づいて検量線を作成した(図10)。
【0096】
【表2】
【0097】
〔実施例3〕
本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスX(図1)を使用して、ダイゼインおよびエクオールの定量・定性を行なった。
ダイゼイン−BSAコンジュゲート(1mg/mL)、エクオール−BSAコンジュゲート(1mg/mL)および抗マウス抗体(1mg/mL)のそれぞれを、1cmにつき1μLとなるように展開手段20であるニトロセルロースメンブレン(日本ミリポア株式会社製)に塗布して乾燥(45℃、40分間)させ、それぞれ第一検出部21、第二検出部22、第三検出部23とした。
【0098】
金コロイド修飾済み抗ダイゼイン抗体(大豆イソフラボノイド標識結合体d1)溶液、および、金コロイド修飾済み抗エクオール抗体(エクオール標識結合体d2)溶液を試料導入域10に26μL塗布し、風乾した。
また、ダイゼインa1およびエクオールa2をPBST緩衝液(PBS−0.05%,Tween20)に溶解したダイゼイン・エクオール標準溶液を、試料導入域10に100μL滴下し、展開手段20に展開させた。当該ダイゼイン・エクオール標準溶液は、ダイゼインa1およびエクオールa2の濃度(μM)を種々変更したサンプル16〜19を準備した。
【0099】
【表3】
【0100】
各イゼイン・エクオール標準溶液(サンプル16〜19)をそれぞれ展開手段20に展開させ、第一検出部21〜第三検出部23における発色量をイムノメジャーPCB−SK100にて測定した。
発色量の測定結果は、例えばサンプル16では、第一検出部21に捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体d1の標識強度(A)は、1811(6439(全シグナル)−4628(バックグラウンドシグナル))であった。同様に、第二検出部22に捕捉されたエクオール標識結合体d2の標識強度(B)は、2669(7298−4628)であり、第三検出部23における標識強度(C)は、2067(6821−4754)であった。
【0101】
この発色量の測定結果および実施例1,2で作製した検量線を元にして算出されたダイゼインおよびエクオールの濃度(μM)の結果を表4に示した。
【0102】
【表4】
【0103】
以上より、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXは、予め決定しておいた検量線を元に、ダイゼインおよびエクオールの混合サンプルから定量濃度を求めることが可能であると示唆された。
或いは、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXでは、ダイゼインおよびエクオールの混合サンプルを展開させると、第一検出部21〜第三検出部23に出現するバンドを認識することで、ダイゼイン或いはエクオールの有無の判定を目視によって行うことが可能であると言えた。
【0104】
〔別実施形態1〕
上述した実施形態では、当該第一反応域20Aでは、大豆イソフラボノイド標識結合体d1および大豆イソフラボノイド様物質e1を反応(大豆イソフラボノイド反応工程)させ、また、エクオール標識結合体d2およびエクオール様物質e2を反応(エクオール反応工程)させる際に、これら反応を、第一反応域20Aの異なる領域(第一検出部21,第二検出部22)で行なわせる場合について説明した。しかし、このような態様に限らされるものではなく、上述の反応を第一反応域20Aの標識を変えて同じ領域で行なわせてもよい(図11,12)。
【0105】
本構成では、第一反応域20Aにおいて、大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質e1を担持し、かつ、エクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合するエクオール様物質e2を担持する。
また、第一反応域20Aの下流に、大豆イソフラボノイドa1および大豆イソフラボノイド標識結合体d1が免疫特異的に結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体f1、第一反応域20Aで大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1、エクオールa2およびエクオール標識結合体d2が免疫特異的に結合して形成したエクオール複合体f2、第一反応域20Aでエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2、のそれぞれと結合する捕捉物質gを担持する第二反応域20Bを備える。
【0106】
本構成では、大豆イソフラボノイド反応工程およびエクオール反応工程を第一反応域20Aの同じ領域で行なわせるため、標識の呈色反応(色の変化)によって可視化することができる。大豆イソフラボノイド標識結合体d1には標識b1を結合させており、エクオール標識結合体d2には標識b2を結合させている。そのため、第一反応域20Aでは、標識b1および標識b2が呈する色を視認することとなる。即ち、標識b1および標識b2が呈する色が異なる場合、第一反応域20Aでは、標識b1が呈する色、標識b2が呈する色、および、標識b1および標識b2のそれぞれが呈する色を混合した色、を視認して、ダイゼインおよびエクオールの存在を判定する。
【0107】
図4において、第一検出部21〜第三検出部23のバンドの有無によってダイゼインa1およびエクオールa2の存在を判定した。これに対して、本実施形態におけるダイゼインa1およびエクオールa2の存在の判定は以下のようにして行なう。
即ち、検体中に十分量のダイゼインa1およびエクオールa2が存在する場合は第一反応域20Aでは標識の呈色は視認できず、第二反応域20Bにおいて標識b1および標識b2が呈する色を混合した色が視認できる。また、検体中に十分量のダイゼインa1が存在してエクオールa2が存在しない場合は、第一反応域20Aでは標識b2が呈する色のみが視認される。
さらに、検体中にダイゼインa1およびエクオールa2が存在しない場合は、第一反応域20Aでは標識b1および標識b2のそれぞれが呈する色を混合した色が視認できる。この場合、例えば二色の色を異なる比率で混合して呈する色見本を予め作製しておき、当該色見本を基に標識b1および標識b2の存在比率、即ちダイゼインa1およびエクオールa2の存在の有無、を第一反応域20Aにおける色調の変化で推定することが可能となる。
【0108】
〔別実施形態2〕
上述した実施形態では、第一検出部21にて大豆イソフラボノイド様物質e1を担持し、第二検出部22にてエクオール様物質e2を担持する場合について説明した。しかし、このような態様に限られるものではなく、第一検出部21にて大豆イソフラボノイド結合物質c1を担持し、第二検出部22にてエクオール結合物質c2を担持するように構成してもよい(図13)。
【0109】
この場合、第一検出部21では大豆イソフラボノイド結合物質c1によって、大豆イソフラボノイド様物質e1(或いは大豆イソフラボノイドa1)に標識b1を結合させた大豆イソフラボノイド様物質標識結合体d1’を捕捉することができる。また、第二検出部22ではエクオール結合物質c2によって、エクオール様物質e2(或いはエクオールa2)に標識b2を結合させたエクオール様物質標識結合体d2’を捕捉することができる(図14)。
【0110】
本実施形態では、大豆イソフラボノイドa1および大豆イソフラボノイド様物質標識結合体d1’が大豆イソフラボノイド結合物質c1と競合して結合する。また、エクオールa2およびエクオール様物質標識結合体d2’がエクオール結合物質c2と競合して結合する。
本実施形態の捕捉物質g’は、第一検出部21で大豆イソフラボノイド結合物質c1と反応しなかった大豆イソフラボノイド様物質標識結合体d1’・第二検出部22でエクオール結合物質c2と反応しなかったエクオール様物質標識結合体d2’のそれぞれと結合する物質である(図15)。本実施形態では、当該捕捉物質g’として抗BSA抗体を例示する。
【0111】
本実施形態においても、第一検出部21〜第三検出部23の位置でバンドの態様で可視化することができ、大豆イソフラボノイドa1およびエクオールa2の定量または定性が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットおよび大豆イソフラボノイド・エクオール定量方法は、大豆イソフラボノイドおよびエクオールの定量および定性に利用できる。
【符号の説明】
【0113】
X 大豆イソフラボノイド・エクオール定量デバイス
a1 大豆イソフラボノイド(ダイゼイン)
a2 エクオール
b1,b2 標識
c1 大豆イソフラボノイド結合物質
c2 エクオール結合物質
d1 大豆イソフラボノイド標識結合体
d2 エクオール標識結合体
e1 大豆イソフラボノイド様物質
e2 エクオール様物質
f1 大豆イソフラボノイド複合体
f2 エクオール複合体
g 捕捉物質
10 試料導入域
20A 第一反応域
20B 第二反応域
21 第一検出部
22 第二検出部
23 第三検出部
40 基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆イソフラボノイドおよびエクオールを定量または定性するデバイス、キットおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エクオールは、腸内細菌(エクオール産生菌)によって生成され、その生成には個人差の存在することが知られている。例えば日本人のエクオール産生者の割合は約50%であることも報告されている(特許文献1)。
【0003】
このような個人差が生じる理由として、腸内フローラによるイソフラボノイド代謝系の違いが指摘されている(特許文献2)。イソフラボノイド代謝産物の中でもエクオールは、大豆等に含まれるイソフラボノイドの一種のダイゼイン(Daidzein)やホルモノネチン(Formononetin)を、所定の腸内フローラ、即ちエクオール産生菌の働きによって代謝することにより生成されると言われている。
【0004】
エクオールは、ダイゼイン等よりもはるかに高いエストロゲン様活性を有することが知られている。このようにエストロゲン様活性を有することで、エクオールは乳ガン・前立腺ガン・更年期障害・骨粗鬆症等に対する予防効果を有することが示唆されている。つまり、エクオールの産生能を高めることが、大豆イソフラボノイドを有効利用する上で重要となる。
【0005】
特許文献2には、イソフラボノイドを含む試料中におけるエクオールの有無を容易に検査できるエクオールの検査方法、及びエクオール産生菌の有無を容易に検査できるエクオール産生菌の検査方法が記載してある。
腸内で代謝されたイソフラボノイドの一部(エクオールを含む)は、腸管で吸収され、血液を介して尿中に排泄される。例えば、健康な成人では、イソフラボノイドを摂食してから数時間から40時間後にかけて尿中に前記イソフラボノイドが検出され、そのうちエクオール検出のピークは30〜40時間程度が一般的である。従って、イソフラボノイドを摂取した人の血液又は尿を検査することにより、その人の腸内フローラの構成、即ちエクオール産生菌の有無または何らかの機能によるエクオール産生能力を把握することが可能となる。
【0006】
上記検査方法は、具体的には、尿や胃腸内容物に由来する試料を順相TLCにて分析する工程が実施される。分析工程では、展開後のイソフラボノイドを可視化させる可視化手段を用いて、TLCプレート上の各イソフラボノイドを同定している。
【0007】
