説明

天井クレーン及び天井クレーンの改修方法

【課題】天井面とのクリアランスに制限を受けることなく、地震発生時にクレーン本体に作用する荷重を低減する免震手段が組み込まれた天井クレーンを提供する。
【解決手段】本発明に係る天井クレーン10は、建屋B内の天井面Tの下方に配されたクレーン本体11と、クレーン本体11を支持し、レールR上を走行可能な走行部12と、レールRの延設方向と直交する横方向への相対移動を可能に走行部12とクレーン本体11とを連結するスライド機構13と、走行部12とクレーン本体11との相対移動を拘束するとともに、地震時には許容するトリガ機構14と、クレーン本体11に、横方向に対向する建屋B内の第二垂直壁面V2との間に取り付けられ、コイルスプリング19及びオイルダンパ20を有する復元・減衰機構15と、レールRの延設方向で第二垂直壁面V2を転動可能な転動部22と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建屋内の天井付近に設置される天井クレーン及び天井クレーンの改修方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重量物の吊り上げに使用されるクレーンとしては、港湾の岸壁に設置されて船舶へのコンテナの積み降ろしを行うコンテナクレーンや、コンテナの集積場所であるコンテナヤードに設置されて走行レーンを走行しながらコンテナの積み降ろしを行うRTG(ラバータイヤードガントリークレーン)や、工場等の建屋内の天井付近に設置されて各種資材の運搬を行う天井クレーン等が存在する。
【0003】
このようなクレーンには、大地震の発生時にも倒壊や破壊等することなく耐え得る構造が必要とされる。そして、このような構造を実現する手段の一つとして、免震装置の採用がある。すなわち、クレーン本体とそれを走行可能に支持する走行装置との間に免震装置を組み込み、大地震時にクレーン本体に作用する荷重をこの免震装置で低減するクレーンが従来提唱されている(例えば、特許文献1参照)。ここで、クレーンに採用する免震装置とは、走行装置に対してクレーン本体を水平方向へスライド可能とする水平スライド機構、スライドしたクレーン本体に復元力を付与する復元力機構、及びクレーン本体の振動を減衰させる減衰機構とを有するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−242062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のクレーンでは、クレーン本体と走行装置との間に上記のような免震装置を組み込むためのスペースを確保する必要がある。従って、免震装置を組み込んだクレーンは、免震装置のないものと比較すると、クレーン全体の高さが免震装置の高さ分だけ高くなる。しかし、特に天井クレーンは、建屋内に設置されるため天井面とのクリアランスに制限がある。従って、天井クレーンについては、クレーン本体と走行装置との間に免震装置を組み込むことは難しいという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、天井面とのクリアランスに制限を受けることなく、地震発生時にクレーン本体に作用する荷重を低減することが可能な天井クレーン及び天井クレーンの改修方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。すなわち、本発明に係る天井クレーンは、建屋内の天井下方に配されたクレーン本体と、前記クレーン本体を支持し、建屋に取り付けられたレール上を走行可能な走行部と、前記走行部と前記クレーン本体との間に設けられ、前記レールの延設方向と直交する横方向への相対移動を可能に前記走行部と前記クレーン本体とを連結するスライド機構と、前記スライド機構による前記走行部と前記クレーン本体との相対移動を拘束するとともに、地震時には許容するトリガ機構と、前記クレーン本体に、横方向に対向する建屋内の壁面との間で取り付けられ、横方向に復元力を作用する弾性要素及び横方向に減衰力を作用する減衰要素を有する復元・減衰機構と、前記復元・減衰機構と前記壁面との間に設けられ、前記レールの延設方向で壁面を転動可能な転動部と、を備えることを特徴とする天井クレーン。
【0008】
このような構成によれば、天井クレーンの荷役時及び走行時には、走行部とクレーン本体との相対移動がトリガ機構によって拘束されているため、クレーン本体は走行部と共にレール上を走行する。また、クレーン本体の走行に伴って、復元・減衰機構と壁面との間に設けられた転動部が、レールの延設方向で壁面を転動する。従って、復元・減衰機構と壁面とが直接接触する場合と比較すると、両者の間に作用する摩擦力が低減されるため、天井クレーンの走行が復元・減衰機構によって妨げられることがない。
【0009】
一方、地震発生時には、走行部とクレーン本体との相対移動がトリガ機構によって許容されるため、クレーン本体は走行部に対して横方向への相対移動を開始する。そうすると、転動部と壁面との接触により、復元・減衰機構が直ちに機能してクレーン本体の振動が減衰される。これにより、クレーン本体に倒壊や破損が生じるのを未然に防止することができる。
【0010】
また、復元・減衰機構がクレーン本体に対して建屋内の壁面との間で取り付けられるため、復元・減衰機構の組み込みによってもクレーン本体の最上部の高さ位置は変化しない。
【0011】
また、本発明に係る天井クレーンは、前記転動部が、前記壁面に押圧されていることを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、走行時に生じる走行部の横方向へのブレやレールのうねり等の影響を受けることなく、常に転動部が壁面に接触した状態で保持される。これにより、クレーン本体と走行部との相対移動の開始に伴い、復元・減衰機構を直ちに機能させることができる。
