説明

天然高分子と合成高分子とのコンポジットの製造方法並びにエッチング化コンポジットの製造方法。

【課題】天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子との双方が互いに混ざり合っているところのコンポジットを調製し,これにより,機械的強度や耐水性に優れ,更に,合成高分子に天然高分子の染色性などの特性が付加された機能を有するコンポジットを得ること。
【解決手段】天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子との双方を溶解できる有機媒体の存在下にて溶解混合することで得られた溶液から有機媒体を除去して得られるペレットや粉体を射出成形,押出成形,圧縮成形,発泡成形などの成形法によって,天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子から成るコンポジットを調製する。また,コンポジットから合成高分子成分を選択的に溶解できる有機エッチング溶媒でコンポジット表面付近を化学エッチングやプラズマ処理することによりコンポジットに天然高分子の染色性などが強く付加されたエッチング化コンポジットが調製される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子からなるコンポジットを製造する方法に関する。本発明によって得られたコンポジットおよびそれらのエッチング化コンポジットは繊維,フィルム,シート,ビーズ,スポンジなどの形態を持つ素材として,衣料材料,化粧品材料,包装材料,運動器具材料,人工皮革材料,電気・電子材料,接着材料,医療材料等の各種製品の製造に用いられる。
【背景技術】
【0002】
タンパク質などの天然高分子からなる繊維やフィルムの製造については多くの論文や特許があるが,天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子からなるコンポジット又はその製造法については次の例にほぼ代表されるほど比較的少ない現況にある。(i) 天然高分子(炭水化物やタンパク質)と反応性合成高分子との共有結合形成よるコンポジット [特許文献1参照],(ii) ポリ(ガンマ-メチルグルタミン酸)で高度にグラフト化された変質カゼインを蟻酸やジメチルフォルムアミドやジメチルアセトアミドやジメチルスルフォキシドに溶解させ,これをポリ(アクリロニトリル)系共重合物と混合して,凝固浴に通じることで繊維を作製するもの[特許文献2参照],(iii)1種又は少なくとも2種のタンパク質をジイソシアネートなどの架橋化剤を用いて連結せしめた上で,アルキル化剤やシッフ化剤と反応せしめてタンパク質を機能化してから6,6-ナイロンなどと蟻酸中で溶解せしめ,キャスト法により白色のフィルムを調製し,それを更にインパルスシーラーで加熱加圧して透明なフィルムを得るもの[特許文献3参照],(iv)トリメチルシリル化された澱粉やトリエチルシリル化された澱粉がポリ(ヒドロキシブチレート-co-ヒドロキシバレレート)と様々な有機溶媒中にて部分的に混和することを観察した実験[非特許文献1参照],(v)大豆カゼイン(本タンパク質は学術的に明白な語句ではないが,当該特許文献は脱脂大豆を水抽出しオカラ成分を除いた"分離大豆たん白質"を"大豆カゼイン"と記述しているようである。そうであればグリニシンが主成分である。)とジメチルフォルムアミドを80摂氏温度に加熱して作った溶液にポリ(アクリロニトリル)を溶解して[大豆カゼイン,3重量%;ポリ(アクリロニトリル),7重量%;溶媒,90重量%],これを2液相からなる凝固浴に通じさせることによりフィラメントを湿式紡糸する方法[特許文献4参照],(vi)天然高分子(大豆タンパク質など),充填剤としての合成高分子[ポリ(アクリル酸),ポリ(メタクリル酸)など],発泡剤,可塑剤(グリセロールなどの水溶性物質)および水を120-170摂氏温度で加熱混練したコンポジット [特許文献5, 特許文献6参照],
(vii)植物タンパク質 (大豆,小麦やトウモロコシのタンパク質)と合成高分子[ポリ(カプロラクトン),ポリ(ラクチド),ポリ(エチレン テレフタレート),ポリ(ビニル アルコール)など]をバインダー(英語語句のBinderおよびCompatibilizerを意味する;Compatibilizerは相溶化剤と和訳されることもある。)存在下で押出成形機中で加熱混練することにより作られるコンポジットの製造法 [特許文献7参照],(viii)植物タンパク質 (大豆,小麦やトウモロコシなどのタンパク質)と合成高分子[ポリ(N-ビニルラクタム),ポリ(ビニル アルコール),ポリ(ビニルピロリドン),ポリ(カプロラクトン),ポリ(エチレン テレフタレート)など]とバインダーと水溶性可塑剤(グリセロールなど)を押出成形機中で加熱混合することにより作られるコンポジット [特許文献7参照],(ix)セルロースやヘミセルロースの繊維とポリ(プロピレン)とバインダーを押出成形機にて加熱混練してつくられたコンポジット[非特許文献2参照],(x)ポリ(ビニル アルコール)(A)とデンプン(B)を重量比95:5から50:50の比でジメチルフォルムアミドやジメチルスルフォキシド中で混ぜ,Aが海成分, Bが島成分の海島相分離溶液とし,これを湿式紡糸してフィブリルとするもの[特許文献8]などである。
【0003】
しかしながら,特許文献1によるものは合成高分子に天然高分子を化学的に共有結合させたものであり,合成高分子は反応性に設計されていなければならない。特許文献2についてはカゼインが高分子のポリ(ガンマ-メチルグルタミン酸)により多重にグラフト化されてからアクリロニトリル系共重合体に供される必要があり,しかも溶解液は凝固浴を用いて紡糸処理されている。特許文献3もタンパク質を特定の架橋剤で架橋させてから6,6-ナイロンとを蟻酸に溶解してキャスト法でフィルムを作製するものである。非特許文献3によるものは部分溶解について述べたものであり,完全に溶解して混合するまでには至っていない。特許文献4は”大豆カゼイン”をジメチルフォルムアミドに溶解すると述べているが,本明細書の発明人山内が当該明細書と同じ条件で実験をして試したところ,”大豆カゼイン”を含むタンパク質のジメチルフォルムアミドには長時間,加熱しても溶けることはなく膨潤するのみであるし,ジメチルスルフォキシドには溶けても室温付近では半固体化することを認めた。もっともたとえ,当該特許の記述にあるように溶液として扱えたとしてもその濃度は明細書に書かれているように大豆カゼイン,3重量%とポリ(アクリロニトリル),7重量%の希薄な溶液にならざるを得ず,従って,この希薄溶液を2液相からなる凝固浴の2液界面にて特殊に紡糸させたものと考えられる。特許文献5の方法においては,植物タンパク質に水溶性可塑剤と発泡剤と水もしくは水性媒体を加え(必要ならば充填剤として合成高分子を添加して)120摂氏温度から170摂氏温度の間で混練するものの,これら成分がすべて加熱されても溶解してわけではなく,また,水溶性成分と水性媒体を使用しているので,コンポジットの吸水率は70-170%にもなって耐水性に劣る。特許文献6の方法はデンプンとその関連物質を使った点を除けば特許文献5と同様であり,このコンポジットも全組成成分が加熱溶解してできあがっているわけではないし,まして耐水性に劣る。特許文献7や非特許文献2によるコンポジットにおいても天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子の双方ともが完全に溶融解されているわけではなく,バインダーを使うことにより天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子の接着性を向上させながら単に加熱混練せしめて作られたものである。特許文献8のコンポジットはポリ(ビニル アルコール)とデンプンの両者が水溶性のため,当該特許文献に謳われているように82摂氏温度の熱水に完全溶解してしまうので耐水性を欠く。