通常、血液、尿中及び胃腸内容物の培養物に含まれるイソフラボノイドには、ゲニステインが存在しているケースが多い。ゲニステインは、逆相TLCの担体上ではエクオールと同等の展開移動度にスポットが検出されるため、エクオールの検出に際しては大きなノイズとなる。これに対し、特許文献2に記載の検査方法では順相TLCを用いることにより、ゲニステインを含む主要なイソフラボノイドとエクオールとをTLCプレート上で差別化できるため、ノイズのないエクオールの検査を実施することが可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3864317号公報
【特許文献2】特開2006−242602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1には、エクオール産生乳酸菌含有組成物が開示してあるのみで、エクオールおよび大豆イソフラボノイドの定量については記載がない。
一方、特許文献2に記載の検査方法は、尿等に由来する試料に含有されるエクオールを測定する方法で、大豆代謝能の診断に有効である。しかし、TLC法は測定作業に溶媒や専用容器や、エクオールのスポットを識別する経験、特に両端と中央では移動度に差が生じるため湾曲した移動を計算しながら識別する等の高度な技術を必要とする。さらに、当該検査方法はエクオールのみを定量しているわけではないため、他の物質由来のシグナルも見分けるために標準物質のマーカーが必要となり、手軽に作業ができるとは言い難かった。
【0010】
食品において「大豆含有」の記載がある場合、大豆タンパク質、大豆イソフラボノイド、大豆繊維の何れが含まれているか不明な場合がある。
上述したようにエクオールは、大豆等に含まれるイソフラボノイドの一種のダイゼインがエクオール産生菌によって代謝されることにより生成され、エクオールの生成には個人差が存在する。
仮に特許文献2に記載の検査方法を行なってエクオールを検出できなかったとき、以下の何れの原因に基づくものであるかを識別することは不可能である。
(1)検査前に大豆含有食品を摂取したが、被験者にエクオール産生能力が無いためにエクオールを検出できない。
(2)検査前に大豆含有食品を摂取したが、当該大豆含有食品が大豆イソフラボノイドを含まない食品であるためエクオールを検出できない。
(3)検査前に大豆を摂取していないためエクオールを検出できない。
【0011】
即ち、エクオールの検出時に、ダイゼインなどの大豆イソフラボノイドの検出も同時に行なえる検査方法は存在しなかった。
【0012】
従って、本発明の目的は、容易かつ簡便に大豆イソフラボノイドおよびエクオールの定量または定性を同時に行なえる定量定性デバイス、定量定性キットおよび定量方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
即ち、上記目的を達成するため、以下の[1]〜[8]に示す発明を提供する。
[1] 検体中の大豆イソフラボノイドおよびエクオールを定量または定性するため、基板上に、前記検体、大豆イソフラボノイドと免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質に標識を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体、および、エクオールと免疫特異的に結合するエクオール結合物質に標識を結合させたエクオール標識結合体を含んだ液体試料を導入する試料導入域と、前記大豆イソフラボノイド標識結合体と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質、および、前記エクオール標識結合体と免疫特異的に結合するエクオール様物質を担持する第一反応域と、前記大豆イソフラボノイドおよび前記大豆イソフラボノイド標識結合体が免疫特異的に結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体、前記第一反応域で前記大豆イソフラボノイド様物質と反応しなかった前記大豆イソフラボノイド標識結合体、前記エクオールおよび前記エクオール標識結合体が免疫特異的に結合して形成したエクオール複合体、前記第一反応域で前記エクオール様物質と反応しなかった前記エクオール標識結合体、のそれぞれと結合する捕捉物質を担持する第二反応域と、を備えた大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
[2] 前記第一反応域が、前記大豆イソフラボノイド様物質を担持する第一検出部、および、前記エクオール様物質を担持する第二検出部を備えた上記[1]に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
[3] 前記大豆イソフラボノイドがダイゼインである上記[1]又は[2]に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
[4] 前記大豆イソフラボノイド様物質がダイゼイン−BSAコンジュゲートであり、前記エクオール様物質がエクオール−BSAコンジュゲートである上記[3]に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
[5] 上記[1]〜[4]の何れかに記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスと、大豆イソフラボノイド結合物質として抗ダイゼイン抗体と、エクオール結合物質として抗エクオール抗体と、を備えた大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット。
[6] 前記大豆イソフラボノイド結合物質に直接標識を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体、および、前記エクオール結合物質に直接標識を結合させたエクオール標識結合体を備えた上記[5]に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット。
[7] 前記直接標識が金コロイド標識である上記[6]に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット。
【0014】
上記[1]の構成では、第一反応域にて、大豆イソフラボノイド標識結合体および大豆イソフラボノイド様物質を反応させ、また、エクオール標識結合体およびエクオール様物質を反応させることができる。これら反応は、第一反応域の異なる領域で行なわせてもよく、同じ領域で行なわせてもよい。
【0015】
また、第二反応域では、当該第二反応域に担持された捕捉物質によって、大豆イソフラボノイド複合体・第一反応域で大豆イソフラボノイド様物質と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体・エクオール複合体・第一反応域でエクオール様物質と反応しなかったエクオール標識結合体、のそれぞれを捕捉することができる。捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体・大豆イソフラボノイド複合体・エクオール標識結合体・エクオール複合体は標識化されているため、第一反応域および第二反応域の位置で例えばバンドの態様或いは当該標識の呈色反応(色の変化)によって可視化することができる。よって、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスでは、大豆イソフラボノイドおよびエクオールの定量または定性が可能となる。
【0016】
第一反応域は、第一検出部にて大豆イソフラボノイド様物質を担持し、第二検出部にてエクオール様物質を担持するように構成できる。本構成では、液体試料の移相に伴い、第一検出部に担持された大豆イソフラボノイド様物質により大豆イソフラボノイド標識結合体を捕捉することができ、第二検出部に担持されたエクオール様物質によりエクオール標識結合体を捕捉することができる。そのため、大豆イソフラボノイド標識結合体およびエクオール標識結合体の検出する場所を分離できるようになり、大豆イソフラボノイドおよびエクオールの定量または定性の精度を向上させることができる。
【0017】
大豆イソフラボノイドはダイゼインとするのがよい。
大豆イソフラボノイド様物質がダイゼイン−BSAコンジュゲートであり、エクオール様物質がエクオール−BSAコンジュゲートであれば、大豆イソフラボノイド(ダイゼイン)を第一検出部に固相化するのが容易となり、かつエクオールを第二検出部に固相化するのが容易となり、未反応の大豆イソフラボノイド標識結合体およびエクオール標識結合体を特異的に捕捉することができる。さらに、大豆イソフラボノイド結合物質が抗ダイゼイン抗体であればダイゼインを特異的に捕捉することができ、エクオール結合物質が抗エクオール抗体であれば、エクオールを特異的に捕捉することができる。これらより、大豆イソフラボノイドおよびエクオール定量の精度が向上する。
【0018】
大豆イソフラボノイド結合物質および大豆イソフラボノイド標識結合体、エクオール結合物質およびエクオール標識結合体は、例えば、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスとは別異の試薬の態様で定量に供して、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットの一部とすることができる。
【0019】
大豆イソフラボノイド標識結合体およびエクオール標識結合体が金コロイドのような直接標識で標識されていれば、定量または定性結果を目視で直接観察できるため、大豆イソフラボノイド・エクオール定量または定性をオンサイトで簡便に行なうことができる。
【0020】
以上より、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスおよび大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットでは、簡便な構造で大豆イソフラボノイドおよびエクオールの両者を同時に、免疫学的に容易に定量または定性することができる。よって、例えば尿を検体として本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスおよび大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットを使用することで、被験者が大豆イソフラボノイドをエクオールに代謝する能力の有無を容易かつ簡便に診断することができる。
【0021】
検査前に意図的に大豆を摂取しない場合であっても、日常生活で大豆を含有した食品を食す機会は多い。仮に、検査前に意図せず大豆を摂取していた場合は、検査のために大豆を摂取することは過剰な大豆摂取となる。本発明であれば、検査前に大豆の摂取の有無が不明な場合であっても、とりあえず本発明の方法によって検査を行って大豆イソフラボノイドが検出されれば、大豆イソフラボノイドの摂取の有無を容易に判定できる。このような判定ができれば、過剰な(無駄な)大豆摂取をする必要がなくなる。仮に大豆イソフラボノイドが検出されなかった場合のみ、検査前に意図的に大豆を摂取すればよい。
もし十分量の大豆イソフラボノイドが検出されなかった場合には、十分量の大豆を摂取したうえで本方法による検査をすればよい。
また、本方法では、大豆イソフラボノイドおよびエクオールを定量または定性できるため、大豆イソフラボノイドおよびエクオールの比率を検出することができる。大豆イソフラボノイドおよびエクオールの比率が判明すれば、被験者のエクオール産生能力を的確に把握することができる。
【0022】
[8] 検体、大豆イソフラボノイドと免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質に標識を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体、および、エクオールと免疫特異的に結合するエクオール結合物質に標識を結合させたエクオール標識結合体を混合して液体試料を得る混合工程を行なった後、当該液体試料を展開させて、