【0013】
また、本発明に係る天井クレーンは、前記復元・減衰機構が、前記クレーン本体の下面に取り付けられていることを特徴とする。
【0014】
このような構成によれば、天井クレーン全体としての高さに影響を与えることなく、復元・減衰機構を組み込むことができる。また、既存の天井クレーンに対して復元・減衰機構を後付けで組み込む改修作業を行う場合に、クレーン本体と走行部との間に復元・減衰機構を組み込む場合のようにクレーン本体を天井に向けてジャッキアップ等する必要がないため、簡略な作業での組み込みが可能である。また、クレーン本体のジャッキアップ等に時間を要さず、復元・減衰機構を天井クレーンに対して短時間で組み込むことができる。
【0015】
また、本発明に係る天井クレーンは、前記復元・減衰機構が、前記クレーン本体の側面に取り付けられていることを特徴とする。
【0016】
このような構成によれば、天井クレーン全体としての高さに影響を与えることなく、復元・減衰機構を組み込むことができる。また、既存の天井クレーンに対して復元・減衰機構を後付けで組み込む改修作業を行う場合に、クレーン本体と走行部との間に復元・減衰機構を組み込む場合のようにクレーン本体を天井に向けてジャッキアップ等する必要がないため、簡略な作業での組み込みが可能である。また、クレーン本体のジャッキアップ等に時間を要さず、復元・減衰機構を天井クレーンに対して短時間で組み込むことができる。
【0017】
また、本発明に係る天井クレーンは、前記スライド機構は、前記クレーン本体と前記走行部との間に介在された低摩擦滑り材であることを特徴とする。
【0018】
このような構成によれば、低摩擦滑り材の存在によってクレーン本体と走行部との間に作用する摩擦力が低減するので、クレーン本体と走行部とをスライドさせることで容易に相対移動させることができる。
【0019】
また、本発明に係る天井クレーンは、前記トリガ機構が、履歴減衰により前記走行部と前記クレーン本体との相対移動を減衰させる履歴型ダンパであることを特徴とする。
【0020】
このような構成によれば、復元・減衰機構の減衰作用に加えて、トリガ機構の履歴減衰を利用することにより、クレーン本体の振動を一層効率良く減衰させることができる。
【0021】
また、本発明に係る天井クレーンは、前記建屋内の壁面における前記転動部に対向する位置に、前記壁面を補強する補強部材が設けられたことを特徴とする。
【0022】
このような構成によれば、地震発生時にクレーン本体と走行部とが横方向へ相対移動しても、建屋の壁面が補強パネルによって補強されているため、クレーン本体から転動部を介して作用する荷重によって建屋が損傷するのを防止することができる。
【0023】
尚、補強パネルは、本実施形態のように板状の部材に限定されず、任意の形状に設計変更が可能である。しかし、本実施形態のように補強パネル及び補強パネルをそれぞれ板状の部材とすれば、材料としての高い強度によって耐荷重性を持つことに加えて、押圧板及び押圧板からそれぞれ受ける荷重をその面内で分散させることができるので、建屋の損傷をより確実に防止することができるという利点がある。
【0024】
また、本発明に係る天井クレーンの改修方法は、建屋内の天井下方に配されたクレーン本体と、前記クレーン本体を支持し、建屋に取り付けられたレール上を走行可能な走行部と、を有する天井クレーンの改修方法であって、前記走行部と前記クレーン本体との間に、前記レールの延設方向と直交する横方向への相対移動を可能に前記走行部と前記クレーン本体とを連結するスライド機構を設置する工程と、前記スライド機構による前記走行部と前記クレーン本体との相対移動を拘束するとともに、地震時には許容するトリガ機構を設置する工程と、前記クレーン本体に、横方向に対向する建屋内の壁面との間で、横方向に復元力を作用する弾性要素及び横方向に減衰力を作用する減衰要素を有する復元・減衰機構と、前記復元・減衰機構と前記壁面との間に、前記レールの延設方向で壁面を転動可能な転動部と、を設置する工程と、を含むことを特徴とする。
【0025】
このような方法によれば、横方向に対向する建屋内の壁面との間で、クレーン本体に復元・減衰機構を設置するので、復元・減衰機構の存在が天井クレーン全体としての高さに影響を与えない。従って、天井とのクリアランスに制限がある状態で設置された天井クレーンに対しても、復元・減衰機構を容易に組み込むことができる。また、走行部とクレーン本体との間に復元・減衰機構を組み込む場合と比較すると、長時間に亘ってクレーン本体を走行部からジャッキアップする必要がないため、改修作業の簡略化を図ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る天井クレーン及び天井クレーンの改修方法によれば、天井面とのクリアランスに制限を受けることなく、地震発生時にクレーン本体に作用する荷重を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第一実施形態に係る天井クレーンの全体構成を示す概略正面図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る天井クレーンの長手方向一端部を拡大した図であって、荷役時等の状態を示す図である。
【図3】本発明の第一実施形態に係る天井クレーンの長手方向一端部を拡大した図であって、地震発生時の状態を示す図である。
【図4】本発明の第一実施形態に係る天井クレーンの作用効果を示すグラフである。
【図5】本発明の第二実施形態に係る天井クレーンの長手方向一端部を拡大した図であって、荷役時等の状態を示す図である。
【図6】本発明の第二実施形態に係る天井クレーンの長手方向一端部を拡大した図であって、地震発生時の状態を示す図である。
