説明

大面積有機電子デバイス

【課題】大面積有機電子デバイスを提供すること。
【解決手段】ドープ型導電性ポリマー緩衝層を有する大面積有機電子デバイスが記載されている。電極で被覆された大面積基材にドープ型導電性ポリマー緩衝層を適用する方法が記載されている。この方法には、マイクログラビア塗布またはメニスカス塗布のように連続塗布プロセスに使用しうるウェブ塗布法が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機電子デバイス用の導電性緩衝層に関し、特に、可撓性大面積OLEDなどの有機発光ダイオード(OLED)用の導電性緩衝層に関する。本発明はまた、緩衝層を適用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電子デバイスとは、有機物質の層を含み、そのうちの少なくとも一層が電流を通すことのできる物品である。有機電子デバイスの例は、有機発光ダイオード(OLED)である。OLEDは、ランプと呼ばれることもあり、断面が薄く、重量が小さく、しかも駆動電圧が低いので、すなわち、約20ボルト未満であるので、電子媒体で使用するのに望ましい。OLEDは、グラフィックス、ピクセル化ディスプレイ、および大型発光グラフィックスの背面照明などの用途に使用できる可能性がある。
【0003】
OLEDは、典型的には、有機光エミッター層と、エミッターの両側のさらなる有機電荷輸送層とからなっており、これらの層はいずれも、二つの電極、すなわち、カソードとアノードとの間に挟まれている。電荷輸送層には、電子輸送層および正孔輸送層が含まれる。電荷キャリヤー、すなわち、電子および正孔は、それぞれ、カソードおよびアノードから電子輸送層および正孔輸送層に注入される。電子は、負に帯電した原子的粒子であり、正孔は、あたかも正に帯電した粒子のような挙動を示す空の電子エネルギー状態である。電荷キャリヤーは、エミッター層まで移動して、そこで一緒になって光を放出する。
【0004】
図1は、一つのタイプの有機発光ダイオードを示している。ダイオードには、基材12、第一の電極(アノード)14、正孔輸送層16、発光層18、電子輸送層20、および第二の電極(カソード)22が含まれている。
【0005】
基材12は、透明であっても半透明であってもよく、たとえば、ガラス、あるいはポリオレフィン類、ポリエーテルスルホン類、ポリカーボネート類、ポリエステル類、およびポリアリーレート類のような透明プラスチックを含んでいてもよい。
【0006】
アノード14は導電性であり、場合により、透明であっても半透明であってもよい。この層に好適な材料としては、酸化インジウム、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化亜鉛、酸化バナジウム、亜鉛スズ酸化物、金、銅、銀、およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0007】
場合により存在しうる正孔注入層(示されていない)が、アノード14から正孔を受け取って、正孔輸送層16に渡すようにしてもよい。この層に好適な材料としては、ポルフィリン系化合物、例えば、銅フタロシアニン(CuPc)および亜鉛フタロシアニンが挙げられる。
【0008】
正孔輸送層16は、アノード層14からエミッター層18までの正孔の動きを容易にする。この層に好適な材料としては、たとえば、特許文献1および2に記載の芳香族第三級アミン物質、具体的には、4,4’,4”−トリ(N−フェノチアジニル)トリフェニルアミン(TPTTA)、4,4’,4”−トリ(N−フェノキサジニル)トリフェニルアミン(TPOTA)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD)、およびポリビニルカルバゾールが挙げられる。
【0009】
エミッター層18には、正孔と電子の両方を収容することのできる有機物質が含まれている。エミッター層18では、正孔および電子が一緒になって光を生じる。この層に好適な材料としては、たとえば、トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(AlQ)のような金属キレート化合物が挙げられる。当技術分野で報告されているように、エミッター層中で異なるエミッターおよびドーパントを使用することにより、異なる色の発光を得ることが可能である(非特許文献1を参照されたい)。
【0010】
電子輸送層20は、カソード22からエミッター層20までの電子の動きを容易にする。この層に好適な材料としては、たとえば、AlQ、ビス(10−ヒドロキシ−ベンゾ(h)キノリナト)ベリリウム、ビス(2−(2−ヒドロキシ−フェニル)ベンゾールチアゾラト)亜鉛およびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0011】
