大豆抽出物を含む抗糖化剤

【課題】飲食品または医薬品として安全性が高い抗糖化剤を提供すること。
【解決手段】本発明は、大豆抽出物を含む抗糖化剤を提供する。本発明の抗糖化剤は、例えば、糖尿病合併症(血管症、腎症、網膜症など)、神経障害、アルツハイマー病、動脈硬化症、悪性腫瘍、骨疾患、神経変性疾患、皮膚の老化などの疾患や症状の予防および治療に用いられ得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大豆抽出物を含む抗糖化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
終末糖化産物(Advanced Glycation End-product;AGE)は、グルコースなどの還元糖のカルボニル基と、タンパク質のアミノ基との非酵素的な反応から始まる一連の反応(メイラード反応)により生じる不可逆的な高分子架橋物質である。これらの反応は、生体内で長期間にわたりゆっくり進行する。例えば、糖尿病の臨床検査項目の1つとして挙げられているヘモグロビンA1C(HbA1c)は、赤血球のタンパク質であるヘモグロビンの糖化物であり、AGEsの1種である。
【0003】
AGEは、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症などの糖尿病による合併症の原因物質である。また、AGEは、血管内皮細胞に存在する特異的な受容体(RAGE)に結合して糖尿病性血管症の発症に関連することも知られている。現在、わが国において、糖尿病患者およびその予備軍の数は2210万人(2007年国民健康・栄養調査)にのぼり、特に中高年の4.5人に1人が糖尿病予備軍であるとの報告を考慮すると、体内のAGEを除去することは、今後の糖尿病合併症の発症・進行を予防する上で非常に重要である。さらに、AGEは、アテローム性動脈硬化、アルツハイマー病、慢性関節リウマチなどの種々の衰弱性疾患の発症・進展にも関与している。
【0004】
AGEは、グルコースだけではなく、グルコースの自動酸化および分解産物などの種々の糖から生成される。このうち、グリセルアルデヒド由来AGE(AGE−2)は、AGEレセプター(RAGE)との結合能力が高く、このRAGEを介して、糖尿病性網膜症もしくは糖尿病性腎症のような糖尿病血管合併症の発症および進展に強く関与していることが知られている(非特許文献1および2)。このように、糖尿病の予防および治療を目的として、AGE、特に、グリセルアルデヒド由来AGEはその役割が注目されており、研究が続けられている。
【0005】
一方で、AGEは、食品中にも存在する。そもそも、AGEは、食品化学の研究において発表された非酵素的糖化反応(メイラード反応)による褐変において注目された物質である。AGEは、煮る・蒸すなどの調理方法ではほとんど含まれず、逆に焼く・炒める・揚げるなどの調理方法では多く含まれることが分かっている。また、AGEは、コーラ、味噌、および醤油のような食材に多く含まれていることも知られている。このように、人間は、生活上、常に多量のAGEを食品(特に加工食品)から摂取している。食材としてAGEを取り込むことに関してはほとんど害がないと考えられているが、腎臓を悪くしている場合は注意が必要であり、また無害の食品性AGEが体内に吸収された後、有害性のAGE(例えばAGE−2)に転換される可能性がある。
【0006】
このようにAGEは生体内でも生成され、また生体外からも摂取される。このため、生体内での過剰なAGEの蓄積を抑制するために、種々の薬剤が提案されている。例えば、AGE生成抑制剤として、従来からアミノグアニジン、ピリドキサミン誘導体などが知られている。さらに特許文献1には、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンが開示されている。
【0007】
確立されたAGE架橋を破壊する物質も検討されており、例えば、N−臭化フェナシルチアゾリウム(PTB)などが知られている。最近では、1,4−ベンゼン−bis[4−メチレンアミノフェノキシイソ酪酸]などの7種の化合物が報告されている(例えば、特許文献2)。しかし、これらのAGE分解効果は、必ずしも十分とはいえない。
