大開口のウィーンE×B質量フィルタ本発明は、荷電粒子ビームシステムに関し、特に、イオンビームシステムのための質量フィルタに関する。
【課題】集束イオンビームシステムで使用するための大開口のウィーンE×B質量フィルタを提供する。
【解決手段】E×Bウィーン質量フィルタが、質量分離するために必要な電気双極子の電場と組み合わされた独立して調整可能な電場を提供する。独立して調整可能な電場は、より大きな光学的アパーチャを提供でき、非点収差を補正し、かつ磁場に平行及び/又は垂直な方向にビームを偏向するように使用可能である。
【解決手段】E×Bウィーン質量フィルタが、質量分離するために必要な電気双極子の電場と組み合わされた独立して調整可能な電場を提供する。独立して調整可能な電場は、より大きな光学的アパーチャを提供でき、非点収差を補正し、かつ磁場に平行及び/又は垂直な方向にビームを偏向するように使用可能である。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
いくつかの集束イオンビーム(FIB)カラムは、複数のイオン種を放出するイオン源を使用するように設計されている。基板上に集束されるビームについて、これらのイオン種のうち一つだけを選択するため、FIBカラムは一般的には質量フィルタを含む。質量フィルタの一種である「ウィーンフィルタ」は、交差する電場と磁場(E×B)を用い、不要なイオン種を軸外に偏向させて、不要なイオン種を質量分離アパーチャに衝突させる。「ウィーンフィルタ」は「E×Bフィルタ」とも呼ばれる。電場と磁場の相対的な強さは、所望のイオン種が偏向せずに質量分離アパーチャを通過するように設定され、かかるイオン種は、質量フィルタを通過した後、最終的には基板表面上に集束する。
【0002】
イオンは、ウィーンフィルタの「物理的アパーチャ」内を通過する。これは電極と磁極の面で囲まれた領域である。理想的には、磁場と電場は、電極と磁極によって囲まれたフィルタ全体の空間において相互に直交するものである。電場及び磁場は各極の端の方では歪み、フィルタ領域の中心の方のみで、理想的な垂直の向きに近づき、かつ、正確な正しい磁場と電場の強度比B/Eに近づくので、「光学的」アパーチャ(すなわち、質量分離が可能である範囲内のアパーチャ)は、質量フィルタ内のビーム径よりは大きいが、物理的アパーチャよりはずっと小さなものとなることが多い。磁極及び電極は、各極の端部がフィルタ領域から離れるように、両端方向へビーム軸から十分に離れて物理的アパーチャを越えて外側に延びることが好ましい。これによれば、物理的アパーチャ内での電場及び磁場をもっと均一にすることができ、実際に受け入れできるアパーチャを引き延ばす。しかしながら、電極と磁極とが物理的に相互に干渉してしまうので、このことは不可能である。
【0003】
粒子源と基板との間の中間にクロスオーバーを有する集束イオンビームカラムでは、そのビーム径が比較的小さいので、小さな光学的アパーチャでも許容できることがある。多くの集束イオンビーム(FIB)カラムは、通常、FIBカラム内の複数のレンズの間に、一つ以上のクロスオーバーを含む。クロスオーバーによれば、カラムにおいてクロスオーバーなしで達成可能である場合よりも、粒子源とターゲットとの間の倍率範囲をより広くすることが可能となる。質量フィルタを通過した後、ビームをクロスオーバーするように集束させる場合、ほぼ同一の平面全体において多様なクロスオーバーが生じる可能性があり、そこでは、各クロスオーバーはビーム中で異なる質量電荷比に対応するものとなる。例えば、シリコン−金の合金の液体金属イオン源(LMIS)では、典型的には、1価及び2価に帯電したシリコン及び金の単原子イオン、並びに、1価又は多価に帯電したシリコン及び/又は金の多原子イオンによる複数のクロスオーバーが生じることがある。
【0004】
十分に小さいアパーチャの開口部(一般的にクロスオーバーの直径よりも大きい)を有する質量フィルタアパーチャがこれらのクロスオーバーの面に配置された場合、これらのイオン種のただ一つのみが、アパーチャを通過して、次いでターゲット上で集束される。一方、他のすべてのイオン種はアパーチャ板に衝突し、そのため、FIBカラムの下部へ向かうことが阻止される。クロスオーバーを持つと、クロスオーバーなしの場合に比べて、各種のイオン種を完全に分離する際に、質量フィルタで僅かに分散させるだけで足りるという利点がある。質量フィルタアパーチャでのクロスオーバーは、質量フィルタの下方のプローブ成形光学系の仮想光源として機能する。しかしながら、イオンビームでの避けられないエネルギー拡散によって、質量散乱の軸に沿ってクロスオーバーにぼけが生じ、その結果、ターゲット上での集束ビームにぼけが生じる可能性がある。
【0005】
クロスオーバーにも欠点がある。(1)クロスオーバーそれ自体によって各粒子が相互に接近するにつれて、静電反発力が増大する。(2)ビームは、クロスオーバーに起因して、カラム全体にかけて一般的に小さいものとなり、空間電荷の反発力が増大する。(3)質量分離アパーチャ板での高いビーム電流密度によって、質量分離アパーチャへのスパッタ損傷が増大する。空間電荷の作用による静電反発力は、ビームを放射状に広げ(レフラー効果(Loeffler effect))、エネルギー拡散を広げる(ベルシュ効果(Boersch effect))。両効果ともワークピース表面でのビーム電流密度を低減させる傾向がある。
【0006】
中間のクロスオーバーがない集束イオンビームカラムでは、ビーム径が大きい。典型的な従来の質量フィルタのより小さい光学的アパーチャであれば、さらに多くの問題が生じる可能性がある。従来技術において大きな光学的アパーチャを有するE×B質量フィルタの例があるが、かかる従来の質量フィルタは他の欠点を持っている。大きな光学的アパーチャを有する従来の質量フィルタの一例が、「コリメートビームの集束イオンビームカラム用の色収差のない2段のステージを有するE×B質量フィルタ(Achromatic two-stage E x B mass filter for a focused ion beam column with collimated beam)」Teichert,J.、Tiunov,M.A.著,「Measurement Science and Technology」第4巻(1993年)第754〜763頁(図5〜8参照)に記載されている。この従来技術の質量フィルタでは(図5参照)、おおよそ電極の間隔の水平方向、及び垂直方向の寸法を有する光学的アパーチャにかけて比較的均一な電場を形成するために、静電電極(図5の物理的アパーチャの垂直方向の寸法)は、電極の間隔(図5の物理的アパーチャの水平方向の寸法)よりもずっと広い。すなわち、光学的アパーチャは略正方形であるが、物理的アパーチャは垂直方向においてかなり大きい寸法を持つ矩形である。物理的アパーチャの面積の大部分で円形ビームが使用可能であることから、矩形の物理アパーチャよりも正方形の物理的アパーチャの方がずっと好ましい。磁極(幅広の電極になる)は、相対的に遠く離す必要がある(図5の垂直方向)。磁極片の間隔(垂直の間隔)に対する磁極の幅(水平方向に測定)の高い比を実現するために、この従来技術のE×B設定では、物理的アパーチャの幅よりも数倍大きい磁極片の幅が必要となる(図5参照)。このことは、磁気回路を比較的非効率なものとしてしまい、物理的アパーチャにおいて十分な電場強度を達成するために永久磁石の強さ又は磁気コイルの励起を大幅に増すことが必要になる。この引用文献の第3節によれば、電極と磁極とを離す従来技術の設計手法を示唆しており、電極と磁極は両極とも導電体であり、いずれも電気的な抵抗を持たない。Teichert及びTiunovは、この従来技術の設計手法の制約の範囲内で、幅と間隔を調整することによって、E×Bフィルタの質量分離の特性を最適化することを検討している。
【0007】
Parker及びRobinsonらによる米国特許第4929839号「集束イオンビームカラム」によれば、二組の三重の静電レンズを備えた静電のFIBカラムが記載されており、4keV〜150keVのエネルギー範囲で基板上にイオンビームを集束することができる。このカラムは、E×Bウィーンフィルタ、及び静電ブランカを含む。最終レンズの下方の一つの静電八極子は、ビームを基板上で走査する。最終レンズの下方の大きな作動距離は、電荷の中和及び/又はイメージング又はSIMSのための二次イオンの収集のために、追加の光学素子を挿入することを可能にする。ウィーンフィルタでのビームエネルギーは比較的高く(30keV)、そのため質量分離によって誘導される色収差を低減することができる。中間のクロスオーバーが第1(上部)のレンズによってカラム内に形成される。このクロスオーバーは、通常、以下のウィーンフィルタのアパーチャの面に存在する。
【0008】
Parkerによる米国特許4789787号「ウィーンフィルタの設計」によれば、光学的アパーチャが物理的アパーチャの寸法のかなりの割合を占めるようなウィーンE×B質量フィルタあるいは速度フィルタが記載されている。かかる特許では、ウィーンフィルタを通過するイオンビームの方向に対してほぼ垂直な磁場を形成するためにフェライトの磁極片を使用することが記載されている。フェライトを流れる電流によって、磁極片に起因する影響を受けずに、電極片の間に均一な電場を形成することができる。二つのフェライトの磁極片は、各々、二つの電極片の両方と物理的及び電気的な接続端子で接続される。電極片は、ステンレス鋼、又はその他の非磁性の導電性材料で構成されてもよい。電場を形成するために電極の両端に印加される電圧は、電極片に接続するフェライトを通って流れる電流を生じさせる。二つの電極に印加される電圧とは独立してフェライトに電圧を供給するような個別の電気的な接続端子はない。この電流は、ウィーンフィルタにおける電気力線を真っすぐにする。このように上述のウィーンフィルタは、ウィーンフィルタの二つの電気極間の電場の向きに平行な二つのフェライトの磁極片中を流れる電流から発生する電場の囲い込みのプロセスを達成するように、電極片と磁極片との接続を有するものとして特徴付けられている。
【0009】
電極片に印加される電圧における小さな変動によって、電場の軸に沿ってビームを端から端まで導くことができる。この特許に記載されたウィーンフィルタは、磁場の軸に沿った偏向の電場を適用する機能を持たない。さらに、ビームを非点補正する四重極子の電場を適用する機能がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4929839号明細書
【特許文献2】米国特許第4789787号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、集束イオンビームシステムで使用するためのE×Bウィーン質量フィルタを改善して提供することである。
【0012】
本発明による好ましいE×Bフィルタは、磁場に対して平行な成分と垂直な成分の両方を有する調整可能な電場を提供する。この調整可能な電場によれば、大開口の光学的アパーチャを提供する際の物理的な電極の理想的でない設定を補償することができる。また、この調整可能な電場は、いくつかの実施形態において、X−Yビーム偏向の機能を提供することができ、これはビームアライメントとして使用可能である。また、この調整可能な電場は、いくつかの実施形態において、ビームの非点補正を提供することができ、これは質量フィルタによって引き起こされる一部の収差を補正するために使用可能である。
【0013】
上記は、以下の本発明の特徴と技術的利点を概説したものであり、以下に記載された本発明の詳細な説明をより良く理解するためのものである。その他の本発明の特徴及び利点については以下に説明する。当業者によれば、ここに開示された概念及び特定の実施形態は、本発明と同様の目的を達成するために、改良や他の構成に変形する基礎として容易に利用できるものと理解される。また、当業者は、かかる均等な構成についても、添付された特許請求の範囲に記載された発明の趣旨と範囲から逸脱しないものと理解する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、荷電粒子ビームのフィルタは、フィルタ内に第1の電場を形成する第1の電極の組みと、フィルタ内で電場に対して直交する磁場を形成する磁極の組みと、抵抗性の導電体の組みと、各抵抗性の導電体の両端の第2の電極の組みと、を備え、各第2の電極によって、対応する抵抗性の導電体を流れる電流が生じ、対応する抵抗性の導電体の両端に電位勾配が生じ、二つの抵抗性の導電体によってフィルタ内に第2の電場の向きが提供され、第2の電場は第1の電場の向きとは平行でない成分を有する。
【0015】
本発明の一態様では、抵抗性の導電体の組みは、磁極の組みを含む。
【0016】
本発明の一態様では、抵抗性の導電体の組みは、磁極に付着させた層の組みを含む。
【0017】
本発明の一態様では、抵抗性の導電体の組みは、磁極に絶縁層を介して付着させた層の組みを含む。
【0018】
本発明の一態様では、磁極の組みにおける各磁極は、第1の電極の組みにおける電極を超えて延びる。
【0019】
本発明の一態様では、非点補正又は偏向の電場がない場合、物理的アパーチャでの第1の電極の電場の向きに沿った各座標での電位と、磁極の内側表面上の各点での電位とが同一である。
【0020】
本発明の一態様では、第2の電場は、磁場に対して平行に向く双極子の電場である。
【0021】
本発明の一態様では、第2の電場は、四重極子の電場である。
【0022】