場合により存在しうる電子注入層(示されていない)が、カソード22から電子を受け取って、エミッター層20に渡すようにしてもよい。この層に好適な材料としては、LiF、CsFのような金属フッ化物のほかに、SiO2、Al23、銅フタロシアニン(CuPc)、ならびにLi、Rb、Cs、Na、およびKのうちの少なくとも一つを含むアルカリ金属化合物、たとえば、Li2O、Cs2O、およびLiAlO2などのアルカリ金属酸化物、アルカリ金属塩が挙げられる。
【0012】
カソード22は電子を提供する。それは透明であってもよい。この層に好適な材料としては、たとえば、Mg、Ca、Ag、Al、CaとMgの合金、およびITOが挙げられる。
【0013】
ポリ(フェニレンビニレン)(PPV)またはポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキシルオキシ)−1、4−フェニレンビニレン)(MEH−PPV)の単層が層16、18、および20として機能するポリマーOLEDを製造することが可能である。
【0014】
既知のOELデバイス構成体の実例としては、電荷運搬および/または発光種がポリマーマトリックス中に分散されている分子ドープされたポリマーデバイス(非特許文献2を参照されたい)、ポリ(フェニレンビニレン)のようなポリマーの層が電荷運搬および発光種の働きをする共役ポリマーデバイス(非特許文献3を参照されたい)、蒸着小分子へテロ構造デバイス(特許文献3および非特許文献4を参照されたい)、発光電気化学セル(非特許文献5を参照されたい)、および多波長発光の可能な垂直積層型有機発光ダイオード(非特許文献4および非特許文献6を参照されたい)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許第5,374,489号明細書
【特許文献2】米国特許第5,756,224号明細書
【特許文献3】米国特許第5,061,569号明細書
【特許文献4】米国特許第5,707,745号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】C.H.Chen,J.Shi,and C.W.Tang”Recent Developments in Molecular Organic Electroluminescent Materials”,Macromolecular Symposia 1997 125,1−48
【非特許文献2】J.Kido,”Organic Electroluminescent devices Based on Polymeric Materials,” Trends in Polymer Science,1994,2,350−355
【非特許文献3】J.J.M.Halls,D.R.Baigent,F.Cacialli,N.C.Greenham,R.H.Friend,S.C.Moratti,and A.B.Holmes,”Light−emitting and Photoconductive Diodes Fabricated with Conjugated Polymers,”Thin Solid Films,1996,276,13−20
【非特許文献4】C.H.Chen,J.Shi,and C.W.Tang,”Recent Developments in Molecular Organic Electroluminescent Materials,”Macromolecular Symposia,1997,125,1−48
【非特許文献5】Q.Pei,Y.Yang,G.Yu,C.Zhang,and A.J.Heeger,”Polymer Light−Emitting Electrochemical Cells:In Situ Formation of Light−Emitting p−n Junction,”Journal of the American Chemical Society,1996,118,3922−3929
【非特許文献6】Z.Shen,P.E.Burrows,V.Bulovic,S.R.Forrest,and M.E.Thompson,”Three−Color,Tunable,Organic Light−Emitting Devices,”Science,1997,276,2009−2011
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、動作信頼性を増大させるためにOLEDのような有機電子デバイスにおいて真性導電性ポリマーを含む緩衝層を電極層に隣接して設ける方法に関する。たとえば、緩衝層をアノード層と正孔輸送層との間に存在させてもよい。特に、緩衝層は、アノードとしての蒸気被覆インジウムスズ酸化物に依拠するOLEDの性能を改良することができる。有機電子デバイスにそのような緩衝層を設けることにより、電気的短絡や非放射領域(ダークスポット)のような動作不良を低減または排除することができる。
