説明

天井クレーンの補修方法

【課題】天井クレーンの大型部品の補修を移動式クレーンで容易に実施する方法を提供する。
【解決手段】天井クレーン3の大型部品を補修するにあたり、予め工場1の屋根2に、補修用移動式クレーン5のフック53が通過する開口部4を設けて該開口部4に蓋を被せておき、補修日には、前記開口部4の蓋を取り外して当該開口部4から移動式クレーン5のフック53を降ろして天井クレーン3の補修すべき部品を工場内で待機しているトレーラ7に載置し、該部品を補修作業場に搬出する。補修の完了した部品は再びトレーラ7により工場1に搬入され、移動式クレーン5により天井クレーン3に取り付けられる。その後、移動式クレーン5のフック53を前記開口部4から工場建屋1の外に出した後、前記開口部4に蓋を被せる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井クレーンの補修方法に関し、特に数十年に一度の頻度で発生する、大型部品を移動式クレーンで交換する補修を容易に実施する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場の建屋内に設置される機器や装置は、定期的な診断補修をうけることにより所定の性能を維持するよう設計されるので、その設置場所は必要な診断補修作業が可能なように選定されている。
【0003】
しかし、設備診断の結果、予期しない大型部品の交換が必要となった場合は、予め、交換作業の場や、当該部品の搬出、交換部品の搬入経路は準備されておらず、補修作業は難航することが多い。
【0004】
そのような事態を回避するため、例えば、原子力発電所の場合は、特許文献1、2が提案されている。特許文献1は、原子炉圧力容器(RPV)の交換を、原子炉建屋の屋根にレーザ切断機で設けた開口部を通して行うことが記載されている。
【0005】
特許文献2は、原子炉建屋内の大型構造物の取り扱い方法に関し、原子炉圧力容器を原子炉建屋から建屋の外のクレーンを使って搬出する際、開口部を構成する部材を格納する開口部格納設備を予め建屋内に設けた後、原子炉建屋の天井に原子炉圧力容器が通過する開口部を設けることが記載されている。
【0006】
開口部格納設備は、原子炉建屋屋根から撤去される屋根の一部、その下方となるデッキプレートの一部などが、使用済み燃料プール内に落下しないように格納する。
【0007】
また、特許文献3には、建屋内の天井クレーン等天井に近い部分の作業に好適な天井作業車とそれを用いた天井作業工法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−262190号公報
【特許文献2】特許第3551888号公報
【特許文献3】特開平4−80468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、製鉄所内には、天井クレーンを設置した大型工場が製品種別ごとに複数存在するのが普通で、当該天井クレーンの保守点検作業で巻き上げ機構など大型部品の交換作業が必要となる場合がある。
【0010】
天井クレーンの場合、工場建屋の建設時に建築鉄骨のハードポイントに滑車を設置して上架されが、同一ヤード内に複数の天井クレーンを上架することも珍しくない。
【0011】
しかし、天井クレーンは原材料や製品のハンドリングに使用され、多くの場合、代替できないため、天井クレーンで大型部品を交換する補修は生産停止や大幅な減産要因となり、他の地上設備の補修と同期して行い、減産を避けることが必要となる。
【0012】
例えば、製鉄所の製鋼工場の場合、事前に高炉の減風をして出銑量を下げておき、天井クレーンの修理のための工場休止に備える。同時に高炉、連鋳などの各工場も修理を行うことになる。
【0013】
保守点検が必要になった天井クレーンやその大型部品を当該ハードポイントを使用して下架させることは、他のクレーンによる作業を妨害することになり不可能である。ハードポイントの下方に地上設備が配置された場合は、ハードポイントを利用することもできない。
【0014】
また、天井クレーンの補修に移動式クレーンを用いる場合、工場建屋内での作業は、天井と大型部品の間に移動式クレーンの上部シーブとフックを入れて大型部品を吊り上げるだけの空間が不足するため不可能である。
【0015】
