説明

大豆タンパクを含むピロロキノリンキノンとシクロデキストリン包接コエンザイムQ10を共に含む経口摂取用組成物

【課題】製造が容易で経済性、熱安定性に優れたピロロキノリンキノンとコエンザイムQ10とを共に含む経口摂取用組成物の提供。
【解決手段】ピロロキノリンキノンと大豆タンパク又は大豆タンパク加水分解物とシクロデキストリン包接コエンザイムQ10とを共に含む経口摂取用組成物は、コエンザイムCoQ10の吸収性を改善し、コエンザイムCoQ10とピロロキノリンキノンとを同時に摂取でき、また、経口摂取用組成物の熱安定性は優れていた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(1)で表される酸化型コエンザイムQ10(以下CoQ10と記す)と一般式(2)であらわされるピロロキノリンキノン(以下PQQと記す)とを含む熱安定性に優れた経口摂取用組成物に関する。
【化1】

【化2】

【背景技術】
【0002】
PQQは新しいビタミンの可能性があることが提案されて(例えば、非特許文献1参照)、健康補助食品、化粧品などに有用な物質として注目を集めている。さらには細菌に限らず、真核生物のカビ、酵母に存在し、補酵素として重要な働きを行っている。また、PQQについて近年までに細胞の増殖促進作用、抗白内障作用、肝臓疾患予防治療作用、創傷治癒作用、抗アレルギ−作用、逆転写酵素阻害作用およびグリオキサラ−ゼI阻害作用−制癌作用など多くの生理活性が明らかにされている。
【0003】
このPQQは単独でも脳機能の改善に効果があるとされているが、さらに酸化型CoQ10を共に提供するのは脳機能の改善に効果があることが報告されており(非特許文献2、3、特許文献1)、共に摂取できる組成物が求められている。
【0004】
PQQは水溶性ビタミンで、経口投与でも生体に吸収されやすく(非特許文献4)吸収性については問題ない。しかし、CoQ10は脂溶性物質であり、吸収性の面では劣る。そのため、PQQと共存することによる効果を有効に生体内で起こすには改善が求められる。
CoQ10の融点は約48℃であり水に殆ど溶けない。PQQとCoQ10の粉末を直接混合した場合、CoQ10の融点が低いために、混合時の熱の影響で粉末同士が接着して流動性がなくなる欠点がある。さらに温度が高い環境での使用が行いにくい。
【0005】
熱安定性は粉末の取扱いを容易にするだけでなく、疎水性のCoQ10が水溶性のPQQを覆うことで溶解性を下げる危険性を小さくするのに非常に重要である。これまでにCoQ10の吸収性を改善する方法として食用油脂に分散する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、この方法では食用油脂に分散するため、同時に摂取したいPQQを混合した場合、水への溶解性を下げる欠点がある。
【0006】
経口投与時におけるCoQ10の吸収性を改善し、PQQとCoQ10を同時に摂取できる組成物が求められている。また、熱に安定で、熱を受けた後でも、粉体としての形状をとどめており、水への分散性が変化していない組成物が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/119588号
【特許文献2】特許第3549019号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】nature,vol422, 24April,2003, p832
【非特許文献2】J. Clin. Biochem. Nutr., vol. 42, p29-34, January 2008
【非特許文献3】Food Style 21 vol. 13, No.7, 7月号、2009
【非特許文献4】Proc Soc Expl Biol Med., Vol 197, p27-31, 1991.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、製造が容易で経済性、熱安定性に優れたピロロキノリンキノンとコエンザイムQ10とを共に含む経口摂取用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、大豆タンパク又は大豆タンパク加水分解物を含有し、CoQ10をシクロデキストリンに包接させることにより、熱安定性を高めることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(4)に示す経口摂取用組成物に関する。さらに吸収性の改善が見られる方法を提供する。
