説明

天然物由来の食品用変色防止、酸化防止剤

【課題】安全性が高く、食品の色、味、風味への影響が少なく、強い効果を有する天然物由来の食品用変色防止、酸化防止剤および変色防止、酸化防止方法を提供する。
【解決手段】エルゴステロールパーオキサイドを有するキノコ類の抽出物を、果実、野菜、甲殻類、畜肉、香辛料等の食品に噴霧、浸漬、塗布、混合、混練等の方法によって接触させることにより、食品の変色防止、酸化防止を達成する。食品用の変色防止、酸化防止剤として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の変色防止、酸化防止剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
野菜や果物、エビやカニなどの甲殻類の黒変・褐変現象は、食品として流通する場面で商品価値を著しく低下させるため大きな問題となっている。また、ショウガ、にんにく、玉ねぎなどをおろした香辛料の褐変についても野菜類と同様の大きな問題となっている。これらの変色は遊離しているチロシンなどフェノール化合物がチロシナーゼの関与によって、キノン体に酸化され、さらにメラニンへと重合することによって黒変物質が生成されることによって変色が引き起こされる。
【0003】
これらの変色を防止するために、エビ、カニなどでは亜硫酸ナトリウムなどの化学合成品を主成分とした製剤を使用している。また、野菜、果物などにおいては、次亜塩素酸ナトリウム溶液での処理によって、漂白しているのが現状である。使用されている変色防止剤のほとんどのものは化学合成品が主成分であり、これらは食品衛生法の食品添加物等規格基準によって認可されている。しかし、残留の問題、変異原性の問題、風味に与える影響など多くの問題点がある。近年、消費者の食品に対する安全・安心の要望と化学合成品の排除、つまりは天然物由来の変色防止剤の使用が求められている。
【0004】
現在まで、天然物由来の食品用の変色防止、酸化防止剤としてはタマリンドの種皮抽出物(特開平8−231343)やクロレラなど藻類抽出物(特開2000−139434)、エノキタケ抽出物(特開2003−70450)を用いたものが提案されているが、それらの効果については十分なものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、安全性が高く、食品本来の味、色、風味への影響が少なく、さらに食品の製造現場で使用しやすい使用制限のない食品用の変色防止、酸化防止剤の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために研究検討した結果、エルゴステロールパーオキサイドを含むキノコ類の抽出物にチロシナーゼ活性を阻害する効果が見出された。本課題におけるキノコ類はエルゴステロールパーオキサイドの含有量の多少はあるものの、古くから食用に供されてきたエノキタケやマイタケ等を幅広く利用することができるが、好ましくは近年、日本で人工栽培もされるようになったタモギタケ(Pleurotus cornucopiae)である。
【0007】
一方、エルゴステロールパーオキサイドはがん細胞増殖抑制(特許文献1)や美白成分(特許文献2、特許文献3)としての報告がなされているが、食品の変色を防止する目的で利用することの発明はない。
【0008】
また、化粧品に美白原料としてアルブチンを含むものがあるが、チロシナーゼ阻害活性としてはエルゴステロールパーオキサイドの方が強力であるといわれている。(特許文献2、特許文献3)したがって、食品の変色防止に応用する場合、エルゴステロールパーオキサイドを利用する方が効率的である。
【0009】
【特許文献1】特開2005−73502
【特許文献2】特開2002−114685
【特許文献3】特開2003−267873
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、エルゴステロールパーオキサイドを含むキノコ抽出物、もしくはキノコ類から抽出したエルゴステロールパーオキサイドをを食品に添加することにより、チロシナーゼによる酵素的褐変を抑制することができる。特に、エビ・カニ類の変色防止に使われる亜硫酸ナトリウムの代替として、天然物由来の素材を利用することにより、より安全な食品の提供に寄与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
さらに本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0012】
本発明者らはタモギタケの抽出物に食品の変色防止、酸化防止効果を有することは見出してきた(特許文献4)が、具体的な有効成分を特定するには至らなかった。そこで、更なる検証の結果、キノコ類の抽出物に含まれるエルゴステロールパーオキサイドに変色の原因物質であるチロシナーゼの活性を阻害する働きがあることに着目した。
【0013】
【特許文献4】特開2006−212009
【0014】
本発明におけるキノコ類からの有効成分の抽出方法として、菌類の子実体または菌糸、胞子等の部分的個所を裁断もしくは粉砕した後、抽出溶媒中に浸漬するか、もしくは抽出溶媒中で加熱還流し、ろ過等により不純物を取り除くことによって得られる。用途に応じて、引き続き抽出液を濃縮、乾燥、粉砕することも可能である。
【0015】
