説明

天然物抽出清浄剤

【課題】 人体に悪影響を与えることが知られている活性酸素種やフリーラジカルを消去することができる天然物抽出清浄剤を提供すること。
【解決手段】 オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、カルバクロール、シトロネラール、サフロール、イソサフロール、ピペロナール、シンナムアルデヒド及びカルボンからなる群から選択される一種以上の精油成分と、沸点が140〜180℃のモノテルペン類とを含有することを特徴とする天然物抽出清浄剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は天然物抽出清浄剤に関する。より詳しくは、オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、カルバクロール、シトロネラール、サフロール、イソサフロール、ピペロナール、シンナムアルデヒド、カルボンなどの精油成分と、沸点が140〜180℃のモノテルペン類とを含有する天然物抽出清浄剤に関する。
本発明の目的は、人体に悪影響を与えることが知られている活性酸素種やフリーラジカルを消去することができる天然物抽出清浄剤を提供することにある。
【背景技術】
【0002】
フリーラジカルとは、不対電子を持つ化学種であり不安定で高い反応性を有する。炭素中心ラジカル、脂質ラジカル、脂質過酸化ラジカルなどが知られている。活性酸素種としては、スーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素などが知られており、このうち、スーパーオキサイドとヒドロキシラジカルはフリーラジカルでもある。
【0003】
生体中では、活性酸素種は、取り込んだ酸素分子を水分子までに還元する際の中間体として生成する。生体はスーパーオキサイドデスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどの活性酸素種の代謝不活化に関与する酵素類が存在しており、活性酸素種に対する防御機構を備えている。
また、生体は逆に活性酸素種を利用して、生体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物から身体を守る機構を備えている。
しかしながら、ストレスなどの様々な要因によって、生体内において活性酸素種が過剰に生成されると、ガン、動脈硬化、糖尿病、老化障害を始めとする様々な疾患の原因となる。
【0004】
活性酸素種の生成の原因として、近年、問題視されている物質として、ディーゼル排出微粒子(以下、DEPという場合がある。)がある。
ディーゼルエンジンからの排気ガスには、二酸化炭素、窒素酸化物、硫黄酸化物などの気体成分に加えて、DEPが含まれている。DEPはディーゼル燃料の不完全燃焼によって燃料中の炭素成分が重合化して生じたスス様粒子である。
DEPが花粉や粉塵などの一般の粒子状物質と大きく異なる点は、炭素重合化合物以外の多くの物質が含まれている点である。例えば、DEPの表面には、ディーゼル燃料や潤滑油を起源とする有機化合物がその表面に吸着している。この他、燃料中に存在する硫黄の酸化物や金属成分が含まれている。
DEPは大気中に浮遊する他の粒子状物質と比べて、粒子径が小さく、約10μm以下と言われている。このために、DEPは呼吸時に肺深部にまで吸いこまれる。
【0005】
DEPがもたらす生体への悪影響としては、呼吸器疾患の誘発(気道炎症や肺障害の発現)、内分泌作用の撹乱(生殖機能障害の発現)、アレルギー反応の増強作用(花粉症などの誘発)などが動物実験によって、実際に確認されている。
【0006】
DEPが生体に対して上記したような悪影響を与える原因の一つが、DEPに付着しているラジカルである。
DEPには、ディーゼル燃料の燃焼過程で発生した炭素中心ラジカル(不対電子が炭素原子上に存在)が付着していることが知られている。炭素中心ラジカルが酸素と反応すると、生体に有害な過酸化ラジカルが生じることが知られている。またDEPに由来するフリーラジカルには、表面付着物質の炭素中心ラジカルの二次生成物である、スーパーオキサイドラジカル及びヒドロキシラジカルなどが存在している。これらのフリーラジカルは、DEPが水に接触した場合に生成することが知られている。
【0007】
活性酸素種やフリーラジカルを消去することができる物質として、SOD、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどが知られているが、これらは酵素蛋白質であるため熱やpHなどに対する安定性が低く、また特定の種類の活性酸素種やフリーラジカルに対してのみ消去活性を発揮し、他の種類の活性酸素種やラジカルに対しては消去活性を発揮することはなかった。