【0004】
一方,(i) 合成高分子(6-ナイロンや低密度ポリエチレン)と天然高分子(エステル化デンプンなど)の加熱混練物 [特許文献9参照], (ii) 合成高分子(エチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化物)と天然高分子(生デンプン)およびアセチル化グリセリンの3者の加熱混練物の押出成形体 [特許文献10参照],(iii) 合成高分子[エチレン-アクリル酸共重合体,ポリ(ビニル アルコール)およびこれらの混合物]と天然高分子(デンプン)および尿素の3者の混練物の押出成形体 [特許文献11参照]などが報告されているが,これらの特許で利用されたアセチル化グリセリンや尿素はコンポジットの成分のデンプンやエステル化デンプンを高温で溶解させることは不可能であり(すなわち,当該特許に謳われているように単に変性剤あるいは可塑剤として使われているにすぎない),したがって,これらのコンポジットもデンプンやその誘導体と合成高分子の双方が溶解して均一に混ざり合った物質ではないことは明白である。また,上記の海外と国内の多くの特許に当てはまることであるが,混練のためにしばしば水性媒体が使用され,コンポジットの成分自体も親水性,乃至は水性であるために耐水性に劣るのを避けられない。天然高分子フィルム層と合成高分子層がラミネート化(重層化)されたものは耐水性を克服できるが[特許文献12参照]、これらは構造的に天然高分子と合成高分子が共に融解して混和されたものではないことは明らかである。
【0005】
また一方, ポリ(ビニル アルコール)の水溶液にケラチン[非特許文献3参照], シルクフィブロイン [非特許文献4参照],ゼイン[非特許文献5参照], コラーゲン [非特許文献6参照]を混ぜて湿式紡糸などでコンポジットとしたものが報告されているが,この場合は溶媒を水としているために非水溶性の合成高分子には適用することができないし,両成分が水溶性なために,それらのコンポジットは耐水性に本質的に劣る。 以上の事情は最近の総説と成書にも述べられている[非特許文献7,非特許文献8参照]。
【0006】
なお,ゼラチン,ペプシン,ゼイン,核酸,カゼインが熱フォルムアミド(HCONH2)に可溶であり,オバールアルブミン,ウレアーゼ,グルテン,パンクレアチンは僅かに可溶であること[非特許文献9参照],また,デンプン,グルテン,ペクチン酸(pectic acid)がジメチルスルフォキシドに可溶であり,溶解性は加熱や塩酸や硫酸の添加によって上がることが報告されている[非特許文献 10参照]。天然高分子にはフォルムアミドやジメチルスルフォキシドに可溶なものがあることはこれらの報告でうかがい知ることができるが,それらの報告は,その序論にもあるように天然高分子の有機溶媒中での化学的・生物化学的機能との関連について調べようとしたものであって,天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子とを有機溶媒を用いて均一溶融混和させようとする実験をすることなく,そして報文などとして発表することなく,34-52年もの長期間が経過して今日に至っている。
【0007】
以上が背景技術であるが,まとめれば,各種の天然高分子又は関連物質と合成高分子の双方を有機媒体に一旦,溶解せしめて混合し,これから有機媒体を除去して得られる固体(ペレットなど)を押出,射出,加熱圧縮成形機等に適用して耐水性,染色性等に優れるコンポジットを製造する方法が知られていない。
【0008】
【特許文献1】: U.P.Vaidya, et al., US-5321064
【特許文献2】:特公昭45-30050
【特許文献3】:特開平6-100596
【特許文献4】:特開昭52-5310
【特許文献5】: J.Jane, S.S.Zhang, US-5710190
【特許文献6】: J.Jane, S.Wang, US-5523293
【特許文献7】: J.Zhang, P.Mungara, J-L.Jane, US 6632925
【特許文献8】:特開平8-296121
【特許文献9】: 特開平9-67468
【特許文献10】: 特開平5-50492
【特許文献11】: 特開11-335401
【特許文献12】: 特開平2-307987
【非特許文献1】: Y-S. Choi, S-G. Kimら, Polymer (Korea), 18, 376 (1994)
【非特許文献2】: A.Amash, P.Zugenmaier, Polymer, 41, 1589 (2000)
【非特許文献3】: K.Katoh, M.Shibayama,T.Tanabe,K.Yamauchi, J. Appl. Poly. Sci., 91, 756-762 (2004)
【非特許文献4】: K.Matsumoto, et al., J. Appl. Poly. Sci., 60, 503 (1996)
【非特許文献5】: Y.Yang, et al., J. Appl. Poly. Sci., 59, 433 (1996)
【非特許文献6】: W.C.Schmpf, et al., Ind.Eng.Chem.Prod.Res.Dev., 16, 90 (1977)
【非特許文献7】: A. Gennadios (ed.), "Protein-Based Films and Coatings", CRC Press, Boca Raton (2002).
【非特許文献8】: 山内 清,"講座 タンパク質素材論",科学と工業,78巻(2005),1,2,4,5,7号.
【非特許文献9】:J. Giral et al., Mem. Congr. Cient. Mex., IV Centenario Univ. Mex, 2, 225 (1953)
【非特許文献10】:玉井ら, 宮崎大学農学部研究報告, 81, 179 (1971)
【非特許文献11】:山内 清ら,大豆たん白質研究,1, 36 (1998)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は,タンパク質,多糖類,核酸などの天然高分子又は天然高分子の関連物質と合成高分子との双方を有機媒体に一旦,溶解し,その溶液から有機媒体を除いてペレットや粉体を調製し,これを押出成形機等の通常の成形機に適用することによって,当該の天然高分子又は天然高分子の関連物質と合成高分子から成るコンポジットを製造すること,および,これらのコンポジットの表面部位に天然高分子を露出せしめたエッチング化コンポジットを製造することを目的とする。これにより,機械的強度や耐水性を有し,更に,合成高分子に天然高分子の染色性などの特性が付加された機能を有するコンポジットが得られる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、多数の有機溶媒を網羅的に収集し試した結果、天然高分子(タンパク質,核酸や多糖類など,および関連物質)と合成高分子の両方を可溶化できる溶媒が数点存在することを知り、次のような発明を遂行するに至った。すなわち、本発明でのコンポジットは,天然高分子と天然高分子関連物質のうちの少なくとも一つと合成高分子との双方が有機媒体に溶解して混合されることにより製造された溶液から有機媒体を除去して得られるチップやペレットを射出成形,押出し成形,圧縮成形,発泡成形等の乾式成形法を含む広範な成形法により製造されることを特徴とする。また,本発明でのエッチング化コンポジットの製造方法については前記のコンポジットの表面部位から合成高分子成分を選択的に溶解ないしは除去できる有機エッチング媒体やプラズマを使ってその合成高分子の一部を選択的に溶出せしめて製造される。