【図7】本発明の第三実施形態に係る天井クレーンの長手方向一端部を拡大した図であって、荷役時等の状態を示す図である。
【図8】本発明の第三実施形態に係る天井クレーンの長手方向一端部を拡大した図であって、地震発生時の状態を示す図である。
【図9】本発明の第四実施形態に係る天井クレーンの長手方向一端部を拡大した図である。
【図10】本発明の第五実施形態に係る天井クレーンの長手方向一端部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
[第一実施形態]
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。まず、本発明の第一実施形態に係る天井クレーンの構成について説明する。図1は、第一実施形態に係る天井クレーン10の全体構成を示す概略正面図である。また、図2及び図3は、第一実施形態に係る天井クレーン10の長手方向一端部を拡大した図であって、図2は荷役時及び走行時(以下、「荷役時等」と略す)の状態を、図3は地震発生時の状態をそれぞれ示している。
【0029】
天井クレーン10は、図1に示すように、建屋B内の天井の付近に水平方向に延びるクレーン本体11と、このクレーン本体11の長手方向両端部にそれぞれ設けられた一対の走行部12と、同じくクレーン本体11の長手方向両端部にそれぞれ設けられた一対の免震手段23とを備えている。
【0030】
建屋Bは、図1に示すように、天井面Tと、天井面Tの両端部から鉛直下方に延びて向かい合う一対の第一垂直壁面V1と、これら第一垂直壁面V1の下端から水平方向建屋B内側にそれぞれ延びる左右一対の水平壁面Lと、これら水平壁面Lの内側端部から鉛直下方に延びて向かい合う一対の第二垂直壁面V2とを有している。これにより、建屋B内の上方の空間には、天井面Tと第一垂直壁面V1と水平壁面Lとに囲まれてクレーン設置空間KSが形成されている。また、一対の水平壁面Lのそれぞれには、第一垂直壁面V1及び第二垂直壁面V2に平行に、図1の紙面に直交する方向へ延びるようにして、レールRが敷設されている。
【0031】
(クレーン本体)
クレーン本体11は、クレーンガーダや桁と呼ばれて不図示のトロリ等を支持する構造体である。このクレーン本体11は、図1に示すように、一定の桁高さに形成された桁本体111と、この桁本体111の両端部から側方へそれぞれ張り出した一対の張り出し部112と、を有している。そして、桁本体111の両端部では、張り出し部112に向かって桁高さが徐々に低くなることにより、クレーン本体11の下面11Aが傾斜して形成されている。このように構成されるクレーン本体11は、建屋Bの天井面Tから若干のクリアランスC1を介した下方位置であってクレーン設置空間KSの内部に、水平方向に延びるように配置されている。
【0032】
(走行部)
走行部12は、クレーン本体11を走行可能に支持する役割を果たすものである。この走行部12は、図2に示すように、車輪121と、この車輪121を回転可能に軸支する支持部材122と、を有している。そして、車輪121の軸方向両端部には、大径の脱落防止片123がそれぞれ設けられ、車輪121の外周側に張り出している。
【0033】
このように構成される走行部12は、図2に示すように、その支持部材122が、クレーン本体11の長手方向端部に形成された張り出し部112の下面に、前記スライド機構13を介して取り付けられている。そして、クレーン本体11と一体化された走行部12は、その車輪121が、建屋Bの水平壁面Lに敷設されたレールRの上に配置される。これにより走行部12は、車輪121の回転に伴って、レールRの延設方向すなわち図2において紙面に直交する方向へ走行可能となっている。また、レールRを挟んで左右両側に脱落防止片123がそれぞれ位置することにより、車輪121がレールRの上から脱落することが防止されている。
【0034】
尚、走行部12は本実施形態の車輪121に限られず、クレーン本体11を走行可能に支持するものであれば足り、例えば無限軌道や、レールRと摺動するスライダー等であってもよい。
【0035】
(免震手段)
免震手段23は、地震発生時にクレーン本体11への振動の作用を低減する役割を果たすものである。この免震手段23は、図1に示すように、走行部12それぞれとクレーン本体11との間に介在された一対のスライド機構13と、走行部12それぞれとクレーン本体11との間に設けられた一対のトリガ機構14と、クレーン本体11において両端部にそれぞれ設けられた一対の復元・減衰機構15と、復元・減衰機構15それぞれと建屋Bとの間に設けられた一対の転動部22とを備えている。
【0036】
(スライド機構)
スライド機構13は、走行部12とクレーン本体11とをスライド可能に連結する役割を果たすものである。このスライド機構13は、いわゆる低摩擦滑り材からなる平板状の部材であって、図2に示すように、走行部12を構成する支持部材122の上面に固定されている。そして、このスライド機構13の上にクレーン本体11の下面11Aにおける長手方向端部が載置されることにより、スライド機構13に沿ったクレーン本体11のスライド移動が許容されている。なお、クレーン本体11に対してスライド機構13がより円滑に摺動するために、クレーン本体11の下面11Aにおけるスライド機構13に当接する箇所には、ステンレス鋼などの平板を固定することが望ましい。更に、不図示のガイドレール等に案内されることにより、クレーン本体11には、レールRの延設方向と略直交する横方向への移動のみが許容されている。
【0037】