【0008】
一方、酵素に比べて、熱やpHに対する安全性の高い精油、或いは精油に含まれる各種成分を活性酸素消去に利用する研究も行われており、例えば、特許文献1には、クローブ油又はデヒドロジオイゲノールからなる生体内の活性酸素消去剤が記載されている。
特許文献2には、コニホルミルベンゾエート、オイゲノール、デヒドロジイソオイゲノール、イソオイゲノールより選択された化合物からなる活性酸素消去剤が記載されている。
特許文献3には、ジヒドロオイゲノールB又はコニホルミルアルデヒドからなる活性酸素消去剤が記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開平3−227938号公報
【特許文献2】特開平3−263481号公報
【特許文献3】特開平4−69334号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記した活性酸素消去剤は、活性酸素種を消去することはできるものの、炭素中心ラジカル、脂質ラジカル、脂質過酸化ラジカルなどのフリーラジカルを消去することはできなかった。従って、DEPなどのように、様々な種類のフリーラジカルや活性酸素種が関与している場合、上記した活性酸素消去剤では充分に対応することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記した課題を解決するためになされた発明であって、請求項1に係る発明は、オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、カルバクロール、シトロネラール、サフロール、イソサフロール、ピペロナール、シンナムアルデヒド及びカルボンからなる群から選択される一種以上の精油成分と、沸点が140〜180℃のモノテルペン類とを含有することを特徴とする天然物抽出清浄剤に関する。
請求項2に係る発明は、オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、カルバクロール、シトロネラール、サフロール、イソサフロール、ピペロナール、シンナムアルデヒド及びカルボンからなる群から選択される一種以上の精油成分と、沸点が150〜170℃のモノテルペン類とを含有することを特徴とする天然物抽出清浄剤に関する。
請求項3に係る発明は、前記製油成分と前記モノテルペン類とを、重量比で1:0.01〜100の割合で含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の天然物抽出清浄剤に関する。
請求項4に係る発明は、オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、カルバクロール、シトロネラール、サフロール、イソサフロール、ピペロナール、シンナムアルデヒド及びカルボンからなる群から選択される一種以上の精油成分と、モノテルペン類とを含有し、前記モノテルペン類が、キャピラリーカラム(0.53mm×25m)、窒素キャリアーガスのガスクロマトグラフィーにおいて、100℃で10分間保持し、10℃/分で150℃まで昇温した後、7分30秒間保持し、160℃の検出温度で得られるガスクロマトグラムのリテンションタイムが3〜9分のピークを示すことを特徴とする天然物抽出清浄剤に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る天然物抽出清浄剤は、炭素中心ラジカル、脂質ラジカル、脂質過酸化ラジカル、スーパーオキサイド、ヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素などの活性酸素種やラジカルを消去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る天然抽出清浄剤について詳細に説明する。
本発明に係る天然抽出清浄剤は、有効成分として、オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、カルバクロール、シトロネラール、サフロール、イソサフロール、ピペロナール、シンナムアルデヒド及びカルボンからなる群から選択される一種以上の精油成分と、モノテルペン類とを含有する。
【0014】