【0008】
近年の研究では、ビタミンB6が、AGE生成阻害作用を有することが見出され、そのAGE阻害剤としての利用が期待されている。
【0009】
ところで、AGEは、加齢と共にその蓄積が認められること、およびAGEがコラーゲンとコラーゲンとの間の結合物質として働くことが知られており、これにより、皮膚の老化に関与すると考えられている。アミノグアニジンを投与することにより、加齢に伴う様々な体内組織の老化現象を抑制することができたことが報告され(非特許文献3)、アミノグアニジンは、欧米では、アンチエージング物質として汎用されている。しかし、アミノグアニジンは、毒性を有することが米国の第III相臨床試験で明らかとなっており、その使用および用量に大きな制限が加えられている。
【0010】
その他のAGE形成阻害剤としては、アミノグアニジンの誘導体であるOPB−9195、LR−90、ALT−946、天然化合物およびその類縁体であるチアミン(ビタミンB)、チアミンピロリン酸、ベンフォチアミンなど幾つかの化合物が知られている(非特許文献4〜9)が、いずれも実用化には至っていない。
【0011】
このような背景から、副作用の問題が少ない天然物由来の糖化阻害剤の開発が期待されている。例えば、生活習慣病の予防食品として有用な抗糖化食品群として、レモン、レモン皮、発酵米ぬか、赤唐辛子、りんご皮、アボガド、発芽玄米、玉ねぎ皮、バナナ皮、クコの実、りんご、黒大豆、キウイ皮、黒米、黒こしょう、シナモン、わかめ、かいわれ、緑茶、白ゴマ、およびピーナッツ皮からなる群から選択される食品からの抽出物の1種または2種以上を主成分として含有する、アミノリン脂質の糖化抑制物質などが知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−300153号公報
【特許文献2】特表2004−529126号公報
【特許文献3】特開2007−223977号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Yamagishi S.ら, Biochem. Biophys. Res. Commun., 2002年, 290巻, 973-978頁
【非特許文献2】Okamoto T.ら, FASEB J., 2002年, 16巻, 1928-1930頁
【非特許文献3】Li Y.M.ら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 1996年, 93巻, 3902-3907頁
【非特許文献4】Price D.L.ら, J. Biol. Chem., 2001年, 276巻, 48967-48972頁
【非特許文献5】Rahbar S.ら, Mol. Cell. Biol. Res. Commun., 2000年, 3巻, 360-366頁
【非特許文献6】Forbes J.M.ら, Diabetologia., 2001年, 44巻, 108-114頁
【非特許文献7】La Selvaら, Diabetologia, 1996年, 39巻, 1263-1268頁
【非特許文献8】Booth A.A.ら, J. Biol. Chem., 1997年, 2729巻, 5430-5437頁
【非特許文献9】Stracke H.ら, Nat. Med., 2003年, 9巻, 294-299頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、飲食品や医薬品として安全性が高い抗糖化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、大豆抽出物を含む抗糖化剤を提供する。
【0016】
1つの実施態様では、有効成分はクメストロールである。
【0017】
1つの実施態様では、有効成分はイソフラボンである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、抗糖化剤の有効成分は植物由来であり、従来から一般的に食されていることから、飲食品や医薬品として安全性が高い抗糖化剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】大豆熱水抽出物を用いた場合のグルコース由来AGEおよびグリセルアルデヒド由来AGEの生成率を示すグラフである。
