説明

大麦パンの製造方法、及び大麦パン

【課題】従来の大麦パンに比べて比容積が大きく、膨らみが良好で柔らかい大麦パンを製造する方法、並びに該方法により製造された大麦パンを提供する。
【解決手段】大麦粉及びセルラーゼを含有するパン生地を発酵する工程及び該発酵物を焼成する工程を含む大麦パンの製造方法、及び該方法により製造された大麦パン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大麦パンの製造方法、及び該製造方法によって製造された大麦パンに関する。
【背景技術】
【0002】
大麦は食物繊維に富み、特に機能性の高いβ-グルカンを豊富に含んでいるため、大変優れた食品素材である。大麦の食品用途としては、麦飯、味噌、焼酎、及びビール、さらには大麦パンとしての食品用途が知られている。
【0003】
現在、大麦パンとして知られているものとしては、小麦粉の一部を大麦粉に置き換えて製造した大麦パンが挙げられる。しかしながら、小麦粉の一部を大麦粉に置き換えて製造した大麦パンは、大麦粉を主原料とするものではなく、さらに比容積が小さいため、硬くて食感が悪いものである。このように、大麦粉を含有する大麦パンは、比容積が小さいものとなり、その結果パンとして硬くて食感が悪くなってしまう。
【0004】
大麦粉を含有する大麦パンが、比容積が小さく、硬くて食感が悪い原因の一つとしては、大麦粉は単独ではグルテンネットワークを形成しないため、パン生地の発酵時の膨張が起こらないという原因が挙げられる。
【0005】
しかしながら、この原因を解消するために単に大麦粉にグルテンを添加して製パンを行ったとしても、比容積が小麦パンと比較して明らかに小さくなってしまい(約7割程度)、パンとして硬く食感が悪いものとなってしまうため、商品価値が低いものしか作ることができない。
【0006】
大麦粉にグルテンを添加して製パンを行った一例として、特許文献1が挙げられる。特許文献1では、大麦粉と玄米粉を混合して各種ミネラルや食物繊維に富むパンを製造することが主目的であり、大麦粉を含有した大麦パンの比容積及び柔らかさの改善を求めるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010‐022271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来の大麦パンに比べて比容積が大きく、膨らみが良好で柔らかい大麦パンを製造する方法、並びに該方法により製造された大麦パンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は鋭意研究の結果、大麦粉は、粒度分布から、粒度がより小さい第一成分と、粒度がより大きい第二成分の2成分に分けることができることを見出した。そして、第二成分が高い吸水性及び高い粘度という特徴を有していること、並びにこれらの特徴がセルロースの特徴に類似していることを見出した。さらに、第一成分のみを使用して製造したパンは、小麦粉を主原料としたパンと同様の比容積及び柔らかさを備えているが、第二成分のみを使用して製造したパンは、小麦粉を主原料としたパンに比べて比容積が著しく小さく、硬いパンであることを見出した。
【0010】
かかる知見から、本発明者等は、大麦パンが有する問題、すなわち比容積が小さくパンとして硬いという問題の原因は、大麦粉に含まれているセルロースであると考え、大麦粉中のセルロースを分解することにより大麦パンの上記問題を改善することができると考えた。
【0011】
本発明者等は、この考えに基づき、大麦粉にセルラーゼを添加して製パンすることにより、従来の大麦パンに比べて比容積が大きく、膨らみが良好で柔らかい大麦パンを製造することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、下記の構成を有するものである。
【0013】
項1. セルラーゼを有効成分とする大麦パン製造用添加剤。
【0014】
項2. 大麦粉及びセルラーゼを含有することを特徴とする大麦パン製造用組成物。
【0015】
項3. 大麦パン製造用組成物がグルテンを含有するものである、項2に記載の大麦パン製造用組成物。
【0016】
項4. 大麦粉が裸麦粉、六条大麦粉、二条大麦粉、及び四条大麦粉からなる群から選択される少なくとも1種である項2又は3に記載の大麦パン製造用組成物。