本発明に係る天然抽出物清浄剤の第一の有効成分は、オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、カルバクロール、シトロネラール、サフロール、イソサフロール、ピペロナール、シンナムアルデヒド及びカルボンからなる群から選択される一種以上の精油成分である。
第一の有効成分である精油成分は、活性酸素種を消去することができる。
【0015】
オイゲノールは、チョウジ油、カッシア油、ショウノウ油などの精油中に幅広く存在しているチョウジ様の香気を有する精油成分である。
【0016】
イソオイゲノールはイランイラン中に存在する精油成分であり、シス体とトランス体が存在している。本発明では、シス体、トランス体、或いはこれらの混合物のいずれも好適に用いることができる。
【0017】
チモールは、タチジャコウソウ油、アジョワン油などに含まれているタチジャコウソウ油様の香気を有するとともに、刺激性の味のある精油成分である。
【0018】
カルバクロールは、各種シソ科の精油、特にオリガヌム油の主成分をなし、ヒメジツ油、ヒバ油などにも含まれている精油成分である。
【0019】
シトロネラールは、シトロネラ油、ゼラニウム油、バラ油などに存在するバラ様の香気を有する精油成分である。リモネン形とテルピノレン形が存在しているが、天然に存在するシトロネラールの殆どはテルピノレン形である。
【0020】
サフロールはサッサフラス油の主成分であり、この他、ショウノウ油、ダイウイキョウ油、ニッケイ油、オコチア油などの精油中に存在しているサッサフラス様の香気を有する精油成分である。
【0021】
イソサフロールは、イランイラン中に存在するといわれているアニス様の香気を有する精油成分である。シス体とトランス体が存在しているが、より安定なトランス体が大部分である。本発明では、シス体、トランス体のいずれも好適に使用することができる。
【0022】
ピペロナールは、ニセアカシアやシロバナシモツケなどの精油に含まれている精油成分である。
【0023】
シンナムアルデヒドは、カッシアの葉及び樹皮油、ニッケイの樹皮油の主成分である。この他、ミルラ油、パッチョリ油に存在する。
【0024】
カルボンには、d−カルボンとl−カルボンが存在しており、d−カルボンはカラウェー油の主成分である。l−カルボンはスペアミント油の主成分である。
【0025】
本発明では、上記した精油成分から選択された一種のみを配合することもでき、また上記した精油成分から選択された任意の二種以上を配合することもできる。
特に本発明では、上記した精油成分のうち、オイゲノール、シトロネラール、イソオイゲノール及びサフロールからなる群から選択された一種以上を用いることが好ましい。前記した精油成分は、活性酸素種を抑制する効果が高い。
【0026】
本発明に係る天然抽出物清浄剤の第二の有効成分はモノテルペン類であり、具体的には、炭化水素モノテルペン類である。
第二の有効成分であるモノテルペン類の沸点は、140〜180℃、好ましくは150〜170℃である。
また、第二の有効成分であるモノテルペン類は、キャピラリーカラム(0.53mm×25m)、窒素キャリアーガスのガスクロマトグラフィーにおいて、100℃で10分間保持し、10℃/分で150℃まで昇温した後、7分30秒間保持し、160℃の検出温度で得られるガスクロマトグラムのリテンションタイムが3〜9分、好ましくは4〜8分、より好ましくは5〜7分のピークを示す。
【0027】
このようなモノテルペン類としては、α−ピネン(4分17秒、沸点156℃)、カンフェン(4分42秒、沸点159℃)、β−ピネン(5分35秒、沸点165℃)、α−テルピネン(6分55秒、沸点174℃)、(+)−リモネン(7分21秒、沸点176℃)、(−)−リモネン(7分18秒、沸点176℃)、ミルセン(5分41秒、沸点167℃)、α−フェランドレン(6分27秒、沸点178℃)、(+)−3−カレン(6分38秒、沸点175℃)、p−シメン(7分22秒、沸点177℃)などを例示することができる。(但し、括弧内の時間は、前述の方法で測定したリテンションタイムである。)
【0028】
本発明では、これらモノテルペン類のうちの一種のみを配合することもでき、また上記したモノテルペン類から選択された任意の二種以上を配合することもできる。
【0029】
第二の有効成分であるモノテルペン類は、前記のモノテルペン類から選択した一種又は二種以上を配合することができるが、沸点が140〜180℃の精油成分を含む画分を、ヒノキ油などの精油から抽出して使用することもできる。
【0030】
