説明

天然素材固形糊

【課題】固形糊としての性能を維持しながら、人体や環境に優しい天然材料固形糊を提供する。
【解決手段】K値が30〜120であるポリビニルピロリドンと、ヒドロキシプロピル澱粉と、ゲル化剤と、水と、を少なくとも含んでなり、前記ポリビニルピロリドンおよび前記ヒドロキシプロピル澱粉を質量基準で20〜60%含み、前記ポリビニルピロリドンと前記ヒドロキシプロピル澱粉との配合割合が、質量基準で2:8〜8:2であり、前記ゲル化剤を質量基準で2〜6%含む組成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形糊に関し、さらに詳細には、天然素材を含有した固形糊に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固形糊は、一般的に、接着成分、溶媒としての水、および固化剤としてのゲル化剤などから構成される。従来の固形糊は、ポリビニルピロリドン(以下、PVPとも言う)やポリビニルアルコール(以下、PVAとも言う)などの接着成分を主成分とした化学合成材料からなるものであり、天然素材を用いた固形糊は知られていない。人体や環境への配慮から、天然素材を用いた固形糊が希求されている。
【0003】
従来から、天然素材の糊として澱粉糊が知られている。しかしながら、澱粉は、固形化するのが困難であったり、また、固形糊として使用すると硬すぎて塗布性がないことから、固形糊として澱粉を使用することは今まで行われてこなかった。
【0004】
本発明者らは、天然素材を用いた固形糊として、澱粉を原料とした、いわゆる黒酵母とも言われるオーレオバシディウム・プルランスを培養して得られる天然の中性多糖であるプルランをPVPに配合した、接着性や塗布性に優れ、人体や環境にも優しい天然素材固形糊を提案している(特開2010−159329号公報)。
【0005】
ところで、澱粉にヒドロキシプロピル基を導入したヒドロキシプロピル澱粉が知られている。このヒドロキシプロピル澱粉は、例えば、アルコール飲料の添加剤(特開2009−112211号公報)、レトルト粥の添加剤(特開2008−220288号公報)、口腔内速崩壊錠の崩壊錠(特開2011−37767号公報)など、主として食品や医薬分野において使用されているものであり、糊として使用することは今まで行われてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−159329号公報
【特許文献2】特開2009−112211号公報
【特許文献3】特開2008−220288号公報
【特許文献4】特開2011−37767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、今般、このヒドロキシプロピル澱粉に着目し、PVPを主体とする固形糊に天然素材由来のヒドロキシプロピル澱粉を特定量添加することにより、固形糊としての性能を維持しながら、人体や環境に優しい固形糊を実現できる、との知見を得た。本発明はかかる知見によるものである。
【0008】
したがって、本発明の目的は、固形糊としての性能を維持しながら、人体や環境に優しい天然材料固形糊を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そして、本発明による天然素材固形糊は、K値が30〜120であるポリビニルピロリドンと、ヒドロキシプロピル澱粉と、ゲル化剤と、水と、を少なくとも含んでなり、
前記ポリビニルピロリドンおよび前記ヒドロキシプロピル澱粉を質量基準で20〜60%含み、
前記ポリビニルピロリドンと前記ヒドロキシプロピル澱粉との配合割合が、質量基準で2:8〜8:2であり、
前記ゲル化剤を質量基準で2〜6%含む、ことを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明の態様においては、固形糊の糸引き抑制剤として、塩化ナトリウムを質量基準で0.3〜3%さらに含むことが好ましい。
【0011】