【図2】クメストロールを用いた場合のグルコース由来AGEおよびグリセルアルデヒド由来AGEの生成率を示すグラフである。
【図3】イソフラボン混合物を用いた場合のグルコース由来AGEおよびグリセルアルデヒド由来AGEの生成率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本明細書中で「大豆抽出物」とは、以下に説明するように、大豆を抽出して得られた産物をいう。
【0021】
ダイズ(Glycin max)は、背丈約60〜70cm程度となるマメ科の一年草植物である。その種子は、枝豆などとして、または豆腐や味噌、醤油などに加工されて、食用に供されることが多いことで知られる。
【0022】
本明細書中で「大豆」とは大豆の種子をいい、種皮、胚乳、子葉および胚軸を含む。大豆の品種は、特に限定されない。
【0023】
大豆抽出には、採取後の種子、あるいは乾燥後の種子を破断・粉砕したものを用いることができる。大豆は、乾燥前に、必要に応じて裁断され得る。乾燥法としては、公知の任意の方法が用いられ得るが、例えば、風乾法、加熱乾燥法、スプレードライ法、減圧乾燥法、凍結乾燥法などが挙げられる。粉砕法は、例えば、粉砕機や摩砕機を使用して微粉末化または微粒化するなどの手段を含む。
【0024】
抽出溶媒としては、水、エタノールなどが挙げられる。抽出溶媒に水を用いる場合、抽出法としては、熱水抽出法および水抽出法が挙げられる。熱水抽出法としては、上記材料を熱水に浸漬する方法または蒸気で蒸す方法が挙げられる。これらは圧力を加えた処理を併用してもよい。熱水の温度は好ましくは40〜100℃、より好ましくは70〜100℃であり、熱水の処理時間は、好ましくは10〜120分、より好ましくは20〜40分である。蒸気で蒸す場合には、沸騰した湯を用いて蒸し、蒸す時間は、好ましくは10〜120分、より好ましくは30〜60分である。水抽出法としては、水または他の成分を加えた水溶液に上記材料を浸漬する方法が挙げられる。水の温度は好ましくは0〜40℃、より好ましくは10〜40℃である。抽出後、遠心分離、濾過などの適当な分離手段によって沈殿物または不溶性画分を除き、上清または可溶性画分を回収することができる。さらに、上記抽出後の沈殿物または不溶性画分について、再度同様の抽出処理を行って、上清または可溶性画分を回収することもできる。
【0025】
大豆抽出物は、さらに、乾燥、粉砕などの処理に供してもよい。乾燥法としては、公知の任意の方法が用いられ得るが、例えば、風乾法、加熱乾燥法、スプレードライ法、凍結乾燥法などが挙げられる。大豆抽出物に、例えば賦形剤(例えば、デキストリン)を添加したものを、スプレードライなどにより乾燥することもできる。粉砕法は、例えば、粉砕機や摩砕機を使用して微粉末化または微粒化するなどの手段を含む。
【0026】
大豆抽出物は、液状または溶媒除去した固形のいずれの形態でも用いられ得る。
【0027】
大豆抽出物は、終末糖化産物(AGE)に対する結合性および終末糖化産物生成阻害活性を有する。「終末糖化産物(AGE)」とは、グルコースなどの還元糖とタンパク質のアミノ基とが非酵素的に反応し、シッフ塩基、アマドリ転移化合物を経て形成される不可逆的な架橋物質の総称である。AGEは、反応性に富むグリセルアルデヒド、グリコールアルデヒドなどのアルデヒド、およびメチルグリオキサール、グリオキサール、3-デオキシグルコソンのような各種中間代謝産物から、あるいはアマドリ転移化合物の酸化的分解、グルコースの自動酸化、脂質の過酸化などによっても生じ得る。生体内に存在するタンパク質(例えば、赤血球膜蛋白、アルブミン、リポプロテイン、アンチトロンビン、トロンボモジュリンなどの血中血漿タンパク質、コラーゲン、エラスチン、プロテオグリカンなどの細胞外基質構成タンパク質など)、核酸などがAGE化することにより機能障害が生ずると考えられている。
【0028】