本発明の一態様によれば、集束イオンビームカラムは、イオン源と、イオン源からのイオンを受け取る第1のレンズと、上記の何れかによる質量フィルタと、質量フィルタを出射してワークピースの表面に向かうイオンを集束させる第2のレンズと、を備える。
【0023】
本発明の一態様では、イオン源がプラズマイオン源であるか、又は液体金属イオン源である。
【0024】
本発明の一態様では、集束イオンビームカラムは、第2の質量フィルタを備え、第2の質量フィルタが第1の質量フィルタからの色収差を補正する。
【0025】
本発明の一態様によれば、イオンのフィルタリング方法は、フィルタリング領域において第1の電場の発生源を準備し、フィルタリング領域において電場に直交する磁場の発生源を準備し、フィルタリング領域において磁場に平行な成分を有し、第1の電場とは独立して調整可能である第2の電場の発生源を準備し、フィルタリング領域を介して各種の質量電荷比を有するイオンを、異なる質量電荷比を有するイオン毎に分離するように指向させることを含む。
【0026】
本発明の一態様では、フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、磁場の発生源の一部である磁極片の両端に電流を供給することを含む。
【0027】
本発明の一態様では、フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、磁場の発生源の一部である磁極片に取付けられた抵抗性の導電体の両端に電流を供給することを含む。
【0028】
本発明の一態様では、本発明の一態様では、フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、イオンビームを偏向させる電場を準備することを含む。
【0029】
本発明の一態様では、フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、イオンビームの非点補正の四重極子の電場の一部を形成する第2の電場を準備する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明とその利点をより完全に理解するため、添付の図面と併せて以下の説明を参照されたい。
【図1】二つのレンズの間にウィーンE×B質量フィルタを含む集束イオンビーム(FIB)カラムの断面の概略図である。
【図2】ウィーンフィルタの概略図であり、質量フィルタを通過するイオンの一般的な進行方向に対する垂直な断面で示す。
【図3】二つのレンズの間に偏向と収差補正の二段のE×Bウィーン質量フィルタを含むカラムの断面の概略図である。
【図4】従来のウィーンフィルタの磁力線を示す図である。
【図5】従来のウィーンフィルタの電気力線を示す図である。
【図6】質量分離のみを実現する本発明の実施形態における磁力線を示す図である。
【図7】質量分離のみを実現する本発明の実施形態における電気力線を示す図である。
【図8】Y軸の偏向のみを実現する本発明の実施形態における電気力線を示す図である。
【図9】質量分離とY軸の偏向を実現する本発明の実施形態における電気力線を示す図である。
【図10】非点補正のみを実現する本発明の実施形態における電気力線を示す図である。
【図11】質量分離と非点補正を実現する本発明の実施形態における電気力線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態は、典型的な従来技術の質量フィルタと集束イオンビームシステムよりも一つ以上の利点を提供することができる。すべての実施形態ですべての利点が提供されるわけではない。本発明の一実施形態では、イオン種の質量電荷比に基づいてビーム中のイオン種を分離することができるE×B質量フィルタを提供する。本発明の一実施形態では、質量フィルタについて大開口の光学的アパーチャを提供する。本発明の一実施形態では、質量フィルタにおいて交差する電場と磁場によって誘導される非点収差の補正を提供する。本発明の一実施形態では、電場に平行な方向においてビームの静電偏向を提供する。本発明の一実施形態では、磁場に平行な方向においてビームの静電偏向を提供する。Teichert及びTiunovとは異なって、本発明では、極片の間隔が物理的アパーチャのサイズであるので、より効率的な磁気回路が可能である。極片の間隔が小さいことから、物理的アパーチャ内で均一な磁場に必要となる同一の間隔対幅の比を得るための極片の幅も小さくできる可能性がある。
【0032】
一実施形態では、磁極がフィルタ領域を超えて拡張され、磁極の両端部がフィルタ領域から離れるので、それによって、フィルタ領域ではより均一な磁場を形成できる。一実施形態では、磁極と電極の内側表面で定義される物理的アパーチャにおける電場は、磁極の両端(すなわち、基準のE×Bの電場方向に対して平行)に線形の電位の勾配が形成されることによって、さらに均一なものとすることができる。また、磁極上の線形の勾配の電位は、磁場に対して平行に、又はE×Bの電場に対して平行にビームを偏向させることができる。さらに、調整可能な電場は、非点補正に必要な四重極子の静電場を形成することも可能である。物理的アパーチャの片側の抵抗材料の両端に電圧が印加されることによって電位が生じ、それによって、抵抗材料の両端に電圧降下が生じる。抵抗材料は、典型的には、磁極又は磁極に取り付けられる材料である。調整可能な電場が物理的アパーチャの対向する両側にある二つの抵抗材料の両端に生じる。一方又は両方の抵抗材料の両端での電圧を調整することによって、フィルタ領域内の電場を調整することができる。
【0033】
図1は、集束イオンビーム(FIB)カラム104におけるウィーン(E×B)質量フィルタ102の側断面図であり、集束イオンビームカラムは基板表面112上にイオンビームを集束させるよう組み合わされた上部レンズ106及び下部レンズ108を含む。三つの異なるイオン種を含むイオン110は、粒子源の先端部114と引出電極(図示せず)との間に印加される電圧によって誘導されて粒子源の先端部114から放出されるように示されている。この粒子源の構造は、典型的には液体金属イオン源(LMIS)であるが、本発明では他の形式のイオン源を用いてもよい。次いで、イオン110は、上部のレンズ106によって平面120の質量分離アパーチャ122に集束される。ウィーンフィルタ102(図2で詳細に示す)は、静電場を形成する電極130と、二つの磁極132(一つのみ示す)とを含む。磁極132は、図1の紙面の前後に存在し、図1の紙面の後ろにある磁極132のみが示されている。コイルを流れる電流又は永久磁石によって、各磁極132の間に磁場を発生させることができる。ウィーンフィルタ102は、低質量イオン136及び高質量イオン138を軸から離すように偏向させ、中質量イオンを大きく偏向させない。そして、これらの中質量イオン140は、アパーチャ122を通過し、下部レンズ108によって基板表面112上に集束される。低質量イオン136は、同じビームエネルギーにおいて、高質量イオンより速度が大きい。電気力はすべてのイオン(同じ電荷を有する)に対して同一であるが、磁気力は速度に比例するので、高速な低質量イオン136は、低速な高質量イオン138よりも、磁場によってさらに大きく偏向する。したがって、低質量イオンは磁気力が作用する方向(左)へ偏向するが、高質量イオンは電気力が作用する方向(右)へ偏向する。中質量イオン140については、電気力と磁気力とが釣り合い(すなわち、反対方向に等しい大きさを有する)、真の力が作用しない。
【0034】
E×Bフィルタ102は、当技術分野でよく知られている原理に従って動作する。つまり、交差する電場及び磁場(一般的にはどちらも質量フィルタを通過するビーム方向に対して垂直である)は、ビーム中のイオンにビームの動きに対して横方向に反対向きの力を与える。これら二つの力の相対的な強さは、電場及び磁場の強さによって定められ、これらは電極130及び磁極132にエネルギーを与える電圧及び電流の供給量によって制御される。
【0035】
図1では、電場142は紙面において横向きである(左側の正の電極130から右側の負の電極130へ向かう方向を指し、したがって正イオンに電気力が作用すると右へ偏向する)。一方、磁場144は、紙面に垂直に向こうから手前に向かう(正イオンに作用する左への力を生じる)。イオン源114が異なる電荷対質量比で複数のイオン種を放出する場合、1種が偏向されずにE×B質量フィルタを通過するように電場142及び磁場144を設定することが可能である。図1では、この種は中質量イオン140に相当する。低質量イオン136と高質量イオン138は、図示のとおり、それぞれ、左側と右側に偏向する。中質量イオン140のみが質量分離アパーチャ122を通過し、次いで、下部レンズ108によって基板表面112上に集束される。E×B質量フィルタ102の上端と下端では、終端フィールドプレートが電場及び磁場を遮断し、それによって収差を低減する。イオンカラム104は、質量選択アパーチャ122の平面120におけるクロスオーバーを含むが、他の実施形態では、上方の先端部114又は下方の基板112のいずれかに仮想光源が配置され、クロスオーバーを含まなくてもよい。
【0036】
図2は、二つの静電電極130R、130Lを用いる質量フィルタ200の実施形態を示し、各電極は離れており、それぞれ電気的な接続端子を持つ。ビームの動きは、概ねZ軸(紙面に垂直)に沿うものと仮定される。第1電極130Rは、+X軸上のY軸(垂直な中心線)から距離LX1の位置に設けられ、電圧VAが印加される。第2電極片130Lは、−X軸上のY軸から距離LX1の位置に設けられ、電圧VCが印加される。静電電極の各面はYZ平面に平行に向けられる。VA及びVCの値は、諸条件で動作する標準的なウィーンフィルタに基づいて選択してよい(以下参照)。
【0037】
二つの磁極202U及び202Lがあり、それらの各面はXZ平面に平行となるように、+Y軸上の+LYの位置、及び−Y軸上の−LYの位置に設けられる。コイル及び/又は永久磁石によって、磁極202U及び202Lを励磁し、Y軸に平行な磁場を形成することができる。磁極202U及び202Lは、フェライト又はいくらか類似する抵抗性の磁性材料から製造され、典型的には抵抗率において106〜108Ω・cmの範囲である。上部(+Y軸)の磁極は、二つ電気的な接続端子を有し、一方は+X側端部(VB1)にあり、他方は−X型端部(VB2)にある。下部(−Y軸)の磁極も、二つの電気的な接続端子を有し、一方は+X側端部(VD1)にあり、他方は−X側端部(VD2)にある。
【0038】
[四つの動作モードの実施例の場合の極片の電圧]
以下に提示される四つの実施例は、本発明の質量フィルタ102における各種動作モードについて、VA、VC、VB1、VB2、VD1及びVD2の設定可能な電圧値を示す。
【0039】
[実施例1] 偏向又は非点補正がない場合の電圧設定
質量分離のみが求められ、ビームステアリング又は非点補正が必要ない場合、磁極に与えられる電圧は以下のとおり設定してよい。
VB1=VD1=(LX2/LX1)Vms
VB2=VD2=−(LX2/LX1)Vms
ここで、電極に与えられる電圧は以下のとおりである。
VA=Vms
VC=−Vms
Vmsの値は、質量分離のための電場の条件に基づいて選択される。かかる条件では、ビーム中の基板に向ける所望のイオン種に対して、イオンへの電気力及び磁気力が釣り合い、例えば、図1での中質量イオン140がレンズ108によって基板112上に集束する。
【0040】
この例において、ウィーンフィルタ全体の通常モードの電圧は0Vに設定される。イオン源とウィーンフィルタとの間の電圧の差が「Vaccel」である場合、1価のイオンエネルギーは、ウィーンフィルタを介して「e・Vaccel」となる。正イオンの場合、ウィーンフィルタのバイアス電圧に対して、イオン源に+Vaccelのバイアス電圧を印加する場合に相当する。なお、この検討では、ウィーンフィルタは必ずしも接地電位であるとは仮定されていない。上記の従来技術の米国特許第4929839号における実際のウィーンフィルタでは、イオン源の150kVとウィーンフィルタの30kVとの間の電位差をもって、接地電位に対して120kVに上げられている。
【0041】
なお、この第1の実施例では、軸上の静電電圧が0Vである。VB1とVB2の間の電圧降下は、磁極202Uの長さにわたって分布する。同様に、VD1とVD2の間の電圧降下は、磁極202Lにわたって分布する。VB1=VD1であり、VB2=VD2であるので、磁極202U及び202L上で同一のX座標を有する点は、同一の電位を有し、130Lと130Rの間のX軸上の同一の座標での電位も同じである。磁極202U及び202Lで規定される物理的アパーチャの二つの境界面に沿って変化する電位は静電電極130Lと130Rの間の空間で変化する電位に等しいため、電気力線は、物理的アパーチャ全体でX軸に平行のままであり、磁極202U及び202Lの内部にも広がる(図7参照)。
【0042】
[実施例2] Y軸方向への偏向があり非点補正がない場合の電圧設定
第2の実施例では、質量分離及びY軸偏向が求められ、磁極に与えられる電圧は以下のように設定してよい。
VB1=(LX2/LX1)Vms+VY
VB2=−(LX2/LX1)Vms+VY
VD1=(LX2/LX1)Vms−VY
VD2=−(LX2/LX1)Vms−VY
ここで、電極に与えられる電圧は第1の実施例と同様に以下のとおりである。
VA=Vms
VC=−Vms