望ましくは,前記天然高分子がタンパク質,核酸又は多糖類である。
望ましくは,さらに、バインダー、可塑剤、発泡剤及び色つけ剤からなる群から選ばれる少なくとも一つの添加剤が添加されることにより製造される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により,(A)天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子との双方が(分子的領域までの究極的な完全均一状態ではないにしても)互いに混ざり合っているところのコンポジットが得られる。また,(B)こうして調製されるコンポジットをその合成高分子成分を選択的に溶解ないしは除去できる有機エッチング媒体やプラズマで処理することにより,コンポジット表面部位に天然高分子又は天然高分子関連物質が露出しているエッチング化コンポジットが得られる。前記の(A)項と(B)項の手段によって得られるフィルム,粒子,繊維,成形品などのコンポジットは,大きな機械的強度と耐水性を有することを特長とし,かつ,合成高分子に天然高分子独自の染色性,濡れ性,低帯電性などが付加された新規な機能を表現する利点を持つ。
【0012】
こうして製造されるコンポジットは繊維,フィルム,シート,スポンジなどから構成される新素材として,衣料材料,化粧品材料,包装材料,人工皮革材料,被覆材料,運動器具材料,電気・電子材料,接着材料,医療材料等の各種製品の製造に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に使用される天然高分子又は天然高分子関連物質,合成高分子,有機媒体等について,そしてコンポジットの製造法等について次に詳細に説明する。
【0014】
天然高分子又は天然高分子関連物質
天然高分子又は天然高分子関連物質としてはタンパク質,核酸,多糖類,およびそれらの関連物質などである。
【0015】
タンパク質と関連物質
コラーゲン,ゼラチン,カゼイン,セリシン,ケラチン,アルブミン,絹フィブロイン,エラスチン,ミオグロビン,ミオシン,アクチン,牛乳ホエータンパク質,大豆由来の酸性沈殿タンパク質や分離タンパク質や濃縮タンパク質やホエータンパク質,トウモロコシゼイン,グルテン,グルテニン,グリニシン,グリアジン,綿実や落花生や米やピスタチオやひまわりやナタネなどの穀物や種子のタンパク質。上記のタンパク質の酸処理,アルカリ処理又は酵素処理により製造される加水分解物も分子量の大小にかかわらず使用できる。また,合成アルブミンなどのように遺伝子工学により調製されるタンパク質,化学合成や菌由来のタンパク質もしくはペプチド(好ましくはアルファ-ポリリジン,ガンマ-ポリグルタミン酸,イプシロン-ポリリジン)も分子量の大小にかかわらず使用できる。また,これらタンパク質のアルキルエステル体(アルキル基 = メチル基,エチル基,n-プロピル基,i-プロピル, n-オクチル基など;エステル化度は3%から100%のもの)やこれらタンパク質のLysine残基,Cysteine残基,Histidine残基やTyrosine残基の内,少なくとも1種の残基の3-100モル%が-CnH2n+1 (n = 1から16で直鎖又は分岐鎖のもの)や-CH2CY(OH)-phenyl (Y = H, CH3), -CH2CY(OH)CH2-O-X [X = H, CH=CH2,allyl, benzyl,n-CmH2m+1基(m = 8, 10, 11, 12, 14, 16; Y = H, CH3]を有する物質[非特許文献8;非特許文献11参照]も使用できる。なお,脱脂大豆粉,絹,羊毛,鳥や鶏の羽毛,鱗,角などから得られるパウダーや細片はタンパク質の他に有機媒体に溶解しない無機物等を含むが,これらも使うことができる。 なお,上記に挙げたような物質は常に少量の水を吸着又は含有しているが特に調節されることなくそのまま用いることができる。
【0016】
核酸と関連物質
遺伝子工学や合成化学により調製される特定の塩基配列を持つ核酸や生物由来の核酸やそのフラグメント,および,鮭の白子や菌由来のDNAなどのデオキシ核酸やその加水分解物のオリゴ(デオキシヌクレオチド),酵母のRNAなどのリボ核酸やその加水分解物。 さらに,化学合成又は遺伝子工学により調製される不特定の塩基配列を持つ核酸やそのフラグメントでもよい;核酸と関連物質でのヌクレオチド単位の数は特に限定されないが,好ましくは10-2000の間である。これら物質は常に少量の水を吸着又は含有しているが特に調節されることなくそのまま用いることができる。
【0017】
多糖類と関連物質
シアノエチル化セルロース(置換度,0.5-3),シアノアセチル化セルロース(置換度,0.5-3),トリアセチル化セルロース,アシル化セルロース[置換度,0.5-2.5; アシル基は飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸に属するものであり,エステル部は1種の脂肪酸基だけでも,2種以上の脂肪酸によるものでもよいし,それらは直鎖でもアンテ型,イソ型など分岐鎖のものでもよい;不飽和結合位置でのジオメトリーはシスやトランス配位のどちらでもよい;不飽和度は1-4の範囲である;例えば,-COCnH2n-1 ,-COCnH2n-3や(CH3)2CHCH2Cn-4H2(n-4)CO- (n= 4から16,及び18)],2-ヒドロキシプロピル化セルロース(置換度,0.5-3),2-ヒドロキシエチル化セルロース(置換度,0.5-3),アセチル化デンプン(置換度,2-3), シアノアセチル化デンプン(置換度,0.5-3)],アシル化デンプン[置換度,0.5-2.5; アシル基は飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸に属するものであり,1種だけでも,2種以上でエステル基を構成してもよいし,それらは直鎖でもアンテ型,イソ型など分岐鎖のものでもよい;不飽和結合位置でのジオメトリーはシスやトランス配位のどちらでもよい;不飽和度は1-4の範囲である;例えば,-COCnH2n-1 ,-COCnH2n-3や(CH3)2CHCH2Cn-4H2(n-4)CO-(n= 4から16,及び18)],シアノエチル化デンプン(置換度,0.5-3),2-ヒドロキシプロピル化デンプン(例: 日澱化学,パイオスターチ; 置換度, 0.3-3),混合エステル化デンプン(例えば,置換度1.5-2.5のアセチル化デンプンをプロピオニル化したもの),3-(トリメチルアンモニウム)-2-ヒドロキシプロピル化デンプン(例: 日澱化学,Excell; 置換度, 0.3-3),グラフト化デンプン(例: 日澱化学,ペトロサイズ),シアノアセチル化デキストリン(置換度, 0.5-3),2-ヒドロキシプロピル化酵素変性デキストリン(例: 日澱化学,ペノン JE-66;置換度, 0.3-3); シアノエチル化デキストリン(置換度, 0.5-3),アシル化デキストリン[置換度,0.5-2.5; アシル基は飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸に属するものであり,1種だけでも,2種以上でエステル基を構成してもよいし,それらは直鎖でもアンテ型,イソ型など分岐鎖のものでもよい;不飽和結合位置でのジオメトリーはシスやトランス配位のどちらでもよい;不飽和度は1-4の範囲である;例えば,-COCnH2n-1 ,-COCnH2n-3や(CH3)2CHCH2Cn-4H2(n-4)CO-(n= 4から16,及び18)],キチン,キチンの部分加水分解物(N-acetyl-D-glucosamine単位とD-glucosamine単位から成り,前者:後者の比が1-99:99-1の間にあるもの。