説明

天然系接着剤およびその製造方法

【課題】 天然接着性材料によるタンニンの収斂反応の開始を制御することができ、かつ優れた接着性能を与え、かつVOCの放散がほとんどない一液型の天然系接着剤の提供。
【解決手段】 表面に不溶化層を有する天然接着性材料の粒子と、植物性タンニン類とを含み、前記不溶化層は、前記天然接着性材料と不溶化剤との反応により形成されていることを特徴とする接着剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然材料を用いた天然系接着剤に関する。より詳細には、木材の接着に用いることができ、シックハウス症候群などの原因となる揮発性有機化合物(VOC)の放散がない天然系接着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、木材を接着するための木材用接着剤としては、ユリア−ホルムアルデヒド系接着剤、フェノール−ホルムアルデヒド系接着剤、レゾルシノール−ホルムアルデヒド系接着剤などのホルムアルデヒドを含有する合成樹脂系接着剤が主として用いられてきた。これらの接着剤は、接着強度および耐水性に優れ、構造用接着剤としても使用できるという利点を有する。しかしながら、これらの接着剤を用いて製造された木質系材料は、それら材料からホルムアルデヒドのようなVOCが放散され、それによってシックハウス症候群あるいは皮膚炎などのアレルギー性疾患を引き起こす恐れがあるという環境的および社会的問題点が存在する。
【0003】
これに対して、木材を接着するために米糊、ニカワ、カゼインあるいはふのり(ぎんなん草)などの天然系接着剤が古くから用いられてきた。これらの接着剤は、VOCの放散は非常に少ないものの、一般的に耐水性に劣り、また耐微生物性および耐虫害性においても問題があった。
【0004】
近年、天然系材料を用いた木材用の非ホルムアルデヒド系接着剤として、タンニン系接着剤(特許文献1参照)およびリグニン系接着剤(特許文献2参照)が知られている。これらの接着剤はいずれも、酸性条件(pH2程度)における酸化的カップリング反応を行うことによって、合成樹脂系接着剤と同等の接着性能を発揮する。しかしながら、その酸性条件および酸化条件のために、釘やビスなどの金属製品を併用することができないと言う問題点があった。
【0005】
また、天然系材料であるタンニンと、ヘキサミン(ヘキサメチレンテトラミン)硬化剤とを用いた接着剤も提案されている(非特許文献1参照)。これは、ヘキサミンの分解物である反応性イミンとタンニンとの反応に基づくものであるが、構造用として用いられるほどの接着性能が得られていないのが現状である。
【0006】
さらに、タンパク質によるタンニンの収斂反応を利用するタンニン−タンパク質系接着剤も提案されている(非特許文献2参照)。タンパク質としては、主としてニカワなどのゼラチン質材料が用いられる。タンニン水溶液に固体あるいは水溶液のゼラチン質材料を添加すると、直ちに収斂反応が起こり、餅状あるいはゴム状のタンニン−タンパク質(ゼラチン質材料)複合体を生成し、耐水性を有する接着を与えることが知られている。
【0007】
【特許文献1】特開昭61−062573号公報
【特許文献2】特開昭61−062574号公報
【非特許文献1】F. Pichelin et al., Holz Roh Werkstoff, 57, 305 (1999).