この例において、ウィーンフィルタ200の通常モードの電圧は0Vに設定される。二つの磁極に印加される+−VY電圧によってY軸の静電偏向場が一つ形成される。重ね合わせによれば、Vmsに比例する(水平方向)の電場の作用は、VYに比例する(垂直方向)の電場の偏向の作用とは別々に検討できる。質量フィルタを通過するように選択された質量数のイオン種、例えば、図1の中質量イオン140の場合、(水平の)電場142(上記の方程式中のVB1、VB2、VD1及び上記VD2のはじめの用語)に起因する中質量イオン140に作用する力はX軸に沿って反対方向に向かう磁気力によって打ち消されるので、中質量イオン140に作用する真の力は+−VY電圧によって誘導されるY軸(垂直)の電場に起因する一方向である。垂直方向の静電気力は、質量分離の軸(X軸)に垂直であるので、したがって、+−VY電圧によって誘導される垂直の電場は、質量フィルタ200の質量選択動作を妨げないと考えられる。
【0043】
[実施例3] 非点補正があり偏向がない場合の電圧設定
第3の実施例では、質量分離及び非点補正が求められる。磁極への電圧は以下のとおり設定してよい。
VB1=(LX2/LX1)Vms−(LY/LX1)2Vstig
VB2=−(LX2/LX1)Vms−(LY/LX1)2Vstig
VD1=(LX2/LX1)Vms−(LY/LX1)2Vstig
VD2=−(LX2/LX1)Vms−(LY/LX1)2Vstig
ここで、電極に与えられる電圧は以下のとおりである。
VA=Vms+Vstig
VC=−Vms+Vstig
第1及び第2の実施例の場合と同様に、Vmsは質量分離のために必要な電極電圧である。この実施例では、ウィーンフィルタ全体の通常モード電圧は、0Vに設定される。非点補正の四重極子の静電場は、静電極及び磁極に印加され、Vstigに比例する電圧によって形成される。なお、電極(間隔2LX)と磁極(間隔2LY)との異なる間隔を補償するために、磁極に作用する電圧には係数(LY/LX1)2が用いられる。VB1、VB2、VD1及びVD2の方程式で非点補正の条件の乗数が「2」となるのは、ビームの非点補正に用いられる四重極子の電圧が軸からの距離の二乗にしたがって増加し、上記の第2の実施例における双極子のY軸方向への偏向のとおり線形でないからである。Vstigの値は、非点収差の極性に応じて、正又は負のいずれかである。
【0044】
[実施例4] 質量分離、X−Y偏向及び非点補正のある包括的な場合
第4の実施例では、質量分離、XY偏向及び非点補正のすべてが同時に求められ、磁極に与えられる電圧は以下のように設定される。
VB1=(LX2/LX1)(Vms+VX)+VY−(LY/LX1)2Vstig
VB2=(LX2/LX1)(−Vms-VX)+VY−(LY/LX1)2Vstig
VD1=(LX2/LX1)(Vms+VX)−VY−(LY/LX1)2Vstig
VD2=(LX2/LX1)(−Vms−VX)−VY−(LY/LX1)2Vstig
ここで、電極に与えられる電圧は以下のとおりである。
VA=Vms+VX+Vstig
VC=−Vms−VX+Vstig
この最も包括的な場合では、電圧は以下のとおり定義される。
Vms=適切な質量分離に求められる電圧
VX=X軸偏向の電圧(質量分離の軸に対して平行)
VY=Y軸偏向の電圧(質量分離の軸に対して垂直)
【0045】
[従来のE×B質量フィルタにおける磁場及び電場]
図4は、従来技術におけるウィーン質量フィルタ400内の磁力線406、408及び410の例である。磁場は、上部(北)極412と下側(南)極414との間に生じる。電極402及び404が非磁性材料で製造されているとすると、図示されたように、磁力線410は、固定された電極402及び404を介して広がる。垂直方向の中心線に沿って、磁力線406は、適切な指向方向を有する(すなわち、(完全に垂直な)Y軸に正確に沿ったものとなる)。X軸に平行な磁極412と414との幅が狭いため、E×B質量フィルタの物理的アパーチャ内での磁力線408は、中心線から離れるにしたがって、外側に膨らむように観察できる。この膨らみは、磁場によってB≠0の位置での空間で積分されたB2に比例する蓄積された合計のエネルギーが低減する傾向があることから生じる。軸からもっと離れると、磁力線410の場合のように、この膨らみはさらに顕著になる。図4から、磁場の磁力線408が適切なE×B質量分離の基準を満たしていないことが明らかである。すなわち、局所的な磁場の磁力線は、局所的な電場の電気力線(図5参照)に対して垂直ではない。
【0046】
図5は、図4に示した従来のウィーン質量フィルタ400における電気力線506、508及び510の例である。正の電圧が電極402に印加され、負の電圧が電極404に印加される。これによって、図示のとおり、図の左側へ向かう水平な電場が生じる。磁極412及び414には両方とも、質量フィルタ400上の通常モードの0Vに対応して、0Vのバイアスが印加される。X軸に沿って、電気力線506は、完全に水平である。図4との比較では、その結果として、X軸に沿って一つのE×Bの動作基準が満たされていることを示す。つまり、電場が完全に水平であり、磁場(図4参照)も完全に垂直であって、各場は直交する。E×B質量フィルタがY軸に対して左右対称性を有するので、Y軸に沿うところでは、電気力線は水平である。したがって、Y軸に沿うところでは直交性の基準も満たされる。追加の問題として、所望のイオン種を偏向させずに通過させる電気力と磁気力との適当な打ち消しのために、電場と磁場の大きさが適当な比を有することが必要となる。このため、二つの場の間にさらに直交性が求められるのである。磁場の場合と同様に、電場は、電場においてE≠0の空間にかけて積分されたE2に比例する合計の蓄積エネルギーが低減するために外側に向かって膨む傾向を示す。磁場及び電場が膨らむことから、図4及び図5の比較によって、磁場についてはY軸に沿って中心(X軸とY軸の交線)で最も弱く、磁極412及び414に向かって増加することが分かる。電場についてはX軸に沿って同じ振る舞いを示す。つまり、中心で最も弱く、電極402及び404に向かって増加する。このように、電場及び磁場がE×Bの直交性の条件を満たすX軸及びY軸にあっても、各場の強さは適切なE×B動作のための基準に反して変化する。最も外側の電気力線510は、図示されたように、磁極412及び414に「短絡」する。質量フィルタを通過するイオンビームについては電気力線510ほど軸から大きく外れないので、このことは大きな問題ではない。
【0047】
[E×B質量分離のための電場及び磁場の基準]
本発明のいくつかの実施形態では、適切なE×B質量分離のための二つの基準を満たし、上記の問題を改善するための構造を提供する。
(1)電場及び磁場は直交し、電場がX軸に平行に向けられ、かつ磁場がY軸に平行に向けられるものでなければならない。
(2)電場及び磁場は、同一の質量電荷比のイオンに適用される磁気力によって電気力を取り消すために、すべての点で同一の強度比B/Eを有するものでなければならない。
【0048】
適切な質量フィルタリング(すなわち、いずれにおいても同一の質量電荷比のために力が打ち消される)によって質量フィルタを通過するイオンを最大とする場合、可能な限り大開口のアパーチャで、これらの二つの基準を満たすことが必要である。図6及び7は、本発明の磁場及び電場を示すものであり、各々、従来技術の図4及び5に対応する。
【0049】
[実施例1の電場 質量分離のみ]
図6は、上記の第1の実施例に従う本発明の一形態600の場合の磁力線606、608及び610の例である。上部(北)磁極612と下部(南)磁極614は、E×B質量フィルタの物理的アパーチャに比較してずっと幅広いものであることが分かる。ここで、「物理的アパーチャ」とは、電極604と電極606と磁極612と磁極614との四つの内面で囲まれた質量フィルタを介する物理的な開口部として定義される。本発明において磁極をより幅広く形成する理由が図7に示される。幅広い磁極612及び614のため、物理的アパーチャの端部付近の磁力線608は、中央のB場の線606と同様にY軸に平行である。図7との比較によれば、E×Bの垂直性の基準は、物理的アパーチャの大部分にかけて満足されることを示す。磁力線610では磁場の膨らみが依然として発生するが、この膨らみは物理的アパーチャの外側にあるため、質量フィルタ600の動作に影響を与えない。第1から第4のすべての実施例で、磁場の分布は図6のとおりである。
【0050】
図7は、図6に示した本発明の一形態600における電気力線706及び708の例である。電圧VA(本例では正で示される。図2参照)が電気的な接続端子644を介して電極602に印加され、電圧VC(負で示される)が電気的な接続端子648を介して電極604に印加される。電圧VAとVCとの間の電位差は、図の左側に向かう全体的に水平な電場を形成する。図2で説明したとおり、磁極612及び614は、電気抵抗材料から製造されている。電圧VB1(図2参照)が電気的な接続端子654を介して磁極612の右端部652に印加される。同様に、電圧VB2、VD1及びVD2が、それぞれ、電気的な接続端子658、664及び668を介して磁極612及び614の端部656、662及び666に印加される。VB1とVB2との間の電位差は、磁極612を介して水平方向の電流710を生成する。磁極612は抵抗性であるので、オームの法則によって、磁極612の内側の両端に線形の電圧勾配を生成する。VD1とVD2との間の電位差に起因して、抵抗性の磁極614にも同様の考察が当てはまる。図6及び図7は上記の第1の実施例を適用したものであり、質量分離に必要な電場に追加される、XY偏向の双極子又は非点補正の四重極子の電場は存在しない。
【0051】
[第2の実施例の場合の電場 質量分離及びY軸偏向]
図8及び図9は、上記の本発明の第2の実施例のE×B質量フィルタ内に、Y軸ビーム偏向のために追加する双極子の電場の作用を示したものである。図8では、Y軸偏向の双極子の場を発生させるために追加された電場及び電圧の極性のみを示す。上記の第2の実施例で説明したように、電場の重ね合わせによれば、この追加されるY軸の双極子の電場の作用は、E×B質量フィルタの質量分離の動作に必要なX軸の電場の作用とは切り離して検討することができる。Y軸上では、電場806はY軸に平行となり、完全に垂直なビームの偏向を与える。軸から離れると、導電性の電極602及び604の作用に起因して、電場の電気力線808は図示したようにやや膨らむ。したがって、所望する完全なY軸偏向からは小さな偏りが生じる。適切な偏向電場を形成するため、電圧+VYが電気的な接続端子654及び658を介してそれぞれ磁極612の両端652及び656に印加され、かつ、電圧−VYが電気的な接続端子664及び668を介してそれぞれ磁極614の両端662及び666に印加される(上記の第2の実施例の数式参照)。Y軸の双極子の電場を形成するのみの場合(すなわち、E×BのX軸の電場を無視する場合)、電極602及び604上の電圧は0Vであってよく、電気的な接続端子644及び648を介してそれぞれ印加される。
【0052】
図9は、図7のX軸のE×Bの電場と図8のY軸の偏向双極子の電場との重ね合わせを示す。この例の電場の組み合わせはX成分とY成分との両方を含み、これによって電場は図示されたように下方に傾いて左方向に向かう結果となる。本発明の電極の動作の正確なコンピュータモデリングによれば、E×Bの動作に必要なX軸の電場よりもY軸の電場が小さい場合、十分に均一な電場を実現することができることが示されている。すなわち、物理的アパーチャにかけてY軸偏向は十分に均一とすることができ、質量分離のための適切なX軸の電場はY軸の電場の追加によってほとんど影響を受けない。したがって、中央の電場の電気力線906と、外側の電気力線908、912とは、X軸に対してほぼ同じ角度を有する。追加されたY軸の双極子の電場を用いると、外側の電気力線908は抵抗性の磁極614上の910で終わることがある。他方の外側の電気力線912は、抵抗性の磁極612上の914で始まることがある。
【0053】
[第3の実施例の場合の電場 質量分離及び非点補正]
図10及び図11は、上記の本発明の第3の実施例のE×B質量フィルタ内でのビームの非点補正のために追加する四重極子の電場の作用を示したものである。図10は、非点補正の四重極子の電場を発生させるために追加された電場及び電圧の極性のみを示す。第3の実施例で説明したように、電場の重ね合わせによれば、この追加された四重極子の電場の作用は、E×B質量フィルタの質量分離の動作に必要なX軸の電場の作用とは切り離して検討することができる。
【0054】
この適切な四重極子の電場を形成するため、電圧−(LY/LX1)2Vstigが、電気的な接続端子654及び658を介して、それぞれ、磁極612の両端652及び656に印加され、かつ、同じ電圧−(LY/LX1)2Vstigが、電気的な接続端子664及び668を介して、それぞれ、磁極614の両端662及び666に印加される(上記の第3の実施例の数式参照)。四重極子の電場を形成するのみの場合(すなわち、E×BのX軸の電場を無視する場合)、電極602及び604の電圧は両方とも+Vstigであって、それぞれ電気的な接続端子644及び648を介して印加される。
【0055】
図11は、図7のX軸のE×Bの電場と図10の非点補正の四重極子の電場との重ね合わせを示す。電気力線1106、1108及び1110で示される組み合わされた電場は、電極602から現れ、やや弱くなって電極604に入る。これは図10における電場の向きの観察から直感的に理解しやすい。一部の外側の電気力線1110は、抵抗性の磁極612及び614上で終わり、これもまた図10から直感的に理解しやすい。ほとんどの電気力線は、依然として図7のように電極602、604上で、始まり、終わる。したがって、四重極子の電場強度は、E×B動作に必要なX軸の双極子の電場より大幅に低いものと推測される。