一方、工場建屋外から作業する場合は、上部シーブの他に補助ジブを使用して旋回半径を大きくし、工場の屋根を外して交換部品を上架することになる。
【0016】
しかしながら、雨天時に屋根を外す作業は危険で安全上許されず、作業日前に、好天の日に屋根を外したとしても、雨天となった場合は、工場内の設備や製品を濡れないようにする作業が必要となる。
【0017】
そして、上述したように、天井クレーンの補修は、補修計画、生産計画に多大な影響を与えるため、天候によって実施時期が左右されることは許されず、特許文献1〜3には、天井クレーンの大型部品を交換する補修方法は開示されていない。
【0018】
そこで本発明は、天井クレーンの補修において、数十年に一度の頻度で発生する、大型部品を移動式クレーンで交換する作業を天候に左右されずに実施する天井クレーンの補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の課題は以下の手段で達成可能である。
1.以下の工程を備えることを特徴とする移動式クレーンを用いた天井クレーンの補修方法。
(1)補修日を定めた後、当該補修日より前の天候の良い日に、補修の必要な天井クレーンが配置された工場の屋根に、補修に用いる移動式クレーンのフックが通過する開口部を設け、当該開口部に蓋を被せる工程。
(2)補修日に、前記移動式クレーンを前記工場の側に配置し、前記天井クレーンの下方には、前記天井クレーンから取り外した大型部品を搬出するトレーラを配置する工程。
(3)前記開口部から、前記移動式クレーンの移動式フックを工場建屋内に吊下して前記天井クレーンの補修対象となる部品を吊り上げる工程。
(4)前記天井クレーンを、前記トレーラ上から移動させた後、移動式クレーンの移動式フックを降下させて吊り上げている前記部品を前記トレーラ上に載置する工程。
(5)前記部品を載置した前記トレーラを補修作業場に移動させて、前記部品を補修し、補修後、前記補修された部品を前記トレーラに載置して前記移動式クレーンまで移動させる工程。
(6)前記移動式クレーンで補修された部品を前記天井クレーンより高く吊り上げた後、前記天井クレーンを前記補修された部品の下方に移動させ、前記移動式クレーンの移動式フックを下降させて前記天井クレーンに前記補修された部品を取り付ける工程。
(7)前記移動式クレーンの移動式フックを前記開口部から工場建屋の外にだした後、前記開口部に蓋を被せる工程。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、天候に左右されずに予め定めたスケジュールで補修作業を実施することが可能で、製鋼工場の天井クレーンの補修作業に適用した場合は、スケジュール変更がなくなるため前工程、後工程における生産調整も予定どおり実施され経済的効果が大きく産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施状況を説明する図。
【図2】本発明の実施状況を説明する斜方外観図。
【図3】本発明の実施状況を説明する図で、工場建屋内の配置を示す模式的平面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明する。
図1は本発明を適用する、天井クレーンの補修作業における移動式クレーン、工場建屋、および天井クレーンの配置の一例を示す。
【0023】
図において、1は工場建屋、2は屋根、3は天井クレーン、31は走行台車、32は部品、4は開口部、5は移動式クレーン、51は先端側ジブ、52はワイヤーロープ、53はフック、6は工場建屋1のランウエイガータを支える柱、7はトレーラを示す。
【0024】
本発明に係る天井クレーンの補修方法では、まず補修作業を行う日を定め、当日より前の天候の良い日に、補修の必要な天井クレーン3が配置された工場建屋1の屋根2に、補修に用いる移動式クレーン5の先端側ジブ51に取り付けられたワイヤーロープ52に吊り下げられるフック53が通過する最小限の開口部4を設ける。
【0025】
図2は開口部の構造を説明する図で、開口部4は周囲に囲い42を設けて煙突状とし、屋根の勾配で雨水が工場内部に降り込まないようにする。
【0026】