【非特許文献2】山口他、木材学会誌、40(10)、1085(1994)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
タンニン−タンパク質系接着剤は、耐水性に優れた接着を提供するものの、タンニンとニカワなどのタンパク質との反応が両者の接触直後に開始されるために、一液型接着剤とすることができず、取り扱いが難しいという問題点がある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、VOCの放散がほとんどなく、天然接着性材料によるタンニンの収斂反応の開始を制御することができ、かつ優れた接着性能を与える一液型の接着剤を提供することである。また、そのような接着剤を調製することもまた、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の接着剤は、表面に不溶化層を有する天然接着性材料の粒子と、植物性タンニン類とを含み、前記不溶化層は、前記天然接着性材料と不溶化剤との反応により形成されていることを特徴とする。天然接着性材料は、ニカワ、ゼラチンおよびそれらの混合物からなる群から選択されるゼラチン質材料またはカゼインであってもよい。また、植物性タンニン類は、ミモザタンニン、ケブラコタンニン、タンニン酸、チェストナットタンニン、タラの木タンニン、柿渋タンニンまたはガムビアタンニンから選択される植物性タンニン、あるいは、それら植物性タンニン類の化学修飾誘導体であるスルホン化タンニン、トリクロロ酢酸処理タンニン、フェノール化タンニン、カテコール化タンニン、レゾルシノール化タンニンまたはクレゾール化タンニンであってもよい。不溶化剤は、アルデヒド化合物、イソシアネート化合物およびポリアミン化合物からなる群から選択することができる。また、本発明の接着剤は、アルデヒド化合物、イソシアネート化合物およびポリアミン化合物からなる群から選択される架橋剤をさらに含んでもよい。個々で、前記天然接着性材料の粒子は、5〜100メッシュの大きさを有することが望ましい。
【0011】
本発明の接着剤の製造方法は、天然接着性材料粒子の表面に不溶化層を形成して、不溶化層を有する天然接着性材料粒子を形成する工程と、前記不溶化層を有する天然接着性材料粒子を、植物性タンニン類の水溶液と混合する工程とを有することを特徴とする。
【0012】
本発明の接着剤の製造方法における1つの実施形態として、前記不溶化層を有する天然接着性材料粒子を形成する工程は、天然接着性材料粒子を気体状の不溶化剤によって処理することを含んでもよい。ここで、気体状の不溶化剤は、ホルムアルデヒドであってもよい。
【0013】
本発明の接着剤の製造方法における別の実施形態として、前記不溶化層を有する天然接着性材料粒子を形成する工程は、天然接着性材料粒子を不溶化剤の溶液に添加し、攪拌することを含んでもよい。ここで、不溶化剤は、アルデヒド化合物、イソシアネート化合物およびポリアミン化合物からなる群から選択することができる。また、不溶化剤は、前記天然接着性材料粒子の質量を基準として10質量%以下であることが望ましい。
【0014】
本発明の接着剤の製造方法におけるさらに別の実施形態として、本発明の接着剤の製造方法における前記不溶化層を有する天然接着性材料粒子を形成する工程は、40℃以上の温度の天然接着性材料水溶液を40℃以上の温度の非極性溶媒中に分散させ、得られた分散液の温度を30℃以下に低下させて天然接着性材料粒子を形成させ、該天然接着性材料粒子に不溶化剤を作用させることを含んでもよい。ここで、前記不溶化剤は、アルデヒド化合物、イソシアネート化合物およびポリアミン化合物からなる群から選択することができる。また、不溶化剤は、前記天然接着性材料粒子の質量を基準として10質量%以下であることが望ましい。あるいはまた、不溶化剤を作用させる前に、植物性タンニン類を作用させる工程をさらに含んでもよい。ここで、不溶化剤を作用させる前に作用させる植物性タンニン類は、前記天然接着性材料粒子の質量を基準として5質量%以下であることが望ましい。
【0015】