【0056】
磁極612と614との間の典型的な磁場強度は、3000〜6000ガウスの範囲でよく、さらに好ましくは4000〜5000ガウスの範囲である。電極602及び604に印加される典型的な電圧(VA及びVC)は、1000〜5000Vの範囲でよく、さらに好ましくは2000〜3500Vの範囲である。磁極612及び磁極614の両端に印加される典型的な電圧は、図2での式2に従って、電圧VA及びVCに比例して設定される。電極602と604とのX軸に平行な間隔は5〜20mmの範囲でよく、さらに好ましくは10〜15mmの範囲である。磁極612と614とのY軸に平行な間隔は5〜20mmの範囲でよく、さらに好ましくは10〜15mmの範囲である。軸方向の長さ(すなわち、Z軸について平行な電極と磁極の長さ)は、15〜80mmの範囲でよく、さらに好ましくは25〜40mmである。
【0057】
[本発明の一実施形態での集束イオンビームカラム]
図3は、本発明の二つのE×B質量フィルタを含むウィーン質量フィルタ304を備えたイオンカラム302を示し、上部E×Bフィルタ306U及び下部E×Bフィルタ306Lは、両方とも図1及び図2のように構成されたものである。このようなシステムは、ビームから中性物質を取り除く収差補正のウィーンE×B質量フィルタとして記述され、出願される。イオン370は、液体金属イオン源(LMIS)の先端部314から放出される。ただし、LMISイオン源は例示の目的のためのみにここに示されているのであって、本発明では、代わりに、他の種類のイオン源、例えば、誘導結合型プラズマ(ICP)イオン源も使用することができる。次いで、イオン370は、上部レンズ306によって平行又は略平行に集束され、ビーム310を形成する。完全に平行なビーム310では、ビーム310内の各イオンの軌跡は、光軸380に沿ってマイナス方向の無限遠方に置かれた仮想光源(図示せず)から外挿されたものと仮定してよい。「略平行」なビームは、マイナス方向の無限遠方に仮想光源が必要とされないビームであるが、外挿されたイオンの軌跡は、イオン源の先端部(上部又は下部)からイオンカラム302の全長に対して少なくとも数倍の位置で光軸380と交差する。上部E×Bフィルタ306Uは、電極314U、終端フィールドプレート316U、及び二つの磁極318U(一つのみ図示)を有する磁場の発生源を含む。電極314Uは、図の平面において電場を形成し、これは矢印320Uによって示される(左側の正の電極314Uから右側の負の電極314Uを指し示し、したがって、正のイオンに作用する電気力は右方向になる)。磁場の発生源は、紙面から手前に向かう磁場を形成し、これは丸印322Uで示される(正イオンに対して左側に向う磁気力を形成する)。下部E×Bフィルタ306Lは、電極314L、終端フィールドプレート316L、及び、二つの磁極318L(一つのみ図示)を有する磁場の発生源を含む。上部及び下部のE×Bの各場は、図3に示すように設定される。電極314Lは、紙面において矢印320Lによって示される電場を形成し、上部E×Bフィルタ306Uの電場320Uと大きさが等しく、方向が反対である。下部E×Bフィルタ306Lの磁場の発生源は、バツ印322Lによって示されるような紙面の向こう側に進む磁場を形成し、上部E×Bフィルタ306Uの磁場322Uと方向が反対で大きさが等しい。下部E×Bフィルタ306Lは、上部E×Bフィルタ306Uと対称であり、通常、同一の構造を有し、方向が反対で大きさが等しい電場及び磁場を形成する。
【0058】
イオン310は図示のように四つの異なるイオン種を含む。すなわち、低質量イオン330、中低質量イオン332、中高質量イオン334、及び高質量イオン336である。低質量イオン330、中高質量イオン334、及び高質量イオン336は、質量分離アパーチャ板340に衝突し、アパーチャ342を通過して下部レンズ308に到達しない。中低質量イオン332は、図示のように、上部E×Bフィルタ306Uと下部E×Bフィルタ306Lの両方を通過する。次いで、イオン332は、質量分離アパーチャ342を通過し、下部レンズ308によって基板表面312上に集束される。従来技術では、E×Bフィルタは、一般的には偏向を伴わないで、所望のイオン(本例では中低質量)を通過させるように調整される。図3の実施形態では、所望のイオンは偏向されてアパーチャ342を通過し、一部の望ましくないイオン(本例では、中高質量334)は、中性粒子346とともに、偏向されないでアパーチャ板340に衝突する。他の望ましくないイオンは、磁場によって大きく偏向されるか(例えば、低質量330)、あるいは小さく偏向されて(例えば、高質量336)、アパーチャ342を通過することができない。
【0059】
中性粒子346は、E×B質量フィルタ304の電場及び磁場によって偏向されず、このため、真っすぐ通過し、アパーチャ板340の孔342(E×Bフィルタ304の出口の軸を規定する)がE×Bフィルタ304の入射軸380から変位量326だけずらして設けられているので、質量分離アパーチャ板340に衝突する。図3の概略図では、レンズ306によって偏向されない中性粒子について、基板312への経路が存在しないことが明確にはなっていないが、当業者であれば、実際のシステムの幾何構造において、上部E×Bフィルタ306Uへの入り口側のアパーチャ、及び/又は、カラムにおける質量フィルタ304の下方のいずれかのアパーチャのような経路を、様々な手段によって排除することが可能である。
【0060】
質量フィルタは、上記では集束イオンビーム(FIB)カラムに使用されるように説明されているが、質量フィルタは、電子(この場合E×Bフィルタはビーム310中の電子のエネルギー拡散を低減するようなモノクロメーターとして使用することができる)、及び帯電した粒子のクラスタを含む、いずれの荷電粒子ビームを使用することもできる。
【0061】
上記の説明では、抵抗材料、例えば、極片612及び614を、磁極片として述べたが、他の実施形態では、電気的な抵抗材料を磁極片612及び614の表面に付着させてもよい。さらに別の実施形態では、抵抗材料は、極片612及び614の表面に絶縁層を介して付着させてもよい。これら二つの代替の実施形態では、図2で説明したように、電気的な接続端子654、658、664及び668などを抵抗材料の両端に接続して、電圧VB1、VB2、VD1及びVD2を供給してもよい。
【0062】
「物理的アパーチャ」の代わりの用語として、「フィルタリング領域」があり、質量フィルタリングのプロセスが物理的アパーチャ内で生じることを強調するものである。E×Bフィルタはここでは質量フィルタとして特徴付けられているが、磁気力が速度に比例し、電気力が速度とは無関係であることから、電気力と磁気力の均衡をとるためのE×Bの条件は、速度フィルタリングの機能である。したがって、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、あるいは走査透過型電子顕微鏡(STEM)などにおける電子ビームカラムへの適用では、本発明のE×Bフィルタは、電子ビームカラム内での電子のエネルギー範囲を絞るための速度フィルタとして用いることができる。
【0063】
本発明及びその利点について詳細に説明したが、ここに記載された実施形態に対しては、添付された特許請求の範囲により定められる本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更、置換及び修正が可能であると理解されるべきである。さらに、本出願の範囲については、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法及びステップの特定の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、本発明、プロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法又はステップの開示によって、既存の技術、又は本明細書に記載された実施形態に対応し、実質的に同じ機能を果たしたり、実質的に同じ効果を奏したりする将来技術についても、本発明に従って利用可能であると容易に理解することができる。したがって、添付された特許請求の範囲は、上記のようなプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法及びステップをその範囲に含むものである。
【符号の説明】
【0064】
102 ウィーン質量フィルタ
104 イオンカラム
130 電極
132 磁極
142 電場
144 磁場
【背景技術】
【0001】
いくつかの集束イオンビーム(FIB)カラムは、複数のイオン種を放出するイオン源を使用するように設計されている。基板上に集束されるビームについて、これらのイオン種のうち一つだけを選択するため、FIBカラムは一般的には質量フィルタを含む。質量フィルタの一種である「ウィーンフィルタ」は、交差する電場と磁場(E×B)を用い、不要なイオン種を軸外に偏向させて、不要なイオン種を質量分離アパーチャに衝突させる。「ウィーンフィルタ」は「E×Bフィルタ」とも呼ばれる。電場と磁場の相対的な強さは、所望のイオン種が偏向せずに質量分離アパーチャを通過するように設定され、かかるイオン種は、質量フィルタを通過した後、最終的には基板表面上に集束する。
【0002】
イオンは、ウィーンフィルタの「物理的アパーチャ」内を通過する。これは電極と磁極の面で囲まれた領域である。理想的には、磁場と電場は、電極と磁極によって囲まれたフィルタ全体の空間において相互に直交するものである。電場及び磁場は各極の端の方では歪み、フィルタ領域の中心の方のみで、理想的な垂直の向きに近づき、かつ、正確な正しい磁場と電場の強度比B/Eに近づくので、「光学的」アパーチャ(すなわち、質量分離が可能である範囲内のアパーチャ)は、質量フィルタ内のビーム径よりは大きいが、物理的アパーチャよりはずっと小さなものとなることが多い。磁極及び電極は、各極の端部がフィルタ領域から離れるように、両端方向へビーム軸から十分に離れて物理的アパーチャを越えて外側に延びることが好ましい。これによれば、物理的アパーチャ内での電場及び磁場をもっと均一にすることができ、実際に受け入れできるアパーチャを引き延ばす。しかしながら、電極と磁極とが物理的に相互に干渉してしまうので、このことは不可能である。
【0003】
粒子源と基板との間の中間にクロスオーバーを有する集束イオンビームカラムでは、そのビーム径が比較的小さいので、小さな光学的アパーチャでも許容できることがある。多くの集束イオンビーム(FIB)カラムは、通常、FIBカラム内の複数のレンズの間に、一つ以上のクロスオーバーを含む。クロスオーバーによれば、カラムにおいてクロスオーバーなしで達成可能である場合よりも、粒子源とターゲットとの間の倍率範囲をより広くすることが可能となる。質量フィルタを通過した後、ビームをクロスオーバーするように集束させる場合、ほぼ同一の平面全体において多様なクロスオーバーが生じる可能性があり、そこでは、各クロスオーバーはビーム中で異なる質量電荷比に対応するものとなる。例えば、シリコン−金の合金の液体金属イオン源(LMIS)では、典型的には、1価及び2価に帯電したシリコン及び金の単原子イオン、並びに、1価又は多価に帯電したシリコン及び/又は金の多原子イオンによる複数のクロスオーバーが生じることがある。
【0004】
十分に小さいアパーチャの開口部(一般的にクロスオーバーの直径よりも大きい)を有する質量フィルタアパーチャがこれらのクロスオーバーの面に配置された場合、これらのイオン種のただ一つのみが、アパーチャを通過して、次いでターゲット上で集束される。一方、他のすべてのイオン種はアパーチャ板に衝突し、そのため、FIBカラムの下部へ向かうことが阻止される。クロスオーバーを持つと、クロスオーバーなしの場合に比べて、各種のイオン種を完全に分離する際に、質量フィルタで僅かに分散させるだけで足りるという利点がある。質量フィルタアパーチャでのクロスオーバーは、質量フィルタの下方のプローブ成形光学系の仮想光源として機能する。しかしながら、イオンビームでの避けられないエネルギー拡散によって、質量散乱の軸に沿ってクロスオーバーにぼけが生じ、その結果、ターゲット上での集束ビームにぼけが生じる可能性がある。
【0005】
クロスオーバーにも欠点がある。(1)クロスオーバーそれ自体によって各粒子が相互に接近するにつれて、静電反発力が増大する。(2)ビームは、クロスオーバーに起因して、カラム全体にかけて一般的に小さいものとなり、空間電荷の反発力が増大する。(3)質量分離アパーチャ板での高いビーム電流密度によって、質量分離アパーチャへのスパッタ損傷が増大する。空間電荷の作用による静電反発力は、ビームを放射状に広げ(レフラー効果(Loeffler effect))、エネルギー拡散を広げる(ベルシュ効果(Boersch effect))。両効果ともワークピース表面でのビーム電流密度を低減させる傾向がある。
【0006】