(1)ピロロキノリンキノンと大豆タンパク又は大豆タンパク加水分解物とシクロデキストリン包接コエンザイムQ10とを共に含む経口摂取用組成物。
(2)配合比が重量で、シクロデキストリン包接コエンザイムQ10を10として、PQQが0.02から2、大豆タンパク又は大豆タンパク加水分解物が0.02から2である、(1)に記載の経口摂取用組成物。
(3)(1),(2)の何れかに記載の経口摂取用組成物を用いた医薬品。
(4)(1),(2)の何れかに記載の経口摂取用組成物を用いた機能性食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のPQQとCoQ10組成物を提供するのに際し、大豆タンパク又はその加水分解物を含有したシクロデキストリン包接CoQ10を使用することによって熱安定性を高めることができる。さらにCoQ10の生体吸収性を高めることができる。また、PQQとCoQ10の直接混合した場合の低い熱安定性も改善することが可能である。さらに、粉体の混合も容易に行うことが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、CoQ10の吸収性を改善し、CoQ10とPQQとを同時に摂取できる熱に安定な組成物に関するもので、大豆タンパク又はその加水分解物を含有し、且つシクロデキストリン包接コエンザイムQ10、PQQを共に含むことを特徴とする。
【0013】
発明者らは、安全性が高く、PQQとCoQ10との混合物の熱安定性を向上させる条件について鋭意検討した結果、大豆タンパク又はその加水分解物を含有したシクロデキストリン包接CoQ10の使用により、PQQとの混合物の熱安定性を向上することを見出し、本発明を完成することができた。
【0014】
本発明においてPQQはフリー体、アルカリ金属塩として添加することができる。アルカリ金属塩としてナトリウム、カリウム、リチウム塩は手に入れやすく好ましい。アルカリ金属は1,2,3個、カルボン酸と塩を作った塩どれでも効果に問題はない。より好ましくはナトリウム、カリウム塩でジ、トリ塩である。その製造は有機合成、発酵法どちらでも構わない。
【0015】
本発明では大豆タンパクやその加水分解物を使用する。これらは大豆から製造される。
これらの製造方法は特に限定されない。一般的な製造方法は脱脂してある大豆から希アルカリ溶液(pH8〜9)でタンパク質を抽出後、不溶成分を遠心分離によって沈殿したタンパク質を回収し、水洗後水に懸濁して噴霧乾燥することによって得られる。またはアルカリ抽出後、酸添加して可溶分を除きアルカリ中和したものがあげられる。またはアルコール洗浄したのち酵素分解して得ることができる。当然、脱脂していない大豆も原料として使用できる。使用する大豆タンパクやその加水分解物に含まれるたんぱく含有量は40%以上が好ましく、より好ましくは55%以上である。
【0016】
本発明で使用可能な大豆タンパクやその加水分解物は市販しており、それらを使用できる。例えば不二製油社製のソヤサワー、ハイニュートシリーズ、フジプロシリーズ、サンラバーシリーズ、プロリーナシリーズ、日清オイリオ社製のニューソイミー、ニューコミテックス、プロコン、ソルピー、ソーヤフラワー、アルファープラス等が販売されており、使用しやすい。
【0017】
本発明では使用するCoQ10は有機合成、発酵法どちらでも構わない。このCoQ10をシクロデキストリンで包摂させたものを使用する。包接に使用するシクロデキストリンはオリゴ糖で6,7,8のグルコース(α、β、γ)からなる環状で本発明ではそのどれでも構わないが、一般的に包接を確実にするとして知られているγ―シクロデキストリンがより好ましい。包接化はどのような方法で行われてもよく、シクロデキストリン/CoQ10のモル比は1.5から5が手に入れやすく、より入手しやすいのはモル比が1.8から3.3の割合で包接されている。
【0018】
本発明において、PQQとシクロデキストリン包接コエンザイムQ10を混合する場合、粉末で混合することで作ることができる。PQQは水やアルコールに均一の分散を作りやすく、それを使って混合してもよい。
【0019】
配合比として好ましくは重量でシクロデキストリン包接コエンザイムQ10を10とするとPQQは0.02から2、大豆タンパク又はその加水分解物が0.02から2である。混合の際に通常のCoQ10と異なり、50℃にしても溶けてしまう危険性は低いが、過度の熱がかからない方法が好ましい。この組成物を作る際には−20から70℃で行うのが好ましい。
【0020】