上記終末糖化産物生成阻害活性を有する有効成分の1つは、大豆抽出物中に含有されるクメストロールまたはイソフラボンである。イソフラボンは、植物界に広く分布するフラボノイドの一種であり、マメ科植物、特に大豆種子に多く含まれている。クメストロールは、イソフラボンの一種である。イソフラボンとしては、クメストロールのほか、例えば、ダイゼイン、ゲニステイン、グリシテインなどのイソフラボン混合物が挙げられる。
【0029】
大豆抽出物を経口摂取した場合、生体外由来(例えば、食物性)および生体内のAGEを吸着して、腸管からの吸収を阻害し得る。例えば、生体外からの食物性AGEから体内で転換されるAGE−2量を減じ得る。また、生体内におけるAGEの生成も抑制し得る。
【0030】
大豆抽出物は、毒性の強いAGEであるグリセルアルデヒド由来糖化産物であるグリセルアルデヒド由来AGEであるAGE−2による細胞アポトーシス抑制活性も有し得る。
【0031】
大豆抽出物は、経口、経管、経皮、経粘膜投与などによる体内への導入によって、抗糖化剤として、ならびにAGEが関与する疾患、例えば、糖尿病合併症(血管症、腎症、網膜症など)、神経障害、アルツハイマー病、動脈硬化症、悪性腫瘍、骨疾患、神経変性疾患、皮膚の老化などの疾患や症状の予防および治療に用いられ得る。
【0032】
大豆抽出物は、抗糖化剤として利用できる。「抗糖化剤」とは、AGEへの結合またはAGE生成の阻害などにより体内でのAGEの蓄積を抑制し得、またはAGE−2による細胞アポトーシスのようなAGE−2による細胞への有害作用を抑制し得る因子であり得る。このような抗糖化剤は、飲食品、医薬品、化粧品、石鹸、皮膚塗布剤、点鼻剤、坐剤などに配合され得る。
【0033】
大豆抽出物を含む抗糖化剤は、飲食品および医薬品の素材として用いられ得る。大豆抽出物を含む抗糖化剤は、飲食品組成物(例えば、経口用サプリメントのような健康食品)および医薬品組成物に含有することができる。これらの飲食品組成物および医薬品組成物は、特に、例えば、糖尿病合併症(血管症、腎症、網膜症など)、神経障害、アルツハイマー病、動脈硬化症、悪性腫瘍、骨疾患、神経変性疾患、皮膚の老化などの疾患や症状の予防または治療のために用いられ得る。
【0034】
飲食品組成物は、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、マルチトール、ソルビトール、乳糖、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、アミノ酸類、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料、保存料などをさらに適宜含有し得る。このような飲食品は、用途に応じて、粉末、顆粒、カプセル、錠、シロップ、懸濁液などの形態に成形され得、飴などにも加工され得る。飲食品組成物(例えば、経口用サプリメント)の製造は、当業者が通常用いる方法によって行われ得る。飲食品組成物への抗糖化剤の配合量、配合方法、配合時期は適宜選択することができる。飲食品組成物は、飲食品組成物全量に対して抗糖化剤を、0.1〜100質量%、より好ましくは10〜80質量%(大豆抽出物基準)で含有し得る。
【0035】
抗糖化剤または飲食品組成物は、そのまま摂取することができ、水などの溶媒に溶かすまたは懸濁させるなどしても摂取することができ、食事の前後、または食間に経口摂取することができる。抗糖化剤または飲食品組成物を飲食品に添加して、飲食することもできる。
【0036】
抗糖化剤または飲食品組成物が添加される飲食品としては、例えば、在宅用糖尿病食、流動食、病者用食品(糖尿病食調製用組み合わせ食品など)、特定保健用食品、ダイエット食品、または炭水化物を主成分とする飲食品が挙げられるが、これらに限定されない。具体的な食品形態としては、例えば、米飯製品、麦製品、野菜製品、乳飲料、清涼飲料などが挙げられるが、これらに限定されない。抗糖化剤または飲食品組成物の飲食品への添加または加工は、当業者が通常用いる方法によって行われ得、配合量、配合方法、配合時期は適宜選択することができる。人間以外の動物、例えば家畜またはペット用の飼料への添加も可能である。
【0037】
