説明

大豆加工食品及びその製造方法

【課題】大豆粉末を使用せずに、生大豆全粒を使用しても、良好な風味を備える大豆加工食品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】生大豆を粒のまま乳酸菌による発酵処理した後、前記処理した乳酸発酵大豆を磨砕処理又は磨砕処理並びに加熱処理すると、生大豆の全粒に含まれる表皮部分は、乳酸発酵によって食物繊維が軟化して、容易に微細化ができ、且つ軸杯部分(胚芽部分)が有するエグ味や苦みを解消した豆乳液を得ることができ、豆乳、豆乳ヨーグルト、豆腐等の大豆全粒使用製品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆の全粒を使用する大豆加工食品及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
豆乳や豆乳を使用した豆腐などの大豆加工食品は、一般に大豆を水に浸漬した後磨り潰し(磨砕処理)、加熱濾過し、固形分の大部分をオカラとして取り除いている。しかしこのオカラについては、一部は、総菜用として食用に供され、また乾燥処理した後微粉末として加工食品の増量剤や、飼料として利用されるが、廃棄処分されるものが多い。
【0003】
このため従前よりオカラを生じさせない全粒使用の豆乳や豆腐が提案されている。例えば全粒大豆粉末を使用し、食感改善の乳化剤を添加したり(特許文献1:特開平8−131112号公報)、酵素処理すること(特許文献2:特開2007−135419号公報)が提案されている。
【0004】
また全粒大豆粉末を使用せずに、大豆粉砕工程で加水する手段(特許文献3:特開2003−289821号公報)、浸漬大豆又は蒸煮大豆を所定のスクリーンを使用して微細分化する手段(特許文献4:特開2003−310196号公報)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−131112号公報。
【特許文献2】特開2007−135419号公報。
【特許文献3】特開2003−289821号公報。
【特許文献4】特開2003−310196号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
大豆粉末を使用することは、その前提として大豆の乾燥工程が必要であり、製出品には、乾燥費が含まれることになり製品コストの点で問題があると共に、乾燥作業に使用されるエネルギーを考慮すると地球環境的な点で問題がある。
【0007】
また製出品の風味の点からは、前記の全粒微細化手段や、全粒大豆粉末を使用する場合には、軸杯部分(胚芽部分)をそのまま含むため、青臭さや苦みの改善が困難である。
【0008】
更に前記の大豆粒を生産工程中に微細分化する手段は、浸漬大豆は勿論のこと蒸煮大豆の場合でも、表皮部分はある程度の硬さを有しており、微細分化工程が必ずしも容易な作業とは云えない。
【0009】
そこで本発明は、大豆粉末を使用せずに、且つ風味改善された新規な大豆加工食品及びその製造方法を提案したものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る大豆加工食品及びその製造方法は、生大豆を粒のまま乳酸菌による発酵処理した後、前記処理した乳酸発酵大豆を磨砕処理又は磨砕処理並びに加熱処理して得た豆乳液を使用して製出することを特徴とするものである。
【0011】
而して前記豆乳液は、生大豆の全粒に含まれる表皮部分は、乳酸発酵によって食物繊維が軟化して、容易に微細化ができ、且つ軸杯部分(胚芽部分)が有するエグ味や苦みを解消するので、豆乳液は、大豆全粒を含むことになり、当該豆乳液から製出品、例えば豆乳、豆乳ヨーグルト、豆腐等は、大豆全粒使用製品となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は上記のとおりで、生大豆をそのまま乳酸発酵処理するという簡単な工程を付加することで、大豆粉末を使用せずに大豆全粒使用を可能としたもので、大豆粉末のような乾燥工程を要しない優位性があり、また全粒を単に微細分化した製品における軸杯部分(胚芽部分)の苦みによる風味低下も改善されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態の豆乳液製造工程図。
【図2】同豆乳液からの各加工食品の製造工程図。
【図3】同原料大豆(磨砕処理前)の食味試験結果表。
【図4】同豆乳の食味試験結果表。
【図5】同豆腐の食味試験結果表。
【図6】同発酵豆腐の食味試験結果表。
【図7】同豆乳ヨーグルトの食味試験結果表。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明の実施の形態を製造工程順に説明する。製造工程は、図1に示すように第一洗浄工程、乳酸発酵工程(一次発酵)、第二洗浄工程、磨砕工程、煮沸工程で構成され、所定の豆乳液を製出するものである。
【0015】
第一洗浄工程は、原料生大豆の表面に付着している微生物を除去するもので、65℃の0.1%塩化マグネシウム液で数分間撹拌を行い、その後水切りを行い、更に0.2%クエン酸液で1分間の撹拌をなし、再度水切りを行い、そして水洗するものである。
【0016】
乳酸発酵工程(一次発酵)は、前記水洗後の生大豆を、所定の発酵液に所定時間浸漬して、20〜40℃で、1〜2日間発酵させるもので、発酵液は、原料大豆1に対して3倍量の水に、1%の乳酸菌培養液、0.05%の酵素剤を加えたものである。
【0017】
乳酸菌は、植物由来の乳酸菌を一種または複数種を発酵スタータとして使用するもので、例えば、ペディオコッカス・アシディラクティシLE−1株、ラクトバチルス・プランタラムAP−1株、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチスCu−1株等のようにリンゴの果皮やキュウリの表皮から採取し培養した出願人が市販しているものを使用し、酵素剤は、セミラーゼ、ヘミセミラーゼ等を使用する。