以下,”部分加水分解キチン”と称する),アシル化キトサン[置換度,0.5-2.5; アシル基は飽和脂肪酸もしくは不飽和脂肪酸に属するものであり,1種だけでも,2種以上でエステル基を構成してもよいし,それらは直鎖でもアンテ型,イソ型など分岐鎖のものでもよい;不飽和結合位置でのジオメトリーはシスやトランス配位のどちらでもよい;不飽和度は1-4の範囲である;例えば,-COCnH2n-1 ,-COCnH2n-3や(CH3)2CHCH2Cn-4H2(n-4)CO-(n= 4から16,及び18)],2-ヒドロキシプロピル化部分加水分解キチン,2-シアノエチル化部分加水分解キチン,2-ヒドロキシプロピル化キトサン(置換度,0.5-3), 2-シアノエチル化キトサン(置換度,0.3-3),2-ヒドロキシプロピル化キチン(置換度,0.3-3),などが挙げられるが,これらに限られることなく,セルロース,デンプン,キチン,キトサン,部分加水分解キチンなど多糖類の化学修飾化物で以下に述べる有機溶媒に可溶であるならば使用することができる。これら物質は常に少量の水を吸着又は含有しているが特に調節されることなくそのまま用いることができる。
【0018】
合成高分子
各種の合成高分子のうち,好ましくは次に挙げる物質である。なお,分子量および共重合体のモノマーの組成比については次項で挙げる有機媒体の少なくとも1種に可溶であれば特段の制限なく利用できる。また,市販されている合成高分子は,例えばナイロンとアミランのように,同じ基本構造を持っていても様々の名称で呼ばれているが,次に例示する高分子はよく知られる名称のもので示しており,名称が異なっても区別するものではない。
【0019】
6-ナイロン,4,6-ナイロン,6,6-ナイロン,11-ナイロン,12-ナイロンなどのポリアミド類,ポリ尿素(例えば次の構造のものであるがウレア結合を有するものであればこれらに限定されない:[-NHCH2CH2NHCONH(CH2)6NHCO-]n ),ポリウレタン{例えば次の構造のものであるが,要するにウレタン結合を多数,主鎖に有する高分子であればこれらの例に限定されない:-[O(CH2)4O-CONH-Phe-CH2-Phe-NHCO-]n-, -[O-(CH2CH2O)m-CONH-Phe-CH2-Phe-NHCO-]n-, -[O-(CH2CH2O)m-CONH-Phe-CH2-Phe-NHCO-O(CH2)4O-CONH-Phe-CH2-Phe-NHCO-]n- (-[O-[(CH2)5COO]n-[CH2CH2O]m-[CO(CH2)5O]k-CONH-Phe-CH2-Phe-NHCO-]n-,(ここでPheは1,4-phenyl基;m = 1-20の間;重合度n,kはポリマー分子量が1-500万の範囲に相当するもの)},ポリ(ヒドロキシブチレート)やポリ(ヒドロキシブチレート-co-バレレート)やポリ(イプシロン-カプロラクトン)やポリ(ラクチド)(=ポリ乳酸)やポリ(ラクチド-co-グリコリド)やポリ(ラクチド-co-カプロラクトン)などのポリエステル,ポリ(酢酸ビニル),ポリ(エチレン-co-ビニル アルコール)(特に,エチレンユニット部の割合,5-60モル%),部分ケン化ポリ(酢酸ビニル),ポリ(メチル メタアクリレート),ポリ(メチル アクリレート),ポリ(エチレン-co-エチル アクリレート),ポリ(アクリロニトリル),ポリ(エチレン テレフタレート),ポリ(ブチレン テレフタレート),ポリ[ブチレン テレフタレート-co-(アルキレン グリコール)テレフタレート],ポリ(スチレン),ポリ(エチレン),ポリ(プロピレン),ポリ(エチレン-co-酢酸ビニル),ポリ(エチレン-co-アクリル酸),ポリ(ジメチル シラン),ポリ(ジメチル シロキサン)。また,ポリ乳酸などのポリエステルについては菌などで生産されるものも使うことができる。また,アパレルメーカーなどが服などを作った後に大量に出る端切れの布や着古した廃棄服の布などに含まれる合成高分子も使用することができる。上記の挙げた合成高分子には少量の水を吸着又は含有している場合があるが特に調節されることなくそのまま用いることができる。
【0020】
有機媒体
本発明に使われる有機媒体はコンポジットの成分にする天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子の双方を溶解するものであればよい。本発明での実験において得られた特記すべき知見として,このような有機媒体は天然高分子又は天然高分子関連物質の種類を選ばない次のような傾向がある。すなわち,あるタンパク質を溶解すればその有機媒体は他のどのタンパク質や関連物質をも溶解できる。ある核酸を溶解すればその有機媒体は他のどの核酸や関連物質をも溶解できる。ある多糖類を溶解すればその有機媒体は他のどの多糖類や関連物質をも溶解できる。
【0021】
したがって,後述にて好ましい成分組み合わせの例を挙げるが,個々の天然高分子や天然高分子関連物質に関する成分表は他の天然高分子や天然高分子関連物質の場合と実質的に同じとなるので,表では単に”タンパク質”,”核酸”や”多糖類”および”それらの関連物質”とのみ記述している。
【0022】
本発明に関わる有機媒体としては,例えば,フォルムアミド,モノメチルフォルムアミド,ジメチルフォルムアミド,モノメチルアセトアミド,尿素,ジメチル スルフォキシド,テトラメチレン スルフォキシド,スルフォラン,ヘキサメチルホスホアミド, N-アセチルモルフォリン,N-メチルモルフォリンオキシド,1-メチル-2-ピロリジノンやフェノール,オルト-クレゾール,メタ-クレゾールなどのフェノール類,蟻酸,酢酸,1-プロピオン酸や2-プロピオン酸などの有機酸。また,以上の2種以上の有機媒体の混合物(例えばフォルムアミドとヘキサメチルホスホアミドの1:0.1から1:10重量比の混合物),塩化N-エチルピリジニウムとジメチルフォルムアミドの1:0.2から1:5の重量比の混合物; 塩化N-エチルピリジニウムとピリジンの1:0.1から1:6の重量比の混合物なども溶解に用いることができる。
【0023】
その他の添加物
コンポジットの製造は必要に応じて次に例示する可塑剤,バインダー(相溶化剤),発泡剤,色つけ材などを添加して製造される。
【0024】
可塑剤
既知の可塑剤,例えば,ジアセチル化グリセロール,トリアセチル化グリセロール,2-ヒドロキシプロピル オレイン酸エステル,ジエチルフタル酸エステルを使用することができる。
【0025】
バインダー
本発明によるコンポジットは天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子が双方とも溶解しあって(分子サイズの領域まで完全ではないにしても)混合されている組織体であるが,両物質をより強く結合させるためにバインダー(BinderあるいはCompatibilizer; 藤本武彦監修,高分子薬剤入門,三和化成工業,(1992), 2章,pp. 390-403.)を加えることができる。例えば,これらはポリ(2-エチル-2-オキサゾリン),ポリ(2-メチル-2-オキサゾリン)などのポリ(2-アルキル-2-オキサゾリン),無水マレイン酸で修飾されたポリ(プロピレン)[Polybond, Vestolen GmbH(Gelsenkirchen)],ポリ(エチレン-co-酢酸ビニル)である。
【0026】
発泡剤
熱可塑性プラスチックの発泡体の製造に利用されている既知の発泡剤を使用することができる。例えば,窒素ガスや二酸化炭素ガスの放出性があるアゾジカルボアミド,ジアゾ酢酸, アミド グアニジン ジアゾヒドロキシド, 4,4-オキシビス(ベンゼンスルフォニルヒドラジド),炭酸水素ソーダ,炭酸アンモニウム,尿素である。
【0027】