また、雨が降り込まないように蓋41を被せる。蓋41は移動クレーンフックで簡単に外せるように吊溝を設ける構造が好ましい。また、雨天でも開口部4に安全に近づけるように工場建屋1上に仮設アクセス通路12を設けることが望ましい。なお、建屋内にスペースがあればアクセス通路を固定して設けても良い。
【0027】
図3は、工場建屋1の模式的平面図を示し、転炉9、10、11用に3台の天井クレーンa,b,cが配設されている工場建屋1において天井クレーンbの補修を行う場合の天井クレーンの配置を示す。
【0028】
補修日においては、天井クレーンb(図1、2では、天井クレーン3として説明する)の補修作業を行うため、天井クレーンbを天井クレーンdとして示す位置、天井クレーンcを天井クレーンeとして示す位置まで柱6に設けられたレール(図示しない)によって移動させる。
【0029】
まず、移動式クレーン5を工場建屋1の側で、先端側ジブ51のワイヤーロープ52で吊り下げられるフック53を開口部4から工場建屋1内に吊下できる位置に配置する。
【0030】
天井クレーン3の下方には、補修のため、天井クレーン3から取り外した大型部品(例えば、走行台車31の走行機構)を搬出するトレーラ7を配置する(図1)。
【0031】
開口部4から、移動式クレーン5の移動式フック53を工場建屋1の内部に吊下して天井クレーン3の補修対象となる部品32を吊り上げる。図1は、その後、天井クレーン3を、トレーラ7の上方から移動させ、移動式クレーン5の移動式フック53を降下させて吊り上げている前記部品32をトレーラ7の上に載置した状態を示す(図1)。トレーラ7は、適宜、工場建屋1内から補修作業場に移動させて、前記部品32を補修する。
【0032】
移動式クレーン5の移動式フック53で補修された部品32を天井クレーン3の走行位置より高く吊り上げた後、天井クレーン3を、吊り上げた状態の補修された部品32の下方に移動させる。
【0033】
次に、移動式クレーン5の移動式フック53を下降させて、天井クレーン3に補修された部品32を取り付ける。最後に、移動式クレーン5の移動式フック53を吊り上げて開口部4から工場建屋1の外にだした後、開口部4に蓋41を被せる。
【符号の説明】
【0034】
1 工場建屋
2 屋根
3 天井クレーン
31 走行台車
32 部品
4 開口部
5 移動式クレーン
51 先端側ジブ
52 ワイヤーロープ
53 フック
6 柱
7 トレーラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を備えることを特徴とする移動式クレーンを用いた天井クレーンの補修方法。
(1)補修日を定めた後、当該補修日より前の天候の良い日に、補修の必要な天井クレーンが配置された工場の屋根に、補修に用いる移動式クレーンのフックが通過する開口部を設け、当該開口部に蓋を被せる工程。
(2)補修日に、前記移動式クレーンを前記工場の側に配置し、前記天井クレーンの下方には、前記天井クレーンから取り外した大型部品を搬出するトレーラを配置する工程。
(3)前記開口部から、前記移動式クレーンの移動式フックを工場建屋内に吊下して前記天井クレーンの補修対象となる部品を吊り上げる工程。
(4)前記天井クレーンを、前記トレーラ上から移動させた後、移動式クレーンの移動式フックを降下させて吊り上げている前記部品を前記トレーラ上に載置する工程。
(5)前記部品を載置した前記トレーラを補修作業場に移動させて、前記部品を補修し、補修後、前記補修された部品を前記トレーラに載置して前記移動式クレーンまで移動させる工程。
(6)前記移動式クレーンで補修された部品を前記天井クレーンより高く吊り上げた後、前記天井クレーンを前記補修された部品の下方に移動させ、前記移動式クレーンの移動式フックを下降させて前記天井クレーンに前記補修された部品を取り付ける工程。
(7)前記移動式クレーンの移動式フックを前記開口部から工場建屋の外にだした後、前記開口部に蓋を被せる工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−51662(P2011−51662A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199171(P2009−199171)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】