【0017】
項5. 大麦パン製造用ミックス粉である、項2〜4のいずれかに記載の大麦パン製造用組成物。
【0018】
項6. 項2〜5のいずれかに記載の大麦パン製造用組成物を含有するパン生地。
【0019】
項7. 項2〜5のいずれかに記載の大麦パン製造用組成物を含有する冷凍パン生地。
【0020】
項8. 項6に記載のパン生地を発酵する工程及び該発酵物を焼成する工程を含む大麦パンの製造方法。
【0021】
項9. 項8に記載の製造方法によって製造された大麦パン。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、従来の大麦パンに比べて比容積が大きく、膨らみが良好で柔らかい大麦パンを製造する方法、並びに該方法により製造された大麦パンを、簡便に提供することができる。
【0023】
そして、本発明に係る大麦パンの製造方法によれば、小麦粉を主原料とするパンと同等の比容積及び柔らかさを備える大麦パンを提供することもできる。
【0024】
また、本発明に係る大麦パンの製造方法によれば、機能性の高いβ-グルカンを豊富に含む大麦粉を高い割合で含みながらも、比容積が大きく、膨らみが良好で柔らかい大麦パンを製造することができる。
【0025】
さらに、本発明に係る大麦パンの製造方法は、比容積が大きく、膨らみが良好で柔らかい大麦パンを製造することができるため、これらの特性が必要なパン、例えば食パン、バターロール、デニッシュパン、各種菓子パン、蒸しパン、あんまん、肉まん、及び発酵ドーナツ等のパンであって大麦粉を含むパンの製造に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】裸麦粉、第一成分、及び第二成分の粒度分布を示す。
【図2】第一成分及び第二成分の顕微鏡写真を示す。
【図3】裸麦粉、第一成分、第二成分、及び強力粉の、アミログラムを示す。
【図4】第一成分又は第二成分の製パン結果を示す。
【図5】六条大麦粉又は裸麦粉にセルラーゼを添加した場合の製パン結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.定義
本発明において「大麦パン」とは、大麦粉を含む穀粉を水と混捏することにより得られた生地を発酵し、その後焼成することにより得られたものを意味する。ここで、本発明において「焼成」とは、穀粉に含まれるデンプンの糊化、及びタンパクの熱変性が起こる熱処理である限り特に限定されるものではなく、焼く、揚げる、又は蒸す等の処理が「焼成」に含まれる。
【0028】
本発明における「大麦パン」の具体例としては、食パン、フランスパン、ハードロール、バターロール、デニッシュパン、クロワッサン、他の各種菓子パン、蒸しパン、あんまん、肉まん、及び発酵ドーナツ等のパン類等が挙げられる。
【0029】
2.大麦パン製造用添加剤
本発明の大麦パン製造用添加剤は、セルラーゼを有効成分とするものである。
【0030】
大麦パン製造用添加剤とは、大麦パンの製造工程(以下「製パン工程」という)における焼成前の工程、具体的には穀粉を調製する(ミックス粉を調製する)工程、原材料を混捏する工程、パン生地を分割及び成形する工程、又はパン生地を発酵する工程等の製パン工程において、添加する剤を意味する。本発明の大麦パン製造用添加剤は、大麦パンの比容積をより大きくすることができるという観点、及び大麦パンの柔らかさをより柔らかくできるという観点から、製パン工程における穀粉を調製する(ミックス粉を調製する)工程、又は原材料を混捏する工程において添加される剤であることが好ましい。
【0031】
大麦パン製造用添加剤は、液体状のものであっても、粉末などの固体状のものであってもよい。
【0032】