尚、低摩擦滑り材としては、例えば大同メタル工業株式会社製のデバメタル(商品名)を用いることができる。またスライド機構13は、走行部12とクレーン本体11との間のスライドを円滑に行い得るものであればよく、本実施形態のように低摩擦滑り材に代えて転がり要素等であってもよい。また、本実施形態では、走行部12の支持部材122の上面にスライド機構13を固定したが、これに代えてクレーン本体11の下面11Aにスライド機構13を固定してもよい。更に、スライド機構13は、互いに摺動する一対の低摩擦滑り材のうち一方を走行部12の支持部材122の上面に固定し、他方をクレーン本体11の下面11Aに固定することで構成してもよい。
【0038】
(トリガ機構)
トリガ機構14は、走行部12とクレーン本体11との相対移動を拘束または許容する役割を果たすものである。このトリガ機構14は、図2に示すように、金属等からなる棒状の部材であって、その一端部がクレーン本体11の側面11Bに対して固定金具16を用いて固定されているとともに、その他端部が支持部材122に対して固定金具17を用いて固定されている。これにより、トリガ機構14は、走行部12とクレーン本体11との相対移動を拘束している。そして、このトリガ機構14は、天井クレーン10の荷役時等に横方向へ作用する荷重によっては破断しないが、地震発生時に横方向へ作用する過大な荷重によっては破断する程度の強度を有している。そして、破断することにより、トリガ機構14は、走行部12とクレーン本体11との相対移動を許容する。
【0039】
尚、本実施形態では、地震発生時に作用する荷重によって金属棒を破断させる、いわゆるパッシブ型のトリガ機構14を用いたが、これに代えて、電気制御を行って地震の振動を感知することで水平変位を許容する、いわゆるアクティブ型のトリガ機構14を用いてもよい。
【0040】
(復元・減衰機構)
復元・減衰機構15は、クレーン本体11に発生した振動を減衰させる役割を果たすものである。この復元・減衰機構15は、図2に示すように、クレーン本体11の下面11Aに取り付けられたブラケット部18と、このブラケット部18に一端部がそれぞれ取り付けられたコイルスプリング19(弾性要素)及びオイルダンパ20(減衰要素)と、コイルスプリング19及びオイルダンパ20の他端部がそれぞれ取り付けられた押圧板21と、を有している。
【0041】
ブラケット部18は、第二垂直壁面V2から受ける反力によらず復元・減衰機構15をクレーン本体11に対して確実に固定する役割を果たすものである。このブラケット部18は、図2に示すように、クレーン本体11の下面11Aに固定された第一固定板181及び第二固定板182と、第二固定板182から下方へ垂下する一対の垂下板183と、垂下板183それぞれの下端を互いに接続する接続板184と、この接続板184から更に下方へ垂下する取付板185と、これら各板の接続を構造的に補強する補強板186とを有している。
【0042】
ここで、図2に示すように、第一固定板181は、下面11Aであって桁本体111における水平な部分に固定されている。また、第二固定板182は、下面11Aであって桁本体111における傾斜した部分に固定されている。また、取付板185には、コイルスプリング19及びオイルダンパ20がそれぞれ取り付けられている。
【0043】
オイルダンパ20は、図2に示すように、シリンダケーシング201と、このシリンダケーシング201の内部に出没可能に設けられたピストンロッド202と、を有している。そして、シリンダケーシング201は、ブラケット部18の取付板185に固定されている。また、ピストンロッド202は、基端が押圧板21に固定されている。
【0044】
(転動部)
転動部22は、復元・減衰機構15と第二垂直壁面V2との接触を確保しながら、両者の間に作用する摩擦力を低減する役割を果たすものである。この転動部22は、断面略円形状を有する一対のローラであって、図2に示すように、復元・減衰機構15を構成する押圧板21により、鉛直軸回りに回転可能な状態でそれぞれ支持されている。
【0045】
(作用効果)
次に、本発明の第一実施形態に係る天井クレーン10の作用効果について説明する。まず、天井クレーン10の荷役時等には、図2に示すように、復元・減衰機構15を構成するコイルスプリング19は、取付板185と押圧板21との間で圧縮された状態となっている。これにより、押圧板21に支持された一対の転動部22は、コイルスプリング19から付勢力を受けることにより、第二垂直壁面V2に押圧された状態となっている。そして、これら一対の転動部22は、走行部12のレールRに沿った走行に伴って、レールRの延在方向に向かって第二垂直壁面V2を転動する。この時、転動部22と第二垂直壁面V2との間に作用する摩擦力は非常に小さいため、転動部22の第二垂直壁面V2への接触が天井クレーン10の走行の妨げになることはない。
【0046】
また、天井クレーン10の荷役時等には、コイルスプリング19の付勢力が、ブラケット部18及びクレーン本体11を介してトリガ機構14に作用する。更に、トリガ機構14には、走行時における走行部12の横方向へのブレ等によっても、横方向への荷重が作用する。しかし、前述のようにトリガ機構14は荷役時等に作用する荷重に耐え得るだけの十分な強度を有しているため、トリガ機構14が破断することはない。従って、図2に示すように、クレーン本体11と走行部12との相対移動は、トリガ機構14によって拘束された状態となっている。これにより、クレーン本体11と走行部12との横方向への相対移動は発生しない。
【0047】
一方、地震発生時にトリガ機構14に対して横方向への過大な荷重が作用すると、図3に示すように、固定金具16と固定金具17の間の位置でトリガ機構14が破断する。そうすると、トリガ機構14による拘束が解かれ、クレーン本体11と走行部12との相対移動が許容された状態となる。ここで、前述のように走行部12は、車輪121が有する一対の脱落防止片123によって横方向への移動が規制されている。従って、図3に矢印で示すように、クレーン本体11が横方向へ移動し、例えば図3ではクレーン本体11が第二垂直壁面V2に近付く方向へ移動する。