中間のクロスオーバーがない集束イオンビームカラムでは、ビーム径が大きい。典型的な従来の質量フィルタのより小さい光学的アパーチャであれば、さらに多くの問題が生じる可能性がある。従来技術において大きな光学的アパーチャを有するE×B質量フィルタの例があるが、かかる従来の質量フィルタは他の欠点を持っている。大きな光学的アパーチャを有する従来の質量フィルタの一例が、「コリメートビームの集束イオンビームカラム用の色収差のない2段のステージを有するE×B質量フィルタ(Achromatic two-stage E x B mass filter for a focused ion beam column with collimated beam)」Teichert,J.、Tiunov,M.A.著,「Measurement Science and Technology」第4巻(1993年)第754〜763頁(図5〜8参照)に記載されている。この従来技術の質量フィルタでは(図5参照)、おおよそ電極の間隔の水平方向、及び垂直方向の寸法を有する光学的アパーチャにかけて比較的均一な電場を形成するために、静電電極(図5の物理的アパーチャの垂直方向の寸法)は、電極の間隔(図5の物理的アパーチャの水平方向の寸法)よりもずっと広い。すなわち、光学的アパーチャは略正方形であるが、物理的アパーチャは垂直方向においてかなり大きい寸法を持つ矩形である。物理的アパーチャの面積の大部分で円形ビームが使用可能であることから、矩形の物理アパーチャよりも正方形の物理的アパーチャの方がずっと好ましい。磁極(幅広の電極になる)は、相対的に遠く離す必要がある(図5の垂直方向)。磁極片の間隔(垂直の間隔)に対する磁極の幅(水平方向に測定)の高い比を実現するために、この従来技術のE×B設定では、物理的アパーチャの幅よりも数倍大きい磁極片の幅が必要となる(図5参照)。このことは、磁気回路を比較的非効率なものとしてしまい、物理的アパーチャにおいて十分な電場強度を達成するために永久磁石の強さ又は磁気コイルの励起を大幅に増すことが必要になる。この引用文献の第3節によれば、電極と磁極とを離す従来技術の設計手法を示唆しており、電極と磁極は両極とも導電体であり、いずれも電気的な抵抗を持たない。Teichert及びTiunovは、この従来技術の設計手法の制約の範囲内で、幅と間隔を調整することによって、E×Bフィルタの質量分離の特性を最適化することを検討している。
【0007】
Parker及びRobinsonらによる米国特許第4929839号「集束イオンビームカラム」によれば、二組の三重の静電レンズを備えた静電のFIBカラムが記載されており、4keV〜150keVのエネルギー範囲で基板上にイオンビームを集束することができる。このカラムは、E×Bウィーンフィルタ、及び静電ブランカを含む。最終レンズの下方の一つの静電八極子は、ビームを基板上で走査する。最終レンズの下方の大きな作動距離は、電荷の中和及び/又はイメージング又はSIMSのための二次イオンの収集のために、追加の光学素子を挿入することを可能にする。ウィーンフィルタでのビームエネルギーは比較的高く(30keV)、そのため質量分離によって誘導される色収差を低減することができる。中間のクロスオーバーが第1(上部)のレンズによってカラム内に形成される。このクロスオーバーは、通常、以下のウィーンフィルタのアパーチャの面に存在する。
【0008】
Parkerによる米国特許4789787号「ウィーンフィルタの設計」によれば、光学的アパーチャが物理的アパーチャの寸法のかなりの割合を占めるようなウィーンE×B質量フィルタあるいは速度フィルタが記載されている。かかる特許では、ウィーンフィルタを通過するイオンビームの方向に対してほぼ垂直な磁場を形成するためにフェライトの磁極片を使用することが記載されている。フェライトを流れる電流によって、磁極片に起因する影響を受けずに、電極片の間に均一な電場を形成することができる。二つのフェライトの磁極片は、各々、二つの電極片の両方と物理的及び電気的な接続端子で接続される。電極片は、ステンレス鋼、又はその他の非磁性の導電性材料で構成されてもよい。電場を形成するために電極の両端に印加される電圧は、電極片に接続するフェライトを通って流れる電流を生じさせる。二つの電極に印加される電圧とは独立してフェライトに電圧を供給するような個別の電気的な接続端子はない。この電流は、ウィーンフィルタにおける電気力線を真っすぐにする。このように上述のウィーンフィルタは、ウィーンフィルタの二つの電気極間の電場の向きに平行な二つのフェライトの磁極片中を流れる電流から発生する電場の囲い込みのプロセスを達成するように、電極片と磁極片との接続を有するものとして特徴付けられている。
【0009】
電極片に印加される電圧における小さな変動によって、電場の軸に沿ってビームを端から端まで導くことができる。この特許に記載されたウィーンフィルタは、磁場の軸に沿った偏向の電場を適用する機能を持たない。さらに、ビームを非点補正する四重極子の電場を適用する機能がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第4929839号明細書
【特許文献2】米国特許第4789787号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、集束イオンビームシステムで使用するためのE×Bウィーン質量フィルタを改善して提供することである。
【0012】
本発明による好ましいE×Bフィルタは、磁場に対して平行な成分と垂直な成分の両方を有する調整可能な電場を提供する。この調整可能な電場によれば、大開口の光学的アパーチャを提供する際の物理的な電極の理想的でない設定を補償することができる。また、この調整可能な電場は、いくつかの実施形態において、X−Yビーム偏向の機能を提供することができ、これはビームアライメントとして使用可能である。また、この調整可能な電場は、いくつかの実施形態において、ビームの非点補正を提供することができ、これは質量フィルタによって引き起こされる一部の収差を補正するために使用可能である。
【0013】
上記は、以下の本発明の特徴と技術的利点を概説したものであり、以下に記載された本発明の詳細な説明をより良く理解するためのものである。その他の本発明の特徴及び利点については以下に説明する。当業者によれば、ここに開示された概念及び特定の実施形態は、本発明と同様の目的を達成するために、改良や他の構成に変形する基礎として容易に利用できるものと理解される。また、当業者は、かかる均等な構成についても、添付された特許請求の範囲に記載された発明の趣旨と範囲から逸脱しないものと理解する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、荷電粒子ビームのフィルタは、フィルタ内に第1の電場を形成する第1の電極の組みと、フィルタ内で電場に対して直交する磁場を形成する磁極の組みと、抵抗性の導電体の組みと、各抵抗性の導電体の両端の第2の電極の組みと、を備え、各第2の電極によって、対応する抵抗性の導電体を流れる電流が生じ、対応する抵抗性の導電体の両端に電位勾配が生じ、二つの抵抗性の導電体によってフィルタ内に第2の電場の向きが提供され、第2の電場は第1の電場の向きとは平行でない成分を有する。
【0015】
本発明の一態様では、抵抗性の導電体の組みは、磁極の組みを含む。
【0016】
本発明の一態様では、抵抗性の導電体の組みは、磁極に付着させた層の組みを含む。
【0017】
本発明の一態様では、抵抗性の導電体の組みは、磁極に絶縁層を介して付着させた層の組みを含む。
【0018】
本発明の一態様では、磁極の組みにおける各磁極は、第1の電極の組みにおける電極を超えて延びる。
【0019】
本発明の一態様では、非点補正又は偏向の電場がない場合、物理的アパーチャでの第1の電極の電場の向きに沿った各座標での電位と、磁極の内側表面上の各点での電位とが同一である。
【0020】
本発明の一態様では、第2の電場は、磁場に対して平行に向く双極子の電場である。
【0021】
本発明の一態様では、第2の電場は、四重極子の電場である。
【0022】
本発明の一態様によれば、集束イオンビームカラムは、イオン源と、イオン源からのイオンを受け取る第1のレンズと、上記の何れかによる質量フィルタと、質量フィルタを出射してワークピースの表面に向かうイオンを集束させる第2のレンズと、を備える。
【0023】
本発明の一態様では、イオン源がプラズマイオン源であるか、又は液体金属イオン源である。
【0024】
本発明の一態様では、集束イオンビームカラムは、第2の質量フィルタを備え、第2の質量フィルタが第1の質量フィルタからの色収差を補正する。
【0025】
本発明の一態様によれば、イオンのフィルタリング方法は、フィルタリング領域において第1の電場の発生源を準備し、フィルタリング領域において電場に直交する磁場の発生源を準備し、フィルタリング領域において磁場に平行な成分を有し、第1の電場とは独立して調整可能である第2の電場の発生源を準備し、フィルタリング領域を介して各種の質量電荷比を有するイオンを、異なる質量電荷比を有するイオン毎に分離するように指向させることを含む。
【0026】
本発明の一態様では、フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、磁場の発生源の一部である磁極片の両端に電流を供給することを含む。
【0027】
本発明の一態様では、フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、磁場の発生源の一部である磁極片に取付けられた抵抗性の導電体の両端に電流を供給することを含む。
【0028】
本発明の一態様では、本発明の一態様では、フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、イオンビームを偏向させる電場を準備することを含む。
【0029】
本発明の一態様では、フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、イオンビームの非点補正の四重極子の電場の一部を形成する第2の電場を準備する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明とその利点をより完全に理解するため、添付の図面と併せて以下の説明を参照されたい。
【図1】二つのレンズの間にウィーンE×B質量フィルタを含む集束イオンビーム(FIB)カラムの断面の概略図である。
【図2】ウィーンフィルタの概略図であり、質量フィルタを通過するイオンの一般的な進行方向に対する垂直な断面で示す。
【図3】二つのレンズの間に偏向と収差補正の二段のE×Bウィーン質量フィルタを含むカラムの断面の概略図である。
【図4】従来のウィーンフィルタの磁力線を示す図である。
【図5】従来のウィーンフィルタの電気力線を示す図である。
【図6】質量分離のみを実現する本発明の実施形態における磁力線を示す図である。
【図7】質量分離のみを実現する本発明の実施形態における電気力線を示す図である。
【図8】Y軸の偏向のみを実現する本発明の実施形態における電気力線を示す図である。
【図9】質量分離とY軸の偏向を実現する本発明の実施形態における電気力線を示す図である。
【図10】非点補正のみを実現する本発明の実施形態における電気力線を示す図である。
【図11】質量分離と非点補正を実現する本発明の実施形態における電気力線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の実施形態は、典型的な従来技術の質量フィルタと集束イオンビームシステムよりも一つ以上の利点を提供することができる。すべての実施形態ですべての利点が提供されるわけではない。本発明の一実施形態では、イオン種の質量電荷比に基づいてビーム中のイオン種を分離することができるE×B質量フィルタを提供する。本発明の一実施形態では、質量フィルタについて大開口の光学的アパーチャを提供する。本発明の一実施形態では、質量フィルタにおいて交差する電場と磁場によって誘導される非点収差の補正を提供する。本発明の一実施形態では、電場に平行な方向においてビームの静電偏向を提供する。本発明の一実施形態では、磁場に平行な方向においてビームの静電偏向を提供する。Teichert及びTiunovとは異なって、本発明では、極片の間隔が物理的アパーチャのサイズであるので、より効率的な磁気回路が可能である。極片の間隔が小さいことから、物理的アパーチャ内で均一な磁場に必要となる同一の間隔対幅の比を得るための極片の幅も小さくできる可能性がある。
【0032】
一実施形態では、磁極がフィルタ領域を超えて拡張され、磁極の両端部がフィルタ領域から離れるので、それによって、フィルタ領域ではより均一な磁場を形成できる。一実施形態では、磁極と電極の内側表面で定義される物理的アパーチャにおける電場は、磁極の両端(すなわち、基準のE×Bの電場方向に対して平行)に線形の電位の勾配が形成されることによって、さらに均一なものとすることができる。また、磁極上の線形の勾配の電位は、磁場に対して平行に、又はE×Bの電場に対して平行にビームを偏向させることができる。さらに、調整可能な電場は、非点補正に必要な四重極子の静電場を形成することも可能である。物理的アパーチャの片側の抵抗材料の両端に電圧が印加されることによって電位が生じ、それによって、抵抗材料の両端に電圧降下が生じる。抵抗材料は、典型的には、磁極又は磁極に取り付けられる材料である。調整可能な電場が物理的アパーチャの対向する両側にある二つの抵抗材料の両端に生じる。一方又は両方の抵抗材料の両端での電圧を調整することによって、フィルタ領域内の電場を調整することができる。
【0033】