本発明においてセルラーゼとは、セルラーゼ活性を有する酵素を意味する。セルラーゼとしては、製パン工程における焼成前の工程に添加することにより、大麦パンの比容積をより大きくすること及び大麦パンの柔らかさをより柔らかくすることができる限り特に限定されない。セルラーゼとしては、例えば、セルラーゼを産生する生物として公知の生物、具体的にはAspergillus niger等のAspergillus属に属する生物、Trichoderma reesei、Trichoderma viride及びTrichoderma Longibrachiatum等のTrichoderma属に属する生物に由来するセルラーゼ、好ましくはAspergillus属に属する生物に由来するセルラーゼ、より好ましくはAspergillus nigerに由来するセルラーゼが挙げられる。このようなセルラーゼは各種市販されており、例えばセルロシンAC40(エイチビィアイ株式会社製)、セルロシンT3(エイチビィアイ株式会社製)、Cellulase(MP biomedicals, LLC)等が挙げられる。上記はそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
セルラーゼの含有量は、特に限定されるものではないが、大麦パン製造用添加剤1gに対して、好ましくは100単位以上、より好ましくは500単位以上、さらに好ましくは1000〜12000単位、より好ましくは2000〜8000単位が挙げられる。本明細書において、セルラーゼ1単位は、カルボキシメチルセルロースナトリウム(pH4.2)を基質とし、40℃で1分間に1μmolのグルコースに相当する還元力の増加をもたらす酵素量と定義される。
【0034】
本発明の大麦パン製造用添加剤には、セルラーゼ活性を阻害しない限り、セルラーゼ以外の他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、酵素製剤に添加するものとして既知の成分、例えば緩衝剤、塩類、又はアスコルビン酸(ビタミンC)等のイーストフード類等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
本発明の大麦パン製造用添加剤は、製パン工程における焼成前の工程、具体的には穀粉を調製する(ミックス粉を調製する)工程、原材料を混捏する工程、パン生地を分割及び成形する工程、及びパン生地を発酵する工程等の製パン工程において添加することにより使用することができる。添加の方法は、特に限定されるものではなく、例えば混捏前の穀粉に混合する方法、混捏に使用する仕込み水に予め含ませる方法、混捏時に同時に添加する方法、及び混捏後の生地の分割及び成形時に添加して混合する方法等が挙げられる。大麦パン製造用添加剤の添加量は、特に限定されるものではないが、穀粉(グルテンを添加する場合は、穀粉及びグルテン)1kg当り、例えば100〜12000単位、好ましくは1000〜8000単位、より好ましくは2000〜6000単位、さらに好ましくは3000〜5000単位のセルラーゼが含有されるような添加量が挙げられる。
【0036】
本発明の大麦パン製造用添加剤を、製パン工程における焼成前の工程において使用することにより、従来の大麦パンに比べて比容積が大きく、膨らみが良好で柔らかい大麦パン、さらには小麦粉を主原料としたパンと同様の比容積及び柔らかさを備えた大麦パンを製造することができる。このことより、本発明の大麦パン製造用添加剤は、改質剤、膨張剤、パン生地膨張剤等として使用することができる。
【0037】
3.大麦パン製造用組成物
大麦パン製造用組成物は、製パンに使用する穀粉、及び必要に応じて製パンに使用する他の成分を混合したものであり、具体的な例として大麦パン製造用のミックス粉が挙げられる。
【0038】
本発明の大麦パン製造用組成物は、大麦粉(穀粉として又は穀粉の一部として)、及びセルラーゼを含有することを特徴とするものである。
【0039】
大麦粉としては、具体的には裸麦粉、六条大麦粉、四条大麦粉、及び二条大麦粉が挙げられ、好ましくは裸麦粉、又は六条大麦粉が挙げられ、より好ましくは裸麦粉が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
大麦パン製造用組成物中の穀粉重量に占める大麦粉重量の割合は、特に限定されるものではないが、大麦パン製造用組成物中に機能性の高いβグルカンをより多く含ませることができるという観点から、好ましくは20%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上、特に好ましくは80%以上である。この割合は100%であってもよい。本発明の大麦パン製造用組成物によれば、このように多量の大麦粉を含有していても、従来の大麦パンに比べて比容積が大きく、膨らみが良好で柔らかい大麦パン、さらには小麦粉を主原料としたパンと同様の比容積及び柔らかさを備えた大麦パンをも製造することができる。
