説明

天井ALC版剥落防止工法

【課題】社会資本の維持管理に極めて有効なALC版剥落防止工法を提供する。
【解決手段】天井ALC版1剥落防止工法である。天井ALC版1の下面にプライマー層4を形成し、次に、プライマー層4の表面に不陸を調整する素地調整層5を形成し、次に、素地調整層5の表面に下塗り層6を形成し、次に、下塗り層6に剥落防止ネット7を貼り付け、次に、剥落防止ネット7及び下塗り層6の表面に上塗り層8を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井ALC版剥落防止工法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度経済成長期に建設されたプラント系建物の天井材は、当時の技術情勢からALC(Autoclaved Lightweight aerated Concrete;軽量気泡コンクリート)版を用いて施工されたものが多い。その大部分は健全度が低下し、天井材としての機能が損なわれている状態にある。
【0003】
プラント系建物の天井材の健全度の低下要因としては、建屋内外の温度差が大きいこと、可動機器の振動により繰り返し応力を受けることが挙げられる。一方、ALC版の平均圧縮強度は4N/mm、ALC版のひび割れ時の曲げ応力強度は1.0N/mm(JASS21)とコンクリートに比べて小さく、プラント系建屋の建設資材としては耐久性が高いとは言い難い。一方、劣化したALC版を取り替えるには、雨天の作業ができない、屋上防水も併せて修繕する必要がある等、工事が大掛かりになりコストが高いという問題がある。このため、修繕して使用することが好ましい。
【0004】
コンクリート構造物の外壁の補修方法として、例えば、壁面全に樹脂を塗布し、有機物からなる網目状の織物で覆い、さらに樹脂を塗布して剥落防止層を形成し、剥落防止層をアンカーで躯体に結合させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
しかし、ALC版剥落防止工法は明確な技術指針として確立されておらず、各メーカーが個々の剥落防止工法で対応しているのが現状である。例えば、劣化したALC版の表面を高水圧で洗浄した後、被覆保護材を塗布する方法がある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−231881号公報
【特許文献2】特開2005−226231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、経年劣化の進んだALC版にアンカーを打ち込むと、打ち込みの振動からひび割れや剥落が生じるおそれがある。また、ALC版の表面を高水圧で洗浄した後、被覆保護材を塗布する方法は、プラント系の常時振動が発生する建物における剥落には追従できない。
【0008】
天井面のALC版に関しては、ほとんど修繕されていない状況であり、早急な健全性回復が望まれる。本発明の課題は、社会資本の維持管理に極めて有効な天井ALC版剥落防止工法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、天井ALC版剥落防止工法であって、天井ALC版の下面にプライマー層を形成し、次に、前記プライマー層の表面に不陸を調整する素地調整層を形成し、次に、前記素地調整層の表面に下塗り層を形成し、次に、前記下塗り層に剥落防止ネットを貼り付け、次に、前記剥落防止ネット及び前記下塗り層の表面に上塗り層を形成することを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の天井ALC版剥落防止工法であって、前記天井ALC版の中性化を回復する下地強化剤を前記天井ALC版の下面に塗布した後に前記プライマー層を形成することを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の天井ALC版剥落防止工法であって、前記上塗り層の表面にさらにトップコート層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、天井ALC版にアンカーを打ち込むことなく、修繕を行うことができる。このため、アンカー打ち込み時の振動がなく、ALC版の劣化を防ぐことができる。したがって、現状ではほとんど修繕されていない天井面のALC版を早急に修繕し、社会資本の維持管理を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る天井ALC版剥落防止工法により修繕された天井10を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明に係る天井ALC版剥落防止工法により修繕された天井10を示す断面図である。図1に示すように、天井ALC版1の下面には、下地強化層2、プライマー層4、素地調整層5、下塗り層6、剥落防止ネット7、上塗り層8、トップコート層9が順に積層されている。なお、天井ALC版1の下面に欠落がある場合には、あらかじめ欠落部に打継接着剤2が塗布され、欠落部に軽量エポキシ樹脂モルタル3が充填されることにより補修されている。
【0015】
天井ALC版1の下面は、あらかじめサンドペーパー掛けをされて不純物を除去した後、中性化の回復をする下地処理が施されている。サンドペーパー掛けには、例えば#80のサンドペーパーを用いることができる。
【0016】
中性化の回復には、下地強化剤を塗布することにより行う。これにより、今後の内部補強金の発錆を防止することができる。また、劣化したコンクリート強度を向上させ、補修材の接着面からの剥離を防止することができる。