第二の有効成分であるモノテルペン類は、本発明者らの実験によれば、活性酸素種やフリーラジカルを消去する能力は殆ど有していない。その一方で、モノテルペン類は活性酸素種やフリーラジカルの消去に関して、何らかの作用を有している。従って、第二の有効成分であるモノテルペン類は、直接的に活性酸素種やフリーラジカルを消去することは殆ど無いが、第一の有効成分である精油成分が活性酸素種やフリーラジカルを消去する補助的な作用を有しているものと考えられる。
【0031】
本発明に係る天然物抽出清浄剤は、第一の有効成分である精油成分と、第二の有効成分であるモノテルペン類を、任意の割合で含有することができる。第一の有効成分である精油成分と、第二の有効成分であるモノテルペン類は、重量比で1:0.01〜100の割合で含有することが好ましく、1:0.1〜10の割合で含有することがより好ましい。
【0032】
本発明に係る天然抽出清浄剤は、必須成分として、第一の有効成分である精油成分と、第二の有効成分であるモノテルペン類とを含有しているので、活性酸素、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、炭素中心ラジカルなどの活性酸素種やラジカルを消去することができる。
【0033】
本発明に係る天然物抽出清浄剤の形態は特に限定されず、有効成分である精油成分とモノテルペン類とを単に混合して液状のまま供給することもでき、また有効成分である精油成分とモノテルペン類とを、水やエタノールなどの任意の希釈溶媒に溶解又は懸濁させることもできる。天然物抽出清浄剤を溶媒に溶解又は懸濁する際に、天然物抽出清浄剤の溶媒への分散性や溶解性が低い場合、メチルセルロース、デキストリン、シクロデキストリン、水溶性デキストリン、ポリデキストロースなどを添加することで、希釈溶媒への溶解性や分散性が高まる。
また、カルボキシメチルセルロース等の賦形剤を用いて粉状、粒状、顆粒状などの形態に調製しても構わない。
【0034】
本発明に係る天然物抽出清浄剤は、排ガス処理剤、空気清浄剤、芳香剤組成物、消臭剤組成物、化粧料組成物、医薬品、食品組成物などの様々な用途に利用することができる。
【0035】
本発明に係る天然物抽出清浄剤は、排ガス処理剤として利用することができる。排ガス処理剤として利用することによって、ディーゼルエンジンなどから排出される排ガス中に含まれている活性酸素種やフリーラジカルを除去することができる。
本発明に係る天然物抽出清浄剤を含有する排ガス処理剤によって、排気ガスを処理するには、排気ガスと排ガス処理剤とを接触させて、排ガス処理剤と排ガス中のDEPなどの原因微粒子とを接触させる。排ガス処理剤の有効成分は精油成分と、沸点が140〜180℃のモノテルペン類であるので、排気ガスの熱によって容易に気化するので、DEP等の原因微粒子との接触を容易に行うことができる。
DEP等の原因微粒子に接触した排ガス処理剤はDEP中に含まれるフリーラジカルや活性酸素種を消去するとともに、原因微粒子同士を凝集させることができる。凝集した微粒子はサイクロン等の通常の固気分離装置によって回収することができる。
【0036】
本発明に係る天然物抽出清浄剤は空気清浄剤として利用することができる。空気清浄剤として利用することで、室内、車内などの空気中に存在している活性酸素種やフリーラジカルを除去して、空気を清浄化することができる。
本発明に係る天然物抽出清浄剤を空気清浄剤として利用するには、例えば、空気清浄器によって吸引した空気と、気化させた空気清浄剤とを接触させて、空気中のフリーラジカルや活性酸素種を消去する。
【0037】
本発明に係る天然物抽出清浄剤は、芳香剤組成物や消臭剤組成物に配合することができる。本発明に係るラジカル消去剤を芳香剤組成物や消臭剤組成物に配合すれば、室内や車内などの悪臭を除去(マスキング)するとともに、室内や車内環境に存在しているラジカルや活性酸素種を除去することが可能となる。
例えば、非イオン性界面活性剤などの界面活性剤、芳香族アルコール、高級アルコール、多価アルコール、炭化水素油、エステル油、シリコーン油などの油剤、揮発性溶剤、高分子、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの成分を適宜配合することができる。
芳香剤組成物や消臭剤組成物の形態は特に限定されず、液体タイプ、スプレータイプ、固形(ゲル)タイプなどが挙げられるがこの限りではない。
【0038】
本発明に係る天然物抽出清浄剤は、化粧料組成物に配合することもできる。本発明に係る天然物抽出清浄剤を化粧料組成物に配合すれば、紫外線や空気汚染物質による皮膚上の活性酸素やフリーラジカルの生成を抑制することが可能な化粧料組成物を提供することができる。
