説明

天然ガス圧縮機

【課題】
グリースを封入した軸受を使用した無給油式の天然ガス圧縮機に於いて、グリースの粘度低下、グリースの経時的な減容を防止し、メンテナンスの軽減、メンテナンス費の低減を図る。
【解決手段】
回転軸受部3,12にグリースが封入された無給油式軸受が用いられる天然ガス圧縮機であって、前記軸受には下記化1で表されるPFPE系を基材とし、増ちょう剤としてPTFE、添加剤として亜硝酸ナトリウムを含有するグリースが封入された。
(化1)
F−(CF−CF−O)−CFCF

CF
(n=7〜60)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガスを高圧に圧縮する天然ガス圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス、例えば天然ガスをガス圧縮機で高圧に圧縮する場合、圧縮した天然ガスに潤滑油が混入することは好ましくない。この為、圧縮機の回転軸受部からの潤滑油の飛沫が発生することを避ける為、従来、ガス圧縮機には高粘度の鉱油系の汎用グリースが封入された軸受が用いられている。
【0003】
ところが、天然ガス雰囲気では天然ガスがグリースに溶込むという現象が見られる。天然ガスがグリースに溶込むことで気泡の発生、粘度低下を起し、封入したグリースが軸受から漏出して減容し、充分な潤滑が行えない状態となる。この為、グリースの補充の為、定期的なメンテナンスが必要となり、メンテナンスコストが高くなり、又稼働率が低下する。
【0004】
【特許文献1】特開2000−303088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は斯かる実情に鑑み、グリースを封入した軸受を使用した無給油式の天然ガス圧縮機に於いて、グリースの粘度低下、グリースの経時的な減容を防止し、メンテナンスの軽減、メンテナンス費の低減を図るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、回転軸受部にグリースが封入された無給油式軸受が用いられる天然ガス圧縮機であって、前記軸受には下記化1で表されるPFPE系を基材とし、増ちょう剤としてPTFE、添加剤として亜硝酸ナトリウムを含有するグリースが封入された天然ガス圧縮機に係るものである。
(化1)
F−(CF−CF−O)−CFCF

CF
(n=7〜60)
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回転軸受部にグリースが封入された無給油式軸受が用いられる天然ガス圧縮機であって、前記軸受には下記化1で表されるPFPE系を基材とし、増ちょう剤としてPTFE、添加剤として亜硝酸ナトリウムを含有するグリースが封入されたので、天然ガスがグリースに溶込むことが抑制され、粘度低下による軸受からの漏出を防止し、グリース不足による焼付き防止、メンテナンスの軽減、メンテナンス費の低減が図れるという優れた効果を発揮する。
(化1)
F−(CF−CF−O)−CFCF