また,HYDROCEROL(米国Clariant社),プロパンやイソブタンなど,あるいは加圧された窒素ガスや二酸化炭素ガスなどのガスの溶解混合物への直接注入によっても発泡体を製造することができる。
【0028】
また,ペレットや粉体に食塩などの水溶性物質粒をよく混和して成形し,水や蒸気で過熱しながら溶かし出すか,有機媒体に不溶なデンプンなどの粒子と混合し固化後ジアスターゼ液や希硫酸等を用いて溶解除去することでスポンジなど多孔質を製造することができる。
【0029】
色つけ剤,金属微粒子
コンポジットの用途目的に合わせて色つけ剤などを添加することができる。好ましい色つけ剤としては,コンポジット中の合成高分子成分と天然高分子又は天然高分子関連物質に適用可能な染料等の他に,食用赤などの食品用染料,クロロフィル,カロチンやインジゴなどの天然色素や酸化亜鉛なども用いることができる。抗菌性・殺菌性を示すとして知られる金や銀や銅や酸化チタンなどの金属系微粒子も色つけ効果を兼ねて添加できる。これらの添加量は目的に応じて決められるべきであるが、コンポジット総重量の0.001 %-10 %である。
【0030】
コンポジットの製造
コンポジットの製造にあたって,天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子の双方を溶解可能な共通の有機媒体を予め調べておくことが好ましい。このためには有機媒体の溶解性パラメーターが天然高分子と合成高分子の値に近いものが有利であるが[藤井光男ら,”高分子材料の工学的性質(I)”,地人書店,(1967), p.169;H. Burrell, Polymer Handbook, 2'nd ed., J. Brandrup, E.H. Immergut (eds.), p. IV-337 (1975, John Wiley & Sons) 参照], 最も簡単には次のようにして調べることができる。6-ナイロンとカゼインの場合について例示する。溶解液A:6-ナイロン(10 g)にフォルムアミド(3 g)を加え,窒素ガス雰囲気下で,混ぜながら徐徐に温度を上げると約170摂氏温度にて透明な流動性に富む溶解液が得られる;すなわち,当該の合成高分子と有機媒体の組み合わせはこの温度前後で合格である。溶解液B:カゼイン(0.5 g)をフォルムアミド(1 g)を加え,窒素ガス雰囲気下で,混ぜながら徐徐に温度を上げると約170摂氏温度にて透明な流動性に富む溶解液が得られる;すなわち,当該のタンパク質と有機媒体の組み合わせはこの温度前後で合格であり,約170摂氏温度にて溶液Aに溶液Bを混合することができる。また,上記のどの合成高分子にも適用されるが,合成高分子を,有機媒体を使わずに,加熱溶融しておき,この状態で天然高分子の有機媒体の溶解液(その合成高分子はこの有機媒体に溶解できる)を直接加えて攪拌すればより簡単に溶解混合液が調製される。同じことは,合成高分子の溶解液に天然高分子を直接加え加熱攪拌すればより簡単に溶解混合液が調製される(その天然高分子又は関連物質はその有機媒体に溶解できる)。また,特に高温に加熱しなくとも合成高分子が有機溶媒に溶解する場合においては,その溶液に天然高分子を直接加えたり,あるいは天然高分子の当該有機溶媒の溶液を加えることにより当該の合成高分子と当該の天然高分子が溶け混ぜ合わさった溶解混合液を調製することができる。なお,加熱溶解・攪拌は電気ヒーター,電気モーターなどを使うか,超音波振動機器,マイクロ波照射を単独もしくは併用して行うことが可能であるが,これらの操作は窒素ガスなどの不活性気体下で行なわれるのが好ましい。
【0031】
なお,天然高分子と相溶性の低い合成高分子の組み合わせのコンポジットを作る場合はバインダー(又は相溶化剤ともいわれる)を添加すると均一性を増すことができる。好例はポリ(プロピレン)が80重量%と2-ヒドロキシプロピル化デンプン(置換度,2.7)が12重量%にPolybondを8重量%(溶解媒体はヘキサメチルホスホアミド)添加するときなどである。
【0032】
次に好ましい成分組み合わせと重量部割合を挙げるが,[0020]項で記したように,”天然高分子”として単に”タンパク質”,”核酸”や”多糖類”および”それらの関連物質”とのみ記述するだけで十分であるので記していない。
-------------------------------------------
タンパク質又は関連物質 1-100部
合成高分子 100-5部
有機媒体は上記総和の 10-300部
-------------------------------------------
および
-------------------------------------------
核酸又は関連物質 1-100部
合成高分子 100-10部
有機媒体は上記総和の 10-300部
-------------------------------------------
および
-------------------------------------------
多糖類又は関連物質 1-100部
合成高分子 100-5部
有機媒体は上記総和の 10-300部
-------------------------------------------
および
-------------------------------------------
タンパク質又は関連物質 1-100部
核酸又は関連物質 0-100部
多糖類又は関連物質 0-100部
合成高分子 100-5部
有機媒体は上記総和の 10-300部

ここで,天然高分子又は関連物質の総和:合成高分子の総和
= 1-100部:100-1部 (重量比)である。
-------------------------------------------
【0033】
更に,天然高分子と合成高分子と有機媒体の組み合わせの数例を重量部とともに表1に具体的に示すが,これらにのみ限定されるものではない。この表でも,上記したように,"天然高分子"として単に"タンパク質","核酸"や"多糖類"などとのみ記述するだけで十分であるので個別の名称を全て挙げての記述を省いている。
【0034】
【表1】

【0035】
なお、天然高分子は一般に水溶性であることが多いので,コンポジットが耐水性(80摂氏温度の熱水中、1時間の浸漬で溶解もしくは形状崩壊しないこと)を示すには組み合わされるべき合成高分子は非水溶性であることが望ましい。
【0036】
有機媒体の使用量は天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子の量の和の10倍重量までで十分であり,好ましくは0.1重量倍〜3重量倍である。また,有機媒体の種類は天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子を溶解するものであれば特に限定されないが,好ましい有機媒体と合成高分子の組み合わせの例を表2に示す(天然高分子や天然高分子関連物質は表中に示す有機媒体に単に攪拌するか,加熱しながら攪拌すれば溶解するので記述を省いている。)。
【0037】
【表2】

【0038】
コンポジットは可塑剤やバインダーや発泡剤を使っても製造される。これらの成分の好ましい割合(重量部)は:
-------------------------------------------
天然高分子又は関連物質 1-100部
合成高分子 100-5部
有機媒体 10-300部
可塑剤 0-40部
バインダー(あるいは相溶剤) 0-30部
発泡剤 0-1部
なお,この成分表において,可塑剤,バインダー,発泡剤のいずれかを添加しない場合もあり得る。
-------------------------------------------
【0039】
上記の方法で得られる天然高分子又は関連物質と合成高分子の双方を溶解している溶液(溶解混合液)は次のようにしてコンポジットの製造に使われる。