前記大豆イソフラボノイド標識結合体と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質と反応させる大豆イソフラボノイド反応工程と、
前記エクオール標識結合体と免疫特異的に結合するエクオール様物質と反応させるエクオール反応工程と、
前記大豆イソフラボノイドおよび前記大豆イソフラボノイド結合物質が結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体、前記大豆イソフラボノイド反応工程で前記大豆イソフラボノイド様物質と反応しなかった前記大豆イソフラボノイド標識結合体、前記エクオールおよび前記エクオール結合物質が結合して形成したエクオール複合体、前記エクオール反応工程で前記エクオール様物質と反応しなかった前記エクオール標識結合体、のそれぞれと免疫特異的に結合する捕捉物質と反応させる捕捉物質反応工程と、
前記大豆イソフラボノイド反応工程、前記エクオール反応工程、前記捕捉物質反応工程で得られた標識強度を検出することにより前記検体中の大豆イソフラボノイドおよびエクオールを定量する定量工程と、を行なう大豆イソフラボノイド・エクオール定量方法。
【0023】
上記[8]の構成では、大豆イソフラボノイド反応工程において、大豆イソフラボノイド標識結合体および大豆イソフラボノイド様物質を反応させ、また、エクオール反応工程において、エクオール標識結合体およびエクオール様物質を反応させることができる。これら反応は何れを先に行なってもよい。捕捉物質反応工程においては、大豆イソフラボノイド複合体、大豆イソフラボノイド反応工程で大豆イソフラボノイド様物質と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体、エクオール複合体、エクオール反応工程でエクオール様物質と反応しなかったエクオール標識結合体、のそれぞれと捕捉物質とを反応させることができる。
大豆イソフラボノイドおよびエクオールの定量は、それぞれ、エクオール反応工程で大豆イソフラボノイド様物質に捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体の標識強度、エクオール反応工程でエクオール様物質に捕捉されたエクオール標識結合体の標識強度、捕捉物質反応工程で捕捉物質に捕捉された大豆イソフラボノイド複合体、大豆イソフラボノイド標識結合体、エクオール複合体およびエクオール標識結合体の標識強度を検出することによって行なう(定量工程)。
即ち、定量工程では、それぞれの物質が捕捉された位置で例えばバンドの態様或いは当該標識の呈色反応(色の変化)によって可視化することができる。よって、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量方法では、大豆イソフラボノイドおよびエクオールの定量が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスおよび大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットを示す斜視図である。
【図2】第一検出部および第二検出部での反応を模式的に示す斜視図である。
【図3】第三検出部での反応を模式的に示す斜視図である。
【図4】ダイゼインおよびエクオールが存在する場合或いは存在しない場合の各検出部の発色を模式的に示した図である。
【図5】ダイゼイン定量定性デバイスを示す斜視図である。
【図6】ダイゼイン、カルボキシメチルダイゼインおよびダイゼイン−BSAコンジュゲートの構造を示す図である。
【図7】エクオール、カルボキシメチルエクオールおよびエクオール−BSAコンジュゲートの構造を示す図である。
【図8】実施例1で作成した検量線を示すグラフである。
【図9】エクオール定量定性デバイスを示す斜視図である。
【図10】実施例2で作成した検量線を示すグラフである。
【図11】別実施形態1の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスおよび大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットを示す斜視図である。
【図12】別実施形態1において、第一反応域での反応を模式的に示す斜視図である。
【図13】別実施形態2の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスを示す斜視図である。
【図14】別実施形態2の第一検出部および第二検出部での反応を模式的に示す斜視図である。
【図15】別実施形態2の第三検出部での反応を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスは、例えば単層の展開マトリクス(展開手段)に試薬を担持させた免疫クロマトグラフィーとして利用できるが、これに限られるものではない。当該大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスは、固定相である展開手段の表面あるいは内部を、被検出物質を含んだ移動相(液体など)が通過することで、検体中に含まれる被検出物質(大豆イソフラボノイド・エクオール)を定量または定性する。
【0026】
<大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスおよび大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット>
図1〜3に示したように、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXは、試料導入域10、第一反応域20Aおよび第二反応域20Bを備える。第一反応域20Aおよび第二反応域20Bは展開手段20に形成し、当該展開手段20の下流には液体を吸収する吸水部30を設けてある。本実施形態では、試料導入域10、展開手段20および液体を吸収する吸水部30は順次接触させて設けてある。
試料導入域10は、検体中の大豆イソフラボノイドa1およびエクオールa2を定量または定性するため、基板40上に、検体、大豆イソフラボノイドa1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質c1に標識b1を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体d1、および、エクオールa2と免疫特異的に結合するエクオール結合物質c2に標識b2を結合させたエクオール標識結合体d2を導入する部位である。
【0027】
本実施形態の展開手段20は、検体、大豆イソフラボノイド標識結合体d1およびエクオール標識結合体d2を含んだ液体試料が通過でき、大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質e1を担持する第一検出部21(第一反応域20A)、および、エクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合するエクオール様物質e2を担持する第二検出部22(第一反応域20A)を備える。さらに展開手段20は、これらの下流に、大豆イソフラボノイドa1および大豆イソフラボノイド標識結合体d1が免疫特異的に結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体f1、第一検出部21(第一反応域20A)で大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1、エクオールa2およびエクオール標識結合体d2が免疫特異的に結合して形成したエクオール複合体f2、第二検出部22(第一反応域20A)でエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2のそれぞれと結合する捕捉物質gを担持する第三検出部23(第二反応域20B)を備える。
【0028】
(基板)
基板40は、試料導入域10・展開手段20・吸水部30を載置できるものであれば、どのような態様であってもよいが、ある程度の強度を有し、かつ吸水部30の吸水性を阻害しない材質を選択する必要がある。当該材質としては、例えば硬質塩化ビニル(PVC)が好適である。携行性を向上させるため、例えば95mm×30mm×5mm程度の大きさで薄板状に形成し、上基盤および下基盤を係合して、その内部に試料導入域10、展開手段20および吸水部30を封入するように構成するとよい。
当該基板40は、エクオール定量または定性の結果が視認できるよう例えば透明の部材で構成することができるが、これに限らず、当該結果を視認できる開口部を形成してもよい。
【0029】
(試料導入域)
試料導入域10は、検体を滴下する部位である。本実施形態では、グラスウールやニトロセルロースメンブレン等を例示するが、これに限るものではなく、毛管現象により移動相が展開する態様であればよい。
試料導入域10は単一のメンブレンで構成してもよい。しかし、試料導入域10は大豆イソフラボノイドa1、エクオールa2、大豆イソフラボノイド標識結合体d1およびエクオール標識結合体d2を導入する部位であることから、大豆イソフラボノイドa1を含む検体を滴下するメンブレンと、エクオールa2を含む検体を滴下するメンブレンと、大豆イソフラボノイド標識結合体d1を滴下するメンブレンと、エクオール標識結合体d2を滴下するメンブレンと、を別異に構成してもよい。
【0030】
(展開手段)
免疫クロマトグラフィー法とは、抗原抗体反応および毛管現象を利用した検査法である。そのため、展開手段20は、毛管現象により移動相(液体)・大豆イソフラボノイドa1・大豆イソフラボノイド結合物質c1・大豆イソフラボノイド標識結合体d1・大豆イソフラボノイド複合体f1・エクオールa2・エクオール結合物質c2・エクオール標識結合体d2・エクオール複合体f2などの物質が流下する態様であればよい。例えば展開手段20は、ポアの直径が10〜200μm、厚さ100〜3000μmのニトロセルロースメンブレン・アセテート混ニトロセルロースメンブレン・ナイロンメンブレン・ポリエーテルスルホンメンブレン・ポリビニリデンジフルオライドメンブレンが好適に用いられ、特にニトロセルロースメンブレンが好ましい。当該ニトロセルロースメンブレンは、含水状態で透明または半透明となるため、標識強度を測定する妨げになり難い。
【0031】
当該展開手段20は、一方の端部を、試料導入域10の下流側と接触させるかオーバーラップさせるように配置し、他方の端部を、吸水部30の上流側と接触させるかオーバーラップさせるように配置する。このように配置することにより、試料導入域10に滴下した検体が、移動相と共に展開手段20を経て吸水部30の方向に展開することができる。
【0032】
展開手段20は、大豆イソフラボノイド様物質e1を担持する第一検出部21、および、エクオール様物質e2を担持する第二検出部22、大豆イソフラボノイド複合体f1・第一検出部21で大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1・エクオール複合体f2・第二検出部22でエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2のそれぞれと結合する捕捉物質gを担持する第三検出部23をこの順に備える。
第一検出部21および第二検出部22はどのように配置してもよく、形状としては、特にドット状、バンド状にすれば、製造上および識別に際して都合がよい。図1では、バンド状に配置した場合を例示する。
【0033】