医薬品組成物は、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤などの各種調剤用配合成分をさらに適宜含み得る。これらの医薬品組成物は、粉末剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液剤などの剤型で経口的または経管的に投与することができる。医薬品組成物の製造は当業者が通常用いる方法によって行われ得、配合量、配合方法、配合時期は適宜選択することができる。医薬品組成物の投与量は、肥満の程度、患者の体重、投与形態などに応じて適宜選定することができる。医薬品組成物は、医薬品組成物全量に対して抗糖化剤を好ましくは20〜100質量%、より好ましくは60〜100質量%(大豆抽出物基準)で含有し得る。
【0038】
医薬品組成物は、そのまま投与することができ、水などの溶媒に溶かすまたは懸濁させるなどしても投与することができる。投与は1日に1回または複数回に分けて行われ得る。
【0039】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
(調製例1:大豆水抽出物)
大豆を福岡県糟屋郡の農家より購入し、細かく裁断し、凍結乾燥機で乾燥させ、十分に乾燥を終えた後、粉砕機で粉状に破砕した。粉砕サンプル1gを100mLのビーカーに測り取り、20〜25℃の超純水20mLを入れ、超音波で約5分処理した。さらに、4℃で一晩攪拌した。攪拌後の混合物を、4℃にて20分間、3000rpmで遠心分離し、上清を回収した。この遠心分離による沈澱を10mLの超純水で洗い、もう一度、同条件で遠心分離を行い、上清を回収した。得られた2つの上清を合わせて凍結乾燥し、大豆水抽出物とした。
【0041】
(調製例2:大豆熱水抽出物)
抽出のために、20〜25℃の超純水の代わりに95℃の超純水を用いたこと、および攪拌時間を一晩ではなく1時間にしたこと以外は、調製例1と同様にして、大豆熱水抽出物を調製した。
【0042】
(実施例1:AGEとの結合作用)
被験物質として、調製例1の大豆水抽出物、調製例2の大豆熱水抽出物を用いて、グルコース由来AGE(AGE−1)およびグリセルアルデヒド由来AGE(AGE−2)との相互作用(解離定数)を調べた。
【0043】
調製例1の大豆水抽出物および調製例2の大豆熱水抽出物について、財団法人日本食品分析センターに分析を依頼し、これらの抽出物がクメストロールおよびイソフラボンを含有することを確認した。クメストロールをFluka Chemica(ドイツ)より、イソフラボン(アグリコン)混合物(大豆由来;093-04771)を和光純薬株式会社より購入して、被験物質として追加した。
【0044】
AGE−1は、以下のように調製した(以下に示す試薬は全てシグマ社から購入):
(1)360mgのDL-グルコースと39mgのジエチレントリアミン五酢酸(キレート剤)をそれぞれ秤量し、50mLのファルコンチューブに移した;
(2)当該ファルコンチューブに0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)を20mL添加して、ボルテックスミキサーを用いて溶解した;
(3)当該ファルコンチューブにヒト血清アルブミン(HSA)を500mg添加し、ボルテックスミキサーを用いて再度溶解した;
(4)溶解後、当該溶液をクリーンベンチ内でポアサイズ0.22μmのフィルターを通すことによって無菌溶液とした;
(5)パラフィルムで50mLファルコンチューブの蓋を密封し、37℃で1週間インキュベートした;そして
(6)未反応のDL-グルコースを除くために、PD-10カラムにかけて、その結果をHPLCで確認した。
【0045】
AGE−2は、以下のように調製した(以下に示す試薬は全てシグマ社から購入):
(1)180mgのDL-グリセルアルデヒドと39mgのジエチレントリアミン五酢酸(キレート剤)をそれぞれ秤量し、50mLのファルコンチューブに移した;
(2)当該ファルコンチューブに0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)を20mL添加して、ボルテックスミキサーを用いて溶解した;