【0040】
一般に加熱されている溶解混合液は透明な流動体であるので,コートさせるべき物質にスプレーするか,被コート物質を潜らせた後有機媒体を蒸散又は洗浄するなどしてコート剤として利用することができる。
【0041】
しかし,最も簡便には加熱されている溶解混合液を多量の水もしくはメタノールなどの低級アルコールもしくはアセトンなどに徐徐に注げば,有機媒体は溶かし出されてコンポジットはペレット状あるいは比較的大きな固形物として分離する。後者ならば粉砕器で粉体とする。また一方,溶解混合液は放熱させれば半固体化するので,それを砕いてから多量の水もしくはメタノールなどの低級アルコールもしくはアセトンなど注いでもペレット状又は粉末としてコンポジットを分離することができる。これらのペレットや粉体は通常の押出,射出,発泡成形機に適応され,ファイバー,フィルム,シート,管構造物,スポンジ,ビーズなどの希望する成形体に加工することができる。
【0042】
エッチング化コンポジット
前記の製造法で得たコンポジット体は繊維,フィルム,シート,粒子やスポンジ状であり,天然高分子又は天然高分子関連物質と合成高分子を主成分としているが,その中で天然高分子又は天然高分子関連物質はその多くが合成高分子に取り囲まれている。このようなコンポジットの表面部位に天然高分子又は天然高分子関連物質を多く露出させるために合成高分子成分を選択的に溶解する有機エッチング媒体で処理してエッチングする。 コンポジットの合成高分子成分に対して選択的な溶解性を示す有機エッチング媒体でコンポジットを処理することにより,コンポジットの表面部位に天然高分子あるいは天然高分子関連物質が露出された化学エッチング化コンポジットを調製できる。表3にこれらの選択的な溶解性を示す有機エッチング媒体の例を掲げるが,これらにのみ限られるわけではない。無溶媒的に行われるプラズマ処理(例えば,Arプラズマ、周波数13.6 MHz、出力50 Wにて照射時間1-5分間の処理)によるエッチング効果は化学エッチング法に比べて劣るものの,繊維や極薄フィルムなどのコンポジットにはプラズマ処理は適している。エッチング化コンポジットは原料のコンポジットのフィルムや繊維やスポンジなどの形態を保っていて,機械的強度や耐水性に優れ,合成高分子に天然高分子の染色性などの特性が付加された新規なコンポジットである。
【0043】
【表3】

【0044】
化学エッチングの処理条件(有機エッチング媒体,温度,時間など)はコンポジットの形状(フィルム,シート,スポンジなど)とエッチングされる合成高分子成分に従って制御される必要があり,また,これらの条件は相互に影響するが(すなわち,例えば,温度を高くすれば時間を短くするなど),要はコンポジットから化学エッチングして元の形状を壊すことなく表面部位から合成高分子を一部,溶出すればよい。
【0045】
簡単には次のようにして行われる。(i)コンポジットの成分である天然高分子又は天然高分子関連物質に対しては溶解性が低いか無視できるが,合成高分子に対しては溶解性を示す有機エッチング媒体を選び(例として表3に示す有機エッチング媒体),(ii)この有機エッチング媒体浴槽にコンポジットを漬けるか,潜らせる。あるいは,(iii)エッチング位置や場所を限る時は,エッチングすべき以外の箇所をマスクせしめて行うか,あるいは細孔ノズルから有機エッチング媒体を定圧,定距離で噴霧スプレーしてエッチングする。化学エッチングは成形中に(例えば繊維の紡糸中に),あるいは成形後に行ってもよい。もし,エッチングが急速に進みすぎて制御し難い場合は,その有機エッチング媒体に非極性溶媒のヘキサンなど又は極性溶媒のメタノールなどを添加して溶解性を下げてエッチングを行うか,あるいは処理温度を下げるか処理時間を短くして溶解性を減じる。このような溶解性の調節は通常の有機物の溶解性を調べる実験に似ている(梅沢純夫著,実験有機化学, (丸善,1956), p.41)。なお,前記の有機エッチング媒体に(天然高分子と合成高分子の双方を溶かさないが)水素結合能を持つ溶媒(例:水,メタノール,酢酸)を混在させたり,界面活性剤もしくは相間移動剤(例:ドレシル硫酸ナトリウム)を混在させるとエッチング効果が現れやすい。なお,有機エッチング媒体で処理中のコンポジット試験片を随時,取り出して,(a)その乾燥重量や厚さの減少,(b)染色性の増加,(c)光度計や露出計などを使って光の反射率の変化を追跡し,また,(d) 接触角計による水滴の接触角の測定,又はポリ(ビニル アルコール)系接着剤等による紙片との接着力又は紙片からの剥がしやすさの測定,(e)顕微鏡による表面形態の観察などを調べてエッチングの効果を確かめながら,目的とする特性(例えば,染色性や親水性)に合わせてエッチング処理は終了される。経験的には,染色性と水に対する濡れやすさの変化は目視にて容易に随時,確かめることができるので便利である。なお,原料のコンポジット表面からのエッチングの深さは,原料コンポジット中の天然高分子の合成高分子に対する相対量によって調節されねばならなく全てのコンポジットについて一様ではないが,染色性や水に対する濡れやすさを求める場合は,通常は0.01ミクロンから3ミクロンの深さで十分である。また,繊維などの風合いを変える場合は1ミクロンから20ミクロンの深さにまでエッチングされる。エッチング処理の後にその化学エッチング化コンポジットは純粋な貧溶媒で洗浄するか,水洗や蒸気洗浄などしてエッチング媒体を除き乾燥される。ポリ(スチレン)とアルブミン(10:1重量比)から成るフィルムのエッチングの場合を例に挙げて説明する。
【0046】
後述の実施例5に準じて調製されたポリ(スチレン)と仔牛血漿アルブミン(10:1重量比)から成るコンポジットの透明フィルム(2 cm x 4 cm x 15ミクロン)をメタノール-アセトン(7:1重量比)に浸し,25摂氏温度で0秒-30分間ゆるやかに攪拌した。フィルムを取り出し,室温にて水で洗浄し,乾燥した。
【0047】
エッチング化フィルムは水に濡れたが水中膨潤度(100 ×処理片の長さ÷未処理片の長さ)は未処理フィルムと変わらなく1 %以内である。厚さの減少は顕微鏡測定によって15分間処理でも1ミクロン以下(7%以下の減少)と推定されるほど少ない。図1の写真(上)のNo.1,2,3はそれぞれコンポジットフィルム,そのクマージーブリリアントブルーによる染色フィルム,化学エッチング化フィルムの同染料による染色を示している。試験片の染色性は15分間のエッチングで未処理に比べ目視で容易に確認できるほど増した。ポリ(スチレン)フィルム自体は全く染色されないが,アルブミンとのコンポジットフィルムは写真No.2のようによく染まるようになり,さらにエッチング処理でもっとよく染まるのがわかる。核酸や多糖類とポリ(スチレン)から構成されるコンポジットを化学エッチングした場合も同様傾向の結果が得られた。
【0048】
コンポジットおよびエッチング化コンポジットの外観
1)コンポジット:本発明によるフォルムアミドを溶解媒体として使って調製したカゼインを10重量%含む6-ナイロンのコンポジットの外形例を図1の写真(下)に示している。図1(N0.3,4)において,ナイロン類とタンパク質などの天然高分子はよく相溶してほぼ均一な組織となることがほぼ一様な染色性からわかる。図2は同じコンポジットの透過型および異相差光学顕微鏡写真である。タンパク質用の色素(クマジーブリリアントブルー)で染色した結果,タンパク質が6-ナイロンにほぼ均一に分散していることがわかる (なお,6-ナイロンのみから成るフィルムは同条件でほとんど染色されない)。 図3は沸騰水中に同じフィルムを浸漬したときのタンパク質の漏洩曲線であるが,タンパク質の溶出はきわめて遅くほとんど溶け出ないし,膨潤もほとんど起こらない。コンポジットの力学的特性は高分子のみの場合と比べれば,引っ張り強度は若干低下するが,実用に十分耐える特性を有している。比較例を表4のAとB行および表5のUとV行に示す。核酸や多糖類をコンポジットにした場合も同様な結果である。外観はプラズマエッチングコンポジット,化学エッチングコンポジットとも原料のコンポジットとほとんど変わらない。