第一検出部21では大豆イソフラボノイド様物質e1によって大豆イソフラボノイド標識結合体d1を捕捉することができ、第二検出部22ではエクオール様物質e2によってエクオール標識結合体d2を捕捉することができる。また、第三検出部23では、捕捉物質gによって、大豆イソフラボノイド複合体f1・第一検出部21で大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1・エクオール複合体f2・第一検出部21でエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2をそれぞれ捕捉することができる。捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体d1・大豆イソフラボノイド複合体f1・エクオール標識結合体d2・エクオール複合体f2は標識化されているため、第一検出部21〜第三検出部23の位置でバンドの態様で可視化することができ、大豆イソフラボノイドa1およびエクオールa2の定量または定性が可能となる。
【0034】
(吸水部)
吸水部30は、隣接する展開手段20に存在する移動相である液体を吸水する。当該吸水部30が展開手段20の液体を吸水することで、検体導入部10に滴下した検体を流下させることができる。
吸水部30は、例えば適当な大きさに切断した濾紙を、展開手段20の下流側に接触させるかオーバーラップさせるように配置する。当該吸水部30は、省略してもよい。
【0035】
(検体)
本明細書に記載の「検体」とは、定量または定性を行なうべき対象となる被検出物質を含む、或いは、含む可能性のある液体サンプルのことを指す。検体はどのような起源由来のものであってもよく、例えば細胞・培養物・組織・体液・尿・血清・血漿等のように、大豆イソフラボノイドa1およびエクオールaを含有する可能性のある生検試料が検体として例示される。
尚、大豆イソフラボノイドa1としては、ダイゼインやホルモノネチンが例示されるが、これに限られるものではない。
【0036】
(大豆イソフラボノイド結合物質、エクオール結合物質)
大豆イソフラボノイド結合物質c1は大豆イソフラボノイドa1を認識し得る物質であり、大豆イソフラボノイドa1と親和性を有し、かつ選択的に結合し得る分子認識能を有する物質を意味する。エクオール結合物質c2はエクオールa2を認識し得る物質であり、エクオールa2と親和性を有し、かつ選択的に結合し得る分子認識能を有する物質を意味する。
大豆イソフラボノイド結合物質c1およびエクオール結合物質c2は、例えば大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXとは別異の試薬の態様で定量に供する、或いは、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXの例えば試料導入域10に予め担持させる等の態様で定量または定性に供することが可能である。当該試薬の態様で定量または定性に供する場合は、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXおよび試薬により、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットを構成することができる。
【0037】
大豆イソフラボノイド結合物質c1は、例えば大豆イソフラボノイドa1と免疫特異的に結合する物質が例示され、当該エクオール結合物質c2は、例えばエクオールa2と免疫特異的に結合する物質が例示される。
通常、「免疫化学的手法」は、例えば固相法によるイムノアッセイの手法を適用することにより液体試料中の被検出物質(大豆イソフラボノイドa1,エクオールa2)の存在を検出あるいは定量的測定ができる。イムノアッセイとして公知の所謂「サンドイッチ法」では、例えば抗原のような標的となる被検出物質を、標識化抗体と固定化物質表面に固定化された抗体との間に挟むことにより特異的複合体を形成させ、被検出物質を捕捉することができる。
本発明の場合、検体に含まれる大豆イソフラボノイドa1は大豆イソフラボノイド結合物質c1と結合して免疫複合体を形成することにより捕捉され、検体に含まれるエクオールa2はエクオール結合物質c2と結合して免疫複合体を形成することにより捕捉される。
【0038】
本実施形態では、大豆イソフラボノイド結合物質c1として抗ダイゼイン抗体、エクオール結合物質c2として抗エクオール抗体である場合を例示する。抗ダイゼイン抗体は、ダイゼインに結合特異性を示し、エクオールなどの物質に交差反応性を極力有さないものが良い。抗エクオール抗体は、エクオールに高い結合特異性を示し、ダイゼイン、ゲニステイン、O-デスメチルアンゴレンシンあるいは食品に含まれるポリフェノールなどの物質に交差反応性を極力有さないものが良い。抗ダイゼイン抗体および抗エクオール抗体は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の何れかを使用することができる。これら抗体は、以下のようにして作製することができる。
【0039】
使用する抗原は公知の方法に従って適当な溶液等に調製し、哺乳動物、例えばウサギやマウス等の動物に免疫を行えばよい。安定的な免疫を行ったり抗体価を高めるために抗原を適当なキャリアタンパク質とのコンジュゲートにして用いたり、アジュバント等を加えて免疫を行うのが好ましい。
免疫に際しての抗原の投与経路は特に限定されず、例えば皮下・腹腔内・静脈内あるいは筋肉内等のいずれの経路を用いてもよい。前記動物への抗原の投与は、例えば数日〜数週間おきに数回接種する方法が用いられるが、免疫する動物種によっては適宜調節される。免疫後、適宜試験的に採血を行って固相酵素免疫検定法(ELISA法)やウエスタンブロッティング等の方法で抗体価の上昇を確認し、十分に抗体価の上昇した動物から採血を行う。これに抗体の調製に用いられる適当な処理を行えばポリクローナル抗体を得ることができる。また、該動物の脾臓細胞とミエローマ細胞とを用いて公知の方法に従って融合させたハイブリドーマを用いることによりモノクローナル抗体を製造することもできる。モノクローナル抗体は、例えば以下の方法により取得することができる。
【0040】
まず、抗原の免疫により抗体価の高まった動物から抗体産生細胞を取得する。抗体産生細胞は、形質細胞及びその前駆細胞であるリンパ球であり、好ましくは脾臓・リンパ節・末梢血等から取得する。これらの細胞と融合させるミエローマとしては、一般的にはBALB/c等のマウスから得られた株化細胞が好ましく用いられる。細胞の融合は、抗体産生細胞とミエローマ細胞を適当な割合で混合し、適当な細胞融合培地、例えばRPMI1640やイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM)、あるいはダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)等にポリエチレングリコール(PEG)を溶解したもの等を用いることにより行うことができる。また電気融合法によっても行うことができる。
ハイブリドーマは、ミエローマ細胞株が8−アザグアニン耐性株であることを利用して正常培地(HAT培地)中で適当時間培養することにより選択することができる。この選択方法は用いるミエローマ細胞株によって適宜変更することができる。選択されたハイブリドーマが産生する抗体の抗体価を解析し、抗体価の高い抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法等により分離し、分離した融合細胞を適当な培地で培養して得られる培養上清から硫安分画、アフィニティクロマトグラフィー等の適当な方法により精製してモノクローナル抗体を得ることができる。
【0041】
(大豆イソフラボノイド標識結合体、エクオール標識結合体)
大豆イソフラボノイド標識結合体d1は、大豆イソフラボノイドa1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質c1に標識b1を結合させたものである。また、エクオール標識結合体d2は、エクオールa2と免疫特異的に結合するエクオール結合物質c2に標識b2を結合させたものである。
大豆イソフラボノイド標識結合体d1およびエクオール標識結合体d2は、例えば、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXとは別異の試薬の態様で定量または定性に供する、或いは、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXの例えば試料導入域10に予め担持させる等の態様で定量または定性に供することが可能である。当該試薬の態様で定量または定性に供する場合は、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXおよび試薬により、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットを構成することができる。
【0042】
標識b1,b2は、水・緩衝液等の検体溶解液に不溶性である粒子状物質であって、視覚によって検出可能な標識化物のことであり、直接標識または間接標識の何れを使用してもよい。標識b1,b2は、同じ態様(種類,色)の標識としてもよく、異なる態様の標識でもよい。
【0043】
直接標識とは直接観察できる標識であり、色調観察や発光や蛍光の強度等を測定することにより標識の存在を検出することができる標識をいう。直接標識に用いることができる標識物としては、金属ゾル・非金属ゾル・着色ラテックス粒子・着色リボゾーム・各種染料・各種顔料等の色素類・ルミノール誘導体・アクリジニウムエステル等の化学発光物質類・フルオレセイン・ローダミン等の蛍光物質類が挙げられる。
直接標識は、更なる工程を要さず判定結果を目視で観察することができる有色又は着色粒子による標識が好ましい。有色又は着色粒子としては金・銀・白金・プラチナ・銅のような金属コロイド、酸化鉄のような金属酸化物コロイド、硫黄・セレン等の非金属コロイド、顔料粒子・ラテックス粒子を染色したもの、リポソーム等が挙げられる。直接標識として特に金コロイドや着色ラテックスが、標識強度の視認性に優れ、かつ簡便に使用できるため、好ましい。有色又は着色粒子が毛管現象により展開手段20の多孔性物質中を移動するためには標識の粒子径が展開手段20のポアサイズより小さい必要がある。そのため、直接標識の平均粒径は1μm以下が好ましく、0.005〜1μm程度とすることが好ましい。
【0044】
間接標識としては、ペルオキシダーゼ・β−ガラクトシダーゼ・アルカリフォスファターゼ・グルコースオキシダーゼ等の酵素等が挙げられ、標識を視覚化するための工程を施すことによって標識の存在を検出することができる。
【0045】
例えば標識した抗体を使用した場合における免疫反応の結果、生成する特異的複合体中の被検出物質の量に応じて標識物質が存在することになる。未反応物を除去した後、標識物質の量を測定することで「被検出物質」を定量することができる。標識物質の定量は、標識物質の種類と共に種々の方法をとりうる。例えば、蛍光測定装置により蛍光物質の蛍光強度を測定する。測定された標識強度を、既知量の「被検出物質」を測定した場合の標識強度と比較することにより、液体試料中の被検出物質量を決定できる。
【0046】
(大豆イソフラボノイド様物質,エクオール様物質)
大豆イソフラボノイド様物質e1は大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合する物質であり、エクオール様物質e2はエクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合する物質である。
【0047】
