説明

大面積かつ高エネルギー分解能でX線を検出する方法、及びその大面積高分解能半導体X線検出器

【課題】 半導体素子を用いたX線検出器において、素子のX線検出に対する有効面積を極大化し、かつ高いエネルギー分解能をもつ検出器を開発する。
【解決手段】 半導体素子の整流方向に対して垂直方向からX線を入射することで、素子の有効面積を極大化し、かつ素子自身の持つ静電容量を極小化することによって、大面積かつ高エネルギー分解能でX線を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
元素分析の手法として、試料から発生する各元素固有の特性X線を分光する方法は、生物学、医学、歯学、材料科学、地質学、地球科学から犯罪捜査など非常に幅広い分野で利用されている。本発明によって、従来の方法に比べて検出効率が大幅に向上することから、その波及効果は非常に大きいことが明らかである。
【背景技術】
【0002】
X線を分光するための検出器として半導体素子を用いた、エネルギー分散型検出器は広く一般に利用されているが、そのすべては、図1に示されるように、素子の上面と底面に電極を取り付け、整流方向と同じ向きである上面側からX線を入射して検出するものである。この形状では、素子のX線を受光する有効面積を大きくするためには、上面及び、底面の電極面積も必然的に増大し、結果として素子自身の持つ静電容量が増加し、検出器の重要な性能であるエネルギー分解能の劣化を招く。
【0003】
一般に半導体素子を用いたX線検出器において、検出素子自身が持つ静電容量は、エネルギー分解能に大きな影響を与え、可能な限り小さいことが望まれている(非特許文献1)。
【非特許文献1】合志陽一・佐藤公隆 編集、「エネルギー分散型X線分析」、学会出版センター刊、1989年、ページ9−10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体素子を用いたX線検出器において、素子のX線検出に対する有効面積を極大化し、かつ高いエネルギー分解能をもつ検出器を開発することが、本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、半導体素子の整流方向に対して垂直方向からX線を入射することで、素子の有効面積を極大化し、かつ素子自身の持つ静電容量を極小化することによって、大面積かつ高エネルギー分解能でX線を検出する方法である。
【0006】
又、本発明は、半導体素子の左右側面にそれぞれp型半導体及びn型半導体を形成し、その中央部は真性半導体の性質を維持するものとし、前記p型半導体及びn型半導体にそれぞれ電極を設け、その上面側をX線入射面とし、その一方の電極に検出信号用の増幅回路を結合したことからなる大面積高分解能半導体X線検出器であり、電極間に電圧を印加しながら前記上面側領域にX線を入射し、その電離作用により電子−正孔対が生成され、その電荷を電気的な回路で増幅することで信号として取り出すことによりX線を検出する、前記検出器である。
【0007】
即ち、X線が半導体素子の表面に入射されると、その半導体素子内に電子―正孔対が形成され、素子に印加されている電界によって生成された電荷が電極に収集され、その収集された電荷を増幅回路によって増幅して信号として取り出される。この半導体の形状は、図2に示されるような直方体形状、又図3に示されるように弓形形状等のものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
一般に半導体素子を用いたX線検出器において、検出素子自身が持つ静電容量は、エネルギー分解能に大きな影響を与え、可能な限り小さいことが望まれる。(非特許文献1)。しかしながら、従来構造の検出素子ではX線の受光する面積を大きくすると、それに比例して静電容量が増加し、エネルギー分解能が劣化するため、有効面積とエネルギー分解能は、互いに相反する関係にあった。
【0009】
そこで、半導体素子の側面に電極を取り付け、その整流方向と垂直方向である面からX線を入射することで、素子自身の持つ静電容量を増加させることなく、X線を検出できる有効面積を極大化する。この場合は、素子のX線入射方向に対する厚みは薄くなるため、高いエネルギーのX線に対する感度の低下が懸念されるが、元素分析などの際に測定される、30keV以下の特性X線を測定する場合においては、シリコン半導体で、1〜2mm程度の厚さであれば、十分実用に足る検出感度を持ち、より原子番号の大きいゲルマニウム半導体などでは、さらに薄くすることも可能である。