上記の実施形態のいずれにおいても、前記植物性タンニン類は、ミモザタンニン、ケブラコタンニン、タンニン酸、チェストナットタンニン、タラの木タンニン、柿渋タンニンまたはガムビアタンニンを含む植物性タンニン;あるいは、それら植物性タンニン類の化学修飾誘導体であるスルホン化タンニン、トリクロロ酢酸処理タンニン、フェノール化タンニン、カテコール化タンニン、レゾルシノール化タンニンまたはクレゾール化タンニンであってもよい。また、不溶化層を有する天然接着性材料の粒子は、5〜100メッシュの大きさを有することが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
以上のような構成を採ることによって、天然に存在する植物性および動物性材料を主成分として、VOCを放散せず、かつ耐水性を有する接着剤を得ることができる。この接着剤は、VOCを放散することがないことから従来の合成樹脂接着剤と比較して格段に安全であり、また、天然材料を主成分としていることから使用後の廃材料処分においても環境汚染を引き起こすことがない。
【0017】
また、天然接着性材料粒子表面に不溶化層を設けることによって、室温における天然接着性材料による植物性タンニン類の収斂反応を抑制することができる。このことによって、本発明の接着剤は、一液型接着剤として用いることが可能となり、優れた取扱性を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の第1の実施形態である接着剤は、表面に不溶化層を有する天然接着性材料の粒子と、植物性タンニン類とを含み、前記不溶化層は、前記天然接着性材料、不溶化剤および任意選択的に植物性タンニン類の反応により形成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明における天然接着性材料とは、ゼラチンを主成分とするゼラチン質材料またはカゼインを意味する。本発明において用いることができるゼラチン質材料は、獣皮などから得られた未処理のニカワ類、ニカワ類を精製して調製されるゼラチン類、ならびに前処理を施したニカワ類およびゼラチン類を含む。
【0020】
天然接着性材料は、その表面に不溶化層を有する粒子として用いられる。天然接着性材料粒子の不溶化層を形成するための不溶化剤としては、アルデヒド化合物、イソシアネート化合物、ポリアミン化合物などを用いることができる。
【0021】
不溶化剤として使用できるアルデヒド化合物は、1つまたは複数のアルデヒド基を含む化合物を意味し、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、カプリンアルデヒド、カプリルアルデヒドのような脂肪族アルデヒド類;ベンズアルデヒド、トルアルデヒド、アニスアルデヒドのような芳香族アルデヒド類;グリオキサール、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒドのようなジアルデヒド類;グリセルアルデヒド、トリクロロアセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、クロロベンズアルデヒド、シンナムアルデヒド、3−フェニルプロピオンアルデヒド、アクロレイン、メタクリルアルデヒド等のような多重結合ないし置換基を有するアルデヒド類などを含む。
【0022】
不溶化剤として使用できるイソシアネート化合物は、1つまたは複数のイソシアネート基を含む化合物を意味し、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、プロピルイソシアネート、イソプロペニルイソシアネート、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート類;ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどのジイソシアネート類などを含む。
【0023】
不溶化剤として使用できるポリアミン化合物は、複数のアミノ基を含む化合物を意味し、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンテトラミンなどを含む。
【0024】