【0018】
この乳酸発酵工程では、生大豆の表皮部分が、浸漬によって湿潤し、乳酸発酵によって軟化され、更に酵素剤によって繊維素(セルロース、ヘミセルロース)の一部が分解される。また発酵温度及び発酵時間は使用する乳酸菌の種別・濃度によって決定される。更に前記乳酸発酵工程後には、発酵液を洗浄除去(第二洗浄工程)して原料大豆とする。
【0019】
前記の原料大豆(乳酸発酵処理大豆)と、対比例として生大豆(無発酵)を使用し、両者を蒸煮してその食味を確認したところ、図3の表のとおり、乳酸発酵処理大豆は、苦味・エグ味が解消されていた。
【0020】
発酵工程を終了した原料大豆は、次に磨砕する。磨砕工程は、電動石臼機(マスコロイダー:商標名)によって固形分を微細化して豆乳液状態とし、更に煮沸工程を経て、乳酸発酵豆乳液を得る。
【0021】
尚前記の磨砕工程後の蒸煮工程を行わない状態の生乳酸発酵豆乳液を原材料として、種々の加工処理(二次発酵処理、加熱処理等)を行って加工食品とすることも可能である。
【0022】
前記の乳酸発酵豆乳液は、そのまま適宜な容器に充填することで、製品とした乳酸発酵豆乳として提供できる。前記乳酸発酵豆乳と、対比例として生大豆(無発酵)を使用して磨砕・煮沸して製出した豆乳とを、その食味を確認したところ、図4の表のとおり、乳酸発酵処理大豆で製出した豆乳は、苦味・エグ味が解消されていた。
【0023】
また70〜80℃の温度状態の乳酸発酵豆乳液に、常法とおり凝固剤(天然にがり、塩化マグネシウム等)を添加して攪拌し、所望の包装容器に充填し、また成形型に収納して放冷固化させて、豆腐とすることもできる。前記豆腐は大豆全粒使用であり、且つ図5の表のとおり、生大豆全粒使用の豆乳で調製した豆腐と比較すると、明らかに生大豆の乳酸発酵によって風味・食味が改善されているものである。
【0024】
また前記乳酸発酵豆乳液を適宜な温度まで冷却し、再度乳酸菌を接種し(1%の乳酸培養液を添加)し、発酵温度20〜40℃を維持して、1〜2日発酵処理を行うと、ゲル化して、発酵豆腐を得ることができる。この発酵豆腐も、生大豆全粒使用の豆乳を同一条件で乳酸発酵処理した発酵豆腐と比較すると、苦味・エグ味が改善されているものである(図6参照)。
【0025】
更に乳酸発酵豆乳液を適宜な温度まで冷却し、甘味料・調味料を適宜添加すると共に、前記発酵豆腐と同様に再度乳酸菌を接種し(1%の乳酸培養液を添加)し、発酵温度20〜40℃を維持して、1〜2日発酵処理を行うと、豆乳ヨーグルトを得ることができ、この発酵ヨーグルトも、生大豆全粒使用の豆乳で調製した豆乳ヨーグルトに比較すると、苦味・エグ味が改善されているものである(図7参照)。
【0026】
尚前記の二次乳酸発酵については、前記した植物由来の乳酸菌の他、市販されている種々の乳酸菌を使用して製出することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生大豆を粒のまま乳酸菌による発酵処理した後、前記処理した乳酸発酵大豆を磨砕処理又は磨砕処理並びに加熱処理して得た豆乳液を使用してなることを特徴とする大豆加工食品の製造方法。
【請求項2】
乳酸菌が、植物由来乳酸菌である請求項1記載の大豆加工食品の製造方法。
【請求項3】
乳酸菌が、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)LE−1株、ラクトバシルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)AP−1株、及びラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)Cu−1株から選択される請求項2記載の大豆加工食品の製造方法。
【請求項4】
乳酸発酵処理時に、セルロース、へミセルロースの分解酵素剤を添加してなる請求項1乃至3記載の何れかの大豆加工食品の製造方法。
【請求項5】
生大豆を粒のまま乳酸菌による発酵処理した後、前記処理した乳酸発酵大豆を磨砕処理又は磨砕処理並びに加熱処理して得た豆乳液を使用して製出したことを特徴とする大豆加工食品。
【請求項6】
乳酸菌が、植物由来乳酸菌である請求項5記載の大豆加工食品。
【請求項7】
乳酸菌が、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)LE−1株、ラクトバシルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)AP−1株、及びラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)Cu−1株から選択される請求項6記載の大豆加工食品。
【請求項8】
乳酸発酵処理時に、食物繊維の分解酵素剤を添加してなる請求項5乃至7記載の何れかの大豆加工食品。
【請求項9】
製出品が豆乳である請求項5乃至8記載の何れかの大豆加工食品。
【請求項10】
製出品が、豆乳液に苦りを加えて製出した豆腐である請求項5乃至8記載の何れかの大豆加工食品。
【請求項11】
製出品が、豆乳液に再度乳酸菌を接種して、二次発酵させて製出した発酵豆腐である請求項5乃至8記載の何れかの大豆加工食品。
【請求項12】
製出品が、豆乳液に、所望の甘味料・調味料を添加すると共に、再度乳酸菌を接種して、二次発酵させて製出した豆乳ヨーグルトである請求項5乃至8記載の何れかの大豆加工食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−67102(P2011−67102A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−218900(P2009−218900)
【出願日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(595093049)株式会社バイオテックジャパン (15)
【Fターム(参考)】