【0018】
予想外なことに、本発明者らは、マイクログラビア塗布またはメニスカス塗布のようなウェブ塗布法を用いることにより、薄くて均一で平滑なポリマー緩衝層が得られることを見いだした。これらの塗布法は連続プロセスに使用することができるので、有益な緩衝層を大面積OLED基材や連続基材シートに配設することが可能である。
【0019】
大面積ディスプレイを必要とする用途では、基材上または電極層上の欠陥の数を制御することがよりいっそう困難になる。本発明の緩衝層を用いると、これらの不完全さがOLEDの性能に及ぼす影響を最小限に抑えることができるので、信頼性のある大面積OLED(たとえば、250cm2以上の面積を有するもの、または少なくとも一つの寸法が25cmよりも大きいもの)の製造が可能である。
【0020】
本発明の一態様は、ドープされた導電性ポリマーで構成された緩衝層を電極層に隣接して有する有機電子デバイスを特徴とする。導電性ポリマーは、外部ドープされたものであっても自己ドープされたものであってもよい。電極は、インジウムスズ酸化物で構成されたアノードであってよい。有機電子デバイスは、たとえば、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(スチレン)、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスルホン、フルオロポリマー、ポリイミド、およびこれらのポリマーのハイブリッド、ブレンド、または誘導体のような材料で構成しうる可撓性基材を有していてもよい。
【0021】
本発明の他の態様は、マイクログラビア塗布法またはメニスカス塗布法を用いることにより、電極で被覆された基材を緩衝層で被覆する方法である。そのような方法を用いると、500〜5000Åの緩衝層が実現可能である。基材が平滑であるほど、緩衝層を薄くすることが可能である。好ましくは、緩衝層は500〜2000Åの厚さである。
【0022】
本発明のさらなる態様では、大面積有機電子デバイスに使用しうる、電極で被覆された基材の大きな物品またはシートに、導電性ポリマーを適用する連続法などの方法が提供される。この方法は、可撓性基材を用いて連続的に行うことができるので、ロールツーロール製造プロセスの実施が可能である。そのようなプロセスでは、電極で被覆された基材のシートはロールから連続的に送出され、塗布領域を通過して、他のロール上に巻き取られる。
【0023】
本明細書の中で使用する場合、
「ドーパント」とは、ポリマーの導電性を改変するために使用される添加剤を意味し、たとえば、塩基形のポリアニリン分子のイミン窒素が、酸性溶液へのポリアニリンの暴露によりプロトン化されて、ポリアニリンがその導電形に変換される場合、プロトンを提供する酸をドーパントと呼ぶことが可能であり、
「外部ドープされた(外部ドープ型)」とは、ポリマーの導電性を変化させることのできる追加物質にポリマーが暴露されることを意味し、たとえば、酸性溶液は、水素イオンを提供してポリアニリン分子にドープすることができると同時に、ポリマー分子に共有結合ではなくイオン結合される対イオンを提供することができ、
「自己ドープされた(自己ドープ型)」とは、ドープされるポリマーにドーピング部分が共有結合されていることを意味し、
「真性導電性」とは、多共役結合系を含有していて、金属粒子、カーボンブラックなどのような外部導電性物質の不在下で導電体の働きをすることのできる有機ポリマーを意味し、
「小分子OLED」とは、真空チャンバー中で電極基材上に蒸着されたその非ポリマー層を有してなる多層へテロ構造OLEDを意味し、この場合、「非ポリマー」とは、顕著な分解または他の化学変化を引き起こすことなく、熱的に蒸発させることのできる低分子量個別化合物を指し、
「ウェブ」とは、コーターまたは塗布ステーションを通って基材を搬送することのできる連続移動支持体を意味し、
「ウェブ塗布法」とは、基材の連続シートまたは一連の個別基材物品を連続的に被覆するのに好適な塗布法を意味する。
【0024】
本発明の少なくとも一つの実施形態の利点は、本明細書に記載されているような緩衝層をOLED電極層上に被覆することにより達成される電気的短絡の低減に起因したOLEDの欠陥の減少である。
【0025】
本発明の少なくとも一つの実施形態の他の利点は、連続ロールツーロールプロセスを用いて大面積の緩衝層被覆アノード/基材を製造できることである。このステップにロールツーロールプロセスを用いると、有機電子デバイスの製造において生産量の増大およびコストの削減が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一タイプの有機発光ダイオードの一般的構造を示す。