抽出に用いる溶媒は、一般的に植物等の抽出に用いられる溶媒でよく、例えば、水を単独、もしくはメタノール、エタノール等のアルコール類、アセトン等の有機溶媒を適宜組み合わせて使用する。抽出方法は一般的な方法でよく、例えば、抽出温度は0〜120℃、好ましくは40〜80℃の範囲であり、抽出時間の制約はない。
【0016】
本発明によれば、食品の変色防止には抽出物をそのまま使用することも可能であり、また、抽出物からエルゴステロールパーオキサイドを分離、精製して使用することも可能である。エルゴステロールパーオキサイドの分離には液体クロマトグラフィーやカラムクロマトグラフィー等、一般的なものでよい。
【0017】
キノコ類の抽出物を変色防止の目的で食品に使用する際は噴霧、浸漬、塗布、混合、混練等、対象食品の物性に合わせて、有効成分が均一に分散されるよう適宜調整可能である。
【0018】
キノコ類に含まれるエルゴステロールパーオキサイドの構造式を図1に示す。エルゴステロールパーオキサイドを含むエルゴステロール誘導体と総称される物質に変色抑制の効果が期待できる。
【実施例】
【0019】
本発明の実施例を具体的に説明する。ただし、使用するキノコの品種、添加対象食品、使用方法はこれに限定されるものではない。エルゴステロールパーオキサイドを含むキノコ類であれば広く応用可能である。
【0020】
栽培されたタモギタケを裁断後、水に浸漬し、80℃で2時間、抽出を行った。次いで、固形物をろ過し、Brix10程度まで濃縮した。その後、液体クロマトグラフィーでエルゴステロールパーオキサイドの含有を確認した。
【0021】
得られた抽出物で漁獲直後の甘エビを処理し、変色の進行具合を観察した。具体的には抽出物を水道水に1%、3%、5%の割合で添加し、ここに漁獲直後の甘エビをそれぞれ5分間、10分間ずつ浸漬した。エビ類が黒く変色するのはチロシナーゼによってメラニンが生成される代表的な例である。
【0022】
表1から明らかなように、添加量が多い、もしくは浸漬時間が長いほど、エビの変色が抑えられた。また、本発明者らによる特許文献4同様、本抽出物をマッシュルームやショウガ等の野菜類に添加しても、同様に変色の抑制効果が表れたことから、エルゴステロールパーオキサイドは広く食品全般の変色防止に利用できるものと考えられる。
【0023】
本発明の対象となる食品には、生鮮食品、加工食品いずれも包含し、特に変色現象の顕著な食品、例えば、果実類、野菜類、甲殻類、畜肉類、香辛料、嗜好食品原料およびそれらの加工食品が代表的なものである。果実類およびその加工食品としては、リンゴ、バナナ、ナシ、桃、メロン、イチゴなどその他一般に知られている食用生鮮果実および乾燥果実、果汁、果実酒等の加工品が挙げられる。野菜類としては、ジャガイモ、サトイモ、ゴボウ、タケノコ、レンコン、キャベツ、レタス、パセリ、ブロッコリー、ナス、山芋等の一般公知の野菜類が挙げられ、その加工品としては皮むき生野菜、野菜ジュース等が挙げられる。甲殻類としては各種のエビ類、カニ類が代表的なものである。また、畜肉類については、牛、豚、鶏の加工品が代表的なものであり、香辛料については、生姜、にんにく、玉ねぎのおろしたものなどの加工品が代表的なものである。嗜好食品原料とは、飲料の原料のことで、日本茶、紅茶、ウーロン茶、果実ジュース、野菜ジュースなどの嗜好品である。
【0024】
なお、上記の例はあくまでも例示であり、本発明で対象とする食品はこれらに限定されず、少しでも変色及び酸化が生ずるかぎり、その他の食品、例えば魚介類とその加工品等にも適用できる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、天然物由来であるエルゴステロールパーオキサイドを含むキノコ抽出物、もしくはキノコ類から抽出および精製したエルゴステロールパーオキサイドにより、安全性が極めて高く食品の色、風味に対する影響の少ない、しかも褐変防止効果に優れた変色防止、酸化防止剤および変色防止方法を提供することができる。また、食品衛生法の基準を満たせば化学合成によるエルゴステロールパーオキサイドを利用することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】エルゴステロールパーオキサイドの構造式を示す図である。
【図2】実施例の試験による甘エビの変色抑制確認の結果に代わる写真を含む図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エルゴステロールパーオキサイドを含むキノコ類の抽出物からなることを特徴とする食品用の変色防止、酸化防止剤。
【請求項2】
エルゴステロールパーオキサイドを含むキノコ類の抽出物を使用することを特徴とする食品の変色防止方法。
【請求項3】
キノコ類の抽出物から分離、精製されたエルゴステロールパーオキサイドを含むことを特徴とする食品用の変色防止、酸化防止剤。
【請求項4】
キノコ類の抽出物から分離、精製されたエルゴステロールパーオキサイドを使用することを特徴とする食品の変色防止方法。
【請求項5】
化学合成されたエルゴステロールパーオキサイドを含むことを特徴とする食品用の変色防止、酸化防止剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−183266(P2009−183266A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52638(P2008−52638)
【出願日】平成20年2月4日(2008.2.4)
【出願人】(505076751)株式会社フィットイン (5)
【Fターム(参考)】