説明

天然繊維の色及び臭い除去方法

【課題】天然繊維上の臭い原因物質や接着物質等の付着物質を除去する方法を提供する。
【解決手段】天然繊維をオゾン処理に供する工程を含む、天然繊維の付着物質除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばオゾン処理による天然繊維の色及び臭いの除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来において、自動車内装材として天然繊維を使用する場合には、図1に示すように、先ず植物体を水に浸漬し、繊維間を接着している物質を水中の菌で分解することにより、細く繊維化する。当該細く繊維化された繊維の表面には接着物質の分解により発生する臭い原因物質と分解し切れなかった接着物質が付着している。そこで、繊維化工程の後に、洗浄工程を設け臭い原因物質と接着物質を水で洗い流していている。しかしながら、天然繊維は当該水洗浄により見た目には綺麗になるが、水洗浄による付着物質(接着物質等)の除去効果は低い。
【0003】
また、自動車内装材の製造においては、天然繊維を熱可塑性樹脂や熱硬化性接着剤と複合化し、加熱処理工程を経て自動車内装材を成形する。当該加熱処理工程において、天然繊維上に上述の接着物質が存在すると、接着物質が熱分解し、臭い原因物質を発生したり、また熱により変質し、当該繊維が変色してしまい、外観が悪くなるといった問題がある。
【0004】
特許文献1には、木質材の消臭方法として、加熱処理が施された木質材に炭酸水素ナトリウム水溶液を塗布するか、又は炭酸水素ナトリウム水溶液中に浸漬することを特徴とする方法が開示されている。しかしながら、当該方法では、炭酸水素ナトリウム及びさらに界面活性剤を用いるため、処理後の廃水により環境に悪影響を与える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-289005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来においては、天然繊維上の臭い原因物質、変色原因物質、接着物質等の付着物質を十分に除去する方法が知られていなかった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した実情に鑑み、天然繊維上の付着物質を除去する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、天然繊維をオゾン処理に供することで、天然繊維上の付着物質を除去でき、臭いの発生及び当該繊維の変色を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、天然繊維をオゾン処理に供する工程を含む、天然繊維の付着物質除去方法又は天然繊維製造方法である。当該天然繊維は、例えば植物をレッティング処理に供することで得ることができる。
【0010】
また、当該付着物質除去方法又は天然繊維製造方法は、オゾン処理工程前に、天然繊維を加熱処理又は爆砕処理に供する工程を含むことができる。爆砕処理の条件としては、200℃〜240℃の温度条件及び/又は1.5MPa〜3MPaの圧力条件が挙げられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、処理後の廃水により環境に悪影響を与えることなく、天然繊維上の臭い原因物質、変色原因物質、接着物質等の付着物質を十分に除去することができる。また、本発明によれば、大量の水を使用した天然繊維の水洗浄工程が必要なく、天然繊維製造の低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】天然繊維の臭い原因物質及び変色原因物質発生の概略図である。
【図2】爆砕処理の最適条件範囲を示すグラフである。
【図3】実施例1〜3で得られた繊維のIR(赤外分光法)測定の結果を示すグラフである。
【図4】実施例1〜3で得られた繊維の臭い測定(官能評価)の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、天然繊維をオゾン処理に供する工程を含む、天然繊維の付着物質除去方法又は天然繊維製造方法である(以下、「本方法」という)。本方法によれば、オゾン処理により天然繊維上の付着物質(例えば、臭い原因物質、変色原因物質及び接着物質)を除去でき、臭いの発生及び当該繊維の変色を抑制できる。すなわち、本方法によれば、天然繊維を脱色・脱臭することができる。
【0014】
ここで、天然繊維とは、植物由来の繊維を意味する。植物としては、例えばケナフ、サイザル、ジュート、ラミー、パイナップル、クラワ、バナナ等の草本類、並びにマツ、スギ等の針葉樹及びサクラ、ケヤキ、ブナ等の広葉樹等の木本類が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0015】