また、本発明の態様においては、保湿剤として、グリセリンを質量基準で1〜5%さらに含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明の態様においては、変色抑制剤として、亜硫酸ナトリウムを質量基準で0.1〜2%さらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリビニルピロリドンおよびヒドロキシプロピル澱粉を重量基準で20〜60%含み、前記ポリビニルピロリドンと前記プルランとの配合割合を重量基準で2:8〜8:2の範囲とすることにより、固形糊としての性能を維持しながら、人体や環境に優しい固形糊を実現できる。
【0014】
また、本発明による天然素材固形糊は、プルランを含有するPVP系固形糊と比較して、固形糊の色相の経時変化がより少なく、長期にわたって変色することがない。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明による天然素材固形糊は、接着成分としてヒドロキシプロピル澱粉およびポリビニルピロリドンを含有し、固化剤としてのゲル化剤および水を少なくとも含む天然素材固形糊である。以下、各成分について説明する。
【0016】
天然素材固形糊の接着成分であるポリビニルピロリドンは、K値が30〜120の範囲のものが用いられる。K値が30未満であると固形糊の接着力が低下する。一方、K値が120を超えても、接着力が向上しないばかりか材料コストの観点から経済的に不利である。なお、K値とは、分子量と相関する粘性特性値で、毛細管粘度計により測定される25℃での相対粘度値である。K値が30〜120の範囲のポリビニルピロリドンとしては、固形糊素材として従来公知のものを用いることができる。K値が30であるポリビニルピロリドンとしては、例えば、第一工業製薬(株)製の製品名「ピッツコールK−30」を好適に使用することができる。また、K値が120であるポリビニルピロリドンとしては、例えば、第一工業製薬(株)製の製品名「ピッツコールK−120L」を好適に使用することができる。
【0017】
天然素材固形糊の接着成分であるヒドロキシプロピル澱粉は、澱粉を原料とし、澱粉の無水グルコース残基の水酸基にヒドロキシプロピル基を導入した澱粉誘導体である。PVP系固形糊に後記するような特定量のヒドロキシプロピル澱粉を配合することにより、固形糊としての性能(例えば、接着力、糸引き、塗布性等)を維持しながら、人体や環境に優しい固形糊を実現できる。また、天然素材であるプルランを特定量配合したPVP系固形糊と比較して、固形糊の色相の経時変化がより少なく、長期にわたって色相を維持できることは予想外の効果であった。ヒドロキシプロピル澱粉は、市販のヒドロキシプロピル澱粉を用いてもよく、例えば、日澱化学株式会社などから「ヒドロキシプロピル澱粉」として入手可能である。
【0018】
本発明においては、上記したポリビニリルピロリドンおよびヒドロキシプロピル澱粉を、接着成分として重量基準で20〜60%含む。20%未満であると固形糊の接着力が不十分となり、一方、60%を超えると、常圧、90℃以上の条件においても、接着成分が水に完全に溶解しにくくなる。より好ましい範囲は25〜60%である。
【0019】
ポリビニルピロリドンとヒドロキシプロピル澱粉との配合割合は重量基準で2:8〜8:2である。この範囲よりもヒドロキシプロピル澱粉の配合割合が多くなると、糊が脆くなる。一方、ヒドロキシプロピル澱粉の配合割合が上記範囲よりも少なくなると、糊の塗布性が低下する。
【0020】
本発明に用いられるゲル化剤としては、特に制限されるものではなく、公知のゲル化剤から適宜選択できる。例えば、脂肪族カルボン酸の塩などを好適に使用することができる。脂肪族カルボン酸の塩としては、ステアリン酸ナトリウム塩やミリスチン酸ナトリウム塩などが挙げられ、これらの中でもステアリン酸ナトリウム塩がより好ましい。ゲル化剤は重量基準で2〜6%添加される。ゲル化剤の添加量が2%未満であると糊が固形になりにくく、一方、6%を超えると固形糊の硬度が上昇し塗布性が低下する。
【0021】
本発明においては、上記した成分に加え、さらに、糸引き抑制剤として塩化ナトリウムを重量基準で0.3〜3%含むことが好ましい。塩化ナトリウムを添加することにより、固形糊を被接着物に塗布した際のいわゆる糸引きが抑制される。塩化ナトリウムの添加量が0.3%未満であると糸引き抑制効果が乏しく、また3%を超える量を添加しても糸引き効果は向上せずコスト高となる。
【0022】