天然接着性材料粒子の不溶化層の形成は、加熱条件において水溶液の天然接着性材料を非極性溶媒中に分散させ、攪拌を継続しつつ分散液の温度を低下させて天然接着性材料をゲル化させて天然接着性材料粒子を形成させ、不溶化剤を添加することによって行うことができる。加熱条件においては、天然接着性材料の水溶液および非極性溶媒を35℃以上、好ましくは45℃以上に加熱することが好ましい。また、天然接着性材料のゲル化においては、分散液の温度を30℃以下、好ましくは20℃以下にすることが好ましい。
【0025】
不溶化層の形成に用いられる非極性溶媒は、水不混和性の溶媒であることが好ましく、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンのような比較的低粘度の溶媒であってもよいし、シリコーンオイル、ポリブテン化合物、サラダ油、コーン油、アマニ油、桐油などの比較的高粘度の溶媒であってもよい。用いる非極性溶媒の粘度および攪拌条件を制御することによって、ゲル化時に生成する天然接着性材料粒子の粒径を制御することができる。たとえば、高粘度の非極性溶媒を用いることによって天然接着性材料粒子の粒径を小さくすることができ、逆に低粘度の非極性溶媒を用いて天然接着性材料粒子の粒径を大きくすることができる。
【0026】
あるいはまた、水溶液の天然接着性材料に代えて、固体状の天然接着性材料粒子を溶媒中に分散させ、不溶化剤を添加することによって行うことができる。この方法においては、天然接着性材料粒子の溶融を防止するために、溶媒の温度を30℃以下、好ましくは10℃以下に設定することが好ましい。本方法において用いることができる溶媒は、水不混和性である必要はなく、前述の非極性溶媒に加えて、たとえばアセトンのような水混和性溶媒を用いることが可能である。
【0027】
前述の両方法において、天然接着性材料粒子に不溶化剤を作用させる前に、後述する植物性タンニン類の溶液を加えて天然接着性材料粒子表面にタンニン−天然接着性材料複合体を予め生成させてもよい。不溶化剤を作用させる前に添加される植物性タンニン類は、天然接着性材料の質量を基準として5質量%以下、より好ましくは0.2〜1.0質量%の範囲内であることが好ましい。このような範囲内とすることによって、天然接着性材料粒子の表面のみにおいて、タンニン−天然接着性材料複合体を生成させることができる。
【0028】
不溶化剤は、溶液として添加してもよいし、用いた非極性溶媒に溶解する場合にはニートで添加してもよい。溶液として添加する場合には、水またはアセトンなどの水混和性溶媒中に不溶化剤を溶解させることが望ましい。用いられる不溶化剤は、天然接着性材料の質量を基準として10質量%以下、より好ましくは0.1〜2.0質量%の範囲内であることが好ましい。このような範囲内とすることによって、天然接着性材料粒子の表面のみにおいて不溶化層を生成させ、粒子内部の天然接着性材料を未反応のままに維持することができる。
【0029】
以上の方法によって得られた不溶化層を有する天然接着性材料の粒子は、通常5〜100メッシュ、好ましくは20〜60メッシュ、より好ましくは20〜48メッシュの粒径を有する。
【0030】
別法として、天然接着性材料粒子に、ホルムアルデヒドのような気体状不溶化剤を作用させることによって、天然接着性材料粒子の不溶化層の形成を行ってもよい。たとえば、デシケータのような密封容器内に、天然接着性材料粒子と、ホルムアルデヒド発生源としてのパラホルムアルデヒドとを配置し、室温において2〜3日間にわたって放置することによって、本発明の目的に適当な不溶化層を形成することができる。本方法によって得られる不溶化層を有する天然接着性材料粒子も、前述の粒径を有することが望ましい。
【0031】
本発明において用いることができる植物性タンニン類は、ミモザ(ワットル)タンニン、ケブラコタンニンなどに代表される縮合型タンニン、タンニン酸、チェストナットタンニン、タラの木タンニンに代表される加水分解型タンニン、あるいは柿渋タンニン、ガムビアタンニンを含む植物由来の任意のタンニン類を含む。あるいはまた、植物性タンニン類は、前述のタンニン類(特に縮合型タンニン)をトリクロロ酢酸で処理して調製することができるトリクロロ酢酸処理タンニン;フェノール化合物の存在下で前述のタンニン類をトリクロロ酢酸で処理して調製することができるフェノール誘導体タンニン;または前述のタンニン類を亜硫酸ナトリウムまたは重亜硫酸ナトリウムで処理して調製することができるスルホン化タンニンなどであってもよい。フェノール誘導体タンニンの中でも、フェノール化合物としてフェノール、カテコール、レゾルシノールまたはクレゾールを用いて調製される、フェノール化タンニン、カテコール化タンニン、レゾルシノール化タンニンまたはクレゾール化タンニンが好ましい。本発明で用いることができる植物性タンニン類のいくつかの例を以下に示す。