大豆タンパク又はその加水分解物、シクロデキストリン包接コエンザイムQ10とPQQの粉体の大きさはどの種類でも0.1から500μmが好ましく、より好ましくは5から300μmである。このように、大豆タンパク又はその加水分解物を含有しシクロデキストリン包接コエンザイムQ10を使用することでPQQとCoQ10との混合物の熱安定性を少なくとも70℃以上の融点に大幅に改善できる。
熱安定性はシクロデキストリンがCoQ10より融点が高く、CoQ10を包接化することで、PQQとCoQ10との直接の接触を阻害している。
【0021】
通常のCoQ10はやわらかく、圧力をかけると壁面に付着しやすいため、混合に特殊な装置が必要で、また、シリカのような物質を添加しないと安定に混合物を作ることはできない。しかし、本発明は特殊な装置も必要でなく、混合しやすい。さらにCoQ10の生体吸収性を顕著に高めることが可能となった。大豆タンパク又はその加水分解物、シクロデキストリンともにCoQ10の吸収性を高める働きがある。シクロデキストリンで包接すること単独よりも大豆タンパク又はその加水分解物を混合することでより吸収性が高くなる。なお、その機序については、水溶性の低いCoQ10の水への分散性が向上することで、小腸における捕捉吸収性が増進されることによるものではないかと推定している。
【0022】
本発明で得られる経口摂取用組成物の投与剤形は、特に制限されず使用する用途により適宜選択することができる。
本発明の経口摂取用組成物は、ヒト用または動物用として、食品、機能性食品、医薬品または医薬部外品として使用することができる。ここでいう機能性食品とは、健康食品、栄養補助食品、栄養機能食品、栄養保険食品等、健康の維持あるいは食事にかわり栄養補給の目的で摂取する食品を意味している。具体的な形態としてはカプセル剤、タブレット、チュアブル、錠剤、ドリンク剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
この組成物にビタミンとしてよく知られた物質、ビタミンA, B1, B2, B6, B12, C, D, E, F、葉酸等を混合するのは容易に行うことができる。
【0023】
機能性食品として製品化する場合には、食品に用いられる添加剤、例えば甘味料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防菌防黴剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等を用いることができる。
【0024】
より一般的には通常の食品、例えば味噌、醤油、インスタントみそ汁、ラーメン、焼きそば、カレー、コーンスープ、マーボードーフ、マーボーなす、パスタソース、プリン、ケーキ、パン等に加えることも可能である。
【0025】
経口薬として製剤化する場合には、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、抗菌剤等の添加剤を用いることができる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例および比較例をもって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例にのみ限定されるものではない。
1)混合および熱安定性試験
<使用する材料>
大豆タンパク加水分解物(日清オイリオ社製)、ピロロキノリンキノンジナトリウム(三菱ガス化学社製)、γ―シクロデキストリン包接コエンザイムQ10(シクロケム社製)はコエンザイム含有量24%品を使用した。この時シクロデキストリン/CoQ10のモル比は2.1である。
【0027】
実施例1
大豆タンパク加水分解物(日清オイリオ社製)1g、ピロロキノリンキノンジナトリウム(三菱ガス化学社製)1g、γ―シクロデキストリン包接コエンザイムQ10(シクロケム社製)12gの割合でポリ袋に入れ、良く振って混合し経口摂取用組成物を調製した。PQQが7.14%、γ―シクロデキストリン包接コエンザイムQ10が85.7%、大豆タンパク加水分解物が7.14%の割合である。
得られた組成物を70℃で保存1時間行ったところ、粉体として維持されており、初めの混合時と変化していなかった。CoQ10の融点を超える温度でも安定に取り扱うことができた。
コーヒーミル(ナショナル製MK-61M)を用いて混合した結果、均一な混合ができ、粉の塊はできなかった。このように特殊な混合装置は必要がない。
【0028】
実施例2