上述したように、大豆イソフラボノイド様物質e1は大豆イソフラボノイドa1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質c1に標識を結合させたものであるため、大豆イソフラボノイド様物質e1は、大豆イソフラボノイド結合物質c1を認識し得る物質であり、大豆イソフラボノイド結合物質c1と親和性を有し、かつ選択的に結合し得る分子認識能を有する物質を意味する。
大豆イソフラボノイド結合物質c1が抗ダイゼイン抗体である場合、当該大豆イソフラボノイド様物質e1は、ダイゼインa1或いはダイゼインa1に構造が類似する物質とすることができる。即ち、大豆イソフラボノイド様物質e1がダイゼインa1に構造が類似する物質である場合は、当該物質は模擬抗原となる。
【0048】
また、エクオール標識結合体d2はエクオールa2と免疫特異的に結合するエクオール結合物質c2に標識を結合させたものであるため、エクオール様物質e2は、エクオール結合物質c2を認識し得る物質であり、エクオール結合物質c2と親和性を有し、かつ選択的に結合し得る分子認識能を有する物質を意味する。
エクオール結合物質c2が抗エクオール抗体である場合、当該エクオール様物質e2は、エクオールa2或いはエクオールa2に構造が類似する物質とすることができる。即ち、エクオール様物質e2がエクオールa2に構造が類似する物質である場合は、当該物質は模擬抗原となる。
【0049】
本実施形態では、大豆イソフラボノイド様物質e1がダイゼイン−BSAコンジュゲート(図6)であり、エクオール様物質e2がエクオール−BSAコンジュゲート(図7)である場合を例示する。これらコンジュゲートは、ダイゼイン或いはエクオールをカルボキシメチル化しBSAを結合させたものである。ダイゼイン或いはエクオールは、BSAの59個のリシンにおける1〜複数箇所とアミド結合している。
【0050】
大豆イソフラボノイド様物質e1をダイゼイン−BSAコンジュゲートの態様とすることにより、ダイゼインを容易に展開手段20上に固相化することができると共に、固相化したダイゼインが大豆イソフラボノイド標識結合体d1と結合して、当該大豆イソフラボノイド標識結合体d1を展開手段20上で捕捉することができる(図2)。この大豆イソフラボノイド標識結合体d1には標識b1が結合しているため、この標識b1を可視化することで、捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体d1を定量または定性することができる。
【0051】
また、エクオール様物質e2をエクオール−BSAコンジュゲートの態様とすることにより、エクオールを容易に展開手段20上に固相化することができると共に、固相化したエクオールがエクオール標識結合体d2と結合して、当該エクオール標識結合体d2を展開手段20上で捕捉することができる(図2)。このエクオール標識結合体d2には標識b2が結合しているため、この標識b2を可視化することで、捕捉されたエクオール標識結合体d2を定量または定性することができる。
【0052】
エクオール様物質e2はこれに限られるものではなく、エクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合する構造であれば、エクオールa2と結合させる側鎖の構造は置換可能である。当該側鎖はBSAの他、例えばKLH(hemocyanin)、OVA(ovalbumin)、カゼイン、ポリエチレングリコール、ゼラチンなどが適用できる。また展開手段20に直接化学結合させても良い。
尚、大豆イソフラボノイド様物質e1についても上述の態様に限られるものではなく、大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合する構造であれば、大豆イソフラボノイド(ダイゼイン)a1と結合させる側鎖の構造は置換可能である。
【0053】
(捕捉物質)
捕捉物質gは、大豆イソフラボノイド複合体f1・第一検出部21で大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1・エクオール複合体f2・第二検出部22でエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2のそれぞれと結合する物質である。
捕捉物質gは、大豆イソフラボノイド標識結合体d1を認識する物質であり、大豆イソフラボノイド結合物質c1が大豆イソフラボノイドa1と結合の有無を問わず大豆イソフラボノイド複合体f1および大豆イソフラボノイド標識結合体d1を認識し得る物質であり、大豆イソフラボノイド複合体f1および大豆イソフラボノイド標識結合体d1と親和性を有し、かつ選択的に結合し得る分子認識能を有する物質を意味する。さらに捕捉物質gは、エクオール標識結合体d2を認識する物質であり、エクオール結合物質c2がエクオールa2と結合の有無を問わずエクオール複合体f2およびエクオール標識結合体d2を認識し得る物質であり、エクオール複合体f2およびエクオール標識結合体d2と親和性を有し、かつ選択的に結合し得る分子認識能を有する物質を意味する。
【0054】
大豆イソフラボノイド複合体f1は大豆イソフラボノイドa1・大豆イソフラボノイド結合物質c1・標識b1で構成され、エクオール複合体f2は、エクオールa2・エクオール結合物質c2・標識b2で構成される。よって、捕捉物質gは、大豆イソフラボノイド複合体f1の状態で、例えば大豆イソフラボノイドa1或いは大豆イソフラボノイド結合物質c1に対して結合する物質であり、エクオール複合体f2の状態で、例えばエクオールa2或いはエクオール結合物質c2に対して結合する物質を例示することができる。
【0055】
本実施形態の捕捉物質gは、また、大豆イソフラボノイド複合体f1および第二検出部22で大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合するように、エクオール複合体f2および第一検出部21でエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合するように作製した抗マウス抗体を例示する。
【0056】
<大豆イソフラボノイド・エクオール定量方法>
大豆イソフラボノイド(ダイゼイン)およびエクオールを定量する際には、試料導入域10にダイゼインおよびエクオールを含んだ検体を添加し、当該検体を展開手段20に毛細管現象により展開させ、例えば競合型の抗原抗体反応(競合法)を利用して反応部位を発色させることにより、抗原の同定、存在の有無、または抗原量を測定する。
抗原抗体反応の形態は競合法、サンドイッチ型の抗原抗体反応(サンドイッチ法)の何れを利用してもよい。例えば、被検出物質の分子量が大きい場合にサンドイッチ法を利用し、被検出物質の分子量が小さい場合に競合法を利用することが一般的である。
【0057】
具体的には、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量方法は、まず、検体、ダイゼインと免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質c1に標識b1を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体d1、および、エクオールa2と免疫特異的に結合するエクオール結合物質c2に標識b2を結合させたエクオール標識結合体d2を混合して液体試料を得る混合工程(i)を行なう。その後、当該液体試料を展開させて、大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質e1と反応させる第一反応工程(大豆イソフラボノイド反応工程)(ii)と、エクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合するエクオール様物質e2と反応させる第二反応工程(エクオール反応工程)(iii)と、を行なう。
さらに、ダイゼインa1および大豆イソフラボノイド標識結合体d1が結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体f1、第一反応工程で大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1、エクオールa2およびエクオール標識結合体d2が結合して形成したエクオール複合体f2、第二反応工程でエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2のそれぞれと免疫特異的に結合する捕捉物質gと反応させる第三反応工程(捕捉物質反応工程)(iv)を行なう。
そして、第一反応工程〜第三反応工程で得られた標識強度を検出することにより検体中のダイゼインa1およびエクオールa2を定量する定量工程(v)を行なう。
【0058】
エクオール産生者の場合、通常、成人の尿中には0.085〜1μmol/L以上のエクオールが含有される。そのため、混合工程(i)において、抗エクオール抗体は例えば0.01〜5μg程度で検体と混合すれば、過剰な抗エクオール抗体を消費せずに検体中に含まれるエクオールを迅速に定量することができるため、各定量にかかるコストを抑えることができる。
抗エクオール抗体および抗ダイゼイン抗体の必要量の範囲は、展開手段20の材質、移動相の流速等を考慮して、適宜設定する。例えば、移動相の流速が早くなる材質で展開手段20を構成した場合、或いは、移動相の流速が遅くなる材質で展開手段20を構成した場合に応じて、検出試薬が十分に発色し得る最適な範囲を設定する。
【0059】
検体を試料導入域10にスポットした後、移動相が下流に流下するに従い、尿検体に含まれるダイゼインa1およびエクオールa2が第一検出部21、第二検出部22および第三検出部23を通過する。このとき、以下の一連の反応が起こる(図1〜3)。
【0060】
検体、大豆イソフラボノイド標識結合体d1およびエクオール標識結合体d2を混合して液体試料を得る混合工程(i)を行なうと、検体中のダイゼインa1と大豆イソフラボノイド標識結合体d1とが免疫特異的に結合した大豆イソフラボノイド複合体f1が形成され、また、検体中のエクオールa2とエクオール標識結合体d2とが免疫特異的に結合したエクオール複合体f2が形成される(図1)。
この状態で液体試料が流下して展開手段20の第一検出部21に到達する。ダイゼインa1と結合しない過剰の大豆イソフラボノイド標識結合体d1、および、エクオールa2と結合しない過剰のエクオール標識結合体d2は、フリーの状態で流下する。
【0061】
第一検出部21では、フリーの状態で流下した大豆イソフラボノイド標識結合体d1と大豆イソフラボノイド様物質e1とが免疫学的に結合する。このとき、大豆イソフラボノイド標識結合体d1は第一検出部21に捕捉される(第一反応工程(ii)、図2)。大豆イソフラボノイド複合体f1は、第一検出部21に捕捉されずに流下して第三検出部23に到達する。
また、第二検出部22では、フリーの状態で流下したエクオール標識結合体d2とエクオール様物質e2とが免疫学的に結合する。このとき、当該エクオール標識結合体d2は第二検出部22に捕捉される(第二反応工程(iii)、図2)。エクオール複合体f1は、第二検出部22に捕捉されずに流下して第三検出部23に到達する。
【0062】
第三検出部23では、大豆イソフラボノイド複合体f1および捕捉物質g、エクオール複合体f2および捕捉物質gが免疫学的に結合する。このとき、当該エクオール複合体fは第二検出部22に捕捉される(第三反応工程(iv)、図3)。また第一検出部21で補足できなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1、および、第二検出部22で補足できなかったエクオール標識結合体d2も同時に第三検出部23にて捕捉される。
【0063】