【0032】
【化1】

【0033】
本発明の接着剤は、前述のように形成される表面に不溶化層を有する天然接着性材料の粒子を、植物性タンニン類の水溶液中に分散させることによって形成される。植物性タンニン類の質量を基準として5〜40質量%の天然接着性材料粒子を用いることが好ましい。
【0034】
本発明の接着剤は、架橋剤をさらに含むことができる。架橋剤としては、前述のアルデヒド化合物、イソシアネート化合物、およびポリアミン化合物を用いることができる。架橋剤は、植物性タンニン類の質量を基準として0.1〜20質量%の量で用いることが好ましい。架橋剤を添加することによって、接着剤の接着力を高めると同時に、耐水性を向上させることが可能となる。
【0035】
本発明の接着剤は、室温、常圧の接着操作では強い接着力を与えるものではない。被接着部材に本発明の接着剤を塗布の後、熱および圧力を印加することによって、天然接着性材料粒子表面の不溶化層の隔離作用が失われ、天然接着性材料による植物性タンニン類の収斂反応が起こり、接着が行われる。通常40〜160℃、より好ましくは100〜150℃の温度まで加熱し、および通常0.1〜10MPa、より好ましくは0.5〜3MPaの圧力を印加し、10〜60分間にわたって温度および圧力を維持することによって、接着を行うことができる。
【実施例1】
【0036】
[合成例1]
デシケータの底部にパラホルムアルデヒド、目皿の上に5〜10メッシュのニカワ粒子(2g)を配置して、ニカワ粒子を1日間から32日間にわたってホルムアルデヒド蒸気に暴露処理した。処理後のニカワ粒子を、ミモザタンニン水溶液中に浸漬および攪拌し、室温および加熱条件(60℃)におけるニカワ−タンニン複合体の生成の有無を観察した。結果を第1表に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
第1表の結果から明らかなように、2〜3日間にわたってホルムアルデヒド蒸気に対する暴露処理を行うことによって不溶化層が形成され、室温においてニカワ−タンニン複合体の生成が抑制され、加熱条件でニカワ−タンニン複合体を生成するニカワ粒子を得ることができた。
【0039】
[合成例2]
4,4’−ジフェニルメタンジイソシアナート(DMI)のアセトン溶液中に5〜10メッシュのニカワ粒子を浸漬させ、室温において3時間にわたって攪拌した。その後、ニカワ粒子を濾取し、アセトンによって洗浄し、乾燥した。得られたニカワ粒子をミモザタンニン水溶液中に浸漬および攪拌したが、室温においてはニカワ−タンニン複合体を生成しなかった。
【0040】
[合成例3]
1000rpmで攪拌中の47℃のアマニ油1600mLに対して40%ニカワ水溶液300gを滴下し、ニカワを分散させた。得られた混合物を攪拌しながら7℃まで冷却してゲル化させ、ニカワ粒子の分散液を得た。この溶液に対して、7℃において37%ホルマリン0.65mLを滴下し、30分間にわたって攪拌した。その後、ニカワ粒子を濾取した。得られたニカワ粒子をミモザタンニン水溶液中に浸漬および攪拌したが、室温においてはニカワ−タンニン複合体を生成しなかった。
【0041】
[実施例1]
50%ミモザタンニン水溶液に対して、合成例1において2日間にわたるホルムアルデヒド処理により得られたニカワ粒子を、タンニンの質量を基準として10質量%添加し、接着剤を調製した。
【0042】
厚さ20mmのスギ製材板2枚のそれぞれにセロファン紙を貼り、それぞれのセロファン紙に得られた接着剤を塗布し、接着剤塗布面を対向させて、145℃において20分間にわたり0.98MPa(10kgf/cm)の圧力を印加して接着を行った。
【0043】