【図2】本発明の緩衝層を有する図1のOLEDを示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の緩衝層を有機発光ダイオード(OLED)のような有機電子デバイスで使用する場合、動作の信頼性を高めるうえで役立つこととしては、電気的短絡および非放射領域(ダークスポット)のような動作不良を低減または排除することが挙げられる。典型的な動作不良については、Antoniadas,H.,et al.,Failure Modes in Vapor−Deposited Organic LEDs,Macromol.Symp.,125,59−67(1997)に記載されている。OLEDの動作の信頼性は、いくつかの因子により影響を受ける可能性がある。たとえば、基材および電極層を構成する材料の表面内の欠陥、表面上の粒子、および表面の一般的な形態変化によって、OLEDで発生するおそれのある動作不良が起こったり増大されたりする可能性がある。このことは、米国特許第5、061,569号および同第5,719,467号に記載されているような小分子蒸着ランプの場合、特に問題である。
【0028】
小分子OLEDは、典型的には、ラインオブサイト蒸着プロセスを用いて被覆される。基材表面または電極表面に粒子または欠陥があると、ラインオブサイト蒸着プロセス時に電極表面を均一に被覆することが妨げられるおそれがある。不均一な被覆を施すと、電気的短絡を生じたり、陰影領域を生じたりする可能性がある。陰影領域は、水、酸素、および他の有害物質が種々のランプ層に接触してそれらを劣化させる経路を提供する。この劣化が起こるとダークスポットが形成されて、ますます大きな非放射領域を生じる可能性がある。コンフォーマル緩衝層によって提供される平面化は、これらの不完全さを軽減することができる。
【0029】
図2は、本発明の緩衝層15を有する図1のOLEDを含んでなるOLEDの構造を示している。緩衝層15には、どのタイプの導電性ポリマーが含まれていてもよいが、好ましくは、ポリアニリン、ポリピロール、およびポリチオフェンならびにこれらの材料とポリビニルアセテート(PVA)やポリメチルメタクリレート(PMMA)などの他のポリマーとのブレンドのような真性導電性ポリマー、より好ましくは同時係属米国特許出願(代理人事件整理番号54647USA1A)に記載されているような自己ドープ型ポリアニリンが含まれている。緩衝層15は、基材または電極の表面の不完全さおよび粒子により惹起されるOLEDの動作への悪影響を有利に低減または排除することができる。基材表面または電極表面の物理的突出、くぼみ、および大粒子のような不完全さを最小限に抑えるのに十分な厚さではあるがデバイスの効率を実質的に低減させるほど厚くはない緩衝層を適用することが可能である。不完全さが存在すると、短絡を生じたり、発光が低下したり、次の層をうまく適用することが難しくなったりするなどの問題を生じるおそれがある。ドープ型ポリマーはコンフォーマルに基材を被覆することによって基材表面または電極表面の不完全さおよび凹凸の悪影響を低減または排除すると考えられる。
【0030】
不完全さおよび凹凸はまた、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(スチレン)、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリスルホン、フルオロポリマー、ポリイミド、およびこれらのポリマーのハイブリッド、ブレンド、または誘導体のような可撓性透明基材材料の使用によっても悪化する可能性がある。これらのタイプの材料は、ガラスのようないくつかの不撓性基材よりも粗い傾向がある。さらに、ITOを含むアノード層などの電極層を可撓性基材に適用するために用いられる蒸着法は、電極表面を粗くする可能性がある。本発明者らは、緩衝層を形成する材料を2000Åまでの厚さでアノード層上に適用することにより、アノード層を有する基材の不完全さの悪影響を最小限に抑えることができた。5000Åまでの厚さを使用することが可能である。層は、不完全さを完全にカバーするのに十分な厚さであればよい。
【0031】
DC電圧を印加して発光させたところ、本発明の緩衝層を用いて製造されたOLEDは、緩衝層を有していないOLEDと比較して、電気的短絡数の顕著な減少を示した。このように電気的短絡が減少するため、本発明の連続ロールツーロール法により本発明の緩衝層で被覆された基材/アノード材料の可撓性シートから製造されたOLEDを含めて、信頼性のある大きなOLEDランプの製造が可能であった。
【0032】