天然繊維は、例えば植物をレッティング処理に供することで得ることができ、本方法は、植物をレッティング処理に供する工程を含むことができる。レッティング処理とは、植物を水に浸漬し、繊維間を接着している物質(接着物質)を水中の菌で分解することにより、繊維化することを意味する。例えば、植物としてケナフをレッティング処理に供する場合には、ケナフの茎部を水中に15℃〜40℃(好ましくは、約30℃)で15〜40日間(好ましくは、20日間程度)浸漬し、繊維のみを分離することで、ケナフ由来の天然繊維を得ることができる。
【0016】
本方法では、天然繊維をオゾン処理に供する。オゾン処理は、例えば水1Lに対し、天然繊維1〜30g(好ましくは、約10g)を浸漬し、50〜200g/m3(好ましくは、100g/m3)のオゾンを10〜40時間(好ましくは、約20時間)流入して天然繊維にオゾンを接触させることで行うことができる。
【0017】
天然繊維は、加熱処理に供することで、接着物質が分解して単繊維化することができる。一方、天然繊維は、爆砕処理に供することで、単繊維化と粉砕を同時に達成することができる。ここで、爆砕処理とは、天然繊維を高温高圧状態に曝して、一気に大気開放することにより、天然繊維中に含まれる接着物質を熱的に分解すると共に、物理的に繊維を細かく粉砕する方法を意味する。ここで、天然繊維を加熱処理又は爆砕処理に供した場合には、接着物質の熱分解により臭い原因物質が発生したり、また熱により変質し繊維が変色する。しかしながら、加熱処理後又は爆砕処理後の天然繊維をオゾン処理に供することで、臭い原因物質及び変色原因物質を除去でき、天然繊維を脱色・脱臭することができることを本発明者等は見出した。そこで、本方法は、上述のオゾン処理工程前に、天然繊維を加熱処理又は爆砕処理に供する工程を含むことができる。
【0018】
加熱処理工程は、例えば170℃〜240℃(好ましくは、200℃〜220℃)の温度条件下で1分〜30分(好ましくは、5分〜10分)行われる。
【0019】
一方、爆砕処理時の温度が200℃未満では細繊維化が達成できず、240℃を超えると繊維が炭化してしまい、繊維材料としての性能を失う。そこで、爆砕処理工程は、例えば200℃〜240℃(好ましくは、220℃〜230℃)の温度条件及び/又は1.5MPa〜3MPa(好ましくは、2.5MPa〜3MPa)の圧力条件下で行われる。
【0020】
以上に説明した本方法によれば、臭い原因物質、変色原因物質、接着物質等の付着物質を除去した天然繊維を製造することができる。除去する臭い原因物質としては、例えば甘い臭いの原因物質であるバニリン等の芳香族アルデヒド等が挙げられる。また、除去する変色原因物質としては、例えば茶褐色の変色原因物質である低分子リグニンや低分子芳香族物質、エーテル類等が挙げられる。さらに、除去する接着物質としては、例えばヘシセルロースやリグニン等が挙げられる。
【0021】
本方法により天然繊維からこれら付着物質が有意に除去できたか否かは、例えば赤外分光法により所定の物質のピークが本方法に供しない天然繊維における対応するピークと比べて有意に低下した場合に、本方法により十分に付着物質を除去できたと判定することができる。
【0022】
また、本方法により天然繊維から臭い原因物質が有意に除去できたか否かは、例えば官能評価により本方法に供しない天然繊維と比べて臭いの強さが有意に低下した場合に、本方法により十分に臭い原因物質を除去できたと判定することができる。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0024】
〔実施例1〕植物体から得た繊維へのオゾン処理
植物として麻の一種であるケナフを用い、レッティング処理に供した。具体的には、ケナフの茎部を30℃の水中に20日間浸漬し、繊維のみに分離し、ケナフ繊維を得た。
得られた繊維5gを70mmにカットした後、1Lの蒸留水に浸し、100g/m3のオゾンを流しながら24時間オゾン処理に供した。
オゾン処理後、繊維を取り出し、80℃で2時間乾燥させ、オゾン処理繊維を得た。
【0025】
〔実施例2〕加熱処理後の繊維へのオゾン処理
実施例1と同様にしてレッティング処理により得られたケナフ繊維を220℃の炉の中に5分間曝露することで加熱処理に供した。
加熱処理後、繊維5gを70mmにカットした後、実施例1と同様にしてオゾン処理及び乾燥処理に供し、オゾン処理繊維を得た。
【0026】
〔実施例3〕爆砕処理後の繊維へのオゾン処理
実施例1と同様にしてレッティング処理により得られたケナフ繊維100gを15Lの高圧釜に投入し、所定量の蒸留水を入れ、230℃の温度条件下で爆砕処理に供した。爆砕処理後、繊維のみを取り出し、水洗いした後、80℃で2時間乾燥させ、爆砕処理繊維を得た。