接着されたセロファン紙からスギ製材板を取り外し、セロファン紙接着物の質量を測定した。次に、接着されたセロファン紙を室温(25℃)において、1週間にわたって水に浸漬した。浸漬終了後、水は薄いタンニンの色を呈した。また、浸漬後のセロファン紙接着物の質量を測定することにより、接着層の質量が14.7%減少していることが明らかとなった。
【0044】
[実施例2]
50%ミモザタンニン水溶液に対して、合成例2において得られたニカワ粒子を、タンニンの質量を基準として10質量%添加し、接着剤を調製した。厚さ20mmのスギ製材板2枚のそれぞれにセロファン紙を貼り、それぞれのセロファン紙に得られた接着剤を塗布し、接着剤塗布面を対向させて、145℃において20分間にわたり0.98MPa(10kgf/cm)の圧力を印加して接着を行った。接着されたセロファン紙からスギ製材板を取り外し、セロファン紙接着物の質量を測定した。次に、接着されたセロファン紙を室温(25℃)において、1週間にわたって常温水に浸漬した。浸漬終了後、浸漬水は淡いタンニン色を呈した。また、浸漬後のセロファン紙接着物はかなり膨潤し、接着層の質量は22.9%減少していた。
【0045】
[実施例3]
50%ミモザタンニン水溶液に対して、合成例3において得られたニカワ粒子を、タンニンの質量を基準として10質量%添加し、さらにヘキサメチレンテトラミンを対タンニン2%添加した接着剤を調製した。厚さ20mmのスギ製材板2枚のそれぞれにセロファン紙を貼り、それぞれのセロファン紙に得られた接着剤を塗布し、接着剤塗布面を対向させて、145℃において20分間にわたり0.98MPa(10kgf/cm)の圧力を印加して接着を行った。接着されたセロファン紙からスギ製材板を取り外し、セロファン紙接着物の質量を測定した。次に、接着されたセロファン紙を室温(25℃)において、2週間にわたって常温水に浸漬した。浸漬終了後、浸漬水はタンニン色を呈さず、また接着層の質量の減少も無かった。
【0046】
[実施例4]
[合成例1]の方法で3日間ホルムアルデヒドを反応させて表面に不溶化層を形成させたニカワ粒子10gをミモザタンニン水溶液200gと混合した後、架橋剤としてヘキサミン4gを加えて接着剤を得た。この接着剤を用いて、スギ材を接着した。接着条件は、145℃水蒸気下で予熱して木材を軟化させた後、同温度下、2.94MPa(30kgf/cm)の圧力を印加して圧締して、集成木材を得た。調製した集成木材の物理的性質は、常態平面剥離強さ(内部接着強さ)平均77N/cm(木部破断率83%)、水中浸せき(室温水24時間)後平面剥離強さ100N/cm(木部破断率100%)、煮沸(4時間)後平面剥離強さ93N/cm(木部破断率27%)だった。なお、木部破断率とは、平面剥離強さの測定を行った場合に、接着剤層での破断ではなくスギ材部分での破断が発生した場合の剥離試験面積に占める木部破断部分の面積の割合を意味する。
【0047】
[実施例5]
[合成例3]の方法で粒子表面に不溶化層を形成させたニカワ25gをミモザタンニン水溶液200gと混合した後、架橋剤として37%ホルマリン水溶液5.7gを加えて接着剤を得た。この接着剤を用いて、[実施例4]と同様の接着条件において、スギ材を接着して集成木材を得た。調製した集成木材の物理的性質は、常態平面剥離強さ平均77N/cm(木部破断率5%)、水中浸せき後平面剥離強さ109N/cm(木部破断率57%)、煮沸後平面剥離強さ61N/cm(木部破断率8%)だった。
【0048】
[実施例6]
[合成例3]の方法で粒子表面に不溶化層を形成させたニカワ25gをミモザタンニン水溶液200gと混合した後、架橋剤として1%メチレンジイソシアネート溶液40gを加えて接着剤を得た。この接着剤を用いて、[実施例4]と同様の接着条件において、スギ材を接着して集成木材を得た。調製した集成木材の物理的性質は、常態平面剥離強さ平均76N/cm(木部破断率70%)だった。
【0049】
[実施例7]
[合成例3]の方法で粒子表面に不溶化層を形成させたニカワ25gをミモザタンニン水溶液200gと混合した後、架橋剤としてヘキサミン4gを加えて接着剤を得た。この接着剤を用いて、[実施例4]と同様の接着条件において、スギ材を接着して集成木材を得た。調製した集成木材の物理的性質は、常態平面剥離強さ平均93N/cm(木部破断率100%)、水中浸せき後平面剥離強さ105N/cm(木部破断率64%)、煮沸後平面剥離強さ73N/cm(木部破断率26%)だった。