【0048】
クレーン本体11が第一垂直壁面V1に近付くと、図3に示すように、クレーン本体11に取り付けられた復元・減衰機構15も第二垂直壁面V2に接近することにより、復元・減衰機構15を構成するコイルスプリング19が図2に示す荷役時等より更に圧縮された状態となる。これにより、一対の転動部22は、荷役時等より更に強い付勢力をコイルスプリング19から受けることにより、第二垂直壁面V2に強く押圧される。これにより、コイルスプリング19からクレーン本体11に対して横方向への復元力が作用し、復元力を受けたクレーン本体11は第二垂直壁面V2から遠ざかる方向へ移動する。その後、コイルスプリング19が伸張すると、コイルスプリング19から引っ張り力を受けたクレーン本体11が第二垂直壁面V2に近付く方向へ移動する。このようにして、クレーン本体11が横方向へ振動し、その間にオイルダンパ20によってクレーン本体11に減衰力が作用する。これにより、地震によって作用した荷重を低減することが可能となっている。
【0049】
また、地震発生時には天井クレーン10に走行方向への過大な荷重が作用する場合もある。しかし、前述のようにスライド機構13はクレーン本体11に対して横方向への移動のみを許容し、走行方向への移動は許容していない。従ってこの場合、トリガ機構14は破断せず、クレーン本体11と走行部12とが一体としてレールRに対して走行方向へ滑ることにより、地震によって作用した荷重を逃がすことが可能となっている。
【0050】
このように、第一実施形態に係る天井クレーン10によれば、地震発生時に作用する荷重を低減させる復元・減衰機構15が、クレーン本体11と建屋Bの第二垂直壁面V2との間に設けられる。従って、復元・減衰機構15がクレーン本体11と走行部12との間に組み込まれる場合と比較すると、天井クレーン10全体としての高さを低く抑えることができる。これにより、建屋Bの天井面TとのクリアランスC1に制約を受けることなく、天井クレーン10に対して復元・減衰機構15を組み込み、スライド機構13とで免震手段23として免震効果を発揮させることができる。
【0051】
また、第一実施形態に係る天井クレーン10では、転動部22が第二垂直壁面V2に常時押圧された状態になっている。従って、地震発生時にトリガ機構14が破断してクレーン本体11と走行部12との相対移動が始まると、それと同時に第二垂直壁面V2から反力を受ける復元・減衰機構15が直ちに機能し始める。
【0052】
ここで、図4は、第一実施形態に係る天井クレーン10の作用効果を示すグラフであって、横軸は走行部12対するクレーン本体11の変位を、縦軸は復元・減衰機構15が第二垂直壁面V2から受ける反力をそれぞれ意味している。尚、図4における実線は、第一実施形態の天井クレーン10についての変位と反力の関係を意味し、図4における破線は、転動部22を設けずに第二垂直壁面V2から若干のクリアランスを空けて押圧板21を設けた場合における変位と反力の関係を意味している。
【0053】
この図4に破線で示すように、押圧板21と第二垂直壁面V2との間にクリアランスがある場合、クレーン本体11がこのクリアランスと等しい距離だけ変位する点Aに達するまでは、押圧板21は第二垂直壁面V2から離間しているため、第二垂直壁面V2から押圧板21に対して反力は作用しない。そして、点Aにおいて押圧板21と第二垂直壁面V2とが接触した後は、クレーン本体11の変位が増加するに伴って、押圧板21が受ける反力が大きくなる。これは、コイルスプリング19の圧縮量が大きくなって付勢力が増大すると、その反力も増大するためである。
【0054】
一方、図4に実線で示すように、押圧板21が第二垂直壁面V2に常時押圧されている場合、クレーン本体11が変位し始めると同時に、押圧板21が第二垂直壁面V2から受ける反力もこれに伴って大きくなる。以上より、第一実施形態に係る天井クレーン10によれば、地震発生時にクレーン本体11に同じ大きさの変位が生じても、図4の破線の場合と比較して押圧板21が第二垂直壁面V2からより大きな反力を受けてこれを低減するので、応答低減効果に優れるという利点がある。
【0055】
(既存の天井クレーンの改修手順)
尚、本実施形態に係る天井クレーン10は、新規に製作することはもちろん、建屋Bの内部に設置された既存の天井クレーン(不図示)に復元・減衰機構15を取り付ける改修作業を行うことによっても製作することが可能である。既存の天井クレーンを改修する場合、作業者は、まず図2に示す走行部12とクレーン本体11との間に、両者を相対移動可能に連結するスライド機構13を設置する。ここで、相対移動とは、レールRの延設方向と直交する横方向への移動を意味している。
【0056】
次に作業者は、クレーン本体11と走行部12とに跨がるようにしてトリガ機構14を設置する。より詳細には、作業者は、固定金具16を用いてトリガ機構14の一端部をクレーン本体11の側面11Bに固定するとともに、固定金具17を用いてトリガ機構14の他端部を走行部12の支持部材122に固定する。
【0057】
次に作業者は、クレーン本体11に復元・減衰機構15を取り付ける。より詳細には、作業者は、まず一対の転動部22を復元・減衰機構15にそれぞれ取り付ける。そして作業者は、この転動部22を一体化した復元・減衰機構15を、クレーン本体11に取り付ける。より詳細には、作業者は、一対の転動部22が第二垂直壁面V2にそれぞれ押圧されるようにして復元・減衰機構15を配置する。そして、復元・減衰機構15のブラケット部18において第一固定板181をクレーン本体11の桁本体111の下面11Aであって水平な部分に、第二固定板182を桁本体111の下面11Aであって傾斜した部分にそれぞれ固定する。以上により、既存の天井クレーンの改修作業が完了する。