予想外なことに、本発明者らは、OLEDポリマー層を塗布するために通常使用されるスピン塗布以外のポリマー塗布法を用いることにより、平滑で薄くて均一なコンフォーマル緩衝層が得られること見いだした。好適なポリマー塗布法としては、たとえば、輪転グラビア塗布やマイクログラビア塗布などのグラビア塗布、メニスカス塗布、スプレー塗布、米国特許第4,748,043号などに記載されているようなエレクトロスプレー塗布、ディップ塗布、バー塗布、ナイフ塗布、カーテン塗布、キス塗布、エアブレード塗布、押出塗布、スライド塗布、スロット塗布、静電塗布、リバースロール塗布やロールオーバーロール塗布などのロール塗布、精密ロール塗布、フレキソ印刷、およびこれらの方法の任意の組み合わせが挙げられる。他の好適な塗布法については、Liquid Film
Coating(Stephen F.Kistler and Peter M Schweitzer,editors,Chapman and Hill,1997)およびModern Coating and Drying Technology(Edward Cohen and Edgar Gutoff,editors,VCH Publishers,1992)に記載されている。マイクログラビア塗布法およびメニスカス塗布法が好ましい。直接マイクログラビア塗布およびオフセットマイクログラビア塗布については、たとえば、米国特許第5,710,097号の実施例2、米国特許第5,750,641号の実施例3、および米国特許第5,725,989号の実施例5に記載されている。スピン塗布とは異なり、これらの塗布法は連続塗布プロセスで有利に使用することができる。
【0033】
スピン塗布は、回転する基材上に遠心力により液体皮膜を拡げるバッチプロセスである。基材は、典型的には1,000〜10,000rpmの高速度で回転する。スピン塗布を用いると非常に薄くて均一なコーティングを得ることができる。しかしながら、基材を高速度で回転させる必要があるため、過剰の塗布液がすべてチャンバーに閉じ込められることになり、この技術によって実際に被覆することのできる基材のサイズは制限される。さらに、過剰の塗布液を回収して再循環させることが困難になる可能性がある。したがって、効率的な大量生産を行うには、スピン塗布と同様な品質のコーティングを提供することのできるウェブ塗布プロセスのような連続塗布プロセスを有していることが望ましい。また、スピン塗布よりも少ない塗布溶液を消費するバッチ塗布法に適合できる塗布法を有していることが望ましい。
【0034】
本発明で使用される多くのウェブ塗布法は、本発明の方法により個別物品をも被覆しうるようにバッチ塗布プロセスに有利に適合させることができる。たとえば、バー塗布、ディップ塗布、スプレー塗布、および他の方法が、バッチプロセスで使用可能である。バッチプロセスでは、たとえば、米国特許第4,984,532号に記載されているように、静止した基材物品上で塗布ヘッドを移動させることにより(たとえば、実施例2を参照されたい)、または固定塗布ヘッドの下で物品を移動させることにより、個々の物品を被覆することができる。
【0035】
本発明の塗布法に関連した利点は、厚さが約5000Åから500Å以下の薄さまでの層を供給できるという点にある。そのような薄い層を被覆することにより、薄い小型デバイスの製造が可能になる。しかしながら、コーティングがコンフォーマルでも均一でもなく欠陥を覆うことができないほど層を薄くしないことが好ましい。また、厚い層の形態で適用すると、いくつかの材料は透明度が低下することに注意しなければならない。厚い層はまた、デバイスの電気的性能および効率を低下させる可能性もある。好ましくは、被覆層は500〜2000Åの厚さである。
【0036】
緩衝層材料は、その溶解性に応じて、水溶液または有機溶液を用いて適用することが可能である。緩衝層を電極層にうまく接着させるべく、水溶液で湿潤させるのに十分な親水性をもたせるかまたは有機溶液で湿潤させるのに十分な疎水性をもたせるように電極層を前処理してもよい。アノード層の処理方法としては、O2プラズマによる表面処理、フッ化水素酸の適用、あるいは水酸化ナトリウムまたは水酸化テトラメチルアンモニウムのような強塩基の適用が挙げられる。表面処理を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
緩衝層を適用した後、乾燥させて塗布溶媒(たとえば、水)を除去しなければならない。周囲条件への暴露により緩衝層を乾燥させてもよい。乾燥時間を短くするために、たとえば、加熱したり、不活性ガスを適用したり、または減圧を行ったりしてもよい。
【0038】