本発明に係る天然物抽出清浄剤を配合して、化粧料組成物を調製する場合、通常の化粧料組成物に配合されている成分、例えば、油脂、ロウ類、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、ステロール、脂肪酸エステル、界面活性剤、高分子化合物、色材、香料、防腐殺菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、収斂剤、ビタミン類、ホルモン類などを適宜任意に配合することができる。
化粧料組成物の形態は特に限定されず、石鹸、シャンプー、ボディシャンプー、洗顔クリームなどの洗浄用化粧料、乳液、化粧水、ローション、口紅、ファンデーション、アイシャドーなどの皮膚用化粧料、ヘアオイル、ポマード、チック、ヘアクリーム、ヘアリキッド、セットローション、ヘアスプレー、ヘアフォーム、パーマネントウェーブ剤、育毛料、染毛料などの頭髪用化粧料を例示することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0040】
[試験例1:DEPと反応した精油成分の検索]
1.目的
ヒノキ水溶液にDEPを反応させ、反応前と反応後の水溶液の構成成分の変化をガスクロマトグラフィーにより測定する。反応の前後で、減少しているピークが存在していれば、そのピークに対応する物質がラジカル消去反応に関与した物質であると推定することが可能となる。
2.方法
(1) 超純水500mLにヒノキ精油5mLを加え、超音波洗浄器(本多電子社製、3周波超音波洗浄器W−113)中で攪拌(28kHzで10分)してヒノキ水溶液を調製した。
(2) 調製したヒノキ水溶液にDEPを50mg加えて、密栓後、スターラーで2週間攪拌した。
(3) 2週間の攪拌の後、ヘッドスペース部分の気体をシリンジで回収し、ガスクロマトグラフィーによって、以下の条件で測定した。尚、ガスクロマトグラフとしては、HNUシステム社の311型ポータブル・ガスクロマトグラフを用いた。カラムとしては、キャピラリーカラムNBW−311(4.5μm,0.53mm,25m)を用いた。
注入口温度160℃、カラム温度100℃で10分間保持、10℃/分で150℃まで昇温後、7分30秒間保持
測定時間:22分30秒 キャリアーガス:窒素
3.結果
DEPを加える前に採取したサンプルのガスクロマトグラフィー(反応前)と、DEPを加えて反応させた後に採取したサンプルのガスクロマトグラフィー(反応後)を図1に示す。
図1に示すように、矢印で示されるピーク(リテンションタイム3〜9分)の減少が著しいことが分かる。
ピークのリテンションタイムは、炭化水素のモノテルペン(α−ピネン、β−ピネン、リモネンなど)と近い値を示していることから、このピークの物質はモノテルペン類と推定することができる。
α−ピネンの沸点は156℃、β−ピネンの沸点は165℃、リモネンの沸点は176℃であることから、DEPの減少に関与しているピークの物質も140〜180℃程度の沸点を有していると推定することができる。
【0041】
[試験例2;ヒノキ精油によるラジカル消去]
1.目的
ESR(電子スピン共鳴)分光計を用いて、ヒノキ精油懸濁液と反応させた後のDEPの有害性が低減したかどうかを評価すること。DEPに含まれる炭素中心ラジカルの量を調べることで、DEP由来のフリーラジカルが消去されたかどうかを判断することができる。
2.方法
(1) 超純水500mLにヒノキ精油5mLを加え、超音波洗浄器(本多電子社製、3周波超音波洗浄器W−113)中で攪拌(28kHzで10分)してヒノキ精油懸濁液を調製した。
(2) ヒノキ精油懸濁液にDEP50mgを加えて、1時間加熱後、濾過・乾燥させた。
(3) 乾燥したDEP10mgを取り、ESR分光計(日本電子社製、JES-FA100)を用いて、以下の条件で測定した。
共鳴周波数:9.45GHz、掃引磁場:300.0±250.0mT、磁場変調:100.0KHz、変調幅:0.10mT、時定数:0.1s、マイクロ波出力:1.09mW、掃引時間:8min、拡大率:25、マンガンマーカー:0
3.結果
ヒノキ精油を加えずに測定したESRスペクトル(反応前)と、ヒノキ精油を加えて測定したESRスペクトル(反応後)を図2に示す。337mT付近に認められるシグナルが炭素中心ラジカルに由来するシグナルである。
ヒノキ精油と反応させる前のESRスペクトルと、反応させた後のESRスペクトルを比較すると、ヒノキ精油と反応させた場合、DEPの炭素中心ラジカルが約85%削減されていた。
ヒノキ精油と反応させることによって、DEPの有害性を低減することができる。
【0042】
[試験例3;香気成分によるラジカル消去]