【0058】
このような既存の天井クレーンの改修方法によれば、クレーン本体11の下面11Aに第一垂直壁面V1と対向するようにして復元・減衰機構15を設置するので、復元・減衰機構15の存在が天井クレーン10全体としての高さに影響を与えない。従って、天井面TとのクリアランスC1に制限がある状態で設置された天井クレーン10に対しても、復元・減衰機構15を容易に組み込むことができる。また、走行部12とクレーン本体11との間に復元・減衰機構15を組み込む場合と比較すると、長時間に亘ってクレーン本体11を走行部12からジャッキアップする必要がないため、改修作業の簡略化を図ることができる。
【0059】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態に係る天井クレーンの構成について説明する。図5及び図6は、第二実施形態に係る天井クレーン30の長手方向一端部を拡大した図であって、図5は荷役時等の状態を、図6は地震発生時の状態をそれぞれ示している。
【0060】
第二実施形態の天井クレーン30は、図2に示す第一実施形態の天井クレーン10と比較すると、クレーン本体11の側面11Bに復元・減衰機構31及び転動部33がそれぞれ取り付けられる点で、クレーン本体11の下面11Aに復元・減衰機構15が取り付けられる第一実施形態とは異なっている。尚、それ以外の構成及び作用効果は第一実施形態と同じであるため、図5及び図6では図2及び図3と同じ符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0061】
第二実施形態の復元・減衰機構31は、図5に示すように、コイルスプリング19と、オイルダンパ20と、押圧板21とを有する点で第一実施形態の復元・減衰機構15と共通している。しかし、コイルスプリング19及びオイルダンパ20が取り付けられたブラケット部32が、取付固定板321のみで構成される点で、第一実施形態とは異なっている。復元・減衰機構31のそれ以外の構成は、第一実施形態の復元・減衰機構15と同じである。
【0062】
このように構成される復元・減衰機構31は、図5に示すように、その取付固定板321が、クレーン本体11の長手方向端部に形成された張り出し部112の側面11Bに固定されている。そして、外力が作用しない状態では、復元・減衰機構31に取り付けられた一対の転動部33は、コイルスプリング19の付勢力を受けることにより、建屋Bの第二垂直壁面V2にそれぞれ押圧されている。
【0063】
このように構成される第二実施形態の天井クレーン30によれば、第一実施形態の天井クレーン10と同様に、荷役時等には、第二垂直壁面V2に押圧された一対の転動部33が、レールRの延在方向に向かって第二垂直壁面V2を転動する。従って、転動部33の第二垂直壁面V2への接触が、天井クレーン30の走行の妨げになることはない。また、第一実施形態の天井クレーン10と同様に、荷役時等にトリガ機構14が破断することはなく、従ってクレーン本体11と走行部12との相対移動は、トリガ機構14に拘束された状態となっている。
【0064】
一方、地震発生時にトリガ機構14に対して横方向への過大な荷重が作用すると、図6に示すようにトリガ機構14が破断する。そうすると、図6に矢印で示すように、クレーン本体11が横方向へ移動し、コイルスプリング19が図5に示す荷役時等より更に圧縮された状態となる。その後、第一実施形態と同様に、クレーン本体11が横方向へ振動し、その間にオイルダンパ20によってクレーン本体11の振動が徐々に減衰される。
【0065】
更に、第二実施形態の天井クレーン30によれば、復元・減衰機構31のブラケット部32が取付固定板321だけで構成されるので、第一実施形態の天井クレーン10と比較すると、復元・減衰機構31の構成を簡略化することができるという利点がある。
【0066】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態に係る天井クレーンの構成について説明する。図7及び図8は、第三実施形態に係る天井クレーン40の長手方向一端部を拡大した図であって、図7は荷役時等の状態を、図8は地震発生時の状態をそれぞれ示している。
【0067】
第三実施形態の天井クレーン40は、第一実施形態の天井クレーン10と比較すると、復元・減衰機構15がクレーン本体11の下面11Aに、復元・減衰機構31が側面11Bにそれぞれ取り付けられている。すなわち、クレーン本体11の下面11Aには第一実施形態と同じ構成の復元・減衰機構15及び転動部22がそれぞれ取り付けられ、クレーン本体11の側面11Bには第二実施形態と同じ構成の復元・減衰機構31及び転動部33がそれぞれ取り付けられている。尚、それ以外の構成は第一実施形態と同じであるため、図7及び図8では図2及び図3と同じ符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0068】
このように構成される第三実施形態の天井クレーン40によれば、第一実施形態の天井クレーン10と同様に、荷役時等には、図7に示すようにトリガ機構14は破断せず、クレーン本体11と走行部12との横方向への相対移動は発生しない。また、荷役時等には、第一垂直壁面V1及び第二垂直壁面V2に押圧された一対の転動部22及び一対の転動部33が、レールRの延在方向に向かって第一垂直壁面V1及び第二垂直壁面V2をそれぞれ転動する。従って、転動部22及び転動部33の第一垂直壁面V1及び第二垂直壁面V2への接触が、天井クレーン40の走行の妨げになることはない。
【0069】