【0041】
セルラーゼは上記「2.大麦パン製造用添加剤」に記載のものと同じものを使用することができる。
【0042】
セルラーゼの含有量は、特に限定されるものではないが、大麦パン製造用組成物によって製造される大麦パンの比容積をより大きくすることができるという観点、及び大麦パンの柔らかさをより柔らかくできるという観点から、大麦パン製造用組成物中の穀粉(グルテンを添加する場合は穀粉及びグルテン)1kg当り、例えば100〜12000単位、好ましくは1000〜8000単位、より好ましくは2000〜6000単位、さらに好ましくは3000〜5000単位の含有量が挙げられる。
【0043】
大麦パン製造用組成物には、製パンに使用することが知られている成分が含まれていてもよい。このような成分としては、大麦粉以外の穀粉(小麦粉、又は米粉等の穀粉)、グルテン、イースト、イーストフード、食塩、砂糖、ショートニング、脱脂粉乳、バター、マーガリン、ビタミンC、及びレシチン等が挙げられる。これらの他の成分の配合量は、製造するパンの種類に従って適宜決定することができる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
大麦パン製造用組成物には、グルテンが含有されていることが好ましい。含有されるグルテンは、精製されたグルテンでも良いし、穀粉に含まれているグルテンでも良い。グルテンの含有量は、特に限定されるものではないが、大麦パンの比容積をより大きくすることができるという観点、及び大麦パンの柔らかさをより柔らかくできるという観点から、穀粉100重量部に対して、5〜40重量部が好ましく、10〜30重量部がより好ましく、15〜25重量部がさらに好ましい。
【0045】
本発明の大麦パン製造用組成物を用いて、水と混捏することによりパン生地を製造することができる。
【0046】
本発明の大麦パン製造用組成物を使用してパン生地を製造することにより、従来の大麦パンに比べて比容積が大きく、膨らみが良好で柔らかい大麦パン、さらには小麦粉を主原料としたパンと同様の比容積及び柔らかさを備えた大麦パンを製造することができる。
【0047】
4.パン生地
本発明のパン生地は、上記「3.大麦パン製造用組成物」に記載の大麦パン製造用組成物を含有するパン生地である。
【0048】
パン生地は、大麦パン製造用組成物を用いて、水と混捏することにより製造することができる。大麦パン製造用組成物と混捏する水の量は、製造するパンの種類等により、適宜決定することができる。
【0049】
パン生地は、水との混捏後、適当な大きさに分割、成形、又は発酵させていてもよい。また、冷凍させたものであってもよい。冷凍方法は特に限定されるものではなく、例えば凍結乾燥する方法が挙げられる。
【0050】
本発明のパン生地を、必要に応じて、パン生地を分割及び成形する工程、及び/又はパン生地を発酵する工程等の工程に供し、その後該発酵物を焼成する工程に供することにより、大麦パンを製造することができる。
【0051】
本発明のパン生地を使用して大麦パンを製造することにより、従来の大麦パンに比べて比容積が大きく、膨らみが良好で柔らかい大麦パン、さらには小麦粉を主原料としたパンと同様の比容積及び柔らかさを備えた大麦パンを製造することができる。
【0052】
5.大麦パンの製造方法
本発明の大麦パンの製造方法は、上記「4.パン生地」に記載のパン生地を発酵する工程及び該発酵物を焼成する工程を含む大麦パンの製造方法である。
【0053】
大麦パンの製造方法は、上記工程を含むものであれば特に限定されず、直捏法、中種法、又はノータイム法等の公知の製パン方法を採用することができる。
【0054】
発酵の条件及び回数、並びに焼成の条件は、採用する製パン方法、大麦パンの種類、及び穀粉の組成等の条件により適宜決定することができる。
【0055】
大麦パンの種類としては、特に限定されるものではなく、例えば食パン、フランスパン、ハードロール、バターロール、デニッシュパン、クロワッサン、他の各種菓子パン、蒸しパン、あんまん、肉まん、及び発酵ドーナツ等のパン類等が挙げられる。
【0056】
本発明の大麦パンの製造方法によれば、従来の大麦パンに比べて比容積が大きく、膨らみが良好で柔らかい大麦パン、さらには小麦粉を主原料としたパンと同様の比容積及び柔らかさを備えた大麦パンを製造することができる。
【0057】