これらの記載の塗布法は連続プロセスで使用することができるので、大面積有機電子デバイス用の緩衝層被覆基材の製造が可能である。大面積有機電子デバイスを収容することのできるスピンコーターを製造することは非現実的であり費用がかかるであろう。塗布法を用いると、たとえば、シリコンエレクトロニクス産業で典型的に使用されるスピンコーターに容易に入らないような大面積の物品に緩衝コーティングを便利に費用効率よく適用することが可能になる。通常、大面積の物品は、少なくとも250cm2の面積を有していてもよく、一般的には少なくとも500cm2、より一般的には少なくとも1000cm2の面積を有する。このほかに、大面積の物品としては、最大寸法(たとえば、長さまたは対角線の寸法)が25cm以上、一般的には50cm以上、より一般的には1m以上である物品が挙げられるであろう。大きな物品を収容するスピンコーターを製造することも可能ではあるが、物品が大きくなるほど、スピンコーターを使用するのに費用がかかり非現実的なものとなる。また、塗布法を用いると、基材材料の連続シートが容易に使用できるようになる。連続シートは、搬送装置の許容幅、たとえば、10cm、50cm、またはそれ以上の幅にすることができる。可撓性の基材材料を使用する場合、ロール間巻出巻取加工法を利用することが可能である。その後、緩衝層被覆基材の大きな物品またはシートを裁断して、さまざまな用途に合った指定の形状およびサイズを有する個別物品にすることが可能である。
【0039】
その後、たとえば、米国特許第5,747,182号および同第5,747,183号に記載されていようなOLED、または米国特許第5,574,291号および同第5,596,208号に記載されていような有機トランジスターを製造すべく、緩衝層被覆基材にさらに加工を施してもよい。
【実施例】
【0040】
以下の実施例により本発明について具体的に説明する。
【0041】
特に記載のない限り、化学薬剤はいずれも、Aldrich Chemicals,Milwaukee,WIから入手したものである。トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(AlQ)は、日本の熊本にある株式会社同仁化学研究所から入手した。インジウムスズ酸化物(ITO)で被覆されたガラス基材は、公称10〜100オーム/□のシート抵抗および300〜1500ÅのITO厚さを有する。可撓性ITO被覆ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)基材は、公称10〜100オーム/□のシート抵抗および400〜1400ÅのITO厚さを有する。
【0042】
OLEDを製造するための真空蒸着は、10マイクロトルの基準圧力で動作する油拡散ポンプと抵抗加熱により加熱される六つの蒸着物質源とを備えたエバポレーター真空チャンバー中で行った。堆積速度は、振動結晶厚さモニター(Inficon XTC/2,Leybold Inficon,East Syracuse,NY)を用いて監視した。基材は、名目上23℃に保持した。
【0043】
比較例1.ガラス基材上の外部ドープ型ポリアニリン
5cm×7.6cm×1mmのITO被覆ガラス基材(Thin Film Devices,Inc.,Anaheim,CA)をメタノールですすいで窒素流動下で乾燥させた。反応性イオンエッチャー(Micro−RIE series 80,Technics,Inc.,Dublin,CA)中において50ワットおよび200ミリトルの酸素の条件下で基材を4分間酸素プラズマ処理した後、スピンコーター(Headway Research,Inc.,Garland,TX)中に配置してキシレンで覆い、スピン乾燥させた。スルホン酸ドープ型ポリアニリンのキシレン溶液(固形分5重量%、Monsanto Co.,St.Louis,MOにより供給された非営利サンプル)を0.2μmのTEFLONフィルター(Gelman Sciences,Ann Arbor,MI)に通してからスライドを被覆した。スライドを5000rpmで20秒間回転させて厚さ約500Åのポリアニリン膜を得た。被覆スライドをエバポレーター真空チャンバー中に配置してチャンバーを密封し、約4×10-7トルまで減圧した。次の順序、すなわち、2Å/秒で200ÅのN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(TPD)正孔輸送層、3Å/秒で350ÅのAlQ電子輸送層、1Å/秒で10Åのフッ化リチウム、60Å/秒で5800Åのアルミニウム、および70Å/秒で2200Åのインジウムの順序で真空蒸着することにより、ポリアニリン表面上に発光構成体を製造した。チャンバーから取り出してすぐに、デバイスを電源に接続し、7.1Vの電圧を印加して20mA/cm2で動作させた。光は、1.35%の外部量子効率(QE)で放出された。United Photodetectors model #PIN−10Dシリコン光検出器(UDT Sensors,Hawthorne,CA)により測定したデバイスの光出力強度は、803カンデラ/m2であった。検定済みSD1000光ファイバー分光計(Ocean Optics,Inc.,Dunedin,FL)を用いてランプのエレクトロルミネセンス発光スペクトルを測定したところ、AlQのホトルミネセンススペクトルと同じであった。光出力はデバイス全体にわたり均一であり、デバイスには短絡がなかった。