【0049】
本発明によって得られたコンポジットおよびエッチング化コンポジットは天然高分子の性質に因る染色性等の特性を発現して,その応用分野は衣料材料,化粧品材料,包装材料,表面被覆材料,運動器具材料,人工皮革材料,電気・電子材料,医療材料,接着材料等の各種製品の製造に用いられる。
【0050】
以下,実施例を挙げて,本発明をより一層具体的に説明するが,本発明はこれらに限定されない。なお,本明細書において,gはグラム,mmHgは圧力,MPaは応力の単位である。溶解に使用した有機媒体および化学エッチングに使用した有機溶媒は市販品をそのまま使った。 撹拌は定速回転電気モーターを使用して窒素ガス雰囲気下にて行われた。超音波攪拌は投げ込み型の高出力超音波細胞破砕機(出力300W/cm2)により窒素ガス雰囲気下にて行った。加熱炉,成形での金型部品等の温度はそれぞれ記載値の±2.5,±5摂氏温度に制御された。成形に使用した器具,容器,金型などは耐熱ガラス製,ステンレス製などである。
【0051】
[実施例1] 6-ナイロン (10 g) にフォルムアミド (8 g) を加え180 摂氏温度にて溶解した。これにカゼイン(1 g)を加え,同温度にてよく攪拌して均一な溶液を得た。ついで,溶液を水に注ぎ生じた不溶物を水洗・乾燥・粉砕し,これを215 摂氏温度で圧縮加熱することで,しなやかで透明で均一な組織のフィルム(約3 cm x 7 cm x 0.15mm)を得た。ついで,このフィルムを80 摂氏温度で3分間,ジメチルフォルムアミド-フォルムアミド(重量比1:1)に浸し,メタノールで洗浄し乾燥した。以上のコンポジットフィルムおよび化学エッチング化フィルムの力学的特性,水中での膨潤度,水浸漬におけるタンパク質の漏洩度等を表4に記す。
【0052】
[実施例 2]. ポリ(エチレン−ビニルアルコール)(エチレンユニット,32モル%;40 g)をフォルムアミド (100 g)に加熱しながら溶かし,次に酸性沈殿大豆蛋白質(1.0 g)のフォルムアミド (10 g)の冷分散物を加えて160摂氏まで昇温しながら溶解した。この溶液を水に注ぎ,生じた白色固体を水洗乾燥後,破砕器で細片チップとした。これを180摂氏温度で圧縮成形して透明フィルムを得た。フィルムの力学的特性はポリ(エチレン−ビニルアルコール)よりも若干低下したが,水中での膨潤度は見られず,また水浸漬における当該蛋白質の漏洩度等は0.3 重量%以下であった。フィルム中の両高分子の割合をC,H,N元素分析で求めたところ,仕込み原料比にほぼ一致した。また,フィルムは,原料としたポリ(エチレン−ビニルアルコール)のフィルムと比べて,透明度が高く,またGentian Blueによって非常に速く高い堅牢度で色濃く染色された。
【0053】
[実施例3] 6,6-ナイロン (10 g) にフォルムアミド (5 g) を加え200 摂氏温度にて溶解した。これにゼラチンのフォルムアミド加熱溶解液(50重量%,2.0 g)を加え,同温度にてよく攪拌して均一な溶液を得た。この溶液を実施例1と同様に処理して均一な透明フィルム(3 cm x 7 cm x 0.2 mm)を作製した。このフィルムの力学的特性,水中での膨潤度,水浸漬におけるタンパク質の漏洩度等を表4に記す。
【0054】
[実施例4] 6-ナイロン (10 g) にフォルムアミド (8 g) を加え165摂氏温度にて溶解した。これに大豆の酸性沈殿タンパク質のメチルエステル化体 (0.7 g)を加え,同温度にてよく攪拌して均一な溶液を得た。ついで,水に投入して不溶部を分離し水洗乾燥した。これを230摂氏温度のステンレス製ノズル(直径0.25 mm)から下方に押し出しファイバーを得た。ファイバーの力学的特性,水中での膨潤度,水浸漬におけるタンパク質の漏洩度等を表4に記す。
【0055】
[実施例5] ポリ(スチレン) (10 g) にジメチル スルフォキシド (5 g) を加え170摂氏温度にて溶解した。これに牛血漿アルブミン (0.7 g)のジメチル スルフォキシド溶液 (1 g)を加え,同温度にてよく攪拌して均一な溶液を得た。ついで,溶液を30mmHgの減圧下で媒体を蒸散させながら200摂氏温度にてガラス板にキャストしてはさみ半透明フィルムを得た。フィルム中のポリ(スチレン)と当該タンパク質の割合をC,H,N元素分析で求めたところ,仕込み原料比にほぼ一致した。ついでこのフィルムを25 摂氏温度で10分間,メタノール-アセトン(7:1体積比)に浸し,新鮮なメタノールで洗浄し乾燥した。以上のコンポジットフィルムおよび化学エッチング化フィルムの力学的特性,水中での膨潤度,水浸漬におけるタンパク質の漏洩度等を表4に記す。
【0056】
[実施例6] ポリ(メチル メタアクリレート) (10 g) にヘキサメチルホスホアミド (5 g) を加え170摂氏温度にて溶解した。これに鱒白子DNA (0.7 g)のヘキサメチルホスホアミド溶液 (1 g)を加え,同温度にてよく攪拌して均一な溶液を得た。ついで,溶液を水に投入して固形物を得,これを粉体チップとし200摂氏温度にて圧縮することで半透明フィルムを得た。ついでこのフィルムを25 摂氏温度で10分間,アセトン-水(1:7体積比)に浸し,メタノールで洗浄し乾燥した。以上のコンポジットフィルムおよび化学エッチング化フィルムの力学的特性,水中での膨潤度,水浸漬における核酸の漏洩度等を表4に記す。
【0057】
[実施例7] ポリ(エチレン-co-酢酸ビニル)(10 g) を160摂氏温度にて溶解した。これにセリシンのフォルムアミド溶液(26 重量%,2.7 g)を加え,同温度にてよく攪拌して均一な溶液を得た。ついで,溶液を水に投入して固形物を得,チップ化して加熱圧縮することで透明フィルムを作製した。フィルム中の合成高分子とセリシンの割合はC,H,N元素分析で求めたところ,仕込み原料比にほぼ一致した。 フィルムの力学的特性,水中での膨潤度,水浸漬におけるタンパク質の漏洩度等を表4に記す。
【0058】
[実施例8] 円筒容器に6-ナイロン(10 g)とフォルムアミド(5 g) を加え220 摂氏温度にて溶解した。これにカゼインのフォルムアミド液(50 重量%,2 g)を加え,同温度にてよく攪拌しながらアゾジカルボアミド(0.05 g)を加え発泡させ円筒状のスポンジを得た。水洗し,乾燥後にスポンジの6-ナイロンとカゼインの割合をC,H元素分析で求めたところ,仕込み原料比にほぼ一致した。 スポンジの引張強度と水浸漬におけるタンパク質の漏洩度を表5に記す。図1に外形を示す。
【0059】
[実施例9] ポリ(エチレン)(4 g)をヘキサメチルホスホアミド(6 g)で加熱溶解混合しておき,これに大豆タンパク質SPIの1,2-エポキシデカン修飾体[山内 清ら,大豆タンパク質研究,1, 36(1998)参照]のヘキサメチルホスホアミド溶解液(50重量%;1.2 g)を加え,電気モーターで激しく攪拌しながら同時に超音波処理して攪拌した。この混合物を水に加え、得られた固形物をチップとし、これを加熱圧縮することで半透明フィルムを作製した。フィルム中のタンパク質の割合はC,H,N元素分析で求めたところ,8重量%であり仕込み原料比にほぼ一致した。ついで,このフィルムを80 摂氏温度で15分間,ヘキサメチルホスホアミドに浸し,アセトンで洗ったあと乾燥した。以上のコンポジットフィルムおよび化学エッチング化フィルムをクマージーブリリアントブルーによる染色性について比べたところ,目視にて化学エッチング化フィルムは染められたのがわかった。
【0060】