CF
(n=7〜60)
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図面を参照しつつ本発明を実施する為の最良の形態を説明する。
【0009】
先ず、図1に於いて、本発明が実施される天然ガス圧縮機の概略を説明する。
【0010】
図1は、複数の圧縮ユニットを有する多筒式ガス圧縮機の、1つの圧縮ユニット、例えば高圧段の圧縮ユニット1を示している。
【0011】
図1中、2はクランクケースを示し、該クランクケース2にクランク軸3が回転自在に支持され、該クランク軸3にクランク軸受4を介してコネクティグロッド5が回転自在に設けられている。
【0012】
前記クランクケース2にはクロスヘッドガイド6が放射状に連設され、該クロスヘッドガイド6に該クロスヘッドガイド6と同一軸心上に高圧段シリンダ7が連設されている。又前記クロスヘッドガイド6の頭部には弁ユニット8が設けられている。
【0013】
前記クロスヘッドガイド6にはクロスヘッド9が摺動自在に嵌合され、前記高圧段シリンダ7にはピストン11が摺動自在に嵌合され、前記クロスヘッド9はクロスヘッド軸受12を介して前記コネクティグロッド5に連結され、前記ピストン11と前記クロスヘッド9とはピストンロッド13によって連結されている。
【0014】
モータ(図示せず)等の駆動源により、前記クランク軸3を回転させることで、前記コネクティグロッド5、前記クロスヘッド9、前記ピストンロッド13を介して前記ピストン11が前記高圧段シリンダ7内を往復動してガスを圧縮し、圧縮されたガスは前記弁ユニット8を介して吐出される。
【0015】
本発明に係るガス圧縮機の前記クランク軸3、前記クロスヘッド軸受12について説明する。
【0016】
前記クランク軸3、前記クロスヘッド軸受12は、それぞれグリースが封入された無給油式の軸受であり、封入されるグリースについて以下説明する。
【0017】
本発明者は、天然ガス雰囲気では天然ガスがグリースに溶込み、グリースの粘度が低下し、粘度低下により、グリースが軸受から漏出することを考慮し、天然ガスの溶込み防止、粘度低下防止を目的としてグリースの評価を行った。
【0018】
グリースを評価する場合の評価項目として、ちょう度、重量変化、構造変化を選択した。
【0019】
ちょう度について、ちょう度とグリースの漏れについての関係を図2に示す。
【0020】
図2に示される様に、ちょう度(JIS規格:JIS−K−2220で定められているグリースの硬さを示す値で、流動性を表す目安)と漏れ量(封入グリース重量に対する減少量の割合%)とは相関関係があり、ちょう度が増大(軟化)することに対して漏れ量も増大する。従って、ちょう度が増大するかどうかを評価の対象とした。
【0021】
又、品質の安定性を考慮してグリースの構造変化があるかどうか、物理的な安定性を考慮してグリースの減容があるかどうかを評価の対象とした。
【0022】
本発明は、実験等によりCNG(Compressed Natural Gas)に対しPFPE(パーフルオロポリエーテル:Perfluoropolyether)を基材とするグリースは相溶性がなく、又鉱油を基材とするグリース、ポリオールエステル系(POE)を基材とするグリースは相溶性があることを確認した。
【0023】
図3(A)は、CNG6kgf/cm圧力下で、500時間経過した場合の、PFPEを基材とするグリース(A-1〜A-4)のちょう度変化を示し、図3(B)は、同条件での鉱油系グリース(B-1〜B-4)のちょう度変化を示している。図3(A)中の、PFPEを基材とするグリースではちょう度は殆どが減少し、増加する場合も増加量は小さい。これに対し、図3(B)中の、鉱油系グリースでは、ちょう度の減少はなく、殆どが大きく増加している。
【0024】
又、図4は、CNG6kgf/cm圧力下で、500時間経過した場合の重量変化を示しており、PFPEを基材とするグリース(A-4)と鉱油系グリース(B-1)の重量変化が示されている。図示の如く、PFPEを基材とするグリースでは、時間の経過に拘らず重量変化はないが、鉱油系グリースでは時間と共に重量が増大する。
【0025】
尚、他のPFPEを基材とするグリース、他の鉱油系グリースはそれぞれ同様の傾向を示すので、図示を省略している。
【0026】
従って、本発明のガス圧縮機の軸受に使用するグリースにはちょう度の増大がなく、又重量の変化がないPFPEを基材とするグリースが適する。
【0027】
次に、CNG6kgf/cm圧力下での、PFPEを基材とするグリースの構造変化について評価した。
【0028】
図5は、PFPEを基材とするグリース(A-1)について、試験前、CNG6kgf/cm圧力下で336時間経過後のスペクトル変化(構造変化)を示している。
【0029】
図中、縦軸は吸収率、横軸は波長を示している。又、スペクトル曲線の実線は試験前、破線は経過後を示している。
【0030】
図6は、PFPEを基材とするグリース(A-2)について、試験前、CNG6kgf/cm圧力下で504時間経過後のスペクトル変化(構造変化)を示している。
【0031】
図中、スペクトル曲線の実線は試験前、破線は経過後を示している。
【0032】
図7は、PFPEを基材とするグリース(A-3)について、試験前、CNG6kgf/cm圧力下で672時間経過後のスペクトル変化(構造変化)を示している。
【0033】
図中、スペクトル曲線の実線は試験前、破線は経過後を示している。
【0034】
図8は、PFPEを基材とするグリース(A-4)について、試験前、CNG6kgf/cm圧力下で504時間経過後のスペクトル変化(構造変化)を示している。
【0035】
図中、スペクトル曲線の実線は試験前、破線は経過後を示している。
【0036】
図5〜図8に示される様に、PFPEを基材とするグリースでも構造の相違により、構造変化の程度に差異が生じることが分る。
【0037】
本発明では上記評価に基づき、PFPEを基材とするグリースの内、構造変化の少ないグリース(A-4)がガス圧縮機の無給油式の軸受に封入するグリースとして最適であると判断した。
【0038】
次に、グリース(A-4)について説明する。
【0039】
該グリース(A-4)は、下記(化1)で表されるPFPE系を基材とし、増ちょう剤として高分子量のPTFE(ポリテトラフルオロエチレン:Polyterafluoroethylen)を含有する。尚、含有されるPTFEの平均粒径は、5〜20μmが好ましい。
【0040】
又、30cSt@40℃、5cSt@100℃の粘度を有し、添加剤として亜硝酸ナトリウムが添加されている。尚、亜硝酸ナトリウムは金属へフッ素系グリースの吸着を促進する作用があると共に、軸受の寿命の延命化に貢献する。
(化1)
F−(CF−CF−O)−CFCF

CF
(n=7〜60)
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明が実施される天然ガス圧縮機の一例を示す断面図である。
【図2】封入グリースのちょう度と漏れ量との関係を示す線図である。
【図3】(A)(B)はCNG圧力下での封入グリースの平均ちょう度の変化率を示す図である。
【図4】CNG圧力下での封入グリースの重量変化を示す線図である。
【図5】PFPEを基材とするグリース(A-1)についての試験前後のスペクトル変化を示す線図である。
【図6】PFPEを基材とするグリース(A-2)についての試験前後のスペクトル変化を示す線図である。
【図7】PFPEを基材とするグリース(A-3)についての試験前後のスペクトル変化を示す線図である。
【図8】PFPEを基材とするグリース(A-4)についての試験前後のスペクトル変化を示す線図である。
【符号の説明】
【0042】
1 圧縮ユニット
3 クランク軸
4 クランク軸受
9 クロスヘッド
11 ピストン
12 クロスヘッド軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸受部にグリースが封入された無給油式軸受が用いられる天然ガス圧縮機であって、前記軸受には下記化1で表されるPFPE系を基材とし、増ちょう剤としてPTFE、添加剤として亜硝酸ナトリウムを含有するグリースが封入されたことを特徴とする天然ガス圧縮機。
(化1)
F−(CF−CF−O)−CFCF

CF
(n=7〜60)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−163923(P2008−163923A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145(P2007−145)
【出願日】平成19年1月4日(2007.1.4)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】