6.大麦パン
本発明の大麦パンは、上記「5.大麦パンの製造方法」に記載の大麦パンの製造方法によって製造された大麦パンである。
【0058】
本発明の大麦パンは、セルラーゼを含むことを特徴としており、この点で従来の大麦パンと区別することができる。セルラーゼを含むか否かは、例えば大麦パン中の成分をマススペクトロメトリーにより分析することにより調べることができる。
【0059】
本発明の大麦パンは、従来の大麦パンに比べて比容積が大きく、膨らみが良好で柔らかい。本発明の大麦パンのより好適なものは、小麦粉を主原料としたパンと同様の比容積及び柔らかさを備えている。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0061】
試験例1.裸麦粉の粒度による分別
裸麦をピンミルにて粉砕し、0.2 mmの篩を通したものを裸麦粉とした。裸麦粉をopening 53 μmの篩に通し、篩を通ったものを第一成分とし、篩を通らなかったものを第二成分とした。裸麦粉、第一成分、及び第二成分の粒度分布を、レーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製、SALD-2200)を用いて、乾式法で測定した。この結果を図1に示す。
【0062】
図1より、第一成分は粒径10〜20 μmを主体とする成分であり、第二成分は粒径50 μmより分布が増加し、200 μmを主体とする成分であることが分かった。
【0063】
さらに、第一成分及び第二成分を、走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、型番:JSM-5510LV)で観察した。倍率は500倍とした。この結果を図2に示す。
【0064】
試験例2.第一成分及び第二成分の特徴
裸麦粉、第一成分、第二成分、及び強力粉を測定対象粉として、炭水化物量、総澱粉量、食物繊維量、吸水性を表すパックドボリウム、及び粘度を表すアミログラムを測定した。
【0065】
炭水化物量は、五訂日本食品標準成分表に記載の方法に従い、定法によって測定した。
【0066】
総澱粉量は、総澱粉量測定キット(アイルランドメガザイム社製)によって測定した。具体的には、測定対象粉をαアミラーゼ処理することにより測定対象粉中の澱粉を完全に加水分解・可溶化し、さらにこれをアミログルコシダーゼでグルコースに完全に分解し、このグルコース量を吸光度測定によって測定し、この測定値に基づき総澱粉量を求めることによって測定した。
【0067】
食物繊維量は、食物繊維測定キット(シグマ社製)を用いて、プロスキー変法によって、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維を分別して定量することにより測定した。
【0068】
吸水性を表すパックドボリウムの測定は次の方法により行った。50 mlの目盛り付き共栓遠心沈澱管に測定対象粉5 gを量りとり、蒸留水40mlを加えてよく混合した後、一時間放置した。これを遠心分離器で、1,000 rpm、5分間遠心分離して、吸水後の測定対象粉の容積を読み取った。この容積を、吸水前の測定対象粉の重量(5 g)で除した値を、パックドボリウム(ml/g)とした。
【0069】
粘度を表すアミログラムは次の方法により行った。測定対象粉それぞれ45gを蒸留水450mlに懸濁させ、Viscograph-E(ブラベンダー社製)で粘度を測定した。(昇温速度1.5℃/分、測定レンジ700cmg、回転数75rpm)。
【0070】
炭水化物量、総澱粉量、食物繊維量、及びパックドボリウムの測定結果を表1に示す。アミログラムの測定結果を図3に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
炭水化物、総澱粉量、及び食物繊維の測定結果より、第一成分は主に澱粉であり、第二成分は食物繊維と澱粉の複合体であることが分かった。
【0073】
また、パックドボリウムの測定結果より、第二成分は、裸麦粉及び第一成分に比べて高い吸水性を示すことがわかった。アミログラムの測定結果より、粘度は、粘度が高い順に、第二成分>裸麦粉>第一成分であり、第二成分は高い粘度を示していることが明らかとなった。第二成分の高い吸水性と粘度は、食物繊維に起因していると考えられた。
【0074】
試験例3.第一成分及び第二成分の製パン上の特徴