【実施例】
【0010】
図2に実施例を示す。直方体型半導体素子の左右側面はそれぞれ、p型、n型半導体の性質を持ち、中央部は真性半導体の性質を持つ。p型、n型面には、電極を取り付けて電圧を印加することで、素子内部に担体の不足した空乏領域を形成する。上面より、この領域にX線が入射すると、その電離作用により、電子−正孔対が生成され、この電荷を電気的な回路で増幅することで信号として取り出し、X線を検出する。図1に示した従来型の検出器と、この実施例の大きな違いは、素子の形状と整流方向に対するX線の入射方向の関係である。
【0011】
直方体の三辺を図示したようにa、b、cとし、素子に印加する電圧が十分に高く、空乏層が素子全体に広がっている場合には、平行平板コンデンサーと同様に、素子の静電容量Cは次式で与えられる。(G.F.Knoll著、放射線計測ハンドブック第2版、日刊工業新聞社刊、1991年、ページ420−423)
C=ε・a・b/c (εは半導体材料の誘電率)
また、素子のX線に対する有効受光面積Sは、二辺の積、
S=a・c
であるので、従来型の検出素子とは異なり、a、b、cを適当な値にすることで、有効面積を極大化し、かつ静電容量を極小化することができる。
【0012】
比較のため、一般に販売されているX線検出器で最も有効而積の大きい200mm2の円筒型素子と、同じ面積の本発明の検出素子で、静電容量の比を求める。空乏層の厚さは、ほぼ真性半導体領域の厚さに等しいので、双方とも同じ厚さ10mmであるとする。この場合には、幅aは20mmとなる。また、大面積高分解能素子のX線入射方向に対する厚さbは、先に述べた通り2mmあれば、十分な感度を持つことができる。この条件において、双方の静電容量の比は、
C大面積高分解能/C従来=(ε・20・2/10)/(ε・200/10)
=1/5
となり、従来素子の5分の1の静電容量で同じ有効面積を実現する事が出来る。
[発明の効果]
【0013】
本発明の方法では、従来両立が不可能であった半導体X線検出器の大面積化と高エネルギー分解能化を同時に達成できるのが大きな特徴である。実施例では、素子の持つ静電容量を5分の1に出来ることを示したが、これは従来型の検出器と同一のエネルギー分解能であれば、有効面積を5倍に出来ることであり、X線を計測する時間を5分の1に短縮できることを意味する。また、この素子を用いた検出器は、素子形状以外は従来の半導体X線検出器と同一であるため、容易に従来型の検出器を代替することが可能であり、その効果は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】従来型半導体X線検出素子を示す図である。
【図2】本発明の大面積高分解能半導体X線検出素子を示す図である。
【図3】本発明の他の形状の大面積高分解能半導体X線検出素子を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子の整流方向に対して垂直方向からX線を入射することで、素子の有効面積を極大化し、かつ素子自身の持つ静電容量を極小化することによって、大面積かつ高エネルギー分解能でX線を検出する方法。
【請求項2】
半導体素子の左右側面にそれぞれp型半導体及びn型半導体を形成し、その中央部は真性半導体の性質を維持するものとし、前記p型半導体及びn型半導体にそれぞれ電極を設け、その上面側をX線入射面とし、その一方の電極に検出信号用の増幅回路を結合したことからなる大面積高分解能半導体X線検出器であって、
前記電極間に電圧を印加しながら前記上面側領域にX線を入射し、その電離作用により電子−正孔対が生成され、その電荷を電気的な回路で増幅することで信号として取り出すことによりX線を検出する、前記検出器。










【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−113005(P2006−113005A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−302887(P2004−302887)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(599034044)株式会社レイテック (5)
【Fターム(参考)】