下地強化剤としては、珪酸リチウム系含浸剤を用いることができる。珪酸リチウム系含浸剤としては、例えば、アルカードKL(エレホン・化成工業株式会社製)を用いることができる。
【0017】
プライマー層4は、ALC版に吸い込まれ一体化し、以後の素地調整層5等の天井ALC版1への密着性を良好にするものである。プライマー層4には、エポキシ樹脂を主成分とする材料を用いることができる。例えば、スリーロンジーF−271P(スリーボンドユニコム株式会社製)を塗布することでプライマー層を形成することができる。
【0018】
素地調整層5は、天井ALC版1の下面の不陸を調整するものである。素地調整層5には、例えばエポキシ樹脂パテを用いることができる。エポキシ樹脂パテには、例えば、スリーロンジーL660(スリーボンドユニコム株式会社製)を用いることができる。
【0019】
下塗り層6は、素地調整層5により平坦化された面に剥落防止ネット7を貼り付けるものである。下塗り層6には、例えばエポキシ樹脂等の含浸・接着剤を用いることができる。含浸・接着剤には、例えば、スリーロンジーL138(スリーボンドユニコム株式会社製)を用いることができる。
【0020】
剥落防止ネット7は、今後のALC版の剥落を防止するものである。剥落防止ネット7には、例えば、3軸ビニロンメッシュシートを用いることができる。3軸ビニロンメッシュシートとしては、例えば、トリネオTSS−1820(ユニチカ株式会社製)を用いることができる。剥落防止ネット7を設けることで、プラント系の常時振動が発生する建物においても剥落を防止することができる。
【0021】
上塗り層8は、下塗り層6への剥落防止ネット7の貼り付け後に上塗りされ、剥落防止ネット7の目止めをするものである。上塗り層には、下塗り層と同様の含浸・接着剤を用いることができる。
【0022】
トップコート層9は、耐候性、耐水性、耐酸性、耐アルカリ性を確保し劣化の進行を防止するものである。トップコート層9には、屋内で施工するために、臭気の少ない水性タイプのトップコート剤を使用することが好ましい。このような材料として、例えば、スリーロンジーA−210(スリーボンドユニコム株式会社製)を用いることができる。
【0023】
次に、天井10の修繕手順について説明する。
まず、天井ALC版1の下面のサンドペーパー掛けをし、不純物を除去する。なお、天井ALC版1の下面に欠落部がある場合には、あらかじめ欠落部に打継接着剤2を塗布し、軽量エポキシ樹脂モルタル3を欠落部に充填することにより補修しておく。
次に、天井ALC版1の下面に下地強化剤を塗布し、中性化を回復する。
【0024】
次に、下地強化剤を塗布した天井ALC版1の下面にプライマー層4を形成する。
次に、プライマー層4の表面にエポキシ樹脂パテを塗布し、不陸を調整する素地調整層5を形成する。
次に、素地調整層5の表面にエポキシ樹脂を塗布し、下塗り層6を形成する。
次に、下塗り層6に剥落防止ネット7を貼り付ける。
次に、下塗り層6及び剥落防止ネット7の表面にエポキシ樹脂を塗布し、上塗り層8を形成する。
【0025】
その後、上塗り層8の表面にトップコート剤を塗布し、トップコート層9を形成する。以上により、天井10の修繕が完成する。
なお、以上の実施形態において、サンドペーパー掛けの回数、下地強化剤の塗布回数、プライマーの塗布回数、トップコートの塗布回数等は任意である。
【0026】
このように、本発明に係る天井ALC版剥落防止工法によれば、天井ALC版にアンカーを打ち込むことなく、修繕を行うことができる。このため、アンカー打ち込み時の振動がなく、ALC版の劣化を防ぐことができる。したがって、現状ではほとんど修繕されていない天井面のALC版を早急に修繕し、社会資本の維持管理を行うことができる。
【符号の説明】
【0027】
1 天井ALC版
2 打継接着剤
3 軽量エポキシ樹脂モルタル
4 プライマー層
5 素地調整層
6 下塗り層
7 剥落防止ネット
8 上塗り層
9 トップコート層
10 天井

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井ALC版剥落防止工法であって、
天井ALC版の下面にプライマー層を形成し、
次に、前記プライマー層の表面に不陸を調整する素地調整層を形成し、
次に、前記素地調整層の表面に下塗り層を形成し、
次に、前記下塗り層に剥落防止ネットを貼り付け、
次に、前記剥落防止ネット及び前記下塗り層の表面に上塗り層を形成することを特徴とする天井ALC版剥落防止工法。
【請求項2】
前記天井ALC版の中性化を回復する下地強化剤を前記天井ALC版の下面に塗布した後に前記プライマー層を形成することを特徴とする請求項1に記載の天井ALC版剥落防止工法。
【請求項3】
前記上塗り層の表面にさらにトップコート層を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の天井ALC版剥落防止工法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−208418(P2011−208418A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76734(P2010−76734)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【出願人】(000132404)株式会社スリーボンド (140)
【出願人】(592082206)スリーボンドユニコム株式会社 (11)
【Fターム(参考)】