爆砕処理繊維5gを、実施例1と同様にしてオゾン処理及び乾燥処理に供し、オゾン処理繊維を得た。
【0027】
なお、爆砕処理の温度条件として、160℃〜260℃の温度を適用し、上記同様に爆砕処理を行った。
爆砕処理の最適条件範囲を図2に示す。図2に示すグラフにおいて、横軸が爆砕処理時の温度条件であり、縦軸が爆砕処理時の圧力条件である。爆砕処理時の温度が200℃未満では細繊維化が達成できず、一方で240℃を超えると繊維が炭化してしまい、繊維材料としての性能を失ってしまった。従って、爆砕処理の温度条件としては、200℃〜240℃が望ましい。
【0028】
実施例1〜3において得られた繊維について、オゾン処理有無における材料組成の変化を確認するためにIR(赤外分光法)測定を行い、また臭いの強さの違いを確認するために臭い測定(官能評価)を行った。
【0029】
臭いの官能評価の試験方法としては、先ず臭い評価用サンプルバック(4L)に実施例1〜3において得られた各繊維2gを入れ、窒素ガスを充填した。次いで、当該サンプルを100℃で30分間加熱した後、室温まで冷却し、サンプルを臭い試験に供した。臭い試験は、5人のパネラーにより行われ、平均値を臭いの強さとした。臭いの強さは、以下のように5段階で評価した。5:強烈に感じられる臭い、4:強く感じられる臭い、3:楽に感じられる臭い、2:弱く感じる臭い(何の臭いか分かる)、1:かすかに感知できる臭い(何の臭いか分からない)。
【0030】
IR測定の結果を図3に示し、臭い測定の結果を図4に示す。
【0031】
図3に示すように、IR測定の結果、オゾン処理無しの繊維(図3において各実施例のオゾン処理前のピーク)において茶褐色の変色の原因となる芳香族環構造を有する化合物(リグニン由来物)と、甘い臭いの原因物質である下記の式:
【0032】
【化1】

【0033】
で示される芳香族化合物(例えばバニリン)に由来する1505cm-3のピークが確認された。一方、オゾン処理をした繊維(それぞれ、図3において各実施例のオゾン処理後のピーク)ではこれらの原因物質が消失していることが確認できた。
【0034】
図4に示すように、臭い測定の結果、各実施例の繊維に対するオゾン処理無しの繊維(図4において白抜きのバー)では、臭いの強さが大きく、特に実施例2及び3の加熱処理又は爆砕処理に供したが、オゾン処理に供しなかった繊維は、大きな値を示した。一方、実施例1〜3で得たオゾン処理した各繊維(図4において黒塗りのバー)では、臭いの強さが減少し、同等の値を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然繊維をオゾン処理に供する工程を含む、天然繊維の付着物質除去方法。
【請求項2】
植物をレッティング処理に供し、天然繊維を得る工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
オゾン処理工程前に、天然繊維を加熱処理に供する工程を含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
オゾン処理工程前に、天然繊維を爆砕処理に供する工程を含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
爆砕処理を200℃〜240℃の温度条件下で行う、請求項4記載の方法。
【請求項6】
爆砕処理を1.5MPa〜3MPaの圧力条件下で行う、請求項4記載の方法。
【請求項7】
天然繊維をオゾン処理に供する工程を含み、当該オゾン処理により天然繊維の付着物質を除去することを特徴とする、天然繊維製造方法。
【請求項8】
植物をレッティング処理に供し、天然繊維を得る工程を含む、請求項7記載の方法。
【請求項9】
オゾン処理工程前に、天然繊維を加熱処理に供する工程を含む、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
オゾン処理工程前に、天然繊維を爆砕処理に供する工程を含む、請求項7又は8記載の方法。
【請求項11】
爆砕処理を200℃〜240℃の温度条件下で行う、請求項10記載の方法。
【請求項12】
爆砕処理を1.5MPa〜3MPaの圧力条件下で行う、請求項10記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−162885(P2011−162885A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23130(P2010−23130)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】