【0050】
[実施例8]
[合成例2]の方法で粒子表面に不溶化層を形成させたニカワ10gをミモザタンニン水溶液200gと混合した後、架橋剤としてヘキサミン4gを加えて接着剤を得た。この接着剤を用いて、[実施例4]と同様の接着条件において、スギ材を接着して集成木材を得た。調製した集成木材の物理的性質は、常態平面剥離強さ平均122N/cm(木部破断率100%)、水中浸せき後平面剥離強さ112N/cm(木部破断率83%)、煮沸後平面剥離強さ102N/cm(木部破断率36%)だった。
【0051】
[実施例9]
[合成例3]の方法で粒子表面に不溶化層を形成させたニカワ25gをレゾルシノール化ミモザタンニン水溶液200gと混合した後、架橋剤としてヘキサミン4gを加えて接着剤を得た。この接着剤を用いて、[実施例4]と同様の接着条件において、スギ材を接着して集成木材を得た。調製した集成木材の物理的性質は、常態平面剥離強さ平均99N/cm(木部破断率38%)、水中浸せき後平面剥離強さ41N/cm(木部破断率15%)だった。
【0052】
[実施例10]
[合成例2]の方法で粒子表面に不溶化層を形成させたニカワ25gをカテコール化ミモザタンニン水溶液200gと混合した後、架橋剤としてヘキサミン4gを加えて接着剤を得た。この接着剤を用いて、[実施例4]と同様の接着条件において、スギ材を接着して集成木材を得た。調製した集成木材の物理的性質は、常態平面剥離強さ平均73N/cm(木部破断率0%)、水中浸せき後平面剥離強さ103N/cm(木部破断率100%)、煮沸後平面剥離強さ54N/cm(木部破断率7%)だった。
【0053】
[実施例11]
[合成例2]の方法で粒子表面に不溶化層を形成させたニカワ25gをトリコロロ酢酸処理ミモザタンニン水溶液200gと混合した後、架橋剤としてヘキサミン4gを加えて接着剤を得た。この接着剤を用いて、[実施例4]と同様の接着条件において、スギ材を接着して集成木材を得た。調製した集成木材の物理的性質は、常態平面剥離強さ平均85N/cm(木部破断率6%)、水中浸せき後平面剥離強さ108N/cm(木部破断率100%)、煮沸後平面剥離強さ83N/cm(木部破断率1%)だった。
【0054】
[対照例1]
市販集成材用レゾルシノール接着剤を用いてスギ材を接着した。接着条件は、[実施例4]と同様であった。常態平面剥離強さ平均93N/cm(木部破断率100%)、水中浸せき後平面剥離強さ110N/cm(木部破断率100%)、煮沸後平面剥離強さ137N/cm(木部破断率86%)だった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に不溶化層を有する天然接着性材料の粒子と、植物性タンニン類とを含み、前記不溶化層は、前記天然接着性材料と不溶化剤との反応により形成されていることを特徴とする接着剤。
【請求項2】
前記天然接着性材料は、ニカワ、ゼラチンおよびそれらの混合物からなる群から選択されるゼラチン質材料またはカゼインであることを特徴とする請求項1に記載の接着剤。
【請求項3】
前記植物性タンニン類は、ミモザタンニン、ケブラコタンニン、タンニン酸、チェストナットタンニン、タラの木タンニン、柿渋タンニンおよびガムビアタンニンからなる群から選択される植物性タンニン;ならびに、それら植物性タンニン類の化学修飾誘導体であるスルホン化タンニン、トリクロロ酢酸処理タンニン、フェノール化タンニン、カテコールかタンニン、レゾルシノール化タンニンおよびクレゾール化タンニンからなる群から選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の接着剤。
【請求項4】
前記不溶化剤は、アルデヒド化合物、イソシアネート化合物およびポリアミン化合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の接着剤。
【請求項5】
アルデヒド化合物、イソシアネート化合物およびポリアミン化合物からなる群から選択される架橋剤をさらに含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の接着剤。
【請求項6】
