説明

天然色素を用いたセルロース繊維の染色方法

【課題】堅ろう性に優れた天然色素で染色されたセルロース繊維を得ることが可能な、天然色素を用いたセルロース繊維の染色方法を提供する。
【解決手段】本発明の天然色素を用いたセルロース繊維の染色方法は、セルロース繊維をタンパク質及び媒染剤の含有溶液に浸漬することによって処理した後、処理したセルロース繊維を天然染料の含有溶液に浸漬することによって染色することを特徴とする。タンパク質には大豆タンパクが、媒染剤には、アルミニウム、銅、鉄、スズ、コバルト又はチタンの化合物が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然色素を用いた綿、麻などのセルロース繊維品の染色方法に関する。更に詳しくは、堅ろう性に優れた天然色素で染色されたセルロース繊維を得ることが可能な、天然色素を用いたセルロース繊維の染色方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
草木染めに代表される天然染料を用いた染色では、従来から、繊維に染料を染着させるためにアルミニウムや鉄、スズ、銅などの金属塩を媒染剤として使用している。また、大豆の呉汁などで植物繊維を前処理した後、天然染料で染色することが行われてきたが、いずれも染着が不十分であったり、十分な染色堅ろう度が得られないのが現状であった。
【0003】
このような問題を解決する方策として、植物繊維に蛋白質を補給した後、媒染剤と天然染料を一緒に溶解した水溶液に植物繊維を浸漬して染着させることが開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−70948号公報(請求項1,2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に示された染色法でも、満足のいく染色堅ろう度が得られているとはいえなかった。
【0006】
本発明の目的は、上記課題を解決し、堅ろう性に優れた天然色素で染色されたセルロース繊維を得ることが可能な、天然色素を用いたセルロース繊維の染色方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の観点は、セルロース繊維をタンパク質及び媒染剤の含有溶液に浸漬することによって処理した後、処理したセルロース繊維を天然染料の含有溶液に浸漬することによって染色することを特徴とする天然色素を用いたセルロース繊維の染色方法である。
【0008】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更にタンパク質が、大豆タンパクであることを特徴とする。
【0009】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に媒染剤が、アルミニウム、銅、鉄、スズ、コバルト又はチタンの化合物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の天然色素を用いたセルロース繊維の染色方法では、セルロース繊維をタンパク質及び媒染剤の含有溶液に浸漬することによって処理した後、処理したセルロース繊維を天然染料の含有溶液に浸漬することによって染色することで、堅ろう性に優れた天然色素で染色されたセルロース繊維を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0012】
本発明の天然色素を用いたセルロース繊維の染色方法は、セルロース繊維をタンパク質及び媒染剤の含有溶液に浸漬することによって処理した後、処理したセルロース繊維を天然染料の含有溶液に浸漬することによって染色することを特徴とする。
【0013】
セルロース繊維をタンパク質及び媒染剤の含有溶液に浸漬することによって処理することにより、タンパク質が繊維と結合するだけでなく、タンパク質が媒染剤と結合し、更に媒染剤が繊維と結合するという相乗効果が得られる。そのため、より高濃度に、かつ、より堅ろう性に優れた染色をすることが可能となるとともに、色の再現性が大幅に改善される。また、タンパク質と媒染剤による処理を1工程で行うため、水の使用量やエネルギーの使用量も少なく効率的な染色が可能となる。
【0014】
本発明の染色対象となるセルロース繊維としては、綿、麻等の天然セルロース繊維、レーヨン、キュプラ、ポリノジック等の再生セルロース繊維、リヨセル等の溶剤紡糸セルロース繊維が例示される。上記セルロース繊維から構成されるセルロース繊維品としては、これらの繊維から作られるスライバー、糸、織物、編物、不織布等が例示される。また、セルロース繊維品はセルロース繊維100%である必要はなく、他の繊維、例えば羊毛繊維、絹繊維等の蛋白繊維、ポリエステル、アセテート、ナイロン等の化学繊維との混紡、混織、混編を行った繊維品が含まれる。この場合セルロース繊維を少なくとも50重量%含むことが好ましい。
【0015】
本発明の染色方法に用いるタンパク質は、大豆タンパクが好ましい。これは、大豆を水に浸して粉砕し分散させた後、濾過した液であるが、市販の豆乳を用いてもよい。この際、大豆固形分8%以上の無調整豆乳を用いることが望ましいが、これに限定されるものではない。
【0016】
本発明の染色方法に用いる媒染剤は、一般的な草木染めの際に使用する、アルミニウム、銅、鉄、スズ、コバルト又はチタンの化合物が好ましい。具体的には、硫酸アルミニウムカリウム、硫酸アルミニウムアンモニウム、塩化アルミニウム、酢酸アルミニウム、硫酸銅、酢酸銅、塩化第一銅、塩化第一鉄、硫酸第一鉄、木酢酸鉄、スズ酸ナトリウム、塩化第一スズ、塩化コバルト、塩化チタン等が例示される。
【0017】
大豆固形分が0.5〜50g/l、好ましくは3〜10g/lのタンパク質と、0.5〜5重量%、好ましくは0.8〜1.5重量%の媒染剤を同浴に含む水溶液に、セルロース繊維を浸漬し、撹拌しながら40〜100℃で10〜60分間処理する。そして、上記処理を終えたセルロース繊維を水洗した後、天然色素を含む溶液に浸漬し、40〜100℃で10〜60分間処理することにより染色が行われる。このような処理を経た天然色素で染色されたセルロース繊維は、堅ろう性に優れる。
【実施例】
【0018】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0019】
<実施例1>
梅の実から抽出した色素溶液を用意した。無調整豆乳(マルサンアイ株式会社製)5g/l及び硫酸アルミニウムカリウム5g/lを含む溶液に綿100%帆布を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液と炭酸ナトリウム2g/lを含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0020】
<比較例1>
梅の実から抽出した色素溶液を用意した。硫酸アルミニウムカリウム5g/lを含む溶液に綿100%帆布を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液と炭酸ナトリウム2g/lを含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0021】