試験例2と同様の方法で、ESR(電子スピン共鳴)分光計を用いて、ヒノキ精油に含まれる香気成分懸濁液と反応後のDEPの有害性が低減したかどうかを調査した。
結果を図3に示す。ヒノキ精油に含まる香気成分のうち、α−ピネン、β−ピネン、リモネンなどは、炭素中心ラジカルを殆ど消去していないことが分かる。一方、オイゲノールでは、約80%の炭素中心ラジカルを消去していた。
【0043】
[試験例4;ヒノキ精油の濃度の相違によるラジカル消去]
ヒノキ精油水溶液の濃度を1%、0.5%、0.25%、0.13%とした以外は、試験例2と同様の方法で、ヒノキ精油懸濁液と反応後のDEPの有害性を評価した。
結果を図4に示す。ヒノキ精油の濃度が低下するに従って、炭素中心ラジカルの消去率が低下した。
【0044】
[試験例5;ヒノキ精油によるヒドロキシラジカル消去]
1.目的
ESR(電子スピン共鳴)分光計を用いて、ヒノキ精油水溶液と反応後のDEPの有害性が低減したかどうかを評価すること。DEPに含まれるヒドロキシラジカルの量を調べることで、DEP由来のヒドロキシラジカルが消去されたかどうかを判断することができる。
2.方法
(1) 超純水500mLにヒノキ精油5mLを加え、超音波洗浄器(本多電子社製、3周波超音波洗浄器W−113)中で攪拌(28kHzで10分)してヒノキ精油水溶液を調製した。
(2) ヒノキ精油水溶液にDEP50mgを加えて、1時間加熱後、濾過・乾燥させた。
(3) 乾燥したDEP10mgを、0.5MのDMPO液540μLに加えて、ESR分光計(日本電子社製、JES-FA100)を用いて、以下の条件で測定した。
共鳴周波数:9.45GHz、掃引磁場:300.0±250.0mT、磁場変調:100.0KHz、変調幅:0.10mT、時定数:0.1s、マイクロ波出力:1.09mW、掃引時間:8min、拡大率:25、マンガンマーカー:0
3.結果
結果を図5に示す。図5中、上部のESRスペクトルがヒノキ精油を加えなかった場合のESRスペクトルであり、下部のESRスペクトルがヒノキ精油を加えた場合のESRスペクトルである。
図5に示されるように、DEPはヒドロキシラジカルを生成することが示されている。ヒノキ精油でDEPを処理することによって、ヒドロキシラジカルの生成が抑制(約9%
にまで低下)されることが分かる。
【0045】
[試験例6;各種成分によるラジカル消去]
試験例2と同様の方法で、炭素中心ラジカルの消去の程度について試験した。
結果を図6に示す。ヒノキチオールは炭素中心ラジカルの消去に全く関与していないことが確認された。またサイプレスオイルやバニリンが好適な結果を示した。
【0046】
[試験例7;香気成分によるラジカル消去]
1.方法
(1) 超純水500mLにメチルセルロース2.5gを加えて、よく攪拌した。次いで、香気成分1mLを加え、超音波洗浄器(本多電子社製、3周波超音波洗浄器W−113)中で攪拌(28kHzで10分)して香気成分懸濁液を調製した。
(2) 香気成分懸濁液にDEP50mgを加えて、80℃まで加熱した後に、一晩放置した。次いで、濾過・乾燥した。
(3) 乾燥したDEP10mgを取り、ESR分光計(日本電子社製、JES-FA100)を用いて、以下の条件で測定した。
共鳴周波数:9.45GHz、掃引磁場:300.0±250.0mT、磁場変調:100.0KHz、変調幅:0.10mT、時定数:0.1s、マイクロ波出力:1.09mW、掃引時間:8min、拡大率:25、マンガンマーカー:0
3.結果
結果を図7に示す。図7に示されるように、オイゲノールが優れた最も優れた効果を示すことが確認された。この他、サイプレスオイル、シンナムアルデヒド、カルボンなどが優れた効果を示した。
【0047】
[試験例8;香気成分によるラジカル消去]
表1に示される香気成分のラジカル消去能を、段階的に香気成分の濃度を変化させた以外は、試験例2と同様のESR−スピントラップ法によって測定した。次いで、香気成分のSC50(50%Scavenging Concentration)を算出した。結果を表1に記載する。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示されるように、オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、カルバクロール、シトロネラール、サフロール、イソサフロール、ピペロナールなどが優れた活性酸素消去能を有することが確認された。
【0050】
以下、本発明に係る天然物抽出清浄剤の配合例を示す。
[配合例1]