【0044】
比較例2.ガラス基材上の外部ドープ型ポリアニリンおよび銅フタロシアニン
残りの層を堆積させる前にITO被覆基材上に2Å/秒で130ÅのCuPcを堆積させたこと以外は比較例1の場合と同じようにして、5cm×7.6cm×1mmのポリアニリン被覆ITO被覆ガラス基材を製造した。塗布チャンバーから取り出してすぐに、デバイスを電源に接続し、6.1Vの電圧を印加して20mA/cm2で動作させた。光は、0.91%の外部量子効率で放出された。デバイスの光出力強度は、543カンデラ/m2であった。光出力はデバイス全体にわたり均一であり、デバイスには短絡がなかった。
【0045】
実施例1.可撓性基材上の外部ドープ型ポリアニリン
アルゴン95%および酸素5%のスパッターガスを用いて8×10-3トルの圧力でDC平面マグネトロンスパッタリングにより真空ロールコーター中で厚さ0.125mm、幅15.2cmのPETフィルム約7.6mを処理することにより、ITO被覆ポリ(エチレンテレフタレート)(PET)を製造した。ITOスパッターターゲットは、90%のIn23および10%のSnO2を含み90%の密度を有する純粋99.99%のセラミックスであった。スパッタリングは、280ワットおよび350ボルトで0.80アンペアの電流を流して行った。16cm/分の速度でフィルムをコーターに通して処理した。被覆フィルムは、550nmに1/4波長反射極大を呈した。被覆フィルムのシート抵抗は、71〜83オーム/□の範囲であった。
【0046】
基材を脱イオン水ですすぎ、窒素ストリーム下で乾燥させ、次に、Tri−Helicalローラー(Quadローラーを使用してもよい)および三ステージオーブンを備えたマイクログラビアコーター(CAG−150−UV,Yasui Seiki USA Co.,Bloomington,IN)中に配置した。オーブンステージをコーター出口に最も近いステージからそれぞれ37.8℃、48.9℃、および26.7℃に設定した。比較例1に記載のドープ型ポリアニリン溶液を0.2μmのフィルターに通し、次に、トラフに移してマイクログラビア塗布に付した。リバースモードを用いて9.4m/分のライン速度で基材に塗布した。得られたドープ型ポリアニリン膜は、約2000Åの厚さであった。被覆基材の一部分を約12.7cm×17.8cmの大きさに被覆基材から切り取り、エバポレーター真空チャンバー中に配置し、そして比較例1に記載したような発光構成体として被覆した。ただし、500Åのアルミニウムを堆積させ、最終インジウム層は省略した。緩衝層は一様で均質であり、サンプルデバイスには電気的短絡がなく、そして25Vの印加電圧において3mA/cm2で光が一様に放出された。
【0047】
実施例1および比較例1の結果から分かるように、ポリマー緩衝層の適用に関してウェブ塗布プロセスはスピン塗布と同程度に効果的である。ウェブ塗布法を用いると、大きなランプ基材を連続的に容易に被覆することが可能になり、したがって、OLEDフィルムの大規模製造が可能になる。
【0048】
実施例2.可撓性基材上の自己ドープ型ポリアニリンのコーティング
約5cm×15cmの大きさの可撓性ITO被覆PET基材(Southwall Technologies,Palo Alto,CA)をエチルアルコールを用いて柔らかい布で清浄に払拭し、次に、金属イオンの含まれていない展開溶液(Shipley 319,Shipley Div.of Rohm and Haas,Marlboro,MA)中に30秒間浸漬し、その後、脱イオン水ですすいだ。二本ロールマイクログラビアオフセット塗布ヘッド(Precision Hand Proofer,Pamarco,Inc.,Roselle,NJ)を備えたフレキソ印刷インキプルーフィングユニット(Precision Proofer、Precision Proofing Co.,West Monroe,LAにより製造され、米国特許第4,984,532号に記載されている)のガラスプレート上に基材を掴持した。未濾過の水溶性75%スルホン化自己ドープ型ポリアニリン(Aldrich)のビードをマイクログラビアローラーの前でITO被覆基材上に配置し、基材上でローラーを一定の速度および圧力で移動させることによりポリアニリン溶液のコーティングを基材に適用した。熱風乾燥を行うことにより、厚さ約800Åのポリアニリン層を有する乾燥被覆基材を得た。被覆サンプルを蒸発チャンバー中に配置してチャンバーを密封し、そして約7μトルまで減圧した。次の順序、すなわち、1Å/秒で100Åの銅フタロシアニン(CuPc)、1Å/秒で200ÅのN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(TPD)、1Å/秒で350ÅのAlQ、1Å/秒で10Åのフッ化リチウム、および10Å/秒で1500Åのアルミニウムの順序で真空蒸着することにより、ポリアニリン表面上に発光構成体を製造した。