ダイゼインa1およびエクオールa2の定量は、それぞれ、第一反応工程(ii)で第一検出部21に捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体d1の標識強度(A)、第二反応工程(iii)で第二検出部22に捕捉されたエクオール標識結合体d2の標識強度(B)、第三反応工程(iv)で第三検出部23に捕捉された大豆イソフラボノイド複合体f1,エクオール複合体f2の標識強度(C)を検出することによって行なう(定量工程(v))。
【0064】
標識強度は、発色させて測定する場合、第一検出部21〜第三検出部23の色変化を分光色差計等の装置を用いて読み取る他、目視によってある程度の強度を判定してもよい。
装置を用いて定量分析する場合には、検体を滴下した後、標識b1,b2の吸収波長における反射率の変化速度を測定する。算出された標識強度の比、および、既に作製してある検量線に基づいてダイゼインa1およびエクオールa2を定量する。
標識強度は、例えば、蛍光色素による標識や酵素標識による化学発光量を測定する、或いは、磁性体標識による磁性強度を測定することによって定量してもよい。
【0065】
一方、目視によって強度を判定する際には、標識によって第一検出部21〜第三検出部23の位置で可視化されたバンドの有無あるいは濃淡を判別することでダイゼインa1およびエクオールa2の定性を行なう。
【0066】
例えば図4に示したように、検体中に十分量のダイゼインおよびエクオールが存在する場合は、第一検出部21および第二検出部22ではバンドは検出されず、第三検出部23のみにてバンドが検出される。また、検体中に十分量のダイゼインが存在してエクオールが存在しない場合は、第一検出部21ではバンドは検出されず、第二検出部22および第三検出部23にてバンドが検出される。さらに、検体中にダイゼインおよびエクオールが存在しない場合は、第一検出部21〜第三検出部23にてバンドが検出される。
ダイゼインおよびエクオール検出のための上記バンドの検出は、バックグラウンドノイズや非特異反応の有無を考慮して行なうとよい。
【0067】
尚、エクオールは体内でつくられるエストロゲンと似た働きをすることから、高いエストロゲン様活性を有していることが知られている。当該エストロゲンは女性ホルモンとして体内で産生される。大豆イソフラボノイド(ダイゼイン)などのイソフラボンは、エストロゲンの分泌が多いときにはその働きを抑制し、少ないときには亢進させる作用を有する。当該イソフラボンは、体内にあるエストロゲン受容体と結合することで、エストロゲン様作用を示す。
即ち、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスによってダイゼインおよびエクオールを定量することで、体外から取り込まれた女性ホルモン様物質の量を確認できる。同時に、体内で産生されるエストロゲンの作用状態を推定することができる。
このように、本発明では、体内で産生されるホルモンであるエストロゲン、および、体外から取り込まれた女性ホルモン様物質の定量および定性を同時に行なえることが期待される。
【実施例】
【0068】
既知濃度のダイゼイン標準溶液およびエクオール標準溶液を用いて検量線を作成した(実施例1,2)。その後、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXを使用して、ダイゼインおよびエクオールの定量・定性を行なった(実施例3)。
【0069】
大豆イソフラボノイド結合物質c1として抗ダイゼイン抗体を使用し、当該抗ダイゼイン抗体を金コロイドによって修飾することで大豆イソフラボノイド標識結合体d1を作製した。エクオール結合物質c2として抗エクオール抗体を使用し、当該抗エクオール抗体を金コロイドによって修飾することでエクオール標識結合体d2を作製した。
大豆イソフラボノイド様物質e1としてダイゼイン−BSAコンジュゲートを作製し、エクオール様物質e2としてエクオール−BSAコンジュゲートを作製し、捕捉物質gとして抗マウス抗体を使用した。
【0070】
抗ダイゼイン抗体および抗エクオール抗体は、それぞれマウスをダイゼイン-KLHコンジュゲート或いはエクオール-KLHコンジュゲートによって免疫感作することにより作製する。例えば当該エクオール-KLHコンジュゲートは、次のようにして作製した。
【0071】
まず、エクオール66mg(トロントリサーチケミカル社製、図7(a))、K2CO390mg、ベンジルブロモアセテート(benzylbromoacetate)を室温下で一昼夜置いた後、パラジウムカーボンと接触還元によりエステルの加水分解を行ない、これにより、カルボキシメチルエクオール(図7(b))が生成する。このカルボキシメチルエクオール20mg、EDC15mg、sulfo−NHS 21mgをDMF中で24時間反応させたのち、スカシ貝ヘモシアニン(Keyhole Limpet Hemocyanin、KLH)46mgの3mL PBS溶液と25℃で4時間反応させ、アミド結合によって結合したエクオール−KLHコンジュゲート(図7(c))を作製した。
上記と同様の手順でKLHの代わりにウシ血清アルブミン(BSA)を使うことでエクオール様物質e2としてエクオール−BSAコンジュゲートを作製した。
【0072】
エクオール-KLHコンジュゲート0.5mg/mL PBSを等量のアジュバンドとよく混和した後、0.15mLをマウスに腹腔内投与した。2週間ごとに2回追加免疫を行い、最終免疫を行った3日後に、当該マウスから脾臓を摘出し、ミエローマ細胞(P3U1)と融合させることでハイブリドーマを作出した。
これら細胞の融合は、脾臓細胞とミエローマ細胞を1:5で混合し、常法に従いPEGを用いて融合した。これをHAT培地で10〜14日間培養後ハイブリドーマを選択した。ハイブリドーマの細胞コロニーが形成されたウェルの培養上清で上述したELISA法によって上清の抗体価を測定し、抗体価の高い抗体を産生するハイブリドーマを限界希釈法により分離した。分離した融合細胞を10%DMEM培地で培養後、IgGカラムを用いて精製を行い、モノクローナル抗体(抗エクオール抗体)を得た。
【0073】
抗エクオール抗体に対して金コロイド(粒径40nm、BBI社製)を以下のようにして標識した。
10mLの金コロイド溶液(塩化金酸濃度として0.01%)を取り、100mM炭酸カリウムでpHを5.5に調整した。精製した抗エクオール抗体を2mMホウ酸ナトリウム溶液(pH9.2)で透析し、100μg/mLの濃度になるように調製した。pHを5.5に調整した金コロイド溶液に、最終濃度が10μg/mLとなる量の抗エクオール抗体を加え、金コロイドと抗エクオール抗体が十分結合されるように穏やかに撹拌した。5分後、10%BSAを1mL加え、穏やかに10分間撹拌した。全量を遠心(14000rpm、30分、4℃)した後、上清を廃棄し、沈殿している抗体結合金コロイド(エクオール標識結合体d2)に、1%BSA、150mM塩化ナトリウムを含む10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)1mLを加えて溶解させた。
【0074】
ダイゼイン-KLHコンジュゲートも前記エクオール-KLHコンジュゲートと同様にして作製した(図6(a)ダイゼイン、(b)カルボキシメチルダイゼイン、(c)ダイゼイン-KLHコンジュゲート)。KLHの代わりにウシ血清アルブミン(BSA)を使うことで大豆イソフラボノイド様物質e1としてダイゼイン−BSAコンジュゲートを作製した。
また、抗ダイゼイン抗体は、ダイゼイン-KLHコンジュゲートを使用することで前記抗エクオール抗体と同様にして作製し、さらに抗体結合金コロイド(大豆イソフラボノイド標識結合体d1)も作製した。
【0075】
抗マウス抗体は、ウサギ由来抗マウスIgG抗体(キャペル社製)を使用した。
【0076】
実施例1において既知濃度のダイゼイン標準溶液を用いて検量線を作成し、実施例2において既知濃度のエクオール標準溶液を用いて検量線を作成した。
【0077】
〔実施例1〕
ダイゼインを定量または定性するため、以下の構成のダイゼイン定量定性デバイスXaを使用した(図5)。即ち、基板40上に、試料導入域10a、展開手段20aおよび吸水部30を順次接触させて設けてある。
【0078】
マウスに投与したダイゼイン-BSAコンジュゲート1mg/mLを1cmにつき1μLとなるように展開手段20aであるニトロセルロースメンブレン(日本ミリポア株式会社製)に塗布して乾燥(45℃、40分間)させ、第一の検出部24aとした。また、抗マウス抗体1mg/mLを1cmにつき1μLとなるようにニトロセルロースメンブレン20aにおいて第一の検出部24aの下流となる位置に塗布して乾燥させ、第二の検出部25aとした。
【0079】
即ち、展開手段20aは、検体および大豆イソフラボノイド標識結合体d1を含んだ液体試料が通過でき、大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質e1を担持する第一の検出部24a、および、ダイゼインa1および大豆イソフラボノイド標識結合体d1が免疫特異的に結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体f1或いは第一の検出部24aで大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1と結合する捕捉物質gを担持する第二の検出部25aをこの順に備える(図5(a))。
【0080】
金コロイド修飾済み抗ダイゼイン抗体(大豆イソフラボノイド標識結合体d1)溶液(10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5))を試料導入域10aに26μL塗布し、風乾した。また、ダイゼインa1(和光純薬社製)をPBST緩衝液(PBS−0.05%,Tween20)に溶解したダイゼイン標準溶液を、試料導入域10aに100μL滴下し、展開手段20aに展開させた。当該ダイゼイン標準溶液は、ダイゼインa1の濃度を種々変更したサンプル1〜7を準備した。
【0081】
試料導入域10aより、検体および大豆イソフラボノイド標識結合体d1を導入した後、移動相が下流に流下するに従い、検体に含まれるダイゼインa1が第一の検出部24a、第二の検出部25aを通過する。このとき、以下の一連の反応が起こる。
【0082】
検体および大豆イソフラボノイド標識結合体d1を混合して液体試料を得る混合工程を行なうと、検体中のダイゼインa1と大豆イソフラボノイド標識結合体d1とが免疫特異的に結合した大豆イソフラボノイド複合体f1が形成される。この状態で液体試料が流下して第一の検出部24aに到達する。ダイゼインa1と結合しない過剰の大豆イソフラボノイド標識結合体d1は、フリーの状態で流下する。
【0083】
第一の検出部24aでは、フリーの状態で流下した大豆イソフラボノイド標識結合体d1と大豆イソフラボノイド様物質e1とが免疫学的に結合する。このとき、当該大豆イソフラボノイド標識結合体d1は第一の検出部24aに捕捉される(図5(b))。大豆イソフラボノイド複合体f1は、第一の検出部24aに捕捉されずに流下して第二の検出部25aに到達する。
【0084】
第二の検出部25aでは、大豆イソフラボノイド複合体f1と捕捉物質gとが免疫学的に結合する。このとき、当該大豆イソフラボノイド複合体f1は第二の検出部25aに捕捉される。また第一の検出部24aで補足できなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1も同時に第二の検出部25aにて捕捉される(図5(c))。
【0085】
ダイゼイン標準溶液を展開手段20aに展開させ、第一の検出部24aおよび第二の検出部25aにおける発色量をイムノメジャーPCB−SK100(アイシン精機株式会社製)にて測定した。