図1は、集束イオンビーム(FIB)カラム104におけるウィーン(E×B)質量フィルタ102の側断面図であり、集束イオンビームカラムは基板表面112上にイオンビームを集束させるよう組み合わされた上部レンズ106及び下部レンズ108を含む。三つの異なるイオン種を含むイオン110は、粒子源の先端部114と引出電極(図示せず)との間に印加される電圧によって誘導されて粒子源の先端部114から放出されるように示されている。この粒子源の構造は、典型的には液体金属イオン源(LMIS)であるが、本発明では他の形式のイオン源を用いてもよい。次いで、イオン110は、上部のレンズ106によって平面120の質量分離アパーチャ122に集束される。ウィーンフィルタ102(図2で詳細に示す)は、静電場を形成する電極130と、二つの磁極132(一つのみ示す)とを含む。磁極132は、図1の紙面の前後に存在し、図1の紙面の後ろにある磁極132のみが示されている。コイルを流れる電流又は永久磁石によって、各磁極132の間に磁場を発生させることができる。ウィーンフィルタ102は、低質量イオン136及び高質量イオン138を軸から離すように偏向させ、中質量イオンを大きく偏向させない。そして、これらの中質量イオン140は、アパーチャ122を通過し、下部レンズ108によって基板表面112上に集束される。低質量イオン136は、同じビームエネルギーにおいて、高質量イオンより速度が大きい。電気力はすべてのイオン(同じ電荷を有する)に対して同一であるが、磁気力は速度に比例するので、高速な低質量イオン136は、低速な高質量イオン138よりも、磁場によってさらに大きく偏向する。したがって、低質量イオンは磁気力が作用する方向(左)へ偏向するが、高質量イオンは電気力が作用する方向(右)へ偏向する。中質量イオン140については、電気力と磁気力とが釣り合い(すなわち、反対方向に等しい大きさを有する)、真の力が作用しない。
【0034】
E×Bフィルタ102は、当技術分野でよく知られている原理に従って動作する。つまり、交差する電場及び磁場(一般的にはどちらも質量フィルタを通過するビーム方向に対して垂直である)は、ビーム中のイオンにビームの動きに対して横方向に反対向きの力を与える。これら二つの力の相対的な強さは、電場及び磁場の強さによって定められ、これらは電極130及び磁極132にエネルギーを与える電圧及び電流の供給量によって制御される。
【0035】
図1では、電場142は紙面において横向きである(左側の正の電極130から右側の負の電極130へ向かう方向を指し、したがって正イオンに電気力が作用すると右へ偏向する)。一方、磁場144は、紙面に垂直に向こうから手前に向かう(正イオンに作用する左への力を生じる)。イオン源114が異なる電荷対質量比で複数のイオン種を放出する場合、1種が偏向されずにE×B質量フィルタを通過するように電場142及び磁場144を設定することが可能である。図1では、この種は中質量イオン140に相当する。低質量イオン136と高質量イオン138は、図示のとおり、それぞれ、左側と右側に偏向する。中質量イオン140のみが質量分離アパーチャ122を通過し、次いで、下部レンズ108によって基板表面112上に集束される。E×B質量フィルタ102の上端と下端では、終端フィールドプレートが電場及び磁場を遮断し、それによって収差を低減する。イオンカラム104は、質量選択アパーチャ122の平面120におけるクロスオーバーを含むが、他の実施形態では、上方の先端部114又は下方の基板112のいずれかに仮想光源が配置され、クロスオーバーを含まなくてもよい。
【0036】
図2は、二つの静電電極130R、130Lを用いる質量フィルタ200の実施形態を示し、各電極は離れており、それぞれ電気的な接続端子を持つ。ビームの動きは、概ねZ軸(紙面に垂直)に沿うものと仮定される。第1電極130Rは、+X軸上のY軸(垂直な中心線)から距離LX1の位置に設けられ、電圧VAが印加される。第2電極片130Lは、−X軸上のY軸から距離LX1の位置に設けられ、電圧VCが印加される。静電電極の各面はYZ平面に平行に向けられる。VA及びVCの値は、諸条件で動作する標準的なウィーンフィルタに基づいて選択してよい(以下参照)。
【0037】
二つの磁極202U及び202Lがあり、それらの各面はXZ平面に平行となるように、+Y軸上の+LYの位置、及び−Y軸上の−LYの位置に設けられる。コイル及び/又は永久磁石によって、磁極202U及び202Lを励磁し、Y軸に平行な磁場を形成することができる。磁極202U及び202Lは、フェライト又はいくらか類似する抵抗性の磁性材料から製造され、典型的には抵抗率において106〜108Ω・cmの範囲である。上部(+Y軸)の磁極は、二つ電気的な接続端子を有し、一方は+X側端部(VB1)にあり、他方は−X型端部(VB2)にある。下部(−Y軸)の磁極も、二つの電気的な接続端子を有し、一方は+X側端部(VD1)にあり、他方は−X側端部(VD2)にある。
【0038】
[四つの動作モードの実施例の場合の極片の電圧]
以下に提示される四つの実施例は、本発明の質量フィルタ102における各種動作モードについて、VA、VC、VB1、VB2、VD1及びVD2の設定可能な電圧値を示す。
【0039】
[実施例1] 偏向又は非点補正がない場合の電圧設定
質量分離のみが求められ、ビームステアリング又は非点補正が必要ない場合、磁極に与えられる電圧は以下のとおり設定してよい。
VB1=VD1=(LX2/LX1)Vms
VB2=VD2=−(LX2/LX1)Vms
ここで、電極に与えられる電圧は以下のとおりである。
VA=Vms
VC=−Vms
Vmsの値は、質量分離のための電場の条件に基づいて選択される。かかる条件では、ビーム中の基板に向ける所望のイオン種に対して、イオンへの電気力及び磁気力が釣り合い、例えば、図1での中質量イオン140がレンズ108によって基板112上に集束する。
【0040】
この例において、ウィーンフィルタ全体の通常モードの電圧は0Vに設定される。イオン源とウィーンフィルタとの間の電圧の差が「Vaccel」である場合、1価のイオンエネルギーは、ウィーンフィルタを介して「e・Vaccel」となる。正イオンの場合、ウィーンフィルタのバイアス電圧に対して、イオン源に+Vaccelのバイアス電圧を印加する場合に相当する。なお、この検討では、ウィーンフィルタは必ずしも接地電位であるとは仮定されていない。上記の従来技術の米国特許第4929839号における実際のウィーンフィルタでは、イオン源の150kVとウィーンフィルタの30kVとの間の電位差をもって、接地電位に対して120kVに上げられている。
【0041】
なお、この第1の実施例では、軸上の静電電圧が0Vである。VB1とVB2の間の電圧降下は、磁極202Uの長さにわたって分布する。同様に、VD1とVD2の間の電圧降下は、磁極202Lにわたって分布する。VB1=VD1であり、VB2=VD2であるので、磁極202U及び202L上で同一のX座標を有する点は、同一の電位を有し、130Lと130Rの間のX軸上の同一の座標での電位も同じである。磁極202U及び202Lで規定される物理的アパーチャの二つの境界面に沿って変化する電位は静電電極130Lと130Rの間の空間で変化する電位に等しいため、電気力線は、物理的アパーチャ全体でX軸に平行のままであり、磁極202U及び202Lの内部にも広がる(図7参照)。
【0042】
[実施例2] Y軸方向への偏向があり非点補正がない場合の電圧設定
第2の実施例では、質量分離及びY軸偏向が求められ、磁極に与えられる電圧は以下のように設定してよい。
VB1=(LX2/LX1)Vms+VY
VB2=−(LX2/LX1)Vms+VY
VD1=(LX2/LX1)Vms−VY
VD2=−(LX2/LX1)Vms−VY
ここで、電極に与えられる電圧は第1の実施例と同様に以下のとおりである。
VA=Vms
VC=−Vms
この例において、ウィーンフィルタ200の通常モードの電圧は0Vに設定される。二つの磁極に印加される+−VY電圧によってY軸の静電偏向場が一つ形成される。重ね合わせによれば、Vmsに比例する(水平方向)の電場の作用は、VYに比例する(垂直方向)の電場の偏向の作用とは別々に検討できる。質量フィルタを通過するように選択された質量数のイオン種、例えば、図1の中質量イオン140の場合、(水平の)電場142(上記の方程式中のVB1、VB2、VD1及び上記VD2のはじめの用語)に起因する中質量イオン140に作用する力はX軸に沿って反対方向に向かう磁気力によって打ち消されるので、中質量イオン140に作用する真の力は+−VY電圧によって誘導されるY軸(垂直)の電場に起因する一方向である。垂直方向の静電気力は、質量分離の軸(X軸)に垂直であるので、したがって、+−VY電圧によって誘導される垂直の電場は、質量フィルタ200の質量選択動作を妨げないと考えられる。
【0043】
[実施例3] 非点補正があり偏向がない場合の電圧設定
第3の実施例では、質量分離及び非点補正が求められる。磁極への電圧は以下のとおり設定してよい。
VB1=(LX2/LX1)Vms−(LY/LX1)2Vstig
VB2=−(LX2/LX1)Vms−(LY/LX1)2Vstig
VD1=(LX2/LX1)Vms−(LY/LX1)2Vstig
VD2=−(LX2/LX1)Vms−(LY/LX1)2Vstig
ここで、電極に与えられる電圧は以下のとおりである。
VA=Vms+Vstig
VC=−Vms+Vstig
第1及び第2の実施例の場合と同様に、Vmsは質量分離のために必要な電極電圧である。この実施例では、ウィーンフィルタ全体の通常モード電圧は、0Vに設定される。非点補正の四重極子の静電場は、静電極及び磁極に印加され、Vstigに比例する電圧によって形成される。なお、電極(間隔2LX)と磁極(間隔2LY)との異なる間隔を補償するために、磁極に作用する電圧には係数(LY/LX1)2が用いられる。VB1、VB2、VD1及びVD2の方程式で非点補正の条件の乗数が「2」となるのは、ビームの非点補正に用いられる四重極子の電圧が軸からの距離の二乗にしたがって増加し、上記の第2の実施例における双極子のY軸方向への偏向のとおり線形でないからである。Vstigの値は、非点収差の極性に応じて、正又は負のいずれかである。
【0044】
[実施例4] 質量分離、X−Y偏向及び非点補正のある包括的な場合
第4の実施例では、質量分離、XY偏向及び非点補正のすべてが同時に求められ、磁極に与えられる電圧は以下のように設定される。
VB1=(LX2/LX1)(Vms+VX)+VY−(LY/LX1)2Vstig
VB2=(LX2/LX1)(−Vms-VX)+VY−(LY/LX1)2Vstig
VD1=(LX2/LX1)(Vms+VX)−VY−(LY/LX1)2Vstig
VD2=(LX2/LX1)(−Vms−VX)−VY−(LY/LX1)2Vstig
ここで、電極に与えられる電圧は以下のとおりである。
VA=Vms+VX+Vstig
VC=−Vms−VX+Vstig
この最も包括的な場合では、電圧は以下のとおり定義される。
Vms=適切な質量分離に求められる電圧
VX=X軸偏向の電圧(質量分離の軸に対して平行)
VY=Y軸偏向の電圧(質量分離の軸に対して垂直)
【0045】
[従来のE×B質量フィルタにおける磁場及び電場]
図4は、従来技術におけるウィーン質量フィルタ400内の磁力線406、408及び410の例である。磁場は、上部(北)極412と下側(南)極414との間に生じる。電極402及び404が非磁性材料で製造されているとすると、図示されたように、磁力線410は、固定された電極402及び404を介して広がる。垂直方向の中心線に沿って、磁力線406は、適切な指向方向を有する(すなわち、(完全に垂直な)Y軸に正確に沿ったものとなる)。X軸に平行な磁極412と414との幅が狭いため、E×B質量フィルタの物理的アパーチャ内での磁力線408は、中心線から離れるにしたがって、外側に膨らむように観察できる。この膨らみは、磁場によってB≠0の位置での空間で積分されたB2に比例する蓄積された合計のエネルギーが低減する傾向があることから生じる。軸からもっと離れると、磁力線410の場合のように、この膨らみはさらに顕著になる。図4から、磁場の磁力線408が適切なE×B質量分離の基準を満たしていないことが明らかである。すなわち、局所的な磁場の磁力線は、局所的な電場の電気力線(図5参照)に対して垂直ではない。
【0046】
図5は、図4に示した従来のウィーン質量フィルタ400における電気力線506、508及び510の例である。正の電圧が電極402に印加され、負の電圧が電極404に印加される。これによって、図示のとおり、図の左側へ向かう水平な電場が生じる。磁極412及び414には両方とも、質量フィルタ400上の通常モードの0Vに対応して、0Vのバイアスが印加される。X軸に沿って、電気力線506は、完全に水平である。図4との比較では、その結果として、X軸に沿って一つのE×Bの動作基準が満たされていることを示す。つまり、電場が完全に水平であり、磁場(図4参照)も完全に垂直であって、各場は直交する。E×B質量フィルタがY軸に対して左右対称性を有するので、Y軸に沿うところでは、電気力線は水平である。したがって、Y軸に沿うところでは直交性の基準も満たされる。追加の問題として、所望のイオン種を偏向させずに通過させる電気力と磁気力との適当な打ち消しのために、電場と磁場の大きさが適当な比を有することが必要となる。このため、二つの場の間にさらに直交性が求められるのである。磁場の場合と同様に、電場は、電場においてE≠0の空間にかけて積分されたE2に比例する合計の蓄積エネルギーが低減するために外側に向かって膨む傾向を示す。磁場及び電場が膨らむことから、図4及び図5の比較によって、磁場についてはY軸に沿って中心(X軸とY軸の交線)で最も弱く、磁極412及び414に向かって増加することが分かる。電場についてはX軸に沿って同じ振る舞いを示す。つまり、中心で最も弱く、電極402及び404に向かって増加する。このように、電場及び磁場がE×Bの直交性の条件を満たすX軸及びY軸にあっても、各場の強さは適切なE×B動作のための基準に反して変化する。最も外側の電気力線510は、図示されたように、磁極412及び414に「短絡」する。質量フィルタを通過するイオンビームについては電気力線510ほど軸から大きく外れないので、このことは大きな問題ではない。