また、本発明においては、さらに、保湿剤として、グリセリンを重量基準で1〜5%含むことが好ましい。グリセリンを添加することにより、固形糊表面の乾燥を防ぐことができる。グリセリンの添加量が1%未満であると保湿効果が期待できず、一方、5%を超えて添加しても保湿効果は向上せずコスト高となる。
【0023】
本発明においては、さらに変色抑制剤を含むことが好ましい。固形糊を製造する際は、接着成分であるポリビニルピロリドンおよびヒドロキシプロピル澱粉を水に溶解させるために加温することが行われる。しかしながら、ポリビニルピロリドンおよびヒドロキシプロピル澱粉は長時間加温すると黄色ないし灰色に変色するため固形糊の色調が変化する場合がある。変色抑制剤を含有することにより固形糊の変色を抑制することができる。変色抑制剤としては、亜硫酸ナトリウムを好適に使用することができる。また、変色抑制剤の添加量は、重量基準で0.1〜2%であることが好ましい。
【0024】
本発明による天然素材固形糊は水性の固形糊であり、その他の成分として水を含むものである。水としては、水道水、イオン交換水、純水などを適宜選択して用いることができる。
【実施例】
【0025】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、これらの実施例および比較例は一例にすぎず、本発明の範囲がこれらの実施例および比較例の範囲内に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り「%」は質量%を表す。
【0026】
<固形糊の調製>
下記の表1に示す配合割合に従って、K値が90であるポリビニルピロリドン(ピッツコールK−90)、ヒドロキシプロピル澱粉(日澱化学株式会社製)、ステアリン酸ナトリウム、グリセリン、亜硫酸ナトリウム、および水などを混合し、80〜90℃で約1時間攪拌した後放冷することにより固形糊を調製した。
【0027】
【表1】

【0028】
<評価>
得られた固形糊(実施例1〜8および比較例1〜5)のそれぞれについて、下記の表2に示した評価基準に従って、接着力、塗布性、変色および糸引き性の各評価を行った。評価結果は、下記の表3に示される通りであった。
【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
表3に示した評価結果からも明らかなように、本発明によって提供された天然素材固形糊は、従来のポリビニルピロリドンのみを接着成分とした固形糊よりも、塗布性、および糸引きなどの使用面で優れており、かつ人と環境に優しい天然素材を活用した固形糊であることがわかった。
【0032】
また、天然素材であるプルランを特定量配合したPVP系固形糊と比較して、固形糊の色相の経時変化がより少なく、長期にわたって色相を維持できることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
K値が30〜120であるポリビニルピロリドンと、ヒドロキシプロピル澱粉と、ゲル化剤と、水と、を少なくとも含んでなり、
前記ポリビニルピロリドンおよび前記ヒドロキシプロピル澱粉を質量基準で20〜60%含み、
前記ポリビニルピロリドンと前記ヒドロキシプロピル澱粉との配合割合が、質量基準で2:8〜8:2であり、
前記ゲル化剤を質量基準で2〜6%含む、ことを特徴とする、天然素材固形糊。
【請求項2】
固形糊の糸引き抑制剤として、塩化ナトリウムを質量基準で0.3〜3%さらに含む、請求項1に記載の天然素材固形糊。
【請求項3】
保湿剤として、グリセリンを質量基準で1〜5%さらに含む、請求項1または2に記載の天然素材固形糊。
【請求項4】
変色抑制剤として、亜硫酸ナトリウムを質量基準で0.1〜2%さらに含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の天然素材固形糊。

【公開番号】特開2012−229321(P2012−229321A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97991(P2011−97991)
【出願日】平成23年4月26日(2011.4.26)
【出願人】(392014313)ヤマト株式会社 (5)
【Fターム(参考)】