[実施例10] ポリ(エチレン テレフタレート)(10 g) にジメチル スルフォキシド (5 g) を加え200摂氏温度にて溶解した。これにカゼイン(1.0 g)を加え,155摂氏温度にてよく攪拌して均一な溶液を得た。これを水に投入し、固形物をチップとし、220摂氏温度にて加熱圧縮することで、しなやかで半透明なフィルム(約3 cm x 7 cm x 0.15 mm)を得た。フィルム中のポリ(エチレン テレフタレート)とタンパク質の割合をC,H,N元素分析で求めたところ,仕込み原料比にほぼ一致した。ついでこのフィルムを25 摂氏温度で5分間,ヘキサン-アセトン(10:1体積比)に浸し,新鮮なメタノールで洗浄し乾燥した。
【0061】
[実施例 11] ポリ(エチレン テレフタレート)(10 g)と2-ヒドロキシエチル化デンプン(DS,2.7) (1 g)とジメチル スルフォキシド (10 g)の混合物を200摂氏温度で溶解した。この溶液から溶媒を水蒸気処理することにより蒸散させ,得られた白色固体を破砕器でチップとした。これを220摂氏温度で圧縮成形して透明フィルムを得た。
【0062】
[実施例12] ポリウレタン(-[CONH[(CH2)4NHCOO(CH2CH2O)n]]m-,n= 約4)(10 g) をジメチル フォルムアミド (5 g) 中で微温浴(約50摂氏温度)に加熱して溶解した。これに2-ヒドロキシプロピル化デンプン(1.5 g)を加え,同温度にてよく攪拌して均一な溶液を得た。これを平板上にキャストし,その表面から溶媒を低温乾燥蒸散せしめ半透明なフィルム(約3 cm x 7 cm x 0.15 mm)を得た。フィルム中のポリウレタンと当該多糖類の組成比をC,H,N分析で求めたところ仕込み原料比にほぼ一致した。
【0063】
[実施例13] 6-ナイロン (10 g) にフォルムアミド (8 g) を加え180摂氏温度にて溶解した。これにカゼイン(1 g)を加え,同温度にてよく攪拌して均一な溶液を得た。ついで,180摂氏温度のデカリン(200ml)に加え,高速攪拌(23000回転/分)を続けながら室温まで冷却し,濾過し, ヘキサンで洗浄してビーズを得た(径0.02-0.3 mm)。ビーズ中の6-ナイロンとタンパク質の割合をC,H,N元素分析で求めたところ,仕込み原料比にほぼ一致した。
【0064】
[実施例14] ポリ(メチル メタクリレート)(2.0 g)をジメチル スルフォキシドで溶解しておき,これに2-ヒドロキシプロピル化デンプン(置換度,2.7; 0.2 g)を加え溶解せしめ実施例1の準じてフィルムを作製した。フィルムの力学的特性,水中での膨潤度,水浸漬における修飾デンプンの漏洩度を表5に記す。
【0065】
[実施例15] ポリ(スチレン)(2.0 g)をジメチル スルフォキシドで溶解しておき,これに2-ヒドロキシプロピル化セルロース(置換度,1.9; 0.2 g)を加え溶解せしめ実施例1の準じてフィルムを作製した。フィルムの力学的特性,水中での膨潤度,水浸漬における修飾デンプンの漏洩度を表5に記す。
【0066】
[実施例16] ポリ(乳酸)(4 g)と大豆タンパク質(SPI)(2 g)をヘキサメチルホスホアミド(4 g)中で180摂氏温度で混和して,実施例1の方法で厚さ40 ミクロンのフィルムを作製した。表5に機械的強度を示す。このフィルムを春期,ポリエチレンメッシュに入れて屋外のポットの土壌中に埋めて一定期間後に回収し分解性を調べたところ,4週間後に30-75%の重量を失うとともに形態は崩壊した。表5に機械的強度を示す。
【0067】
[実施例17] ポリ(乳酸)(4 g)と2-ヒドロキシプロピル化セルロース (3 g)をフォルムアミド(4 g)中で170摂氏温度で混和して,実施例1の方法で厚さ40 ミクロンのフィルムを作製した。このフィルムを春期,ポリエチレンメッシュに入れて屋外のポットの土壌中に埋めて一定期間後に回収し分解性を調べたところ,3週間後に約50%の重量を失うとともに形態は崩壊した。

【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0070】
以上のようにして製造されるコンポジットは合成高分子に天然高分子の持つ染色性,濡れ性などの特質が加味されており,繊維,フィルム,シート,スポンジ,ビーズなどから構成される新素材として,衣料材料,化粧品材料,包装材料,人工皮革材料,運動器具材料,電気・電子材料,医療材料,接着材料等の各種製品の製造に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】図1上はコンポジット[ポリ(スチレン):アルブミン=10 : 1 重量比)の写真である;1:無処理フィルム;2:タンパク質のみを青色に染めるクマージーブリリアントブルーで処理したコンポジットのフィルム;3:同染料で染色した化学エッチングしたコンポジットフィルム。図1下はコンポジット(6-ナイロン:カゼイン=10 : 1 重量比)の写真である。1: コンポジットのスポンジ; 2:無処理フィルム;3:クマージーブリリアントブルーで処理したコンポジットのフィルム;4:同染料で染色した化学エッチングしたコンポジットフィルム。
【図2】図2は6-ナイロン:カゼイン=10 : 1 重量比のコンポジットの透過顕微鏡写真である。バー:10 ミクロン。上,通常顕微鏡像;下,異相差顕微鏡像。
【図3】図3は複合体を50摂氏温度の水に浸漬した時のカゼインの溶出度をグラフ化したものである。直線: 6-ナイロンとカゼイン(1:10 重量比); 波線:ポリ(酢酸ビニル)とカゼイン(1:10重量比)。
【図4】図4はポリ(エチレン):大豆タンパク質SPIの1,2-エポキシデカン修飾体=10 : 1 重量比のコンポジット(タンパク質のみを青色に染めるクマージーブリリアントブルー処理済み)の透過顕微鏡写真である。バー:10 ミクロン。ミクロ観察では均一ではないが,ほぼ数ミクロン程度の領域の微細な分散であることが示唆されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然高分子と天然高分子関連物質のうちの少なくとも一つと合成高分子との双方が有機媒体に溶解され,その溶液から有機媒体を除去して得られるペレットや粉末を射出成形,押出成形,圧縮成形や発泡成形等の成形処理することを特徴とするコンポジットの製造方法。
【請求項2】
天然高分子と天然高分子関連物質のうちの少なくとも一つと合成高分子との双方が有機媒体に溶解して混合された溶解液をコーティング剤として使うことを特徴とするコンポジットの製造方法。
【請求項3】
前記天然高分子がタンパク質,核酸又は多糖類であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のコンポジットの製造方法。
【請求項4】
さらに、バインダー、可塑剤、発泡剤及び色つけ剤からなる群から選ばれる少なくとも一つの添加剤が添加されることにより製造されることを特徴とする請求項1,請求項2又は請求項3に記載のコンポジットの製造法。
【請求項5】
請求項1,請求項2,請求項3又は請求項4に記載の製造法によって得られるコンポジットを,有機エッチング媒体やプラズマでエッチングして前記合成高分子成分の一部を選択的に溶出ないしは除去することを特徴とするエッチング化コンポジットの製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−312722(P2006−312722A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93663(P2006−93663)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(592005788)
【Fターム(参考)】