<実施例2>
パセリの葉から抽出した色素溶液を用意した。無調整豆乳(マルサンアイ株式会社製)5g/l及び酢酸銅5g/lを含む溶液に綿100%帆布を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液と炭酸ナトリウム2g/lを含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0022】
<比較例2>
パセリの葉から抽出した色素溶液を用意した。酢酸銅5g/lを含む溶液に綿100%帆布を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液と炭酸ナトリウム2g/lを含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0023】
<実施例3>
大豆から抽出した色素溶液を用意した。無調整豆乳(マルサンアイ株式会社製)5g/l及び硫酸アルミニウムカリウム5g/lを含む溶液に綿100%帆布を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液を含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0024】
<比較例3>
大豆から抽出した色素溶液を用意した。硫酸アルミニウムカリウム5g/lを含む溶液に綿100%帆布を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液を含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0025】
<実施例4>
ウーロン茶の葉から抽出した色素溶液を用意した。無調整豆乳(マルサンアイ株式会社製)5g/l及び硫酸アルミニウムカリウム5g/lを含む溶液に綿100%帆布を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液を含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0026】
<比較例4>
ウーロン茶の葉から抽出した色素溶液を用意した。硫酸アルミニウムカリウム5g/lを含む溶液に綿100%帆布を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液を含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0027】
<実施例5>
柿の実の皮から抽出した色素溶液を用意した。無調整豆乳(マルサンアイ株式会社製)5g/l及び硫酸アルミニウムカリウム5g/lを含む溶液に綿100%金巾を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液を含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0028】
<比較例5>
柿の実の皮から抽出した色素溶液を用意した。硫酸アルミニウムカリウム5g/lを含む溶液に綿100%金巾を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液を含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0029】
<実施例6>
小豆から抽出した色素溶液を用意した。無調整豆乳(マルサンアイ株式会社製)5g/l及びスズ酸ナトリウム5g/lを含む溶液に綿100%金巾を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液と炭酸ナトリウム1g/lを含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0030】
<比較例6>
小豆から抽出した色素溶液を用意した。スズ酸ナトリウム5g/lを含む溶液に綿100%金巾を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液と炭酸ナトリウム1g/lを含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0031】
<実施例7>
栗の鬼皮から抽出した色素溶液を用意した。無調整豆乳(マルサンアイ株式会社製)5g/l及び塩化第一鉄5g/lを含む溶液に綿100%金巾を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液を含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0032】
<比較例7>
栗の鬼皮から抽出した色素溶液を用意した。塩化第一鉄5g/lを含む溶液に綿100%金巾を含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液を含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0033】
<実施例8>
落花生の薄皮から抽出した色素溶液を用意した。無調整豆乳(マルサンアイ株式会社製)5g/l及び塩化コバルト5g/lを含む溶液に綿100%ブロードを含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液と酢酸3ml/l、酢酸ナトリウム2g/lを含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0034】
<比較例8>
落花生の薄皮から抽出した色素溶液を用意した。塩化コバルト5g/lを含む溶液に綿100%ブロードを含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液と酢酸3ml/l、酢酸ナトリウム2g/lを含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0035】
<実施例9>
ぶどうの果皮から抽出した色素溶液を用意した。無調整豆乳(マルサンアイ株式会社製)5g/l及び塩化チタン5g/lを含む溶液に綿100%ブロードを含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液を含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0036】
<比較例9>
ぶどうの果皮から抽出した色素溶液を用意した。塩化チタン5g/lを含む溶液に綿100%ブロードを含浸し、撹拌しながら80℃で30分間処理した。続いて、上記色素溶液を含む溶液に上記処理した織物を含浸し、80℃で30分間処理した。
【0037】
<評価1>
実施例1〜9で処理した布地と、比較例1〜9で処理した布地について、それぞれの耐光堅ろう度をJIS L0842「紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験方法」の第3露光法)により評価した。この結果を次の表1にそれぞれ示す。
【0038】
【表1】