ヒノキの葉の精油成分を蒸留して、沸点が140〜180℃の精油成分を得た。この精油成分と、オイゲノールとを等重量混合した。この混合物を、混合物の濃度が1重量%となるように50%エタノールに溶解することによって天然物抽出清浄剤を調製した。
【0051】
[配合例2]
ヒノキの葉の精油成分を蒸留して、沸点が140〜180℃の精油成分を得た。この精油成分と、オイゲノールとを等重量混合した。この混合物を、混合物の濃度が0.5重量%となるように精製水に懸濁させることによって天然物抽出清浄剤を調製した。
【0052】
[配合例3〜11]
上記配合例1の組成において、オイゲノールに替えて、イソオイゲノール、チモール、カルバクロール、シトロネラール、サフロール、イソサフロール、ピペロナール、シンナムアルデヒド又はカルボンをそれぞれ配合することによって、配合例3〜11の天然物抽出清浄剤を、それぞれ調製した。
【0053】
[配合例12〜22]
上記配合例1〜11の組成において、ヒノキ葉に含まれる沸点が140〜180℃の精油成分に替えて、ヒノキの根に含まれる沸点が150〜170℃の精油成分を配合することによって、配合例12〜22の天然物抽出清浄剤をそれぞれ調製した。
【0054】
[配合例23〜33]
上記配合例1〜11の組成において、ヒノキ葉に含まれる沸点が140〜180℃の精油成分に替えて、α−ピネンと、β−ピネンと、α−テルピネンの等量混合物を配合することによって、配合例23〜33の天然物抽出清浄剤をそれぞれ調製した。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明に係る天然物抽出清浄剤は、人体に悪影響を与えることが知られている活性酸素、過酸化水素、ヒドロキシラジカル、炭素中心ラジカルなどのラジカルラジカルを消去することができるので、排ガス処理剤、空気清浄剤、香料、或いは消臭剤などの様々な用途に利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】試験例1の結果を示すチャートである。
【図2】試験例2の結果を示すチャートである。
【図3】試験例3の結果を示すチャートである。
【図4】試験例4の結果を示すチャートである。
【図5】試験例5の結果を示すチャートである。
【図6】試験例6の結果を示すチャートである。
【図7】試験例7の結果を示すチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、カルバクロール、シトロネラール、サフロール、イソサフロール、ピペロナール、シンナムアルデヒド及びカルボンからなる群から選択される一種以上の精油成分と、沸点が140〜180℃のモノテルペン類とを含有することを特徴とする天然物抽出清浄剤。
【請求項2】
オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、カルバクロール、シトロネラール、サフロール、イソサフロール、ピペロナール、シンナムアルデヒド及びカルボンからなる群から選択される一種以上の精油成分と、沸点が150〜170℃のモノテルペン類とを含有することを特徴とする天然物抽出清浄剤。
【請求項3】
前記製油成分と前記モノテルペン類とを、重量比で1:0.01〜100の割合で含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の天然物抽出清浄剤。
【請求項4】
オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、カルバクロール、シトロネラール、サフロール、イソサフロール、ピペロナール、シンナムアルデヒド及びカルボンからなる群から選択される一種以上の精油成分と、モノテルペン類とを含有し、
前記モノテルペン類が、キャピラリーカラム(0.53mm×25m)、窒素キャリアーガスのガスクロマトグラフィーにおいて、100℃で10分間保持し、10℃/分で150℃まで昇温した後、7分30秒間保持し、160℃の検出温度で得られるガスクロマトグラムのリテンションタイムが3〜9分のピークを示すことを特徴とする天然物抽出清浄剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−95182(P2006−95182A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−286942(P2004−286942)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(504367874)有限会社グリーン (2)
【Fターム(参考)】