【0047】
[E×B質量分離のための電場及び磁場の基準]
本発明のいくつかの実施形態では、適切なE×B質量分離のための二つの基準を満たし、上記の問題を改善するための構造を提供する。
(1)電場及び磁場は直交し、電場がX軸に平行に向けられ、かつ磁場がY軸に平行に向けられるものでなければならない。
(2)電場及び磁場は、同一の質量電荷比のイオンに適用される磁気力によって電気力を取り消すために、すべての点で同一の強度比B/Eを有するものでなければならない。
【0048】
適切な質量フィルタリング(すなわち、いずれにおいても同一の質量電荷比のために力が打ち消される)によって質量フィルタを通過するイオンを最大とする場合、可能な限り大開口のアパーチャで、これらの二つの基準を満たすことが必要である。図6及び7は、本発明の磁場及び電場を示すものであり、各々、従来技術の図4及び5に対応する。
【0049】
[実施例1の電場 質量分離のみ]
図6は、上記の第1の実施例に従う本発明の一形態600の場合の磁力線606、608及び610の例である。上部(北)磁極612と下部(南)磁極614は、E×B質量フィルタの物理的アパーチャに比較してずっと幅広いものであることが分かる。ここで、「物理的アパーチャ」とは、電極604と電極606と磁極612と磁極614との四つの内面で囲まれた質量フィルタを介する物理的な開口部として定義される。本発明において磁極をより幅広く形成する理由が図7に示される。幅広い磁極612及び614のため、物理的アパーチャの端部付近の磁力線608は、中央のB場の線606と同様にY軸に平行である。図7との比較によれば、E×Bの垂直性の基準は、物理的アパーチャの大部分にかけて満足されることを示す。磁力線610では磁場の膨らみが依然として発生するが、この膨らみは物理的アパーチャの外側にあるため、質量フィルタ600の動作に影響を与えない。第1から第4のすべての実施例で、磁場の分布は図6のとおりである。
【0050】
図7は、図6に示した本発明の一形態600における電気力線706及び708の例である。電圧VA(本例では正で示される。図2参照)が電気的な接続端子644を介して電極602に印加され、電圧VC(負で示される)が電気的な接続端子648を介して電極604に印加される。電圧VAとVCとの間の電位差は、図の左側に向かう全体的に水平な電場を形成する。図2で説明したとおり、磁極612及び614は、電気抵抗材料から製造されている。電圧VB1(図2参照)が電気的な接続端子654を介して磁極612の右端部652に印加される。同様に、電圧VB2、VD1及びVD2が、それぞれ、電気的な接続端子658、664及び668を介して磁極612及び614の端部656、662及び666に印加される。VB1とVB2との間の電位差は、磁極612を介して水平方向の電流710を生成する。磁極612は抵抗性であるので、オームの法則によって、磁極612の内側の両端に線形の電圧勾配を生成する。VD1とVD2との間の電位差に起因して、抵抗性の磁極614にも同様の考察が当てはまる。図6及び図7は上記の第1の実施例を適用したものであり、質量分離に必要な電場に追加される、XY偏向の双極子又は非点補正の四重極子の電場は存在しない。
【0051】
[第2の実施例の場合の電場 質量分離及びY軸偏向]
図8及び図9は、上記の本発明の第2の実施例のE×B質量フィルタ内に、Y軸ビーム偏向のために追加する双極子の電場の作用を示したものである。図8では、Y軸偏向の双極子の場を発生させるために追加された電場及び電圧の極性のみを示す。上記の第2の実施例で説明したように、電場の重ね合わせによれば、この追加されるY軸の双極子の電場の作用は、E×B質量フィルタの質量分離の動作に必要なX軸の電場の作用とは切り離して検討することができる。Y軸上では、電場806はY軸に平行となり、完全に垂直なビームの偏向を与える。軸から離れると、導電性の電極602及び604の作用に起因して、電場の電気力線808は図示したようにやや膨らむ。したがって、所望する完全なY軸偏向からは小さな偏りが生じる。適切な偏向電場を形成するため、電圧+VYが電気的な接続端子654及び658を介してそれぞれ磁極612の両端652及び656に印加され、かつ、電圧−VYが電気的な接続端子664及び668を介してそれぞれ磁極614の両端662及び666に印加される(上記の第2の実施例の数式参照)。Y軸の双極子の電場を形成するのみの場合(すなわち、E×BのX軸の電場を無視する場合)、電極602及び604上の電圧は0Vであってよく、電気的な接続端子644及び648を介してそれぞれ印加される。
【0052】
図9は、図7のX軸のE×Bの電場と図8のY軸の偏向双極子の電場との重ね合わせを示す。この例の電場の組み合わせはX成分とY成分との両方を含み、これによって電場は図示されたように下方に傾いて左方向に向かう結果となる。本発明の電極の動作の正確なコンピュータモデリングによれば、E×Bの動作に必要なX軸の電場よりもY軸の電場が小さい場合、十分に均一な電場を実現することができることが示されている。すなわち、物理的アパーチャにかけてY軸偏向は十分に均一とすることができ、質量分離のための適切なX軸の電場はY軸の電場の追加によってほとんど影響を受けない。したがって、中央の電場の電気力線906と、外側の電気力線908、912とは、X軸に対してほぼ同じ角度を有する。追加されたY軸の双極子の電場を用いると、外側の電気力線908は抵抗性の磁極614上の910で終わることがある。他方の外側の電気力線912は、抵抗性の磁極612上の914で始まることがある。
【0053】
[第3の実施例の場合の電場 質量分離及び非点補正]
図10及び図11は、上記の本発明の第3の実施例のE×B質量フィルタ内でのビームの非点補正のために追加する四重極子の電場の作用を示したものである。図10は、非点補正の四重極子の電場を発生させるために追加された電場及び電圧の極性のみを示す。第3の実施例で説明したように、電場の重ね合わせによれば、この追加された四重極子の電場の作用は、E×B質量フィルタの質量分離の動作に必要なX軸の電場の作用とは切り離して検討することができる。
【0054】
この適切な四重極子の電場を形成するため、電圧−(LY/LX1)2Vstigが、電気的な接続端子654及び658を介して、それぞれ、磁極612の両端652及び656に印加され、かつ、同じ電圧−(LY/LX1)2Vstigが、電気的な接続端子664及び668を介して、それぞれ、磁極614の両端662及び666に印加される(上記の第3の実施例の数式参照)。四重極子の電場を形成するのみの場合(すなわち、E×BのX軸の電場を無視する場合)、電極602及び604の電圧は両方とも+Vstigであって、それぞれ電気的な接続端子644及び648を介して印加される。
【0055】
図11は、図7のX軸のE×Bの電場と図10の非点補正の四重極子の電場との重ね合わせを示す。電気力線1106、1108及び1110で示される組み合わされた電場は、電極602から現れ、やや弱くなって電極604に入る。これは図10における電場の向きの観察から直感的に理解しやすい。一部の外側の電気力線1110は、抵抗性の磁極612及び614上で終わり、これもまた図10から直感的に理解しやすい。ほとんどの電気力線は、依然として図7のように電極602、604上で、始まり、終わる。したがって、四重極子の電場強度は、E×B動作に必要なX軸の双極子の電場より大幅に低いものと推測される。
【0056】
磁極612と614との間の典型的な磁場強度は、3000〜6000ガウスの範囲でよく、さらに好ましくは4000〜5000ガウスの範囲である。電極602及び604に印加される典型的な電圧(VA及びVC)は、1000〜5000Vの範囲でよく、さらに好ましくは2000〜3500Vの範囲である。磁極612及び磁極614の両端に印加される典型的な電圧は、図2での式2に従って、電圧VA及びVCに比例して設定される。電極602と604とのX軸に平行な間隔は5〜20mmの範囲でよく、さらに好ましくは10〜15mmの範囲である。磁極612と614とのY軸に平行な間隔は5〜20mmの範囲でよく、さらに好ましくは10〜15mmの範囲である。軸方向の長さ(すなわち、Z軸について平行な電極と磁極の長さ)は、15〜80mmの範囲でよく、さらに好ましくは25〜40mmである。
【0057】
[本発明の一実施形態での集束イオンビームカラム]
図3は、本発明の二つのE×B質量フィルタを含むウィーン質量フィルタ304を備えたイオンカラム302を示し、上部E×Bフィルタ306U及び下部E×Bフィルタ306Lは、両方とも図1及び図2のように構成されたものである。このようなシステムは、ビームから中性物質を取り除く収差補正のウィーンE×B質量フィルタとして記述され、出願される。イオン370は、液体金属イオン源(LMIS)の先端部314から放出される。ただし、LMISイオン源は例示の目的のためのみにここに示されているのであって、本発明では、代わりに、他の種類のイオン源、例えば、誘導結合型プラズマ(ICP)イオン源も使用することができる。次いで、イオン370は、上部レンズ306によって平行又は略平行に集束され、ビーム310を形成する。完全に平行なビーム310では、ビーム310内の各イオンの軌跡は、光軸380に沿ってマイナス方向の無限遠方に置かれた仮想光源(図示せず)から外挿されたものと仮定してよい。「略平行」なビームは、マイナス方向の無限遠方に仮想光源が必要とされないビームであるが、外挿されたイオンの軌跡は、イオン源の先端部(上部又は下部)からイオンカラム302の全長に対して少なくとも数倍の位置で光軸380と交差する。上部E×Bフィルタ306Uは、電極314U、終端フィールドプレート316U、及び二つの磁極318U(一つのみ図示)を有する磁場の発生源を含む。電極314Uは、図の平面において電場を形成し、これは矢印320Uによって示される(左側の正の電極314Uから右側の負の電極314Uを指し示し、したがって、正のイオンに作用する電気力は右方向になる)。磁場の発生源は、紙面から手前に向かう磁場を形成し、これは丸印322Uで示される(正イオンに対して左側に向う磁気力を形成する)。下部E×Bフィルタ306Lは、電極314L、終端フィールドプレート316L、及び、二つの磁極318L(一つのみ図示)を有する磁場の発生源を含む。上部及び下部のE×Bの各場は、図3に示すように設定される。電極314Lは、紙面において矢印320Lによって示される電場を形成し、上部E×Bフィルタ306Uの電場320Uと大きさが等しく、方向が反対である。下部E×Bフィルタ306Lの磁場の発生源は、バツ印322Lによって示されるような紙面の向こう側に進む磁場を形成し、上部E×Bフィルタ306Uの磁場322Uと方向が反対で大きさが等しい。下部E×Bフィルタ306Lは、上部E×Bフィルタ306Uと対称であり、通常、同一の構造を有し、方向が反対で大きさが等しい電場及び磁場を形成する。
【0058】
イオン310は図示のように四つの異なるイオン種を含む。すなわち、低質量イオン330、中低質量イオン332、中高質量イオン334、及び高質量イオン336である。低質量イオン330、中高質量イオン334、及び高質量イオン336は、質量分離アパーチャ板340に衝突し、アパーチャ342を通過して下部レンズ308に到達しない。中低質量イオン332は、図示のように、上部E×Bフィルタ306Uと下部E×Bフィルタ306Lの両方を通過する。次いで、イオン332は、質量分離アパーチャ342を通過し、下部レンズ308によって基板表面312上に集束される。従来技術では、E×Bフィルタは、一般的には偏向を伴わないで、所望のイオン(本例では中低質量)を通過させるように調整される。図3の実施形態では、所望のイオンは偏向されてアパーチャ342を通過し、一部の望ましくないイオン(本例では、中高質量334)は、中性粒子346とともに、偏向されないでアパーチャ板340に衝突する。他の望ましくないイオンは、磁場によって大きく偏向されるか(例えば、低質量330)、あるいは小さく偏向されて(例えば、高質量336)、アパーチャ342を通過することができない。
【0059】
中性粒子346は、E×B質量フィルタ304の電場及び磁場によって偏向されず、このため、真っすぐ通過し、アパーチャ板340の孔342(E×Bフィルタ304の出口の軸を規定する)がE×Bフィルタ304の入射軸380から変位量326だけずらして設けられているので、質量分離アパーチャ板340に衝突する。図3の概略図では、レンズ306によって偏向されない中性粒子について、基板312への経路が存在しないことが明確にはなっていないが、当業者であれば、実際のシステムの幾何構造において、上部E×Bフィルタ306Uへの入り口側のアパーチャ、及び/又は、カラムにおける質量フィルタ304の下方のいずれかのアパーチャのような経路を、様々な手段によって排除することが可能である。