一方、地震発生時にトリガ機構14に対して横方向への過大な荷重が作用すると、図8に示すようにトリガ機構14が破断する。そうすると、図8に矢印で示すように、クレーン本体11が横方向へ移動し、復元・減衰機構15のコイルスプリング19及び復元・減衰機構31のコイルスプリング19が、図7に示す荷役時等より更に圧縮された状態となる。その後、第一実施形態と同様に、クレーン本体11が横方向へ振動し、その間に復元・減衰機構15のオイルダンパ20及び復元・減衰機構31のオイルダンパ20によって、クレーン本体11の振動が徐々に減衰される。
【0070】
更に、第三実施形態の天井クレーン40によれば、復元・減衰機構15がクレーン本体11の下面11Aに設けられるとともに、復元・減衰機構31がクレーン本体11の側面11Bに設けられる。従って、地震発生時に天井クレーン40に作用する荷重が、転動部22と転動部33の二箇所において建屋Bの第一垂直壁面V1及び第二垂直壁面V2にそれぞれ伝達される。これにより、建屋Bに対して局所的に過大な荷重が作用して建屋Bが損傷することを未然に防止することができる。
【0071】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態に係る天井クレーンの構成について説明する。図9は、第四実施形態に係る天井クレーン50の長手方向一端部を拡大した図である。
【0072】
第四実施形態の天井クレーン50は、図5に示す第二実施形態の天井クレーン30と比較すると、トリガ機構51の構成だけが異なっている。それ以外の構成及び作用効果については第二実施形態と同じであるため、図9では図5と同じ符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0073】
第四実施形態のトリガ機構51は、金属等からなる棒状の部材である点で第二実施形態のトリガ機構14と同じであるが、いわゆる履歴型ダンパである点で第二実施形態のトリガ機構14とは異なっている。この履歴型ダンパとは、鋼材等の塑性変形による履歴減衰により地震エネルギーを吸収及び消散するダンパを意味し、本実施形態ではこの履歴型ダンパとして鋼棒ダンパを用いている。ここで、鋼棒ダンパを組成する材料としては、例えばSS400やSCM440などを用いることができる。尚、履歴型ダンパとしては、本実施形態の鋼棒ダンパに代えて、地震エネルギーを摩擦力により吸収する、いわゆる摩擦ダンパを用いてもよい。
【0074】
このようなトリガ機構51によれば、図に詳細は示さないが、天井クレーン50の荷役時等には、トリガ機構51に横方向への荷重が作用しても、トリガ機構51は破断しない。従って、クレーン本体11と走行部12との横方向への相対移動は発生しない。
【0075】
一方、地震発生時にトリガ機構51に対して横方向への過大な荷重が作用すると、トリガ機構51が曲げ降伏またはせん断降伏に達し、その後はトリガ機構51が塑性変形する。特に、トリガ機構51の塑性変形量が破断に至らない程度で大きくなった場合、図9(a)に示すように、復元・減衰機構31のコイルスプリング19が、荷役時等より更に圧縮された状態となる。これにより、トリガ機構51の履歴作用によるエネルギー吸収に加えて、復元・減衰機構31の作用によって、図9(b)に示すようにクレーン本体11の振動が減衰される。
【0076】
そして、クレーン本体11の振動が減衰されることによって、トリガ機構51の塑性変形量が小さくなると、図9(c)に示すように、復元・減衰機構31のコイルスプリング19は、荷役時等と同程度の圧縮状態に戻る。そして、その後はトリガ機構51の履歴作用によるエネルギー吸収のみによって、クレーン本体11の振動が減衰される。
【0077】
このように、第四実施形態の天井クレーン50によれば、復元・減衰機構31の減衰作用に加えて、トリガ機構51の履歴作用を利用することにより、クレーン本体11の振動を一層効率良く減衰させることができるという利点がある。
【0078】
尚、本実施形態では、図5に示す第二実施形態の天井クレーン30においてトリガ機構14を履歴型ダンパとしたが、これと同様に、図2に示す第一実施形態の天井クレーン10や、図7に示す第三実施形態の天井クレーン40においてトリガ機構14を履歴型ダンパとすることも可能である。
【0079】
[第五実施形態]
次に、本発明の第五実施形態に係る天井クレーンの構成について説明する。図10は、第五実施形態に係る天井クレーン60の長手方向一端部を拡大した図である。
【0080】
第五実施形態の天井クレーン60は、図7に示す第三実施形態の天井クレーン40と比較すると、建屋Bの第一垂直壁面V1及び第二垂直壁面V2に補強パネル61(補強部材)がそれぞれ貼り付けられている点で異なっている。それ以外の構成及び作用効果については第三実施形態と同じであるため、図10では図7と同じ符号を付し、ここでは説明を省略する。
【0081】
補強パネル61は、第一垂直壁面V1及び第二垂直壁面V2より高い強度を有する材料から形成され、例えば金属板等を用いることができる。この補強パネル61は、図10に示すように、第一垂直壁面V1及び第二垂直壁面V2の表面であって、転動部22及び転動部33に対向する位置にそれぞれ貼り付けられている。
【0082】
このような構成によれば、天井クレーン60の荷役時等には、コイルスプリング19から付勢力を受けた転動部22及び転動部33が、補強パネル61に対してそれぞれ押圧されている。そして、走行部12のレールRに沿った走行に伴って、転動部22及び転動部33は、高い強度を有する補強パネル61に対してそれぞれ摺動する。これにより、転動部22及び転動部33との摺動によって建屋Bの第一垂直壁面V1及び第二垂直壁面V2が摩耗することを、未然に防止することができる。
【0083】