第一の検出部24aに捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体d1の標識強度(A1)、および、第二の検出部25aに捕捉され大豆イソフラボノイド複合体f1の標識強度(B1)を測定した。結果を表1に示した。検量線は、標識強度(B1:第二の検出部25aの標識強度)に基づいて作成した(図8)。
【0086】
【表1】
【0087】
〔実施例2〕
エクオールを定量または定性するため、以下の構成のエクオール定量定性デバイスXbを使用した(図9)。即ち、基板40上に、試料導入域10b、展開手段20bおよび吸水部30を順次接触させて設けてある。
【0088】
マウスに投与したエクオール-BSAコンジュゲート1mg/mLを1cmにつき1μLとなるように展開手段20bであるニトロセルロースメンブレン(日本ミリポア株式会社製)に塗布して乾燥(45℃、1時間)させ、第一の検出部24bとした。また、抗マウス抗体1mg/mLを1cmにつき1μLとなるようにニトロセルロースメンブレン20bにおいて第一の検出部24bの下流となる位置に塗布して乾燥させ、第二の検出部25bとした。
【0089】
即ち、展開手段20bは、検体およびエクオール標識結合体d2を含んだ液体試料が通過でき、エクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合するエクオール様物質e2を担持する第一の検出部24b、および、エクオールa2およびエクオール標識結合体d2が免疫特異的に結合して形成したエクオール複合体f2或いは第一の検出部24bでエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2と結合する捕捉物質gを担持する第二の検出部25bをこの順に備える(図9(a))。
【0090】
金コロイド修飾済み抗エクオール抗体(エクオール標識結合体d2)溶液(10mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5))を試料導入域10aに26μL塗布し、風乾した。また、エクオールa2(シグマ社製)をPBST緩衝液(PBS−0.05%,Tween20)に溶解したエクオール標準溶液を、試料導入域10aに100μL滴下し、展開手段20bに展開させた。当該エクオール標準溶液は、エクオールa2の濃度を種々変更したサンプル8〜15を準備した。
【0091】
試料導入域10bより、検体およびエクオール標識結合体d2を導入した後、移動相が下流に流下するに従い、検体に含まれるエクオールa2が第一の検出部24b、第二の検出部25bを通過する。このとき、以下の一連の反応が起こる。
【0092】
検体およびエクオール標識結合体d2を混合して液体試料を得る混合工程を行なうと、検体中のエクオールa2とエクオール標識結合体d2とが免疫特異的に結合したエクオール複合体f2が形成される。この状態で液体試料が流下して第一の検出部24bに到達する。エクオールa2と結合しない過剰のエクオール標識結合体d2は、フリーの状態で流下する。
【0093】
第一の検出部24bでは、フリーの状態で流下したエクオール標識結合体d2とエクオール様物質e2とが免疫学的に結合する。このとき、当該エクオール標識結合体d2は第一の検出部24bに捕捉される(図9(b))。エクオール複合体f2は、第一の検出部24bに捕捉されずに流下して第二の検出部25bに到達する。
【0094】
第二の検出部25bでは、エクオール複合体f2と捕捉物質gとが免疫学的に結合する。このとき、当該エクオール複合体f2は第二の検出部25bに捕捉される。また第一の検出部24bで補足できなかったエクオール標識結合体d2も同時に第二の検出部25bにて捕捉される(図9(c))。
【0095】
エクオール標準溶液を展開手段20bに展開させ、第一の検出部24bおよび第二の検出部25bにおける発色量をイムノメジャーPCB−SK100にて測定した。
第一の検出部24bに捕捉されたエクオール標識結合体d2の標識強度(A2)、および、第二の検出部25bに捕捉されエクオール複合体f2の標識強度(B2)を測定した。結果を表2に示した。標識強度(B2:第二の検出部25bの標識強度)に基づいて検量線を作成した(図10)。
【0096】
【表2】
【0097】
〔実施例3〕
本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスX(図1)を使用して、ダイゼインおよびエクオールの定量・定性を行なった。
ダイゼイン−BSAコンジュゲート(1mg/mL)、エクオール−BSAコンジュゲート(1mg/mL)および抗マウス抗体(1mg/mL)のそれぞれを、1cmにつき1μLとなるように展開手段20であるニトロセルロースメンブレン(日本ミリポア株式会社製)に塗布して乾燥(45℃、40分間)させ、それぞれ第一検出部21、第二検出部22、第三検出部23とした。
【0098】
金コロイド修飾済み抗ダイゼイン抗体(大豆イソフラボノイド標識結合体d1)溶液、および、金コロイド修飾済み抗エクオール抗体(エクオール標識結合体d2)溶液を試料導入域10に26μL塗布し、風乾した。
また、ダイゼインa1およびエクオールa2をPBST緩衝液(PBS−0.05%,Tween20)に溶解したダイゼイン・エクオール標準溶液を、試料導入域10に100μL滴下し、展開手段20に展開させた。当該ダイゼイン・エクオール標準溶液は、ダイゼインa1およびエクオールa2の濃度(μM)を種々変更したサンプル16〜19を準備した。
【0099】
【表3】
【0100】
各イゼイン・エクオール標準溶液(サンプル16〜19)をそれぞれ展開手段20に展開させ、第一検出部21〜第三検出部23における発色量をイムノメジャーPCB−SK100にて測定した。
発色量の測定結果は、例えばサンプル16では、第一検出部21に捕捉された大豆イソフラボノイド標識結合体d1の標識強度(A)は、1811(6439(全シグナル)−4628(バックグラウンドシグナル))であった。同様に、第二検出部22に捕捉されたエクオール標識結合体d2の標識強度(B)は、2669(7298−4628)であり、第三検出部23における標識強度(C)は、2067(6821−4754)であった。
【0101】
この発色量の測定結果および実施例1,2で作製した検量線を元にして算出されたダイゼインおよびエクオールの濃度(μM)の結果を表4に示した。
【0102】
【表4】
【0103】
以上より、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXは、予め決定しておいた検量線を元に、ダイゼインおよびエクオールの混合サンプルから定量濃度を求めることが可能であると示唆された。
或いは、本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスXでは、ダイゼインおよびエクオールの混合サンプルを展開させると、第一検出部21〜第三検出部23に出現するバンドを認識することで、ダイゼイン或いはエクオールの有無の判定を目視によって行うことが可能であると言えた。
【0104】
〔別実施形態1〕
上述した実施形態では、当該第一反応域20Aでは、大豆イソフラボノイド標識結合体d1および大豆イソフラボノイド様物質e1を反応(大豆イソフラボノイド反応工程)させ、また、エクオール標識結合体d2およびエクオール様物質e2を反応(エクオール反応工程)させる際に、これら反応を、第一反応域20Aの異なる領域(第一検出部21,第二検出部22)で行なわせる場合について説明した。しかし、このような態様に限らされるものではなく、上述の反応を第一反応域20Aの標識を変えて同じ領域で行なわせてもよい(図11,12)。
【0105】
本構成では、第一反応域20Aにおいて、大豆イソフラボノイド標識結合体d1と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質e1を担持し、かつ、エクオール標識結合体d2と免疫特異的に結合するエクオール様物質e2を担持する。
また、第一反応域20Aの下流に、大豆イソフラボノイドa1および大豆イソフラボノイド標識結合体d1が免疫特異的に結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体f1、第一反応域20Aで大豆イソフラボノイド様物質e1と反応しなかった大豆イソフラボノイド標識結合体d1、エクオールa2およびエクオール標識結合体d2が免疫特異的に結合して形成したエクオール複合体f2、第一反応域20Aでエクオール様物質e2と反応しなかったエクオール標識結合体d2、のそれぞれと結合する捕捉物質gを担持する第二反応域20Bを備える。
【0106】
本構成では、大豆イソフラボノイド反応工程およびエクオール反応工程を第一反応域20Aの同じ領域で行なわせるため、標識の呈色反応(色の変化)によって可視化することができる。大豆イソフラボノイド標識結合体d1には標識b1を結合させており、エクオール標識結合体d2には標識b2を結合させている。そのため、第一反応域20Aでは、標識b1および標識b2が呈する色を視認することとなる。即ち、標識b1および標識b2が呈する色が異なる場合、第一反応域20Aでは、標識b1が呈する色、標識b2が呈する色、および、標識b1および標識b2のそれぞれが呈する色を混合した色、を視認して、ダイゼインおよびエクオールの存在を判定する。
【0107】
図4において、第一検出部21〜第三検出部23のバンドの有無によってダイゼインa1およびエクオールa2の存在を判定した。これに対して、本実施形態におけるダイゼインa1およびエクオールa2の存在の判定は以下のようにして行なう。
即ち、検体中に十分量のダイゼインa1およびエクオールa2が存在する場合は第一反応域20Aでは標識の呈色は視認できず、第二反応域20Bにおいて標識b1および標識b2が呈する色を混合した色が視認できる。また、検体中に十分量のダイゼインa1が存在してエクオールa2が存在しない場合は、第一反応域20Aでは標識b2が呈する色のみが視認される。
さらに、検体中にダイゼインa1およびエクオールa2が存在しない場合は、第一反応域20Aでは標識b1および標識b2のそれぞれが呈する色を混合した色が視認できる。この場合、例えば二色の色を異なる比率で混合して呈する色見本を予め作製しておき、当該色見本を基に標識b1および標識b2の存在比率、即ちダイゼインa1およびエクオールa2の存在の有無、を第一反応域20Aにおける色調の変化で推定することが可能となる。
【0108】
〔別実施形態2〕
上述した実施形態では、第一検出部21にて大豆イソフラボノイド様物質e1を担持し、第二検出部22にてエクオール様物質e2を担持する場合について説明した。しかし、このような態様に限られるものではなく、第一検出部21にて大豆イソフラボノイド結合物質c1を担持し、第二検出部22にてエクオール結合物質c2を担持するように構成してもよい(図13)。
【0109】
この場合、第一検出部21では大豆イソフラボノイド結合物質c1によって、大豆イソフラボノイド様物質e1(或いは大豆イソフラボノイドa1)に標識b1を結合させた大豆イソフラボノイド様物質標識結合体d1’を捕捉することができる。また、第二検出部22ではエクオール結合物質c2によって、エクオール様物質e2(或いはエクオールa2)に標識b2を結合させたエクオール様物質標識結合体d2’を捕捉することができる(図14)。
【0110】
本実施形態では、大豆イソフラボノイドa1および大豆イソフラボノイド様物質標識結合体d1’が大豆イソフラボノイド結合物質c1と競合して結合する。また、エクオールa2およびエクオール様物質標識結合体d2’がエクオール結合物質c2と競合して結合する。
本実施形態の捕捉物質g’は、第一検出部21で大豆イソフラボノイド結合物質c1と反応しなかった大豆イソフラボノイド様物質標識結合体d1’・第二検出部22でエクオール結合物質c2と反応しなかったエクオール様物質標識結合体d2’のそれぞれと結合する物質である(図15)。本実施形態では、当該捕捉物質g’として抗BSA抗体を例示する。