【0060】
質量フィルタは、上記では集束イオンビーム(FIB)カラムに使用されるように説明されているが、質量フィルタは、電子(この場合E×Bフィルタはビーム310中の電子のエネルギー拡散を低減するようなモノクロメーターとして使用することができる)、及び帯電した粒子のクラスタを含む、いずれの荷電粒子ビームを使用することもできる。
【0061】
上記の説明では、抵抗材料、例えば、極片612及び614を、磁極片として述べたが、他の実施形態では、電気的な抵抗材料を磁極片612及び614の表面に付着させてもよい。さらに別の実施形態では、抵抗材料は、極片612及び614の表面に絶縁層を介して付着させてもよい。これら二つの代替の実施形態では、図2で説明したように、電気的な接続端子654、658、664及び668などを抵抗材料の両端に接続して、電圧VB1、VB2、VD1及びVD2を供給してもよい。
【0062】
「物理的アパーチャ」の代わりの用語として、「フィルタリング領域」があり、質量フィルタリングのプロセスが物理的アパーチャ内で生じることを強調するものである。E×Bフィルタはここでは質量フィルタとして特徴付けられているが、磁気力が速度に比例し、電気力が速度とは無関係であることから、電気力と磁気力の均衡をとるためのE×Bの条件は、速度フィルタリングの機能である。したがって、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、あるいは走査透過型電子顕微鏡(STEM)などにおける電子ビームカラムへの適用では、本発明のE×Bフィルタは、電子ビームカラム内での電子のエネルギー範囲を絞るための速度フィルタとして用いることができる。
【0063】
本発明及びその利点について詳細に説明したが、ここに記載された実施形態に対しては、添付された特許請求の範囲により定められる本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更、置換及び修正が可能であると理解されるべきである。さらに、本出願の範囲については、本明細書に記載されたプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法及びステップの特定の実施形態に限定されるものではない。当業者であれば、本発明、プロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法又はステップの開示によって、既存の技術、又は本明細書に記載された実施形態に対応し、実質的に同じ機能を果たしたり、実質的に同じ効果を奏したりする将来技術についても、本発明に従って利用可能であると容易に理解することができる。したがって、添付された特許請求の範囲は、上記のようなプロセス、機械、製造物、組成物、手段、方法及びステップをその範囲に含むものである。
【符号の説明】
【0064】
102 ウィーン質量フィルタ
104 イオンカラム
130 電極
132 磁極
142 電場
144 磁場
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタ内に第1の電場を形成する第1の電極の組みと、
前記フィルタ内で前記電場に対して直交する磁場を形成する磁極の組みと、
抵抗性の導電体の組みと、
前記各抵抗性の導電体の両端の第2の電極の組みと、を備え、
前記各第2の電極によって、対応する抵抗性の導電体を流れる電流が生じ、対応する抵抗性の導電体の両端に電位勾配が生じ、
二つの抵抗性の導電体によって前記フィルタ内に第2の電場の向きが提供され、
前記第2の電場は前記第1の電場の向きとは平行でない成分を有することを特徴とする荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項2】
前記抵抗性の導電体の組みは、前記磁極の組みを含むことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項3】
前記抵抗性の導電体の組みは、前記磁極に付着させた層の組みを含むことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項4】
前記抵抗性の導電体の組みは、前記磁極に絶縁層を介して付着させた層の組みを含むことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項5】
前記磁極の組みにおける各磁極は、前記第1の電極の組みにおける電極を超えて延びることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項6】
非点補正又は偏向の電場がない場合、物理的アパーチャでの第1の電極の電場の向きに沿った各座標での電位と、前記磁極の内側表面上の各点での電位とが同一であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項7】
前記第2の電場は、前記磁場に対して平行に向く双極子の電場であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項8】
前記第2の電場は、四重極子の電場であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項9】
イオン源と、
前記イオン源からのイオンを受け取る第1のレンズと、
請求項1乃至8の何れか1項に記載の質量フィルタと、
前記質量フィルタを出射してワークピースの表面に向かうイオンを集束させる第2のレンズと、を備えることを特徴とする集束イオンビームカラム。
【請求項10】
前記イオン源がプラズマイオン源であることを特徴とする請求項9に記載の集束イオンビームカラム。
【請求項11】
前記イオン源が液体金属イオン源であることを特徴とする請求項9に記載の集束イオンビームカラム。
【請求項12】
第2の質量フィルタを備え、
前記第2の質量フィルタが前記第1の質量フィルタからの色収差を補正することを特徴とする請求項9乃至11の何れか1項に記載の集束イオンビームカラム。
【請求項13】
フィルタリング領域において第1の電場の発生源を準備し、
前記フィルタリング領域において前記電場に直交する磁場の発生源を準備し、
前記フィルタリング領域において前記磁場に平行な成分を有し、前記第1の電場とは独立して調整可能である第2の電場の発生源を準備し、
前記フィルタリング領域を介して各種の質量電荷比を有するイオンを、異なる質量電荷比を有するイオン毎に分離するように指向させることを含むイオンのフィルタリング方法。
【請求項14】
前記フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、前記磁場の発生源の一部である磁極片の両端に電流を供給することを含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、前記磁場の発生源の一部である磁極片に取付けられた抵抗性の導電体の両端に電流を供給することを含む請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、イオンビームを偏向させる電場を準備することを含む請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、イオンビームの非点補正の四重極子の電場の一部を形成する第2の電場を準備することを含む請求項13乃至16の何れか1項に記載の方法。
【請求項1】
フィルタ内に第1の電場を形成する第1の電極の組みと、
前記フィルタ内で前記電場に対して直交する磁場を形成する磁極の組みと、
抵抗性の導電体の組みと、
前記各抵抗性の導電体の両端の第2の電極の組みと、を備え、
前記各第2の電極によって、対応する抵抗性の導電体を流れる電流が生じ、対応する抵抗性の導電体の両端に電位勾配が生じ、
二つの抵抗性の導電体によって前記フィルタ内に第2の電場の向きが提供され、
前記第2の電場は前記第1の電場の向きとは平行でない成分を有することを特徴とする荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項2】
前記抵抗性の導電体の組みは、前記磁極の組みを含むことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項3】
前記抵抗性の導電体の組みは、前記磁極に付着させた層の組みを含むことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項4】
前記抵抗性の導電体の組みは、前記磁極に絶縁層を介して付着させた層の組みを含むことを特徴とする請求項1に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項5】
前記磁極の組みにおける各磁極は、前記第1の電極の組みにおける電極を超えて延びることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項6】
非点補正又は偏向の電場がない場合、物理的アパーチャでの第1の電極の電場の向きに沿った各座標での電位と、前記磁極の内側表面上の各点での電位とが同一であることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項7】
前記第2の電場は、前記磁場に対して平行に向く双極子の電場であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項8】
前記第2の電場は、四重極子の電場であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載の荷電粒子ビームのフィルタ。
【請求項9】
イオン源と、
前記イオン源からのイオンを受け取る第1のレンズと、
請求項1乃至8の何れか1項に記載の質量フィルタと、
前記質量フィルタを出射してワークピースの表面に向かうイオンを集束させる第2のレンズと、を備えることを特徴とする集束イオンビームカラム。
【請求項10】
前記イオン源がプラズマイオン源であることを特徴とする請求項9に記載の集束イオンビームカラム。
【請求項11】
前記イオン源が液体金属イオン源であることを特徴とする請求項9に記載の集束イオンビームカラム。
【請求項12】
第2の質量フィルタを備え、
前記第2の質量フィルタが前記第1の質量フィルタからの色収差を補正することを特徴とする請求項9乃至11の何れか1項に記載の集束イオンビームカラム。
【請求項13】
フィルタリング領域において第1の電場の発生源を準備し、
前記フィルタリング領域において前記電場に直交する磁場の発生源を準備し、
前記フィルタリング領域において前記磁場に平行な成分を有し、前記第1の電場とは独立して調整可能である第2の電場の発生源を準備し、
前記フィルタリング領域を介して各種の質量電荷比を有するイオンを、異なる質量電荷比を有するイオン毎に分離するように指向させることを含むイオンのフィルタリング方法。
【請求項14】
前記フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、前記磁場の発生源の一部である磁極片の両端に電流を供給することを含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、前記磁場の発生源の一部である磁極片に取付けられた抵抗性の導電体の両端に電流を供給することを含む請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、イオンビームを偏向させる電場を準備することを含む請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記フィルタリング領域において第2の電場の発生源を準備する際、イオンビームの非点補正の四重極子の電場の一部を形成する第2の電場を準備することを含む請求項13乃至16の何れか1項に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−227140(P2012−227140A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−88766(P2012−88766)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【出願人】(501233536)エフ イー アイ カンパニ (87)
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
【住所又は居所原語表記】7451 NW Evergreen Parkway, Hillsboro, OR 97124−5830 USA
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−88766(P2012−88766)
【出願日】平成24年4月9日(2012.4.9)
【出願人】(501233536)エフ イー アイ カンパニ (87)
【氏名又は名称原語表記】FEI COMPANY
【住所又は居所原語表記】7451 NW Evergreen Parkway, Hillsboro, OR 97124−5830 USA
【Fターム(参考)】
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