また、地震発生時にクレーン本体11に対して過大な荷重が作用すると、図に詳細は示さないがトリガ機構14が破断する。そして、クレーン本体11と走行部12とが横方向への相対移動を開始すると、クレーン本体11に作用した過大な荷重は、転動部22及び転動部33から補強パネル61に対してそれぞれ作用する。これにより、転動部22及び転動部33との接触によって建屋Bの第一垂直壁面V1及び第二垂直壁面V2が損傷することを、未然に防止することができる。
【0084】
尚、補強パネル61は、本実施形態のように板状の部材に限定されず、任意の形状に設計変更が可能である。しかし、本実施形態のように補強パネル61を板状の部材とすれば、材料としての高い強度によって耐荷重性を持つことに加えて、押圧板21から受ける荷重をその面内で分散させることができるので、建屋Bの損傷をより確実に防止することができるという利点がある。
【0085】
尚、上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ、或いは動作手順等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【符号の説明】
【0086】
10 天井クレーン
11 クレーン本体
111 桁本体
112 張り出し部
11A 下面
11B 側面
12 走行部
121 車輪
122 支持部材
123 脱落防止片
13 スライド機構
14 トリガ機構
15 復元・減衰機構
16 固定金具
17 固定金具
18 ブラケット部
181 第一固定板
182 第二固定板
183 垂下板
184 接続板
185 取付板
186 補強板
19 コイルスプリング
20 オイルダンパ
201 シリンダケーシング
202 ピストンロッド
21 押圧板
22 転動部
23 免震手段
30 天井クレーン
31 復元・減衰機構
32 ブラケット部
33 転動部
321 取付固定板
40 天井クレーン
50 天井クレーン
51 トリガ機構
60 天井クレーン
61 補強パネル
C1 クリアランス
B 建屋
KS クレーン設置空間
L 水平壁面
R レール
T 天井面
V1 第一垂直壁面
V2 第二垂直壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建屋内の天井下方に配されたクレーン本体と、
前記クレーン本体を支持し、建屋に取り付けられたレール上を走行可能な走行部と、
前記走行部と前記クレーン本体との間に設けられ、前記レールの延設方向と直交する横方向への相対移動を可能に前記走行部と前記クレーン本体とを連結するスライド機構と、
前記スライド機構による前記走行部と前記クレーン本体との相対移動を拘束するとともに、地震時には許容するトリガ機構と、
前記クレーン本体に、横方向に対向する建屋内の壁面との間で取り付けられ、横方向に復元力を作用する弾性要素及び横方向に減衰力を作用する減衰要素を有する復元・減衰機構と、
前記復元・減衰機構と前記壁面との間に設けられ、前記レールの延設方向で壁面を転動可能な転動部と、
を備えることを特徴とする天井クレーン。
【請求項2】
前記転動部が、前記壁面に押圧されていることを特徴とする請求項1に記載の天井クレーン。
【請求項3】
前記復元・減衰機構が、前記クレーン本体の下面に取り付けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の天井クレーン。
【請求項4】
前記復元・減衰機構が、前記クレーン本体の側面に取り付けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の天井クレーン。
【請求項5】
前記スライド機構は、前記クレーン本体と前記走行部との間に介在された低摩擦滑り材であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の天井クレーン。
【請求項6】
前記トリガ機構が、履歴減衰により前記走行部と前記クレーン本体との相対移動を減衰させる履歴型ダンパであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の天井クレーン。
【請求項7】
前記建屋内の壁面における前記転動部に対向する位置に、前記壁面を補強する補強部材が設けられたことを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の天井クレーン。
【請求項8】
建屋内の天井下方に配されたクレーン本体と、前記クレーン本体を支持し、建屋に取り付けられたレール上を走行可能な走行部と、を有する天井クレーンの改修方法であって、
前記走行部と前記クレーン本体との間に、前記レールの延設方向と直交する横方向への相対移動を可能に前記走行部と前記クレーン本体とを連結するスライド機構を設置する工程と、
前記スライド機構による前記走行部と前記クレーン本体との相対移動を拘束するとともに、地震時には許容するトリガ機構を設置する工程と、
前記クレーン本体に、横方向に対向する建屋内の壁面との間で、横方向に復元力を作用する弾性要素及び横方向に減衰力を作用する減衰要素を有する復元・減衰機構と、前記復元・減衰機構と前記壁面との間に、前記レールの延設方向で壁面を転動可能な転動部と、を設置する工程と、
を含むことを特徴とする天井クレーンの改修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−91552(P2013−91552A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234961(P2011−234961)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(312005957)三菱重工マシナリーテクノロジー株式会社 (11)
【Fターム(参考)】