【0049】
サンプルデバイスは、15Vの印加電圧において3mA/cm2で光を一様に放出した。このデバイスは、平滑で均一な表面を有し、すなわち、目に見える欠陥や凹凸がなく、そして電気的短絡もなかった。
【0050】
この実験で使用した75%スルホン化ポリアニリンはもはや市販されていないが、日本の東京にある三菱レイヨン株式会社から100%スルホン化ポリアニリンが入手可能である。
【0051】
実施例2および比較例2の結果から分かるように、ポリマー緩衝層の適用に関してウェブ塗布プロセスはスピン塗布と同程度に効果的であり、しかもウェブ塗布法は静止した基材片を被覆するのに適合できる。
【0052】
本発明の他の実施形態は、添付の特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機電子デバイスの一部分を製造する方法であって、電極材料の層で被覆された基材を提供すること、および、ドープされた導電性ポリマーを含む緩衝層で電極層をウェブ塗布法により被覆することを含んでなる、方法。
【請求項2】
前記塗布法が、マイクログラビア塗布、メニスカス塗布、およびフレキソ印刷塗布からなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材が個別物品であり、そして前記ウェブ塗布法がバッチプロセスに適合されている、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記電極がアノードである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
有機電子デバイスの一部分を製造する連続法であって、電極材料の層で被覆された基材を移動ウェブ上に提供すること、および、ドープされた導電性ポリマーを含む緩衝層で電極層をウェブ塗布法により被覆することを含んでなる、連続法。
【請求項6】
前記ドープされた導電性ポリマーが自己ドープされたポリアニリンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
被覆された前記基材を乾燥させることをさらに含んでなる、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ドープされた導電性ポリマーで構成された緩衝層に隣接する電極層を含んでなる大面積有機電子デバイス。
【請求項9】
前記電極で被覆された基材材料が可撓性である、請求項5または8に記載の方法。
【請求項10】
前記基材材料が、場合によりロールツーロールデバイス上に提供される連続シートである、請求項1または9に記載の方法。
【請求項11】
前記デバイスが有機発光ダイオードである、請求項8に記載の有機電子デバイス。
【請求項12】
前記可撓性基材材料が、ポリエステル類、ポリカーボネート類、ポリ(メチルメタクリレート)類、ポリ(スチレン)類、ポリオレフィン類、ポリイミド類、フルオロポリマー類、ポリスルホン類、それらの誘導体、およびそれらの混合物からなる群より選択される、請求項9に記載の有機電子デバイス。
【請求項13】
前記基材が少なくとも500平方センチメートルの面積を有する、請求項8に記載の有機電子デバイス。
【請求項14】
前記緩衝層が500Åから2000Åまでの厚さである、請求項1、5、または8に記載の有機電子デバイス。
【請求項15】
前記緩衝層が、自己ドープされたポリアニリンなどのポリアニリン、ポリピロール、およびポリチオフェンからなる群より選択されたポリマーを含む、請求項8に記載の有機電子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−79707(P2012−79707A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−280886(P2011−280886)
【出願日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【分割の表示】特願2001−522611(P2001−522611)の分割
【原出願日】平成11年12月29日(1999.12.29)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】