(3)当該ファルコンチューブにHSAを500mg添加し、ボルテックスミキサーを用いて再度溶解した;
(4)溶解後、当該溶液をクリーンベンチ内でポアサイズ0.22μmのフィルターを通すことによって無菌溶液とした;
(5)パラフィルムで50mLファルコンチューブの蓋を密封し、37℃で1週間インキュベートした;そして
(6)未反応のDL-グリセルアルデヒドを除くために、PD-10カラムにかけて、その結果をHPLCで確認した。
【0046】
分子間相互作用定量QCM装置「AFFINIXQ」(型番:QCM2000;株式会社イニシアム)の専用センサーチップに、100μg/mLのグルコース由来AGE(AGE−1)またはグリセルアルデヒド由来AGE(AGE−2)を1μL滴下し、十分に風乾した後、超純水で当該チップを洗浄した。チップを装置に装着し、試験容器に入れた8mLの超純水にチップを浸漬させた。被験物質の凍結乾燥物を超純水で1mg/mLとなるように溶解し、この被験物質溶液を8μL取り、試験容器内の超純水に添加した。装置のディスプレイ上で、チップ上のグルコース由来AGEまたはグリセルアルデヒド由来AGEと被験物質との結合が安定になったことを確認し、被験物質溶液8μLをさらに添加した。この操作を2〜4回繰り返し、グルコース由来AGEまたはグリセルアルデヒド由来AGEと被験物質との相互作用(平衡曲線)を作成した。この結果を、装置に内蔵した専用測定解析ソフトウェアで解析し、解離定数を算出した。
【0047】
調製例1の大豆水抽出物、調製例2の大豆熱水抽出物、クメストロールおよびイソフラボン混合物の結果をそれぞれ表1〜表4に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【0052】
表1および表2に示されるように、大豆水抽出物および大豆熱水抽出物は、グルコース由来AGEおよびグリセルアルデヒド由来AGEへの結合活性を有することが分かった。表3および表4に示されるように、クメストロールおよびイソフラボン混合物もまた、グルコース由来AGEおよびグリセルアルデヒド由来AGEへの結合活性を有していた。
【0053】
(実施例2:AGEの生成阻害作用)
被験物質として、調製例2の大豆熱水抽出物、クメストロール、およびイソフラボン混合物を用いて、グルコースまたはグリセルアルデヒドからのAGEの生成を調べた。
【0054】
被験物質の水溶液を、最終濃度が100μg/mLまたは1mg/mlとなるように調製した。
【0055】
以下の量の成分を含む水溶液を調製した:D-(+)-グリセルアルデヒド(シグマ社より購入)180mg;ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA、シグマ社より購入)39mg;ヒト血清アルブミン(HSA、シグマ社より購入)500mg;被験物質;0.2Mリン酸緩衝液(pH7.4)(和光純薬より購入)20mL。コントロールには、被験物質を添加しなかった。
【0056】
上記のように調製した水溶液を試験管に入れ、該試験管に滅菌済みの蓋をし、蓋の周囲をパラフィルムで密封し、さらにアルミ箔で試験管全体を覆い遮光して、37℃で1週間インキュベートした。次いで、これに、最終濃度が50mMとなるように予めメタノールに溶解し、水の添加により5Mに調整した水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を加え、37℃で4時間インキュベートした。
【0057】
上記インキュベーション後にAGEが生成したか否かを、AGE検出キットとしてグリセルアルデヒド由来AGE測定ELISAキット(株式会社アップウェル製)を用いて確認した。
【0058】
結果は、コントロール(被験物質を混和しないサンプル)を100%とし、コントロールに対するグリセルアルデヒド由来AGE生成率を百分率で表した。
【0059】
また、「180mgのD-(+)-グリセルアルデヒド」を「360mgのD-グルコース」に代え、AGE検出キットをヒトグルコース由来AGEポリクローナル抗体使用キット(株式会社アップウェル製)に代えたこと以外、同様にして、グルコース由来AGEの生成を調べた。