下記表2に示す配合で、第一成分、第二成分、又は強力粉を穀粉として用いて、一次発酵を行わない方法(ノータイム法)にて製パン試験を行った。
【0075】
【表2】

【0076】
上記表2において、配合は、裸麦粉とグルテンを合計したもの、または強力粉を100としたものに対する重量部で示した。グルテンはグリコ栄養食品株式会社製のA-グルGを用いた。
【0077】
製パン試験の工程は下記工程(1)〜(6)の通りである。
(1)ミキシング:水以外の原料をミキサー(株式会社ダルトン製 万能混合攪拌機5DM-D3-R) に投入し低速で3分間ミキシングした後、水を加え低速3分、高速5分ミキシングする。
(2)分割、丸め:生地量200gずつ手分割し、丸める。
(3)ベンチ:30℃、20分間静置する。
(4)成形:パウンド型にワンローフ成形する。
(5)ホイロ:温度38℃80%で型上1.5cmまで発酵させる(約50分)。
(6)焼成:上火180℃、下火140℃にて15分間焼成する。
【0078】
結果を図4に示す。図4中、「小麦パン」は強力粉のみを穀粉として使用して製パンしたものを示し、「第一成分」は第一成分のみを穀粉として使用したものを示し、「第二成分」は第二成分のみを穀粉として使用したものを示す。
【0079】
試験例4.セルラーゼを含む大麦粉の製パン例
下記表3に示す配合で、セルラーゼ(セルロシンAC40(4000単位/g))を100mg添加区と無添加区、対照として小麦について、試験例3と同様に製パン試験を行った。
【0080】
【表3】

【0081】
上記表3において、配合は大麦粉とグルテンを合計したもの、または小麦粉を100としたものに対する重量部で示した。
【0082】
実施例1〜2、比較例1〜2、及び対照の製パン工程中の外観、柔らかさ、及び釜伸び、並びに焼成後のパンの内相状態、柔らかさ、及び比容積を評価した。焼成後のパンの比容積は菜種置換法により測定した。焼成後のパンの内相状態は、焼成後のパンの断面図を観察することにより評価した。比容積の測定値、及び焼成後のパンの柔らかさの評価を表4に示す。焼成後のパンの断面図を図5に示す。
【0083】
【表4】

【0084】
酵素無添加区の六条大麦(比較例1)と裸麦(比較例2)について、製パン工程での生地は硬く荒れていた。また焼成工程において、釜伸びはほとんど無かった。得られたパンも比容積が小さく内相もすだちが小さすぎるため、パンとして硬く低品質のパンであった。
【0085】
これに対し、酵素添加の実施例1,2では、比較例1及び2に比べて、製パン工程での生地は柔らかく、生地の伸びも良好であった。また、比較例1及び2に比べて、焼成工程における釜伸びは良好であった。さらに、比較例1及び2比べて、得られたパンは比容積が大きく内相も良好であり、柔らかく品質のよいパンであった。これらの特性は、強力粉で製パンを行った対照1と同程度またはそれ以上であった。
【0086】
以上の結果から、大麦粉を主原料とする製パンにおいて、適当量のセルラーゼを含む酵素剤を添加して製パンすることにより製パン性が飛躍的に向上することが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルラーゼを有効成分とする大麦パン製造用添加剤。
【請求項2】
大麦粉及びセルラーゼを含有することを特徴とする大麦パン製造用組成物。
【請求項3】
大麦パン製造用組成物がグルテンを含有するものである、請求項2に記載の大麦パン製造用組成物。
【請求項4】
大麦粉が裸麦粉、六条大麦粉、二条大麦粉、及び四条大麦粉からなる群から選択される少なくとも1種である請求項2又は3に記載の大麦パン製造用組成物。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれかに記載の大麦パン製造用組成物を含有するパン生地。
【請求項6】
請求項5に記載のパン生地を発酵する工程及び該発酵物を焼成する工程を含む大麦パンの製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の製造方法によって製造された大麦パン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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