表1から明らかなように、大豆タンパクを含まない溶液で処理した布地の耐光堅ろう度が「1級」〜「2級」であったのに対し、大豆タンパク及び媒染剤を含む溶液で処理した布地の耐光堅ろう度は「2−3級」〜「4級」と非常に良好であった。
【0039】
<評価2>
実施例1〜9で処理した布地と、比較例1〜9で処理した布地について、それぞれの水に対する染色堅ろう度をJIS L0846「水に対する染色堅ろう度試験方法」により評価した。この結果を次の表2にそれぞれ示す。
【0040】
【表2】

表2から明らかなように、大豆タンパクを含まない溶液で処理した布地の水に対する染色堅ろう度が「3級」〜「4級」であったのに対し、大豆タンパク及び媒染剤を含む溶液で処理した布地の水に対する染色堅ろう度は「4−5級」〜「5級」と非常に良好であった。
【0041】
<評価3>
実施例1〜9で処理した布地と、比較例1〜9で処理した布地について、それぞれの塩素処理水に対する染色堅ろう度をJIS L0884「塩素処理水に対する染色堅ろう度試験方法」のA法により評価した。この結果を次の表3にそれぞれ示す。
【0042】
【表3】

表3から明らかなように、大豆タンパクを含まない溶液で処理した布地の塩素処理水に対する染色堅ろう度が「3級」〜「4級」であったのに対し、大豆タンパク及び媒染剤を含む溶液で処理した布地の塩素処理水に対する染色堅ろう度は「4級」〜「5級」と非常に良好であった。
【0043】
<評価4>
実施例1〜9で処理した布地と、比較例1〜9で処理した布地について、それぞれの摩擦に対する染色堅ろう度をJIS L0849「摩擦に対する染色堅ろう度試験方法」の摩擦試験機II形により評価した。この結果を次の表4にそれぞれ示す。
【0044】
【表4】

表4から明らかなように、大豆タンパクを含まない溶液で処理した布地の摩擦に対する染色堅ろう度が、乾摩擦が「3級」〜「4級」、湿摩擦が「2級」〜「3−4級」であったのに対し、大豆タンパク及び媒染剤を含む溶液で処理した布地の摩擦に対する染色堅ろう度は乾摩擦が「4−5級」〜「5級」、湿摩擦が「3−4級」〜「5級」と非常に良好であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維をタンパク質及び媒染剤の含有溶液に浸漬することによって処理した後、
前記処理したセルロース繊維を天然染料の含有溶液に浸漬することによって染色することを特徴とする天然色素を用いたセルロース繊維の染色方法。
【請求項2】
タンパク質が、大豆タンパクである請求項1記載の染色方法。
【請求項3】
媒染剤が、アルミニウム、銅、鉄、スズ、コバルト又はチタンの化合物である請求項1記載の染色方法。

【公開番号】特開2010−222722(P2010−222722A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69554(P2009−69554)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(391058598)艶金興業株式会社 (5)
【Fターム(参考)】