【0060】
結果は、コントロール(被験物質を混和しないサンプル)を100%とし、コントロールに対するグルコース由来AGE生成率を百分率で表した。
【0061】
これらの結果を合わせて、図1〜図3に示す。図1は、大豆熱水抽出物を用いた場合のグルコース由来AGEまたはグリセルアルデヒド由来AGEの生成率を示す。図2は、クメストロールを用いた場合のグルコース由来AGEまたはグリセルアルデヒド由来AGEの生成率を示す。図3は、イソフラボン混合物を用いた場合のグルコース由来AGEまたはグリセルアルデヒド由来AGEの生成率を示す。各図とも、縦軸はグルコース由来AGEまたはグリセルアルデヒド由来AGEの生成率(%)を表し、横軸のグルコース由来AGEおよびグリセルアルデヒド由来AGEのそれぞれについて、左側が被験物質100μg/mLの結果および右側が被験物質1mg/mLの結果を表す。
【0062】
これらの図に示されるように、大豆熱水抽出物は、グルコースまたはグリセルアルデヒドとHSAとによるAGEの生成を阻害した。クメストロールおよびイソフラボン混合物もまた、グルコースまたはグリセルアルデヒドとHSAとによるAGEの生成を阻害した。
【0063】
(実施例3:ウシ周皮細胞アポトーシス抑制試験)
被験物質として、調製例2の大豆熱水抽出物、クメストロールおよびイソフラボン混合物を用いて、グリセルアルデヒド由来AGEによる細胞アポトーシスへの影響を調べた。
【0064】
ウシ周皮細胞を、久留米大学医学部糖尿病性血管合併症診断・治療講座の山岸昌一教授から提供してもらった。ウシ周皮細胞を、250μg/mLのグリセルアルデヒド由来AGE(実施例1)および250μgのウシ血清アルブミン(シグマ社より購入)の存在下で、100μg/mLの被験物質と共に10日間培養した。10日間の培養後、細胞を溶解し、ENzyme-linked immunosorbant assay for DNA fragments (Cell Death Detection enzyme-linked immunosorbent assay, Roche Molecular Biochemicals社、ドイツ、マンハイム)を用いて生存細胞数を測定した。
【0065】
この結果を表6に示す。
【0066】
【表5】

【0067】
表5に示されるように、大豆熱水抽出物は、グリセルアルデヒド由来AGEによる細胞アポトーシスを抑制することが明らかになった(細胞生存率48%)。クメストロールおよびイソフラボン混合物もまた、グリセルアルデヒド由来AGEによる細胞アポトーシスを抑制した(細胞生存率それぞれ47%および64%)。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明によれば、終末糖化産物(AGE)に結合し、AGEの生成を抑制し、そして細胞への毒性が強いと考えられるグリセルアルデヒド由来AGEによる細胞アポトーシスを抑制し得る物質が提供される。本発明の大豆抽出物を含む抗糖化剤は、例えば、糖尿病合併症(血管症、腎症、網膜症など)、神経障害、アルツハイマー病、動脈硬化症、悪性腫瘍、骨疾患、神経変性疾患、皮膚の老化などの疾患や症状の予防および治療に用いられ得る。本発明の大豆抽出物を含む抗糖化剤は、食物由来であるので、飲食品、医薬品、化粧品、石鹸、皮膚塗布剤、点鼻剤、坐剤などに安全に配合され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大豆抽出物を含む抗糖化剤。
【請求項2】
有効成分がクメストロールである、請求項1に記載の抗糖化剤。
【請求項3】
有効成分がイソフラボンである、請求項1に記載の抗糖化剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−219014(P2012−219014A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−82514(P2011−82514)
【出願日】平成23年4月4日(2011.4.4)
【出願人】(506307809)株式会社アップウェル (9)
【Fターム(参考)】