【0111】
本実施形態においても、第一検出部21〜第三検出部23の位置でバンドの態様で可視化することができ、大豆イソフラボノイドa1およびエクオールa2の定量または定性が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス、大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キットおよび大豆イソフラボノイド・エクオール定量方法は、大豆イソフラボノイドおよびエクオールの定量および定性に利用できる。
【符号の説明】
【0113】
X 大豆イソフラボノイド・エクオール定量デバイス
a1 大豆イソフラボノイド(ダイゼイン)
a2 エクオール
b1,b2 標識
c1 大豆イソフラボノイド結合物質
c2 エクオール結合物質
d1 大豆イソフラボノイド標識結合体
d2 エクオール標識結合体
e1 大豆イソフラボノイド様物質
e2 エクオール様物質
f1 大豆イソフラボノイド複合体
f2 エクオール複合体
g 捕捉物質
10 試料導入域
20A 第一反応域
20B 第二反応域
21 第一検出部
22 第二検出部
23 第三検出部
40 基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の大豆イソフラボノイドおよびエクオールを定量または定性するため、基板上に、前記検体、大豆イソフラボノイドと免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質に標識を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体、および、エクオールと免疫特異的に結合するエクオール結合物質に標識を結合させたエクオール標識結合体を含んだ液体試料を導入する試料導入域と、
前記大豆イソフラボノイド標識結合体と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質、および、前記エクオール標識結合体と免疫特異的に結合するエクオール様物質を担持する第一反応域と、
前記大豆イソフラボノイドおよび前記大豆イソフラボノイド標識結合体が免疫特異的に結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体、前記第一反応域で前記大豆イソフラボノイド様物質と反応しなかった前記大豆イソフラボノイド標識結合体、前記エクオールおよび前記エクオール標識結合体が免疫特異的に結合して形成したエクオール複合体、前記第一反応域で前記エクオール様物質と反応しなかった前記エクオール標識結合体、のそれぞれと結合する捕捉物質を担持する第二反応域と、を備えた大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
【請求項2】
前記第一反応域が、前記大豆イソフラボノイド様物質を担持する第一検出部、および、前記エクオール様物質を担持する第二検出部を備えた請求項1に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
【請求項3】
前記大豆イソフラボノイドがダイゼインである請求項1又は2に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
【請求項4】
前記大豆イソフラボノイド様物質がダイゼイン−BSAコンジュゲートであり、前記エクオール様物質がエクオール−BSAコンジュゲートである請求項3に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスと、大豆イソフラボノイド結合物質として抗ダイゼイン抗体と、エクオール結合物質として抗エクオール抗体と、を備えた大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット。
【請求項6】
前記大豆イソフラボノイド結合物質に直接標識を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体、および、前記エクオール結合物質に直接標識を結合させたエクオール標識結合体を備えた請求項5に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット。
【請求項7】
前記直接標識が金コロイド標識である請求項6に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット。
【請求項8】
検体、大豆イソフラボノイドと免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質に標識を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体、および、エクオールと免疫特異的に結合するエクオール結合物質に標識を結合させたエクオール標識結合体を混合して液体試料を得る混合工程を行なった後、当該液体試料を展開させて、
前記大豆イソフラボノイド標識結合体と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質と反応させる大豆イソフラボノイド反応工程と、
前記エクオール標識結合体と免疫特異的に結合するエクオール様物質と反応させるエクオール反応工程と、
前記大豆イソフラボノイドおよび前記大豆イソフラボノイド結合物質が結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体、前記大豆イソフラボノイド反応工程で前記大豆イソフラボノイド様物質と反応しなかった前記大豆イソフラボノイド標識結合体、前記エクオールおよび前記エクオール結合物質が結合して形成したエクオール複合体、前記エクオール反応工程で前記エクオール様物質と反応しなかった前記エクオール標識結合体、のそれぞれと免疫特異的に結合する捕捉物質と反応させる捕捉物質反応工程と、
前記大豆イソフラボノイド反応工程、前記エクオール反応工程、前記捕捉物質反応工程で得られた標識強度を検出することにより前記検体中の大豆イソフラボノイドおよびエクオールを定量する定量工程と、を行なう大豆イソフラボノイド・エクオール定量方法。
【請求項1】
検体中の大豆イソフラボノイドおよびエクオールを定量または定性するため、基板上に、前記検体、大豆イソフラボノイドと免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質に標識を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体、および、エクオールと免疫特異的に結合するエクオール結合物質に標識を結合させたエクオール標識結合体を含んだ液体試料を導入する試料導入域と、
前記大豆イソフラボノイド標識結合体と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質、および、前記エクオール標識結合体と免疫特異的に結合するエクオール様物質を担持する第一反応域と、
前記大豆イソフラボノイドおよび前記大豆イソフラボノイド標識結合体が免疫特異的に結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体、前記第一反応域で前記大豆イソフラボノイド様物質と反応しなかった前記大豆イソフラボノイド標識結合体、前記エクオールおよび前記エクオール標識結合体が免疫特異的に結合して形成したエクオール複合体、前記第一反応域で前記エクオール様物質と反応しなかった前記エクオール標識結合体、のそれぞれと結合する捕捉物質を担持する第二反応域と、を備えた大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
【請求項2】
前記第一反応域が、前記大豆イソフラボノイド様物質を担持する第一検出部、および、前記エクオール様物質を担持する第二検出部を備えた請求項1に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
【請求項3】
前記大豆イソフラボノイドがダイゼインである請求項1又は2に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
【請求項4】
前記大豆イソフラボノイド様物質がダイゼイン−BSAコンジュゲートであり、前記エクオール様物質がエクオール−BSAコンジュゲートである請求項3に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイス。
【請求項5】
請求項1〜4の何れかに記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性デバイスと、大豆イソフラボノイド結合物質として抗ダイゼイン抗体と、エクオール結合物質として抗エクオール抗体と、を備えた大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット。
【請求項6】
前記大豆イソフラボノイド結合物質に直接標識を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体、および、前記エクオール結合物質に直接標識を結合させたエクオール標識結合体を備えた請求項5に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット。
【請求項7】
前記直接標識が金コロイド標識である請求項6に記載の大豆イソフラボノイド・エクオール定量定性キット。
【請求項8】
検体、大豆イソフラボノイドと免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド結合物質に標識を結合させた大豆イソフラボノイド標識結合体、および、エクオールと免疫特異的に結合するエクオール結合物質に標識を結合させたエクオール標識結合体を混合して液体試料を得る混合工程を行なった後、当該液体試料を展開させて、
前記大豆イソフラボノイド標識結合体と免疫特異的に結合する大豆イソフラボノイド様物質と反応させる大豆イソフラボノイド反応工程と、
前記エクオール標識結合体と免疫特異的に結合するエクオール様物質と反応させるエクオール反応工程と、
前記大豆イソフラボノイドおよび前記大豆イソフラボノイド結合物質が結合して形成した大豆イソフラボノイド複合体、前記大豆イソフラボノイド反応工程で前記大豆イソフラボノイド様物質と反応しなかった前記大豆イソフラボノイド標識結合体、前記エクオールおよび前記エクオール結合物質が結合して形成したエクオール複合体、前記エクオール反応工程で前記エクオール様物質と反応しなかった前記エクオール標識結合体、のそれぞれと免疫特異的に結合する捕捉物質と反応させる捕捉物質反応工程と、
前記大豆イソフラボノイド反応工程、前記エクオール反応工程、前記捕捉物質反応工程で得られた標識強度を検出することにより前記検体中の大豆イソフラボノイドおよびエクオールを定量する定量工程と、を行なう大豆イソフラボノイド・エクオール定量方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−98034(P2012−98034A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243197(P2010−243197)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(509152079)株式会社ヘルスケアシステムズ (7)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(509152079)株式会社ヘルスケアシステムズ (7)
[ Back to top ]