大豆タンパク加水分解物(日清オイリオ社製)1.5g、ピロロキノリンキノンジナトリウム(三菱瓦斯化学製)0.5g、γ―シクロデキストリン包接コエンザイムQ10(シクロケム社製)12gの割合でポリ袋に入れ、良く振って混合し経口摂取用組成物を調製した。PQQが3.57%、γ―シクロデキストリン包接コエンザイムQ10が85.7%、大豆タンパク加水分解物が10.71%の割合である。
得られた組成物を70℃で保存1時間行ったが、粉体として維持されており、初めの混合時と変化していなかった。
コーヒーミル(ナショナル製MK-61M)を用いて混合した結果、均一な混合ができ、粉の塊はできなかった。
【0029】
実施例3
大豆タンパク加水分解物(日清オイリオ社製)1.9g、ピロロキノリンキノンジナトリウム(三菱瓦斯化学製)0.1g、γ―シクロデキストリン包接コエンザイムQ10(シクロケム社製)12gの割合でポリ袋に入れ、良く振って混合し経口摂取用組成物を調製した。PQQが0.71%、γ―シクロデキストリン包接コエンザイムQ10が85.7%、大豆タンパク加水分解物が14.28%の割合である。
得られた組成物を70℃で保存1時間行ったが、粉体として維持されており、初めの混合時と変化していなかった。
コーヒーミル(ナショナル製MK-61M)を用いて混合した結果、均一な混合ができ、粉の塊はできなかった。
【0030】
比較例1
酸化型CoQ10(三菱瓦斯化学社製)を70℃で保存したところ、10分で溶融し液状物に変化した。1時間後、取り出したが粉末状態は維持しておらず、熱安定性が劣っていた。
【0031】
比較例2
酸化型CoQ10(三菱瓦斯化学社製)8g、ピロロキノリンキノンジナトリウム(三菱瓦斯化学製)2gの割合でポリ袋に入れ、良く振って混合した。この混合物を70℃で保存したところ、10分で溶解し液状物に変化した。1時間後、取り出したが粉末状態は維持しておらず、熱安定性が劣っていた。
【0032】
2)ラットを使ったCoQ10の吸収性試験
摂餌方法
8週齢のSD系ラット(オス、一群3匹、体重250〜300g)に対し、前記の経組成物をCoQ10量として100mg/kgラット重となるように経口的に強制摂取させた後、投与3時間後に尾静脈よりヘパリン加真空採血管を用いて採血し、血漿を分離した。
【0033】
血中CoQ10量の測定
得られた血漿を1ml分取し、血漿中のCoQ10の全量が酸化型になるように、2%FeCl3−エタノール溶液を2.5ml加えて混合し、還元型CoQ10を酸化型CoQ10に変換した。次いで、ヘキサンを5ml加えて激しく混合し、血漿中の酸化型CoQ10を抽出した後、遠心分離し、ヘキサン層を別の試験管に採取した。この操作を3回繰り返し得られたヘキサン抽出液15mlをエバポレーターにて減圧濃縮(10〜100torr)し、その後、イソプロパノールを0.2ml加えて溶解した。得られたイソプロパノール溶液0.2mlを、下記の条件でHPLCにより分析し、血漿1ml中の濃度を算出した。結果を表1に示す。
HPLC分析条件:
カラム;YMC PACK ODS−A、移動相;メタノール:ヘキサン=4:1(V:V)、検出波長;275nm、流速;1.0ml/min、カラム温度30℃
上記の実施例1−3の組成物、比較例1のラットにおける吸収性試験の結果(二匹の平均値)を以下の表1に示す。
【表1】

本発明の組成物は通常のCoQ10よりも吸収性に優れ、熱安定性を改善していた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明の経口摂取用組成物は、ヒト用または動物用として、食品、機能性食品、医薬品または医薬部外品として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロロキノリンキノンと大豆タンパク又は大豆タンパク加水分解物とシクロデキストリン包接コエンザイムQ10とを共に含む経口摂取用組成物。
【請求項2】
配合比が重量で、シクロデキストリン包接コエンザイムQ10を10として、PQQが0.02から2、大豆タンパク又は大豆タンパク加水分解物が0.02から2である、請求項1に記載の経口摂取用組成物。
【請求項3】
請求項1,2の何れか一項に記載の経口摂取用組成物を用いた医薬品。
【請求項4】
請求項1,2の何れか一項に記載の経口摂取用組成物を用いた、機能性食品。

【公開番号】特開2011−195506(P2011−195506A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64012(P2010−64012)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】