前記天然接着性材料の粒子は、5〜100メッシュの大きさを有することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の接着剤。
【請求項7】
天然接着性材料粒子の表面に不溶化層を形成して、不溶化層を有する天然接着性材料粒子を形成する工程と、
前記不溶化層を有する天然接着性材料粒子を、植物性タンニン類の水溶液と混合する工程と
を有することを特徴とする接着剤の製造方法。
【請求項8】
前記不溶化層を有する天然接着性材料粒子を形成する工程は、天然接着性材料粒子を気体状の不溶化剤によって処理することを含むことを特徴とする請求項7に記載の接着剤の製造方法。
【請求項9】
前記気体状の不溶化剤は、ホルムアルデヒドであることを特徴とする請求項8に記載の接着剤の製造方法。
【請求項10】
前記不溶化層を有する天然接着性材料粒子を形成する工程は、天然接着性材料粒子を不溶化剤の溶液に添加し、攪拌することを含むことを特徴とする請求項7に記載の接着剤の製造方法。
【請求項11】
前記不溶化剤は、アルデヒド化合物、イソシアネート化合物およびポリアミン化合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項10に記載の接着剤の製造方法。
【請求項12】
前記不溶化剤は、前記天然接着性材料粒子の質量を基準として10質量%以下であることを特徴とする請求項10または11に記載の接着剤の製造方法。
【請求項13】
前記不溶化層を有する天然接着性材料粒子を形成する工程は、40℃以上の温度の天然接着性材料水溶液を40℃以上の温度の非極性溶媒中に分散させ、得られた分散液の温度を30℃以下に低下させて天然接着性材料粒子を形成させ、該天然接着性材料粒子に不溶化剤を作用させることを含むことを特徴とする請求項7に記載の接着剤の製造方法。
【請求項14】
前記不溶化剤は、アルデヒド化合物、イソシアネート化合物およびポリアミン化合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項12に記載の接着剤の製造方法。
【請求項15】
前記不溶化剤は、前記天然接着性材料粒子の質量を基準として10質量%以下であることを特徴とする請求項13または14に記載の接着剤の製造方法。
【請求項16】
前記不溶化剤を作用させる前に、植物性タンニン類を作用させる工程をさらに含むことを特徴とする請求項13から15のいずれかに記載の接着剤の製造方法。
【請求項17】
前記不溶化剤を作用させる前に作用させる植物性タンニン類は、前記天然接着性材料粒子の質量を基準として5質量%以下であることを特徴とする請求項16に記載の接着剤の製造方法。
【請求項18】
前記植物性タンニン類は、ミモザタンニン、ケブラコタンニン、タンニン酸、チェストナットタンニン、タラの木タンニン、柿渋タンニンおよびガムビアタンニンからなる群から選択される植物性タンニン;およびそれら植物性タンニン類の化学修飾誘導体であるスルホン化タンニン、トリクロロ酢酸処理タンニン、フェノール化タンニン、カテコールかタンニン、レゾルシノール化タンニンおよびクレゾール化タンニンからなる群から選択されることを特徴とする請求項7から17のいずれかに記載の接着剤の製造方法。
【請求項19】
前記不溶化層を有する天然接着性材料の粒子は、5〜100メッシュの大きさを有することを特徴とする請求項7から17のいずれかに記載の接着剤の製造方法。
【請求項20】
アルデヒド化合物、イソシアネート化合物およびポリアミン化合物からなる群から選択される架橋剤を添加する工程をさらに含むことを特徴とする請求項7から19のいずれかに記載の接着剤の製造方法。

【公開番号】特開2007−2084(P2007−2084A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183268(P2005−183268)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000217686)電源開発株式会社 (207)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(505237547)株式会社エーシーエー (1)
【Fターム(参考)】